説明

ワイヤソー

【課題】加工液の劣化を抑制しながら加工液をより有効的に再使用する。
【解決手段】ワイヤソーは、スラリ供給用のノズル18と循環用タンク20との間でスラリを循環させるスラリ循環装置2を有する。循環装置2は、切断領域の下方位置でスラリを回収する第1回収ボックス24及び第1回収配管28と、第1回収ボックス24の両側の位置でスラリを回収する第2回収ボックス26A,26B及び第2回収配管29と、タンク20内のスラリをノズル18に供給するポンプ21及び供給配管22とを含む。タンク20は、第1回収配管28が接続される第1貯溜部40と、第2回収配管29が接続される第2貯溜部42と、スラリを撹拌する撹拌装置とを備える。第1貯溜部40と第2貯溜部42とは互いに内底部で連通しておりかつ第1貯溜部40の内底面40aは傾斜している。供給配管22等は、第2貯溜部42内のスラリのみをノズル18に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体材料、セラミック、ガラス基板等の脆性材料を切断するワイヤソーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体インゴット等のワークをウエハ状に切り出す手段としてワイヤソーが知られている。この種のワイヤソーとして、複数のワイヤを列状に配置して走行させ、当該ワイヤに遊離砥粒を含有する加工液を吹き付けながらワイヤの軸方向と直交する方向にワークを切断送りすることにより、複数枚のウエハを多数枚同時に切り出すように構成されたものが周知であり、例えば特許文献1には、ワイヤに吹き付けた加工液を回収して再使用するものが記載されている。
【0003】
この特許文献1に記載のものは、ワークの切込み位置の下方に第1回収ボックスを備えるとともにその両側の位置にこれとは別の第2回収ボックスを備えており、ワークの切込み位置の両側でノズルからワイヤに加工液を吹き付けながら、当該加工液のうちワークの切断に寄与した加工液、すなわちワークから流下する切断屑を比較的多く含んだ加工液を第1回収ボックスに収容する一方、ワークの切断に寄与することなくワイヤからそのまま滴下する加工液(切断屑を殆ど含んでいない加工液)を第2回収ボックスに収容し、この第2回収ボックスに収容された加工液のみを前記ノズルに還流させて再使用するものである。つまり、この特許文献1のものは、切断屑を殆ど含まない加工液のみを再使用することにより、切削屑の含有量の増加による加工液の劣化を抑制しながら加工液を再使用するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−216672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される従来のワイヤソーでは、加工液を再使用するに際して切削屑の増加による加工液の劣化を抑制できる上で有効である。しかし、第1回収ボックスに回収された加工液については、再使用されることなく全て廃棄等されるため、切断に寄与し得る多くの砥粒が無駄に消費されており、当該砥粒の還元率が悪いという問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、切削屑の含有量の増加による加工液の劣化を抑制しながらより加工液を有効的に再使用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、ワイヤソーであって、複数のガイドローラと、これらのガイドローラに巻回される切断用ワイヤにより形成され、ワイヤ軸方向に走行するワイヤ群と、ワークを前記ワイヤ群に対して相対的に切断送りする送り手段と、前記ワイヤ群のうちワークが切断送りされる切断領域よりもワイヤ走行方向上流側の位置で前記ワイヤ群に対して砥粒を含む加工液を吐出する液吐出手段と、加工液を貯溜するためのタンクを含みかつ当該タンクと前記液吐出手段との間で前記加工液を循環させる液循環手段とを備え、前記液循環手段は、前記切断領域の下方位置で加工液を受ける第1液受部及び当該第1液受部に収容される加工液を前記タンクに戻すための第1液回収経路を含む第1液回収部と、前記第1液受部よりも前記ワイヤ走行方向上流側の位置で加工液を受ける第2液受部及び当該第2液受部に収容される加工液を前記タンクに戻すための第2液回収経路を含む第2液回収部と、前記タンク内の加工液を前記液吐出手段に供給するための液供給部とを備え、前記タンクは、前記第1液回収経路を通じて回収される加工液を貯溜する第1貯溜部と、前記第2液回収経路を通じて回収される加工液を貯溜する第2貯溜部と、各貯溜部に貯溜されている加工液を撹拌するための撹拌装置とを備えるとともに、前記第1貯溜部と第2貯溜部とが互いにそれらの内底部でのみ連通しかつ第1貯溜部の内底面が第2貯溜部の側とは反対の側から第2貯溜部側に向かって先下がりの形状とされて前記第2貯溜部の内底面に繋がっているものであり、前記液供給部は、前記タンク内のうち前記第2貯溜部の加工液のみを前記液吐出手段に供給するように設けられているものである。
【0008】
このワイヤソーでは、液吐出手段からワイヤに吐出された加工液のうち、ワークの切断に寄与し、切断屑を比較的多く含んだ加工液は、第1液回収部によりタンクに戻される。詳しくは、第1液受部に収容されながら第1液回収経路を通じてタンクの第1貯溜部に戻される。一方、ワイヤからそのまま滴下した加工液(切断屑を殆ど含まない加工液)は、第2液回収部によりタンクに戻される。詳しくは、第2液受部に収容されながら第2液回収経路を通じてタンクの第2貯溜部に戻される。タンクに戻された加工液は各貯溜部内において撹拌される。第1貯溜部ではこの撹拌により切断屑と砥粒が分離されて第1貯溜部から第2貯溜部に砥粒が移動する。すなわち、この種のワイヤソーのワークとなる脆性材料の切断屑は砥粒に比べて比重が十分に小さく、そのため撹拌により切断屑は加工液の主に中、上層に移動し、他方、砥粒は第1貯溜部の底部に沈殿しながらその内底面に沿って第1貯溜部から第2貯溜部に移動し、さらに第2貯溜部内の加工液の撹拌により同加工液中に分散することとなる。そして、この第2貯溜部の加工液のみが液供給部により液吐出手段に供給されることで、このワイヤソーでは、再使用される加工液中への切削屑の含有が抑制されるとともに、より多くの砥粒が再使用されることとなる。
【0009】
この構成において、前記撹拌装置は、前記第2貯溜部の内底面の近傍で旋回することにより第2貯溜部内の加工液を直接撹拌するとともにこの加工液の動きにより第1貯溜部内の加工液を間接的に撹拌する撹拌子を備えるものであるのが好適である。
【0010】
例えば、撹拌装置は、各貯溜部に個別に設けた撹拌子により各貯溜部内の加工液をそれぞれ撹拌するものでもよいが、上記のように第2貯溜部の内底面の近傍で撹拌子を旋回させる撹拌装置の構成によれば、単一の撹拌子で各貯溜部内の加工液を良好に撹拌することが可能であり、これによって装置構成の合理化及び低廉化を図ることが可能となる。
【0011】
この場合、前記第1貯溜部は、前記第2貯溜部を中心としてこれを全周に亘り取り囲むものであるのが好適である。
【0012】
この構成によれば、第1貯溜部内の加工液をより効果的に撹拌することが可能になることに加え、第2貯溜部の全周に亘ってその外側の第1貯溜部から第2貯溜部に砥粒が移動することが可能となるため、効率良く第1貯溜部から第2貯溜部に砥粒を移動させることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、ワークの切断に寄与し、切断屑を比較的多く含んだ加工液をタンクの第1貯溜部に戻す一方、ワイヤからそのまま滴下した加工液(切断屑を殆ど含まない加工液)をタンクの第2貯溜部に戻し、第1貯溜部の加工液中の砥粒を当該第1貯溜部から第2貯溜部に移動させながら当該第2貯溜部からのみ加工液を液吐出手段に供給するので、再使用される加工液中への切削屑の含有を抑制することが可能であることに加え、より多くの砥粒を再使用すること、つまり砥粒の還元率を高めることが可能となる。従って、切削屑の含有量の増加による加工液の劣化を抑制しながら加工液をより有効的に再使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明にかかるワイヤソーの全体構成を示す概略図である。
【図2】スラリ循環装置に含まれるタンクの構成を示す断面略図である。
【図3】タンクの変形例を示す断面略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0016】
図1は、本発明に係るワイヤソーの全体構成を模式的に示している。この図に示すワイヤソーは、ワークWを切断する装置本体1と、この装置本体1に対してワーク切断時に使用するスラリ(本発明の加工液に相当する)を循環させるスラリ循環装置2(本発明の液循環手段に相当する)とを備えている。
【0017】
装置本体1は、一対のワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10B、4つのガイドローラ12A〜12D、および図外のワイヤ張力調節装置等を備えている。
【0018】
同図に示すように一対のガイドローラ12A,12Bは互いに同じ高さ位置に配され、残りの一対のガイドローラ12C,12Dはそれぞれガイドローラ12A,12Bの下方の位置に配されており、各ガイドローラ12A〜12Dがそれぞれ図外の駆動モータによって個別に回転駆動されるようになっている。
【0019】
各ワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10Bは、それぞれ切断用のワイヤWが巻かれるボビンとこれを回転駆動するボビン駆動モータとを備えており、一方側のワイヤ繰出し・巻取り装置10Aのボビンから繰出されたワイヤWがガイドローラ12A〜12Dの順に、それらの外周面のガイド溝に嵌め込まれながら多数回螺旋状に巻回された(巻き掛けられた)後、他方のワイヤ繰出し・巻取り装置10Bのボビンに巻き取られ、さらにワイヤ張力調節装置によって適当な張力が与えられることによりワイヤWが両装置10A,10B間に亘って張設されている。そして、駆動モータによるガイドローラ12A〜12Dの回転駆動方向と、各ワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10Bのボビン駆動モータによるボビンの回転駆動方向が正逆に切換えられることにより、一方側のワイヤ繰出し・巻取り装置10A(10B)からワイヤ11が繰出されて他方側のワイヤ繰出し・巻取り装置10B(10A)に巻き取られる状態と、その逆の状態とにワイヤWの駆動方向が反転可能となっている。すなわち、このワイヤソーは、ガイドローラ12A,12Bの間に多数本のワイヤWが互いに平行な状態で張られながらその軸方向に往復駆動される構成である。
【0020】
前記ガイドローラ12A,12Bの間に張られたワイヤWの上方には、ワーク(例えば太陽電池用の多結晶シリコンインゴット)16を移動させるワーク送り装置14(本発明の送り手段に相当する)が設けられている。このワーク送り装置14は、前記ワーク16をその軸方向とワイヤ並び方向とが合致する向きに保持し、図外のワーク送りモータの駆動によりワーク16を昇降させる(すなわち切断送りする)ものである。従って、このワイヤソーでは、ガイドローラ12A,12B間に張られたワイヤ群がその長手方向に同時に高速駆動された状態で、該ワイヤ群に対してワーク16が下方に切断送りされることにより、このワーク16から一度に多数枚のウエハ(薄片)が同時に切り出される。
【0021】
また、ガイドローラ12A,12B間のうちワーク16が切断送りされる切断領域の両側であってワイヤ群の直ぐ上方位置にはノズル18(本発明の液吐出手段に相当する)が配備されている。これらノズル18は、水溶性あるいは油性の分散液に加工用の遊離砥粒を混合した加工液であるスラリをワイヤ群に吐出するものである。
【0022】
各ノズル18はスラリ循環装置2にそれぞれ接続されており、これによってスラリが繰り返し使用されるようになっている。
【0023】
このスラリ循環装置2は、循環用タンク20、ポンプ21、供給配管22、第1回収ボックス24、第2回収ボックス26A,26B、第1回収配管28、第2回収配管29等を有している。そして、前記循環用タンク20に貯溜されるスラリをポンプ21の駆動により供給配管22を通じて各ノズル18に給送する一方で、当該ノズル18から吐出されたスラリを回収ボックス24,26A,26Bで受けながら回収配管28,29を通じて循環用タンク20に戻すように構成されている。
【0024】
前記第1回収ボックス24(本発明の第1液受部に相当する)は、ガイドローラ12A,12B間のうちワーク16が切断送りされる前記切断領域の下方位置に配置されており、これによって主にワーク16に沿って流下するスラリ、すなわちワーク16の切断に寄与し、比較的多くの切断屑を含んだスラリを収容する。これに対して第2回収ボックス26A,26B(本発明の第2液受部に相当する)は、ワイヤ群の走行方向における前記第1回収ボックス24の両側の位置であってかつガイドローラ12A,12Bのそれぞれ下方位置に配置されており、これによって主にワーク16の切断に寄与することなくワイヤ群から流下するスラリやガイドローラ12A,12Bに沿って流下するスラリ等、切断屑を殆ど含んでいないスラリを収容する。
【0025】
同図に示すように、第1回収ボックス24は第1回収配管28(本発明の第1液回収経路に相当する)に接続されており、他方、第2回収ボックス26A,26Bは第2回収配管29(本発明の第2液回収経路に相当する)にそれぞれ接続されている。従って、第1回収ボックス24に回収されたスラリと、第2回収ボックス26A,26Bに回収されたスラリとは別個独立に循環用タンク20に戻される。なお、当例では、ポンプ21及び供給配管22が本発明の液供給部に相当し、第1回収ボックス24及び第1回収配管28が本発明の第1液回収部に相当し、第2回収ボックス26A,26B及び第2回収配管29が本発明の第2液回収部に相当する。
【0026】
図2は、前記循環用タンク20(本発明のタンクに相当する)の具体的な構造を断面示している。この循環用タンク20は上下方向に扁平な中空円柱状をなす。この循環用タンク20の内部はその天井壁から垂下する円筒状の隔壁20aによって内外に仕切られており、これにより円環状をなす外側の第1貯溜部40とその内側の第2貯溜部42とが循環用タンク20に設けられている。
【0027】
循環用タンク20のうち第1貯溜部40に対応する箇所の上壁部には前記第1回収配管28が接続されており、他方、第2貯溜部42に対応する箇所の上壁部には第2回収配管29が接続されている。これにより第1回収ボックス24に収容されたスラリが第1貯溜部40に戻される一方、第2回収ボックス26A,26Bに収容されたスラリが第2貯溜部42に戻される。そして、タンク20のうち第2貯溜部42に前記ポンプ21が設けられており、主に第2回収ボックス26A,26Bに収容されて第2貯溜部42に戻されたスラリが当該第2貯溜部42から抜き出されて前記ノズル18に供給される。
【0028】
なお、同図に示すように、循環用タンク20の前記隔壁20aとタンク内底部との間には隙間が設けられており、従って、第1貯溜部40と第2貯溜部42とは循環用タンク20の内底部で互いに連通している。第2貯溜部42の内底面42aはほぼフラットに形成されている。これに対して第1貯溜部40の内底面40aは同図に示すように循環用タンク20の外側から内側に向かって先下がりに傾斜して第2貯溜部42の内底面42aに繋がっている。これにより、後述するように、第1貯溜部40に貯溜されたスラリ中の砥粒が第1貯溜部40側から第2貯溜部42側に移動し得るようになっている。なお、第1貯溜部40の内底面40aと第2貯溜部42の内底面42aとの間には内底面42a側が低くなるような多少の段差があってもよい。
【0029】
循環用タンク20にはスラリを撹拌するための撹拌装置が設けられている。この撹拌装置は、第2貯溜部42の内底面42aの近傍に配置される撹拌棒若しくは撹拌板等の撹拌子44と、この撹拌子44を前記内底面42aに沿って旋回可能となるように循環用タンク20に回転可能に支持する支持軸45と、この支持軸45に連結される駆動モータ46とを含んでおり、当該駆動モータ46により支持軸45と撹拌子44とを一体に回転駆動することにより第2貯溜部42内のスラリを撹拌する。
【0030】
スラリ循環装置2は、さらに図1に示すように、循環用タンク20に補給配管32を介して接続される補充用タンク30を備えるとともに、循環用タンク20の接続されるドレン配管34とを備えており、必要に応じて前記補給配管32の開閉弁32a及びドレン配管34の開閉弁34aが制御されることにより、補充用タンク30から第2貯溜部42へ新液(未使用のスラリ)の供給を行えるとともに、第1貯溜部40内のスラリを循環用タンク20から排液できる構成となっている。
【0031】
上述したワイヤソーでは、ガイドローラ12A,12Bの間に張られたワイヤ群がその軸方向に高速駆動され、かつ当該ワイヤ群の切断領域よりもワイヤ走行方向上流側に位置するノズル18からスラリが吐出された状態で、ワーク16がこのワイヤ群の切断領域に対して切断送りされる。これによりワーク16からウエハが切り出される。
【0032】
この際、ノズル18からワイヤ群に吐出されるスラリのうち、ワーク16の切断に寄与し、切断屑を比較的多く含んだスラリは、第1回収ボックス24に収容され、第1回収配管28を通じて循環用タンク20の第1貯溜部40に戻される。一方、ノズル18から吐出されてワイヤ群からそのまま滴下するスラリ等、切断屑を殆ど含まないスラリは、第2回収ボックス26A,26Bに収容され、第2回収配管29を通じて循環用タンク20の第2貯溜部42に戻される。
【0033】
そして、補充用タンク30に戻されたスラリのうち、第2貯溜部42に戻されたスラリは、スラリ中に砥粒が一様に分散するように第2貯溜部42内で撹拌装置(撹拌子44の旋回)により撹拌された上でポンプ21の作動によりこの第2貯溜部42から引き出されてノズル18に供給される。これにより循環用タンク20に回収されたスラリのうち、第2回収ボックス26A,26Bにより回収されたスラリ、つまり切断屑を殆ど含まないスラリのみがノズル18に供給されて再使用されることとなる。
【0034】
なお、上記の通り、第1貯溜部40と第2貯溜部42とは互いに内底部で連通しているため、上記のように第2貯溜部42の内底部で撹拌子44を回転させることで第1貯溜部40と第2貯溜部42の間でスラリが適度に移動し、この移動により第1貯溜部40中のスラリも間接的に撹拌される。このように第1貯溜部40内のスラリが撹拌されると、砥粒に比べて比重の小さいワーク16の切断屑は、図2中に符号Duで示すようにスラリの主に中、上層に移動する一方、切断屑よりも比重の大きい砥粒は、同図中符号Abで示すように第1貯溜部40の内底部に沈殿しながらその内底面40aに沿って第1貯溜部40から第2貯溜部42に移動し、さらに撹拌子44の回転に伴い第2貯溜部42のスラリ中に分散して行くこととなる。すなわち、第1貯溜部40に戻されたスラリ中から砥粒が抽出されて再使用されることとなる。
【0035】
そのため、このワイヤソーによれば、再使用されるスラリ中への切削屑の含有を抑制することができることに加え、より多くの砥粒を再使用すること、つまり砥粒の還元率を高めることが可能であり、従って、切断領域の下方位置で回収した加工液を全て廃棄等する従来のこの種のワイヤソーと比較すると、このように砥粒の還元率を高めることができる分、加工液をより有効的に再使用することができる。
【0036】
なお、上述したワイヤソーは、本発明にかかるワイヤソーの好ましい実施形態の例示であってその具体的な構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0037】
例えば、上記実施形態では、循環用タンク20は、第2貯溜部42を中心としてこれを全周に亘って取り囲むように第1貯溜部40が設けられた構成であるが、循環用タンク20の構成はこれに限られるものではなく、図3に示すように、第1貯溜部40と第2貯溜部42とが横並びに並んだ構成であってもよい。
【0038】
また、上記実施形態では、撹拌装置は、第2貯溜部42の内底面42aの近傍で撹拌子44を旋回させることにより第2貯溜部42の加工液を直接撹拌するとともに第1貯溜部40の加工液を間接的に撹拌する構成であるが、各貯溜部40,42に個別に撹拌子を設けて各貯溜部内の加工液を個別に撹拌する構成であってもよい。但し、実施形態のような構成によれば、単一の撹拌子で各貯溜部内の加工液を良好に撹拌することが可能であるため、装置構成の合理化及び低廉化を図る上で好適である。
【符号の説明】
【0039】
1 装置本体
2 スラリ循環装置
16 ワーク
18 ノズル
20 循環用タンク
21 ポンプ
24 第1回収ボックス
26A,26B 第2回収ボックス
40 第1貯溜部
42 第2貯溜部
44 撹拌子
W ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤソーであって、
複数のガイドローラと、これらのガイドローラに巻回される切断用ワイヤにより形成され、ワイヤ軸方向に走行するワイヤ群と、ワークを前記ワイヤ群に対して相対的に切断送りする送り手段と、前記ワイヤ群のうちワークが切断送りされる切断領域よりもワイヤ走行方向上流側の位置で前記ワイヤ群に対して砥粒を含む加工液を吐出する液吐出手段と、加工液を貯溜するためのタンクを含みかつ当該タンクと前記液吐出手段との間で前記加工液を循環させる液循環手段とを備え、
前記液循環手段は、前記切断領域の下方位置で加工液を受ける第1液受部及び当該第1液受部に収容される加工液を前記タンクに戻すための第1液回収経路を含む第1液回収部と、前記第1液受部よりも前記ワイヤ走行方向上流側の位置で加工液を受ける第2液受部及び当該第2液受部に収容される加工液を前記タンクに戻すための第2液回収経路を含む第2液回収部と、前記タンク内の加工液を前記液吐出手段に供給するための液供給部とを備え、
前記タンクは、前記第1液回収経路を通じて回収される加工液を貯溜する第1貯溜部と、前記第2液回収経路を通じて回収される加工液を貯溜する第2貯溜部と、各貯溜部に貯溜されている加工液を撹拌するための撹拌装置とを備えるとともに、前記第1貯溜部と第2貯溜部とが互いにそれらの内底部でのみ連通しかつ第1貯溜部の内底面が第2貯溜部の側とは反対の側から第2貯溜部側に向かって先下がりの形状とされて前記第2貯溜部の内底面に繋がっているものであり、
前記液供給部は、前記タンク内のうち前記第2貯溜部の加工液のみを前記液吐出手段に供給するように設けられていることを特徴とするワイヤソー。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤソーにおいて、
前記撹拌装置は、前記第2貯溜部の内底面の近傍で旋回することにより第2貯溜部内の加工液を直接撹拌するとともにこの加工液の動きにより第1貯溜部内の加工液を間接的に撹拌する撹拌子を備えることを特徴とするワイヤソー。
【請求項3】
請求項2に記載のワイヤソーにおいて、
前記第1貯溜部は、前記第2貯溜部を中心としてこれを全周に亘り取り囲むことを特徴とするワイヤソー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−212781(P2011−212781A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82443(P2010−82443)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】