説明

乗用型棚下作業車

【課題】 棚下作業において、両手を使って管理作業や収穫作業を能率よく行いながら、自走車体の移動方向修正を疲労少なく軽快に行うことのできる乗用型棚下作業車を提供する。
【解決手段】 自走車体1に操向自在な車輪2を備え、この操向用の車輪2を運転座席5の前方に配備された操縦ハンドル4と足元の操縦ペダル28によって、操向操作可能に構成してある。好ましくは、操縦ペダル28に、踏み込み操作によって自走車体を発進させ、踏み込み解除によって自走車体を停止させる足踏み操作式の発進操作具29を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果樹園などでの管理作業や収穫作業に用いる乗用型棚下作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
小型の農用トラクタにおいては、運転座席の後部に立設した転倒保護フレームを後方に倒伏して低くすることで、棚下に車体を入り込ませて作業を行えるよう構成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−240402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、農用トラクタにおいては走行変速に油圧式無段変速装置が多用され、ペダル操作によって発進停止、前後進の無段変速を行うよう構成されており、棚下において両手を上げて管理作業や果実の収穫などを行いながらでも、ペダル操作によって簡単に発進および停止を繰返して移動することができる。しかし、移動方向を修正するためには、その都度手を下ろして操縦ハンドルを操作しなければならず、繰り返し移動方向の修正を行う場合には、搭乗作業者が幾度も作業姿勢と操縦姿勢とに体勢を切換えることになって、疲労しやすくなるとともに、移動方向の修正操作のつど作業を中断することになって作業能率が低下するものであった。
【0004】
操縦ハンドルから手を離して発進すると、作業地の状況によっては車輪が地面の凹凸に追従して向きが変わってしまい、いわゆるハンドルを取られて思わぬ方向に移動してしまうおそれもあり、移動中は少なくとも片手で操縦ハンドルを把持しておくことが望ましく、その分、作業がおろそかにならざるを得ないものとなる。
【0005】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、棚下作業において、両手を使って管理作業や収穫作業を能率よく行いながら、車体の移動方向修正を疲労少なく軽快に行うことのできる乗用型棚下作業車を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、自走車体に備えた運転座席の足元に、車体操向用の操縦ペダルを配備してあることを特徴とする。
【0007】
上記構成によると、果樹の棚下での管理作業や収穫作業において、搭乗作業者は両手を上げた作業姿勢のままで、操縦ペダルを操作して移動方向の修正操作を行うことができ、繰り返し移動方向の修正を行う場合でも、搭乗作業者は幾度も作業姿勢と操縦姿勢とに体勢を切換える必要はない。
【0008】
従って、第1の発明によると、棚下作業において、両手を使って管理作業や収穫作業を能率よく行いながら、車体の移動方向修正を疲労少なく軽快に行うことができるようになった。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、
自走車体に操向自在な車輪を備え、この操向用の車輪を運転座席の前方に配備された操縦ハンドルと足元の前記操縦ペダルによって操向操作可能に構成してあるものである。
【0010】
上記構成によると、単なる移動走行時においては操縦ハンドルだけで移動方向の修正操作を行い、棚下作業では操縦ペダルを用いて移動方向の修正操作を行うことができるが、斜面や起伏地などを移動走行する場合には、操縦ハンドルと操縦ペダルの両方を用いて力強く操向用の車輪の向きを保持することもでき、ハンドルがとられやすい地面での走行を安定よく行うことができる。
【0011】
第3の発明は、上記第1または2の発明において、
前記操縦ペダルに、踏み込み操作によって自走車体を発進させ、踏み込み解除によって自走車体を停止させる足踏み操作式の発進操作具を備えてあるものである。
【0012】
上記構成によると、操縦ペダルを操作して向き修正を行いながら操縦ペダルに置いた足で発進操作具を踏み込むことで自走車体を発進させることができ、発進操作具の踏み込みを解除して走行を停止することができ、足の操作だけで所望の方向へに移動および所望の位置での停止を軽快に行うことができる。
【0013】
第4の発明は、上記第3の発明において、
前記発進操作具により発進するときの走行速度が、変速操作具により設定される最高速度より低い所定の低速度に設定してあるものである。
【0014】
上記構成によると、発進操作具を操作して発進移動する際の移動速度は低速度であり、作業位置をずらすために少しだけ移動したい場合、オーバーランすることなく所望位置に自走車体を移動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1に本発明に係る乗用型棚下作業車の側面が、図2のその平面がそれぞれ示されている。この乗用型棚下作業車は、主として果樹園などにおいて棚下での管理作業や果実の収穫作業に使用するものであって、操向用車輪としての左右一対の前輪2とモータ駆動される左右一対の後輪3を備えた自走車体1の前後に、前輪操向用の操縦ハンドル4と運転座席5とが立設された構造となっている。
【0016】
自走車体1は、パイプ材などを組上げて構成した車体フレーム6の上部に、平面形状が略小判形に形成された平板状のデッキ7を連結して構成されており、車体フレーム6の前端部に備えたステアリングフレーム8にステアリング操作軸9が回動自在に起立支承されるとともに、ステアリング操作軸9がデッキ7を貫通して上方に延出されている。このステアリング操作軸9の上端に、操縦ハンドル4を上端に連結したハンドル軸10が同心に連結されるとともに、ステアリング操作軸9と左右の前輪2がステアリングリンク機構11を介して連動連結され、操縦ハンドル5を左右に回動操作することで前輪2がハンドル回動方向に操向されるようになっている。
【0017】
車体フレーム6の後部に、後輪3を駆動する電動モータ12と減速ケース13を装備した後輪アクスル15が支点p周りに上下揺動可能、かつ、サスペンションバネ16で弾性支持されるとともに、車体フレーム6の前後中間箇所に左右一対のバッテリ14が搭載されている。
【0018】
図6に示すように、前記操縦ハンドル4の左右には内向きU形に屈曲されたグリップ4aが備えられるとともに、ハンドル中央にはパネルボックス20が設けられている。このパネルボックス20には、電源スイッチ21、左右一対のアクセルレバー22、変速操作具としての最高速度設定ダイヤル23、前後進切換えスイッチ24、充電状態表示ランプ25、警笛スイッチ27等が装備されて、図示されていないコントローラにそれぞれ接続されている。
【0019】
前記アクセルレバー22の揺動操作角度がパネルボックス20に内装された図示されないポテンショメータで検出されるようになっており、左右いずれか一方のグリップ4aを持った手の指先でアクセルレバー22を下方に押し下げ揺動すると、後輪駆動系に備えられた電磁式のネガティブブレーキ(図示せず)が制動解除されるとともに電動モータ12がアクセル操作量に応じて加速される。アクセルレバー22への操作を解除するとアクセルレバー22が上方へ復帰揺動し、電動モータ12への通電が断たれるとともにネガティブブレーキが制動作動して自走車体1が停止するようになっている。ここで、前記最高速度設定ダイヤル23は、アクセルレバー22を最大に押し下げ操作した時の速度を設定するものである。
【0020】
後輪駆動系に備えられた機械式のブレーキ(図示せず)にワイヤ連係されたブレーキレバー26が右側のグリップ4aに装備されており、このブレーキレバー26を握り操作することで、緊急停止や急停止を行うことができるようになっている。
【0021】
前記ステアリング操作軸9に連結されたハンドル軸10には左右一対の操縦ペダル28が連結されており、左右の操縦ペダル28を踏み操作してハンドル軸10およびステアリング操作軸9を足の操作で回動することができるようになっている。右側の操縦ペダル28の前方にはペダル状の発進操作具29が装備されており、右足のつま先で発進操作具29を踏みつけてスイッチ30を操作することで、電動モータ12が起動して自走車体1が発進するようになっている。この時、電動モータ12の作動方向は前後進切換えスイッチ24の設定状態に従い、電動モータ12の作動速度は最高速度設定ダイヤル23で選択された最高速度の半分程度の低速度となるように設定されている。
【0022】
車体フレーム6の後部に立設固定された角パイプ製の外筒31に、支柱32が伸縮可能に挿通支持され、この支柱32の上端に運転座席5が前後に位置調節可能に支持されている。支柱32は外嵌装着した圧縮コイルバネ33によって上方にスライド付勢されるとともに、外筒31に備えたロックピン34を支柱32に並列形成したロック孔35に選択係入することで運転座席5の高さを任意に変更調節することができるようになっている。ロックピン34は支点a周りに左右揺動操作可能な操作レバー36に一体連結されるとともに、バネ37によってロック方向に付勢されており、操作レバー36をバネ37に抗して外方に操作することでロック解除することができる。
【0023】
ハンドル軸10の前部にはバケット38が装備されており、管理作業用の器具などを収容したり、収穫した果実を仮り置きしたりすることができる。
【0024】
運転座席5の後方には背もたれ40がリクライニング可能に配備されている。この背もたれ40は、パイプ材を屈曲してなる背もたれフレーム41に取り付けられており、支柱32の上端に前後位置調節可能に装着された座席支持フレーム42の後部に、前記背もたれフレーム41が支点b周りに前後揺動可能に支持されるとともに、ガススプリング43によってその起立姿勢が弾性的に保持されている。なお、背もたれフレーム41の揺動範囲は前後のストッパ44で規制されている。
【0025】
背もたれ40の上方にはヘッドレスト45が配備されている。このヘッドレスト45は、背もたれフレーム41の上部に支点c周りに前後揺動可能に枢支連結されたパイプ製の支持フレーム46に取り付けられており、ノブ付きボルト47を用いて支持フレーム46を背もたれフレーム41に後方から締め付け固定することで、図1に示すように、ヘッドレスト45を使用位置に固定することができ、ノブ付きボルト47を弛めて背もたれフレーム41との連結を解除することで、図5に示すように、ヘッドレスト45を背もたれ40の背後に折込格納しておくことができるようになっている。なお、折り畳み格納したヘッドレスト45は背もたれフレーム41に備えたゴムバンド48で固定しておく。
【0026】
本発明に係る乗用型棚下作業車は以上のように構成されているので、操縦ペダル28と発進操作具29を足で操作して、自走車体1を所望の方向に移動させて所望の位置で停止することができるものであり、果樹園における棚下作業などにおいて、両手を使って受粉、剪定、その他の管理作業や果実の収穫作業などを行いながら、手を使わなくても発進、操向、および停止を繰返すことができる。
【0027】
なお、棚が高い果樹園では、ヘッドレスト45を使用姿勢に起立セットすることで、着座した搭乗作業者は身体および頭を背もたれ40とヘッドレスト45にあずけることで、仰向け気味の姿勢で作業を楽に行うことができる。低い棚下作業においては、運転座席5を極力下げるとともに、ヘッドレスト45を折り畳んで行う。
【0028】
〔他の実施例〕
(1)自走車体1をモータ駆動によって駆動される左右一対のクローラで走行するよう構成して、斜面や凹凸の多い作業地での推進性能を高めて実施することもできる。この場合、操縦ハンドル4を左右に回動することで、左右のクローラに速度差を与えてハンドル回動方向に操向するように構成するとともに、操縦ペダル28で操縦ハンドル4を回動操作できるように構成して実施することもできる。
(2)左右一対のクローラで走行する構造においては、左右の操縦ペダル28を独立して踏み操作可能に構成し、その踏み込み量に応じて左右のクローラを独立して変速することで、車体操向を行うようにすることも可能である。
(3)前輪2を駆動輪、後輪3を操向用の車輪とした形態で実施することも可能である。
(4)変速操作具としての最高速度設定ダイヤル23に代えて変速レバーを利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】全体側面図
【図2】全体平面図
【図3】全体正面図
【図4】全体背面図
【図5】ヘッドレスト折り畳み状態の側面図
【図6】操縦ハンドル周りの平面図
【符号の説明】
【0030】
1 自走車体
2 車輪(前輪)
4 操縦ハンドル
5 運転座席
23 変速操作具
28 操縦ペダル
29 発進操作具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走車体に備えた運転座席の足元に、車体操向用の操縦ペダルを配備してあることを特徴とする乗用型棚下作業車。
【請求項2】
自走車体に操向自在な車輪を備え、この操向用の車輪を運転座席の前方に配備された操縦ハンドルと足元の前記操縦ペダルによって操向操作可能に構成してある請求項1記載の乗用型棚下作業車。
【請求項3】
前記操縦ペダルに、踏み込み操作によって自走車体を発進させ、踏み込み解除によって自走車体を停止させる足踏み操作式の発進操作具を備えてある請求項1または2記載の乗用型棚下作業車。
【請求項4】
前記発進操作具により発進するときの走行速度が、変速操作具により設定される最高速度より低い所定の低速度に設定してある請求項3記載の乗用型棚下作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−154487(P2008−154487A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345404(P2006−345404)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】