説明

モリブデン化合物ナノ粒子およびその製造方法、モリブデン化合物ナノ粒子分散インク、デバイスおよびその製造方法

【課題】本発明は、電荷注入特性を向上させることが可能な、モリブデン化合物ナノ粒子およびその製造方法ならびにモリブデン化合物ナノ粒子分散インクを提供することを主目的とする。また、本発明は、高電荷注入効率のデバイスおよびその製造方法を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、モリブデン化合物のモリブデンにケイ素が結合していることを特徴とするモリブデン化合物ナノ粒子を提供することにより、上記目的を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子などのデバイスの正孔注入輸送層に用いることができるモリブデン化合物ナノ粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機物を用いたデバイスは、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、エレクトロルミネッセンスをELと称する場合がある。)、有機トランジスタ、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池、有機半導体等、広範な基本素子および用途への展開が期待されている。また、その他に正孔注入輸送層を有するデバイスには、量子ドット発光素子、酸化物系化合物太陽電池等がある。
【0003】
例えば、有機EL素子は、発光層に到達した電子と正孔とが再結合する際に生じる発光を利用した電荷注入型の自発光デバイスである。有機EL素子の素子構造は、陰極/有機EL層/陽極から構成される。有機EL層は、初期の有機EL素子においては発光層/正孔注入層とからなる2層構造であったが、現在では、高い発光効率と長駆動寿命を得るために、電子注入層/電子輸送層/発光層/正孔輸送層/正孔注入層からなる5層構造など、様々な多層構造が提案されている。これら電子注入層、電子輸送層、正孔輸送層、正孔注入層などの発光層以外の層には、電荷を発光層へ注入・輸送しやすくする効果、あるいはブロックすることにより電子電流と正孔電流のバランスを保持する効果や、光エネルギー励起子の拡散を抑制するなどの効果があるといわれている。
有機EL素子においては、高い発光効率を得るために、電極から発光層に電荷を効率的に注入することが必要であるが、一般的に陽極や陰極の仕事関数と発光層のイオン化ポテンシャル・電子親和力とはエネルギー準位の差が大きく、電荷を容易に注入できない。そのため、従来においては、陽極と発光層との間に正孔輸送層や正孔注入層を設けたり、陰極と発光層との間に電子輸送層や電子注入層を設けたりして、陽極や陰極から発光層に向かって各層界面の電荷注入のエネルギー障壁を小さくすることが行われている。
陽極と接する正孔注入層は、陽極から正孔輸送層または発光層へ正孔を注入しやすくするという目的に使用される。したがって、正孔注入層に用いられる材料は、陽極から正孔輸送層または発光層に向かって各層界面での正孔注入のエネルギー障壁を小さくするようなイオン化ポテンシャルを持つことが望ましい。
【0004】
また例えば、有機トランジスタは、π共役系の有機高分子や有機低分子からなる有機半導体材料をチャネル領域に使用した薄膜トランジスタである。一般的な有機トランジスタは、基板、ゲート電極、ゲート絶縁層、ソース・ドレイン電極および有機半導体層の構成からなる。有機トランジスタでは、ゲート電極に印加する電圧(ゲート電圧)を変化させることで、ゲート絶縁層と有機半導体層の界面の電荷量を制御し、ソース電極およびドレイン電極間の電流値を変化させてスイッチングを行なう。
有機トランジスタにおいては、一般的に有機半導体層とソース電極またはドレイン電極との電荷注入障壁が大きく、素子駆動に問題があるが、有機半導体層とソース電極またはドレイン電極との電荷注入障壁を低減すれば、有機トランジスタのオン電流値が向上し、かつ素子特性が安定化することが期待される。
【0005】
そこで、有機EL素子においては、電荷輸送能力および電荷注入能力の向上を目的として、酸化性化合物を、正孔輸送性材料に混合して電気伝導度を高くすることが試みられている。
特許文献1〜4においては、酸化性化合物すなわち電子受容性化合物として、化合物半導体である金属酸化物が用いられている。注入特性や電荷移動特性が良い正孔注入層を得ることを目的として、例えば、五酸化バナジウムや三酸化モリブデンなどの金属酸化物を用いて蒸着法で薄膜を形成したり、あるいはモリブデン酸化物とアミン系の低分子化合物との共蒸着により混合膜を形成している。
特許文献5においては、五酸化バナジウムの塗膜形成の試みとして、酸化性化合物すなわち電子受容性化合物として、オキソバナジウム(V)トリ−i−プロポキシドオキシドを溶解させた溶液を用い、それと正孔輸送性高分子との混合塗膜の形成後に水蒸気中で加水分解させてバナジウム酸化物として、電荷移動錯体を形成させる作製方法が挙げられている。
特許文献6においては、三酸化モリブデンの塗膜形成の試みとして、三酸化モリブデンを物理的に粉砕して作製した微粒子を溶液に分散させてスラリーを作製し、それを塗工して正孔注入層を形成して長寿命な有機EL素子を作製することが記載されている。
【0006】
また、有機トランジスタにおいては、有機半導体層とソース電極またはドレイン電極との電荷注入障壁を低減することにより、有機トランジスタのオン電流値を向上させ、かつ素子特性を安定化させる試みとして、有機半導体中に電荷移動錯体を導入することによって、電極近傍の有機半導体層中のキャリア密度を増加させることが知られている(例えば、特許文献7)。
【0007】
そして、本発明者らは、電荷移動錯体を形成可能で正孔注入特性を向上させることが可能な、正孔注入輸送層の材料として、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物および遷移金属と保護剤とを含むか、または、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子を提案している(特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−155978号公報
【特許文献2】特開2007−287586号公報
【特許文献3】特許第3748110号公報
【特許文献4】特開平9−63771号公報
【特許文献5】SID 07 DIGEST p.1840−1843 (2007)
【特許文献6】特開2008−041894号公報
【特許文献7】特開2002−204012号公報
【特許文献8】特開2009−290204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、デバイスにおいては電荷注入特性の向上が望まれている。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、電荷注入特性を向上させることが可能な、モリブデン化合物ナノ粒子およびその製造方法ならびにモリブデン化合物ナノ粒子分散インクを提供することを主目的とする。また、本発明は、高電荷注入効率のデバイスおよびその製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、上述の遷移金属含有ナノ粒子について鋭意検討した結果、保護剤を変えることによりイオン化ポテンシャルを制御できることを知見した。さらには、特定の遷移金属化合物、すなわちモリブデン化合物と、特定の結合基を有する保護剤、すなわちケイ素(Si)を含む結合基を有する保護剤とを用いてモリブデン化合物ナノ粒子を合成することで、イオン化ポテンシャルの絶対値を増大させることができ、正孔注入特性を向上させることができることを見出した。本発明はこのような新知見に基づくものである。
【0011】
すなわち、本発明は、モリブデン化合物のモリブデン(Mo)にケイ素(Si)が結合していることを特徴とするモリブデン化合物ナノ粒子を提供する。
【0012】
本発明によれば、モリブデン化合物のモリブデンにケイ素が結合しているので、例えばモリブデン酸化物や、上記特許文献8の実施例に記載の保護剤としてn−ヘキサデシルアミンを用いたモリブデン含有ナノ粒子と比較して、イオン化ポテンシャルの絶対値を大きくすることができる。したがって、本発明のモリブデン化合物ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を備えるデバイスでは、各層界面での正孔注入のエネルギー障壁を低下させることができ、正孔注入特性を向上させることが可能である。また本発明によれば、モリブデン化合物ナノ粒子に含有されるモリブデン化合物の反応性が高く、電荷移動錯体を形成しやすいと考えられる。よって、本発明のモリブデン化合物ナノ粒子を用いることにより、低電圧駆動、高電力効率、長寿命なデバイスを実現することが可能である。
【0013】
本発明のモリブデン化合物ナノ粒子においては、通常、上記ケイ素(Si)に有機基が結合しており、上記ケイ素(Si)が上記ケイ素(Si)を含む結合基と上記有機基とを有する保護剤に由来するものである。本発明のモリブデン化合物ナノ粒子は、モリブデン化合物ナノ粒子の表面が有機基により保護されているので、溶媒に分散性を有し、溶液塗布法により薄膜を形成でき、製造プロセス上の利点が大きい。また、本発明のモリブデン化合物ナノ粒子は、モリブデン化合物ナノ粒子の表面が有機基により保護されているので、モリブデン化合物ナノ粒子および正孔輸送性化合物を含有する正孔注入輸送層を形成する場合には、正孔注入輸送層内においてモリブデン化合物ナノ粒子と有機物である正孔輸送性化合物との相溶性が良好となり、モリブデン化合物ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層および有機物を含有する有機層を隣接して形成する場合には、モリブデン化合物ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層と有機層との界面の密着性が良好となる。したがって、本発明のモリブデン化合物ナノ粒子を用いることにより、特に寿命が向上したデバイスを実現することが可能である。
【0014】
上記の場合、上記結合基がシリル(SiH)基であることが好ましい。結合基がシリル(SiH)基であることにより、ケイ素とモリブデンが結合しやすいと考えられるからである。
【0015】
さらに本発明においては、上記モリブデン化合物が、モリブデン炭化物、モリブデン炭化酸化物およびモリブデン酸化物からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。駆動電圧の低下や素子寿命を向上させることができるからである。
【0016】
また本発明は、上述のモリブデン化合物ナノ粒子と、溶媒とを含有することを特徴とするモリブデン化合物ナノ粒子分散インクを提供する。
【0017】
本発明のモリブデン化合物ナノ粒子分散インクを用いることにより、製造プロセスが容易でありながら、低電圧駆動、高電力効率、長寿命を達成可能なデバイスを得ることが可能である。
【0018】
さらに本発明は、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層とを有するデバイスであって、上記正孔注入輸送層が、上述のモリブデン化合物ナノ粒子を含有することを特徴とするデバイスを提供する。
【0019】
本発明によれば、正孔注入輸送層が上述のモリブデン化合物ナノ粒子を含有するので、低電圧駆動、高電力効率、長寿命を達成可能である。
【0020】
上記発明においては、上記デバイスが、上記2つの電極間に配置された、少なくとも上記正孔注入輸送層および発光層を含む有機EL層を有する有機EL素子であることが好ましい。正孔注入輸送層は上述のモリブデン化合物ナノ粒子を含有するので、正孔注入輸送層のイオン化ポテンシャルの絶対値を大きくすることができ、電極(陽極)から発光層に向かって各層界面での正孔注入のエネルギー障壁を低下させ、正孔注入特性を向上させることが可能である。
【0021】
また本発明は、モリブデン前駆体とケイ素(Si)を含む結合基および有機基を有する保護剤とを、沸点が上記モリブデン前駆体の分解温度よりも高い高沸点溶媒中で、上記モリブデン前駆体の分解温度よりも高い温度で加熱する合成工程を有することを特徴とするモリブデン化合物ナノ粒子の製造方法を提供する。
【0022】
本発明によれば、溶媒に分散性を有し、溶液塗布法によって薄膜形成可能であり、正孔注入特性を向上させることが可能なモリブデン化合物ナノ粒子を得ることができる。
【0023】
上記結合基がシリル(SiH)基であることが好ましい。結合基がシリル(SiH)基であることにより、ケイ素とモリブデンが結合しやすいと考えられるからである。
【0024】
さらに本発明は、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層とを有するデバイスの製造方法であって、上述のモリブデン化合物ナノ粒子分散インクを用いて上記正孔注入輸送層を形成する正孔注入輸送層形成工程を有することを特徴とするデバイスの製造方法を提供する。
【0025】
本発明によれば、上述のモリブデン化合物ナノ粒子分散インクを用いて溶液塗布法により正孔注入輸送層を形成するので、製造プロセスが容易であり、また低電圧駆動、高電力効率、長寿命を達成可能なデバイスを得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明においては、モリブデン化合物ナノ粒子においてモリブデン化合物のモリブデンにケイ素が結合していることにより、電荷注入特性を向上させることができ、低電圧駆動、高電力効率、長寿命を達成することが可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のデバイスの一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明のデバイスの他の例を示す概略断面図である。
【図3】本発明のデバイスの一実施形態である有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明のデバイスの一実施形態である有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図5】本発明のデバイスの一実施形態である有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図6】本発明のデバイスの他の実施形態である有機トランジスタの一例を示す概略断面図である。
【図7】本発明のデバイスの他の実施形態である有機トランジスタの他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明のモリブデン化合物ナノ粒子およびその製造方法、モリブデン化合物ナノ粒子分散インク、デバイスおよびその製造方法について詳細に説明する。
【0029】
A.モリブデン化合物ナノ粒子
本発明のモリブデン化合物ナノ粒子(以下、モリブデン化合物ナノ粒子を単にナノ粒子と称する場合がある。)は、モリブデン化合物のモリブデン(Mo)にケイ素(Si)が結合していることを特徴とするものである。
【0030】
なお、モリブデンおよびケイ素の結合には、イオン結合や共有結合等の化学結合、吸着、配位が含まれる。
【0031】
本発明のナノ粒子は、モリブデン化合物のモリブデンにケイ素が結合しているので、例えばモリブデン酸化物や、上記特許文献8の実施例に記載の保護剤としてn−ヘキサデシルアミンを用いたモリブデン含有ナノ粒子と比較して、イオン化ポテンシャルの絶対値を大きくすることができ、正孔注入特性を向上させることが可能である。イオン化ポテンシャルの絶対値が大きくなる理由は明らかではないが、モリブデンとケイ素が結合していることが寄与しているものと思料される。また本発明のナノ粒子は、ナノ粒子に含有されるモリブデン化合物の反応性が高く、電荷移動錯体を形成しやすいと考えられる。したがって、本発明のナノ粒子を用いることにより、低電圧駆動、高電力効率、長寿命なデバイスを実現することが可能である。
特に、本発明のナノ粒子は有機EL素子における正孔注入輸送層の材料に適しており、陽極と正孔輸送層との間に本発明のナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を形成することにより、各層のエネルギー準位を適正にして、各層界面での正孔注入のエネルギー障壁を低減することが可能となる。したがって、有機EL素子の低電圧化、高発光効率、長寿命を達成することが可能である。
【0032】
ここで、モリブデン酸化物においては比較的高い特性が得られているものの、溶媒に不要であり溶液塗布法を用いることができないという問題があった。上記特許文献6には平均粒径20nmの酸化モリブデン微粒子を溶剤に分散させたスラリーを用いて、スクリーン印刷法により電荷注入層を作製した旨の記述があるが、特許文献6のようにMoO3粉末を粉砕する方法であると、例えば、10nm程度の正孔注入層を形成する要求に対して10nm以下のスケールで粒径のそろった微粒子を作製することは、実際には非常に困難である。また、粉砕されて作製される酸化モリブデン微粒子は、凝集させることなく溶液中に安定的に分散させることがさらに困難である。微粒子の溶液化が不安定であると、塗布膜作製の際に凹凸の大きな平滑性が悪い膜しか形成できず、デバイスの短絡の原因となる。
【0033】
これに対し、本発明のナノ粒子は、通常、ケイ素に有機基が結合しており、ケイ素が保護剤に由来するものであるため、モリブデン酸化物等が単に粉砕されて形成された粒子と異なり、溶媒に分散性を有する。したがって、溶液塗布法により薄膜を形成でき、製造プロセス上の利点が大きい。
特に、本発明のナノ粒子を有機EL素子における正孔注入輸送層に用いる場合、基板上に正孔注入輸送層から発光層までを順次塗布プロセスのみで形成することができる。よって、正孔注入層の材料にモリブデン酸化物等を用いる場合のように、モリブデン酸化物を蒸着した後に、正孔輸送層や発光層を溶液塗布法で形成し、さらに陰極を蒸着するようなプロセスと比較して、単純であり、低コストでデバイスを作製することができるという利点がある。
【0034】
また、本発明のナノ粒子は、上述したように、通常、ケイ素に有機基が結合しており、ケイ素が保護剤に由来するものであるため、ナノ粒子表面に有機基が存在するので、モリブデン酸化物等が単に粉砕されて形成された粒子と異なり、ナノ粒子の分散安定性が非常に高いものとなり、均一性の高いnmオーダーの薄膜を形成することができる。この薄膜は、経時安定性および均一性が高いため短絡し難い。さらに、隣接する電極や有機層との密着性に優れるようになる。
なお、ナノ粒子とは、直径が100nm未満の粒子をいう。
【0035】
ここで、成膜性や薄膜の安定性は素子の寿命特性と大きく関係する。一般的に有機EL素子の寿命とは、一定電流駆動などで連続駆動させたときの輝度半減時間とし、輝度半減時間が長い素子ほど長駆動寿命であるという。
本発明のナノ粒子は、上述したように、通常、ケイ素に有機基が結合しており、ケイ素が保護剤に由来するものであるため、ナノ粒子表面が有機基により保護されているので、ナノ粒子および正孔輸送性化合物を含有する正孔注入輸送層を形成する場合には、正孔注入輸送層内においてナノ粒子と有機物である正孔輸送性化合物との相溶性が良好となり、ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層および有機物を含有する有機層を隣接して形成する場合には、ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層と有機層との界面の密着性が良好となる。したがって、特に寿命が向上したデバイスを実現することが可能である。
【0036】
以下、本発明のモリブデン化合物ナノ粒子の構成について説明する。
【0037】
1.モリブデン化合物
本発明におけるモリブデン化合物としては、例えば、モリブデン炭化物、モリブデン炭化酸化物、モリブデン酸化物、モリブデン窒化酸化物、モリブデン窒化物、モリブデン硫化酸化物、モリブデン硫化物、モリブデンホウ化物、モリブデンセレン化物、モリブデンハロゲン化物、モリブデン錯体等が挙げられる。
【0038】
中でも、モリブデン化合物は、モリブデン炭化物、モリブデン炭化酸化物およびモリブデン酸化物からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。ナノ粒子にモリブデン炭化物、モリブデン炭化酸化物またはモリブデン酸化物が含まれることにより、イオン化ポテンシャルの値が最適になったり、不安定な酸化数+0の金属からの酸化による変化をあらかじめ抑制しておくことにより、デバイスにおける駆動電圧の低下や素子寿命を向上させることが可能になる。
本発明のナノ粒子に含まれるモリブデン炭化物、モリブデン炭化酸化物およびモリブデン酸化物は、モリブデン化合物中に合計90モル%以上含まれることが好ましく、さらには合計95モル%以上含まれることが好ましい。デバイスにおいて駆動電圧の低下や素子寿命を向上させることができるからである。
【0039】
また、ナノ粒子中に酸化数の異なる酸化物であるモリブデン化合物が共存して含まれることが好ましい。酸化数の異なるモリブデン化合物が共存して含まれることにより、酸化数のバランスによって正孔輸送や正孔注入性が適度に制御されることにより、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させることが可能になる。なお、ナノ粒子内には処理条件によって様々な価数のモリブデン化合物、例えば酸化物やホウ化物など、が混在していてもよい。
【0040】
また、モリブデン化合物が、モリブデン炭化酸化物、モリブデン窒化酸化物およびモリブデン硫化酸化物からなる群から選択される1種以上である場合、モリブデン炭化物、モリブデン窒化物およびモリブデン硫化物のそれぞれにおいて、少なくとも一部が酸化されていればよい。
【0041】
2.ケイ素(Si)
本発明においては、モリブデン化合物のモリブデン(Mo)にケイ素(Si)が結合している。
なお、モリブデンおよびケイ素の結合には、イオン結合や共有結合等の化学結合、吸着、配位が含まれる。モリブデンとケイ素が合金化するとイオン化ポテンシャルの絶対値が大きくなると考えられることから、本発明のナノ粒子においては、モリブデンとケイ素が共有結合していると推量される。
モリブデンにケイ素が結合していることは、例えば、赤外分光分析(IR)、核磁気共鳴分析(NMR)、飛行時間二次イオン質量分析(TOF−SIMS)により確認することができる。
【0042】
本発明においては、通常、ケイ素に有機基が結合しており、ケイ素は保護剤に由来するものである。すなわち、ケイ素は、ケイ素を含む結合基と有機基とを有する保護剤に由来するものである。有機基でナノ粒子表面を覆って保護することにより、ナノ粒子を溶媒に分散可能とし、溶媒に対するナノ粒子の分散安定性を高めることができる。また、保護剤の種類を選択することにより、親水性・疎水性、電荷輸送性、あるいは密着性などの機能性を付与するなど、多機能化することが容易である。
【0043】
保護剤は、低分子化合物であってもよく、高分子化合物であってもよい。
【0044】
結合基としては、ケイ素を含み、モリブデンと結合する作用を有すれば特に限定されないが、中でも、シリル(SiH)基であることが好ましい。結合基がシリル(SiH)基であることにより、ケイ素とモリブデンが結合しやすいと考えられるからである。
【0045】
有機基は、疎水性を有していてもよく、親水性を有していてもよい。
【0046】
有機基としては、炭素数が4以上、好ましくは炭素数が6〜30、より好ましくは8〜20の直鎖、分岐あるいは環状の飽和または不飽和脂肪族炭化水素基や、炭素数6〜40、好ましくは炭素数が12〜34、より好ましくは炭素数が12〜26の芳香族炭化水素基および/または複素環基等が挙げられる。
中でも、有機基としては、結合基に直接結合する部分に環状構造などの嵩高い構造をもたないものが好ましい。ナノ粒子の表面を有機基で保護する際に欠陥なく密に保護できるからである。また、直鎖構造が好ましい。ナノ粒子のモリブデン化合物間の距離を十分に保つことができ、ナノ粒子同士の凝集を防ぐことができるからである。
一方で、保護剤が有機基として芳香族炭化水素および/または複素環を含む場合には、ナノ粒子に電荷輸送性を付与したり、ナノ粒子を芳香族炭化水素および/または複素環を有する電荷輸送性化合物と併用した際に電荷輸送性化合物との密着性向上等により膜の安定性を向上させることができる。
【0047】
直鎖または分岐の飽和または不飽和脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基、各種ペンチレン基、各種ヘキシレン基、各種ペンチレン基、各種ヘキシレン基、各種ヘプチレン基、各種オクチレン基、各種ノニレン基、各種デシレン基等が挙げられる。
【0048】
芳香族炭化水素および/または複素環としては、例えば、ベンゼン、トリフェニルアミン、フルオレン、ビフェニル、ピレン、アントラセン、カルバゾール、フェニルピリジン、トリチオフェン、フェニルオキサジアゾール、フェニルトリアゾール、ベンゾイミダゾール、フェニルトリアジン、ベンゾジアチアジン、フェニルキノキサリン、フェニレンビニレンおよびフェニルシロールならびにこれらの構造の組み合わせ等が挙げられる。
また、芳香族炭化水素および/または複素環は、本発明の効果を損なわない限り、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルコキシ基、シアノ基およびニトロ基等が挙げられる。炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基の中では、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基およびドデシル基等が好ましい。
【0049】
また、保護剤はフッ素を有していてもよい。フッ素含有有機化合物の種類は適宜選択され、特に限定されない。フッ素含有有機化合物としては、フッ素以外のヘテロ原子を含んでいてもよい、直鎖、分岐、または環状の飽和または不飽和炭化水素に含まれる水素の一部または全部をフッ素で置換した有機化合物が挙げられる。従来正孔注入輸送材料として用いられていたヘテロ原子を含んでいてもよい有機化合物に含まれる水素の一部または全部をフッ素で置換した有機化合物であってもよい。あるいは、従来正孔注入輸送材料として用いられていたヘテロ原子を含んでいてもよい有機化合物にフッ素含有有機化合物を含む置換基を導入した化合物であってもよい。
【0050】
フッ素含有有機化合物としては、具体的には、直鎖、分岐、または環状のアルキル基、アリール基の水素の一部または全部をフッ素化したフッ素化アルキル基やフッ素化アリール基、およびこれらの組み合わせが挙げられる。フッ素化アルキル基の炭素数は、特に限定されないが、2〜10が好ましく、さらに4〜6が好ましい。また、フッ素化アリール基、またはフッ素化アリール化アルキル基等のフッ素化アルキル基とフッ素化アリール基の組み合わせの炭素数も、特に限定されないが、6〜12が好ましく、さらに6〜9が好ましい。
【0051】
中でも、C2n+12m−[mは0〜20の整数、nは1〜20の整数であり、m+nは1〜30である。]で表されるフッ素化アルキル基は、高い撥油性を維持する点、および、mが1以上の時、エーテル結合など他の元素に結合する場合に直接C2n+1と結合するよりもC2mを介した方が、化合物の安定性が高まる点から好ましい。nは、さらに2〜10の整数が好ましく、4〜6の整数であることがより好ましい。mは0〜10の整数が好ましく、2〜8の整数であることがより好ましい。
フッ素化アルキル基のフッ素化率(アルキル基中のフッ素原子の割合)は、好ましくは50%〜100%の範囲内、さらに好ましくは80%〜100%の範囲内であり、特に水素原子をすべてフッ素原子で置換したパーフルオロアルキル基が、高い撥油性を発現させる点から好ましい。
【0052】
また、芳香族炭化水素および/または複素環を含むフッ素含有有機化合物は、フッ素含有有機化合物の沸点を上げることができる点から好ましい。例えば、ナノ粒子を合成する際の加熱温度の制約を広げることができたり、後述するデバイスを作製する場合の高温プロセスにおける温度を高く設定可能という利点がある。
また、芳香族炭化水素および/または複素環は電荷輸送性を有することが多いため、芳香族炭化水素および/または複素環を含むフッ素含有有機化合物により作製した正孔注入輸送層中の電荷移動度を高く維持できるので、低電圧化をはじめとする高効率化に対して利点がある。
また、例えば、有機EL素子等の有機デバイスの各層には通常芳香族炭化水素および/または複素環電荷輸送性材料が含まれるため、ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層と隣接する有機層との密着性の向上を考慮すると、芳香族炭化水素および/または複素環の構造を含むことが長駆動寿命化に寄与する点から好ましい。
【0053】
また、保護剤は親水性基を有していてもよい。親水性基としては、ナノ粒子表面を親水性にする作用を有する置換基が用いられる。親水性基としては、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、シラノール基、スルホ基、スルホン酸塩およびアンモニウム基等を挙げることができる。中でも親水性基としては、水酸基、カルボニル基、アミノ基、チオール基、スルホ基、スルホン酸塩およびアンモニウム基よりなる群から選択される1種以上であることが好ましく、さらに、水酸基、カルボニル基、チオール基、スルホ基およびスルホン酸塩よりなる群から選択される1種以上であることが好ましい。これらはモリブデン化合物と結合する力が比較的弱いからである。
【0054】
本発明のナノ粒子がデバイスに用いられる場合には、保護剤は、電荷輸送性基を有していてもよい。この場合、電荷輸送性化合物との相溶性や電荷輸送性の向上により、長駆動寿命化に寄与することができる。電荷輸送性基とは、その化学構造基が電子あるいは正孔のドリフト移動度を有する性質を示す基であり、また別の定義としてはTime−Of−Flight法などの電荷輸送性能を検知できる既知の方法により電荷輸送に起因する検出電流が得られる基として定義できる。電荷輸送性基がそれ自身単独で存在し得ない場合は、電荷輸送性基に水素原子を付加した化合物が電荷輸送性化合物であればよい。電荷輸送性基としては、例えば、後述する正孔輸送性化合物(アリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体等)において、水素原子を除いた残基が挙げられる。
【0055】
本発明のナノ粒子において、モリブデン化合物と、保護剤に由来する部位との含有比率は、用途により適宜選択され、特に限定されないが、モリブデン化合物100質量部に対して、保護剤に由来する部位が10質量部〜40質量部であることが好ましい。
【0056】
本発明のナノ粒子の平均粒径は、特に限定されるものではなく、例えば、0.5nm〜100nmの範囲内とすることができ、用途により適宜選択されればよい。中でも、ナノ粒子の平均粒径は、0.5nm〜50nmの範囲内であることが好ましく、0.5nm〜20nmの範囲内であることがより好ましい。特に20nm以下の薄膜を形成する場合には、ナノ粒子の平均粒径は、15nm以下であることが好ましく、1nm〜10nmの範囲内であることがより好ましい。粒径が小さすぎるものは、製造が困難である。一方、粒径が大きすぎると、単位質量当たりの表面積(比表面積)が小さくなり、所望の効果が得られない可能性があり、さらに薄膜の表面粗さが大きくなりショートが多発するおそれがある。
ここで、平均粒径は、動的光散乱法により測定される個数平均粒径である。なお、正孔注入輸送層に分散された状態においては、平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて得られた画像から、ナノ粒子が20個以上存在していることが確認される領域を選択し、この領域中の全てのナノ粒子について粒径を測定し、平均値を求めることにより得られる値とする。
【0057】
3.モリブデン化合物ナノ粒子
本発明のナノ粒子は、単一構造であっても複合構造であってもよく、コア・シェル構造、合金、島構造等であってもよい。
【0058】
本発明のナノ粒子は、様々な用途に利用可能である。例えば、デバイス材料、触媒、潤滑油に用いられる摩擦改質剤、摩耗防止剤、酸化防止剤等の添加剤等が挙げられる。中でも、本発明のナノ粒子はデバイス材料として適している。特に、デバイスにおける正孔注入輸送材料として好適に用いられる。すなわち、本発明のナノ粒子は、正孔注入輸送層用であることが好ましい。本発明のナノ粒子は、上述したように、イオン化ポテンシャルの絶対値を大きくし、各層界面での正孔注入のエネルギー障壁を低下させ、正孔注入特性を向上させることが可能であるので、正孔注入輸送層用途に適している。なお、デバイスの態様については、後に詳述する。
【0059】
B.モリブデン化合物ナノ粒子の製造方法
本発明のモリブデン化合物ナノ粒子の製造方法は、モリブデン前駆体とケイ素(Si)を含む結合基および有機基を有する保護剤とを、沸点が上記モリブデン前駆体の分解温度よりも高い高沸点溶媒中で、上記モリブデン前駆体の分解温度よりも高い温度で加熱する合成工程を有することを特徴とする。
【0060】
本発明によれば、モリブデン前駆体の分解温度よりも高い温度で加熱するので、モリブデンにケイ素が結合したナノ粒子を得ることができる。したがって、上述したように、例えばモリブデン酸化物や、上記特許文献8の実施例に記載の保護剤としてn−ヘキサデシルアミンを用いたモリブデン含有ナノ粒子と比較して、イオン化ポテンシャルの絶対値を大きくすることができ、正孔注入特性を向上させることが可能なナノ粒子を得ることができる。
【0061】
また本発明によれば、溶媒に分散性を有し、溶液塗布法によって薄膜形成が可能なナノ粒子を得ることが可能である。
【0062】
以下、本発明のモリブデン化合物ナノ粒子の製造方法における各工程について説明する。
【0063】
1.合成工程
本発明における合成工程は、モリブデン前駆体とケイ素(Si)を含む結合基および有機基を有する保護剤とを、沸点が上記モリブデン前駆体の分解温度よりも高い高沸点溶媒中で、上記モリブデン前駆体の分解温度よりも高い温度で加熱する工程である。
【0064】
本発明に用いられるモリブデン前駆体としては、モリブデン錯体が挙げられる。モリブデン錯体としては、高沸点溶媒中でできるだけ低温で分解されるものが好ましい。このようなモリブデン錯体としては、例えば、カルボニル錯体、アセチルアセトナート錯体、アンミン錯体等が挙げられ、具体的には、モリブデンヘキサカルボニル、モリブデンアセチルアセトナート、トリアミンモリブデントリカルボニル等を用いることができる。
【0065】
なお、保護剤については、上記「A.モリブデン化合物ナノ粒子」の項に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
【0066】
本発明に用いられる高沸点溶媒の沸点としては、モリブデン前駆体の分解温度よりも高ければ特に限定されないが、具体的には150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましい。沸点が上記範囲である高沸点溶媒の存在下で行うことで、保護剤による保護を高温環境下で均一に、かつ、安定して行うことができるからである。また、高沸点溶媒の沸点は、モリブデン錯体および保護剤を高沸点溶媒中で加熱する際の加熱温度よりも高いことが好ましく、中でも、上記加熱温度よりも10℃以上高いことが好ましい。なお、高沸点溶媒の沸点の上限は特に限定されないが、通常、400℃程度である。
【0067】
高沸点溶媒としては、非極性溶媒(親油性溶媒)および極性溶媒(親水性溶媒)のいずれも用いることができる。
親油性溶媒としては、ナノ粒子の合成に一般的に用いられる溶媒であればよく、例えば、n−オクチルエーテル(ジオクチルエーテル)、ジフェニルエーテル、オクタデセン、ジベンジルエーテル、トリフェニルフォスフィンオキシド、トリフェニルフォスフィン、ミリスチン酸メチル、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。
親水性溶媒としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、メチルジグリコール、ブチルグリコール、イソブチルグリコール、メチルプロピレンジグリコール、ブチルプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
【0068】
モリブデン錯体および保護剤を高沸点溶媒中で加熱する際の加熱温度としては、モリブデン前駆体の分解温度よりも高い温度であればよく、例えば150℃〜400℃程度とすることができ、中でも180℃〜350℃の範囲内、特に200℃〜300℃の範囲内であることが好ましい。加熱温度が上記範囲内であれば、粒径を均一化し、また粒径を小さくすることができるからである。
【0069】
合成工程は、反応溶液中での分散安定性を維持する点から、アルゴンガス雰囲気下で行うことが好ましい。
また、合成工程は、保護剤を分散させた高沸点溶媒中にて加熱、攪拌して行うことが好ましい。
【0070】
2.炭化物化工程
本発明においては、上記の合成工程中または合成工程後に、合成工程にて得られるモリブデン化合物を炭化する炭化物化工程を行ってもよい。
モリブデン化合物を炭化する方法としては、加熱等の方法を用いることができる。加熱温度としては、例えば150℃〜400℃の範囲内とすることができ、粒径の均一化および粒径を小さくする点から、200℃〜350℃の範囲内、さらには250℃〜350℃の範囲内であることが好ましい。
炭化物化工程での加熱は、溶媒中で行うことがナノ粒子全体に対して均一に炭化できる点から好ましい。また、炭化物化工程は、反応溶液中での分散安定性を維持する点から、アルゴンガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0071】
3.酸化物化工程
本発明においては、上記の合成工程中または合成工程後に、合成工程にて得られるモリブデン化合物を酸化する酸化物化工程を行ってもよい。
モリブデン化合物を酸化する方法としては、例えば、加熱手段、光照射手段、活性酸素を作用させる手段等が挙げられ、これらを適宜併用してもよい。
加熱手段としては、ホットプレートやオーブンが挙げられる。加熱温度としては、50℃〜250℃の範囲内が好ましい。
光照射手段としては、紫外線照射装置が挙げられる。
活性酸素を作用させる手段としては、紫外線によって活性酸素を発生させて作用させる方法や、酸化チタンなどの光触媒に紫外線を照射することによって活性酸素を発生させて作用させる方法が挙げられる。
上記手段においては、加熱温度、光照射量および活性酸素量により、ナノ粒子同士の相互作用やナノ粒子の正孔輸送性化合物に対する相互作用に違いが生じるため、適宜調節することが好ましい。
また、酸化物化工程は、モリブデン化合物を効率的に酸化するために酸素存在下で行うことが好ましい。
【0072】
C.モリブデン化合物ナノ粒子分散インク
本発明のモリブデン化合物ナノ粒子分散インクは、上述のモリブデン化合物ナノ粒子と溶媒とを含有することを特徴とするものである。
【0073】
本発明のモリブデン化合物ナノ粒子分散インクを用いることにより、製造プロセスが容易でありながら、正孔注入特性を向上させ、低電圧、高電力効率、長寿命を達成可能なデバイスを提供することが可能である。
【0074】
なお、モリブデン化合物ナノ粒子については、上記「A.モリブデン化合物ナノ粒子」の項に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。以下、本発明のモリブデン化合物ナノ粒子分散インクの他の構成について説明する。
【0075】
1.溶媒
本発明に用いられる溶媒としては、モリブデン化合物ナノ粒子と、必要に応じて後述の正孔輸送性化合物等のその他の成分とが良好に溶解もしくは分散すれば特に限定されない。このような溶媒としては、非極性溶媒(親油性溶媒)および極性溶媒(親水性溶媒)のいずれも用いることができる。
非極性溶媒(親油性溶媒)としては、例えば、トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、テトラリン、メシチレン、アニソール、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン、クロロホルム、安息香酸エチルおよび安息香酸ブチル等が挙げられる。
親水性溶媒とは、ある割合で水と相溶する溶媒である。親水性溶媒としては、水、または、水への溶解度(20℃)が50g/L以上であることを目安として、特に限定されることなく用いることができる。親水性溶媒は、任意の割合で水と混合可能な溶媒であることが好ましい。このような親水性溶媒としては、例えば、水、グリセリン、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、メチルジグリコール、イソプロピルグリコール、ブチルグリコール、イソブチルグリコール、メチルプロピレンジグリコール、プロピルプロピレングリコール、ブチルプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等を挙げることができる。
【0076】
2.正孔輸送性化合物
本発明のモリブデン化合物ナノ粒子分散インクの好適な用途としては、デバイスにおける正孔注入輸送層を形成するための正孔注入輸送層用インクが挙げられる。
モリブデン化合物ナノ粒子分散インクが、正孔注入輸送層用インクとして用いられる場合、正孔注入輸送層の駆動電圧の低下や素子寿命をさらに向上させる点から、モリブデン化合物ナノ粒子および溶媒の必須成分以外に、正孔輸送性化合物を含有していてもよい。
【0077】
正孔輸送性化合物は、正孔輸送性を有する化合物であれば、適宜用いることができる。ここで、正孔輸送性とは、公知の光電流法により、正孔輸送による過電流が観測されることを意味する。
正孔輸送性化合物としては、低分子化合物であってもよく、高分子化合物であってもよい。なお、正孔輸送性高分子化合物とは、正孔輸送性を有し、かつ、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)のポリスチレン換算値による重量平均分子量が2000以上の高分子化合物をいう。
【0078】
正孔輸送性化合物としては、特に限定されることなく、例えば、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体およびスピロ化合物等を挙げることができる。アリールアミン誘導体としては、例えば、N,N′−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N′−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン)(α−NPD)、4,4′,4″−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)および4,4′,4″−トリス(N−(2−ナフチル)−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(2−TNATA)等が挙げられる。カルバゾール誘導体としては、例えば、4,4−N,N′−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)等が挙げられる。フルオレン誘導体としては、例えば、N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−N,N′−ビス(フェニル)−9,9−ジメチルフルオレン(DMFL−TPD)等が挙げられる。ジスチリルベンゼン誘導体としては、例えば、4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−[(ジ−p−トリルアミノ)スチリル]スチルベン(DPAVB)等が挙げられる。スピロ化合物としては、例えば、2,7−ビス(N−ナフタレン−1−イル−N−フェニルアミノ)−9,9−スピロビフルオレン(Spiro−NPB)および2,2′,7,7′−テトラキス(N,N−ジフェニルアミノ)−9,9′−スピロビフルオレン(Spiro−TAD)等が挙げられる。
【0079】
また、正孔輸送性高分子化合物としては、例えば、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体またはスピロ化合物等を繰り返し単位に含む重合体を挙げることができる。アリールアミン誘導体を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、非共役系の高分子として、コポリ[3,3′−ヒドロキシ−テトラフェニルベンジジン/ジエチレングリコール]カーボネート(PC−TPD−DEG)、下記構造で表されるPTPDESおよびEt−PTPDEK等、共役系の高分子としてポリ[N,N′−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N′−ビス(フェニル)−ベンジジン]を挙げることができる。アントラセン誘導体類を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(9,10−アントラセン)]等を挙げることができる。カルバゾール類を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、ポリビニルカルバゾール(PVK)等を挙げることができる。チオフェン誘導体類を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(ビチオフェン)]等を挙げることができる。フルオレン誘導体を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、下記式(1)で示されるポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4′−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)、下記式(2)で示されるポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alt−co−(N,N′−ビス{4−ブチルフェニル}−ベンジジンN,N′−{1,4−ジフェニレン})]、下記式(3)で示されるポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)](PFO)等を挙げることができる。スピロ化合物を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alt−co−(9,9′−スピロ−ビフルオレン−2,7−ジイル)]等を挙げることができる。これらの正孔輸送性高分子化合物は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0080】
【化1】

【0081】
さらに、正孔輸送性化合物としては、例えば特開2009−290204号公報に記載の正孔輸送性化合物を用いることができる。
【0082】
モリブデン化合物ナノ粒子分散インクが正孔輸送性化合物を含有する場合、正孔輸送性化合物の含有量は、モリブデン化合物ナノ粒子100質量部に対して、10質量部〜10000質量部であることが好ましい。正孔注入輸送性を高くし、かつ、膜の安定性が高く長寿命を達成するからである。正孔注入輸送層において、正孔輸送性化合物の含有量が少なすぎると、正孔輸送性化合物を混合した相乗効果が得られ難い。一方、正孔輸送性化合物の含有量が多すぎると、モリブデン化合物ナノ粒子を用いる効果が得られ難くなる。
【0083】
3.その他の成分
本発明のモリブデン化合物ナノ粒子分散インクは、本発明の効果を損なわない限り、バインダー樹脂や硬化性樹脂や塗布性改良剤などの添加剤を含んでいてもよい。
バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアリレートおよびポリエステル等が挙げられる。また、熱または光等により硬化するバインダー樹脂を含有していてもよい。熱または光等により硬化する材料としては、正孔輸送性化合物において分子内に硬化性の官能基が導入されたもの、あるいは、硬化性樹脂等を使用することができる。具体的に、硬化性の官能基としては、アクリロイル基やメタクリロイル基などのアクリル系の官能基、ビニレン基、エポキシ基およびイソシアネート基等を挙げることができる。
硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂であっても光硬化性樹脂であってもよく、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂およびシランカップリング剤等を挙げることができる。
【0084】
4.モリブデン化合物ナノ粒子分散インクの製造方法
本発明のモリブデン化合物ナノ粒子分散インクは、通常、溶媒に、モリブデン化合物ナノ粒子等の必須成分の他、正孔輸送性化合物等の任意成分を一般的な調製法に従って、混合し分散処理することにより調製される。混合分散には、ペイントシェーカーまたはビーズミル等を用いることができる。
【0085】
また、モリブデン化合物ナノ粒子を濾過して取り出したり、精製したりすることなく、ワンポットでモリブデン化合物ナノ粒子分散インクを製造することもできる。このようなモリブデン化合物ナノ粒子分散インクの製造方法は、モリブデン前駆体と、ケイ素を含む結合基および有機基を有する保護剤と、高沸点溶媒とを含有する溶液を、モリブデン前駆体の分解温度よりも高い温度で加熱する方法である。
【0086】
モリブデン前駆体としては、上記「B.モリブデン化合物ナノ粒子の製造方法」の項に記載したものと同様のものを用いることができる。
【0087】
高沸点溶媒の沸点としては、具体的には160℃〜260℃の範囲内であることが好ましい。沸点が上記範囲内であれば、塗布および乾燥を行うことが比較的容易なため、モリブデン化合物ナノ粒子分散インクの溶媒としてそのまま使用することができるからである。また、高沸点溶媒の沸点は、モリブデン錯体と保護剤と高沸点溶媒とを含有する溶液を加熱する際の加熱温度よりも高いことが好ましく、中でも、上記加熱温度よりも10℃以上高いことが好ましい。
【0088】
高沸点溶媒としては、非極性溶媒(親油性溶媒)および極性溶媒(親水性溶媒)のいずれも用いることができる。
親油性溶媒としては、例えば、ドデシルベンゼン、シクロヘキサノン、テトラリン、メシチレン、アニソール、安息香酸エチルおよび安息香酸ブチル等が挙げられる。
親水性溶媒としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、メチルジグリコール、ブチルグリコール、イソブチルグリコール、メチルプロピレンジグリコール、ブチルプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
【0089】
モリブデン前駆体と保護剤と高沸点溶媒とを含有する溶液を加熱する際の加熱温度としては、モリブデン前駆体の分解温度よりも高ければ特に限定されるものではなく、具体的には150℃〜250℃の範囲内とすることができる。中でも、加熱温度は、上記範囲内であって、かつ、高沸点溶媒の沸点に比べて少なくとも10℃低い温度であることが好ましい。
モリブデン前駆体と保護剤と高沸点溶媒とを含有する溶液を加熱する際、溶液中での分散安定性を維持する点からアルゴンガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0090】
ワンポットでモリブデン化合物ナノ粒子分散インクを製造する場合においても、上記「B.モリブデン化合物ナノ粒子の製造方法」の項に記載した炭化物化工程や酸化物化工程を行ってもよい。
【0091】
D.デバイス
本発明のデバイスは、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層とを有するデバイスであって、上記正孔注入輸送層が、上述のモリブデン化合物ナノ粒子を含有することを特徴とするものである。
【0092】
本発明のデバイスについて図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明のデバイスの一例を示す概略断面図である。図1に示すデバイス1は、基板2上に対向する2つの電極3、6と、その2つの電極3、6間に配置された有機層5としてのナノ粒子を含有する正孔注入輸送層4とを有する。
図2は、本発明のデバイスの他の例を示す概略断面図である。図2に示すデバイス1は、基板2上に対向する2つの電極3、6と、その2つの電極3、6間に配置されたナノ粒子を含有する正孔注入輸送層4および有機層5とを有する。
なお、本発明のデバイスの層構成は、上記例示に限定されるものではない。
【0093】
本発明によれば、正孔注入輸送層が上述のナノ粒子を含有することにより、正孔注入特性が向上するので、低電圧駆動、高電力効率、長寿命を達成可能である。
また、本発明によれば、正孔注入輸送層が上述のナノ粒子を含有することにより、経時安定性および均一性の高い膜となるため、さらなる素子の長寿命化を達成可能である。寿命を向上できるのは、ナノ粒子に含まれるモリブデン化合物の反応性が高く、ナノ粒子同士、または正孔注入輸送層にナノ粒子および正孔輸送性化合物が含まれる場合にはナノ粒子と正孔輸送性化合物との間で、電荷移動錯体を形成し易いためと推測される。また、ナノ粒子は、モリブデン化合物と異なり、通常、有機基を含むため、正孔注入輸送層にナノ粒子および正孔輸送性化合物が含まれる場合にはナノ粒子と有機物である正孔輸送性化合物との相溶性が良好となり、また正孔注入輸送層に隣接して有機層が形成されている場合には正孔注入輸送層と有機層との界面の密着性が良好となる。そのため、ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を備えた本発明のデバイスは、特に寿命を向上できると推測される。
【0094】
なお、電荷移動錯体を形成していることは、例えば、H NMR測定により、ナノ粒子を電荷輸送性化合物の溶液へ混合した場合、電荷輸送性化合物の6ppm〜10ppm付近に観測される芳香環に由来するプロトンシグナルの形状やケミカルシフト値が、ナノ粒子を混合する前と比較して変化する現象が観測されることによって示唆される。
【0095】
本発明においては、モリブデン化合物ナノ粒子に用いられる保護剤の種類を選択することにより、親水性・疎水性、電荷輸送性、あるいは密着性などの機能性を付与するなど、多機能化することも容易である。
【0096】
また本発明においては、モリブデン化合物を用いる場合と異なり、ナノ粒子が溶媒に分散性を有するため、溶液塗布法によって正孔注入輸送層を形成することが可能なことから、製造プロセスが容易である。また、溶液塗布法によって正孔注入輸送層を形成することができるので、本発明のデバイスが有機EL素子である場合には、基板上に正孔注入輸送層から発光層までを順次塗布プロセスのみで形成できる。そのため、モリブデン化合物の場合のように正孔注入層をマスク蒸着等で蒸着した後に、正孔輸送層や発光層を溶液塗布法で形成し、さらに電極を蒸着するようなプロセスと比較して、単純であり、低コストでデバイスを作製できる利点がある。
【0097】
図3〜図5は、本発明のデバイスの一実施形態である有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
図3に示す有機EL素子10は、基板2と、基板2上に形成された電極3(陽極)と、電極3上に形成され、ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層4、正孔輸送層11a、発光層12、電子輸送層13、電子注入層14が順に積層された有機EL層15と、有機EL層15上に形成された電極6(陰極)とを有する。
図4に示す有機EL素子10は、基板2と、基板2上に形成された電極3(陽極)と、電極3上に形成され、正孔注入層11b、ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層4、発光層12、電子輸送層13、電子注入層14が順に積層された有機EL層15と、有機EL層15上に形成された電極6(陰極)とを有する。
図5に示す有機EL素子10は、基板2と、基板2上に形成された電極3(陽極)と、電極3上に形成され、ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層4、発光層12、電子輸送層13、電子注入層14が順に積層された有機EL層15と、有機EL層15上に形成された電極6(陰極)とを有する。
【0098】
本発明によれば、正孔注入輸送層が上述のナノ粒子を含有するので、正孔注入輸送層のイオン化ポテンシャルの絶対値を大きくすることができる。そのため、正孔注入輸送層を有することにより、陽極から発光層に向かって各層界面での正孔注入のエネルギー障壁を小さくし、陽極と発光層との間の大きな正孔注入のエネルギー障壁を補完することが可能である。
例えば図3に示す有機EL素子10において、電極3(陽極)の仕事関数が4.5eV〜5.0eV、正孔輸送層11aのイオン化ポテンシャルの絶対値が5.6eVである場合、ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層4のイオン化ポテンシャルの絶対値を5.4eVと大きくすることができるので、電極3(陽極)と正孔輸送層11aとの間の正孔注入のエネルギー障壁を補完可能であり、正孔注入効率に非常に優れた正孔注入輸送層とすることができる。
【0099】
以下、本発明のデバイスの各層について詳細に説明する。
【0100】
1.正孔注入輸送層
本発明における正孔注入輸送層は、対向する2つの電極間に配置され、上述のナノ粒子を含有するものであり、電極から有機層への正孔の注入および/または輸送を担う層である。
【0101】
正孔注入輸送層は、少なくとも上述のナノ粒子を含有するものであればよいが、中でも、上述のモリブデン化合物ナノ粒子分散インクを用いて形成されたものであることが好ましい。
【0102】
正孔注入輸送層は、ナノ粒子のみからなるものであってもよいが、さらに他の成分を含有していてもよい。中でも、正孔注入輸送層が正孔輸送性化合物を含有することが好ましい。駆動電圧の低下や素子寿命をさらに向上させることができるからである。
【0103】
正孔注入輸送層が正孔輸送性化合物を含有する場合、正孔注入輸送層は、ナノ粒子と正孔輸送性化合物とを含有する混合層1層からなるものであってもよく、混合層を含む複数層からなるものであってもよい。また、正孔注入輸送層は、ナノ粒子を含有する層と、正孔輸送性化合物を含有する層とが少なくとも積層された複数層からなるものであってもよい。また、正孔注入輸送層は、ナノ粒子を含有する層と、ナノ粒子および正孔輸送性化合物を少なくとも含有する層とが少なくとも積層された複数層からなるものであってもよい。
【0104】
正孔注入輸送層は、2種以上のナノ粒子を含有していてもよい。例えば、モリブデン化合物がそれぞれ異なる2種以上のナノ粒子を含有していてもよい。この場合、イオン化ポテンシャルの異なるナノ粒子を用い2種のナノ粒子を経由して階段状に正孔が移動できるようにすることで隣接層間のエネルギー障壁をさらに低下させられることや、正孔注入性に特化したナノ粒子と正孔輸送性に特化したナノ粒子とを含有させることで単一粒子の機能以上の正孔注入輸送性を得ることができるという利点がある。また、使用する保護剤がそれぞれ異なる2種以上のナノ粒子を含有していてもよい。この場合、保護剤の種類を複数選択できることで正孔注入輸送層を多機能化することができ、例えば疎水性または親水性の有機基を有する保護剤を用いたナノ粒子と正孔輸送性の有機基を有する保護剤を用いたナノ粒子とを含有させることで疎水性または親水性と正孔輸送性との2つの機能を有する正孔注入輸送層を形成できるという利点がある。さらに、モリブデン化合物および使用する保護剤がそれぞれ異なる2種以上のナノ粒子を含有していてもよい。
【0105】
なお、正孔輸送性化合物については、上記「C.モリブデン化合物ナノ粒子分散インク」の項に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
【0106】
正孔注入輸送層のイオン化ポテンシャルの絶対値は、5.0eV〜6.0eVの範囲内が好ましく、5.0eV〜5.8eVの範囲内であることが、正孔注入効率の点からより好ましい。なお、イオン化ポテンシャルは、光電子分光装置AC−3(理研計器(株)製)を使用した光電子分光法により測定した値とすることができる。
【0107】
正孔注入輸送層は、下層表面を完全に被覆してしまう連続層であってもよく、点在する島状や網状等に形成されている不連続層であってもよい。
【0108】
正孔注入輸送層の膜厚は、目的や隣接する層により適宜決定することができるが、通常0.1nm〜1000nm程度であり、好ましくは1nm〜500nmの範囲内である。なお、正孔注入輸送層が島状などの不連続層である場合の膜厚は、全体を平均化した膜厚にて定義され、例えば不連続層を含む膜全体をエリプソメーターにて測定することで平均膜厚の値を得ることができる。
【0109】
正孔注入輸送層の形成方法としては、溶液塗布法が好ましい。製造プロセスが容易な上、ショートが発生しにくいため歩留まりが高く、電荷移動錯体を形成して長寿命を達成できるからである。この場合、上述のモリブデン化合物ナノ粒子分散インクを用いて、溶液塗布法により正孔注入輸送層を形成することが好ましい。また、ナノ粒子および正孔輸送性化合物を含有する正孔注入輸送層を形成する場合、ナノ粒子および正孔輸送性化合物の双方が良好に溶解もしくは分散する溶媒中でナノ粒子および正孔輸送性化合物を混合すると、溶液中でナノ粒子と正孔輸送性化合物とが相互作用し、電荷移動錯体を形成しやすくなるため、正孔輸送性および膜の経時安定性に優れた正孔注入輸送層を形成できる。
【0110】
また、ナノ粒子を含有する層上に、正孔輸送性化合物を含有する層を溶液塗布法により積層して、正孔注入輸送層を形成してもよい。また、ナノ粒子を含有する層上に、ナノ粒子および正孔輸送性化合物を含有する層を溶液塗布法により積層して、正孔注入輸送層を形成してもよい。
なお、溶液塗布法については、後述の「E.デバイスの製造方法」の項に詳細に説明する。
【0111】
2.基板
本発明に用いられる基板は、本発明のデバイスの支持体になるものである。
基板は、フレキシブルな材質であっても、硬質な材質であってもよい。具体的に用いることができる材料としては、ガラス、石英、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエステルおよびポリカーボネート等を挙げることができる。これらのうち、合成樹脂製の基板を使用する場合には、ガスバリア性を有することが望ましい。
基板の厚さは特に限定されないが、通常、0.5mm〜2.0mm程度である。
基板は、必ずしも電極の直下に設けられる必要はなく、デバイスの最も外側の面に設けられていればよい。
【0112】
3.電極
本発明のデバイスは、基板上に対向する2つ以上の電極を有する。本発明においては、電極間に電場を印加することにより、デバイスの機能を発現させることができる。
【0113】
電極は、金属または金属酸化物で形成されることが好ましく、公知の材料を適宜採用することができる。通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウムおよび白金等の金属ならびにインジウムおよび/またはスズの酸化物などの金属酸化物により形成することができる。
電極の形成方法としては、通常、スパッタリング法、真空蒸着法などが適用されるが、塗布法、ディップ法等の湿式法を適用することもできる。
電極の厚さは、各々の電極に要求される透明性等により異なる。透明性が必要な場合には、電極の可視光波長領域の光透過率が、通常、60%以上、好ましくは80%以上となることが望ましく、この場合の厚さは、通常10nm〜1000nm、好ましくは20nm〜500nm程度である。
本発明においては、電極上に、電荷注入材料との密着安定性を向上させるために、さらに金属層を有していてもよい。金属層は金属が含まれる層をいい、上述のような通常電極に用いられる金属や金属酸化物から形成される。
【0114】
4.有機層
本発明のデバイスは、有機層を有していてもよい。有機層は、正孔注入輸送されることにより、デバイスの種類によって様々な機能を発揮する層であり、単層からなる場合と多層からなる場合がある。有機層は、デバイスの機能の中心となる層(以下、機能層と称する。)や、機能層の補助的な層(以下、補助層と称する。)を有している。例えば、有機EL素子の場合、正孔注入輸送層と発光層との間に形成される正孔輸送層や、正孔注入輸送層と陽極との間に形成される正孔注入層が補助層に該当し、発光層が機能層に該当する。
なお、機能層や補助層については、後述するデバイスの具体例において、詳細に述べる。
【0115】
5.デバイス
本発明のデバイスとしては、有機EL素子、有機トランジスタ、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池、有機半導体等の有機デバイスの他、正孔注入輸送層を有する量子ドット発光素子、酸化物系化合物太陽電池等が挙げられる。
【0116】
(1)有機EL素子
本発明のデバイスの一実施形態として、対向する2つの電極間に配置された、少なくとも正孔注入輸送層および発光層を含む有機EL層を有する有機EL素子が挙げられる。
【0117】
図3に示す有機EL素子10は、基板2と、基板2上に形成された電極3(陽極)と、電極3上に形成され、ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層4、正孔輸送層11a、発光層12、電子輸送層13、電子注入層14が順に積層された有機EL層15と、有機EL層15上に形成された電極6(陰極)とを有する。このように、ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を正孔注入層として用いる場合には、正孔注入特性の向上に加え、正孔注入輸送層は電荷移動錯体を形成して溶液塗布法に用いた溶媒に不溶になるので、正孔注入輸送層上に正孔輸送層を積層する際にも溶液塗布法を適用することが可能である。さらに、電極との密着性向上も期待できる。
【0118】
図4に示す有機EL素子10は、基板2と、基板2上に形成された電極3(陽極)と、電極3上に形成され、正孔注入層11b、ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層4、発光層12、電子輸送層13、電子注入層14が順に積層された有機EL層15と、有機EL層15上に形成された電極6(陰極)とを有する。このように、ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を正孔輸送層として用いる場合には、正孔注入特性の向上に加え、正孔注入輸送層は電荷移動錯体を形成して溶液塗布法に用いた溶媒に不溶になるので、正孔注入輸送層上に発光層を積層する際にも溶液塗布法を適用することが可能である。
【0119】
図5に示す有機EL素子10は、基板2と、基板2上に形成された電極3(陽極)と、電極3上に形成され、ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層4、発光層12、電子輸送層13、電子注入層14が順に積層された有機EL層15と、有機EL層15上に形成された電極6(陰極)とを有する。このように、ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を1層で用いる場合には、正孔注入特性の向上に加え、工程数が削減されるというプロセス上の利点がある。
なお、図3〜図5においては、正孔注入輸送層4、正孔輸送層11a、正孔注入層11bのそれぞれが、単層ではなく複数層から構成されているものであってもよい。
【0120】
図3〜図5においては、電極3は陽極、電極6は陰極として機能する。有機EL素子は、陽極と陰極の間に電場を印加されると、正孔が陽極から正孔注入層や正孔注入輸送層や正孔輸送層を経て発光層に注入され、かつ、電子が陰極から発光層に注入されることにより、発光層の内部で注入された正孔と電子が再結合し、素子の外部に発光する機能を有する。
素子の外部に光を放射するため、発光層の少なくとも一方の面に存在する全ての層は、可視波長域のうち少なくとも一部の波長の光に対する透過性を有することを必要とする。また、発光層と陰極との間には、必要に応じて電子輸送層および/または電子注入層が設けられていてもよい。
【0121】
本発明においては、図3に例示するように、電極3(陽極)上に、ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層4と正孔輸送層11aと発光層12とが順に積層されていることが好ましい。本発明によれば、上述したように、正孔注入輸送層がナノ粒子を含有することにより、正孔注入輸送層のイオン化ポテンシャルの絶対値を大きくすることができるので、正孔注入輸送層を電極(陽極)と正孔輸送層との間にナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を形成することにより、電極(陽極)と正孔輸送層との間の正孔注入のエネルギー障壁を補完可能であり、正孔注入特性をさらに向上させることができるからである。
【0122】
以下、有機EL素子を構成する各層について説明する。
【0123】
(a)基板
有機EL素子における基板は、有機EL素子の支持体になるものである。
基板としては、上記のデバイスにおける基板と同様とすることができる。
発光層で発光した光が基板側を透過して取り出される場合においては、少なくともその基板が透明な材質である必要がある。
【0124】
(b)陽極および陰極
有機EL素子は、電極として陽極および陰極を有する。陽極および陰極は、発光層で発光した光の取り出し方向により、どちらの電極に透明性が要求されるか否かが異なり、図3〜図5において、基板2側から光を取り出す場合には電極3を透明な材料で形成する必要があり、また電極6側から光を取り出す場合には電極6を透明な材料で形成する必要がある。
発光層および正孔注入輸送層に対して、正孔注入輸送層側に設けられている電極は発光層に正孔を注入する陽極として作用し、発光層側に設けられている電極は発光層に電子を注入する陰極として作用する。
電極としては、上記のデバイスにおける電極と同様とすることができる。
【0125】
(c)有機EL層
有機EL層は、対向する2つの電極間に配置され、少なくとも正孔注入輸送層と発光層を含む有機層とを有するものである。
正孔注入輸送層および発光層以外に有機EL層内に形成される層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層および電子輸送層を挙げることができる。その他、有機EL層内に形成される層としては、正孔阻止層や電子阻止層のような正孔もしくは電子の突き抜けを防止し、さらに励起子の拡散を防止して発光層内に励起子を閉じ込めることにより、再結合効率を高めるための層等を挙げることができる。
このように有機EL層は種々の層を積層した積層構造を有することが多く、積層構造としては多くの種類がある。
以下、有機EL層を構成する各層について説明する。
【0126】
(i)正孔注入輸送層
有機EL素子における正孔注入輸送層は、陽極および陰極の間であって陽極および発光層の間に配置され、ナノ粒子を含有し、陽極から発光層への正孔の注入および/または輸送を担う層である。
正孔注入輸送層としては、上記のデバイスにおける正孔注入輸送層と同様とすることができる。
【0127】
正孔注入特性を考慮すると、陽極から発光層に向かって各層の仕事関数またはイオン化ポテンシャルの絶対値が階段状に大きくなるようなナノ粒子を選択して、各界面での正孔注入のエネルギー障壁をできるだけ小さくし、陽極と発光層との間の大きな正孔注入のエネルギー障壁を補完することが好ましい。
【0128】
(ii)正孔輸送層および正孔注入層
有機EL素子においては、発光層と陽極との間に、正孔注入輸送層の他に、正孔輸送層や正孔注入層が適宜形成されていてもよい。図3に示すように正孔注入輸送層4と発光層12との間に正孔輸送層11aが形成されていてもよく、図4に示すように電極3(陽極)と正孔注入輸送層4との間に正孔注入層11bが形成されていてもよい。
【0129】
正孔輸送層に用いられる正孔輸送材料としては特に限定されないが、上記正孔注入輸送層の項に記載した正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。中でも、隣接する正孔注入輸送層に用いられている正孔輸送性化合物と同じ化合物を用いることが、正孔注入輸送層と正孔輸送層との界面の密着安定性を向上させ、長駆動寿命化に寄与する点から好ましい。
正孔注入特性を考慮すると、陽極から発光層に向かって各層の仕事関数またはイオン化ポテンシャルの絶対値が階段状に大きくなるような正孔輸送材料を選択して、各界面での正孔注入のエネルギー障壁をできるだけ小さくし、陽極と発光層との間の大きな正孔注入のエネルギー障壁を補完することが好ましい。
正孔輸送層の形成方法としては、後述の発光層の形成方法と同様とすることができる。
正孔輸送層の膜厚は、通常1nm〜1μm程度であり、好ましくは1nm〜500nmの範囲内である。
【0130】
正孔注入層に用いられる正孔注入材料としては特に限定されず、従来公知の化合物を用いることができる。例えば、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。
正孔注入特性を考慮すると、陽極から発光層に向かって各層の仕事関数またはイオン化ポテンシャルの絶対値が階段状に大きくなるような正孔注入材料を選択して、各界面での正孔注入のエネルギー障壁をできるだけ小さくし、陽極と発光層との間の大きな正孔注入のエネルギー障壁を補完することが好ましい。
正孔注入層の形成方法としては、後述の発光層の形成方法と同様とすることができる。
正孔注入層の膜厚は、通常1nm〜1μm程度であり、好ましくは2nm〜500nmの範囲内、さらに好ましくは5nm〜200nmの範囲内である。
【0131】
(ii)発光層
発光層は、陽極と正孔注入輸送層との間に形成され、発光材料を含有するものである。
発光材料としては、一般的な発光材料であれば特に限定されず、蛍光材料および燐光材料のいずれも用いることができる。具体的には、色素系発光材料、金属錯体系発光材料等の材料を挙げることができ、低分子化合物および高分子化合物のいずれも用いることができる。
【0132】
色素系発光材料としては、例えば、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、(フェニルアントラセン誘導体、)、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、カルバゾール誘導体、シクロペンタジエン誘導体、シロール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、スチルベン誘導体、スピロ化合物、チオフェン環化合物、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリアゾール誘導体、トリフェニルアミン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、ピラゾリンダイマー、ピリジン環化合物、フルオレン誘導体、フェナントロリン類、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体等を挙げることができる。またこれらの2量体や3量体やオリゴマー、2種類以上の誘導体の化合物も用いることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0133】
金属錯体系発光材料としては、例えば、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体等、あるいは中心金属にAl、Zn、Be等または、Tb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダール、キノリン構造等を有する金属錯体を挙げることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0134】
高分子系発光材料としては、分子内に上記低分子系材料を分子内に直鎖あるいは側鎖あるいは官能基として導入されたもの、重合体およびデンドリマー等を使用することができる。例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレノン誘導体、ポリフルオレン誘導体およびポリキノキサリン誘導体ならびにそれらの共重合体等を挙げることができる。
【0135】
発光層中には、発光効率の向上や発光波長を変化させる等の目的でドーピング材料を添加してもよい。高分子系材料の場合は、これらを分子構造の中に発光基として含んでいてもよい。このようなドーピング材料としては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクドリン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体およびフルオレン誘導体を挙げることができる。またこれらにスピロ基を導入した化合物も用いることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0136】
発光材料としては、蛍光発光する低分子化合物または高分子化合物や、燐光発光する低分子化合物または高分子化合物のいずれをも用いることができる。発光層を設ける下地層が正孔注入輸送層である場合、正孔注入輸送層は電荷移動錯体を形成して溶液塗布法に用いたキシレン等の親油性溶媒に不溶になるため、発光材料としては、キシレン等の親油性溶媒に溶解しやすく溶液塗布法により層を形成する高分子系発光材料を用いることが可能である。この場合、高分子系発光材料としては、蛍光発光する高分子化合物または蛍光発光する低分子化合物を含む高分子化合物や、燐光発光する高分子化合物または燐光発光する低分子化合物を含む高分子化合物を好適に用いることができる。
【0137】
発光層の形成方法としては、例えば、溶液塗布法、蒸着法、転写法が挙げられる。溶液塗布法は、後述の「E.デバイスの製造方法」の項に記載するのと同様の方法を用いることができる。蒸着法は、例えば、真空蒸着法の場合には、発光材料を真空容器内に設置されたルツボに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10‐4Pa程度にまで排気した後、ルツボを加熱して、発光材料を蒸発させ、ルツボと向き合って置かれた基板、陽極、正孔注入輸送層、正孔輸送層の積層体の上に発光層を形成させる。転写法は、例えば、予めフィルム上に溶液塗布法または蒸着法で形成した発光層を、陽極上に設けた正孔注入輸送層に貼り合わせ、加熱により発光層を正孔注入輸送層上に転写することにより形成される。また、フィルム、発光層、正孔注入輸送層の順に積層された積層体の正孔注入輸送層側を、陽極上に転写してもよい。
【0138】
発光層の膜厚は、通常1nm〜500nm程度であり、好ましくは20nm〜100nmの範囲内である。本発明においては、正孔注入輸送層を溶液塗布法で形成することが好適であるため、発光層も溶液塗布法で形成する場合は製造コストを低減することができるという利点がある。
【0139】
(2)有機トランジスタ
本発明のデバイスの別の実施形態として、基板上にゲート電極、絶縁層、ソース電極およびドレイン電極、有機半導体層を有し、ソース電極およびドレイン電極の表面の少なくとも一部に正孔注入輸送層が形成されている有機トランジスタが挙げられる。
【0140】
図6は、本発明のデバイスの別の実施形態である有機トランジスタの層構成の一例を示す概略断面図である。図6に示す有機トランジスタ20は、基板2と、基板2上に形成された電極7(ゲート電極)と、電極7(ゲート電極)上に形成された絶縁層22と、絶縁層22上に形成された対向する電極3(ソース電極)および電極6(ドレイン電極)と、電極3(ソース電極)および電極6(ドレイン電極)の間に配置され、電極3(ソース電極)および電極6(ドレイン電極)の表面に形成されたナノ粒子を含有する正孔注入輸送層4と、電極3(ソース電極)および電極6(ドレイン電極)の間に配置され、正孔注入輸送層4上に形成された有機半導体層21とを有している。
【0141】
図6に例示される有機トランジスタ20は、電極3(ソース電極)および電極6(ドレイン電極)の表面に正孔注入輸送層4が形成されているため、それぞれの電極と有機半導体層との間の正孔注入特性が高くなり、かつ、正孔注入輸送層の膜安定性が高いため、低電圧化、長寿命化に寄与する。
【0142】
図7は、本発明のデバイスの別の実施形態である有機トランジスタの層構成の他の例を示す概略断面図である。図7に示す有機トランジスタ20は、基板2と、基板2上に形成された電極7(ゲート電極)と、電極7(ゲート電極)上に形成された絶縁層22と、絶縁層22上に形成された対向する電極3(ソース電極)および電極6(ドレイン電極)と、電極3(ソース電極)および電極6(ドレイン電極)の間に配置され、有機半導体層21としてのナノ粒子を含有する正孔注入輸送層4とを有している。この例においては、正孔注入輸送層4が有機半導体層21となっている。
【0143】
図6および図7に示す有機トランジスタ20は、ゲート電極における電荷の蓄積を制御することにより、ソース電極−ドレイン電極間の電流を制御する機能を有する。
【0144】
以下、有機トランジスタを構成する各層について説明する。
【0145】
(a)正孔注入輸送層
有機トランジスタにおける正孔注入輸送層は、ゲート電極およびドレイン電極の表面の少なくとも一部に形成され、ナノ粒子を含有し、ゲート電極およびドレイン電極から有機半導体層への正孔の注入および/または輸送を担う層である。
正孔注入輸送層としては、上記のデバイスにおける正孔注入輸送層と同様とすることができる。
【0146】
有機トランジスタにおいて、正孔注入輸送層は有機半導体層として機能するものであってもよい。
また、図6に例示するように正孔注入輸送層4上に有機半導体層21が形成されている場合、有機半導体層21は正孔注入輸送層4とは異なるナノ粒子を含有する正孔注入輸送層であってもよい。
【0147】
(b)有機半導体層
有機トランジスタにおける有機半導体層を形成する材料としては、ドナー性(p型)の低分子あるいは高分子の有機半導体材料が使用できる。有機半導体材料としては、ポルフィリン誘導体、アリールアミン誘導体、ポリアセン誘導体、ペリレン誘導体、ルブレン誘導体、コロネン誘導体、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド誘導体、ペリレンテトラカルボン酸二無水化物誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリチオフェンビニレン誘導体、ポリチオフェン−複素環芳香族共重合体とその誘導体、α−6−チオフェン、α−4−チオフェン、ナフタレンのオリゴアセン誘導体、α−5−チオフェンのオリゴチオフェン誘導体、ピロメリト酸二無水物誘導体およびピロメリト酸ジイミド誘導体を用いることができる。ポルフィリン誘導体としては、例えば、フタロシアニンや銅フタロシアニンなどの金属フタロシアニンを挙げることができる。アリールアミン誘導体としては、例えば、m−TDATAを用いることができる。ポリアセン誘導体としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ペンタセンを挙げることができる。また、これらポルフィリン誘導体やトリフェニルアミン誘導体などにルイス酸や四フッ化テトラシアノキノジメタン(F4−TCNQ)、バナジウムやモリブデンなど無機の酸化物などを混合し、導電性を高くした層を用いることもできる。
【0148】
図6に例示するように正孔注入輸送層4上に有機半導体層21が形成されている場合、有機半導体層を構成する化合物としては、正孔注入輸送層に用いられる正孔輸送性化合物、中でも正孔輸送性高分子化合物を用いることが、正孔注入輸送層4と有機半導体層21との界面の密着安定性を向上させ、長駆動寿命化に寄与する点から好ましい。
【0149】
有機半導体層のキャリア移動度は10‐6cm/Vs以上であることが、特に有機トランジスタに対しては10‐3cm/Vs以上であることが、トランジスタ特性の点から好ましい。
また、有機半導体層の形成方法としては、上記有機EL素子の発光層と同様に、溶液塗布法、蒸着法が挙げられる。
【0150】
(c)基板
有機トランジスタにおける基板は、有機トランジスタの支持体になるものである。
基板としては、上記のデバイスにおける基板と同様とすることができる。
【0151】
(d)ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極
ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極としては、導電性材料であれば特に限定されないが、上述のナノ粒子を用いて正孔注入輸送層を形成する点からは、金属または金属酸化物であることが好ましい。具体的には、上記のデバイスにおける電極と同様の金属または金属酸化物を用いることができるが、特に、白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、ITOおよび炭素が好ましい。
【0152】
(e)絶縁層
ゲート電極を絶縁する絶縁層には種々の絶縁材料を用いることができ、無機酸化物でも有機化合物でも用いることができるが、特に、比誘電率の高い無機酸化物が好ましい。
無機酸化物としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコニウム酸チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ニオブ酸ビスマスおよびトリオキサイドイットリウムなどが挙げられる。それらのうち好ましいのは、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタルおよび酸化チタンである。窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの無機窒化物も好適に用いることができる。
有機化合物としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリレート、光ラジカル重合系、光カチオン重合系の光硬化性樹脂、あるいはアクリロニトリル成分を含有する共重合体、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂およびシアノエチルプルラン、ポリマー体、エラストマー体を含むホスファゼン化合物等を用いることができる。
【0153】
(3)その他のデバイス
上述の有機EL素子および有機トランジスタ以外のデバイスについても、正孔注入輸送層をナノ粒子を含有する正孔注入輸送層とすれば、その他の構成は特に限定されず、適宜公知の構成と同じであってよい。
【0154】
E.デバイスの製造方法
本発明のデバイスの製造方法は、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層とを有するデバイスの製造方法であって、上述のモリブデン化合物ナノ粒子分散インクを用いて上記正孔注入輸送層を形成する正孔注入輸送層形成工程を有することを特徴とする。
【0155】
本発明においては、上述のモリブデン化合物ナノ粒子分散インクを用いて正孔注入輸送層を形成するので、正孔注入特性が向上し、低電圧駆動、高電力効率、長寿命を達成可能なデバイスを得ることができる。
【0156】
また本発明においては、上述のモリブデン化合物ナノ粒子分散インクを用いて溶液塗布法により正孔注入輸送層を形成するので、正孔注入輸送層の形成の際に蒸着装置が不要で、マスク蒸着等を用いることなく、塗り分けも可能であり、生産性が高く、また、電極と正孔注入輸送層との界面および正孔注入輸送層と有機層との界面の密着安定性が高いデバイスを製造できる。
以下、本発明のデバイスの製造方法における各工程について説明する。
【0157】
1.正孔注入輸送層形成工程
本発明における正孔注入輸送層形成工程は、上述のモリブデン化合物ナノ粒子分散インクを用いて上記正孔注入輸送層を形成する工程であり、溶液塗布法により正孔注入輸送層を形成する。
ここで、溶液塗布法とは、モリブデン化合物ナノ粒子分散インクを下地となる電極または層上に塗布し、乾燥して正孔注入輸送層を形成する方法である。
【0158】
溶液塗布法として、例えば、浸漬法、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法およびインクジェット法等の液体滴下法などが挙げられる。薄膜かつ/または平滑な正孔注入輸送層を得る必要がある場合には、スピンコート法が好適に用いられる。また、正孔注入輸送層のパターンを得る必要がある場合には、基板上に位置選択的に正孔注入輸送層を形成可能な、インクジェット法等の液体滴下法が好適に用いられる。また、大面積にて正孔注入輸送層を形成する必要がある場合には、浸漬法およびディップコート法が好適に用いられる。
なお、モリブデン化合物ナノ粒子分散インクおよび正孔注入輸送層については、上記の「C.モリブデン化合物ナノ粒子分散インク」および「D.デバイス」の項に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
【0159】
2.酸化物化工程
本発明のデバイスの製造方法は、モリブデン化合物ナノ粒子分散インクに含まれるモリブデン化合物ナノ粒子のモリブデン化合物を酸化する酸化物化工程を有していてもよい。このような酸化物化工程を有することにより、溶媒溶解性のないモリブデン酸化物を含有する層を、蒸着法を用いることなく溶液塗布法を用いて形成することが可能である。また、モリブデン化合物ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層中のモリブデン化合物ナノ粒子のモリブデン化合物をモリブデン酸化物とすることにより、隣接する有機層との密着性を保持したまま、適宜正孔注入輸送性を変化させることも可能である。また、酸化物化工程を有することにより、膜強度を向上させることも可能である。
【0160】
本発明において、酸化物化工程は、正孔注入輸送層形成工程前に行ってもよく、正孔注入輸送層形成工程後に行ってもよい。
すなわち、本発明のデバイスの製造方法の一態様は、モリブデン化合物ナノ粒子分散インクを用いて、電極上のいずれかの層上に、モリブデン化合物ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を形成する正孔注入輸送層形成工程と、正孔注入輸送層中のモリブデン化合物ナノ粒子のモリブデン化合物を酸化する酸化物化工程とを有する。
本発明のデバイスの製造方法の別の態様では、正孔注入輸送層形成程前に、モリブデン化合物ナノ粒子分散インクに含まれるモリブデン化合物ナノ粒子のモリブデン化合物を酸化する酸化物化工程を行い、酸化されたモリブデン化合物ナノ粒子を含有するモリブデン化合物ナノ粒子分散インクを調製する。そして、酸化されたモリブデン化合物ナノ粒子を含有するモリブデン化合物ナノ粒子分散インクを用いて、モリブデン化合物ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を形成する。正孔注入輸送層の形成後、さらに、酸化物化工程を行ってもよい。
【0161】
酸化物化工程において、酸化する方法としては、酸素存在下で、例えば、加熱手段、光照射手段、活性酸素を作用させる手段等が挙げられ、これらを適宜併用してもよい。なお、酸化する方法については、上記「B.モリブデン化合物ナノ粒子の製造方法」の項に記載した方法と同様とすることができる。
【0162】
3.その他の工程
本発明のデバイスの製造方法における、その他の工程については、デバイスの構成に応じて適宜選択されるものであり、従来公知の工程を適宜用いることができる。
なお、本発明のデバイスの製造方法により得られるデバイスについては、上記「D.デバイス」の項に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
【0163】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0164】
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明する。
【0165】
[合成例1]
次の手順で、保護剤としてオクタデシルシランを用いてモリブデン炭化酸化物ナノ粒子を作製した。
50ml三ッ口フラスコ中に、保護剤としてのオクタデシルシラン(SiH3(C1837)) 0.3g(シグマアルドリッチ社製)、n−オクチルエーテル 12.8g(東京化成工業株式会社製)を量り取り、撹拌しながら減圧し、低揮発成分除去のために室温(24℃)にて1.5時間放置した。真空下から大気雰囲気へ変更し、モリブデンヘキサカルボニル 0.8g(関東化学株式会社製)を添加した。この混合液をアルゴンガス雰囲気とし、撹拌しながら280℃まで加熱し、その温度を1時間維持した。その後、この混合液を室温(24℃)まで冷却し、アルゴンガス雰囲気から大気雰囲気へ変更した後、エタノール 20gを添加し、次いで、遠心分離によって沈殿物を反応液から分離した後、下記に示す手順で再沈殿による精製を行った。すなわち、沈殿物をクロロホルム3gと混合して分散液とし、この分散液にエタノール 6gを滴下することにより精製された沈殿物を得た。このようにして得られた再沈殿液を遠心分離し、沈殿物を反応液から分離した後、乾燥することにより、黒色のモリブデン炭化酸化物ナノ粒子の精製物を得た。
【0166】
[比較合成例1]
50mL三ッ口フラスコ中に、保護剤としてのn−ヘキサデシルアミン 0.8g(関東化学(株)製)、ジオクチルエーテル 12.8g(東京化成工業(株)製)を量り取り、攪拌しながら減圧し、低揮発成分除去のために室温(24℃)にて1時間放置した。真空下から大気雰囲気へ変更し、モリブデンヘキサカルボニル 0.8g(関東化学(株)製)を添加した。この混合液をアルゴンガス雰囲気とし、攪拌しながら280℃まで加熱し、その温度を1時間維持した。その後、この混合液を室温(24℃)まで冷却し、アルゴンガス雰囲気から大気雰囲気へ変更した後、エタノールを20g滴下した。次いで、遠心分離によって沈殿物を反応液から分離した後、下記に示す手順で再沈殿による精製を行った。すなわち、沈殿物をクロロホルム3gと混合して分散液とし、この分散液にエタノール6gを滴下することにより精製された沈殿物を得た。このようにして得られた再沈殿液を遠心分離し、沈殿物を反応液から分離した後、乾燥することにより、黒色のモリブデン炭化酸化物ナノ粒子の精製物を得た。
【0167】
[比較合成例2]
50mL三ッ口フラスコ中に、保護剤としてのオクタデシルトリメトキシシラン 1.2g(東京化成工業(株)製)、ジオクチルエーテル 12.8g(東京化成工業(株)製)を量り取り、攪拌しながら減圧し、低揮発成分除去のために室温(24℃)にて1時間放置した。真空下から大気雰囲気へ変更し、モリブデンヘキサカルボニル 0.8g(関東化学(株)製)を添加した。この混合液をアルゴンガス雰囲気とし、攪拌しながら180℃まで加熱し、その温度を1時間維持した。その後、この混合液を室温(24℃)まで冷却し、アルゴンガス雰囲気から大気雰囲気へ変更した後、エタノールを20g滴下した。次いで、遠心分離によって沈殿物を反応液から分離した後、下記に示す手順で再沈殿による精製を行った。すなわち、沈殿物をクロロホルム3gと混合して懸濁液とし、この懸濁液にエタノール6gを滴下することにより精製された沈殿物を得た。このようにして得られた再沈殿液を遠心分離し、沈殿物を反応液から分離した後、乾燥することにより、黒色の粉末を得た。
この黒色の粉末はクロロホルムやシクロヘキサノン等の有機溶媒に分散しなかった。
【0168】
[ナノ粒子の評価]
(粒径の測定)
合成例1および比較合成例1、2で得られた黒色の粉末の粒径を動的光散乱法にて測定した。測定には動的光散乱測定装置(日機装(株)製、ナノトラック粒度分布測定装置 UPA−UT151)を用いた。測定試料として、測定対象の粉末をクロロホルムに分散させた溶液(濃度:4.6mg/mL)を用いた。
合成例1の黒色の粉末の個数平均粒径は12.9nmであった。比較合成例1の黒色の粉末の個数平均粒径は6.2nmであった。比較合成例2の黒色の粉末の個数平均粒径は856.6nmであった。
また、合成例1および比較合成例1、比較合成例2で得られた黒色の粉末の平均粒径を、(株)日立ハイテクノロジーズ製の透過電子顕微鏡H−7650を用いて測定した。 測定用試料は、ナノ粒子粉末の分散溶液を市販のカーボン支持膜付きグリッド上に数滴滴下し、 溶剤を乾燥させることによって作製した。観察された明視野像にて、暗い粒子の20個の平均値を平均粒径とした。
合成例1で作製した黒色の粉末の粒径は、6.5nm程度であった。比較合成例1で作製した黒色の粉末の粒径は、4nm程度であった。比較合成例2で作製した黒色の粉末では100nm以上の凝集体のみが観測され、ナノ粒子は観測できなかった。
【0169】
(結晶構造の測定)
粉末X線回折法にて合成例1および比較合成例1、2の黒色の粉末の結晶構造を同定した。測定装置には(株)リガク製のSmart Labを用い、測定用試料は測定対象の黒色の粉末をガラス上にのせて作製した。X線源としてはCuKα線を用い、管電圧45kV、管電流200mAの条件で実施した。2θ/θスキャン法でスキャン速度が毎分2°、ステップ角が0.05°の条件で測定した。
合成例1および比較合成例1で得られた黒色の粉末はいずれも、2θ=36.4°、42.3°、61.36°、73.5°、77.4°に鋭いピークが観察された。データベースICSD card No.01−089−2868、もしくは、No.01−074−5548の値から、作製した黒色の粉末はMoC、またはMoC0.66を主体とする粒子であることがわかった。比較合成例2で得られた黒色粉末では2θ=22.5°、35.5°、52.5°付近にブロードなピークが観察され、鋭いピークは得られなかった。このため結晶構造の同定は不可能であった。
【0170】
(価数の測定)
合成例1および比較合成例1、2で得られた黒色の粉末について、X線光電子分光(XPS)法にて価数を測定した。測定にはPERKIN ELMER社製PHI5600型を用いた。測定に用いたX線源としては、Al線を用いた。モノクロメーターは使用せず、加速電圧15kV、フィラメント電流20mAの条件で測定した。
測定は、合成例1および比較合成例1、2で得られた黒色の粉末をそのまま用いた。
(1)合成例1の粉末
測定試料は、アルミホイル上に合成例1の粉末を置き、その上からカーボンテープを貼り付けた試料台を押し付けて作製した。
この試料について、XPS法により測定を行ったところ、Moの酸化数が+4であるMoOの3d 5/2に帰属されるスペクトル(ピーク位置229.5eV)と、Moの酸化数が+6であるMoOの3d 5/2に帰属されるスペクトルがピーク位置232.5eVに観測された。さらにMoの酸化数が+5であるピーク(231.2eV)とMoの酸化数が0であるMo金属に由来するピークもショルダーとして観測された。つまりナノ粒子はMo金属とMoOとMoOが混在しているものと考えられる。また、モリブデン炭化酸化物のC1s及びアルキル基のC1sに帰属されるスペクトルが284−285eV近辺に観測され、モリブデン炭化酸化物のO1sに帰属されるスペクトルが532eV近辺に観測された。
さらにオクタデシルシランのSi2pに帰属されるスペクトルが103eV近辺に観測された。
各スペクトルの面積から元素比を調べたところ、Moが2.02%、Cが80.8%、Oが14%、Siが3.18%であった。この元素比を見るとMoに比べてOの比率が多いことがわかる。このXPSの結果はナノ粒子表面から深さ1nm程度までの測定値であり、Moの酸化数が0のピークが弱く、酸化モリブデンのピークが支配的なことからMo金属は中心部に存在し、表面が酸化されていると推測される。またMoと比べてSiの比率が多いことから、オクタデシルシランのSiはモリブデン炭化酸化物の内部でなく、表面においてMoと結合していると推測される。
(2)比較合成例1の粉末
測定試料は、アルミホイル上に比較合成例1の粉末を置き、その上からカーボンテープを貼り付けた試料台を押し付けて作製した。
この試料について、XPS法により測定を行ったところ、Moの酸化数が+4であるMoOの3d 5/2に帰属されるスペクトル(ピーク位置229.5eV)と、Moの酸化数が+6であるMoOの3d 5/2に帰属されるスペクトルがピーク位置232.5eVに観測された。さらにMoの酸化数が+5であるピーク(231.2eV)とMoの酸化数が0であるMo金属に由来するピークもショルダーとして観測された。つまりナノ粒子はMo金属とMoOとMoOが混在しているものと考えられる。また、モリブデン炭化酸化物のC1s及びアルキル基のC1sに帰属されるスペクトルが284−285eV近辺に観測され、モリブデン炭化酸化物のO1sに帰属されるスペクトルが532eV近辺に観測された。一方、Siのスペクトルは観測されなかった。
(3)比較合成例2の粉末
測定試料は、アルミホイル上に比較合成例2の粉末を置き、その上からカーボンテープを貼り付けた試料台を押し付けて作製した。
この試料について、XPS法により測定を行ったところ、MoOの3d 5/2に帰属されるスペクトルがピーク位置232.5eVに観測された。Mo金属やMoOに帰属されるスペクトルは観測されなかった。また、モリブデン炭化酸化物のC1s及びアルキル基のC1sに帰属されるスペクトルが284−285eV近辺に観測され、モリブデン炭化酸化物のO1sに帰属されるスペクトルが532eV近辺に観測された。
さらにオクタデシルトリメトキシシランのSi2pに帰属されるスペクトルが103eV近辺に観測された。
【0171】
(膜厚の測定)
膜厚は、洗浄済みのITOつきガラス基板上に、測定しようとする材料で形成した層を単層として形成し、カッターナイフで段差を作製してから、段差の高さをプローブ顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製のNanopics1000)を用い、タッピングモードで測定した。
合成例1および比較合成例1で作製した黒色の粉末を用いた膜の膜厚は10nm程度であった。比較合成例2で作製した黒色の粉末を用いたものは凝集体が観測され、膜化しておらず正確な膜厚は測定できなかった。
【0172】
(イオン化ポテンシャルの測定)
イオン化ポテンシャルの値は、光電子分光装置AC−3(理研計器(株)製)を用いて測定した仕事関数の値を適用した。測定は、洗浄済みのITO付きガラス基板(三容真空工業(株)製)上に、測定しようとする材料で形成した層を単層として形成し、上記の光電子分光装置AC−3で光電子が放出されるエネルギー値で決定した。測定条件としては、50nWの光量で0.05eV刻みで行った。
モリブデン炭化物、モリブデン酸化物、モリブデンケイ化物のイオン化ポテンシャルを調べるため、高純度化学研究所製の各粉末を測定した。
MoC粉末(高純度化学研究所製)のイオン化ポテンシャルは5.19eVであった。
MoO粉末(高純度化学研究所製)のイオン化ポテンシャルは5.65eVであった。
MoO粉末(高純度化学研究所製)のイオン化ポテンシャルは5.65eVであった。MoSi粉末(高純度化学研究所製)のイオン化ポテンシャルは5.82eVであった。
上記の結果から、モリブデン酸化物やモリブデン炭化物に比べ、モリブデンにケイ素が
結合したMoSiのイオン化ポテンシャルが大きいことがわかる。
合成例1の黒色粉末のイオン化ポテンシャルは5.30eVであった。比較合成例1の黒色粉末のイオン化ポテンシャルは5.08eVであった。比較合成例2の黒色粉末のイオン化ポテンシャルは5.65eVであった。
上記結果から比較合成例1の材料と比べて合成例1の黒色粉末のイオン化ポテンシャルの方が大きいことがわかる。モリブデンとオクタデシルシランのケイ素が結合したことにより比較合成例1の黒色粉末に比べてイオン化ポテンシャルの絶対値が増大したと考えられる。比較合成例2の黒色粉末に関しては、MoO(高純度化学研究所製)粉末および、MoO粉末(高純度化学研究所製)と同じイオン化ポテンシャルの値であり、XPS測定の結果からも比較合成例2の黒色粉末はMoOもしくはMoOが析出したと考えられる。
【0173】
(シリル基の赤外吸収スペクトル測定)
合成例1で得られたナノ粒子について、保護剤中のシリル基の合成前後における赤外吸収スペクトルをATR法を用いて調べた。測定装置には日本分光(株)製のFT/IR−610を用い、測定用試料は測定対象をゲルマニウムクリスタル上にのせてプレッシャーポイントチップで挟んで測定した。
保護剤であるオクタデシルシランと合成例1のナノ粒子の吸収ピークを比較すると、オクタデシルシランで見られた923cm-1におけるSi−H変角ピークと2155cm-1におけるSi−H伸縮ピークが合成例1のナノ粒子では見られなかった。このことから合成時にSi−H結合が切断されていると考えられる。
【0174】
(モリブデンナノ粒子と保護剤の結合状態の測定)
合成例1で得られた黒色の粉末について、飛行時間二次イオン質量分析計(TOF−SIMS)にて結合状態を測定した。測定にはION−TOF社製TOF.SIMS5を用いた。測定に用いた一次イオン源としては、Biを用いた。一次イオン種はBi++、加速電圧25kVで正、負同箇所を測定した。スパッタクリーニング源にはBi++を用いて、加速電圧25kV、直流モードで表面をスパッタクリーングした。測定は、合成例1で得られた黒色の粉末をそのまま用いた。
TOF−SIMS スペクトルにおいて、SiHMo由来のピークがM/Z=126に検出された。
XPS測定、赤外吸収測定、TOF−SIMS測定の結果から、合成時に保護剤であるオクタデシルシランのSi−H結合が切断され、ナノ粒子表面のMoとオクタデシルシラン中のSiが結合し、ナノ粒子表面にオクタデシルシランが配位することで、安定分散なナノ粒子が生成していると考えられる。
【0175】
[実施例1]
以下に示す手順で、ガラス基板の上に透明陽極、モリブデン炭化酸化物ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層、陰極の順番に成膜して積層し、最後に封止して有機EL素子を作製した。透明陽極と正孔注入輸送層以外は、水分濃度0.1ppm以下、酸素濃度0.1ppm以下の窒素置換グローブボックス内で作業を行った。
【0176】
まず、透明陽極としてITOの薄膜(厚み:150nm)を用いた。ITOつきガラス基板(三容真空工業(株)製)をストライプ状にパターン形成した。パターン形成されたITO基板を、中性洗剤、超純水の順番に超音波洗浄し、UVオゾン処理を施した。UVオゾン処理後のITOの仕事関数(HOMO)は5.0eVであった。
【0177】
次に、上記の合成例1で得られたナノ粒子を、シクロヘキサノン中に0.4質量%の濃度で溶解させ、正孔注入輸送層用インクを調製した。続いて、上記正孔注入輸送層用インクを、洗浄された陽極の上にスピンコート法により塗布して、正孔注入輸送層を形成した。正孔注入輸送層用インクの塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて大気中200℃で30分乾燥させた。乾燥後の正孔注入輸送層の厚みは10nmであった。
【0178】
次に、作製した正孔注入輸送層の上に、正孔輸送層としてAldrich社製ポリビニルカルバゾール(PVK)薄膜(厚み:10nm)を塗布形成した。PVKの重量平均分子量は110万である。溶剤であるジクロロエタンにPVKを0.5質量%の濃度で溶解させた溶液を、0.2μmのフィルターで濾過し、スピンコート法により塗布して成膜した。PVK溶液の塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて150℃で30分乾燥させた。
【0179】
次に、成膜した正孔輸送層の上に、発光層としてトリス[2−(p−トリル)ピリジン)]イリジウム(III)(Ir(mppy)3)を発光性ドーパントとして含有し、4,4’−ビス(2,2−カルバゾル−9−イル)ビフェニル(CBP)をホストとして含有した混合薄膜を塗布形成した。溶剤であるトルエンにCBPを1質量%、Ir(mppy)3を0.05質量%の濃度で溶解させた溶液を、スピンコート法により塗布して成膜した。インクの塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて100℃で30分乾燥させた。
【0180】
次に、上記発光層の上に、正孔阻止層としてビス(2−メチル−8−キノリラト)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム錯体(BAlq)薄膜を蒸着形成した。BAlq薄膜は、真空中(圧力:1×10-4Pa)で抵抗加熱法により膜厚が15nmになるように形成した。
【0181】
次に、上記正孔阻止層の上に、電子輸送層としてトリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq3)薄膜を蒸着形成した。Alq3薄膜は、真空中(圧力:1×10-4Pa)で抵抗加熱法により膜厚が15nmになるように形成した。
【0182】
次に、作製した電子輸送層の上に、電子注入層としてLiF(厚み:0.5nm)、陰極としてAl(厚み:100nm)を順次成膜した。真空中(圧力:1×10-4Pa)で、抵抗加熱蒸着法により成膜した。
【0183】
最後に陰極形成後、グローブボックス内にて無アルカリガラスとUV硬化型エポキシ接着剤を用いて封止し、実施例1の有機EL素子を作製した。
【0184】
[比較例1]
実施例1における正孔注入輸送層を、合成例1のナノ粒子に代えて比較合成例1のナノ粒子を用いて、正孔注入輸送層を形成した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の有機EL素子を作製した。
【0185】
[比較例2]
実施例1における正孔注入輸送層を、合成例1のナノ粒子に代えて比較合成例2の粉末を用いて、正孔注入輸送層を形成した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の有機EL素子を作製した。
【0186】
[評価]
実施例1および比較例1〜2において作製した有機EL素子を、10mA/cm2で駆動させて、発光輝度とスペクトルを(株)トプコン製の分光放射計SR−2で測定した。実施例1および比較例1〜2において作製した有機EL素子は、いずれもIr(mppy)3由来の緑色に発光した。なお、電流効率は駆動電流と輝度から算出して求めた。
有機EL素子の寿命特性は、定電流駆動で輝度が経時的に徐々に低下する様子を観察して評価した。ここでは初期輝度1,000cd/m2に対して保持率が50%の輝度に劣化するまでの時間(時)を寿命(LT50)とした。
測定結果を表1に示す。
なお、表1において、イオン化ポテンシャルの値は上述のイオン化ポテンシャルの測定により得られた値である。
【0187】
【表1】

【0188】
実施例1と比較例1を比較すると、比較例1よりも、保護剤にオクタデシルシランを用いた実施例1の方がイオン化ポテンシャルの絶対値が大きくなり、素子特性は低電圧化して寿命が長くなっている。保護剤の結合基に含まれるケイ素がモリブデンと結合することでイオン化ポテンシャルをコントロールして、素子を高性能化することができることがわかる。
実施例1と比較例2を比較すると、実施例1の素子の方が低電圧で駆動し、長寿命であった。この結果は比較合成例2の黒色粉末と比較して、本願のモリブデンナノ粒子は粒子の大きさの均一性が高く、さらにモリブデンが酸化数+4、+5、+6の複合体のシェル構造になっていることが、何らかの低電圧化や長寿命化に寄与しているものと考えられる。また比較例2については、粒度分布測定では100nm以上の凝集体が確認され、インクの分散性が悪いため、正孔注入輸送層が凝集し、その結果、駆動電圧が上昇していると考えられる。また、凝集の影響で素子はショートしがちであった。この分散性においても、本発明のナノ粒子の方が優れていることがわかる。
【符号の説明】
【0189】
1 … デバイス
2 … 基板
3 … 電極
4 … 正孔注入輸送層
5 … 有機層
6 … 電極
10 … 有機EL素子
11a … 正孔輸送層
11b … 正孔注入層
12 … 発光層
13 … 電子輸送層
14 … 電子注入層
15 … 有機EL層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン化合物のモリブデンにケイ素が結合していることを特徴とするモリブデン化合物ナノ粒子。
【請求項2】
前記ケイ素に有機基が結合しており、前記ケイ素が前記ケイ素を含む結合基と前記有機基とを有する保護剤に由来するものであることを特徴とする請求項1に記載のモリブデン化合物ナノ粒子。
【請求項3】
前記結合基がシリル基であることを特徴とする請求項2に記載のモリブデン化合物ナノ粒子。
【請求項4】
前記モリブデン化合物が、モリブデン炭化物、モリブデン炭化酸化物およびモリブデン酸化物からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載のモリブデン化合物ナノ粒子。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載のモリブデン化合物ナノ粒子と、溶媒とを含有することを特徴とするモリブデン化合物ナノ粒子分散インク。
【請求項6】
基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層とを有するデバイスであって、
前記正孔注入輸送層が、請求項1から請求項4までのいずれかに記載のモリブデン化合物ナノ粒子を含有することを特徴とするデバイス。
【請求項7】
前記デバイスが、前記2つの電極間に配置された、少なくとも前記正孔注入輸送層および発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
モリブデン前駆体とケイ素を含む結合基および有機基を有する保護剤とを、沸点が前記モリブデン前駆体の分解温度よりも高い高沸点溶媒中で、前記モリブデン前駆体の分解温度よりも高い温度で加熱する合成工程を有することを特徴とするモリブデン化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記結合基がシリル基であることを特徴とする請求項8に記載のモリブデン化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層とを有するデバイスの製造方法であって、
請求項5に記載のモリブデン化合物ナノ粒子分散インクを用いて前記正孔注入輸送層を形成する正孔注入輸送層形成工程を有することを特徴とするデバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−79773(P2012−79773A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221119(P2010−221119)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】