説明

ラマン及びフォトルミネッセンス分光法

【課題】効率的で質の高い分光システムを提供する。
【解決手段】本発明に係る分光システム100は、試料102から、フォトルミネッセンス波長成分及びラマンシフト成分を含む複数の波長成分を含有する光を受光するように設置されたアパーチャと、前記光の光学経路上に設置され、前記光の前記成分を空間的に分離するように構成された分離素子122と、前記ラマンシフト成分を受光し、当該ラマンシフト成分の強度を示す1つ又は複数の信号を生成するように設置された第1のアレイ検出器131と、前記フォトルミネッセンス波長成分を受光し、当該フォトルミネッセンス波長成分の強度を示す1つ又は複数の信号を生成するように設置された第2のアレイ検出器132とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、分光法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物質の物性を理解することは、様々な用途において重要である。分光技術は、物質についての重要な情報、特に物質の表面又はその近傍の情報を得るために使用することができる。
【0003】
分光技術の1つは、ラマン効果に基づいているラマン分光法である。ラマン効果は、分子分極率aによって決定される、電界Eでの分子変形の結果として生じる。レーザー光は、電界Eを有し、周期的に振動する電磁波と見なすことができる。レーザー光は、試料と相互作用したときに、分子を変形させる双極子モーメントP=a*Eを誘起する。周期的に変形された分子は、固有振動数νでの振動を開始する。振動幅は、核変位(nuclear displacement)として知られている。換言すれば、周波数νの単色レーザー光線は、分子を励起させ、振動双極子に変換させる。
【0004】
もう1つの分光技術は、フォトルミネッセンス(photoluminescence:PL)である。フォトルミネッセンスは、通常はレーザーを使用する光子励起によって生じる光放射である。励起光源の光子のエネルギーは、物質の電子を低エネルギー状態から高エネルギー状態へ励起する。電子は、その後、低エネルギー状態に戻る。各電子は、高エネルギー状態と低エネルギー状態との間のエネルギー差に比例した周波数を有する光子を放出する。フォトルミネッセンス技術は、例えば半導体などの物質の非破壊特性化に使用することができる。フォトルミネッセンス分光法の一般的な利用法の1つは、物質組成を測定することである。これは、光子を生成する特定の遷移に応じて、異なる物質は異なる周波数の光子を放射することを利用している。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
ここで説明するシステム及び技術は、効率的で質の高い分光法を提供する。試料と相互作用した光のラマン及びフォトルミネッセンス波長成分を受信するように設置及び構成されたアレイ検出器を使用した試料の信号走査の過程で、ラマン及びフォトルミネッセンス・スペクトルの両方を得ることができる。
【0006】
一般に、ある態様では、アパーチャ(分光器への光入力ポート)を有する分光システムは、試料から入射されたフォトルミネッセンス波長成分及びラマンシフト成分を含む複数の波長成分を含有する光を受光するように設置される。このシステムは、前記光の光学経路上に設置され、前記光の波長成分を空間的に分離するように構成された分離素子をさらに備える。このシステムは、ラマンシフト成分を受光し、当該ラマンシフト成分の強度を示す1つ又は複数の信号を生成する第1のアレイ検出器と、フォトルミネッセンス成分を受光し、当該フォトルミネッセンス成分の強度を示す1つ又は複数の信号を生成する第2のアレイ検出器とをさらに備える。
【0007】
このシステムは、前記アパーチャからの光を受光し、受光した光を分離素子に向けて反射するように設置された曲面ミラーを備え得る。また、このシステムは、分離素子からの光を受光し、受光した光を第1のアレイ検出器及び第2のアレイ検出器に向けて反射するように設置されたミラーをさらに備え得る。
【0008】
このシステムは、分離素子からの光を受光し、受光した光を第1のアレイ検出器に向けて反射するように設置された第1のミラーと、分離素子からの光を受光し、受光した光を第2のアレイ検出器に向けて反射するように設置された第2のミラーとを備え得る。第1のアレイ検出器は、第1の検出器物質を有する。第2のアレイ検出器は、第1の検出器物質と同一の物質、又は第1の検出器物質とは異なる第2の検出器物質を有する。第1の検出器物質はシリコンを含み得、第2の検出器物質は1電子ボルト以上のバンドギャップを有する物質を含み得る。
【0009】
このシステムは、時間分割ラマン及びPL分光法を実施するように構成され得る。このシステムは、試料に光を断続的に伝達させるための、少なくとも1つの光学チョッパ及びパルスレーザーを備え得る。
【0010】
このシステムは、試料を調査を、複数の励起波長によって行うように構成され得る。このシステムは、試料に光を断続的又は連続的に伝達せるための、複数の波長を含有する光を生成するように構成された光源を備え得る。
【0011】
このシステムは、試料を入射励起光に対して位置合わせするように構成されたステージを備え得る。このシステムは、前記ステージ上に設置された試料を備え得る。
【0012】
一般に、他の態様では、分光システムは、特定の時に、前記試料の領域から、ラマン波長成分を含む複数の波長成分を含有する光を受光するように設置された第1のアパーチャを備え得る。また、このシステムは、特定の時に、前記試料の前記領域から、フォトルミネッセンス波長成分を含む複数の波長成分を含有する光を受光するように設置された第2のアパーチャを備え得る。このシステムは、前記第1のアパーチャを介して受光された前記光の光学経路上に設置され、前記第1のアパーチャを介して受光された前記光の前記ラマン波長成分を空間的に分離するように構成された第1の分離素子を備え得る。また、このシステムは、前記第2のアパーチャを介して受光された前記光の光学経路に設置され、前記第2のアパーチャを介して受光された前記光の前記フォトルミネッセンス波長成分を空間的に分離するように構成された第2の分離素子を備え得る。
【0013】
このシステムは、分離されたラマン波長成分を受光し、当該分離されたラマン波長成分の強度を示す1つ又は複数の信号を生成するように設置された第1のアレイ検出器を備え得る。また、このシステムは、分離されたフォトルミネッセンス波長成分を受光し、当該分離されたフォトルミネッセンス波長成分の強度を示す1つ又は複数の信号を生成するように設置された第2のアレイ検出器を備え得る。
【0014】
このシステムは、前記第1のアパーチャから前記光を受光し、当該光を前記第1の分離素子に向けて反射するように設置された第1の曲面ミラーと、前記第2のアパーチャから前記光を受光し、当該光を前記第2の分離素子に向けて反射するように設置された第2の曲面ミラーとをさらに備え得る。
【0015】
このシステムは、前記第1の分離素子から光を受光し、当該光を前記第1のアレイ検出器に向けて反射するように設置されたミラーをさらに備え得る。前記第1の分離素子は、第1の線幅を有する回折格子であり得、前記第2の分離素子は、前記第1の線幅とは異なる第2の線幅を有する回折格子であり得る。
【0016】
前記第1の分離素子と前記第1のアレイ検出器との間の光学経路の距離は、前記第2の分離素子と前記第2のアレイ検出器との間の光学経路の距離よりも長くあり得る。
【0017】
このシステムは、前記試料に光を断続的に伝達させるための、光学チョッパ及びパルスレーザーの内の少なくとも1つをさらに備え得る。このシステムは、前記試料に光を断続的又は連続的に伝達させるための、複数の波長を含有する光を生成するように構成された光源をさらに備え得る。このシステムは、前記試料を入射励起光に対して位置合わせするように構成されたステージをさらに備え得る。
【0018】
このシステムは、前記第1のアパーチャから受光した前記光をフィルタ処理するために設置された第1の種類のフィルタと、前記第2のアパーチャから受光した前記光をフィルタ処理するために設置された第2の種類のフィルタとをさらに備え得る。前記第1の種類は、ノッチフィルタ及びエッジフィルタから選択され得る。
【0019】
本発明のこれらの及び他の特徴及び利点については、添付図面を参照して行う以下の詳細な説明によって、より明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
ここに説明するシステム及び技術は、優れた材料特性化、及び、効率的で低コストの分光システムを提供する。
【0021】
本発明に係るシステムは、試料と相互作用した光を受光するように構成及び設置された検出器を備えている。試料と相互作用した後の光は、フォトルミネッセンス成分とラマンシフト成分とを含む複数の波長成分を含有する。当該システムが備える1つ又は複数の分離素子は、ビーム位置が前記光の波長成分に対応するように、前記光の前記波長成分を空間的に分離する。前記試料の特定領域のラマンスペクトルを特定の時点に取得できるように、ラマンシフト成分を受光する第1のアレイ検出器が設置される。前記領域及び時点と同一の領域及び時点のフォトルミネッセンス(photoluminescence:PL)成分を取得できるように、PL成分を受光する第2のアレイ検出器が設置される。
【0022】
アレイ検出器を使用することにより、検出器と入射光線とを相対的に走査することなく、波長の関数としての強度を得ることができる。その上、後でデータを相関させる必要がないので、ラマン及びPL分光を同時に行うことができ、試料の異なる領域の特性化をより正確に行うことができる。様々な他の利点は、以下に説明する様々な実施形態を用いて得ることができる。
【0023】
図1は、試料を特性化するためのラマン及びPL測定を同時に行うのに使用される連続波(continuous wave:CW)分光システム100を示す。
【0024】
試料102の特定領域又は試料102の表面全体についての情報を作成するために、入射励起光と試料102との間の相対運動が使用された。図1の例示的な実施形態では、試料102は、試料102を入射光に対して位置合わせさせるステージ101の上に置かれる。ステージ101は、光が、実質的に試料全体を横切って走査すること及び/又は試料102における関心のある1つ又は複数の領域を横切って走査することを可能にする。いくつかの実施形態では、ステージ101は、X及びY方向への移動並びに回転を行う試料台である。
【0025】
図1の実施形態では、入射励起光は、例えば多波長又は単一波長のレーザー源105などの光源によって生成される。生成されたレーザー光線は、レーザー線フィルタ又はビーム調整器によって調整される。
【0026】
ハーフミラー108が、対物レンズ109を経て、光をレーザー源105から試料102へ導く。入射光は、試料102の一部と相互作用する。その後、試料102からの光は、再びハーフミラー108へ伝達される。試料102からの光は、複数の異なる波長成分を含有する(詳細については後述する)。
【0027】
試料102からの光の一部は、ハーフミラー108を経て伝達され、ミラー112に入射される。前記光線は、アパーチャを経てモノクロメーター又は分光器120に伝達される前に、集束レンズ113によって集束され、フィルタ114によってフィルタ処理される。フィルタ114としては、例えば、ラマンエッジフィルタ、ノッチフィルタ、又は他のフィルタがある。当然のことながら、他の多くの実施形態が可能である。例えば、少なくともいくつかの光学調整を、分光器120に一体化された構成要素によって行うこともできる。また、さらなる及び/又は異なる光学調整も同様に行うことができる(例えば、フィルタ、レンズ、調節器、ブロック、又は他の光学調整素子を使用して)。
【0028】
検出装置130において異なる波長を分け隔てることができるように、分光器120は試料102からの光を波長に従って空間的に分離する。図1に示した実施形態では、分光器120は、試料102からの光を例えば回折格子122などの波長分離機構へ方向変更させる、1つ又は複数の曲面集束ミラー121を備えている。
【0029】
分離された光は、検出装置130に向けられるべく、ミラー123に入射される。分光器120内に1つ又は複数のミラーを組み込むことにより、検出装置130での異なる波長成分の空間的分離を向上させるために、光の路長は長くなっていることに留意されたい。
【0030】
図1の実施形態では、検出装置130は、ラマン信号検出器131とPL信号検出器132とを備えている。ラマン信号及びPL信号用の信号検出器を別個に設けることにより、各信号のデータを同時に取得して効率良く処理することができる。
【0031】
検出器131及び132は、例えば電荷結合素子(charge coupled device:CCD)検出器及び/又はフォトダイオードアレイ検出器などのアレイ検出器であり得る。アレイ検出器を備えることは、使用される検出器が当該検出器の領域を分け隔てない従来の分光システム(光電子増倍管のように)に対して利点がある。アレイ検出器を使用することにより、広範囲の波長の光を一度で検出することが可能となるので、検出器を走査させる必要がなくなる。
【0032】
検出器131及び132には、状況(例えば、調査される材料)に応じて、異なる検出器物質が使用される。例えば、シリコンのフォトルミネッセンス・スペクトルを検出するためには、シリコン検出器は不適当である。シリコン検出器は、必要とされる電子正孔対を生成することができないからである。この場合、検出器132には、例えばInGaAs(インジウム・ガリウム・アルセニド)などの非シリコン検出器物質が使用される。同様に、目的とする物質がバンドギャップの広い物質である場合は、シリコン検出器は最良の選択である。検出器131と検出器132は同一の検出器物質を使用する、あるいは、検出器131と検出器132は異なる検出器物質を使用する。
【0033】
検出器130は、プロセッサ140に接続されている。プロセッサ140は、検出器130から分離されている、あるいは、検出器130と少なくとも部分的に一体化されている。プロセッサ140は、検出器132からのPL信号及び検出器131からのラマン信号を受信し、PL信号及びラマン信号のデータを生成する信号処理部を備えている。また、プロセッサ140は、データ及び命令を記憶するためのメモリ、並びに、データ処理部を備えている。前記データ処理部は、PL信号のデータ及びラマン信号のデータを処理し、PL信号のスペクトル情報及びラマン信号のスペクトル情報を作成する。
【0034】
図2は、CWモードで、例えば図1のシステム100などのシステムを使用して取得された、ラマン及びPL信号(任意の強度単位)対波長(ナノメータ)を示す。図2に示すように、ラマン信号のスペクトル特性とPL信号のスペクトル特性との間には、大幅な差異がある。
【0035】
上述したように、ラマン効果では、励起周波数νの単色光が分子を励起して振動双極子に変換する。振動双極子は一般に、次の3つの周波数の光を放射する。
【0036】
[弾性レイリー散乱]
【0037】
ラマン活性モードを持たない分子は、周波数νの光子を吸収する。励起された分子は元の基本振動状態に戻り、吸収された光子と同一の周波数νの光を放射する。自発ラマン散乱の場合、入射光子の大部分はラマン弾性レイリー散乱を受ける(約99.999%)。
【0038】
[ストークスラマン散乱]
【0039】
周波数νの光子は、相互作用時には基本振動状態にあるラマン活性分子によって吸収される。光子のエネルギーの一部は、周波数νのラマン活性モードに変換され、散乱光の周波数はν−νに減少する。
【0040】
[反ストークスラマン散乱]
【0041】
周波数νの光子は、相互作用時には励起振動状態にあるラマン活性分子によって吸収される。励起されたラマン活性モードの過剰エネルギーは放出され、分子は元の基本振動状態に戻り、散乱光の周波数はν+νに増加する。ここでは、「ラマン信号」という用語は、ストークス信号、反ストークス信号、又はその両方を意味する。
【0042】
ラマン信号の検出は、非常に困難である。入射光子の大部分は弾性レイリー散乱し、レイリー散乱光の強度は、ラマン信号(ストークス及び反ストークスラマン散乱)の強度よりも大幅に大きくなる。さらに、ラマン信号とレイリー信号との間の波長の差異は非常に小さい。周波数変化、強度及び半値全幅(full width at half maximum:FWHM)などの要素を正確に測定する目的で、十分な分解能を有するラマン信号を検出するためには、レイリー信号に起因するノイズを減少させる又は除去する必要がある。
【0043】
ストークス及び反ストークス散乱光の検出におけるレイリー散乱の影響を軽減させるのに、様々な異なる技術を用いることができる。ある技術は、分光器の焦点距離を長くして、レイリー波長とストークス波長との空間的分離を十分に大きくすることにより、レイリー信号の効果的な遮断を図っている。特定のプローブ波長及びスペクトログラフ形状について、レイリーピークの空間位置は、分光器120における1つ又は複数の位置で測定することがでる。また、レイリー散乱光が検出されるのを実質的に防止するために、ブロックが設置される。いくつかの実施形態では、ブロックは、レイリー信号とラマン信号との間の空間的分離が最大である、検出器131の近傍に設置される。
【0044】
他の技術では、1つ又はそれ以上のフィルタを使用して、光からレイリー信号を実質的に除去する。例えば、ノッチフィルタ、チューナブルフィルタ、エッジフィルタ、又は他のフィルタを使用することができる。エッジフィルタを使用したある実施形態では、レイリー信号と共に反ストークス信号がフィルタ処理される。しかしながら、多くの用途では、ラマン信号のストークス成分のみを使用する。
【0045】
ラマン分光法における他の問題は、ラマンピークが比較的狭いことである。ラマン信号を適切に特性化するために、ラマン検出器及び分光器は、強度プロフィールを用途に必要とされる正確さで測定できるように構成する必要がある。ラマン信号の検出を向上させるために使用されるある技術では、分光器の焦点距離を長くすることにより、ラマン成分の波長分離を増加させている。
【0046】
上述したように、フォトルミネッセンスは、光子励起によって生じる光放射を意味する。入射光のエネルギーは、前記物質内で、1つ又はそれ以上の電子の低エネルギー状態から高エネルギー状態への電子遷移を引き起こす。前記物質は、高いエネルギー状態から低エネルギー状態への電子遷移の結果として、光を放射する。前記光の測定によって得られるスペクトル特徴により、物質成分等に関する情報が作成される。
【0047】
フォトルミネッセンス信号には、ラマン信号とはまた異なる問題がある。図2に示すように、様々なピークを包含する波長領域は、フォトルミネッセンス信号と比べて比較的大きいので、PL検出器及び分光器は、目的とする様々な波長から信号を受信できるように配置及び構成する必要がある。
【0048】
いくつかの従来のシステムはラマン及びPL分光法を可能にするが、本発明に係るシステム及び技術は、スペクトル情報を得るための効率の向上及びノイズ比が向上した信号を提供する。これらの利点は、統合型のモノクロメーター又は分光器(例えば、図1の分光器120)と、分離された検出素子(例えば、図1の検出装置130の検出器131及び132)とを使用して、或いは、分離された複数の分光器と複数の検出装置(例えば、図6のシステム。詳細については後述する)とを使用して得ることができる。
【0049】
さらなる利点は、レーザー源105が1つ又は複数のレーザーを使用して多波長の光を生成したときに、分光分析を行うことにより得ることができる。図3Aは、シリコン試料における、波長の光浸透深さへの影響を示す。波長が458ナノメートルの光は、前記試料を140ナノメートル浸透する。波長が488ナノメートルの光は、前記試料を240ナノメートル浸透する。波長が515ナノメートルの光は、前記試料を330ナノメートル浸透する。したがって、浸透深さの関数として物質を特性化するために、適切な励起(プローブ)波長を選択する必要がある。
【0050】
図3Bは、3つの異なる波長の、ラマン及びPL信号に対してプロットされた波長に対しての算出された強度を示す。PL信号は、異なる励起波長でプローブされた異なる深さからの合成された信号を反映して変化する。ラマン信号は、異なる励起波長に応じてシフトして、浸透深さを関数とした物質の特性に関する情報を得る。
【0051】
図4A〜4Eは、4つの異なる励起波長(457.9nm、488.0nm、514.5nm、647.1nm)についての、実験的に得られたPLスペクトル及びラマンスペクトルを示す。図4Aは、特性化された試料における、PLスペクトルに対しての波長の全体的な効果は比較的小さいことを示す。図4B〜4Eは、前記試料における、ラマンピークの形状及び高さが大幅に変化したことを示す。例えば、試料の結晶(又は物質)品質の浸透深さの不均一性に応じて、波長が514.5nmの励起波長のピーク高さは、波長が480.0nmの励起波長のピーク高さの約2倍である。より均質な材料では、異なる励起波長についてのラマン信号間の差異は、より少なくなる。
【0052】
1つ又はそれ以上の異なる又はさらなる素子を備えた(あるいは、1つ又はそれ以上の素子を省略した)様々な実施形態を使用することができる。
【0053】
図5は、ラマン及びフォトルミネッセンス(photoluminescence:PL)測定を同時に行うのに使用される連続波分光システム500の実施形態を示す。
【0054】
図5では、分光器520は、PL及びラマン散乱成分の両方を含有する、試料502からの光を調節するための光学素子を備えている。しかし、図1のミラー123のような単一の集束ミラーとは異なり、分光器520は、別個の(分割された)集束ミラー523(1)及び523(2)を含んでいる。図5の実施形態では、集束ミラー523(1)がPL光をPL信号検出機531に導き、集束ミラー523(2)がラマン散乱光をラマン信号検出機532に導く。
【0055】
図5の実施形態は、試料502の1つ又はそれ以上の物質特性を測定するユーザーの能力を高める、PL信号とラマン信号との分離の向上を可能にする。なお、集束ミラー523(1)及び523(2)は同一物のように示されており、検出器531及び532から同様の距離に配置されるように示されているが、集束ミラー523(1)及び523(2)は同一物である又は同様の距離に配置する必要はない。集束ミラー523(1)及び523(2)の形状及び配置は、調査される物質、使用される光の波長、使用される検出器の構造及び位置、又は他のパラメータに基づいて選択される。
【0056】
さらに、分光器520(又は他の分光装置)の1つ又はそれ以上の素子は、移動可能であり得る。例えば、信号の焦点合わせを最適化できるように、回折格子522は回転可能であり得る。さらに(又は代わりに)、ミラー523(1)及び523(2)の一方又は両方は、特定の分光用途に適合させるために、移動可能であり得る。
【0057】
上述した実施形態の統合型の分光器は、コスト及び空間効率の良い分光法を可能にする。一方、いくつかの用途では、分離型の分光器(PL及びラマン信号の波長分離が、少なくとも部分的に、異なる分光器サブシステムで行われる装置)が好ましい。例えば、試料がシリコン試料である用途では、ラマンスペクトル及びPLスペクトルについての関心のある波長の違いは、個々の分光器が十分な利点を発揮するのに十分な量である。関心のあるフォトルミネッセンス波長がスペクトルの赤外領域(約1〜1.4ミクロン)内に存在するように、シリコンのバンドギャップは約1.1eVである。すなわち、フォトルミネッセンス信号の波長及び波長領域は、比較的大きい。対照的に、ラマン散乱光の波長は、励起光の波長に非常に近く、狭い波長領域に及ぶ。
【0058】
図6は、ラマン及びフォトルミネッセンス(photoluminescence:PL)の測定を同時に行うのに使用される、分離型の分光器を備える連続波分光システム600の実施形態を示す。
【0059】
システム600では、試料602からの光は、ハーフミラー608を経て伝達される。前記光は、その後、ローパスフィルタ又はミラー612Bに入射される。前記入射光の一部は、ローパスフィルタ又はミラー612Bを経てミラー612Aへ伝達される。ミラー612Aから反射された光は、レンズ613A及びフィルタ(例えばローパスフィルタなど)614Aを通過した後、アパーチャを通って分光器620Aに入射される。また、前記入射光の一部は、レンズ613B及びラマンエッジフィルタ614Bを通過して、モノクロメーター又は分光器620Bに入射される。
【0060】
分光器620Aでは、光は、曲面集束ミラー621Aによって、例えば回折格子などの分離素子622Aへ反射される。分離素子622Aからの光は、集束ミラー623Aによって、PL信号検出器632Aへ反射される。
【0061】
分光器620Bでは、光は、曲面集束ミラー621Bによって、例えば回折格子などの分離素子622Bへ反射される。分離素子622Bからの光は、集束ミラー623Bによって、PL信号検出器632Bへ反射される。
【0062】
図6の実施形態は、多数の利点を提供することができる。第1に、分光器620A及び620Bを、実施される特定の分光法に合わせて調節することができる。例えば、ラマン信号用には、線密度が高い(例えば、1200mm−1)回折格子を、分離素子622Bとして使用することができる。一方、線密度が低い(例えば、300mm−1又は600mm−1)回折格子が、分離素子622Aとして適切である。さらに、検出器の種類、検出器の位置、素子の種類、及び、素子の位置は、PL又はラマン信号の検出を向上させるために選択することができる。
【0063】
本願発明者は、時間分解分光法が、さらなる多数の利点を提供することを見い出した。そのため、いくつかの実施形態では、光源は、パルス光源であり得る。すなわち、光が試料に連続的ではなく断続的に入射するように、パルスレーザー及び/又は光学チョッパを使用することができる。
【0064】
ピーク位置及び光パルス間の領域のトレースにより、物質均一性、組成及び応力(ラマン信号)、並びに、試料の電子正孔組み換え過程(経路)及び組み換え機構、ドーパントエネルギーレベル、ドーパント種、ドーパント濃度、欠陥レベル、欠陥の種類、物質の品質、及び光学特定(PL信号)についての情報が作成される。
【0065】
図7は、パルスPL及びラマン分後法を実施するためのシステム700の実施形態を示す。図7の実施形態では、光学チョッパ707が、レーザー光源705からの光の光学経路上に配置される。その結果、パルス光が、試料の表面702に入射し、ラマン及びPL信号パルスを生成する。ラマン及びPL信号は、分光器720で分離され、検出装置730で検出される。
【0066】
検出装置730は、プロセッサ740に接続されている。プロセッサ740は、検出器730から分離されている、あるいは、検出器730と少なくとも部分的に一体化されている。プロセッサ740は、検出器732からのPL信号及び検出器731からのラマン信号を受信し、PL信号及びラマン信号を示すデータを生成する信号処理部を備えている。また、プロセッサ740は、データ及び命令を記憶するためのメモリ、及びデータ処理部を備えている。前記データ処理部は、PL信号のデータ及びラマン信号のデータを処理し、PL信号の時間分解スペクトル情報及びラマン信号の時間分解スペクトル情報を作成する。
【0067】
図8A及び図8Bは、例えば図7のシステム700などの時間分解システムを使用して得られたフォトルミネッセンス信号を示す。図8A及び図8Bは、経時的に、特定の光線のピーク高さが変化し、異なるピーク高さの間の違いも同様に変化することを示している。したがって、PLシステムの経時的な測定により、異なる状態におけるエネルギーレベル及び遷移速度についての情報が得られる。
【0068】
時間分解分光法は、PL及びラマン分光システムを組み合わせた他の実施形態とともに実施することができる。図9は、時間分解分光法を実施するように構成された、分割された集束ミラー923(1)及び923(2)を有するシステム900を示す。図10は、時間分解分光法を実施するように構成された、分離された分光器1020A及び1020Bを備えたシステム1000を示す。
【0069】
実施の際は、上述した技術及びその変形は、コンピューターソフトウエア命令として少なくとも部分的に実施される。そのような命令は、1つ又はそれ以上の機械可読記憶媒体に記憶され、例えば、1つ又はそれ以上のコンピュータ・プロセッサによって実行される、又は、機械に目的の機能及び動作を実施させる。
【0070】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明に係る技術的思想の範囲から逸脱しない範囲内で様々な変更及び変形が可能である。例えば、異なる又はさらなる光学素子を使用する(あるいは、ある場合では省略する)ことができる。多くの代替案は当業者には周知である。また、ここで使用する「光」という用語は、電磁スペクトルの特定の部分を意味するものではない。例えば、「可視光」という用語は、可視スペクトルの光を意味する。また、「光」は、可視光、赤外光、又は、他の波長領域の光を意味する。
【0071】
また、「手段(means)」の語を使用した請求項は米国特許法第112条の第6項に基づき解釈されることを意図している。特許請求の範囲では、文脈で明確に別途規定される場合を除いて、単数は複数の場合も含む。ただし、「単一」は、単数の場合のみを意味する(「少なくとも1つ」という言いまわしにかかわらず)。さらに、特許請求の範囲で明確に限定されていない場合は、明細書により制限して請求項を解釈するべきではない。従って、他の実施形態は、請求項の範囲に含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明のある実施形態に係る分光システムの概略図である。
【図2】ラマンスペクトル及びPLスペクトルの表である。
【図3A】3つの異なる励起波長の浸透深さを示す。
【図3B】図3Aの3つの励起波長のそれぞれについてのラマンスペクトル及びPLスペクトルの表である。
【図4A】4つの異なる励起波長の測定されたPLスペクトルの表である。
【図4B】4つの異なる励起波長の測定されたラマンスペクトルの表である。
【図4C】4つの異なる励起波長の測定されたラマンスペクトルの表である。
【図4D】4つの異なる励起波長の測定されたラマンスペクトルの表である。
【図4E】4つの異なる励起波長の測定されたラマンスペクトルの表である。
【図5】本発明のある実施形態に係る分光システムの概略図である。
【図6】本発明のある実施形態に係る分光システムの概略図である。
【図7】本発明のある実施形態に係る分光システムの概略図である。
【図8A】時間分割分光法を用いた際の、4つの異なるPLピークについての強度対時間の表である。
【図8B】時間分割分光法を用いた際の、4つの異なるPLピークについての強度対時間の表である。
【図9】本発明のある実施形態に係る分光システムの概略図である。
【図10】本発明のある実施形態に係る分光システムの概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分光システムであって、
試料から、フォトルミネッセンス波長成分及びラマンシフト成分を含む複数の波長成分を含有する光を受光するように設置されたアパーチャと、
前記光の光学経路上に設置され、前記光の前記成分を空間的に分離するように構成された分離素子と、
前記ラマンシフト成分を受光し、当該ラマンシフト成分の強度を示す1つ又は複数の信号を生成するように設置された第1のアレイ検出器と、
前記フォトルミネッセンス波長成分を受光し、当該フォトルミネッセンス波長成分の強度を示す1つ又は複数の信号を生成するように設置された第2のアレイ検出器と
を備えるシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の分光システムであって、
前記アパーチャから前記光を受光し、当該光を前記分離素子に向けて反射するように設置された曲面ミラーをさらに備えることを特徴とするシステム。
【請求項3】
請求項2に記載の分光システムであって、
前記分離素子から光を受光し、当該光を前記第1のアレイ検出器及び第2のアレイ検出器に向けて反射するように設置されたミラーをさらに備えることを特徴とするシステム。
【請求項4】
請求項2に記載の分光システムであって、
前記分離素子から光を受光し、当該光を前記第1のアレイ検出器に向けて反射するように設置された第1のミラーと、
前記分離素子から光を受光し、当該光を前記第2のアレイ検出器に向けて反射するように設置された第2のミラーと
をさらに備えることを特徴とするシステム。
【請求項5】
請求項1に記載の分光システムであって、
前記第1のアレイ検出器は、第1の検出器物質を有し、
前記第2のアレイ検出器は、前記第1の検出器物質とは異なる第2の検出器物質を有することを特徴とするシステム。
【請求項6】
請求項1に記載の分光システムであって、
前記第1の検出器物質は、シリコンを含み、
前記第2の検出器物質は、1電子ボルト以上のバンドギャップを有する物質を含むことを特徴とするシステム。
【請求項7】
請求項1に記載の分光システムであって、
前記試料に光を断続的に伝達させるための、光学チョッパ及びパルスレーザーの内の少なくとも1つをさらに備えることを特徴とするシステム。
【請求項8】
請求項1に記載の分光システムであって、
前記試料に光を断続的又は連続的に伝達させるための、複数の波長を有する光を生成するように構成された光源をさらに備えることを特徴とするシステム。
【請求項9】
請求項1に記載の分光システムであって、
前記試料を入射励起光に対して位置合わせするように構成されたステージをさらに備えることを特徴とするシステム。
【請求項10】
分光システムであって、
特定の時に、前記試料の領域から、ラマン波長成分を含む複数の波長成分を含有する光を受光するように設置された第1のアパーチャと、
特定の時に、前記試料の前記領域から、フォトルミネッセンス波長成分を含む複数の波長成分を含有する光を受光するように設置された第2のアパーチャと、
前記第1のアパーチャを経て受光された前記光の光学経路上に設置され、前記第1のアパーチャを経て受光された前記光の前記ラマン波長成分を空間的に分離するように構成された第1の分離素子と、
前記第2のアパーチャを経て受光された前記光の光学経路に設置され、前記第2のアパーチャを経て受光された前記光の前記フォトルミネッセンス波長成分を空間的に分離するように構成された第2の分離素子と、
分離されたラマン波長成分を受光し、当該分離されたラマン波長成分の強度を示す1つ又は複数の信号を生成するように設置された第1のアレイ検出器と、
分離されたフォトルミネッセンス波長成分を受光し、当該分離されたフォトルミネッセンス波長成分の強度を示す1つ又は複数の信号を生成するように設置された第2のアレイ検出器とを備えるシステム。
【請求項11】
請求項10に記載の分光システムであって、
前記第1のアパーチャから前記光を受光し、当該光を前記第1の分離素子に向けて反射するように設置された第1の曲面ミラーと、
前記第2のアパーチャから前記光を受光し、当該光を前記第2の分離素子に向けて反射するように設置された第2の曲面ミラーと
をさらに備えることを特徴とするシステム。
【請求項12】
請求項11に記載の分光システムであって、
前記第1の分離素子から光を受光し、当該光を前記第1のアレイ検出器に向けて反射するように設置されたミラーをさらに備えることを特徴とするシステム。
【請求項13】
請求項10に記載の分光システムであって、
前記第1の分離素子は、第1の線幅を有する回折格子であり、
前記第2の分離素子は、前記第1の線幅とは異なる第2の線幅を有する回折格子であることを特徴とするシステム。
【請求項14】
請求項10に記載の分光システムであって、
前記第1の分離素子と前記第1のアレイ検出器との間の光学経路の距離は、前記第2の分離素子と前記第2のアレイ検出器との間の光学経路の距離よりも長いことを特徴とするシステム。
【請求項15】
請求項10に記載の分光システムであって、
前記試料に光を断続的に伝達させるための、光学チョッパ及びパルスレーザーの内の少なくとも1つをさらに備えることを特徴とするシステム。
【請求項16】
請求項10に記載の分光システムであって、
前記試料に光を断続的又は連続的に伝達させるための、複数の波長を含有する光を生成するように構成された光源をさらに備えることを特徴とするシステム。
【請求項17】
請求項10に記載の分光システムであって、
前記試料を入射励起光に対して位置合わせするように構成されたステージをさらに備えることを特徴とするシステム。
【請求項18】
請求項17に記載の分光システムであって、
前記ステージ上に設置された試料をさらに備えることを特徴とするシステム。
【請求項19】
請求項10に記載の分光システムであって、
前記第1のアパーチャから受光した前記光をフィルタ処理するために設置された第1の種類のフィルタと、
前記第2のアパーチャから受光した前記光をフィルタ処理するために設置された第2の種類のフィルタと
をさらに備えることを特徴とするシステム。
【請求項20】
請求項19に記載の分光システムであって、
前記第1の種類は、ノッチフィルタ及びエッジフィルタから選択されることを特徴とするシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−96432(P2008−96432A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−246562(P2007−246562)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(502194780)ウェーハマスターズ・インコーポレイテッド (18)
【氏名又は名称原語表記】WAFERMASTERS,INC.
【Fターム(参考)】