一体型クランク軸の成形装置
【課題】一体型クランク軸の成形時の材料流動を阻止でき、材料流動による金型の磨耗が少なく、成形した後の一体型クランク軸の機械加工時間も短くて済む一体型クランク軸の成形装置を提供する。
【解決手段】クロスヘッド1の下方に設けられ、そのクロスヘッド1の圧下に連動して互いに接近する水平方向に移動する一対の把持ダイス2と、その一対の把持ダイス2間に設けられ、下方に向け移動するピン部押し下げ用ポンチ3を備えた一体型クランク軸の成形装置であって、一対の把持ダイス2の把持面2a、ピン部押し下げ用ポンチ3の把持面3aのうち、少なくとも一組の把持面2a,3aに、成形時の丸棒素材eの材料流動を阻止する材料流動阻止手段4を設けた。
【解決手段】クロスヘッド1の下方に設けられ、そのクロスヘッド1の圧下に連動して互いに接近する水平方向に移動する一対の把持ダイス2と、その一対の把持ダイス2間に設けられ、下方に向け移動するピン部押し下げ用ポンチ3を備えた一体型クランク軸の成形装置であって、一対の把持ダイス2の把持面2a、ピン部押し下げ用ポンチ3の把持面3aのうち、少なくとも一組の把持面2a,3aに、成形時の丸棒素材eの材料流動を阻止する材料流動阻止手段4を設けた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船用や陸上発電機に使用されている中小型ディーゼル機関用の一体型クランク軸を鍛造する際に用いられている一体型クランク軸の成形装置に関し、特には、改善されたRR鍛造法等に用いられる一体型クランク軸の成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船用や陸上発電機に使用されている中小型ディーゼル機関用のクランク軸は、一般には、図8に示すような一体型クランク軸aである。その一体型クランク軸aは、RR鍛造法、TR鍛造法、二軸プレスなどにより高温に加熱された丸棒素材eを鍛造し、一本のクランク軸としている。その各鍛造法のうちクランク軸をCGF(Continuous Grain Flow)鍛造する方法として広く知られているRR鍛造法は、一回の鍛造で一気筒分の単位クランクスロー部を鍛造し、気筒数分の鍛造を繰り返して一本の一体型クランク軸aとしている。このRR鍛造法に用いられる一体型クランク軸の成形装置を図9に例示する。
【0003】
図9は、従来のRR鍛造法に用いられる一体型クランク軸の成形装置の縦断面図であり、その左方は成形前の丸棒素材eを把持した成形開始時点、右方は一体型クランク軸aの成形終了時点の夫々の状態を示す。この成形装置は、図の右方に示すように、主プレスの圧下に伴うクロスヘッド1の圧下力Pを、摺動傾斜板6を介して、把持ダイス2を備えた一対の摺動台7に伝達させ、その圧下力Pの分力Fにて、丸棒素材eのアーム部dを軸方向に圧縮すると共に、クロスヘッド1に連結された上ポンチ3bにて丸棒素材eのピン部cを下方に押し下げて、丸棒素材eの単位クランクスロー部を順次成形して、一体型クランク軸aを鍛造できるよう構成されている。
【0004】
また、把持ダイス2は、クロスヘッド1の両側に設けたダイス押さえシリンダ8で一定の把持力を付与される。そして、上ポンチ3bは、ポンチシリンダ9を介してクロスヘッドに連結される一方、その下方には、アンビルシリンダ10を介して台盤11に連結された下ポンチ3cが設けられており、成形過程における丸棒素材eのピン部dは、これら上下ポンチ3b、3cにて上下より一定圧力で把持されている。これら上下ポンチ3b、3cを総称してピン部押し下げ用ポンチ3という。
【0005】
また、上ポンチ3bの上端および下ポンチ3cの下端には、クロスヘッド1の下面および台盤11の上面に当接してその上下移動を規定する拡径ストッパ3d、3eが夫々設けられており、このように構成したことによりピン部押し下げ用ポンチ3は、丸棒素材eのピン部cを把持して限定された範囲で上下移動するものとされている。
【0006】
次に、上記従来の成形装置を用いて、一体型クランク軸aを成形する方法を、図10〜図14に基づいて説明する。まず、図10に示すように、丸棒素材eのジャーナル部bを対になった把持ダイス2で把持し、ピン部cをピン部押し下げ用ポンチ3の上下ポンチ3b、3cで把持する。
【0007】
続いて、クロスヘッド1の圧下により、対になった摺動台7を内側に移動させ、図11に示すように、アーム部dの予備圧縮を行う。所定量の予備圧縮を行った後に、ポンチシリンダ9の設定リリーフ圧を高く変更して、その後退を停止させることで、上ポンチ3bをクロスヘッド1の圧下動に直動して圧下させ、図12に示すように、ピン部cの押し下げを行う。このとき、上ポンチ3bの上端に設けた拡径ストッパ3dの上面とクロスヘッド1の下面との間に、図10に示すように、所定の間隔Δlが残される。
【0008】
クロスヘッド1の圧下が進み、下ポンチ3cの下死点に達したとき、上ポンチ3bの圧下が停止すると共に、ポンチシリンダ9が上方に押し戻され、図13に示すように、上ポンチ3bの拡径ストッパ3dの上面とクロスヘッド1の下面が当接して、上記の遊び間隔Δlが解消され、クロスヘッド1の圧下が停止する。また、この遊び間隔Δlが解消されるまでの間に、軸方向の圧縮が進み、図14に示すように、アーム部dの最終圧縮が行われる。
【0009】
以上のように、従来の成形装置を用いて、一体型クランク軸aを成形する方法では、アーム部dの予備圧縮工程、ピン部cの押し下げ工程、アーム部dの最終圧縮工程の三段階からなる成形を実施することができる。
【0010】
この従来の方法では、図11に示すように、アーム部dの予備圧縮を行った後に、ポンチシリンダ9の設定リリーフ圧を高く変更して、その後退を停止させることで、上ポンチ3bをクロスヘッド1の圧下動に直動して圧下させ、図12に示すように、ピン部cの押し下げを行っている。しかしながら、この方法では、図15に示すように、アーム部dからの反力によりジャーナル部bで材料流動が発生してアーム部dだけではなく軸方向に材料が流れるため(矢印で示す)、成形中の単位クランクスロー部分の材料不足による欠肉や、隣り合う単位クランクスローとの間隔の変化による寸法不良が発生してしまう。
【0011】
このような問題の解消のため発明されたのが、特許文献1に記載の技術である。この技術では、ピン部cの押し下げを行い、その押し下げが終了した後に、アーム部dの軸方向圧縮を行っている。この方法を採用することで上記記載の問題点を解消することができるが、その一方で、新たな課題が発生してしまう。
【0012】
それは、図16に示すように、ピン部cの押し下げ(下矢印で示す)の際に、次の単位クランクスローとなる部分の材料が成形中の単位クランクスロー部分に流入してしまう(右矢印で示す)ことである。その材料の流動により、金型に磨耗が発生し、金型の手入れが必要となってしまう。また、金型が磨耗すると、単位クランクスロー毎の材料重量、体積が異なることとなり、鍛造後の機械加工時間が長くなることとなる。
【0013】
また、特許文献2に記載の技術もある。この技術では、ピン部cの押し下げ過程の際のピン軸押し下げ用ポンチ3の圧下速度を、クロスヘッド1の圧下速度と異なるものとしている。しかしながら、この方法によっても、材料流動は阻止することはできない。
【0014】
この特許文献2に記載の技術をRR鍛造に適用すると、図17に示すように、最初に把持ダイス2を互いに接近する方向に移動すると(上の左右矢印で示す)、成形中の単位クランクスローとなる部分の材料が次の単位クランクスローとなる部分に流入してしまう(下の左矢印で示す)。その材料の流動により、特許文献1に記載の技術と同様に、金型に磨耗が発生し、金型の手入れが必要となってしまう。また、金型が磨耗することで、単位スロー毎の材料重量、体積が異なることとなり、鍛造後の機械加工時間が長くなることとなる。
【0015】
【特許文献1】特開2003−326332号公報
【特許文献2】特開平2−122139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記従来の問題を解決せんとして発明したものであって、一体型クランク軸の成形時の材料流動を阻止でき、材料流動による金型の磨耗が少なく、成形した後の一体型クランク軸の機械加工時間も短くて済む一体型クランク軸の成形装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1記載の発明は、クロスヘッドの下方に設けられ、そのクロスヘッドの圧下に連動して互いに接近する水平方向に移動する一対の把持ダイスと、前記一対の把持ダイスの間に設けられ、下方に向け移動するピン部押し下げ用ポンチを備えた一体型クランク軸の成形装置であって、前記一対の把持ダイスの上下の把持面、前記ピン部押し下げ用ポンチの上下の把持面のうち、少なくとも一組の上下の把持面に、成形時の丸棒素材の材料流動を阻止する材料流動阻止手段を設けたことを特徴とする一体型クランク軸の成形装置である。
【0018】
請求項2記載の発明は、前記材料流動阻止手段が、前記一対の把持ダイスのうち、成形中の単位クランクスローとなる部分のジャーナル部を把持する把持ダイスの上下の把持面に設けられていることを特徴とする請求項1記載の一体型クランク軸の成形装置である。
【0019】
請求項3記載の発明は、前記材料流動阻止手段が、前記ピン部押し下げ用ポンチの上下の把持面に設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の一体型クランク軸の成形装置である。
【0020】
請求項4記載の発明は、前記材料流動阻止手段が、前記一対の把持ダイスのうち、成形前の丸棒素材を把持する把持ダイスの上下の把持面に設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の一体型クランク軸の成形装置である。
【0021】
請求項5記載の発明は、前記材料流動阻止手段は、高さ1mm以上の凸部または凹部であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の一体型クランク軸の成形装置である。
【0022】
請求項6記載の発明は、前記凸部または凹部は、前記把持ダイスが成形中の単位クランクスローとなる部分のジャーナル部や丸棒素材を把持して移動する方向と直交する方向に筋状に設けられており、把持面毎に少なくとも一筋設けられていることを特徴とする請求項5記載の一体型クランク軸の成形装置である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の請求項1記載の一体型クランク軸の成形装置によると、一体型クランク軸の成形時の材料流動を阻止することができ、材料流動による金型の磨耗が少なくなる上に、成形した後の一体型クランク軸の機械加工時間も短くすることができる。
【0024】
本発明の請求項2記載の一体型クランク軸の成形装置によると、把持ダイスを水平方向に移動させた際に、成形中の単位クランクスローとなる部分のジャーナル部に材料流動が発生し、材料と金型に滑りが生じて金型に磨耗が発生することを抑制することができる。
【0025】
本発明の請求項3記載の一体型クランク軸の成形装置によると、ピン部押し下げ用ポンチを下方に向け移動させた際に、ピン部で材料流動が起こり、隣り合うアーム部で体積が異なることになるということを抑制することができる。
【0026】
本発明の請求項4記載の一体型クランク軸の成形装置によると、成形前の丸棒素材が流動して材料と金型に滑りが生じて金型に磨耗が発生することを抑制することができる。
【0027】
本発明の請求項5記載の一体型クランク軸の成形装置によると、材料流動防止手段を凸部または凹部とすることで、グリップ力を大きくし、材料流動の発生を確実に抑制することができる。また、凸部または凹部の高さを1mm以上とすることで、その高さが酸化スケールの厚さ以上となるので、確実に材料流動を抑制することができる。
【0028】
本発明の請求項6記載の一体型クランク軸の成形装置によると、凸部または凹部を、把持ダイスの移動方向と直交する方向の筋状とすることで、材料流動の発生を確実に抑制することができる。また、設けられる凸部または凹部が把持面毎に一筋だけであれば、表面性状への影響も極力少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて更に詳細に説明する。尚、以下の説明では、本発明を前記した特許文献1に示す成形装置に適用した実施形態をもとに説明するが、本発明を背景技術で説明した図9に示す成形装置等に適用しても良いことは勿論である。更に、他の一体型クランク軸の成形装置であるTR鍛造装置や2軸プレスによる方法にも適用することが可能である。
【0030】
図1は、本発明の一体型クランク軸の成形装置の一実施形態を示す縦断面図である。この成形装置は、図9に示す成形装置の、クロスヘッド1のポンチシリンダ9が設けられている部位に貫通孔12を設け、その貫通孔12に、ポンチシリンダ9を内部に設けたプッシャ部材13を上下に摺動可能に設けることにより、ピン部cの押し下げを所定量行った後に、アーム部dの軸方向圧縮を行うことができるように構成している。その他の基本構成は、図9に示す成形装置と同じ構成であり、特に本発明の要点でもないので、背景技術欄での説明を採用し、本欄ではその説明を省略する。尚、5は、図9では図示をしていない主プレスである。
【0031】
本発明の一体型クランク軸の成形装置では、図1のA、B、Cの点線円で囲んだ部位の把持面2a、3aに、材料流動阻止手段4(図2参照)を設けている。Aの部位では、成形中の単位クランクスローとなる部分のジャーナル部bを把持する把持ダイス2の上下の把持面2aに材料流動阻止手段4を設けている。Bの部位では、ピン部押し下げ用ポンチ3の上下の把持面3aに材料流動阻止手段4を設けている。Cの部位では、成形前の丸棒素材eを把持する把持ダイス2の上下の把持面2aに材料流動阻止手段4を設けている。
【0032】
これら材料流動阻止手段4は、図2に示すような、高さ1mm以上の凸部4a、或いは高さ1mm以上の凹部4b等でなる。図3が材料流動阻止手段4を凸部4aとした場合の、表面に凹みが形成された丸棒素材eの断面形状であり、図4が材料流動阻止手段4を凹部4bとした場合の、表面に突起が形成された丸棒素材eの断面形状である。図2は、図1のCの点線円で囲んだ部位の把持面2aを示すが、A、Bの点線円で囲んだ部位の把持面2a、3aの場合も同様に、材料流動阻止手段4として、高さ1mm以上の凸部4aや凹部4bが設けられる。
【0033】
ここでは、材料流動阻止手段4が、図2に示すような凸部4aの場合について説明するが、材料流動阻止手段4が凹部4bである場合も同様である。この実施形態の凸部4aの高さ方向の断面は、図2(c)に示すように、略矩形であり、その角部にはRが形成されている。角部をRとしたのは、成形時に材料(丸棒素材e)が金型から抜けやすくするためである。この凸部4aは、前記したように高さが1mm以上であるが、高さが1mm未満であると、丸棒素材eの表面に形成された酸化スケールを押さえることになって成形時の材料流動を抑制するという効果を達成することができない。また、この凸部4aは、把持ダイス2が成形中の単位クランクスローとなる部分のジャーナル部bや丸棒素材eを把持して移動する方向と直交する方向に筋状に設けられている。尚、この凸部4aは、機械加工や放電加工、或いは溶接等によって形成することができる。
【0034】
以上説明したように、把持面2a、3aに、凸部4aや凹部4bのような材料流動阻止手段4を設けることで、摩擦力、グリップ力を大きくし、成形時の材料流動を抑制することができる。図1のAの点線円で囲んだ部位の把持面2aに、材料流動阻止手段4を設けた場合には、把持ダイス2を水平方向に移動させた際に、成形中の単位クランクスローとなる部分のジャーナル部bに材料流動が発生することを抑制することができる。また、図1のBの点線円で囲んだ部位の把持面3aに、材料流動阻止手段4を設けた場合には、ピン部押し下げ用ポンチ3を下方に向け移動させた際に、ピン部cで材料流動が発生することを抑制することができる。更には、図1のCの点線円で囲んだ部位の把持面2aに、材料流動阻止手段4を設けた場合には、成形前の丸棒素材eで材料流動が発生することを抑制することができる。
【0035】
この材料流動阻止手段4は、図1のA、B、Cの点線円で囲んだ全ての部位の把持面2a、3aに設けることが望ましいが、これらA、B、Cの点線円で囲んだ全ての部位のうち、少なくとも1つの部位に設けることで、一体型クランク軸aを成形する際の材料流動を阻止することができ、材料流動による金型の磨耗が少なくなる上に、成形した後の一体型クランク軸aの機械加工時間も短くすることができるという作用効果を達成することができる。また、材料流動阻止手段4は、凹部4bである場合よりも凸部4aである場合の方が、材料流動の抑制効果は大きい。しかしながら、凹部4bであっても材料流動の抑制効果を奏することはできる。
【0036】
以上、図2に示す実施形態に基づいて、材料流動阻止手段4の構成を説明したがその他様々な形態の材料流動阻止手段4を設けることができる。図5は、把持ダイス2の上下の把持面2aで把持することにより、様々な形態の材料流動阻止手段4で表面形状が変形した丸棒素材eを示す。尚、図5は、材料流動阻止手段4が凸部4aである場合に、図3に示すような、表面に凹みが形成された丸棒素材eの表面形状を示すが、材料流動阻止手段4が凹部4bである場合は、図4に示すように、表面に形成されるのが凹みではなく突出であるだけで同様である。
【0037】
図5(a)は、筋状の凸部4aが複数本等間隔に並べて形成された、図2に示すような把持面2aで把持することにより、表面に筋状の凹みが形成された丸棒素材eの表面形状を示す。このように、把持面2aに複数本の凸部4aを形成することにより、摩擦力、グリップ力を大きくし、材料流動の発生を確実に抑制することができるが、把持面2a毎に凸部4aは少なくとも一本あれば、材料流動の発生を抑制することは可能である。尚、上述したように凸部4aが一本であれば、丸棒素材eの表面性状への影響も極力少なくすることができるが、複数本である場合も、丸棒素材eの表面は次工程での再加熱で酸化スケールとなって剥離除去されるので特に問題はない。
【0038】
図5(b)は、筋状の凸部4aがスパイラル状に形成された把持面2aで把持することにより、表面にスパイラル状の凹みが形成された丸棒素材eの表面形状を示す。図5(c)(d)(e)は、複数個の円柱隆起状の凸部4aが形成された把持面2aで把持することにより、表面に複数個の円形の凹みが形成された丸棒素材eの表面形状を示す。図5(c)の場合は、複数個の凹みが、丸棒素材eの軸方向に並んで形成されており、図5(d)の場合は、複数個の凹みが、丸棒素材eの径方向に並んで形成されている。また、図5(e)の場合は、複数個の凹みが、千鳥状に並んで形成されている。図5(f)は、網目状の凸部4aが形成された把持面2aで把持することにより、表面に網目状の凹みが形成された丸棒素材eの表面形状を示す。
【0039】
尚、図5(c)で、複数個の凹みが、丸棒素材eの軸方向に並んで形成されたものを示したが、この凹みは、丸棒素材eの天頂部を0度としたとき、0度、90度、180度、270度の位置に形成される。その理由を図6に基づいて説明する。図6は、図5(c)とは異なり材料流動阻止手段4が凸部4aではなく凹部4bである場合の実施形態であるが、凸部4aの場合でも同様である。尚、図6は、把持ダイス2の上下の把持面2aで丸棒素材eを把持した際の縦断面図である。円形で示す丸棒素材eの上下左右の位置、即ち0度、90度、180度、270度の位置に凹部4bが設けられている場合は問題なく把持ダイス2を上下に開くことができるが、その他の角度の位置(黒地で示す)に凹部4bを設けた場合には、凹部4bの形状に工夫を凝らさない場合は、凹部4b内に流動した材料により把持ダイス2を上下に開けることが困難となる。
【0040】
また、凸部4aや凹部4bは、上述したように必ずしも規則的に設けられている必要はなく、成形時の材料流動を抑制することができるならば、ランダムな配置、様々な高さ、他の様々な形状であっても良い。また、材料流動阻止手段4は、凸部4aや凹部4bである必要もなく、成形時の材料流動を抑制することができるならば、材料と金型の間に挿入される表面に凹凸を有するスペーサー、或いは砂のようなものであっても良い。尚、本発明により以下に示す効果を達成することもできる。
【0041】
図7は金型に角がある場合を示す。図7(a)は従来例、図7(b)は本発明例を示す。材料流動阻止手段4を設けなかった従来の場合は、図7(a)に示すように、材料流動により金型の角にまで材料が充満しないことがあったが、材料流動阻止手段4を設けた場合は、表面の凹凸のために材料と金型の接触面積が小さくなるため、図7(b)に示すように、金型の角にまで材料が充満しやすくなる。更に潤滑油を付与すること等により、更なる充満を期待することができる。
【実施例】
【0042】
一体型クランク軸を本発明の一体型クランク軸の成形装置により作製した。一体型クランク軸のストロークは200mmであり、材質は低合金鋼である。図1に示すA、B、Cの点線円で囲んだ全ての部位の把持面に材料流動阻止手段を設けた。尚、材料流動阻止手段を設けない従来の一体型クランク軸の成形装置により一体型クランク軸を作製し、基準比較例とした。
【0043】
形成した材料流動阻止手段は、全て溝状(筋状)の凸部か凹部であり、表1には、溝の有無、溝形状、溝の本数、溝の高さを夫々示す。一体型クランク軸成形後の金型の磨耗量、成形後の一体型クランク軸加工時間を測定し、本発明を採用することにより、基準比較例よりと比較して、磨耗量が少なくなること、加工時間が短くなることを確認した。尚、表1には金型磨耗比率、機械加工時間比率として示し、その数値が1より小さくなった場合は改善されていることを示す。金型磨耗比率については、金型の厚みをノギスで測定し、従来の厚みで割ることにより無次元化している。機械加工時間比率については、1スローを機械加工するのに要した時間を、従来の機械加工時間で割り無次元化している。
【0044】
【表1】
【0045】
発明例1〜5は、材料流動阻止手段として高さ5mmの溝状の凸部を設けており、発明例6〜10は、材料流動阻止手段として高さ5mmの溝状の凹部を設けている。夫々の溝本数は、1〜5本と異なる。これら発明例1〜10では、金型磨耗比率、機械加工時間比率ともに改善されているが、凸部を設けた方が、凹部を設けた場合よりもより改善効果が大きいことを確認できた。また、溝本数は多い方がより改善効果が大きい。
【0046】
発明例11〜15は、材料流動阻止手段として高さ1mmの溝状の凸部を設けている。一方、比較例16、17では、材料流動阻止手段として高さ0.9mmの溝状の凸部を設けている。凸部の高さが1mmであれば、改善効果があるが、凸部の高さが0.9mmであれば、改善効果がないことを確認できた。これは、凸部の高さが0.9mmの場合は、材料の表面に形成された酸化スケールを押さえることになって成形時の材料流動を抑制することができなかったためであると考えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一体型クランク軸の成形装置の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】同実施形態に係る成形前の丸棒素材を把持する把持ダイスを示すもので、(a)は把持ダイス全体を示す縦断面図、(b)は(a)の円で囲んだ部位の要部拡大縦断面図、(c)は(b)の円で囲んだ部位の要部拡大縦断面図である。
【図3】同実施形態に係り、材料流動阻止手段が凸部の把持ダイスで把持した丸棒素材を示す縦断面図である。
【図4】同実施形態に係り、材料流動阻止手段が凹部の把持ダイスで把持した丸棒素材を示す縦断面図である。
【図5】同実施形態に係り、様々な形態の材料流動阻止手段で把持ダイスで把持することで表面形状が変形した丸棒素材を示し、(a)は表面に筋状の凹みが複数本等間隔に並べて形成された丸棒素材の斜視図、(b)は表面にスパイラル状の凹みが形成された丸棒素材の斜視図、(c)は表面に複数個の凹みが軸方向に並んで形成された丸棒素材の斜視図、(d)は表面に複数個の凹みが径方向に並んで形成された丸棒素材の斜視図、(e)は表面に複数個の凹みが千鳥状に並んで形成された丸棒素材の斜視図、(e)は表面に網目状の凹みが形成された丸棒素材である。
【図6】図5(c)における材料流動阻止手段の設置位置を説明するための把持ダイスで丸棒素材を把持した状態を示す説明図である。
【図7】金型に角がある場合の作用効果を説明するための材料と金型の関係を示す説明図であり、(a)は従来例、(b)は本発明例を示す。
【図8】一体型クランク軸を示す側面図である。
【図9】従来の一体型クランク軸の成形装置を示す縦断面図である。
【図10】従来の一体型クランク軸の成形装置による成形工程を示す説明図である。
【図11】従来の一体型クランク軸の成形装置による成形工程を示す説明図である。
【図12】従来の一体型クランク軸の成形装置による成形工程を示す説明図である。
【図13】従来の一体型クランク軸の成形装置による成形工程を示す説明図である。
【図14】従来の一体型クランク軸の成形装置による成形工程を示す説明図である。
【図15】従来の一体型クランク軸の成形装置で一体型クランク軸の成形を行った際の圧下初期のジャーナル部、ピン部、アーム部の状態を示す説明図である。
【図16】特許文献1の一体型クランク軸の成形装置で一体型クランク軸の成形を行った際の圧下初期のジャーナル部、ピン部、アーム部の状態を示す説明図である。
【図17】特許文献1の一体型クランク軸の成形装置で一体型クランク軸の成形を行った際の圧下初期のジャーナル部、ピン部、アーム部の状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0048】
a…一体型クランク軸
b…ジャーナル部
c…ピン部
d…アーム部
e…丸棒素材
1…クロスヘッド
2…把持ダイス
2a…把持面
3…ピン軸押し下げ用ポンチ
3a…把持面
4…材料流動阻止手段
4a…凸部
4b…凹部
【技術分野】
【0001】
本発明は、船用や陸上発電機に使用されている中小型ディーゼル機関用の一体型クランク軸を鍛造する際に用いられている一体型クランク軸の成形装置に関し、特には、改善されたRR鍛造法等に用いられる一体型クランク軸の成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船用や陸上発電機に使用されている中小型ディーゼル機関用のクランク軸は、一般には、図8に示すような一体型クランク軸aである。その一体型クランク軸aは、RR鍛造法、TR鍛造法、二軸プレスなどにより高温に加熱された丸棒素材eを鍛造し、一本のクランク軸としている。その各鍛造法のうちクランク軸をCGF(Continuous Grain Flow)鍛造する方法として広く知られているRR鍛造法は、一回の鍛造で一気筒分の単位クランクスロー部を鍛造し、気筒数分の鍛造を繰り返して一本の一体型クランク軸aとしている。このRR鍛造法に用いられる一体型クランク軸の成形装置を図9に例示する。
【0003】
図9は、従来のRR鍛造法に用いられる一体型クランク軸の成形装置の縦断面図であり、その左方は成形前の丸棒素材eを把持した成形開始時点、右方は一体型クランク軸aの成形終了時点の夫々の状態を示す。この成形装置は、図の右方に示すように、主プレスの圧下に伴うクロスヘッド1の圧下力Pを、摺動傾斜板6を介して、把持ダイス2を備えた一対の摺動台7に伝達させ、その圧下力Pの分力Fにて、丸棒素材eのアーム部dを軸方向に圧縮すると共に、クロスヘッド1に連結された上ポンチ3bにて丸棒素材eのピン部cを下方に押し下げて、丸棒素材eの単位クランクスロー部を順次成形して、一体型クランク軸aを鍛造できるよう構成されている。
【0004】
また、把持ダイス2は、クロスヘッド1の両側に設けたダイス押さえシリンダ8で一定の把持力を付与される。そして、上ポンチ3bは、ポンチシリンダ9を介してクロスヘッドに連結される一方、その下方には、アンビルシリンダ10を介して台盤11に連結された下ポンチ3cが設けられており、成形過程における丸棒素材eのピン部dは、これら上下ポンチ3b、3cにて上下より一定圧力で把持されている。これら上下ポンチ3b、3cを総称してピン部押し下げ用ポンチ3という。
【0005】
また、上ポンチ3bの上端および下ポンチ3cの下端には、クロスヘッド1の下面および台盤11の上面に当接してその上下移動を規定する拡径ストッパ3d、3eが夫々設けられており、このように構成したことによりピン部押し下げ用ポンチ3は、丸棒素材eのピン部cを把持して限定された範囲で上下移動するものとされている。
【0006】
次に、上記従来の成形装置を用いて、一体型クランク軸aを成形する方法を、図10〜図14に基づいて説明する。まず、図10に示すように、丸棒素材eのジャーナル部bを対になった把持ダイス2で把持し、ピン部cをピン部押し下げ用ポンチ3の上下ポンチ3b、3cで把持する。
【0007】
続いて、クロスヘッド1の圧下により、対になった摺動台7を内側に移動させ、図11に示すように、アーム部dの予備圧縮を行う。所定量の予備圧縮を行った後に、ポンチシリンダ9の設定リリーフ圧を高く変更して、その後退を停止させることで、上ポンチ3bをクロスヘッド1の圧下動に直動して圧下させ、図12に示すように、ピン部cの押し下げを行う。このとき、上ポンチ3bの上端に設けた拡径ストッパ3dの上面とクロスヘッド1の下面との間に、図10に示すように、所定の間隔Δlが残される。
【0008】
クロスヘッド1の圧下が進み、下ポンチ3cの下死点に達したとき、上ポンチ3bの圧下が停止すると共に、ポンチシリンダ9が上方に押し戻され、図13に示すように、上ポンチ3bの拡径ストッパ3dの上面とクロスヘッド1の下面が当接して、上記の遊び間隔Δlが解消され、クロスヘッド1の圧下が停止する。また、この遊び間隔Δlが解消されるまでの間に、軸方向の圧縮が進み、図14に示すように、アーム部dの最終圧縮が行われる。
【0009】
以上のように、従来の成形装置を用いて、一体型クランク軸aを成形する方法では、アーム部dの予備圧縮工程、ピン部cの押し下げ工程、アーム部dの最終圧縮工程の三段階からなる成形を実施することができる。
【0010】
この従来の方法では、図11に示すように、アーム部dの予備圧縮を行った後に、ポンチシリンダ9の設定リリーフ圧を高く変更して、その後退を停止させることで、上ポンチ3bをクロスヘッド1の圧下動に直動して圧下させ、図12に示すように、ピン部cの押し下げを行っている。しかしながら、この方法では、図15に示すように、アーム部dからの反力によりジャーナル部bで材料流動が発生してアーム部dだけではなく軸方向に材料が流れるため(矢印で示す)、成形中の単位クランクスロー部分の材料不足による欠肉や、隣り合う単位クランクスローとの間隔の変化による寸法不良が発生してしまう。
【0011】
このような問題の解消のため発明されたのが、特許文献1に記載の技術である。この技術では、ピン部cの押し下げを行い、その押し下げが終了した後に、アーム部dの軸方向圧縮を行っている。この方法を採用することで上記記載の問題点を解消することができるが、その一方で、新たな課題が発生してしまう。
【0012】
それは、図16に示すように、ピン部cの押し下げ(下矢印で示す)の際に、次の単位クランクスローとなる部分の材料が成形中の単位クランクスロー部分に流入してしまう(右矢印で示す)ことである。その材料の流動により、金型に磨耗が発生し、金型の手入れが必要となってしまう。また、金型が磨耗すると、単位クランクスロー毎の材料重量、体積が異なることとなり、鍛造後の機械加工時間が長くなることとなる。
【0013】
また、特許文献2に記載の技術もある。この技術では、ピン部cの押し下げ過程の際のピン軸押し下げ用ポンチ3の圧下速度を、クロスヘッド1の圧下速度と異なるものとしている。しかしながら、この方法によっても、材料流動は阻止することはできない。
【0014】
この特許文献2に記載の技術をRR鍛造に適用すると、図17に示すように、最初に把持ダイス2を互いに接近する方向に移動すると(上の左右矢印で示す)、成形中の単位クランクスローとなる部分の材料が次の単位クランクスローとなる部分に流入してしまう(下の左矢印で示す)。その材料の流動により、特許文献1に記載の技術と同様に、金型に磨耗が発生し、金型の手入れが必要となってしまう。また、金型が磨耗することで、単位スロー毎の材料重量、体積が異なることとなり、鍛造後の機械加工時間が長くなることとなる。
【0015】
【特許文献1】特開2003−326332号公報
【特許文献2】特開平2−122139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記従来の問題を解決せんとして発明したものであって、一体型クランク軸の成形時の材料流動を阻止でき、材料流動による金型の磨耗が少なく、成形した後の一体型クランク軸の機械加工時間も短くて済む一体型クランク軸の成形装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1記載の発明は、クロスヘッドの下方に設けられ、そのクロスヘッドの圧下に連動して互いに接近する水平方向に移動する一対の把持ダイスと、前記一対の把持ダイスの間に設けられ、下方に向け移動するピン部押し下げ用ポンチを備えた一体型クランク軸の成形装置であって、前記一対の把持ダイスの上下の把持面、前記ピン部押し下げ用ポンチの上下の把持面のうち、少なくとも一組の上下の把持面に、成形時の丸棒素材の材料流動を阻止する材料流動阻止手段を設けたことを特徴とする一体型クランク軸の成形装置である。
【0018】
請求項2記載の発明は、前記材料流動阻止手段が、前記一対の把持ダイスのうち、成形中の単位クランクスローとなる部分のジャーナル部を把持する把持ダイスの上下の把持面に設けられていることを特徴とする請求項1記載の一体型クランク軸の成形装置である。
【0019】
請求項3記載の発明は、前記材料流動阻止手段が、前記ピン部押し下げ用ポンチの上下の把持面に設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の一体型クランク軸の成形装置である。
【0020】
請求項4記載の発明は、前記材料流動阻止手段が、前記一対の把持ダイスのうち、成形前の丸棒素材を把持する把持ダイスの上下の把持面に設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の一体型クランク軸の成形装置である。
【0021】
請求項5記載の発明は、前記材料流動阻止手段は、高さ1mm以上の凸部または凹部であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の一体型クランク軸の成形装置である。
【0022】
請求項6記載の発明は、前記凸部または凹部は、前記把持ダイスが成形中の単位クランクスローとなる部分のジャーナル部や丸棒素材を把持して移動する方向と直交する方向に筋状に設けられており、把持面毎に少なくとも一筋設けられていることを特徴とする請求項5記載の一体型クランク軸の成形装置である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の請求項1記載の一体型クランク軸の成形装置によると、一体型クランク軸の成形時の材料流動を阻止することができ、材料流動による金型の磨耗が少なくなる上に、成形した後の一体型クランク軸の機械加工時間も短くすることができる。
【0024】
本発明の請求項2記載の一体型クランク軸の成形装置によると、把持ダイスを水平方向に移動させた際に、成形中の単位クランクスローとなる部分のジャーナル部に材料流動が発生し、材料と金型に滑りが生じて金型に磨耗が発生することを抑制することができる。
【0025】
本発明の請求項3記載の一体型クランク軸の成形装置によると、ピン部押し下げ用ポンチを下方に向け移動させた際に、ピン部で材料流動が起こり、隣り合うアーム部で体積が異なることになるということを抑制することができる。
【0026】
本発明の請求項4記載の一体型クランク軸の成形装置によると、成形前の丸棒素材が流動して材料と金型に滑りが生じて金型に磨耗が発生することを抑制することができる。
【0027】
本発明の請求項5記載の一体型クランク軸の成形装置によると、材料流動防止手段を凸部または凹部とすることで、グリップ力を大きくし、材料流動の発生を確実に抑制することができる。また、凸部または凹部の高さを1mm以上とすることで、その高さが酸化スケールの厚さ以上となるので、確実に材料流動を抑制することができる。
【0028】
本発明の請求項6記載の一体型クランク軸の成形装置によると、凸部または凹部を、把持ダイスの移動方向と直交する方向の筋状とすることで、材料流動の発生を確実に抑制することができる。また、設けられる凸部または凹部が把持面毎に一筋だけであれば、表面性状への影響も極力少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて更に詳細に説明する。尚、以下の説明では、本発明を前記した特許文献1に示す成形装置に適用した実施形態をもとに説明するが、本発明を背景技術で説明した図9に示す成形装置等に適用しても良いことは勿論である。更に、他の一体型クランク軸の成形装置であるTR鍛造装置や2軸プレスによる方法にも適用することが可能である。
【0030】
図1は、本発明の一体型クランク軸の成形装置の一実施形態を示す縦断面図である。この成形装置は、図9に示す成形装置の、クロスヘッド1のポンチシリンダ9が設けられている部位に貫通孔12を設け、その貫通孔12に、ポンチシリンダ9を内部に設けたプッシャ部材13を上下に摺動可能に設けることにより、ピン部cの押し下げを所定量行った後に、アーム部dの軸方向圧縮を行うことができるように構成している。その他の基本構成は、図9に示す成形装置と同じ構成であり、特に本発明の要点でもないので、背景技術欄での説明を採用し、本欄ではその説明を省略する。尚、5は、図9では図示をしていない主プレスである。
【0031】
本発明の一体型クランク軸の成形装置では、図1のA、B、Cの点線円で囲んだ部位の把持面2a、3aに、材料流動阻止手段4(図2参照)を設けている。Aの部位では、成形中の単位クランクスローとなる部分のジャーナル部bを把持する把持ダイス2の上下の把持面2aに材料流動阻止手段4を設けている。Bの部位では、ピン部押し下げ用ポンチ3の上下の把持面3aに材料流動阻止手段4を設けている。Cの部位では、成形前の丸棒素材eを把持する把持ダイス2の上下の把持面2aに材料流動阻止手段4を設けている。
【0032】
これら材料流動阻止手段4は、図2に示すような、高さ1mm以上の凸部4a、或いは高さ1mm以上の凹部4b等でなる。図3が材料流動阻止手段4を凸部4aとした場合の、表面に凹みが形成された丸棒素材eの断面形状であり、図4が材料流動阻止手段4を凹部4bとした場合の、表面に突起が形成された丸棒素材eの断面形状である。図2は、図1のCの点線円で囲んだ部位の把持面2aを示すが、A、Bの点線円で囲んだ部位の把持面2a、3aの場合も同様に、材料流動阻止手段4として、高さ1mm以上の凸部4aや凹部4bが設けられる。
【0033】
ここでは、材料流動阻止手段4が、図2に示すような凸部4aの場合について説明するが、材料流動阻止手段4が凹部4bである場合も同様である。この実施形態の凸部4aの高さ方向の断面は、図2(c)に示すように、略矩形であり、その角部にはRが形成されている。角部をRとしたのは、成形時に材料(丸棒素材e)が金型から抜けやすくするためである。この凸部4aは、前記したように高さが1mm以上であるが、高さが1mm未満であると、丸棒素材eの表面に形成された酸化スケールを押さえることになって成形時の材料流動を抑制するという効果を達成することができない。また、この凸部4aは、把持ダイス2が成形中の単位クランクスローとなる部分のジャーナル部bや丸棒素材eを把持して移動する方向と直交する方向に筋状に設けられている。尚、この凸部4aは、機械加工や放電加工、或いは溶接等によって形成することができる。
【0034】
以上説明したように、把持面2a、3aに、凸部4aや凹部4bのような材料流動阻止手段4を設けることで、摩擦力、グリップ力を大きくし、成形時の材料流動を抑制することができる。図1のAの点線円で囲んだ部位の把持面2aに、材料流動阻止手段4を設けた場合には、把持ダイス2を水平方向に移動させた際に、成形中の単位クランクスローとなる部分のジャーナル部bに材料流動が発生することを抑制することができる。また、図1のBの点線円で囲んだ部位の把持面3aに、材料流動阻止手段4を設けた場合には、ピン部押し下げ用ポンチ3を下方に向け移動させた際に、ピン部cで材料流動が発生することを抑制することができる。更には、図1のCの点線円で囲んだ部位の把持面2aに、材料流動阻止手段4を設けた場合には、成形前の丸棒素材eで材料流動が発生することを抑制することができる。
【0035】
この材料流動阻止手段4は、図1のA、B、Cの点線円で囲んだ全ての部位の把持面2a、3aに設けることが望ましいが、これらA、B、Cの点線円で囲んだ全ての部位のうち、少なくとも1つの部位に設けることで、一体型クランク軸aを成形する際の材料流動を阻止することができ、材料流動による金型の磨耗が少なくなる上に、成形した後の一体型クランク軸aの機械加工時間も短くすることができるという作用効果を達成することができる。また、材料流動阻止手段4は、凹部4bである場合よりも凸部4aである場合の方が、材料流動の抑制効果は大きい。しかしながら、凹部4bであっても材料流動の抑制効果を奏することはできる。
【0036】
以上、図2に示す実施形態に基づいて、材料流動阻止手段4の構成を説明したがその他様々な形態の材料流動阻止手段4を設けることができる。図5は、把持ダイス2の上下の把持面2aで把持することにより、様々な形態の材料流動阻止手段4で表面形状が変形した丸棒素材eを示す。尚、図5は、材料流動阻止手段4が凸部4aである場合に、図3に示すような、表面に凹みが形成された丸棒素材eの表面形状を示すが、材料流動阻止手段4が凹部4bである場合は、図4に示すように、表面に形成されるのが凹みではなく突出であるだけで同様である。
【0037】
図5(a)は、筋状の凸部4aが複数本等間隔に並べて形成された、図2に示すような把持面2aで把持することにより、表面に筋状の凹みが形成された丸棒素材eの表面形状を示す。このように、把持面2aに複数本の凸部4aを形成することにより、摩擦力、グリップ力を大きくし、材料流動の発生を確実に抑制することができるが、把持面2a毎に凸部4aは少なくとも一本あれば、材料流動の発生を抑制することは可能である。尚、上述したように凸部4aが一本であれば、丸棒素材eの表面性状への影響も極力少なくすることができるが、複数本である場合も、丸棒素材eの表面は次工程での再加熱で酸化スケールとなって剥離除去されるので特に問題はない。
【0038】
図5(b)は、筋状の凸部4aがスパイラル状に形成された把持面2aで把持することにより、表面にスパイラル状の凹みが形成された丸棒素材eの表面形状を示す。図5(c)(d)(e)は、複数個の円柱隆起状の凸部4aが形成された把持面2aで把持することにより、表面に複数個の円形の凹みが形成された丸棒素材eの表面形状を示す。図5(c)の場合は、複数個の凹みが、丸棒素材eの軸方向に並んで形成されており、図5(d)の場合は、複数個の凹みが、丸棒素材eの径方向に並んで形成されている。また、図5(e)の場合は、複数個の凹みが、千鳥状に並んで形成されている。図5(f)は、網目状の凸部4aが形成された把持面2aで把持することにより、表面に網目状の凹みが形成された丸棒素材eの表面形状を示す。
【0039】
尚、図5(c)で、複数個の凹みが、丸棒素材eの軸方向に並んで形成されたものを示したが、この凹みは、丸棒素材eの天頂部を0度としたとき、0度、90度、180度、270度の位置に形成される。その理由を図6に基づいて説明する。図6は、図5(c)とは異なり材料流動阻止手段4が凸部4aではなく凹部4bである場合の実施形態であるが、凸部4aの場合でも同様である。尚、図6は、把持ダイス2の上下の把持面2aで丸棒素材eを把持した際の縦断面図である。円形で示す丸棒素材eの上下左右の位置、即ち0度、90度、180度、270度の位置に凹部4bが設けられている場合は問題なく把持ダイス2を上下に開くことができるが、その他の角度の位置(黒地で示す)に凹部4bを設けた場合には、凹部4bの形状に工夫を凝らさない場合は、凹部4b内に流動した材料により把持ダイス2を上下に開けることが困難となる。
【0040】
また、凸部4aや凹部4bは、上述したように必ずしも規則的に設けられている必要はなく、成形時の材料流動を抑制することができるならば、ランダムな配置、様々な高さ、他の様々な形状であっても良い。また、材料流動阻止手段4は、凸部4aや凹部4bである必要もなく、成形時の材料流動を抑制することができるならば、材料と金型の間に挿入される表面に凹凸を有するスペーサー、或いは砂のようなものであっても良い。尚、本発明により以下に示す効果を達成することもできる。
【0041】
図7は金型に角がある場合を示す。図7(a)は従来例、図7(b)は本発明例を示す。材料流動阻止手段4を設けなかった従来の場合は、図7(a)に示すように、材料流動により金型の角にまで材料が充満しないことがあったが、材料流動阻止手段4を設けた場合は、表面の凹凸のために材料と金型の接触面積が小さくなるため、図7(b)に示すように、金型の角にまで材料が充満しやすくなる。更に潤滑油を付与すること等により、更なる充満を期待することができる。
【実施例】
【0042】
一体型クランク軸を本発明の一体型クランク軸の成形装置により作製した。一体型クランク軸のストロークは200mmであり、材質は低合金鋼である。図1に示すA、B、Cの点線円で囲んだ全ての部位の把持面に材料流動阻止手段を設けた。尚、材料流動阻止手段を設けない従来の一体型クランク軸の成形装置により一体型クランク軸を作製し、基準比較例とした。
【0043】
形成した材料流動阻止手段は、全て溝状(筋状)の凸部か凹部であり、表1には、溝の有無、溝形状、溝の本数、溝の高さを夫々示す。一体型クランク軸成形後の金型の磨耗量、成形後の一体型クランク軸加工時間を測定し、本発明を採用することにより、基準比較例よりと比較して、磨耗量が少なくなること、加工時間が短くなることを確認した。尚、表1には金型磨耗比率、機械加工時間比率として示し、その数値が1より小さくなった場合は改善されていることを示す。金型磨耗比率については、金型の厚みをノギスで測定し、従来の厚みで割ることにより無次元化している。機械加工時間比率については、1スローを機械加工するのに要した時間を、従来の機械加工時間で割り無次元化している。
【0044】
【表1】
【0045】
発明例1〜5は、材料流動阻止手段として高さ5mmの溝状の凸部を設けており、発明例6〜10は、材料流動阻止手段として高さ5mmの溝状の凹部を設けている。夫々の溝本数は、1〜5本と異なる。これら発明例1〜10では、金型磨耗比率、機械加工時間比率ともに改善されているが、凸部を設けた方が、凹部を設けた場合よりもより改善効果が大きいことを確認できた。また、溝本数は多い方がより改善効果が大きい。
【0046】
発明例11〜15は、材料流動阻止手段として高さ1mmの溝状の凸部を設けている。一方、比較例16、17では、材料流動阻止手段として高さ0.9mmの溝状の凸部を設けている。凸部の高さが1mmであれば、改善効果があるが、凸部の高さが0.9mmであれば、改善効果がないことを確認できた。これは、凸部の高さが0.9mmの場合は、材料の表面に形成された酸化スケールを押さえることになって成形時の材料流動を抑制することができなかったためであると考えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一体型クランク軸の成形装置の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】同実施形態に係る成形前の丸棒素材を把持する把持ダイスを示すもので、(a)は把持ダイス全体を示す縦断面図、(b)は(a)の円で囲んだ部位の要部拡大縦断面図、(c)は(b)の円で囲んだ部位の要部拡大縦断面図である。
【図3】同実施形態に係り、材料流動阻止手段が凸部の把持ダイスで把持した丸棒素材を示す縦断面図である。
【図4】同実施形態に係り、材料流動阻止手段が凹部の把持ダイスで把持した丸棒素材を示す縦断面図である。
【図5】同実施形態に係り、様々な形態の材料流動阻止手段で把持ダイスで把持することで表面形状が変形した丸棒素材を示し、(a)は表面に筋状の凹みが複数本等間隔に並べて形成された丸棒素材の斜視図、(b)は表面にスパイラル状の凹みが形成された丸棒素材の斜視図、(c)は表面に複数個の凹みが軸方向に並んで形成された丸棒素材の斜視図、(d)は表面に複数個の凹みが径方向に並んで形成された丸棒素材の斜視図、(e)は表面に複数個の凹みが千鳥状に並んで形成された丸棒素材の斜視図、(e)は表面に網目状の凹みが形成された丸棒素材である。
【図6】図5(c)における材料流動阻止手段の設置位置を説明するための把持ダイスで丸棒素材を把持した状態を示す説明図である。
【図7】金型に角がある場合の作用効果を説明するための材料と金型の関係を示す説明図であり、(a)は従来例、(b)は本発明例を示す。
【図8】一体型クランク軸を示す側面図である。
【図9】従来の一体型クランク軸の成形装置を示す縦断面図である。
【図10】従来の一体型クランク軸の成形装置による成形工程を示す説明図である。
【図11】従来の一体型クランク軸の成形装置による成形工程を示す説明図である。
【図12】従来の一体型クランク軸の成形装置による成形工程を示す説明図である。
【図13】従来の一体型クランク軸の成形装置による成形工程を示す説明図である。
【図14】従来の一体型クランク軸の成形装置による成形工程を示す説明図である。
【図15】従来の一体型クランク軸の成形装置で一体型クランク軸の成形を行った際の圧下初期のジャーナル部、ピン部、アーム部の状態を示す説明図である。
【図16】特許文献1の一体型クランク軸の成形装置で一体型クランク軸の成形を行った際の圧下初期のジャーナル部、ピン部、アーム部の状態を示す説明図である。
【図17】特許文献1の一体型クランク軸の成形装置で一体型クランク軸の成形を行った際の圧下初期のジャーナル部、ピン部、アーム部の状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0048】
a…一体型クランク軸
b…ジャーナル部
c…ピン部
d…アーム部
e…丸棒素材
1…クロスヘッド
2…把持ダイス
2a…把持面
3…ピン軸押し下げ用ポンチ
3a…把持面
4…材料流動阻止手段
4a…凸部
4b…凹部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロスヘッドの下方に設けられ、そのクロスヘッドの圧下に連動して互いに接近する水平方向に移動する一対の把持ダイスと、前記一対の把持ダイスの間に設けられ、下方に向け移動するピン部押し下げ用ポンチを備えた一体型クランク軸の成形装置であって、
前記一対の把持ダイスの上下の把持面、前記ピン部押し下げ用ポンチの上下の把持面のうち、少なくとも一組の上下の把持面に、成形時の丸棒素材の材料流動を阻止する材料流動阻止手段を設けたことを特徴とする一体型クランク軸の成形装置。
【請求項2】
前記材料流動阻止手段が、前記一対の把持ダイスのうち、成形中の単位クランクスローとなる部分のジャーナル部を把持する把持ダイスの上下の把持面に設けられていることを特徴とする請求項1記載の一体型クランク軸の成形装置。
【請求項3】
前記材料流動阻止手段が、前記ピン部押し下げ用ポンチの上下の把持面に設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の一体型クランク軸の成形装置。
【請求項4】
前記材料流動阻止手段が、前記一対の把持ダイスのうち、成形前の丸棒素材を把持する把持ダイスの上下の把持面に設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の一体型クランク軸の成形装置。
【請求項5】
前記材料流動阻止手段は、高さ1mm以上の凸部または凹部であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の一体型クランク軸の成形装置。
【請求項6】
前記凸部または凹部は、前記把持ダイスが成形中の単位クランクスローとなる部分のジャーナル部や丸棒素材を把持して移動する方向と直交する方向に筋状に設けられており、把持面毎に少なくとも一筋設けられていることを特徴とする請求項5記載の一体型クランク軸の成形装置。
【請求項1】
クロスヘッドの下方に設けられ、そのクロスヘッドの圧下に連動して互いに接近する水平方向に移動する一対の把持ダイスと、前記一対の把持ダイスの間に設けられ、下方に向け移動するピン部押し下げ用ポンチを備えた一体型クランク軸の成形装置であって、
前記一対の把持ダイスの上下の把持面、前記ピン部押し下げ用ポンチの上下の把持面のうち、少なくとも一組の上下の把持面に、成形時の丸棒素材の材料流動を阻止する材料流動阻止手段を設けたことを特徴とする一体型クランク軸の成形装置。
【請求項2】
前記材料流動阻止手段が、前記一対の把持ダイスのうち、成形中の単位クランクスローとなる部分のジャーナル部を把持する把持ダイスの上下の把持面に設けられていることを特徴とする請求項1記載の一体型クランク軸の成形装置。
【請求項3】
前記材料流動阻止手段が、前記ピン部押し下げ用ポンチの上下の把持面に設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の一体型クランク軸の成形装置。
【請求項4】
前記材料流動阻止手段が、前記一対の把持ダイスのうち、成形前の丸棒素材を把持する把持ダイスの上下の把持面に設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の一体型クランク軸の成形装置。
【請求項5】
前記材料流動阻止手段は、高さ1mm以上の凸部または凹部であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の一体型クランク軸の成形装置。
【請求項6】
前記凸部または凹部は、前記把持ダイスが成形中の単位クランクスローとなる部分のジャーナル部や丸棒素材を把持して移動する方向と直交する方向に筋状に設けられており、把持面毎に少なくとも一筋設けられていることを特徴とする請求項5記載の一体型クランク軸の成形装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2009−195931(P2009−195931A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38858(P2008−38858)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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