説明

ラクチド回収装置および回収方法

【課題】ポリ乳酸またはポリ乳酸を含有する熱可塑性樹脂を熱分解させて発生するラクチドのラセミ化を抑制することにより、ラクチドの回収量を増大させる。
【解決手段】シリンダー1内に2本のスクリュが配備された二軸スクリュ押出機Eに、供給口2が設けられた上流側からダイ21が設けられた下流側へ向かって順次、可塑化ゾーン4、第1分解ゾーン6a、第1シール部5a、第1減圧ゾーン7a、第2シール部5b、第2分解ゾーン6b、第2減圧ゾーン7b、第3シール部5c、第3分解ゾーン6c、第3減圧ゾーン7cを配備する。第1減圧ゾーン7aの第1ベント口17a、第2減圧ゾーン7bの第2ベント口17bおよび第3減圧ゾーン7cの第3ベント口17cは配管8を介して冷却トラップ9に通じており、真空ポンプ13により減圧状態にできる。第1分解ゾーン6aの長さはスクリュの公称径の3倍以上10倍未満にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸またはポリ乳酸を含有する熱可塑性樹脂に分解触媒を添加してオリゴマーであるラクチドに分解し、ラクチドのラセミ化を抑制しつつ、できるだけ多量のLLラクチドを回収するためのラクチド回収装置および回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術について以下に説明する。
【0003】
特開平9−241417号公報には、アルコールと分解触媒の存在下でポリ乳酸を加熱することにより、ポリ乳酸を加アルコール分解させて生成するラクチドを回収する方法が記載されている。特開2005−213302号公報には、プラスチックを溶媒中で酸化剤および触媒と反応させてポリマーに分解し、リサイクル可能なポリマーとして回収する方法が開示されている。
【0004】
特許第2821986号公報には、ポリ乳酸製品をスクリュ式押出機内において水および触媒の存在下、200〜400°Cに加熱してラクチドに分解させ、そのラクチドをさらにアルコール内に通して不純物を除去して回収する方法が記載されている。
【特許文献1】特開平9−241417号公報
【特許文献2】特許第2821986号公報
【特許文献3】特開2005−213302号公報
【特許文献4】WO2003/091238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特開平9−241417号公報に記載されている方法では、ラクチドを分解させるために長時間を要するため、回収の効率が極めて悪い。また、触媒として使用するスズ系触媒は有機化すると環境ホルモンとして作用する恐れがあり、アルコール類は可燃物のため、装置を防爆仕様にする必要もある。特許第2821986号に記載された技術は、シンプルな方法ではあるが、ラクチドを効率良く得るためには樹脂温度を高くする必要があり、それに伴ってラセミ化が進行し、ラクチドの回収率が低下するので好ましくない。
【0006】
また、WO2003/091238号公報には、触媒を添加して分解温度を下げると同時に押出機の中で分解を進めてベント口を通じてラクチドを回収する方法が記載されているが、その条件についてはスクリュやシリンダーの温度条件を好適にするように記載されているだけであり、シリンダーの温度設定が高過ぎるとラセミ化が進行し、低すぎると分解があまり進まず、ラクチドの回収率が低くなるという課題が残されている。
【0007】
本発明は上記のような課題を解決するために発明されたものであり、ポリ乳酸またはポリ乳酸を含有する熱可塑性樹脂からラセミ化の進行を抑制して多量のラクチドの回収が可能なラクチド回収装置および回収方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のラクチド回収装置は、ポリ乳酸またはポリ乳酸を含有する熱可塑性樹脂からラクチドを回収するラクチド回収装置であって、温度調節可能なシリンダーと、前記シリンダー内に回転自在に配備された2本のスクリュと、前記2本のスクリュを回転させる回転駆動機構とを有する二軸スクリュ押出機に、供給口が設けられた上流側から吐出口が設けられた下流側に向かって順次、可塑化ゾーン、第1分解ゾーン、第1シール部、第1減圧ゾーン、第2シール部、第2分解ゾーン、第3シール部、第3分解ゾーン、第3減圧ゾーンを配備し、前記第1減圧ゾーンに設けられた第1ベント口、前記第2減圧ゾーンに設けられた第2ベント口、および前記第3減圧ゾーンに設けられた第3ベント口は、真空発生源により真空吸引される冷却トラップに配管を介してそれぞれ接続し、前記第1分解ゾーンの長さが前記スクリュの公称径の3倍以上10倍未満に設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上述のとおり構成されているので、次に記載するような効果を奏する。
【0010】
二軸スクリュ押出機を用い、ポリ乳酸またはポリ乳酸を含む熱可塑性樹脂に分解促進剤を添加して熱分解し、乳酸の環状2量体であるラクチドを回収する。その際に、可塑化ゾーンと第1減圧ゾーンを隔てるシール部と、そのシール部の上流にポリ乳酸の分解ゾーンを設けることにより、ラセミ化の進行が少ないラクチドを多量に回収することが可能となり、ポリ乳酸からLLラクチドを効率良く回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係るラクチドの回収装置および回収方法の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
図1は本発明の一実施形態に係るラクチド回収装置を示す説明図である。
【0013】
図1に示すように、二軸スクリュ押出機Eは、温度調節可能なシリンダー1と、シリンダー1の中空部に回転自在に配備された2本のスクリュ(不図示)と、2本のスクリュを回転させるモーター15および減速機16からなる回転駆動機構14とを備えている。シリンダー1の上流側には供給口2が設けられており、供給口2から下流側へ向かって順次、可塑化ゾーン4、第1分解ゾーン6a、第1シール部5a、第1減圧ゾーン7a、第2シール部5b、第2分解ゾーン6b、第2減圧ゾーン7b、第3シール部5c、第3分解ゾーン6c、第3減圧ゾーン7c、ダイ21が配備されている。
【0014】
第1減圧ゾーン7aの第1ベント口17a、第2減圧ゾーン7bの第2ベント口17および第3減圧ゾーン7cの第3ベント口17cはそれぞれ配管8を介して冷却トラップ9に通じており、冷却トラップ9の冷却塔18を通して真空ポンプ13により真空吸引することにより減圧状態にすることが可能である。
【0015】
ここで、第1シール部5aの上流部であるL/Dが3〜10の領域(Lはスクリュの軸方向の長さ、Dはスクリュの公称径を示す)である第1分解ゾーン6aでポリ乳酸が分解されてラクチドが発生する。発生したラクチドと分解途中のオリゴマー、未分解のポリ乳酸等は、第1シール部5aを乗り越えて減圧状態になっている第1減圧ゾーン7aへ輸送される。すなわち、第1分解ゾーン7aの長さがスクリュの公称径の3倍以上10倍未満に設定されている。
【0016】
第1減圧ゾーン7aでは、減圧によってラクチドの沸点が低下するため、ポリマーやオリゴマーに混入しているラクチドが沸騰し、第1ベント口17aから配管8を通して冷却トラップ9に回収される。そして分解途中のオリゴマー、未分解のポリ乳酸等はさらに下流側にある第2シール部5bを乗り越えて第2分解ゾーン6bにおいて未分解のポリ乳酸の分解が促進されてラクチドが発生すると同時に、分解して気化したラクチド12が第2ベント口17bから配管8を通して冷却トラップ9に回収される。さらに、分解途中のオリゴマー、未分解のポリ乳酸等は第3シール部5cを乗り越えて第3減圧ゾーン7cに入り、その下流にある第3分解ゾーン6cで分解して気化したラクチドが第3ベント口17cから配管8を通して冷却トラップ9に回収される。二軸スクリュ押出機Eの吐出口としてのダイ21から排出されるシール材、未分解のポリ乳酸、ポリ乳酸が含まれている熱可塑性樹脂、分解促進剤は、廃棄物として最終埋め立て処分場に埋め立てたりあるいは燃料として利用することができる。
【0017】
第1減圧ゾーン7aで多量のラクチド12が回収された後の樹脂は、その量が急激に減少し、その分子量も大きく低下する。第1減圧ゾーン7aで回収されきれなかった低分子量のポリ乳酸、未回収のラクチド、分解促進剤、シール材などの熱可塑性樹脂は、第2シール部5bを乗り越えて第2減圧ゾーン7bへ輸送される。第2減圧ゾーン7bでは、第2シール部5bの下流に位置する第2分解ゾーン7bで混練されて分解し、分解に伴って発生したラクチドは第2減圧ゾーン7bの第2ベント口17bから配管8を通して冷却トラップ9に回収される。
【0018】
第2分解ゾーン6bのスクリュ形状は、第1分解ゾーン6aと同様にツイストニーディングディスク(TKD)、順送りニーディングスクリュ(FK)、ニュートラルニーディングスクリュ3枚以上のフライトを持ったTip幅の狭いニーディングディスクが好ましい。また、分解ゾーンの長さは、長すぎるとラセミ化が進行し易くなり、光学純度が低下するため、最適な長さにする必要がある。
【0019】
第2減圧ゾーン7bで回収されきれなかった低分子量のポリ乳酸、未回収のラクチド、分解促進剤、シール材などの熱可塑性樹脂は、第3シール部5cを乗り越えて第3減圧ゾーン7cに移送される。第3減圧ゾーン7cでは、第3シール部5cの下流に位置する第3分解ゾーン7cで混練されて分解し、分解に伴って発生したラクチドは第1、第2減圧ゾーン7a、7bと同様に第3ベント口17cから配管8を通して冷却トラップ9に回収される。
【0020】
第3分解ゾーン7cのスクリュ形状は、第2分解ゾーン7bと同様にラセミ化が進みにくい形状とすることが好ましく、第3分解ゾーンの長さはラセミ化が進みにくい最適な長さにする必要がある。
【0021】
第3減圧ゾーン7cでラクチドが除去された後、ごく少量の未回収の低分子量のポリ乳酸、ごく少量の未回収のラクチド、分解促進剤、シール材などの熱可塑性樹脂は、押出機先端のダイ21から押出機外に排出される。ダイ21の形状は特に限定されないが、排出された物質を冷却して粒状に切断する場合には、冷却や切断が容易なストランド状に成形されるものがよい。また、ホットカッターや水中カッターを接続する場合にはそれらに適したダイを設置することが好ましい。
【0022】
排出された少量の未回収の低分子量のポリ乳酸、ごく少量の未回収のラクチド、分解促進剤、シール材などの熱可塑性樹脂は、そのまま廃棄しても良いし、ストランドバスや冷却コンベアーで冷却された後にストランドカッターで粒状に加工したり、ホットカッターや水中カッターで冷却しながら粒状に切断したりしても良い。分解促進剤やシール材などを再利用する場合は、粒状に加工することが望ましく、また、分解促進剤が水に触れるとその機能が低下する場合は、冷却コンベアー上で乾燥空気や窒素ガスで乾燥後にストランドカッターで切断したり、ホットカッターを使用することが好ましい。
【0023】
また、ダイから排出される物質の粘度が低く、ダイから安定して吐出することができない場合には、ダイの下流側に調圧手段を設置して押出機の外へ排出することが望ましい。調圧手段は押出機内部の圧力を維持できる機構であれば特に制限はなく、例えばボールバルブ、ニードルバルブ、ゲートバルブなど、流路の面積を調整することで圧力を制御するバルブ類や、ギアーポンプ、単軸押出機など、歯車やスクリュの回転速度で圧力を調節する機構でもよい。また、それらを組み合わせて使用してもかまわない。
【0024】
排出された物質は冷却・固化した後、廃棄しても良いし、破砕して触媒回収のプロセスヘ供給しても良い。また、成形が可能であるならば、ストランドバスやコンベアー状で冷却してストランドカッターでペレット状に成形しても良い。
【0025】
本発明において対象となるポリ乳酸は、乳酸発酵によって得られた乳酸からオリゴマーを経てラクチドをつくり、それを開環重合して得られたものでも、乳酸を直接重縮合して得られた物でもよい。また、乳酸は工業的に合成されたものを使用しても良い。
【0026】
また、ポリ乳酸と混合されている熱可塑性樹脂は特に限定されない。熱可塑性樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ABS(アクリルニトリルブタジエンスチレン共重合体)、AS(アクリルニトリルスチレン共重合体)ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィト≒ポリフエニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルフオン、ポリエーテルサルフオン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリイミド、天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、スチレンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等の2種類以上の混合・混練物(エチレンープロピレン共重合体等)、無水マレイン酸グラフトポリプロピレンのようなグラフト重合物などがあげられる。これらの熱可塑性樹脂は単品でも複数種類の混合物でもかまわない。また、未使用の材料でも良いが、使用済みのリサイクル樹脂材料でもかまわない。ただし、ラクチドの回収の際にこれらの共存樹脂が分解する際に生じる物質が、ラクチドと反応したり、あるいはラクチドと減圧沸点が近いものは、ラクチドの回収率が低下するため好ましくない。また、ポリ乳酸の分解条件で分解が進む樹脂は、ラクチドと共にその樹脂の分解物も多量に回収されるため、ラクチドの回収効率が低下してしまうので好ましくない。
【0027】
シール材として使用する樹脂についても特に限定されないが、シール機能を持たせるために使用することから、押出機内を移動する分解中間物質などに比べて粘度の高い樹脂であることが好ましい。ただし、これらの物質と比較して粘度が高すぎると、シール部の機能が強くなりすぎるため、下流側に流れなくなったラクチドの分解物がベント口からあふれ出すため好ましくない。したがって、投入するポリ乳酸またはポリ乳酸を含む熱可塑性樹脂と同等の溶融粘度を持つ樹脂が好ましい。
【0028】
熱可塑性樹脂の例としては上述のとおりである。分解促進剤としては、本発明においてポリ乳酸の分解を促進するもので、かつ/またはより低温でポリ乳酸の分解が開始するものであれば特に限定しない。しかし、ラセミ化を促進し、得られるラクチドの光学純度を著しく低下させるものは好ましくない。分解促進剤の例としては、塩化第一スズ、酸化スズ、オクチル酸スズ、酸化ジブチルスズ、ゲルマニウムテトラェトキシド、チタンテトラブトキシド、硫酸マンガンアンモニウム、酸化アンチモン、酢酸マンガン、アセトアセテルアルミニウム、酢酸アルミニウム、ジェテル亜鉛等のポリ乳酸の重合触媒を上げることができる。
【0029】
また、WO2003/091238号公報によると、ラセミ化を抑えて分解させることができる触媒として、アルカリ土類金属およびその化合物が例示されており、好適に用いられるアルカリ土類金属の化合物として、カルシウムの化合物およびマグネシウムの化合物であるのがよいとされている。好適に用いられるアルカリ土類金属の化合物の具体的な例としては、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、水素化カルシウムなどのカルシウム化合物類;炭酸マグネシウム、重炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水素化マグネシウムなどのマグネシウム化合物類;カルシウムとマグネシウムの複合金属化合物類;並びに上記カルシウム化合物類およびマグネシウム化合物類を少なくとも10重量%以上含有する複合化合物などが挙げられている。また、これらのアルカリ土類金属化合物が2種以上混合して用いることもできるとしている。
【0030】
これらの材料は、あらかじめ混合しておいて、ホッパーから一括投入しても良いし、それぞれ別々のフィーダーで計量しながらホッパーに供給しても良い。また、分解促進剤は、一般に粒径が小さく表面積が大きいものほど添加効果が高くなることから、凝集体が形成するのを避けるため、樹脂原料を溶解させた後にサイドフィーダーなどを用いて添加する方法を用いる方が好ましい。また、分解促進剤の添加量が少ない場合は、フィーダーからの供給が不安定になるので、あらかじめ樹脂と均一に混合しておいた物をホッパーから一括投入する方が好ましい。
【0031】
可塑化され、分解促進剤とも均一に混合された原料は、シール部のスクリュでせき止められた状態でしばらくの間、分解のための熱をシリンダーから受け取る。分解ゾーンのスクリュ形状は、ツイストニーディングディスク(TKD)、順送りニーディングスクリュ(FK)、ニュートラルニーディングスクリュ(CK)、逆送りニーディングスクリュ(BK)など、シリンダーから効率良く熱を受け取ることができ、かつ強い剪断がかからないものであれば特に限定されないが、不連続のフライトを持ったスクリュが、0.5Dおよび/または1.0Dの長さの中に3枚以上のフライトを持ったTip幅の狭いニーディングディスクが好ましい。また、分解ゾーンの長さは、L/Dが10より長くなるとラセミ化が進行し易くなり、光学純度が低下するし、L/Dが3よりも短くなるとラクチドヘの分解が進まないため、第1ベント口からのラクチド回収量が少なくなるため、最適な長さにする必要がある。
【0032】
各シール部のスクリュは溶融樹脂をせき止めることができるならば特に限定はされないが、逆フライトスクリュやシールリングなどが好ましい。
【0033】
シール部を乗り越えた樹脂やラクチドなどは、減圧ゾーンに輸送される。減圧ゾーンのスクリュは、樹脂が薄膜化して表面積を増やし、脱揮効率を向上させるためには、リードの大きいフルフライトスクリュが好ましい。しかし、フルフライトスクリュは輸送能力が高く、減圧環境下に滞在する時間が著しく短くなるため、Tip幅が狭く、剪断のかかりにくい0.5Dの順ニーディングを連続的に配置した箇所を設けることが好ましい。
【0034】
さらに、第1減圧ゾーンでは、分解に伴って発生するラクチド量が多いため、回収のためのベント口でのガス線速度が上昇し、分解物などの飛沫を同伴し、配管類の閉塞につながる可能性があるため、開口面積の大きいロングベントを使用することが好ましい。
【0035】
ベント口から排出されたガス化したラクチドは、ラクチドの融点以上に加熱された配管を通じてラクチド回収用のトラップで凝集・凝固し、回収される。その際、ポリマー配管の温度は内面の温度がラクチドの融点よりも低い場合はラクチドが凝固し、配管が閉塞するので好ましくない。また、温度が高すぎると壁面でラクチドのラセミ化が生じ、得られるラクチドの光学純度が低下するので好ましくない。したがって、配管の内面温度は98〜180°Cが好ましい。
【0036】
また、トラップは、ラクチドが凝集・凝固するものであれば特に限定しない。金属メッシュなどを充填した容器でも良いし、熱交換機で冷却し、液状になったラクチドを容器に回収するタイプの物でもよい。ラクチドの減圧沸点と融点が近いため、トラップ内の流雛確保のためには後者のトラップがより好ましい。
【実施例】
【0037】
直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE,日本ポリエチレン(株)製ノバテックUF840)とポリ乳酸(PLLA,三井化学(株)製LACEA H−100)を所定の割合で紙袋に秤取り、十分混合した後、触媒として所定量のMgOを添加し、さらに撹拌して均一化する。
【0038】
所定の温度条件とした二軸スクリュ押出機(日本製鋼所製 TEX30α L/D59.5)に重量フィーダー(日本製鋼所製TSF30)を通して投入し、押出機先端から安定して樹脂が吐出されるようになってからベント口を減圧し、安定化用ラクチド回収装置でラクチドを回収しながら状態を安定化させる。
【0039】
ラクチド回収ルートを切り替えて、10分間、各ベント口から排出されるラクチドを500ml容量のフラスコに回収する。
【0040】
ラクチド回収ルートを再び「安定化用ラクチド回収装置」に切り替え、各500mlフラスコならびに冷却トラップの重量を測定して回収されたラクチド量を把握する。
【0041】
500mlフラスコに回収されたラクチドは冷凍庫に保管し、速やかに評価分析に供試する。
【0042】
ベント口に接続したラクチド回収装置でフラスコ内および冷却トラップ内(ドライアイスで冷却したエタノールを冷媒に使用)に10分間の運転で捕集された液体・固体の重量を秤量し、ラクチド回収量とした。
【0043】
各ベント口に接続したラクチド回収装置でフラスコ内および冷却トラップ内に10分間の運転で捕集された液体・固体の重量を秤量し、10分間に押出機に投入されたポリ乳酸量からラクチドの回収率を計算した。
【0044】
なお、計算式は次の通り。
【0045】
【数1】

【0046】
なお、MgOの含有量は少量のため無視した。また、投入されたPLAは100%ラクチドに分解されると仮定した。
【0047】
ラクチド組成の把握は次の方法で行った。回収された物質中のLLラクチド、DDラクチド、mesoラクチドの割合は、光学カラム:varian社製cyclodextrine−β−236F19キャピラリーカラム(0.25mx50 m)を装着した島津製作所製GC−2014を用い、キャリアーガスとしてヘリウムを、インジェクタおよびカラム温度は,それぞれ220および150°C等温とし、試料約3mgをアセトン1mlに溶解した試料を全量注入して測定を行なった。また、オリゴマーの割合は、回収した物質を重水素クロロホルム(CDC13)に溶解し、JEOL製1H−NMR(INOVA300)を用いて測定し、テトラメチルシランのシグナルを化学シフト∂の基準(Oppm)として、比率を算出した。
【0048】
テストの条件を表1に、各減圧ゾーンで10分間に回収されたラクチド量を表2に、回収されたラクチドの光学異性体組成比率を表3に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
比較例1は、分解ゾーンにL/D3.0、1枚のディスク幅が約0.3Dのツイストニーディングディスクを使用した。ツイストニーディングディスクは通常のニーディングディスクに比べて送り能力が高いため、練り返しが少なく、かつ滞留時間が短かったためにLLラクチドの回収量が少なくなったと考えられる。
【0053】
比較例2は、ポリ乳酸の分解に伴って発生したラクチドを速やかに回収すると、ラセミ化のラセミ化が抑制されるという報告に基づき、分解ゾーンを無くしたスクリュ形状とした。その結果、第1減圧ゾーンから回収されるラクチド量がほとんど無くなり、かつトータルのLLラクチド回収量は減少し、期待されたラセミ化の抑制効果も見られなかった。
【0054】
比較例3は、第1分解ゾーンを第1減圧ゾーン内に設置することにより、可塑化が終了したポリ乳酸を速やかに第1減圧ゾーンに導いた後、滞留時間を長く保ち、分解により発生したラクチドを速やかに回収できるようにした。また、第1減圧ゾーンと第2減圧ゾーン間のシール部を廃止し、広範囲から発生したラクチドを連やかに回収できるようにした。その結果、第1、第2減圧ゾーンにおいてほとんどのラクチドの回収が終了した。
【0055】
実施例1は、第1分解ゾーンにL/D0.5の間に順方向に45度ずつずらした5枚のフライトを持ったニーディングスクリュ(順ニーディングスクリュ)と、L/D0.5の間に90度ずつずらした5枚のフライトを持ったニーディングスクリュ(90度ずらしニーディングスクリュ)と、L/D0.5の間に逆ねじ方向に45度ずつずらした5枚のフライトを持ったニーディングスクリュ(逆ニーディングスクリュ)を連続的に配置し、さらにその組を3回連続して配置した場合の例である。第1減圧ゾーンおよび第2減圧ゾーンからほぼ同じ量のラクチドが回収されたが、LLラクチドの割合が高く、比較例に比べてLLラクチドの回収量の増加が認められた。
【0056】
実施例2は実施例1と同様のスクリュを用い、スクリュ回転数を150rpmから300rpmに変更してラクチドを回収した。その結果、樹脂温度が上昇し、第1減圧ゾーンから回収されるラクチド量が増加した。
【0057】
LLラクチドの含有率が高い第1減圧ゾーンのラクチド回収量が増加したため、トータルのLLラクチドの回収量が増加した。また、せん断力発生の少ないスクリュ形状を用いている為に、実施例1の倍の回転数にもかかわらず、LLラクチドの比率はほとんど変化していない。
【0058】
実施例3は実施例2の第1分解ゾーンのニーディングスクリュ組を7組連続で配備してL/D10,5とし、その分、第2減圧ゾーン、第3減圧ゾーンの長さを短縮して同様にラクチドの回収を行った。その結果、投入したポリ乳酸のほとんどが第1減圧ゾーンからラクチドとして回収された。しかし、ラクチドのラセミ化が進行し、LLラクチドの割合は低かった。そのため、LLラクチドの回収率は実施例1や実施例2に比べて少なくなった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態によるラクチド回収装置を示す説明図である。
【符号の説明】
【0060】
1 シリンダー
2 供給口
3 重量フィーダー
4 可塑化ゾーン
5a 第1シール部
5b 第2シール部
5c 第3シール部
6a 第1分解ゾーン
6b 第2分解ゾーン
6c 第3分解ゾーン
7a 第1減圧ゾーン
7b 第2減圧ゾーン
7c 第3減圧ゾーン
8 配管
9 冷却トラップ
12 ラクチド
13 真空ポンプ
14 回転駆動機構
15 モーター
16 減速機
17a 第1ベント口
17b 第2ベント口
17c 第3ベント口
18 冷却塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸またはポリ乳酸を含有する熱可塑性樹脂からラクチドを回収するラクチド回収装置であって、
温度調節可能なシリンダーと、前記シリンダー内に回転自在に配備された2本のスクリュと、前記2本のスクリュを回転させる回転駆動機構とを有する二軸スクリュ押出機に、
供給口が設けられた上流側から吐出口が設けられた下流側に向かって順次、可塑化ゾーン、第1分解ゾーン、第1シール部、第1減圧ゾーン、第2シール部、第2分解ゾーン、第3シール部、第3分解ゾーン、第3減圧ゾーンを配備し、
前記第1減圧ゾーンに設けられた第1ベント口、前記第2減圧ゾーンに設けられた第2ベント口、および前記第3減圧ゾーンに設けられた第3ベント口は、真空発生源により真空吸引される冷却トラップに配管を介してそれぞれ接続し、
前記第1分解ゾーンの長さが前記スクリュの公称径の3倍以上10倍未満に設定されていることを特徴とするラクチド回収装置。
【請求項2】
前記第1分解ゾーンには、不連続のフライトを有するスクリュが配備されていることを特徴とする請求項1に記載のラクチド回収装置。
【請求項3】
前記第1分解ゾーンには、ニーディングディスクが配備されていることを特徴とする請求項1に記載のラクチド回収装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のラクチド回収装置を用い、ポリ乳酸またはポリ乳酸を含有する熱可塑性樹脂に、分解促進剤を添加して供給し、強い剪断力を加えることなく溶融・分解させて、ラセミ化を抑制しつつラクチドを発生させてラクチドを回収すること、を特徴とするラクチド回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−126490(P2010−126490A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303386(P2008−303386)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【Fターム(参考)】