説明

レドックス開始剤系によって硬化し、調節可能な可使時間を有する2成分以上の系、およびその使用

本発明は、レドックス開始剤系によって硬化し、調節可能な可使時間を有する2成分以上の系であって、A)0.8質量%〜69.94質量%の、混合物の重合によって得られるエマルジョンポリマー;B)30質量%〜99.14質量%の1つまたは複数エチレン性不飽和モノマー;C)0.05質量%〜10質量%のペルオキシド;ならびに場合によって追加の成分を含む系に関する。本発明は、成分A)および成分C)を一緒に貯蔵することができ、成分B)の少なくとも1つの成分を、成分A)およびC)とは別に貯蔵し、この別に貯蔵される成分B)の成分は、成分B)のこの成分の膨潤能が、ポリマーA)のポリマー固定活性剤e)が成分C)と反応できるほどポリマーA)について高くなるように選択されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックス開始剤系によって硬化し、調節可能な可使時間を有する二成分または多成分系、およびその使用に関する。
【0002】
特に、本発明は、レドックス開始剤系の活性剤成分をペルオキシド成分と一緒に貯蔵できる二成分もしくは多成分系に関する。有利には、モノマー成分の少なくとも1つの構成成分を除く本発明の二成分系の全ての構成成分は、系が使用されるまで一緒に貯蔵され、かかる貯蔵の間安定である。重合は、モノマー構成成分の添加によってのみ開始される。最後に、本発明は二成分もしくは多成分系の様々な使用にも関する。
【0003】
フリーラジカル重合性モノマーに基づき、レドックス開始によって硬化する二成分系は、以前から公知である。一般的に、レドックス成分を含む液体モノマーまたはモノマー混合物を、使用前に欠落したレドックス系成分または全てのレドックス系成分と混合する。
【0004】
加えて、モノマーまたはモノマー混合物中に溶解させたポリマーをさらに含む系が記載されている。さらに、液体モノマー、ビーズポリマーおよびレドックス開始剤系を混合して、使用前に高粘度組成物を形成する系は、特に歯科用途から公知である。
【0005】
対象に関する多くの開示のうち、一例として、DE4315788、DEA1544924およびDE2710548が挙げられる。これらの系はすべて、成分を混合した後の加工に利用可能な時間(可使時間)が限られるか、または系を使用する場合に、粉砕および摩擦力の形態でエネルギーを導入しなければならないという特有の欠点を有する。レドックス成分濃度を減少させることによって、ある程度まで可使時間を増大させることができるが、硬化はレドックス成分濃度が減少する際に悪影響を受けるので、制限を受ける。従来技術から得られる配合物のさらに別の欠点は、揮発性モノマー、例えばメチルメタクリレートの作業場における最高濃度(MAC値)を上回る可能性があることである。使用におけるこのような欠点には、揮発性の低いモノマーを使用することによっては、限られた程度までしか対抗することができない。その理由は、例えば、しばしば使用されるビーズポリマーを揮発性が低いモノマーによって十分な割合で膨潤できないからである。さらに、酸素による重合の阻害は、揮発性の低いモノマーを使用する場合に、メチルメタクリレートを使用する場合よりも顕著である。
【0006】
DE10051762は、良好な機械的特性を有するだけでなく、モノマーを全くまたはごく少量しか放出しないという利点をもたらし、また取り扱いが簡単で、高い貯蔵安定性を有する水成分散液に基づくモノマー−ポリマー系を提供する。このために、水性分散液の混合物は、その粒子が、それぞれの場合でレドックス成分のうちの1つを含むエチレン性不飽和モノマーで膨張された水性分散液の混合物を使用する。これらの膨張した水性系は、実質的に無制限の貯蔵安定性を有し、水が蒸発し、その後フィルムが形成された後にのみ硬化する。これらの系の欠点は、必要な水の蒸発による硬化が、特に比較的厚い層の場合に長時間かかり、大量の水は、例えば反応性接着剤などの一連の用途において妨げになることである。
【0007】
WO99/15592は、熱ゲル化および硬化後に良好な機械的特性を有するフィルムをもたらす反応性プラスチゾルを記載している。これらのプラスチゾルは、公知のベースポリマー(好ましくは噴霧乾燥エマルジョンポリマーの形態)、少なくとも1つの単官能性(メタ)アクリレートモノマーを含む反応性モノマー成分、可塑剤、および場合により、さらに架橋モノマー、フィラー、顔料および助剤含む。ベースポリマーは、コア/シェル構造を有することができ、0〜20%の極性コモノマーを含むことができる。プラスチゾルは、数週間貯蔵安定性であり、フィルムを形成するために高温(例えば、130℃)に加熱しなければならない。
【0008】
DE10339329A1は、エマルジョンポリマーもしくは複数のエマルジョンポリマーおよびエチレン性不飽和モノマーもしくはエチレン性不飽和モノマーのモノマー混合物を含み、レドックス開始剤系によって硬化し、調節可能な可使時間を有する二成分系を記載し、エマルジョンポリマーおよびモノマーもしくはモノマー混合物は、レドックス開始剤系の成分の1つを含むことができる。可使時間の調節は、レドックス開始剤系の成分の少なくとも1つをポリマー上に吸収させることによって達成される。ここで、低分子量開始剤成分は、乳化重合によって生成されるポリマー粒子中に物理的に封入される。封入されたポリマーが、二成分系が使用される場合にモノマーと接触するようになると、ポリマーは膨潤し、以前は封入および/または吸収されていた開始剤成分が放出され、その作用を示すことができる。ポリマー中に開始剤系の成分をこのように「封入」することによって、可使時間の非常に有利で多様な調節が可能になり、このような調節は、依然としていくつかの点で改善の余地がある。
【0009】
その1つは使用の信頼性である。過剰貯蔵、すなわち、過剰に長い貯蔵によって、ポリマー中に封入された成分の濃度は、例えば、移行になどによって低下する可能性がある。その結果、系の反応性は目的とする値と異なる可能性がある。
【0010】
一方、DE10339329A1に記載されている系において、封入された成分をポリマーに多量に負荷することは本来困難である。実際には、例えば、5%以上の比較的高い負荷は、活性剤の不完全な封入を引き起こす効果をもたらす。しかし、特に反応性である系が必要であることは事実であり、場合によって40%(w/w)まで、さらにはそれを上回る(>40%[w/w])、非常に高い負荷が望ましい。
【0011】
最後に、負荷の程度の長期信頼性は、特に高負荷でも保証されなければならない。
【0012】
加えて、使用中の信頼性は、多くの系においてますます重要になってきている。レドックス開始剤系の構成成分、すなわち、基本的に、活性剤成分およびペルオキシド成分は、全体的な系の硬化速度に必須である。言及される2つの特定の構成成分が硬化するまで別々に貯蔵されるならば、2成分のうちの一方の計量が不正確である危険性が常にあり、不適切に遅いか、または不適切に速い硬化反応につながる。
【0013】
言及し、前述した従来技術を考慮して、本発明の目的は、室温で硬化し、その可使時間を広い範囲内で調節でき、それでも所与の時点で、エネルギーまたは外部の機械的衝撃を導入することなく、迅速かつ完全に硬化する二成分もしくは多成分系を提供することであった。
【0014】
さらなる目的は、空気を排除することなく、薄層においても完全な硬化を達成することであった。
【0015】
本発明のさらに別の目的は、臭気の公害を最小限に抑え、空気中のモノマー濃度を、使用中の各モノマーに適用できる限度より低く保つことであった。
【0016】
さらなる目的は、多様な活性剤濃度を可能にすることであった。
【0017】
さらに、可使時間は、二成分または多成分系が貯蔵される時間と無関係にすべきである。したがって、可使時間は、多くの場合、特定の抑制剤濃度によって設定される。望ましくない条件下で長期間貯蔵した後、抑制剤は部分的に消費される可能性があり、したがって可使時間は望ましい時間よりも短くなる。
【0018】
とりわけ、前記範囲の特性をすべて満足でき、それでも取り扱いが簡単かつ安全である系を提供することも、本発明の目的であった。
【0019】
本発明の系に関する使用も記載した。
【0020】
本発明のさらなる目的は、多成分系の成分の数を可能な限り少なくすることであった。すなわち、可能ならば、3以上の多成分系を含む多成分系を回避し、可能ならば二成分系を使用することであった。
【0021】
最後に、活性剤とペルオキシドとの混合に関して、二成分に信頼性の高い計量を保証する系を提供することも、本発明の目的であった。活性剤のペルオキシドに対する比は、可能ならば、系全体の硬化の開始における困難を解消できるように、使用者が変更できないようにすべきである。
【0022】
本発明の目的または本発明の目的の従属的態様は、レドックス開始剤系によって硬化し、調節可能な可使時間を有し、
A)a)5〜99.9質量%の、20℃で<2質量%の水中溶解度を有し、単官能性(メタ)アクリレートモノマー、スチレンおよびビニルエステルからなる群から選択される1つ以上のモノマー;
b)0〜70質量%のモノマーa)と共重合できる1つ以上のモノマー;
c)0〜20質量%の、1つ以上の二重または多重ビニル性不飽和化合物;
d)0〜20質量%の、20℃で>2質量%の水中溶解度を有する1つ以上の極性モノマー;および
e)0.1〜95質量%の、式I、
【化1】

[式中、
−R1は、水素またはメチルであり;
−Xは、1〜18個の炭素原子を有し、ヒドロキシル基および/またはC1−C4アルコキシ基により一置換もしくは多置換されていてもよい直鎖もしくは分岐アルカンジイル基であり;
−R2は、水素、または1〜12個の炭素原子を有し、ヒドロキシル基もしくはC1−C4アルコキシ基によって一置換または多置換されていてもよい直鎖もしくは分岐アルキル基であり、ここでヒドロキシル基を(メタ)アクリル酸で部分エステル化することができる;
−R3、R4、R5、R6およびR7は、それぞれ互いに独立して、水素、または1〜8個の炭素原子を有し、ヒドロキシル基で一置換もしくは多置換することができる直鎖もしくは分岐アルキルまたはアルコキシ基であり;
ここで、基R3〜R7のうちの1つは互いに結合して、5〜7員環を形成することができ、フェニル基と縮合芳香族環系を形成することができる]の少なくとも1つの活性剤を含む混合物の重合によって得ることができる、0.8〜69.94質量%のエマルジョンポリマー
(ここで、活性剤e)は、共有結合によってエマルジョンポリマー中に組み込まれ;
エマルジョンポリマーA)は、コア−シェル重合の手法で、構成成分a)〜e)をコアとして第1ステップで重合し、続いて構成成分a)〜d)の混合物をシェルとして少なくとも1つのさらなるステップで重合させることによって得ることができ;
成分a)〜e)はあわせると、100質量%のエマルジョンポリマーの重合性構成成分になる);
B)30〜99.14質量%の1つ以上のエチレン性不飽和モノマー;
C)0.05〜10質量%のペルオキシド;場合により
D)0〜60質量%の不飽和オリゴマー;場合により
E)0〜2質量%の重合抑制剤;および場合により
F)0〜800質量部の助剤および添加剤
(ここで、構成成分A)+B)+C)+D)+E)の合計は100質量%になり、F)の量は、A)+B)+C)+D)+E)の合計100質量部に基づく)
を含む新規二成分もしくは多成分系によって達成され、
この系は、
成分A)および成分C)を一緒に貯蔵し、成分B)の少なくとも1つの構成成分を、成分A)およびC)とは別に貯蔵し、この別に貯蔵される成分B)の構成成分は、成分B)の構成成分のポリマーA)を膨潤させる能力が、ポリマーA)のポリマー固定活性剤e)が成分C)と反応できるために十分高くなるように選択されることを特徴とする。
【0023】
一般的に、成分A)およびC)は、本発明の系においては混合物中で一緒に存在する。このことは、特に意外である。というのも、活性剤成分e)およびペルオキシドC)が、通常は硬化を開始するレドックス開始剤系を形成するからである。貯蔵安定性は、活性剤成分をコア−シェルエマルジョンポリマー中に封入することによって達成され、ペルオキシド成分は、エマルジョンポリマーが十分高い膨潤能を有するモノマーによって膨潤された場合にのみ、活性剤成分と反応できる。
【0024】
本発明の重要な利点は、特に、二成分系で一般的には十分であることである。ペルオキシドおよび封入された活性剤成分が一緒に貯蔵されない場合は、3成分系に替える必要があるかもしれない。しかし、これは二成分系ほど有利ではない。ペルオキシドおよびモノマーを一緒に貯蔵することも、結果として満足できない貯蔵安定性をもたらすので、同様に好ましい代替法ではない。
【0025】
本発明の二成分もしくは多成分系において、成分A)、C)、D)、E)およびF)は、好ましくは貯蔵可能な混合物として存在し、一方、この混合物の成分B)を使用前に混合する。
【0026】
一方、ポリマーA)のコアと共有結合する活性剤成分e)がペルオキシド成分C)と反応できるようになる程度までエマルジョンポリマーA)を膨潤させるために十分高い膨潤能を有する成分B)の1つの構成成分のみを除いて、成分A)、B)、C)、D)、E)およびF)を一緒に貯蔵するのも好適である。このようにして、例えば、系の硬化時間を変えずに、1つのモノマーの機能として可使時間を調節することが可能である。これによって、本発明の系の広範囲の用途が開ける。
【0027】
本発明の二成分もしくは多成分系は、接着剤、注型用樹脂、フロアコーティング、反応性ペグ用組成物、歯科組成物またはシーリング組成物において非常に有利に使用できる。
【0028】
本発明の組成物によって、広範囲の濃度の活性剤(変動範囲)が実現される。
【0029】
特に有利な点は、成分A中の高い活性剤濃度で、使用前に二成分もしくは多成分系中に混合しなければならないAは、それほど多くなくてよいことである。
【0030】
様々な反応性が可能であることも有利である。一定の成分Aの添加量で、反応性は、A中の活性剤の様々な濃度によって変わり得る。
【0031】
成分Aは
a)5〜99.9質量%の、20℃で<2質量%の水中溶解度を有し、単官能性(メタ)アクリレートモノマー、スチレンおよびビニルエステルからなる群から選択される1つ以上のモノマー;
b)0〜70質量%の、モノマーa)と共重合できる1つ以上のモノマー;
c)0〜20質量%の、1つ以上の二重もしくは多重ビニル性不飽和化合物;
d)0〜20質量%の、20℃で>2質量%の水中溶解度を有する1つ以上の極性モノマー;および
e)0.1〜95質量%の少なくとも1つの活性剤
(構成成分a)〜e)を合計すると100質量%の混合物の重合性構成成分となる)を含む混合物の重合によって得ることができ、結果として、エマルジョンポリマー=成分Aが得られ、
ここで、
e1)活性剤は、式I
【化2】

[式中、
1は、水素またはメチルであり;
Xは、1〜18個の炭素原子を有し、ヒドロキシル基および/またはC1−C4アルコキシ基によって一置換もしくは多置換されていてもよい直鎖もしくは分岐アルカンジイル基であり;
2は、水素、または1〜12個の炭素原子を有し、ヒドロキシル基もしくはC1−C4アルコキシ基によって一置換もしくは多置換されていてもよい直鎖もしくは分岐アルキル基であり;
3、R4、R5、R6およびR7は、それぞれ互いに独立して、水素、または1〜8個の炭素原子を有し、ヒドロキシル基によって一置換もしくは多置換されていてもよい直鎖もしくは分岐アルキルもしくはアルコキシ基であり、ヒドロキシル基は、(メタ)アクリル酸によって部分エステル化することができ;
基R3〜R7のうちの2つは互いに結合して、5〜7員環を形成し、フェニル基と縮合芳香族環系を形成することができる]の化合物であり;そして
e2)活性剤e)は共有結合によってエマルジョンポリマー中に組み入れられ;
ここで、ポリマーA)は、コア−シェル重合の手法で、構成成分a)〜e)をコアとして第1ステップで重合させ、続いて構成成分a)〜d)の混合物をシェルとして少なくとも1つのさらなるステップで重合することによって得ることができる。
【0032】
(メタ)アクリレートという表記は、ここおよび本発明全体の両方で、メタクリレート、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、およびアクリレート、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレートの両方、ならびに二者の混合物を指す。
【0033】
エマルジョンポリマー=成分A)は、好ましくは、(メタ)アクリレートモノマーならびにスチレンおよび/またはスチレン誘導体および/またはビニルエステルから本質的に構成される。
【0034】
少なくとも80%のメタクリレートおよびアクリレートモノマーから構成されるのが特に好ましく、メタクリレートおよびアクリレートモノマーだけで構成されるのが非常に好ましい。
【0035】
20℃で<2質量%の水中溶解度を有する単官能性メタクリレートおよびアクリレートモノマー(成分Aa))の例は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、3,3,5−トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートである。有機化合物の水中溶解度を決定する方法は、当業者に周知である。
【0036】
本発明に関して、スチレン誘導体とは、例えば、メチルスチレン、クロロスチレンまたはp−メチルスチレンである。ビニルエステルの例は、酢酸ビニルおよび比較的長鎖の誘導体、例えばビニルバーサテートである。
【0037】
メタクリレートモノマー、特にメチルメタクリレートを組み入れて、比較的高いガラス転移温度を達成し、側鎖中に>4個の炭素原子を有するメタクリレートおよびアクリレートを組み入れて、ガラス転移温度を下げることが好ましい。モノマーを有利には組み合わせて、その結果、エマルジョンポリマーA)が乾燥によって単離される場合、ガラス転移温は60℃超、好ましくは80℃超、特に100℃超になる。ガラス転移温度を、EN ISO11357にしたがって測定する。エマルジョンポリマーA)を水性分散液として二成分または多成分系に添加する場合、ガラス転移温度はさらに低くなる可能性がある。モノマーB)に対して十分な耐膨潤性を得るためには、室温よりも高いガラス転移温度が通常は有利である。30℃超、特に好ましくは40℃、特に60℃超が好ましい。
【0038】
これは、室温よりも低いガラス転移温度が特定の場合において有利でないことを意味する訳ではない。これは、例えば、成分B)において使用されるモノマーの溶媒能が低く、膨潤に時間がかかりすぎる場合に当てはまる。
【0039】
ホモポリマーのガラス転移温度が公知であるならば、コポリマーのガラス転移温度は、Fox式:
【数1】

によって第1近似まで計算できる。
【0040】
この式において:Tは、コポリマーのガラス転移温度(K)であり、TgA、TgB、TgC等は、モノマーA、B、Cなどのホモポリマーのガラス転移温度(K)であり、wA、wB、wC等は、ポリマー中のモノマーA、B、Cなどの質量分率である。
【0041】
ポリマーのガラス転移温度が高いほど、使用前に添加されるモノマーによる膨潤に対する耐性が大きくなり、したがって可使時間が長くなる。同様に、ポリマーのモル質量の増加/分子量の増加は、一般的に耐膨潤性を増大させる。
【0042】
この点に関して、特に好適なポリマーは、a)が1つ以上のメタクリレートモノマーおよび/またはアクリレートモノマーを含むことを特徴とする。a)はメチルメタクリレートであるのが非常に有利である。
【0043】
成分Ab)の例は、無水マレイン酸、無水イタコン酸、ならびにイタコン酸およびマレイン酸のエステルである。エマルジョンポリマー中のこれらの割合は、70質量%までであり、0〜30質量%、特に、0〜10質量%が好ましい。成分Ab)を除外するのが特に好ましい。
【0044】
比較的高率の二不飽和および/または多不飽和モノマー(クロスリンカー=成分Ac))を組み入れることによって、配合物において達成可能な膨潤度が制限され、ナノスケールレベルでの不均一なポリマーになる可能性がある。これは、あらゆる場合において不利であるわけではないが、好ましくは求めない。このために、多不飽和モノマーの含有量は、成分A)に対して、20質量%に制限され、さらに好ましくは10質量%未満、特に好ましくは2質量%未満、特に0.5質量%未満であるか、または多不飽和モノマーを完全に除外する。
【0045】
本発明に関して有効に使用できる多不飽和モノマー(クロスリンカー)としては、特に、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートおよびジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートおよびこれらの高級同族体、1,3−および1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレートもしくはエトキシル化トリメチロールプロパンの(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレートおよび/またはアリル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0046】
耐膨潤性は、極性モノマー(成分Ad))、例えばメタクリルアミドまたはメタクリル酸をエマルジョンポリマー中に配合することによって調節することもできる。耐膨潤性は、メタクリルアミドまたはメタクリル酸の量が増加するにつれて増大する。
【0047】
さらに別の極性モノマーの例は、アクリル酸、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、イタコン酸、マレイン酸またはN−メタクリロイルオキシエチルエチレン尿素およびN−メタクリロイルアミドエチルエチレン尿素である。N−メチロールアクリルアミドまたはN−メチロールメタクリルアミドおよびこれらのエーテルも、これらの割合が分散粒子の架橋にかかわらず、十分容易に膨潤でき、重合の開始が損なわれないように限定されている限り、想定できる。
【0048】
N−メチロールアクリルアミドまたはN−メタクリルアミドの割合は、好ましくは成分A)に対して10質量%を超えない。5質量%未満、特に好ましくは2質量%未満、特に0質量%の含有量が好ましい。
【0049】
さらに別の極性モノマーは、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アルコキシポリエチレングリコールメタクリレートの同族体、アルコキシポリプロピレングリコールメタクリレートの同族体、メタクリロイルオキシポリエチレンおよびメタクリロイルオキシポリプロピレングリコールの同族体、ならびにビニルオキシポリエチレンおよびビニルオキシポリプロピレングリコールの同族体である。言及される全てのモノマーは、エチレンおよびプロピレングリコール繰り返し単位の混合形態で存在することもできる。重合度は、2〜150、好ましくは2〜25である。アルコキシ基は、まず、メチル、エチルおよびブチル基である。比較的長いアルキル鎖、例えばC18も可能であるが、好適ではない。メチル基が特に好ましい。
【0050】
極性モノマーの割合は、第1に、配合物の所望の可使時間に依存するが、ポリマーのガラス転移温度にも関連する。ガラス転移温度が低いほど、特定の耐膨潤性を達成するために必要な極性モノマーの割合が高くなる。さらに、極性モノマーの割合は、配合物中で使用されるモノマーBの使用されるモノマーBの溶媒力に適合しなければならない。
【0051】
一般的に、極性モノマーの割合は、成分A)に対して、0〜20質量%の範囲、好ましくは1〜10質量%、特に好ましくは2〜5質量%、特に、3〜5質量%である。例えば数分などの短い可使時間が望ましいか、または成分B)中のモノマーの溶媒力が低いならば、含有量を2%未満に限定するか、または極性モノマーを完全に除外することが有利である。
【0052】
メタクリルアミドおよびアクリルアミドならびにメタクリル酸およびアクリル酸が特に有効であり、したがって、長い可使時間が求められる場合に好適である。メタクリルアミドまたはアクリルアミドとメタクリル酸またはアクリル酸との3:1〜1:3の質量比での組み合わせが特に好適である。
【0053】
本発明の目的に関して有効に使用できる成分Ae)は、前記一般式Iに対応する。
【0054】
本発明の開示に関して、1〜18個の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐アルカンジイル基は、1〜18個の炭素原子を有する非分岐もしくは分岐炭化水素基、例えば、メタンジイル−(=メチレン基)、エタンジイル、プロパンジイル、1−メチルエタンジイル、2−メチルプロパンジイル、1,1−ジメチルエタンジイル、ペンタンジイル、2−メチルブタンジイル、1,1−ジメチルプロパンジイル、ヘキサンジイル、ヘプタンジイル、オクタンジイル、1,1,3,3−テトラメチルブタンジイル、ノナンジイル、イソノナンジイル、デカンジイル、ウンデカンジイル、ドデカンジイルまたはヘキサデカンジイル基である。
【0055】
1〜8個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基という用語は、本発明に関しては、例えば、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、2−メチルブチル、1,1−ジメチルプロピル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、または1,1,3,3−テトラメチルブチル基などの基を意味する。
【0056】
1〜12個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基という用語は、本発明に関しては、前記の1〜8個の炭素原子を有する基、ならびに例えば、ノニル、イソノニル、デシル、ウンデシルまたはドデシル基を意味する。
【0057】
1−C4アルコキシ基という用語は、本発明に関しては、炭化水素基が、1〜4個の炭素原子を有する分岐もしくは非分岐基であるアルコキシ基、例えば、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル、2−メチルプロピルまたは1,1−ジメチルエチル基を意味する。
【0058】
1〜8個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルコキシ基という用語は、本発明に関して、炭化水素基が1〜8個の炭素原子を有する分岐もしくは非分岐炭化水素基であるアルコキシ基、例えば、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、2−メチルブチル、1,1−ジメチルプロピル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、または1,1,3,3−テトラメチルブチル基を意味する。
【0059】
式(I)に示すように、可能な活性剤成分Ae)は、一般的に、(メタ)アクリロイル官能化アミン誘導体である。活性剤または促進剤成分は、一般的に、修飾アミン、例えば2−N−(エチルアニリノ)エタノールまたは2−N−(エチルアニリノ)プロパノールから生成され、これらのアミンを、重合性促進剤/活性剤成分に、好ましくは(メタ)アクリレート基を導入することによって変換する。対応して、例えばm−トルイジンおよびキシリジン誘導体またはさらに別の誘導体を活性剤または促進剤成分を生成させるための出発物質として使用することも可能である。
【0060】
好適な活性剤/促進剤成分Ae)としては、特に、次の種類の化合物:N−((メタ)アクリロイル(ポリ)オキシアルキル)−N−アルキル−(o,m,p)−(モノ、ジ、トリ、テトラ,ペンタ)アルキルアニリン、N−((メタ)アクリロイル(ポリ)オキシアルキル)−N−(アリールアルキル)−(o,m,p)−(モノ、ジ、トリ、テトラ、ペンタ)アルキルアニリン、N−((メタ)アクリロイル(ポリ)オキシアルキル)−N−アルキル−(o,m,p)−(モノ、ジ、トリ、テトラ、ペンタ等)アルキルナフチルアミン、N−((メタ)アクリルアミドアルキル)−N−アルキル−(o,m,p)−(モノ、ジ、トリ、テトラ、ペンタ)アルキルアニリンが挙げられる。さらに別のアミンの例は、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3−ジメチルアミノ−2,2ジメチルプロピル(メタ)アクリレート、tert−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ビニルイミダゾールおよびジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドである。N−((メタ)アクリロイルオキシエチル)−N−メチルアニリン、N−((メタ)アクリロイルオキシプロピル)−N−メチルアニリン、N−((メタ)アクリロイルオキシプロピル)−N−メチル−(o,m,p)−トルイジン、N−((メタ)アクリロイルオキシエチル)−N−メチル−(o,m,p)−トルイジン、N−((メタ)アクリロイルポリオキシエチル)−N−メチル−(o,m,p)−トルイジンが特に好ましい。これらの物質を、個々に用いるか、またはこれらの2つ以上の混合物として用いる。
【0061】
本発明に関して特に好適なエマルジョンポリマーは、メタクリロイル官能化物質、すなわち、R1がメチルである式(I)の化合物である。
【0062】
さらに好適な実施形態において、ポリマーは、式(I)中のXがエタンジイル、すなわちエチレン基−CH2−CH2基であることを特徴とする。
【0063】
もう一つ別の特に好適な実施形態において、エマルジョンポリマーは、式(I)中のXが、ヒドロキシル置換プロパンジイル基、すなわち、2−ヒドロキシプロピレン基−CH2−CH(OH)−CH2であることを特徴とする。
【0064】
さらなる好適な活性剤は、式(I)中のR2が、メチル、エチルおよび2−ヒドロキシエチルからなる群から選択される場合に得られる。
【0065】
e1)は好ましくは、(メタ)アクリロイル基を1つだけ含む。R2中のヒドロキシル基を(メタ)アクリル酸で部分エステル化する結果として複数の不飽和が存在することが、好ましくはないが可能であり、これは合成において必ずしも完全に回避できるわけではない。例えば架橋度が高すぎるために、成分B)中でエマルジョンポリマーの膨潤可能性が不十分であることによって、エマルジョンポリマーA)の二成分または多成分系における使用可能性が損なわれない限り、このような架橋構造の含有量は重要ではない。典型的には、ポリマー組成物に対して5質量%未満の多不飽和活性剤モノマーの割合は必ずしも禁じられないが、3質量%未満、特に1質量%未満が好ましい。しかし、さらに高い含有量は排除されない。当業者は、例えばこれを用いて製造されるエマルジョンポリマーA)が所望の時間で、二成分もしくは多成分系中で重合を開始するかどうか、および重合が迅速かつ完全に進行するかどうか、およびポリマーが所望の特性を有するかどうかを実験的に決定することによって、モノマーが好適であるかどうかを容易に決定できる。
【0066】
基R3〜R7の1つがメチルであり、一方、残りの4つの基がそれぞれ水素であるポリマーが同様に活性剤として好ましい。
【0067】
さらに、式(I)中の基R3〜R7のうちの2つがメチルであり、一方、残りの3つの基がそれぞれ水素であることを特徴とするポリマーが有利である。
【0068】
成分A)中の重合性活性剤Ae)の割合は、0.1〜95質量%である。非常に高い割合、例えば、5〜60質量%、特に好ましくは10〜60質量%、特に20〜50質量%が好ましく選択される。上限は、乳化重合における選択された活性剤の挙動によって決定される。当業者は、許容できない量の凝塊が形成されるか、またはポリマー中に非常に高い残留量のモノマーが残存するほど高い割合でないことを確実にするであろう。配合される量が増加するにつれて活性剤の比活性が減少することも起こり得る。重合性活性剤は、高価なモノマー成分である傾向にあるので、当業者は非常に高い配合量と良好な経済性の間で妥協点を見いだそうとする。
【0069】
エマルジョンポリマーA)は、本発明に関して、コア−シェルポリマーである。
【0070】
ここで、コア−シェルポリマーは、2段または多段乳化重合によって製造されたポリマーであって、コア−シェル構造が、必ずしも、例えば電子顕微鏡法によって示されなくてもよい。重合性活性剤がコア中にのみ、すなわち第一段中に組み入れられる場合、このような構造は、活性剤が十分な膨潤が起こるまでペルオキシドにとって利用可能でなく、かくして時期尚早の重合が防止されることに貢献する。本発明の特定の実施形態において、極性モノマーはシェルに限定されるが、コアおよびシェルは、それ以外は、コア中の重合性活性剤に関係なく同じ構造を有する。もう一つ別の実施形態において、コアおよびシェルは、モノマー組成に関して著しく異なり、モノマー組成は、例えば、各ガラス転移温度に影響を及ぼす。この場合、シェルのガラス転移温度がコアのガラス転移温度を超えるのが有利であり、好ましくは60℃超、特に好ましくは80℃超、特に、100℃超である。加えて、この実施形態においても、極性モノマーをシェルに限定することができる。特に有利な特性は、特にコア−シェル構造によって達成される。これらの特性としては、特に、シェルまたは複数のシェルによって、活性剤をペルオキシドと時期尚早に接触することからより良好に保護することが挙げられる。活性剤モノマーは好ましくはコア中に組み入れられる。目的は、同様に、硬化したポリマーをより柔軟性にすることである。このような場合、コアは比較的低いガラス転移温度を付与される。より高いガラス転移温度を有するシェルは、所望の耐膨潤性および場合により固体としての単離を保証する働きをする。コアのシェルに対する質量比は、活性剤がどの程度よく保護されるか、またはこの構造の結果としてどのような効果が予想されるかによって変わる。原則として、1:99〜99:1の範囲であり、すなわち、エマルジョンポリマーA)の機能、すなわち、二成分または多成分系の重合を所望の方法で活性化することが、悪影響を受けない限り、一般的に重要ではない。
【0071】
活性剤がシェルによって保護されるならば、シェルの割合は、一般的に、エマルジョンポリマー中で高率の活性剤を可能にするために必要な寸法に限定される。
【0072】
特定の効果、例えば、低ガラス転移温度を有するコアポリマーによる、硬化したポリマー系の軟化が、構造の結果として達成されるならば、コア/シェル比は、所望の効果に適合する。当業者は、通常、シェルの割合を10〜50質量%、好ましくは20〜40%質量%、特に25〜35質量%に設定する。
【0073】
これに関して、本発明は、本発明のエマルジョンポリマーを製造する方法も提供し、この方法においては、成分A)の構成成分a)〜e)を水性エマルジョン中で重合させる。
【0074】
乳化重合を、一般的に当業者に公知の方法でおこなう。乳化重合を実施する方法は、一例として、EP0376096B1に記載されている。
【0075】
重合性活性剤Ae)とレドックス系を形成しない開始剤を選択することが好ましい。好適な開始剤は、例えば、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)のナトリウム塩などのアゾ開始剤である。
【0076】
成分A)の固体は、公知の方法によって分散液から得ることができる。これらの方法としては、噴霧乾燥、吸引濾過および乾燥を伴う凍結凝固ならびに押出機を用いた脱水が挙げられる。ポリマーは好ましくは噴霧乾燥によって得られる。
【0077】
しかし、本発明に関して、成分A)が単離されないのも好ましい。ある程度の量の水は、一般的に所望の用途を妨害しないので、成分A)を水性分散液として系に添加することもできる。
【0078】
質量平均分子量MWとして表された成分A)のモル質量は、耐膨潤性にある程度まで影響を与える。高い質量平均分子量MWは、耐膨潤性を増大させる傾向があり、一方、より低い質量平均分子量MWは耐膨潤性を減少させる。したがって、所望の可使時間は、特に、当業者が高モル質量を選択するか、またはむしろ低いモル質量を選択するかを決定する際の重要な因子である。
【0079】
モル質量により特定の効果が得られないならば、当業者は、モル質量MWを10000g/モル〜5000000g/モル、好ましくは50000g/モル〜1000000g/モル、非常に好ましくは100000g/モル〜500000g/モルの範囲に設定する。モル質量は、ゲル透過クロマトグラフィーによって決定される。測定は、THF中で行い、PMMAは較正基準としての働きをする。
【0080】
耐膨潤性は、粒度の選択によっても調節することができる。粒径が大きいほど、膨潤率は低くなる。
【0081】
成分A)の第1粒度は、一般的に、50nm〜2ミクロン、好ましくは100nm〜600nm、非常に好ましくは150nm〜400nmの範囲である。粒度は、Mastersizer 2000 Version 4.00を用いて測定する。
【0082】
本発明の方法の特に好適な変形において、結果として得られるポリマーにおいて、少なくとも1つのシェルでガラス転移温度TGSがコアのガラス転移温度TGCよりも高くなるようにコアの構成成分a)〜e)およびシェルの構成成分a)〜d)を選択し、ガラス転移温度TGは、EN ISO11357にしたがって決定する。
【0083】
さらなる方法の変形は、結果として得られるポリマーにおいて、少なくとも1つのシェルのガラス転移温度TGSが80℃より高く、好ましくは100℃よりも高くなるようにシェルの構成成分a)〜d)を選択し、ガラス転移温度TGSは、EN ISO11357にしたがって決定する。
【0084】
乳化重合は、原則として、バッチ重合またはフィード流れ重合としておこなうことができ、フィード流れ重合が好適である。ミニエマルジョン重合によってA)を製造することも同様に可能である。手順は、一般的に当業者に公知である。
【0085】
成分A)、B)、C)、D)、E)およびF)を含む配合物の可使時間は、成分B)中で使用されるモノマーの膨潤能によって影響を受ける可能性がある。メチル(メタ)アクリレートは高い膨潤能を有し、したがって可使時間が比較的短くなるが、さらに疎水性が高いモノマー、例えば1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、および高分子量を有するモノマー、例えばエチルトリグリコール(メタ)アクリレートは、一般的に可使時間を増大させる。
【0086】
原則として、本発明に関してある膨潤作用を有する様々なモノマーを使用することが可能である。使用されるモノマーを、成分A)の膨潤能にしたがって選択し、使用することが重要である。ここで、本発明者らの知見を有する当業者は、2、3の慣例的試験を用いて成分B)を確実に成分A)と合致させ、所望の可使時間を有する系を提供することができる。
【0087】
モノマーとして、原則的に、全てのメタクリレートおよびアクリレートモノマーおよびスチレンならびにこれらの混合物を使用することが可能である。わずかな他のモノマー、例えば、酢酸ビニル、ビニルバーサテート、ビニルオキシポリエチレングリコール、マレイン酸およびフマル酸ならびにこれらの無水物またはエステルは、これらが共重合を妨害しない限り可能であるが、好ましくない。モノマー選択の基準は、溶媒力、重合収縮、基体への接着、蒸気圧、毒性および臭気である。(メタ)アクリレートの例は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、3,3,5−トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、メチルもしくはエチルトリグリコールメタクリレート、ブチルジグリコールメタクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートおよびジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートおよびこれらの高級同族体、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートおよびこれらの高級同族体、1,3−および1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、3〜10モルのエチレンオキシドを含むエトキシル化トリメチロールプロパンのトリ(メタ)アクリレート、2〜20モルのエチレンオキシド、好ましくは2〜10モルのエチレンオキシドを含むエトキシル化ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート、および/または1〜15個のエチレンオキシド単位を有するポリエチレングリコールジメタクリレートおよびアリル(メタ)アクリレートである。さらなる例は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、マレイン酸およびコハク酸のヒドロキシエチルメタクリレートとのモノエステルおよびヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのリン酸エステルであり、その割合は通常少ない。
【0088】
成分B)に関して、特に、エチルトリグリコールメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、3〜10モルのエチレンオキシドを含むエトキシル化トリメチロールプロパンのトリメタクリレート、2〜10モルのエチレンオキシドを含むエトキシル化ビスフェノールAのジメタクリレートおよび1〜10個のエチレンオキシド単位を有するポリエチレングリコールジメタクリレートからなる群から選択される1つ以上の化合物が好ましい。
【0089】
140g/モル超、特に好ましくは165g/モル超、特に、200g/モル超の分子量を有する(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0090】
メタクリレートは、毒性の理由からアクリレートよりも好適である。
【0091】
低い膨潤率による長い可使時間とは別に、高分子量を有するモノマーには、低放出量のさらなる利点がある。一方、これらの粘度は、一般的にモル質量とともに増加し、エマルジョンポリマーの溶媒力は低下するので、特にポリマーまたはオリゴマーが相当な割合で同時に使用される場合、妥協点を見いださなければならない。
【0092】
ペルオキシドC)は、レドックス系において活性剤のパートナーである。その割合は、一般的に、0.05〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。0.5〜5質量%の割合が通常選択され、好ましくは0.5〜3質量%、特に、0.5〜2質量%が選択される。ペルオキシドの割合を選択する際に重要な因子は、目的の用途では、完全な硬化が所望の時間で起こること、および硬化した系が用途に適切な特性を有することである。
【0093】
ペルオキシドは、通常、例えば、可塑剤もしくは水または他の媒体中で安定化した形態で存在する。
【0094】
本発明に関して、ペルオキシド開始剤は、特に好ましくは有機相中で存在する。
【0095】
このペルオキシド配合物の典型的なペルオキシド含有量は、20〜60質量%である。
【0096】
可能なペルオキシドは、特に好ましくは過酸化ジベンゾイルおよびジラウリルペルオキシドである。これらの2つのペルオキシドの水性相(単独または互いの混合物)、または個別に言及されていないさらに別のペルオキシド化合物がさらに有利である。
【0097】
さらなる変形は、ペルオキシドをエマルジョンポリマー(成分C’)中に吸収させることである。本発明のさらなる実施形態において、成分Cはしたがってペルオキシドを含むエマルジョンポリマー(成分C’)を含む。成分C’のエマルジョンポリマーは、成分Aと同じか、または異なる構造を有し得るが、コモノマーとして重合性活性剤を有さない。成分C’の典型的なペルオキシド含有量は、20質量%未満、特に10質量%未満である。
【0098】
全ての成分を混合した後、2つの成分AおよびC’のポリマー粒子が膨潤した場合にのみ、重合が開始する。
【0099】
エマルジョンポリマーAおよびC’が同じ組成を有するか、または異なる組成を有するかは、不適合性が悪影響を及ぼさない限り、一般には重要ではない。
【0100】
系のオリゴマー(成分D))として、不飽和ポリエステル、およびポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、またはポリカーボネートジオールに基づくポリウレタン(メタ)アクリレート、ならびにこれらの混合物を使用することが可能である。さらに、アクリロニトリルおよびブタジエンに基づくビニル末端プレポリマーを使用できる。エポキシド(メタ)アクリレートならびに、例えば(メタ)アクリレートの多官能性メルカプタンの存在下での重合によって得られるような星状コポリマーを使用することも可能である。
【0101】
オリゴマーは好ましくは多不飽和である。
【0102】
ポリアクリレート、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネートまたは対応するコポリマーに基づくポリマーも使用できる。これらは、飽和または不飽和のいずれかでありえる。混合比および使用量は、所望の用途に依存する。ポリマーおよびその割合は、一般的に、混合物の粘度が悪影響を受けないように選択される。
【0103】
不飽和オリゴマーのモル質量は、典型的には、500〜20000、特に1000〜5000g/モルである。飽和ポリマーは、典型的には、20000g/モルを超えるモル質量、例えば50000〜200000g/モルのモル質量を有する。モル質量は、全ての場合で質量平均分子量である。
【0104】
重合抑制剤(成分E))は、場合によって、成分B)、D)、E)およびF)の混合物の十分な貯蔵安定性を保証するために必要とされる。抑制剤の作用様式は、通常、これらが重合中に発生するフリーラジカルのフリーラジカルスカベンジャーとして作用することである。さらなる詳細は、関連する専門文献、特に、Roempp−Lexikon Chemie;Editors:J.Falbe,M.Regitz;Stuttgart,New York;10th Edition(1996);keyword"Antioxidantien"、およびこの文献で言及される文献で見いだすことができる。
【0105】
好適な抑制剤は、特に、置換または非置換フェノール、置換または非置換ハイドロキノン、例えばハイドロキノンモノメチルエーテル(HQME)、置換または非置換キノン、置換または非置換カテコール、トコフェロール、tert−ブチルメトキシフェノール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、没食子酸オクチル、没食子酸ドデシル、アスコルビン酸、置換または非置換芳香族アミン、芳香族アミンの置換または非置換金属錯体、置換または非置換トリアジン、有機スルフィド、有機ポリスルフィド、有機ジチオカーバメート、有機ホスファイトおよび有機ホスホネート、フェノチアジンおよび4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルを包含する。
【0106】
置換または非置換ハイドロキノンおよび置換または非置換フェノールを使用するのが好ましい。ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテルおよび4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノールが特に好ましい。
【0107】
0.2質量%の抑制剤が一般的に十分であり、割合は通常、著しくさらに低く、例えば0.05質量%以下である。成分AおよびCを混合した後の系の可使時間は、本発明によれば、成分Aの膨潤によって調節される。0.2質量%を超える抑制剤の割合、例えば従来技術の系の可使時間を増大させるために場合によって使用される1質量%以上は、したがって通常は必要ではないが、排除しなくてもよい。0.2質量%以下、特に、0.05質量%以下の含有量が好適である。
【0108】
記載する成分に加えて、配合物は、通常の粒状フィラー(成分F)、例えば二酸化チタン、カーボンブラックまたは二酸化ケイ素、ガラス、ガラスビーズ、ガラス粉末、セメント、ケイ砂、石英粉、砂、コランダム、ストーンウェア、クリンカー、バライト、マグネシア、炭酸カルシウム、粉砕大理石または水酸化アルミニウム、無機または有機顔料および助剤(成分F))を含むことができる。
【0109】
助剤は、例えば:可塑剤、水、レベリング剤、増粘剤、消泡剤、結合剤または湿潤剤である。使用されるペルオキシドを安定化するために用いられる可塑剤以外のさらに別の可塑剤は用いられないことが好ましい。
【0110】
粒状フィラーは、通常、約0.001mm〜約6mmの粒径を有する。
【0111】
ポリマー1質量部あたり、0〜8質量部の粒状フィラーを使用するのが一般的である。
【0112】
本発明は、二成分または多成分系を提供する。このことは、少なくとも2つの部分の系が、全系を実際に使用する前に「パーツのキット」の意味で存在し、系の実際の使用前に互いに混合しなければならないことを意味する。
【0113】
本発明の系の特に有利な点は、レドックス開始剤系の構成成分が一緒になって貯蔵安定性である混合物を形成することである。成分A)およびC)が貯蔵安定な水性相中に存在することが特に有利である。さらに、成分A)およびC)を含む1つの混合物が、成分B)の一部も含み、また成分A)およびC)と一緒に貯蔵されるモノマー構成成分B)が成分A)を十分な程度まで膨潤させることができないならば、さらに別の成分D)、E)およびF)も全て同様に含む。系全体の実際の硬化は、したがって、好適なモノマーB)と混合することによってのみ達成される。
【0114】
系を使用するために、系の全ての成分A)〜F)を一般的に互いに混合する。ポリマーA)をモノマーB)によって、特定の時間にわたって膨潤させる。その結果、ポリマー固定活性剤成分Ae)はペルオキシドに利用可能となり、重合反応がこのようにして開始される。
【0115】
成分を混合した後の長い可使時間から、ポリマー固定活性剤Ae)がポリマー粒子中に十分覆われていると結論づけることができる。ある特定の時点で急速かつ大幅な温度上昇が意外にも観察され、このことは、本発明の方法によって、後の重合に悪影響を及ぼすことなく長い可使時間を達成できることを示す。
【0116】
混合比は、目的の用途に依存する。これは、使用する成分A〜Fの量を決定する。使用する成分の混合比は、好ましくは、所与の系の完全な重合が達成されるように選択される。特に、十分な量のレドックス開始剤系が利用可能であることが有利であり、活性剤は、少なくとも主にエマルジョンポリマー(成分A)の形態で利用可能にされる。
【0117】
成分A)中の重合性活性剤Ae)の割合は、広範囲で選択することができるので、使用される成分A)の量についての許容範囲も広い。したがって、成分A)の割合は、0.8〜69.94質量、さらには0.1〜95質量%の重合性活性剤の範囲である。一般的に、活性剤の量は、使用するペルオキシドの割合と適合する。ペルオキシドは、レドックス系における活性剤のパートナーである。その割合は、一般的に、0.05〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。0.5〜5質量%の割合が通常選択され、好ましくは0.5〜3質量%、特に0.5〜2質量%が選択される。ペルオキシドの割合および成分Aの割合を決定する重要な因子は、目的の用途では、所望の程度までの完全な重合が所望の時間で起こること、および硬化系が用途に必要な性能をもたらすことである。
【0118】
エチレン性不飽和モノマー(成分B))の割合は、30〜99.14質量%の範囲である。好ましくは、40〜94.89質量%、特に、40〜80質量%である。オリゴマーまたはポリマー(成分D)の割合は、0〜60質量%、好ましくは0〜40%質量%、特に、0〜30質量%である。
【0119】
さらに、混合物は、A〜Dの合計=100質量部に対して、0〜800質量部のフィラー、顔料および他の助剤を含むことができる。
【0120】
本発明の好適な二成分または多成分系は
A)0.8〜69.94質量%の、ポリマーに固定された活性剤成分を有する前述のポリマー
B)30〜99.14質量%の1つ以上のエチレン性不飽和モノマー;
C)0.05〜10質量%のペルオキシド;場合により
D)0〜60質量%のオリゴマー;
E)0.01〜2質量%の重合抑制剤;および場合により
F)0〜800質量部の助剤および添加剤;
(ここで、構成成分A)+B)+C)+D)+E)の合計は100質量%になり、F)の量は、A)+B)+C)+D)+E)の合計100質量部に基づく)を含む。
【0121】
5〜45質量%の成分A)、
40〜94.89質量%の成分B)、
0.1〜5質量%の成分C)、
0〜30%質量%の成分D)、
0.01〜2質量%の成分E)
および
0〜800質量部の成分F)
(ここで、構成成分A)+B)+C)+D)+E)の合計は100質量%になり、F)の量は、A)+B)+C)+D)+E)の合計100質量部に基づく)を含む系も好ましい。
【0122】
5〜45質量%の成分A)、
40〜94.89質量%成分B)、
0.5〜5質量%成分C)、
0〜30質量%の成分D)、
0.01〜0.2質量%の成分E)
および
0〜800質量部の成分F)
(ここで、構成成分A)+B)+C)+D)+E)の合計は100質量%になり、F)の量は、A)+B)+C)+D)+E)の合計100質量部に基づく)を含む系がなお一層好ましい。
【0123】
成分D)の含有量は、特に好ましくは0〜30質量%である。
【0124】
特に有利な実施形態において、本発明は、系が使用されるまで、成分A)および成分C)を一緒に貯蔵し、成分B)の少なくとも1つの構成成分をA)およびC)とは別に貯蔵し、別々に貯蔵される成分B)の構成成分のポリマーA)についての膨潤能は、非常に高いので、ポリマーA)に固定される活性剤が成分C)と反応できることを特徴とする系を提供する。
【0125】
系は、原則として、接着剤、注型用樹脂、フロアコーティングおよび他の反応性コーティング、シーリング組成物、含浸組成物、包埋組成物、反応性ペグ、歯科用組成物、人工大理石もしくは他の人造石の製造、セラミック物品用多孔性プラスチック型および類似の用途などのあらゆる二成分系に適している。不飽和ポリエステル樹脂およびこれらの典型的な用途における使用にも適している。
【0126】
接着剤、注型用樹脂、フロアコーティング、反応性ペグ用組成物、歯科用組成物またはシーリング組成物において記載した二成分または多成分系を使用するのが特に好ましい。
【0127】
注型用樹脂としての使用において、例えば30〜70質量%の範囲などの高い割合のポリマー(成分A)が有利であり得る。成分A中の活性剤の割合は、したがって、例えばAに対して、0.1〜5質量%に限定される可能性がある。成分BおよびDは合わせて69.9〜30質量%を占める。ペルオキシドの割合は、好ましくは0.1〜5質量%である。
【0128】
高度に架橋した系の分野において、ポリマー(成分A)の含有量を制限し、活性剤の支持体としてのみ使用することが有用であり得る。成分Aの割合は、したがって好ましくは対応して低く、例えば1〜10質量%の範囲である。成分A中に固定された活性剤の割合は、対応して高くなり、成分Aに対して、10またはさらには60質量%までであり、それぞれの場合、95質量%まででもある。成分BおよびDは合わせて98.9〜90質量%の範囲である。ペルオキシドの割合は、好ましくは0.1〜5質量%である。
【0129】
次の実施例および比較例は、本発明を説明するものである。
【0130】
エマルジョンポリマーの製造
全てのエマルジョンポリマーを、フィード流れ方法によって製造した。
【0131】
初回チャージを反応容器中、80℃で5分間撹拌した。残りのフィード流れ1を次いで3時間にわたって添加し、フィード流れ2を1時間にわたって添加した。フィード流れ1および2を乳化した後、反応混合物に添加した。脱塩水を使用した。バッチを第1表に示す。
【0132】
第1表
【表1】

【0133】
【表2】

【0134】
【表3】

【0135】
【表4】

【0136】
【表5】

【0137】
【表6】

【0138】
【表7】

【0139】
【表8】

【0140】
【表9】

【0141】
第1表で使用した略号:
MMA:メチルメタクリレート
MAS:メタクリル酸
FG:固形分
モノマー/ポリマー混合物の製造および膨潤時間の測定
20g(=40%質量%)の各ポリマー(成分A)をビーカー(0.2l)に入れた。30g(=60質量%)のエチレン性不飽和モノマーまたはモノマー混合物(成分B)を添加し、混合物がもはや処理可能でなくなるまで、木製スパチュラで撹拌する。この時間を膨潤時間または可使時間として記録する。
【0142】
結果を第2表に示す。硬化しない実験例は、極性モノマーを配合することによってどれだけ耐膨潤性を増加させることができるかを示す。
【0143】
GELNORM−Gel Timerを用いたゲル化時間測定
装置の説明:
GELNORM Gel Timerは、DIN16945、パート1およびDIN16916に基づく方法によって反応性樹脂のゲル化時間を測定するための自動装置である。
【0144】
装置構造:
クランプホルダー、刻み付スクリュー、測定パンチ、マイクロスイッチ、保持バネ、試験管、試験管ホルダー
手順:
実験1〜19(第1表)で得られた分散液を乾燥させ、結果として得られた固体を粉砕した。5gの粉末および7.5gのモノマーの混合物を次いで製造した。混合物を木製スパチュラで約1分間撹拌し、直径160mm×16mmの試験管(風袋:約10g)中に導入した。試験管と試験混合物の合計質量は、測定結果の良好な再現性を保証するためには、常に22gでなければならない。保持バネおよび試験混合物を含む試験管を測定ヘッドのホルダー中に入れ、保持バネを同時にマイクロスイッチ上に引っ掛けた。測定パンチを続いて混合物中に浸し、クランプホルダーで固定した。実験を次いで室温で開始した。
【0145】
ゲル化点に達したら、試験管を引き上げることによりマイクロスイッチによってこの時間の測定を停止した。この装置は1秒の読み取り精度を有する。
【0146】
第2表
【表10】

【0147】
【表11】

【0148】
【表12】

【0149】
第2表で使用した略号
MMA:メチルメタクリレート
MAS:メタクリル酸
MAA:メタクリルアミド
THFMA:テトラヒドロフルフリルメタクリレート
1,4−BDDMA:1,4−ブタンジオールジメタクリレート
HPMA:ヒドロキシプロピルメタクリレート
薄膜の硬化
手順:
5gの各ポリマー(成分A)をビーカー(0.2l)中に入れ、様々な量のMMAと混合する。混合物をそれぞれの場合、1.3gのBP−50−FTと混合した。
【0150】
次の混合比を調べた:
【表13】

【0151】
生成された混合物をドクターブレードによって広げて、フィルムを形成した。層の厚さは、0.85mmから0.07mmまで変化した。フィルムの硬化を空気中で行い、60分以内で完了した。
【0152】
重合時間の測定:
重合法:過酸化ベンゾイルBP−50−FT(BP−50−FTは、50質量%の過酸化ジベンゾイルを含む白色自由流動性粉末であり、フタル酸エステルで安定化されている)を、活性剤に対して等モル量で、モノマーBおよび成分Aと混合する。全ての重合を、可使時間の測定について上記したのと同じ混合比で行った。
【0153】
重合時間は、バッチに必要な重合の開始(開始剤の添加)から、重合ピーク温度に達するまでに必要とする時間として定義される。結果を、要した時間およびピーク温度として記録する。測定は、接点温度計を用いて熱特性を記録しておこなう。
【0154】
過酸化ベンゾイルの存在下での2−N−エチルアニリノ−エチルメタクリレートを含むポリマー分散液に対する貯蔵実験
前述のコア−シェルエマルジョンポリマーを、2−N−エチルアニリノ−エチルメタクリレートをアミン成分としてコア中に配合したフィード流れ方法によって製造した。これらは、ペルオキシド−アミンレドックス開始剤系によって硬化できるモノマー−ポリマー系においてアミン成分として機能する。エマルジョンポリマーは、第3表において以下に示す組成を有する。
【0155】
過酸化ベンゾイル懸濁液の存在下での分散液に対する貯蔵実験を、2−N−エチルアニリノエチルメタクリレート:BPO=1:1(モル)を用いて行った。このために、10gの粉末に対応する量の分散液を100mlの広口瓶中に量り取り、7.8gの過酸化ベンゾイル(水中20%濃度)を次いで量り入れた。
【0156】
試料の貯蔵安定性を視覚的に毎日評価した。さらに、試料を毎日新たに攪拌して、BPO懸濁液と確実に良好に混合した。最後の評価は、MMAを添加した後に、膨潤および重合挙動をチェックすることによっておこなった。
【0157】
全ての分散液は、安定で、42日間の貯蔵時間後に変化しなかった(第3表参照)。
【0158】
過酸化ベンゾイルを2−N(エチルアニリノ)−エチルメタクリレートに対して1:1モル比で含む、分散固体:MMA比1:3のMMA中分散液に対する貯蔵実験について(第4表参照)、5gの粉末に対応する量の分散液を100mlの広口ビン中に量り入れ、3.9gの過酸化ベンゾイル(20%濃度の水中懸濁液)および所与の量のMMAを次いで量り入れた。
【0159】
全ての分散液は3〜4時間以内に重合し(第4表参照)、すなわち、MMAによる膨潤が起こり、アミン成分が遊離し、レドックス重合が開始した。
【0160】
2−N−エチルアニリノ−エチルメタクリレートを含み、C/S構造(コア中アニリノ成分)を有する水性分散液は、BPO懸濁液の存在下で貯蔵安定性であると結論づけることができる。膨潤モノマーを水性系に添加すると、硬化が起こる。
【0161】
第3表
エチルアニリノエチルメタクリレートに対して1:1(モル)比で過酸化ベンゾイルを含む水性分散液(水性懸濁液)の貯蔵実験
【表14】

【0162】
第4表
エチルアニリノエチルメタクリレートに対して1:1(モル)比で過酸化ベンゾイルを用いた、分散固体:MMA比1:3のMMA中水性分散液に対する膨潤/重合実験
【表15】

【0163】
【表16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レドックス開始剤系によって硬化し、調節可能な可使時間を有し、
A)以下の
a)5〜99.9質量%の、20℃で<2質量%の水中溶解度を有し、単官能性(メタ)アクリレートモノマー、スチレンおよびビニルエステルからなる群から選択される1つ以上のモノマー;
b)0〜70質量%のモノマーa)と共重合できる1つ以上のモノマー;
c)0〜20質量%の、1つ以上の二重または多重ビニル性不飽和化合物;
d)0〜20質量%の、20℃で>2質量%の水中溶解度を有する1つ以上の極性モノマー;および
e)0.1〜95質量%の、式I、
【化1】

[式中、
−R1は、水素またはメチルであり;
−Xは、1〜18個の炭素原子を有し、ヒドロキシル基および/またはC1−C4アルコキシ基により一置換もしくは多置換されていてもよい直鎖もしくは分岐アルカンジイル基であり;
−R2は、水素、または1〜12個の炭素原子を有し、ヒドロキシル基もしくはC1−C4アルコキシ基によって一置換または多置換されていてもよい直鎖もしくは分岐アルキル基であり、ここでヒドロキシル基を(メタ)アクリル酸で部分エステル化することができる;
−R3、R4、R5、R6およびR7は、それぞれ互いに独立して、水素、または1〜8個の炭素原子を有し、ヒドロキシル基で一置換もしくは多置換することができる直鎖もしくは分岐アルキルまたはアルコキシ基であり;
ここで、基R3〜R7のうちの1つは互いに結合して、5〜7員環を形成することができ、フェニル基と縮合芳香族環系を形成することができる]の少なくとも1つの活性剤を含む混合物の重合によって得ることができる、0.8〜69.94質量%のエマルジョンポリマー(ここで、活性剤e)は、共有結合によってエマルジョンポリマー中に組み込まれ;エマルジョンポリマーA)は、コア−シェル重合の手法で、構成成分a)〜e)をコアとして第1ステップで重合し、続いて構成成分a)〜d)の混合物をシェルとして少なくとも1つのさらなるステップで重合させることによって得ることができ;成分a)〜e)はあわせると、100質量%のエマルジョンポリマーの重合性構成成分になる)と、
B)30〜99.14質量%の1つ以上のエチレン性不飽和モノマーと、
C)0.05〜10質量%のペルオキシドと、場合により
D)0〜60質量%の不飽和オリゴマーと、場合により
E)0.01〜2質量%の重合抑制剤ち、場合により
F)0〜800質量部の助剤および添加剤と
(ここで、構成成分A)+B)+C)+D)+E)の合計は100質量%になり、F)の量は、A)+B)+C)+D)+E)の合計100質量部に基づく)
を含む二成分もしくは多成分系であって、
成分A)および成分C)を一緒に貯蔵し、成分B)の少なくとも1つの構成成分を、成分A)およびC)とは別に貯蔵し、この別に貯蔵される成分B)の構成成分は、成分B)の構成成分のポリマーA)を膨潤させる能力が、ポリマーA)のポリマー固定活性剤e)が成分C)と反応できるために十分高くなるように選択される二成分もしくは多成分系。
【請求項2】
5〜45質量%の成分A)、
40〜94.89質量%の成分B)、
0.1〜5質量%の成分C)、
0〜40%質量%の成分D);
0.01〜2質量%の成分E);および
0〜800質量部の成分F)
(構成成分A)+B)+C)+D)+E)の合計は100質量%になり、F)の量は、A)+B)+C)+D)+E)の合計100質量部に基づく)を含む、請求項1に記載の二成分または多成分系。
【請求項3】
ポリマーA)の場合、活性剤e)の式(I)において、基R1がメチルである、請求項1または2に記載の二成分または多成分系。
【請求項4】
ポリマーA)の場合、活性剤e)の式(I)において、Xが、エチレン基−CH2−CH2−である、請求項1から3までのいずれか1項に記載の二成分または多成分系。
【請求項5】
ポリマーA)の場合、活性剤e)の式(I)において、Xが2−ヒドロキシプロピレン基−CH2−CH(OH)−CH2−である、請求項1から3までのいずれか1項に記載の二成分または多成分系。
【請求項6】
ポリマーA)の場合、活性剤e)の式(I)において、R2が、メチル、エチルおよび2−ヒドロキシエチルからなる群から選択される、請求項1から5までのいずれか1項に記載の二成分または多成分系。
【請求項7】
ポリマーA)の場合、活性剤e)の式(I)において、基R3〜R7のうちの1つが、メチルであり、残りの4つの基がそれぞれ水素である、請求項1から6までのいずれか1項に記載の二成分または多成分系。
【請求項8】
ポリマーA)の場合、活性剤e)の式(I)において、基R3〜R7のうちの2つがメチルであり、残りの3つの基がそれぞれ水素である、請求項1から6までのいずれか1項に記載の二成分または多成分系。
【請求項9】
ポリマーA)の場合、成分a)が、1つ以上のメタクリレートモノマーおよび/またはアクリレートモノマーからなる、請求項1から8までのいずれか1項に記載の二成分または多成分系。
【請求項10】
ポリマーA)の場合、成分e)が、10〜60質量%、好ましくは20〜50質量%の量で存在する、請求項1から9までのいずれか1項に記載の二成分または多成分系。
【請求項11】
ポリマーA)の場合、成分a)が、メチルメタクリレートである、請求項9に記載の二成分または多成分系。
【請求項12】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の構成成分a)〜e)を水性エマルジョン中で重合させることによってポリマーA)を得ることができる、請求項1から11までのいずれか1項に記載の二成分または多成分系。
【請求項13】
コアの構成成分a)〜e)およびシェルの構成成分a)〜d)が、結果として得られるポリマーA)において、少なくとも1つのシェルのガラス転移温度TGSが、コアのガラス転移温度TGCよりも高くなるように選択され、その際、ガラス転移温度TGがEN ISO11357にしたがって測定される、請求項1から12までのいずれか1項に記載の二成分または多成分系。
【請求項14】
シェルの構成成分a)〜d)が、結果として得られるポリマーA)において、少なくとも1つのシェルのガラス転移温度TGSが、100℃よりも高くなるように選択され、その際、ガラス転移温度TGSがEN ISO11357にしたがって測定される、請求項13に記載の二成分または多成分系。
【請求項15】
成分B)が、メチルまたはエチルトリグリコールメタクリレート、ブチルジグリコールメタクリレート、テトラヒドロフリルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、3〜10モルのエチレンオキシドを有するエトキシル化トリメチロールプロパンのトリメタクリレート、2〜10モルのエチレンオキシドを有するエトキシル化ビスフェノールAのジメタクリレートおよび1〜10個のエチレンオキシド単位を有するポリエチレングリコールジメタクリレートからなる群から選択される1つ以上の化合物を含む、請求項1から14までのいずれか1項に記載の二成分もしくは多成分系。
【請求項16】
成分A)およびC)とは別に貯蔵される成分B)の構成成分が、メチルメタクリレート(MMA)である、請求項1から15までのいずれか1項に記載の二成分もしくは多成分系。
【請求項17】
成分C)が、過酸化ジベンゾイルおよび/またはジラウリルペルオキシドを含む、請求項1から16までのいずれか1項に記載の二成分または多成分系。
【請求項18】
接着剤、注型用樹脂、フロアコーティングおよび他の反応性コーティング、シーリング組成物、含浸組成物、包埋組成物、人工大理石および他の人造石を製造するための組成物、反応性ペグ用組成物、歯科用組成物、セラミック物品用多孔性プラスチック型または不飽和ポリエステル樹脂およびビニルエステル樹脂における、請求項1から17までのいずれか1項に記載の二成分または多成分系の使用。

【公表番号】特表2010−532809(P2010−532809A)
【公表日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515462(P2010−515462)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【国際出願番号】PCT/EP2008/058222
【国際公開番号】WO2009/007253
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(390009128)エボニック レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (293)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Kirschenallee,D−64293 Darmstadt,Germany
【Fターム(参考)】