説明

ロボットアーム駆動装置

【課題】人工筋肉をアクチュエータとして利用したロボットアームの可動範囲を広げると共にアーム先端からの反力によるアクチュエータの故障を防ぐロボットアーム駆動装置を提供する。
【解決手段】プーリ201と、プーリに直結したリンク213と、ワイヤー207,208,211,212と、電動機202とを備えたロボットアーム駆動装置であって、ウォーム203と、ウォームホイール204と、ワイヤー巻き取りプーリ205,206と、ワイヤー案内機構214,215と、またワイヤーの途中には人工筋肉209,210を備え、前記電動機で前記ウォームを駆動し、前記ウォームの回転を前記ウォームホイールに伝達し、前記ウォームホイールのシャフトに前記ワイヤー巻き取りプーリを備え、前記ワイヤーの張力により、前記プーリを駆動する。ウォームギアは負荷側からのトルクが電動機に伝わりにくいので、電動機を壊す事がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人の環境で安全に作業するロボットアームの駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人と共存し作業する次世代ロボットには安全性が求められているが、現行の産業用ロボットのように減速機と電動機を備えた駆動機構では安全性を確保できない。これは、現行の産業用ロボットでは、精度(位置決め、軌跡など)を要求した結果、自重が大きくなることが理由である。詳細説明すると、高精度を確保するにはアームのたわみを減らす必要があり、その結果アームの剛性を上げるため、高剛性材料は重量が大きいので、アームの自重が大きくなる。さらに、電動機のみではトルクが小さいため大減速機が必要であり、大減速機を使用するとモータからの負荷イナーシャが小さくなり、運動性能は向上するが、モーメントが大きくなるため、人に接触すると危険な場合がある。
【0003】
そこで、人に接触しても、問題が発生しないような駆動機構が求められている。例えば、駆動機構の1つとして、マッキベン型空気圧アクチュエータ等人工筋肉を利用した機構がある。この人工筋肉は、柔らかさというメリットに加え、発生力は大きいというメリットがあるが応答特性が低いというデメリットがある。さらに、マッキベン型空気圧アクチュエータを駆動源、ワイヤーを伝達機構とし、アクチュエータの伸張による変位がプーリとリンクの回転変位を与えるロボットアームの例では、アクチュエータ自身の弾性に起因する微小振動の発生により制御性が悪いという一般的な課題がある。
【0004】
この一般的な技術課題を解決するために、従来のロボットハンドを適用対象とするアクチュエータ制御装置は、電動機などの応答性の高いアクチュエータと、人工筋肉やバネ要素などの力は大きいが応答性の低いアクチュエータを併用して、ロボットハンドの制御性能を改善している。(例えば、特許文献1参照)また、回転部材の運動を抑制するブレーキ手段を備えたものもある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
図3において、リンク303とリンク304の相対的な角度は、形状記憶合金や水素吸蔵合金アクチュエータ、イオン性EAPなどの高分子アクチュエータなどで構成される人工筋肉302の伸縮と電動機301の回転駆動により制御される。特に、電動機301を高応答で駆動することにより、人工筋肉302の微小振動を抑制できる。
【0006】
図4において、人工筋肉403にフィッティング406から圧縮空気を供給することで、その軸線方向に収縮力を生起させ、この収縮力がプーリ401を回転させる。プーリ401はフレーム部材405で支持されている。また、人工筋肉403の収縮力でプーリ401を回転させるため、固定部材404で支持されている。プーリ401の回転軸上にブレーキドラム402が配置されており、ブレーキカム409がブレーキシュー407に、ブレーキシュー407がブレーキドラム402に接触することでプーリ402が停止するという仕組みになっている。ブレーキカム409は、引っ張りバネ410と人工筋肉411の力の拮抗により制御される。
【0007】
このように、従来のロボット用のアクチュエータ装置は、人工筋肉の微小振動を電動機で抑制するか、人工筋肉の微小振動をブレーキ機構で抑制していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−87143号公報(第5−7頁、図1A)
【特許文献2】昭61−14887号公報(第6頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、人工筋肉は伸縮膨張動作で関節を駆動しており、伸縮膨張量は、人工筋肉全長の30%程度であるため、電動機と減速機による関節アクチュエータに比べて、関節可動範囲が小さいという技術課題があった。
【0010】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、マッキベン型空気圧アクチュエータを利用する際に、可動範囲を拡大するともに、マッキベン型空気圧アクチュエータの可動と固定を確実に実施できるロボットアーム駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したのである。
【0012】
請求項1に記載の発明は、アームと、プーリと、ワイヤーと、電動機とを備えたロボットアーム駆動装置において、ウォームと、ウォームホイールと、ワイヤー巻き取りプーリと、ワイヤー案内機構を備え、前記電動機で前記ウォームを駆動し、前記ウォームの回転を前記ウォームホイールに伝達し、前記ウォームホイールのシャフトに前記ワイヤー巻き取りプーリを備え、前記ワイヤーの張力により、前記プーリを駆動することを特徴とするものである。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、ワイヤーとプーリの間に人工筋肉を備えた事を特徴とするものである。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、カップリングと第二電動機を備えた事を特徴とするものである。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、前記ウォームの回転に同期し、リニア運動に変えるボールねじを備え、ワイヤー貫通穴付き可動テーブルを備えた事を特徴とするワイヤー案内機構である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によると、1つのアクチュエータでプーリ及びアームを駆動でき、ウォームギアは負荷側からのトルクが電動機に伝わりにくいので、電動機を壊す事がない。
【0017】
また、請求項2に記載の発明によると、人工筋肉を供えるため、アームの可搬重量を上げる事ができ、人工筋肉の柔らかさによりアームが人にぶつかっても反力を吸収でき、ウォームギアは負荷側からのトルクが電動機に伝わりにくいので、電動機を壊す事がない。
【0018】
また、請求項3に記載の発明によると、アーム軸に電動機を備えるため、停止時の微小振動を抑制できる。
【0019】
また、請求項4に記載の発明によると、ワイヤー案内機構を備えるので、従来の使用方法に比べて、ワイヤーの寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施例を示すロボットアーム駆動装置の側断面図
【図2】本発明の第2実施例を示すロボットアーム駆動装置の側断面図
【図3】従来のアクチュエータ制御装置の側面図
【図4】従来のロボットアームの動作を示す断面図
【図5】本発明のワイヤー案内機構の断面図
【図6】本発明の第3実施例を示すロボットアーム駆動装置の側断面図
【図7】本発明の制御装置のブロック図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明の第1実施例を説明するロボットアーム駆動装置の側面図である。図において、ワイヤー107、108の端がプーリ101とワイヤー巻き取りプーリ105、106に結ばれ、電動機102と連結したウォーム103の回転により、ウォームホイール104が駆動され、ウォームホイール104に連結されたワイヤー巻き取りプーリ105、106を駆動することでプーリ101を駆動し、プーリ101が駆動されると連結されたリンク109が駆動される。プーリ101及びリンク109を高精度に角度制御するために、エンコーダ112の角度情報を利用する。ウォーム103とウォームホイール104からなるウォームギアを用いるメリットは、ウォームギアは摩擦力が大きいので、負荷側からの反力で電動機102が動かないため電動機102が壊れにくいことと電動機102の電源を切っても停止状態を維持できる点にある。このロボットアーム機構において、ワイヤー巻き取りプーリ106、107は、プーリ101の拮抗動作を実現するために、ワイヤー巻き付け方向を変えている。例えば、ワイヤー巻き取りプーリ106を時計回りとして、時計回りにウォームホイール104が回った時に、ワイヤー108がワイヤー巻き取りプーリ106で巻き取られ、ワイヤー巻き取りプーリ105ではワイヤー107がリリースされることで、プーリ101の拮抗動作を実現できる。さらに、ワイヤー巻き取りプーリ105、106の同じ位置でワイヤー107、108が重なるように巻き取られるとワイヤーにキズが付きやすくなるとともに、ワイヤーのリリース量と巻き取り量が異なるために、ワイヤーのテンションが変わり、結果的にワイヤーの寿命が短くなる可能性がある。そこで、ワイヤーがプーリの同じ場所で重なることを避けるため、ワイヤー案内機構を備えた。
【0023】
ワイヤー案内機構の周辺技術の詳細を図5で説明する。ワイヤー巻き取りプーリの断面図は図5aで表すものであり、ワイヤー501は、ワイヤー巻き取りプーリ502に空けられた1点の穴を通って、ワイヤー巻き取りプーリ内部のワイヤー固定冶具503で固定されている。ワイヤー固定冶具503は、ネジのようなものや溶接によりワイヤーを固定する方法などが考えられる。これにより、ワイヤー501はワイヤー巻き取りプーリ502から抜けないようにできる。
【0024】
次に、ワイヤー案内機構の詳細図面は図5bである。図1のウォームホイール104にシャフト505を介して、歯車504とワイヤー巻き取りプーリ502が直結されている。歯車504が回転駆動されると歯車506とボールねじ507が回転するとワイヤー案内機構508は直線駆動される。歯車506の回転に同期して、ボールねじ507のピッチ移動量でワイヤー案内機構508が前進後退し、ワイヤー501がワイヤー巻き取りプーリ502上の同じ場所で重ならないように巻き取られるので、ワイヤー501本来の耐久性を維持できる。
【0025】
次に、リンク518のワイヤー案内機構の詳細図面(図5c)を説明する。プーリ510、傘歯車511、リンク518はシャフト512に直結されており、傘歯車511はワイヤ501が引っ張られる方向に回転する。傘歯車511が回転すると、傘歯車511に直交した傘歯車513が回転すると、傘歯車513に直結したプーリ514、515が回転する。プーリ514、515の伝達要素はワイヤー516であり、ワイヤー516に結合したワイヤー案内機構517がワイヤー516に同期して移動する。ワイヤー案内機構517にはワイヤー貫通穴があり、ワイヤ501がプーリ510に重ならないように巻き取られる。この機構を備えたことで、リンク側においてもワイヤー本来の耐久性を維持することができる。ここで説明したワイヤー516の伝達要素は、ベルトでも良い。ベルトにすると案内機構の耐久性を上げる事ができる。
【実施例2】
【0026】
図2は、本発明の第2の実施例を説明するロボットアーム駆動装置の側面図である。図において、人工筋肉209、210の一端にワイヤー207、208が結ばれ、ワイヤー211、212は、プーリ205、206に結び付けられており、人工筋肉209、210は空気の排出・供給により収縮・膨張し、その作用により、ワイヤー207、208が拮抗動作をすることで、プーリ201が回転し、プーリ201に直結したリンク213が駆動されるという基本的なロボットアーム機構がある。このロボットアーム機構では、人工筋肉の伸縮量に制限され、リンク213の回転角度が小さいと言う問題があった。そこで、ウォームギアと電動機を備えることで課題を解決することができる。さらに、ウォームギアを利用すると電動機が負荷反力を受けないので、電動機を壊す事ないというメリットがある。人工筋肉209、210を使ってプーリ201、リンク213を高精度に角度制御するには、エンコーダ216の角度情報を利用する。図において、ワイヤー207、208の端がプーリ201と人工筋肉209、210に結ばれ、人工筋肉209、210の他端がプーリ205、206に結ばれ、電動機202と連結したウォーム203の回転により、ウォームホイール204、ワイヤー巻き取りプーリ205、206が駆動され、ワイヤー211、212は拮抗駆動される。ワイヤー211、212の拮抗駆動に応じて、人工筋肉209、210が移動し、プーリ201が回転し、リンク213が回転する。人工筋肉209、210は、空気の排気・吸気により圧縮・膨張されるが、変位量は人工筋肉の長さの30%程度なので、リンクの回転角度が少ないというデメリットがあったが、本発明に示したウォームギア(ウォーム203、ウォームホイール204)と電動機202により、回転角度範囲を広げる事が可能となる。
【0027】
ここで、説明した人工筋肉209、210は、マッキベン型空気圧アクチュエータであり、ゴム素材の柔らかさによりリンク213の反力を吸収することができ、安全なロボットを実現するアクチュエータとして期待されている。しかし、柔らかいと言うメリットと反対に、制御性能が悪いというデメリットが存在する。ここで言う制御性能とは、応答の速さと停止精度である。人工筋肉は電動機に比べて応答が遅く、このデメリットを改善するために、図2のプーリ201のリンク213とは反対側に第二の電動機を備えた図面を図6で説明する。基本構成は図2と同じで、プーリ601がリンク613と第二の電動機616の間に配置されている点が異なり、プーリ601と同方向にリンク613、電動機616が回転する。
【0028】
次に、ロボットアームの制御方法を説明する。ロボットアームの構成は、図6の構成とし、アクチュエータは人工筋肉609、610、電動機602、616である。プーリ601、リンク613の角度は、電動機616に内蔵されたエンコーダを利用する。プーリ601及びリンク613をある角度に制御する場合、角度指令701とエンコーダ705の角度偏差を第1電動機制御部702に入力し、第1電動機制御部702の出力である電流指令を第1電動機703に入力し、第1電動機のトルクを発生させ、プーリ、リンク704を角度制御する。エンコーダ705は、第2電動機に内蔵されたセンサである。人工筋肉アクチュエータ708及び第2電動機711は、第1電動機の速度に追従するように動けばよいので、角速度指令706と角速度の偏差をコンプレッサー制御部707に入力すると、出力である空気の吸気量と排気量が制御され、人工筋肉アクチュエータ708の圧縮・膨張により、プーリ、リンク704の動きに人工筋肉アクチュエータ708は同期するように角速度制御される。同様に、第2電動機も角速度指令706と角速度の偏差を第2電動機制御部710に入力すると電流指令が出力され、電流指令に基づいて第2電動機711が角速度制御される。角速度は、エンコーダ705の角度信号を差分演算709した結果である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
人工筋肉を使って関節駆動をする際に、関節角度範囲が小さいというデメリットをウォームギアと電動機を使って克服する事ができるので、ロボットフィンガの関節にも適用できる。
【符号の説明】
【0030】
101、201、401、509、514、515、601 プーリ
102、202、301、602、616 電動機
109、213、303、304、517、613 リンク
103、203、603 ウォーム
104、204、604 ウォームホイール
105、106、205、206、502、605、606 ワイヤー巻き取りプーリ
209、210、302、403、411、609、610、708 人工筋肉
107、108、207、208、211、212、501、516、607、608、
611、612 ワイヤー
110、111、214、215、508、517、614、615 ワイヤー案内機構
112、216、705 エンコーダ
402 ブレーキドラム
404 固定部材
405 フレーム部材
406 フィッティング
407 ブレーキシュー
408 レバーアーム
409 ブレーキカム
410 引っ張りばね
503 ワイヤー固定冶具
504、506、510、512 歯車
507 ボールねじ
509 ワイヤー案内穴
505、512 シャフト
511、513 傘歯車
701 角度指令
702、710 電動機制御部
703、711 電動機
704 プーリ・リンク
706 角速度指令
707 コンプレッサー制御部
709、712 差分演算


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アームと、プーリと、ワイヤーと、電動機とを備えたロボットアーム駆動装置において、
ウォームと、ウォームホイールと、ワイヤー巻き取りプーリと、ワイヤー案内機構を備え、前記電動機で前記ウォームを駆動し、前記ウォームの回転を前記ウォームホイールに伝達し、前記ウォームホイールのシャフトに前記ワイヤー巻き取りプーリを備え、前記ワイヤーの張力により、前記プーリを駆動することを特徴とするロボットアーム駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載のロボットアーム駆動装置において、ワイヤーとプーリの間に人工筋肉を備えた事を特徴とするロボットアーム駆動装置。
【請求項3】
請求項2に記載のロボットアーム駆動装置において、カップリングと第二電動機を備えた事を特徴とするロボットアーム駆動装置。
【請求項4】
請求項1に記載のワイヤー案内機構は、前記ウォームの回転に同期し、リニア運動に変えるボールねじを備え、ワイヤー貫通穴付き可動テーブルを備えた事を特徴とするロボットアーム駆動装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−152620(P2011−152620A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16211(P2010−16211)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】