説明

レーザーマーキング用共押出二軸延伸フィルム

【課題】テキスト、シンボル及びイメージ等を良好にかつ永久的にレーザーマーキングによりマーキングすること出来、IDカードやラベルの製造に好適である積層共押出二軸延伸ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリエチレンナフタレート(PEN)から成り、ベース層と1層以上の外層の少なくとも2層から成る共押出二軸延伸フィルムであって、当該フィルムが上記PETから成る場合はエチレングリコール及びテレフタル酸以外の共重合モノマーを構成単位として含み、当該フィルムが上記PENから成る場合はエチレングリコール及び2,6−ナフタレンジカルボン酸以外の共重合モノマーを構成単位として含み、上記ベース層は白色顔料および炭化可能なポリマーで被覆されたレーザー吸収剤を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザーマーキング用共押出二軸延伸フィルムに関し、詳しくは、テキスト、シンボル及びイメージ等を良好にかつ永久的にレーザーマーキングによりマーキングすること出来、IDカードやラベルの製造に好適である積層共押出二軸延伸ポリエステルフィルムに関する。本発明のフィルムは、明色の基材上に黒色およびグレー(中間色)のマーキングを行うことが出来る。
【背景技術】
【0002】
近年、耐傷付き性や耐溶剤性の観点から、IDカードの登録番号や写真などの個人用のマーキング媒体において、それを構成するプラスチックへのレーザーマーキング技術が急速に発展している。通常、1064、532又は355nmの波長を有するパルスレーザー装置(Nd:YAG、Nd:YО又はFAYb)を使用し、回転ミラーを使用してポリマー表面上にレーザービームの焦点を合わせることにより、高品質なレーザーマーキングを行うことが出来る。レーザーマーキング(刻印)は、9.3〜10.6μmの波長のパルスレーザー又は連続波炭酸ガスレーザーによっても行うことが出来る。
【0003】
ポリマー又はその混合物に対するマーキング方法としては、次のような方法がありそれぞれ長所と短所がある。(1)グラヴィア印刷:コントラストが低いが永久的なマーキングが可能。(2)発色させる部分の上層を分解することによるマーキング:上層(着色可能)と下層(上層と異なる色)から成り、マーキングする箇所の上層を分解除去する方法。コントラストが良好であるが、有色またはグレースケールのマーキングが出来ない。(3)気泡形成による方法:暗色のフィルム上ではコントラストが高いが、明色のフィルム上ではコントラストが低い。グレースケールのマーキングが出来ない。(4)化学反応による色変化:局所的(マーキングすべき箇所)な加熱によるプラスチックの炭化などの化学反応を用いて色を変化させる。加熱のためのレーザービームの出力を変化させることにより、グレースケールまたは有色マーキングが可能である。
【0004】
黒色塗布層を有する白色PETフィルムから成るラベル用レーザーマーキングフィルムが知られている(例えば、特許文献1参照)。レーザー照射により、黒色塗布層を分解し、下地PET層の白色部分を露出させる。この種のフィルムは、黒色に白色のイメージがマーキングされる構造であり、高いコントラストのマーキング及び描画が得られる。しかしながら、このような分解によるマーキングのため、グレースケールのマーキングを行うことが出来ない。また、白色に黒色のイメージがマーキングされる場合、全面についてレーザー照射をスキャンしなければならないため不経済であり、マーキングに長時間のレーザー照射を必要とする。
【0005】
また、白色層と黒色層とから成るレーザーマーキング用ラベルも知られている(例えば、特許文献2及び3参照)。上層が白色の場合、黒色上に白色のイメージが短時間のレーザー照射でマーキング出来る。しかしながら、層の分解によるマーキングのため、グレースケールのマーキングは出来ない。また、下地層に使用する電子線硬化性ポリウレタンアクリレートは脆く、機械的強度が低い。
【0006】
高いコントラストで、しかもグレースケール(例えば写真モード)のマーキングを達成するには、上記のように分解して下地層を露出するのではなく、炭化のような色変化の手段が必要である。
【0007】
上記のレーザーマーキング用塗布フィルムの分野と比較し、レーザーマーキング用成形体の報告は多数ある。しかしながら、これらの文献において、プラスチック用の特殊なレーザーマーキング用添加剤の必要性に関して相反する記載が多い。これは、これらの特殊な添加剤は、充填剤、着色剤、難燃剤などの別の目的で通常プラスチックに添加されるものであり、それらがレーザーマーキング性も向上させることが出来るということと推測される。これらの文献の中には、ポリカーボネート、PBT、ABSなどの樹脂に対して上記の添加剤無しでもレーザーマーキングが可能であると報告している。しかしながら、上記の添加剤は、レーザーマーキング性を更に向上させるために、これらの樹脂にしばしば添加されるものである。
【0008】
ポリマー成形品における色変化を促進するために、種々の添加剤が開発されている。レーザー光吸収剤を添加することにより、基材はレーザー光を吸収し、熱に変換され、この熱によりポリマーの炭化が促進される。ポリカーボネート等のポリマーであっても、容易に炭化される。レーザー光吸収剤としては金属アンチモンや酸化アンチモンが知られている(例えば、特許文献4参照)。また、カーボンブラックを吸収剤として使用することも知られている(例えば、特許文献5参照)。更に、コート層を有するグラファイトをレーザー光吸収剤として使用することも知られている(例えば、特許文献6参照)。また、金属酸化物が被覆されたマイカ(シート状シリケート)をレーザー光吸収剤として使用することも知られている(例えば、特許文献7参照)。更に、スズ−アンチモン混合酸化物をレーザー光吸収剤として使用することも知られている(例えば、特許文献8参照)。また、種々のリン含有鉄、銅、スズおよび/またはアンチモン混合酸化物をレーザー光吸収剤として使用しプラスチックに暗色のレーザーマーキングが施せることも知られている(例えば、特許文献9参照)。
【0009】
プラスチックの炭化による色変化を温和な条件下で行う際、吸収剤と炭化物質とを組合わせて行うことが知られている(例えば、特許文献10〜12参照)。この種の吸収剤は、特別な構造を有し、吸収剤と炭化物質とがコア−シェル型構造となっている。
【0010】
ポリ塩化ビニル(PVC)フィルムはクレジットカード等の個別のカードの製造にしばしば使用される。この種のカードは、熱可塑性樹脂を変形させることにより、ナンバーや文字をエンボス刻印する。しかしながら、このような加工は、すべて個別の刻印(それぞれ異なる刻印)が必要な場合には適さない。PVCフィルムのカードへの加工特性はレーザーマーキングを使用しなくても良好である。熱による個々のエンボス刻印が可能であるが、例えば炎天下の自動車の室内などの温度の高い環境下では変形するという問題がある。そこで、レーザーマーキングが関心を持たれている。しかしながら、PVCフィルムにおいてレーザーマーキングを行った場合、レーザー照射による数百℃の高温でPVCが分解(解重合)し腐食性の塩化水素ガスが発生する。そのため、例えばBofa社製(ドルセット、英国)の耐酸性吸引フィルター装置がレーザーマーキングの際に必要となる。ガスの発生とそれに伴う材料の分解を考慮すると、PVCフィルムはグラヴィアマーキングのみが可能である。良好なコントラストを得るためには、有色ラッカー層を印刷し、グラヴィア工程において印刷層を分解する。
【0011】
レーザーマーキングの困難性に加え、PVC製カードは壊れやすく、比較的短時間で交換する必要がある。レーザーマーキングが好適に利用できるフィルム材料は、レーザー照射時に腐食性ガスの発生が無いことが好ましい。
【0012】
ポリカーボネート製カードは、PVCカードと比較してレーザーマーキングを好適に利用することが出来る。すなわち、低い炭化による良好なグレースケールのマーキングが可能であり、IDカードや免許証などの写真を良好に再現できる。ポリカーボネート製カードの欠点は、材料コストが高いことである。また、ポリカーボネートは剛性が高くなく、弾性率が比較的低いため、耐傷付き性が比較的低く、カード製造工程における加工特性が比較的悪い。
【0013】
上述のように、上記のプラスチック材料においては、レーザーマーキングを適用する際に種々の問題点がある。
【0014】
ABSから成るコア層と非晶性のポリエステル(PETG又はPCTG)又はアクリレートから成る外層とから成るレーザーマーキング用積層カードが知られている(例えば、特許文献13〜14参照)。しかしながら、この種のカードは非晶性のポリエステル(PETG又はPCTG)又はアクリレートが使用されているため、強度不足である。
【0015】
また、PBTから成るコア層と、PETから成る2つの外層とから成り、各層を接着剤を介すかまたは共押出により積層したレーザーマーキング用3層積層カードも知られている(例えば、特許文献15〜16参照)。この種のカードにおいて、PBT層はレーザー光吸収剤を含有している。PBT層またはすべての層が未延伸であるため、カードの剛性が低い。また、レーザーマーキングの工程において、PET層が結晶化するため、マーキングのコントラストが最適とは言えない。
【0016】
更に、ポリカーボネートフィルムより安価な白色単層または多層二軸延伸PETフィルムも知られている(例えば、特許文献17〜18参照)。この種のフィルムは、充分な剛性を有し、ラベルやカードの製造に適するものの、レーザーマーキング性が不十分である。また、白色外層と透明外層とを有するフィルムも知られているが(例えば、特許文献19参照)、やはりレーザーマーキング性が不十分である。
【0017】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0866750号明細書
【特許文献2】国際公開第03/18700号パンフレット
【特許文献3】米国特許第6723259号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第0198771号明細書
【特許文献5】特開平2−226470号公報
【特許文献6】独国特許出願公開第19961304号明細書
【特許文献7】独国特許出願公開第19522397号明細書
【特許文献8】米国特許第6693657号明細書
【特許文献9】国際公開第2006/42714号パンフレット
【特許文献10】欧州特許出願公開第0991523号明細書
【特許文献11】国際公開第2004/50766号パンフレット
【特許文献12】国際公開第2004/50767号パンフレット
【特許文献13】独国特許出願公開第19631283号明細書
【特許文献14】欧州特許出願公開第1458574号明細書
【特許文献15】特開平7−276575号公報
【特許文献16】特開2002−273832号公報
【特許文献17】欧州特許出願公開第1256597号明細書
【特許文献18】欧州特許出願公開第1125967号明細書
【特許文献19】欧州特許出願公開第0605130号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、IDカード、他のカード、ラベル等に使用でき、上記の従来技術における問題点を克服したフィルムを提供することにある。具体的には、(1)レーザー照射により優れたコントラストを有する暗色をマーキングできる、(2)グレースケールモード(写真などの画像)のマーキングが可能である、(3)長手方向および横方向における弾性率が、好ましくは3.5GPaを超えるような良好な剛性を有する、および(4)ポリカーボネートを使用した場合と比較して低コストであることを達成できるフィルムを提供する。
【0019】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、単に白色顔料およびレーザー吸収剤を組合せて使用するだけでは中間色(グレートーン)しかマーキングすることが出来ないが、さらに特定の共重合ポリエステルを使用した特定の共押出層に白色顔料および特定のレーザー吸収剤を組合せて使用した2層以上の共押出積層二軸延伸フィルムにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0020】
すなわち、本発明の要旨は、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリエチレンナフタレート(PEN)から成り、ベース層と1層以上の外層の少なくとも2層から成る共押出二軸延伸フィルムであって、当該フィルムが上記PETから成る場合はエチレングリコール及びテレフタル酸以外の共重合モノマーを構成単位として含み、当該フィルムが上記PENから成る場合はエチレングリコール及び2,6−ナフタレンジカルボン酸以外の共重合モノマーを構成単位として含み、上記ベース層は白色顔料および炭化可能なポリマーで被覆されたレーザー吸収剤を含有することを特徴とする共押出二軸延伸フィルムに存する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の積層共押出二軸延伸ポリエステルフィルムは、明色の基材上に黒色およびグレー(中間色)のテキスト、シンボル及びイメージ等のレーザーマーキングを行うことが出来、IDカードやラベルの製造に好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の共押出二軸延伸フィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリエチレンナフタレート(PEN)から成り、ベース層と1層以上の外層の少なくとも2層から成り、当該フィルムが上記PETから成る場合はエチレングリコール及びテレフタル酸以外の共重合モノマーを構成単位として含み、当該フィルムが上記PENから成る場合はエチレングリコール及び2,6−ナフタレンジカルボン酸以外の共重合モノマーを構成単位として含み、上記ベース層は白色顔料および炭化可能なポリマーで被覆されたレーザー吸収剤を含有する。
【0023】
本発明のフィルムの実施態様:
本発明の共押出しポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートフィルムは2層以上から成り、白色レーザーマーキング層であるB層と、少なくとも1つの透明または不透明な外層A、A’又はCから成る。
【0024】
外層A、A’又はCの厚さは、通常3μm以上、好ましくは5μm以上、より好ましくは7μm以上、特に好ましくは12μm以上である。レーザーマーキング層であるB層の厚さは、通常7μm以上、好ましくは15μm以上、より好ましくは20μm以上、特に好ましくは25μm以上である。フィルムの層厚みは、通常23μm〜1mm、好ましくは30μm〜1mm、より好ましくは40μm〜700μm、特に好ましくは65μm〜600μmである。本発明のフィルムは、更に他の層を有していてもよい。
【0025】
好ましい態様として、本発明のフィルムは、レーザーマーキング層であるB層とその両側に配置される外層A、A’又はCから成る3層構造を有する。この実施態様のフィルムは、これ自身で完成したレーザーマーキング用フィルムである。両外層は異なっていても同じであってもよい。両外層は同じ組成で同じ厚さであってもよく(ABA構造)、同じ組成で異なる厚さであってもよく(ABA’構造)、また異なる組成であってもよい(ABC構造)。
【0026】
他の実施態様として、本発明のフィルムはABA、ABA’又はABC構造に更にD層を有する4層構造(ABAD、ABA’D又はABCD)を有する。この実施態様の場合、A層、B層、A’層およびC層のマトリックスポリマーはポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートである。そして、D層は、非晶性または低融点ポリマーから成り、それ自身または他の基材とシールするのに好適な材料から成る。この実施態様では、例えば、レーザーマーキングバッグ、シール性蓋またはシートメタル積層体などの製造に好適に利用できる。
【0027】
他の実施態様として、本発明のフィルムはABの2層構造を有する。この場合、レーザーマーキングを行う前に、マーキング層/反対層のB層との間を、例えばシート又はメタル層の上に溶融させたり、接着剤を使用して積層する等、他の固着材料または手段により結合させておく必要がある。レーザー照射は外層Aを透過してマーキングを行う。
【0028】
他の実施態様として、積層体またはシートに使用することを意図して、フィルムはABDの3層構造を有し、D層は上記の非晶性低融点ポリマーから成り、他の基材とシールする(シール層)ことに利用する。この場合、マーキング層であるB層の厚さは、通常60μm以上、好ましくは75μm以上である。
【0029】
各層の組成:
A層、A’層、B層およびC層は、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)を主成分として成る。本発明のフィルムの性質を満足させるために、PET又はPENに共重合モノマー単位を含ませる。共重合モノマー単位の含有量はPET又はPENの構成単位モル数を基準として、通常10モル%以下である。しかしながら、PET又はPENは、結晶清を残存させており、その融点は240℃を超える。
【0030】
上記の共重合モノマーとしては、a)イソフタル酸や、主成分がPETの場合の2,6−ナフタレンジカルボン酸や、主成分がPENの場合テレフタル酸などの芳香族モノ又はジカルボン酸化合物;b)炭素数3〜10の脂肪族ジカルボン酸、c)1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の炭素数3〜10の直鎖または環状脂肪族ジオール、d)ジエチレングリコールおよびトリエチレングリコール等が挙げられる。
【0031】
鎖の長いフレキシブルな脂肪族ジオール又はポリエチレングリコールを共重合モノマーとして使用することは、フィルムの機械的特性を変化させてしまい、高い弾性率を有する固いフィルムを得たい場合には不向きである。
【0032】
D層のマトリックスポリマーは、比較的低融点または非晶であることが好ましい。例えば、PET又はPENを主成分として、上記のa)〜d)の共重合成分を比較的多く含むポリマーを使用することが好ましい。また、脂肪族ポリエステル、PET又はPENの部分的エステル交換反応物と脂肪族ポリエステルとの混合物なども使用することが出来る。D層のマトリックスポリマーは、上記と全く異なるポリマー又はポリマー混合物であってもよい。基本的に、D層はフィルムにおける接着層の役割を有するため、B層のポリマーマトリックスよりも低い融点を有する。
【0033】
B層のマトリックスポリマーは、2軸延伸フィルムが明色で、実質的に不透明であることを達成するのに十分な量の無機または有機粒子などの白色顔料を含有する。上記粒子の種類および粒径ならびに所望とする外観により、粒子の配合量は異なるが、通常1〜30重量%である。粒子の一次粒径(d50)は、種々の値を取ることが出来、通常0.01〜5μmである。
【0034】
上記無機粒子としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アパタイト、析出またはヒュームドシリカ、二酸化チタン(アナターゼ型およびルチル型)酸化アルミニウム、ゼオライト、アルミニウムシリケート等の他のシリケート等が挙げられる。中でも硫酸バリウム及び二酸化チタンが好ましい。
【0035】
B層において有機粒子を使用する場合、有機粒子としては架橋ポリアクリレート粒子や架橋ポリスチレン粒子などの架橋ポリマー粒子が好ましい。マトリックスポリマーより高い融点を有し、粒径を好ましい範囲に調節した不融ポリマーパウダーも使用することが出来る。更に、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−ノルボルネン共重合体(例えば「Topas」(登録商標)、Topas Advanced Polymers社製、Frankfurt−Hochst、ドイツ)、ノルボルネンのメタセシスポリマー(「Zeonex」(登録商標)日本ゼオン社製、東京、日本))等の非相溶の低融点ポリマーを使用することも出来る。
【0036】
B層のマトリックスポリマーは、レーザーの波長帯における吸収剤から成るレーザーマーク用添加剤を含有する。レーザーマーク用添加剤は炭化可能なポリマーにより被覆されている。そして、このレーザーマーク用添加剤は、炭化可能なポリマーがコアとなり、第2の相溶化ポリマーがこのコアを覆っているシェルとなっているようなコア−シェル型構造を有することが好ましく、これらのコアとシェルは化学的に結合していることが好ましい。特にコア−シェル型添加剤を低融点で剪断力を低下させるようなポリマー(疑似プラスチック)中に更に添加することは、B層のポリマーマトリックス中にレーザーマーク用添加剤を効果的に分散させることが出来るので好ましい。上記のレーザーマーキング用添加剤およびそれらの成形品への使用については、国際公開第2004/50766号および2004/50767号パンフレットに記載されており、市販品としては「Micabs」(登録商標、DSM社製、オランダ)が挙げられる。
【0037】
上記の炭化可能なポリマーとしては、好ましくはポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート及びこれら2種以上の混合物から成る群より選択される。炭化可能なポリマーとしてこれらを使用する場合、第2の相溶化ポリマーとしては、好ましくは無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン及びその混合物から選択される。コア−シェル型添加剤を低融点で剪断力を低下させるようなポリマー(疑似プラスチック)としては、ポリエチレン又はポリプロピレンが挙げられる。
【0038】
レーザーマーク用添加剤の粒径は、通常100nm〜10μm、好ましくは500nm〜2μmである。
【0039】
A層、A’層、C層、B層およびD層のマトリックスポリマーは、フィルムの加工特性および巻取特性を向上させ、表面光沢を調節するために無機粒子を添加することが好ましい。添加する無機粒子の種類および粒径は、層の厚みにより決定され、層の厚みはB層中に発現するレーザーマーキングによるテキスト(文字)、シンボル(記号)及びイメージ(画像、写真)が良好に認識できる厚さから決定される。基本的に、上記の目的で使用される無機粒子としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アパタイト、析出またはヒュームドシリカ、二酸化チタン(アナターゼ型またはルチル型)、酸化アルミニウム、ゼオライト、アルミニウムシリケート等の他のシリケートが挙げられる。中でも、二酸化ケイ素粒子がマトリックス中の保持性が高いため好ましい。
【0040】
無機粒子を含有する外層が無い場合、フィルムに良好な易滑性および巻取性を付与する目的で、粒子を含有するコーティングを施すことが好ましい。
【0041】
フィルムの色調を調節したり、着色フィルムを得る場合、染料、着色顔料または蛍光増白剤をA層、A’層、C層、B層またはD層に添加してもよい。本発明のフィルムの各層は、粒子の分散剤、酸化防止剤、UV吸収剤、難燃剤などのその他の添加剤を含有してもよい。
【0042】
A層、A’層、B層、C層およびD層に配合する白色顔料、無機粒子または架橋有機粒子は、ポリエステルの製造工程中に添加してもよい。この場合、必要に応じて粉砕、分級した粒子はエチレングリコール中に分散され、エステル交換反応または重縮合反応容器内に添加される。また、高濃度で粒子または添加剤を含有するマスターバッチを二軸延伸押出機を使用して調製し、フィルム押出工程において粒子を含有しないポリエステルに添加して粒子濃度を薄めて粒子を添加してもよい。さらに、フィルム押出工程において、二軸延伸押出機内に粒子を直接添加してもよい。
【0043】
製造方法:
A層、A’層、B層およびC層のポリマーマトリックスを構成するポリエステルは、ジカルボン酸とエチレングリコールとの重縮合反応(PTA法)、または、ジカルボン酸エステル、好ましくはジメチルエステルとエチレングリコールとのエステル交換反応(DMT法)により製造する。使用するポリエチレンテレフタレートのSV値は通常600〜900で、使用するポリエチレン−2,6−ナフタレートのSV値は通常500〜800である。
【0044】
D層がポリエステルから成る場合、そのポリエステルは上記と類似する方法で製造される。
【0045】
未架橋有機粒子は二軸押出機内でマスターバッチとして添加されるか、フィルム押出工程に直接添加される。
【0046】
レーザーマーキング用添加剤の融点が低い場合、単軸押出機を使用し、少量で不十分な量でも配合の中断無く添加することが出来る。B層の形成に単軸押出機を使用する場合、上記の二軸押出機内で調製されたマスターバッチ(レーザーマーキング用添加剤と上記ポリエステルマトリックスとの混合物)を調製することが好ましい。このような混合物は、ポリエステルがマトリックス相となっており、乾燥でき、膠着などの問題なく押出すことが出来る。B層の形成に二軸押出機または多軸押出機を使用する場合、レーザーマーキング用添加剤をフィルム押出工程中に直接添加してもよい。
【0047】
単軸押出機を使用する場合は、予めポリエステルを乾燥させて使用することが好ましい。ベントゾーンを有する二軸押出機を使用する場合は、予備乾燥を省略してもよい。
【0048】
個々の層を構成するポリエステル又はポリマー混合物は、押出機内で先ず圧縮し流動化する。溶融体は多層ノズルにおいて平坦溶融シートに形成し、各層を積層し、スロットダイを介して押出し、冷却ロール及び複数のロールを使用して引取り、冷却固化させてシートを得る。
【0049】
次いで、得られたシートを二軸延伸する。通常、二軸延伸は連続的に行われる。このため、初めに長手方向(長手方向)に延伸し、次いで横方向に延伸するのが好ましい。これにより、分子鎖が配向する。通常、長手方向の延伸は、延伸比に対応する異なる回転速度を有する2つのロールを使用して行われ、横手方向の延伸はテンターフレームを使用して行われる。また、連続二軸延伸でなく、同時二軸延伸で二軸延伸してもよい。
【0050】
延伸温度および延伸比は、所望とするポリエステルフィルムの物性によって決定され、広い範囲で選択できる。一般的に、長手方向の延伸温度は、通常80〜130℃(加熱温度は80〜130℃)、横方向の延伸温度は、通常90〜140℃(延伸開始温度〜延伸最終温度)。長手方向の延伸比は、通常2.0〜5.5、好ましくは2.2〜5.0で、横方向の延伸比は、通常2.4〜5.0、好ましくは2.6〜4.5である。
【0051】
横方向の延伸前に、フィルムの片面または両面に公知のインラインコーティングにより塗布処理を施し、塗布層を形成してもよい。インラインコーティングによる塗布層によって、その上に設けられるメタル層、印刷層、他のフィルムなどへの接着力を強めたり、帯電防止性、加工特性などを付与することが出来る。共押出外層が、易滑性および巻取特性を付与するための無機粒子を含有しない場合、粒子を含有する塗布層を形成してもよい。
【0052】
延伸後、通常150〜250℃で、機械的応力を負荷しながら、通常0.1〜10秒間熱固定が行われる。熱固定後、公知の方法でフィルムを巻取る。
【0053】
本発明のフィルムの特性と利点:
本発明のフィルムはレーザーマーキング特性に優れる。レーザーとしては、波長帯域が157nm〜10.6μmで、特に、炭酸ガスレーザー(波長:10.6μm)、Nd:YAGレーザー(波長:1064、532、355、266nm)、Nd:YОレーザー(波長:1064、532、355nm)、所謂ファイバーレーザー(FAYb、波長:約1060nm)等が使用できる。
【0054】
本発明の二軸延伸フィルムの優れたレーザーマーキング特性は、レーザーマーキング可能なベース層Bと透明外層Aから成る特別な層構成と、B層中に含有される白色顔料と共に使用される特別なレーザーマーキング用添加剤との組合せによって達成される。本発明のフィルムと層構成が異なる場合、例えば外層Aが無い場合は、黒色マーキングを得ることは出来ず、薄いグレーのマーキングとなってしまい、マーキングの色を濃くするためにレーザーの出力を挙げるとフィルムが焦げてしまう。本発明のフィルムに添加する添加剤(炭化可能なポリマーでコーティングしたレーザー光吸収剤)の代りに、市販のレーザー光吸収剤を使用した場合、やはり、薄いグレーのマーキングしか得られない。本発明のフィルムに添加する添加剤は使用し、B層に白色顔料を添加しない場合、半透明なフィルムではマーキングが得られない。
【0055】
一方、欧州特許出願公開第0866750号明細書に記載の、レーザー照射により分解される黒色塗布層を有する白色PETフィルム(黒色バックの白色イメージ)と比較すると、本発明のフィルムは、白色バックの黒色イメージのマーキングを短時間で施すことが出来、写真などのグレースケールモードのマーキングも可能である。
【0056】
また、国際公開第03/18700号パンフレットや米国特許第6723259号明細書に記載の黒色層と白色層とから成るレーザー照射により分解可能なラベルと比較すると、本発明のフィルムは、写真などのグレースケールモードのマーキングも可能である点が優れる。更に、本発明のフィルムでは、電子ビーム装置を必要としない。
【0057】
また、上記の公知のフィルムと比較し、レーザーマークされる場所がフィルムの表面ではなく外層などで覆われたB層であるため、マーキングの永久性があり、マーキングの偽造防止に有効で、引掻きによるマーキングの消去が防止できるという利点を有する。
【0058】
更に、レーザー光吸収剤を含有するPVCフィルムはよくカード等に利用されているが、これと比較すると、本発明のフィルムは非常に熱安定性に優れている。この点は、環境変化によるカードの寿命に有利である。例えば、炎天下の駐車中の自動車の中における高温によっても熱安定性が高いため変形することがない。PETG等のPVC代替品においても同様である。本発明のフィルムは、レーザーマーキングの際に、腐食ガスや健康に被害を与える有毒ガスを発生することはない。
【0059】
また、レーザー光吸収剤含有または非含有のポリカーボネートフィルムはよくカード等に利用されているが、これと比較すると、本発明のフィルムはより剛性が高い。材料の曲げ剛性は、弾性率に比例するが、本発明のフィルムの曲げ剛性は、同じ厚さのポリカーボネートフィルムのそれと比較して約60%も高い(本発明のフィルムの弾性率は約4GPaでポリカーボネートフィルムのそれは約2.5GPaである)。更に、PETはポリカーボネートと比較して安価である。
【0060】
用途:
本発明のフィルムの用途としては、身分証明書;その他の付加価値のあるカード;電子・電気部品、輸送や飛行機や宇宙旅行などの手段、工業用装置、医療器具・装置などの悪環境下に耐えて長期間使用する製品へのラベリング等が挙げられる。また、ラッカー塗布に代えて本発明のフィルムを鋼板に積層すると、レーザーマーキング能およびそれによる魅力的な外観に加えて、腐食防止効果にも優れた積層体を得る事ことが出来る。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を、実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載例に限定されるものではない。各記載例における評価方法を以下に示す。
【0062】
(1)平均粒径d50:
平均粒径d50はHoriba Europe社(ドイツ)製「Horiba LA 500」又は「Sympathec Helos」を使用したレーザーによる一般的な方法で測定した(Malvern Instruments社(英国)製「Malvern Master Sizer」装置でも基本的に同一の測定である)。水を入れたセルにサンプルを入れ、試験装置にセットする。粒径分布は、平均粒径d50(平均値)とSPAN98(粒径の分布度合い)の2つのパラメータにより表現される。試験は自動的に行われ、粒径d50の数学的な計算も一緒に行われる。粒径d50の値は、累積粒径分布曲線から決定する。50%におけるd50の値を求めた。
【0063】
(2)ナノ粒子(「Aerosil」(登録商標)および「Nyacol」(登録商標))の一次粒径:
一次粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)写真を使用して決定した。試料がフィルム又はポリマー粒状物の形態の場合、マイクロトームで作製した超薄切片を用いて行った。
【0064】
(3)機械的性質:
フィルムの機械的性質は、100mm×15mmのフィルム片を使用し、DIN EN ISO 527−1及び−3に従い応力測定装置を使用して行った。フィルム片の長さの変化は距離測定器を使用して測定した。弾性率は、10%/分の引張速度で、引張度0.2〜0.3の間の傾きから求めた。σ5値(5%伸長時の力)は、100%/分の引張速度で測定した。
【0065】
(4)標準粘度SV:
ポリエステルの標準粘度SV(DCA)は、ポリエステルのジクロロ酢酸1重量%溶液を作成し、ウベローデ型粘度系を使用して25℃でDIN 53726に従って測定した。得られた相対粘度ηrelより、SV=(ηrel−1)×1000の式を使用して、標準粘度SV値を算出した。固有粘度(IV)はSVと以下の関係がある。
【0066】
IV=[η]=6.907・10−4SV(DCA)+0.063096[dl/g]
【0067】
(5)レーザーマーキング性:
「VectorMark」(登録商標)VMc5、Nd:YОレーザーマーキング照射装置(Trumpf社製、Schramberg、波長1064nm)を使用してテストパターンをフィルム上にマーキングした。マーキング条件は、出力(P):10〜60%の間で10%きざみの出力、周波数:10〜60kHzの間で10kHzきざみの周波数、マーキング速度:1200mm/秒であった。
【0068】
ほとんどの試料が上記の条件で多かれ少なかれレーザーマーキングがなされた。それぞれの試料において、フィルムが焦げて穴が空くことなく適切で均一なマーキング濃淡となるように最適な条件の格子状のマーキングを行った。そして、それぞれの試料において、上記で選択された最適条件のマーキングについてマーキングカラーと表面形状の目視評価を行った。評価は以下の基準で行った。
【0069】
マーキングカラーについては、レベル5:黒色、レベル4:ダークグレー、レベル3:中間グレー、レベル2:ライトグレー、レベル1:暗色マーキングが認められない、とした。マーキング表面形状については、A:平滑でマーキングが連続的である、B:やや表面が荒れている、C:かなり表面が荒れている、D:レーザー照射による分解で厚みのロスが著しい、とした。マーキングカラーレベル5及び表面形状Aが最も優れており、マーキングカラーレベル0〜2で表面形状Dの場合、レーザーマーキングとして実用上適しておらず、表面形状が荒れている場合(レベルB及びC)の場合、用途によっては許容され、他の用途によっては不適の場合がある。
【0070】
更に、幾つかの実施例では、「VectorMark(登録商標)VMc5」(Nd:YVO)レーザーを使用して写真の様なグレースケールのマーキングを行った。
【0071】
また、幾つかの実施例において、周波数が倍の波長532nmのNd:YAGレーザー(「PowerLine 20E SHG II」、Rofin−Sinar Laser GmbH社製、ベルグキルヒェン)と、波長1064nmのNd:YAGレーザー(「VectorMark(登録商標)VMc3、Trumpf社製、シュランベルグ)の2種のレーザーを使用して更にレーザーマーキングテストを行った。
【0072】
(6)層厚み:
型にフィルムを埋め込んで固定し、マイクロトームで切断して切片を調製し、表面をアルゴンプラズマでエッチングし、切断面を走査型電子顕微鏡で観察した。各層における粒子構成が異なることから、各層それぞれ容易に区別でき、厚さを測定することが出来る。
【0073】
(7)光沢:
フィルムの光沢は、DIN 67530に準じて決定した。フィルムの反射率は、フィルム表面の光学パラメーターとして測定した。ASTM−D 523−78及びISO 2813に準じて、入射角度を60°に調節して測定した。入射角度を調節し、入射光は平滑フィルム表面に当たった後に反射または散乱する。光電子ディテクターに当たった入射光は電気的パラメーター(信号)に変換される。測定値は、入射角における無時限数として表示される。
【0074】
以下の実施例において、以下の各成分を含有するPETマスターバッチを使用し、押出機内でPETと混合することにより各成分濃度を所望の濃度に薄めた。
【0075】
易滑性および白色性を付与する粒子:
硫酸バリウム:「Blanc−fixe XR HX」、Sachtleben社製、ドゥイスブルグ、ドイツ、d50=0.55μm。
【0076】
コロイダルシリカ(二酸化ケイ素)粒子:「Nycol DP5540」、Nycol社製、アッシュランド、マサチューセッツ、米国、平均一次粒子径=100nm、若干凝集している。
【0077】
ヒュームドシリカ粒子:「Aerosil TT600」、Degussa社製、ハナウ、ドイツ、平均一次粒子径=40nm、凝集しており、d50=約0.2μm。
【0078】
粗二酸化ケイ素粒子:「Sylysia 430」、Fuji Sylysia社製、日本、d50=4.8μm。
【0079】
合成(析出)二酸化ケイ素粒子:「Sylobloc 44H」、Grace社製、ヴォルムズ、ドイツ、d50=2.5μm。
【0080】
二酸化チタン:ルチル型、d50=0.3μm。
【0081】
その他の添加剤:
【0082】
Lazerflair(登録商標)825:レーザーマーキング用吸収剤、M
erck社製、ダルムスタット、ドイツ、被覆シート状シリケート、独国特許出願公開第19522397号明細書または他のMerck社特許出願明細書参照。
【0083】
Mark−it(登録商標):レーザーマーキング用吸収剤、Engelhard社製、アイセリン、ニュージャージー州、米国、アンチモンドープ酸化錫、米国特許第6693657号明細書または他のEngelhard社特許出願明細書参照。
【0084】
Micаbs(登録商標)A204及びA206:レーザーマーキング用添加剤、DSM社製、ゲレーン、オランダ、国際公開第2005/50766号または2004/50767号パンフレット参照。
【0085】
リン含有スズー銅混合酸化物:国際公開第2006/42714号パンフレット参照。
【0086】
実施例1:
以下のA層、B層、A’層用の3種のポリマー混合物をそれぞれ3機の押出機内で285℃で溶融した。
【0087】
A層:SV=800のポリエチレンテレフタレート99.73 重量%と、合成(析出)二酸化ケイ素粒子0.12重量%と、ヒュームドシリカ粒子0.15重量%との混合物。
【0088】
B層:SV=800のポリエチレンテレフタレート93.5 重量%と、二酸化チタン3.5重量%と、レーザーマーキング用添加剤「Micаbs(登録商標)A204」3重量%との混合物。
【0089】
A’層:SV=800のポリエチレンテレフタレート99.73 重量%と、合成(析出)二酸化ケイ素粒子1.0重量%と、ヒュームドシリカ粒子0.15重量%との混合物。
【0090】
各層用のポリマー混合物はアダプター内で積層され、スロットダイを介し、静電密着方を使用して60℃に加熱された冷却ロール上に押出された。引続き、長手方向および横方向の延伸を行った後、熱固定を行った。条件を以下に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
得られたABA’積層フィルムの総厚さは50μmで、A層およびA’層の厚さは、それぞれ7μmであった。フィルムの性質およびレーザーマーキング性能の評価結果について表6に示す。
【0093】
レーザーマーキング性能については、1064nmの波長と532nmの波長(2倍の周波数、Nd:YAGレーザー)とで実験を行った。マーキング速度は1000mm/秒で、マーキングの最適条件は50kHz及び27Åであった。マーキングカラー評価はレベル4であった。パスポートの写真として、500dpi(ドット/インチ)の良好なグレースケールでマーキングすることが可能であった。
【0094】
実施例2〜8:
各層の組成(粒子やレーザーマーキング用添加剤の配合量など)、厚さなどを表2〜3に示すように変更した以外は実施例1と同じ手法で積層フィルムを作製した。各実施例のフィルムの性質およびレーザーマーキング性能の評価結果について表6〜8に示す。なお、実施例5及び8においてNd:YОレーザーを使用してフィルム上に写真のイメージのマーキング行った結果、良好なグレースケールのマーキングが得られた。
【0095】
実施例9:
実施例1と同じ手法で、表2に示す層構成および層厚さの2層構造のフィルムを作製した。更に、フィルムの性質およびレーザーマーキング性能の評価結果について表8に示す。良好なマーキングが得られたが、2層構造なために、フィルムの反対側(レーザー照射側の反対側)が溶融したためにマーキングされた箇所が基材に付着した。
【0096】
実施例10:
実施例5のフィルムに更にD層を設けた以外は実施例5と同じ手法で積層フィルムを作製した。D層は、厚さが5μmであり、イソフタル酸単位でテレフタル酸単位を20モル%置換したPETから成り、A’層上に設けられた。更に、このD層面をECCS鋼板上に180℃で接着・積層することが出来た。レーザーマーキング評価結果は実施例5と同等であった。
【0097】
実施例11:
実施例5において、B層の厚さを65μmに変更したこと、及び、A’層の代りに、イソフタル酸単位でテレフタル酸単位を20モル%置換したPETから成るC層を積層したこと以外は実施例5と同じ手法で積層フィルムを作製した。更に、このC層面をECCS鋼板上に180℃で接着・積層することが出来た。レーザーマーキング評価結果は実施例5と同等であった。
【0098】
比較例1〜6、参考例1:
各層の組成(粒子やレーザーマーキング用添加剤の配合量など)、厚さなどを表4〜5に示すように変更した以外は実施例1〜11と同じ手法で積層フィルムを作製した。各実施例のフィルムの性質およびレーザーマーキング性能の評価結果について表9〜10に示す。
【0099】
比較例7:
ポリカーボネートの弾性率とσ5値を有する市販のレーザーマーキング用フィルム「Macrofol ID 6−2」について弾性率とσ5値を確認したところ、弾性率=2.3GPa、σ5値=58MPaであった。
【0100】
【表2】

【0101】
【表3】

【0102】
【表4】

【0103】
【表5】

【0104】
【表6】

【0105】
【表7】

【0106】
【表8】

【0107】
【表9】

【0108】
【表10】

【0109】
実施例のフィルム(本発明のフィルム)は特別な層構成を有し、B層に白色顔料と炭化可能なポリマーで被覆されたレーザー光吸収剤を有する二軸延伸ポリエステルフィルムであり、上記の結果より良好なレーザーマーキング特性を有する。比較例1のフィルムは、レーザー光吸収剤を含有していないため、感度の悪いマーキングしか得られなかった。比較例2〜4のフィルムは、レーザー光吸収剤を含有しているものの炭化可能なポリマーを有していないため、中間の程度のマーキングしか得られなかった。比較例5のフィルムは、B層に白色顔料を有しないため、マーキングすることが出来なかった。比較例6及び参考例1のフィルムは外層が無いかあるいはあまりにも薄いため、高いコントラストのマーキングを得ることが出来なかった。従って、本発明のフィルムは優れたレーザーマーキング特性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリエチレンナフタレート(PEN)から成り、ベース層と1層以上の外層の少なくとも2層から成る共押出二軸延伸フィルムであって、当該フィルムが上記PETから成る場合はエチレングリコール及びテレフタル酸以外の共重合モノマーを構成単位として含み、当該フィルムが上記PENから成る場合はエチレングリコール及び2,6−ナフタレンジカルボン酸以外の共重合モノマーを構成単位として含み、上記ベース層は白色顔料および炭化可能なポリマーで被覆されたレーザー吸収剤を含有することを特徴とする共押出二軸延伸フィルム。
【請求項2】
少なくとも3層から成り、最外層がレーザー吸収剤を含有しない請求項1に記載の共押出二軸延伸フィルム。
【請求項3】
最外層の融点が、レーザー吸収剤を含有する層の融点より低い請求項2に記載の共押出二軸延伸フィルム。
【請求項4】
2層から成る請求項1に記載の共押出二軸延伸フィルム。
【請求項5】
レーザー吸収剤の周りを被覆する炭化可能なポリマーが化学的に第2の相溶化ポリマーと結合しており、コアを形成している請求項1〜4の何れかに記載の共押出二軸延伸フィルム。
【請求項6】
更に疑似プラスチックを含有する請求項5に記載の共押出二軸延伸フィルム。
【請求項7】
レーザー吸収剤のコア部の径が10nm〜10μmである請求項5に記載の共押出二軸延伸フィルム。
【請求項8】
炭化可能なポリマーがポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート及びこれら2種以上の混合物から成る群より選択される請求項1〜7の何れかに記載の共押出二軸延伸フィルム。
【請求項9】
第2の相溶化ポリマーが、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン及びその混合物から選択される請求項5〜8の何れかに記載の共押出二軸延伸フィルム。
【請求項10】
疑似プラスチックがポリオレフィンである請求項6〜9の何れかに記載の共押出二軸延伸フィルム。
【請求項11】
総厚みが23μm〜1mmである請求項1〜10の何れかに記載の共押出二軸延伸フィルム。
【請求項12】
総厚みが30μm〜1mmである請求項1〜10の何れかに記載の共押出二軸延伸フィルム。
【請求項13】
総厚みが40μm〜700μmである請求項1〜10の何れかに記載の共押出二軸延伸フィルム。
【請求項14】
総厚みが65μm〜600μmである請求項1〜10の何れかに記載の共押出二軸延伸フィルム。
【請求項15】
レーザー吸収剤を含有しない最外層の厚みが3μm以上である請求項1〜14の何れかに記載の共押出二軸延伸フィルム。
【請求項16】
レーザー吸収剤を含有しない最外層の厚みが5μm以上である請求項1〜14の何れかに記載の共押出二軸延伸フィルム。
【請求項17】
レーザー吸収剤を含有しない最外層の厚みが7μm以上である請求項1〜14の何れかに記載の共押出二軸延伸フィルム。
【請求項18】
レーザー吸収剤を含有しない最外層の厚みが12μm以上である請求項1〜14の何れかに記載の共押出二軸延伸フィルム。
【請求項19】
白色顔料が硫酸バリウム及び/又は二酸化チタンである請求項1〜18の何れかに記載の共押出二軸延伸フィルム。
【請求項20】
最外層が滑剤として粒子を含有する請求項1〜19の何れかに記載の共押出二軸延伸フィルム。
【請求項21】
白色顔料が硫酸バリウム及び/又は二酸化チタンである請求項1〜20の何れかに記載の共押出二軸延伸フィルム。
【請求項22】
少なくとも1つの最外層上に粒子から成る塗布層により被覆されている請求項1〜21の何れかに記載の共押出二軸延伸フィルム。

【公開番号】特開2008−80805(P2008−80805A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248561(P2007−248561)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(596099734)ミツビシ ポリエステル フィルム ジーエムビーエイチ (29)
【Fターム(参考)】