説明

モータの冷却装置

【課題】モータのコイルエンド部を冷却オイルによって冷却することができるとともに、その冷却オイルからケースへの熱伝達効率を向上させることのできるモータの冷却装置を提供する。
【解決手段】半径方向内側に突出し、かつ等間隔に形成された複数の巻回部4bを有するステータコア4aと、前記巻回部4bのそれぞれに素線を巻き付けて形成されたコイル5とを備えたステータ4と、該ステータ4の内周側に配置されたロータ3とを備えたモータ1の冷却装置において、前記巻回部4b同士の間で各素線を被覆するように充填された樹脂モールド8と、前記巻回部4b同士の間に樹脂モールド8とステータコア4aとによって区画して形成された流路7とを備え、前記流路7に冷却オイルを供給するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータを冷却する装置に関し、特にそのモータのステータとそのステータに巻き付けられたコイルとを冷却する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車や電気自動車などの駆動系に使用されるモータは、高トルクを出力することのできるものが使用されている。一方、車両に搭載されるモータは出力トルクが大きい反面、発熱量が多くなってしまう。特に、モータのコイルエンド部の発熱量が多くなるので、モータのコイルエンド部を冷却する装置が種々開発されている。
【0003】
その一例として、モータのコイルエンド部をステータに固定するためにコイルエンド部と一体に形成され、かつコイルエンド部を覆う樹脂モールドを有したモータのコイルエンド部の冷却効率を向上させるために、樹脂モールドに溝部を形成し、その溝部にコイルの一部が露出するように構成された装置が特許文献1に記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、ステータティースの軸線方向における両端面に樹脂プレートを一体に形成し、また、モータの径方向におけるコイルエンド部の内周側に樹脂製の円筒部を配置することによって、コイルエンド部を覆う環状の冷却油路を形成し、その冷却油路に冷却オイルを潤滑させることによって、コイルエンド部を冷却する装置が記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、コイルエンド部の軸線方向における両端面に、それぞれの端面において円周方向に連通した冷却油路を形成し、一方の端面に供給される冷却オイルの流量が、他方の端面に供給される冷却オイルの流量より多くすることによって、冷却オイルが多く供給される端面側から、ステータの内周側を通って相対的に冷却オイルが少なく供給される端面側に流れることによって、ステータおよびコイルを冷却する装置が記載されている。
【0006】
そして、特許文献4には、コイルエンド部に樹脂を浸透させることによって、コイルエンド部の絶縁性を維持しつつ、コイルエンド部の剛性を高める装置が記載され、特許文献5には、ステータの下方部側にコイルエンド部を覆うオイルタンクを設け、ステータの上方側から冷却オイルを滴下することによって、コイルエンド部を滴下された冷却オイルで冷却するとともに、滴下されてオイルタンクに溜められたオイルによってコイルエンド部を冷却する装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−197774号公報
【特許文献2】特開2004−23805号公報
【特許文献3】特開2010−124659号公報
【特許文献4】特開2001−86683号公報
【特許文献5】特開2005−130588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように特許文献1に記載された装置は、コイルエンド部を覆う樹脂モールドに溝部を形成してコイルをその溝部に露出させることによって、溝部に沿って供給される冷却オイルによってコイルを直接冷却することができる。また、特許文献2に記載された装置は、コイルエンド部を覆って形成されて冷却油路に冷却オイルを流すことによって、コイルを直接冷却することができる。したがって、特許文献1および特許文献2に記載された装置では、樹脂モールドによってコイルエンド部が完全に覆われている構造の場合よりも、熱伝達の効率を向上させることができる。しかしながら、長時間に亘ってモータが駆動している場合や、モータに掛かる負荷が大きい場合などでは冷却オイルの温度が増加するため、冷却オイルからモータのカバーあるいはケースへの熱伝達の効率が低下してしまい、その結果、コイルエンド部の冷却効率が低下する可能性がある。したがって、冷却オイルとモータのケースとの熱伝達効率を向上させることのできる装置を開発する余地がある。
【0009】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、モータのコイルエンド部を冷却オイルによって冷却することができるとともに、その冷却オイルからケースへの熱伝達効率を向上させることのできるモータの冷却装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、半径方向内側に突出し、かつ等間隔に形成された複数の巻回部を有するステータコアと、前記巻回部のそれぞれに素線を巻き付けて形成されたコイルとを備えたステータと、該ステータの内周側に配置されたロータとを備えたモータの冷却装置において、前記巻回部同士の間で各素線を被覆するように充填された樹脂モールドと、前記巻回部同士の間に樹脂モールドとステータコアとによって区画して形成された流路とを備え、前記流路に冷却オイルを供給するように構成されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記ステータコアの外周側に隙間を空けて配置されたケースを更に備え、前記流路から前記隙間に貫通する貫通孔が、前記ステータコアに形成されていることを特徴とするモータの冷却装置である。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記ステータコアは、多数の鋼板が軸線方向に積層されて形成されていることを特徴とするモータの冷却装置である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、ステータは、半径方向に突出し、等間隔に形成された巻回部を有するステータコアと、その巻回部に素線を巻き付けて形成されたコイルとを備えており、巻回部同士の間で各素線を被覆するように樹脂モールドが充填されている。したがって、ステータコアと巻回部と樹脂モールドとによって流路が形成されるので、その流路に冷却オイルを供給することによって、ステータコアを冷却することができる。
【0014】
また、請求項2の発明によれば、ステータコアの外周側に隙間を空けてケースが配置され、流路からその隙間に貫通する貫通孔がステータコアに形成されているので、ステータから熱が伝達された冷却オイルが、ケースに熱輸送することができるので、熱伝達効率を向上させることができる。さらに、冷却オイルが流動することができるので、見かけ上の熱抵抗を低減することができる。
【0015】
そして、請求項3の発明によれば、ステータコアは鋼板を積層して形成されているので、流路からステータコアに冷却オイルが浸透するため、ステータコアの熱が冷却オイルに伝達され、その結果、ステータコアと冷却オイルとの接触面積を向上させて、冷却効率を向上させることができる。さらに、ステータコアに浸透した冷却オイルがステータコアとケースとの隙間に流入するため、ステータコアの熱をケースに熱伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明に係るモータの構成例を説明するための図4におけるi部の拡大図である。
【図2】この発明に係るモータの構成例を説明するための図4におけるii-ii断面図である。
【図3】他の構成例を説明するための拡大図である。
【図4】この発明に係るモータの構成例を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
つぎにこの発明に係るモータの冷却装置の構成について図を参照しつつ説明する。図4はこの発明に係るモータ1の断面を示した図であり、出力軸2と一体に形成されたロータ3と、そのロータ3の外周側に配置されたステータ4とで構成されている。このロータ3は、軸線方向に鋼板を積層して構成された積層鋼板であって、その積層鋼板の外周側には永久磁石が内在されている。また、ステータ4は、ロータ3と同様に鋼板を軸線方向に積層して形成されたステータコア4aと、そのステータコア4aの内周側に突出している巻回部4bに素線が巻かれて形成されたコイル5とで構成されている。そして、ステータ4は、ケース6に連結されている。なお、図4に示す例では、ステータ4とケース6とには隙間が形成されているが、軸線方向のいずれかの箇所でステータ4とケース6とをスペーサなどを挟んで隙間を維持しつつ固定してもよく、あるいは軸線方向の両端側からステータ4を狭持して固定してもよい。
【0018】
上述したように構成されたモータ1は、コイル5に電流を流すことによって電磁力が生じるため、その電磁力とロータ3に内在された永久磁石の磁力とによってロータ3にトルクを付与することができる。
【0019】
一方、コイル5に流れる電流に起因してジュール熱が生じるため、特に高トルクを出力する場合には、コイル5が高温となる。そのため、この発明に係るモータ1は、特に発熱量が多いコイル5の軸線方向における両端部(以下、コイルエンド部5aと記す。)を冷却するために、コイルエンド部5aを覆うように流路が形成されている。
【0020】
ここで、コイルエンド部5aを冷却するための流路の構成例について説明する。図2は、図4におけるii-ii断面図である。図2の上部に示したように、コイルエンド部5aは、ステータコア4aから軸線方向に突出した部分であり、コイルエンド部5aを覆って流路7が形成されている。つまり、流路7は、ケース6から軸線方向における内側に突出したコイルエンドカバー5aとステータコア4aとによって囲まれた部分であって、モータ1の円周方向に連通して形成されている。なお、その流路7には、図示しないオイルポンプから冷却オイルが供給される供給口と、オイルパンや他のギヤトレーン部などに冷却オイルを排出する排出口が設けられている。また、コイルエンドカバー6aとステータコア4aとの接触面には、流路7のシール性を維持するためにOリングなどのシール材を設けてもよい。
【0021】
このようにコイルエンド部5aを覆う流路7を形成し、その流路7に冷却オイルを潤滑させることによって、コイルエンド部5aを直接冷却することができる。また、流路7は密閉されているため、その流路7に潤滑される冷却オイルの流速を早めることによって見かけ上の熱抵抗を低減することができ、コイルエンド部5aの冷却効率を向上させることができる。
【0022】
また、コイル5を巻回部4bに固定するために、この発明に係るモータ1は、各巻回部4b同士の間に位置するコイル5を樹脂製の樹脂モールド8によって一体に形成されている。つまり、巻回部4bから突出したコイルエンド部5a以外のコイル5は、樹脂によって被覆されて巻回部4bと一体に形成されている。また、この発明に係るモータ1は、円周方向に複数の巻回部4bが形成されているので、図1に示すように隣り合う巻回部4bに巻き付けられたコイル5を被覆する樹脂モールド8同士が一体となるように形成されている。なお、図1は、図4におけるi部を拡大した拡大図である。
【0023】
このように樹脂モールド8を形成することによって、図2の下部に示すように、巻回部4bが形成されていない箇所では、軸線方向の両端側にそれぞれ形成された流路7,7とが連通するように構成される。したがって、耐熱性の低い樹脂製の樹脂モールド8の外周側に冷却オイルを潤滑させることができるので、樹脂モールド8の冷却効率を向上させることができ、その結果、樹脂モールド8の耐久性を向上させることができる。言い換えれば、モータ1に許容される最大出力トルクを増大することができる。
【0024】
さらに、軸線方向に連通した流路7は、各巻回部4b同士の間を流れるので、それぞれの鋼板の隙間に冷却オイルが浸透する。そのため、各巻回部4b同士の間からステータコア4aに浸透した冷却オイルが、ステータ4とケース6との隙間9に流入する。したがって、ステータ4を冷却することができるとともに、ステータ4とケース6との隙間9に冷却オイルを供給することができる。ステータ4とケース6との間に冷却オイルを供給することによって、ステータ4とケース6との間に空気などの断熱層を排除することができるので、ステータ4とケース6との熱伝達を向上させることができる。さらに、ステータ4とケース6とを冷却オイルによって冷却することができる。
【0025】
一方、上述したように構成されたモータ1は、各巻回部4b同士の間からステータコア4aに浸透した冷却オイルがステータ4とケース6との隙間9に流入するとともに、ロータ3側にも流入される可能性がある。したがって、ロータ3側に冷却オイルが流入されると、ロータ3の回転速度に基づいて攪拌損失が生じる可能性があるので、ロータ3側に冷却オイルが流入し難いように構成された例を図3に示す。図3は、図1と同一箇所を改良した構成を示す図である。図3に示すように、流路7からステータ4とケース6との隙間9に貫通する貫通孔10がステータコア4aに形成されている。なお、この貫通孔10は、軸線方向に複数設けてもよく、あるいは軸線方向に向けた長孔であってもよい。
【0026】
このように流路7からステータ4とケース6との隙間9に連通する貫通孔10を形成することによって、冷却オイルの粘性に基づく粘性抵抗の差あるいは油圧の差によって、ステータコア4aに浸透する冷却オイルの量を低減することができ、その結果、ロータ3側に流入される冷却オイルの量を低減することができる。つまり、貫通孔10の開口径あるいは開口断面積を大きくすることによって、ステータコア4aに浸透する冷却オイルの量を低減することができる。
【符号の説明】
【0027】
1…モータ、 2…出力軸、 3…ロータ、 4…ステータ、 4a…ステータコア、 4b…巻回部、 5…コイル、 6…ケース、 7…流路、 8…樹脂モールド、 9…隙間、 10…貫通孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半径方向内側に突出し、かつ等間隔に形成された複数の巻回部を有するステータコアと、前記巻回部のそれぞれに素線を巻き付けて形成されたコイルとを備えたステータと、該ステータの内周側に配置されたロータとを備えたモータの冷却装置において、
前記巻回部同士の間で各素線を被覆するように充填された樹脂モールドと、
前記巻回部同士の間に樹脂モールドとステータコアとによって区画して形成された流路と
を備え、
前記流路に冷却オイルを供給するように構成されていることを特徴とするモータの冷却装置。
【請求項2】
前記ステータコアの外周側に隙間を空けて配置されたケースを更に備え、
前記流路から前記隙間に貫通する貫通孔が、前記ステータコアに形成されていることを特徴とする請求項1に記載のモータの冷却装置。
【請求項3】
前記ステータコアは、多数の鋼板が軸線方向に積層されて形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のモータの冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−95489(P2012−95489A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242192(P2010−242192)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】