説明

二次監視レーダ制御装置及び二次監視レーダ制御方法

【課題】航空機を確実に捕捉可能な二次監視レーダ制御装置及び二次監視レーダ制御方法を提供する。
【解決手段】 航空機の未来位置範囲が所定の切替値以下である場合、質問信号の単位時間あたりの送信回数を定めた送信回数基準値に則り質問信号を送信させ、未来位置範囲が基準値以上である場合、基準値に定められた値より減じた回数で質問信号を送信させる送信制御部91を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空管制に使用される二次監視レーダの制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空管制に使用される航空機監視用レーダは、一次監視レーダ(PSR:Primary Surveillance Radar)と二次監視レーダ(SSR:Secondary Surveillance Radar)とに大別される。
【0003】
上記のPSRは、地上から電波を発し、これの反射波を受信処理することにより航空機の位置情報を取得するものである。
【0004】
一方、SSRは、航空機に搭載されたトランスポンダに質問信号を送信し、これに対する応答信号を受信することにより航空機に関する各種情報を得るものである。
【0005】
なお、このSSRは、得ようとする情報の種別によりモードA、モードC、モードSに分類され、モードAは航空機の識別情報を得るためのものであり、モードCは高度情報を得るためのものであり、モードSは個別選択呼び出し機能を有し、上記の情報に加えて進路情報や速度情報等を得ることができる(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
また、以降の説明においては、上記のモードAとモードCを“ATCRBS(Air Traffic Control Rader Beacon System)”と総称する。
【非特許文献1】橋田芳男、大友恒、久慈義則「航空管制用二次監視レーダ−SSRモードS」、東芝レビューVol.59 No.2(2004)、p58-61
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のSSRにおいては、図6に示すように、航空機の捕捉を行う期間がオールコール期間(モードS及びATCRBSトランスポンダの捕捉を行う期間)と、ロールコール期間(モードSトランスポンダに対する個別質問・応答受信期間)とに分かれている。
【0008】
現時点での航空管制においては、図7(b)に示すとおり、高度情報(UF:Uplink Format=4、DF:Downlink Format=4)及び識別信号(UF=5、DF=5)に関する応答及び質問動作が殆ど全てを占めており、質問に要する時間は約19.75μs、応答に要する時間は約64μsである。
【0009】
しかしながら、SSRモードSにはCommA、B、C、Dといったデータリンク機能(UF=20、DF=20、UF=21、DF=21、UF=24、DF=24)の付与が検討されており、この場合は、図7(c)に示すとおり、質問に要する時間が約33.75μs、応答に要する時間が約120μsとなり、航空機1機を捕捉するのに要する時間が約2倍に増大してしまう。換言すれば、単位時間あたりの航空機捕捉数が1/2に減少してしまう。
【0010】
このため、図7(a)に示すように、監視範囲(ビーム幅)100内にある複数の航空機101を捕捉できなくなることとなる。
【0011】
このような事態の防止策としては、ロールコール期間における質問回数を増やすという方法も挙げられるが、これはATCRBSトランスポンダの検出率をさらに低下させてしまうこととなる。
【0012】
したがって、ATCRBSトランスポンダの検出率を維持しながら、モードSトランスポンダを捕捉していくためには、ロールコール期間内で効率よく捕捉処理を行う必要がある。
【0013】
図8に示すとおり、ロールコール期間における捕捉処理は、監視範囲100内における捕捉対象航空機101の未来位値を予測し、質問信号103の送信範囲102を決定する。この際、対象航空機が近距離にある場合は、角度成分の変化量が大であるため、送信範囲102を広くする(例えば、航空機と地上レーダ局との距離が1NMである場合では±30°程度)。
【0014】
一方、対象航空機が遠距離にある場合は、角度成分の変化量が小であるため、送信範囲102を狭くする。
【0015】
複数の対象航空機(ターゲット)が図9に示すような位置にある場合、航空機101a〜101jを捕捉するにあたっては、質問信号の送信と応答信号受信のスケジュール(順番)を決定する必要がある。この場合、対象航空機の未来位置の予測範囲が回転するレーダアンテナの監視範囲100a及び100b内にあり、且つ遠距離にあるものから優先的にスケジューリング(質問する順番を決定)する。
【0016】
また、回転するレーダの位置関係から、スケジュール、つまり質問を行う順番は、航空機101a、101b、101c、101d、101h、101i、101j、101e、101f、101gとなり、この順で質問信号103a、103b、103c、103n、103n+1を送信する。
【0017】
しかしながら、レーダアンテナは回転しているため、その方向によっては航空機101h、101i、101jの応答信号を受信できなくなる。したがって、前記のターゲットを捕捉するために、さらに多くの信号を送信することとなり、その間に、確実に捕捉しなければならない航空機101e、101f、101gを捕捉できなくなる場合がある。
【0018】
上記の事情に鑑み本発明は、航空機を確実に捕捉可能な二次監視レーダ制御装置及び二次監視レーダ制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1に記載の本発明は、航空機に搭載されるトランスポンダへ質問信号を送信し、質問信号に対する応答信号を受信することにより航空機の状態を監視する二次監視レーダを制御する二次監視レーダ制御装置であって、航空機の未来位置範囲を予測する位置範囲予測手段と、未来位置範囲と所定の切替値とを比較する比較手段と、未来位置範囲が切替値以下である場合、質問信号の単位時間あたりの送信回数を定めた送信回数基準値に基づいて質問信号を送信させ、未来位置範囲が基準値以上である場合、基準値に定められた値より減じた回数で質問信号を送信させる送信制御手段とを有することを要旨とする。
【0020】
請求項2に記載の本発明は、航空機に搭載されるトランスポンダへ質問信号を送信し、質問信号に対する応答信号を受信することにより航空機の状態を監視する二次監視レーダを制御する二次監視レーダ制御方法であって、航空機の未来位置範囲を予測する位置範囲範予測工程と、未来位置範囲と所定の切替値とを比較する比較工程と、未来位置範囲が切替値以下である場合、質問信号の単位時間あたりの送信回数を定めた送信回数基準値に基づいて質問信号を送信させ、未来位置範囲が基準値以上である場合、基準値に定められた値より減じた回数で質問信号を送信させる送信制御工程とを有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明においては、航空機の未来位置範囲を予測し、この未来位置範囲と所定の切替値とを比較し、未来位置範囲が切替値以下である場合、単位時間あたりの質問信号の送信回数を定めた送信回数基準値に則り質問信号を送信させ、未来位置範囲が基準値以上である場合、基準値に定められた値より減じた回数で質問信号を送信させるため、航空機を確実に捕捉することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を提示しつつ本発明の二次監視レーダ信号処理装置及び二次監視レーダ信号処理方法について説明する。
なお、以下の実施例は、あくまでも本発明の説明のためのものであり、本発明の範囲を制限するものではない。したがって、当業者であれば、これらの各要素又は全要素を含んだ各種の実施例を採用することが可能であるが、これらの実施例も本発明の範囲に含まれる。
また、以下の実施例を説明するための全図において、同一の要素には同一の符号を付与し、これに関する反復説明は省略する。
【実施例】
【0023】
図1は、本発明の一実施例に係るSSR(二次監視レーダ)システム1の構成図である。
SSRシステム1は、航空機2に搭載されるトランスポンダ及びアンテナ6と、地上に設置されるインタロゲータ7及び水平方向に360°回転可能に構成されたアンテナ部10とからなる。
【0024】
トランスポンダ3は、アンテナ6に接続された送受信部4と、これに接続された信号処理部5とからなり、インタロゲータ7は、アンテナ部10に接続された送受信部8と、これに接続された制御部(制御装置)9からなる。
【0025】
質問信号11は、送受信部8及びアンテナ部10により送信され、これを受信したトランスポンダ3は、これに対する応答信号12を送信し、この応答信号12は、アンテナ部10及び送受信部8により受信され、制御部9により解読される。
【0026】
図2は、図1に示したインタロゲータ7の構成図である。
このインタロゲータ7の送受信部8は、オールコール質問信号及びモードS個別質問信号を送信する送信部81と、応答信号を受信する受信部82とからなる。
【0027】
制御部9は、送信制御部91と、チャネル管理部92と、モードS応答処理部93と、ATCRBS応答処理部94と、相関処理部95と、出力部96とからなる。
【0028】
送信制御部91は、上記のスケジューリングを行う。なお、スケジューリングの詳細については後述する。
【0029】
チャネル管理部92は、質問信号を送信するにあたってのチャネル管理を行い、送信制御部91は、このチャネル管理部92の処理に基づいて動作する。
【0030】
モードS応答処理部93は、モードSオールコール応答信号及びモードSロールコール応答信号を処理し、スイープ(走査)動作ごとの応答データを生成する。
【0031】
ATCRBS応答処理部94は、モードA及びモードCのオールコール応答信号を処理し、スイープ動作ごとの応答状況データを生成する。
【0032】
相関処理部95は、上記の各受信信号に基づいて、後述する未来位置範囲の予測や切替値との比較を行う。
【0033】
出力部96は、航空機の監視情報等を画像や数値などの形式でユーザに提示する。
【0034】
次に、上記のスケジューリングの詳細について説明する。
本発明の一実施例に係る制御部9においては、図3(a)に示すように、監視範囲13内に存在する航空機2の機数が予め定められた規定数以上であり、航空機2の未来位置範囲が予め定められた切替値以下である場合は、ロールコール期間ごとに、予め定められた単位時間あたりのモードS個別質問信号の送信回数(送信間隔を含む)の基準値(送信回数基準値)に基づいてモードS個別質問信号15が送信される。
【0035】
一方、監視範囲内に存在する航空機2の機数が規定数以上であり、未来位置範囲が切替値以上である場合は、図3(b)に示すとおり、質問信号送信間隔を延長し、送信回数基準値において定められた値より減じた回数でモードS個別質問信号を送信する。つまり、送信回数基準値に基づいて、未来位置範囲が切替値以下である場合に送信されるモードS個別質問信号16を送信しないようにする。
【0036】
なお、このような送信回数の減少処理は、送信制御部91により行われる。
【0037】
また、上記のとおり監視範囲内に存在する航空機の数が規定数に満たない場合、受信エラーやダウンリンクが発生した場合、モードS個別応答信号が受信できる場合は、送信回数の減少処理を行わない。
【0038】
また、上記の未来位置範囲は、質問信号に対する応答信号等に基づいて相関処理部95により算出される。
【0039】
また、相関処理部95は、上記の切替値を記憶しており、これと未来位置範囲とを比較し、この比較結果に基づいて送信回数減少の対象となる航空機を選定する。
【0040】
また、上記の送信回数減少処理にあたっての送信回数減少率も相関処理部95により決定される。なお、この送信回数減少率は、監視範囲内の航空機数等に基づいて決定される。
【0041】
上記の各情報は、相関処理部95によりモードS個別質問信号の送信対象リストならびに送信スケジュールを含むトラフィックファイルにまとめられ、チャネル管理部92に送られる。
【0042】
チャネル管理部92は、受信したトラフィックファイルに基づいてチャネルの設定を行い、送信制御部91は、トラフィックファイルと、これに対応付けられたチャネルの設定情報とに基づいてモードS個別質問信号を生成し、送信部81は、アンテナ部10を介してモードS個別質問信号を送信する。
【0043】
出力部96は、上記のモードS個別質問信号の送信対象となる航空機(送信を行う航空機)の識別番号、送信回数減少の対象となる航空機(送信を行わない航空機)の識別番号、モードS個別質問信号の単位時間あたりの送信回数等をユーザに出力する。
【0044】
図4は、以上の構成を有するインタロゲータ7の動作を示す図である。
図示するように、まず航空機の検索が行われ、その機数等が計測される(S1)。
【0045】
次に、計測された機数と規定数との比較が行われ、規定数以上の航空機が存在する場合(S2:YES)、監視範囲内に存在する航空機全ての未来位置を予測し、この未来位置範囲が切替値以上の航空機が存在するか否かを判定し(S3)、このような航空機が存在する場合(S3:YES)、上記のトラフィックファイルが作成される(S4)。
【0046】
トラフィックファイルが作成されると、これに基づいてモードS個別質問信号が生成され(S5)、トラフィックファイルに定められた回数(基準値において定められた値より減じた回数)ならびにスケジュールで信号の送信が行われる(S6)。
【0047】
なお、上記のS2において、監視範囲内に存在する航空機数が規定数に満たない場合(S2:NO)、直ちにモードS個別質問信号が生成され、基準値において定められた回数で信号の送信が行われる。
【0048】
また、上記のS3において、未来位置範囲が切替値に満たない場合(S3:NO)においても、直ちにモードS個別質問信号が生成され、基準値において定められた回数で信号の送信が行われる。
【0049】
本発明の二次監視レーダシステムは、上記の処理を行うため、図5に示すように監視範囲17b内に位置する航空機2hから2jを捕捉すべくモードS個別質問信号を送信し続けることにより、監視範囲17a内に存在する航空機2aから2gにモードS個別質問信号を送信できずに、これらを捕捉できなくなることを防止できる。
【0050】
また、監視範囲17aに存在する航空機2aから2gのうち、アンテナ部10から遠い位置にある航空機2aから2dを補足すべくモードS個別質問信号送信し続けることにより、アンテナ部10から近い位置にある航空機2eから2gにモードS個別質問信号にモードS個別質問信号を送信できずに、これらを捕捉できなくなることも防止できる。
【0051】
以上のとおり、本発明においては、航空機の未来位置範囲を算出し、未来値範囲と所定の切替値とを比較し、未来位置範囲が切替値以下である場合、質問信号の単位時間あたりの送信回数を定めた送信回数基準値に則り質問信号を送信させ、未来位置範囲が基準値以上である場合、基準値に定められた値より減じた回数で質問信号を送信させる。したがって、航空機を確実に捕捉することができる。
【0052】
なお、上記のようなインタロゲータ制御部(制御装置)を用いる二次監視レーダ制御方法の本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施例に係る二次監視レーダシステムの構成を示す図である。
【図2】図1のインタロゲータの構成を示す図である。
【図3】インタロゲータの質問信号送信方法を説明するための図である。
【図4】インタロゲータの動作フローチャートである。
【図5】インタロゲータの効果を説明するための図である。
【図6】インタロゲータの動作タイミングを示す図である。
【図7】二次監視レーダの質問信号の形式を説明するための図である。
【図8】従来の二次監視レーダにおける質問信号の送信方法を説明するための図である。
【図9】従来の二次監視レーダにおけるスケジューリングを説明するための図である。
【符号の説明】
【0054】
1…二次監視レーダシステム、2…航空機、3…トランスポンダ、4…送受信部、5…信号処理部、6…アンテナ部、7…インタロゲータ、8…送受信部、9…制御部、10…アンテナ部、11…質問信号、12…応答信号、81…送信部、82…受信部、91…送信制御部、92…チャネル管理部、93…モードS応答処理部、94…ATCRBS応答処理部、95…相関処理部、96…出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機に搭載されるトランスポンダへ質問信号を送信し、該質問信号に対する応答信号を受信することにより前記航空機の状態を監視する二次監視レーダを制御する二次監視レーダ制御装置であって、
前記航空機の未来位置範囲を予測する位置範囲予測手段と、
前記未来位置範囲と所定の切替値とを比較する比較手段と、
前記未来位置範囲が前記切替値以下である場合、前記質問信号の単位時間あたりの送信回数を定めた送信回数基準値に基づいて該質問信号を送信させ、前記未来位置範囲が前記基準値以上である場合、前記基準値に定められた値より減じた回数で前記質問信号を送信させる送信制御手段と
を有することを特徴とする二次監視レーダ制御装置。
【請求項2】
航空機に搭載されるトランスポンダへ質問信号を送信し、該質問信号に対する応答信号を受信することにより前記航空機の状態を監視する二次監視レーダを制御する二次監視レーダ制御方法であって、
前記航空機の未来位置範囲を予測する位置範囲予測工程と、
前記未来位置範囲と所定の切替値とを比較する比較工程と、
前記未来位置範囲が前記切替値以下である場合、前記質問信号の単位時間あたりの送信回数を定めた送信回数基準値に基づいて該質問信号を送信させ、前記未来位置範囲が前記基準値以上である場合、前記基準値に定められた値より減じた回数で前記質問信号を送信させる送信制御工程と
を有することを特徴とする二次監視レーダ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−208026(P2006−208026A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−16763(P2005−16763)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】