説明

レーザ装置、疑似位相整合型の波長変換光学素子のフォトリフラクティブ効果抑制方法、露光装置及び検査装置

【課題】疑似位相整合型の波長変換光学素子におけるフォトリフラクティブ効果を抑制し得る手法を提供し、同効果に起因した問題を解決可能なレーザ装置等を提供する。
【解決手段】レーザ装置LSは、レーザ光を出力するレーザ光出力部1と、レーザ光出力部から出力されたレーザ光を波長変換して出力する波長変換部3とを備える。波長変換部3には、波長λのレーザ光を波長λ/2のレーザ光に波長変換する疑似位相整合型の波長変換光学素子31を備え、この波長変換光学素子31の入射面及び出射面の少なくともいずれかに、波長がλ〜λ/n(n≧3)の光の反射率を低減する反射率低減コーティングが施されて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疑似位相整合型の波長変換光学素子におけるフォトリフラクティブ効果の抑制方法、疑似位相整合型の波長変換光学素子を備えたレーザ装置、露光装置及び検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
疑似位相整合型の波長変換光学素子を備えたレーザ装置として、例えば、露光装置や各種検査装置、光治療装置などに好適に用いられる全固体型のレーザ装置が知られている。このようなレーザ装置は、所定波長の基本波レーザ光を出力するレーザ光出力部と、レーザ光出力部から出力された基本波レーザ光を波長変換する波長変換部とを備えて構成される(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。
【0003】
波長変換部には波長変換光学素子が設けられており、例えば、赤外領域の基本波レーザ光を複数の波長変換光学素子により順次波長変換し、紫外領域のレーザ光を出力するように構成される。近年では、バルク結晶では得ることが困難な高い変換効率を有し、ウォークオフを生じない高いビーム品質が得られることなどから、波長変換光学素子として疑似位相整合(QPM:Quasi Phase Matching)型の波長変換光学素子が用いられるようになってきている(例えば、特許文献3、特許文献4を参照)。
【0004】
波長がλのレーザ光を、波長がλ/2のレーザ光に波長変換する疑似位相整合型の波長変換光学素子として、例えば、PPLN(Periodically Poled LiNbO3)、PPLT(Periodically Poled LiTaO3)、PPKTP(Periodically Poled KTiOPO4)、水晶の疑似位相整合結晶などが知られている。疑似位相整合結晶、例えばPPLNは、大きな非線形光学定数を有するLiNbO3結晶に、所定周期の分極反転構造を形成することにより構成される。疑似位相整合型の波長変換光学素子は、QPM結晶あるいはQPM素子などとも称される。本明細書においては、適宜QPM結晶と称して説明する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−122785号公報
【特許文献2】特開2010−93210号公報
【特許文献3】特開2002−350914号公報
【特許文献4】特開2002−122898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、これらのQPM結晶のうち、PPLN結晶、PPLT結晶は、入射光のパワー密度が高くなるとフォトリフラクティブ効果(photorefractive effect)を顕著に発生することが明らかになっている。フォトリフラクティブ効果は、入射光の空間的強度分布に応じた屈折率分布が結晶内に誘起される現象であり、一般的には可視光以下(短波長側)の領域で発現する。フォトリフラクティブ効果が発生すると、結晶を透過する光のビームパターンにひずみを生じさせ、出射光のビームプロファイルが変化する。
【0007】
そのため、QPM結晶により波長変換された光を、順次光学素子に入射して伝搬させるような場合、例えば、次段以降の波長変換光学素子に順次集光入射させるような場合に、集光スポット位置やスポットサイズ等が変化して波長変換効率や出力ビームが変化するという問題があり、高出力化を妨げる要因になっているという課題があった。
【0008】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、QPM結晶におけるフォトリフラクティブ効果を抑制し得る手法を提供し、フォトリフラクティブ効果に起因した問題を解決可能なレーザ装置、及び露光装置等の光学システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するに当たり、発明者はQPM結晶において発生するフォトリフラクティブ効果について鋭意研究を重ね、以下に示す知見を得た。
【0010】
発明者は、QPM結晶の代表例として、波長1547nmの入射光を波長774nmに変換するPPLN結晶を用い、この第2高調波発生用のPPLN結晶に、波長1547nmのパルス状の基本波を集光入射して出力光を観察した。
【0011】
PPLN結晶から出射する光は、入射光のパワー密度(入射光がパルス光である場合には、パルス光のピークパワーを集光断面積で除した値。本明細書においてピークインテンシィティと称する。)がkW/cm2オーダーの状態では、波長変換により発生した波長774nmの2倍波(第2高調波)2ωと、波長変換されずに透過した波長1547nmの基本波ωとが見られた。
【0012】
ところが、入射光のパワーを上昇させ、入射光のパワー密度(ピークインテンシィティ)が数MW/cm2程度になると、上記基本波と2倍波に加えて、波長が516nmの3倍波(第3高調波)3ωが見られるようになった。そして、入射光のパワーをさらに上昇させ、パワー密度が4〜5MW/cm2程度以上になると、基本波、2倍波、3倍波に加えて、波長が389nmの4倍波(第4高調波)4ωも見出されるようになった。
【0013】
次に、発明者はフォトリフラクティブ効果の波長依存性について検討した。その結果は以下の通りである。波長が774nmの2倍波については、PPLN結晶から出射した2倍波のパワー密度(ピークインテンシィティ)が数十MW/cm2の状態において、数百時間の時間軸スケールで、出射光のビームパターンが徐々に変化した。このときビームパターンの変形度は僅かなものであった。一方、波長516nmの3倍波については、PPLN結晶から出射した3倍波のパワー密度(ピークインテンシィティ)が数MW/cm2の状態において、数十時間の時間軸スケールで、出射光のビームパターンが急激に且つ大きく変化した。このことから、QPM結晶で発生するフォトリフラクティブ効果は、強い波長依存性を有し、波長が短い光(高次高調波)に対して感度が高いことが分かった。
【0014】
すなわち、QPM結晶に入射する入射光のパワー密度(ピークインテンシィティ)がMW/cm2オーダーの高いパワー密度状態になると3次以上の高次高調波が発生し、この高次高調波によるフォトリフラクティブ効果が顕著に現れるようになっていたのである。
【0015】
ところで、赤外〜可視領域の波長変換光学素子は、一般的に、素子の入射面及び出射面に、ARコート(Anti Reflection coating:反射防止膜あるいは反射率低減コーティング)と称される薄膜を形成したものが用いられる。ARコートは、波長変換光学素子に入射する波長変換前の光、及び波長変換光学素子で発生された波長変換後の光の、入出射面での反射損失を低減する目的で行われる。例えば、波長λの基本波を入射し、波長λ/2の2倍波を発生させる第2高調波発生用の波長変換光学素子では、波長がλ近傍、λ/2近傍の帯域の光に対して反射率を低減したARコートが入射面及び出射面に施される。このことは、波長変換光学素子がバルク結晶の場合も、QPM結晶の場合も同様である。
【0016】
換言すれば、第2高調波発生用のQPM結晶の入出射面に形成されるARコートは、波長がλである基本波近傍、λ/2である2倍波近傍の帯域の光に対しては反射率が充分に低減されているが、それ以外の波長帯域の光に対しては規定されていない。波長変換光学素子メーカが公表するARコートの反射率特性データから、波長がλ/3の3倍波や波長がλ/4の4倍波の波長帯域では反射率が低減されておらず、相当程度高くなっているものと考えられる。
【0017】
そうすると、QPM結晶で発生した3倍波、4倍波は、QPM結晶の出射面、入射面で反射される割合が増え、図5に示すように入出射面間で多重反射して、結晶内部での各成分光のパワー密度を増大させることになる。このことは、高次高調波に起因したフォトリフラクティブ効果を、より効率的に(高い感度で)発生させる要因になっていると考えられる。
【0018】
以上の知見に基づき、発明者は以下に示す発明を完成させた。
【0019】
本発明を例示する第1の態様はレーザ装置である。レーザ装置は、レーザ光を出力するレーザ光出力部と、レーザ光出力部から出力されたレーザ光を波長変換して出力する波長変換部とを備える。波長変換部には、入射した波長λのレーザ光を波長λ/2のレーザ光に波長変換して出射する疑似位相整合型の波長変換光学素子(例えば、実施形態における波長変換光学素子31,34)を備え、この波長変換光学素子の入射面及び出射面の少なくともいずれかに、波長がλ、λ/2の光に加えて、波長がλ/n(n≧3)の光に対する反射率をも低減する反射率低減コーティングが施されて構成される。
【0020】
なお、前記反射率低減コーティングは、波長λ及び波長λ/2の光に対する反射率を1%以下とし、波長λ/3の光に対する反射率を10%以下とすることができ、さらに波長λ/4の光に対する反射率を10%以下とすることができる。
【0021】
また、前記疑似位相整合型の波長変換光学素子に入射する波長λのレーザ光は、パワー密度がMW/cm2オーダーであるように構成することができる。前記疑似位相整合型の波長変換光学素子はPPLN結晶またはPPLT結晶とすることができる。
【0022】
また、前記波長変換部に、疑似位相整合型の波長変換光学素子から出射された波長λ/2のレーザ光をさらに波長変換する波長変換光学素子(例えば、実施形態における波長変換光学素子32,33,35,36)を有し、波長変換部から紫外領域のレーザ光が出力されるように構成することができる。
【0023】
本発明を例示する第2の態様は、疑似位相整合型の波長変換光学素子のフォトリフラクティブ効果抑制方法である。この方法は、入射した波長λのレーザ光を波長λ/2のレーザ光に波長変換して出射する疑似位相整合型の波長変換光学素子(例えば、実施形態における波長変換光学素子31,34)の入射面及び出射面の少なくともいずれかに、波長がλ、λ/2の光に加えて、波長がλ/n(n≧3)の光に対する反射率をも低減する反射率低減コーティングを施し、波長変換の過程で付随的に発生する波長がλ/2よりも短い高次高調波を素子外部に出射させるように構成される。
【0024】
なお、前記反射率低減コーティングは、波長λ及び波長λ/2の光に対する反射率を1%以下とし、波長λ/3の光に対する反射率を10%以下とすることができ、さらに波長λ/4の光に対する反射率を10%以下とすることができる。
【0025】
また、前記疑似位相整合型の波長変換光学素子に入射する波長λのレーザ光は、パワー密度がMW/cm2オーダーであるように構成することができる。前記疑似位相整合型の波長変換光学素子はPPLN結晶またはPPLT結晶とすることができる。
【0026】
また、前記波長変換部に、疑似位相整合型の波長変換光学素子から出射された波長λ/2のレーザ光をさらに波長変換する波長変換光学素子(例えば、実施形態における波長変換光学素子32,33,35,36)を有し、波長変換部から紫外領域のレーザ光が出力されるように構成することができる。
【0027】
本発明を例示する第3の態様は露光装置である。露光装置は、第1の態様のレーザ装置と、所定の露光パターンが形成されたフォトマスクを保持するマスク支持部と、露光対象物を保持する露光対象物支持部(例えば、実施形態における露光対象物支持テーブル105)と、レーザ装置から出力されたレーザ光をマスク支持部に保持されたフォトマスクに照射する照明光学系と、フォトマスクを透過した光を露光対象物支持部に保持された露光対象物に投影する投影光学系とを備えて構成される。
【0028】
本発明を例示する第3の態様は検査装置である。検査装置は、第1の態様のレーザ装置と、被検物を保持する被検物支持部と、レーザ装置から出力されたレーザ光を被検物支持部に保持された被検物に照射する照明光学系と、被検物からの光を検出する検出器(例えば、実施形態におけるTDIセンサ125)とを備えて構成される。
【発明の効果】
【0029】
第1の態様のレーザ装置は、波長λのレーザ光を波長λ/2のレーザ光に波長変換する疑似位相整合型の波長変換光学素子を備え、この波長変換光学素子の入射面及び出射面の少なくともいずれかに、波長がλ、λ/2の光に加えて、波長がλ/n(n≧3)の光に対する反射率をも低減する反射率低減コーティングが施されて構成される。このような構成によれば、2倍波発生用の疑似位相整合型の波長変換光学素子(QPM結晶)において3倍波以上の高次高調波が発生したとしても、発生した高次高調波が入出射面間を往復せずに素子外部に放出される。これにより、QPM結晶において問題であったフォトリフラクティブ効果を抑制することができ、同効果の発現に起因した種々の問題を解決可能なレーザ装置を提供することができる。
【0030】
第2の態様の疑似位相整合型の波長変換光学素子のフォトリフラクティブ効果抑制方法は、波長λのレーザ光を波長λ/2のレーザ光に波長変換して出力する疑似位相整合型の波長変換光学素子の入射面及び出射面の少なくともいずれかに、波長がλ、λ/2の光に加えて、波長がλ/n(n≧3)の光に対する反射率をも低減する反射率低減コーティングを施し、波長変換の過程で付随的に発生する波長がλ/2よりも短い高次高調波を素子外部に出射させるように構成される。このような構成によれば、2倍波発生用の疑似位相整合型の波長変換光学素子(QPM結晶)において3倍波以上の高次高調波が発生しても、発生した高次高調波が入出射面間を往復せずに素子外部に放出される。これにより、QPM結晶において問題であったフォトリフラクティブ効果を抑制することができ、同効果の発現に起因した種々の問題を解決可能な手段を提供することができる。
【0031】
第3の態様の露光装置は、第1の態様のレーザ装置を備えて構成される。このため、レーザ装置の波長変換部にQPM結晶を有する露光装置において問題であったフォトリフラクティブ効果を抑制することができ、同効果の発現に起因した種々の問題を解決可能な露光装置を提供することができる。
【0032】
第4の態様の検査装置は、第1の態様のレーザ装置を備えて構成される。このため、レーザ装置の波長変換部にQPM結晶を有する検査装置において問題であったフォトリフラクティブ効果を抑制することができ、同効果の発現に起因した種々の問題を解決可能な検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の態様として例示するレーザ装置の概要図である。
【図2】上記レーザ装置における波長変換部の構成例を示す概要構成図である。
【図3】上記レーザ装置を備えたシステムの第1の適用例として示す露光装置の概要構成図である。
【図4】上記レーザ装置を備えたシステムの第2の適用例として示す検査装置の概要構成図である。
【図5】QPM結晶の入出射面で高次高調波が多重反射する様子を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。本発明の態様として例示するレーザ装置LSを図1に示す。レーザ装置LSは、所定波長のレーザ光を出力するレーザ光出力部1と、レーザ光出力部1から出力されたレーザ光を波長変換して出力する波長変換部3と、レーザ光出力部1及び波長変換部3の作動を制御する制御部8とを備えて構成される。本実施形態においては、レーザ光出力部1から赤外〜可視領域の基本波レーザ光La(La1,La2,La3)を出力し、波長変換部3において紫外領域のレーザ光Lvに波長変換して出力する構成を例として説明する。
【0035】
例示するレーザ装置LSにおいて、レーザ光出力部1は、第1の基本波レーザ光La1を出力する第1レーザ光出力部1aと、第2の基本波レーザ光La2を出力する第2レーザ光出力部1bと、第3の基本波レーザ光La3を出力する第3レーザ光出力部1cとにより構成される。ここで、第1レーザ光出力部1aから出力する第1の基本波レーザ光La1の波長、第2レーザ光出力部1bから出力する第2の基本波レーザ光La2の波長、及び第3レーザ光出力部1cから出力する第3の基本波レーザ光La3の波長は、レーザ装置LSから出力するレーザ光Lvの波長や波長変換部3の構成に応じて適宜設定することができる。
【0036】
また、図1では、レーザ光出力部1を、シード光を出力するレーザ光発生部10と、レーザ光発生部10から出力されたシード光を増幅する光増幅部20とにより構成した形態を示す。レーザ光発生部10には、第1基本波のシード光Ls1を発生する第1レーザ光源11、第2基本波のシード光Ls2を発生する第2レーザ光源12、及び第3基本波のシード光Ls3を発生する第3レーザ光源13が設けられる。
【0037】
光増幅部20には、第1レーザ光源11から出力された第1基本波のシード光Ls1を増幅する第1ファイバ光増幅器21、第2レーザ光源12から出力された第2基本波のシード光Ls2を増幅する第2ファイバ光増幅器22、及び第3レーザ光源13から出力された第3基本波のシード光Ls3を増幅する第3ファイバ光増幅器23が設けられている。
【0038】
すなわち、本構成形態のレーザ光出力部1は、第1レーザ光出力部1aにおいて、第1レーザ光源11から出力された第1基本波のシード光Ls1が第1ファイバ光増幅器21により増幅され、増幅された第1の基本波レーザ光La1が波長変換部3に出力される。また、第2レーザ光出力部1bにおいて、第2レーザ光源12から出力された第2基本波のシード光Ls2が第2ファイバ光増幅器22により増幅され、増幅された第2の基本波レーザ光La2が波長変換部3に出力される。同様に、第3レーザ光出力部1cにおいて、第3レーザ光源13から出力された第3基本波のシード光Ls3が第3ファイバ光増幅器23により増幅され、増幅された第3の基本波レーザ光La3が波長変換部3に出力される。
【0039】
なお、第1,第2,第3の各ファイバ光増幅器21,22,23は、各々を単段のファイバ光増幅器で構成することも、複数のファイバ光増幅器を直列に接続して複数段からなるファイバ光増幅器群として構成することもできる。また、第1,第2,第3の基本波レーザ光La1,La2,La3のうち、波長が同一のものがある場合には、シード光を発生するレーザ光源を共通化し、レーザ光源から出力された基本波のシード光を光分割器等により並列分岐して、複数のファイバ光増幅器に入射させるように構成しても良い。例えば、第1〜第3の基本波レーザ光La1〜La3の波長が全て同一の場合には、単一のレーザ光源から出力された基本波のシード光(例えば第2レーザ光源12から出力された第2基本波のシード光Ls2)を光分割器等により3つに並列分岐して、第1〜第3ファイバ光増幅器21〜23に入射させるように構成することができる。
【0040】
本構成形態においては、第1,第2,第3レーザ光源11,12,13として、いずれも波長1547nmの赤外領域のシード光Ls(Ls1,Ls2,Ls3)を発生するレーザ光源11〜13を用い、各々対応するファイバ光増幅器21〜23により増幅して波長1547nmの基本波レーザ光を出力する構成とする。
【0041】
このとき、第1〜第3レーザ光源11〜13として、発振波長が1.5μm帯のDFB(Distributed Feedback)半導体レーザを好適に用いることができる。DFB半導体レーザは、ペルチェ素子等を利用した温度調整器により温度制御した状態で発振させることにより、波長1547nmの単一波長のシード光を発生させることができる。DFB半導体レーザは、励起電流を波形制御することにより任意強度でCW発振またはパルス発振させることができる。なお、レーザ光発生部10にEOM(Electro Optic Modulator)等の外部変調器を設け、CW発振させたDFB半導体レーザの出力光を外部変調器によりパルス変調して、レーザ光発生部10からパルス光を出力するように構成しても良い。
【0042】
波長1547nmの赤外光を増幅する第1〜第3ファイバ光増幅器21〜23として、コアにエルビウム(Er)がドープされたエルビウムドープ・ファイバー光増幅器(EDFA)を好適に用いることができる。第1〜第3レーザ光源11〜13及び第1〜第3ファイバ光増幅器21〜23の作動は、制御部8により制御される。
【0043】
第1ファイバ光増幅器21から出射された第1の基本波レーザ光La1、第2ファイバ光増幅器22から出射された第2の基本波レーザ光La2、及び第3ファイバ光増幅器23から出射された第3の基本波レーザ光La3は、レーザ光出力部1(1a,1b,1c)から出力され、波長変換部3に入力される。
【0044】
なお、以上は、レーザ光出力部1を、レーザ光発生部10(第1〜第3レーザ光源11〜13)と光増幅部20(第1〜第3ファイバ光増幅器21〜23)とにより構成した形態を例示したが、レーザ光出力部1を、ファイバレーザ(第1〜第3ファイバレーザ)により構成しても良い。
【0045】
波長変換部3には、複数の波長変換光学素子及びミラー等からなる波長変換光学系30が設けられている。波長変換光学系30の概要構成を図2に示す。図2において、光路上に楕円形で示すものはコリメータレンズや集光レンズであり個々の説明を省略する。また図中には、偏光面が紙面に平行なp偏光を上下方向の矢印で、偏光面が紙面に垂直なs偏光をドット付きの○印で示す。また、基本波をω、第2高調波を2ω、第3次以上のn次高調波をnωで示す。なお、本構成形態においては、第1の基本波レーザ光La1及び第2の基本波レーザ光La2をp偏光、第3の基本波レーザ光La3をs偏光としているが、第1,第2の基本波レーザ光La1及びLa2をs偏光、第3の基本波レーザ光La3をp偏光とする構成としてもよい。
【0046】
本構成例の波長変換光学系30は、第1ファイバ光増幅器21から出射された第1の基本波レーザ光La1が入射して伝播する第1系列I、第2ファイバ光増幅器22から出射された第2の基本波レーザ光La2が入射して伝播する第2系列II、第3ファイバ光増幅器23から出射された第3の基本波レーザ光La3が入射して伝播する第3系列III、及び第1,第2,第3系列を伝播したレーザ光が重ね合わされて伝播する第4系列IVからなり、各系列に設けられた6つの波長変換光学素子31〜36を主体として構成される。まず、この波長変換光学系30の概要について説明する。
【0047】
第1系列Iに入射した波長1547nm、角周波数ωの第1の基本波レーザ光La1は、この系列に設けられた波長変換光学素子31〜33により順次ω→2ω→3ω→5ωに波長変換され、発生した5倍波5ωが第4系列IVに入射する。第2系列IIに入射した波長1547nm、角周波数ωの第2の基本波レーザ光La2は、この系列に設けられた波長変換光学素子34によってω→2ωに波長変換され、発生した2倍波が第4系列IVに入射する。第3系列IIIに入射した波長1547nm、角周波数ωの第3の基本波レーザ光La3は、波長変換されることなく第4系列IVに入射する。
【0048】
第4系列IVでは、波長変換光学素子35において、第1系列で発生した5倍波5ωと第2系列で発生した2倍波2ωの和周波発生により7倍波7ωが発生され、波長変換光学素子36において、7倍波7ωと第3系列IIIから入射した基本波ω(第3の基本波レーザ光La3)との和周波発生により、角周波数が基本波ωの8倍、波長が基本波の1/8である波長193nmの8倍波8ωが生成される。以下、各系列の波長変換光学素子を含め波長変換光学系30の詳細構成を説明する。
【0049】
第1系列Iには波長変換光学素子31,32,33が配設されている。第1系列に入射した第1の基本波レーザ光La1は波長変換光学素子31に集光入射し、この波長変換光学素子31において第2高調波発生により角周波数が基本波の2倍、波長が1/2(774nm)の2倍波2ωを発生させる。波長変換光学素子31で発生したp偏光の2倍波2ωと波長変換光学素子31を透過したp偏光の基本波ωは波長変換光学素子32に集光入射し、和周波発生により角周波数が基本波の3倍、波長が1/3(516nm)の3倍波3ωを発生させる。2倍波発生用の波長変換光学素子31として疑似位相整合(QPM: Quasi Phase Matching)結晶、3倍波発生用の波長変換光学素子32としてLBO(LiB35)結晶が好適に用いられる。
【0050】
2倍波発生用のQPM結晶31は、この波長帯域の光に対して高い非線形光学定数を有する強誘電体結晶、例えばLiNbO3結晶やLiTaO3結晶に周期分極反転構造を形成したPPLN(Periodically Poled LiNbO3)結晶や、PPLT(Periodically Poled LiTaO3)結晶等を好適に用いることができる。なお、他のQPM結晶としてPPKTP(Periodically Poled KTiOPO4)結晶、バルク結晶ではLBO結晶等を用いることもできる。
【0051】
波長変換光学素子32において発生したs偏光の3倍波3ωと、波長変換光学素子32を透過したp偏光の2倍波2ωは、2波長波長板45を透過させて2倍波2ωだけをs偏光に変換する。2波長波長板は、例えば、結晶の光学軸と平行にカットした一軸性の結晶の平板からなる波長板が用いられる。この波長板は、一方の波長の光(2倍波)に対して偏光面を回転させ、他方の波長の光(3倍波)に対しては、偏光面が回転しないように、波長板の厚さを一方の波長の光に対してλ/2の整数倍で、他方の波長の光に対しては、λの整数倍になるようにカットすることにより構成される。
【0052】
ともにs偏光になった2倍波2ω及び3倍波3ωは波長変換光学素子33に集光入射し、和周波発生により角周波数が基本波の5倍、波長が1/5(309nm)の5倍波5ωを発生させる。5倍波発生用の波長変換光学素子33として、例えばBBO(β-BaB24)結晶が好適に用いられる。このとき、位相整合はTypeI角度位相整合である。なお、波長変換光学素子33として、CLBO(CsLiB610)結晶を用いることも可能である。BBO結晶から出射される5倍波5ωは、ウォークオフに起因してビーム断面が楕円形になっているため、2枚のシリンドリカルレンズ46v,46hによりビーム断面を円形に整形し、ミラー41に入射させる。
【0053】
ミラー41は、基本波ω及び2倍波2ωの波長帯域のレーザ光を透過し、5倍波5ωの波長帯域のレーザ光を反射する波長選択性を有して構成されており、このミラー(ダイクロイックミラー)41で反射されたp偏光の5倍波5ωは、第4系列IVの波長変換光学素子35に入射する。
【0054】
第2系列IIには波長変換光学素子34が配設されている。第2系列に入射した第2の基本波レーザ光La2は波長変換光学素子34に集光入射し、p偏光の2倍波2ωを発生させる。2倍波発生用の波長変換光学素子34として、波長変換光学素子31と同様のQPM結晶(PPLN結晶等)またはバルク結晶(LBO結晶等)を用いることができる。波長変換光学素子34において発生したp偏光の2倍波2ωは、ミラー42に入射させる。
【0055】
ミラー42は、基本波ωの波長帯域のレーザ光を透過し、2倍波2ωの波長帯域のレーザ光を反射する波長選択性を有して構成されており、ミラー(ダイクロイックミラー)42で反射されたp偏光の2倍波2ωは、ミラー41を透過して5倍波5ωと同軸に重ね合わされて第4系列IVの波長変換光学素子35に入射する。
【0056】
第3系列IIIには波長変換光学素子が設けられていない。第3系列に入射した第3の基本波レーザ光La3は、波長変換されることなくミラー43に入射する。そして、ミラー43で反射されたs偏光の基本波ωは、ミラー42及びミラー41を透過して、ミラー42で反射された2倍波2ω及びミラー41で反射された5倍波5ωと同軸に重ね合わされて第4系列IVの波長変換光学素子35に入射する。
【0057】
第4系列IVには、波長変換光学素子35と波長変換光学素子36が配設されている。また、既述した基本波ω、2倍波2ω、5倍波5ωの各光路には、波長変換光学素子35,36に所定のスポットサイズで各波長の光が集光入射するように設定されたレンズが設けられている。波長変換光学素子35では、第1系列Iから入射したp偏光の5倍波5ωと第2系列IIから入射したp偏光の2倍波2ωとによる和周波発生が行われ、角周波数が基本波の7倍、波長が1/7(221nm)の7倍波7ωが発生される。7倍波発生用の波長変換光学素子35は、CLBO結晶がTypeI角度位相整合で用いられる。
【0058】
波長変換光学素子35で発生したs偏光の7倍波7ωと、波長第3系列IIIから入射して波長変換光学素子35を透過したs偏光の基本波ωは、波長変換光学素子36に入射し、和周波発生により角周波数が基本波の8倍、波長が1/8(193nm)の8倍波8ωが発生される。8倍波発生用の波長変換光学素子36は、CLBO結晶がTypeI角度位相整合で用いられる。
【0059】
そして、波長変換光学素子36において発生した波長193nmのレーザ光Lvが波長変換部3から出力される。
【0060】
以上のように構成されるレーザ装置LSにおいて、波長1547nmの基本波ωが集光入射され、第2高調波発生により波長774nmの2倍波2ωを発生する波長変換光学素子31,34は、PPLN結晶,PPLT結晶等のQPM結晶が好適に用いられる。
【0061】
これらの波長変換光学素子31,34から出射する光は、基本的には、波長変換により発生した波長774nmの2倍波と、波長変換されずに透過した波長1547nmの基本波である。しかしながら、入射する基本波のパワー密度(ピークインテンシィティ)が増大すると、相対的なパワーレベルは低いながらも、波長516nmの3倍波、波長387nmの4倍波も発生するようになる。具体的なパワーレベルは、波長変換光学素子31としてPPLN結晶を用いた場合に、3倍波のパワーレベルが2倍波よりも3桁程度低く、4倍波のパワーレベルは2倍波よりも4桁程度低いものであった。
【0062】
一方、既述したように、フォトリフラクティブ効果は強い波長依存性を有し、2倍波でフォトリフラクティブ効果が観測されない場合であっても、3倍波では2倍波の1/10程度のパワー密度(ピークインテンシィティ)で顕著なフォトリフラクティブ効果が観測される。そのため、波長変換光学素子31,34で発生した3倍波や4倍波が、これらの素子の入出射面で多重反射するとフォトリフラクティブ効果を発生させる要因になる。
【0063】
そこで、レーザ装置LSにおいては、波長変換光学素子31,34の出射面及び入射面の少なくともいずれかに、波長が基本波のλ〜n倍波のλ/n(n≧3)の光の反射率を低減する広帯域の反射率低減コーティング(ARコート)を施している。すなわち、波長変換光学素子31,34で発生し得る3倍波以上の高次高調波を能動的に素子外部に出射させるように構成している。
【0064】
QPM結晶の出射面及び入射面のいずれかに上記のようなARコートを施すことにより、高次高調波の多重反射を防止してフォトリフラクティブ効果を抑制することができ、出射面及び入射面の両方に上記ARコートを施すことにより、発生した高次高調波を直ちに外部に放出してフォトリフラクティブ効果の抑制効果をさらに向上させることができる。
【0065】
また、波長が基本波〜3倍波の波長帯域の光の反射率を低減するARコートを施すことにより、QPM結晶で付随的に発生する高次高調波のうち最もパワーが高い3倍波を外部に放出してフォトリフラクティブ効果を抑制することができ、反射率の低減帯域を基本波〜4倍波以上とすることにより、上記効果をさらに高めることができる。
【0066】
換言すれば、波長変換光学素子31,34の入出射面の少なくともいずれかに、波長λ〜λ/n(n≧3)の広帯域ARコートを施すことにより、波長変換光学素子31,34から出射される出力ビームを高いパワー領域まで安定化させることができる。これにより、フォトリフラクティブ効果に起因した種々の問題を解決し、レーザ装置の高出力化を実現することが可能となる。
【0067】
なお、以上では、波長が基本波のλ〜n倍波のλ/n(n≧3)の光に対する反射率を低減する広帯域のARコートを施した構成を例示したが、波長がλ,λ/2,λ/3の光に対する反射率を低減した3波長低減タイプのARコート、波長がλ,λ/2,λ/3,λ/4の光に対する反射率を低減した4波長低減タイプのARコート等としても良い。
【0068】
以上のような、ARコートは、反射率を低減する波長を基本波から3倍波とした場合に、基本波及び2倍波光に対する反射率が1%以下(例えば0.5%程度)、3倍波に対する反射率が10%以下(例えば5%程度)となるように構成することが好適である。また、反射率を低減する波長を基本波から4倍波とした場合には、上記に加えて4倍波に対する反射率が10%以下となるように構成することが好適である。
【0069】
ARコートは、薄膜の多層コーティングにより形成される。そのため、反射率低減帯域を広く、反射率を低くしようとすると、薄膜形成が難しくなり(高コストになり)、耐光強度も低下する。波長変換光学素子31,34に施すARコートの反射率低減特性を上記のように設定にすることにより、一般的な薄膜形成設備を用いてARコートを施すことができ、かつ、高い耐光強度を保持しつつフォトリフラクティブ効果の抑制効果を発揮させることができる。
【0070】
以上では、波長λのレーザ光を波長λ/2のレーザ光に波長変換して出射する疑似位相整合型の波長変換光学素子(QPM結晶)の一例として、レーザ光出力部1から出力された波長λ=1547nmの基本波を、波長λ/2=774(773.5)nmの2倍波に波長変換する波長変換光学素子31,34に適用した構成を示した。しかしながら、以上の説明から明らかなように、本技術は上記波長に限られるものではなく、任意の波長領域において第2高調波発生を行うQPM結晶に適用することができ、同様の効果を得ることができる。
【0071】
また、波長変換部3にQPM結晶を備えたレーザ装置の一例として、レーザ光出力部1から波長1547nmの基本波を出力し、QPM結晶である波長変換光学素子31,34及び他の波長変換光学素子32,35,36により順次波長変換して、波長193nmの紫外領域(深紫外領域)のレーザ光を出力する構成を示した。しかしながら、本技術は波長変換部にQPM結晶を備えていれば適用することができ、波長変換部に入射するレーザ光の波長や、波長変換部の構成(波長変換光学素子の数量や配置等)、波長変換部から出力されるレーザ光の波長等は、レーザ装置の用途や機能等に応じて(例えば既述した特許文献等に開示された構成を利用して)適宜に設定することができる。
【0072】
さらに、QPM結晶の一例として、PPLN結晶、PPLT結晶を例示したが、結晶に入射するレーザ光の波長やパワー密度等に応じて、適宜な強誘電体結晶に、変換波長に合致した周期の分極反転構造を形成したQPM結晶を用いることができる。
【0073】
以上説明したようなレーザ装置LSは、小型軽量であるとともに取り扱いが容易であり、露光装置や光造形装置等の光加工装置、フォトマスクやウェハ等の検査装置、顕微鏡や望遠鏡等の観察装置、測長器や形状測定器等の測定装置、光治療装置などのシステムに好適に適用することができる。
【0074】
次に、レーザ装置LSを備えたシステムの第1の適用例として、半導体製造や液晶パネル製造のフォトリソグラフィエ程で用いられる露光装置について、その概要構成を示す図3を参照して説明する。露光装置100は、原理的には写真製版と同じであり、石英ガラス製のフォトマスク113に精密に描かれたデバイスパターンを、フォトレジストを塗布した半導体ウェハやガラス基板などの露光対象物115に光学的に投影して転写する。
【0075】
露光装置100は、上述したレーザ装置LSと、照明光学系102と、フォトマスク113を保持するマスク支持台103と、投影光学系104と、露光対象物115を保持する露光対象物支持テーブル105と、露光対象物支持テーブル105を水平面内で移動させる駆動機構106とを備えて構成される。照明光学系102は複数のレンズ群からなり、レーザ装置LSから出力されたレーザ光を、マスク支持台103に保持されたフォトマスク113に照射する。投影光学系104も複数のレンズ群により構成され、フォトマスク113を透過した光を露光対象物支持テーブル上の露光対象物115に投影する。
【0076】
このような構成の露光装置100においては、レーザ装置LSから出力されたレーザ光が照明光学系102に入力され、所定光束に調整されたレーザ光がマスク支持台103に保持されたフォトマスク113に照射される。フォトマスク113を通過した光はフォトマスク113に描かれたデバイスパターンの像を有しており、この光が投影光学系104を介して露光対象物支持テーブル105に保持された露光対象物115の所定位置に照射される。これにより、フォトマスク113のデバイスパターンの像が、半導体ウェハや液晶パネル等の露光対象物115の上に所定倍率で結像露光される。
【0077】
このような露光装置100によれば、レーザ装置の波長変換部にQPM結晶を有する露光装置において問題であったフォトリフラクティブ効果を抑制し、高い出力及びビームの安定度を有し、高出力の露光装置を提供することができる。
【0078】
次に、レーザ装置LSを備えたシステムの第2の適用例として、フォトマスクや液晶パネル、ウェハ等(被検物)の検査工程で使用される検査装置について、その概要構成を示す図4を参照して説明する。図4に例示する検査装置200は、フォトマスク等の光透過性を有する被検物213に描かれた微細なデバイスパターンの検査に好適に使用される。
【0079】
検査装置200は、前述したレーザ装置LSと、照明光学系202と、被検物213を保持する被検物支持台203と、投影光学系204と、被検物213からの光を検出するTDIセンサ215と、被検物支持台203を水平面内で移動させる駆動機構206とを備えて構成される。照明光学系202は複数のレンズ群からなり、レーザ装置LSから出力されたレーザ光を、所定光束に調整して被検物支持台203に保持された被検物213に照射する。投影光学系204も複数のレンズ群により構成され、被検物213を透過した光をTDI(Time Delay Integration)センサ215に投影する。
【0080】
このような構成の検査装置200においては、レーザ装置LSから出力されたレーザ光が照明光学系202に入力され、所定光束に調整されたレーザ光が被検物支持台203に保持されたフォトマスク等の被検物213に照射される。被検物213からの光(本構成例においては透過光)は、被検物213に描かれたデバイスパターンの像を有しており、この光が投影光学系204を介してTDIセンサ215に投影され結像する。このとき、駆動機構206による被検物支持台203の水平移動速度と、TDIセンサ215の転送クロックとは同期して制御される。
【0081】
そのため、被検物213のデバイスパターンの像がTDIセンサ215により検出され、このようにして検出された被検物213の検出画像と、予め設定された所定の参照画像とを比較することにより、被検物に描かれた微細パターンの欠陥が抽出される。
【0082】
このような検査装置200によれば、レーザ装置の波長変換部にQPM結晶を有する露光装置において問題であったフォトリフラクティブ効果を抑制し、高い出力及びビームの安定度を有し、広い検査面積を高速・高精度で検査可能な検査装置を提供することができる。なお、被検物213がウェハ等のように光透過性を有さない場合には、被検物からの反射光を投影光学系204に入射してTDIセンサ215に導くことにより、同様に構成することができる。
【符号の説明】
【0083】
LS レーザ装置
1 レーザ光出力部 3 波長変換部
10 レーザ光発生部 20 光増幅部
30 波長変換光学系 31〜36 波長変換光学素子
(31,34 疑似位相整合型の波長変換光学素子)
100 露光装置
102 照明光学系 103 マスク支持台
104 投影光学系 105 露光対象物支持テーブル
113 フォトマスク 115 露光対象物
200 検査装置
202 照明光学系 203 被検物支持台
204 投影光学系 213 被検物
215 TDIセンサ(検出器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出力するレーザ光出力部と、前記レーザ光出力部から出力されたレーザ光を波長変換して出力する波長変換部とを備え、
前記波長変換部には、入射した波長λのレーザ光を波長λ/2のレーザ光に波長変換して出射する疑似位相整合型の波長変換光学素子を備え、
前記波長変換光学素子の入射面及び出射面の少なくともいずれかに、波長がλ、λ/2の光に加えて、波長がλ/n(n≧3)の光に対する反射率をも低減する反射率低減コーティングが施されている
ことを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
前記反射率低減コーティングは、波長λ及び波長λ/2の光に対する反射率が1%以下であり、波長λ/3の光に対する反射率が10%以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記反射率低減コーティングは、波長λ/4の光に対する反射率が10%以下である
ことを特徴とする請求項2に記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記疑似位相整合型の波長変換光学素子に入射する波長λのレーザ光は、パワー密度がMW/cm2オーダーであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーザ装置。
【請求項5】
前記疑似位相整合型の波長変換光学素子がPPLN結晶またはPPLT結晶である
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザ装置。
【請求項6】
前記波長変換部に、前記疑似位相整合型の波長変換光学素子から出射された波長λ/2のレーザ光をさらに波長変換する波長変換光学素子を有し、前記波長変換部から紫外領域のレーザ光が出力されるように構成した
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のレーザ装置。
【請求項7】
入射した波長λのレーザ光を波長λ/2のレーザ光に波長変換して出射する疑似位相整合型の波長変換光学素子の入射面及び出射面の少なくともいずれかに、
波長がλ、λ/2の光に加えて、波長がλ/n(n≧3)の光に対する反射率をも低減する反射率低減コーティングを施し、
前記波長変換の過程で付随的に発生する波長がλ/2よりも短い高次高調波を素子外部に出射させるように構成した
ことを特徴とする疑似位相整合型の波長変換光学素子のフォトリフラクティブ効果抑制方法。
【請求項8】
前記反射率低減コーティングは、波長λ及び波長λ/2の光に対する反射率が1%以下であり、波長λ/3の光に対する反射率が10%以下である
ことを特徴とする請求項7に記載の疑似位相整合型の波長変換光学素子のフォトリフラクティブ効果抑制方法。
【請求項9】
前記反射率低減コーティングは、波長λ/4の光に対する反射率が10%以下である
ことを特徴とする請求項8に記載の疑似位相整合型の波長変換光学素子のフォトリフラクティブ効果抑制方法。
【請求項10】
前記疑似位相整合型の波長変換光学素子に入射する波長λのレーザ光は、パワー密度がMW/cm2オーダーであることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載の疑似位相整合型の波長変換光学素子のフォトリフラクティブ効果抑制方法。
【請求項11】
前記疑似位相整合型の波長変換光学素子がPPLN結晶またはPPLT結晶である
ことを特徴とする請求項7〜10のいずれか一項に記載の疑似位相整合型の波長変換光学素子のフォトリフラクティブ効果抑制方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のレーザ装置と、
所定の露光パターンが形成されたフォトマスクを保持するマスク支持部と、
露光対象物を保持する露光対象物支持部と、
前記レーザ装置から出力されたレーザ光を前記マスク支持部に保持されたフォトマスクに照射する照明光学系と、
前記フォトマスクを透過した光を露光対象物支持部に保持された露光対象物に投影する投影光学系と
を備えたことを特徴とする露光装置。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のレーザ装置と、
被検物を保持する被検物支持部と、
前記レーザ装置から出力されたレーザ光を前記被検物支持部に保持された被検物に照射する照明光学系と、
前記被検物からの光を検出する検出器と
を備えたことを特徴とする検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−44764(P2013−44764A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180201(P2011−180201)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】