説明

リグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法、及びリグノセルロース系樹脂組成物

【課題】筐体をリグノセルロース系樹脂組成物から射出成形により成形可能として、その製造能率の向上を図ることができるリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法及びリグノセルロース系樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】本願発明の筐体100の製造方法によれば、蒸気処理工程(S2)の後で、かつ、成形工程(S8)の前に、混練工程(S5)が実行され、その混練工程(S5)では、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料に、生分解性樹脂とリグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料との混練物の全重量に対して5重量%以上の割合で生分解性樹脂及び滑剤が混練される。これにより、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料の流動性を向上させて、筐体100を射出成形で製造できるので、筐体100を圧縮成形で製造する場合と比較して、製造能率の向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法及びリグノセルロース系樹脂組成物に関し、特に、筐体をリグノセルロース系樹脂組成物から射出成形により成形可能として、その製造能率の向上を図ることができるリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法及びリグノセルロース系樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、家屋や家具の廃材、古紙、刈り葉及び落ち葉等の廃棄物は、ヘミセルロース、リグニン及びセルロースを含有するリグノセルロース系材料から成るものであり、廃棄物を再利用、即ち、リグノセルロース系材料を再利用して資源の有効活用を図るために、様々な試みがなされている。
【0003】
例えば、特開2004−43529号公報(特許文献1)には、オレフィン系合成樹脂に嵩比重0.2以上の木粉(リグノセルロース系材料)を配合して、成形用樹脂組成物を作成する技術が記載されている。
【0004】
この技術によれば、木粉の嵩比重が0.2以上に設定されているので、木粉をオレフィン系合成樹脂に均一に分散させることができる。その結果、成形用樹脂組成物に配合される木粉の割合を高めることができるので、その分、木粉の有効活用を図ることができる。
【0005】
ところで、上述した成形用樹脂組成物から成形される成形体は、リグノセルロース系材料が配合される分、強度が低下する。その結果、強度を必要とする部材、例えば、歯車等の回転体などに成形用樹脂組成物から成形される成形体を用いることができず、かかる成形体の適用範囲が限られるという問題点があった。
【0006】
そこで、特開2004−261967号公報(特許文献2)には、リグノセルロース系材料を蒸気処理してリグノセルロース系改質材を生成させ、そのリグノセルロース系改質材を成形する技術が記載されている。
【0007】
この技術によれば、リグノセルロース系改質材は、リグノセルロース系改質材が有する接着力により互いに接着する。その結果、リグノセルロース系改質材から成形されるリグノセルロース系成形体は、高い強度を確保できるので、その分、リグノセルロース系成形体の適用範囲を拡大することができる。
【0008】
また、例えば、特開2005−200614号公報(特許文献3)には、木質系材料を含有する樹脂組成物であって、対衝撃強度に優れたポリオレフィン系樹脂組成物を得る技術が開示されている。
【特許文献1】特開2004−43529号公報(段落[0013]、図1など)
【特許文献2】特開2004−261967号公報(段落[0007])
【特許文献3】特開2005−200614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、このリグノセルロース系成形体は、リグノセルロース改質材の流動性が低いため、圧縮成形あるいは押出成形で製造されており、成形用樹脂組成物から成形される成形体のように量産的射出成形で製造することができない。例えば、上述した特許文献3の技術では、リグノセルロース系物質の量が80重量部を超えると、混練時・成形時の発熱が大きくなり、混練・成形ができなくなる(特許文献3の段落[0022])。
【0010】
そのため、リグノセルロース系成形体は、成形用樹脂組成物から成形される成形体と比較して、製造能率が低いという問題点があった。また、リグノセルロース系材料の比率が高くなると、衝撃や曲げに弱くなるという問題点があった。
【0011】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、筐体をリグノセルロース系樹脂組成物から射出成形により成形可能として、その製造能率の向上を図ることができるリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法及びリグノセルロース系樹脂組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的を達成するために、請求項1記載のリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法は、少なくともヘミセルロース、リグニン及びセルロースを含有するリグノセルロース系材料を粉砕する粉砕工程と、前記粉砕工程により粉砕された前記リグノセルロース系材料を蒸気処理してリグノセルロース系改質材を生成させる蒸気処理工程と、前記蒸気処理工程で前記リグノセルロース系改質材が生成された前記リグノセルロース系材料を前記リグノセルロース系改質材の接着力によって筐体を成形する成形工程とを備えるものであり、前記蒸気処理工程の後で、かつ、前記成形工程の前に、前記蒸気処理工程で前記リグノセルロース系改質材が生成された前記リグノセルロース系材料に生分解性樹脂及び滑剤を混合する混合工程を備え、前記混合工程は、前記生分解性樹脂と前記リグノセルロース系改質材が生成された前記リグノセルロース系材料との混合物の全重量に対して前記生分解性樹脂及び滑剤を1重量%以上の割合で混合するものであり、前記成形工程は、前記混合工程において混合された前記生分解性樹脂及び滑剤と前記リグノセルロース系改質材が生成された前記リグノセルロース系材料との混合物を射出成形するものである。
【0013】
請求項2記載のリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法は、請求項1記載のリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法において、前記混合工程の後で、かつ、前記成形工程の前に、前記リグノセルロース系改質材が生成された前記リグノセルロース系材料が含有する水分又は熱分解ガスを除去する脱気工程を備えている。
【0014】
請求項3記載のリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法は、請求項1又は2に記載のリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法において、前記蒸気処理工程の後で、かつ、前記混合工程の前に、前記リグノセルロース系改質材が生成された前記リグノセルロース系材料を微粉砕する微粉砕工程を備えている。
【0015】
請求項4記載のリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法は、請求項1から3のいずれかに記載のリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法において、前記生分解性樹脂は、脂肪族ポリエステル系樹脂で構成されている。
【0016】
請求項5記載のリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法は、請求項4記載のリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法において、前記生分解性樹脂は、ポリ乳酸系樹脂で構成されている。
【0017】
請求項6記載のリグノセルロース系樹脂組成物は、少なくともヘミセルロース、リグニン及びセルロースを含有するリグノセルロース系材料を粉砕して蒸気処理を行うことによってリグノセルロース系改質材が生成された前記リグノセルロース系材料を含むものであって、40〜100重量部の(A)前記リグノセルロース系改質材が生成された前記リグノセルロース系材料と、0重量部を超え60重量部以下の(B)ポリエステル系生分解性樹脂と、前記(A)と前記(B)との混合物の100重量部に対して1〜10重量部の(C)オリゴマ系滑材とを含む。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載のリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法によれば、粉砕工程により少なくともリグニン及びセルロースを含有するリグノセルロース系材料が粉砕される。その粉砕されたリグノセルロース系材料は、蒸気処理工程により蒸気処理され、リグノセルロース系改質材が生成される。そのリグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料は、成形工程でリグノセルロース系改質材の接着力により成形される。その結果、筐体が製造される。
【0019】
ここで、蒸気処理工程の後で、かつ、成形工程の前に、混合工程が実行され、その混合工程では、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料に、生分解性樹脂及び滑剤とリグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料との混合物の全重量に対して1重量%以上の割合で生分解性樹脂及び滑剤が混合される。よって、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料の流動性を向上させることができるという効果がある。
【0020】
即ち、生分解性樹脂及び滑剤の混合割合が、混合物の全重量に対して1重量%よりも小さい場合では、混合物の流動性が低く、混合物を射出成形機のノズルから流出させることができない、即ち、筐体を射出成形で製造できない。
【0021】
これに対し、本発明の製造方法では、生分解性樹脂及び滑剤を混合物の全重量に対して1重量%以上の割合で混合することで、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料の流動性を向上させることができる。その結果、混合物を射出成形機のノズルから流出させることができる、即ち、筐体を射出成形で製造できるので、筐体を圧縮成形で製造する場合と比較して、筐体の製造能率を向上させることができるという効果がある。
【0022】
また、筐体は、生分解性樹脂とリグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料との混合物から製造されているので、自然界の微生物や分解酵素により水と二酸化炭素に生分解される、即ち、無害で土に還る。従って、本発明の製造方法によって製造された筐体は、プラスチックで製造された筐体と比較して、環境にかかる負荷を低減させることができるという効果がある。
【0023】
更に、生分解性樹脂とリグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料との混合物から製造された筐体は、焼却時にダイオキシン等の有害ガスを発生しないので、大気汚染を防止して、環境にかかる負荷を低減させることができるという効果がある。
【0024】
また、本発明の製造方法によって製造される筐体は、リグノセルロース系改質材が有する接着力によって成形されているので、リグノセルロース系材料を樹脂に配合して成形する場合と比較して、筐体の強度を確保することができるという効果がある。
【0025】
また、生分解性樹脂とリグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料との混合物は、生分解性樹脂と比較して、ガラス転移温度が高いので、成形に要する時間を短縮することができる。従って、本発明の製造方法は、生分解性樹脂のみで筐体を製造する場合と比較して、製造能率の向上を図ることができるという効果がある。
【0026】
請求項2記載のリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法によれば、請求項1記載のリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法の奏する効果に加え、混合工程の後で、かつ、成形工程の前に、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料が含有する水分又は熱分解ガスを除去する脱気工程を備えているので、成形前の混合物から水分又は熱分解ガスを除去することができる。
【0027】
ここで、混合物が水分を含有している場合には、成形時の熱で水分が蒸発し、筐体に割れやひずみが生じる。また、混合物が熱分解ガスを含有している場合には、混合物中に気泡が発生し、筐体に割れやひずみが生じる。これに対し、本発明の製造方法は、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料が含有する水分又は熱分解ガスを除去する脱気工程を備えているので、成形前の混合物から水分又は熱分解ガスを除去して、筐体に割れやひずみが生じることを抑制できるという効果がある。
【0028】
更に、脱気工程により成形前の混合物から水分又は熱分解ガスを除去することができるので、水分の蒸発や熱分解ガスの気泡による成形収縮率の増大を抑制し、高精度の筐体を成形することができるという効果がある。
【0029】
請求項3記載のリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法によれば、請求項1又は2に記載のリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法の奏する効果に加え、蒸気処理工程の後で、かつ、混合工程の前に、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料を微粉砕する微粉砕工程を備えているので、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料の流動性を向上させて、生分解性樹脂とリグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料との混合物を射出成形機のノズルから確実に流出させることができるという効果がある。
【0030】
請求項4記載のリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法によれば、請求項1から3のいずれかに記載のリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法の奏する効果に加え、生分解性樹脂は、汎用樹脂であるポリエステル系樹脂で構成されているので、生分解性樹脂のコストを低減でき、その分、筐体の製造コストを低減できるという効果がある。
【0031】
また、生分解性樹脂が石油系のポリエステル系樹脂で構成されている場合には、植物系のポリ乳酸系樹脂を混合して製造する場合と比較して、筐体の強度を確保することができるという効果がある。
【0032】
なお、ポリ乳酸系樹脂は、リグノセルロース系材料を蒸気処理した際に生成する酢酸等の酸により酸加水分解されるおそれがある。これに対し、石油系のポリエステル系樹脂は、上記酢酸等の酸に対して安定であるので、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料の流動性を確実に向上させることができるという効果がある。
【0033】
請求項5記載のリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法によれば、請求項4記載のリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法の奏する効果に加え、生分解性樹脂は、非石油資源であるポリ乳酸系樹脂で構成されているので、化石燃料の使用を不要として、化石燃料の枯渇防止を図ることができるという効果がある。
【0034】
請求項6記載のリグノセルロース系樹脂組成物によれば、40〜100重量部の(A)リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料と、0重量部を超え60重量部以下の(B)ポリエステル系生分解性樹脂とに加え、(C)オリゴマ系滑材が、(A)リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルローズ系材料と(B)ポリエステル系生分解性樹脂との混合物の100重量部に対して1〜10重量部添加されている。
【0035】
なお、「(A)リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料」は、少なくともヘミセルロース、リグニン及びセルロースを含有するリグノセルロース系材料を粉砕して蒸気処理を行うことによって生成されたリグノセルロース系改質材を含むリグノセルロース材料である。また、「(B)ポリエステル系生分解性樹脂」としては、石油系の脂肪族又は芳香族のポリエステル系樹脂が含まれる。
【0036】
成分(A)と成分(B)との混合物の100重量部に対して1〜10重量部の割合で(C)オリゴマ系滑材を添加することによって、この(C)オリゴマ系滑材の添加によるべたつきを生じることなく、(A)リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料に対する(B)ポリエステル系生分解性樹脂の分散性を向上させることができる。その結果、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料を含むリグノセルロース系樹脂組成物の流動性を向上させることができ、射出成形機のノズルから流出されるのに充分な流動性を得ることができるという効果がある。即ち、請求項6記載のリグノセルロース系樹脂組成物を射出成形することによる筐体を製造することが可能となるという効果がある。
【0037】
この請求項6記載のリグノセルロース系樹脂組成物を射出成形することによって製造される筐体は、生分解性樹脂とリグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料との混合物から製造されているので、自然界の微生物や分解酵素により水と二酸化炭素に生分解され、無害で土に還すことができる。よって、かかるリグノセルロース系樹脂組成物は、プラスチックなどに比べ、環境にかかる負荷を低減させることができる材料として有用であるという効果がある。
【0038】
また、請求項6記載のリグノセルロース系樹脂組成物には、生分解樹脂として(B)ポリエステル系生分解性樹脂が含まれており、汎用樹脂であるポリエステル系樹脂を使用することによりリグノセルロース系樹脂組成物のコストを低減できるので、例えば、このリグノセルロース系樹脂組成物を射出成形することによって筐体を製造する場合には、リグノセルロース系樹脂組成物のコストが低減された分だけ筐体の製造コストを低減できるという効果がある。
【0039】
ここで、特に、ポリエステル系生分解性樹脂が石油系のポリエステル系樹脂で構成されている場合には、植物系のポリ乳酸系樹脂を混合して製造する場合と比較して、筐体の強度を確保することができるという効果がある。
【0040】
また、ポリエステル系生分解性樹脂が石油系のポリエステル系樹脂で構成されている場合には、酢酸等の酸に対して安定であるので、リグノセルロース系材料を蒸気処理した際に生成する酸による酸加水分解が抑制されるために、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料の流動性を確実に向上させることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の筐体100の製造方法の工程図である。まず、図1を参照して、筐体100の製造方法について説明する。
【0042】
図1に示すように、筐体100(図3参照)の製造方法では、始めに、粉砕工程(S1)において、リグノセルロース系材料の粉砕、具体的には、木材の粉砕が行われる。かかる木材は、後述する蒸気処理工程(S2)における蒸気処理を均一に行うことができるように、細分化されていることが好ましく、木材を細分化することで蒸気処理に必要とされる時間を短縮できる。
【0043】
粉砕された木材の大きさは、具体的には、厚さ1mm以下、かつ、平面積5cm×5cm以下の大きさが好ましく、また、厚さ0.5mm以下、かつ、平面積2cm×2cm以下の大きさが更に好ましい。
【0044】
なお、請求項1記載の「リグノセルロース系材料」とは、少なくともヘミセルロース、リグニン及びセルロースを含有する材料が該当する。かかるリグノセルロース系材料は、例えば、種々の樹木、竹、ケナフ、トウモロコシ、サトウキビ、麻等の草木類が該当し、また、家屋解体物、家具解体物、木屑等の産業廃棄物も包含する。
【0045】
次に、粉砕工程(S1)を実行した後は、蒸気処理工程(S2)において、粉砕された木材の蒸気処理が行われる。かかる蒸気処理は、高温高圧下において、耐圧容器内の木材に加熱水蒸気を吹きかけることで行われるものであり、木材が含有するヘミセルロース及びリグニンの分子結合を切断(分解)して、リグノセルロース系改質材を生成させる。
【0046】
なお、請求項1〜3に記載の「リグノセルロース系改質材」とは、ヘミセルロースの分子結合が切断されたヘミセルロース系分解成分とリグニンの分子結合が切断されたリグニン系分解成分とを含有する組成物が該当する。
【0047】
かかるヘミセルロース系分解成分は、自己接着性を有しており、また、リグニン系分解成分は、熱可塑性を有している。これにより、リグノセルロース系改質材は、加熱により流動化できる熱可塑性材料として機能する。
【0048】
なお、蒸気処理の温度は、110℃以上、かつ、230℃以下の範囲内に設定することが好ましく、また、150℃以上、かつ、230℃以下の範囲内に設定することが更に好ましい。これにより、ヘミセルロース、リグニンの加水分解を促進すると共に、分解縮合等の副反応を抑制することができる。
【0049】
次に、蒸気処理工程(S2)を実行した後は、乾燥工程(S3)において、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料の乾燥が行われる。かかる乾燥は、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料に送風又は熱を付与して、そのリグノセルロース系材料が含有する水分を急速に蒸発させる。
【0050】
このように、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料が含有する水分を急速に蒸発させることで、水分と共に水溶性の分解成分が除々に離脱することを抑制し、分解成分をセルロース系材料に多く残留させることができる。
【0051】
次に、乾燥工程(S3)を実行した後は、微粉砕工程(S4)において、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料の微粉砕が行われる。かかる微粉砕は、粉砕工程(S1)によって粉砕されたリグノセルロース系材料の粒径よりも小さくなるように、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料を粉砕する。このように、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料を微粉砕することで、溶融時のリグノセルロース系材料の流動性を向上させることができる。
【0052】
微粉砕されたリグノセルロース系材料の粒径は、具体的には、1500μm以下に設定されているが、1000μm以下の粒径が好ましく、また、500μm以下の粒径が更に好ましい。
【0053】
次に、微粉砕工程(S4)を実行した後は、混練工程(S5)において、ポリ乳酸系樹脂とリグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料とを混練させる。なお、ポリ乳酸系樹脂の混練割合は、ポリ乳酸系樹脂とリグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料との混練物の全重量に対して、1重量%以上、かつ、50重量%以下の範囲内に設定されている。
【0054】
ここで、ポリ乳酸系樹脂の混練割合が、混練物の全重量に対して1重量%よりも小さい場合では、混練物の流動性が低く、混練物を後述するノズル5a(図2参照)から流出させることができない。
【0055】
これに対し、ポリ乳酸系樹脂の混練割合を混練物の全重量に対して1重量%以上に設定することで、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料の流動性を向上させることができる。その結果、混練物をノズル5aから流出させることができる、即ち、筐体100を射出成形できるので、筐体100を圧縮成形する場合と比較して、筐体100の製造能率を向上させることができる。
【0056】
一方、ポリ乳酸系樹脂の混練割合が、混練物の全重量に対して50%より大きい場合では、自己接着性を有するヘミセルロース系分解成分の含有量が低減し、その分、筐体100の強度が低減する。また、コストの高いポリ乳酸系樹脂の混練量が多くなるので、その分、筐体100の製造コストが増大する。
【0057】
これに対し、ポリ乳酸系樹脂の混練割合を混練物の全重量に対して50重量%以下に設定することで、ヘミセルロース系分解成分の含有量が低減することを抑制し、その分、筐体100の強度が低減することを抑制できる。
【0058】
また、ポリ乳酸系樹脂の混練割合を混練物の全重量に対して50重量%以下に設定することで、ポリ乳酸系樹脂の混練量を低減させ、その分、筐体100の製造コストを低減することができる。
【0059】
次に、混練工程(S5)を実行した後は、ペレット成形工程(S6)において、混練物をペレット状に成形する。かかるペレットの粒径は、特に限定されるものではなく、後述する射出成形機1(図2参照)の大きさ等に応じて変更可能である。
【0060】
なお、本実施の形態では、ペレット状に成形した混練物を後述するホッパ3(図2参照)に投入するように構成しているが、必ずしもこれに限られるものではなく、ペレット状に成形する前の混練物を直接ホッパ3に投入してもよい。
【0061】
次に、ペレット成形工程(S6)を実行した後は、脱気工程(S7)において、混練物の脱気を行う。かかる脱気は、ベント機構で行われており、真空にされた耐圧容器内に混練物を投入し、その混練物が含有する水分や加熱時に生成する熱分解ガスを除去する。
【0062】
ここで、成形前の混練物が水分を含有している場合には、成形時の熱で水分が蒸発し、筐体100の成形時に割れやひずみが生じる。また、混練物が熱分解ガスを含有している場合には、混練物中に気泡が発生し、筐体100の成形時に割れやひずみが生じる。これに対し、上述したように、脱気工程(S7)において、混練物が含有する水分や熱分解ガスを除去することで、筐体100に割れやひずみが生じることを抑制できる。
【0063】
更に、脱気工程(S7)において、混練物が含有する水分や加熱時に生成する熱分解ガスを除去することができるので、水分の蒸発や熱分解ガスの気泡による成形収縮率の増大を抑制し、高精度の筐体100を成形することができる。
【0064】
次に、脱気工程(S7)を実行した後は、成形工程(S8)において、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料を射出成形する。成形工程(S8)では、射出成形機1を用いる。ここで、図2を参照して、射出成形機1の詳細構成について説明する。
【0065】
図2は、射出成形機1を模式的に示す正面図である。図2に示すように、射出成形機1は、流動化した射出物を金型に射出して成形する装置であり、フレーム2と、ホッパ3と、射出シリンダ4と、シリンダ5と、バンドヒータ6と、固定盤7と、金型8と、可動盤9と、型締シリンダ10とを主に備えて構成されている。
【0066】
フレーム2は、後述する射出シリンダ4、シリンダ5、固定盤7、可動盤9、型締シリンダ10を載置するための台座であり、各所で発生する力や振動に耐えうる高強度の材質で構成されている。
【0067】
ホッパ3は、シリンダ5に射出物を供給するための略円錐形の貯蔵容器であり、その上部が開口形成されると共に、先端がシリンダ5に連設されている。そして、射出物は、ホッパ3上部から投入されて、シリンダ5に供給される。射出シリンダ4は、シリンダ5に内蔵されたスクリュー(図示せず)を回転させるための油圧シリンダである。
【0068】
シリンダ5は、射出物を輸送、加熱及び溶融して射出するためのものであり、シリンダ5に内蔵されたスクリューのせん断熱と後述するバンドヒータ6の加熱によって射出物を溶融する。そして、射出シリンダ4がスクリューを後述するノズル5a側(図2左側)へ前進させて、射出物をノズル5aから射出させる。
【0069】
ノズル5aは、射出物を射出するためにシリンダ5の先端に連設される射出口であり、射出時に固定側金型8aと密着して、射出物の流路を形成する。なお、射出工程では、充填中の冷却による射出物粘度の変化を最小に抑えるために、高速で充填を行うことが望まれる。
【0070】
このため、ノズル5aは、その開口寸法が小さく設定されており、射出物を高い圧力で射出させる。このように、ノズル5aは、その開口寸法が小さく設定されているが、上述したように、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料に生分解性樹脂を混練させることで、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料の流動性を向上させて、そのリグノセルロース系材料を射出成形することができる。
【0071】
バンドヒータ6は、シリンダ5を加熱するための発熱部材であり、シリンダ5の外周に複数巻き付けられている。固定盤7は、その一端面側(図2左側)に後述する固定側金型8aを支持するためのものであり、フレーム2の上面に固定されている。なお、ノズル5aは、中央に貫通形成された孔を介して固定側金型8aと当接する。
【0072】
金型8は、射出物を後述する筐体100(図3参照)の形状に成形するためのものであり、固定盤7に配設される固定側金型8aと、後述する可動盤9に配設される可動側金型8bとを備えて構成されている。そして、それら固定側及び可動側金型8a,8bが形成する内部空間は、筐体100と同一形状に形成され、その内部空間に充填された射出物が筐体100の形状に成形される。
【0073】
ここで、この金型8で成形される筐体100について、図3及び図4を参照して説明する。図3は、筐体100の斜視図であり、図4は、射出成形された筐体及びアイゾット衝撃試験片の写真である。なお、筐体100には、軽量化を図るための肉抜き部や持ち運びを容易とするための取っ手を側壁部102に設けても良い。
【0074】
筐体100は、加工物を収納するための収納容器である。この筐体100は、図3に示すように、略矩形状の底面部101と、その底面部101の端部から上方(図3上方)に立設する側壁部102とを有しており、その側壁部102の上端によって形成された開口から加工物を投入して、内部に加工物を収納可能に構成されている。
【0075】
なお、筐体100の寸法としては、例えば、底面部101が50cm×90cmの寸法に設定され、側壁部102の高さが40cmに設定され、一番厚い部位の厚みが15mmに設定され、一番薄い部位の厚みが5mmに設定される場合が一例として例示される。
【0076】
ここで、一般的な筐体は、プラスチックで構成されている。このプラスチックで構成された筐体は、化石燃料の使用や廃棄・焼却処分の際に有害ガスが発生するなど、地球環境の観点から好ましくない。また、生分解性樹脂であるポリ乳酸系樹脂から筐体を構成する場合では、環境にかかる負荷を軽減できるものの、ガラス転移温度が非常に低いために、成形に時間がかかり、製造能率が低いという問題点がある。特に、筐体100は、加工物を収納するためにサイズが大きくなるため、小さな成形体を成形する場合と比較して、ガラス転移温度の差が製造能率に大きな影響を及ぼす。
【0077】
これに対し、本発明の筐体100は、リグノセルロース系射出成形体から構成されているので、ポリ乳酸系樹脂から構成される場合と比較して、ガラス転移温度が高く、成形に要する時間を短縮することができる。即ち、筐体100は、リグノセルロース系射出成形体から構成することで、地球環境にかかる負荷を軽減しつつ、製造能率の向上を図ることができる。
【0078】
ここで、この筐体100の物性値について、図5を参照して説明する。図5は、筐体100の物性値を示す図である。なお、A4欄に示す吸水率とは、23℃の温度下において、筐体100を水に24時間漬けた際の、筐体100の吸水率を示すものである。
【0079】
A1欄に示すように、筐体100のアイゾット衝撃値は、4.5kJ/m2である。
【0080】
次に、A2欄に示すように、筐体100の曲げ強度は、74MPaであり、実用化に耐えうる曲げ強度を確保しているといえる。同様に、A3欄に示すように、筐体100の曲げ弾性率は、11000MPaであり、実用化に耐えうる曲げ弾性率を確保しているといえる。
【0081】
次に、A4欄に示すように、リグノセルロース系射出成形体の吸水率は、1.6%である。従って、筐体100は、過剰に吸水して、加水分解されず、高寿命であるといえる。
【0082】
ここで、再度、図2を参照して、射出成形機1の詳細構成について説明する。可動盤9は、その他端面側(図2右側)に配設される可動側金型8bを支持するためのものであり、その4隅に貫設されるタイバー9aにガイドされつつ、水平方向(図2左右方向)に前後進可能に構成されている。
【0083】
型締シリンダ10は、可動盤9を前後進させるための油圧シリンダであり、型締シリンダ10が伸長した場合には、可動盤9を前進させて可動側金型8bを固定側金型8aに当接させる。一方、型締シリンダ10が収縮した場合には、可動盤9を後進させて、可動側金型8bを固定側金型8aから遠ざける。
【0084】
ここで、再度、図1を参照して、筐体100の製造方法について説明する。成形工程(S8)では、図2に示した射出成形機1により、筐体100が射出成形で製造される。
【0085】
この筐体100は、上述したように、ポリ乳酸系樹脂とリグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料との混練物から成形されている。これにより、筐体100は、自然界の微生物や分解酵素により水と二酸化炭素に生分解される、即ち、無害で土に帰るので、環境にかかる負荷を低減させることができる。
【0086】
更に、筐体100は、焼却時にダイオキシン等の有害ガスを発生しないので、大気汚染を防止して、環境にかかる負荷を低減させることができる。
【0087】
また、非石油資源であるポリ乳酸系樹脂を使用しているので、化石燃料の使用を不要として、化石燃料の枯渇防止を図ることができる。
【0088】
また、筐体100は、ヘミセルロース系分解成分が有する自己接着性により互いに接着する。これにより、筐体100は、リグノセルロース系材料を樹脂に配合して成形される筐体と比較して、強度を確保することができる。
【0089】
なお、本実施の形態では、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料の流動性を向上させるためにポリ乳酸系樹脂を混練させているが、必ずしもこれに限られるものではなく、その他の生分解性樹脂、例えば、微生物産系の生分解性樹脂や、化学合成系の生分解性樹脂、天然物系の生分解性樹脂を混練させてもよい。
【0090】
ここで、微生物産系の生分解性樹脂としては、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸(PHB)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)等を用いることができる。また、化学合成系の生分解性樹脂としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリグリコール酸(PGA)等を用いることができる。また、天然物系の生分解性樹脂としては、澱粉ポリエステル、酢酸セルロース等を用いることができる。
【0091】
ただし、汎用樹脂である化学合成系の生分解性樹脂、具体的には、脂肪族及び芳香族ポリエステルを混練させることが好ましい。これら脂肪族及び芳香族ポリエステルは、一般に普及しているので、微生物産系の生分解性樹脂や天然物系の生分解性樹脂と比較して、コストが安く、その分、筐体100の製造コストを低減することができるからである。
【0092】
また、石油系の脂肪族及び芳香族ポリエステルを混練させることも望ましい。かかる石油系の脂肪族及び芳香族ポリエステルを混練させて成形された筐体は、植物系のポリ乳酸系樹脂を混練させて成形された筐体と比較して、強度を確保することができる。
【0093】
ここで、石油系の脂肪族ポリエステルとしては、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリカプロラクトン(PCL)等を用いることができる。また、石油系の芳香族ポリエステルとしては、ポリブチレンアジペート・テレフタレート(PBAT)、ポリエチレンテレフタレート・サクシネート(CPE)等を用いることができる。
【0094】
なお、混練工程(S5)において、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料と、ポリ乳酸系樹脂やポリエステル系生分解性樹脂などの生分解性樹脂とを混練する場合には、流動性を向上させるために滑材を添加することが好ましい。
【0095】
例えば、射出成形機における射出物として使用する組成物を、(A)リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料と、(B)脂肪族又は芳香族ポリエステル系の生分解性樹脂(脂肪族又は芳香族ポリエステル系生分解性樹脂)と、(C)オリゴマ系滑材とを含む組成物とした場合には、各成分の組成は、それぞれ、40〜100重量部、0重量部を超え60重量部以下、及び、成分(A)と成分(B)との混合物100重量部に対して1〜10重量部であることが好ましい。
【0096】
成分(A)から成分(C)を上記組成で含む組成物は、(C)オリゴマ系滑材の添加によって、(A)リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料に対する(B)ポリエステル系生分解性樹脂の分散性を向上させることができる。また、(C)オリゴマ系滑材の割合を、成分(A)と成分(B)との混合物100重量部に対して1〜10重量とすることによって、(C)オリゴマ系滑材の添加によるべたつきを抑制することができる。その結果として、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料を含む組成物の流動性が向上し、射出成形機のノズルから流出されるのに充分な流動性を得ることができるのである。
【0097】
なお、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料と生分解性樹脂とを含む組成物を射出成形機における射出物として使用するという点において、かかる組成物にさらに添加される滑材は、リグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料や生分解性樹脂の成形温度に対応できる耐熱性を有することが必要である。そのため、好ましい滑材としては、例えば、メタロセン系触媒の使用によって製造されるオリゴマ低分子量ポリエチレン(メタロセン系オリゴマ低分子量ポリエチレン)である狭分布のエクセレックス(登録商標)(三井化学(株)製)を好ましく使用することができる。また、滑材の分子量は、1000〜5000程度が好ましい。
【0098】
なお、ポリ乳酸系樹脂は、蒸気処理工程(S2)において木材を蒸気処理した際に生成する酢酸等の酸により分解されるおそれがある。これに対し、石油系の脂肪族及び芳香族ポリエステルは、上記酢酸等の酸に対して安定であるので、確実にリグノセルロース系改質材が生成されたリグノセルロース系材料の流動性を向上させることができる。
【0099】
次いで、図6及び図7を参照して、流動性試験について説明する。流動性試験は、リグノセルロース系材料の流動性を測定する試験であり、図7に示す流動試験器を用いて行った。
【0100】
流動試験器は、円筒状のシリンダ部と、そのシリンダ部に内嵌されシリンダ部内を往復動可能なピストン部とを備え、シリンダ部の側壁部にはノズルが開口形成されている。
【0101】
流動試験では、図6に示すように、シリンダ部内に試料(リグノセルロース系材料)を充填し、ピストン部を加圧して押し込むと共に、試料がシリンダ内からノズルを介して外部へ流出するのに必要な加圧力を測定する。
【0102】
加圧力は、図7に示すように、「流動開始」圧力(加圧力を漸次上昇させ試料がノズルから流出し始める時の圧力)と、「流動停止」圧力(流動開始圧力まで圧力を上昇させた後、加圧力を漸次減少させ試料の流出が停止する時の圧力)とを測定した。
【0103】
なお、流動試験は、流動試験器を180℃に加熱した状態で行われ、シリンダ部の内径は直径60mm、ノズルの形状は2.8mm×3.8mmの矩形状にそれぞれ設定され、また、試料重量は20gである。
【0104】
試料には、上記実施の形態で説明したリグノセルロース系樹脂組成物に対し、リグノセルロース系材料の粒径を250μmから500μmの範囲内に設定した試料1、リグノセルロース系材料の粒径を50μmから250μmの範囲内に設定した試料2、滑剤としてメタロセン系オリゴマ低分子量ポリエチレンである狭分布のエクセレックス48070B(登録商標)(三井化学(株)製)を2重量%添加した試料3、滑剤として上記エクセレックス48070B(登録商標)(三井化学(株)製)を5重量%添加した試料4、滑剤として上記エクセレックス48070B(登録商標)(三井化学(株)製)を10重量%添加した試料5、滑剤としてステアリン酸亜鉛を5重量%添加した試料6、滑剤としてTOWAX−131(登録商標)(東亜化成(株)製)を2重量%添加した試料7、及び、滑剤としてTOWAX−131(登録商標)(東亜化成(株)製)を5重量%添加した試料8を用いた。
【0105】
図7に示すように、試料1と試料2とを比較すると、リグノセルロース系材料の粒径を細かくすることで、流動開始の圧力を低下させる効果のあることが認められる。なお、流動停止の圧力に変化は見られない。
【0106】
試料3〜試料5を比較すると、滑剤の添加量を増加させることで、流動開始の圧力を低下させる効果のあることが認められる。なお、流動停止の圧力は5重量%以上の添加では変化が見られない。
【0107】
試料6〜8の結果より、上記のステアリン酸亜鉛などを滑剤として添加することでも、流動性を向上させる効果のあることが認められる。なお、試料7及び試料8の場合には、添加量を増加させても流動性に変化は見られない。
【0108】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0109】
例えば、上記実施の形態では、筐体100は、リグノセルロース系材料及び生分解性樹脂から構成されているが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性樹脂を含有させてもよい。
【0110】
また、上記実施の形態では、シリンダ5は、内蔵されたスクリューの回転で材料を溶融させるインラインスクリュー式で構成されているが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、内蔵されたプランジャで押し込み射出するプランジャ式で構成されていてもよい。
【0111】
また、上記実施の形態では、射出成形機1の可塑化射出機構がインラインスクリュー式で構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、可塑化射出機構を他の公知の種々の機構で構成することは当然可能である。
【0112】
同様に、射出成形機1の型締め機構が横型・直圧式で構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、型締め機構を他の公知の種々の機構で構成することは当然可能である。
【0113】
他の可塑化射出機構としては、例えば、プリプラ式が例示される。これにより、図1の各工程において、ペレット成形工程(S6)を省略することができると共に、混練工程(S5)から成形工程(S7)までを1の射出成形機1により行うことができるので、製造コストの削減を図ることができる。
【0114】
また、上記実施の形態では、リグノセルロース系射出成形体によって筐体100を形成しているが、必ずしもこの形状に限られるものではなく、他の形状の製品や部品をリグノセルロース系射出成形体によって形成してもよい。
【0115】
また、上記実施の形態における筐体100の大きさは一例であり、必ずしもこの大きさに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の筐体の製造方法の工程図である。
【図2】射出成形機を模式的に示す正面図である。
【図3】筐体の斜視図である。
【図4】射出成形された筐体及びアイゾット衝撃試験片の写真である。
【図5】筐体の物性値を示す図である。
【図6】流動試験器の写真である。
【図7】流動性試験の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0117】
100 筐体
S1 粉砕工程
S2 蒸気処理工程
S4 微粉砕工程
S5 混練工程(混合工程)
S7 脱気工程
S8 成形工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともヘミセルロース、リグニン及びセルロースを含有するリグノセルロース系材料を粉砕する粉砕工程と、前記粉砕工程により粉砕された前記リグノセルロース系材料を蒸気処理してリグノセルロース系改質材を生成させる蒸気処理工程と、前記蒸気処理工程で前記リグノセルロース系改質材が生成された前記リグノセルロース系材料を前記リグノセルロース系改質材の接着力によって筐体を成形する成形工程とを備えるリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法において、
前記蒸気処理工程の後で、かつ、前記成形工程の前に、前記蒸気処理工程で前記リグノセルロース系改質材が生成された前記リグノセルロース系材料に生分解性樹脂及び滑剤を混合する混合工程を備え、
前記混合工程は、前記生分解性樹脂と前記リグノセルロース系改質材が生成された前記リグノセルロース系材料との混合物の全重量に対して前記生分解性樹脂及び滑剤を1重量%以上の割合で混合するものであり、
前記成形工程は、前記混合工程において混合された前記生分解性樹脂及び滑剤と前記リグノセルロース系改質材が生成された前記リグノセルロース系材料との混合物を射出成形するものであることを特徴とするリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法。
【請求項2】
前記混合工程の後で、かつ、前記成形工程の前に、前記リグノセルロース系改質材が生成された前記リグノセルロース系材料が含有する水分又は熱分解ガスを除去する脱気工程を備えていることを特徴とする請求項1記載のリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法。
【請求項3】
前記蒸気処理工程の後で、かつ、前記混合工程の前に、前記リグノセルロース系改質材が生成された前記リグノセルロース系材料を微粉砕する微粉砕工程を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載のリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法。
【請求項4】
前記生分解性樹脂は、ポリエステル系樹脂で構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法。
【請求項5】
前記生分解性樹脂は、ポリ乳酸系樹脂で構成されていることを特徴とする請求項4記載のリグノセルロース系樹脂組成物の筐体射出成形方法。
【請求項6】
少なくともヘミセルロース、リグニン及びセルロースを含有するリグノセルロース系材料を粉砕して蒸気処理を行うことによってリグノセルロース系改質材が生成された前記リグノセルロース系材料を含むリグノセルロース系樹脂組成物であって、
40〜100重量部の(A)前記リグノセルロース系改質材が生成された前記リグノセルロース系材料と、
0重量部を超え60重量部以下の(B)ポリエステル系生分解性樹脂と、
前記(A)と前記(B)との混合物の100重量部に対して1〜10重量部の(C)オリゴマ系滑材とを含むことを特徴とするリグノセルロース系樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−37022(P2008−37022A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216287(P2006−216287)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人科学技術振興機構「プラスチック代替木質成形体」新技術開発委託、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(596046347)中日精工株式会社 (7)
【出願人】(000144740)株式会社山城精機製作所 (19)
【Fターム(参考)】