説明

ワイヤソーの加工液循環装置

【課題】ワイヤソーにおいて、加工液に混ざった切削屑を除去し、切削屑の除去された加工液を再度ワイヤソーに供給する。
【解決手段】走行するワイヤ41にワーク44を押し当てて切断するワイヤソー2と、ワイヤソー2に加工液8を供給する供給槽6と、加工液8の回収槽5とを備えたワイヤソー2の加工液循環装置1であって、回収槽5は、回収された加工液8が供給される加工液貯留部12と、加工液貯留部12の一端に設けられた傾斜部13と、回収槽5の幅方向両端に沿って周回可能な無端チェーン18と、加工液貯留部12の底面35に沈降した切削屑28を傾斜部13上方へ掻き上げる複数のスクレーパー23と、切削屑28の排出口11と、加工液貯留部12の加工液8をオーバーフローさせて供給槽6に供給する加工液流出部7とから構成し、供給槽6は、回収槽5からオーバーフローする加工液8を貯留するとともにワイヤソー1に供給するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤソーに用いられるワイヤソーの加工液循環装置に関する。さらに詳しくは、固定砥粒ワイヤを用いたワイヤソーでサファイアやシリコン等のワークを切断する際に使用された加工液から切削屑を分離し、切削屑の除かれた加工液を再びワイヤソーの加工に供するワイヤソーの加工液循環装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の溝ローラ間にワイヤを巻き回してワイヤ列を形成し、このワイヤを一方向走行または往復走行させて、前記ワイヤに加工液を供給しながら、サファイア、シリコン、セラミックス等のワークを前記ワイヤ列に押し当てて切断するワイヤソーが知られている。
【0003】
前記ワイヤソーでは、加工液としてシリコンカーバイドやダイヤモンド等の砥粒を油性や水溶性の切削液に混合したスラリを切断部近傍に供給しながらワークを切断する遊離砥粒方式のワイヤソーと、ワイヤ表面にダイヤモンド等の砥粒が電着やレジン等で固定された固定砥粒ワイヤを用い、切断部近傍に水溶性の切削液や界面活性剤が添加された水等の加工液を供給しながらワークを切断する固定砥粒方式のワイヤソーが知られている。
【0004】
前記遊離砥粒方式及び固定砥粒方式のワイヤソーでは、前記加工液がワーク切断部に供給されながらワークの切断が行われ、前記加工液はワイヤソーに設けられた回収タンクに回収されて、回収タンクから再度ワイヤソーに供給ポンプを通じて供給されるようになっている。
【0005】
上記のように加工液は、ワイヤソーのワーク切断部と回収タンクとの間を循環するようになっているが、ワークの切断に供された加工液は、切断時に発生したワークの破片や切削屑が混入しており、この切削屑等が混入した加工液がワーク切断部に供給されると、ワークの切断部分に切削屑を噛み込んで加工精度が低下したり、溝ローラに切削屑が目詰まりしてワイヤが断線したりする場合がある。
【0006】
前記遊離砥粒方式のワイヤソーでは、加工液に粒径の細かい砥粒を混ぜたスラリを用いているため、砥粒と同等またはそれよりも粒径が細かい切削屑を除去することは困難である。しかし、固定砥粒方式のワイヤソーでは、加工液に砥粒を混ぜていないため、例えば加工液を遠心分離機に通すことによって加工液から切削屑が除去されている(例えば特許文献1及び2)。
【0007】
また、回収槽と供給槽との間にタンクを設け、前記回収槽とタンクとの間にフィルタを設けたり、凝集槽を設けて切削屑を凝集させて沈降した切削屑を除去したりすることも行われている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−144229号公報
【特許文献2】特開2010−253621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記遠心分離機を用いる方法は、遠心分離機が比較的大型であるために、ワイヤソーが大型化する問題や、回収された加工液を遠心分離機に送り込むための比較的大容量のポンプが必要となりコストが増大する問題がある。
【0010】
また、上記フィルタを用いる方法は、切削屑の粒径が細かいため切削屑を除去するために少なくともワイヤに固定されている砥粒の粒径よりも細かいフィルタ径のフィルタを用いねばならず、このフィルタに加工液を通すには、液圧が必要となるため大容量の供給ポンプが必要となりコストの増大や装置の大型化に繋がる問題がある。また、多量の切削屑でフィルタが目詰まりを起こして加工液流量が低減し、加工精度の低下や、ワイヤの冷却不足による断線が発生したりする問題がある。そこで、フィルタ径が大きいフィルタを用いると、切削屑がフィルタを通り抜けてワイヤに供給され、固定砥粒ワイヤの固定砥粒が目詰まりし、加工精度が低下する問題がある。
【0011】
また、沈殿槽で切削屑を沈殿させて除去する方法は、沈殿槽の底部に切削屑が凝集して固着するために、この固着した切削屑を取り除くことが困難であり、清掃に時間を要する問題がある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、簡素でコンパクトなワイヤソーの加工液循環装置を提供するとともに、新たに大容量の供給ポンプを必要とせず、コストが低減できるワイヤソーの加工液循環装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために請求項1の発明は、固定砥粒ワイヤを複数の溝ローラ間に巻き回し、このワイヤを一方向走行または往復走行させて、前記溝ローラ間のワイヤにワークを押し当てて切断するようにしたワイヤソーと、前記ワイヤソーの溝ローラ間のワイヤに加工液を供給する供給槽と、前記加工液を回収する回収槽とを備えたワイヤソーの加工液循環装置であって、前記回収槽は、前記ワイヤソーから回収された加工液が供給される加工液貯留部と、前記加工液貯留部の一端に設けられ、上方に向けて傾斜した傾斜部と、
前記加工液貯留部から前記傾斜部に沿ってその幅方向両端に設けられ、前記加工液貯留部から前記傾斜部に沿って周回可能に設けられた無端チェーンと、前記両無端チェーン間に掛け渡され、前記加工液貯留部及び前記傾斜部の底面に摺接しながら両無端チェーンとともに周回移動することで、前記底面に沈降した切削屑を前記傾斜部の傾斜上がり端側へと掻き上げる複数のスクレーパーと、前記傾斜部の傾斜上がり端側の底面に設けられ、前記切削屑を排出する切削屑排出口と、前記加工液貯留部に溜まった加工液の上澄みをオーバーフローさせて前記供給槽に供給する加工液流出部とから構成し、前記供給槽は、前記回収槽からオーバーフローして流出する加工液を貯留するとともにワイヤソーに供給するように構成したワイヤソーの加工液循環装置である。
【0014】
また、請求項2の発明は、前記回収槽と供給槽との間に中間槽を設け、前記中間槽で前記回収槽から供給される加工液から切削屑を沈降分離するようにし、この切削屑が分離された加工液を供給槽に供給するようにした構成を採用した請求項1に記載のワイヤソーの加工液循環装置である。
【0015】
また、請求項3の発明は、前記傾斜部上端で、前記無端チェーンを下方に向けて折り返すように配置し、前記無端チェーンの周回に伴って前記スクレーパーの掻き上げ面が下方の排出口の方向を向くように周回させる構成を採用した請求項1または2のいずれかに記載のワイヤソーの加工液循環装置である。
【発明の効果】
【0016】
ワイヤソーから回収された加工液から切削屑を沈降により分離させ、その分離された切削屑をスクレーパーでかき上げながら排出するとともに切削屑の除去された加工液をワイヤソーに供給するようにしたので、遠心分離機を設ける場合のように大容量のポンプが必要なく、装置が大型化することがない。また、従来から使用していた供給ポンプのみでワイヤソーへの加工液供給が行えるので、コストを増大させずに切削屑を除去できる。
【0017】
また、加工液から切削屑が除去された状態でワイヤソーに供給されるので、固定砥粒ワイヤの固定砥粒が目詰まりすることなく加工精度が向上するとともにワイヤや溝ローラへの異物噛み込みによる断線が起こらない。
【0018】
また、加工液から切削屑が除去された上澄み加工液をオーバーフローさせて供給槽に供給するようにしたので、従来のフィルタ式の切削屑除去のように回収槽からフィルタを介して供給槽に加工液を送る供給ポンプが不要となるのでコストを低減できる。
【0019】
また、回収槽と供給槽との間に中間槽を設けても、新たに回収槽と中間槽、中間槽と供給槽間にポンプを設けずにオーバーフローによって加工液を移動させることができるのでコストが低減でき、さらに精度良く切削屑を除去することができる。
【0020】
また、分離した切削屑から、サファイア、固定砥粒ワイヤから脱落したダイヤモンド等を再利用に供することができるので、特に有用な金属等を切断した場合にリサイクルすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】は、本発明の第一の実施形態に係る説明図である。
【図2】は、本発明のワイヤソーの加工液循環装置の第一の実施形態を表す平面図である。
【図3】は、図2のA−A方向矢視断面図である。
【図4】は、図2の一部切欠きB−B方向矢視断面図である。
【図5】は、本発明の第二の実施形態に係る説明図である。
【図6】は、本発明のワイヤソーの加工液循環装置の第二の実施形態を表す平面図である。
【図7】は、本発明の第三の実施形態に係る説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図1乃至図7に基づいて説明する。
図1乃至図4は、本発明の第一の実施形態を表すものであり、図1は、本発明のワイヤソーの加工液循環装置の説明図、図2は、本発明のワイヤソーの加工液循環装置の平面図、図3は図1のA−A方向から見た矢視断面図、図4は、図1のB−B方向から見た矢視断面図である。
【0023】
図1のように、ワイヤソー2には、多数の溝が刻まれた複数の溝ローラ40が設けられ、これら複数の溝ローラ40間に電着や樹脂等によりダイヤモンドやアルミナ、ボロンなどの砥粒が固定されたワイヤ41が巻き回されてワイヤ列が形成されている。このワイヤ41は、図示しない供給側及び回収側リール間を、図示しない適宜の張力機構を経て、一方向走行または往復走行するようになっている。
【0024】
また、前記ワイヤ列と対向するようにサファイア、シリコンカーバイド、シリコンなどのワーク44が加工テーブル43にセラミックスやカーボンなどのダミー部材を介して接着固定されている。この加工テーブル43は、昇降モータ45により、適宜の昇降機構を介して昇降動するようになっており、ワーク44を前記ワイヤ列のワイヤ41に押し付けていくようになっている。
【0025】
また、前記ワイヤ列の近傍には加工液ノズル42が設けられ、前記ワイヤ列のワイヤ41に水(適宜、界面活性剤等の添加をしたもの)、水溶性切削液、油性切削液などの加工液8が供給されるようになっている。前記加工液8は、切断するワーク44や、使用するワイヤ41に応じて適宜選択することができる。また、前記加工液8は、供給槽6に貯留された加工液8が供給ポンプ30で送出されることで供給されるようになっている。前記供給槽6内には、温調コイル32が設けられ、温調機33から適宜の冷却液を通じることで供給槽6内に貯留された加工液8を冷却するようになっている。
【0026】
前記ワーク44の切断部の下方には、加工液8を回収して集める加工液受け46が設けられ、回収された加工液8は、加工液排出パイプ3を介してワイヤソー2から排出されるようになっている。前記加工液8は、ワイヤソー2から排出されて、ワイヤソー2に隣接して設けられた回収槽5の回収口10に注ぎ込まれるようになっている。
【0027】
次に図2乃至図4に基づいて、本発明のワイヤソーにおける加工液循環装置について説明する。
【0028】
加工液循環装置1は、ワイヤソー2に隣接して設けられ、ワイヤソー2から排出される加工液8が注ぎ込まれる回収槽5と、この回収槽5で切削屑28が除去された加工液8の上澄みをオーバーフローさせて流出させる加工液流出部7と、前記加工液流出部7から流出する加工液8を貯留するとともにワイヤソー2のワーク切断部に供給する供給槽6とから構成される。
【0029】
前記回収槽5は、図3及び図4のように、矩形の筒体状に形成され、平坦に設けられた加工液貯留部12と、この加工液貯留部12の長手方向の一端に接続され、図3での左上がり傾斜状に形成された傾斜部13と、加工液貯留部12の傾斜部13とは他端に隣接して設けられた加工液流出部7とから構成されている。
【0030】
前記加工液貯留部12は、その上方に開口部10が設けられ、この開口部10上にワイヤソー2の加工液排出パイプ3が位置しており、この加工液排出パイプ3から排出される加工液8が、前記加工液貯留部12に注ぎ込まれるようになっている。
【0031】
また、前記開口部10の直下には、異物回収ネット15がブラケットに支持して設けられ、加工液8に混入した比較的大きな異物(ワーク44の破片等)を取り除くようになっている。この異物回収ネット15は、加工するワーク44に応じて適宜のメッシュ径のものを用いることができ、例えば0.5mm程度のものが使用できる。
【0032】
また、前記加工液貯留部12は、ワイヤソー2から回収された加工液8をその底面35に貯留するようになっており、一定量以上の加工液8が注ぎ込まれると、前記加工液流出部7にオーバーフローして流出するようになっている。また、前記加工液貯留部12は、後述するが、所定時間加工液8を貯留して加工液8に混入した切削屑28を沈降させるようになっている。
【0033】
また、前記加工液貯留部12には、前記加工液流出部7の他端側に傾斜上がり状態で設けられた傾斜部13が接続されている。この傾斜部13の傾斜上がり端には、その幅方向に沿って軸19が前記傾斜部13の両側壁に軸支されている。前記軸19の一端には、従動プーリ26が接続され、この従動プーリ26には、ベルト29を介して駆動モータ14の軸に接続された駆動プーリ25が接続され、この駆動モータ14を駆動することで軸19が回動するようになっている。また、この軸19の両端には、それぞれスプロケット20が固定されており、前記駆動モータ14により回動するようになっている。
【0034】
また、前記加工液貯留部12の加工液流出部7側の端には、幅方向に沿って軸16が設けられ、前記加工液貯留部12の両側壁に軸支されている。この軸16の両端にはそれぞれスプロケット17が設けられ、これら両スプロケット17、17と前記スプロケット20、20のそれぞれに無端チェーン18が張設されている。
【0035】
また、前記加工液貯留部12及び傾斜部13に沿った幅方向両端の上下に上側ガイドレール21、21と下側ガイドレール22、22が設けられており、前記上側及び下側ガイドレール21、22に沿って無端チェーン18が周回するようになっている。前記下側ガイドレール22,22は、前記加工液貯留部12及び傾斜部13に沿った底面35と一定の間隔を開けて設けられ、無端チェーン18が前記底面と一定の間隔を開けて走行するようになっている。なお、前記無端チェーン18は、これらのガイドレール21、22に沿ってスムーズに周回するようにチェーンの連結軸にローラが軸支されている。なお、前記無端チェーン18及びスプロケット17、20は、適宜、シールして加工液8が侵入しないようにすることが好ましい。
【0036】
前記両無端チェーン18、18間には、加工液貯留部12の幅方向に沿って所定の間隔で複数のスクレーパー23が設けられ、前記スクレーパー23の両側端は、ブラケット24を介して両無端チェーン18、18と固定されている。前記スクレーパー23の先端部23aには、メッシュ状の凹凸またはブラシ等が設けられ、前記スクレーパー23が回収槽5の底面35を走行する際に、この底面35と前記先端部23aが摺接し、加工液貯留部12の底面に溜まった切削屑28を傾斜部13の上端側に向けて掻き上げるようになっている。前記無端チェーン18は、図3の矢印のように時計方向に周回するようになっている。
【0037】
前記傾斜部13の傾斜上がり端側の底面35には、切削屑排出部11が設けられ、前記スクレーパー23で掻き上げられる切削屑28を排出するようになっている。この切削屑排出部11の下方には、切削屑回収箱27が設けられており、前記切削屑28を回収するようになっている。
【0038】
前記加工液流出部7は、図2のように供給槽6と連通しており、回収槽5からオーバーフローした加工液8がこの供給槽6に流入するようになっている。なお、この加工液流出部7と回収槽5との間には、一定の高さの堰板が設けられ、回収槽5に加工液8が所定時間滞留し、切削屑28を沈降させるようになっているが、回収槽5で、なるべく多くの切削屑28の沈降時間を確保するために、堰板に代えて自動で開閉するシャッターを設けたり、堰板を上下させる適宜な機構を設けてもよい。
【0039】
前記供給槽6内には、加工液8を冷却する温調コイル32が設けられ、この温調コイル32は、温調機33と接続されている。また、供給槽6には、供給ポンプ30が設けられ、この供給ポンプ30の加工液供給口31には、加工液供給ホース4が接続されている。この加工液供給ホース4は、ワイヤソー2に接続され、供給槽6に貯留された加工液8をワイヤソー2のワーク切断部に供給するようになっている。なお、本実施形態においては、回収槽5で切削屑28の沈降時間を確保するとともにワイヤソー2に十分な加工液8を供給するために供給槽6に貯留する加工液8の容量を十分に確保するようにしておくことが好ましい。
【0040】
以上が、本発明の第一の実施形態に係るワイヤソーの加工液循環装置の構成であり、次に、図1に基づいて前記加工液循環装置の動作を説明する。
【0041】
ワイヤソー2には、供給槽6から供給ポンプ30によって清浄な加工液8が供給され、加工液ノズル42から、ワーク切断部のワイヤ列に供給される。このとき、供給される加工液8の温度は、加工するワーク44のサイズ、用いる加工液8の種類等によっても左右されるが、25℃前後のものが供給される。ワイヤソー2では、固定砥粒ワイヤ41が一方向走行または往復走行され、前記ワイヤ列にワーク44が押し付けられて複数枚のウエハに切断される。
【0042】
上記の切断に供した加工液8は、加工液受け46に落下して集められ、加工液排出パイプ3から排出される。排出される加工液8は、供給槽6からの加工液8の流量やワーク44の材質、サイズ等によって左右されるが、25〜30℃程度である。
【0043】
前記排出された加工液8は、回収口10を通じて、回収槽5に注がれ、異物回収ネット15で比較的大きな異物が取り除かれた後、加工液貯留部12に貯留されていく。所定の時間(任意に設定可)経過後、加工物8に混ざった切削屑28が加工液貯留部12の底面35に沈降する。
【0044】
次に、駆動モータ14により、無端チェーン18を図示矢印方向に駆動することで、スクレーパー23の先端部23aが、加工液貯留部12の底面35に摺接しながら、傾斜部13の上端に向けて周回し、切削屑28を順次切削屑排出口11に向けて掻き上げていく。このとき、スクレーパー23で切削屑とともに掻き上げられた加工液8は、傾斜部13の底面35に沿って流れ落ち、切削屑28のみが切削屑排出口11から切削屑回収箱27に排出される。前記スクレーパー23は傾斜部13のスプロケット20で上方に向かって反転され、再び、加工液貯留部12へ周回していく。なお、このスクレーパー23の周回は、所定時間(任意に設定可)経過後、停止させる。前述の加工液8の沈降時間及びスクレーパー23の動作時間は、加工するワーク44の材質、大きさ等に応じて適宜設定すればよい。
【0045】
前記加工液貯留部12に貯留され、切削屑28が除去された加工液8は、一定量加工液貯留部12に溜まると、加工液流出部7へとオーバーフローし、流出した加工液8は、供給槽6に流入する。
【0046】
前記供給槽6に貯留された加工液8は、温調機33で冷却され、再び所定温度にされて供給ポンプ30によりワイヤソー2へ供給される。この加工液8は、配管34を通じてワイヤソー2の加工液ノズル42からワーク切断部に供給される。上記の動作を繰返し行うことで、加工液8を回収槽5、供給槽6、ワイヤソー2との間で循環させながら、回収槽5で切削屑28を除去し、清浄な加工液8をワイヤソー2に供給する。従って、新たに供給用ポンプを設けることなく、加工液8を清浄化でき、ワイヤソー2に循環して加工液8を供給することができる。
【0047】
以上が、第一の実施形態に係るワイヤソーの加工液循環装置であり、次に第二の実施形態について、以下に説明する。
【0048】
図5及び図6のように第二の実施形態においては、回収槽5と供給槽6との間に中間槽50が設けられたものであり、その他については、第一の実施形態と同様であるので、同様の部分は説明を省略する。
【0049】
回収槽5で切削屑28が除去された加工液8は加工液貯留部12からオーバーフローし、加工液流出部7を通じて中間槽50に供給される。この加工液8から、回収槽5で完全に除去し切れなかった僅かな切削屑28を前記中間槽50で滞留している間に沈降させて分離させる。なお、この中間槽50と供給槽6との間には、一定量の加工液8が溜まるとオーバーフローするように堰板が設けられているが、この堰板に代えて自動で開閉するシャッターや堰板を自動で上下させる適宜な機構を設ければ、中間槽50での加工液8の滞留時間を確保でき、より切削屑28を精度よく除去することができる。
【0050】
この中間槽50に貯留され、切削屑28が沈降分離された加工液8は、中間槽50に一定量溜まるとオーバーフローし、加工液流出部51を通じてその上澄みが供給槽6に供給される。従って、供給槽6に一つだけの供給ポンプ30を設けるだけで、加工液8を清浄化できる。
【0051】
なお、このように中間槽50を設けると加工液8をより一層清浄化できるとともに供給槽6内の加工液量を安定化できるので、ワイヤソー2への加工液を安定に供給できる。また、加工液8の冷却も併せて中間槽50で滞留している間に自然に行えるので、より清浄で温度も安定した加工液8をワイヤソー2に供給でき、ワーク44の加工精度が向上する。なお、必要により中間槽50に温調コイル32を設けて、冷却するようにしてもよい。
【0052】
また、本実施形態では中間槽50から供給槽6にオーバーフローによって加工液8を供給するようにしたが、これに代え、中間槽50に供給ポンプを設け、この供給ポンプで送出される加工液8をフィルタで濾過してから供給槽6に供給するようにしてもよい。このようにすることで供給ポンプのコストは増大するが、より精度良く加工液8を清浄化でき、大半の切削屑28を除いてからの加工液8をフィルタで濾過するのでフィルタの目詰まりも起こらない。
【0053】
また、ワイヤソー2のベアリング部分等に加工液8や切削屑28が侵入しないようオイルミストを噴射させている場合があり、このオイルが加工液8中に混入する場合がある。加工液8に水や水溶性の切削液を用いた場合は、このオイルが加工液8と混ざって、加工液8が劣化したりするので、中間槽50と供給槽6との間にオイル分を吸着するフィルタ等を設ければ、加工液8の不純物が除去でき、加工液8の劣化を防止できる。
【0054】
以上が、第二の実施形態であり、次に第三の実施形態について以下に説明する。第三の実施形態についても、第一及び第二の実施形態と同様の部分については説明を省略する。
【0055】
図7のように、第三の実施形態においては、切削屑28を排出する切削屑排出口11付近でスクレーパー23の切削屑28を掻き上げる面が下方に向くようにし、より切削屑28が排出され易いように構成してある。これは、ワイヤソー2の加工液8から沈降分離される切削屑28は、粒径が細かく、加工液8を含有してヘドロ状になっているので、掻き上げだけでは、スクレーパー23に付着した切削屑28を除去し難いためである。
【0056】
前記傾斜部13の傾斜上がり端側に設けられたスプロケット20の下方にスプロケット52が設けられ、その下方にスプロケット53が設けられている。前記傾斜部13の下方側を周回してきた無端チェーン18は、前記スプロケット52によって、鉛直下方に折り返される。前記折り返された無端チェーン18は、さらにスプロケット53によってスプロケット20に向けて上方に折り返される。
【0057】
上記のようにすることで、スクレーパー23は、傾斜部13の底面35側を周回する際に、切削屑28を掻き上げて切削屑排出口11から切削屑28を排出し、さらにスクレーパー23に付着して残った切削屑28をスクレーパー23の切削屑28の掻き上げ面側を下方に向けて反転させることで、スクレーパー23に残った切削屑28を完全に切削屑回収箱27に落下させることができる。なお、スクレーパー23の掻き上げ面側が下方を向いた際にスクレーパー23を振動させるようにしたり、スクレーパー23に衝撃を与えて、切削屑28の落下を促進させるようにしてもよい。
【0058】
その他の部分は、第一及び第二の実施形態と同様であるので説明を省略する。
以上が、本発明のワイヤソーの加工液循環装置の実施形態であるが、本発明は、これに限定されず、本発明の範囲内で各種の変更が可能である。例えば、無端チェーンに代えて各種のベルトを用いたり、中間槽50に必要により温調機を設けたりすることができる。また、本発明の実施形態では、回収槽5のスクレーパー23を間欠駆動するようにしたが、連続で駆動するようにしてもよい。また、スクレーパー23の設置個数や形状は適宜変更できる。
【符号の説明】
【0059】
1 加工液循環装置
2 ワイヤソー
3 加工液排出パイプ
4 加工液供給ホース
5 回収槽
6 供給槽
7 加工液流出部
8 加工液
9 液面
10 回収口
11 切削屑排出口
12 加工液貯留部
13 傾斜部
14 駆動モータ
15 異物回収ネット
16 軸
17 スプロケット
18 チェーン
19 軸
20 スプロケット
21 上側ガイドレール
22 下側ガイドレール
23 スクレーパー
23a 先端部
24 ブラケット
25 駆動プーリ
26 従動プーリ
27 切削屑回収箱
28 切削屑
29 ベルト
30 供給ポンプ
31 加工液供給口
32 温調コイル
33 温調機
34 配管
35 底面
40 ワークローラ
41 固定砥粒ワイヤ
42 加工液ノズル
43 加工テーブル
44 ワーク
45 昇降モータ
46 加工液受け
50 中間槽
51 加工液流出部
52 スプロケット
53 スプロケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定砥粒ワイヤを複数の溝ローラ間に巻き回し、このワイヤを一方向走行または往復走行させて、前記溝ローラ間のワイヤにワークを押し当てて切断するようにしたワイヤソーと、前記ワイヤソーの溝ローラ間のワイヤに加工液を供給する供給槽と、前記加工液を回収する回収槽とを備えたワイヤソーの加工液循環装置であって、
前記回収槽は、
前記ワイヤソーから回収された加工液が供給される加工液貯留部と、
前記加工液貯留部の一端に設けられ、上方に向けて傾斜した傾斜部と、
前記加工液貯留部から前記傾斜部に沿ってその幅方向両端に設けられ、前記加工液貯留部から前記傾斜部に沿って周回可能に設けられた無端チェーンと、
前記両無端チェーン間に掛け渡され、前記加工液貯留部及び前記傾斜部の底面に摺接しながら両無端チェーンとともに周回移動することで、前記底面に沈降した切削屑を前記傾斜部の傾斜上がり端側へと掻き上げる複数のスクレーパーと、
前記傾斜部の傾斜上がり端側の底面に設けられ、前記切削屑を排出する切削屑排出口と、
前記加工液貯留部に溜まった加工液の上澄みをオーバーフローさせて前記供給槽に供給する加工液流出部とから構成し、
前記供給槽は、前記回収槽からオーバーフローして流出する加工液を貯留するとともにワイヤソーに供給するように構成したことを特徴とするワイヤソーの加工液循環装置。
【請求項2】
前記回収槽と供給槽との間に中間槽を設け、
前記中間層で前記回収槽から供給される加工液から切削屑を沈降分離するようにし、この切削屑が分離された加工液を供給槽に供給するようにしたことを特徴とする請求項1記載のワイヤソーの加工液循環装置。
【請求項3】
前記傾斜部上端で、前記無端チェーンを下方に向けて折り返すように配置し、前記無端チェーンの周回に伴って前記スクレーパーの掻き上げ面が下方の排出口の方向を向くように周回させることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のワイヤソーの加工液循環装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−13989(P2013−13989A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150042(P2011−150042)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000132954)株式会社タカトリ (65)
【Fターム(参考)】