説明

中空の構造体製造方法

【課題】中空の構造を持つ積層体を製造する方法をより容易とし、さらには、多層の構造を可能とする作製方法を提供することを目的とする。
【解決手段】基板上に中空の構造体を作製するための方法のうち、構造材料を積み重ねて作製する方法であって、少なくとも、
(a)基板上に構造材料層を形成する工程と、
(b)前記構造材料層にパターンを形成する工程と、
(c)前記パターンの間を埋め込む犠牲材料として水溶性又はアルカリ可溶性のポリマーを用いて、前記パターンの間を埋め込み犠牲材料層を形成する工程と、
(d)更に構造材料層を積層してパターンを形成する工程と、
(e)積層を全て終えた後に前記犠牲材料を最終的に除去する工程、
を含むことを特徴とする中空の構造体製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体やMEMS、フォトニック結晶、マイクロ流路、μTAS、Lab on Chipといった微細な構造物の製造技術に関し、中空の積層構造の形成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
中空の微細な構造物は、例えば樹脂中に気体の懸濁と言った方法などを用いて、フィルターなどを作製することが出来るが、その内部構造を再現性よく作製するには、印刷やフォトリソグラフィーと言った、原板を元として複製する方法があり、利用されている。
一般に埋め込み剤は、基材上の凹凸を埋め込む為の材料であり、中空の構造を製造するためには、その表面を基材上の構造体の最表面が出るまで削る必要があるが、その機能を含む場合には、しばしば犠牲材料と呼称される。
【0003】
半導体やMEMS製造においては、中空の構造を持つ積層体を製造する方法として、構造材料とその間を埋める犠牲材料との間でのエッチング速度の違いを利用して、犠牲材料、例えばシリコン酸化膜層を形成、パターンニングした後、構造材料、例えばポリシリコンをデポ、再度パターンニングし、さらに犠牲材料をエッチングして除くことによって中空の構造を得ることが出来る。この場合、多層を得るには表面の平坦化と、構造材料同士の接続の為の平坦化が必要である。これらの工程を繰り返すことによって、フォトニック結晶、例えば3次元ウッドパイル構造を得ることが出来る。しかしながら、工程は多岐にわたり、露光装置、CVDやエッチング装置、CMPなど、必要であり、その作製は容易ではない。
【0004】
マイクロ流路、μTAS、Lab on Chipでは、LIGAプロセスやLIGA−likeプロセスと呼ばれるモールディング(鋳型を作製し、構造材料に押し付ける、もしくは間に流し込む方法で構造を作製)する方法や、レジストモールディング法とも呼ばれる、レジストパターンを鋳型として、樹脂や金属アルコキシド等構造材料でレジストパターン上に膜形成、開口部を通じてレジストパターンを除去することで、流路等、中空の構造を作製する方法が報告されている。
【0005】
いずれの作製方法にあっても、中空構造の上面に開口部を設ける、構造材料による梁や天井を形成する際に支えとなる犠牲層が必要であり、犠牲層の形成と、最終的な犠牲層の除去方法は、製造プロセスの中でも複雑になりやすい。
特に、犠牲層は、その埋め込み工程において、埋め込み部分以外を除去し、構造材表面を露出する必要がある。このため、レジストモールディング法にある、レジスト材料によって先に埋め込み部分をパターンニング、レジスト材料が犠牲層となる方法はより簡便であるが、最終的に犠牲層となっているレジスト材料の除去のための、構造材開口部の形成方法には、解決手段にはなっていない。
【0006】
また、特許文献1にあるように、2つの感光層で光の波長に対する感光性の違いを利用して中空の構造を作製する方法が提示されているが、2層目以降の構造を作製するに当っては、中空の構造がそのプロセス中にそのまま残ってしまうことによる構造の耐性が、多層になるにつれ問題となる。中空を最後に生じさせるために現像を多層の露光を終えてから行うとしても、下層の感光層のパターンが時間経過・加熱プロセスの繰り返しに伴う解像性の劣化、目的の形状を得る為の繰り返し精度に難点がある。さらに、400nmより長波長の光で感光させる層は、解像性の点でも制約を受ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−299165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、中空の構造を持つ積層体を容易かつ低コストで製造でき、さらには、多層の構造を可能とする製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、基板上に中空の構造体を作製するための方法のうち、構造材料を積み重ねて作製する方法であって、少なくとも、
(a)基板上に構造材料層を形成する工程と、
(b)前記構造材料層にパターンを形成する工程と、
(c)前記パターンの間を埋め込む犠牲材料として水溶性又はアルカリ可溶性のポリマーを用いて、前記パターンの間を埋め込み犠牲材料層を形成する工程と、
(d)更に構造材料層を積層してパターンを形成する工程と、
(e)積層を全て終えた後に前記犠牲材料を最終的に除去する工程、
を含むことを特徴とする中空の構造体製造方法を提供する。
【0010】
このような本発明の中空の構造体製造方法であれば、CMPによる平坦化処理や除去時のエッチングを使用する必要がないため、中空の構造体を容易かつ低コストで製造することができる。
【0011】
この場合、目的とする深さを有する中空の構造体が得られるまで、前記(c)及び(d)の工程を繰り返すことができる。
このように、(c)工程及び(d)工程を繰り返し行うことで、目的の埋め込み深さを有する中空の構造体を容易に得ることができる。
【0012】
また、前記(c)の工程と(d)の工程の間に、前記水溶性のポリマーを用いて形成した犠牲材料層を、水、又は水と犠牲材料を溶解しない溶剤との混合溶液を用いて前記構造材料のパターンと同じ高さまで減らすことが好ましい。
【0013】
このように、水溶性のポリマーを用いて形成した犠牲材料層であれば、水、又は水と犠牲材料を溶解しない溶剤との混合溶液を用いることにより、容易に構造材料のパターンと同じ高さまで犠牲材料を減らすことができる。
【0014】
また、前記犠牲材料層を前記構造材料のパターンと同じ高さまで減らす際に、前記犠牲材料層を加熱によって乾燥させることにより、溶解させる速度を調整することが好ましい。
【0015】
このように、犠牲材料を加熱によって乾燥させれば、分子レベルでの熱運動を与えてポリマー分子間に溶媒分子を入れて溶かし出すことができ、溶解させる速度の調節が容易に行える。
【0016】
また、更に、前記犠牲材料層を前記構造材料のパターンと同じ高さまで減らした後に、得られた犠牲材料層を固定するための加熱工程を含むことが好ましい。
【0017】
このように、犠牲材料層を構造材料のパターンと同じ高さまで減らした後に、得られた犠牲材料層を固定するための加熱工程を含むものであれば、次の積層の工程時に使用する材料と得られた犠牲材料層との混合や、工程中での得られた犠牲材料層の溶解を防ぐことができる。
【0018】
また、前記(c)の工程において、前記犠牲材料層を形成する前に、水又は犠牲材料に含まれる溶剤によるプリウエット処理を行うことが好ましい。
このように、犠牲材料層を形成する前に、水又は犠牲材料に含まれる溶剤によるプリウエット処理を行えば、犠牲材料と基板表面との親和性を持たせることができ、犠牲材料の塗布性を向上させることができる。
【0019】
また、前記水溶性ポリマーとしてポリビニルアルコールを用いることが好ましい。
このように、ポリビニルアルコールを犠牲材料として用いれば、結晶化が容易なため犠牲材料が他の工程の影響を受けにくく、最後に一括して犠牲材料を取り除くことがより容易に行えるので、中空構造が多層にわたる構造物を製造できる。
【0020】
また、前記ポリビニルアルコールからなる犠牲材料として、ポリビニルアルコールのケン化度、分子量、又は粘度の異なる2つ以上のポリマーを混合して用いることができる。
【0021】
このように、犠牲材料として、ポリビニルアルコールのケン化度、分子量、又は粘度の異なる2つ以上のポリマーを混合して用いれば、犠牲材料層の溶解時の速度を調整することができる。
【0022】
また、前記ポリビニルアルコールを用いて形成した犠牲材料層を前記構造材料のパターンと同じ高さまで減らす方法において、水、又は水と犠牲材料を溶解しない溶剤との混合溶液の温度が30−60℃であるものを用いて、前記構造材料のパターンと同じ高さまで減らすことが好ましい。
【0023】
このように、30−60℃の温度の水、又は水と犠牲材料を溶解しない溶剤との混合溶液を用いれば、犠牲材料層の適度な溶解速度を得ることができる。
【0024】
また、前記ポリビニルアルコールを用いて形成した犠牲材料層を最終的に除去する方法として、85℃以上の熱水を用いることができる。
このように、85℃以上の熱水を用いることにより、容易に犠牲材料層を除去できる。
【0025】
また、前記アルカリ可溶性のポリマーとして、ポジ型のフォトレジストを用いることもでき、前記ポジ型のフォトレジストを用いて形成した犠牲材料層を前記構造材料のパターンと同じ高さまで減らす方法において、露光及び現像を行うことにより前記構造材料のパターンと同じ高さまで減らすことが好ましい。
【0026】
このように、ポジ型のフォトレジストを犠牲材料として用いれば、露光及び現像を行えば、フォトレジストからなる犠牲材料層を容易にパターンと同じ高さまで減らすことができる。
【0027】
また、前記ポジ型のフォトレジストを用いて形成した犠牲材料層を最終的に除去する方法として、露光、加熱及び現像を行うことが好ましい。
このように、最終的にフォトレジストからなる犠牲材料層を除去する際に露光、加熱及び現像を行えば、ポジ型のフォトレジストからなる犠牲材料を容易に除去することができる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明の方法によって、より容易かつ低コストで中空の構造を持つ積層体を製造することが可能になり、さらには、それを多層とした構造体を容易かつ簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る中空の構造体の製造方法の一例を示す概略図である。
【図2】実施例により製造された中空の構造体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
上述したように、中空の構造体を製造する際の最終的な犠牲層の除去方法は、製造プロセスの中でも複雑であり、また、2層目以降の構造を作製するに当っては、中空の構造がそのプロセス中にそのまま残ってしまうことによる構造の耐性劣化が多層になるにつれ問題となっていた。
【0031】
本発明者らは、上記問題点を解決すべく、鋭意研究検討した結果、中空の構造体を形成するための犠牲材料として、水溶性又はアルカリ可溶性のポリマーを用いれば、積層を全て終えた後に犠牲材料を最終的に除去する際にも、容易かつ確実に除去でき、費用面でも低コストを実現できることを見出し、本発明を成すに至った。
【0032】
即ち、本発明の中空の構造体製造方法は、基板上に中空の構造体を作製するための方法のうち、構造材料を積み重ねて作製する方法であって、少なくとも、
(a)基板上に構造材料層を形成する工程と、
(b)前記構造材料層にパターンを形成する工程と、
(c)前記パターンの間を埋め込む犠牲材料として水溶性又はアルカリ可溶性のポリマーを用いて、前記パターンの間を埋め込み犠牲材料層を形成する工程と、
(d)更に構造材料層を積層してパターンを形成する工程と、
(e)積層を全て終えた後に前記犠牲材料を最終的に除去する工程、
を含むことを特徴とするものである。
【0033】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照に製造方法を例示してより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は、本発明に係る中空の構造体製造方法の一例を示す説明図である。
例えば本発明では、基板1上に構造材料を塗布して、構造材料層21を形成し(図1(1))、構造材料層21にパターン21’を形成する(図1(2))。次いで、パターン21’の間に犠牲材料を埋め込み、犠牲材料層3を形成する(図1(3))。そして、犠牲材料層3を構造材料層21と同じ高さまで減らした後(図1(4))、さらに構造材料を塗布して構造材料層22を積層してパターン22’を形成し(図1(5)、(6))、最終的に犠牲材料層を除去することにより、中空の構造体4を製造する(図1(7))。
【0034】
このような中空の構造体を製造する際、本発明では、図1(3)〜(6)の工程を繰り返すことにより、目的とする深さを有する中空の構造体(積層体)を容易に製造することができる。
最も特徴的なのが、構造材料にネガレジストを用いてパターンニングを行った場合、プロセスで用いる材料が全て液状のものであり、既存の半導体プロセスのうちでもリソグラフィーに用いる装置、露光機およびコーターデベロッパーと呼ばれる装置によってのみでも可能となる点がある。
【0035】
この方法によって作製された中空の構造体は、その中空の構造の位置が制御されており、偏りがないことから、分子ふるいやフォトニック結晶、μTASと言った、空間位置選択性を必要とする構造体には特に有効である。
【0036】
パターンの形成方法は、例えば各種光源による光リソグラフィー、インクジェット、スクリーン印刷、鋳型によるモールディングなど、パターン形成に利用可能な方法であればいずれの方法でも良い。
基板の材料は、紙や布、プラスチックなど、印刷が可能な材料から、シリコンウエーハおよびその表面を各種の膜で被覆した材料、石英などあるが、制限はない。
構造材料は、例えば、ネガレジスト、熱硬化性樹脂、石英を含むシリコン酸化膜、シリコン窒化膜、SiC、GaAs、InPなどのCVD積層膜、これら半導体、LED、液晶と言った分野で使用されるものなどあるが、現像やエッチングなどの工程によってパターン形成が可能な材料であればより望ましい。
【0037】
本発明では、このように形成したパターンを埋める犠牲材料として、水溶性又はアルカリ可溶性のポリマーを用いて、犠牲材料層を形成する。
水溶性ポリマー材料は、セルロース、プルラン、ポリビニルピロリドンのホモポリマーおよび共重合体、ポリビニルアルコール(ポバール)と言った材料であって、部分置換してあっても良い。
【0038】
それらの内でも、セルロースやポリビニルアルコールは、有機溶剤耐性が良く、乾燥前後での水やアルカリへの溶解速度に差を生じやすく、さらにポリビニルアルコールは、乾燥前後での膜の収縮が小さいことから、より好ましい。
【0039】
セルロースはそのグルコース単位上に3つの水酸基を持ち、その水酸基を様々な置換基で修飾することにより、数多くのセルロース誘導体が得られる。その置換基によって各種溶剤への溶解性が変わってくる。水溶性のセルロース誘導体の例としては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースが挙げられる。一方、非水溶性のセルロース誘導体の例としては、低置換ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、酢酸セルロースが挙げられる。
【0040】
ポリビニルピロリドンは合成高分子であり、ビニルピロリドンによってポリマーに水溶性が付与できることから、多くの共重合体が存在する。例えば、酢酸ビニル・ビニルピロリドン共重合体、ビニルピロリドン・スチレン共重合体、ビニルピロリドン・アクリレート共重合体、ビニルピロリドン・メタクリレート共重合体が挙げられる。
【0041】
ポリビニルアルコールは、そのケン化度に応じて溶解速度の変更が容易である。一方で、材料のロット間ばらつきをより少なく管理する為に置換基、例えばカルボニル基、カルボキシル基と言った官能基を導入したポリマーや、その混合と言った具合に、分子量や粘度の異なる2つ以上のポリマーを混合して用いることもできる。
【0042】
アルカリ可溶性ポリマー材料は、例えば上記水溶性ポリマー材料を部分置換し、アルカリ可溶性となったものを用いることができる。
例えば、セルロースを部分置換したものとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートヘキサヒドロフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースヘキサヒドロフタレートが挙げられる。
また、ポリイミドを部分置換したもの等、ポジ型のフォトレジストを用いることも可能であり、具体的には、半導体製造工程で用いられる「Developable BARC」が挙げられる。
【0043】
一方で、犠牲材料は、その膜を形成した際の収縮防止に添加剤を用いても良い。この場合の添加剤は、低分子であって、混合しても析出しないものであり、特に犠牲材料中のポリマーとの親和性が高いことが求められる。その添加剤の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコールやテトラエチレングリコールといったエチレングリコール類、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルといったエチレングリコールの置換体、同様にプロパン−1,2,3−トリオール(グリセリン)やその置換体が挙げられる。
さらに、犠牲材料の塗布性向上のために、界面活性剤を犠牲材料の添加剤としても良い。
【0044】
本発明では、犠牲材料層を形成する前に、犠牲材料と基板表面との親和性を持たせるために、プリウエット処理を行うことが望ましい。
このようなプリウエット処理の方法としては、例えば、犠牲材料として水溶性のポリマーを用いる場合は、犠牲材料の塗布前に水リンスを行っても良いし、ただ単に水を盛り付けてスピンオフするだけでも良い。また、犠牲材料に含まれる溶剤により処理しても良い。
【0045】
形成した犠牲材料層は、更なる構造材料層を積層するため、平坦化すること(犠牲材料層を構造材料層のパターンと同じ高さまで減らすこと)が好ましく、例えば、溶剤を用いて犠牲材料層を減らす方法が挙げられる。
【0046】
犠牲材料層を目的高さまで減らす際の溶剤としては、水溶性ポリマーであれば水を、アルカリ可溶性ポリマーであれば、アルカリ水を用いれば良いが、正確に高さを一致させるために溶解速度を操作する観点から、犠牲材料層を溶解しないものの、水と混和できる溶剤とを混合して用いることが出来る。
【0047】
例えば、ポリビニルピロリドンであれば、酢酸エチルや酢酸ブチルと言った溶剤、プルラン、ポリビニルアルコールであれば、エタノールなどのアルコール類、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートと言ったエステル類と言った溶剤が不溶な溶剤として挙げられる。
【0048】
また、アルカリ可溶性のポリマーとして、ポジ型のフォトレジストを用いた場合には、犠牲材料層の露光及び現像を行うことにより、犠牲材料層を減らすことが可能である。
【0049】
一方で、犠牲材料を構成するポリマーが溶解できる有機溶剤に、不溶の有機溶剤とを混合することや、部分置換のセルロースであれば、アセトニトリルなどの有機溶剤に可溶である一方、水には不溶であることから、アセトニトリルと水の混合溶剤としても良い。また、ポリビニルアルコールであれば、ジメチルスルホキシドなどの可溶な有機溶剤に先に挙げたアルコール類、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートと言ったエステル類などの有機溶剤とを混合して使用しても良い。
【0050】
また、水溶性ポリマーに置換基を導入することにより、溶解性を変更することができることから、溶解速度を操作する方法として置換基を導入することができる。例えば、プルランであれば、アセチル化やシアノエチル化がある。その導入比率に応じて、アセトンやクロロホルム、酢酸エチル、エタノールに対する溶解性が異なる(林原商事HP、製品紹介 プルラン より)。
【0051】
また、セルロースやポリビニルアルコールは、溶解させる水の温度によって、溶解速度が異なることから、所望の高さまで膜を減らすための溶解速度操作方法の一つとして、かけるもしくは浸漬する水の温度を変える方法を用いることが出来る。用いる水溶性ポリマーにその温度は依存するが、例えばポリビニルアルコールでは、粘度、すなわち重合度もしくは分子量によって、溶解する温度は異なっている。しかしながら、実用上、室温と、一方の十分すぎる溶解速度を与える高温では意味が無く、温度が30−60℃の温度範囲で調節されることが望ましい(日本酢ビポバール社HP、ポバール(フィルム溶解性)データから)。
【0052】
また、ポリマー分子間の緻密さ(主鎖の剛直性や立体構造に依存)によって、ポリマー上にある官能基(水酸基やカルボキシル基)間で水素結合を形成する、いわゆる「結晶化」が起こるポリマーについては、加熱する温度や時間によって乾燥の程度を調整させることにより、犠牲材料層の溶解速度を調節することも可能である。
【0053】
上記のような方法により、構造材料のパターンと同じ高さまで減らした犠牲材料層は、更なる積層の工程時に使用する構造材料との混合や、工程中での犠牲材料層の溶解を防ぐ目的で、犠牲材料層を固定するための加熱工程が行われることが好ましい。
【0054】
中空の構造体を得るため、最終的に犠牲材料を除去する方法としては、用いる犠牲材料によって、種々選択できるが、例えば水リンスによって除く方法、熱水中に浸ける方法、熱水でかけ流す方法、レジスト現像時に同時に溶解させる方法等が挙げられる。
特に犠牲材料がポリビニルアルコールであれば、85℃以上の熱水を用いることにより、犠牲材料であるポリビニルアルコールを除去することができるし、また、ポジ型のフォトレジストであれば、前述の露光及び現像による高さの調節の後の再露光、加熱及び現像により、犠牲材料であるポジ型のフォトレジストを除去することが可能である。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例等に制限されるものではない。
(製造例1)ネガレジスト(構造材料用)の製造
ポリマー成分として、p−ヒドロキシスチレンとスチレンの共重合体(共重合比、スチレン15%、平均分子量10,000、分散度1.10)を100重量部、光酸発生剤としてp−トルエンスルホン酸トリフェニルスルホネートを5重量部、架橋剤として1,3,4,6−テトラキス(メトキシメチル)グリコールウリルを10重量部、塩基として、トリス(2−メトキシメトキシエチル)アミンを0.5重量部、界面活性剤として、溶剤を、乳酸エチル670重量部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)270重量部を混合、溶解させ、0.1ミクロンメートルのテフロン(登録商標)フィルターでろ過を行い、ネガレジスト溶液を得た。
【0056】
(製造例2)ポリビニルアルコール水溶液(犠牲材料用)の製造
中間ケン化度(ケン化度95−97%)のポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製VM−17)を水に入れ、攪拌しながら95℃の水浴中で溶解し、6重量%水溶液を得た。
【0057】
(製造例3)エタノール水溶液の製造
エタノールと水を体積比2:1で混合し、エタノール水溶液を得た。
(犠牲層の溶解速度操作例1)
製造例2で得たポリビニルアルコール水溶液を、ウエーハ上にスピンコートすることにより膜厚500nmのポリビニルアルコール層を得て、続けて各温度で60秒間加熱、5秒間100回転/秒で水によるリンスを行った際の、膜厚変化を測定したところ、次の通り、溶解速度を操作することが可能であった。
【表1】

【0058】
(犠牲層の溶解速度操作例2)
製造例2で得たポリビニルアルコール水溶液を、ウエーハ上にスピンコートすることにより膜厚500nmのポリビニルアルコール層を得て、続けて各温度で60秒間加熱、2.38重量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液にて60秒間パドルを行った際の、膜厚変化を測定したところ、次の通り、溶解速度を操作することが可能であった。
【表2】

【0059】
(製造例4)
部分ケン化度(ケン化度86−90%)のポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製VP−18)を水に入れ、攪拌しながら95℃の水浴中で溶解し、6重量%水溶液を得た。
(犠牲層の溶解速度操作例3)
製造例4で得たポリビニルアルコール水溶液をウエーハ上にスピンコートすることにより膜厚560nmのポリビニルアルコール層を得た。その後、製造例3で挙げたエタノール水溶液の水とエタノールの混合比を変えた溶液を用いて、10秒間パドルを行った際の、膜厚変化を測定したところ、次の通り、溶解速度を操作することが可能であった。
【表3】

【0060】
(レジストパターンの形成方法)
製造例1で得たネガレジスト溶液を、HMDS処理したシリコンウエーハ上にスピンコートし、100℃のホットプレート上で90秒加熱し、膜厚430nmのレジスト膜付きウエーハを得た。これをエキシマレーザースキャナー(ニコン社、NSR−S203B、NA0.68、σ0.75、2/3輪帯照明、クロムマスク)を用いて露光量及びフォーカス深度を調節し、露光を行った。続けて120℃のホットプレート上で90秒加熱した後、2.38重量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液で60秒、現像を行った。これにより、0.25マイクロメートルのラインアンドスペースパターンを基板上に作製した。場合により、レジストパターン内の架橋反応を進める為に、さらにKrF光にて全体を露光、120℃で加熱しても良い。
【0061】
次に、製造例2で得たポリビニルアルコール水溶液を、Bareのシリコンウエーハ上でスピンコートにてポリビニルアルコール膜があらかじめ400nmの膜厚となるよう回転数を調節しておいて、さらにその塗布前に先のレジストパターンを水にてプリウエット操作を行ったあとで塗布した。この上に製造例3で得たエタノール水溶液をかけて10秒間静置したあと、回転によってエタノール水溶液を除去、乾燥させた。その後、200℃のホットプレート上にて60秒間加熱することで、0.25マイクロメートルのラインアンドスペースパターン間にポリビニルアルコールを埋め込むことが出来た。
【0062】
次に、最初のレジストパターンを形成する工程と同様にネガレジスト溶液を塗布、露光、現像することにより、0.40マイクロメートルのコンタクトホールパターンをその表面に得た。
そしてその後、90℃の熱水に浸漬して、ポリビニルアルコールからなる犠牲材料層の最終的な除去を行った。
90℃の熱水に浸漬したあと、乾燥させたときに得られる中空構造を図2に示す。
【0063】
このように実施される本発明の方法は、従来のように犠牲材料層のCMPによる平坦化処理や、犠牲材料層の最終的な除去時のエッチングを使用していないため、それら装置の導入コストやランニングコストを大幅に削減でき、また、図2に示されるように、得られた中空の構造体は犠牲材料層が確実に除去出来ており、その形状も非常に整ったものであった。
【0064】
また、90℃の熱水に浸漬する工程の前に、先と同様、ポリビニルアルコールの埋め込み、そしてレジストパターンニングとを繰り返すことにより、多層の構造物を得て、その後で90℃の熱水に浸漬、乾燥工程を行うことで、良好な深い中空の多層構造体を得ることができた。
【0065】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0066】
1…基板、 21、22…構造材料層、 21’、22’…パターン、
3…犠牲材料層、 4…中空の構造体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に中空の構造体を作製するための方法のうち、構造材料を積み重ねて作製する方法であって、少なくとも、
(a)基板上に構造材料層を形成する工程と、
(b)前記構造材料層にパターンを形成する工程と、
(c)前記パターンの間を埋め込む犠牲材料として水溶性又はアルカリ可溶性のポリマーを用いて、前記パターンの間を埋め込み犠牲材料層を形成する工程と、
(d)更に構造材料層を積層してパターンを形成する工程と、
(e)積層を全て終えた後に前記犠牲材料を最終的に除去する工程、
を含むことを特徴とする中空の構造体製造方法。
【請求項2】
目的とする深さを有する中空の構造体が得られるまで、前記(c)及び(d)の工程を繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の中空の構造体製造方法。
【請求項3】
前記(c)の工程と(d)の工程の間に、前記水溶性のポリマーを用いて形成した犠牲材料層を、水、又は水と犠牲材料を溶解しない溶剤との混合溶液を用いて前記構造材料のパターンと同じ高さまで減らすことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の中空の構造体製造方法。
【請求項4】
前記犠牲材料層を前記構造材料のパターンと同じ高さまで減らす際に、前記犠牲材料層を加熱によって乾燥させることにより、溶解させる速度を調整することを特徴とする請求項3に記載の中空の構造体製造方法。
【請求項5】
更に、前記犠牲材料層を前記構造材料のパターンと同じ高さまで減らした後に、得られた犠牲材料層を固定するための加熱工程を含むことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の中空の構造体製造方法。
【請求項6】
前記(c)の工程において、前記犠牲材料層を形成する前に、水又は犠牲材料に含まれる溶剤によるプリウエット処理を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の中空の構造体製造方法。
【請求項7】
前記水溶性ポリマーとしてポリビニルアルコールを用いることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の中空の構造体製造方法。
【請求項8】
前記ポリビニルアルコールからなる犠牲材料として、ポリビニルアルコールのケン化度、分子量、又は粘度の異なる2つ以上のポリマーを混合して用いることを特徴とする請求項7に記載の中空の構造体製造方法。
【請求項9】
前記ポリビニルアルコールを用いて形成した犠牲材料層を前記構造材料のパターンと同じ高さまで減らす方法において、水、又は水と犠牲材料を溶解しない溶剤との混合溶液の温度が30−60℃であるものを用いて、前記構造材料のパターンと同じ高さまで減らすことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の中空の構造体製造方法。
【請求項10】
前記ポリビニルアルコールを用いて形成した犠牲材料層を最終的に除去する方法として、85℃以上の熱水を用いることを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の中空の構造体製造方法。
【請求項11】
前記アルカリ可溶性のポリマーとして、ポジ型のフォトレジストを用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の中空の構造体製造方法。
【請求項12】
前記ポジ型のフォトレジストを用いて形成した犠牲材料層を前記構造材料のパターンと同じ高さまで減らす方法において、露光及び現像を行うことにより前記構造材料のパターンと同じ高さまで減らすことを特徴とする請求項11に記載の中空の構造体製造方法。
【請求項13】
前記ポジ型のフォトレジストを用いて形成した犠牲材料層を最終的に除去する方法として、露光、加熱及び現像を行うことを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の中空の構造体製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−110612(P2011−110612A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265958(P2009−265958)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】