説明

モータの制御装置

【課題】 車両の運転を急激に妨げることなく、インバータの過熱による特性変化および損傷を防止すると共にインバータ寿命の低下を防止することができ、適切な対処が迅速に行えるモータの制御装置を提供する。
【解決手段】 インバータ31に、このインバータ31の温度Tcを検出する温度センサSaを設ける。この温度センサSaで検出される温度Tcに対し複数の閾値が設定され、各閾値で区分される温度領域毎に、互いに異なる電流制限条件が設定され、検出される温度Tcの含まれる前記温度領域の前記電流制限条件に応じてインバータ31に与える電流指令に制限を加えるインバータ制限手段95を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータの制御装置に関し、バッテリ駆動、燃料電池駆動、エンジン併用のハイブリッド車等の電気自動車における車輪を駆動するモータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車では、一般的に同期型のモータや誘導型のモータが用いられ、バッテリの直流電流をインバータで交流電流に変換してモータの駆動が行われる。インバータは、主に複数の半導体スイッチング素子で構成されるが、モータ駆動のための大電流を流すため、発熱が大きい。半導体スイッチング素子は、温度による特性変化が大きく、また、過熱により損傷することがあるため、インバータには一般的に冷却手段が設けられている。
なお、従来、インホイールモータ駆動装置において、信頼性確保のために、車輪用軸受、減速機、およびモータ等の温度を測定して過負荷を監視し、温度測定値に応じてモータの駆動電流の制限や、モータ回転数を低下させるものが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−168790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気自動車のインバータは、前記のように冷却手段が設けられていて、通常の運転では過昇温が防止される。しかし、坂道等において、連続して高トルク発生状態で運転した場合、流れる電流が大きくなるため、過熱により特性が変化したり、損傷したりする恐れがある。また半導体スイッチング素子の温度が過度に上昇することで、インバータの寿命を低下させる可能性がある。このようなインバータの特性変化、損傷、インバータ寿命の低下は、モータ駆動の制御特性の変化や、モータ駆動の不能を招く。また、インバータ温度を測定して過負荷を監視し、モータの駆動電流を駆動制限する場合、車両の運転が急激に妨げられるおそれがある。
【0005】
この発明の目的は、車両の運転を急激に妨げることなく、インバータの過熱による特性変化および損傷を防止すると共にインバータ寿命の低下を防止することができ、適切な対処が迅速に行えるモータの制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のモータの制御装置は、車輪を駆動するモータを有する電気自動車の前記モータを制御する制御装置であって、前記電気自動車は、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECUと、バッテリの直流電力を前記モータの駆動に用いる交流電力に変換するインバータを含むパワー回路部および前記ECUの制御に従って少なくとも前記パワー回路部を制御するモータコントロール部を有するインバータ装置とを備え、前記インバータに、このインバータの温度Tcを検出する温度センサSaを設け、この温度センサSaで検出される温度Tcに対し複数の閾値が設定され、各閾値で区分される温度領域毎に、互いに異なる電流制限条件が設定され、検出される温度Tcの含まれる前記温度領域の前記電流制限条件に応じてインバータに与える電流指令に制限を加えるインバータ制限手段を設けたことを特徴とする。なお、この発明における「電気自動車」は、エンジン併用のハイブリッド車も含む。
【0007】
この構成によると、温度センサSaは、インバータ31の温度Tcを常時検出する。例えば、坂道等において連続して高トルク発生状態で電気自動車を運転した場合、インバータ31の温度Tcが上昇すると共に、モータコイル78の温度が上昇する。温度センサSaによるインバータ31の温度検出は、応答性が悪いことから、温度Tcに対し複数の閾値が設定され、各閾値で区分けされる温度領域毎に、互いに異なる電流制限条件が設定される。つまり、検出される温度Tcが比較的低温のときは、電流制限条件を緩和し、検出される温度Tcが高温になる程、電流制限条件を強く規制する。
【0008】
インバータ制限手段95は、検出される温度Tcの含まれる前記温度領域の前記電流制限条件に応じてインバータ31に与える電流指令に制限を加える制御を行う。具体的には、デューティ比とパルス数のいずれか一方または両方を変更する制御を行う。例えば、スイッチング周期に対するパルスのON時間を表す前記デューティ比を、設定されたデューティ比よりも小さくして電圧実効値を低くしたり、スイッチング周期を同一周期にしておいて不等幅パルスを発生させることで、インバータ31に与える電流指令に制限を加え得る。このように、インバータ31に与える電流指令に制限を加えることで、インバータ31を木目細かく温度管理することができ、インバータ31の特性変化、損傷、インバータ寿命の低下を防止することができる。これによりモータコイルの絶縁性能の劣化を防止でき、モータが駆動不能に陥ることを防止できるため、車両の運転が急激に妨げられることを回避することができる。
【0009】
前記インバータ制限手段は、温度Tcを時間tで微分したインバータ温度の時間変化dTc/dtが正のとき、区分された各温度領域に応じて、インバータ温度の時間変化dTc/dtの許容上限を変更するものとしても良い。このように区分された各温度領域に応じて、インバータ温度の時間変化dTc/dtの許容上限を変更することで、インバータ31を木目細かく温度管理することができる。例えば、検出される温度Tcが比較的低温のときは、温度Tcが変化する度合いが急峻であったとしても、インバータ31が直ぐに損傷等することはないため、dTc/dtの許容上限を緩和する。逆に、検出される温度Tcが高温になる程、温度Tcが変化する度合いが緩やかであっても、インバータ31の特性変化、損傷、インバータ寿命の低下に繋がる。したがって、区分された各温度領域に応じて、インバータ温度の時間変化dTc/dtの許容上限を変更し、インバータ31を温度管理することで、インバータ31の損傷等を防止することができる。
【0010】
前記インバータ制限手段は、温度Tcを時間tで微分したインバータ温度の時間変化dTc/dtの許容上限を、検出される温度Tcの含まれる各温度領域毎に低温側から高温側に向けて小さくなるように設定しても良い。このようにインバータ温度の時間変化dTc/dtを設定することで、インバータ31を容易に且つ精度良く温度管理することができる。すなわち、インバータ温度Tcが低いときには、半導体スイッチング素子が直ぐに損傷等することはないため、温度検出の応答性が悪い場合であっても温度Tcが急峻に上昇することを許容できる。インバータ温度Tcが高いときには、半導体スイッチング素子の損傷等が起き易いため、温度Tcが急激に上昇しないように強く規制する。各閾値で区分される温度領域をより細かく区分し、dTc/dtの許容上限を高温側に向けて直線的に減少させることも可能である。この場合、インバータ31の温度管理をさらに木目細かく行うことができる。
【0011】
前記インバータ制限手段は、モータの電流値を制御することにより、前記dTc/dtを制限するようにしても良い。あるインバータ温度Tcのとき、インバータ制限手段95がインバータ31に与える電流指令に制限を加える制御を行うと、インバータ温度の時間変化dTc/dtは一定または低下する傾向を示す。このようなdTc/dtの傾向が認識されたとき、つまりインバータ温度の時間変化が0以下になると、実際の温度Tcが下がるのを待つことなく、インバータ31への電流指令を制御する制御を解除するので、モータ電流を低減し過ぎることがなくモータ6の急激な駆動制限が防止される。
【0012】
インバータ制限手段95の制御解除によって、インバータ31の温度Tcが上がり始めても、そのときは、検出される温度Tcが、この温度Tcの含まれる温度領域における閾値以上であり、且つ、dTc/dtが、検出される前記温度Tcの含まれる温度領域の上限値を超えれば、再度インバータ31への電流指令を制限する制御を行う。そのため、インバータ温度の時間変化dTc/dtが0以下になったときに、インバータ31への電流指令を制限する制御を解除しても過負荷の確実な防止が行える。したがって、インバータ31の過熱による損傷等を防止し、モータ駆動の制御特性の変化や、モータ駆動の不能を防止することができる。
【0013】
前記インバータ制限手段95は、温度センサで検出される温度Tcが各閾値を超えるか否かを判定する判定部を有し、検出される温度Tcが複数の閾値のうち定められた閾値を超えたと判定部で判定されたとき、ECU21にインバータ31の異常報告を出力する異常報告手段を設けても良い。この場合、ECU21にインバータ31の異常報告を出力することで、ECU21により車両全体の適切な制御が行える。場合によっては、インバータ制限手段95がECU21内に有するものであっても良い。
【0014】
前記モータ6は、前記電気自動車の車輪2を個別に駆動するモータ6であっても良い。
前記モータ6の一部または全体が車輪2内に配置されるインホイールモータ駆動装置8を構成するものであっても良い。
前記インホイールモータ駆動装置8は、前記モータ6と車輪用軸受4と減速機7とを含むものであっても良い。インホイールモータ駆動装置8の場合、コンパクト化を図る結果、車輪用軸受4、減速機7、およびモータ6は、材料使用量の削減、モータ6の高速回転化を伴うため、これらの信頼性確保が重要な課題となる。特に、インバータ31の温度Tcを検出し、インバータ31の過熱による異常、例えば、半導体スイッチング素子が過熱することに起因する熱暴走等を常時監視することで、インバータ31に与える電流指令を適切に制限する制御を行うことができる。
【0015】
前記モータ6の回転を減速する減速機7を備え、この減速機7は、1/4以上の高減速比を有するサイクロイド減速機であっても良い。
減速機7をサイクロイド減速機として減速比を例えば1/4以上に高くした場合、モータ6の小型化を図り、装置のコンパクト化を図ることができる。減速比を高くした場合、モータ6は高速回転するものが用いられる。モータ6が高速回転状態のとき、インバータ31の損傷等を防止し、モータ駆動の制御特性の変化や、モータ駆動の不能を防止できるため、車両が急激に走行不能に陥ることを回避することができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明のモータの制御装置は、車輪を駆動するモータを有する電気自動車の前記モータを制御する制御装置であって、前記電気自動車は、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECUと、バッテリの直流電力を前記モータの駆動に用いる交流電力に変換するインバータを含むパワー回路部および前記ECUの制御に従って少なくとも前記パワー回路部を制御するモータコントロール部を有するインバータ装置とを備え、前記インバータに、このインバータの温度Tcを検出する温度センサを設け、この温度センサで検出される温度Tcに対し複数の閾値が設定され、各閾値で区分される温度領域毎に、互いに異なる電流制限条件が設定され、検出される温度Tcの含まれる前記温度領域の前記電流制限条件に応じてインバータに与える電流指令に制限を加えるインバータ制限手段を設けた
した。このため、車両の運転を急激に妨げることなく、インバータの過熱による特性変化および損傷を防止すると共にインバータ寿命の低下を防止することができ、適切な対処が迅速に行える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る電気自動車を平面図で示す概念構成のブロック図である。
【図2】同電気自動車の駆動モータの制御装置等の概念構成を示すブロック図である。
【図3】同電気自動車のインバータの概略構成を示すブロック図である。
【図4】同電気自動車の制御系のブロック図である。
【図5】(A)は、インバータ温度と、dTc/dtの上限値との関係を示す図、(B)は、各閾値で区分される温度領域をより細かく区分した場合のインバータ温度と、dTc/dtの上限値との関係を示す図である。
【図6】同電気自動車のインバータ装置のインバータ温度と時間との関係を示す図である。
【図7】同電気自動車におけるインホイールモータ駆動装置の破断正面図である。
【図8】図7のVIII-VIII 線断面となるモータ部分の断面図である。
【図9】図7のIX-IX線断面となる減速機部分の断面図である。
【図10】図9の部分拡大断面図である。
【図11】この発明のさらに他の実施形態に係る電気自動車のECU等の概念構成のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図10と共に説明する。この実施形態に係るモータの制御装置は、電気自動車に搭載されている。この電気自動車は、車体1の左右の後輪となる車輪2が駆動輪とされ、左右の前輪となる車輪3が従動輪の操舵輪とされた4輪の自動車である。駆動輪および従動輪となる車輪2,3は、いずれもタイヤを有し、それぞれ車輪用軸受4,5を介して車体1に支持されている。車輪用軸受4,5は、図1ではハブベアリングの略称「H/B」を付してある。駆動輪となる左右の車輪2,2は、それぞれ独立の走行用のモータ6,6により駆動される。モータ6の回転は、減速機7および車輪用軸受4を介して車輪2に伝達される。これらモータ6、減速機7、および車輪用軸受4は、互いに一つの組立部品であるインホイールモータ駆動装置8を構成しており、インホイールモータ駆動装置8は、一部または全体が車輪2内に配置される。インホイールモータ駆動装置8は、インホイールモータユニットとも称される。モータ6は、減速機7を介さずに直接に車輪2を回転駆動するものであっても良い。各車輪2,3には、電動式のブレーキ9,10が設けられている。
【0019】
左右の前輪となる操舵輪である車輪3,3は、転舵機構11を介して転舵可能であり、操舵機構12により操舵される。転舵機構11は、タイロッド11aを左右移動させることで、車輪用軸受5を保持した左右のナックルアーム11bの角度を変える機構であり、操舵機構12の指令によりEPS(電動パワーステアリング)モータ13を駆動させ、回転・直線運動変換機構(図示せず)を介して左右移動させられる。操舵角は操舵角センサ15で検出し、このセンサ出力はECU21に出力され、その情報は左右輪の加速・減速指令等に使用される。
【0020】
制御系を説明する。図1に示すように、制御装置U1は、自動車全般の制御を行う電気制御ユニットであるECU21と、このECU21の指令に従って走行用のモータ6の制御を行うインバータ装置22とを有する。前記ECU21と、インバータ装置22と、ブレーキコントローラ23とが、車体1に搭載されている。ECU21は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、並びに各種の電子回路等で構成される。
【0021】
ECU21は、機能別に大別すると駆動制御部21aと一般制御部21bとに分けられる。駆動制御部21aは、アクセル操作部16の出力する加速指令と、ブレーキ操作部17の出力する減速指令と、操舵角センサ15の出力する旋回指令とから、左右輪の走行用モータ6,6に与える加速・減速指令を生成し、インバータ装置22へ出力する。駆動制御部21aは、上記の他に、出力する加速・減速指令を、各車輪2,3の車輪用軸受4,5に設けられた回転センサ24から得られるタイヤ回転数の情報や、車載の各センサの情報を用いて補正する機能を有していても良い。アクセル操作部16は、アクセルペダルとその踏み込み量を検出して前記加速指令を出力するセンサ16aとでなる。ブレーキ操作部17は、ブレーキペダルとその踏み込み量を検出して前記減速指令を出力するセンサ17aとでなる。
【0022】
ECU21の一般制御部21bは、前記ブレーキ操作部17の出力する減速指令をブレーキコントローラ23へ出力する機能、各種の補機システム25を制御する機能、コンソールの操作パネル26からの入力指令を処理する機能、表示手段27に表示を行う機能などを有する。前記補機システム25は、例えば、エアコン、ライト、ワイパー、GPS、エアバッグ等であり、ここでは代表して一つのブロックとして示す。
【0023】
ブレーキコントローラ23は、ECU21から出力される減速指令に従って、各車輪2,3のブレーキ9,10に制動指令を与える手段である。ECU21から出力される制動指令には、ブレーキ操作部17の出力する減速指令によって生成される指令の他に、ECU21の持つ安全性向上のための手段によって生成される指令がある。ブレーキコントローラ23は、この他にアンチロックブレーキシステムを備える。ブレーキコントローラ23は、電子回路やマイコン等により構成される。
【0024】
インバータ装置22は、各モータ6に対して設けられたパワー回路部28と、このパワー回路部28を制御するモータコントール部29とで構成される。モータコントール部29は、各パワー回路部28に対して共通して設けられていても、別々に設けられていても良いが、共通して設けられた場合であっても、各パワー回路部28を、例えば互いにモータトルクが異なるように独立して制御可能なものとされる。モータコントール部29は、このモータコントール部29が持つインホイールモータ8に関する各検出値や制御値等の各情報(「IWMシステム情報」と称す)をECUに出力する機能を有する。
【0025】
図2は、この電気自動車の駆動モータの制御装置等の概念構成を示すブロック図である。パワー回路部28は、バッテリ19の直流電力をモータ6の駆動に用いる3相の交流電力に変換するインバータ31と、このインバータ31を制御するPWMドライバ32とで構成される。モータ6は3相の同期モータ等からなる。図3に示すように、インバータ31は、複数の半導体スイッチング素子31aで構成され、PWMドライバ32は、入力された電流指令をパルス幅変調し、前記各半導体スイッチング素子31aにオンオフ指令を与える。
【0026】
図2に示すように、モータコントール部29は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路により構成され、その基本となる制御部としてモータ駆動制御部33を有している。モータ駆動制御部33は、上位制御手段であるECUから与えられるトルク指令等による加速・減速指令に従い、電流指令に変換して、パワー回路部28のPWMドライバ32に電流指令を与える手段である。モータ駆動制御部33は、インバータ31からモータ6に流すモータ電流値を電流検出手段35から得て、電流フィードバック制御を行う。また、モータ駆動制御部33は、モータ6のロータの回転角を角度センサ36から得て、ベクトル制御を行う。
【0027】
この実施形態では、上記構成のモータコントロール部29に、次のインバータ制限手段95、および異常報告手段41を設け、ECU21に異常表示手段42を設けている。また、インバータ31に、このインバータ31の温度Tcを検出する温度センサSaを設けている。
【0028】
図2に示すように、インバータ制限手段95は、インバータ31に与える電流指令に制限を加えるものであり、後述する判定部39と、電流制御部40とを有する。図5(A)に示すように、温度センサSa(図2)で検出される温度Tcに対し複数の閾値(この例ではT,T,T,T)が設定され、各閾値T〜Tで区分される温度領域Ar1〜Ar4毎に、互いに異なる電流制限条件が設定されている。インバータ制限手段95の電流制御部40は、検出される温度Tcの含まれる前記温度領域Ar1〜Ar4の前記電流制限条件に応じてインバータ31に与える電流指令に制限を与える。この例の前記電流制限条件は、温度Tcを時間tで微分したインバータ温度の時間変化dTc/dtに上限値(許容上限)を設けることである。電流制限条件として、区分される温度領域Ar1〜Ar4毎に、dTc/dtの許容上限が設定されている。温度センサSaで検出された検出値は、アンプApで増幅される。電流制御部40によるインバータ温度の時間変化dTc/dtの制限は、前記アンプApから入力される値によりdTc/dtを常時監視することで行える。
【0029】
具体的には、T以下の温度Tcが検出された段階では、閾値は低温側の閾値Tが設定される。この検出された前記温度Tcの含まれる温度領域Ar1における、dTc/dtの上限値が設定されている。Tより大きくT以下の温度Tcが検出された段階では、閾値Tよりも大きく閾値Tよりも小さい閾値Tが設定される。この検出された前記温度Tcの含まれる温度領域Ar2における、dTc/dtの上限値は、温度領域Ar1のdTc/dtの上限値よりも小さく設定されている。このようにインバータ制限手段95は、インバータ温度の時間変化dTc/dtが正のとき、区分される温度領域Ar1〜Ar4に応じて、dTc/dtの許容上限を変更するものとしている。
【0030】
図5(A)の例では、インバータ制限手段95は、インバータ温度の時間変化dTc/dtの上限値を、検出される温度Tcの含まれる各温度領域Ar1〜Ar4毎に低温側から高温側に向けて、段階的に小さくなるように設定している。なお、図5(B)に示すように、各閾値で区分される温度領域をより細かく区分し、同図の曲線L1で示すように、dTc/dtの上限値を凸となる二次関数曲線状に高温側に向けて減少させても良いし、曲線L2で示すように、dTc/dtの上限値を凹となる二次関数曲線状に減少させても良い。また、直線L3で示すように、dTc/dtの上限値を高温側に向けて直線状に減少させても良い。これらの場合、インバータ31の温度管理を図5(A)の場合よりもさらに木目細かく行うことができる。実線の曲線L1のようにdTc/dtの上限値を設定すると、高温側の温度Tcに至るまではインバータ温度Tcが急峻に上昇することを許容し易くできるため、電流制御部40は、運転に支障がない電流制御を行うことが容易になる。
【0031】
前記温度センサSaとして例えばサーミスタが使用される。このサーミスタを、図3に示すように、複数の半導体スイッチング素子31aが実装される基板31bに固着することで、インバータ31の温度Tcを検出し得る。なおサーミスタを半導体スイッチング素子31a自体に固着しても良い。
この例では、図2および図4に示すように、サーミスタで検出された検出値はアンプApで増幅され、この増幅値が判定部39にて判定される。
判定部39は、温度センサSaで検出される温度Tcが、この検出される温度Tcの含まれる温度領域の上限値を超えたか否かを常時判定する。前記各閾値T〜Tを超えるか否かを常時判定する。これと共に、判定部39は、インバータ温度の時間変化dTc/dtが、検出される温度Tcの含まれる温度領域の上限値を超えたか否かも常時判定する。前記各閾値T〜Tは、例えば、使用する半導体スイッチング素子31aの動作保証温度に幅を持たせて閾値T〜Tの数に応じて区分けしても良いし、実験、シミュレーション等により、インバータ31の特性変化を生じさせる、インバータ31の温度および時間の関係に基づいて適宜に求められる。求められた閾値は、テーブルとして図示外の記憶手段に書換え可能に記憶されている。
【0032】
図2、図4に示すように、検出されるインバータ31の温度Tcが、検出される温度Tcの含まれる温度領域で定められた各閾値を超えたと判定部39で判定され、且つ、dTc/dtが、検出される温度Tcの含まれる温度領域の上限値を超えたと判定されたとき、電流制御部40は、インバータ31に与える電流指令に制限を与えるように、モータ駆動制御部33を介してパワー回路部28に指令する。前記モータ駆動制御部33は、ECU21からの加速・減速指令に従い、電流指令に変換してPWMドライバ32に電流指令を与えるが、前記電流制御部40からの指令を受けて前記電流指令に制限を与える。
【0033】
具体的には、電流制御部40はデューティ比とパルス数のいずれか一方または両方を変更する制御を行う。例えば、スイッチング周期に対するパルスのON時間を表す前記デューティ比を、設定されたデューティ比よりも数10%低くして電圧実効値を低くしたり、スイッチング周期を同一周期にしておいて不等幅パルスを発生させることで、インバータ31に与える電流指令に制限を加え得る。これにより、インバータ温度の時間変化dTc/dtは一定または低下する傾向を示す。
【0034】
このようなdTc/dtの傾向が認識されたとき、つまりインバータ温度の時間変化dTc/dtが0以下になると、実際の温度Tcが下がるのを待つことなく、インバータ31への電流制限を解除する。このため、モータ電流を低減し過ぎることがなくモータ6の急激な駆動制限が防止される。dTc/dtが0以下になるとは、任意の微小時間における温度Tcの傾きが0以下になることと同義である。
インバータ31の温度は、急には下がらず、温度がある程度下がるまでインバータ31への電流指令を制限し、モータ電流を低減すると、モータ6の急激な駆動制限によって車両の運転が妨げられることがあるが、上記のように温度低下の兆候をとらえてインバータ31への電流制限を解除することで、モータ6に流すモータ電流の制限が解除されるため、モータ6の急激な駆動制限による問題も回避される。
【0035】
インバータ制限手段95の制限解除によって、インバータ31の温度Tcが上がり始めても、そのときは、検出される温度Tcが、この温度Tcの含まれる温度領域における閾値以上の温度であり、且つ、dTc/dtが、検出される前記温度Tcの含まれる温度領域の上限値を超えれば、再度インバータ31への電流指令を制限する制御を行う。そのため、インバータ温度の時間変化dTc/dtが0以下になったときに、インバータ31への電流指令を制限する制御を解除しても過負荷の確実な防止が行える。したがって、インバータ31の過熱による損傷等を防止し、モータ駆動の制御特性の変化や、モータ駆動の不能を防止することができる。具体的に、図6(A)、(B)は、それぞれこの電気自動車のインバータ31の温度Tcと時間tとの関係を示す図である。
【0036】
図6(A)では、インバータ31の温度Tcが上昇し時間t1のとき、判定部39は、インバータ31の温度Tcが閾値Tを超え、且つ、dTc/dtが上限値を超えたと判定する。電流制御部40は、この判定結果を受けて、インバータ31への電流指令を制限するように、モータ駆動制御部33を介してパワー回路部28に指令する。モータ駆動制御部33は、電流制御部40から与えられる指令に従い、パワー回路部28のPWMドライバ32に電流指令を与える。パワー回路部28は、モータ6へ供給する電流を低減させる。
【0037】
時間t2においてdTc/dtが「0」(温度Tcが一定)となることで、電流制御部40は、インバータ31への電流指令を制限する制御を解除する。この図6(A)の例では、時間t2以後dTc/dtがマイナス(温度Tcが低下)となるため、インバータ温度Tcが閾値T以上であっても、実際の温度Tcが下がるのを待つことなく電流制御部40は、電流指令を制限する制御の解除を続行する。
【0038】
図6(B)の例では、時間t1のとき、電流制御部40は、判定部39による判定結果を受けて、インバータ31への電流指令を制限するように、モータ駆動制御部33を介してパワー回路部28に指令する。時間t2以後、インバータ制限手段95の制御解除によって、インバータ31の温度Tcが再度上昇し時間t3のとき、判定部39は、インバータ31の温度Tcが閾値Tを超え、且つ、dTc/dtが上限値を超えたと判定する。電流制御部40は、この判定結果を受けて、前記と同様にインバータ31への電流指令を制限するように、モータ駆動制御部33を介してパワー回路部28に指令する。時間t4においてdTc/dtが「0」(温度Tcが一定)となることで、電流制御部40は、インバータ31への電流制限を解除する。
【0039】
この図6(B)の例では、時間t4以後dTc/dtが「0」となるため、温度Tcが閾値Tを超えていても、実際の温度Tcが下がるのを待つことなく電流制御部40は、インバータ31への電流制限の解除を続行する。なお、インバータ制限手段95の制御解除によって、インバータ31の温度Tcが再度上昇し始めた場合、次の閾値Tによる判定、およびdTc/dtによる判定結果に基づき、電流制御部40は、インバータ31への電流指令を制限する制御を行う。
【0040】
図6(A),(B)いずれの場合にも、インバータ制限手段95がインバータ31への電流指令を制限する制御を行うと、インバータ温度Tcの時間変化dTc/dtは一定または低下する傾向を示す。このようなdTc/dtの傾向が認識されたとき、つまりインバータ温度Tcの時間変化dTc/dtが0以下になると、実際の温度Tcが下がるのを待つことなく、インバータ31への電流制限を解除する。このため、モータ電流を低減し過ぎることがなくモータ6の急激な駆動制限が防止される。
インバータ制限手段95の制御解除によって、インバータ温度Tcが上がり始めても、そのときは、検出される温度Tcが、この温度Tcの含まれる温度領域における閾値以上であり、且つ、dTc/dtが、検出される前記温度Tcの含まれる温度領域の上限値を超えれば、再度インバータ31への電流指令を制限する制御を行う。
【0041】
図2に示すように、異常報告手段41は、判定部39により温度Tcが複数の閾値のうち定められた閾値(例えばT)を超えたと判定したときに、ECU21に異常発生情報を出力する手段である。
ECU21に設けられた異常表示手段42は、異常報告手段41から出力されたインバータ31の異常発生情報を受けて、運転席の表示装置27に、異常を知らせる表示を行わせる手段である。表示装置27における表示は、文字や記号による表示、例えばアイコンによる表示とされる。
【0042】
作用効果について説明する
この構成によると、温度センサSaは、インバータ31の温度Tcを常時検出する。例えば、坂道等において連続して高トルク発生状態で電気自動車を運転した場合、インバータ31の温度Tcが上昇すると共に、モータコイル78の温度が上昇する。温度センサSaによるインバータ31の温度検出は、応答性が悪いことから、温度Tcに対し複数の閾値が設定され、各閾値で区分けされる温度領域毎に、互いに異なる電流制限条件が設定される。つまり、検出される温度Tcが比較的低温のときは、電流制限条件を緩和つまりdTc/dtの上限値を高くし、検出される温度Tcが高温になる程、電流制限条件を強く規制つまりdTc/dtの上限値を強く規制する。
【0043】
インバータ制限手段95は、検出される温度Tcの含まれる前記温度領域の前記電流制限条件に応じてインバータ31に与える電流指令に制限を加える制御を行う。例えば、スイッチング周期に対するパルスのON時間を表す前記デューティ比を、設定されたデューティ比よりも小さくして電圧実効値を低くしたり、スイッチング周期を同一周期にしておいて不等幅パルスを発生させることで、インバータ31に与える電流指令に制限を加え得る。このようにインバータ31に与える電流指令に制限を加えることで、インバータ31を木目細かく温度管理することができ、インバータ31の特性変化、損傷、インバータ寿命の低下を防止することができる。これによりモータコイル78の絶縁性能の劣化を防止でき、モータ6が駆動不能に陥ることを防止できるため、車両の運転が急激に妨げられることを回避することができる。
【0044】
インバータ制限手段95は、温度Tcを時間tで微分したインバータ温度の時間変化dTc/dtが正のとき、区分された各温度領域に応じて、インバータ温度の時間変化dTc/dtの許容上限を変更するものとしている。このように区分された各温度領域に応じて、インバータ温度の時間変化dTc/dtの許容上限を変更することで、インバータ31を木目細かく温度管理することができる。例えば、検出される温度Tcが比較的低温のときは、温度Tcが変化する度合いが急峻であったとしても、インバータ31が直ぐに損傷等することはないため、dTc/dtの許容上限を緩和する。逆に、検出される温度Tcが高温になる程、温度Tcが変化する度合いが緩やかであっても、インバータ31の特性変化、損傷、インバータ寿命の低下に繋がる。したがって、区分された各温度領域に応じて、インバータ温度の時間変化dTc/dtの許容上限を変更し、インバータ31を温度管理することで、インバータ31の損傷等を防止することができる。
【0045】
また、dTc/dtの許容上限を、検出される温度Tcの含まれる各温度領域毎に低温側から高温側に向けて小さくなるように設定することで、インバータ31を容易に且つ精度良く温度管理することができる。すなわち、インバータ温度Tcが低いときには、半導体スイッチング素子31aが直ぐに損傷等することはないため、温度検出の応答性が悪い場合であっても温度Tcが急峻に上昇することを許容できる。インバータ温度Tcが高いときには、半導体スイッチング素子31aの損傷等が起き易いため、温度Tcが急激に上昇しないように強く規制する。各閾値で区分される温度領域をより細かく区分し、dTc/dtの許容上限を高温側に向けて直線的に減少させることも可能である。この場合、インバータ31の温度管理をさらに木目細かく行うことができる。
【0046】
インバータ制限手段95を、インバータ装置22のモータコントロール部29に設け、モータ6に近い部位で検出温度の判定等を行えるため、配線上有利であり、ECU21に設ける場合に比べて迅速な制御が行え、車両走行上の問題を迅速に回避することができる。また高機能化により煩雑化が進むECU21の負担を軽減することができる。
ECU21は、車両全般を統括して制御する装置であるため、インバータ装置22におけるインバータ制御手段95により、インバータ31の温度異常を検出したとき、ECU21にインバータ31の異常報告を出力することで、ECU21により車両全体の適切な制御が行える。また、ECU21はインバータ装置22に駆動の指令を与える上位制御手段であり、インバータ装置22による応急的な制御の後、ECU21により、その後の駆動のより適切な制御を行うことも可能となる。
【0047】
図7に一例を示すように、インホイールモータ駆動装置8は、車輪用軸受4とモータ6との間に減速機7を介在させ、車輪用軸受4で支持される駆動輪である車輪2(図2)のハブとモータ6(図7)の回転出力軸74とを同軸上で連結してある。減速機7は、減速比が1/4以上のものであるのが良い。この減速機7は、サイクロイド減速機であって、モータ6の回転出力軸74に同軸に連結される回転入力軸82に偏心部82a,82bを形成し、偏心部82a,82bにそれぞれ軸受85を介して曲線板84a,84bを装着し、曲線板84a,84bの偏心運動を車輪用軸受4へ回転運動として伝達する構成である。なお、この明細書において、車両に取り付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0048】
車輪用軸受4は、内周に複列の転走面53を形成した外方部材51と、これら各転走面53に対向する転走面54を外周に形成した内方部材52と、これら外方部材51および内方部材52の転走面53,54間に介在した複列の転動体55とで構成される。内方部材52は、駆動輪を取り付けるハブを兼用する。この車輪用軸受4は、複列のアンギュラ玉軸受とされていて、転動体55はボールからなり、各列毎に保持器56で保持されている。上記転走面53,54は断面円弧状であり、各転走面53,54は接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材51と内方部材52との間の軸受空間のアウトボード側端は、シール部材57でシールされている。
【0049】
外方部材51は静止側軌道輪となるものであって、減速機7のアウトボード側のハウジング83bに取り付けるフランジ51aを有し、全体が一体の部品とされている。フランジ51aには、周方向の複数箇所にボルト挿通孔64が設けられている。また、ハウジング83bには,ボルト挿通孔64に対応する位置に、内周にねじが切られたボルト螺着孔94が設けられている。ボルト挿通孔94に挿通した取付ボルト65をボルト螺着孔94に螺着させることにより、外方部材51がハウジング83bに取り付けられる。
【0050】
内方部材52は回転側軌道輪となるものであって、車輪取付用のハブフランジ59aを有するアウトボード側材59と、このアウトボード側材59の内周にアウトボード側が嵌合して加締めによってアウトボード側材59に一体化されたインボード側材60とでなる。これらアウトボード側材59およびインボード側材60に、前記各列の転走面54が形成されている。インボード側材60の中心には貫通孔61が設けられている。ハブフランジ59aには、周方向複数箇所にハブボルト66の圧入孔67が設けられている。アウトボード側材59のハブフランジ59aの根元部付近には、駆動輪および制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部63がアウトボード側に突出している。このパイロット部63の内周には、前記貫通孔61のアウトボード側端を塞ぐキャップ68が取り付けられている。
【0051】
モータ6は、円筒状のモータハウジング72に固定したモータステータ73と、回転出力軸74に取り付けたモータロータ75との間にラジアルギャップを設けたラジアルギャップ型のIPMモータ(すなわち埋込磁石型同期モータ)である。回転出力軸74は、減速機7のインボード側のハウジング83aの筒部に2つの軸受76で片持ち支持されている。
【0052】
図8は、モータの断面図(図7のVIII-VIII 断面)を示す。モータ6のロータ75は、軟質磁性材料からなるコア部79と、このコア部79に内蔵される永久磁石80から構成される。永久磁石80は、隣り合う2つの永久磁石がロータコア部79内の同一円周上で断面ハ字状に向き合うように配列される。永久磁石80にはネオジウム系磁石が用いられている。ステータ73は軟質磁性材料からなるコア部77とコイル78で構成される。コア部77は外周面が断面円形とされたリング状で、その内周面に内径側に突出する複数のティース77aが円周方向に並んで形成されている。コイル78は、ステータコア部77の前記各ティース77aに巻回されている。
【0053】
図7に示すように、モータ6には、モータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度を検出する角度センサ36が設けられる。角度センサ36は、モータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度を表す信号を検出して出力する角度センサ本体70と、この角度センサ本体70の出力する信号から角度を演算する角度演算回路71とを有する。角度センサ本体70は、回転出力軸74の外周面に設けられる被検出部70aと、モータハウジング72に設けられ前記被検出部70aに例えば径方向に対向して近接配置される検出部70bとでなる。被検出部70aと検出部70bは軸方向に対向して近接配置されるものであっても良い。角度センサ36はレゾルバであっても良い。このモータ6では、その効率を最大にするため、角度センサ36の検出するモータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度に基づき、モータステータ73のコイル78へ流す交流電流の各波の各相の印加タイミングを、モータコントール部29のモータ駆動制御部33によってコントロールするようにされている。
なお、インホイールモータ駆動装置8のモータ電流の配線や各種センサ系,指令系の配線は、モータハウジング72等に設けられたコネクタ99により纏めて行われる。
【0054】
減速機7は、上記したようにサイクロイド減速機であり、図9のように外形がなだらかな波状のトロコイド曲線で形成された2枚の曲線板84a,84bが、それぞれ軸受85を介して回転入力軸82の各偏心部82a,82bに装着してある。これら各曲線板84a,84bの偏心運動を外周側で案内する複数の外ピン86を、それぞれハウジング83bに差し渡して設け、内方部材2のインボード側材60に取り付けた複数の内ピン88を、各曲線板84a,84bの内部に設けられた複数の円形の貫通孔89に挿入状態に係合させてある。回転入力軸82は、モータ6の回転出力軸74とスプライン結合されて一体に回転する。なお、回転入力軸82はインボード側のハウジング83aと内方部材52のインボード側材60の内径面とに2つの軸受90で両持ち支持されている。
【0055】
モータ6の回転出力軸74が回転すると、これと一体回転する回転入力軸82に取り付けられた各曲線板84a,84bが偏心運動を行う。この各曲線板84a,84bの偏心運動が、内ピン88と貫通孔89との係合によって、内方部材52に回転運動として伝達される。回転出力軸74の回転に対して内方部材52の回転は減速されたものとなる。例えば、1段のサイクロイド減速機で1/10以上の減速比を得ることができる。
【0056】
前記2枚の曲線板84a,84bは、互いに偏心運動が打ち消されるように180°位相をずらして回転入力軸82の各偏心部82a,82bに装着され、各偏心部82a,82bの両側には、各曲線板84a,84bの偏心運動による振動を打ち消すように、各偏心部82a,82bの偏心方向と逆方向へ偏心させたカウンターウエイト91が装着されている。
【0057】
図10に拡大して示すように、前記各外ピン86と内ピン88には軸受92,93が装着され、これらの軸受92,93の外輪92a,93aが、それぞれ各曲線板84a,84bの外周と各貫通孔89の内周とに転接するようになっている。したがって、外ピン86と各曲線板84a,84bの外周との接触抵抗、および内ピン88と各貫通孔89の内周との接触抵抗を低減し、各曲線板84a,84bの偏心運動をスムーズに内方部材52に回転運動として伝達することができる。
【0058】
図7において、このインホイールモータ駆動装置8の車輪用軸受4は、減速機7のハウジング83bまたはモータ6のハウジング72の外周部で、ナックル等の懸架装置(図示せず)を介して車体に固定される。
【0059】
インホイールモータ駆動装置8の場合、コンパクト化を図る結果、車輪用軸受4、減速機7、およびモータ6は、材料使用量の削減、モータ6の高速回転化を伴うため、これらの信頼性確保が重要な課題となる。特に、インバータ31の温度を検出し、インバータ31の過熱による異常、例えば、半導体スイッチング素子31aが過熱することに起因する熱暴走等を常時監視することで、インバータ31に与える電流指令を適切に制限する制御を行うことができる。
【0060】
インホイールモータ駆動装置8における減速機7をサイクロイド減速機として減速比を例えば1/4以上に高くした場合、モータ6の小型化を図り、装置のコンパクト化を図ることができる。減速比を高くした場合、モータ6は高速回転するものが用いられる。モータ6が高速回転状態のとき、インバータ31の特性変化や損傷を防止し、モータ駆動の制御特性の変化や、モータ駆動の不能を防止できるため、車両が急激に走行不能に陥ることを回避することができる。
図11に示すように、インバータ制限手段95を、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECU21に設けても良い。
【符号の説明】
【0061】
2…車輪
4…車輪用軸受
6…モータ
7…減速機
8…インホイールモータ駆動装置
21…ECU
39…判定部
40…電流制御部
41…異常報告手段
95…インバータ制限手段
Sa…温度センサ
U1…制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を駆動するモータを有する電気自動車の前記モータを制御する制御装置であって、
前記電気自動車は、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECUと、バッテリの直流電力を前記モータの駆動に用いる交流電力に変換するインバータを含むパワー回路部および前記ECUの制御に従って少なくとも前記パワー回路部を制御するモータコントロール部を有するインバータ装置とを備え、
前記インバータに、このインバータの温度Tcを検出する温度センサを設け、この温度センサで検出される温度Tcに対し複数の閾値が設定され、各閾値で区分される温度領域毎に、互いに異なる電流制限条件が設定され、検出される温度Tcの含まれる前記温度領域の前記電流制限条件に応じてインバータに与える電流指令に制限を加えるインバータ制限手段を設けたことを特徴とするモータの制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記インバータ制限手段は、温度Tcを時間tで微分したインバータ温度の時間変化dTc/dtが正のとき、区分された各温度領域に応じて、インバータ温度の時間変化dTc/dtの許容上限を変更するものとしたモータの制御装置。
【請求項3】
請求項2において、前記インバータ制限手段は、温度Tcを時間tで微分したインバータ温度の時間変化dTc/dtの許容上限を、検出される温度Tcの含まれる各温度領域毎に低温側から高温側に向けて小さくなるように設定したモータの制御装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3において、前記インバータ制限手段は、モータの電流値を制御することにより、前記dTc/dtを制限するモータの制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記インバータ制限手段は、温度センサで検出される温度Tcが各閾値を超えるか否かを判定する判定部を有し、検出される温度Tcが複数の閾値のうち定められた閾値を超えたと判定部で判定されたとき、ECUにインバータの異常報告を出力する異常報告手段を設けたモータの制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記モータは、前記電気自動車の車輪を個別に駆動するモータであるモータの制御装置。
【請求項7】
請求項6において、前記モータの一部または全体が車輪内に配置されるインホイールモータ駆動装置を構成するモータの制御装置。
【請求項8】
請求項7において、前記インホイールモータ駆動装置は、前記モータと車輪用軸受と減速機とを含むモータの制御装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記モータの回転を減速する減速機を備え、この減速機は、1/4以上の高減速比を有するサイクロイド減速機であるモータの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−110926(P2013−110926A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256140(P2011−256140)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】