説明

ワイヤーハーネスの固定構造

【課題】脱落が生じ難く、VOCを発生することもなく、コスト削減に寄与することが可能で、ワイヤーハーネスのバタツキ音(異音)が生じ難いワイヤーハーネスの固定構造を提供する。
【解決手段】本発明は、車両用内装材10へのワイヤーハーネス30の固定構造であって、前記車両用内装材10にはサイレンサーパッド(防音材)20が固定されており、前記サイレンサーパッド20には、当該サイレンサーパッド20の一部を切り込むことで形成された係止片21が具備されており、前記係止片21に前記ワイヤーハーネス30が係止されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーハーネスの固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用内装材へのワイヤーハーネスの固定構造として粘着テープによる固定、或いは特許文献1のようなクリップによる固定が知られている。特許文献1では、車両用内装材としての自動車用ドアトリムに対して、ワイヤーハーネスが延在される複数の位置に、弾性変形可能でワイヤーハーネスを弾性的に係止するクリップを配設してなるものが開示されている。
【特許文献1】特開平9−48295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来のような粘着テープ、或いはクリップによるワイヤーハーネスの固定では以下のような問題があった。
(1)テープによる固定の場合、接着力の経年劣化により剥がれが生じ、ワイヤーハーネスの脱落に繋がり易い。
(2)接着剤を使用する場合には、VOC(揮発性有機化合物)が生じ易い。
(3)クリップによる固定の場合、振動に起因するワイヤーハーネスのバタツキ音を抑制させるために、多数の固定部位が必要となり、固定作業が煩わしく、コストアップに繋がる場合がある。
(4)いずれの方法においても、ワイヤーハーネスのバタツキ音(異音)が出ないようにするためには多くの施工が必要で作業負担が大きい。
【0004】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであって、脱落が生じ難く、VOCを発生することもなく、コスト削減に寄与することが可能で、ワイヤーハーネスのバタツキ音(異音)が生じ難いワイヤーハーネスの固定構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のワイヤーハーネスの固定構造は、車両用内装材へのワイヤーハーネスの固定構造であって、前記車両用内装材には防音材が固定されており、前記防音材には、当該防音材の一部を切り込むことで形成された係止片が具備されており、前記係止片に前記ワイヤーハーネスが係止されてなることを特徴とする。
【0006】
このような固定構造によると、防音材を切り込むことで形成した係止片により固定するものであり、テープ若しくはクリップを用いないため、コスト削減に寄与できるとともに、接着剤を要しないため、VOCの発生を防止することができる。また、固定力の経年変化も生じ難く、ワイヤーハーネスの脱落が生じ難い。さらに、防音材への切込により形成するものであるため、任意の場所に係止片を形成することができ、例えばワイヤーハーネスの経路に沿って複数の係止片を並べることができるため、ワイヤーハーネスが振動によりバタつくことを防止でき、バタツキ音(異音)の発生を防止ないし抑制することが可能となる。また、切込作業は、テープ貼り付けやクリップ取付の作業に比して簡便であるため、作業負担を低減することも可能となる。
【0007】
本発明の固定構造において、前記係止片は、一対の突起片と、当該一対の突起片の間に位置する突起片間部とを備えており、前記ワイヤーハーネスは、前記突起片と前記突起片間部との間で挟み込まれて係止され、前記突起片が、前記車両用内装材あるいは前記車両用内装材の内側に配されるボディと、前記ワイヤーハーネスとの接触を防止しているものとすることができる。
【0008】
このように一対の突起片と突起片間部とにより前記ワイヤーハーネスを挟み込むように係止する場合、当該一対の突起片によりワイヤーハーネスを確実に係止でき、また前記車両用内装材あるいは車両用内装材の内側に配される車両ボディにワイヤーハーネスが当接することも防止できるようになる。
【0009】
本発明の固定構造において、前記係止片は、半環切り込み部と、前記半環切り込み部の両端末から互いに当該半環切り込み部の閉じ形状側に向かう2つの片状切り込み部と、を備えるものとすることができる。
【0010】
この場合、2つの片状切り込み部が一対の突起片を構成することとなり、その突起片と突起片間部との間の切り込みに前記ワイヤーハーネスを挿通させることによりワイヤーハーネスを係止片より外れることなく係止でき、例えば車両用内装材の一方側に配される車両ボディにワイヤーハーネスが当接することも防止できるようになる。
【0011】
また、前記車両用内装材がパッケージトレイであり、前記ワイヤーハーネスは、前記パッケージトレイに取り付けられる電装品に対して電力供給するための送電線であるものとすることができる。
【0012】
パッケージトレイに取り付けられる電装品に対する送電線は、車両用内装材であるパッケージトレイの裏面側に係止しておくことが好適であるが、本発明のように、パッケージトレイの裏面に固定した防音材に係止片を設けて、当該係止片にワイヤーハーネスを係止させることで、パッケージトレイからのワイヤーハーネスの脱落を防止できるとともに、ワイヤーハーネスのバタツキを防止し、ひいてはワイヤーハーネスのバタツキ音(異音)の発生を防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、脱落が生じ難く、VOCを発生することもなく、コスト削減に寄与することが可能で、ワイヤーハーネスのバタツキ音(異音)が生じ難いワイヤーハーネスの固定構造を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明のワイヤーハーネスの固定構造について説明する。
図1は車両の後部側面の概略構成を示す説明図、図2は本発明に係るワイヤーハーネスの固定構造を含む車両用内装材(パッケージトレイ)の裏面構成を示す斜視図であり、図3はワイヤーハーネスの固定構造を拡大して示す説明図、図4はワイヤーハーネスの固定構造が備える係止片の配置位置を示す平面図である。
【0015】
図1において、搭乗者Mが着座可能とされた後部シートSのシートバックS1の後方上部には車両用内装材としてのパッケージトレイ10が配設されており、そのパッケージトレイ10には電装品であるハイマウントストップランプ35が配設されている。一方、パッケージトレイ10の下方(内部)には、図2に示すように、例えば防音材(遮音材または吸音材)として機能するサイレンサーパッド20が取り付けられている。なお、図1において符号Wはリアウィンドウを、符号40は車両ルーフパネルを示している。
【0016】
パッケージトレイ10は、所定形状に成形加工された熱可塑性樹脂あるいは必要に応じて表皮材が貼着あるいは一体成形されたものである。
サイレンサーパッド20は、所定形状に成形加工された板状のフェルト材からなり、パッケージトレイ10に取り付けられてなるものである。
ハイマウントストップランプ35は、ブレーキランプであって、運転手のブレーキペダルの操作に伴って点灯するものである。
【0017】
サイレンサーパッド20のパッケージトレイ10への取付けは、例えばリブ11を介して行っている。つまり、パッケージトレイ10に形成された片状のリブ11を、そのリブ11に対向してサイレンサーパッド20に形成されたスリット(切込)29に挿通した後、当該リブ11を折り曲げてサイレンサーパッド20に当接させ、その後、折り曲げたリブ11とパッケージトレイ10とでサイレンサーパッド20を挟み込む形で、これらリブ11、サイレンサーパッド20、パッケージトレイ10を溶着部21で互いに溶着している。溶着は例えば超音波振動により行うことができる。
【0018】
なお、サイレンサーパッド20のパッケージトレイ10への取付けはこのような超音波振動を用いたリブによる挟み込み状の係止に限らず、例えばパッケージトレイ10に設けた爪などの係止部をサイレンサーパッド20のスリット29へ挿入して係止することも可能である。
【0019】
このようにパッケージトレイ10に固定されたサイレンサーパッド20には、ワイヤーハーネス30が固定されている。ワイヤーハーネス30は、ハイマウントストップランプ35に対する送電線(信号線)であり、バッテリー(図示略)からハイマウントストップランプ35への電源供給、点灯制御部(図示略)からハイマウントストップランプ35への指令信号供給を行う送電線である。
【0020】
ここでワイヤーハーネス30のサイレンサーパッド20への固定は、サイレンサーパッド20に形成された係止片21によって行われている。
係止片21は、図3に示すようにサイレンサーパッド20の一部を略コ字状に切り込むことで形成され(半環切り込み部26)、さらに当該コ字状に切り込んだ半環切り込み部26の両端部から環閉じ側に対向するように対称の2つの円弧(片状切り込み部27,28)を切り込むことで形成されている。その結果、係止片21は一対の突起片22,23から構成され、当該一対の突起片22,23と、突起片22,23の間に形成された突起片間部24とによりワイヤーハーネス30を挟み込むことでワイヤーハーネス30を固定している。
【0021】
さらに具体的には、図2にも示すように、パッケージトレイ10の側端から導入されるワイヤーハーネス30は、パッケージトレイ10とサイレンサーパッド20との間を通って中央側に導かれている。そして、当該ワイヤーハーネス30は、第1の係止片21において、図3に示したように第1突起片22を持ち上げてサイレンサーパッド20の表面側に導出され、突起片間部24上に張り出すとともに、第2突起片23を持ち上げてサイレンサーパッド20の裏面側に導入されている。そして、ワイヤーハーネス30は、第1突起片22、突起片間部24間及び突起片間部24、第2突起片23間の切り込み部分に維持される。
【0022】
さらに、当該ワイヤーハーネス30は、第2の係止片21においても、図3に示したように第1突起片22を持ち上げてサイレンサーパッド20の表面側に導出され、突起片間部24上に張り出すとともに、第2突起片23を持ち上げてサイレンサーパッド20の裏面側に導入されている。そして、ワイヤーハーネス30は、第1突起片22、突起片間部24間及び突起片間部24、第2突起片23間の切り込み部分に維持される。
【0023】
このような係止片21,21による固定により、ワイヤーハーネス30はサイレンサーパッド20、ひいてはパッケージトレイ10に確実に固定され、その固定経路に沿ってハイマウントストップランプ35に確実に送電を行うことが可能とされている。
特に、突起片22,23と突起片間部24とによりワイヤーハーネス30を挟み込んで固定しているため、ワイヤーハーネス30はズレ難く、バタツキが生じ難いものとなっている。
【0024】
なお、本実施形態では、図4に示すように係止片21はサイレンサーパッド20において4箇所に並列されており、2つの係止片21が1組となって、2組がサイレンサーパッド20の中心を境界に対称に配設されている。図4では上方を車両左側、右方を車両前方側とする。ここでは1組の係止片21,21が車両左側からのワイヤーハーネス30の経路に沿って並んでおり、当該ワイヤーハーネス30を固定している。
【0025】
このようなワイヤーハーネス30の固定構造を採用した本実施形態では、以下のような作用・効果が奏される。
まず、本実施形態の固定構造によると、サイレンサーパッド20を切り込むことで形成した係止片21によりワイヤーハーネス30を固定するものであるため、テープ若しくはクリップによる固定に比して部品点数の削減を図ることが可能となる。また、特に接着剤を用いる必要がないためVOC(揮発性有機化合物)の発生防止に寄与することができる。また、テープのような固定力の経年変化が生じ難くいため、ワイヤーハーネス30の脱落が生じ難い。
【0026】
また、係止部21がサイレンサーパッド30への切込により形成するものであるため、任意の場所に係止片21を形成することができ、本実施形態のようにワイヤーハーネス30の経路に沿って複数の係止片を容易に並べることができるため、ワイヤーハーネス30が振動によりバタつくことを防止でき、バタツキ音(異音)の発生を防止ないし抑制することが可能となる。また、このような切込作業は、テープ貼り付けやクリップ取付の作業に比して簡便であるため、作業負担を低減することも可能となる。
【0027】
さらに、係止片21をコ字状の両端部から対向する対称の2つの円弧を切り込むことで形成しているため、2つの円弧状係止片(突起片22,23)が形成されており、当該2つの円弧状係止片(突起片22,23)によりワイヤーハーネス30を係止することで、ワイヤーハーネス30が係止片21から外れることなく、その固定を一層確実なものとしている。その結果、例えばパッケージトレイ10の内側に配される車両ボディ(図示略)にワイヤーハーネス30が当接することを防止し、その当接に基づく異音の発生を防止している。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、以下のような態様もまた本発明に含まれる。
(1)車両用内装材としてパッケージトレイ10を例示したが、その他、車両用内装材としてのドアトリムや天井内装材にサイレンサーパッドを取り付ける場合にも、本発明に係るワイヤーハーネスの固定構造を採用することが可能である。
(2)本発明の電装品としてハイマウントストップランプを適用したが、スピーカー、検知センサー、空調装置、イルミネーションなどの照明装置を適用してもよい。
【0029】
(3)上記実施形態では、係止片21としてサイレンサーパッド20の一部を略コ字状に切り込んで半環切り込み部26とし、さらに当該半環切り込み部26の両端末から互いに対向するように対称の2つの円弧(片状切り込み部27,28)を切り込むものとしたが、半環切り込み部26と、半環切り込み部26の両端末から互いに当該半環切り込み部26の閉じ形状側に向かう2つの片状切り込み部27,28と、を備える構成であれば、これに限定されない。
(4)例えば、図5に示す係止片21aでは、略円弧状の半環切り込み部26aの両端末から、互いに半環切り込み部26aの閉じ形状側に向かう円弧状の片状切り込み部27a,28aを形成し、これにより一対の突起片22a,23aを構成している。
(5)図6に示す係止片21bでは、略円弧状の半環切り込み部26bの両端末から、互いに半環切り込み部26bの閉じ形状側に向かうカギ状の片状切り込み部27b,28bを形成し、これにより一対の突起片22b,23bを構成している。
(6)図7に示す係止片21cでは、略コ字状の半環切り込み部26cの両端末から、互いに半環切り込み部26cの閉じ形状側に向かうカギ状の片状切り込み部27c,28cを形成し、これにより一対の突起片22c,23cを構成している。
(7)図8に示す係止片21dでは、略コ字状の半環切り込み部26dの両端末から、互いに半環切り込み部26dの閉じ形状側に向かうカギ状の片状切り込み部27d,28dをそれぞれ非対称に形成し、これにより2つの突起片22d,23dを構成している。
(8)図9に示す係止片21eでは、略三角形状の半環切り込み部26eの両端末から、互いに半環切り込み部26eの閉じ形状側に向かう円弧状の片状切り込み部27e,28eを形成し、これにより一対の突起片22e,23eを構成している。
(9)図10に示す係止片21fでは、略三角形状の半環切り込み部26fの両端末から、互いに半環切り込み部26fの閉じ形状側に向かうカギ状の片状切り込み部27f,28fを形成し、これにより一対の突起片22f,23fを構成している。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】車両の後部側面の概略構成を示す説明図。
【図2】本発明に係るワイヤーハーネスの固定構造を含む車両用内装材(パッケージトレイ)の裏面構成を示す斜視図。
【図3】ワイヤーハーネスの固定構造を拡大して示す説明図。
【図4】係止片の配置位置を示す平面図。
【図5】係止片を構成する切り込み形状の一変形例を示す平面図。
【図6】係止片を構成する切り込み形状の一変形例を示す平面図。
【図7】係止片を構成する切り込み形状の一変形例を示す平面図。
【図8】係止片を構成する切り込み形状の一変形例を示す平面図。
【図9】係止片を構成する切り込み形状の一変形例を示す平面図。
【図10】係止片を構成する切り込み形状の一変形例を示す平面図。
【符号の説明】
【0031】
10…パッケージトレイ(車両用内装材)、20…サイレンサーパッド(防音材)、21…係止片、22,23…突起片、24…突起片間部、30…ワイヤーハーネス、35…ハイマウントストップランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用内装材へのワイヤーハーネスの固定構造であって、
前記車両用内装材には防音材が固定されており、
前記防音材には、当該防音材の一部を切り込むことで形成された係止片が具備されており、前記係止片に前記ワイヤーハーネスが係止されてなることを特徴とするワイヤーハーネスの固定構造。
【請求項2】
前記係止片は、一対の突起片と、当該一対の突起片の間に位置する突起片間部とを備えており、
前記ワイヤーハーネスは、前記突起片と前記突起片間部との間で挟み込まれて係止され、
前記突起片が、前記車両用内装材あるいは前記車両用内装材の内側に配されるボディと、前記ワイヤーハーネスとの接触を防止していることを特徴とする請求項1に記載のワイヤーハーネスの固定構造。
【請求項3】
前記係止片は、半環切り込み部と、前記半環切り込み部の両端末から互いに当該半環切り込み部の閉じ形状側に向かう2つの片状切り込み部と、を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のワイヤーハーネスの固定構造。
【請求項4】
前記車両用内装材がパッケージトレイであり、
前記ワイヤーハーネスは、前記パッケージトレイに取り付けられる電装品に対して電力供給するための送電線であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のワイヤーハーネスの固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−285072(P2008−285072A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133241(P2007−133241)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】