説明

一体型磁石を有するカバーガスケットを備えた差動装置

【課題】キャリア装置内に設ける金属粒子収集装置としての磁石を、着脱可能に取り付け、コスト上昇を抑えた構成を提供する。
【解決手段】車両用の車軸部は、筐体としてのアクスルキャリア14、筐体内に回転可能に支持される差動装置、ディファレンシャルカバーとしてのディファレンシャルカバーパン10、およびアクスルキャリア14とディファレンシャルカバーパン10との間に位置するガスケット部としてのカバーガスケットおよび磁石部52を含む。カバーガスケットおよび磁石部52は、本体と本体に連結された磁石とを含む。磁石は筐体内に位置する潤滑油と連通して位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達系のディファレンシャルカバー用のガスケット部、より具体的には一体型磁石を有するカバーガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
差動装置を回転可能に支持するキャリア筐体(以下、単に筐体と呼ぶ)を備えている車両は多い。一般的に、該差動装置は、車両の変速装置と車両の車輪に駆動力を供給する出力軸との間に位置している。該差動装置は、出力軸同士の間で速度差をつけながら、駆動トルクを上記出力軸に伝える歯車装置を有する。リングギアは一般的に上記筐体に連結されており、回転可能な入力部材に連結されたピニオンギアと駆動時にかみ合う。多量の潤滑液は該筐体内に貯蔵され、該歯車装置の滑りをよくする。時間がたつと、該ギアと、ベアリングと筐体とは磨耗し、金属粒子が潤滑油内に入る。ディファレンシャルカバーは該筐体に連結されており、該歯車装置を外部環境から保護し、筐体内の潤滑油を維持する。また、該歯車装置を点検できるように、ディファレンシャルカバーは取り外し可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
キャリア装置は、上記ディファレンシャルカバーまたは筐体に着脱不可な状態で連結された磁石であって、金属粒子収集装置として機能する磁石を含んでいることが多い。磁石を接着して取り付けるための清掃および準備プロセスが必要であるため、筐体またはディファレンシャルカバーパンに磁石を取り付けるには、一般的に高い費用がかかる。さらに、磁石が筐体内で外れたり動いたりし、部材を損傷することになるかもしれないので、その耐久力が問題となっている。
【0004】
本発明は、車両の車軸部に関する。該車軸部は、筐体、該筐体内に回転可能に支持される差動装置、ディファレンシャルカバー、および筐体と該ディファレンシャルカバーとの間に位置するガスケット部を含む。該ガスケット部は、本体および該本体に連結された磁石を含む。該磁石は該筐体内に位置する潤滑油と連通して位置する。
【0005】
以下に記載された詳細な説明により、本発明の適用のさらなる領域が明らかにされる。なお、詳細な説明およびその具体例は、本発明の好ましい実施形態を示してはいるが、単に説明を目的としており、本発明の範囲を限定することを企図してはいない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
好ましい実施形態を、以下に詳細に説明するが、あくまでも例であり、本発明およびその用途を限定することを企図したものではない。
【0007】
図1および図2は、ピニオンギア16およびリングギア18を含むギアセットを回転可能に取り付けるアクスルキャリア14(筐体)を含む駆動軸部12(請求項中の車両用の車軸部に対応、以下、車軸部12と呼ぶ)の一例を示している。差動装置20はリングギア18に駆動可能に相互連結され、旋回や他の運転操作中に起こる車軸回転速度の差を補う一方で、動力を一対の車軸(図示せず)に伝えるよう機能する。該差動装置20は、ディファレンシャルハウジング27に取り付けられた一対のピニオンギア24と一対のサイドギア26とを含む。サイドギア26は、それによって一対の車輪(図示せず)への動力伝送路を提供する該車軸に駆動可能に相互連結される。車軸部12の適切な機能を促進するために、該ディファレンシャルハウジング27は、一対の差動ベアリング28に回転可能に取り付けられる。また、アクスルキャリア14は、各差動ベアリング28のおよそ半分を支持する2つの半円形の軸くび(journals;図示せず)を含む。同様に、ベアリングキャップ30は、ネジ部品31を介してアクスルキャリア14に連結されている場合、残りのおよそ半分の各差動ベアリング28を軸くびのように支持する。該アクスルキャリア14は、差動装置20にアクセスする開口部32をさらに含んでいることが理解されよう。
【0008】
ディファレンシャルカバーパン10(請求項中のディファレンシャルカバーに対応、以下、カバーパン10と呼ぶ)は、上記アクスルキャリア14内に取り付けられた部品を点検するのに役立つ。該カバーパン10は、型打ちされた鋼板であり、取付フランジ48のところまである内面44および外面46を有するシェル形に形成されることが好ましい。該取付フランジ48は、アクスルキャリア14にカバーパン10を固定するために貫通し、かつ上記開口部32を閉じる、複数の固定用穴50を含む。
【0009】
図2〜図5は、カバーパン10とアクスルキャリア14との間を密閉するように位置するカバーガスケットおよび磁石部52(ガスケット部)を示している。カバーガスケットおよび磁石部52は、カバーパン10上の取付フランジ48の形をした閉環形をしている。複数の開口部54は、円周上に互いに間隔を取り、カバーパン10を通して伸びる複数の固定用穴50に合わせて位置している。複数の締め具56は、カバーパン10の固定用穴50とカバーガスケットおよび磁石部52の開口部54とを貫通する。締め具56は、アクスルキャリア14内に形成されたねじ穴57にねじ込まれ連結する。締め具56は、クランプ力を与え、カバーガスケットおよび磁石部52の少なくとも一部を変形させてアクスルキャリア14内に形成された上記開口部32を閉じる。
【0010】
図示された実施形態において、図3に示すように、カバーガスケットおよび磁石部52は、剛体58、磁石60、高分子弾性体62および複数の鋲64を含む。剛体58は、ほぼ平面である第一の面66およびほぼ平面である第二の面68を有する輪のような形をしている。複数の固定用穴70は剛体58を貫通しており、窓72および磁石固定用穴74もまた剛体58を貫通している。窓72は、磁石60のさらに多くの表面積を、汚染されているかもしれない潤滑油に触れさせるよう機能する。このように、潤滑油に触れる磁石60の表面積が拡大される。剛体58は金属または硬質の合成物から製造されてもよい。
【0011】
高分子弾性体62は、成型、塗工(coating)、接着(gluing)、または該高分子弾性体を該剛体に取り付けるのに好適な他の方法のような方法をいくつでも使用して、剛体58に連結される。高分子弾性体62は、剛体58の第一の面66に連結された第一部分76(図5参照)を含む。第一部分76は、剛体58のほぼ周囲に伸びる第一シーリングビード78および第二シーリングビード80を含む。複数のシーリングリング82は、円周状に互いに間隔を取り、剛体58の第一の面66に位置している。各シーリングリング82は、シーリングビード78および80を遮り、固定用穴70を囲んでいる。高分子弾性体62は、第一シーリングビード78、第二シーリングビード80、およびシーリングリング82が互いに一体化され、間隔を取って形成されているか、または、図面に示したものとは異なる特徴を含んで形成されている、どんな形状を含んでもよいことが理解されよう。
【0012】
高分子弾性体62は、剛体58の第二の面68に連結された第二部分84(図5参照)を含む。本実施形態では、第二部分84は、第一部分76とほぼ同じように形成されているが、当業者には、本発明の原理に従って機能するためには、第一部分および第二部分が全く同じである必要はないことが理解できるであろう。締め具56を取り付ける間、取付フランジ48とアクスルキャリア14との間にクランプ力がかかり、高分子弾性体62の第一の面76および第二の面84が少なくとも部分的に変形する。具体的には、第一ビード78および第二ビード80は、アクスルキャリア14の取付面86(図4・5参照)に片寄った係合状態で配置されている。同様に、高分子弾性体62の第二部分84は、取付フランジ48に片寄って係合されている。
【0013】
ほぼ平面である第一の面88およびほぼ平面である反対側の第二の面90を有する磁石60は、ほぼ平板状の部材である。複数の開口部91が磁石60を貫通している。鋲64は、頭部92および中空で円筒形の胴部94を含む。円筒形の胴部94はそれぞれ、剛体58の開口部74および磁石60の開口部91を貫通する。円筒形の胴部(管状部)94は変形されてフランジ96を形成し、磁石60および剛体58を頭部92とフランジ96との間に捕える。磁石60は、剛体58の表面98を越えて半径方向内側に伸びるよう大きさを合わせて作られる。このように、潤滑油に触れる磁石60の表面積が最大限拡大される。この構造にもとづき、比較的小さなサイズの磁石を使用し、潤滑油内の金属粒子を収集してもよい。
【0014】
図4は、アクスルキャリア14上に適切に配置されたカバーガスケットおよび磁石部52を示す。アクスルキャリア14内の潤滑油の量が参照番号100で示されている。潤滑油内の金属粒子を最も多く収集するために、磁石60は潤滑油の油面100の下、アクスルキャリア14の底またはその近くに配置される。差動装置20に連結されたリングギア18は、少なくとも部分的に上記潤滑剤に浸漬している。上記磁石60と上記浸漬されたリングギア18とは、アクスルキャリア14内部の同じ半球内に位置してもよいし、反対側の半球内に位置してもよい。カバーガスケットおよび磁石部52を使用することによって、上記磁石60は、磁石表面に金属粒子を確実に保持しておくために、潤滑油の低速領域またはその近くに、適切に配置されてもよい。確実に、アクスルキャリア14に対してカバーガスケットおよび磁石部52を適切に配置するために、剛体58は、半径方向内側に伸びるタブ102を含む。タブ102は「上」とラベルを貼られるか、または他の方法で、該タブ102は最上部のねじ穴57に位置するべきであると設置者に示してもよい。
【0015】
カバーガスケットおよび磁石部52のさらなる利点を実現できる。たとえば、カバーガスケットおよび磁石部52の存在を目で見て確認できるため、運転者が磁石をアクスルキャリア14内に接着し忘れるような故障モードを避けることができる。さらに、カバーガスケットおよび磁石部52が適当な位置にない場合には、上記装置は、潤滑液の充填直後、または充填後しばらくして、潤滑液を漏らすことになる。さらに、磁石60はカバーガスケットおよび磁石部52の一部材であるため、ディファレンシャルカバーが取り外された際に、保守技術員が該磁石を洗浄する蓋然性はよりいっそう高い。一般的に、使用可能なガスケットを洗浄し、検査してそれをもう一度設置するか点検に戻すかを決定する保守技術員が多い。
【0016】
また、上記論議は本発明の実施形態の例のみを開示し、記載したものである。上記論議および特許請求の範囲を読み、付属図面を見ることにより、当業者には、特許請求の範囲に定義されているように、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更、修正、および変形がなされてもよいことが容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の教示に従って構成された車軸部の例の分解斜視図である。
【図2】図2は、本発明のキャリア筐体、ディファレンシャルカバー、カバーガスケット、および磁石部を示す部分分解斜視図である。
【図3】図3は、本発明のカバーガスケット、および磁石部を示す部分拡大斜視図である。
【図4】図4は、取り外された上記ディファレンシャルカバーを有する車軸部の部分端面図である。
【図5】図5は、カバーガスケットおよび磁石部を含む車軸部の例の部分断面側面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
該筐体内に回転可能に支持された差動装置と、
フランジを有するディファレンシャルカバーと、
本体と本体に連結された磁石とを含み、上記筐体とディファレンシャルカバーの上記フランジとの間に位置して、該筐体内部を外部環境から密閉するガスケット部であって、上記磁石が筐体内に位置する潤滑剤と接触して配置されたガスケット部と、
を含んでいる、車両用の車軸部。
【請求項2】
上記ガスケット部の本体がほぼ剛体であり、閉じたループの形をした、請求項1に記載の車両用の車軸部。
【請求項3】
上記ガスケット部の本体が、貫通する開口部を含み、該開口部が、上記磁石に付加された表面積を上記潤滑剤に触れさせるように、上記磁石の近傍に位置している、請求項2に記載の車軸部。
【請求項4】
上記磁石が、上記潤滑剤内の好ましくない金属粒子を収集するように動作する、請求項3に記載の車軸部。
【請求項5】
上記磁石および上記本体とを相互に連結する複数の締め具をさらに含んでいる、請求項4に記載の車軸部。
【請求項6】
上記本体と連結された高分子弾性体をさらに含み、該高分子弾性体が上記筐体および上記ディファレンシャルカバーのうちの一方に片寄って係合している、請求項1に記載の車軸部。
【請求項7】
差動装置に連結されたリングギアをさらに含み、該リングギアが少なくとも部分的に上記潤滑剤に浸漬している、請求項1に記載の車軸部。
【請求項8】
上記磁石が、上記リングギアのように、上記筐体内部の反対側の半球内に位置している、請求項7に記載の車軸部。
【請求項9】
上記ガスケット部が、該ガスケット部の上記筐体に対する所望の方向を示すタブを含んでいる、請求項1に記載の車軸部。
【請求項10】
上記タブが、上記本体の、半径方向内側に伸びる部分である請求項9に記載の車軸部。
【請求項11】
上記ガスケット部が複数の開口部を含み、該開口部のうちの少なくとも1つが開口部を貫通する締め具を有し、かつ該締め具が上記ディファレンシャルカバーを上記筐体に取り外し可能に取付けるように働く、請求項1に記載の車軸部。
【請求項12】
筐体と、
該筐体に回転可能に支持されたピニオンギアと、
該筐体内に回転可能に支持された差動装置であって、ディファレンシャルハウジングに回転可能に支持された一対のピニオンギアと一対のサイドギアとを含む差動装置と、
ディファレンシャルカバーと、
上記筐体と上記ディファレンシャルカバーとの間に位置する高分子弾性体部分、および該筐体と該ディファレンシャルカバーとによって規定される空洞内に位置する磁石を含み、該磁石が該空洞内に位置する潤滑剤と接触するガスケット部と、
を含む、車両用の車軸部。
【請求項13】
上記ガスケット部が、剛体、上記高分子弾性体部分、および該剛体に連結された上記磁石を含む、請求項12に記載の車軸部。
【請求項14】
上記剛体が閉環形をしている、請求項13に記載の車軸部。
【請求項15】
上記磁石が、上記剛体の端を越えて半径方向内側に伸びている、請求項14に記載の車軸部。
【請求項16】
筐体と、該筐体によって規定された空洞内に回転可能に支持された差動装置と、該差動装置にアクセスできるように、該筐体に連結されたディファレンシャルカバーと、上記空洞内に位置する潤滑剤とを有するガスケット部であって、
ほぼ平面である第一の面および反対側のほぼ平面である第二の面を有する、連続したリング形状でほぼ剛性の本体と、
上記ほぼ平面である第一および第二の面の一方に連結された高分子弾性体と、
上記ほぼ剛性の本体に連結された磁石であり、上記筐体の上記空洞内に位置する流体中を浮遊する金属粒子を収集する磁石と、
を含む、車軸部用のガスケット部。
【請求項17】
上記高分子弾性体が、上記ほぼ平面である第一および第二の面の双方と連結されている、請求項16に記載のガスケット部。
【請求項18】
上記ほぼ剛性の本体が、貫通する開口部を含み、該開口部は上記磁石の近傍に位置し、該磁石に付加された表面積を上記潤滑剤に触れさせるようにした、請求項17に記載のガスケット部。
【請求項19】
上記磁石と上記本体とを相互に連結する複数の締め具をさらに含んでいる、請求項18に記載のガスケット部。
【請求項20】
上記磁石が、上記ほぼ剛性の本体の端を越えて半径方向内側に伸びている、請求項19に記載のガスケット部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−145038(P2006−145038A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−335006(P2005−335006)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(504091968)アメリカン アクスル アンド マニュファクチャリング,インコーポレイテッド (14)
【Fターム(参考)】