説明

二次元放射線検出器およびその製造方法

【課題】CdTe材料の放射線感応膜で構成される二次元放射線検出器において、基板に接する側と膜露出側の膜質を均一化し、電荷収集効率を上げ感度向上を図る。
【解決手段】第一の基板2上に放射線感応膜として機能する積層膜を成膜したあと、前記積層膜が露出している膜面に導電性接着層として機能するカーボン厚膜4を介して第二の基板5を貼り付けた後、前記第一の基板2と前記積層膜の内膜質が思わしくない積層膜31を研磨除去して、良好な膜質の積層膜32の膜面を露出させ、該膜面にアクティブマトリクス基板を貼り付けた構造とする。したがって、基板に接する側と膜露出側の膜質を良好で均一なものとすることが可能であり、電荷収集効率を上げ感度向上が期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、医療用放射線および工業用非破壊検査用放射線などの画像の検出器に係り、特に、放射線に有感な放射線感応膜が半導体で構成された二次元放射線検出器と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次元放射線検出器として放射線感応膜が、CdTeまたはCdZnTe(以下CdTe材料という)で構成される検出器について以下に説明する。工業用あるいは医用の撮像装置用に必要な二次元放射線検出器の大きさは、数十cm角の大面積である。また、放射線感応膜の厚みとして、放射線を吸収するために数百μmの厚みが必要となる。
【0003】
CdTe材料で上記のような大面積の放射線感応膜を成膜する方法として近接昇華法やPVD法がある。しかし、いずれの方法でも、CdTe材料は高温成膜が必要なためアクティブマトリクス基板上へ直接成膜することは難しく、放射線感応膜であるCdTe材料を一旦、基板上に成膜し、そのあとCdTe材料膜表面を平坦化し、CdTe材料膜露出面とアクティブマトリクス基板とを貼り合わせる。
【0004】
ところで、近接昇華法やPVD法で成膜したCdTe材料で構成される放射線感応膜には、結晶粒界が含まれる。放射線照射で発生した電荷が該結晶粒界等に補足されること等に起因して、感度や応答性が低下する。この問題解決のため、放射線感応膜にClがドープされる。Clがドープされていると、放射線感応膜に存在する結晶粒界等の保護が表面付近だけでなく内部にも及ぶ。したがって、リーク電流を低く保ちながら放射線の検出感度や応答性等の特性を良好なものにすることができる。また、Clのドープは気相で行うので、放射線感応膜における結晶粒が均一化される(モフォロジーの改善)。その結果、面内における出力均一性が高められる(例えば特許文献1参照)。しかし、Clの膜中拡散に不均一が生ずる。すなわち、表面付近になる程、結晶粒の粒界改善効果が高くなる。したがって、基板に接する側では十分な改善がされない場合がある。
【0005】
また、CdTe材料を基板上に近接昇華法やPVD法で成膜したとき、基板に接する側と膜露出側の膜質が違うことが生起することがある。CdTe材料で構成される直接変換型の放射線感応膜では、放射線フォトンが膜に入射することで膜中で電子正孔対が発生し、それらがバイアス電圧で電極まで引き寄せられることで信号となる。この基板に接する部分の膜質が思わしくない場合、電荷収集効率を下げ感度低下の原因となる。
【特許文献1】特開2004−172377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
CdTe材料の放射線感応膜で構成される二次元放射線検出器において、放射線感応膜の基板に接する側と膜露出側の膜質を良好で均一なものとし、電荷収集効率を上げ感度向上を図る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために、第一の基板上にCdTe材料の積層膜を成膜し、前記積層膜が露出している膜面に導電性接着層を介して第二の基板を貼り付け、前記第一の基板と前記積層膜の一部を研磨除去して膜面を露出させ、前記膜面にアクティブマトリクス基板を貼り付けることにより形成された二次元放射線検出器を構成する。また、前記二次元放射線検出器の製造方法は、第一の基板上に前記積層膜を成膜する第一の工程と、前記積層膜が露出している膜面に導電性接着層を介して第二の基板を貼り付ける第二の工程と、前記第一の基板と前記積層膜の一部を研磨除去して膜面を露出させる第三の工程と、該膜面にアクティブマトリクス基板を貼り付ける第四の工程を含んでいる製造方法とする。したがって、放射線感応膜の基板に接する側と膜露出側の膜質を良好で均一なものとすることが可能であり、電荷収集効率を上げ感度向上が期待できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、二次元放射線検出器の放射線検出感度が向上し、鮮明な画像を得ることができ、診断の効率を向上するという効果がある。また、放射線量を減らすことができ、被検者の放射線被爆量を軽減するという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
第二の製造工程でカーボン基板で構成される第二の基板を貼り付けた後機械的強度を増すため、側面を接着剤で補強してから第三の製造工程の研磨をする。
なお、研磨した後は十分洗浄と乾燥をし、次の製造工程へ移行する。
【実施例】
【0010】
本発明の一実施例を、図1から図5を参照しながら説明する。図1は、本発明の二次元放射線検出器1を製造する第一の製造工程を示す図である。図2および図3は、本発明の二次元放射線検出器1を製造する第二の製造工程を示す図である。図4は、本発明の二次元放射線検出器1を製造する第三の製造工程を示す図である。図5は、本発明の二次元放射線検出器1を製造する第四の製造工程を示す図である。
【0011】
図1を参照して、本発明の二次元放射線検出器1を製造する第一の製造工程、すなわち放射線感応膜を成膜する製造工程を説明する。CdTe材料で構成される積層膜3は、第一の基板2上に近接昇華法やPVD法により、厚さ数百μmで成膜される。積層膜3のうち第一の基板2に接する近傍には膜質が思わしくない部分で構成される積層膜31が生起することがある。第一の基板2から離れて成膜される積層膜32は、膜質が均一で良好な部分で構成され、本発明の二次元放射線検出器1の放射線感応膜として機能する。
【0012】
図2および図3を参照して、本発明の二次元放射線検出器1を製造する第二の製造工程を説明する。まず、図2(a)に示すごとく前記第一の製造工程で製造された第一の基板2と積層膜3(図1参照)を上下逆に配置し積層膜32が上になるようにする。次に、図2(b)に示すごとく積層膜32の膜上に、スクリーン印刷などによってカーボンペーストで構成されるカーボン厚膜4を生成する。カーボン材で構成されるカーボン厚膜4は導電性があり、バイアス電圧を印加する電極として機能する。また、カーボンペーストで構成されるカーボン厚膜4は導電性接着層として機能する。
次に、図3に示すごとくカーボン厚膜4の上にカーボン基板で構成される第二の基板5を接合する。次の第三および第四の製造工程においては、機械的強度が必要であり、該第二の基板5は、保持基板として機能する。また、カーボン材はX線透過率が高く、X線は第二の基板5およびカーボン厚膜4を透過して積層膜32に入射し、放射線強度に応じた電子正孔対を生起する。
【0013】
図4を参照して、本発明の二次元放射線検出器1を製造する第三の製造工程を説明する。図4(a)に示すDは研磨する深さを示す。したがって第一の基板2および積層膜31は、研磨により除去される。図4(b)は、第一の基板2が研磨により除去された状態を示す。図4(c)は、さらに研磨が進み積層膜31が除去された状態を示す。すなわち、第一の基板2に接する近傍に生起する膜質が思わしくない部分で構成される積層膜31が除去される。
【0014】
図5を参照して、本発明の二次元放射線検出器1を製造する第四の製造工程、すなわち積層膜32とアクティブマトリクス基板6をバンプ電極7により貼り合わせる工程について説明する。
前記アクティブマトリクス基板6上には画素電極(図示しない)が例えば1024×1024個のマトリクス状に配設されている。また、各画素電極に対応して電荷を読み出すためのスイッチング素子が配設されている。導電性ペーストで構成されるバンプ電極7はマトリクス状の電極であり、前記画素電極上にスクリーン印刷によって形成される。次に、図5に示すごとく、バンプ電極7を積層膜32で挟んで常温で放置すれば硬化し、二次元放射線検出器1が完成する。なお、図5では説明の都合上バンプ電極7の数は8個であるが、実際には、例えば1024×1024個でマトリクス状に配設される。
【0015】
本発明は以上の構成であるから、放射線感応膜として機能する積層膜32は膜質が良好で均一なものが得られ、放射線に対する検出感度の高い二次元放射線検出器1が構成される。
【0016】
図1から図5に示す実施例においては説明していないが、積層膜32とカーボン厚膜4との間に半導体層で構成される第一電荷阻止層が形成され、積層膜32とバンプ電極7との間に半導体層で構成される第二電荷阻止層が形成される二次元放射線検出器においても本発明は適用可能であり、本発明はこれら変形例を包含する。
【産業上の利用可能性】
【0017】
この発明は、医療用放射線および工業用非破壊検査用放射線などの画像の検出器に係り、特に、放射線に有感な放射線感応膜が半導体で構成された二次元放射線検出器と、その製造方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の二次元放射線検出器1を製造する第一の製造工程を示す図である。
【図2】本発明の二次元放射線検出器1を製造する第二の製造工程その1を示す図である。
【図3】本発明の二次元放射線検出器1を製造する第二の製造工程その2を示す図である。
【図4】本発明の二次元放射線検出器1を製造する第三の製造工程を示す図である。
【図5】本発明の二次元放射線検出器1を製造する第四の製造工程を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1 二次元放射線検出器
2 第一の基板
3 積層膜
4 カーボン厚膜
5 第二の基板
6 アクティブマトリクス基板
7 バンプ電極
31 積層膜
32 積層膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクティブマトリクス基板と、放射線感応膜と、保持基板とを有し、前記保持基板と、前記放射線感応膜とが導電性接着層を介して接合されているとともに、前記アクティブマトリクス基板と前記放射線感応膜とが、マトリクス状の電極を介して接合されていることを特徴とする二次元放射線検出器。
【請求項2】
CdTeまたはCdZnTeの積層膜で構成される放射線感応膜を備えた二次元放射線検出器の製造方法であって、第一の基板上に前記積層膜を成膜する第一の工程と、前記積層膜が露出している膜面に導電性接着層を介して第二の基板を貼り付ける第二の工程と、前記第一の基板と前記積層膜の一部を研磨除去して膜面を露出させる第三の工程と、該膜面にアクティブマトリクス基板を貼り付ける第四の工程を含んでいることを特徴とする二次元放射線検出器の製造方法。
【請求項3】
第一の基板上にCdTeまたはCdZnTeの積層膜を成膜し、前記積層膜が露出している膜面に導電性接着層を介して第二の基板を貼り付け、前記第一の基板と前記積層膜の一部を研磨除去して膜面を露出させ、前記膜面にアクティブマトリクス基板を貼り付けることにより形成された二次元放射線検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−273881(P2007−273881A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100336(P2006−100336)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】