説明

交流電車のコンバータ制御装置

【課題】コンバータ負荷が小さく、回生ブレーキによるパワーバランスが生じた状態で車両が無電区間に進入した場合でも、次のき電区間進入時に主回路保護動作に至る前にコンバータを停止し、再動作を行う機能を備えたコンバータ制御装置を提供する。
【解決手段】交流架線電源から主変圧器3を介して供給される交流電力を直流電力に変換するコンバータ装置5と、前記直流電力を可変周波数の交流電力に変換し車両駆動用電動機8を制御するインバータ装置6と、前記インバータ装置の直流側に該インバータ装置と並列に接続され、車両内の補助回路に電源を供給する電源装置7と、架線電圧のゼロクロスの間隔が、所定許容変動範囲外の場合は、電源異常と判断する判断手段と、前記判断手段にて電源異常が判断された時、前記コンバータ装置の動作が停止するよう前記コンバータ装置を制御するコンバータ制御手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は交流架線に接続される車両駆動システムにおいて、交流架線からの交流電力を直流電力に変換するコンバータ装置と、車両駆動用電動機を動作させるVVVFインバータ装置及び車両内の空調等の補助回路に電力を供給する電源装置(APU)を有する交流電車のコンバータ制御装置に適用される。
【背景技術】
【0002】
図6は従来の交流架線システムの構成及び動作を示す図である。
【0003】
交流電車に電力を供給する交流架線には、路線のき電区間に応じて異なる変電所からの電力が供給されるため、各変電所のき電区間の間には無電区間(デッドセクション)が設けられており、電気的な絶縁を行っている。
【0004】
交流電車は、走行によりこの無電区間を電力供給されずに通過することで、次のき電区間に移動し再び電力供給を受ける。その際、交流架線からの電力を変換するコンバータ装置は、無電区間進入により停電検出を行いコンバータ動作を停止し、次のき電区間進入により、再び電源(架線)電圧位相を検出し該電源電圧に同期したコンバータ制御を行う。
【0005】
このとき、変電所間の電源位相は必ずしも一致していないため、コンバータが動作した状態で次のき電区間に進入することは、誤った電源位相指令でコンバータ動作を継続しようとするため、過電流、過電圧等の主回路異常動作が発生し、運行継続が困難となることがある。
【0006】
又、このような過電流、過電圧に対する主回路保護動作は、主回路部品(コンバータ、インバータ)に一時的な電気的ストレスを与えるため、装置寿命低下にもつながり好ましいことではない。
【0007】
無電区間進入時の停電検知手段として、コンバータの負荷が大きい力行中は、無電区間の進入により電源供給がなくなるため電源(架線)電圧低電圧検知を行い、回生ブレーキ中は電源電圧過電圧検知、直流過電圧検知、周波数変化検知等の停電検知手段により無電区間内で停電検知が行われていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしコンバータの負荷が小さい場合は、電源装置と回生ブレーキパワーとのパワーバランスが発生した際、停電検知が適切に行われずに、無電区間内で自らが発電所となり空調等の負荷に電力を供給し続けることがあった。このため、停電検知が行われないまま、次のき電区間に進入し保護動作に至っている。
【0009】
本発明は、コンバータ負荷が小さく、電源装置と回生ブレーキのパワーバランスが生じた状態で車両が無電区間に進入した場合でも、次のき電区間進入時に主回路保護動作に至る前にコンバータを停止し、再動作を行う機能を備えた交流電車コンバータ制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1実施例に係るコンバータ制御装置は、交流架線電源から主変圧器を介して供給される交流電力を直流電力に変換するコンバータ装置と、前記直流電力を可変周波数の交流電力に変換し車両駆動用電動機を制御するインバータ装置と、前記インバータ装置の直流側に該インバータ装置と並列に接続され、車両内の補助回路に電源を供給する電源装置と、前記架線電圧のゼロクロスの間隔が、所定許容変動範囲外の場合は、電源異常と判断する判断手段と、前記判断手段にて電源異常が判断された時、前記コンバータ装置の動作が停止するよう前記コンバータ装置を制御するコンバータ制御手段とを具備する。
【発明の効果】
【0011】
電源装置と回生ブレーキのパワーバランスが生じた状態で車両が無電区間に進入した場合でも、次のき電区間進入時に主回路保護動作に至る前にコンバータを停止し、再動作を行う交流電車コンバータ制御装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明が適用される電気車の主回路の構成を示すブロック図である。
【図2】図1のコンバータ5を制御する制御装置の構成を示すブロック図及び関連する信号波形である。
【図3】パワーバランスして無電区間に進入し、再びき電区間に進入した時の架線電圧14aと電源同期信号14bを示した図である。
【図4】本発明の一実施例に係る停電論理部16の論理を示すブロック図である。
【図5】図1の電源装置とは異なる形式の電源装置を示すブロック図である。
【図6】従来の交流架線システムの構成及び動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
[構成]
図1は、本発明が適用される電気車の主回路の構成を示すブロック図である。
【0015】
架線からパンタグラフ1を介して供給された電力は、高速度遮断器2を通って主変圧器3の1次側巻線へ供給され、この電流は車輪12を介して変電所へ戻る。又この電力は主変圧器3の2次側巻線から接触器4を通ってコンバータ5へ供給される。コンバータ5の直流側出力端子には、誘導電動機8を駆動するVVVFインバータ6と電源装置7が並列に接続される。電源装置7は直流電力を交流電力に変換する一定周波数コンバータであって、例えば3相、50Hz、440V交流電圧を発生する。又電源装置7は、車内の空調、照明装置などの補助回路に交流電力を供給する。
【0016】
入力電流検出器9、架線電圧検出器10、直流電圧検出器11は、コンバータを制御するために使用される検出器である。電流検出器23は電源装置7の出力電流値を検出し、電源装置電流23aとして出力する。
【0017】
図2(a)及び2(b)は、図1のコンバータ5を制御する制御装置の構成を示すブロック図及び関連する信号波形である。
【0018】
ハードウエアインターフェイス回路13は、入力電流検知器9が検知した入力電流値に対応する例えば振幅±10Vのアナログ入力電圧を12ビットデジタル信号に変換し、入力電流13aとして出力する。同様にハードウエアインターフェイス回路14は、架線電圧検出器10が検知した架線電圧に対応するアナログ電圧をデジタル信号に変換し、図2(b)に示すような架線電圧14aとして出力する。又ハードウエアインターフェイス回路14は図2(b)のように、架線電圧14aのゼロクロス同期信号を電源同期信号14bとして出力する。ハードウエアインターフェイス回路15は、直流電圧検出器11が検知した直流電圧に対応するアナログ電圧をデジタル信号に変換し、直流電圧15aとして出力する。
【0019】
停電検知論理部16は、架線の停電状態を検出し停電検知信号16aを出力する。コンバータ制御部17は、電源同期信号14bから電源位相角を生成し、この電源位相角と入力電流13a、架線電圧14a、直流電圧15a、停電検知信号16aに基づいて、コンバータ電流基準指令を生成する。又コンバータ制御部17は、このコンバータ電流基準指令を基に、コンバータ5に対するゲート信号を生成しコンバータの制御を行う。
【0020】
[作用]
次に、本発明に係るコンバータ制御装置の作用について説明する。
【0021】
本来、無電区間を通過する場合、無電区間前後のき電区間において、電源電圧が同期していれば、すなわち架線電圧14aの位相差が許容範囲内に入っていれば、運転の継続が可能である。しかし、位相差が許容範囲を超えて大きい場合は、コンバータ5に過電流が流れ主回路保護動作が開始され、コンバータ5が停止することになる。停電検知論理部16は、従来の架線電圧の低電圧検知(力行時)、直流過電圧検知(回生ブレーキ時)等に基づく停電(無電区間)検知を行い、更に以下に示す本発明による停電検知(無電区間からき電区間への進入検知)を行う。
【0022】
図3はコンバータが低負荷状態でパワーバランスして無電区間に進入し、再びき電区間(図では変電所Bのき電区間)に進入した時の架線電圧14aと電源同期信号14bを示した図である。このパワーバランスとは、回生ブレーキ電力と、空調装置など電源装置の負荷消費電力がほぼ等しい状態をいう。
【0023】
無電区間に架線電圧14aが検出されているのは、自車両の回生電力が発生しているためである。このように通常の架線電圧が検出されているので、無電区間進入後も停電検知が行われないまま、コンバータ動作が継続する。時刻t1の変電所Bのき電区間進入と同時に変電所Bの架線電圧が検出され、電源同期信号14bが立ち上がり、無電区間とき電区間の境界が検出される。
【0024】
図4は停電論理部16の論理構成を示すブロック図である。この例では架線電圧周波数を50Hzとし、架線電圧の半周期±2%、すなわち10ms±0.2msの範囲を電源周波数許容範囲とした例を示している。
【0025】
図3において、無電区間における架線電圧14aのゼロクロス点t0から半周期±2%の期間P2以前の期間P1に、電源同期信号14bの論理が変化(この例では論理0から論理1へ変化)した場合、あるいは論理が変化せずに(この例では論理0のまま)期間P2を経過したとき(この例ではt0から10.2ms経過した時点t2)で、電源異常すなわち無電区間からき電区間への進入が検知される。
【0026】
図4において、電源同期信号9.8ms以下検出部18は、期間P1中の電源同期信号14bの論理変化を検出すると論理1を出力する。電源同期信号10.2ms以上検出部19は、論理が変化せずに期間P2が経過したことを検出すると論理1を出力する。検出部18又は19が論理1を出力すると、OR回路20は論理1をAND回路21に出力する。電源装置定格電流以下検出部17は、図1の電流検出部23により検出された電源装置電流23aが、電源装置7の定格電流以下のとき(電源装置7が低負荷のとき)、論理1を出力する。AND回路21は、検出部17及びOR回路20の出力論理レベルが共に1のとき、論理1を停電検知部22に出力する。停電検知部22は、架線電圧14aの低電圧検知(力行時)、直流電圧15a又は架線電圧14aの過電圧検知(回生ブレーキ時)に基づく停電(無電区間)を検知したとき、あるいはAND回路21の出力論理が1のとき、電源(架線電圧)異常と判断し、コンバータ制御部17にコンバータゲートオフ信号16a(例えば論理1)を出力する。
【0027】
コンバータゲートオフ信号16aに応答して、コンバータ制御部17はコンバータ5の動作を停止する。尚このとき、インバータ6の動作も停止してもよい。次にコンバータ制御部17は、電源同期信号14aから変電所Bの架線電圧位相を検出し、この架線電圧位相と、入力電流13a、変電所Bの架線電圧14a、直流電圧15aを基にゲート信号を生成し、コンバータ5を再起動する。
【0028】
このように、電源同期信号を常時監視し、速やかに電源異常を検出しコンバータを停止させることで、検出遅れによる主回路異常動作が抑制される。
【0029】
以上の説明はこの発明の装置及び方法を限定するものではなく、様々な変形例を容易に実施することができるものである。例えば電源装置は、図1のようにコンバータ5の直流電力を交流電力に変換する形式のみならず、図5のように主変圧器巻線にコンバータ5と並列に接続される形式のものでも良い。この場合、電源装置7は整流器とインバータ、又はコンバータとインバータで構成される。
【0030】
[効果]
パワーバランスを起こしやすい無電区間での軽負荷状態において、無電区間内の停電検知は困難であったが、本発明による構成により、次セクション進入による電源異常状態を速やかに検知し、コンバータを停止させることで検知遅れによる2次的な主回路保護動作を抑制することができる。
【符号の説明】
【0031】
1…パンタグラフ、2…高速度遮断器、3…トランス、4…接触器、5…コンバータ、6…VVVFインバータ、7…電源装置、8…誘導電動機、9…入力電流検出器、10…架線電圧検出器、11…直流電圧検出器、12…車輪。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流架線電源から主変圧器を介して供給される交流電力を直流電力に変換するコンバータ装置と、
前記直流電力を可変周波数の交流電力に変換し車両駆動用電動機を制御するインバータ装置と、
前記インバータ装置の直流側に該インバータ装置と並列に接続され、車両内の補助回路に電源を供給する電源装置と、
前記架線電圧のゼロクロスの間隔が、所定許容変動範囲外の場合は、電源異常と判断する判断手段と、
前記判断手段にて電源異常が判断された時、前記コンバータ装置の動作が停止するよう前記コンバータ装置を制御するコンバータ制御手段と、
を具備することを特徴とするコンバータ制御装置。
【請求項2】
前記架線電圧のゼロクロス時点で論理レベルが変化する電源同期信号を生成する同期信号生成手段を具備し、
前記判断手段は、前記電源同期信号の論理レベルが前記架線電圧のゼロクロス時点後、前記所定許容変動範囲の下限値経過以前に変化したとき、又は前記論理レベルが変化せずに前記所定許容変動範囲の上限値が経過したとき、前記電源異常を判断することを特徴とする請求項1記載のコンバータ制御装置。
【請求項3】
前記所定許容変動範囲は、前記架線電圧の半周期±所定時間であることを特徴とする請求項1記載のコンバータ制御装置。
【請求項4】
交流架線電源から主変圧器を介して供給される交流電力を直流電力に変換するコンバータ装置と、
前記直流電力を可変周波数の交流電力に変換し車両駆動用電動機を制御するインバータ装置と、
主変圧器巻線にコンバータ装置と並列に接続され、車両内の補助回路に電源を供給する電源装置と、
前記架線電圧のゼロクロス時点を示す電源同期信号の周期を検出する検出手段と、
前記検出手段にて検出された周期が、所定許容変動範囲外の場合は、前記コンバータ装置の動作を停止する停止手段と、
を具備することを特徴とするコンバータ制御装置。
【請求項5】
前記架線電圧のゼロクロス時点で論理レベルが変化する電源同期信号を生成する同期信号生成手段を具備し、
前記判断手段は、前記電源同期信号の論理レベルが前記架線電圧のゼロクロス時点後、前記所定許容変動範囲の下限値経過以前に変化したとき、又は前記論理レベルが変化せずに前記所定許容変動範囲の上限値が経過したとき、前記電源異常を判断することを特徴とする請求項4記載のコンバータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−23903(P2012−23903A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160971(P2010−160971)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】