説明

ローラーハースキルンおよびこれを用いたワークの加熱処理方法

【課題】加熱炉内のクリーン度(米国連邦規格209D)をクラス10レベルに高く保つことができるローラーハースキルンに関する技術を提供すること。
【解決手段】金属製ケース内に断熱材を充填した断熱壁で天井部3・床部4・左右側壁部5を構成した炉内空間にワーク搬送用の低発塵性ローラー6を備えた本体部1と、該本体部全体を覆う外殻2を有し、該本体部の左右側壁部に形成されたローラー貫通孔12を貫通した低発塵性ローラー6を、外殻に設けた低発塵性ローラー駆動部7で支持し、炉内空間には、低発塵性ヒータ8を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にクラス10レベルの高いクリーン度を要求される条件下での加熱処理に適したローラーハースキルンおよび加熱処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機ELや発光ダイオード、プラズマディスプレイ等の表示デバイスの大型化に対応すべく、ガラス基板上にシリコン多結晶トランジスタを形成する低温ポリシリコンTFT製造技術が各種開発されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
低温ポリシリコンTFT製造過程におけるアニール工程は、トランジスタ特性を直接左右する重要なプロセスである。望ましいトランジスタ特性を実現するためには、加熱炉内のクリーン度をクラス10レベルに高く保つことが要求される。このため、低温ポリシリコンTFT製造過程におけるアニール工程では、バッチ式マッフル炉の使用が一般的である。
【0004】
一方、表示デバイスの更なる大型化や、生産効率の観点から、アニール工程における加熱炉として、バッチ式マッフル炉よりも量産性に優れたローラーハースキルンの使用が望まれている。
【0005】
ローラーハースキルンは、炉の側壁を貫通して設けられた複数の挿通孔に各々ローラーを挿通し、該ローラーを回転させてワークを炉内搬送しながら、炉内に設けたヒータによりワークの加熱を行うものであるため、従来、挿通孔とローラーとの間に設けられる隙間からの気体の流出入、断熱材、ローラーとワーク搬送に伴う発塵が生じるローラーハースキルンにおいて、加熱炉内のクリーン度(米国連邦規格209D)をクラス10レベルに高く保つことは困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−104659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は前記の問題を解決し、加熱炉内のクリーン度をクラス10レベルに高く保つことができるローラーハースキルンに関する技術を提供することである。なお、本発明の「クリーン度」とは、米国連邦規格209D方式によるものとし、0.5μm以上の粒子を基準として立法フィート中の粒子数を表すものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明のローラーハースキルンは、金属製ケース内に断熱材を充填した断熱壁で天井部・床部・左右側壁部を構成した炉内空間にワーク搬送用の低発塵性ローラーを備えた本体部と、該本体部全体を覆う外殻を有し、該本体部の左右側壁部に形成されたローラー貫通孔を貫通した低発塵性ローラーを、外殻に設けた低発塵性ローラー駆動部で支持し、炉内空間には、低発塵性ヒータを備えることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のローラーハースキルンにおいて、該金属製ケースは、内部から炉外への雰囲気排出路となる配管を備え、金属製ケース内部を密閉構造としたことを特徴とするものである。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載のローラーハースキルンにおいて、断熱壁が真空断熱壁であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3の何れかに記載のローラーハースキルンにおいて、天井部・床部・左右側壁部を各々ブロック体として断熱壁を構成したことを特徴とするものである。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4の何れかに記載のローラーハースキルンにおいて、該金属製ケースが、ステンレス製のステンレスケースまたはインコネル製のインコネルケースであることを特徴とするものである。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5の何れかに記載のローラーハースキルンにおいて、低発塵性ローラーが溶融シリカローラーであることを特徴とするものである。
【0014】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6の何れかに記載のローラーハースキルンにおいて、低発塵性ヒータがステンレス製シーズヒータであることを特徴とするものである。
【0015】
請求項8記載の発明は、請求項1〜7の何れかに記載のローラーハースキルンにおいて、低発塵性ローラー駆動部が、低発塵ベアリングとピロー軸受けと磁気シール回転機構から構成されることを特徴とするものである。
【0016】
請求項9記載の発明は、請求項1〜8の何れかに記載のローラーハースキルンにおいて、外殻内が酸素濃度10ppm以下の気密空間であることを特徴とするものである。
【0017】
請求項10記載の発明は、請求項1〜9の何れかに記載のローラーハースキルンでワークを加熱処理する方法であって、セッターを使用することなく、ワークを直接ローラーでセッターレス搬送することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るローラーハースキルンは、金属製ケース内に断熱材を充填した断熱壁で天井部・床部・左右側壁部を構成した炉内空間にワーク搬送用の低発塵性ローラーを備えた本体部と、該本体部全体を覆う外殻を有し、該本体部の左右側壁部に形成されたローラー貫通孔を貫通したローラーを、外殻に設けた低発塵性ローラー駆動部で支持し、炉内空間には、低発塵性ヒータを備える構成により、加熱炉内のクリーン度をクラス10レベルに高く保つことを可能とした。
【0019】
請求項2記載の発明によれば、金属製ケースは、内部から炉外への雰囲気排出路となる配管を備え、金属製ケース内部を密閉構造とすることにより、金属製ケース内に充填した断熱材からのパーティクルが炉内に飛散することを防止することができる。
【0020】
請求項4記載の発明によれば、天井部・床部・左右側壁部を各々、別々の金属製ケース内に断熱材を充填したブロック体として構成し、これらを組み合わせて本体部を構成し、各ブロックは溶接せず、熱膨張を吸収可能な構造とすることにより、熱による変形の影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態のローラーハースキルンの前面図である。
【図2】図1の上面図である。
【図3】図1の側面図である。
【図4】本実施形態のローラーハースキルンの要部拡大図である。
【図5】他の実施形態におけるローラーハースキルンの前面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。本実施形態のローラーハースキルンは、有機ELの製造工程の内、低温ポリシリコンTFT製造過程におけるアニール工程での使用に適したものであり、炉内クリーン度(米国連邦規格209D)の要求レベルをクラス10とするものである。また、炉内空間は、いわゆるG8サイズの大型基板(2500×2200mm)の加熱処理に最適なサイズを有するものである。
【0023】
図1〜図3に示すように、本実施形態のローラーハースキルンは、炉内空間にワーク搬送用の低発塵性ローラー6を備えた本体部1と、該本体部の全体を覆う外殻2を有する2重壁構造を採用している。
【0024】
図4に示すように、本体部の左右側壁部に形成されたローラー貫通孔12を貫通した低発塵性ローラー6は、外殻2に設けた低発塵性ローラー駆動部7で支持され、加熱手段としては、本体部1の炉内空間に低発塵性ヒータ8を備えている。本実施形態では、低発塵性ローラー6として、溶融シリカローラーを使用し、低発塵性ヒータ8としてステンレス製シーズヒータを使用し、低発塵性ローラー駆動部7を、低発塵ベアリング9とピロー軸受け10と磁気シール回転機構11から構成している。炉内への回転機構導入部に磁気シール回転機構11を使用することにより、より少ない窒素ガス導入量で、炉内の酸素濃度を効率良く低下させることが可能となる。
【0025】
低発塵ベアリング9は、内輪と外輪との間に配置された複数の鋼球が回転可能に配置されており、各鋼球の間に各鋼球を周方向に位置決めする自己潤滑性複合材料を設ている。ピロー軸受け10は、ころがり軸受の転子を油浴させる油溜を有するプランマ型軸受である。
【0026】
本体部1の天井部3・床部4・左右側壁部5は、各々、金属製ケース内に断熱材を充填した断熱壁から構成されている。金属製ケースは、ステンレス製のステンレスケースまたはインコネル製のインコネルケース等の金属材料を用いる。
【0027】
従来から、ローラーハースキルンでは、ヒータで加熱した炉内温度を維持するために、炉壁を断熱構造としている。従来の断熱構造は、セラミックファイバー等からなる断熱材層で構成した断熱壁からなるものが通常であり、例えば、炉内クリーン度の要求レベルが1000〜1万程度のPDPや電子部品の加熱には問題なく使用が可能であった。しかし、当該従来構造では、断熱材から不可避的に発生するパーティクルが存在するため、クラス10レベル炉内クリーン度を達成することは困難である。
【0028】
これに対し、本発明では、天井部3・床部4・左右側壁部5を、金属製ケース内に断熱材を充填した断熱壁から構成することにより、断熱材からのパーティクルが本体部1の炉内に飛散することを防止可能としている。更に別の形態として、図5に示すように、金属製ケースに、内部から炉外への雰囲気排出路となる配管13を備え、金属製ケース内部を密閉構造とすることにより、金属ケース内が負圧になり、断熱効果を向上させることができる。また、金属製ケース内に充填した断熱材からのパーティクルが炉内に飛散する現象をより確実に回避することができる。本実施形態では、配管を工場排気に接続している。
【0029】
該断熱壁は、金属製ケース内に断熱材を充填した上で、更に、真空状態とした真空断熱壁とすることも可能である。真空空間を薄板ステンレスで囲んで構成される真空断熱技術は、熱伝導と対流による熱伝達を回避する技術として従来から知られており、断熱壁の厚みを薄く構成できるメリットがある。しかし、金属製ケース内に断熱材を充填していない従来技術では、金属製ケース内の真空を通して熱エネルギーが伝達されるため、炉内温度が250℃以上となる環境下では、輻射による熱伝達により所望の断熱効果が得られない問題がある。
【0030】
これに対し、真空空間とした金属製ケース内に、更に断熱材を充填することにより、炉内温度が250℃〜600℃となる環境下においても、輻射による熱伝達を効果的に抑制することができる。真空断熱壁を構成する手段としては、真空ポンプを用いて、断熱材を充填した金属製ケース内部の真空引きを行い、金属製ケースに接続された真空バルブ14を遮断することにより内部を真空状態に封止する手段の他、金属製ケースに真空配管を接続して、加熱処理中、常時金属製ケース内部を真空排気する手段を採用することもできる。
【0031】
ところで、本体部1の炉内温度が250℃〜600℃となる上記環境下では、本体部1の天井部3・床部4・左右側壁部5を構成する金属製ケースの変形が非常に大きな問題となる。
【0032】
これに対し、本実施形態では、天井部3・床部4・左右側壁部5を各々、別々の金属製ケース内に断熱材を充填したブロック体として構成し、これらを組み合わせて本体部を構成している。各ブロックは溶接せず、熱膨張を吸収可能な構造とすることにより、熱による変形の影響を低減している。一方、当該ブロック構造を採用した場合、炉内雰囲気の維持が難しくなる問題が新たに生じるが、本実施形態では、本体部の全体を外殻2で覆って、外殻の隙間をパッキンで密閉することで外殻内を密閉空間とした上で、炉内を正圧に維持することで、クリーン度がクラス100レベルである外殻内に存在するパーティクルが、本体部1の炉内空間に流れ込む現象を回避し、炉内雰囲気の維持を図っている。
【0033】
その他、外殻内を酸素濃度10ppm以下の低酸素雰囲気とすることにより、金属製ケースの錆を抑制することができる。本発明では、本体部の全体を外殻2で覆って、外殻の隙間をパッキンで密閉することで外殻内を密閉空間としている。
【0034】
素子自らが発光する有機ELでは発光のためのエネルギーとして画素ごとに10μA以上の電流供給が必要となるため、薄膜トランジスタ(TFT)の作り込みが非常に重要となる。本発明のローラーハースキルンは、ガラス基板上にシリコン多結晶を形成する低温ポリシリコンTFT製造過程のアニール工程での使用に適したものであり、炉内搬送中におけるガラス基板の裏面傷発生にも十分な注意が必要となるが、本発明のローラーハースキルンでは、上記全構成によりクラス10レベルの炉内クリーン度を達成しているため、ガラス基板を直接溶融シリカローラーの上に載せてセッターレス搬送することができる。セッターレス搬送によれば、ローラーとセッターの摩擦による発塵を抑制することができるとともに、搬送物の重量が軽量化され、熱効率を改善することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 本体部
2 外殻
3 天井部
4 床部
5 左右側壁部
6 低発塵性ローラー
7 低発塵性ローラー駆動部
8 低発塵性ヒータ
9 低発塵ベアリング
10 ピロー軸受け
11 磁気シール回転機構
12 ローラー貫通孔
13 配管
14 真空バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製ケース内に断熱材を充填した断熱壁で天井部・床部・左右側壁部を構成した炉内空間にワーク搬送用の低発塵性ローラーを備えた本体部と、該本体部全体を覆う外殻を有し、
該本体部の左右側壁部に形成されたローラー貫通孔を貫通したローラーを、外殻に設けた低発塵性ローラー駆動部で支持し、
炉内空間には、低発塵性ヒータを備えることを特徴とするローラーハースキルン。
【請求項2】
該金属製ケースは、内部から炉外への雰囲気排出路となる配管を備え、金属製ケース内部を密閉構造としたことを特徴とする請求項1記載のローラーハースキルン。
【請求項3】
断熱壁が真空断熱壁であることを特徴とする請求項1または2記載のローラーハースキルン。
【請求項4】
天井部・床部・左右側壁部を各々ブロック体として断熱壁を構成したことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のローラーハースキルン。
【請求項5】
該金属製ケースが、ステンレス製のステンレスケースまたはインコネル製のインコネルケースであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のローラーハースキルン。
【請求項6】
低発塵性ローラーが溶融シリカローラーであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のローラーハースキルン。
【請求項7】
低発塵性ヒータがステンレス製シーズヒータであることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のローラーハースキルン。
【請求項8】
低発塵性ローラー駆動部が、低発塵ベアリングとピロー軸受けと磁気シール回転機構から構成されることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のローラーハースキルン。
【請求項9】
外殻内が酸素濃度10ppm以下の気密空間であることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載のローラーハースキルン。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載のローラーハースキルンでワークを加熱処理する方法であって、セッターを使用することなく、ワークを直接ローラーでセッターレス搬送することを特徴とするローラーハースキルンによる加熱処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−100963(P2013−100963A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245527(P2011−245527)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】