レーダ装置
【課題】方向の観測値の信頼性が低下しやすい、互いに近接する複数の外部目標の位置と速度とを精度よく追尾する。
【解決手段】アンテナからの受信信号を信号処理して複数の外部目標の相対距離と相対速度とを算出するとともに、前記アンテナが放射するビームパターンのうち、一部が重なり合う隣接するビームパターンを組み合わせることで前記複数の外部目標の位置観測値と速度観測値とを取得して、これら位置観測値と速度観測値から前記複数の個別の外部目標毎の位置と速度の平滑値を算出する目標追尾フィルタと、互いに近接する前記複数の外部目標からクラスタを形成し、クラスタ内の外部目標に対して、前記目標追尾フィルタとは異なるゲートを設定し、このゲートによって前記外部目標の観測値との相関処理を行う追尾処理クラスタ内目標追尾フィルタとを備えた。
【解決手段】アンテナからの受信信号を信号処理して複数の外部目標の相対距離と相対速度とを算出するとともに、前記アンテナが放射するビームパターンのうち、一部が重なり合う隣接するビームパターンを組み合わせることで前記複数の外部目標の位置観測値と速度観測値とを取得して、これら位置観測値と速度観測値から前記複数の個別の外部目標毎の位置と速度の平滑値を算出する目標追尾フィルタと、互いに近接する前記複数の外部目標からクラスタを形成し、クラスタ内の外部目標に対して、前記目標追尾フィルタとは異なるゲートを設定し、このゲートによって前記外部目標の観測値との相関処理を行う追尾処理クラスタ内目標追尾フィルタとを備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーダ装置に係るものであり、特に追尾する目標同士が接近している場合に、精度よく追尾を行う技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数のビームバターンを組み合わせて目標の方向を観測する技術として、シーケンシャルロービング方式やモノパルス方式が知られている。これらは隣接するビームパターンにおける目標の像の差異を求めて、目標の方向を推定する方法である。また、パルスドップラーレーダ方式やFMCWレーダ方式を用いることで、目標までの相対距離と目標の相対速度を得ることができる。したがって、これらの方式を組み合わせることによって(例えば、シーケンシャルロービング方式とFMCWレーダ方式)、目標の地表に対する位置と速度を算出することができる。
【0003】
しかしながら、これらの方法は目標が一つであることが前提であり、目標が複数ある場合には、従来の方法では対応できない。このような問題に対処する方法として、複数チャネル間で、受信波の周波数が互いに対応するピークの組を求め、その組のピーク間の位相差に基づいて、複数の目標の方位を検出し、距離と速度とを組み合わせて、目標の位置を得る方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−271430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この方法によれば、複数の目標を異なるビームで分離できる場合には、信頼性の高い方位を検出できる。しかし、現実のレーダ使用環境では、例えば車載レーダなどの場合、他の車両が接近し合うことによって、同じビーム内に複数の目標が含まれてしまうことがしばしば発生する。このような事態が生じると、従来の方法では方向が正しく観測できなくなり、複数の目標の航跡の分離に失敗したり(複数の目標が全く同じ点上に存在するように見えてしまう)、あるいは偽像が発生して、本来何も存在しない場所に、何らかの目標が存在するような結果が得られる場合がある。
【0006】
この発明は、上記のような問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るレーダ装置は、複数の外部目標から到来する電波を受信波として受信するアンテナと、前記アンテナが受信した受信波を受信信号に変換し、その受信信号の特徴量を抽出する信号検出器と、前記信号検出器が抽出した受信信号の特徴量から、前記各外部目標の位置観測値と速度観測値とを算出する位置・速度演算器とを備えたレーダ装置において、前記位置・速度演算器が算出した位置観測値と速度観測値に対して、第1のゲートによる相関処理を施し、前記第1のゲートを満たす位置観測値と速度観測値から前記各外部目標の位置と速度との平滑値を算出する目標追尾フィルタと、前記各外部目標の位置の平滑値に基づいて、前記外部目標同士が接近している場合に、前記外部目標が所属するクラスタを形成するクラスタ形成器と、前記クラスタ形成器が形成したクラスタを一つの外部目標に見立てて、前記位置・速度演算器が算出した位置観測値と速度観測値とから、そのクラスタの位置と速度との平滑値を算出するクラスタ内目標追尾フィルタとを備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
これによって、特に複数の外部目標が互いに近接し、かつ等速で並走しており、信頼性の高い観測値が得にくい状況であっても、精度の高い安定した追尾を可能とする、という効果を奏するのである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1、2によるレーダ装置の使用状況を示す図、
【図2】この発明の実施の形態1、2によるレーダ装置の構成を示すブロック図、
【図3】この発明の実施の形態1のレーダ装置における信号処理器の詳細な構成を示すブロック図、
【図4】この発明の実施の形態1のレーダ装置のビームパターンと目標との関係を示す図、
【図5】この発明の実施の形態1のレーダ装置の信号処理を示すフローチャート、
【図6】この発明の実施の形態1のレーダ装置の追尾処理を示すフローチャート、
【図7】この発明の実施の形態1のレーダ装置のクラスタ形成処理を示すフローチャート、
【図8】この発明の実施の形態1のレーダ装置における目標間のゲートの関係を示す図、
【図9】この発明の実施の形態1のレーダ装置におけるクラスタ内の目標のゲートの構成例を示す図、
【図10】この発明の実施の形態1のレーダ装置におけるクラスタ内の目標のゲートの別の構成例を示す図、
【図11】この発明の実施の形態2のレーダ装置の信号処理器の詳細な構成を示す図、
【図12】この発明の実施の形態2のレーダ装置の目標の位置関係を示す図、
【図13】この発明の実施の形態2のレーダ装置の信号処理を示すフローチャート、
【図14】この発明の実施の形態2のレーダ装置の追尾処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1によるレーダ装置を搭載した自動車を示すものである。図において、自動車1の前方にはこの発明の実施の形態1によるレーダ装置2が搭載されている。レーダ装置2は、自動車1の前方にビームを照射する。照射されたビームの一部は、自動車1の前方に存在する物体3に反射され再びレーダ装置2に到来する。レーダ装置2はこれを受信して信号処理を施して、物体3までの距離・速度・方向を検出する。ここから得られた物体3に関する情報により、自動車1は、例えは衝突回避のために自動的にブレーキを作動させたり、衝突に備えてシートベルトの調整を行うなどの制御を行う。この結果、自動車1の安全性を飛躍的に高める上で大きく寄与する。
【0011】
図1は、レーダ装置2のの構造を示すブロック図である。レーダ装置2は、FMCW(Frequency Modulation Continuous Wave)レーダ方式によって構成されたレーダ装置である。図において、制御器10は、レーダ装置の各部位に制御信号を送出して、全体のタイミング制御を行う部位である。なお制御器10は汎用の中央演算装置(CPU:Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)などを用いて構成され、それぞれの構成要素とは図示せぬバスにより結合されているものとする。なお、以降の説明において、部位とはその機能を実現するために準備された専用回路または素子を指すものとする。ただし、場合によっては、中央演算装置(CPU:Central Processing Unit)を有するコンピュータにコンピュータプログラムを実行させることによって、相当の機能を実行させるように構成してもよい。
【0012】
VCO11はVCO(Voltage Controlled Ocillator)であって、微弱交流信号を発生する部位である。VCO11は、周波数を連続的に上昇させていくアップフェーズと、連続的に下降させていくダウンフェーズとを一定周期毎に繰り返す交流信号を発生するようになっている。
【0013】
送信器12は、VCO11が発生した微弱信号を増幅する増幅器である。アンテナ13は、送信器12が増幅したVCO11の出力信号を送信波として、物体3に照射するとともに、物体3により反射された送信波の一部を受信波として受信するセンサ素子である。
【0014】
送受切替器14は、可動端子Aと接点B、接点Cを備えており、これによってアンテナ13が送信波を送信するのか、あるいは受信波を受信するのかを切り替えるようになっている。可動端子Aは制御器10からの制御信号によって、接点Bと接点Cのいずれかの接点に設定されるようになっている。可動端子Aが接点Bに接続されている場合は、送信器12とアンテナ13が直結するので、アンテナ13は送信波を送信する。また可動端子Aが接点Cに接続している場合は、アンテナ13と後述する16が直結して受信波を接続するようになっている。
【0015】
アンテナ駆動器15は、アンテナ13の方向を機械的あるいは電子的に制御する部位である。アンテナ13は、アンテナ駆動器15によって方向を制御され、その結果としてビームパターンの一部が重なり合うビームが放射されるようになっている。
【0016】
受信器16は、アンテナ13が受信した受信波とVCO11が発生した基準信号とのビート信号を生成し、さらにそのビート信号をA/D変換して出力する部位である。信号処理器17は受信器16が出力したビート信号に対して信号処理を施す部位であり、その詳細な構成は図3のブロック図によって示されている。
【0017】
図3において、周波数分析器21は、ビート信号の周波数を分析する部位である。周波数記憶器22は、アップフェーズとダウンフェーズのそれぞれのビート信号の周波数を記憶する記憶素子又は回路である。アップフェーズのビート信号の周波数とダウンフェーズのビート信号周波数は対となってその後の相対距離や相対速度に用いられる。そこで、周波数記憶器22は一定期間それぞれのフェーズのビート信号の周波数を記憶するようになっている。
【0018】
アップフェーズ・ダウンフェーズ連結器23は、アップフェーズとダウンフェーズのそれぞれに複数の目標のビート信号が存在する場合に、目標毎にアップフェーズのビート信号周波数とダウンフェーズのビート信号周波数とを組み合わせる(coupling)部位である。
【0019】
相対距離・速度演算器24は、アップフェーズ・ダウンフェーズ連結器23によって組み合わされたビート信号の周波数から各目標の相対距離速度を算出する部位である。
方位演算器25は、ビート信号の周波数とそのビート信号が得られたビームに隣接するビームのビート信号の周波数から△/Σ値を算出して、目標が存在する方位を算出する部位である。
【0020】
位置・速度演算器26は、相対距離・速度演算器24が算出した各目標の相対距離速度と、方位演算器25が算出した各目標の方位から、各目標の位置と地表座標に対する速度を算出する部位である。
【0021】
目標追尾フィルタ27は、位置・速度演算器26が算出した各目標の位置と座標に対して平滑処理を行う部位である。位置・速度演算器26が算出した各目標の位置と座標は、観測値に基づくものであり、ノイズが乗ることで真値と大きくずれることがありうるが、目標追尾フィルタ27が平滑処理を施すことによって、このような事態を回避するようになっている。
【0022】
追尾情報記憶器28は、目標追尾フィルタ27が出力した平滑値を所定の期間記憶しておくための素子又は回路、あるいは、ハードディスクやCD−ROMドライブのような記憶媒体である。
【0023】
クラスタ形成器29は、各目標が接近した場合に、それらの目標からクラスタを形成する部位である。
【0024】
クラスタ内目標追尾フィルタ30は、クラスタ形成器29が形成したクラスタについて平滑処理を行う部位である。
【0025】
次に、レーダ装置2の動作について説明する。まず初めにレーダ装置2を用いて、外部目標の相対距離・相対速度・方向の観測を行う方法について簡単に説明する。距離・速度を観測するレーダ方式としては、例えばパルスドップラーレーダ方式や、レーダ装置2で採用しているFMCW(Frequency Modulation Continuous Wave)方式などが知られている。パルスドップラーレーダでは、同一周波数のパルス波をアンテナから一定周期毎に放射し、そのパルス波が目標に反射されてからアンテナに到達するまでの遅延時間を求め、この遅延時間から目標までの相対距離を算出する。また、目標が移動している場合は、パルス波の反射時にドップラー効果による周波数のずれが生じる。そこで、この周波数のずれを求めることにより、目標の相対速度を算出する。
【0026】
また、レーダ装置2で採用しているFMCWレーダは、基準信号の周波数を連続的に上昇させていくアップフェーズと、連続的に下降させていくダウンフェーズとを一定周期毎に繰り返し、その基準信号の周波数による送信波を目標に照射する。そして目標による反射波とその時点での基準信号周波数とを混合してビート信号を発生させる。そしてアップフェーズにおけるビート信号の周波数と位相及びダウンフェーズにおけるビート信号の周波数と位相とから目標の相対速度と相対距離とを算出するのである。アップフェーズにおけるビート信号の周波数をU、ダウンフェーズにおけるビート信号の周波数をD、周波数掃引幅をB、変調時間をT、光速をc、送信波の波長をλとした場合、目的の相対距離R、相対速度Vは、式(1)と式(2)で与えられることが知られている。
【0027】
【数1】
【0028】
式(1)と式(2)から明らかなように、FMCWレーダでは相対距離と相対速度を算出するためには、UとDの双方を決定する必要がある。ところが、複数の外部目標が存在する場合、アップフェーズとダウンフェーズのそれぞれにおいて、ビート信号の周波数が複数個算出される。そうすると正しく相対距離と相対速度とを求める上では、アップフェーズにおける複数個のビート周波数と、ダウンフェーズにおける複数個のビート周波数との中から適切な組み合わせによるUとDを定めることが必要となる。このような問題を解決する技術はすでにいくつか知られており、例えば特開5−142337号公報「ミリ波レーダ距離速度測定装置」などに開示されている。
【0029】
また、目標の方向を算出する方法としては、例えば次のような方法が知られている。すなわち、ビームパターンの一部が重なるように複数の方向にビームを照射し、それぞれのビームにおいて目標による反射波を受信する。そして、隣接するビーム間の受信信号の振幅や位相などの差(△値)と和(Σ値)の比(△/Σ値)を求め、この△/Σ値から反射波の入射方向を求めるのである。この方法は、FMCWレーダでもパルスドップラーレーダでも、あるいはその他の方式によるレーダ装置でも用いることができる。
【0030】
隣接するビームパターンの組み合わせ方式としては、異なる時間帯に放射したビームパターン間で△/Σ値を算出するシーケンシャルロービング方式や、複数の素子アレーを備えて同時に複数のビームパターンを放射し、同時刻のビームパターンを組み合わせて△/Σ値を算出するモノパルス方式が知られている。しかし、これらはいずれも、1つのビームパターン内には1つの目標しか存在しないことを前提としており、目標同士が按近し、その結果として、1つのビームパターン内に複数の目標が存在することとなった場合には対応できない。
【0031】
以上の動作原理を踏まえて、次にレーダ装置2の各構成要素の作用とともに、レーダ装置2の動作を具体的に説明する。また、以下の説明では、より具体的にレーダ装置2の動作を説明するために、自動車1の前方を走行する複数の自動車の動作を測定する場合を想定する。図4は、そのような状況を示す図である。実際の道路においては、対向車線などにより、車線は通常複数存在する。したがってレーダ装置2は、異なる車線に跨って存在する複数の車両にビームを照射することとなり、それぞれの物体から反射波が戻ってくる。そのような場合における動作を説明するために、図4の例では、車線101、102、103からなる3つの車線がある。車線101には車両104が、車線102には車両105が、そして車線103には車両106が、自動車1の前方およそ100〜150m付近を同じ方向に走行しているものとする。
【0032】
まずレーダ装置2において、VCO11が発生したアップフェーズとダウンフェーズからなる基準信号を送信器12で増幅し、アンテナ13によって車両104、105、106に放射する。ここでアンテナ13は、アンテナ駆動器15によって、ビームの放射方向が制御され、また制御器10によって送信するように設定されている。その結果、アンテナ13は、図4に示すビーム151、ビーム152、ビーム153等を順次放射し、車両104、105、106をビームパターン内に捉える。
【0033】
△/Σ値を算出して目標の存在する方向を求める方法の説明ですでに述べたとおり、目標の方向を正しく取得するには、各ビームに目標が1つずつ存在することが前提となる。しかしながら、車載レーダの場合、自動車に搭載するという制約を満たすため、搭載可能なアンテナのサイズには制約がある。そのため、あまりビーム幅を狭くすることができない。車線の幅が4.5m程度であるとして、100〜150m付近を並走している車両を別々のビームで捕捉するために必要となる分解能βを計算してみよう。仮に車両までの距離を100mとすると、θは
tanθ≦4.5/100=0.045 (3)
を満たす必要がある。θが十分小さい場合はθ≒tanθと近似でき、θはせいぜい0.045となる。単位をradianからdegに変換すると、θ[deg]=0.045×180/π≒2.58°となる。このような極めて狭いビーム幅を車載レーダが実現することは一般に困難である。
【0034】
その結果、実際の使用環境では同一ビーム内に複数の目標が含まれてしまうことが頻繁に生ずる。ところが、このような事態が生ずると、目標の方向や位置を正しく捉えることができなくなる。このように適切に目標位置を分離できない、という問題は、車載レーダシステムを用いた主要なアプリケーションシステムの使い勝手に直接的に影響する。すなわち、車載レーダによって他車の状況を検知し、オートクルーズや自動ブレーキングを行うシステムを高速道路で用いた場合、100m前方の自車線を走っている車両が急ブレーキをかけたときには、自車においても何らかの対応が必要となる。しかし、適切な分解能を有するアンテナを搭載しない場合には、隣の車線を走っている車両が急ブレーキをかけた場合にも、自車線と同じ対応をすることになりかねないのである。
【0035】
図4の例においても、車両104は、互いに隣接するビーム151と152のビームパターンの重なり付近を走行している。一方、車両105と106はどちらもビーム153のビームパターン内を走行している。このような状況は現実には極めて頻繁に生ずる。
【0036】
アンテナ13が放射したビーム151、ビーム152、ビーム153等のビームは、車両104〜106に反射され、再びアンテナ13に到来する。アンテナ13は、これらの反射波を順次受信して、受信波を受信器16に出力する。受信器16は、VCO11における基準信号と受信波とを混合(mixing)し、ビート信号を生成する。ここで、VCO11は連続的に周波数を上昇または下降させていて、また送信波が外部目標に到来し、そこで反射されアンテナ13に戻ってくるまでの間に、ある程度の時間が経過しているので、基準信号の周波数は受信波が送信波として放射されたときの周波数とは異なっている。さらに受信波は外部目標に反射された際に、外部目標が移動しているためにドップラー効果が生じ、その結果周波数のずれが生じている。したがって受信器16で生成されるビート信号は、送信波を放射してから受信波として戻ってくるまでの経過時間や外部目標の移動速度などの情報を含んだものとなっている。これらは後に周波数解析によって抽出されることになる。
【0037】
さらに受信器16は、ビート信号を以後の信号処理で処理可能とするためにA/D変換し、ディジタル信号による受信信号を信号処理器17に出力する。
【0038】
次に信号処理器17の動作について説明する。図5は信号処理器17の動作を示すフローチャートである。図のステップS101において、周波数分析器21は、受信信号に対して例えば高速フーリエ変換などを施してスペクトル分析し、周波数成分を抽出する。なお、周波数分析器21は、周波数成分とともに、周波数スペクトルがピークとなる受信信号の振幅をも出力する。続いてこれらのビート信号周波数成分と受信信号の振幅は、一定期間、少なくともアップフェーズとダウンフェーズの区間を一回ずつ経過するだけの期間、周波数記憶器22によって記憶される。そしてステップS102において、制御器10はアップフェーズとダウンフェーズの一つの対が経過すると、アップフェーズ・ダウンフェーズ連結器23に制御信号を送出することでアップフェーズ・ダウンフェーズ連結器23を活性化させる。その結果、アップフェーズ・ダウンフェーズ連結器23は、一組のアップフェーズとダウンフェーズからなる区間が経過した時点で、周波数記憶器22によって記憶されているアップフェーズのビート信号とダウンフェーズのビート億号との対を形成する。
【0039】
次にステップS103において、方位演算器25は、アップフェーズ・ダウンフェーズ連結器23により形成されたアップフェーズとダウンフェーズのビート信号の対の受信信号の振幅を周波数記憶器22から読み込むとともに、隣接するビーム間で受信信号の振幅の差(△値)と和(Σ値)を求め、その比(△/Σ値)を算出する。そして方位演算器25は、△/Σ値から目標の方向を算出する。この計算は次のように行われる。
【0040】
すなわち、隣接する2つのビームについての受信信号において、目標の方向に起因する誤差電圧とは、これら両ビームの受信信号の振幅の差(△)を振幅の和(Σ)で除した値で表される。すなわちと=△/Σの関係が成立する。そして、アンテナ13θaとすれば、目標の方向をθ0は
θ0=θa+ε (4)
で与えられる。方位演算器25は式(4)によって、△/Σ値からθ0を求める。
【0041】
方位演算器25の処理に続いて、あるいは、方位演算器25の動作と並行して、ステップS104において、相対距離・速度演算器24は、周波数記憶器22によって記憶されているアップフェーズのビート信号の周波数Uとダウンフェーズのビート信号の周披数Dとから、式(1)と式(2)を用いて、外部目標(車両104、105、106など)の相対速度と相対距離とを求める。そしてステップS105において、位置・速度演算器26は、方位演算器25が算出した方位と、相対距離・速度演算器24が算出した相対速度と相対距離から、目標の地表座標系における位置と速度とを算出する。
【0042】
(外部目標毎の追尾処理)
次にステップS106において、目標追尾フィルタ27が実行する追尾フィルタに観測値を供給する。目標追尾フィルタ27は、一定期間毎に観測値から平滑値を算出するループ演算を行っている。そこで、以下に目標追尾フィルタ27が実行する追尾フィルタについて説明する。
【0043】
図6は、目標追尾フィルタ27が実行する追尾フィルタを表すフローチャートである。なお、このフローチャートが表す追尾処理は、一つの外部目標のみを取り扱うものである。複数の外部目標が存在する場合は、各外部目標についてそれぞれ追尾処理が行われる。まず、この追尾処理に先立て、ステップS106で供給された観測値が既存の追尾処理を行っている外部目標のいずれかのものかどうかを判定し、どの外部目標のものでもない場合に、新たな外部目標が観測されたと判断し、新たな追尾処理を開始する。
【0044】
(初期処理)
まずステップS201において、追尾処理の初期処理としてS108で供給された観測値を平滑値とする。そして、定常処理のステップS206に進む。続いてステップS207に進み、次回サンプル時の到来を待機し、到来とともにステヅプS202に進む。ステップS202、S206、S207の処理については後述する。
【0045】
(定常処理)
ステップS202において、前回サンプル値の平滑値に基づいて今回サンプル値の予測値を算出する。k回目のサンカレを今回サンカレとして、x成分平滑値をxs(k)、y成分平滑値をyp(k)、速度成分平滑値をvs(k)、前回サンプル時(k−1回目のサンプル)からの経過時間をTとし、x成分にαフィルタ、y成分にα−βフィルタを適用するものとすると、x成分予測値xp(k)、y成分予測値yp(k)、速度成分予測値vp(k)は、例えば次式によって与えられる。
xp(k)=xs(k−1) (5)
yp(k)=ys(k−1)+vs(k−1)・T (6)
vp(k)=vs(k−1) (7)
【0046】
続いて、ステップS203において、ステップS106における位置・速度演算器26による新たな観測値の供給を受ける。ここで、一般にレーダ装置を通じて取得した観測値にはノイズが乗りやすいため、観測値そのものを入力データとして採用することはまれである。そこで、観測値そのものでなく、ノイズの影響を小さくした平滑値を算出して、レーダ装置からのデータを利用する他のシステムに供給することがフィルタの目的の一つとなや。フィルタはこのような目的を有しているので、得られた観測値を無条件に採用することはせず、相関処理と呼ばれる条件判定を行ってから観測値の採否を決定することが多い。このような条件判定演算が相関処理である。
【0047】
そして今回の観測値を受け入れるかどうかを決定する条件をゲートと呼んでおり、前回サンプルの平滑値と予測値、前回サンプルからの経過時間などに基づいて動的に決定されることが多い。
【0048】
レーダ装置2では、複数の車両を観測する場合に、それぞれの車両のゲートが重なってしまうと、各ゲート間で観洩雌の取り合いが発生し、本来の追尾処理ではない他の追尾処理の方に観測値が奪われてしまう。そこで、このような事態を避けるために、各外部目標間でゲートが重ならないようにしなければならない。
【0049】
ところがそうすると、ゲートが必要以上に狭くなり、本来追尾処理で拾わなければならない観測値を棄却してしまうことも発生してくる。そこでレーダ装置2では、外部目標ごとの追尾処理と同時に、外部目標同士が接近し、ゲートが重なってしまって、正しく相関処理が行えない場合に、クラスタを形成して対処することとしている。これについては後述する。
【0050】
ここでは、第1段階として観測値x0(k)、y0(k)、V0(k)が
|xs(k−1)−xo(k)|<dx (8)
|yp(k)−y0(k)|<dy (9)
|vs(k−1)−vo(k)|<dv (10)
を満たす場合に、観測値を採用し、さらに第1段階で相関が取れなかった車両について、さらにゲートを広げ、
|xs(k−1)−xo(k)|<dx’ (11)
|yp(k)−yo(k)l<dy’ (12)
|vs(k−1)−vo(k)|<dv’ (13)
を満たす場合に、観測値を採用することとする。なお、式(8)から式(13)までにおいて、dx、dy、dv、dx’,dy’、dv’は定数であり、dx’=dx+△dx、dy’=dy+△dy、dv’=dv+△dv(△dx、△dy、△dvはそれぞれ正の値をとる定数)の関係にある。
【0051】
次にステップS204において、今回のサンプル時の予測値と、相関処理によって得られた観測値とから、平滑値を算出する。ここで、平滑値を算出する上で、観測値が関与する度合いを決定する係数をゲインと呼ぶ。具体的には、例えばαxをx成分のゲイン、αyをy成分のゲインとして、x成分平滑値xs(k)、y成分平滑値yp(k)、速度成分平滑値vs(k)を次のように算出する。
xs=xp(k)+αx[xo(k)−xp(k)] (14)
ys=yp(k)+αy[yo(k)−yp(k)] (15)
vs(k)=vo(k) (16)
【0052】
ゲインの大きさによって、平滑値におけるノイズの影響の大小が決定される。ゲインを小さくすると、平滑値に対する観測値の寄与が小さくなるので、平滑値はノイズの影響を受けなくなる。しかしながら、平滑値は現実の値である観測値とは遊離したものとなる。その結果、例えば外部目標が予想外の動きをした場合に、平滑値は追従できなくなるという問題がある。
【0053】
一方、ゲインを大きくすると、外部目標の動きに対する平滑値の追徴性が向上する。SN比の高い測定環境であれば、ゲインをなるべく大きな値とした方が平滑値の精度も向上する。レーダ装置2の場合では、外部目標の間の相対的な位置関係によって、ゲインの大小を決定する必要がある。特に、ゲートが重なってしまい、観測値に信頼性がなくなった場合は、ゲインの大小のみではもはや追いつかなくなる。
【0054】
続いてステップS205において、予測値、観測値、平滑値のすべてが観測域内にあるかどうかを判定する。これらのすべてが観測域内にある場合は、追尾処理を維持することができるので、ステップS206に進む(ステップS205:Yes)。また予測値、観測値、平滑値のいずれかが観測域を逸脱した場合は、追尾処理を維持することができないので、追尾処理を終了する(ステップS205:No)。
【0055】
ステップS206では、ステップS204で算出した平滑値を追尾情報記憶器28に記憶させる。これらは次回サンプル時までに外部目標単位で記憶される。続いてステップS207において、次回サンプル時の到来を待機し、到来とともにステップS202から次回サンプルの処理を行う。以上が、目標追尾フィルタ27における追尾処理である。
【0056】
続いてS107において、クラスタ形成器29は、追尾情報記憶器28が記憶している追尾結果を読み出す。そして、外部目標(車両104、105、106など)の中から、それらの位置と速度などの運動諸元の予測値と平滑値などが所定の条件を満たすものを抽出し、この所定の条件を満た外部目標からクラスタを形成する。そこで、次にクラスタ形成処理の詳細を説明する。
【0057】
(クラスタ形成処理)
【0058】
ステップS303において、N番目の組み合わせの外部目標間の距離を算出する。ここでは距離値として、例えばユークリッド距離を用いる。しかし、その他にもシティブロック距離やマハラノビス距離を用いるようにしてもよい。
【0059】
ステップS304において、N番目の組み合わせにおける外部目標間の距離が所定の閾値以下か否かを判定する。外部目標間の距離が所定の閾値以下であれば、両外部目標は同一のクラスタに所属させることになる。この場合は、ステップS305に進む(ステップS304:Yes)。ここで、所定の閾値は定数としてもよいが、例えはTHを定数とし、目標追尾フィルタ27に各目標間の距離の予測値を算出させ、さらに各目標間の距離の予測値の分散ρpi(i番目の目標の分散)に基づいて、例えば式(17)を用いて閾値を算出するようにしてもよい。
【0060】
【数2】
【0061】
上式において、kはk回目のサンプルにおける閾値であることを示す。またMは目標の総数である。目標の位置の予測値の分散が大きい場合は、方向観測精度が悪いと考えられ、距離の予測値が大きくても、実際には目標が近接している場合も考えられる。そこで、式(17)のように閾値を決定することで、方向の観測精度が悪い場合にも、適切にクラスタの形成を行うことができる。
【0062】
また所定の閾値以下とはならない場合には、ステップS310に進むが(ステップS304:No)、この場合の処理については後述する。
【0063】
ステップS305において、N番目の組み合わせの外部目標がすでにいずれかのクラスタに属しているかどうかを判定する。一方の外部目標がいずれかのクラスタに属している場合は、他方の外部目標も同じクラスタに所属させる必要があるので、そのための処理を行う。この場合には、ステップS306に進む(ステップS305;Yes)。ステップS306では、さらに両方の外部目標ともクラスタに属していて、それらのクラスタが異なっているかどうかを判定する。異なっている場合には、ステップS307に進み(ステップ206)、ステップS307において両クラスタを1つのクラスタに併合する。距離値が一定値以下となる外部目標が、異なるクラスタに所属することは許されないからである。その後、ステップS310に進む。
【0064】
これに対して、一方の外部目標がまだクラスタに属していない場合、あるいは両方の外部目標が同じくラスタに属している場合は、ステップS308に進む(ステップS306:No)。ステップS308において、一方の外部目標がいずれのクラスタにも属していない場合は、その外部目標を他方の外部目標が所属するクラスタに所属させる。その後、ステップS310に進む。
【0065】
またステップS305において、両外部目標ともどのクラスタにもまだ属していない場合には、ステップS309に進む(ステップS305:No)。この場合には、ステップS309において、新たなクラスタを形成し、両方の外部目標をこの新しいクラスタに所属させる。その後ステップS310に進む。
【0066】
ステップS310において、カウンタ変数Nに1を加える。そしてステップS311において、Nが外部目標の組み合わせ総数以下かどうかを判定する。組み合わせ総数以下である場合には、ステップS303に戻り(ステップS311:Yes)、次の組み合わせについて、同様の処理を繰り返す。また、Nが組み合わせ総数以上である場合には、クラスタ形成処理を終了する。
【0067】
なお、以上説明したクラスタ形成処理では、距離に基づいて外部目標の分布を決定し、クラスタを形成したが、この他にも、外部目標の予測値の分散を表す予測誤差共分散行列に基づいて、上記の閾値を適応的に変化させてもよい。
【0068】
また、上記では、まだ一つもクラスタが形成されていない状態から、すべての外部目標をいずれかのクラスタに所属させることを仮定してクラスタを形成する方法を説明した。しかし、以前の観測値や平滑値に基づいてすでにクラスタが形成されている場合は、既存のクラスタを基礎として、変化分についてクラスタの構成を変えるようにしてもよい。
【0069】
また、たった一つの外部目標だけが所属するクラスタについては、クラスタの所属を解除するようにする。このような外部目標は他の外部目標と十分に離れているので、ステップS103において算出された方向の観測値の信頼性が高いと考えられるからである。
【0070】
次に、ステップS108において、クラスタ内目標追尾フィルタ30がクラスタ毎にクラスタ内の追尾処理を行う。そして、ステップS108において追尾情報記憶器28に記憶させた各外部目標の追尾処理結果をクラスタ内の追尾処理結果で上書きすることで記憶させる。このようにすることで、クラスタに属している外部目標の追尾結果については、クラスタ追尾フィルタの処理結果が採用されまたクラスタに属していない外部目標の追尾結果については、単体の追尾フィルタの処理結果が採用されることになる。
【0071】
クラスタ内追尾フィルタ30の処理は、目標追尾フィルタ27と比べて、ゲートの設定部分が異なっている。すなわち目標追尾フィルタ27のステップS203における相関処理の説明で述べたように、クラスタに所属するような目標は、他の目標とゲートが重なってしまっており、その結果、それぞれの航跡を分離して扱うことができない。
【0072】
そこでクラスタ内追尾フィルタ30が用いるゲートについて、次に説明する。図8は、クラスタ内に存在する2つの目標107と108のゲート(各目標単体の追尾処理で使用されるゲート)が重なっている様子を示す図である。矩形110(以降、ゲート110と呼ぶ)は目標107の単体追尾処理で使用するゲート領域を示すものである。また矩形111(以降、ゲート111と呼ぶ)は目標108の単体追尾処理で使用するゲート領域を示すものである。矩形112は、矩形110と矩形111の重なった領域である。
【0073】
矩形111に何らかの観測値が存在する場合、ゲート110によって相関させるべきか、ゲート111によって相関させるべきか判断することができない。そこでクラスタ内追尾フィルタ30は、目標107と108について図9に示すようなゲートを新たに設定する。図において、点113は目標107と108の中点である。また矩形114は目標107のゲートを示す領域であり(以後、ゲート114と呼ぶ)、矩形115は目標108のゲートを示す領域である(以後、ゲート115と呼ぶ)。図から明らかなように、ゲート110とゲート111が重なっていた領域を、中点113で分割することによって、両目標のゲートの大早さを調整し、観測値の取り合いを回避するようにしている。
【0074】
そこで、目標107のkサンプル目のx成分位置の平滑値をxs,107(k)、観測値をxo,107(k)、目標108のkサンプル目のx成分位置の平滑値をxs,108(k)、観測値をxo,108(k)のように表すこととすると、目標107のゲート110は次式(式(11))で与えられていた。
|xs,107(k−1)−xo,107(k)|<dx (18)
よって
xs,107(k−1)−dx<xo,107(k)<xs,107(k−1)+dx (19)
がゲート110であった。
【0075】
さらに目標108については、ゲート111は次式(式(12))で与えられていた。
xs,108(k−1)−dx<xo,108(k)<xs,108(k−1)+dx (20)
ここでxo,107(k)<xo,108(k)とした場合、ゲート114は、
xs,107(k−1)−dx<xo,107(k)<(xo,107(k)+xo,108(k))/2 (21)
また、ゲート115は、
(xo,107(k)+xo,108(k))/2<x0,108(k)<xs,108(k−1)+dx (22)
となる。
【0076】
上記において、目標が2個であるため、両者の中点でゲートを分割することとしたが、目標が3個以上の場合は、各目標から定められる重心で各ゲートを分割するようにすればよい。なお、以下において、重心という語は、各目標を頂点とする多角形を想定し、その重心となる点を指すものとする。
【0077】
また必ずしも中点や重心でゲートを分割する必要はなく、例えば図10に示すように中点や重心の周囲に一定の緩衝領域を設け、この領域をどのゲートにも含まないようにしてもよい。このようにすることで、方位演算器25でビームパターンと目標との位置関係から、目標の中点付近に発生することがある偽像をゲートに含まないようにすることができる。
【0078】
以上から明らかなように、この発明の実施の形態1のレーダ装置では、互いに近接した目標とそうでない目標とで異なるゲートを設定してそれぞれの追尾処理を行うようにした。これによって、これまでのレーダ装置の利点を生かしつつ、さらにこれまでのレーダ装置では計測が困難であった互いに近接した目標に対する計測の精度を改善することができる。
【0079】
なお、この発明の実施の形態1を具体的に説明するために、レーダ装置2を車載レーダ、特にFMCWレーダ装置として構成した。しかし、車載レーダ以外の用途においても、ビームパターン内に複数の目標が含まれる場合に、この発明を適用することができることはいうまでもない。またこの発明が特徴を奏するには、距離と速度、方向を取得できるレーダ方式であれば十分である。よってパルスドップラーレーダ装置など他のレーダ方式においてもこの発明を適用することができる。
【0080】
実施の形態2.
実施の形態1では、互いに近接する目標同士からクラスタを形成し、クラスタに所属する目標と所属しない目標とでは、異なるフィルタを設定することとした。さらに観測対象となる目標が互いに近接していて、さらに等速並行運動をする場合には、クラスタを一つの目標に見立てて追尾処理を行うようにしてもよい。この発明の実施の形態2によるレーダ装置は、このような特徴を有するものである。
【0081】
この発明の実施の形態2によるレーダ装置の全体構成は、実施の形態1と同様に図1、図2のブロック図によって示され、実施の形態1と同一の符号を付した構成要素は実施の形態1の相当部位と同様であるので、説明を省略する。また信号処理器17の詳細な構成は、図11のブロック図によって示される。
【0082】
図11において、クラスタパラメータ推定部31は、クラスタが一つの運動目標と見立てられる場合に、方位演算器25からクラスタの運動諸元を推定する部位である。クラスタ情報記憶部32はクラスタパラメータ推定部31が算出したクラスタの運動諸元を記憶する回路または素子、さらにはハードディスク装置などの記憶媒体を用いた機器によって構成されている。クラスタ解除部33は、各目標がクラスタを構成する条件を満たさなくなった場合に、そのクラスタを解除する部位である。その他、図3と同一の符号を付した構成要素については、実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0083】
次に、この発明の実施の形態2によるレーダ装置(図2におけるレーダ装置2)の動作について説明する。以下の説明においては、レーダ装置2の動作をより具体的に説明するために、図12に示すように、車両104、105、106が自動車1の前方を走行している状況を想定する。車両104、105、106は、それぞれ各車線に沿ってほぼ等速運動しているものとする。このような状況は、交差点や信号のない高速道路その他の自動車専用道路での走行時にはしばしば発生する。なおその他、図12において図4と同一の符号を付した構成要素については、図4と同様であるので説明を省略する。
【0084】
図12のような状況において、レーダ装置2は、実施の形態1と同様にVCO11が発生した基準信号に基づいてビームを照射し、その反射波をA/D変換して信号処理器17に受信信号を出力する。続いて信号処理器17が受信信号を信号処理する。図13はこの信号処理器17の信号処理を表すフローチャートである。図において、図5と同一の符号を付したステップの処理は実施の形態1と同様であるので、説明を省略する。
【0085】
そうするとステップS101からステップS109までは、実施の形態1と同じである。この結果、位置・速度演算部26が、各目標の観測値を算出し、さらに目標追尾フィルタ27は、各目標の追尾処理を行い、その結果となる平滑値を追尾情報記憶器28に記憶させる。そしてクラスタ形成器29は、クラスタの形成を行う。ここでは、例えば車両104と105が互いに十分に近接しているものとし、これらの車両に基づくクラスタの形成を行ったものとする。
【0086】
ステップS401において、クラスタが存在する場合、このクラスタを一つの目標と見立てて、追尾処理を行う。図14は、クラスタ内目標追尾フィルタ30が行う追尾処理のフローチャートである。図のステップS501において、クラスタパラメータ推定部31は、位置・速度演算器26が算出した外部目標の位置と速度から、クラスタのパラメータを推定する。ここで得られたクラスタのパラメータをクラスタパラメータの平滑値の初期値とする。クラスタパラメータ推定部31は、クラスタパラメータとしてクラスタの重心と、クラスタ内目標間の距離を用いることとし、次のようにしてこれらの値を算出する。
ここで、例としてN個の目標を含むクラスタを想定する。第q番目(q=1,2,・・・,N)の目標(TGTqと呼ぶ)の座標は(xq,yq)、速度はvqであるものとする。この場合、クラスタの重心座標(gx,gy)と重心速度gvは、式(23)と式(24)で与えられる。
【0087】
【数3】
【0088】
目標間の距離はスカラーではなく、x座標成分とy座標成分からなるベクトルで与えることとする。そうすると、目標TGTiと目標TGTjとの距離は、x座標成分をWxij、y座標成分をWyijとして、式(25)と式(26)で与えられる。
Wxij=xi−xj (25)
Wyij=yi−yj (26)
上記のような距離の定義方法の他に、重心gからのスカラー距離を距離値としてもよい。
【0089】
続いて、ステップS506に進み、クラスタパラメータ推定部31は、クラスタ情報記憶器32にクラスタパラメータを記憶させる。次にステップS507において、次回サンプル時の到来まで待機し、次回サンプル時の到来とともに定常処理としてステップS502からの処理に進む。
【0090】
(定常処理)
ステップS502において、クラスタ内目標追尾フィルタ30は、クラスタパラメータの予測値を算出する。重心のx成分座標の予測値gxp(k)、y成分座標の予測値gyp(k)、速度の予測値gvp(k)(kはkサンプル目の処理であることを示す)は、前回サンプルからの経過時間をT、重心のx成分座標の平滑値をgxs(k)、y成分座標の平滑値gys(k)、速度の平滑債をgvs(k)として、
gxp(k)=gxs(k−1) (27)
gyp(k)=gys(k−1)十gvs(k−1)・T (28)
gvp(k)=gVs(k−1) (29)
として与えられる。また、目標TGTiと目標TGTjとのx座標成分距離予測値をWpxij(k)、y座標成分距離予測値をWpyij(k)は、x座標成分距離平滑値をWsxij(k)、y座標成分距離平滑債をWsyij(k)、距離の時間変化率平滑値をrvs(k)とすれば、
Wpxij(k)=Wsxij(k−1) (30)
Wpyij(k)=Wsyij(k−1)+rvs(k−1)・T (31)
また、距離の時間変化率予測値rvp(k)は、
rvp(k)=gVs(k−1) (32)
与えられる。
【0091】
次に、ステップS503において、クラスタ内目標追尾フィルタ30は、相関処理を行い、観測値を取得する。相関処理では、複数目標間で各目標のゲートが重なっている場合、重心で分割して設定する。具体的には、実施の形態1で示した図9のゲート設定方法において目標107をTGTi、目標108をTGTj、中点113を中点ではなく重心と見立てて、設定された矩形114を目標TGTiに対するゲートとし、矩形115を目標TGTjに対するゲートとする。これらの数式表現は式(18)から式(22)までにおいて、すでに示しているので、ここでは省略する。
【0092】
続いてステップS504において、クラスタ内目標追尾フィルタ30は、クラスタパラメータの平滑値を算出する。重心のx成分座標の平滑値gxs(k)、y成分座標の平滑値gys(k)、速度の平滑値gvs(k)は、第q番目の目標のx成分座標の観測値をXoq、y成分座標の観測値をyoq、速度の観測値をvo、x成分のゲインをαx、y成分のゲインをαyとすれば、式(33)、式(34)、式(35)によって与えられる。
【0093】
【数4】
【0094】
なお、ゲインの設定方法としては、クラスタ内目標では、方位の観測精度が低下する可能性が高いことを考慮して、ゲインを通常より低く設定して観測精度の影響を抑止するようにする。また、クラスタ内の目標間の予測距離が小さい、すなわち目標の位置の予測値が密集しているほど、方位の観測精度が低下するものとして、ゲインが小さくなるように重み付けしてもよい。たとえば、Gを定数として、式(36)のように与えるようにする。
【0095】
【数5】
【0096】
また、予測値の分散が大きいほど、方位角観測精度がより劣化するので、ゲインが小さくなるように、式(36)と同様の重み付けをして設定してもよい。また予測値の分散と予測値間の距離の両方を考慮して重み付けを行って、ゲインを求めてもよい。
目標TGTiと目標TGTjとのx座標成分距離平滑値をWsxij(k)、y座標成分距離予測値をWpyij(k)は、x座標成分距離平滑値をWpxij(k)、y座標成分距離平滑値をWpyij(k)、距離の時間変化率平滑値をrvs(k)、x成分のゲインをAx、y成分のゲインをAyとすれば、
【0097】
【数6】
【0098】
また、距離の時間変化率予測値rvp(k)は、
rvp(k)=voi(k)−voj(k) (39)
で与えられる。
【0099】
次に、ステップS505において、クラスタ削除器33は、その時点においてクラスタを維持する条件が満たされているかどうかを判定する。判定方法としては、各目標間の距離が同値以内にあるかどうかを調べる。またクラスタパラメータの予測値、観測値、平滑値が観測域内にあるかどうかを判定するようにしてもよい。クラスタを維持する条件が満たされている場合には、ステップS506に進む(ステップS505:Yes)。以降の処理については後述する。クラスタを維持する条件が満たされていない場合は、これ以上追尾処理をすることができないので、処理を終了する(ステップS505:No)。
【0100】
ステップS506において、クラスタ内目標追尾フィルタ30は、クラスタパラメータ平滑値をクラスタ情報記憶器32に記憶させる。以後の処理は、初期処理の説明で述べたとおりであるので、説明を省略する。
【0101】
なお、上記の追尾処理において、予測値、平滑値の算出をx成分についてはαフィルタ、y成分についてはα−βフィルタを用いて行ったが、カルマンフィルタで行うようにしてもよい。
【0102】
以上から明らかなように、この発明の実施の形態2のレーダ装置によれば、互いに近接していて等速で並走している複数の目標からクラスタを形成し、そのクラスタを一つの目標と見立てて追尾処理をすることで、クラスタ内の目標の観測値の誤差の影響を排除して、精度の高い観測を行うことができる。
【0103】
なお、この発明の実施の形態2によるレーダ装置では、実施の形態1と同様に各目標についての追尾処理を行う目標追尾フィルタ27を備えることとしたが、この発明の実施の形態2によるレーダ装置は、クラスタ内目標追尾ラィルタ30がクラスタを一つの目標に見立てて追尾する点に特徴を有するものであるので、目標追尾フィルタ27の有無にかかわらず、発明の特徴を奏する。したがって目標追尾フィルタ27は必須の構成要素ではない。
【産業上の利用可能性】
【0104】
以上のように、この発明に係るレーダ装置は、互いに近接する複数の目標が方向を計測する用途、例えば車載レーダなどに有用である。
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーダ装置に係るものであり、特に追尾する目標同士が接近している場合に、精度よく追尾を行う技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数のビームバターンを組み合わせて目標の方向を観測する技術として、シーケンシャルロービング方式やモノパルス方式が知られている。これらは隣接するビームパターンにおける目標の像の差異を求めて、目標の方向を推定する方法である。また、パルスドップラーレーダ方式やFMCWレーダ方式を用いることで、目標までの相対距離と目標の相対速度を得ることができる。したがって、これらの方式を組み合わせることによって(例えば、シーケンシャルロービング方式とFMCWレーダ方式)、目標の地表に対する位置と速度を算出することができる。
【0003】
しかしながら、これらの方法は目標が一つであることが前提であり、目標が複数ある場合には、従来の方法では対応できない。このような問題に対処する方法として、複数チャネル間で、受信波の周波数が互いに対応するピークの組を求め、その組のピーク間の位相差に基づいて、複数の目標の方位を検出し、距離と速度とを組み合わせて、目標の位置を得る方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−271430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この方法によれば、複数の目標を異なるビームで分離できる場合には、信頼性の高い方位を検出できる。しかし、現実のレーダ使用環境では、例えば車載レーダなどの場合、他の車両が接近し合うことによって、同じビーム内に複数の目標が含まれてしまうことがしばしば発生する。このような事態が生じると、従来の方法では方向が正しく観測できなくなり、複数の目標の航跡の分離に失敗したり(複数の目標が全く同じ点上に存在するように見えてしまう)、あるいは偽像が発生して、本来何も存在しない場所に、何らかの目標が存在するような結果が得られる場合がある。
【0006】
この発明は、上記のような問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るレーダ装置は、複数の外部目標から到来する電波を受信波として受信するアンテナと、前記アンテナが受信した受信波を受信信号に変換し、その受信信号の特徴量を抽出する信号検出器と、前記信号検出器が抽出した受信信号の特徴量から、前記各外部目標の位置観測値と速度観測値とを算出する位置・速度演算器とを備えたレーダ装置において、前記位置・速度演算器が算出した位置観測値と速度観測値に対して、第1のゲートによる相関処理を施し、前記第1のゲートを満たす位置観測値と速度観測値から前記各外部目標の位置と速度との平滑値を算出する目標追尾フィルタと、前記各外部目標の位置の平滑値に基づいて、前記外部目標同士が接近している場合に、前記外部目標が所属するクラスタを形成するクラスタ形成器と、前記クラスタ形成器が形成したクラスタを一つの外部目標に見立てて、前記位置・速度演算器が算出した位置観測値と速度観測値とから、そのクラスタの位置と速度との平滑値を算出するクラスタ内目標追尾フィルタとを備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
これによって、特に複数の外部目標が互いに近接し、かつ等速で並走しており、信頼性の高い観測値が得にくい状況であっても、精度の高い安定した追尾を可能とする、という効果を奏するのである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1、2によるレーダ装置の使用状況を示す図、
【図2】この発明の実施の形態1、2によるレーダ装置の構成を示すブロック図、
【図3】この発明の実施の形態1のレーダ装置における信号処理器の詳細な構成を示すブロック図、
【図4】この発明の実施の形態1のレーダ装置のビームパターンと目標との関係を示す図、
【図5】この発明の実施の形態1のレーダ装置の信号処理を示すフローチャート、
【図6】この発明の実施の形態1のレーダ装置の追尾処理を示すフローチャート、
【図7】この発明の実施の形態1のレーダ装置のクラスタ形成処理を示すフローチャート、
【図8】この発明の実施の形態1のレーダ装置における目標間のゲートの関係を示す図、
【図9】この発明の実施の形態1のレーダ装置におけるクラスタ内の目標のゲートの構成例を示す図、
【図10】この発明の実施の形態1のレーダ装置におけるクラスタ内の目標のゲートの別の構成例を示す図、
【図11】この発明の実施の形態2のレーダ装置の信号処理器の詳細な構成を示す図、
【図12】この発明の実施の形態2のレーダ装置の目標の位置関係を示す図、
【図13】この発明の実施の形態2のレーダ装置の信号処理を示すフローチャート、
【図14】この発明の実施の形態2のレーダ装置の追尾処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1によるレーダ装置を搭載した自動車を示すものである。図において、自動車1の前方にはこの発明の実施の形態1によるレーダ装置2が搭載されている。レーダ装置2は、自動車1の前方にビームを照射する。照射されたビームの一部は、自動車1の前方に存在する物体3に反射され再びレーダ装置2に到来する。レーダ装置2はこれを受信して信号処理を施して、物体3までの距離・速度・方向を検出する。ここから得られた物体3に関する情報により、自動車1は、例えは衝突回避のために自動的にブレーキを作動させたり、衝突に備えてシートベルトの調整を行うなどの制御を行う。この結果、自動車1の安全性を飛躍的に高める上で大きく寄与する。
【0011】
図1は、レーダ装置2のの構造を示すブロック図である。レーダ装置2は、FMCW(Frequency Modulation Continuous Wave)レーダ方式によって構成されたレーダ装置である。図において、制御器10は、レーダ装置の各部位に制御信号を送出して、全体のタイミング制御を行う部位である。なお制御器10は汎用の中央演算装置(CPU:Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)などを用いて構成され、それぞれの構成要素とは図示せぬバスにより結合されているものとする。なお、以降の説明において、部位とはその機能を実現するために準備された専用回路または素子を指すものとする。ただし、場合によっては、中央演算装置(CPU:Central Processing Unit)を有するコンピュータにコンピュータプログラムを実行させることによって、相当の機能を実行させるように構成してもよい。
【0012】
VCO11はVCO(Voltage Controlled Ocillator)であって、微弱交流信号を発生する部位である。VCO11は、周波数を連続的に上昇させていくアップフェーズと、連続的に下降させていくダウンフェーズとを一定周期毎に繰り返す交流信号を発生するようになっている。
【0013】
送信器12は、VCO11が発生した微弱信号を増幅する増幅器である。アンテナ13は、送信器12が増幅したVCO11の出力信号を送信波として、物体3に照射するとともに、物体3により反射された送信波の一部を受信波として受信するセンサ素子である。
【0014】
送受切替器14は、可動端子Aと接点B、接点Cを備えており、これによってアンテナ13が送信波を送信するのか、あるいは受信波を受信するのかを切り替えるようになっている。可動端子Aは制御器10からの制御信号によって、接点Bと接点Cのいずれかの接点に設定されるようになっている。可動端子Aが接点Bに接続されている場合は、送信器12とアンテナ13が直結するので、アンテナ13は送信波を送信する。また可動端子Aが接点Cに接続している場合は、アンテナ13と後述する16が直結して受信波を接続するようになっている。
【0015】
アンテナ駆動器15は、アンテナ13の方向を機械的あるいは電子的に制御する部位である。アンテナ13は、アンテナ駆動器15によって方向を制御され、その結果としてビームパターンの一部が重なり合うビームが放射されるようになっている。
【0016】
受信器16は、アンテナ13が受信した受信波とVCO11が発生した基準信号とのビート信号を生成し、さらにそのビート信号をA/D変換して出力する部位である。信号処理器17は受信器16が出力したビート信号に対して信号処理を施す部位であり、その詳細な構成は図3のブロック図によって示されている。
【0017】
図3において、周波数分析器21は、ビート信号の周波数を分析する部位である。周波数記憶器22は、アップフェーズとダウンフェーズのそれぞれのビート信号の周波数を記憶する記憶素子又は回路である。アップフェーズのビート信号の周波数とダウンフェーズのビート信号周波数は対となってその後の相対距離や相対速度に用いられる。そこで、周波数記憶器22は一定期間それぞれのフェーズのビート信号の周波数を記憶するようになっている。
【0018】
アップフェーズ・ダウンフェーズ連結器23は、アップフェーズとダウンフェーズのそれぞれに複数の目標のビート信号が存在する場合に、目標毎にアップフェーズのビート信号周波数とダウンフェーズのビート信号周波数とを組み合わせる(coupling)部位である。
【0019】
相対距離・速度演算器24は、アップフェーズ・ダウンフェーズ連結器23によって組み合わされたビート信号の周波数から各目標の相対距離速度を算出する部位である。
方位演算器25は、ビート信号の周波数とそのビート信号が得られたビームに隣接するビームのビート信号の周波数から△/Σ値を算出して、目標が存在する方位を算出する部位である。
【0020】
位置・速度演算器26は、相対距離・速度演算器24が算出した各目標の相対距離速度と、方位演算器25が算出した各目標の方位から、各目標の位置と地表座標に対する速度を算出する部位である。
【0021】
目標追尾フィルタ27は、位置・速度演算器26が算出した各目標の位置と座標に対して平滑処理を行う部位である。位置・速度演算器26が算出した各目標の位置と座標は、観測値に基づくものであり、ノイズが乗ることで真値と大きくずれることがありうるが、目標追尾フィルタ27が平滑処理を施すことによって、このような事態を回避するようになっている。
【0022】
追尾情報記憶器28は、目標追尾フィルタ27が出力した平滑値を所定の期間記憶しておくための素子又は回路、あるいは、ハードディスクやCD−ROMドライブのような記憶媒体である。
【0023】
クラスタ形成器29は、各目標が接近した場合に、それらの目標からクラスタを形成する部位である。
【0024】
クラスタ内目標追尾フィルタ30は、クラスタ形成器29が形成したクラスタについて平滑処理を行う部位である。
【0025】
次に、レーダ装置2の動作について説明する。まず初めにレーダ装置2を用いて、外部目標の相対距離・相対速度・方向の観測を行う方法について簡単に説明する。距離・速度を観測するレーダ方式としては、例えばパルスドップラーレーダ方式や、レーダ装置2で採用しているFMCW(Frequency Modulation Continuous Wave)方式などが知られている。パルスドップラーレーダでは、同一周波数のパルス波をアンテナから一定周期毎に放射し、そのパルス波が目標に反射されてからアンテナに到達するまでの遅延時間を求め、この遅延時間から目標までの相対距離を算出する。また、目標が移動している場合は、パルス波の反射時にドップラー効果による周波数のずれが生じる。そこで、この周波数のずれを求めることにより、目標の相対速度を算出する。
【0026】
また、レーダ装置2で採用しているFMCWレーダは、基準信号の周波数を連続的に上昇させていくアップフェーズと、連続的に下降させていくダウンフェーズとを一定周期毎に繰り返し、その基準信号の周波数による送信波を目標に照射する。そして目標による反射波とその時点での基準信号周波数とを混合してビート信号を発生させる。そしてアップフェーズにおけるビート信号の周波数と位相及びダウンフェーズにおけるビート信号の周波数と位相とから目標の相対速度と相対距離とを算出するのである。アップフェーズにおけるビート信号の周波数をU、ダウンフェーズにおけるビート信号の周波数をD、周波数掃引幅をB、変調時間をT、光速をc、送信波の波長をλとした場合、目的の相対距離R、相対速度Vは、式(1)と式(2)で与えられることが知られている。
【0027】
【数1】
【0028】
式(1)と式(2)から明らかなように、FMCWレーダでは相対距離と相対速度を算出するためには、UとDの双方を決定する必要がある。ところが、複数の外部目標が存在する場合、アップフェーズとダウンフェーズのそれぞれにおいて、ビート信号の周波数が複数個算出される。そうすると正しく相対距離と相対速度とを求める上では、アップフェーズにおける複数個のビート周波数と、ダウンフェーズにおける複数個のビート周波数との中から適切な組み合わせによるUとDを定めることが必要となる。このような問題を解決する技術はすでにいくつか知られており、例えば特開5−142337号公報「ミリ波レーダ距離速度測定装置」などに開示されている。
【0029】
また、目標の方向を算出する方法としては、例えば次のような方法が知られている。すなわち、ビームパターンの一部が重なるように複数の方向にビームを照射し、それぞれのビームにおいて目標による反射波を受信する。そして、隣接するビーム間の受信信号の振幅や位相などの差(△値)と和(Σ値)の比(△/Σ値)を求め、この△/Σ値から反射波の入射方向を求めるのである。この方法は、FMCWレーダでもパルスドップラーレーダでも、あるいはその他の方式によるレーダ装置でも用いることができる。
【0030】
隣接するビームパターンの組み合わせ方式としては、異なる時間帯に放射したビームパターン間で△/Σ値を算出するシーケンシャルロービング方式や、複数の素子アレーを備えて同時に複数のビームパターンを放射し、同時刻のビームパターンを組み合わせて△/Σ値を算出するモノパルス方式が知られている。しかし、これらはいずれも、1つのビームパターン内には1つの目標しか存在しないことを前提としており、目標同士が按近し、その結果として、1つのビームパターン内に複数の目標が存在することとなった場合には対応できない。
【0031】
以上の動作原理を踏まえて、次にレーダ装置2の各構成要素の作用とともに、レーダ装置2の動作を具体的に説明する。また、以下の説明では、より具体的にレーダ装置2の動作を説明するために、自動車1の前方を走行する複数の自動車の動作を測定する場合を想定する。図4は、そのような状況を示す図である。実際の道路においては、対向車線などにより、車線は通常複数存在する。したがってレーダ装置2は、異なる車線に跨って存在する複数の車両にビームを照射することとなり、それぞれの物体から反射波が戻ってくる。そのような場合における動作を説明するために、図4の例では、車線101、102、103からなる3つの車線がある。車線101には車両104が、車線102には車両105が、そして車線103には車両106が、自動車1の前方およそ100〜150m付近を同じ方向に走行しているものとする。
【0032】
まずレーダ装置2において、VCO11が発生したアップフェーズとダウンフェーズからなる基準信号を送信器12で増幅し、アンテナ13によって車両104、105、106に放射する。ここでアンテナ13は、アンテナ駆動器15によって、ビームの放射方向が制御され、また制御器10によって送信するように設定されている。その結果、アンテナ13は、図4に示すビーム151、ビーム152、ビーム153等を順次放射し、車両104、105、106をビームパターン内に捉える。
【0033】
△/Σ値を算出して目標の存在する方向を求める方法の説明ですでに述べたとおり、目標の方向を正しく取得するには、各ビームに目標が1つずつ存在することが前提となる。しかしながら、車載レーダの場合、自動車に搭載するという制約を満たすため、搭載可能なアンテナのサイズには制約がある。そのため、あまりビーム幅を狭くすることができない。車線の幅が4.5m程度であるとして、100〜150m付近を並走している車両を別々のビームで捕捉するために必要となる分解能βを計算してみよう。仮に車両までの距離を100mとすると、θは
tanθ≦4.5/100=0.045 (3)
を満たす必要がある。θが十分小さい場合はθ≒tanθと近似でき、θはせいぜい0.045となる。単位をradianからdegに変換すると、θ[deg]=0.045×180/π≒2.58°となる。このような極めて狭いビーム幅を車載レーダが実現することは一般に困難である。
【0034】
その結果、実際の使用環境では同一ビーム内に複数の目標が含まれてしまうことが頻繁に生ずる。ところが、このような事態が生ずると、目標の方向や位置を正しく捉えることができなくなる。このように適切に目標位置を分離できない、という問題は、車載レーダシステムを用いた主要なアプリケーションシステムの使い勝手に直接的に影響する。すなわち、車載レーダによって他車の状況を検知し、オートクルーズや自動ブレーキングを行うシステムを高速道路で用いた場合、100m前方の自車線を走っている車両が急ブレーキをかけたときには、自車においても何らかの対応が必要となる。しかし、適切な分解能を有するアンテナを搭載しない場合には、隣の車線を走っている車両が急ブレーキをかけた場合にも、自車線と同じ対応をすることになりかねないのである。
【0035】
図4の例においても、車両104は、互いに隣接するビーム151と152のビームパターンの重なり付近を走行している。一方、車両105と106はどちらもビーム153のビームパターン内を走行している。このような状況は現実には極めて頻繁に生ずる。
【0036】
アンテナ13が放射したビーム151、ビーム152、ビーム153等のビームは、車両104〜106に反射され、再びアンテナ13に到来する。アンテナ13は、これらの反射波を順次受信して、受信波を受信器16に出力する。受信器16は、VCO11における基準信号と受信波とを混合(mixing)し、ビート信号を生成する。ここで、VCO11は連続的に周波数を上昇または下降させていて、また送信波が外部目標に到来し、そこで反射されアンテナ13に戻ってくるまでの間に、ある程度の時間が経過しているので、基準信号の周波数は受信波が送信波として放射されたときの周波数とは異なっている。さらに受信波は外部目標に反射された際に、外部目標が移動しているためにドップラー効果が生じ、その結果周波数のずれが生じている。したがって受信器16で生成されるビート信号は、送信波を放射してから受信波として戻ってくるまでの経過時間や外部目標の移動速度などの情報を含んだものとなっている。これらは後に周波数解析によって抽出されることになる。
【0037】
さらに受信器16は、ビート信号を以後の信号処理で処理可能とするためにA/D変換し、ディジタル信号による受信信号を信号処理器17に出力する。
【0038】
次に信号処理器17の動作について説明する。図5は信号処理器17の動作を示すフローチャートである。図のステップS101において、周波数分析器21は、受信信号に対して例えば高速フーリエ変換などを施してスペクトル分析し、周波数成分を抽出する。なお、周波数分析器21は、周波数成分とともに、周波数スペクトルがピークとなる受信信号の振幅をも出力する。続いてこれらのビート信号周波数成分と受信信号の振幅は、一定期間、少なくともアップフェーズとダウンフェーズの区間を一回ずつ経過するだけの期間、周波数記憶器22によって記憶される。そしてステップS102において、制御器10はアップフェーズとダウンフェーズの一つの対が経過すると、アップフェーズ・ダウンフェーズ連結器23に制御信号を送出することでアップフェーズ・ダウンフェーズ連結器23を活性化させる。その結果、アップフェーズ・ダウンフェーズ連結器23は、一組のアップフェーズとダウンフェーズからなる区間が経過した時点で、周波数記憶器22によって記憶されているアップフェーズのビート信号とダウンフェーズのビート億号との対を形成する。
【0039】
次にステップS103において、方位演算器25は、アップフェーズ・ダウンフェーズ連結器23により形成されたアップフェーズとダウンフェーズのビート信号の対の受信信号の振幅を周波数記憶器22から読み込むとともに、隣接するビーム間で受信信号の振幅の差(△値)と和(Σ値)を求め、その比(△/Σ値)を算出する。そして方位演算器25は、△/Σ値から目標の方向を算出する。この計算は次のように行われる。
【0040】
すなわち、隣接する2つのビームについての受信信号において、目標の方向に起因する誤差電圧とは、これら両ビームの受信信号の振幅の差(△)を振幅の和(Σ)で除した値で表される。すなわちと=△/Σの関係が成立する。そして、アンテナ13θaとすれば、目標の方向をθ0は
θ0=θa+ε (4)
で与えられる。方位演算器25は式(4)によって、△/Σ値からθ0を求める。
【0041】
方位演算器25の処理に続いて、あるいは、方位演算器25の動作と並行して、ステップS104において、相対距離・速度演算器24は、周波数記憶器22によって記憶されているアップフェーズのビート信号の周波数Uとダウンフェーズのビート信号の周披数Dとから、式(1)と式(2)を用いて、外部目標(車両104、105、106など)の相対速度と相対距離とを求める。そしてステップS105において、位置・速度演算器26は、方位演算器25が算出した方位と、相対距離・速度演算器24が算出した相対速度と相対距離から、目標の地表座標系における位置と速度とを算出する。
【0042】
(外部目標毎の追尾処理)
次にステップS106において、目標追尾フィルタ27が実行する追尾フィルタに観測値を供給する。目標追尾フィルタ27は、一定期間毎に観測値から平滑値を算出するループ演算を行っている。そこで、以下に目標追尾フィルタ27が実行する追尾フィルタについて説明する。
【0043】
図6は、目標追尾フィルタ27が実行する追尾フィルタを表すフローチャートである。なお、このフローチャートが表す追尾処理は、一つの外部目標のみを取り扱うものである。複数の外部目標が存在する場合は、各外部目標についてそれぞれ追尾処理が行われる。まず、この追尾処理に先立て、ステップS106で供給された観測値が既存の追尾処理を行っている外部目標のいずれかのものかどうかを判定し、どの外部目標のものでもない場合に、新たな外部目標が観測されたと判断し、新たな追尾処理を開始する。
【0044】
(初期処理)
まずステップS201において、追尾処理の初期処理としてS108で供給された観測値を平滑値とする。そして、定常処理のステップS206に進む。続いてステップS207に進み、次回サンプル時の到来を待機し、到来とともにステヅプS202に進む。ステップS202、S206、S207の処理については後述する。
【0045】
(定常処理)
ステップS202において、前回サンプル値の平滑値に基づいて今回サンプル値の予測値を算出する。k回目のサンカレを今回サンカレとして、x成分平滑値をxs(k)、y成分平滑値をyp(k)、速度成分平滑値をvs(k)、前回サンプル時(k−1回目のサンプル)からの経過時間をTとし、x成分にαフィルタ、y成分にα−βフィルタを適用するものとすると、x成分予測値xp(k)、y成分予測値yp(k)、速度成分予測値vp(k)は、例えば次式によって与えられる。
xp(k)=xs(k−1) (5)
yp(k)=ys(k−1)+vs(k−1)・T (6)
vp(k)=vs(k−1) (7)
【0046】
続いて、ステップS203において、ステップS106における位置・速度演算器26による新たな観測値の供給を受ける。ここで、一般にレーダ装置を通じて取得した観測値にはノイズが乗りやすいため、観測値そのものを入力データとして採用することはまれである。そこで、観測値そのものでなく、ノイズの影響を小さくした平滑値を算出して、レーダ装置からのデータを利用する他のシステムに供給することがフィルタの目的の一つとなや。フィルタはこのような目的を有しているので、得られた観測値を無条件に採用することはせず、相関処理と呼ばれる条件判定を行ってから観測値の採否を決定することが多い。このような条件判定演算が相関処理である。
【0047】
そして今回の観測値を受け入れるかどうかを決定する条件をゲートと呼んでおり、前回サンプルの平滑値と予測値、前回サンプルからの経過時間などに基づいて動的に決定されることが多い。
【0048】
レーダ装置2では、複数の車両を観測する場合に、それぞれの車両のゲートが重なってしまうと、各ゲート間で観洩雌の取り合いが発生し、本来の追尾処理ではない他の追尾処理の方に観測値が奪われてしまう。そこで、このような事態を避けるために、各外部目標間でゲートが重ならないようにしなければならない。
【0049】
ところがそうすると、ゲートが必要以上に狭くなり、本来追尾処理で拾わなければならない観測値を棄却してしまうことも発生してくる。そこでレーダ装置2では、外部目標ごとの追尾処理と同時に、外部目標同士が接近し、ゲートが重なってしまって、正しく相関処理が行えない場合に、クラスタを形成して対処することとしている。これについては後述する。
【0050】
ここでは、第1段階として観測値x0(k)、y0(k)、V0(k)が
|xs(k−1)−xo(k)|<dx (8)
|yp(k)−y0(k)|<dy (9)
|vs(k−1)−vo(k)|<dv (10)
を満たす場合に、観測値を採用し、さらに第1段階で相関が取れなかった車両について、さらにゲートを広げ、
|xs(k−1)−xo(k)|<dx’ (11)
|yp(k)−yo(k)l<dy’ (12)
|vs(k−1)−vo(k)|<dv’ (13)
を満たす場合に、観測値を採用することとする。なお、式(8)から式(13)までにおいて、dx、dy、dv、dx’,dy’、dv’は定数であり、dx’=dx+△dx、dy’=dy+△dy、dv’=dv+△dv(△dx、△dy、△dvはそれぞれ正の値をとる定数)の関係にある。
【0051】
次にステップS204において、今回のサンプル時の予測値と、相関処理によって得られた観測値とから、平滑値を算出する。ここで、平滑値を算出する上で、観測値が関与する度合いを決定する係数をゲインと呼ぶ。具体的には、例えばαxをx成分のゲイン、αyをy成分のゲインとして、x成分平滑値xs(k)、y成分平滑値yp(k)、速度成分平滑値vs(k)を次のように算出する。
xs=xp(k)+αx[xo(k)−xp(k)] (14)
ys=yp(k)+αy[yo(k)−yp(k)] (15)
vs(k)=vo(k) (16)
【0052】
ゲインの大きさによって、平滑値におけるノイズの影響の大小が決定される。ゲインを小さくすると、平滑値に対する観測値の寄与が小さくなるので、平滑値はノイズの影響を受けなくなる。しかしながら、平滑値は現実の値である観測値とは遊離したものとなる。その結果、例えば外部目標が予想外の動きをした場合に、平滑値は追従できなくなるという問題がある。
【0053】
一方、ゲインを大きくすると、外部目標の動きに対する平滑値の追徴性が向上する。SN比の高い測定環境であれば、ゲインをなるべく大きな値とした方が平滑値の精度も向上する。レーダ装置2の場合では、外部目標の間の相対的な位置関係によって、ゲインの大小を決定する必要がある。特に、ゲートが重なってしまい、観測値に信頼性がなくなった場合は、ゲインの大小のみではもはや追いつかなくなる。
【0054】
続いてステップS205において、予測値、観測値、平滑値のすべてが観測域内にあるかどうかを判定する。これらのすべてが観測域内にある場合は、追尾処理を維持することができるので、ステップS206に進む(ステップS205:Yes)。また予測値、観測値、平滑値のいずれかが観測域を逸脱した場合は、追尾処理を維持することができないので、追尾処理を終了する(ステップS205:No)。
【0055】
ステップS206では、ステップS204で算出した平滑値を追尾情報記憶器28に記憶させる。これらは次回サンプル時までに外部目標単位で記憶される。続いてステップS207において、次回サンプル時の到来を待機し、到来とともにステップS202から次回サンプルの処理を行う。以上が、目標追尾フィルタ27における追尾処理である。
【0056】
続いてS107において、クラスタ形成器29は、追尾情報記憶器28が記憶している追尾結果を読み出す。そして、外部目標(車両104、105、106など)の中から、それらの位置と速度などの運動諸元の予測値と平滑値などが所定の条件を満たすものを抽出し、この所定の条件を満た外部目標からクラスタを形成する。そこで、次にクラスタ形成処理の詳細を説明する。
【0057】
(クラスタ形成処理)
【0058】
ステップS303において、N番目の組み合わせの外部目標間の距離を算出する。ここでは距離値として、例えばユークリッド距離を用いる。しかし、その他にもシティブロック距離やマハラノビス距離を用いるようにしてもよい。
【0059】
ステップS304において、N番目の組み合わせにおける外部目標間の距離が所定の閾値以下か否かを判定する。外部目標間の距離が所定の閾値以下であれば、両外部目標は同一のクラスタに所属させることになる。この場合は、ステップS305に進む(ステップS304:Yes)。ここで、所定の閾値は定数としてもよいが、例えはTHを定数とし、目標追尾フィルタ27に各目標間の距離の予測値を算出させ、さらに各目標間の距離の予測値の分散ρpi(i番目の目標の分散)に基づいて、例えば式(17)を用いて閾値を算出するようにしてもよい。
【0060】
【数2】
【0061】
上式において、kはk回目のサンプルにおける閾値であることを示す。またMは目標の総数である。目標の位置の予測値の分散が大きい場合は、方向観測精度が悪いと考えられ、距離の予測値が大きくても、実際には目標が近接している場合も考えられる。そこで、式(17)のように閾値を決定することで、方向の観測精度が悪い場合にも、適切にクラスタの形成を行うことができる。
【0062】
また所定の閾値以下とはならない場合には、ステップS310に進むが(ステップS304:No)、この場合の処理については後述する。
【0063】
ステップS305において、N番目の組み合わせの外部目標がすでにいずれかのクラスタに属しているかどうかを判定する。一方の外部目標がいずれかのクラスタに属している場合は、他方の外部目標も同じクラスタに所属させる必要があるので、そのための処理を行う。この場合には、ステップS306に進む(ステップS305;Yes)。ステップS306では、さらに両方の外部目標ともクラスタに属していて、それらのクラスタが異なっているかどうかを判定する。異なっている場合には、ステップS307に進み(ステップ206)、ステップS307において両クラスタを1つのクラスタに併合する。距離値が一定値以下となる外部目標が、異なるクラスタに所属することは許されないからである。その後、ステップS310に進む。
【0064】
これに対して、一方の外部目標がまだクラスタに属していない場合、あるいは両方の外部目標が同じくラスタに属している場合は、ステップS308に進む(ステップS306:No)。ステップS308において、一方の外部目標がいずれのクラスタにも属していない場合は、その外部目標を他方の外部目標が所属するクラスタに所属させる。その後、ステップS310に進む。
【0065】
またステップS305において、両外部目標ともどのクラスタにもまだ属していない場合には、ステップS309に進む(ステップS305:No)。この場合には、ステップS309において、新たなクラスタを形成し、両方の外部目標をこの新しいクラスタに所属させる。その後ステップS310に進む。
【0066】
ステップS310において、カウンタ変数Nに1を加える。そしてステップS311において、Nが外部目標の組み合わせ総数以下かどうかを判定する。組み合わせ総数以下である場合には、ステップS303に戻り(ステップS311:Yes)、次の組み合わせについて、同様の処理を繰り返す。また、Nが組み合わせ総数以上である場合には、クラスタ形成処理を終了する。
【0067】
なお、以上説明したクラスタ形成処理では、距離に基づいて外部目標の分布を決定し、クラスタを形成したが、この他にも、外部目標の予測値の分散を表す予測誤差共分散行列に基づいて、上記の閾値を適応的に変化させてもよい。
【0068】
また、上記では、まだ一つもクラスタが形成されていない状態から、すべての外部目標をいずれかのクラスタに所属させることを仮定してクラスタを形成する方法を説明した。しかし、以前の観測値や平滑値に基づいてすでにクラスタが形成されている場合は、既存のクラスタを基礎として、変化分についてクラスタの構成を変えるようにしてもよい。
【0069】
また、たった一つの外部目標だけが所属するクラスタについては、クラスタの所属を解除するようにする。このような外部目標は他の外部目標と十分に離れているので、ステップS103において算出された方向の観測値の信頼性が高いと考えられるからである。
【0070】
次に、ステップS108において、クラスタ内目標追尾フィルタ30がクラスタ毎にクラスタ内の追尾処理を行う。そして、ステップS108において追尾情報記憶器28に記憶させた各外部目標の追尾処理結果をクラスタ内の追尾処理結果で上書きすることで記憶させる。このようにすることで、クラスタに属している外部目標の追尾結果については、クラスタ追尾フィルタの処理結果が採用されまたクラスタに属していない外部目標の追尾結果については、単体の追尾フィルタの処理結果が採用されることになる。
【0071】
クラスタ内追尾フィルタ30の処理は、目標追尾フィルタ27と比べて、ゲートの設定部分が異なっている。すなわち目標追尾フィルタ27のステップS203における相関処理の説明で述べたように、クラスタに所属するような目標は、他の目標とゲートが重なってしまっており、その結果、それぞれの航跡を分離して扱うことができない。
【0072】
そこでクラスタ内追尾フィルタ30が用いるゲートについて、次に説明する。図8は、クラスタ内に存在する2つの目標107と108のゲート(各目標単体の追尾処理で使用されるゲート)が重なっている様子を示す図である。矩形110(以降、ゲート110と呼ぶ)は目標107の単体追尾処理で使用するゲート領域を示すものである。また矩形111(以降、ゲート111と呼ぶ)は目標108の単体追尾処理で使用するゲート領域を示すものである。矩形112は、矩形110と矩形111の重なった領域である。
【0073】
矩形111に何らかの観測値が存在する場合、ゲート110によって相関させるべきか、ゲート111によって相関させるべきか判断することができない。そこでクラスタ内追尾フィルタ30は、目標107と108について図9に示すようなゲートを新たに設定する。図において、点113は目標107と108の中点である。また矩形114は目標107のゲートを示す領域であり(以後、ゲート114と呼ぶ)、矩形115は目標108のゲートを示す領域である(以後、ゲート115と呼ぶ)。図から明らかなように、ゲート110とゲート111が重なっていた領域を、中点113で分割することによって、両目標のゲートの大早さを調整し、観測値の取り合いを回避するようにしている。
【0074】
そこで、目標107のkサンプル目のx成分位置の平滑値をxs,107(k)、観測値をxo,107(k)、目標108のkサンプル目のx成分位置の平滑値をxs,108(k)、観測値をxo,108(k)のように表すこととすると、目標107のゲート110は次式(式(11))で与えられていた。
|xs,107(k−1)−xo,107(k)|<dx (18)
よって
xs,107(k−1)−dx<xo,107(k)<xs,107(k−1)+dx (19)
がゲート110であった。
【0075】
さらに目標108については、ゲート111は次式(式(12))で与えられていた。
xs,108(k−1)−dx<xo,108(k)<xs,108(k−1)+dx (20)
ここでxo,107(k)<xo,108(k)とした場合、ゲート114は、
xs,107(k−1)−dx<xo,107(k)<(xo,107(k)+xo,108(k))/2 (21)
また、ゲート115は、
(xo,107(k)+xo,108(k))/2<x0,108(k)<xs,108(k−1)+dx (22)
となる。
【0076】
上記において、目標が2個であるため、両者の中点でゲートを分割することとしたが、目標が3個以上の場合は、各目標から定められる重心で各ゲートを分割するようにすればよい。なお、以下において、重心という語は、各目標を頂点とする多角形を想定し、その重心となる点を指すものとする。
【0077】
また必ずしも中点や重心でゲートを分割する必要はなく、例えば図10に示すように中点や重心の周囲に一定の緩衝領域を設け、この領域をどのゲートにも含まないようにしてもよい。このようにすることで、方位演算器25でビームパターンと目標との位置関係から、目標の中点付近に発生することがある偽像をゲートに含まないようにすることができる。
【0078】
以上から明らかなように、この発明の実施の形態1のレーダ装置では、互いに近接した目標とそうでない目標とで異なるゲートを設定してそれぞれの追尾処理を行うようにした。これによって、これまでのレーダ装置の利点を生かしつつ、さらにこれまでのレーダ装置では計測が困難であった互いに近接した目標に対する計測の精度を改善することができる。
【0079】
なお、この発明の実施の形態1を具体的に説明するために、レーダ装置2を車載レーダ、特にFMCWレーダ装置として構成した。しかし、車載レーダ以外の用途においても、ビームパターン内に複数の目標が含まれる場合に、この発明を適用することができることはいうまでもない。またこの発明が特徴を奏するには、距離と速度、方向を取得できるレーダ方式であれば十分である。よってパルスドップラーレーダ装置など他のレーダ方式においてもこの発明を適用することができる。
【0080】
実施の形態2.
実施の形態1では、互いに近接する目標同士からクラスタを形成し、クラスタに所属する目標と所属しない目標とでは、異なるフィルタを設定することとした。さらに観測対象となる目標が互いに近接していて、さらに等速並行運動をする場合には、クラスタを一つの目標に見立てて追尾処理を行うようにしてもよい。この発明の実施の形態2によるレーダ装置は、このような特徴を有するものである。
【0081】
この発明の実施の形態2によるレーダ装置の全体構成は、実施の形態1と同様に図1、図2のブロック図によって示され、実施の形態1と同一の符号を付した構成要素は実施の形態1の相当部位と同様であるので、説明を省略する。また信号処理器17の詳細な構成は、図11のブロック図によって示される。
【0082】
図11において、クラスタパラメータ推定部31は、クラスタが一つの運動目標と見立てられる場合に、方位演算器25からクラスタの運動諸元を推定する部位である。クラスタ情報記憶部32はクラスタパラメータ推定部31が算出したクラスタの運動諸元を記憶する回路または素子、さらにはハードディスク装置などの記憶媒体を用いた機器によって構成されている。クラスタ解除部33は、各目標がクラスタを構成する条件を満たさなくなった場合に、そのクラスタを解除する部位である。その他、図3と同一の符号を付した構成要素については、実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0083】
次に、この発明の実施の形態2によるレーダ装置(図2におけるレーダ装置2)の動作について説明する。以下の説明においては、レーダ装置2の動作をより具体的に説明するために、図12に示すように、車両104、105、106が自動車1の前方を走行している状況を想定する。車両104、105、106は、それぞれ各車線に沿ってほぼ等速運動しているものとする。このような状況は、交差点や信号のない高速道路その他の自動車専用道路での走行時にはしばしば発生する。なおその他、図12において図4と同一の符号を付した構成要素については、図4と同様であるので説明を省略する。
【0084】
図12のような状況において、レーダ装置2は、実施の形態1と同様にVCO11が発生した基準信号に基づいてビームを照射し、その反射波をA/D変換して信号処理器17に受信信号を出力する。続いて信号処理器17が受信信号を信号処理する。図13はこの信号処理器17の信号処理を表すフローチャートである。図において、図5と同一の符号を付したステップの処理は実施の形態1と同様であるので、説明を省略する。
【0085】
そうするとステップS101からステップS109までは、実施の形態1と同じである。この結果、位置・速度演算部26が、各目標の観測値を算出し、さらに目標追尾フィルタ27は、各目標の追尾処理を行い、その結果となる平滑値を追尾情報記憶器28に記憶させる。そしてクラスタ形成器29は、クラスタの形成を行う。ここでは、例えば車両104と105が互いに十分に近接しているものとし、これらの車両に基づくクラスタの形成を行ったものとする。
【0086】
ステップS401において、クラスタが存在する場合、このクラスタを一つの目標と見立てて、追尾処理を行う。図14は、クラスタ内目標追尾フィルタ30が行う追尾処理のフローチャートである。図のステップS501において、クラスタパラメータ推定部31は、位置・速度演算器26が算出した外部目標の位置と速度から、クラスタのパラメータを推定する。ここで得られたクラスタのパラメータをクラスタパラメータの平滑値の初期値とする。クラスタパラメータ推定部31は、クラスタパラメータとしてクラスタの重心と、クラスタ内目標間の距離を用いることとし、次のようにしてこれらの値を算出する。
ここで、例としてN個の目標を含むクラスタを想定する。第q番目(q=1,2,・・・,N)の目標(TGTqと呼ぶ)の座標は(xq,yq)、速度はvqであるものとする。この場合、クラスタの重心座標(gx,gy)と重心速度gvは、式(23)と式(24)で与えられる。
【0087】
【数3】
【0088】
目標間の距離はスカラーではなく、x座標成分とy座標成分からなるベクトルで与えることとする。そうすると、目標TGTiと目標TGTjとの距離は、x座標成分をWxij、y座標成分をWyijとして、式(25)と式(26)で与えられる。
Wxij=xi−xj (25)
Wyij=yi−yj (26)
上記のような距離の定義方法の他に、重心gからのスカラー距離を距離値としてもよい。
【0089】
続いて、ステップS506に進み、クラスタパラメータ推定部31は、クラスタ情報記憶器32にクラスタパラメータを記憶させる。次にステップS507において、次回サンプル時の到来まで待機し、次回サンプル時の到来とともに定常処理としてステップS502からの処理に進む。
【0090】
(定常処理)
ステップS502において、クラスタ内目標追尾フィルタ30は、クラスタパラメータの予測値を算出する。重心のx成分座標の予測値gxp(k)、y成分座標の予測値gyp(k)、速度の予測値gvp(k)(kはkサンプル目の処理であることを示す)は、前回サンプルからの経過時間をT、重心のx成分座標の平滑値をgxs(k)、y成分座標の平滑値gys(k)、速度の平滑債をgvs(k)として、
gxp(k)=gxs(k−1) (27)
gyp(k)=gys(k−1)十gvs(k−1)・T (28)
gvp(k)=gVs(k−1) (29)
として与えられる。また、目標TGTiと目標TGTjとのx座標成分距離予測値をWpxij(k)、y座標成分距離予測値をWpyij(k)は、x座標成分距離平滑値をWsxij(k)、y座標成分距離平滑債をWsyij(k)、距離の時間変化率平滑値をrvs(k)とすれば、
Wpxij(k)=Wsxij(k−1) (30)
Wpyij(k)=Wsyij(k−1)+rvs(k−1)・T (31)
また、距離の時間変化率予測値rvp(k)は、
rvp(k)=gVs(k−1) (32)
与えられる。
【0091】
次に、ステップS503において、クラスタ内目標追尾フィルタ30は、相関処理を行い、観測値を取得する。相関処理では、複数目標間で各目標のゲートが重なっている場合、重心で分割して設定する。具体的には、実施の形態1で示した図9のゲート設定方法において目標107をTGTi、目標108をTGTj、中点113を中点ではなく重心と見立てて、設定された矩形114を目標TGTiに対するゲートとし、矩形115を目標TGTjに対するゲートとする。これらの数式表現は式(18)から式(22)までにおいて、すでに示しているので、ここでは省略する。
【0092】
続いてステップS504において、クラスタ内目標追尾フィルタ30は、クラスタパラメータの平滑値を算出する。重心のx成分座標の平滑値gxs(k)、y成分座標の平滑値gys(k)、速度の平滑値gvs(k)は、第q番目の目標のx成分座標の観測値をXoq、y成分座標の観測値をyoq、速度の観測値をvo、x成分のゲインをαx、y成分のゲインをαyとすれば、式(33)、式(34)、式(35)によって与えられる。
【0093】
【数4】
【0094】
なお、ゲインの設定方法としては、クラスタ内目標では、方位の観測精度が低下する可能性が高いことを考慮して、ゲインを通常より低く設定して観測精度の影響を抑止するようにする。また、クラスタ内の目標間の予測距離が小さい、すなわち目標の位置の予測値が密集しているほど、方位の観測精度が低下するものとして、ゲインが小さくなるように重み付けしてもよい。たとえば、Gを定数として、式(36)のように与えるようにする。
【0095】
【数5】
【0096】
また、予測値の分散が大きいほど、方位角観測精度がより劣化するので、ゲインが小さくなるように、式(36)と同様の重み付けをして設定してもよい。また予測値の分散と予測値間の距離の両方を考慮して重み付けを行って、ゲインを求めてもよい。
目標TGTiと目標TGTjとのx座標成分距離平滑値をWsxij(k)、y座標成分距離予測値をWpyij(k)は、x座標成分距離平滑値をWpxij(k)、y座標成分距離平滑値をWpyij(k)、距離の時間変化率平滑値をrvs(k)、x成分のゲインをAx、y成分のゲインをAyとすれば、
【0097】
【数6】
【0098】
また、距離の時間変化率予測値rvp(k)は、
rvp(k)=voi(k)−voj(k) (39)
で与えられる。
【0099】
次に、ステップS505において、クラスタ削除器33は、その時点においてクラスタを維持する条件が満たされているかどうかを判定する。判定方法としては、各目標間の距離が同値以内にあるかどうかを調べる。またクラスタパラメータの予測値、観測値、平滑値が観測域内にあるかどうかを判定するようにしてもよい。クラスタを維持する条件が満たされている場合には、ステップS506に進む(ステップS505:Yes)。以降の処理については後述する。クラスタを維持する条件が満たされていない場合は、これ以上追尾処理をすることができないので、処理を終了する(ステップS505:No)。
【0100】
ステップS506において、クラスタ内目標追尾フィルタ30は、クラスタパラメータ平滑値をクラスタ情報記憶器32に記憶させる。以後の処理は、初期処理の説明で述べたとおりであるので、説明を省略する。
【0101】
なお、上記の追尾処理において、予測値、平滑値の算出をx成分についてはαフィルタ、y成分についてはα−βフィルタを用いて行ったが、カルマンフィルタで行うようにしてもよい。
【0102】
以上から明らかなように、この発明の実施の形態2のレーダ装置によれば、互いに近接していて等速で並走している複数の目標からクラスタを形成し、そのクラスタを一つの目標と見立てて追尾処理をすることで、クラスタ内の目標の観測値の誤差の影響を排除して、精度の高い観測を行うことができる。
【0103】
なお、この発明の実施の形態2によるレーダ装置では、実施の形態1と同様に各目標についての追尾処理を行う目標追尾フィルタ27を備えることとしたが、この発明の実施の形態2によるレーダ装置は、クラスタ内目標追尾ラィルタ30がクラスタを一つの目標に見立てて追尾する点に特徴を有するものであるので、目標追尾フィルタ27の有無にかかわらず、発明の特徴を奏する。したがって目標追尾フィルタ27は必須の構成要素ではない。
【産業上の利用可能性】
【0104】
以上のように、この発明に係るレーダ装置は、互いに近接する複数の目標が方向を計測する用途、例えば車載レーダなどに有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の外部目標から到来する電波を受信波として受信するアンテナと、
前記アンテナが受信した受信波を受信信号に変換し、その受信信号の特徴量を抽出する信号検出器と、
前記信号検出器が抽出した受信信号の特徴量から、前記各外部目標の位置観測値と速度観軌値とを算出する位置・速度演算器と、
を備えたレーダ装置において、
前記位置・速度演算器が算出した位置観測値と速度観測値に対して、第1のゲートによる相関処理を施し、前記第1のゲートを満たす位置観測値と速度観測値から前記各外部目標の位置と速度との平滑値を算出する目標追尾フィルタと、
前記各外部目標の位置の平滑値に基づいて、前記外部目標同士が接近している場合に、前記外部目標が所属するクラスタを形成するクラスタ形成器と、
前記クラスタ形成器が形成したクラスタを一つの外部目標に見立てて、前記位置・速度演算器が算出した位置観測値と速度観測値とから、そのクラスタの特性を表すクラスタパラメータの平滑値を算出するクラスタ内目標追尾フィルタと、
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記クラスタ内目標追尾フィルタは、前記外部目標が2個ある場合に、前記クラスタパラメータの平滑値として、前記外部目標の位置の中点とその中点の速度と前記外部目標間の距離及び前記距離の時間変化率との平滑値を算出することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記クラスタ内目標追尾フィルタは、前記外部目標が3個以上ある場合に、前記クラスタパラメータの平滑値として、前記外部目標の位置を頂点とする多角形の重心とその重心の速度と前記外部目標間の距離及び前記距離の時間変化率との平滑値を算出することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記目標追尾フィルタは、前記外部目標間の距離の予測値をさらに算出し、
前記クラスタ形成器は、前記距離の予測値の分散を算出し、その分散に基づいて所定の開値を決定して、前記外部目標間の距離がこの閾値以下となる場合に、前記クラスタを形成することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記クラスタ内目標追尾フィルタは、前記平滑値の算出における観測値の寄与度を定めるゲインを、前記外部目標の位置を頂点とする多角形の重心からの距離に基づいて決定することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記アンテナは、連続的に周波数が上昇するアップフェーズと連続的に周波数が下降するダウンフェーズからなる基準信号を、複数の方向からなるビームパターンを有する送信波として前記外部目標に照射し、
前記信号検出器は、前記アップフェーズと前記ダウンフェーズとにおける受信信号と前記基準信号とのビート信号を生成し、
前記位置・速度演算器は、前記アップフェーズのビート信号と前記ダウンフェーズのビート信号から前記外部目標の相対速度と相対距離とを算出するとともに、隣接する前記ビームパターンにおける前記ビート信号の特徴量の差異から前記外部目標の方向を算出し、前記相対速度と相対距離及び方向から前記外部目標の位置観測値と速度観測値とを算出することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記レーダ装置は、自動車に搭載されることを特徴とする請求項6に記載のレーダ装置。
【請求項1】
複数の外部目標から到来する電波を受信波として受信するアンテナと、
前記アンテナが受信した受信波を受信信号に変換し、その受信信号の特徴量を抽出する信号検出器と、
前記信号検出器が抽出した受信信号の特徴量から、前記各外部目標の位置観測値と速度観軌値とを算出する位置・速度演算器と、
を備えたレーダ装置において、
前記位置・速度演算器が算出した位置観測値と速度観測値に対して、第1のゲートによる相関処理を施し、前記第1のゲートを満たす位置観測値と速度観測値から前記各外部目標の位置と速度との平滑値を算出する目標追尾フィルタと、
前記各外部目標の位置の平滑値に基づいて、前記外部目標同士が接近している場合に、前記外部目標が所属するクラスタを形成するクラスタ形成器と、
前記クラスタ形成器が形成したクラスタを一つの外部目標に見立てて、前記位置・速度演算器が算出した位置観測値と速度観測値とから、そのクラスタの特性を表すクラスタパラメータの平滑値を算出するクラスタ内目標追尾フィルタと、
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記クラスタ内目標追尾フィルタは、前記外部目標が2個ある場合に、前記クラスタパラメータの平滑値として、前記外部目標の位置の中点とその中点の速度と前記外部目標間の距離及び前記距離の時間変化率との平滑値を算出することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記クラスタ内目標追尾フィルタは、前記外部目標が3個以上ある場合に、前記クラスタパラメータの平滑値として、前記外部目標の位置を頂点とする多角形の重心とその重心の速度と前記外部目標間の距離及び前記距離の時間変化率との平滑値を算出することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記目標追尾フィルタは、前記外部目標間の距離の予測値をさらに算出し、
前記クラスタ形成器は、前記距離の予測値の分散を算出し、その分散に基づいて所定の開値を決定して、前記外部目標間の距離がこの閾値以下となる場合に、前記クラスタを形成することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記クラスタ内目標追尾フィルタは、前記平滑値の算出における観測値の寄与度を定めるゲインを、前記外部目標の位置を頂点とする多角形の重心からの距離に基づいて決定することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記アンテナは、連続的に周波数が上昇するアップフェーズと連続的に周波数が下降するダウンフェーズからなる基準信号を、複数の方向からなるビームパターンを有する送信波として前記外部目標に照射し、
前記信号検出器は、前記アップフェーズと前記ダウンフェーズとにおける受信信号と前記基準信号とのビート信号を生成し、
前記位置・速度演算器は、前記アップフェーズのビート信号と前記ダウンフェーズのビート信号から前記外部目標の相対速度と相対距離とを算出するとともに、隣接する前記ビームパターンにおける前記ビート信号の特徴量の差異から前記外部目標の方向を算出し、前記相対速度と相対距離及び方向から前記外部目標の位置観測値と速度観測値とを算出することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記レーダ装置は、自動車に搭載されることを特徴とする請求項6に記載のレーダ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−271086(P2009−271086A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188502(P2009−188502)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【分割の表示】特願2005−508921(P2005−508921)の分割
【原出願日】平成15年9月11日(2003.9.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【分割の表示】特願2005−508921(P2005−508921)の分割
【原出願日】平成15年9月11日(2003.9.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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