説明

レーザ光によるライン加工方法およびレーザ加工装置

【課題】パルスレーザを用いたライン加工に際して、アスペクト比の高い被加工領域の形成を実現する。
【解決手段】被加工物へのライン加工方法が、パルスレーザである第1のレーザ光を加工方向に沿って近接あるいは連接する複数の微小レーザ光群である第2のレーザ光に変換する変換工程と、第2のレーザ光を集光して被加工物に照射しつつ、加工方向に沿って相対走査させることによって表面を加工する加工工程と、を備え、第1のレーザ光が所定の回折格子の回折光が第2のレーザ光であり、第2のレーザ光においては、被照射領域が加工方向において占める第1照射サイズがこれに垂直な第2照射サイズよりも大きく、回折格子と集光手段との間に設けたビームエキスパンド手段によって焦点距離が調整された第2のレーザ光を、照射サイズ比を維持するように集光しつつ走査することによって、第2のレーザ光の被照射領域を加工方向に沿って連続的に変位させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いてスクライブ加工などのライン加工を行う方法およびこれを実現する加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
YAGレーザなどのレーザ光を利用した溶接や切断、穴あけなどの加工は、従来より広く用いられている(例えば、特許文献1ないし3参照。)。
【0003】
特許文献1には、YAGレーザを有し、主として溶接に用いられるレーザ加工装置が開示されており、特許文献2には、主として半導体装置のアウターリードを連結するダムバーの切断に用いられるレーザ加工装置が開示されている。また、特許文献3には、スクライブ針を用いた機械的なスクライブとレーザ光の照射とを組み合わせた被加工物の分割方法についての開示がなされている。
【0004】
近年では、YAGの3倍高調波を用いたパルスレーザによって、サファイアなど硬度が高く、かつ脆性を有する基板材料や、該基板材料上にGaNなどの同じく硬脆なワイドバンドギャップ化合物半導体薄膜により短波長LD(レーザダイオード)、LED(発光ダイオード)をなどのデバイスを形成したものを切削・切断等するための装置も公知となっている(例えば、特許文献4参照。)。
【0005】
特許文献4に開示された加工装置は、波長域が紫外から可視域で、出力が数百mW〜数十W、パルス幅が数ns〜数百ns、発振周波数が数kHz〜数百kHzのパルスレーザを用い、レーザ光を集光光学系で基板表面付近に集光し、これを基板表面で(相対的に)走査させることで、サファイアなどの硬脆な材質よりなる基板や該基板を用いて作製されたデバイスに対するスクライブラインの形成や切断、貫通穴形成などに好適に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−116884号公報
【特許文献2】特開平9−1371号公報
【特許文献3】特開2000−58488号公報
【特許文献4】特開2004−114075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一の基板に多数個のデバイスを繰り返し形成するような場合、後工程として個々のデバイスに分離・分割するための工程が必要であり、レーザ光によってブレイク用の溝としてのスクライブラインを形成した後、該スクライブラインに沿って機械的に分割する方法や、あるいはレーザ光によって直接に切断する方法などを採用することが可能である。いずれの方法を採用する場合であっても、スクライブラインあるいはカットラインが通る、いわゆるストリートの幅をできるだけ小さくするほど、1枚の基板からのデバイスの取り個数を多くすることができる。さらには、ブレイキングを容易かつ確実に行うという観点からも、スクライブラインをより細くかつ深く形成するのが好ましい。
【0008】
よって、特許文献4に開示されているようなレーザ加工装置におけるスクライブ加工や切断加工の過程においては、被加工物の幅方向に被加工領域が拡がることなく深さ方向への加工が進むことが、換言すれば、被加工領域のアスペクト比が大きい状態を保った加工が実現されることが、好ましい態様であるといえる。加工に用いるレーザ光についても、このような加工を実現するように照射条件が設定される必要がある。
【0009】
しかしながら、特許文献4に係るレーザ加工装置にて用いられているような、YAGの3倍高調波のパルスレーザを用いる場合に最適な加工条件は、これまで明らかにはされていない。
【0010】
特許文献1ないし2には、楕円形状のレーザ光を用いることで、溶接やダムバー切断の効率化を図る技術が開示されているが、上記のような、アスペクト比の向上を実現することを目的とする技術については、何らの開示も示唆もなされていない。また、特許文献3に開示された技術は、スクライブ針による機械的な加工が前提であり、レーザ光のみを用いるものではない。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、パルスレーザを用いたスクライブ加工および切断加工などのライン加工に際して、アスペクト比の高い被加工領域の形成を実現する加工方法およびこれを実現する加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、レーザ光を照射することによって被加工物に対し所定の加工方向に沿った加工を行うライン加工方法であって、所定の光源から所定のパルス幅で繰り返し照射されるパルスレーザとして発せられる第1のレーザ光を前記加工方向に沿って近接あるいは連接する複数の微小レーザ光群である第2のレーザ光に変換する変換工程と、前記第2のレーザ光を所定の集光手段によって前記被加工物の表面近傍に集光したうえで前記被加工物に照射しつつ、所定の走査手段に前記第2のレーザ光を前記加工方向に沿って相対的に走査させることによって、前記表面を加工する加工工程と、を備え、前記変換工程においては、前記第1のレーザ光を所定の回折格子に照射することで生じる前記回折格子からの回折光が前記第2のレーザ光であり、前記第2のレーザ光においては、前記被加工物へ照射される際に形成される被照射領域が前記加工方向において占める第1照射サイズが前記加工方向と垂直な方向において占める第2照射サイズよりも大きく、前記加工工程においては、前記回折格子と前記集光手段との間に設けた第1と第2のエキスパンドレンズからなるビームエキスパンド手段によって焦点距離が調整された前記第2のレーザ光を、前記第1照射サイズと前記第2照射サイズとの比率を維持するように集光しつつ走査を行うことによって、前記第2のレーザ光の被照射領域を前記加工方向に沿って連続的に変位させる、ことを特徴とする。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1に記載のライン加工方法であって、前記第2照射サイズに対する前記第1照射サイズの比である照射サイズ比を3以上50以下に調整することを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のライン加工方法であって、前記第1のレーザ光の波長が210nm〜533nmの波長範囲に属することを特徴とする。
【0015】
請求項4の発明は、レーザ光を照射することによって被加工物に対し所定の加工方向に沿ったライン加工を行うレーザ加工装置であって、第1のレーザ光を所定のパルス幅で繰り返し照射されるパルスレーザとして発する光源と、前記第1のレーザ光を前記加工方向に沿って近接あるいは連接する複数の微小レーザ光群である第2のレーザ光に変換する変換手段と、前記第2のレーザ光を前記被加工物の表面近傍に集光する集光手段と、前記変換手段と前記集光手段との間に設けられた第1と第2のエキスパンドレンズからなり、前記第2のレーザ光の焦点距離を調整するビームエキスパンド手段と、前記第2のレーザ光を前記加工方向に沿って相対的に走査させる走査手段と、前記レーザ加工装置の動作を制御する制御手段と、を備え、前記変換手段は回折格子であり、前記第1のレーザ光が前記回折格子に照射されることで生じる前記回折格子からの回折光が前記第2のレーザ光であり、前記第2のレーザ光においては、前記被加工物へ照射される際に形成される被照射領域が前記加工方向において占める第1照射サイズが前記加工方向と垂直な方向において占める第2照射サイズよりも大きく、前記集光手段は、前記ビームエキスパンド手段によって焦点距離が調整された前記第2のレーザ光を前記第1照射サイズと前記第2照射サイズとの比率を維持して集光し、前記制御手段は、前記被加工物に照射された前記第2のレーザ光の前記被照射領域が前記加工方向に沿って連続的に変位するように、前記集光手段と前記走査手段とを制御する、ことを特徴とする。
【0016】
請求項5の発明は、請求項4に記載のレーザ加工装置であって、前記変換手段は、前記第2照射サイズに対する前記第1照射サイズの比である照射サイズ比を3以上50以下に調整することを特徴とする。
【0017】
請求項6の発明は、請求項4または請求項5に記載のレーザ加工装置であって、前記第1のレーザ光の波長が210nm〜533nmの波長範囲に属することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1ないし請求項6の発明によれば、所定の出力パワーのレーザ光を用いて加工を行う場合に、レーザ光の走査速度を小さくすることなく被加工物に対するレーザ光の積算照射時間を高めることができるとともに、出力パワーを効率的に利用した適切なピークパワー密度のレーザ光を被加工領域に照射することができる。これにより被加工領域のアスペクト比が高い加工を実現することができる。その結果、例えば、1枚の基板に形成した多数個のデバイス分離・分割する場合にスクライブラインあるいはカットラインが通るストリートの幅をできるだけ小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置100の概略構成図である。
【図2】被加工物S上に形成される被照射領域が、被加工物Sにおける加工ラインL上のある点を通過する様子を示す図である。
【図3】照射サイズ比kを変えつつスクライブ加工を行った場合の加工溝の深さを示す図である。
【図4】照射サイズ比kを変えつつスクライブ加工を行った場合の加工幅を示す図である。
【図5】照射サイズ比kを変えつつスクライブ加工を行った場合のアスペクト比を示す図である。
【図6】ピークパワー密度と積算照射時間と加工溝の深さとの関係を示す図である。
【図7】ピークパワー密度と積算照射時間とアスペクト比との関係を示す図である。
【図8】照射サイズ比の調整の意味を説明する図である。
【図9】第1の構成例に係る照射光学系を示す図である。
【図10】図9の高さ位置(A)、(B)、(C)におけるビーム断面形状を示す図である。
【図11】第2の構成例に係る照射光学系を示す図である。
【図12】図11の高さ位置(D)、(E)、(F)におけるビーム断面形状を示す図である。
【図13】第2の構成例の変形例を示す図である。
【図14】第3の構成例に係る照射光学系を示す図である。
【図15】第3の構成例において形成されるビームスポットの形状を例示する図である。
【図16】第3の構成例の変形例を示す図である。
【図17】ビームスプリッタ341を説明する図である。
【図18】第4の構成例に係る照射光学系を示す図である。
【図19】第4の構成例の変形例を示す図である。
【図20】調整レンズ343の配置を代えた第4の構成例の変形例を示す図である。
【図21】図20の場合の加工の進行について説明する図である。
【図22】レンズ列351を用いた変形例を示す図である。
【図23】バンドルファイバー351を用いた変形例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<レーザ加工装置の概略構成>
図1は、本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置100の概略構成図である。レーザ加工装置100は、レーザ光源200からレーザ光LB1を発し、変換手段300においてそのビーム断面形状を所定の形状に変換し、これにより得られるレーザ光LB2を集光手段400によって集光し、駆動機構500の上部に設けられたステージ501に固定された被加工物Sの被加工部位に集光したレーザ光LB2を照射することによって、該被加工部位のアブレーション加工を行う装置である。そして、駆動機構500によってステージ501を移動させつつレーザ光LB2を連続して照射することにより、レーザ光LB2によって被加工物Sの表面を相対的に走査しながら、換言すれば、レーザ光の被照射領域を連続的に変位させながら、切断用の溝形成のためのスクライブ加工やあるいは直接の切断加工などのライン加工を行うことができる。このようなレーザ加工装置100の動作は、制御手段600によって各部の動作が制御されることで実現される。
【0021】
レーザ光源200としては、高周波パルスレーザ、例えば、Nd:YAGレーザを発生させる市販のレーザ光源装置を用いることができる。なかでもNd:YAGレーザの3倍高調波(波長約355nm)を用いるのが好適な態様である。レーザ光LB1の出力特性は、用いるレーザ光源装置によって異なるが、レーザ光源装置を適宜に選択することにより、出力パワーが数W〜数10Wのレーザ光LB1を、レーザ光源200から出射させることができる。このようなレーザ光LB1においては、繰り返し周波数が概ね数10kHz〜100kHz、パルス幅が概ね10nsec〜100nsecの範囲にある。レーザ光源200から発せられるレーザ光LB1の波長や出力、パルス幅の調整は、制御手段600により実現される。
【0022】
変換手段300は、光源から出射されたレーザ光LB1に対し光学的な変換処理を作用させて、第1のレーザ光LB1とは異なるビーム断面形状を有する第2のレーザ光LB2を出射させるために備わる。また、集光手段400は、レーザ光LB2を集光し、被加工物Sの被加工部位に照射させるために備わる。なお、ビーム断面形状とは、レーザ光の光軸に垂直な仮想的な面を考えた場合に、この面に対するレーザ光の投影像が有する形状を意味するものとする。また、変換手段300および集光手段400を、照射光学系と総称することとする。
【0023】
通常、レーザ光LB1は、そのビーム断面形状が光軸に対し等方的であるように、より具体的には略真円形状であるように光源から発せられることが多いが、本実施の形態に係るレーザ加工装置100は、レーザ光源200から出射される等方的なレーザ光LB1が等方的なまま被加工物Sに照射させるのではなく、被加工物Sに形成されるレーザ光LB2の被照射領域の形状が異方性を有するように、変換手段300によってレーザ光LB1を光学的に変換しこれを集光手段400により集光させる点で特徴的である。なお、このような態様で照射されるレーザ光を単に、「異方性を有するレーザ光」などと称することがある。
【0024】
このような態様を実現する変換手段300および集光手段400の具体的な構成については、後述する。
【0025】
被照射領域が異方性を有する場合としては、例えば、被照射領域が略楕円形状や略長方形状に形成される場合が考えられるが、これらを含め、略線対称となる対称軸をとることができ、かつ、その対称軸方向に対する広がりが他の方向への広がりよりも大きくなるような対称軸が存在するように形成されるのが好ましい。すなわち、該対称軸に沿って長尺な被照射領域が形成されるのが好ましい。そのような条件を満たすのであれば、複数の微小な略円形領域が該対称軸に沿って直線状に近接あるいは連接配置してなるように被照射領域が形成されてもよい。なお、以降、被照射領域の該対称軸方向のサイズを第1照射サイズ、これに直交する方向のサイズを第2照射サイズと称することとする。
【0026】
駆動機構500は、ステージ501を水平2軸方向に移動させるために備わる。さらに、ステージ501を所定位置を回転中心として水平面内回転させることができる態様であってもよい。駆動機構500の動作は、制御手段600によって制御される。
【0027】
ステージ501は、好ましくは石英、サファイア、窒化ガリウム、水晶など、レーザ光LB2の波長に対して実質的に透明な材料で形成される。これにより、被加工物Sを透過したレーザ光LB2や被加工物をはずれて照射されたレーザ光(これらを「余剰レーザ光」と称する)がステージ501の表面で吸収されないので、該余剰レーザ光によってステージ501がダメージを受けることがない。また、ステージ501には、例えば吸引固定によって被加工物Sを固定する図示しない固定手段が設けられている。
【0028】
制御手段600には、汎用のパーソナルコンピュータ(PC)を用いることができる。制御手段600に備わる図示しない記憶手段に記憶されている、所定の動作プログラムが実行されることにより、レーザ加工装置100の各部の動作が制御される。
【0029】
なお、図1においては図示を省略するが、レーザ加工装置100には、加工位置を観察するための、例えばCCDカメラなどからなる観察手段、加工によって生じる粉塵等を除去するために、吸引や不活性ガスの供給を行う粉塵除去手段などが適宜に設けられていてもよい。
【0030】
<レーザ光によるライン加工>
次に、レーザ加工装置100によって実現されるライン加工の方法とその特徴について説明する。図2は、レーザ光LB2が照射されることによって被加工物S上に形成される被照射領域が、被加工物Sにおける加工ラインL上のある点を通過する様子を示す図である。なお、図2においては、加工を施そうとする加工ラインLが延びる方向をx軸とする。
【0031】
また、レーザ加工装置100は、上述のように被照射領域が異方性を有するようにレーザ光LB2を照射するが、説明の簡単のため、図2においては、長方形状の被照射領域BSが被加工物S上に形成される場合を例とする。この場合、被照射領域BSの長手方向の大きさが第1照射サイズに相当し、これに直交する方向の大きさが第2照射サイズに相当することになる。第2照射サイズをa(a>0)とすると、第1照射サイズはk・a=ka(k≧1)と表すことができる。この場合のkを、照射サイズ比と称することとする。ただし、k=1の場合、被照射領域は正方形状となり、等方的となる。
【0032】
加工ラインLに沿った加工を行うためには、矢印AR1にて示すようにレーザ光LB2を加工ラインLに沿って(相対的に)走査させることになるが、レーザ加工装置100においては、図2に示すように、被照射領域BSの長手方向と加工ラインLとが平行を保ちつつ加工ラインLに沿って加工が進行するように、集光手段400によるレーザ光LB2の照射と駆動機構500によるステージ501の移動がなされる。
【0033】
このとき、被照射領域BSが加工ライン上のある点x=x1を通過し始めるとき(図2(a)の場合)の時刻をt=0、通過を終えるとき(図2(b)の場合)の時刻をt=t1とすると、レーザ光LB2の走査速度vを一定とするとき、被照射領域BS(の終端E2)がx=x1を通過するのに要する時間t1は、被照射領域BSの先端E1がx=x1から距離kaだけ進んだ時間に他ならないので、
t1=ka/v (式1)
となる。
【0034】
レーザ光のパルスの繰り返し周波数をf、そのときのパルス幅をΔtとすると、単位時間あたりに実際にレーザ光LB2が照射されている時間は、f・Δt=fΔtであるから、被照射領域BSが通過する間にレーザ光LB2が点x=x1に実際に照射されている時間、すなわち積算照射時間は、
t2=t1・fΔt=kafΔt/v (式2)
と表されることになる。
【0035】
式2において、a、vを一定とすると、t2は、k、f、Δtの関数となるが、パルス幅Δtは、一般に繰り返し周波数fの関数(増加関数)として表されるので、光源装置の種類が同じである限り、fを決めればΔtも一意に定まることになる。よって、t2は、kとfとの関数であるとみなすことができる。繰り返し周波数fがレーザ光源200から出射されるレーザ光LB1の出力パワーに応じて定まることを併せ考えると、このことは、ある出力パワーのレーザ光を用いて加工を行う場合、kの値を大きくすることで、積算照射時間が大きくすることができることを意味している。kの値を大きくするということは、つまり、レーザ光LB2の異方性の度合を高めることに相当する。なお、被照射領域が楕円形状などの場合、厳密には式2は成り立たないが、定性的には同様の議論が成り立つ。
【0036】
一方、レーザ光源200からレーザ光LB1が出射される際の出力パワーが一定である限り、レーザ光LB2に異方性が有するか否かによらず、レーザ光LB2のパワーも一定であるので、kの値を大きくするほど、被照射領域BSにおける単位面積あたりのパワーの指標となるピークパワー密度(ピークパワーはレーザ光の1パルスのピーク強度値)は減少する。従って、レーザ光LB2の異方性の度合を高めるということは、パワーの総和を一定にしたまま、被加工物に照射されるレーザ光LB2のピークパワー密度を小さくすることに相当する。
【0037】
図3、図4、および図5は、このような特徴を有するレーザ光LB2を用いて、照射サイズ比kを変えつつスクライブ加工を行った場合の加工結果の一例を、示す図である。ここでは、レーザ光LB2の相対走査速度、つまりは駆動機構500によるステージ501の移動速度を20mm/secとし、レーザ光源から出射されるレーザ光LB1としてビーム断面形状が略真円のビームを用い、そのビーム径を2μmとし、出力パワーを、2W、6W、および12Wとした場合についての結果を示している。図3は、加工の結果得られた加工溝、すなわち被加工領域の深さを示す図であり、図4は、該加工溝の幅を示す図であり、図5は、幅に対する深さの比、すなわち加工溝のアスペクト比を示す図である。横軸はいずれも照射サイズ比kを対数目盛にて表している。また、係る場合、k=1はレーザ光LB2のビーム形状が略真円である場合に相当する。
【0038】
上述のように、ブレイク溝形成などのためのライン加工は、加工によって得られた被加工領域のアスペクト比が大きい方が好ましい。よって、k>1の範囲で、k=1のときよりも大きな値のアスペクト比が得られていれば、レーザ光LB2に異方性を与えることの効果が得られていることになる。図5からは、出力パワーが6W、12Wの場合に、照射サイズ比kがおおよそ3〜50の範囲にあるときに、k=1の場合より、大きなアスペクト比が得られていることが分かる。
【0039】
その一方、出力パワーが2Wの場合には、k=1.5においてk=1のときよりもわずかにアスペクト比が大きくなり、6Wや12Wの場合と同程度の値が得られるが、さらにkの値を大きくすると減少に転じてしまう。図3および図4において加工溝の深さと幅とがともに低下していることも踏まえると、これは、もともとの出力パワーが小さいことから、k=1であってもピークパワー密度が小さく、異方性を付与することでピークパワー密度が著しく低下して、加工に供されるエネルギーが十分でなくなってしまうことが原因と考えられる。出力パワーが6W、12Wの場合に、k=100でアスペクト比が低下しているのも、同様の理由によると考えられる。
【0040】
ただし、このことは、見方を変えれば、パワーを2Wとして照射サイズ比kをおおよそ3〜50の範囲とすることで、被加工物の加工がk=1の場合よりも抑制されているということもできる。また、照射サイズ比kを一定とした場合の出力パワーごとのアスペクト比の違いは、k>1場合の方がk=1の場合よりも概して大きくなっている。これらのことからは、照射サイズ比kをおおよそ3〜50の範囲に設定すれば、ライン加工の際にレーザ光源200から出射するレーザ光LB1に対する加工溝のアスペクト比のダイナミックレンジが、k=1の場合よりも大きくなるともいえる。すなわち、加工形状の自由度が高くなっているともいえる。
【0041】
以上より、照射サイズ比kを3〜50の範囲の値にすることで、アスペクト比が高い加工を実現することができるといえる。あるいはアスペクト比のダイナミックレンジが大きい加工を実現することができるともいえる。
【0042】
ここで、このような、照射サイズ比を変えることの意味について、図6、図7、および図8に基づいて考察する。
【0043】
図6は、ピークパワー密度と積算照射時間と加工溝の深さとの関係を示す図である。図6においては横軸を「パワー密度」と表記しているがこれはピークパワー密度を表している(図7、図8においても同様)。また、縦軸が積算照射時間を表し、濃淡で加工溝の深さを表している。図7は、縦軸および横軸を図6と同様にピークパワー密度と積算照射時間とし、これらとアスペクト比との関係を示す図であり、濃淡でアスペクト比を表している。なお、縦軸、横軸はいずれも、それぞれの値の常用対数にて目盛られている。
【0044】
図6および図7からは、加工溝の深さおよびアスペクト比ともに、閉曲線RP1で囲んだ領域のあたりで、最も高い値が得られていることがわかる。このことは、単純にピークパワー密度が高いほどより深く、あるいはアスペクト比が大きく加工ができるとは限らないことを示している。
【0045】
等方的なレーザ光で加工を行う場合、レーザ光の出力パワーとピークパワー密度は比例することから、ピークパワー密度の調整は、レーザ光の出力パワーの調整によって行われることになる。図8は図6および図7と同じ座標軸を取った、照射サイズ比の調整の意味を説明する図であるが、この場合、出力パワーの調整は、図8において矢印AR2に示すように横軸方向に値を変動させることにつながる。また、等方的なレーザ光で加工を行う場合、積算照射時間の調整は、出力パワーが一定、つまりは繰り返し周波数が一定であれば、式2より、走査速度vの値を調整することで行われることになる。これは、図8において矢印AR3に示すように縦軸方向に値を変動させることにつながる。結局、等方的なレーザ光で加工を行う場合に、閉曲線RP1で囲まれた領域にピークパワー密度と積算照射時間とを設定しようとすると、出力パワーと走査速度とを調整せざるを得ないことになる。なお、走査速度vの値を小さくすることは、スループットの低下につながるので、好ましいことではない。
【0046】
これに対して、異方性を有するレーザ光LB2を用いて加工を行う場合は、上述したように、レーザ光LB1の出力パワーが一定のもとで、照射サイズ比kを変化させることで、積算照射時間とピークパワー密度とを同時に変化させることができる。すなわち、図8において矢印AR4の向きに値を変動させることができる。しかも、kの値を大きくするほど積算照射時間は大きくなる一方、異方性が増すのでパワー密度は減少する。
【0047】
よって、例えば、k=1とした場合に図6および図7において閉曲線RP2に示される領域に該当するような出力パワーを有するレーザ光LB1を、レーザ光源200から出射させ、係るレーザ光LB1に対し変換手段300によって照射サイズ比kが3〜50の範囲にあるように変換すれば、ピークパワー密度を減少させつつ積算照射時間が大きくなった、閉曲線RP1に示される領域に該当するレーザ光LB2を得ることができる。すなわち、照射サイズ比kを適切な値に設定することで、出力パワーを有効に活かしつつ、走査速度vを低下させることもなく、アスペクト比の高いライン加工が実現されることになる。
【0048】
なお、特許文献1および2においても、ビーム断面形状を楕円形状にする態様についての開示はなされているが、いずれに開示された技術も、被照射領域を加工方向に沿って広げ、かつ被照射領域の重なりをできるだけ小さくするようにレーザ光を照射することで、加工の効率化を図るものに過ぎない。すなわち、レーザ光を異なる場所ごとに断続的に照射させる態様の加工を行う技術の効率化を目的とするものである。これに対して、本発明は、連続的にレーザ光を照射することによって被照射領域を連続的に変位させつつライン加工を行う技術を対象とするものであり、その際に、スループットを低下させることなく大きな積算照射時間と適切なピークパワー密度とを得ることで最適な加工を実現するものであるので、目的・効果の点で、特許文献1および2に開示された技術とは相違するものである。
【0049】
<照射光学系の第1の構成例>
上記のようなレーザ光LB2の照射を実現するための照射光学系、すなわち変換手段300および集光手段400の具体的な構成を、順次に説明する。なお、以下の各構成例においては、レーザ光LB2の照射に伴って被照射領域が移動する向きをx軸の正の向きとする右手形の三次元座標系を用いることとする。すなわち、以下の各構成例においては、z軸負方向にレーザ光源200、変換手段300、集光手段400、およびステージ501(駆動機構500)がこの順に設けられてなり、レーザ光LB1は、その光軸がz軸と一致するように、レーザ光源200から変換手段300に向けて出射されるものとする。
【0050】
図9は、第1の構成例に係る照射光学系を示す図である。図9(a)はyz平面に平行な面における断面図、図9(b)はzx平面に平行な面における断面図である。第1の構成例に係る照射光学系は、変換手段300として作用するシリンドリカルレンズ311と集光手段400として作用する対物レンズ411とを備える。また、図10は、図9の高さ位置(A)、(B)、(C)におけるビーム断面形状を示す図である。
【0051】
シリンドリカルレンズ311は、レーザ光源200から等方的かつ略平行に出射されたレーザ光LB1をx軸方向についてのみ集光し、y軸方向についてはそのまま透過させるように設けられる。これにより、シリンドリカルレンズ311からは、ビーム断面形状に異方性を有するレーザ光LB2が出射される。係るレーザ光LB2は対物レンズ411で集光されるが、ビーム断面形状に異方性があるために、yz平面における焦点位置とzx平面における焦点位置とが、z軸方向において異なるものとなっている。これにより、図10に示すように、集光されたレーザ光LB2のビーム断面形状もz軸方向の位置に応じて異なるものとなる。このうち、位置(C)の場合の断面形状は、x軸方向に長手方向を有する楕円形状をなしていることから、係る高さ位置に被加工物Sを配置し、レーザ光LB2をx軸方向に走査させることで、長尺な被照射領域の長手方向を加工ラインに沿わせて加工を進行させることができ、より長い積算照射時間と適切なピークパワー密度とを得ることができる。
【0052】
<照射光学系の第2の構成例>
上述の第1の構成例においては、図10の(A)〜(C)に示すように、高さ位置によってレーザ光のビーム断面がなす楕円の向きが変化することになるので、対物レンズ411と被加工物Sとの距離の変動、つまりはピント位置のズレが生じた場合に、ビーム断面形状が変動しやすいという問題がある。第2の構成例では、この点に配慮した照射光学系を示す。
【0053】
図11は、第2の構成例に係る照射光学系を示す図である。図11(a)はyz平面に平行な面における断面図、図11(b)はzx平面に平行な面における断面図である。第2の構成例に係る照射光学系は、変換手段300として作用する第1シリンドリカルレンズ321と第2シリンドリカルレンズ322と、集光手段400として作用する対物レンズ421とを備える。また、図12は、図11の高さ位置(D)、(E)、(F)におけるビーム断面形状を示す図である。
【0054】
第1シリンドリカルレンズ321は、レーザ光源200から等方的かつ略平行に出射されたレーザ光LB1をy軸方向についてのみ集光し、x軸方向についてはそのまま透過させるように設けられる。第2シリンドリカルレンズ322は、第1シリンドリカルレンズ321を出たレーザ光を、y軸方向についてのみ集光して平行光とし、x軸方向についてはそのまま透過させるように、かつ、y軸方向における第2のレーザ光LB2のビーム径が、第1のレーザ光LB1のビーム径よりも小さくなる位置に設けられる。これにより、第2シリンドリカルレンズ322からは、平行光ではあるが、ビーム断面形状に異方性を有するレーザ光LB2が出射される。これにより、第1の構成例と同様に、レーザ光LB2はビーム断面形状に異方性を有するものとなっている。ただし、第2の構成例においては、図12に示すように、集光されたレーザ光LB2のビーム断面形状が、z軸方向の高さ位置によらず、x軸方向に長手方向を有するものとなる点で、第1の構成例とは異なっている。
【0055】
この場合、よりビーム径が絞られる高さ位置(E)に被加工物Sを配置し、レーザ光LB2をx軸方向に走査させるようにすることで、被照射領域の長手方向を加工ラインに沿わせて加工を進行させることができ、より長い積算照射時間と適切なピークパワー密度とを得ることができることに加えて、対物レンズ421と被加工物Sとの距離の変動、つまりはピント位置のズレによる悪影響を抑制することができる。
【0056】
<第2の構成例の変形例>
平行光であって、ビーム断面形状に異方性を有するレーザ光LB2を出射するための変換手段300の構成態様は、上述の場合に限定されない。図13は、変換手段300としてアナモルフィックプリズム323を用いた場合を示す図である。図13(a)はyz平面に平行な面における断面図、図13(b)はzx平面に平行な面における断面図である。2つのプリズム323aと323bとを組み合わせてなるアナモルフィックプリズム323を図13のように配置することにより、x軸方向についての幅はそのまま、y軸方向にのみ幅を狭められた異方性のあるレーザ光LB2を得ることができる。得られたレーザ光LB2を対物レンズ421で集光し、被加工物Sに照射する点は、上述の場合と同様である。
【0057】
<照射光学系の第3の構成例>
第1および第2の構成例においては、被照射領域が楕円形状をなす場合について説明したが、長尺な被照射領域を形成し、長い積算照射時間を得るための態様はこれに限定されるものではない。本構成例においては、レーザ光を直線状に配列したいわゆるマルチビームによって同様の効果を実現する態様について説明する。
【0058】
図14は、第3の構成例に係る照射光学系を示す図である。図14は、変換手段300として作用する回折格子331と、集光手段400として作用する対物レンズ431とを備える。
【0059】
回折格子331は、レーザ光源200から出射されるレーザ光LB1の光軸と垂直にその格子面331aが位置するように、かつ、x軸方向に格子ピッチdで格子が配列するように配置される。対物レンズ431は、光軸上においてその焦点距離fだけ回折格子331から離れた位置に配置される。
【0060】
係る場合、等方的かつ略平行なレーザ光LB1がz軸の負の向きに回折格子331に入射すると、回折格子331においてzx平面内で回折現象が生じる。このときのn次(nは整数)の回折角θnは、回折格子の格子ピッチdとレーザ光の波長λとnとを用いて、
θn=sin-1(nλ/d) (式3)
と表される。ただし、図示の簡単のため、図14においてはn=0、±1、±2の場合のみ示している。よって、回折格子331から出射されるレーザ光LB2は、y軸方向の幅は入射時のレーザ光LB1と同じであるのに対し、x軸方向については異なった次数の光の合成光となり、その結果、入射時よりも広がりを有する異方性を備えたものとなる。
【0061】
回折格子331から出射されたレーザ光LB2は、対物レンズ431により、その焦点距離fだけ対物レンズ431から離れた位置において、回折格子331における回折の次数nに応じた位置に集光される。その集光位置の光軸からの垂直距離Dnは、
n=ftanθn (式4)
と表される。すなわち、0次の回折光(透過光)は光軸上の位置(D0=0)に集光され、1次の回折光(透過光)は光軸からD1だけ離れた位置に集光され、2次の回折光(透過光)は光軸からD2だけ離れた位置に集光されることになる。このことは、単一の平行光であるレーザ光LB1が変換手段300としての回折格子331によって複数の微小なレーザ光群へとマルチビーム化されたことを意味している。
【0062】
係る場合に、集光位置において光軸に垂直に被加工物Sを配置すると、被加工物Sには、該マルチビームに応じた複数のビームスポット(・・・BS2、BS1、BS0、BS1’、BS2’・・・)が、光軸位置を中心にx軸方向について対称に形成されることになる。換言すれば、複数のレーザ光群が列をなして被加工物S上に照射されることになる。
【0063】
ここで、形成されるビームスポットの数の上限は、対物レンズ431の有効視野径と、回折格子331の格子ピッチdとに依存する。また、図14においては図示の便宜上、被加工物S上に形成される各ビームスポットを点にて表しているが、実際には、回折条件やあるいは被加工物Sの位置誤差などに起因して、図15(a)に示すように、ビームスポットは有限の大きさを持つ。条件によっては、図15(b)のように、隣同士が連接する場合もある。この場合、各ビームスポットが互いに接しているか否かに依らず、ピークパワー密度を弱めつつ被照射領域を長手方向に拡大している点では、上述の第1および第2の構成例と同じであるので、いずれにせよ、これらのビームスポットの全体として1つの被照射領域BSとみなすことができ、被加工物Sにはx軸方向に(時には断続的にではあるが)長尺化された被照射領域BSが形成されるように、レーザ光LB2が照射されるといえる。
【0064】
そして、このようにマルチビーム化されたレーザ光LB2をx軸方向に(相対的に)走査させることで、第1および第2の構成例と同様に、被照射領域の長手方向を加工ラインに沿わせて加工を進行させることができ、より長い積算照射時間と適切なピークパワー密度とを得ることができる。
【0065】
<第3の構成例の変形例>
第3の構成例においては、回折格子331が対物レンズ431の瞳位置に配置されているが、回折格子331をこの位置関係に配置できない場合、ビームエキスパンダーを用いることで、その位置関係の制限を解消することができる。図16は、これを示す図である。
【0066】
図16においては、光軸上において回折格子331と対物レンズ431との間に、ビームエキスパンダーを構成すべく、焦点距離f1の第1エキスパンドレンズ332と焦点距離f2の第2エキスパンドレンズ333とが設けられてなる。第1エキスパンドレンズ332は、回折格子331が一方の焦点位置に位置するように(回折格子331から焦点距離f1だけ離れた位置に)設けられてなる。第2エキスパンドレンズ333は、第1エキスパンドレンズ332のもう一方の焦点位置が、第2エキスパンドレンズ333の一方の焦点位置と一致するように、かつ、他方の焦点位置が、対物レンズ431の焦点位置と一致するように設けられてなる。
【0067】
この場合、被加工物Sに形成されるビームスポットの間隔が、f1とf2の値に応じて定まることになるので、装置設計上の自由度が高まることになる。ビームエキスパンダーを倍率可変に設けることによって、ビームスポットの間隔を可変にすることもできる。
【0068】
なお、ビームエキスパンダーを設ける場合には、ビームスポットの大きさがf2/f1倍されることになる。これを回避するには、さらに別個にビームエキスパンダーを設け、あらかじめビーム系をf1/f2倍しておけばよい。
【0069】
また、ビームエキスパンダーを、第2の構成例のようにシリンドリカルレンズにて構成することで、ビーム断面形状を楕円形状にする態様であってもよい。
【0070】
<照射光学系の第4の構成例>
マルチビーム化を実現する態様は、第3の構成例に示したものに限られない。図17は、ビームスプリッタ341によるマルチビーム化を説明する図である。
【0071】
ビームスプリッタ341は、変換手段300として作用するものであり、本体部341aと反射膜341bとから構成される。本体部341aは、入射面p1と出射面p2とが平行に設けられ、入射面p1上には、反射膜341bが形成されてなる。ビームスプリッタ341は、レーザ光源200から出射され、該ビームスプリッタ341に入射するレーザ光LB1と、後述のようにマルチビーム化されて該ビームスプリッタ341から出射されるレーザ光LB2とが平行を保つように、zx平面に平行に配置される。
【0072】
まず、レーザ光LB1が本体部341aの入射面p1の入射部341cに入射すると、所定の屈折率に応じて屈折が生じ、屈折光l1は出射面p2に進む。出射面p2においては、屈折光の一部の成分l2は外部へ出射されるが、残りの成分l3は反射されて入射面p1へと進む。入射面p1には、このようにして進んできたレーザ光を全て反射するように反射膜341bが設けられてなる。従って、反射を受けた光は再び出射面p2へと進む。出射面においては、上記と同様にレーザ光の一部の成分は外部へ出射されるが、残りは反射され、再び入射面p1へと進む。このような多重の反射を繰り返すことにより、結果として、ビームスプリッタ341からは、z軸に平行な複数のレーザ光がx軸方向について等間隔に出射されることになり、複数の微小レーザ光群からなる、マルチビーム化されたレーザ光LB2を得ることができる。なお、微小レーザ光の本数は、ビームスプリッタ341のサイズや屈折率などによって定まり、図示している本数に限定されるものではない(以下も同様)。
【0073】
なお、レーザ光LB2の均一性の観点からは、出射面p2における出射光と反射光との比率は、反射面からの角出射光の強度が略同一になるように与えられるのが好ましい。
【0074】
係るレーザ光LB2を、第3の構成例と同様に図示しない対物レンズで集光しつつ、x軸方向に沿って走査させることによって、上述の構成例と同様の効果を得ることができる。
【0075】
図18は、ビームスプリッタ341を用いた第4の構成例に係る照射光学系の構成を示す図である。ビームスプリッタ341を用いると、レーザ光LB2を構成するマルチビームの間隔(ビーム間隔)は、屈折率や配置位置に応じて定まるが、図18においては、その間隔を縮小する態様の照射光学系を示している。具体的には、ビームスプリッタ341と、集光手段として作用する焦点距離fの対物レンズ441との間に、焦点距離f3の縮小レンズ342が設けられてなる。縮小レンズ342は、光軸上(z軸方向)において一方の焦点位置にビームスプリッタ341が位置し、もう一方の焦点位置が対物レンズ441の一方の焦点位置と一致するように配置される。
【0076】
被加工物Sを対物レンズ441のもう一方の焦点位置に配置すると、ビームスプリッタ341から発せられたマルチビーム化されたレーザ光LB2は、ビームスプリッタ341から発せられた際のビーム間隔のf/f3倍に縮小されて照射されることになる。縮小レンズ342の焦点距離f3を可変にできる構成態様とした場合には、ビーム間隔を可変にすることができる。
【0077】
<第4の構成例の変形例>
図18においては、ビームスプリッタ341から出射された微小レーザ光に広がりがある場合を例示している。実際には、その広がりを無視することができ、平行光として取り扱える場合(縮小率f/f3の値が小さい場合など)もあるが、わずかな広がりが問題となるような場合、その広がり角を各微小レーザ光について併せる必要がある。図19は、これを実現する照射光学系の構成を示す図である。
【0078】
図19に示すように、係る照射光学系においては、ビームスプリッタ341と縮小レンズ342との間に、各微小レーザ光に対応して調整レンズ343が設けられる。調整レンズ343は、その焦点位置が縮小レンズ342の焦点位置と一致するように配置される。なお、図19においては、3本の微小レーザ光LBa、LBb、LBcがビームスプリッタ341から出射された場合を例示しているので、それぞれに対応した3つの調整レンズ343a、343b、343cを図示しているが、実際には、より多くの微小レーザ光が出射され、それらに対応して調整レンズ343が設けられる。
【0079】
また、図19においては、調整レンズ343を凸レンズにて形成してなるが、凹レンズやあるいは組み合わせレンズにて形成してもよい。
【0080】
あるいは、調整レンズ343の配置を工夫することで、被加工物Sに照射される際の微小レーザ光の焦点位置をも調整することができる。図20および図21は、これを説明する図である。
【0081】
図20においては、個々の調整レンズ343が、配置位置をz軸方向にずらして設けられてなる照射光学系が示されている。より詳細には、調整レンズ343bは図19の場合と同じ配置位置にあり、調整レンズ343aは図19の場合よりもビームスプリッタ341側に配置されており、調整レンズ343cは図19の場合よりも縮小レンズ342側に配置されている。
【0082】
このように調整レンズ343が配置されているので、対物レンズ441から出射されるそれぞれの微小レーザ光に対応する結像点Fa、Fb、Fcのz軸方向の位置にも違いが生じ、微小レーザ光LBaによってもたらされる結像点Faが対物レンズ441から最も近い位置に形成され、順にFb、Fcと対物レンズ441に遠い位置に形成されることになる。そして、ライン加工を行う場合は、この結像位置が微小レーザ光ごとにずれた状態で、レーザ光LB2による矢印AR5の方向への相対的な走査がなされることになる。
【0083】
図21は、係る場合のライン加工の様子を示す図である。このとき、z軸方向における結像点Faの位置と被加工物Sの表面の位置とが略一致するように、被加工物Sは保持される。この場合、図21(a)に示すように、被加工物Sがレーザ光LB2に対して矢印AR6のように進んでいくことになるので、まず、結像点Faをもたらす微小レーザ光が被加工物Sに照射されることにより、被加工物Sへの加工が開始される。被加工物Sを矢印AR6の向きに移動させつつレーザ光の照射を継続すると、図21(b)に示すような加工溝G1がある程度の深さ範囲に形成されることになる。やがて、結像点Fbをもたらす微小レーザ光が被加工物Sに照射するようになるが、その際、結像点Fbは結像点Faよりも低い位置、つまりは被加工物の表面よりも低い位置に形成されるので、加工溝G1の底部により近い位置に形成されることになる。よって、実際にレーザを照射すべき位置の近傍に結像点Fbが位置することになるので、より効率的に加工を進行させることができることになる。このとき、結像点Faは常に被加工物Sの表面近傍にあり、新たに加工されるべき箇所は常に係る結像点Faを形成する微小レーザ光によって加工されることになる。
【0084】
被加工物Sを引き続き移動させつつレーザ光LB2の照射を継続すると、やがて図21(c)に示すように、結像点Fcを与える微小レーザ光が加工溝G2の底部近傍に照射されるようになり、図21(b)の場合と同様に、加工溝G2の底部近傍が、係る微小レーザ光がによって効率的に加工されることになる。
【0085】
<その他の構成例>
被照射領域が長尺形状を有するようにレーザ光を変換し、集光する態様は、以上の各構成例に限定されるものではなく、他にも種々の手法で実現されうる。
【0086】
図22は、変換手段300としてレンズ列351を形成することにより、マルチビームかを実現する様子を示す図である。このように、レーザ光源200から出射されたレーザ光LB1の幅と一致する幅を有する、複数のレンズからなるレンズ列351を、レーザ光LB1の光軸上にレーザ光LB1と垂直に配置することで、マルチビームを形成し、集光手段に与える態様であってもよい。
【0087】
また、変換手段300として、図23に示すようなバンドルファイバー361を用いて、ビーム断面形状を変換する態様であってもよい。バンドルファイバー361は多数の光ファイバーが束状に一体保持されてなるものであり、図23においては、その入射部361aの断面は円形に、出射部361bの断面は、例えばほともとは円形であったものを所定の方法で変形するなどして、略長方形状に形成されてなる。係るバンドルファイバー361に、レーザ光源200から発せられた等方的かつ略平行なレーザ光LB1を入射部361aに垂直に入射させると、ビーム断面形状が略長方形状をなすレーザ光LB2が出射されることになる。これを、上述の構成例と同様に集光手段400にて集光することによっても、同様の効果を得ることができる。
【0088】
なお、被照射領域を楕円形状に形成する態様は、被加工物Sの法線方向に対してある傾きを有するように、レーザ光を照射することによっても実現される。係る場合、レーザ光を傾斜させるための機構が、変換手段300に相当することになる。
【符号の説明】
【0089】
100 レーザ加工装置
200 レーザ光源
300 変換手段
311 シリンドリカルレンズ
321 第1シリンドリカルレンズ
322 第2シリンドリカルレンズ
323 アナモルフィックプリズム
331 回折格子
331a 格子面
332 第1エキスパンドレンズ
333 第2エキスパンドレンズ
341 ビームスプリッタ
341a 本体部
341b 反射膜
341c 入射部
342 縮小レンズ
343、343a、343b、343c 調整レンズ
351 レンズ列
361 バンドルファイバー
361a 入射部
361b 出射部
400 集光手段
411、421、431、441 対物レンズ
500 駆動機構
501 ステージ
600 制御手段
BS 被照射領域
Fa、Fb、Fc 結像点
LB1 (レーザ光源200から出射された)レーザ光
LB2 (変換手段300から出射された)レーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を照射することによって被加工物に対し所定の加工方向に沿った加工を行うライン加工方法であって、
所定の光源から所定のパルス幅で繰り返し照射されるパルスレーザとして発せられる第1のレーザ光を前記加工方向に沿って近接あるいは連接する複数の微小レーザ光群である第2のレーザ光に変換する変換工程と、
前記第2のレーザ光を所定の集光手段によって前記被加工物の表面近傍に集光したうえで前記被加工物に照射しつつ、所定の走査手段に前記第2のレーザ光を前記加工方向に沿って相対的に走査させることによって、前記表面を加工する加工工程と、
を備え、
前記変換工程においては、前記第1のレーザ光を所定の回折格子に照射することで生じる前記回折格子からの回折光が前記第2のレーザ光であり、前記第2のレーザ光においては、前記被加工物へ照射される際に形成される被照射領域が前記加工方向において占める第1照射サイズが前記加工方向と垂直な方向において占める第2照射サイズよりも大きく、
前記加工工程においては、前記回折格子と前記集光手段との間に設けた第1と第2のエキスパンドレンズからなるビームエキスパンド手段によって焦点距離が調整された前記第2のレーザ光を、前記第1照射サイズと前記第2照射サイズとの比率を維持するように集光しつつ走査を行うことによって、前記第2のレーザ光の被照射領域を前記加工方向に沿って連続的に変位させる、
ことを特徴とするレーザ光によるライン加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載のライン加工方法であって、
前記第2照射サイズに対する前記第1照射サイズの比である照射サイズ比を3以上50以下に調整することを特徴とするレーザ光によるライン加工方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のライン加工方法であって、
前記第1のレーザ光の波長が210nm〜533nmの波長範囲に属することを特徴とするレーザ光によるライン加工方法。
【請求項4】
レーザ光を照射することによって被加工物に対し所定の加工方向に沿ったライン加工を行うレーザ加工装置であって、
第1のレーザ光を所定のパルス幅で繰り返し照射されるパルスレーザとして発する光源と、
前記第1のレーザ光を前記加工方向に沿って近接あるいは連接する複数の微小レーザ光群である第2のレーザ光に変換する変換手段と、
前記第2のレーザ光を前記被加工物の表面近傍に集光する集光手段と、
前記変換手段と前記集光手段との間に設けられた第1と第2のエキスパンドレンズからなり、前記第2のレーザ光の焦点距離を調整するビームエキスパンド手段と、
前記第2のレーザ光を前記加工方向に沿って相対的に走査させる走査手段と、
前記レーザ加工装置の動作を制御する制御手段と、
を備え、
前記変換手段は回折格子であり、前記第1のレーザ光が前記回折格子に照射されることで生じる前記回折格子からの回折光が前記第2のレーザ光であり、前記第2のレーザ光においては、前記被加工物へ照射される際に形成される被照射領域が前記加工方向において占める第1照射サイズが前記加工方向と垂直な方向において占める第2照射サイズよりも大きく、
前記集光手段は、前記ビームエキスパンド手段によって焦点距離が調整された前記第2のレーザ光を前記第1照射サイズと前記第2照射サイズとの比率を維持して集光し、
前記制御手段は、前記被加工物に照射された前記第2のレーザ光の前記被照射領域が前記加工方向に沿って連続的に変位するように、前記集光手段と前記走査手段とを制御する、
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項5】
請求項4に記載のレーザ加工装置であって、
前記変換手段は、前記第2照射サイズに対する前記第1照射サイズの比である照射サイズ比を3以上50以下に調整することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載のレーザ加工装置であって、
前記第1のレーザ光の波長が210nm〜533nmの波長範囲に属することを特徴とするレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−67873(P2011−67873A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271448(P2010−271448)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【分割の表示】特願2004−179513(P2004−179513)の分割
【原出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(390000608)三星ダイヤモンド工業株式会社 (383)
【Fターム(参考)】