説明

ロボットシステム

【課題】モータの駆動を制御する駆動制御手段の制御内容を変更することなく、減速時間が長くなることを抑制しつつ、減速動作時にモータから生じる回生エネルギーを消費する際に発生する熱を低減することができるロボットシステムを提供する。
【解決手段】制御部27は、モータMが加速動作状態から定速動作状態に移行すると、電圧制御スイッチ30のオン、オフを制御することでバス電圧Vdを定常値から下限電圧値まで低下させる。バス電圧Vdは、減速動作時において回生エネルギーによって上昇するものの、定速動作時にバス電圧Vdを低下させた分だけ減速動作時におけるそのピーク値が低くなる。この結果、減速動作時にバス電圧Vdが回生消費電圧値以上になったとしても、ピーク値が低下した分だけ回生消費回路23が動作する期間が短くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットの各軸を駆動するためのモータから減速動作時に回生されるエネルギーを消費させるための回生消費回路を備えたロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットの各関節(各軸)は、それぞれモータにより駆動されるようになっており、これらモータは、コントローラに内蔵されるモータアンプ(駆動手段)により駆動される。このモータアンプは、例えばインバータ回路を主体として構成されており、直流電源回路から一対の直流電源線を介して与えられる直流電圧(バス電圧)を所定の周波数を持つ交流電圧に変換してモータへの電力供給を行う。
【0003】
このような構成において、モータを減速動作させる際にはモータ側からモータアンプ側にエネルギーが回生され、これに伴いバス電圧が上昇する。このため、コントローラには、このバス電圧が直流電源線に接続される各回路素子(インバータ回路のスイッチング素子、直流電源回路のコンデンサなど)の定格を超えて上昇しないように、上記回生されたエネルギー(回生エネルギー)を熱エネルギーに変換して放出する回生消費回路が設けられている。
【0004】
この回生消費回路では、回生電流を直流電源線間に直列に設けられた回生抵抗に流すことで、回生エネルギーを熱エネルギーに変換している。元々、コントローラの内部には、その動作時に発熱を伴う部品が多数設置されているため、通常の動作時においてもある程度の温度上昇が生じているが、上記回生時にはさらに内部温度が上昇することになる。コントローラ内部における温度上昇量が多くなると、その分だけ放熱対策を強化する必要があるため、このような内部温度の上昇は極力抑えることが望ましい。
【0005】
上記回生エネルギーは、モータの減速動作時の加速度に比例するので、その加速度を小さくすればするほど、言い換えれば、減速動作に要する時間(減速時間)を長くすればするほど回生エネルギーを低減することが可能となり、回生消費回路で発生する熱エネルギーを抑制することが可能となる。しかし、減速時間を長くすることは、ロボットの加速、定速、減速という一連の動作サイクルに要する時間(サイクルタイム)を長くすることに繋がる。ロボットが設置される例えば工場などでは、効率的に作業を行うことが重要視されることが多いため、上記のようにサイクルタイムが長くなる事態は好ましくない。
【0006】
このような問題の対策として、減速動作時におけるモータ駆動の制御内容を変更することで回生エネルギーの発生量を調整し、バス電圧の上昇を所定量に抑えつつ、減速時間が長くなることを抑制する技術が考案されている(例えば特許文献1参照)。具体的には、特許文献1記載の技術では、モータ電流をq軸電流(磁束と直交したモータ電流成分)とd軸電流(磁束と平行したモータ電流成分)とに分け、減速動作において、q軸電流を調整してブレーキトルクを制御し、d軸電流を調整して回生エネルギーを制御するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−084780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ロボットシステムにおいては、各関節に対応する複数のモータの駆動状態をそれぞれ制御することで、ロボットの手先位置を高精度に制御するようになっている。このため、モータの制御内容を減速動作時のみ変更してしまうと、その変更に伴い上記手先位置の制御に誤差が生じてしまう可能性があったり、または制御内容を変更する際の設計が煩雑になったりするなど、種々の問題が生じる。このため、上記特許文献1記載の技術をロボットシステムに適用することは難しい。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、モータの駆動を制御する駆動制御手段の制御内容を変更することなく、減速時間が長くなることを抑制しつつ、減速動作時にモータから生じる回生エネルギーを消費する際に発生する熱を低減することができるロボットシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の手段によれば、ロボットの各軸を駆動するためのモータは、直流電源回路から一対の直流電源線を介して与えられる直流電圧の供給を受けて動作する駆動手段によって駆動される。そして、駆動制御手段は、モータの回転速度を回転速度指令に一致させるように駆動手段によるモータの駆動をフィードバック制御する。また、一対の直流電源線間には、回生スイッチ手段および回生抵抗の直列回路からなる回生消費回路が設けられている。そして、回生制御手段は、上記直流電圧を検出する直流電圧検出手段の検出値が回生消費電圧値未満のときにあっては回生スイッチ手段をオフし、上記検出値が回生消費電圧値以上のときにあっては回生スイッチ手段をオンする。このような構成によれば、減速動作時にモータから回生されるエネルギー(回生エネルギー)に起因して直流電圧が上昇して回生消費電圧値以上になった場合には、回生抵抗に電流を流すことで回生エネルギーを熱エネルギーとして放出し、直流電圧が回生消費電圧値未満となるようにその電圧上昇が抑えられる。
【0011】
また、駆動手段への直流電圧の供給経路のうち、上記回生消費回路よりも直流電源回路側に介在した状態で、電圧制御スイッチ手段が設けられている。この電圧制御スイッチ手段の動作は電圧制御手段によって制御される。電圧制御手段は、回転速度指令を用いてモータの動作状態を判断する。電圧制御手段は、モータが非動作状態または加速動作状態であると判断した場合には、電圧制御スイッチ手段をオンした状態を維持する。このため、モータが非動作状態または加速動作状態にあるときは、直流電源回路から駆動手段に対して連続的に電力が供給され、直流電圧は定常値に保たれる。また、電圧制御手段は、モータが加速動作状態以外の動作状態であると判断した場合には、直流電圧検出手段の検出値を下限電圧値に一致させるように電圧制御スイッチ手段をオンまたはオフする。このため、モータが加速動作状態以外の動作状態であるときには、直流電源回路から駆動手段に対して断続的に電力が供給される。これにより、直流電圧は下限電圧値付近で低下および上昇を繰り返し、その平均的な電圧値が下限電圧値に一致するようになる。なお、この下限電圧値は、モータを駆動するために最低限必要な電圧値としている。
【0012】
このような構成において、ロボットの一連の動作(加速動作、定速動作、減速動作)が行われる場合、直流電圧は次のように変化する。すなわち、モータが非動作状態であるとき、および、その後の加速動作状態であるときには、直流電圧は定常値に保たれている。このため、駆動手段は、モータを通常通り加速動作させることが可能となっている。加速動作状態から定速動作状態に移行すると、直流電圧は定常値から下限電圧値に向けて低下し、後述する回生エネルギーに伴う電圧上昇が生じるまでの期間、その下限電圧値に維持される。
【0013】
定速動作状態から減速動作状態に移行すると、モータの減速動作に伴い発生するエネルギーがモータ側から回生される。そして、この回生エネルギーに起因して直流電圧が上昇する。ただし、この回生に伴う直流電圧の上昇は、モータからの回生電流が駆動手段などを通じて一対の直流電源線側に流れるまでの時間などの遅延時間があるため、減速動作状態に移行した時点から所定時間経過後に始まる。一方、電圧制御手段は、減速動作状態に移行しても、直流電圧を下限電圧値に一致させるべく、電圧制御スイッチ手段を制御する。しかし、モータ側からの回生エネルギーに伴い直流電圧が上昇するため、電圧制御スイッチ手段をオフに固定しても、直流電圧は下限電圧値から上昇する。
【0014】
このように、本手段によっても従来技術の構成と同様に減速動作時において回生エネルギーによって直流電圧は上昇する。しかしながら、本手段では、定速動作時に直流電圧を定常値から下限電圧値まで低下させた分、つまり定常値と下限電圧値の差電圧だけ、従来技術の構成に比べて減速動作時における直流電圧の最大値が低くなる。その結果、減速動作時に直流電圧が回生消費電圧値以上になったとしても、直流電圧の最大値が低下した分だけ回生消費回路が動作する期間は短くなる。このため、回生消費回路の動作による熱の発生をその動作期間を短くした分だけ抑制することができる。さらには、減速動作時に直流電圧が回生消費電圧値未満までしか上昇しなければ、回生消費回路が動作することなく、減速動作を行うことが可能となり、この場合には回生消費回路の動作による熱の発生を完全に抑えることができる。
【0015】
また、本手段によれば、仮に定速動作状態である期間が極めて短い動作が行われる場合であっても、次のような理由から回生消費回路の動作による熱の発生を抑えることが可能となる。すなわち、前述したとおり回生エネルギーによる直流電圧の上昇は減速動作の開始時点から所定時間経過に始まる。このため、定速動作状態である期間が極めて短い場合でも、減速動作が開始されて所定時間経過後に電圧上昇が始まった時点においては、直流電圧は定常値よりも確実に低い値となっている。従って、本手段によれば、このような場合であっても、回生消費回路の動作による熱の発生を抑制することができる。
【0016】
このように、本手段によれば、モータの駆動を制御する駆動制御手段の制御内容を変更することなく、モータが加速動作状態以外の動作状態であるときに直流電圧の電圧値を上記したように制御することで、減速動作時における回生消費回路の動作による熱の発生を抑制することができる。また、このような熱の発生を抑えるための直流電圧の制御動作は、ロボットの一連の動作に全く影響を与えることがないので、その一連の動作サイクルに要する時間(サイクルタイム)を従来と同等にすることができる。さらに、上記したとおり、回生消費回路が動作する期間が減少するので、回生抵抗として定格電力値の小さいものを用いることができ、これにより装置全体の小型化に寄与することができる。
【0017】
請求項2記載の手段によれば、電圧制御手段は、ロボットの一連の動作において、その加速動作時の加速度と減速動作時の加速度(減速度)とは等しくなるのが一般的であるということを利用して、以下のようにモータの減速動作時に生じる回生エネルギーに伴う直流電圧の上昇量を推定する。すなわち、電圧制御手段は、モータの回転速度を用いてモータの加速動作状態における加速度を検出し、その検出した加速度を元に、その後に行われる減速動作における加速度を推定する。電圧制御手段は、推定した減速動作時の加速度を元に、その減速動作に伴い、モータ側から回生されるエネルギーによる直流電圧の上昇量を推定する。そして、電圧制御手段は、モータが減速動作状態であるときに直流電圧の電圧値が回生消費電圧値以上に上昇しない範囲で前述した下限電圧値に対し所定値を加算する。
【0018】
このような構成によれば、請求項1記載の手段を採用した場合において、減速動作時に直流電圧が回生消費電圧値未満までしか上昇しない場合には、下限電圧値に対し所定値が加算される。すなわち、モータが加速動作状態以外の動作状態であるときに、直流電圧が定常値から回生消費回路の動作に伴う熱の発生を完全に抑制することができる最小の電圧分だけ低下される。これにより、加速動作における直流電圧の電圧値(定常値)と、定速動作における直流電圧の電圧値(下限電圧値)との差が小さくなる。また、通常、直流電圧を出力する直流電源回路は、その出力部に平滑用のコンデンサを備えている。本手段によれば、加速動作から定速動作に移行する際に直流電源回路が備えるコンデンサに流れる充電電流を低減することができ、これにより、上記コンデンサの寿命が向上するという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態を示すロボットシステムの電気構成図
【図2】モータ制御の内容を等価的に示すブロック図
【図3】ロボットシステムの構成を概略的に示す図
【図4】一連の動作が行われる場合の回転速度およびバス電圧を示す図
【図5】バス電圧制御の内容を示すフローチャート
【図6】本発明の第2の実施形態を示す図4相当図
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
図3は、一般的な産業用ロボットのシステム構成を示している。この図3に示すロボットシステム1は、ロボット2と、ロボット2を制御するコントローラ3と、コントローラ3に接続されたティーチングペンダント4とから構成されている。
ロボット2は、例えば6軸の垂直多関節型ロボットとして構成されている。ロボット2は、ベース5と、このベース5に水平方向に回転可能に支持されたショルダ部6と、このショルダ部6に上下方向に回転可能に支持された下アーム7と、この下アーム7に上下方向に回転可能に支持された第1の上アーム8と、この第1の上アーム8に捻り回転可能に支持された第2の上アーム9と、この第2の上アーム9に上下方向に回転可能に支持された手首10と、この手首10に捻り回転可能に支持されたフランジ11とから構成されている。
【0021】
ベース5、ショルダ部6、下アーム7、第1の上アーム8、第2の上アーム9、手首10およびフランジ11は、ロボット2のアームとして機能し、アーム先端であるフランジ11には、図示はしないが、エンドエフェクタ(手先)が取り付けられる。ロボット2に設けられる複数の軸はそれぞれに対応して設けられるモータ(図1に符号Mを付して示す)により駆動される。各モータの近傍には、それぞれの回転軸の回転位置を検出するための位置検出器(図示せず)が設けられている。
【0022】
ティーチングペンダント4は、例えば使用者が携帯あるいは手に所持して操作可能な程度の大きさで、例えば薄型の略矩形箱状に形成されている。ティーチングペンダント4には、各種のキースイッチ12が設けられており、使用者は、キースイッチ12により種々の入力操作を行う。ティーチングペンダント4は、ケーブルを経由してコントローラ3に接続され、通信インターフェイスを経由してコントローラ3との間で高速のデータ転送を実行するようになっており、キースイッチ12の操作により入力された操作信号等の情報はティーチングペンダント4からコントローラ3へ送信される。
【0023】
図1は、ロボットシステム1の電気構成を概略的に示すブロック図である。ロボット2には、各軸をそれぞれ駆動するための複数のモータM(図1では1つのみ示す)が設けられている。モータMは例えばブラシレスDCモータである。コントローラ3には、交流電源21より供給される交流を整流および平滑して出力する直流電源回路22、回生消費回路23、モータMを駆動するインバータ装置24、電流検出部25、位置検出部26およびこれら各装置の制御などを行う制御部27が設けられている。
【0024】
直流電源回路22は、整流回路28、開閉器29、電圧制御スイッチ30(電圧制御スイッチ手段に相当)および平滑用のコンデンサ31から構成されている。整流回路28は、ダイオードをブリッジの形態に接続してなる周知構成のものである。例えば3相200Vの交流電源21の各相出力は、整流回路28の交流入力端子に接続されている。整流回路28の直流出力端子は、それぞれ直流電源線L1、L2(一対の直流電源線に相当)に接続されている。直流電源線L1は、開閉器29の高電位側スイッチ29a、電圧制御スイッチ30を介して直流電源線L1’に接続され、直流電源線L2は、開閉器29の低電位側スイッチ29bを介して直流電源線L2’に接続されている。直流電源線L1’、L2’(一対の直流電源線に相当)間にはコンデンサ31が接続されている。
【0025】
開閉器29および電圧制御スイッチ30のオン、オフは、制御部27(電圧制御手段に相当)によって制御される。制御部27は、ロボット2への電源供給の開始が指令されると、開閉器29をオンする。また、制御部27は、直流電源線L1’、L2’間のバス電圧Vd(直流電圧)の値を検出する機能(直流電圧検出手段に相当)およびモータMの動作状態を判断する機能(後述する)を備えている。これらの機能を備えた制御部27は、モータMの動作状態に応じて電圧制御スイッチ30をオン、オフさせてバス電圧Vdを以下のように所定値に制御する。
【0026】
すなわち、制御部27は、モータMが非動作状態および加速動作状態であるときは、バス電圧Vdを定常値Vtyp(例えば282V)に制御する。また、制御部27は、モータMが定速動作状態および減速動作状態であるときは、バス電圧Vdが下限電圧値Vmin(例えば220V)付近となるように制御する。なお、制御部27がバス電圧Vdを下限電圧値Vminに制御している期間であっても、後述する回生エネルギーが生じる期間ではバス電圧Vdは下限電圧値Vminより上昇する。また、この下限電圧値Vminは、定常値Vtypよりも低く、且つモータMを駆動するために最低限必要な電圧値であればよく、直流電源回路22、モータM、インバータ装置24などの仕様に応じて適宜変更すればよい。
【0027】
回生消費回路23は、直流電源線L1’、L2’間に回生抵抗32および回生スイッチ33(回生スイッチ手段に相当)の直列回路を接続して構成されている。回生スイッチ33のオン、オフは、制御部27によって制御される。制御部27(回生制御手段に相当)は、バス電圧Vdの検出値が、回生消費電圧値Vthr未満であるときには、回生スイッチ33をオフし、回生消費電圧値Vthr以上であるときには回生スイッチ33をオンする。このような構成により、減速動作時にモータMから回生されるエネルギー(回生エネルギー)に起因してバス電圧Vdが上昇して回生消費電圧値Vthr以上になった場合には回生抵抗32に電流が流れる。これにより、回生エネルギーが熱エネルギーとして放出され、バス電圧Vdが回生消費電圧値Vthr未満となるようにその電圧上昇が抑えられる。
【0028】
回生消費電圧値Vthrは、バス電圧Vdが直流電源線L1’、L2’に接続される各回路素子(インバータ装置24のスイッチング素子、直流電源回路22のコンデンサ31など)の定格を超えて上昇しないような値に設定すればよい。また、本実施形態では、電圧制御スイッチ30および回生スイッチ33は、例えばトランジスタなどの半導体スイッチング素子により構成されている。なお、電圧制御スイッチ30および回生スイッチ33は、例えばリレーなどの機械式のスイッチであってもよい。
【0029】
インバータ装置24(駆動手段に相当)は、直流電源線L1’、L2’間に6つのスイッチング素子例えばIGBT(図1には2つのみ示す)を三相フルブリッジ接続して構成されたインバータ主回路と、その駆動回路とを6組備えている(図1には1組のみ示す)。IGBTのコレクタ・エミッタ間には還流ダイオードが接続されている。また、IGBTのゲートには、駆動回路からゲート信号が与えられている。駆動回路は、制御部27から与えられる指令信号(通電指令Sc)に基づいてパルス幅変調されたゲート信号を出力して各IGBTを駆動する。
【0030】
制御部27(駆動制御手段に相当)は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えたマイクロコンピュータを主体として構成されている。電流検出部25は、モータMに流れる電流を検出する電流検出器(図示せず)からの検出信号を制御部27に入力可能なデータに変換して出力する。位置検出部26は、モータMの回転位置を検出する位置検出器(図示せず)からの検出信号を制御部27に入力可能なデータに変換して出力する。制御部27は、電流検出部25から出力されるデータを元にモータMに流れる電流の値を取得するとともに、位置検出部26から出力されるデータを元にモータMの回転位置および回転速度を取得する。詳細は後述するが、制御部27は、このようにして取得した電流値、回転位置および回転速度を用いてインバータ装置24によるモータMの駆動をフィードバック制御する。
【0031】
図2は、ロボットシステム1におけるモータ制御の内容を等価的に示したブロック図である。この図2に示すように、制御部27は、位置制御部41、速度制御部42、電流制御部43および動作状態判断部44を備えている。なお、図2では、1つのモータMの制御に係る構成のみを示しているが、実際には全てのモータMのそれぞれに対応して同様の構成が設けられている。さて、一般に産業用のロボットは、予めティーチングなどを実施することにより作成される所定の動作プログラムに従って動作するようになっている。図示しない上位制御部は、その動作プログラムを解釈し、ロボット2に動作プログラムに従った動作を行わせるように各モータMを制御するための指令値(位置指令pc)を位置制御部41に出力する。
【0032】
位置制御部41は、上位制御部から与えられる位置指令pcに対する現在の回転位置p*の偏差を求める減算器45と、この減算器45の出力(偏差)をゼロに近づけるように速度指令vc(回転速度指令に相当)を出力する位置制御アンプ46とから構成されている。この位置制御アンプ46のゲインはKpとなっている。
【0033】
速度制御部42は、微分器47、減算器48および速度制御アンプ49により構成されている。微分器47は、現在の回転位置p*を微分して現在の回転速度v*に変換する。減算器48は、速度指令vcに対する現在の回転速度v*の偏差を求める。速度制御アンプ49は、この減算器48の出力(偏差)をゼロに近づけるように電流指令icを出力する。この速度制御アンプ49のゲインはKvとなっている。
【0034】
電流制御部43は、電流指令icに対する現在のモータMに流れる電流i*の偏差を求める減算器50と、この減算器50の出力(偏差)をゼロに近づけるようにインバータ装置24に対する指令信号(通電指令Sc)を出力する電流制御アンプ51とから構成されている。この電流制御アンプ51のゲインはKiとなっている。このような構成により、制御部27は、電流フィードバック制御、速度フィードバック制御および位置フィードバック制御を行い、モータMの駆動をフィードバック制御してロボット2のアームの動作制御を行う。
【0035】
動作状態判断部44は、モータMの回転速度v*および速度指令vcに基づいてモータM(ロボット2)の動作状態を判断する。すなわち、動作状態判断部44は、例えば、現時点の回転速度v*と速度指令vcとを比較する。その結果、下記(1)式の関係を満たす状態が所定回数継続した場合には、回転速度を上昇させるようにモータMを駆動している状態であるため、加速動作中であると判断する。
v*<vc …(1)
【0036】
また、下記(2)式の関係を満たす状態が所定回数継続した場合には、回転速度を低下させるようにモータMを駆動している状態であるため、減速動作中であると判断する。
v*>vc …(2)
【0037】
また、下記(3)式の関係を満たす状態が所定回数継続した場合には、回転速度を一定値に維持するようにモータMを駆動している状態であるため、定速動作状態であると判断する。
vc*=vc …(3)
【0038】
ただし、下記(4)式の関係を満たす状態が所定回数継続した場合には、回転速度をゼロに維持するようにモータMを駆動している状態、つまりモータMの駆動を停止している状態であるため、上記(3)式による判断に代えて、非動作状態であると判断する。
vc*=vc=0 …(4)
【0039】
なお、動作状態判断部44によるモータMの動作状態判断方法は、上記判断方法に限らない。例えば、動作状態判断部44は、速度指令vcに基づいてモータM(ロボット2)の動作状態を以下のように判断してもよい。すなわち、動作状態判断部44は、例えば、現時点の速度指令vc(n)と、現時点より所定期間だけ前の時点(例えば、1サンプリング前の時点)の速度指令vc(n-1)とを比較する。その結果、下記(5)式の関係を満たす状態が所定回数継続した場合には、回転速度を上昇させるようにモータMを駆動している状態であるため、加速動作中であると判断する。
vc(n-1)<vc(n) …(5)
【0040】
また、下記(6)式の関係を満たす状態が所定回数継続した場合には、回転速度を低下させるようにモータMを駆動している状態であるため、減速動作中であると判断する。
vc(n-1)>vc(n) …(6)
【0041】
また、下記(7)式の関係を満たす状態が所定回数継続した場合には、回転速度を一定値に維持するようにモータMを駆動している状態であるため、定速動作状態であると判断する。
vc(n-1)=vc(n) …(7)
【0042】
ただし、下記(8)式の関係を満たす状態が所定回数継続した場合には、回転速度をゼロに維持するようにモータMを駆動している状態、つまりモータMの駆動を停止している状態であるため、上記(7)式による判断に代えて、非動作状態であると判断する。
vc(n-1)=vc(n)=0 …(8)
【0043】
なお、上記(3)、(4)、(7)、(8)式におけるイコール(=)は、完全に一致するものだけに限らず、所定の誤差を許容する場合も含むものとする。また、上記所定回数としては、1回以上であればよく、必要とされる動作状態の判断精度に応じて適宜設定すればよい。
【0044】
次に、上記構成の作用について図4および図5も参照して説明する。
図4は、ロボット2が加速、定速、減速という一連のサイクルで動作される際における所定のモータMの回転速度とバス電圧Vdとを示している。図4において、(a)はモータMの回転速度を示し、(b)はバス電圧Vdを示し、(c)はバス電圧Vdが下限電圧値Vminに維持されている期間Aの一部分を拡大して示している。また、図5は、上記動作中における制御部27による電圧制御スイッチ30のオン、オフ制御(バス電圧制御)の内容を示すフローチャートである。なお、以下の説明では、全てのモータMの動作状態(加速、定速、減速)が互いに概ね一致するという前提が成立するものとしている。このような前提が成立しない場合には、全てのモータMのうち、最も高い加速度で動作するモータMの動作状態を判断するように構成すればよい。また、図5の「スタート」の時点においては、電圧制御スイッチ30がオンされた状態であるものとする。
【0045】
まず、モータMが加速動作状態に移行する前の非動作状態である期間(時刻t1以前)には、ステップS1で「NO」となるため、制御部27は電圧制御スイッチ30をオンした状態を維持する。また、時刻t1において、モータMが加速動作状態に移行した後も、ステップS1で「NO」となるため、制御部27は電圧制御スイッチ30をオンした状態を維持する。これにより、モータMが非動作状態である期間および加速動作状態である期間(時刻t2以前の期間)には、直流電源回路22から直流電源線L1’、L2’に対して連続的に電力が供給され、バス電圧Vdが定常値Vtypに保たれる。従って、このバス電圧Vdの供給を受けたインバータ装置24は、モータMを通常通りに加速動作させることが可能となる。
【0046】
時刻t2において、モータMが加速動作状態から定速動作状態に移行すると、ステップS1で「YES」となり、制御部27は電圧制御スイッチ30をオフする(ステップS2)。これにより、直流電源回路22から直流電源線L1’、L2’に対する電力の供給が停止され、バス電圧Vdが定常値Vtypから低下し始める。
【0047】
この後、制御部27は、モータMが減速動作状態から非動作状態に移行するまでの間(ステップS4で「NO」となる間)、以下のようにバス電圧Vdを下限電圧値Vmin付近に収束させるように電圧制御スイッチ30を制御する。すなわち、ステップS3において、バス電圧Vdが第1のしきい値Vth1より高いか否かが判断される。なお、この第1のしきい値Vth1は、下限電圧値Vminよりも所定値α1だけ低い値(Vmin−α1)に設定されている。バス電圧Vdが第1のしきい値Vth1よりも高い場合(ステップS3で「YES」)には、電圧制御スイッチ30をオフした状態が維持される。
【0048】
バス電圧Vdが第1のしきい値Vth1以下になった場合(ステップS3で「NO」)には、制御部27は電圧制御スイッチ30をオンする(ステップS5)。これにより、バス電圧Vdが上昇し始める。その後、バス電圧Vdが第2のしきい値Vth2以上になるまでの間(ステップS6で「NO」となる間)、電圧制御スイッチ30がオンされた状態が維持される。なお、この第2のしきい値Vth2は、下限電圧値Vminよりも所定値α2だけ高い値(Vmin+α2)に設定されている。
【0049】
そして、バス電圧Vdが第2のしきい値Vth2以上になった場合(ステップS6で「YES」)には、制御部27は電圧制御スイッチ30をオフする(ステップS7)。これに伴い、バス電圧Vdは再び低下し始める。この後は、モータMが減速動作状態から非動作状態に移行するまでの間(ステップS4で「NO」となる間)、ステップS3〜S7が繰り返し実行される。このように電圧制御スイッチ30のオン、オフが繰り返される制御(スイッチング制御)により、直流電源回路22から直流電源線L1’、L2’に対して断続的に電力が供給される。その結果、バス電圧Vdは、図4(c)に示すように、第1のしきい値Vth1と第2のしきい値Vth2との間において低下および上昇を繰り返し、その平均的な電圧値が下限電圧値Vminとなる。
【0050】
なお、本実施形態では、上記した所定値α1、α2は、下限電圧値Vminに比べて非常に低い値に設定されている。このため、図4(c)に示したバス電圧Vdの変動幅は非常に小さくなっている。従って、このような三角波状のバス電圧Vdが後段のインバータ装置24に供給されても、その動作に大きな影響(例えばノイズの発生など)を及ぼすことはない。また、本実施形態では、所定値α1、α2は互いに等しい値に設定しているが、互いに異なる値であってもよい。
【0051】
さて、時刻t3において、モータMが定速動作状態から減速動作状態に移行すると、減速動作に伴い発生するエネルギー(回生エネルギー)がモータMからインバータ装置24などを介して直流電源線L1’、L2’側に回生される。そして、この回生エネルギーに起因してバス電圧Vdが上昇することになる。ただし、この回生動作に伴うバス電圧Vdの上昇は、減速動作状態に移行した時点(時刻t3)から所定時間経過後の時点(時刻t4)から始まる。その理由は、モータMからの回生電流がインバータ装置24などを通じて直流電源線L1’、L2’に流れるまでの時間などの遅延時間が存在するためである。
【0052】
この時刻t4以降も、制御部27は、バス電圧Vdを下限電圧値Vmin付近に収束させるように電圧制御スイッチ30の制御を行う。すなわち、制御部27は、電圧制御スイッチ30をオフに維持する(ステップS3で「YES」およびステップS4で「NO」を繰り返している)。しかし、モータMからの回生エネルギーに伴いバス電圧Vdが上昇するため、電圧制御スイッチ30をオフに固定しても、バス電圧Vdは下限電圧値Vmin付近を起点として上昇を続ける。その後、バス電圧Vdは所定のピーク値Vmaxまで上昇した後、減速動作の終盤においては回生エネルギーの減少に伴い低下する。
【0053】
この後、時刻t5において、モータMが減速動作状態から非動作状態に移行するとステップS4で「YES」となり、制御部27は電圧制御スイッチ30をオンする(ステップS8)。これにより、直流電源回路22から直流電源線L1’、L2’に対して連続的に電力が供給され、バス電圧Vdが再び定常値Vtypに保たれる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態の制御部27は、モータMが加速動作状態から定速動作状態に移行するとバス電圧Vdを定常値Vtypから下限電圧値Vminまで低下させる。このため、バス電圧Vdは、減速動作時において回生エネルギーによって上昇するものの、定速動作時にバス電圧Vdを低下させた分(定常値Vtypと下限電圧値Vminとの差)だけ減速動作時におけるそのピーク値Vmax(最大値)が低くなる。この結果、減速動作時にバス電圧Vdが回生消費電圧値Vthr以上になったとしても、ピーク値Vmaxが低下した分だけ回生消費回路23が動作する期間が短くなる。このため、回生消費回路23が動作する際の回生抵抗32での発熱を、その動作期間を短くした分だけ抑制することができる。さらに、図4(b)に示したように、減速動作時にバス電圧Vdが回生消費電圧値Vthr未満までしか上昇しなければ、回生消費回路23が動作することなく、減速動作を行うことが可能となり、この場合には回生抵抗32の発熱を完全に抑えることができる。
【0055】
さて、図4に示したように、回生エネルギーによるバス電圧Vdの上昇は、減速動作状態に移行した時点(時刻t3)から所定時間経過後の時点(時刻t4)に始まる。このため、バス電圧Vdは、定速動作状態である期間の長さにかかわらず、時刻t4の時点において、定常値Vtypよりも必ず低い電圧値になっている。従って、本実施形態によれば、定速動作状態である期間が極めて短く設定された動作が行われる場合であっても、回生消費回路23における回生抵抗32の発熱を抑えることが可能となる。
【0056】
このように、本実施形態の制御部27は、モータMの駆動に関する制御内容を変更することなく、モータMが加速動作状態以外の動作状態であるときに電圧制御スイッチ30のオン、オフを制御してバス電圧Vdの電圧値を制御することで、減速動作時における回生抵抗32の発熱を抑制することができる。また、熱の発生を抑えるためにバス電圧Vdを制御するための制御動作は、ロボット2の一連の動作に全く影響を与えることがない。すなわち、例えば減速動作時間を通常より長くすることなく、回生抵抗32の発熱を抑えることができる。このため、ロボット2の一連の動作サイクルに要する時間(サイクルタイム)を従来のものと同等にすることができる。さらに、減速動作時に回生消費回路23が動作する場合であっても、従来と比べてその動作期間を短くすることができるので、回生抵抗32として定格電力値の小さいものを用いることができ、その分だけ、コントローラ3の小型化に寄与することができる。
【0057】
なお、モータMの加速動作中に、例えば緊急事態や異常事態が生じた場合にはモータMを急停止させる必要がある。この場合、加速動作状態から定速動作状態を経ることなく減速動作状態へと移行するため、バス電圧Vdを低下させる制御は行われず、回生消費回路23が通常通りに動作し、バス電圧Vdの上昇を回生消費電圧値Vthr未満に抑えることになる。
【0058】
(第2の実施形態)
以下、第1の実施形態に対し、バス電圧制御の内容を変更した第2の実施形態について図6を参照しながら説明する。
図6は、第1の実施形態における図4相当図である。本実施形態においては、制御部27は、モータMが加速動作状態から定速動作状態に移行すると、バス電圧Vdを定常値Vtypから下限電圧値Vmin’まで低下させる。この下限電圧値Vmin’は、第1の実施形態における下限電圧値Vminに対して所定値βを加えた値(Vmin+β)である。詳細は後述するが、所定値βは、モータMの減速動作時において、バス電圧Vdが回生消費電圧値Vthr以上に上昇しない範囲の値としている。従って、元々、モータMの減速動作時においてバス電圧Vdのピーク値Vmax(下限電圧値Vminに対して回生エネルギーによるバス電圧Vdの上昇量ΔVを加えた値)が回生消費電圧値Vthr以上に上昇するような場合には、所定値βはゼロとなる。図6では、減速動作時における元々のピーク値Vmaxが回生消費電圧値Vthr以上に上昇しないような動作を行う場合において、減速動作時におけるバス電圧Vdのピーク値Vmax’(最大値)を回生消費電圧値Vthrとほぼ一致させるように所定値βを設定している。
【0059】
さて、ロボット2のモータMの一連の動作(加速→定速→減速)を行う場合、加速動作時の加速度と減速動作時の加速度(減速度)とは等しくなるのが一般的である。すなわち、図6(a)に示すように、回転速度の傾き(加速度)が、加速動作状態(時刻t1〜t2)および減速動作状態(時刻t3〜t5)において、線対称の関係となるのが一般的である。これは、ロボット2は、通常、常に最高加速度で動作させるようになっているためである。
【0060】
本実施形態の制御部27は、上記した加速時における加速度と減速時における加速度との関係に着目し、以下のように、モータMの減速動作時に生じる回生エネルギーによるバス電圧Vdの上昇量を推定し、その上昇量を推定した上で所定値βを適切な値に設定する。すなわち、制御部27は、加速動作状態の期間(時刻t1〜t2)におけるモータMの加速度を検出する。この検出方法としては、例えば、モータMの回転速度v*を微分して加速度に変換する方法が挙げられる。なお、加速度の検出方法は、上記方法に限らずともよく、モータMの回転速度v*を用いた方法であればよい。さらには、モータMの回転速度v*を用いることなく、例えばモータMの回転位置p*を2回微分する方法であってもよい。
【0061】
制御部27は、前述した加速および減速における加速度の関係に基づいて、検出した加速動作時の加速度から、この後に行われる減速動作時の加速度を推定する。具体的には、制御部27は、この後に行われる減速動作時の加速度が、検出した加速動作時の加速度と等しいと推定する。さて、減速動作時に生じる回生エネルギーは、モータMの減速動作時の加速度に比例する。そこで、例えば、予め、減速動作時の加速度と回生エネルギーに伴うバス電圧Vdの上昇量との関係をテーブル化したデータを作成し、制御部27に記憶させておく。このようにすれば、制御部27は、記憶されたデータに基づいて、そのときに推定された減速動作時の加速度から回生エネルギーによるバス電圧Vdの上昇量ΔVを推定することが可能となる。そして、制御部27は、この推定した上昇量ΔVを踏まえた上で、モータMが減速動作状態であるときにバス電圧Vdのピーク値Vmax’が回生消費電圧値Vthr以上に上昇しない範囲で所定値βを設定する。本実施形態では、制御部27は、下記(9)式に基づいて、バス電圧Vdのピーク値Vmax’を回生消費電圧値Vthrとほぼ一致させるように所定値βを設定する。
β=Vthr−(Vmin+ΔV) …(9)
【0062】
本実施形態の構成によれば、元々減速動作時にバス電圧Vdのピーク値Vmaxが回生消費電圧値Vthr未満までしか上昇しない場合には、下限電圧値Vminに代えて下限電圧値Vmin’(Vmin+β)を用いる。つまり、モータMが定速動作状態に移行した後(加速動作状態以外の動作状態であるとき)、バス電圧Vdを減速動作時に回生消費回路23が動作しない範囲で可能な限り高い電圧値に収束させることができる。これにより、加速動作状態である期間(時刻t1〜t2)および非動作状態である期間(時刻t1以前、時刻t5以降)のバス電圧Vdの収束値(定常値Vtyp)と、定速動作状態である期間(時刻t2〜t3)および減速動作状態である期間(時刻t3〜t5)のバス電圧Vdの収束値(下限電圧値Vmin’)との差を、第1の実施形態に比べて小さくすることができる。このことにより、加速動作状態から定速動作状態に移行する際に直流電源回路22のコンデンサ31に流れる充電電流が低減され、これにより、コンデンサ31の寿命が向上するという効果が得られる。
【0063】
また、ロボット2は、作業および移動を繰り返す(作業→移動→作業→移動…)ようになっている。このため、移動の終了後、つまり減速動作の後には作業が開始され、その作業の終了後には移動が開始される、つまり加速動作が開始される。このように、ロボット2では、減速動作の後には必ず加速動作が行われるようになっている。そして、上述したように、減速動作時のバス電圧Vdを回生消費回路23が動作しない範囲で可能な限り高い電圧値に収束させているので、その後に行われる加速動作時において、より高いバス電圧Vdでもって加速を開始することができる。従って、本実施形態によれば、コンデンサ31の寿命を向上させつつ、加速動作を効率的に行うことが可能となる。
【0064】
なお、ロボット2のモータMの動作として、その使用用途によっては、減速動作時の加速度のみを小さくする、つまり、減速動作時の回転速度の傾きのみを緩やかにするということが考えられる。このような場合、制御部27が加速時の加速度に基づいて推定する減速時の加速度、ひいては減速動作時のバス電圧Vdの上昇量ΔVの推定に誤差が生じる。ただし、この誤差は、バス電圧Vdの上昇量ΔVを高く見積もってしまう方向に必ず現れる。つまり、所定値βをこの誤差分だけ必ず小さく設定することになる。このため、上記コンデンサ31の寿命向上の効果が若干薄れるものの、減速動作時において、バス電圧Vdのピーク値Vmax’が回生消費電圧値Vthrを超えて上昇することはない。従って、本実施形態によれば、第1の実施形態と同様、回生消費回路23の動作による熱の発生を抑制することができる。
【0065】
(その他の実施形態)
なお、本発明は上記し且つ図面に記載した各実施形態に限定されるものではなく、次のような変形または拡張が可能である。
開閉器29は、必要に応じて設ければよい。
電圧制御スイッチ30は、図1に示した位置に限らず、例えば、開閉器29の低電位側スイッチ29bと直流電源線L2’との間に設けてもよい。すなわち、電圧制御スイッチ30は、インバータ装置24へのバス電圧Vdの供給経路のうち、回生消費回路23よりも直流電源回路22側に介在して設ければよい。
本発明は、モータMとしてDCブラシレスモータを用いた構成に限らず、例えば直流モータ、交流モータなど各種のモータを用いた構成にも適用可能である。なお、モータMとして直流モータを用いる場合には、モータMを駆動する駆動手段として、インバータ装置24に代えて、例えばHブリッジ回路を主体として構成された駆動回路を用いればよい。
上記各実施形態では、本発明を6軸の垂直多関節型のロボット2に適用した例を説明したが、本発明は、各軸をモータにより駆動する構成のロボット全般に適用可能である。
【符号の説明】
【0066】
図面中、1はロボットシステム、2はロボット、22は直流電源回路、23は回生消費回路、24はインバータ装置(駆動手段)、27は制御部(駆動制御手段、直流電圧検出手段、回生制御手段、電圧制御手段)、30は電圧制御スイッチ(電圧制御スイッチ手段)、32は回生抵抗、33は回生スイッチ(回生スイッチ手段)、L1、L1’、L2、L2’は直流電源線、Mはモータを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットの各軸を駆動するためのモータと、
直流電源回路から一対の直流電源線を介して与えられる直流電圧の供給を受けて動作し、前記モータを駆動する駆動手段と、
前記モータの回転速度を回転速度指令に一致させるように前記駆動手段による前記モータの駆動を制御する駆動制御手段と、
前記直流電圧を検出する直流電圧検出手段と、
前記一対の直流電源線間に直列に設けられた回生スイッチ手段および回生抵抗とからなる回生消費回路と、
前記直流電圧検出手段の検出値が回生消費電圧値未満のときにあっては前記回生スイッチ手段をオフし、当該検出値が回生消費電圧値以上のときにあっては前記回生スイッチ手段をオンする回生制御手段と、
前記駆動手段への前記直流電圧の供給経路のうち、前記回生消費回路よりも前記直流電源回路側に介在して設けられた電圧制御スイッチ手段と、
前記電圧制御スイッチ手段の動作を制御する電圧制御手段とを備え、
前記電圧制御手段は、
前記回転速度指令を用いて前記モータの動作状態を判断し、
前記モータが非動作状態または加速動作状態であると判断した場合には、前記電圧制御スイッチ手段をオンした状態を維持し、
前記モータが加速動作状態以外の動作状態であると判断した場合には、前記直流電圧検出手段の検出値を前記モータを駆動するために最低限必要な電圧値である下限電圧値に一致させるように、前記電圧制御スイッチ手段をオンまたはオフすることを特徴とするロボットシステム。
【請求項2】
前記電圧制御手段は、
前記モータの回転速度を用いて前記モータの加速動作における加速度を検出し、その検出した加速度を元に、その後に行われる前記モータの減速動作における加速度を推定し、
前記推定した減速動作における加速度を元に、その減速動作に伴い前記モータ側から回生されるエネルギーによる前記直流電圧の上昇量を推定し、
前記モータが減速動作状態であるときに前記直流電圧検出手段の検出値が前記回生消費電圧値以上に上昇しない範囲で前記下限電圧値に対し所定値を加算することを特徴とする請求項1記載のロボットシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−161612(P2011−161612A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30015(P2010−30015)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
【Fターム(参考)】