説明

レーダ装置

【課題】従来のビート周波数の対応付け方法では、目標の探知状況がアップチャープ時とダウンチャープ時で異なりビート周波数のピーク数が合わない場合においては、ビート周波数の対応付けが正確に行えない状況が発生する。
【解決手段】FMCW信号を送信する送信手段1と、受信信号と送信信号とからビート信号を生成する受信手段2と、ビート信号のビート周波数分布を求めるビート周波数生成手段3と、ビート周波数の追尾処理を行うアップチャープ用ビート周波数追尾手段4とダウンチャープ用ビート周波数追尾手段5と、ビート周波数時系列データから目標の距離及び距離変化率を算出するアップチャープ用目標検出手段6とダウンチャープ用目標検出手段7とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両、飛翔体等の移動体に装備され、これら移動体の衝突防止や一定距離追従走行等に使用されるレーダ装置であって、特にレーダ波の送受信により移動体の外部に存在する目標との距離や距離変化率(相対速度)を検出するレーダ装置(FMCWレーダ)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のレーダ装置では、図1のように三角波状の変調信号により周波数変調し、搬送波周波数が一定の周期で増減を繰り返す送信信号を、レーダ波として送信する。そして、目標により反射されたレーダ波を受信すると共に、受信信号を送信信号とミキシングすることによりビート信号を発生させている。そして、このビート信号の周波数(ビート周波数)を、送信信号の周波数が増加するアップチャープ時及び周波数が減少するダウンチャープ時の掃引区間毎に測定し、この測定したアップチャープ時のビート周波数fbu及びダウンチャープ時のビート周波数fbdから、式(1)、(2)を用いて、目標との距離Rや距離変化率Vを算出している。
【0003】
【数1】

【0004】
ここで、Bは送信信号の周波数変位幅、fは送信信号の中心周波数、Tはアップチャープもしくはダウンチャープの各掃引区間1周期の時間、cは光速度を表す。
【0005】
以上のように、従来のレーダ装置では、アップチャープ時のビート周波数fbuとダウンチャープ時のビート周波数fbdとの対応付けを行うことにより、目標の距離及び距離変化率を検出可能である。但し、アップチャープ、ダウンチャープ、それぞれで得られたビート周波数は同一目標のビート周波数だとしても周波数オフセットを生じている。また、複数目標が存在するような状況時には、目標からの受信信号が複数個得られ、これによりビート周波数が複数個発生するので、アップチャープ時のどのビート周波数がダウンチャープ時のどのビート周波数に対応するかの判定を行う必要がある。この対策としては、アップチャープ時及びダウンチャープ時に得られたビート周波数の対応付けにおいて、アップチャープの掃引周期毎に得られたビート周波数を昇順に並べ、かつダウンチャープの掃引周期毎に得られたビート周波数を昇順に並べ、両者の並びが保存されるようにアップチャープ時及びダウンチャープ時で得られたビート周波数の対応付けを行うことで複数目標環境に対応する方法がある(例えば、特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特許番号第2778864号「ミリ波レーダ距離速度測定装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような方法によるビート周波数の対応付けでは、アップチャープ時のビート周波数またはダウンチャープ時のビート周波数のいずれかにおいて、目標以外の不要信号成分によるビート周波数が存在する場合、すなわち目標の探知状況がアップチャープ時とダウンチャープ時で異なりビート周波数のピーク数が合わない場合においては、ビート周波数の対応付けが正確に行えない状況が発生する。
【0008】
この発明は係る課題を解決するためになされたものであり、アップチャープ時とダウンチャープ時とでビート周波数のピーク数が異なる場合においても目標の距離及び距離変化率を正確に算出することができるレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成する為に、この発明に係るレーダ装置は、周波数が一定の変調幅で周期的に増減する送信信号を発生し、該送信信号を空間に放射する送信手段と、目標に反射された送信信号を受信して受信信号を取得し、該受信信号と前記送信信号とを混合してビート信号を生成する受信手段と、送信信号の周波数が上昇するアップチャープ時のビート信号から第1のビート周波数分布を求め、該第1のビート周波数分布の周波数ピークを特定し、送信信号の周波数が下降するダウンチャープ時のビート信号から第2のビート周波数分布を求め、該第2のビート周波数分布の周波数ピークを特定するビート周波数生成手段と、複数個のアップチャープ期間に渡って前記第1のビート周波数分布の周波数ピークに対して追尾処理を行い、該追尾処理で相関の取れた周波数ピークから第1のビート周波数時系列データを生成するアップチャープ用ビート周波数追尾手段と、第1のビート周波数時系列データから目標の第1の距離及び距離変化率を算出するアップチャープ用目標検出手段と、複数個のダウンチャープ期間に渡って前記第2のビート周波数分布の周波数ピークに対して追尾処理を行い、該追尾処理で相関の取れた周波数ピークから第2のビート周波数時系列データを生成するダウンチャープ用ビート周波数追尾手段と、第2のビート周波数時系列データから目標の第2の距離及び距離変化率を算出するダウンチャープ用目標検出手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るレーダ装置によれば、アップチャープ時、及びダウンチャープ時で得たビート周波数に対して追尾処理を行うことにより、従来のFMCWレーダを用いたレーダ装置に比べてアップチャープ時のビート周波数とダウンチャープ時のビート周波数のペアリング精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態について、図を用いて説明する。
実施の形態1.
図2は、実施の形態1によるレーダ装置の構成を示すブロック図である。本実施の形態のレーダ装置は、送信手段1、受信手段2、ビート周波数生成手段3、アップチャープ用ビート周波数追尾手段4、ダウンチャープ用ビート周波数追尾手段5、アップチャープ用目標検出手段6、ダウンチャープ用目標検出手段7、同一目標判定手段8、及び目標情報抽出手段9を備えている。
【0012】
次に、動作を説明する。送信手段1は送信信号を発生し、該送信信号を空間に放射する。具体的には、三角波発生部11で三角波の周期信号を発生し、変調信号として送信器12に供給する。送信器12はこの変調信号に基づいて搬送波を周波数変調して送信信号を発生し、該送信信号を送信アンテナ13から送信する。送信信号の周波数は図1に示すように、周波数変位幅Bの範囲で、アップチャープもしくはダウンチャープの各掃引区間周期Tで変化する。
【0013】
受信手段2は送信手段1が送信した送信信号が目標によって反射された受信信号を受信し、該受信信号と送信器12が発生した送信信号とからビート信号を生成する。具体的には、受信アンテナ21により受信信号を受信し、受信器22は受信信号と送信器12が発生した送信信号とからビート信号を生成する。ビート信号はA/D変換器23によってディジタル信号に変換され、ビート周波数生成手段3に出力される。
【0014】
ビート周波数生成手段3は、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)などを用いて、掃引区間の周期毎にビート信号の周波数分析を行う。図3はアップチャープ時及びダウンチャープ時の1周期区間におけるビート信号の周波数分布の一例を示すものである。ビート周波数生成手段3は、ビート信号の周波数分布からアップチャープにおけるビート信号のピーク周波数U(t)iと、ダウンチャープにおけるビート信号のピーク周波数D(t)jを抽出する。ここでiまたはjはピークを識別する番号であり、tはビート周波数が得られた掃引時刻である。アップチャープ時にビート周波数生成手段3によって得られたビート信号のピーク周波数U(t)iはアップチャープ用ビート周波数追尾手段4に出力され、ダウンチャープ時にビート周波数生成手段3によって得られたビート信号のピーク周波数D(t)jはダウンチャープ用ビート周波数追尾手段5に出力される。
【0015】
アップチャープ用ビート周波数追尾手段4は、アップチャープにおけるビート信号のピーク周波数に対して追尾処理を実施する。図4は追尾処理の全体的な概念を説明する図である。図4は、掃引時刻t(k)に得られたピーク周波数が2つ、掃引時刻t(k+1)に得られたピーク周波数が2つであった場合、既存の仮検出目標の予測ビート周波数(図示していない)を用いて、仮目標を2つ(仮目標mと仮目標m+1)として、それぞれのピーク周波数を仮目標に対応づけした例である。ここで、ピーク周波数fum(k),fum(k+1)が仮目標mのピーク周波数と判定し、ピーク周波数fum+1(k),fum+1(k+1)が仮目標m+1のピーク周波数であると判定したことを示す。なお、関連付けしたピーク周波数に対して、既存の仮検出目標の予測ビート周波数を用いて、ビート周波数の真値を算出する処理も行われる。
【0016】
次に、アップチャープ用ビート周波数追尾手段4について説明する。まず、追尾処理における目標の運動モデルを説明する。式(3)で、時刻t(k)における仮目標m(m=1,2,・・・,M)のビート周波数ベクトルx(m)を定義し、その運動モデルを式(4)で定義する。なお、状態ベクトルxの上付添え字uはアップチャープであることを表す。ビート周波数ベクトルxはビート周波数ukとその時間変化量を成分に持つ。式(3)における上付き添え字Tはベクトルの転置を表す。Φkは式(5)で定義される時刻t(k)から時刻t(k+1)への状態遷移行列であり、目標の運動を等速直線運動と仮定する。ここで、Δtは掃引時刻t(k)とt(k+1)の差分時間を表す。また、wkは時刻t(k)における駆動雑音ベクトルであり、式(6)に示すように、平均値0、分散Qkを持つ。
【0017】
【数2】

【0018】
次に、追尾処理における観測モデルについて説明する。観測値の観測モデルを式(7)で定義する。ここで、zはビート周波数の観測値、Hは式(8)で定義する観測行列、νは式(9)に示すように平均値0、観測誤差分散Rkの観測雑音である。
【0019】
【数3】

【0020】
アップチャープ用ビート周波数追尾手段4は、ビート周波数生成手段3が出力するアップチャープ時におけるビート信号のピーク周波数(以下ビート周波数と記す)の観測値に対して追尾処理を行う。まず、相関部41でビート周波数生成手段3が出力した時刻t(k)でのアップチャープ時のビート周波数の観測値uが式(10)の不等式を満足するか判定する。式(10)でdは判定閾値、Sは式(11)で定義する仮目標mの残差分散である。また、式(11)でPk|k-1は予測誤差共分散行列であり、その計算は後述の予測部44で行う。uk|k-1は後述する予測部44で得た仮目標の時刻t(k)でのビート周波数の予測値であり、時刻t(k)でのビート周波数ベクトルの予測値x〜uk|k-1から式(12)で計算する。
【0021】
【数4】

【0022】
相関部41は、ビート周波数が式(10)の不等式を満足する仮目標が存在しない場合は、相関なしとみなす。そして、相関なしの場合は、初期化部42にて、そのビート周波数を新規の仮目標として登録する。登録の際は、式(13)、(14)に示すビート周波数ベクトルx(m)、及び平滑誤差共分散行列P(m)の初期値の形式を用いて、平滑値ベクトルと平滑誤差共分散行列を設定する。式(14)で、Rは観測誤差分散、νmaxはビート周波数変化量最大値である。また、ビート周波数に付与されている時刻も設定する。さらに新規の仮目標に対するトラック品質TQ値を式(15)に示すように0に設定する。また仮目標の総数Mを1増加させる。
【0023】
【数5】

【0024】
相関部41は、ビート周波数が式(10)の不等式を満足する仮目標が存在する場合は、相関ありとみなす。そして、相関ありの場合は、平滑部43にて、そのビート周波数を相関の取れた仮目標mの観測値のビート周波数とし、仮目標mの状態更新を式(16)〜(19)によって実施する。式(16)では、時刻t(k)での平滑値ベクトルx^k|kを、観測値のビート周波数u、状態ベクトルの予測値x〜uk|kを用いて計算する。また、平滑誤差共分散行列Pk|kを式(17)で計算する。また、ゲイン行列Kは式(18)で定義する。さらに仮目標mに対するトラック品質TQ値を1増加させる。このときTQ値が事前に設定した上限値TQmaxを超える場合はTQmaxで固定とする(式(19))。
【0025】
【数6】

【0026】
また、平滑部43は、相関のあるビート周波数が得られなかった登録済みの仮目標mに関しては、仮目標mの状態更新を式(20)〜(22)によって実施する。時刻t(k)での平滑ベクトルx^k|kを式(20)で、平滑誤差共分散行列Pk|kを式(21)で計算する。また、メモリトラックTQ値を1減少させる(式(22))。このときTQ値が事前に設定した下限値TQminを下回る場合はTQminで固定する。
【0027】
【数7】

【0028】
予測部44は、平滑部43で得られた、時刻t(k)に対応する平滑ベクトル、平滑誤差共分散行列、もしくは、初期化部42で設定した時刻t(k)に対応する平滑ベクトル、平滑誤差共分散行列を用いて、時刻t(k+1)に対応する予測ベクトルx〜uk+1|kと予測誤差共分散行列Puk+1|kを計算する(式(23)、(24))。なお、計算で用いる状態推移行列Φは、新たにビート周波数生成手段3によって供給されたビート周波数に付与された時刻t(k+1)との差Δt(=t(k+1)−t(k))を用いて、式(5)で計算する。
【0029】
【数8】

【0030】
予測部44で計算した平滑値ベクトル、平滑共分散行列は、前述した相関部41での時刻t(k+1)での相関処理で用いられる。以上説明した処理を掃引時刻毎に繰り返すことにより、仮目標に対する追尾処理が実行される。
【0031】
アップチャープ用目標検出手段6は、アップチャープ用ビート周波数追尾手段4によって得られた仮目標mと相関の取れたアップチャープ時のビート周波数の時系列データを入力し、アップチャープ用ビート周波数追尾手段4で追尾処理された仮目標に対して目標検出判定を実施する。さらに検出した目標の距離、距離変化率を算出する。
【0032】
アップチャープ用目標検出手段6では、まず仮目標m(m=1,2,・・・,M)のTQ値を逐次入力し、TQ値が事前に定めたTQthre(閾値)を超えた時点で、その仮目標について目標検出したと判断する。目標検出と判定された仮目標を検出目標と呼ぶ。アップチャープ用ビート周波数追尾手段4には、検出目標に対応する追尾処理結果である相関の取れたアップチャープ時のビート周波数の時系列データ、すなわち異なるサンプリング時刻におけるビート周波数の集まりが保持されている。任意のサンプリング時刻t(k)での仮目標mのアップチャープ時のビート周波数fub,k(m)と、目標との距離Ru(m)、及び目標の距離変化率Rドットu(m))との間には式(25)の関係がある。式(25)はサンプリング時刻t(k)毎に得られるが、目標との距離及び目標の距離変化率はサンプリング時刻毎に異なる為、目標との距離及び目標の距離変化率について複数個の式(25)を連立方程式として解くことができない。
【0033】
そこで、基準サンプリング時刻t0における目標の距離、距離変化率を式(26)で定義し、任意のサンプリング時刻tにおける目標の距離、距離変化率を式(27)でモデル化する。すると基準時刻t0と任意のサンプリング時刻tの時間差Δ(式(30))により状態遷移行列Ψkを式(29)のように定義し、式(28)により、任意の時刻におけるアップチャープ時のビート周波数を基準時刻における距離、距離変化率で表現する。式(26)〜式(30)を用いて、式(25)を書き換えれば、基準時刻における目標の距離、距離変化率についての連立方程式を得ることができ、これを解いて基準時刻における目標の距離、距離変化率を得ることができる。任意のサンプリング時刻における距離、距離変化率は基準時刻における目標の距離、距離変化率を用いて式(28)より計算できる。
【0034】
【数9】

【0035】
ダウンチャープ用ビート周波数追尾手段5は、ビート周波数生成手段3が出力するダウンチャープ時におけるビート信号のピーク周波数の観測値に対して、追尾処理を行う。ダウンチャープ用ビート周波数追尾手段5の構成は、アップチャープ用ビート周波数追尾手段4の構成と同様な構成であり、相関部51、初期化部52、平滑部53、予測部54とから構成される。これら各部で行う処理内容は、式(1)〜(24)で説明したアップチャープ用ビート周波数追尾手段4の各部での処理内容と同一であるので、詳細な説明は省略する。但し、各式のアップチャープを示す上付き添え字uは、ダウンチャープを示す上付き添え字dに置き換えて使用する。
【0036】
ダウンチャープ用目標検出手段7は、ダウンチャープ用ビート周波数追尾手段5によって得られた仮目標mと相関の取れたダウンチャープ時のビート周波数の時系列データを入力し、ダウンチャープ用ビート周波数追尾手段5で追尾処理された仮目標に対して目標検出判定、及び目標の距離、距離変化率の算出を実施する。具体的な処理内容は、アップチャープ用目標検出手段6での処理と同様であり、式(25)〜(30)に従うので詳細な説明は省略する。但し、各式でアップチャープを示す上付き添え字uは、ダウンチャープを示す上付き添え字dに置き換え、また式(25)の右辺第2項に負号が付く点が相違する。
【0037】
アップチャープ用目標検出手段6及びダウンチャープ用目標検出手段7において、算出する目標の距離、距離変化率の基準時刻tを同一時刻に合わせてあるものとする。これにより、アップチャープ用目標検出手段6及びダウンチャープ用目標検出手段7はそれぞれ同一基準時刻における目標の距離、距離変化率を算出できる。
【0038】
同一目標判定手段8は、アップチャープ用目標検出手段6、ダウンチャープ用目標検出手段7の出力を入力し、アップチャープ時の検出目標とダウンチャープ時の検出目標が同一の目標に対応するものか否かについて判定する。同一目標判定の基準は、アップチャープで得た目標mの距離及び距離変化率とダウンチャープで得た目標nの距離及び距離変化率の差が一定範囲内であれば目標mと目標nを同一目標と判定する(検出目標のペアリングを行う)ことである。具体的には、例えば式(31)、(32)が同時に成立する場合、または式(33)の不等式を満足する場合に同一目標と判定する。なお、式(31)、(32)でのΔR、ΔRドットはそれぞれ距離及び距離変化率の判定閾値である。また、式(33)でのσR、σドットは、それぞれ距離の推定精度、距離変化率の推定精度であり、式(11)の予測誤差共分散行列Pk|k-1を式(17)の平滑誤差共分散行列Pk|kに置き換えることで得られる。また、式(33)でのΔは判定閾値である。
【0039】
【数10】

【0040】
目標情報抽出手段9では目標情報の抽出を行う。単純ペア選択部91は、同一目標判定手段8が同一目標と判定した組み合わせが複数存在する場合に、式(31)、(32)または式(33)の左辺の評価値が最小となる組み合わせを優先して選択する。
【0041】
目標情報算出部92では、単純ペア選択部91が選択したアップチャープとダウンチャープの距離及び距離変化率の組み合わせを入力し、これらに基づいて目標情報を生成し、出力する。目標情報の生成方法としては、例えば、アップチャープまたはダウンチャープいずれかの距離、距離変化率のうち、式(17)の平滑誤差共分散行列の容積が最小となるものを目標情報として選択する。または、式(34)、(35)のように同一目標と判定されたアップチャープ、ダウンチャープ毎の距離、距離変化率を式(17)の平滑誤差共分散行列で重み付け統合したものを目標情報として算出してもよい。
【0042】
【数11】

【0043】
なお、以上の説明ではビート周波数を用いた追尾手段を示したが、目標が存在する方向の角度や目標からの反射波の信号電力が利用できる場合には、これらの情報も併用して状態ベクトルに追加し、機能拡張することが可能である。
【0044】
以上のように実施の形態1によるレーダ装置によれば、アップチャープで得たビート周波数の追尾処理、及びダウンチャープで得たビート周波数の追尾処理をそれぞれ個別に行うようにしたので、目標に対して高い追尾精度を実現することができる。
そして、追尾処理が完了した後にアップチャープで検出した目標とダウンチャープで検出した目標のペアリングを行っているので、アップチャープとダウンチャープのペアを取る際に、誤ったペアを作成してしまう可能性を低くできる。
また、目標情報の生成において、アップチャープ、ダウンチャープ毎に得た目標の距離、距離変化率を重み付け統合し、統合後の距離、距離変化率を目標情報とするようにしたので、目標情報の精度を高めることができる。
【0045】
実施の形態2.
実施の形態2によるレーダ装置は、複数個の目標に対して同時にそれぞれの目標の距離及び距離変化率を算出することができるものである。図5は、実施の形態2によるレーダ装置の構成を示すブロック図である。図5において、図2に示す構成と同一である部分には、同一符号を付している。同一目標判定手段8bはその処理内容が実施の形態1における同一目標判定手段8とは異なっているので、後述する。また、目標情報抽出手段9b内のグローバル型ペア選択部93は実施の形態1における単純ペア選択部91の代わりに追加したものである。その他の部分は実施の形態1と同一構成であるので説明を省略する。
【0046】
同一目標判定手段8bでの同一目標の判定は、アップチャープで得た目標mの距離及び距離変化率とダウンチャープで得た目標nの距離及び距離変化率の差が一定範囲内、即ち、式(36)を満たす時に、目標mと目標nの組み合わせ(ペア)は同一目標であると判断する。ここで、式(36)のσR、σドットはそれぞれ距離の推定精度、距離変化率の推定精度であり、実施の形態1で用いた式(33)での値と同じものであり、アップチャープ用ビート周波数追尾手段4またはダウンチャープ用ビート周波数追尾手段5で計算した平滑誤差共分散行列より定める。また、パラメータdは自由度2のカイ二乗判定表より定められる値である。具体的には、相関範囲内に目標が存在する確率を設定して、自由度2のカイ二乗判定表より、その相関範囲を決めるパラメータdを定めればよい。
【0047】
なお、実施の形態1で述べたように、式(36)を満たすペアが複数存在し、割り当て重複が発生する可能性もある。そこで、このような多目標環境に対応した処理を行うため、同一目標判定手段8bは相関行列Ω(X)を式(37)のように作成する。相関行列Ω(X)におけるWi,j成分は、アップチャープの検出目標番号iの検出目標とダウンチャープの検出目標番号jの検出目標が式(36)を満足するペアの組み合わせであるときに、Wi,j=1と設定し、式(36)を満足しない時は、Wi,j=0と設定する。
【0048】
目標情報抽出手段9bは、同一目標判定手段8bで生成した相関行列Ω(X)を入力し、同一目標判定手段8bが同一目標であると判定したペアから最適な組み合わせを選択する。例えば、アップチャープ、ダウンチャープ共に2つの目標が存在し、同一目標判定手段8bによる式(36)に基づいた判定の結果、式(38)の相関行列Ω(X)が生成されたものとする。式(38)から許容されるアップチャープ、ダウンチャープにおける検出目標の組み合わせとしては、式(39)の3つの行列で表現される組み合わせが想定される。これらの各行列はそれぞれ下記に示す3通りの仮説を表している。
仮説1:「アップチャープの検出目標1とダウンチャープの検出目標1」かつ
「アップチャープの検出目標2とダウンチャープの検出目標2」
仮説2:「アップチャープの検出目標1とダウンチャープの検出目標1」
仮説3:「アップチャープの検出目標2とダウンチャープの検出目標2」
【0049】
目標情報抽出手段9bにおけるグローバル型ペア選択部93は、式(39)で表される個々の仮説の中から、式(36)の左辺の値の和が最小となる仮説を最良の仮説として選択する。即ち、仮説1については、「アップチャープの検出目標1とダウンチャープの検出目標1」についての式(36)の左辺の値と、「アップチャープの検出目標2とダウンチャープの検出目標2」についての式(36)の左辺の値の和を仮説1の評価値とし、仮説2については、「アップチャープの検出目標1とダウンチャープの検出目標1」についての式(36)の左辺の値を仮説2の評価値とし、仮説3については、「アップチャープの検出目標2とダウンチャープの検出目標2」についての式(36)の左辺の値を仮説3の評価値とし、仮説1〜3の評価値の中で最小値をとる仮説を最良の仮説として選択する。
【0050】
【数12】

【0051】
目標情報算出部92bは実施の形態1での目標情報算出部92と同様に、グローバル型ペア選択部93が選択したアップチャープとダウンチャープの距離及び距離変化率の組み合わせを入力し、これらに基づいて目標情報を生成し、出力する。
【0052】
なお、前記の説明では、目標が2個の場合を例に説明したが、一般にn個(n>2)の目標に対しても拡張して適用できることは言うまでもない。
【0053】
以上のように実施の形態2によるレーダ装置によれば、同一目標判定手段において、アップチャープ、ダウンチャープ毎に得た目標の距離、距離変化率からカイ二乗検定により同一目標を判定するようにしたので、目標検出精度をさらに高めることができる。
また、同一目標判定において、多目標環境における組み合わせを考慮して仮設を立てて同一目標判定を行うことにより、多目標環境における目標検出精度を高めることができる。
【0054】
実施の形態3.
実施の形態3によるレーダ装置は、実施の形態1におけるレーダ装置におけるアップチャープ用目標検出手段6及びダウンチャープ用目標検出手段7での処理内容を変更したものである。図6は、実施の形態3によるレーダ装置の構成を示すブロック図である。図6において、図2に示す構成と同一である部分には、同一符号を付している。本実施の形態でのアップチャープ用目標検出手段は、実施の形態1でのアップチャープ用目標検出手段が目標の距離、距離変化率を算出するのに対して、目標の状態ベクトルを算出することを特長としている。以下、図6に基づいてアップチャープ用目標検出手段での処理について説明する。
【0055】
アップチャープ用目標検出手段6cは仮目標m(m=1,2,…,M)のTQ値を入力し、TQ値が事前に定めたTQthre(閾値)を超えた場合に目標検出と判断する。目標検出と判定された仮目標を検出目標と呼ぶ。アップチャープ用ビート周波数追尾手段4には、検出目標に対応する追尾処理結果である相関の取れたアップチャープ時のビート周波数の時系列データ、すなわち異なるサンプリング時刻におけるビート周波数の集まりが保持されている。この時、任意の時刻におけるアップチャープ時のビート周波数は式(40)で記述される。式(40)は式(25)と同一の式であり、式(40)の左辺はサンプリング時刻k(k=1,2,…,K)におけるアップチャープ時のビート周波数を表しており、mは目標番号を表す。また右辺第1項のRはサンプリング時刻kにおける目標番号mの距離、第2項のRドットはサンプリング時刻kにおける目標番号mの距離変化率を表す。実施の形態1の場合と同様に、式(40)においてサンプリング時刻毎に目標の距離、距離変化率が異なるため、このままでは複数個の式(40)を連立方程式として解くことができない。
【0056】
そこで本実施の形態では、基準サンプリング時刻tにおける目標の状態ベクトルxを式(41)のように定義し、任意のサンプリング時刻tkにおける目標の状態ベクトルxを式(42)のようにモデル化する。ここで、x,yは目標のx座標成分、yは目標のy座標成分を表し、xドット,yドットは目標の速度のx座標成分、目標の速度のy座標成分を表す。また、基準時刻tと任意のサンプリング時刻tkの時間差Δ(式(45))により状態遷移行列Ψを式(44)のように定義する。式(44)でI2x2、O2x2はそれぞれ2行2列の単位行列及び零行列である。そして、この状態遷移行列を用いて、時刻tkにおける目標の状態ベクトルと時刻tにおける目標の状態ベクトルが式(43)の関係を満たすものとする。従って、目標が時間差Δの間等速直線運動すると仮定したことになる。一方、任意の時刻における目標の距離、距離変化率と目標の状態ベクトルは式(46)、式(47)の関係を満たす。式(41)〜式(47)を用いて、式(40)を書き換えれば、基準時刻における目標の状態ベクトルについての連立方程式を得ることができ、これを解いて基準時刻における目標の状態ベクトルが算出できる。任意のサンプリング時刻における目標の状態ベクトルは算出した基準時刻における目標の状態ベクトルを用いて、式(43)で計算できる。
【0057】
【数13】

【0058】
ダウンチャープ用目標検出手段7cについても、ダウンチャープ用ビート周波数追尾手段5によって得られた仮目標と相関の取れたダウンチャープ時のビート周波数の時系列データを入力し、アップチャープ用目標検出手段6での処理と同様な手順で基準時刻における目標の状態ベクトルを算出する。但し、式(40)〜式(47)で各変数の上付き添え字uをdに変更し、式(40)の右辺第2項の符号を負号(−)に変更したものを使用する必要があるが、その他の手順は同一なので詳細な説明は省略する。
【0059】
同一目標判定手段8cは、アップチャープ用目標検出手段6c、ダウンチャープ用目標検出手段7cの出力を入力し、アップチャープ時の検出目標とダウンチャープ時の検出目標の同一判定を実施する。同一目標判定の基準としては、アップチャープで得た目標mの状態ベクトルとダウンチャープで得た目標nの状態ベクトルが一定範囲内であれば同一目標と判定する。例えば、目標m及び目標nの状態ベクトルが式(48)〜式(51)を同時に満たす場合、又は式(52)を満たす場合に同一目標と判定する。なお、式(48)〜式(51)で、Δx、Δyはそれぞれx方向の位置閾値、y方向の位置閾値であり、Δxドット、Δyドットはそれぞれx方向の速度閾値、y方向の速度閾値である。また、式(52)でσ、σはそれぞれx方向の位置推定精度、y方向の位置推定精度、σドット、σドットはそれぞれx方向の速度推定精度、y方向の速度推定精度、Δは判定閾値である。
【0060】
目標情報抽出手段9cの単純ペア選択部91cは、同一目標判定手段8cにおいて1つの検出目標について式(48)〜(51)を同時に満足した組み合わせ、または式(52)を満足した組み合わせが複数存在する場合に、式(48)〜(51)または式(52)の左辺の評価値が最小となる組み合わせを優先するように選択する。
【0061】
【数14】

【0062】
目標情報算出部92cでは、単純ペア選択部91cによって得たアップチャープとダウンチャープの目標の状態ベクトルを式(46)、(47)を用いて距離及び距離変化率へ変換し、これらの距離及び距離変化率を用いて目標情報を生成し、出力する。目標情報の生成方法としては、実施の形態1での目標情報算出部92と同様に、例えば、アップチャープまたはダウンチャープいずれかの距離、距離変化率のうち、式(17)の平滑誤差共分散行列の容積が最小となるものを目標情報として選択すればよい。
【0063】
なお、上記の説明では目標の運動を2次元運動として表現し、状態ベクトルをx,y座標成分で構成したが、目標の運動を3次元運動とみなして状態ベクトルをx,y,z座標成分で構成するように拡張することは容易である。
【0064】
以上のように実施の形態3によるレーダ装置によれば、アップチャープ、ダウンチャープで得たビート周波数の追尾処理により目標判定を実施し、ビート周波数の時系列データから目標の状態ベクトルを算出し、これらの状態ベクトルから同一目標を判定するようにしたので、距離、距離変化率で追尾処理を行った場合よりも、ビート周波数の時系列データの時間間隔が大きい場合における目標検出精度を高めることができる。
【0065】
実施の形態4.
実施の形態4によるレーダ装置は、実施の形態1におけるレーダ装置に信号切替器を追加することによりアップチャープ用ビート周波数追尾手段とダウンチャープ用ビート周波数追尾手段のいずれか一方のみでの動作が可能なようにした点に特長がある。図7は、実施の形態4によるレーダ装置の構成を示すブロック図である。図7において、図2に示す構成と同一である部分には、同一符号を付し、説明を省略する。なお、実施の形態1で用いていた同一目標判定手段8、目標情報抽出手段9は使用しない。以下、図7に基づいてレーダ装置の動作を説明する。
【0066】
送信手段1内のノコギリ波発生部11dは、ノコギリ波の周期信号を発生し、変調信号として送信器12に供給する。ノコギリ波の波形には単調増加を繰り返すタイプと、単調減少を繰り返すタイプがあり、ノコギリ波発生部11dは図示しない制御部からの指示に基づいていずれかのタイプのノコギリ波を発生する。ここでは、単調増加型のノコギリ波を使用する動作モードをアップチャープモードとし、単調減少型のノコギリ波を使用する動作モードをダウンチャープモードと定義する。
【0067】
送信器12はノコギリ波の変調信号で搬送波を周波数変調して送信信号を生成する。この送信信号は送信アンテナ13から送信される。図8はアップチャープモード時の送信信号が、周波数変位幅Bの範囲で、各掃引区間周期Tに亘って単調増加で変化することを示している。ダウンチャープモード時の送信信号の周波数変化も同様に描くことができる。
【0068】
受信手段2とビート周波数生成手段3は実施の形態1と同様に、アンテナ21が受信した受信信号と、送信手段が発生した送信信号とからビート周波数を生成する。信号切替器10は前述の制御部(不図示)からの指示に基づき、アップチャープモード時にはビート周波数生成手段3の出力信号がアップチャープ用ビート周波数追尾手段4に入力されるように信号経路を設定し、ダウンチャープモード時にはビート周波数生成手段3の出力信号がダウンチャープ用ビート周波数追尾手段5に入力されるように信号経路を設定するものである。
【0069】
いま、レーダ装置がアップチャープモードで動作しているものとすると、ビート周波数生成手段3が生成したアップチャープ時のビート周波数はアップチャープ用ビート周波数追尾手段4に入力される。そして、アップチャープ用ビート周波数追尾手段4は実施の形態1で述べた手順で追尾処理を実行することにより、仮目標と相関の取れたアップチャープ時のビート周波数の時系列データを出力する。アップチャープ用目標検出手段6dは実施の形態1で述べたアップチャープ用目標検出手段6と同様の手順でビート周波数の時系列データに基づいて目標の距離、距離変化率を算出した後、アップチャープ時の目標情報として出力する。
【0070】
レーダ装置がダウンチャープモードで動作している場合は、ビート周波数生成手段3が生成したダウンチャープ時のビート周波数はダウンチャープ用ビート周波数追尾手段5に入力され、ダウンチャープ用ビート周波数追尾手段5は追尾処理により、仮目標と相関の取れたダウンチャープ時のビート周波数の時系列データを出力する。ダウンチャープ用目標検出手段7dは実施の形態1で述べたダウンチャープ用目標検出手段7と同様の手順でビート周波数の時系列データに基づいて目標の距離、距離変化率を算出した後、ダウンチャープ時の目標情報として出力する。
【0071】
以上のように実施の形態4によるレーダ装置によれば、信号切替器によりレーダ装置内部の信号経路を切り換えるようにするとともに、アップチャープ用目標検出手段及びダウンチャープ用目標検出手段での算出結果をそれぞれ個別に出力可能にしたので、アップチャープ時のみ、もしくはダウンチャープ時のみのビート周波数が観測される場合でも目標の距離、距離変化率を検出することが可能である。また、同一目標判定及びアップチャープもしくはダウンチャープいずれかの追尾処理を実施することなく、目標の情報を得ることができるので演算時間の縮小が可能である。また、ビート周波数追尾手段と目標検出手段は、アップチャープ用、ダウンチャープ用それぞれ別に備えているので、動作モードを切り換えてもアップチャープ用、ダウンチャープ用それぞれの観測データは個別に保持される。従って、モードに切り替え時に初期化部42もしくは初期化部52を初期化せずに過去の観測データを活用して追尾処理を継続することもできる。
【0072】
なお、実施の形態3によるレーダ装置に対しても同様の信号切替器を導入することにより、アップチャープ時の目標情報とダウンチャープ時の目標情報を個別に出力するように構成することも可能である。
【0073】
実施の形態5.
実施の形態5によるレーダ装置は、実施の形態4によるレーダ装置からビート周波数追尾手段と目標検出手段を1組分削除し、残った1組のビート周波数追尾手段と目標検出手段をアップチャープ用及びダウンチャープ用として兼用するようにしたものである。図9は、実施の形態5によるレーダ装置の構成を示すブロック図である。図9において、図7に示す構成と同一である部分には、同一符号を付し、説明を省略する。
【0074】
送信手段1、受信手段2、ビート周波数生成手段3の動作は実施の形態4の時と同じである。レーダ装置がアップチャープモードで動作時には、ビート周波数生成手段3からはアップチャープ時のビート周波数のみが出力される。ビート周波数追尾手段4eはアップチャープ用ビート周波数追尾手段4と同一の内部構成を持ち、ビート周波数生成手段3から入力したビート周波数に基づいて追尾処理を実行し、仮目標と相関の取れたビート周波数の時系列データを出力する。目標検出手段6eはアップチャープ用目標検出手段6dと同一機能を持ち、ビート周波数の時系列データに基づいて目標の距離、距離変化率を算出した後、アップチャープ時の目標情報として出力する。
【0075】
レーダ装置がダウンチャープモードで動作時には、ビート周波数生成手段3からはダウンチャープ時のビート周波数のみが出力される。ビート周波数追尾手段4eはビート周波数生成手段3から入力したビート周波数に基づいて追尾処理を実行し、仮目標と相関の取れたビート周波数の時系列データを出力する。目標検出手段6eはビート周波数の時系列データに基づいて目標の距離、距離変化率を算出した後、ダウンチャープ時の目標情報として出力する。
【0076】
実施の形態5によるレーダ装置ではアップチャープモードとダウンチャープモード間でモード切り替えをした場合、モード切り替え時にビート周波数追尾手段4eの初期化部42eが初期化される。この為、実施の形態4におけるレーダ装置のように、モード切替時に過去のデータを活用して追尾処理を継続することはできない。しかしながら、ビート周波数追尾手段と目標検出手段を1組しか有しないので、レーダ装置の構成が簡易化でき、装コストの低下が図れる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】レーダ装置が送受する送信信号と受信信号の搬送波周波数の変化、及びビート信号のビート周波数の変化を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1によるレーダ装置の構成を示す図である。
【図3】ビート信号の信号強度を示す図である。
【図4】目標に対する追尾動作の説明図である。
【図5】本発明の実施の形態2によるレーダ装置の構成を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態3によるレーダ装置の構成を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態4によるレーダ装置の構成を示す図である。
【図8】ビート信号の信号強度を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態5によるレーダ装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0078】
1:送信手段、2:受信手段、3:ビート周波数生成手段、4:アップチャープ用ビート周波数追尾手段、5:ダウンチャープ用ビート周波数追尾手段、6:アップチャープ用目標検出手段、7:ダウンチャープ用目標検出手段、8:同一目標判定手段、9:目標情報抽出手段、10:信号切替器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数が一定の変調幅で周期的に増減する送信信号を発生し、該送信信号を空間に放射する送信手段と、
目標に反射された前記送信信号を受信して受信信号を取得し、該受信信号と前記送信信号とを混合してビート信号を生成する受信手段と、
前記送信信号の周波数が上昇するアップチャープ時の前記ビート信号から第1のビート周波数分布を求め、該第1のビート周波数分布の周波数ピークを特定し、前記送信信号の周波数が下降するダウンチャープ時の前記ビート信号から第2のビート周波数分布を求め、該第2のビート周波数分布の周波数ピークを特定するビート周波数生成手段と、
複数個のアップチャープ期間に渡って前記第1のビート周波数分布の周波数ピークに対して追尾処理を行い、該追尾処理で相関の取れた前記周波数ピークから第1のビート周波数時系列データを生成するアップチャープ用ビート周波数追尾手段と、
前記第1のビート周波数時系列データから前記目標の第1の距離及び距離変化率を算出するアップチャープ用目標検出手段と、
複数個のダウンチャープ期間に渡って前記第2のビート周波数分布の周波数ピークに対して追尾処理を行い、該追尾処理で相関の取れた前記周波数ピークから第2のビート周波数時系列データを生成するダウンチャープ用ビート周波数追尾手段と、
前記第2のビート周波数時系列データから前記目標の第2の距離及び距離変化率を算出するダウンチャープ用目標検出手段とを備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
アップチャープ用目標検出手段が算出した第1の距離及び距離変化率と、ダウンチャープ用目標検出手段が算出した第2の距離及び距離変化率とが同一の目標に対応するものか否かを判定する同一目標判定手段を備えたことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
同一目標判定手段で同一の目標に対応すると判定された第1の距離及び距離変化率と第2の距離及び距離変化率とから前記目標の距離及び距離変化率を算出し、目標情報として出力する目標情報抽出手段を備えたことを特徴とする請求項2記載のレーダ装置。
【請求項4】
目標情報抽出手段は、同一目標判定手段で同一の目標に対応すると判定された第1の距離及び距離変化率と第2の距離及び距離変化率の組み合わせが複数存在する場合は、複数の組み合わせの中からいずれか1つの組み合わせを選択し、該選択した組み合わせに基づいて目標情報を出力することを特徴とする請求項3記載のレーダ装置。
【請求項5】
目標情報抽出手段は、同一の目標に対応すると判定された第1の距離及び距離変化率と第2の距離及び距離変化率を重み付け統合し、統合して得られた距離、距離変化率を目標情報として出力することを特徴とする請求項3又は4記載のレーダ装置。
【請求項6】
目標情報抽出手段は、同一の目標に対応すると判定された第1の距離及び距離変化率と第2の距離及び距離変化率に対して、前記第1もしくは第2の距離及び距離変化率のいずれか一方の距離及び距離変化率を目標情報として出力することを特徴とする請求項3又は4記載のレーダ装置。
【請求項7】
同一目標判定手段は、第1の距離及び距離変化率と第2の距離及び距離変化率とが同一の目標に対応するものか否かをカイ二乗検定により判定することを特徴とする請求項2ないし6記載のレーダ装置。
【請求項8】
同一目標判定手段は、複数個の第1の距離及び距離変化率と複数個の第2の距離及び距離変化率について同一目標に対応する対応可能性を表す相関行列を生成し、
目標情報抽出手段は前記相関行列に基づいて同一目標に対応する前記第1の距離及び距離変化率と前記第2の距離及び距離変化率を決定し、この決定に基づいて目標情報を出力することを特徴とする請求項2ないし6記載のレーダ装置。
【請求項9】
周波数が一定の変調幅で周期的に増減する送信信号を発生し、該送信信号を空間に放射する送信手段と、
目標に反射された前記送信信号を受信して受信信号を取得し、該受信信号と前記送信信号とを混合してビート信号を生成する受信手段と、
前記送信信号の周波数が上昇するアップチャープ時の前記ビート信号から第1のビート周波数分布を求め、該第1のビート周波数分布の周波数ピークを特定し、前記送信信号の周波数が下降するダウンチャープ時の前記ビート信号から第2のビート周波数分布を求め、該第2のビート周波数分布の周波数ピークを特定するビート周波数生成手段と、
複数個のアップチャープ期間に渡って前記第1のビート周波数分布の周波数ピークに対して追尾処理を行い、該追尾処理で相関の取れた前記周波数ピークから第1のビート周波数時系列データを生成するアップチャープ用ビート周波数追尾手段と、
前記第1のビート周波数時系列データから前記目標の第1の状態ベクトルを算出するアップチャープ用目標検出手段と、
複数個のダウンチャープ期間に渡って前記第2のビート周波数分布の周波数ピークに対して追尾処理を行い、該追尾処理で相関の取れた前記周波数ピークから第2のビート周波数時系列データを生成するダウンチャープ用ビート周波数追尾手段と、
前記第2のビート周波数時系列データから前記目標の第2の状態ベクトルを算出するダウンチャープ用目標検出手段とを備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項10】
アップチャープ用目標検出手段が算出した第1の状態ベクトルと、ダウンチャープ用目標検出手段が算出した第2の状態ベクトルとが同一の目標に対応するものか否かを判定する同一目標判定手段を備えたことを特徴とする請求項9記載のレーダ装置。
【請求項11】
同一目標判定手段で同一の目標に対応すると判定された第1の状態ベクトルと第2の状態ベクトルとから前記目標の距離及び距離変化率を算出し、目標情報として出力する目標情報抽出手段を備えたことを特徴とする請求項10記載のレーダ装置。
【請求項12】
ビート周波数生成手段が生成したビート信号をアップチャープ用ビート周波数追尾手段若しくはダウンチャープ用ビート周波数追尾手段のいずれか一方に出力するように信号経路を設定する信号切替器を備えたことを特徴とする請求項1又は9記載のレーダ装置。
【請求項13】
周波数が一定の変調幅で周期的に増減する送信信号を発生し、該送信信号を空間に放射する送信手段と、
目標に反射された前記送信信号を受信して受信信号を取得し、該受信信号と前記送信信号とを混合してビート信号を生成する受信手段と、
前記送信信号の周波数が上昇するアップチャープ時若しくは前記送信信号の周波数が下降するダウンチャープ時の前記ビート信号からビート周波数分布を求め、該ビート周波数分布の周波数ピークを特定するビート周波数生成手段と、
複数個のアップチャープ期間若しくは複数個のダウンチャープ期間に渡って前記ビート周波数分布の周波数ピークに対して追尾処理を行い、該追尾処理で相関の取れた前記周波数ピークからビート周波数時系列データを生成するビート周波数追尾手段と、
前記ビート周波数時系列データから前記目標の距離及び距離変化率を算出する目標検出手段とを備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項14】
周波数が一定の変調幅で周期的に増減する送信信号を発生し、該送信信号を空間に放射する送信ステップと、
目標に反射された前記送信信号を受信して受信信号を取得し、該受信信号と前記送信信号とを混合してビート信号を生成する受信ステップと、
前記送信信号の周波数が上昇するアップチャープ時の前記ビート信号から第1のビート周波数分布を求め、該第1のビート周波数分布の周波数ピークを特定し、前記送信信号の周波数が下降するダウンチャープ時の前記ビート信号から第2のビート周波数分布を求め、該第2のビート周波数分布の周波数ピークを特定するビート周波数生成ステップと、
複数個のアップチャープ期間に渡って前記第1のビート周波数分布の周波数ピークに対して追尾処理を行い、該追尾処理で相関の取れた前記周波数ピークから第1のビート周波数時系列データを生成するアップチャープ用ビート周波数追尾ステップと、
前記第1のビート周波数時系列データから前記目標の第1の距離及び距離変化率を算出するアップチャープ用目標検出ステップと、
複数個のダウンチャープ期間に渡って前記第2のビート周波数分布の周波数ピークに対して追尾処理を行い、該追尾処理で相関の取れた前記周波数ピークから第2のビート周波数時系列データを生成するダウンチャープ用ビート周波数追尾ステップと、
前記第2のビート周波数時系列データから前記目標の第2の距離及び距離変化率を算出するダウンチャープ用目標検出ステップとを備えたことを特徴とするレーダ処理方法。
【請求項15】
アップチャープ用目標検出ステップで算出した第1の距離及び距離変化率と、ダウンチャープ用目標検出ステップで算出した第2の距離及び距離変化率とが同一の目標に対応するものか否かを判定する同一目標判定ステップを備えたことを特徴とする請求項14記載のレーダ処理方法。
【請求項16】
同一目標判定ステップで同一の目標に対応すると判定された第1の距離及び距離変化率と第2の距離及び距離変化率とから前記目標の距離及び距離変化率を算出し、目標情報として出力する目標情報抽出ステップを備えたことを特徴とする請求項15記載のレーダ処理方法。
【請求項17】
目標情報抽出ステップは、同一目標判定ステップで同一の目標に対応すると判定された第1の距離及び距離変化率と第2の距離及び距離変化率の組み合わせが複数存在する場合は、複数の組み合わせの中からいずれか1つの組み合わせを選択し、該選択した組み合わせに基づいて目標情報を出力することを特徴とする請求項16記載のレーダ処理方法。
【請求項18】
目標情報抽出ステップは、同一の目標に対応すると判定された第1の距離及び距離変化率と第2の距離及び距離変化率を重み付け統合し、統合して得られた距離、距離変化率を目標情報として出力することを特徴とする請求項16又は17記載のレーダ処理方法。
【請求項19】
目標情報抽出ステップは、同一の目標に対応すると判定された第1の距離及び距離変化率と第2の距離及び距離変化率に対して、前記第1もしくは第2の距離及び距離変化率のいずれか一方の距離及び距離変化率を目標情報として出力することを特徴とする請求項16又は17記載のレーダ処理方法。
【請求項20】
同一目標判定ステップは、第1の距離及び距離変化率と第2の距離及び距離変化率とが同一の目標に対応するものか否かをカイ二乗検定により判定することを特徴とする請求項15ないし19記載のレーダ処理方法。
【請求項21】
同一目標判定ステップは、複数個の第1の距離及び距離変化率と複数個の第2の距離及び距離変化率について同一目標に対応する対応可能性を表す相関行列を生成し、
目標情報抽出ステップは前記相関行列に基づいて同一目標に対応する前記第1の距離及び距離変化率と前記第2の距離及び距離変化率を決定し、この決定に基づいて目標情報を出力することを特徴とする請求項15ないし19記載のレーダ処理方法。
【請求項22】
周波数が一定の変調幅で周期的に増減する送信信号を発生し、該送信信号を空間に放射する送信ステップと、
目標に反射された前記送信信号を受信して受信信号を取得し、該受信信号と前記送信信号とを混合してビート信号を生成する受信ステップと、
前記送信信号の周波数が上昇するアップチャープ時の前記ビート信号から第1のビート周波数分布を求め、該第1のビート周波数分布の周波数ピークを特定し、前記送信信号の周波数が下降するダウンチャープ時の前記ビート信号から第2のビート周波数分布を求め、該第2のビート周波数分布の周波数ピークを特定するビート周波数生成ステップと、
複数個のアップチャープ期間に渡って前記第1のビート周波数分布の周波数ピークに対して追尾処理を行い、該追尾処理で相関の取れた前記周波数ピークから第1のビート周波数時系列データを生成するアップチャープ用ビート周波数追尾ステップと、
前記第1のビート周波数時系列データから前記目標の第1の状態ベクトルを算出するアップチャープ用目標検出ステップと、
複数個のダウンチャープ期間に渡って前記第2のビート周波数分布の周波数ピークに対して追尾処理を行い、該追尾処理で相関の取れた前記周波数ピークから第2のビート周波数時系列データを生成するダウンチャープ用ビート周波数追尾ステップと、
前記第2のビート周波数時系列データから前記目標の第2の状態ベクトルを算出するダウンチャープ用目標検出ステップとを備えたことを特徴とするレーダ処理方法。
【請求項23】
アップチャープ用目標検出ステップが算出した第1の状態ベクトルと、ダウンチャープ用目標検出ステップが算出した第2の状態ベクトルとが同一の目標に対応するものか否かを判定する同一目標判定ステップを備えたことを特徴とする請求項22記載のレーダ処理方法。
【請求項24】
同一目標判定ステップで同一の目標に対応すると判定された第1の状態ベクトルと第2の状態ベクトルとから前記目標の距離及び距離変化率を算出し、目標情報として出力する目標情報抽出ステップを備えたことを特徴とする請求項23記載のレーダ処理方法。
【請求項25】
ビート周波数生成ステップが生成したビート信号をアップチャープ用ビート周波数追尾ステップ若しくはダウンチャープ用ビート周波数追尾ステップのいずれか一方に出力するように信号経路を設定する信号切替ステップを備えたことを特徴とする請求項1又は9記載のレーダ処理方法。
【請求項26】
周波数が一定の変調幅で周期的に増減する送信信号を発生し、該送信信号を空間に放射する送信ステップと、
目標に反射された前記送信信号を受信して受信信号を取得し、該受信信号と前記送信信号とを混合してビート信号を生成する受信ステップと、
前記送信信号の周波数が上昇するアップチャープ時若しくは前記送信信号の周波数が下降するダウンチャープ時の前記ビート信号からビート周波数分布を求め、該ビート周波数分布の周波数ピークを特定するビート周波数生成ステップと、
複数個のアップチャープ期間若しくは複数個のダウンチャープ期間に渡って前記ビート周波数分布の周波数ピークに対して追尾処理を行い、該追尾処理で相関の取れた前記周波数ピークからビート周波数時系列データを生成するビート周波数追尾ステップと、
前記ビート周波数時系列データから前記目標の距離及び距離変化率を算出する目標検出ステップとを備えたことを特徴とするレーダ処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−19824(P2010−19824A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273239(P2008−273239)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】