説明

レンズ形状測定装置

【課題】
レンズ形状の測定中にスタイラスがレンズから外れて落下することを防止する。
【解決手段】
基台11の基板11a上には、レンズ保持ユニット12およびトレーサ機構部13が設けられている。レンズ保持ユニット12全体は、基板11a上に固定されており、このレンズ保持ユニット12には、加工済みのレンズ14が保持されている。スタイラス台20上のスタイラスユニット30には、スタイラス31が取り付けられている。スタイラス31は、水平方向、すなわちZ軸方向を向いている。スタイラスユニット30は、Z軸方向およびY軸方向に移動し、これによりスタイラス31がレンズ14の周縁に接触し、トレースが実行される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレンズの周縁の形状を測定するレンズ形状測定装置に関し、特にスタイラスをレンズに接触させて測定を行うレンズ形状測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡用のレンズを研削加工した後では、そのレンズが目的の加工形状データ通りに加工されているかどうかを判断する必要がある。このため、従来、特開平6−175087号公報のように、レンズ形状測定装置を使用して、加工後のレンズ周縁の形状、特に周長を測定するようにした技術がある。
【0003】
図16は従来のレンズ形状測定装置による測定方法を説明する概略図である。加工後のレンズ71は、図示されていない保持軸によってレンズ面がほぼ水平に保持される。この保持されたレンズ71の周縁には、軸芯が鉛直方向に延びるように設けられたスタイラス72の溝72aが嵌合される。この状態でレンズ71は所定の速度で回転すると、レンズ71の周縁の形状に従って、スタイラス72はレンズ71の径方向および上下方向に移動する。
【0004】
図示されていない位置検出機構部では、このスタイラス72の位置を所定間隔で検出し、レンズ71の全周にわたって位置データを収集する。これによりレンズ71の周縁の形状が測定され、さらにこのデータに基づいた演算によって、レンズ71の周長が求められる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のレンズ形状測定装置では、スタイラス72の軸芯が鉛直に向いているので、例えば、スタイラス72のヘッドが重い場合には測定の途中でスタイラス72が外れて落下するおそれがあった。また、この落下を防止するために、従来は、軽量の材料を使用することによってスタイラス72の重量を軽くし、自重の影響を小さくするようにしていた。しかし、軽量な材料では、耐久性が低く、溝72aが早くすり減ってしまう等の問題があった。
【0006】
また、近年、眼鏡用のレンズとしては、プラスチックレンズが主流となっているが、その熱膨張率は、ガラスレンズと比べてはるかに大きい。このため、プラスチックレンズの周長の測定値は、温度変化に左右されやすく、一定の温度にコントロールされた測定室でないと、測定誤差が大きくなってしまう。ところが、通常の製造現場等では、一定の温度を保持する測定環境が備わっていないため、このような不利な環境でも実用的に使用できる測定装置が望まれていた。
【0007】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、スタイラスの耐久性を低下させることなく安定した状態でレンズ形状の測定ができ、測定室を一定の温度にコントロールする設備のない環境でも、正確なレンズ形状測定を行うことのできるレンズ形状測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では上記課題を解決するために、レンズの周縁の形状を測定するレンズ形状測定装置において、軸芯がほぼ水平方向を向く回転自在な保持軸によって、前記レンズをレンズ面側から保持するレンズ保持機構部と、前記保持されたレンズを回転させるレンズ回転機構部と、軸芯が前記保持軸とほぼ平行に向くように取り付けられたスタイラスを、前記レンズの周縁に沿って移動可能に支持するトレーサ機構部と、前記レンズ回転機構部を駆動して、前記レンズの周縁形状のトレースを実行するトレース制御手段と、前記トレース中、スタイラスの軸芯方向の位置およびレンズ径方向の位置を検出する位置検出手段と、前記検出されたスタイラスの軸芯方向の位置およびレンズ径方向の位置を読みとって、前記レンズの形状データを生成する形状データ生成手段と、前記レンズの測定部分の温度を室温より高い一定温度に保持する温度保持装置と、を有することを特徴とするレンズ形状測定装置が、提供される。
【0009】
このようなレンズ形状測定装置では、レンズは軸芯がほぼ水平方向を向く回転自在な保持軸によってレンズ面側から保持されており、一方、スタイラスは、レンズの保持軸にほぼ平行に取り付けられている。トレース制御手段は、レンズ回転機構部およびトレーサ機構部を駆動して、スタイラスによりレンズの周縁のトレースを実行する。
【0010】
トレース制御手段からの指令により、トレーサ機構部は、スタイラスをレンズの周縁に沿って移動させる。このとき、位置検出機構部が、スタイラスの軸芯方向の位置およびレンズ径方向の位置を検出する。形状データ生成手段は、この検出されたスタイラスの軸芯方向の位置およびレンズ径方向の位置を読み取って、周長等のレンズの形状データを生成する。
【0011】
スタイラスは、軸芯がほぼ水平方向を向くように設けられているので、自重の影響を受けず、トレース中にレンズ周縁から外れて落下することがない。
押し込み部材は、スタイラスを基準位置側に押し当て、スタイラスの軸芯方向の位置がずれても、基準位置への位置決めを容易にする。
【0012】
また、レンズの測定部分の温度を一定温度に保持する温度保持装置を有することが好ましい。これにより、測定中の室温の変化によるレンズやスタイラスの形状変化をなくすことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、レンズをほぼ水平な保持軸によりレンズ面側から保持し、スタイラスの軸芯を水平にした状態でレンズ形状のトレースを実行するようにしたので、トレース中に、スタイラスがレンズから外れて落下することがない。このため、スタイラスを軽量化する必要もないので、スタイラスの耐久性も維持できる。
【0014】
また、スタイラスを基準位置に押し込む押し込み部材を設けたので、スタイラスの軸芯方向の位置がずれても、基準位置への位置決めを簡単に行うことができる。
さらに、本発明では、レンズの測定部分の温度を一定温度に保持する温度保持装置を設けたので、測定中の室温の変化によるレンズやスタイラス等の形状変化をなくすことができる。よって、測定精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一形態を図面に基づいて説明する。
図1は本形態のレンズ形状測定装置の外観を示す斜視図である。レンズ形状測定装置10は、各機構部が基台11に取り付けられることにより構成されている。基台11の基板11aは、水平面(Y−Z平面)に平行に設けられており、この基板11a上には、レンズ保持ユニット12およびトレーサ機構部13が設けられている。レンズ保持ユニット12全体は、基板11a上に固定されている。このレンズ保持ユニット12には、加工済みのレンズ14が保持されている。
【0016】
また、基板11a上で、レンズ保持ユニット12の下方には、ヒータ15が設けられている。レンズ保持ユニット12の裏側には、温度センサ15aが取り付けられており、レンズ14付近の温度を検出する。基板11a上には、保温のための保温カバー16が装着されている。この保温カバー16には、開口部16aが形成されており、この開口部16aを介してレンズ14の着脱が行われる。
【0017】
トレーサ機構部13は、主に、スタイラス台20と、スタイラスユニット30とから構成されている。スタイラス台20は、Z軸方向を向く2本のレール(水平移動レール)131,132上に、スライド可能に設けられている。スタイラスユニット30には、スタイラス31が取り付けられている。スタイラス31は、水平方向、すなわちZ軸方向を向いている。
【0018】
ここで、Y軸方向とは、図2に示すように、レンズ14の径方向位置(r方向)の測定軸であり、一方、Z軸方向とは、レンズ14の厚み方向の測定軸である。レンズ形状測定装置10では、レンズ14周縁(ヤゲン頂点)上に所定角度間隔のサンプリング点Pn
を予め多数設定しており、この各サンプリング点Pn において、それぞれY軸方向およびZ軸方向の位置データを測定する。そして、この基準点P0
に対するサンプリング点Pn の角度θと、そのサンプリング点Pn
で測定されたY軸方向およびZ軸方向の位置データとに基づいて、レンズ14の周長等のレンズ形状データを生成する。
【0019】
図1に戻り、基板11aの下方には、ここでは図示されていない後述のスタイラス台移動機構部50が設けられている。スタイラス台移動機構部50は、基板11aの穴11bを介してスタイラス台20と連結されており、後述の制御装置100からの指令に応じてスタイラス台20を移動させる。スタイラス台移動機構部50の具体的な構成については後述する。
【0020】
図3は本形態のレンズ形状測定装置の概略構成を示す平面図である。レンズ14の凸面側には、ホルダ141が固定されている。このホルダ141は、レンズ保持ユニット12の保持軸121のホルダ受け121aに装着されている。保持軸121は、Z軸方向を向いている。また、レンズ14の凹面側は、レンズ押さえ軸122のレンズ押さえ122aにより押圧されている。レンズ保持ユニット12の具体的な構成については、後述する。
【0021】
トレーサ機構部13のレール131,132には、スタイラス台20がスライド可能に取り付けられている。スタイラス台20には、基板11aおよびレール131,132に垂直方向(Y軸方向)を向くガイドシャフト(垂直移動レール)21,22が設けられている。このガイドシャフト21,22には、テーブル23がスライド可能に取り付けられている。さらに、このテーブル23上には、スタイラスユニット30が固定されている。
【0022】
スタイラスユニット30には、図1で示したように、スタイラス31がZ軸方向にスライド可能に取り付けられている。スタイラス31は、スタイラス移動機構部32によって、その突出量が制御される。また、スタイラス移動機構部32には、ブレーキ機構部33が取り付けられている。ブレーキ機構部33は、トレース実行以外のときに、スタイラス31の軸芯方向のスライド動作にブレーキをかける機構部である。スタイラスユニット30の具体的な構成については、後述する。
【0023】
レンズ保持ユニット12には、取り付け片41を介して押し当て板42が取り付けられている。押し当て板42は、トレース開始等の時にスタイラス31を押し当てて、基準位置側に一旦押し込むために用いられる。
【0024】
図4はレンズ保持ユニット12内部の構成を示す平面図である。レンズ保持ユニット12のケース12a内には、エアシリンダ123が設けられている。エアシリンダ123は、外部に設けられた図示されていないエアポンプから送られるエアの圧力に応じて、その軸123aがZ軸方向に移動する。軸123aの先端には、アーム123bが固定され、軸123aと一体に移動するように設けられている。このアーム123bには、ガイドテーブル123cおよびレンズ押さえ軸122が固定されている。レンズ押さえ軸122は、ケース12aに形成されたZ軸方向に延びる長穴12bに沿って移動できるように設けられている。レンズ押さえ軸122の先端には、レンズ押さえ122aがZ軸周りに正逆回転自在に設けられている。
【0025】
ガイドテーブル123cは、レール台124の側面にZ軸方向に平行となるように設けられたレール124aに、摺動可能に嵌合している。これにより、軸123aが移動すると、これと一体に、アーム123b、ガイドテーブル123c、およびレンズ押さえ軸122がZ軸方向に移動する。
【0026】
また、ケース12a内には、レンズ回転用モータ125が設けられている。このレンズ回転用モータ125の軸125aには、カップリング125bを介して小径のギア125cが連結されている。このギア125cは、大径のギア125dに連結されている。さらにギア125dの同軸にはプーリ125eが設けられており、このプーリ125eは、ベルト125fを介してプーリ121bに連結されている。プーリ121bは、軸121に固定されている。
【0027】
これにより、レンズ回転用モータ125が駆動すると、軸125aの回転がカップリング125b、ギア125cに伝達され、さらにギア125dで減速され、この減速された回転がプーリ125e、ベルト125f、プーリ121bを介して軸121に伝達される。
【0028】
軸121には、スリット板121cが固定されており、このスリット板121cの回転位置を、ケース12a内に固定された光センサ126が検出することにより、軸121に固定されたレンズの原点位置が検出される。
【0029】
このような構成のレンズ保持ユニット12では、図3で示したようにサクションカップ受け121aにレンズ14が固定されると、エアシリンダ123が駆動して、レンズ押さえ軸122が図面左側に移動する。そして、レンズ14をレンズ押さえ122aによって押圧することにより、レンズ14が固定される。レンズ14の形状測定時は、レンズ回転用モータ125が駆動して、軸121が回転し、これと同時にレンズ14が回転する。また、レンズ14が回転することにより、レンズ押さえ122aも一体に回転する。
【0030】
次に、図5〜図7を参照して、スタイラス台移動機構部50の具体的な構成について説明する。
図5はスタイラス台移動機構部50の具体的な構成を示す正面図である。また、図6は図4のA−A線に沿う断面図である。さらに、図7はスタイラス台移動機構部50の具体的な構成を示す底面図である。基台11の基板11a上には、前述したようにレール131,132が設けられている。このレール131,132には、ガイド部材131a,131b,132a,132bを介して、スタイラス台20がスライド可能に取り付けられている。
【0031】
基板11aの下側面には、取り付け板51が固定されている。取り付け板51には、支持部材511,512が所定間隔を空けて固定されている。これら支持部材511,512間には、2本のガイドシャフト52,53が平行に取り付けられている。また、支持部材511,512間には、ガイドシャフト52,53の中間にボールネジ54が回転可能に軸支されている。ボールネジ54の一端は、カップリング541を介してスタイラス台移動用モータ542の軸と連結されている。スタイラス台移動用モータ542は、後述の制御装置100からの指令に応じて、ボールネジ54を正逆回転させる。
【0032】
ガイドシャフト52,53、およびボールネジ54には、連結部材55が取り付けられている。この連結部材55の上端部55aは、取り付け板51に形成された穴51aおよび基板11aの穴11bを介して、基板11aの上側に突き出ている。この突き出た上端部55aには、スタイラス台20が固定されている。連結部材55は、ガイドシャフト52,53に対してはスライド可能に取り付けられ、一方、ボールネジ54に対しては螺合している。
【0033】
また、連結部材55には、スイッチ片551が固定されている。このスイッチ片551は、連結部材55が原点位置にあるときに、取り付け板51に固定された光センサ513をオンにする。また、スイッチ片551は、連結部材55がオーバーランしたときに、同じく取り付け板51に固定された光センサ514をオンにする。
【0034】
このような構成のスタイラス台移動機構部50は、スタイラス台移動用モータ542が回転することにより、ボールネジ54が回転し、その回転方向に応じて連結部材55およびスタイラス台20が図5の左右方向(Z軸方向)に移動する。連結部材55およびスタイラス台20の原点位置は、光センサ513がオンになることによって検出される。この原点位置からのスタイラス台移動用モータ542の回転パルス数を読み取ることによって、スタイラス台20のZ軸方向の位置が検出される。
【0035】
次に、スタイラス台20の具体的な構成について説明する。
図8はスタイラス台20の具体的な構成を示す左側面図である。また、図9は図8のB−B線に沿う断面図である。スタイラス台20は、その基台20aが連結部材55を介して、前述のスタイラス台移動機構部50に連結されている。基台20aは、端部20b,20cが直角に立ち上げられ、全体が凹状に形成されている。この端部20b,20c間には、Y軸方向を向く2本の平行なガイドシャフト21,22が設けられている。また、ガイドシャフト21,22上には、ガイドローラ23a,23b,23c,23d等を介してテーブル23がスライド可能に取り付けられている。
【0036】
基台20aの端部20cには、ブッシング24が固定されている。このブッシング24は、一端がテーブル23の取り付け片231に取り付けられた定荷重バネ24aの他端側を巻き取るように設けられている。これにより、テーブル23は、レンズ14側(図8の左向き)に常に一定の荷重を受けている。
【0037】
また、基台20aの端部20cには、テーブル移動用モータ25が固定されている。テーブル移動用モータ25の軸には、プーリ251が取り付けられている。一方、基台20aの端部20bには、プーリ251と対向する位置にプーリ252が回転自在に取り付けられている。これら2つのプーリ251、252間には、ワイヤ253が架けられている。
【0038】
ワイヤ253の内側のラインには、ストッパ254が固定されている。このストッパ254は、テーブル23に形成された当接片232に当接可能に取り付けられている。テーブル移動用モータ25が駆動することにより、プーリ251に応じてワイヤ253が回転すると、その回転の向きに応じて、ストッパ254が図8の左右方向に移動する。
【0039】
ストッパ254が図9の右方向(反レンズ側)に移動すると、テーブル当接片232に当接し、定荷重バネ24aの力に抗してテーブル23を右方向に移動させる。テーブル23の原点位置は、図8の右側に設定されている。このテーブル23の原点位置への復帰は、テーブル23のスイッチ片233が光センサ26をオンにすることにより検出される。
【0040】
一方、ストッパ254の原点位置は、図8の左側に設定されている。このストッパ254の原点位置への復帰は、ストッパ254自体が光センサ27をオンにすることにより検出される。
【0041】
テーブル23のY軸方向への移動量は、図9に示すリニアエンコーダ28によって検出される。リニアエンコーダ28は、主に、ガイドシャフト21,22と平行となるように基台20a側に固定されたスケール281と、テーブル23側に固定された検出器282とから構成される。テーブル23の移動によって、検出器282は、スケール281の面と一定の距離を維持しながら移動する。この移動に対応して、検出器282は、パルス信号を図示されていないアンプに出力し、このアンプがパルス信号を増幅して後述の制御装置100側に送る。
【0042】
このような構成のスタイラス台20では、トレースの開始時には、テーブル移動用モータ25が駆動して、ストッパ254を図7の右方向に移動させる。これにより、ストッパ254は、テーブル23の当接片232に当接してテーブル23全体を原点位置に向かって移動させる。テーブル23が原点位置まで到達すると、スイッチ片233が光センサ26をオンにし、これにより、テーブル移動用モータ25が停止して、テーブル23が原点位置で停止する。
【0043】
次いで、テーブル移動用モータ25を逆方向に駆動することにより、ストッパ254がレンズ側に移動する。これにより、テーブル23は、ストッパ254からの付勢力から解かれて、定荷重バネ24aの引っ張り力によってレンズ側に移動する。ストッパ254をさらにレンズ側に移動させると、テーブル23は、スタイラス31がレンズ14の周縁に当接した時点で停止する。一方、その後もストッパ254がレンズ側に移動を続け、原点位置に到達すると、光センサ27がこれを検知して、テーブル移動用モータ25の駆動が停止し、同時にストッパ254も原点位置に停止する。
【0044】
次に、スタイラスユニット30の具体的な構成について説明する。
図10はスタイラスユニット30の具体的な構成を示す平面図である。スタイラスユニット30は、主に、スタイラス移動機構部32およびブレーキ機構部33から構成されている。スタイラス移動機構部32は、取り付け部材32aを介してテーブル23上に固定されている。スタイラス31は、スタイラス移動機構部32のスリーブ321内を摺動可能に設けられている。スタイラス31には、ヤゲン溝31aが形成されており、このヤゲン溝31aが測定対象であるレンズ14のヤゲンに嵌合する。
【0045】
スリーブ321の図面右側端部には、スタイラス移動モータ322が取り付けられている。スタイラス移動モータ322は、パルスモータであり、その軸323をZ軸方向に移動制御する。軸323の先端323aは、スリーブ321内に進入可能に設けられている。スタイラス移動モータ322の図面右側には、光センサ324が固定されている。光センサ324は、スタイラス移動モータ322の軸323が原点位置にあるときに、軸323の後端323bを検知してオンとなる。
【0046】
スリーブ321のスタイラス移動モータ322側部分には、スタイラス位置検出器325が設けられている。スタイラス位置検出器325は、図示されていないCCDラインイメージセンサおよびLEDから構成されており、スタイラス31の後端31cの位置を公知の技術により検知する。この検知によって、スタイラス31の現在の位置を認識することができる。
【0047】
スタイラス31は、トレース動作時および後述の押し込み動作時以外では、ブレーキ機構部33のブレーキ部材331によって、Z軸方向の位置が固定されている。ブレーキ機構部33は、取り付け部材33aを介してスタイラス移動機構部32に固定されている。ブレーキ機構部33は、主に、ブレーキ部材331を支持する支持部材332と、ブレーキ駆動モータ333と、ブレーキ駆動モータ333の軸334と、光センサ335とから構成される。
【0048】
次に、ブレーキ機構部33の具体的な構成について説明する。
図11はブレーキ機構部33の具体的な構成を示す側面図である。ブレーキ部材331は、軸331bを中心に回動可能に支持部材332に取り付けられている。ただし、図では、ブレーキ部材331の取り付け状態が分かるように、支持部材332は断面表示されている。ブレーキ部材331の下端は、バネ336によって図面右方向に引っ張られている。パルスモータであるブレーキ駆動モータ333の軸334が原点位置にある状態では、光センサ335は、軸334の後端部334bを検出している。このとき、ブレーキ部材331は、バネ336の付勢力によって、その当接部331aがスタイラス31を押さえ付けている。このときの摩擦力によって、スタイラス31の位置が固定される。
【0049】
一方、ブレーキ駆動モータ333が駆動して、軸334が図面左側に移動すると、軸334の先端部334aがブレーキ部材331の下端付近を押す。これにより、ブレーキ部材331は、バネ336の力に抗して図面右回りに回動し、当接部331aがスタイラス31から離れる。よって、スタイラス31のブレーキが解除され、トレースの実行が可能となる。
【0050】
次に、図10に戻って、スタイラスユニット30の動作について説明する。スタイラスユニット30では、トレース開始時には、ブレーキ機構部33によるブレーキが解除になり、スタイラス移動モータ322が駆動して、軸323が図面左方向に移動する。そして、軸323の先端部323aがスタイラス31の後端31cを押す。スタイラス移動モータ322は、スタイラス31が測定基準位置に達するまで軸323を図面左方向に移動する。ここで、測定基準位置とは、スタイラス31がスリーブ321内の最も奥に収納された位置をスタイラス31の原点位置とした場合に、この原点位置から図面左方向に所定量突出した位置である。この測定基準位置からのスタイラス31のZ軸方向の増減値に基づいて、レンズ14の厚み方向の位置データが求められる。
【0051】
スタイラス31が測定基準位置に移動すると、ブレーキ機構部33が再び働いて、ブレーキ部材331がスタイラス31にブレーキをかける。これにより、スタイラス31が測定基準位置で固定される。この測定基準位置にスタイラス31が固定された状態で、後述するように、スタイラス台20やテーブル23がそれぞれZ軸、Y軸方向に移動して、スタイラス31をレンズ14に接触させる。
【0052】
以後は、後述するような手順により、スタイラス台20、テーブル23等が移動して、レンズ14のトレースが実行される。レンズ14のトレースは、レンズ周縁を1周させたときに完了するので、最終的には、スタイラス31のZ軸方向の位置は、測定基準位置に戻る。したがって、トレース動作の終了と同時にブレーキ機構部33によりブレーキをかければ、外部から強い力が加わらない限りは、スタイラス31の位置は測定基準位置に固定されたままになる。
【0053】
ところが、外部から強い力が加わる等の理由により、スタイラス31の位置がずれると、次回の測定開始位置が分からなくなってしまう。ただし、スタイラス31がスタイラス移動モータ322側にずれている場合には、前述のようにスタイラス移動モータ322を駆動して軸323でスタイラス31を押せば、スタイラス31を測定基準位置に戻すことができる。しかし、スタイラス31がスタイラス移動モータ322と反対側にずれた場合には、何らかの手段によって、スタイラス31をスタイラス移動モータ322側に押し込む動作が必要となる。
【0054】
そこで、本形態のレンズ形状測定装置10では、押し当て板42を設けることによって、スタイラス31を自動的にスタイラス移動モータ322側に押し込めるようにしてある。
【0055】
次に、このスタイラス31の押し込み動作について説明する。
図12は押し当て板42を使用したスタイラス31の押し込み動作を説明する図である。スタイラス31の押し込み動作を行う場合、制御側では、まず、トレース開始時と同じように、スタイラス31を測定基準位置に押すときと同じ位置までスタイラス移動モータ322の軸323を移動させる。次いで、スタイラス台20のZ軸方向、およびテーブル23のY軸方向の位置を制御して、スタイラスユニット30を押し当て板42側に移動させる。この移動により、スタイラス31の先端部31bが押し当て板42に当接する。スタイラスユニット30の移動を続けると、スタイラス31は、押し当て板42に押されてスタイラス移動モータ322側に移動する。
【0056】
ここで、押し当て板42は、軸42aを中心にY−Z平面に沿って回動自在に取り付けられている。ただし、押し当て板42は、スタイラス31と比べて十分に重くなるように形成されているので、スタイラス31を押すとき押し当て板42は、ほとんど制止している。
【0057】
こうして、押し当て板42に押されたスタイラス31が、図13に示すようにスタイラス移動モータ322の軸323と接触すると、それよりもやや多めに移動した位置でスタイラスユニット30のZ軸方向への移動が停止する。この停止位置は、各機構の設計値やスタイラス31の長さのデータに基づいて予め設定されており、実際には、図5で示した光センサ514によって検出される。
【0058】
スタイラスユニット30が停止した位置は、スタイラス31が軸323と接触してからやや多めに移動しているので、この間、スタイラス31は、押し当て板42と軸323との間に挟まれている。しかし、押し当て板42は、回動自在に取り付けられているので、図面右回りに回転してスタイラス31から逃げる。これにより、スタイラス31への負荷を低減することができ、スタイラス31の変形等を防止することができる。
【0059】
図14は本形態のレンズ形状測定装置の制御装置100を中心とした各機構部の電気的な接続関係を示すブロック図である。ただし、ここでは、主要な構成のみを示す。制御装置100は、レンズ保持ユニット12のエアシリンダ123内の電磁弁に駆動信号を送り、眼鏡レンズ14の保持を行う。エアシリンダ123が駆動しているか否かの判断は、磁力センサ123dからの検知信号によって判断する。
【0060】
制御装置100は、ドライバ61を介してレンズ回転用モータ125を駆動する。眼鏡レンズ14の原点位置は、光センサ126からのスリット検出信号によって判断する。スタイラスユニット30のスタイラス31のトレース開始時の突き出し動作は、ドライバ62を介してスタイラス移動モータ322を駆動することにより行う。また、ブレーキ機構部33によるスタイラス31のブレーキ解除は、ドライバ63を介してブレーキ駆動モータ333を駆動することにより行う。
【0061】
スタイラス台20のZ軸方向への移動は、ドライバ64を介してスタイラス台移動用モータ542を駆動することにより行う。テーブル23のY軸方向への移動は、ドライバ65を介してテーブル移動用モータ25を駆動することにより行う。
【0062】
制御装置100には、レンズ形状測定装置10内の各種センサ、例えば図5で示した光センサ513,514、図7で示した光センサ26,27等からの検出信号が送られる。
制御装置100は、電源回路66を駆動することにより、ヒータ15を制御する。ヒータ15によって、レンズ14およびスタイラス31周辺の温度は、常に室温より所定温度(数°C程度)だけ高くなるように制御される。この温度の検出は、所定の位置に設けられた温度センサ15aによって行われる。
【0063】
制御装置100は、加工システム全体を管理するホストコンピュータ101と接続されている。このホストコンピュータ101からは、測定対象のレンズ14の加工形状データが送られる。制御装置100は、この送られた加工形状データに基づいてスタイラス台20およびテーブル23の移動を行い、スタイラス31によるアプローチおよびトレースを実行する。制御装置100は、トレースの結果を、ホストコンピュータ101に送る。ホストコンピュータ101側では、このデータに基づいて、レンズ14の周長等のレンズ形状データを演算する。
【0064】
また、制御装置100には、操作盤102が接続されている。作業者による操作盤102の操作により、トレース開始、停止等の指令が成される。また、操作盤102によって、図12、図13で説明したスタイラス31の押し込み動作の指令がなされる。
【0065】
さらに、操作盤102に表示装置を設けることにより、アラーム表示等を行うことができる。
図15は本形態のレンズ形状測定動作の制御装置100による制御手順を示すフローチャートである。ただし、ここでは、スタイラス31は、予め測定基準位置に置かれているものとする。
〔S1〕スタイラス台移動モータ542を駆動して、スタイラス台20をZ軸方向に移動させて位置決めを行う。ここでは、レンズ14の最大径周縁部分のヤゲンのZ軸方向の位置に、スタイラス31のヤゲン溝31aのZ軸方向の位置が一致するように、位置決め制御を行う。
〔S2〕レンズ14の軸121を回転させて、最大径周縁部分がスタイラス31側に位置するように位置決めする。
〔S3〕テーブル移動モータ25を駆動して、テーブル23をレンズ14側に移動させ、スタイラス31のヤゲン溝31aをレンズ14の最大径周縁部分のヤゲンに接触させる。
〔S4〕ブレーキ機構部33のブレーキ駆動モータ333を駆動して、スタイラス31に対するブレーキを解除する。
〔S5〕レンズ14の軸121を回転させて、スタイラス31によるレンズ14周縁を1周分トレースする。
〔S6〕ブレーキ機構部33によって、再びスタイラス31にブレーキをかける。
〔S7〕テーブル23をY軸方向に移動して、スタイラス31をレンズ14から引き離す。
〔S8〕スタイラス台20、テーブル23等の各軸を原点に復帰させる。
【0066】
このように、本形態では、レンズ14をほぼ水平な軸121によりレンズ面側から保持し、スタイラス31の軸芯を水平にした状態でレンズ形状のトレースを実行するようにしたので、トレース実行中に、スタイラスがレンズ14から外れて落下することがない。また、このため、スタイラス31を軽量化する必要もないので、スタイラスの耐久性も維持できる。
【0067】
さらに、本形態では、ヒータ15を設けて、トレース中、常に一定温度を維持するようにしたので、レンズ14やスタイラス31等の測定試料や、レンズ形状測定装置10の各材料等の、温度変化による変形を防止することができる。これにより、測定精度を向上させることができる。より具体的には、周長の測定誤差を0.1mm以下にすることができる。
【0068】
また、本形態では、押し当て板42を設け、この押し当て板42にスタイラス31を自動的に押し当て動作可能にしたので、外部からの力によりスタイラス31の軸芯方向の位置がずれたとしても、スタイラス31の基準位置への位置決めを簡単に行うことができる。
【0069】
なお、本形態では、ヒータ15によって温度維持を行ったが、この代わりに冷房装置を設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本形態のレンズ形状測定装置の外観を示す斜視図である。
【図2】レンズ形状測定装置の座標系を説明する図である。
【図3】本形態のレンズ形状測定装置の概略構成を示す平面図である。
【図4】レンズ保持ユニット内部の構成を示す平面図である。
【図5】スタイラス台移動機構部の具体的な構成を示す正面図である。
【図6】図5のA−A線に沿う断面図である。
【図7】スタイラス台移動機構部の具体的な構成を示す底面図である。
【図8】スタイラス台の具体的な構成を示す左側面図である。
【図9】図8のB−B線に沿う断面図である。
【図10】スタイラスユニットの具体的な構成を示す平面図である。
【図11】ブレーキ機構部の具体的な構成を示す側面図である。
【図12】押し当て板を使用したスタイラスの押し込み動作を説明する図である。
【図13】押し込み動作の結果スタイラスがスタイラス移動モータの軸に当接した状態を示す図である。
【図14】本形態のレンズ形状測定装置の制御装置を中心とした各機構部の電気的な接続関係を示すブロック図である。
【図15】本形態のレンズ形状測定動作の制御装置による制御手順を示すフローチャートである。
【図16】従来のレンズ形状測定装置による測定方法を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0071】
10 レンズ形状測定装置
11 基台
11a 基板
12 レンズ保持ユニット
13 トレーサ機構部
14 レンズ
15 ヒータ
20 スタイラス台
21,22 ガイドシャフト
23 テーブル
30 スタイラスユニット
31 スタイラス
32 スタイラス移動機構部
50 スタイラス台移動機構部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズの周縁の形状を測定するレンズ形状測定装置において、
軸芯がほぼ水平方向を向く回転自在な保持軸によって、前記レンズをレンズ面側から保持するレンズ保持機構部と、
前記保持されたレンズを回転させるレンズ回転機構部と、
軸芯が前記保持軸とほぼ平行に向くように取り付けられたスタイラスを、前記レンズの周縁に沿って移動可能に支持するトレーサ機構部と、
前記レンズ回転機構部を駆動して、前記レンズの周縁形状のトレースを実行するトレース制御手段と、
前記トレース中、スタイラスの軸芯方向の位置およびレンズ径方向の位置を検出する位置検出手段と、
前記検出されたスタイラスの軸芯方向の位置およびレンズ径方向の位置を読みとって、前記レンズの形状データを生成する形状データ生成手段と、
を有することを特徴とするレンズ形状測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−119151(P2006−119151A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−3030(P2006−3030)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【分割の表示】特願2003−293170(P2003−293170)の分割
【原出願日】平成8年9月2日(1996.9.2)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】