説明

ロボットハンド及びロボットハンドを有するロボット

【課題】指リンクのストローク長を大きくとると共に、指リンクの駆動部の小型化を実現する。
【解決手段】指リンク14に、物体又は連結された他の指リンク14からX'方向に負荷が加わると(矢印A)、指リンク14のX'方向に回動し第1の歯車24がX'方向に回転する。これにより、第1の歯車24と対をなす第2の歯車34がハウジング20に対して入力側に移動し(矢印B)、第2の歯車34と接するバネ33が縮む。これによって、継ぎ手部23全体がハウジング20に対して、入力側に移動する。次に、出力側摩擦継ぎ手31が入力側に押し出されるため(矢印C)、出力側摩擦継ぎ手31に支持されているモータ22の先端部が押し上げられ、モータ22が回転軸25aを中心に上方に回動する(矢印D)。これにより、入力側回転軸27の先端が上方に傾く。これに伴って、モータ22に接続されたバネ30が伸び、モータ22を下方に押さえつけるよう作用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体を把持するロボットハンド、及びこれを供えたロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットハンドが有するロボットフィンガは、複数の指リンクが連結されて構成されている。この指リンクは、1つの指リンクに指リンクを駆動する駆動部が少なくとも1つ設けられる。しかしながら、この指リンクは、その体積が小さく、指リンクを駆動するモータとして大型で大出力のモータを搭載することができない。そのため、一般的には、指リンクを駆動する駆動部は、小出力の小型モータと、このモータの出力を所定の減速比で減速する変速機を組み合わせ、指リンクの駆動に必要な出力を得るよう構成されている。また、変速機の特性としては、ロボットハンドが物体を把持していない無負荷状態においては、減速比を小さくしてトルクを小さくして指リンクをすばやく所定の位置まで駆動し、ロボットハンドが物体を把持している負荷状態では、減速比を大きくしてトルクを大きくし大きな把持力を出力することが好ましい。
【0003】
特許文献1には、指リンクの駆動部の変速機として用いることができるリンク式無段変速機が開示されている。このリンク式無段変速機は、図6に示すように、支持面Sに固定されたベースリンク部材60と、ベースリンク部材60の一端側に枢着された入力リンク部材61と、ベースリンク部材60の他端側に枢着された出力リンク部材62と、一端が入力リンク部材61に接続され、他端が出力リンク部材62に接続された中間リンク部材63とを備えて構成されている。また、入力リンク部材61は、リンク要素61A、61Bがピボット軸64を介して連結されている。この連結部には、トーションばね65が取り付けられており、トーションばね65は、連結部の形状を一定に保つよう作用している。ベースリンク部材60と入力リンク部材61を接続する枢軸66には、図示しないモータが接続されている。このモータを駆動することにより、リンク部材61〜63が連動する。この結果、各リンク部材61〜63の変形により減速比を変化させ、出力リンク部材62を所定のストロークで動作させる。
【特許文献1】特開2005−90562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示されている指リンクの駆動部は、出力リンク部材62の両端が他のリンク部材に連結されているため、出力リンク部材62の可動するストロークが小さい。また、複数のリンク部材が連結されているため、駆動部全体の体積が大きい。また、負荷を受けた場合には、リンク部材全体が変形するため、出力部である出力リンク部材62の位置が大きく動いてしまうという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るロボットハンドは、ロボットフィンガを構成するリンク部材と、前記リンク部材を駆動するモータ部と、前記モータ部の動力を所定の減速比で前記リンク部材に伝達する継ぎ手部とを有し、前記モータ部は、モータと、前記モータの回転軸に接続され先端が球面に形成された入力側摩擦継ぎ手とを有し、前記継ぎ手部は、前記入力側摩擦継ぎ手と対向配置され、その球面に沿うように形成されたテーパ面を有し当該テーパ面で前記球面と摩擦接合する出力側摩擦継ぎ手と、前記リンク部材に付加される外力に応じて前記出力側摩擦継ぎ手を移動させ前記入力側摩擦継ぎ手との距離を変化させる移動機構とを有し、前記リンク部材に負荷される外力により、前記移動機構を介して前記継ぎ手部が前記モータ部方向に移動し、前記テーパ面に沿って前記入力側摩擦継ぎ手が移動することで前記減速比を変化させる。
【0006】
このように、リンク部材に負荷される外力によって入力側摩擦継ぎ手と出力側摩擦継ぎ手との距離を変化させて減速比を変化させることにより、負荷される外力に応じた駆動力をリンク部材に供給することができる。
【0007】
また、上記のロボットハンドにおいては、前記移動機構は、前記継ぎ手部の回転軸の回転運動を前記リンク部材の可動方向への動力に変換するギアを備えることが好ましい。このように、回転軸の回転運動をギアを介してリンク部材の可動方向の動力に変換することで、ギアに接続されたリンク部材のストロークを大きくとることができる。
【0008】
また、上記したロボットハンドにおいて、前記移動機構は、前記継ぎ手部の回転軸の周方向に歯車を有する第1の歯車と、前記第1の歯車と一対のギアを構成し前記継ぎ手部の回転軸の回転を前記リンク部材の駆動方向に変換する第2の歯車とを有することが好ましい。このように、第1の歯車と第2の歯車によって継ぎ手部の回転をリンク部材の駆動方向に変換することによって、リンク部材をリンク部材の駆動方向いっぱいに動作させることができる。
【0009】
また、上記したロボットハンドにおいて、前記モータ部に接続され、前記入力側継ぎ手を前記出力側継ぎ手に押圧する弾性部材を有することが好ましい。このように、モータ部に弾性部材を接続し、テーパ面と球面との摩擦を増大させることによって、入力側摩擦継ぎ手から出力側摩擦継ぎ手へ動力を効率よく伝達することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のロボットハンドによれば、リンク部材に外力が負荷された場合には、継ぎ手部が回転軸方向に移動して、入力側継ぎ手部と出力側継ぎ手部の接点が変化することにより減速比を大きくし、ロボットハンドの把持力を大きくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付した図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るロボットハンド10の全体斜視図である。ロボットハンド10は、アーム11の先端に対して回動可能に接続された拳12と、この拳12に一端が接続された複数本の指13を備えている。それぞれの指13は、複数の指リンク14が連結されて構成されている。指リンク14は、指先側を先端部とすると、基端部を中心にX−X'方向に回動可能に連結されている。ロボットハンド10は、複数の指リンク14をX−X'方向に任意に回動させることにより、物体などを把持できるよう構成されている。
【0012】
図2は、指リンク14及び指リンク14の駆動部15を示す断面図である。なお、指リンク14は、他の指リンク14と連結するよう構成されているが、ここでは説明を簡略化するため、1つの指リンク14と、この指リンク14を駆動する駆動部15について説明する。図2に示すように、駆動部15は、ハウジング20と、モータ22と、継ぎ手部23とを備えている。なお、紙面の左方向をY方向とし右方向をZ方向と定義する。
【0013】
ハウジング20は、上方が開口した箱型形状を有している。ハウジング20の内部には、ハウジング20の内部空間を2つに分割するように仕切り部材20aが形成されている。また、仕切り部材20aの高さ方向の中央には、軸孔20dが形成されている。ここで、仕切り部材20aよりY方向の空間を入力側空間Iとし、仕切り部材20aよりZ方向の空間を出力側空間IIとする。仕切り部材20aの先端には、出力側空間IIの一部を覆うように、Z方向に延びた指リンク支持部材20bが形成されている。指リンク支持部材20bの先端には、指リンク14の回動方向であるX−X'方向に回転する第1の歯車24が接続されている。また、第1の歯車24の回転軸24aには、図示しない位置において、指リンク14の基端部が固定接続されている。これにより、第1の歯車24がX−X'方向に回転すると、指リンク14もX−X'方向に回動するよう構成されている。
【0014】
入力側空間Iには、モータ22が設置されている。ハウジング20のY方向の側面20cの上方には、リンク部材25を介してモータ22の基端部が支持されている。モータ22は、モータ22の有する入力側回転軸27と直交する回転軸25aを中心に回動可能である。モータ22は、リンク部材25側から順に、モータ本体26、入力側回転軸27、入力側摩擦継ぎ手部28を備えている。モータ本体26は、制御入力に応じて回転速度が変化するよう構成されている。なお、モータ本体26は、小出力な小型モータによって構成することができる。モータ本体26の先端には、入力側回転軸27が接続されている。また、入力側回転軸27の先端には、入力側回転軸27と一体となって回転する入力側摩擦継ぎ手28が接続されている。入力側摩擦継ぎ手28は、先端方向に球面を有する半円球形状を有している。また、モータ本体26の下方には、他端がハウジング20に接続されたバネ30が接続されている。
【0015】
出力側空間IIには、継ぎ手部23の一部が設置されている。ハウジング20のZ方向の側面20eには、軸孔20dと高さ方向に一致する位置に、軸孔20fが形成されている。この軸孔20d及び軸孔20fには、所定の隙間を介して継ぎ手部23が有する出力側回転軸32が貫通している。入力側空間Iに突出した出力側回転軸32の先端には、出力側になるに従って半径R1が増大するテーパ面31aを有した出力側摩擦継ぎ手31が接続されている(図3)。出力側摩擦継ぎ手31は、出力側回転軸32と一体となって回転するよう構成されている。このテーパ面31aをY−Z方向に切った断面は、入力側摩擦継ぎ手28の球面に沿うよう曲率を有しており、このテーパ面31aの曲率半径R2は、入力側摩擦継ぎ手28半径rよりやや大きくなるよう構成されている(図3)。また、図2に示すように、入力側摩擦継ぎ手28の球面28aは、出力側摩擦継ぎ手31のテーパ面31aに接点Pで接している。すなわち、入力側摩擦継ぎ手28と出力側摩擦継ぎ手31は、一対となって、接点Pの摩擦によってモータ26の回転運動を出力側回転軸の回転運動に変換する第1伝達機構36を構成している。
【0016】
出力側空間IIに位置する出力側回転軸32には、第2の歯車34が接続されている。第2の歯車34は、出力側回転軸32と一体となって回転するよう構成されている。第2の歯車34は、周方向に歯車が形成されており、第2の歯車34と第1の歯車24は歯合するよう構成されている。すなわち、第1の歯車24の回転軸24aは、出力側回転軸32と直行している。第1の歯車24と第2の歯車34は、出力側回転軸32の回転運動を指リンク14の回動運動に変換する第2伝達機構37を構成している。また、第2の歯車34と仕切り部材20aとの間には、バネ33が介されている。
【0017】
図3は、図2の一部拡大図である。図3に示すように、入力側回転軸27が水平状態では、入力側摩擦継ぎ手28の球面28aの下方と、出力側摩擦継ぎ手31の入力側が接点Pにおいて接している。ここで、入力側回転軸27の回転中心と接点Pとの距離をL1とし、出力側回転軸32の回転中心と接点Pとの距離をL2とする。そこで、入力回転軸27が水平状態では、(距離L1:距離L2)=(3:1)であるとする。
【0018】
このように構成された駆動部15では、モータ26の動力が第1伝達機構36によって出力側回転軸32の回転運動に変換され、続いて、第2伝達機構37によって出力側回転軸32の回転運動が指リンク14の回動運動に変換される。ここで、第1伝達機構36においては、所定の減速比で動力が伝達される。なお、減速比は、(出力側の回転半径(距離L1)/入力側の回転半径(距離L2))で示すことができるため、図3においては、減速比は1/3となる。
【0019】
次に、ロボットハンド10(図1)が物体を把持しようとするときの動作について説明する。ロボットハンド10が物体を把持するときには、各指リンク14に負荷が加わることとなる。図4は、指リンク14に負荷が加わったときの指リンク14及び指リンク14の駆動部15を示す断面図である。
【0020】
はじめに、指リンク14に、物体又は連結された他の指リンク14からX'方向に負荷が加わると(矢印A)、指リンク14がX'方向に回動し、第1の歯車24がX'方向に回転する。これにより、第1の歯車24と対をなす第2の歯車34がハウジング20に対してY方向に移動し(矢印B)、第2の歯車34と接するバネ33が縮む。この結果、継ぎ手部23全体がハウジング20に対して、Y方向に移動する。これに伴い、出力側摩擦継ぎ手31がY方向に押し出されるため(矢印C)、出力側摩擦継ぎ手31に支持されているモータ22の先端部が押し上げられ、モータ22が回転軸25aを中心に上方に回動する(矢印D)。これにより、入力側回転軸27の先端が上方に傾く。また、これに伴って、モータ22に接続されたバネ30が伸び、モータ22を下方に押さえつけるよう作用する。
【0021】
図5に、図4の一部拡大図を示す。入力側回転軸27の先端が上方に傾いた状態では、入力回転軸27が水平(図3)であるときに対し、接点Pが入力側摩擦継ぎ手28の球面28aに対して上方に位置し、出力側摩擦継ぎ手31に対してZ方向に位置している。ここで、入力側回転軸27の回転中心と接点Pとの距離をL1と、出力側回転軸32の回転中心と接点Pとの距離をL2の比は、(距離L1:距離L2)=(2:3)となる。そのため、入力側回転軸27の先端が上方に傾いた状態では、減速比は3/2となる。よって、入力側回転軸27が水平状態であるときよりも、減速比は大きくなる。
【0022】
このように構成された指リンク14及び指リンク14の駆動部15では、ロボットハンド10が物体を把持していないときには、図2に示すように、入力側回転軸27が水平となって、モータ22と継ぎ手部23が離れた状態に位置しており、出力側摩擦継ぎ手31の接点Pにおける回転半径は小さい。これにより、減速比を小さくし、指リンク14の動作をすばやく所定の位置まで駆動することができる。一方、図4に示すように、ロボットハンド10が物体を把持するときには、モータ22と継ぎ手部23は近接し、出力側摩擦継ぎ手部31の接点における回転半径は図2に比べて大きい。これにより、減速比を大きくし、大きな出力(把持力)を得ることができる。
【0023】
また、図2に示すように、指リンク14は、その端部が指リンク14の回動方向であるX−X'方向に回転する第1の歯車に接続されているため、駆動部15に対してX−X'方向の可動角いっぱいまで回動することができる。これにより、指リンク14のストロークを大きくとることができる。
【0024】
また、ロボットハンド10が物体を把持したときなどに指リンク14に負荷が加わると、この負荷と減速比がつり合うまで指リンク14が負荷の加わる方向にバックストロークするが、本実施形態では、指リンク14とモータ22との間に介する部材が継ぎ手部23のみであるため、このバックストロークを小さくすることができる。
【0025】
また、本実施形態では、モータ22から指リンク14へ動力を伝達する継ぎ手部23では、第1伝達機構36及び第2伝達機構37が一体となって動作するため、この継ぎ手部23を小型化することができる。これにより、指リンク14の駆動部15の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係るロボットハンド10の全体斜視図である。
【図2】指リンク14及び指リンク14の駆動部15を示す断面図である。
【図3】図2の一部拡大図である。
【図4】指リンク14に負荷が加わったときの指リンク14及び指リンク14の駆動部15を示す断面図である。
【図5】図4の一部拡大図である。
【図6】従来の指リンクの駆動部を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
14…指リンク
20…ハウジング
22…モータ
23…継ぎ手部
24…第1の歯車
25…リンク部材
26…モータ本体
27…入力側回転軸
28…入力側摩擦継ぎ手
31…出力側摩擦継ぎ手
32…出力側回転軸
34…第2の歯車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットフィンガを構成するリンク部材と、
前記リンク部材を駆動するモータ部と、
前記モータ部の動力を所定の減速比で前記リンク部材に伝達する継ぎ手部とを有し、
前記モータ部は、
モータと、
前記モータの回転軸に接続され先端が球面に形成された入力側摩擦継ぎ手とを有し、
前記継ぎ手部は、
前記入力側摩擦継ぎ手と対向配置され、その球面に沿うように形成されたテーパ面を有し当該テーパ面で前記球面と摩擦接合する出力側摩擦継ぎ手と、
前記リンク部材に付加される外力に応じて前記出力側摩擦継ぎ手を移動させ前記入力側摩擦継ぎ手との距離を変化させる移動機構とを有し、
前記リンク部材に付加される外力により、前記移動機構を介して前記継ぎ手部が前記モータ部方向に移動し、前記テーパ面に沿って前記入力側摩擦継ぎ手が移動することで前記減速比を変化させるロボットハンド。
【請求項2】
前記移動機構は、前記継ぎ手部の回転軸の回転運動を前記リンク部材の可動方向への動力に変換するギアを備えた請求項1記載のロボットハンド。
【請求項3】
前記移動機構は、
前記継ぎ手部の回転軸の周方向に歯車を有する第1の歯車と、
前記第1の歯車と一対のギアを構成し前記継ぎ手部の回転軸の回転を前記リンク部材の駆動方向に変換する第2の歯車とを有する
請求項1又は2記載のロボットハンド。
【請求項4】
前記モータ部に接続され、前記入力側継ぎ手を前記出力側継ぎ手に押圧する弾性部材を有する請求項1乃至3記載のロボットハンド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−168390(P2008−168390A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−4085(P2007−4085)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】