説明

モータドライブ制御装置、モータドライブ制御方法

【課題】 モータドライブ装置の移動子の位置情報の再現性を維持しつつ、速度リップルを低減することができるモータドライブ制御装置、モータドライブ制御方法を提供する。
【解決手段】 モータドライブ装置における移動子より出力される位相のずれた2つの正弦波状信号に基づくリサージュ曲線に近似する楕円を示す楕円パラメータを算出する楕円算出部と、前記楕円パラメータにより示される楕円が真円となるように前記2つの正弦波状信号を補正する補正部と、前記補正された2つの正弦波状信号に基づくリサージュ曲線を前記移動子の移動速度を示す速度情報に変換する変換部と、前記速度情報とに基づいて、前記モータドライブ装置を制御する制御部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータドライブ装置の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固定子と移動子を有するモータドライブ装置において、移動子の位置情報を検出する技術として、レゾルバより得られるSIN信号とCOS信号を用いる技術が知られている。この技術において、位置信号の精度は、SIN信号及びCOS信号に基づくリサージュの真円に対する近似度に依存する。従って、移動子の位置及び速度精度は、レゾルバより得られるSIN信号及びCOS信号に正弦と余弦の関係が保たれること、また、これらの信号が波形として安定していることに依存する。
【0003】
上述した位置情報は、平面モータに適用した場合、特にその精度の維持が困難となる。ここで、平面モータについて説明する。図12は、従来の平面モータを示す図である。図12に示すように、平面モータ9は、固定子としてのプラテン91と移動子としてのスライダ92を備える。スライダ92は複数の磁極を有し、プラテン91、スライダ92の複数の磁極のそれぞれは、スライダ92の移動方向に対して直角方向に溝と歯を有する。この平面モータ9において、ある歯から隣の歯までの距離、つまり歯と隣り合う溝との間隔を合わせた距離をピッチと呼び、プラテン91の歯からスライダ92の歯までの距離をギャップと呼ぶ。このような平面モータ9において、プラテン91の歯のピッチは、加工精度、面の粗さ、そりなどに依存する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−112862号公報
【特許文献2】特開2006−112859号公報
【特許文献3】特開2006−90741号公報
【特許文献4】特開2006−90738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のことから、プラテン91の歯のピッチが場所によって異なる場合、レゾルバからの信号はその影響を受けてしまうという問題が生じる。スライダ92の制御は、レゾルバからの信号に基づいてなされているため、プラテン91上のスライダ92の位置によっては、リサージュが楕円性質や高調波を含む波形になる。このことは、位置情報に基づく速度情報におけるリップル(速度リップル)が生じることを意味する。また、上述した速度リップルを低減させるためにリアルタイムに位置情報に補正をかける場合、位置情報の再現性が低減するという問題がある。これはスライダ92が静止する直前の動作方向により補正値が異なることに起因する。
【0006】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、モータドライブ装置の移動子の位置情報の再現性を維持しつつ、速度リップルを低減することができるモータドライブ制御装置、モータドライブ制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様は、モータドライブ装置における移動子より出力される位相のずれた2つの正弦波状信号に基づくリサージュ曲線に近似する楕円を示す楕円パラメータを算出する楕円算出部と、前記楕円パラメータにより示される楕円
が真円となるように前記2つの正弦波状信号を補正する補正部と、前記補正された2つの正弦波状信号に基づくリサージュ曲線を前記移動子の移動速度を示す速度情報に変換する変換部と、前記速度情報とに基づいて、前記モータドライブ装置を制御する制御部とを備える。
【0008】
また、本発明の他の一態様は、モータドライブ装置における移動子より出力される位相のずれた2つの正弦波状信号に基づくリサージュ曲線に近似する楕円を示す楕円パラメータを算出し、前記楕円パラメータにより示される楕円が真円となるように前記2つの正弦波状信号を補正し、補正した2つの正弦波状信号に基づくリサージュ曲線を前記移動子の移動速度を示す速度情報に変換し、前記速度情報とに基づいて、前記モータドライブ装置を制御する。
【発明の効果】
【0009】
モータドライブ装置の移動子の位置情報の再現性を維持しつつ、速度リップルを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施の形態に係るモータドライブシステムを示す図である。
【図2】スライダの構成を示す図である。
【図3】制御装置のハードウェア構成を示す図である。
【図4】制御装置の機能構成を示す図である。
【図5】制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図6】リサージュ曲線を示す図である。
【図7】楕円近似式を示す図である。
【図8】展開された楕円近似式を示す図である。
【図9】未知数A〜Eを求めるための行列を示す図である。
【図10】変位信号を示す図である。
【図11】変位信号の式を示す図である。
【図12】従来の平面モータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図を用いて説明する。
【0012】
まず、本実施の形態に係るモータドライブシステムの構成について説明する。図1は、本実施の形態に係るモータドライブシステムの構成を示す図である。
【0013】
図1に示すように、本実施の形態に係るモータドライブシステム1は、モータドライブ装置としての平面モータ2、この平面モータ2に接続され、平面モータ2を制御する制御装置3(モータドライブ制御装置)を備える。平面モータ2は、固定子としてのプラテン21、移動子としてのスライダ22を備える。
【0014】
次に、スライダの構成について説明する。図2は、スライダの構成を示す図である。
【0015】
図2に示すように、スライダ22は、コイルが巻かれた複数の突極221と、エンコーダとしてのレゾルバ222を備える。レゾルバ222は、突極221のコイルをSIN相及びCOS相の交流信号で励磁し、これに基づくSIN信号及びCOS信号を示す変位情報を制御装置3に対して出力する。また、スライダ22は、図示しないパワーアンプを備える。このパワーアンプは、制御装置3から送出される制御情報に基づく制御信号を増幅し、駆動信号としてスライダ22に伝える。
【0016】
次に、制御装置のハードウェア構成及び機能構成について説明する。図3は、本制御装置のハードウェア構成を示す図である。また、図4は、制御装置の機能構成を示す図である。
【0017】
図3に示すように、制御装置3は、ハードウェアとして、CPU(Central Processing Unit)31、メモリ32、スライダ22との情報の送受を仲介する外部I/F33を備える。また、図4に示すように、制御装置3は、機能として、変位情報取得部41、リサージュ演算部42、補正部43(楕円算出部、補正部)、速度変換部44(変換部)、位置変換部45、制御部46を備える。これらの機能は、CPU31とメモリ32とが協働することにより実現されるものとする。
【0018】
変位情報取得部41は、外部I/F33を介して、位相のずれた2つの信号としてのSIN信号及びCOS信号の実測値を示す変位情報をレゾルバ222より取得する。リサージュ演算部42は、変位情報取得部41により取得された変位情報に基づいて、リサージュ演算を行う。補正部43は、リサージュ演算により演算されたリサージュ曲線に近似する楕円に基づいて、SIN信号及びCOS信号の補正を行う。速度変換部44は、補正部43により補正されたSIN信号及びCOS信号に基づくリサージュ曲線を速度情報に変換する。位置変換部45は、リサージュ演算により演算されたリサージュ曲線を位置情報に変換する。制御部46は、外部I/F33を介して、速度変換部44により変換された速度情報と、位置変換部45により変換された位置情報とに基づく制御情報を、スライダ22へ送出する。
【0019】
次に、制御装置の動作について説明する。図5は、制御装置の動作を示すフローチャートである。また、図6は、リサージュ曲線を示す図である。また、図7は、楕円近似式を示す図である。また、図8は、展開された楕円近似式を示す図である。また、図9は、A〜Eを求めるための行列を示す図である。また、図10は、変位信号を示す図である。また、図11は、変位信号の式を示す図である。
【0020】
まず、変位情報取得部41は、レゾルバ222より、変位情報を取得する(S101)。
【0021】
次に、リサージュ演算部42は、変位情報取得部41により取得された変位情報に基づいて、図6に示すようなリサージュ曲線ab’を算出する(S102)。図6において、横軸はSIN信号出力、縦軸はCOS信号出力を示す。また、リサージュ曲線abは補正目標とする真円であるリサージュ曲線を示し、リサージュ曲線ab’は変位情報に基づくリサージュ曲線を示す。
【0022】
次に、位置変換部45は、リサージュ演算部42により算出されたリサージュ曲線を、位相、つまり位置情報に変換する(S103)。
【0023】
次に、補正部43は、楕円近似式により係数を算出する(S104)。以下、この係数の具体的な算出方法について説明する。まず、図6に示すように、楕円の中心を(X0,Y0)とし、横軸方向の長さをc、縦軸方向の長さをd、中心と交差する横軸に対する半時計周り方向の傾きをθとした場合、楕円近似式は図7のようになる。この楕円近似式を展開し、未知数部分を変数A,B,C,D,Eに置き換えると、式は図8のようになる。
【0024】
この式の2乗の和が最小となるようなA〜Eの値を求めるため、A〜Eで偏微分し、A〜Eを求めるための行列で表すと、式は図9のようになる。図9に示す式におけるX及びYに変位情報における実測値のそれぞれを代入することで、A〜Eを求めることができる。本実施の形態においては、A=0.578827、B=2.777778、C=−0.
05788、D=−0.55556、E=−0.94207とする。
【0025】
次に、補正部43は、係数に基づいて、リサージュ曲線ab’としての楕円のOFFSET(X0,Y0)、振幅比(d/c)、位相差(θ)を算出する(S105)。本実施の形態においては、OFFSETを0.1、位相差を0.174533、振幅比を0.6とする。この場合、変位信号は、図10に示すような波形a,b’となる。図10において、aはSIN信号、b及びb’はCOS信号を示す。ここで、a、bは理想的な変位信号を示す。ここで理想的な変位信号とは、リサージュ演算を実行した場合に、図6におけるリサージュ曲線abのような真円となる波形を持つSIN信号またはCOS信号を示す。また、b’は本実施の形態におけるCOS信号を示す。ここで、b’は、プラテン21の変形、交差等により歪みが生じたCOS信号とする。なお、説明を容易にするため、本実施の形態に係るSIN信号には歪みが生じていないものとする。これらは、図11のような式により示される。
【0026】
次に、補正部43は、算出したOFFSET(X0,Y0)、振幅比(d/c)、位相差(θ)に基づいて、変位信号を補正する(S106)。本実施の形態においては、COS信号のみが歪んでいるため、OFFSET(X0,Y0)、振幅比(d/c)、位相差(θ)に基づいて、COS信号を補正することにより、図6に示す楕円を描くリサージュ曲線ab’は、真円を描くリサージュ曲線abとなる。
【0027】
次に速度変換部k44は、補正部43により補正されたリサージュ曲線abを位相情報に変換し(S107)、これを更に速度情報に変換する(S108)。
【0028】
次に、制御部46は、制御目標を示す目標値、位置情報及び速度情報に基づいて、スライダ22に対して制御情報を出力することにより、平面モータ2をフィードバック制御する(S109)。
【0029】
上述したように、速度情報が基づく変位信号にのみ、楕円が真円となるような楕円補正を行うことによって、位置再現性を確保しつつ、速度リップルを低減させることができる。また、本実施の形態において、モータドライブ装置を平面モータとしたが、本発明は回転モータに対しても適用可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 モータドライブシステム、2 平面モータ、3 モータドライブ制御装置、21 プラテン、22 スライダ、221 突極、222 レゾルバ、31 CPU、32 メモリ、33 外部I/F、41 変位情報取得部、42 リサージュ演算部、43 補正部、44 速度変換部、45 位置変換部、46 制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータドライブ装置における移動子より出力される位相のずれた2つの正弦波状信号に基づくリサージュ曲線に近似する楕円を示す楕円パラメータを算出する楕円算出部と、
前記楕円パラメータにより示される楕円が真円となるように前記2つの正弦波状信号を補正する補正部と、
前記補正された2つの正弦波状信号に基づくリサージュ曲線を前記移動子の移動速度を示す速度情報に変換する変換部と、
前記速度情報とに基づいて、前記モータドライブ装置を制御する制御部と
を備えるモータドライブ制御装置。
【請求項2】
前記モータドライブ装置は、平面モータであることを特徴とする請求項1に記載のモータドライブ制御装置。
【請求項3】
モータドライブ装置における移動子より出力される位相のずれた2つの正弦波状信号に基づくリサージュ曲線に近似する楕円を示す楕円パラメータを算出し、前記楕円パラメータにより示される楕円が真円となるように前記2つの正弦波状信号を補正し、補正した2つの正弦波状信号に基づくリサージュ曲線を前記移動子の移動速度を示す速度情報に変換し、前記速度情報とに基づいて、前記モータドライブ装置を制御するモータドライブ制御方法。
【請求項4】
前記モータドライブ装置は、平面モータであることを特徴とする請求項3に記載のモータドライブ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−125073(P2011−125073A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278189(P2009−278189)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】