説明

ワイヤソー

【課題】ワイヤソーによってワークを切断する際のワークの割れや加工精度の低下を防止する。
【解決手段】切断開始時には、スラリ貯留槽41は静止したままでワーク28が下降し、ワーク28がワイヤWに接触すると切断が開始される(図3(a))。やがてワーク28の下端がスラリに浸漬し、浸漬量L2が所定量になると、スラリ貯留槽41はワーク28に連動して下降する(図3(b))。そこで、浸漬量L2は一定に保たれる一方、スラリの液面とワイヤWとの間の距離L1は切断の進行に伴って徐々に増加する(図3(c))。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、張設された切断用のワイヤを走行させ、上記ワイヤに砥粒を含むスラリを供給しながら、半導体材料等のワークを上記ワイヤに押し付けて切断するワイヤソーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体インゴットからウェハを切り出したり、磁性材料、セラミック等の脆性材料などを切断する装置として、ワイヤソーが知られている。このワイヤソーでは、例えば、多数本の切断用ワイヤが互いに平行な状態で張設され、これらの切断用ワイヤがその長手方向に高速駆動された状態で、このワイヤ長手方向と直交する方向に上記半導体インゴット等からなるワークを切断送りすることにより、このワークから多数枚の薄片が同時に切り出される。
【0003】
ところで、このようなワイヤソーにおいて高い加工能率と高い加工精度を得るには、平行に配された多数本のワイヤの表面に加工用の砥粒を十分付着させておく必要がある。そこで従来は、上記砥粒を比較的粘度の高い油等からなる液状媒体に混合して加工液(スラリ)とし、ワイヤ表面に付着しやすいようにする工夫がなされている。
【0004】
また、供給されたスラリを回収して貯留するスラリ貯留槽を設け、ワイヤを案内するローラの溝に小さく破砕されたワークのかけらが入り込んで上記溝からワイヤが外れるのを防止する技術が提案されている。この装置では、スラリ貯溜槽の側面にスラリ排出口を形成して、スラリ貯溜槽内のスラリの液面と、ワイヤとの間の距離が一定に保持されるようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平9−66521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のワイヤソーでは、加工が進んで切り込み量が大きくなると、ワークに割れが生じたり、加工精度が低下することがあるという問題点を有していた。
【0006】
本願発明者らは、上記のようなワークの割れや加工精度の低下が生じる原因を究明した結果、スラリ貯留槽内のスラリは、回収されるスラリが流れ込むこと等によって常に流動し、この流れ等によって、スラリに浸漬されている部分のワークに力が作用することが影響していることを解明した。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑み、ワークの割れや加工精度の低下を抑制できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は、
張設された切断用のワイヤを走行させ、上記ワイヤに砥粒を含むスラリを供給しながらワークを押し付けて上記ワークを切断するワイヤソーであって、
上記ワイヤにスラリを供給するスラリ供給部と、
上記ワークを浸漬させるスラリを貯留するスラリ貯留槽とを備え、
上記ワークにおける既に切断された部分の一部が上記スラリ貯留槽に貯留されたスラリに浸漬し、かつ、上記ワイヤにおけるワークの切断部から上記スラリ貯留槽に貯留されたスラリの液面までの距離が切断の進行に応じて増加するように構成されたことを特徴とする。
【0009】
これにより、ワークにおける既に切断された部分の一部がスラリ貯留槽内のスラリに浸漬されることによって、ワークの加工溝内部にスラリ貯留槽からスラリが吸い上げられて上昇する流れが生じ、加工溝内部におけるスラリの澱みや滞留の発生によるワークの亀裂や割れ等が防止される。さらに、ワイヤにおけるワークの切断部からスラリ貯留槽に貯留されたスラリの液面までの距離が切断の進行に応じて増加することによって、スラリ貯留槽内のスラリへのワークの浸漬量が小さく保たれるので、スラリ貯留槽内のスラリの流れによってワークに作用する力が低減され、そのような力によるワークの割れや加工精度の低下が防止される。
【0010】
上記ワークの浸漬量は、少なくとも、上記スラリ貯留槽に貯留されたスラリが上記ワイヤに向けて吸い上げられ得る量であることが好ましく、そのような範囲で一定に保たれるようにしてもよい。
【0011】
また、ワークが所定量だけ切断された後に、上記ワークがスラリ貯留槽内のスラリに浸漬されるようにしてもよい。
【0012】
また、上記ワイヤにおけるワークの切断部から上記スラリ貯留槽に貯留されたスラリの液面位置までの距離が、切断の進行に連動するように構成してもよく、例えば上記ワイヤの位置は固定的に設けられる一方、ワークが上記ワイヤの上方から下降するように設けられ、上記スラリ貯留槽が、上記ワークと一体的に下降するようにすれば、装置を簡潔に構成することが容易にできる。
【0013】
また、上記ワイヤにおけるワークの切断部から上記スラリ貯留槽に貯留されたスラリの液面位置までの距離が、上記ワークが所定量だけ切断された後に、上記ワークの切断の進行に応じて増加するようにしてもよい。
【0014】
また、さらに、上記ワイヤにおけるワークの切断部よりもワイヤの走行方向下流側に、さらにワイヤにスラリを供給する下流側スラリ供給部を備えたり、上記下流側スラリ供給部から供給されたスラリをワイヤに案内する案内部材を備えたりしてもよい。上記案内部材は、例えば上部板と下部板とを有し、上記上部板と下部板との間に形成されるスリットに上記ワイヤが挿通されるようにすることができる。
【0015】
これらにより、加工溝内部におけるスラリの澱みや滞留の発生を一層容易に防止できるので、ワークの亀裂や割れ等をより確実に防止できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、張設された切断用のワイヤを走行させ、上記ワイヤに砥粒を含むスラリを供給しながらワークを押し付けて上記ワークを切断するワイヤソーにおいて、スラリ貯留槽に貯留されたスラリの影響によってワークの割れや加工精度の低下を容易に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
《発明の実施形態1》
図1は、本発明の実施形態1に係るワイヤソー1の全体構成図である。この図に示すワイヤソーは、本体部2、一対のワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10B、トラバーサ12A,12B、ガイドプーリ14A,14B、ガイドプーリ16A,16B、及び4つのガイドローラ24A,24B,26A,26Bを備えている。
【0019】
ガイドローラ24A,24Bは互いに同じ高さ位置に配され、ガイドローラ26A,26Bはそれぞれガイドローラ24A,24Bの下方の位置に配されており、ガイドローラ26Aがローラ駆動モータ25によって回転駆動されるようになっている。
【0020】
各ワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10Bは、切断用のワイヤWが巻かれるボビン9A,9Bと、これを回転駆動するボビン駆動モータ11A,11Bとを備えている。一方のワイヤ繰出し・巻取り装置10Aのボビン9Aから繰出されたワイヤWは、トラバーサ12Aの後記ガイドプーリ20A、ガイドプーリ14A、及びガイドプーリ16Aの順に掛けられ、さらにガイドローラ24A,24B,26B,26Aの外周面のガイド溝(図示省略)に嵌め込まれながらこれらガイドローラの外側に多数回螺旋状に巻回された(巻き掛けられた)後、ガイドプーリ16B,14B、及びトラバーサ12Bの後記ガイドプーリ20Bの順に掛けられ、他方のワイヤ繰出し・巻取り装置10Bのボビン9Bに巻き取られており、図外のワイヤ張力調節装置によってワイヤWに適当な張力が与えられている。そして、ローラ駆動モータ25によるガイドローラ26Aの回転駆動方向と、各ボビン駆動モータ11A,11Bによるボビン9A,9Bの回転駆動方向が正逆に切換えられることにより、ワイヤWがボビン9Aから繰出されてボビン9Bに巻き取られる状態と、ワイヤWがボビン9Bから繰出されてボビン9Aに巻き取られる状態とに切換えられるようになっている。
【0021】
すなわち、このワイヤソーにおいては、ガイドローラ24A,24Bの間に多数本のワイヤWが互いに平行な状態で張られながらその長手方向に往復駆動されるようになっている。
【0022】
なお、トラバーサ12A,12Bは、ワイヤWをボビン9A,9Bに対してその軸方向に整列した状態で巻き取らせるための装置で、それぞれワイヤWを案内するガイドプーリ20A,20Bを有し、トラバーサ駆動モータ22A,22Bにより駆動される図外の移動機構によりこれらガイドプーリ20A,20Bをガイド部材21A,21Bに沿ってボビン9A,9Bの軸方向に移動させるように構成されている。つまり、同図の実線および2点鎖線に示すように、ガイドプーリ20A,20BによってワイヤWを案内しながら該ガイドプーリ20A,20Bをガイド部材21A,21Bに沿って往復移動させることにより、ワイヤWをボビン9A,9Bに対して整列した状態で巻き取らせるように構成されている。
【0023】
前記ガイドローラ24A,24B間に張られたワイヤWの上方には、ワーク(例えば角柱状の半導体インゴット)28を移動させるワーク送り装置30が設けられている。このワーク送り装置30は、基部31と、ワーク保持部32と、ワーク送りモータ34とを備えている。ワーク保持部32は、上記ワーク28をその長手方向とワイヤ並び方向とが合致する向きに保持するものであり、ワーク送りモータ34は、ボールネジ35との組み合わせにより、上記ワーク送り装置30を本体部2に対して一体に昇降させる(すなわち切断送りする)ものである。
【0024】
ガイドローラ24A,24B間に張られたワイヤWの上方において、ワーク28の左右両側の位置には、砥粒供給装置36A,36Bが設けられている。これらの砥粒供給装置36A,36Bは、高速駆動される各ワイヤWに対し、加工用砥粒が混合された加工液(スラリ)を供給し、ワイヤWの表面に付着させるものである。
【0025】
前記ガイドローラ24A,24B間に張られたワイヤWの下方には、図2に示すように、上記ワイヤWに供給されたスラリを回収するスラリ貯留槽41が設けられている。このスラリ貯留槽41は、ガイドシャフト42に案内されて昇降する昇降台43に載置されている。昇降台43は、コイルばね44によって上方に付勢され、ワーク送り装置30の基部31が所定量だけ下降すると、基部31に設けられた押し下げ部45が当接して押し下げられることにより、ワーク28とスラリ貯留槽41とが連動して一体的に下降するようになっている。
【0026】
上記のように構成されたワイヤソー1では、ガイドローラ24A,24B間に張られた多数本のワイヤWがその長手方向に同時高速駆動され、かつこれらのワイヤWに砥粒供給装置36A,36Bからスラリが供給されながら、上記ワイヤWに対してワーク28が下方に切断送りされることにより、このワーク28から一度に多数枚のウエハ(薄片)が同時に切り出される。
【0027】
上記切断が行われる場合、スラリ貯留槽41内のスラリの液面と、ワーク28と、ワイヤWとの位置関係は、次のようになる。まず、切断開始時には、図3(a)に示すように、ワーク28が下降し、ワーク28がワイヤWに接触すると切断が開始される。このとき、スラリ貯留槽41は静止したままで、スラリの液面とワイヤWとの間の距離L1は変化しない一方、ワーク28はスラリの液面に徐々に近づく。やがて、図3(b)に示すように、ワーク28の下端がスラリに浸漬し、浸漬量L2が所定量(例えば5〜10mm程度)になると、ワーク送り装置30に設けられた押し下げ部45が昇降台43に当接し、スラリ貯留槽41はワーク28の下降に連動して押し下げられる。そこで、図3(c)に示すように、スラリ貯留槽41とワーク28とが一体的に下降して浸漬量L2は一定に保たれる一方、スラリの液面とワイヤWとの間の距離L1は切断の進行に伴って徐々に増加する。
【0028】
次に、スラリの液面と、ワーク28と、ワイヤWとの位置関係が上記のように設定されることによって、ワークの割れや加工精度の低下等が容易に防止されるメカニズムについて、図4、図5に基づいて説明する。
【0029】
まず、ワーク28がスラリに全く浸漬されない場合を想定して説明すると、この場合には、スラリは乾燥しやすいことから、ワーク28の切削が進むとスラリ中の砥粒が凝固してワークに亀裂や割れを生じさせる原因となったり、ワーク28からワイヤWを引き抜けない等の問題が発生する。また、本願発明者らが切断時における加工溝内部のスラリの挙動を観察した結果、スラリは図4に示すように流動していることを見出した。すなわち、ワーク28に形成される加工溝におけるワイヤWの入り口側のスラリの挙動は、ワイヤWの進入直後、重力に引っ張られて降下するが、中心部に近づくにつれて、ワイヤの走行につられて加工溝内部を移動する。ワイヤWの出口側のスラリの挙動は、ワイヤ走行方向に流れるスラリが出口側から全て加工溝内部から出ることはなく、加工溝下部に移動し中心付近に向かった後、走行中のワイヤ走行につられて上昇する。そのため、図4に符号Aで示す中心部付近のスラリ挙動については、2つの流れがぶつかり、加工溝内部の流れは静止状態になる。このようにして、長時間の加工を行うことにより三角形の形状をした澱みが発生することが、上記ワーク28の亀裂や割れ等の原因になると考えられる。なお、加工初期で加工溝が比較的浅い場合には、上記のような澱みは生じない。
【0030】
次に、ワーク28の下端がスラリに浸漬される場合について説明する。この場合には、図5に示すようにワーク28に形成される加工溝におけるワイヤWの入り口側のスラリの挙動は、ワイヤWの進入直後重力に引っ張られて降下する点については図4と似ているが、スラリ貯留槽41からスラリを吸い上げる上昇流れとワイヤ走行方向に引っ張られる流れがあるため、スラリは斜め上方向に上昇する。出口側のスラリの挙動は、ワイヤ走行方向に流れるスラリが出口側から全て加工溝内部から出ることはなく、下方向に流れるが、スラリ貯留槽41からスラリを取り込むため上方向の流れに変わる。そのため時計回りの渦を巻くような流れを生じる。図5に示すように中心付近のスラリ挙動は入口側と出口側の流れがぶつからないため、ワイヤ走向方向に向かいながら上昇するスラリ流れを生じる。このため、ワーク28の下端をスラリに浸漬することによって、加工溝内部におけるスラリの澱みや滞留の発生によるワーク28の亀裂や割れ等を防ぐことができると考えられる。
【0031】
ところが、スラリ貯留槽41内のスラリは、砥粒供給装置36A,36Bから供給された後に回収されるスラリが流れ込むこと等によって常に流動し、この流れ等によって、スラリに浸漬されている部分のワーク28に力が作用する。このような力は、ワーク28がスラリ貯留槽41内のスラリに浸漬される浸漬量L2が大きくなるほど大きくなる。このため、加工が進んで切り込み量が大きくなると、やはりワーク28の割れが生じやすくなったり加工精度が低下したりする。
【0032】
そこで、本実施形態のワイヤソー1のように、ワーク28の切り込み量が大きくなっても、浸漬量L2を小さく保つことによって、スラリ貯留槽41内のスラリの流れによってワーク28に作用する力の影響等を低減し、ワーク28の割れや加工精度の低下を防止することができる。
【0033】
ここで、浸漬量L2は、スラリ貯留槽41のスラリが吸い上げられてワーク28の加工溝内で上昇流が生じ得る程度であればよく、その範囲で浸漬量L2はできるだけ小さい方が好ましい。具体的には、ワーク28の断面形状(角形、円形など)や大きさにもよるが、例えば、浸漬量L2が1mm程度以上、より好ましくは5〜10mm程度であれば、スラリの液面とワイヤWとの間の距離L1が100〜150mm程度以上であっても、ワーク28の加工溝内にスラリを吸い上げることができ、かつ、スラリ貯留槽41内のスラリの流動等の影響を抑制することが容易にできる。
【0034】
なお、浸漬量L2は必ずしも上記実施形態のように一定に保たれるのに限らず、スラリ貯留槽41からのスラリの吸い上げができ、かつ、スラリ貯留槽41内のスラリの流動等の影響が抑制される範囲であれば、変化してもよい。すなわち、上記のようにスラリ貯留槽41とワーク28とを一体的に下降させてスラリの液面とワイヤWとの間の距離L1を切り込み量と同じだけ増加させる場合には、一般には本実施形態のように簡潔な装置を構成しやすいが、これに限らず、距離L1が、切り込み量に対して非線形に変化したりしても、全体として増加し、スラリの吸い上げと、スラリ貯留槽41内のスラリからワーク28に作用する力の抑制とが伴に可能であればよい。さらに、ワーク28の切断が完了するまで距離L1が増加し続けるのに限らず、例えば、ある程度切り込み量が大きくなった後は、距離L1の増加が停止したり、増加程度が小さくなるようにしたりしてもよい。
【0035】
また、切断が開始されてからワーク28の下端がスラリ貯留槽41内のスラリに浸漬されるまでの切り込み量、すなわち、スラリ貯留槽41とワーク28とが一体的に下降し始めるまでのスラリの液面とワイヤWとの間の距離L1も、ワーク28の断面形状などに応じて、設定されればよい。
【0036】
《発明の実施形態2》
上記実施形態1のような構成に加えて、図6に示すように、ワイヤWの走向方向における上流側の砥粒供給装置(例えば砥粒供給装置36B)に加えて、下流側の砥粒供給装置(例えば砥粒供給装置36C、または砥粒供給装置36A)でもスラリを供給するとともに、下流側で供給されたスラリを案内する溜め板51を設けるようにしてもよい。この溜め板51は、例えば図7に示すように、上部板51aと下部板51bとの間に、ワイヤWが挿通されるスリット51cが形成された形状を有している。また、同図の例では、ワイヤWの走向方向における上流側の砥粒供給装置36Bの下方に、ワイヤWの下側に接し、または近接する供給補助板52が設けられ、スラリがより効率よくワーク28の加工溝内に供給されるようになっている。
【0037】
上記のように溜め板51が設けられることによって、例えばワイヤWの出口付近の加工溝内部のスラリの流れの例を図8に示すように、加工溝内部のスラリの流れは、ワイヤ走向方向および上昇する方向のスラリ流れになりやすく、したがって、図4に示したような澱みが発生しにくくなる。特に、渦を巻くような流れが生じることなく加工溝内部全体で一方向のスラリー流れのみが発生するようにすれば、上記のような澱みによるワーク28の亀裂や割れ等を確実に防止することができる。
【0038】
なお、溜め板51の形状は、上記に限らず、例えば図9に示すように上部板51aだけを有するような形状のものを用いてもよいが、一般には、少なくとも下部板51bを有する方が、より澱みの発生を防止しやすい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明にかかるワイヤソーは、例えば半導体インゴットからウェハを切り出す装置等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態1に係るワイヤソー1の全体構成図である。
【図2】上記ワイヤソー1の側面図である。
【図3】(a)は切断が開始される際の、スラリの液面と、ワーク28と、ワイヤWとの位置関係を示し、(b)は浸漬量L2が所定量になった時点の同関係を示し、(c)はその後の同関係を示す説明図である。
【図4】ワーク28がスラリに全く浸漬されない場合の加工溝内部のスラリの挙動を示す説明図である。
【図5】ワーク28の下端がスラリに浸漬される場合の加工溝内部のスラリの挙動を示す説明図である。
【図6】本発明の実施形態2に係るワイヤソーの要部の構成を示す正面図である。
【図7】上記ワイヤソーの溜め板51の形状の例を示す図である。
【図8】上記ワイヤソーにおけるワイヤWの出口付近の加工溝内部のスラリの挙動を示す説明図である。
【図9】溜め板の形状の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 ワイヤソー
2 本体部
9A,9B ボビン
10A,10B 巻取り装置
11A,11B ボビン駆動モータ
12A,12B トラバーサ
14A,14B ガイドプーリ
16A,16B ガイドプーリ
20A,20B ガイドプーリ
21A,21B ガイド部材
22A,22B トラバーサ駆動モータ
24A,24B ガイドローラ
25 ローラ駆動モータ
26A,26B ガイドローラ
28 ワーク
30 ワーク送り装置
31 基部
32 ワーク保持部
34 モータ
35 ボールネジ
36A〜36C 砥粒供給装置
41 スラリ貯留槽
42 ガイドシャフト
43 昇降台
44 コイルばね
45 押し下げ部
51 溜め板
51a 上部板
51b 下部板
51c スリット
52 供給補助板
L1 スラリの液面とワイヤWとの間の距離
L2 浸漬量
W ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
張設された切断用のワイヤを走行させ、上記ワイヤに砥粒を含むスラリを供給しながらワークを押し付けて上記ワークを切断するワイヤソーであって、
上記ワイヤにスラリを供給するスラリ供給部と、
上記ワークを浸漬させるスラリを貯留するスラリ貯留槽とを備え、
上記ワークにおける既に切断された部分の一部が上記スラリ貯留槽に貯留されたスラリに浸漬し、かつ、上記ワイヤにおけるワークの切断部から上記スラリ貯留槽に貯留されたスラリの液面までの距離が切断の進行に応じて増加するように構成されたことを特徴とするワイヤソー。
【請求項2】
請求項1のワイヤソーであって、
上記ワークにおける既に切断された部分の浸漬量が、少なくとも、上記スラリ貯留槽に貯留されたスラリが上記ワイヤに向けて吸い上げられ得る量であることを特徴とするワイヤソー。
【請求項3】
請求項2のワイヤソーであって、
上記ワークにおける既に切断された部分の浸漬量が、一定に保たれることを特徴とするワイヤソー。
【請求項4】
請求項1のワイヤソーであって、
上記ワークが所定量だけ切断された後に、上記ワークにおける既に切断された部分が上記スラリ貯留槽に貯留されたスラリに浸漬されることを特徴とするワイヤソー。
【請求項5】
請求項1のワイヤソーであって、
上記ワイヤにおけるワークの切断部から上記スラリ貯留槽に貯留されたスラリの液面位置までの距離が、切断の進行に連動するように構成されたことを特徴とするワイヤソー。
【請求項6】
請求項5のワイヤソーであって、
上記ワイヤにおけるワークの切断部の位置は固定的に設けられる一方、ワークが上記ワイヤの上方から下降するように設けられ、
上記スラリ貯留槽は、上記ワークと一体的に下降するように構成されたことを特徴とするワイヤソー。
【請求項7】
請求項1のワイヤソーであって、
上記ワイヤにおけるワークの切断部から上記スラリ貯留槽に貯留されたスラリの液面位置までの距離が、上記ワークが所定量だけ切断された後に、上記ワークの切断の進行に応じて増加することを特徴とするワイヤソー。
【請求項8】
請求項1のワイヤソーであって、
さらに、上記ワイヤにおけるワークの切断部よりもワイヤの走行方向下流側に、さらにワイヤにスラリを供給する下流側スラリ供給部を備えたことを特徴とするワイヤソー。
【請求項9】
請求項8のワイヤソーであって、
さらに、上記下流側スラリ供給部から供給されたスラリをワイヤに案内する案内部材を備えたことを特徴とするワイヤソー。
【請求項10】
請求項9のワイヤソーであって、
上記案内部材は、上部板と下部板とを有し、上記上部板と下部板との間に形成されるスリットに上記ワイヤが挿通されていることを特徴とするワイヤソー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−220211(P2009−220211A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66599(P2008−66599)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】