説明

レーダ装置

【課題】昇順および降順周波数シーケンスを用いて送受信された信号同士の複素乗算結果から2次元フーリエ変換を用いて目標相対速度を計測可能なレーダ装置を得る。
【解決手段】目標相対速度情報取得手段11と、送信波形諸元を生成する送信波形制御器1と、任意周波数発振器2と、90度ハイブリッド器7と、送信機3と、送信機3からの信号を目標に照射して反射された信号を受信するアンテナ4と、分配器5と、位相検波器6a、6bと、低域通過フィルタ8a、8bと、A/D変換器9a、9bと、ビデオ信号記憶手段10と、目標相対速度Vdを用いて信号を補正する相対速度補正処理器12と、合成帯域処理器13と、目標距離Rを計測する目標検出処理器14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、受信信号(目標からの反射信号)に基づき目標の相対速度(以下、「目標相対速度」という)を計測し、受信信号に合成帯域処理を施すことによって高距離高分解能化を行い、目標までの距離(以下、「目標距離」という)を計測し、且つ受信信号からクラッタと呼ばれる目標以外の不要反射波を抑圧するレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、距離分解能は、レーダ装置の主諸元の1つであり、従来から、距離高分解能化法の1つとして合成帯域処理が知られている。
合成帯域処理においては、パルスごとに送信周波数をステップ状に変化させて送信し、パルス繰返し周期(PRI:Pulse Repetition Interval)内の受信信号に対して、送信信号と同じ周波数でダウンコンバートを行うことにより、ビデオ信号を取得し、ビデオ信号を逆フーリエ変換して距離高分解能化を実現する。
【0003】
しかしながら、合成帯域処理においては、目標相対速度の影響により距離計測結果に誤差が生じるので、目標相対速度を計測して相対速度補正を行う必要がある。
そこで、この種の合成帯域レーダを用いた相対速度計測法が提案されている(たとえば、非特許文献1参照)。
【0004】
図9は非特許文献1に記載の従来の相対速度計測法を示す説明図である。
図9において、横軸は時刻、縦軸は送信周波数を示し、横軸の1マスがPRI(=TPRI)、縦軸の1マスがステップ周波数Δfを示し、fは送信最小周波数を示している。
また、図9中の黒丸および白丸は各PRIでの送信周波数を示しており、黒丸は昇順シーケンス、白丸は降順シーケンスを示している。
【0005】
図9に示す従来技術においては、昇順シーケンスと降順シーケンスとにより交互に送受信を行い、昇順シーケンスおよび降順シーケンスで送受信された信号を複素乗算し、フーリエ変換することによって目標相対速度Vdを計測する。
【0006】
しかしながら、上記非特許文献1には、単純な昇順シーケンスおよび降順シーケンスを用いた合成帯域レーダに対する相対速度計測法が開示されているのみであり、たとえば、昇順シーケンスと降順シーケンスとの送信間隔を変えたシーケンスに対する相対速度計測法については、言及されていない。
【0007】
すなわち、合成帯域処理を行うレーダ装置において、単純な昇順周波数シーケンスおよび降順周波数シーケンスを用いることなく目標相対速度Vdを計測する技術は、まだ提案されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「合成帯域レーダのための高精度相対速度計測法」磯田健太郎、原照幸、電子情報通信学会、技術研究報告、SANE2009−134、第7項〜第12項
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のレーダ装置は、非特許文献1に記載のように、単純な昇順シーケンスおよび降順シーケンスを用いた合成帯域レーダに対する目標相対速度の計測技術が提案されているものの、昇順シーケンスと降順シーケンスとの送信間隔を変えたシーケンスに対する目標相対速度の計測技術は提案されていないという課題があった。
【0010】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、合成帯域処理により目標相対速度を計測し、高距離分解能の目標距離を測定可能な優れたレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係るレーダ装置は、所定の周波数列と、所定の周波数列とは異なる周波数列とを、所定の間隔で交互に並び替えた送信周波数列を生成して、送信波形諸元を生成する送信波形制御器と、送信波形制御器により指示された送信波形諸元を発振する任意周波数発振器と、任意周波数発振器で発振された発振信号の位相を90度回転させる90度ハイブリッド器と、発振信号をパルス化する送信機と、送信機によりパルス化された信号を目標に照射して、目標から反射された信号を受信するアンテナと、アンテナで受信された信号を分配する分配器と、分配器で分配された受信信号に対して、発振信号および90度ハイブリッド器で90度回転させた信号を用いて周波数変換を行う位相検波器と、位相検波器で周波数変換された信号のうち、所望の周波数帯以外の周波数成分を遮断する低域通過フィルタと、低域通過フィルタの出力信号をアナログ信号からディジタル信号に変換するA/D変換器と、A/D変換器でディジタル化されたビデオ信号を記憶するビデオ信号記憶手段と、ビデオ信号記憶手段内のビデオ信号の複素乗算結果から、2次元フーリエ変換を用いて目標相対速度を計測する目標相対速度計測処理器と、目標相対速度計測処理器で得た目標相対速度を用いて、ビデオ信号記憶手段内のビデオ信号に対し、相対速度補正を行う相対速度補正処理器と、相対速度補正処理器で相対速度補正された信号に対して距離高分解能化処理を行う合成帯域処理器と、合成帯域処理器で距離高分解能化された信号から目標信号を検出して、目標距離を計測する目標検出処理器と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、昇順周波数シーケンスおよび降順周波数シーケンスを用いて送受信された信号同士の複素乗算結果を、2次元フーリエ変換を用いた合成帯域処理で目標相対速度を計測することにより、高距離分解能の目標距離を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1による昇順シーケンスと降順シーケンスとの送信間隔を変えた場合の送信周波数列を示す説明図である。
【図3】この発明の実施の形態2に係るレーダ装置を示すブロック図である。
【図4】この発明の実施の形態2による送信周波数列F、Gを交互に用いた場合の一例を示す説明図である。
【図5】この発明の実施の形態2によるMTIフィルタ特性を示す説明図である。
【図6】図5のフィルタ特性の0[m/s]付近を拡大して示す説明図である。
【図7】この発明の実施の形態2による目標相対速度計測処理器の処理概要を示す説明図である。
【図8】この発明の実施の形態3に係るレーダ装置を示すブロック図である。
【図9】従来のレーダ装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
以下、図1および図2を参照しながら、この発明の実施の形態1について説明する。
図1はこの発明の実施の形態1に係るレーダ装置を示す構成図である。
図1において、レーダ装置は、送信波形制御器1と、任意周波数発振器2と、送信機3と、アンテナ4と、分配器5と、位相検波器6a、6bと、90度ハイブリッド器7と、低域通過フィルタ8a、8bと、A/D変換器9a、9bと、ビデオ信号記憶手段10と、目標相対速度計測処理器11と、相対速度補正処理器12と、合成帯域処理器13と、目標検出処理器14と、を備えている。
【0015】
送信波形制御器1は、パルス繰返し周期TPRIを設定するとともに、送信周波数列Fを生成し、送信波形諸元を任意周波数発振器2に入力する。
送信波形制御器1は、たとえば、以下の式(1)で表される送信周波数列Fを生成する。
【0016】
【数1】

【0017】
ただし、式(1)において、NSBRは合成帯域数であり、各変数m、Mは、m=0、1、・・・、NSBR−1、の値をとる整数であり、M=1、2、・・・、NSBR/2−1、の値をとる整数である。
また、昇順周波数列fおよび降順周波数列gは、f=f+nΔf、g=f+Δf(NSBR−1)−nΔf(ただし、n=0、1、・・・、NSBR/2−1)とする。
【0018】
図2は昇順シーケンス(黒丸参照)と降順シーケンス(白丸参照)との送信間隔を変えた場合の送信周波数列を示す説明図であり、M=2の場合に相当する送信周波数列を示している。
図2においては、前述(図9)と同様に、横軸は時刻、縦軸は送信周波数であり、横軸の1マスがPRI(=TPRI)、縦軸の1マスがステップ周波数Δfを示し、fは送信最小周波数を示している。
【0019】
図1に戻り、任意周波数発振器2は、送信波形制御器1で指示された送信波形諸元に基づき信号を発振し、発振された発振信号を、送信機3、位相検波器6aおよび90度ハイブリッド器7に入力する。
【0020】
90度ハイブリッド器7は、任意周波数発振器2からの発振信号の位相を90度回転させて、90度回転させた信号を位相検波器6bに入力する。
送信機3は、任意周波数発振器2からの発振信号をパルス化してアンテナ4に入力し、アンテナ4は、パルス化された発振信号を目標に照射し、目標からの反射信号を受信して分配器5に入力する。
【0021】
分配器5は、アンテナ4からの受信信号を、位相検波器6a、6bに分配入力する。
位相検波器6aは、分配器5からの入力信号と任意周波数発振器2からの入力信号とを用いて周波数変換を行い、周波数変換された信号を低域通過フィルタ8aに入力する。
位相検波器6bは、分配器5からの入力信号と90度ハイブリッド器7からの入力信号とを用いて周波数変換を行い、周波数変換された信号を低域通過フィルタ8bに入力する。
【0022】
低域通過フィルタ8a、8bは、位相検波器6a、6bからの各入力信号の低周波成分のみをA/D変換器9a、9bに入力する。
なお、低域通過フィルタ8a、8bとしては、たとえば信号対雑音比を最大にする整合フィルタが用いられる。
【0023】
A/D変換器9a、9bは、低域通過フィルタ8a、8bからの各アナログ信号をディジタル信号に変換して、ビデオ信号記憶手段10に入力する。
ビデオ信号記憶手段10は、A/D変換器9a、9bでディジタル信号に変換されたビデオ信号を記憶し、目標相対速度計測処理器11および相対速度補正処理器12に入力する。
【0024】
目標相対速度計測処理器11は、ビデオ信号記憶手段10に保存されているビデオ信号(昇順周波数列fを用いて送受信されたビデオ信号、および降順周波数列gを用いて送受信されたビデオ信号)の複素乗算結果から、2次元フーリエ変換を用いて、目標相対速度Vdを計測する。2次元フーリエ変換の方法としては、たとえばFFT(Fast Fourier Transform)などが適用され得る。
【0025】
以下、数式を参照しながら、目標相対速度計測処理器11の処理について詳細に説明する。
昇順周波数列fおよび降順周波数列gを用いて送受信されたビデオ信号、すなわちビデオ信号記憶手段10に記憶されたビデオ信号は、光速c、目標距離Rおよび目標相対速度Vdを用いると、以下の式(2)、式(3)で表される。
【0026】
【数2】

【0027】
ただし、ここでは、説明を簡略化するため、ビデオ信号の振幅は「1」としている。
また、式(2)、式(3)において、各変数k、lは、k=0、1、・・・、M−1、の値をとり、l=0、1、・・・、NSBR/2M−1、の値をとる。
式(2)、式(3)を要素ごとに複素乗算を行うと、以下の式(4)となる。
【0028】
【数3】

【0029】
ただし、式(4)において、Pは周波数列fk+lM、gk+lMの和(fk+lM+gk+lM)を示しており、実際には、P=fk+lM+gk+lM=2f+Δf(NSBR−1)で表される。
式(4)を各変数k、lについてまとめると、以下の式(5)となる。
【0030】
【数4】

【0031】
ただし、式(5)において、変数k、lに無関係の位相はθにまとめている。
式(5)を変数k、l方向に2次元フーリエ変換を行い、そのピーク値から目標相対速度Vdを計測することが可能である。
変数k方向にFFT処理を施した場合の速度分解能ΔVdおよび最大観測速度ΔVd1,maxは、それぞれ、以下の式(6)、式(7)で表される。
【0032】
【数5】

【0033】
また、変数l方向にFFTを施した場合の速度分解能ΔVdおよび最大観測速度ΔVd2,maxは、それぞれ、以下の式(8)、式(9)で表される。
【0034】
【数6】

【0035】
以上のように、目標相対速度計測処理器11は、目標相対速度Vdを計測し、計測結果を相対速度補正処理器12に入力する。
【0036】
以下、相対速度補正処理器12は、目標相対速度計測処理器11から得た目標相対速度Vdを用いて、ビデオ信号記憶手段10内に保存されているビデオ信号に対して相対速度補正を行い、相対速度補正後の信号を合成帯域処理器13に入力する。
【0037】
合成帯域処理器13は、相対速度補正後の信号に対して合成帯域処理を行い、合成帯域処理結果を目標検出処理器14に入力する。
目標検出処理器14は、合成帯域処理結果から目標を検出し、目標距離Rを取得する。なお、目標検出方法としては、たとえばCFAR(Constant False Alarm Rate)に基づく検出法が適用され得る。
【0038】
以上のように、この発明の実施の形態1(図1、図2)に係るレーダ装置は、所定の周波数列f(昇順周波数列)と、所定の周波数列fとは異なる周波数列g(降順周波数列)とを、所定の間隔MTPRIで交互に並び替えた送信周波数列Fを生成して、送信波形諸元を生成する送信波形制御器1と、送信波形制御器1により指示された送信波形諸元を発振する任意周波数発振器2と、任意周波数発振器2で発振された発振信号の位相を90度回転させる90度ハイブリッド器7と、発振信号をパルス化する送信機3と、送信機3によりパルス化された信号を目標に照射して、目標から反射された信号を受信するアンテナ4と、を備えている。
【0039】
また、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置は、アンテナ4で受信された信号を分配する分配器5と、分配器5で分配された受信信号に対して、発振信号および90度ハイブリッド器で90度回転させた信号を用いて周波数変換を行う位相検波器6a、6bと、位相検波器6a、6bで周波数変換された信号のうち、所望の周波数帯以外の周波数成分を遮断する低域通過フィルタ8a、8bと、低域通過フィルタ8a、8bの出力信号をアナログ信号からディジタル信号に変換するA/D変換器9a、9bと、A/D変換器9a、9bでディジタル化されたビデオ信号を記憶するビデオ信号記憶手段10と、を備えている。
【0040】
さらに、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置は、ビデオ信号記憶手段10内のビデオ信号の複素乗算結果から、2次元フーリエ変換を用いて目標相対速度Vdを計測する目標相対速度計測処理器11と、目標相対速度計測処理器11で得た目標相対速度Vdを用いて、ビデオ信号記憶手段10内のビデオ信号に対し、相対速度補正を行う相対速度補正処理器12と、相対速度補正処理器12で相対速度補正された信号に対して距離高分解能化処理を行う合成帯域処理器13と、合成帯域処理器13で距離高分解能化された信号から目標信号を検出して、目標距離Rを計測する目標検出処理器14と、を備えている。
【0041】
これにより、単純な昇順シーケンスおよび降順シーケンスを用いることなく、目標相対速度Vdを計測し、距離高分解能化を行い、目標距離Rを計測することが可能となる。
【0042】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1(図1)では、ビデオ信号記憶手段10内のビデオ信号を相対速度補正処理器12に直接入力し、目標相対速度計測処理器11からの目標相対速度Vd(計測結果)を相対速度補正処理器12のみに入力したが、図3のように、MTI処理器15を追加し、MTI処理器15を介したビデオ信号を相対速度補正処理器12に入力するとともに、目標相対速度Vdを相対速度補正処理器12および送信波形制御器1Aに入力してもよい。
【0043】
図3はこの発明の実施の形態2に係るレーダ装置を示すブロック図であり、前述(図1参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して、または符号の後に「A」を付して詳述を省略する。
図3において、ビデオ信号記憶手段10と相対速度補正処理器12との間には、MTI処理器15が追加挿入されている。
【0044】
この場合、送信波形制御器1Aおよび目標相対速度計測処理器11Aの一部処理が前述とは異なる。
以下、図4〜図7を参照しながら、図3この発明の実施の形態2における前述と異なる処理およびMTI処理器15の機能について説明する。
【0045】
まず、送信波形制御器1Aの処理について説明する。
なお、ここでは、説明を簡略化するために、2個のパルスを用いたMTI処理(単一消去器)を前提に説明する。
単一消去器の場合、合成帯域数NSBRに対し、HIT数NHITは、NHIT=2NSBRとなる。
【0046】
ここで、送信最小周波数fとし、ステップ周波数Δfを用いて、周波数列f、gを、f=f+nΔf、g=f+Δf(NSBR−1)−nΔf(ただし、n=0、1、・・・、NSBR/2−1)とすれば、送信周波数列F、Gは、以下の式(10)、式(11)で定義される。
【0047】
【数7】

【0048】
ただし、式(10)、式(11)において、変数mは、m=0、1、・・・、NHIT/2−1、の値をとり、変数Mは、M=1、2、・・・、NSBR/2の値をとる。
送信波形制御器1Aは、PRIごとに、式(10)、式(11)の送信周波数列F、Gを交互に用いて、パルス信号を送信する。
【0049】
図4は送信周波数列F(黒丸参照)、G(白丸参照)を交互に用いた場合の一例を示す説明図である。
図4において、前述(図2)と同様に、横軸は時刻、縦軸は送信周波数を示し、横軸の1マスがPRI、縦軸の1マスがステップ周波数Δfを示している。
また、図4(a)はM=1の場合、図4(b)はM=2の場合を示している。
【0050】
MTI処理は、同一周波数の信号の差を取ることに相当するので、PRIをTPRIとすると、式(10)、式(11)で示した送信周波数列F、Gの交互使用において、同一周波数の信号間隔は、2MTPRIで表される。
したがって、MTIフィルタ特性FMTI(Vd)は、目標相対速度Vdおよび光速cを用いて、以下の式(12)で表される。
【0051】
【数8】

【0052】
ただし、式(12)において、fMMは送信周波数のうちの中間周波数である。
図5はこの発明の実施の形態2によるMTIフィルタ特性を示す説明図であり、横軸は目標相対速度Vd[m/s]、縦軸MTIフィルタ応答[dB]である。
図5において、パラメータは、PRI=150μs、fMM=1GHzであり、実線はM=1の場合のMTIフィルタ特性を示し、破線はM=2の場合のMTIフィルタ特性を示している。
図5から明らかなように、変数Mを変化させることにより、MTI処理を行うパルス間隔を変化させることが可能となり、MTIフィルタ特性が変化する。
【0053】
送信波形制御器1Aは、目標相対速度情報取得手段11Aから得た目標相対速度Vdにおいて、式(12)で表されるMTIフィルタ特性FMTI(Vd)が最大になるように変数Mを決定することにより、任意周波数発振器2で発振される送信波形諸元を制御する。
たとえば、図5のように、目標相対速度Vd=125[m/s]の場合、M=2(破線)でMTIフィルタ特性が最大となるので、任意周波数発振器2に対して、図4(b)で示した送信波形諸元を送信するように命令する。
【0054】
ただし、変数Mを大きく設定すると、クラッタ抑圧性能が劣化するので、以下のようにMTIフィルタ特性FMTI(Vd)が最大となるMを求める。
図6は図5のフィルタ特性の0[m/s]付近を拡大して示す説明図である。
図6内の両方向矢印で参照されるように、M=2(破線)は、M=1(実線)と比較して、相対速度4[m/s]において、クラッタ抑圧性能が6[dB]程度劣化する。
【0055】
したがって、送信波形制御器1Aは、所望のクラッタ抑圧性能を満たしながら、目標相対速度Vdに対するMTIフィルタ特性FMTI(Vd)が最大になる変数Mを求め、任意周波数発振器2で発振される送信波形諸元を制御してもよい。
【0056】
たとえば、所望のクラッタ抑圧能力を、所定の目標相対速度σにおいて、X(>0)[dB]抑圧すると定義すると、クラッタ抑圧の力を満たすためには、以下の式(13)を満たす必要がある。
【0057】
【数9】

【0058】
ただし、MTIフィルタ特性は、目標相対速度σ=0[m/s]で対称になるので、式(13)においては、正の目標相対速度σのみを考慮している。
式(13)を満たし、目標相対速度Vdに対するMTIフィルタ特性FMTI(Vd)が最大となるMを求め、任意周波数発振器2で発振される送信波形諸元を制御することにより、所望のクラッタ抑圧性能も満たすことができる。
【0059】
上記説明では、PRIを一定としていたが、目標距離計測結果の出力レートTCPIなどが許容できる範囲内でPRIを変えることができる場合には、送信波形諸元制御の自由度が増え、さらに最適な送信波形諸元制御が可能となる。
ここで、レーダの最大観測距離Rmaxを用いれば、PRIは、以下の式(14)を満たす必要がある。
【0060】
【数10】

【0061】
また、許容可能な目標距離計測結果の出力レートTCPIを用いれば、PRIは、以下の式(15)を満たす必要がある。
【0062】
【数11】

【0063】
式(13)、式(14)、式(15)を満たし、目標相対速度Vdに対するMTIフィルタ特性FMTI(Vd)(式(12))が最大になるMおよびPRI(=TPRI)を求め、任意周波数発振器2で発振される送信波形諸元を制御することにより、所望のクラッタ抑圧性能も満たすことができる。
以上のように、送信波形制御器1Aによる処理が行われる。
【0064】
MTI処理器15は、送信波形制御器1Aから入力された送信波形諸元から、ビデオ信号記憶手段10に記憶されている同一周波数同士のビデオ信号に対してMTI処理を行い、MTI処理後の信号を相対速度補正処理器12および目標相対速度計測処理器11Aに入力する。
【0065】
相対速度補正処理器12は、目標相対速度計測処理器11Aから得た目標相対速度Vdを用いて、MTI処理器15からの信号に対して相対速度補正を行い、相対速度補正後の信号を合成帯域処理器13に入力する。
【0066】
次に、目標相対速度計測処理器11Aの処理について説明する。
図7は目標相対速度計測処理器11Aの処理概要を示す説明図であり、M=2、NSBR=12の場合の計測処理を示している。
目標相対速度計測処理器11Aは、MTI処理器15によりMTI処理された信号を複素乗算し、2次元フーリエ変換を用いて目標相対速度Vdを計測する。
【0067】
以下、目標相対速度Vdの計測処理について、数式を用いて詳細に説明する。
MTI処理器15により、同一周波数同士のビデオ信号に対してMTI処理が行われた信号は、以下の式(16)、式(17)で表される。
【0068】
【数12】

【0069】
ここで、式(16)は送信周波数列Fを用いた場合を示し、式(17)は送信周波数列Gを用いた場合を示している。
また、式(9)、式(10)において、変数kは、k=0、1、・・・、M−1、の値をとり、変数lは、l=0、1、・・・、NSBR/2M−1、の値をとる。
式(16)、式(17)を要素ごとに複素乗算を行うと、以下の式(18)となる。
【0070】
【数13】

【0071】
ただし、式(18)において、Pは周波数列fk+lM、gk+lMの和(fk+lM+gk+lM)を示しており、実際には、P=fk+lM+gk+lM=2f+Δf(NSBR−1)で表される。
なお、式(18)の正弦関数(sin)の周期は、指数関数と比較して短いので無視することができる。
式(18)の指数関数を変数k、lについてまとめると、以下の式(19)となる。
【0072】
【数14】

【0073】
ただし、式(19)において、変数k、lとは無関係の位相はθにまとめている。
以下、前述の実施の形態1と同様に、式(19)をk、l方向に2次元フーリエ変換を行い、そのピーク値から目標相対速度Vdを計測することが可能である。
フーリエ変換手段としては、たとえばFFT(Fast Fourier Transform)などが適用され得る。
変数k方向にFFT処理を施した場合の速度分解能ΔVdおよび最大観測速度ΔVd1,maxは、それぞれ、以下の式(20)、式(21)で表される。
【0074】
【数15】

【0075】
また、変数l方向にFFT処理を施した場合の速度分解能ΔVdおよび最大観測速度ΔVd2,maxは、それぞれ、以下の式(22)、式(23)で表される。
【0076】
【数16】

【0077】
通常は、変数Mと合成帯域数NSBRとの大小関係は、M<<NSBRであることから、変数Mを用いた式(20)の速度分解能ΔVdよりも、変数NSBRを用いた式(22)の速度分解能ΔVdの方が高分解能である。
一方、変数Mを用いた式(23)の最大観測速度Vd2、maxよりも、変数Mを用いない式(21)の最大観測速度Vd1、maxの方が速く、且つ曖昧性を含むことなく測速度可能な範囲が広いことになる。
【0078】
したがって、変数k方向にFFT処理を施した結果である式(21)から曖昧性を解き、変数l方向にFFT処理を施した結果である式(22)から高精度な相対速度計測を行うことができる。
ただし、ΔVd/Vd2、max=2の関係があるので、変数k方向のFFT処理の際に、FFT点数を、「0」詰めして「2M」とする必要がある。
【0079】
以上のように、この発明の実施の形態2(図3〜図7)に係るレーダ装置は、ビデオ信号記憶手段10の出力側に挿入されたMTI処理器15を備えている。
MTI処理器15は、送信波形制御器1Aで生成された送信波形諸元に基づき、ビデオ信号記憶手段10内の同一周波数で送受信された信号に対してクラッタ抑圧処理を行う。
【0080】
送信波形制御器1Aは、所定の周波数列fk+lMと、所定の周波数列とは異なる周波数列gk+lMとを、所定の間隔で交互に並び替えた送信周波数列F、Gを生成し、PRI(パルス繰返し周期)を変えることなく、目標相対速度Vdに対するクラッタ抑圧処理損失を低減する送信波形諸元を生成する。
目標相対速度計測処理器11Aは、MTI処理器15でクラッタ抑圧処理された信号の複素乗算結果から、2次元フーリエ変換を用いて目標相対速度Vdを計測し、計測結果となる目標相対速度Vdを送信波形制御器1Aおよび相対速度補正処理器12に入力する。
【0081】
また、送信波形制御器1Aは、所定の周波数列fk+lMと、所定の周波数列とは異なる周波数列gk+lMとを、所定の間隔で交互に並び替えた送信周波数列F、Gを生成し、パルス繰返し周期を変えることなく、目標相対速度Vdに対するクラッタ抑圧処理損失を低減し、且つ所望のクラッタ抑圧性能を満足するための送信波形諸元を生成する。
【0082】
また、送信波形制御器1Aは、所定の周波数列fk+lMと、所定の周波数列とは異なる周波数列gk+lMとを、所定の間隔で交互に並び替えた送信周波数列F、Gを生成し、目標相対速度Vdに対するクラッタ抑圧処理損失を低減し、且つ所望の距離計測結果の出力レートTCPIと、最大観測距離Rmaxで決定されるパルス繰返し周期と、所望のクラッタ抑圧性能とを満足するための送信波形諸元を生成する。
【0083】
これにより、単純な昇順シーケンスおよび降順シーケンスを用いることなく、目標相対速度Vdを計測し、距離高分解能化を行い、目標距離Rを計測することが可能となる。
また、クラッタ抑圧処理を行うMTI処理器との併用も可能となり、不要反射波を抑圧することが可能となる。
【0084】
実施の形態3.
なお、上記実施の形態2(図3)では、目標相対速度計測処理器11Aからの目標相対速度Vdを送信波形制御器1Aおよび相対速度補正処理器12に直接入力したが、図8のように、追尾フィルタ処理器16を介した推定目標相対速度Vd’を送信波形制御器1Aおよび相対速度補正処理器12に入力してもよい。
【0085】
以下、図8を参照しながら、この発明の実施の形態3について説明する。
図8はこの発明の実施の形態3に係るレーダ装置を示す構成図であり、前述(図3参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して詳述を省略する。
図8において、レーダ装置は、目標相対速度計測処理器11Aの出力側に挿入された追尾フィルタ処理器16を備えている。
【0086】
追尾フィルタ処理器16は、目標検出処理器14で観測された目標距離Rと、目標相対速度計測処理器11Aで計測された目標相対速度Vdとを入力情報として、追尾フィルタ処理を行い、推定目標相対速度Vd’を生成する。なお、追尾フィルタとしては、たとえばカルマンフィルタなどが適用され得る。
追尾フィルタ処理器16で推定された推定目標相対速度Vd’は、送信波形制御器1Aおよび相対速度補正処理器12に入力される。
【0087】
以下、送信波形制御器1Aは、追尾フィルタ処理器16から入力される推定目標相対速度Vd’に基づいて送信波形制御を行う。
また、相対速度補正処理器12は、追尾フィルタ処理器16からの推定目標相対速度Vd’を用いて、MTI処理器15からの信号に対して相対速度補正を行い、相対速度補正後の信号を合成帯域処理器13に入力する。
【0088】
以上のように、この発明の実施の形態3(図8)に係るレーダ装置は、目標相対速度計測処理器11Aで計測された目標相対速度Vdと、目標検出処理器14で計測された目標距離Rとを入力情報として、追尾フィルタ処理を行う追尾フィルタ処理器16を備えており、追尾フィルタ処理器16は、目標相対速度Vdおよび目標距離Rから推定された推定目標相対速度Vd’を、送信波形制御器1Aおよび相対速度補正処理器12に入力する。
【0089】
これにより、単純な昇順シーケンスおよび降順シーケンスを用いることなく、目標相対速度Vdを計測し、距離高分解能化を行い、目標距離を計測することが可能となる。
また、クラッタ抑圧処理を行うMTI処理器15との併用も可能となり、不要反射波を抑圧することが可能となる。
さらに、追尾処理により正確に推定された目標の諸元に基づいて送信波形制御を行うことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
この発明のレーダ装置は、たとえば、目標とする航空機を追尾する装置や航空管制レーダ等に利用可能である。
【符号の説明】
【0091】
1、1A 送信波形制御器、2 任意周波数発振器、3 送信機、4 アンテナ、5 分配器、6a、6b 位相検波器、7 90度ハイブリッド器、8a、8b 低域通過フィルタ、9a、9b A/D変換器、10 ビデオ信号記憶手段、11、11A 目標相対速度計測処理器、12 相対速度補正処理器、13 合成帯域処理器、14 目標検出処理器、15 MTI処理器、16 追尾フィルタ処理器、R 目標距離、Vd 目標相対速度、Vd’ 推定目標相対速度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数列と、前記所定の周波数列とは異なる周波数列とを、所定の間隔で交互に並び替えた送信周波数列を生成して、送信波形諸元を生成する送信波形制御器と、
前記送信波形制御器により指示された送信波形諸元を発振する任意周波数発振器と、
前記任意周波数発振器で発振された発振信号の位相を90度回転させる90度ハイブリッド器と、
前記発振信号をパルス化する送信機と、
前記送信機によりパルス化された信号を目標に照射して、目標から反射された信号を受信するアンテナと、
前記アンテナで受信された信号を分配する分配器と、
前記分配器で分配された受信信号に対して、前記発振信号および前記90度ハイブリッド器で90度回転させた信号を用いて周波数変換を行う位相検波器と、
前記位相検波器で周波数変換された信号のうち、所望の周波数帯以外の周波数成分を遮断する低域通過フィルタと、
前記低域通過フィルタの出力信号をアナログ信号からディジタル信号に変換するA/D変換器と、
前記A/D変換器でディジタル化されたビデオ信号を記憶するビデオ信号記憶手段と、
前記ビデオ信号記憶手段内のビデオ信号の複素乗算結果から、2次元フーリエ変換を用いて目標相対速度を計測する目標相対速度計測処理器と、
前記目標相対速度計測処理器で得た目標相対速度を用いて、前記ビデオ信号記憶手段内のビデオ信号に対し、相対速度補正を行う相対速度補正処理器と、
前記相対速度補正処理器で相対速度補正された信号に対して距離高分解能化処理を行う合成帯域処理器と、
前記合成帯域処理器で距離高分解能化された信号から目標信号を検出して、目標距離を計測する目標検出処理器と、
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記ビデオ信号記憶手段の出力側に挿入されたMTI処理器を備え、
前記MTI処理器は、前記送信波形制御器で生成された送信波形諸元に基づき、前記ビデオ信号記憶手段内の同一周波数で送受信された信号に対してクラッタ抑圧処理を行い、
前記送信波形制御器は、
前記所定の周波数列と、前記所定の周波数列とは異なる周波数列とを、前記所定の間隔で交互に並び替えた送信周波数列を生成し、
パルス繰返し周期を変えることなく、前記目標相対速度に対するクラッタ抑圧処理損失を低減する送信波形諸元を生成し、
前記目標相対速度計測処理器は、前記MTI処理器でクラッタ抑圧処理された信号の複素乗算結果から、2次元フーリエ変換を用いて前記目標相対速度を計測し、計測結果となる前記目標相対速度を前記送信波形制御器および前記相対速度補正処理器に入力する、
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記送信波形制御器は、
前記所定の周波数列と、前記所定の周波数列とは異なる周波数列とを、前記所定の間隔で交互に並び替えた送信周波数列を生成し、
前記パルス繰返し周期を変えることなく、前記目標相対速度に対するクラッタ抑圧処理損失を低減し、且つ所望のクラッタ抑圧性能を満足するための送信波形諸元を生成する、
ことを特徴とする請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記送信波形制御器は、
前記所定の周波数列と、前記所定の周波数列とは異なる周波数列とを、前記所定の間隔で交互に並び替えた送信周波数列を生成し、
前記目標相対速度に対するクラッタ抑圧処理損失を低減し、且つ所望の距離計測結果の出力レートと、最大観測距離で決定されるパルス繰返し周期と、所望のクラッタ抑圧性能とを満足するための送信波形諸元を生成する、
ことを特徴とする請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記目標相対速度計測処理器で計測された目標相対速度と、前記目標検出処理器で計測された目標距離とを入力情報として、追尾フィルタ処理を行う追尾フィルタ処理器を備え、
前記追尾フィルタ処理器は、前記目標相対速度および前記目標距離から推定された推定目標相対速度を、前記送信波形制御器および前記相対速度補正処理器に入力する、
ことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−112874(P2012−112874A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263605(P2010−263605)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】