説明

リン回収方法及びリン回収システム

【課題】 高効率でのリンの溶出を可能にできるリン回収方法およびリン回収システムを提供する。
【解決手段】 本発明のリン回収システム100は、廃水に凝集剤を添加して生成した凝集汚泥からリンを溶出させるリン溶解槽9と、該溶出したリン溶液にジルコニウムメゾ構造体を添加して該構造体にリンを吸着するリン吸着反応槽11と、次いで該構造体からリンを溶出させるリン溶出槽12と、リン酸カルシウムとして回収するリン回収槽15とを有し、リン溶解槽9は、前記凝集汚泥にクエン酸を添加して前記リンを溶出させる。また、ジルコニウムメゾ構造体を添加して前記構造体に前記リンを吸着した後に、残ったクエン酸溶液を再び前記凝集汚泥に添加して前記リンを溶出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水からのリンを回収するリン回収方法及びリン回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リン資源は枯渇する懸念があり、その対応策の一つとして下水等のリンを含む廃水からリンを回収する技術が開発されている。代表的なリン回収技術として、ヒドロキシアパタイト(HAP)法、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)法が挙げられる。HAP法は廃液中のリン酸イオン(PO43-)とカルシウムイオン(Ca2+)及び水酸イオン(OH)が結合して生成するヒドロキシアパタイトCa10(OH)2(PO4)6の生成反応を利用して、液中のPO43-を結晶化させる方式である。本方式では、石灰や苛性ソーダを多量に添加することによってCa2+やOHを過飽和状態とする必要があり、また結晶化するHAPを付着させるための接触剤としてリン鉱石、骨炭等が使用されている。
【0003】
MAP法は廃液中の(PO43-)とアンモニウムイオン(NH4+)、マグネシウムイオン(Mg2+)の反応によって生成するリン酸マグネシウムアンモニウム(MgNH4PO4)の生成反応を利用して、PO43-を結晶化し回収する方法である。本方式では、塩化マグネシウムや苛性ソーダ等の薬剤を多量に添加してMg2+やOHを供給し液中で過飽和状態を作る必要がある。
【0004】
また、他の従来技術として吸着剤にジルコニウムフェライト系吸着剤を用いる例が提案されている(特許文献1及び特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2005−238084号公報
【特許文献2】特開2005−161219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、HAP法は反応速度が遅く反応槽が大きくなる問題があり、さらに連続通水処理時に接触剤が有機物や炭酸カルシウムで汚染して、結晶化後に回収された粒子のリン含有率が低くなる、純度が低下する等の問題があった。また、MAP法では、回収したMAPはリンとアンモニアを等モルずつ含有するのでリン酸アンモニウム系肥料の原料として用いる方法が検討されているが、再利用の用途が限定される問題があった。
【0006】
また、これらの方法は廃液処理設備から排出される固形分を殆ど含まない処理水に適用されることが一般的で、リン含有率が高く、しかも固形分も多い生下水のような有機性汚濁物質の多い廃水への適用は困難であった。リンの回収量を増大させるためには、リン濃度が高い廃水、すなわち未処理の廃水からのリン回収が必要であり、そうした技術の開発がリン回収における大きな課題であった。
【0007】
また、吸着法として、廃水に鉄とシリカを主成分とした凝集剤を添加し、生成した凝集汚泥を膜分離型メタン発酵槽で処理をしてリンを溶出させ、溶出したリン溶液にジルコニウムメゾ構造体を添加して該構造体にリンを吸着し、次いで膜分離型の反応器内で該構造体からリンを溶出させてリン酸カルシウムとして回収する方法も提案されている。
【0008】
しかしながら、この吸着法は、生下水のような有機性汚濁物質の多い廃水への適用が可能であり、HAP法やMAP法の課題をある程度解決しているが、凝集汚泥を膜分離型メタン発酵槽で処理をしてリンを溶出させる工程や、ジルコニウムメゾ構造体からリンを溶出させる工程が明確に説明されておらず、実現性に課題があった。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、高効率でのリンの溶出を可能にできるリン回収方法およびリン回収システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を踏まえて、本発明者等は陰イオン交換機能を有し、選択的にリン及び砒素を吸着するジルコニウムメゾ構造体(以下略称として「ZS」とも言う)をリン吸着材とした廃水からのリン回収システムの研究開発を行い本発明に至ったものである。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のリン回収方法は、廃水に凝集剤を添加して生成した凝集汚泥からリンを溶出させる第1溶出工程と、該溶出したリン溶液にジルコニウムメゾ構造体を添加して該構造体にリンを吸着する吸着工程と、次いで該構造体からリンを溶出させる第2溶出工程と、リン酸カルシウムとして回収する回収工程とを有し、前記第1溶出工程は、前記凝集汚泥にクエン酸を添加して前記リンを溶出させることを特徴とする。この構成によれば、凝集汚泥にクエン酸を添加してリンを溶出させることにより高効率でのリンの溶出を可能にできる。これによって、リン含有率が高く、しかも固形分も多い生下水のような有機性汚濁物質の多い廃水からの安定的なリン回収を実現できる。
【0012】
また、本発明のリン回収方法は、前記ジルコニウムメゾ構造体を添加して前記構造体に前記リンを吸着した後に、残ったクエン酸溶液を再び前記凝集汚泥に添加して前記リンを溶出させることを特徴とする。この構成によれば、クエン酸の使用量を削減してプロセスの経済性を向上させることができる。
【0013】
前記第2溶出工程は、アルカリ性の条件下で前記構造体から前記リンを溶出させることを特徴とする。この構成によれば、アルカリ性の条件下でリンを溶出させることで、効率の高いリン溶出を可能にできる。
【0014】
上記において、苛性ソーダを添加して前記アルカリ性の条件下で該構造体から前記リンを溶出させる。この構成によれば、効率良くリンを抽出させることができる。
【0015】
また、前記第2溶出工程は、クエン酸を添加して該構造体から前記リンを溶出させることもできる。この構成によれば、効率良くリンを溶出させることができる。
【0016】
本発明のリン回収方法は、前記第2溶出工程で使用した構造体を、前記吸着工程で再使用することを特徴とする。この構成によれば、リンを溶出させたジルコニウムメゾ構造体の吸着能力は、新しいジルコニウムメゾ構造体よりも低下しているが、ジルコニウムメゾ構造体の量を節減することができる。
【0017】
前記凝集剤は、鉄とシリカを主成分とした凝集剤であることが好ましい。この構成によれば、従来多用されてきたアルミニウム系凝集剤と較べて、藻類や有機色度成分の凝集性に優れ、低水温時においても高い処理効果を発揮できる。また、凝集反応においてリンを植物が利用しやすい形態で保持しており、リンを取り出しやすい特徴がある。
【0018】
本発明のリン回収システムは、廃水に凝集剤を添加して生成した凝集汚泥からリンを溶出させる第1溶出槽と、該溶出したリン溶液にジルコニウムメゾ構造体を添加して該構造体にリンを吸着する吸着槽と、次いで該構造体からリンを溶出させる第2溶出槽と、リン酸カルシウムとして回収する回収槽とを有し、前記第1溶出槽は、前記凝集汚泥にクエン酸を添加して前記リンを溶出させることを特徴とする。この構成によれば、凝集汚泥にクエン酸を添加してリンを溶出させることにより高効率でのリンの溶出を可能にできる。これによって、リン含有率が高く、しかも固形分も多い生下水のような有機性汚濁物質の多い廃水からの安定的なリン回収を実現できる。
【0019】
本発明のリン回収システムは、前記ジルコニウムメゾ構造体を添加して前記構造体に前記リンを吸着した後に、残ったクエン酸溶液を再び前記凝集汚泥に添加して前記リンを溶出させる構成を採用できる。この構成によれば、クエン酸の使用量を削減してプロセスの経済性を向上させている。
【0020】
前記第2溶出槽は、アルカリ性の条件下で前記構造体から前記リンを溶出させる。この構成によれば、アルカリ性の条件下でリンを溶出させることで、効率の高いリン溶出を可能にできる。
【0021】
上記において、苛性ソーダを添加して前記アルカリ性の条件下で該構造体から前記リンを溶出させる。この構成によれば、効率良くリンを抽出させることができる。
【0022】
また、前記第2溶出槽は、クエン酸を添加して該構造体から前記リンを溶出させることもできる。この構成によれば、効率良くリンを溶出させることができる。
【0023】
本発明のリン回収システムは、前記第2溶出槽で使用したジルコニウムメゾ構造体を、前記吸着槽で再使用する構成を採用できる。この構成によれば、リンを溶出させたジルコニウムメゾ構造体の吸着能力は、新しいジルコニウムメゾ構造体よりも低下しているが、ジルコニウムメゾ構造体の量を節減することができる。
【0024】
前記凝集剤は、鉄とシリカを主成分とした凝集剤であるのが好ましい。この構成によれば、従来多用されてきたアルミニウム系凝集剤と較べて、藻類や有機色度成分の凝集性に優れ、低水温時においても高い処理効果を発揮できる。また、凝集反応においてリンを植物が利用しやすい形態で保持しており、リンを取り出しやすい特徴がある。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、高効率でのリンの溶出を可能にできるリン回収方法およびリン回収システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の最良の実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0027】
始めに本発明で主要な役割を果たすジルコニウムメゾ構造体(ZS)について説明する。図1はジルコニウムメゾ構造体の構造を模式的に示したもので、2〜10nmの規則細孔を有し、表面積は1000m2/gにも達する。ZSは、ジルコニウム(Zr)源として硫酸ジルコニウム4水和物(Zr(SO4)4H2O)を、ミセル形成のための界面活性剤にはセチルトリメチルアンモニウムブロミド([C1633N(CH3)3]Brを用いて合成される。
【0028】
ZSはジルコニウムイオンと硫酸イオン、水酸基が構成成分となったヘキサゴナル構造体である。合成されたZSの化学式はZr(HSO4)(C1942N)0.5(OH)3.5・2H2Oで表され、白色の粉末であるが、粒状に成型もできる。表面には蜂の巣状の細孔が規則的に配列している。
【0029】
ZSは陰イオン吸着剤であり、リンと砒素を選択的に構造体内のHSO4やOHと交換する。リン酸溶液を用いた吸着実験では、3100〜3300μmol/gZS(リン換算の吸着量、pH4程度)が得られており、この吸着量はこれまで知られていたリン吸着剤(水酸化ジルコニウム)のそれよりも1.6倍も高く、リン吸着剤として非常に優れたものである。
【0030】
図2は本発明における、下水を対象とした吸着によるリン回収システムの構成図である。図2に示すように、リン回収システム100は、凝集沈殿池2、エアレーションタンク3、最終沈殿池4、汚泥貯留槽7、汚泥濃縮機8、リン溶解槽9、汚泥濃縮機10、リン吸着反応槽11、リン溶出槽12、中和槽13、ZS沈殿分離槽14およびリン回収槽15を有する。尚、リン溶解槽9が第1溶出槽、リン吸着反応槽11が吸着槽、リン溶出槽12が第2溶出槽をそれぞれ構成する。
【0031】
図2において、始めに下水処理工程を説明すると、リンを含む生下水(排水)1は凝集沈殿池2に流入し、凝集沈殿池2において大部分のリンが除去された下水はエアレーションタンク3に流入して、このエアレーションタンク3で活性汚泥処理により有機物が除去される。その後、浄化された下水は最終沈殿池4に入り、活性汚泥が沈降分離され下水処理水5が得られる。最終沈殿池4から抜出された活性汚泥は返送汚泥としてエアレーションタンク3に返されると共に、余剰汚泥6として抜出され、下水処理工程が完了することになる。
【0032】
次に、リン吸着と回収工程を説明すると、リン濃度3〜5mg/L(リン酸濃度で9〜15mg/L)の生下水1は凝集沈殿池2に流入し、ここでポリシリカ鉄凝集剤17が添加され凝集反応によって、リンが該凝集剤に結合した凝集汚泥が生成される。
【0033】
ポリシリカ鉄凝集剤は鉄とシリカを主成分とした凝集剤で、これまで多用されてきたアルミニウム系凝集剤と比べて、藻類や有機色度成分の凝集性に優れ、低水温時においても高い処理効果を発揮することが知られている。また、凝集反応においてリンを植物が利用しやすい形態で保持しており、リンを取り出しやすい特徴がある。
【0034】
この汚泥は凝集沈殿池2の底部に重力沈降するので、底部から凝集沈殿汚泥18として抜出され、一旦は汚泥貯留槽7に貯留される。この貯留された汚泥は水分を多量に含むので、できるだけ水分と汚泥を分離する必要があり、例えば遠心濃縮機のような汚泥濃縮機8によって水分が分離され、濃縮された凝集汚泥は次工程である、凝集沈殿汚泥18から結合したリンを溶出させるリン溶解槽9に送られる。リン溶解槽9には濃度20〜100mM/L程度のクエン酸19が添加され凝集汚泥からリンがリン酸(PO43-)として溶出する。
【0035】
ここで図3も引用して説明すると、図3はクエン酸添加後に溶出したリン酸濃度を時間経過と共に示したデータの一例であり、リン酸濃度は最大360mgPO43-/Lで、生下水1のリン酸濃度の30倍程度までリンが濃縮されることがわかる。
【0036】
さらに図4も引用して説明すると、図4はクエン酸の添加量とリン溶出率の関係を示しており、クエン酸の添加量が増えるとリン溶出率が0.75程度まで増大することを示している。従って、リン溶解槽9におけるリン溶出条件は図3及び図4に示したリン溶出特性に基づいて、適切な運転条件を設定すればよい。
【0037】
次に、リン酸、クエン酸、汚泥の混合液20は、汚泥を濃縮分離するために遠心濃縮機のような汚泥濃縮機10に送られ、液体と固形分が分離されてリン酸・クエン酸混合溶液22が得られる。残った、リンを殆ど含まない濃縮汚泥21は脱水後、焼却又は埋立て等の廃棄処分がなされる。ただし、このリン酸・クエン酸混合溶液22はまだ濁質成分を含む液体であり、純度の高いリンを回収するためには、さらにリン吸着工程が必要となる。そこで、この溶出したリン溶液22はリン吸着反応槽11に送液され、リン吸着反応槽11には選択的なリン吸着剤であるジルコニウムメゾ構造体(ZS)29が添加されてリンが吸着除去される。
【0038】
この吸着反応を図5も引用して説明すると、図5はpH7、温度28℃におけるZSの吸着等温線であり、数時間の反応時間において吸着量は350mg/gZS程度であった。また、リン酸以外のイオンが含まれていてもZSはリン酸を選択的に吸着することが分かっている。こうした優れたリン吸着能力を有するZS29を投入することによりリンの吸着と分離が可能であり、リン吸着反応槽11の方式、反応時間、ZS投入量等にもよるが、溶解しているリン酸の70〜80%を吸着分離することが可能である。
【0039】
リン吸着反応槽11の構造としては、通水形カラム方式、完全混合とZS沈降分離方式、完全混合とZS膜分離方式等を用いることができる。通水形カラム方式は吸着操作において一般に採用される方法で、直径数mmに成形したZS粒子を円筒形のカラムに数mの高さで充填し、上部からリン酸・クエン酸混合溶液22をゆっくり通過させて、ZS粒子にリン酸を吸着させる方法である。カラム内での流速はリン酸濃度、水温、目標とする回収率等を考慮して決めれば良い。
【0040】
完全混合とZS沈降分離方式は、完全混合槽にリン酸・クエン酸混合溶液22と粒子状又は粉末のZSを投入し、リン酸をZSに吸着させたのち、リン酸を含むZSを重力沈降で分離する方式であり、装置構成としては、完全混合槽と沈殿池を連結した構成が一般的である。
【0041】
さらに、完全混合とZS膜分離方式は、完全混合槽にリン酸・クエン酸混合溶液22と粒子状又は粉末のZSを投入し、リン酸をZSに吸着させたのち、リン酸を含むZSを膜で分離する方式であり、装置構成としては、完全混合槽とその槽内に設置した分離膜モジュール、あるいは完全混合槽と槽外に設置した分離膜モジュールからなる。分離膜としては有機平膜やチューブラー膜が望ましく、膜の孔径は0.1〜1.0μm程度が適切である。
【0042】
リン吸着反応槽11から取り出されたリンを吸着したZS23は、次にリンを溶出させる必要があることから、リン溶出槽12に送られる。リン溶出槽12では、アルカリ性の条件下でZSからリンを溶出させるのが良い。
【0043】
ここで図6も引用して説明する。図6は苛性ソーダ及びクエン酸によるZSからのリンの溶出を示している。苛性ソーダ添加によりpH13程度と強アルカリ性の条件下でリン酸溶出率80%程度が得られることがわかる。そして、pH11程度よりもpH13程度の強アルカリ性の条件下の方がリン酸溶出率が高いのが分かる。また、リン溶出槽12では、アルカリ性の条件下とは異なって、クエン酸を添加することでもZSからリンを溶出させることも可能である。図6から、pH13程度の苛性ソーダ添加に比べ、反応時間を要するが、クエン酸においてもZSからリンを溶出させることができることが分る。
【0044】
ここでさらに図7も引用して説明すると、図7はZSにおけるpHとリン溶出率の関係であり、pH13以上で高いリン酸溶出率が得られることを示している。これは、ZS内で、陰イオン交換反応によってリン酸イオンと(PO43-)と水酸基(OH)とが置換されるためである。さらに図6から、クエン酸を添加した場合も、24時間程度の長時間処理を行うと、同様にリン酸溶出率80%程度が得られることがわかる。
【0045】
したがって、リン溶出槽12では二つの方法があり、一つはアルカリ24として苛性ソーダ等が添加されてpH13程度でZSからリン溶出操作がなされる方法である。他の方法はクエン酸を添加してZSからリン溶出を行う操作である。
効率的には苛性ソーダ添加法を採用することが望ましい。苛性ソーダ添加法を用いた場合、リン溶出後の液体は強アルカリ性であるため、中和槽13に送られて硫酸、塩酸等の酸25により中和される。リン溶出槽12において、リン溶出後にこの中和操作を行うことも可能で、この場合は中和槽13を省略することができる。
【0046】
中和槽13で中和された液は続いてZS沈殿分離槽14に送られ、ここでZS粉末又は粒子は重力により容易に底部に沈降するので、ZS沈殿分離槽14では上澄水としてリン酸溶出液26が得られる。
【0047】
さらに、リン酸溶出液26はリン回収槽15に送られて、ここでは炭酸カルシウム又は塩化カルシウム等のカルシウム塩27が添加されて槽内にリン酸カルシウム16が析出し、リンがリン酸カルシウム16の結晶として回収されるのである。
【0048】
こうしたリン回収処理で使用されるZSはリン吸着反応槽11で再使用も可能である。図8も用いて説明すると、図8は新しいZSとpH13でリンを溶出させたZSの吸着等温線であり、pH13でリンを溶出させたZSのリン吸着能力は新しいZSのおよそ半分に低下しているが、まだ吸着能力が残っていることを示している。そこで、多くの場合、図2に示すように、一度使用したZSを再利用向けZS28としてZS沈殿分離槽14から取り出し、再度、リン吸着反応槽11に投入することがなされる。
【0049】
再使用であるため全体としてのリン吸着能力が不足することがあるが、その場合は不足量に対応して新しいZS29を追加投入して補う。こうしたZSは再使用後にリン吸着能力を殆ど失うので、廃棄ZS30として系外に排出されるのである。
【0050】
ところで、リン吸着反応槽11においてZSによりリンが吸着されZSが分離されるとクエン酸が残る。このクエン酸は再利用可能で、図9も用いて実施態様を説明すると、図9はクエン酸を再利用する場合のリン回収システム200の構成図で、図2に示した構成図と異なるのは、リン吸着反応槽11から再利用向けクエン酸31がリン溶解槽9に送られる点のみである。
【0051】
図9に示すように、ジルコニウムメゾ構造体を添加してこの構造体にリンを吸着した後に、残ったクエン酸溶液31をリン溶解槽9に戻して、再び凝集汚泥に添加してリンを溶出させることにより、リン溶解槽9において投入するクエン酸19の量を節減することができる。
【0052】
なお、再利用向けクエン酸31を繰り返し使用するとリン溶解槽9におけるリン溶解性能が低下してくるので、数回の使用の後、この再利用向けクエン酸31は廃棄処分される。
【0053】
上記実施形態によれば、従来から提案されていたジルコニウムメゾ構造体ZSによるリン吸着と、引き続いてのリン回収を、化学的に明確にし、具体的な処理フローを実現している。すなわち、廃水に鉄とシリカを主成分とした凝集剤を添加して生成した凝集汚泥からリンを溶出させる工程で、該凝集汚泥にクエン酸を添加してリンを溶出させることにより高効率でのリンの溶出を可能とした。また、ジルコニウムメゾ構造体を添加して該構造体にリンを吸着した後に、残ったクエン酸溶液を再び凝集汚泥に添加してリンを溶出させることによりクエン酸の使用量を削減してプロセスの経済性を向上させている。
【0054】
さらに、ジルコニウムメゾ構造体ZSからリンを溶出させる工程についても、アルカリ性の条件下でリンを溶出させることを化学的に明確にし、効率の高いリン溶出を可能にできる。こうした発明により、リン含有率が高く、しかも固形分も多い生下水のような有機性汚濁物質の多い廃水からの安定的なリン回収を実現することができる。
【0055】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】ジルコニウムメゾ構造体の構造を模式的に示した図である。
【図2】本発明における、下水を対象とした吸着によるリン回収システムの構成図である。
【図3】クエン酸添加後に溶出したリン酸濃度を時間経過と共に示したデータの一例を示す図である。
【図4】クエン酸の添加量とリン溶出率の関係を示した図である。
【図5】ジルコニウムメゾ構造体の吸着等温線を示した図である。
【図6】苛性ソーダ及びクエン酸によるジルコニウムメゾ構造体からのリンの溶出を示した図である。
【図7】ジルコニウムメゾ構造体におけるpHとリン溶出率の関係を示した図である。
【図8】新しいジルコニウムメゾ構造体とpH13でリンを溶出させたZSの吸着等温線であり、
【図9】クエン酸を再利用する場合のリン回収システムの構成図である。
【符号の説明】
【0057】
1・・・生下水
2・・・凝集沈殿池
3・・・エアレーションタンク
4・・・最終沈殿池
5・・・下水処理水
6・・・余剰汚泥
7・・・汚泥貯留槽
8・・・汚泥濃縮機
9・・・リン溶解槽
10・・・汚泥濃縮機
11・・・リン吸着反応槽
12・・・リン溶出槽
13・・・中和槽
14・・・ZS沈殿分離槽
15・・・リン回収槽
16・・・リン酸カルシウム
17・・・ポリシリカ鉄凝集剤
18・・・凝集沈殿汚泥
19・・・クエン酸
20・・・リン酸、クエン酸、汚泥の混合液
21・・・濃縮汚泥
22・・・リン酸・クエン酸混合溶液
23・・・リンを吸着したZS
24・・・アルカリ
25・・・酸
26・・・リン酸溶出液
27・・・カルシウム塩
28・・・再利用向けZS
29・・・ジルコニウムメゾ構造体(ZS)
30・・・廃棄ZS
31・・・再利用向けクエン酸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水に凝集剤を添加して生成した凝集汚泥からリンを溶出させる第1溶出工程と、該溶出したリン溶液にジルコニウムメゾ構造体を添加して該構造体にリンを吸着する吸着工程と、次いで該構造体からリンを溶出させる第2溶出工程と、リン酸カルシウムとして回収する回収工程とを有し、
前記第1溶出工程は、前記凝集汚泥にクエン酸を添加して前記リンを溶出させることを特徴とするリン回収方法。
【請求項2】
前記ジルコニウムメゾ構造体を添加して前記構造体に前記リンを吸着した後に、残ったクエン酸溶液を再び前記凝集汚泥に添加して前記リンを溶出させることを特徴とする請求項1に記載のリン回収方法。
【請求項3】
前記第2溶出工程は、アルカリ性の条件下で前記構造体から前記リンを溶出させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のリン回収方法。
【請求項4】
苛性ソーダを添加して該構造体から前記リンを溶出させることを特徴とする請求項3に記載のリン回収方法。
【請求項5】
前記第2溶出工程は、クエン酸を添加して該構造体から前記リンを溶出させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のリン回収方法。
【請求項6】
前記第2溶出工程で使用した構造体を、前記吸着工程で再使用することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のリン回収方法。
【請求項7】
前記凝集剤は、鉄とシリカを主成分とした凝集剤であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載のリン回収方法。
【請求項8】
廃水に凝集剤を添加して生成した凝集汚泥からリンを溶出させる第1溶出槽と、該溶出したリン溶液にジルコニウムメゾ構造体を添加して該構造体にリンを吸着する吸着槽と、次いで該構造体からリンを溶出させる第2溶出槽と、リン酸カルシウムとして回収する回収槽とを有し、
前記第1溶出槽は、前記凝集汚泥にクエン酸を添加して前記リンを溶出させることを特徴とするリン回収システム。
【請求項9】
前記ジルコニウムメゾ構造体を添加して前記構造体に前記リンを吸着した後に、残ったクエン酸溶液を再び前記凝集汚泥に添加して前記リンを溶出させることを特徴とする請求項8に記載のリン回収システム。
【請求項10】
前記第2溶出槽は、アルカリ性の条件下で前記構造体から前記リンを溶出させることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のリン回収システム。
【請求項11】
苛性ソーダを添加して該構造体から前記リンを溶出させることを特徴とする請求項10に記載のリン回収システム。
【請求項12】
前記第2溶出槽は、クエン酸を添加して該構造体から前記リンを溶出させることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のリン回収システム。
【請求項13】
前記第2溶出槽で使用したジルコニウムメゾ構造体を、前記吸着槽で再使用することを特徴とする請求項8から請求項12のいずれかに記載のリン回収システム。
【請求項14】
前記凝集剤は、鉄とシリカを主成分とした凝集剤であることを特徴とする請求項8から請求項13のいずれかに記載のリン回収システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−221148(P2008−221148A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64078(P2007−64078)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】