説明

人工関節用ボール部材の研磨装置

【課題】ボール部材の表面仕上げ品質のばらつきを抑制するとともに、研磨効率の低下を抑制することができる、人工関節用ボール部材の研磨装置を提供する。
【解決手段】ボール部材用治具21は、ボール部材100の嵌合孔100bに嵌合し、ボール部材100を支持した状態で回転する。遊離砥粒供給手段35は、ボール部材100の球状面100aに向かって遊離砥粒を供給する。研磨治具25は、球状面100aに摺接して遊離砥粒が供給されたこの球状面100aを研磨する研磨部31を有し、球状面100aに研磨部31が摺接した状態で回転する。揺動駆動機構13は、ボール部材用治具21をボール部材100を中心として揺動するように駆動する。温度調整手段(22、37)は、球状面100aの温度を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工関節において用いられるボール状に形成されたボール部材に対してその表面を研磨するための人工関節用ボール部材の研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人工股関節において用いられる骨頭ボールなどのように、人工関節ではボール状に形成されたボール部材が用いられる。このようなボール部材は、人工関節としての滑らかな動作を可能にするために、その表面の球状面を研磨する処理が施されることが必要となる。このような球状面の研磨を行うための研磨装置としては、非特許文献1に記載されているようなオスカー型研磨機を用いることができる。このオスカー型研磨機は、例えば、研磨皿を円弧状に往復運動させるとともに研磨対象であるワークを回転運動させることにより、両者を相対的に動かし、両者の接触する部分を研磨するものである。
【0003】
【非特許文献1】日経BP社、“技術者を応援する情報サイト Tech−On! 「ものづくり用語」”、「Tech-On用語辞典」−「オで始まる用語」−「オスカー型研磨機」、[online]、[平成18年7月18日検索]、インターネット〈URL:http://techon.nikkeibp.co.jp.nyud.net:8090/article/WORD/20060419/116348/〉
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人工関節用ボール部材の研磨装置としてオスカー型研磨機を用いることで、ボール部材の表面の球状面に対して遊離砥粒を供給しながらこの球状面を研磨することができる。しかしながら、ボール部材の球状面とこの球状面を研磨する研磨部との間における研磨条件が変化することで研磨精度が変化し、ボール部材の表面仕上げ品質のばらつきを生じてしまう虞がある。とくに、摺接する球状面と研磨部との間の相対速度や遊離砥粒の供給条件に応じてそれらの間で発生する熱量が変化して遊離砥粒の状態が不安定になることで、研磨条件も不安定となり、ボール部材の表面仕上げ品質のばらつきを生じてしまい易いことを本願発明者は知見した。この問題に対して、ボール部材の球状面と研磨部との間の相対速度を規制することでボール部材の表面仕上げ品質のばらつきを抑制することも考えられるが、この場合、研磨時間の制約が生じることになるため、研磨効率の低下を招いてしまうことになる。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、ボール部材の表面仕上げ品質のばらつきを抑制するとともに、研磨効率の低下を抑制することができる、人工関節用ボール部材の研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明は、人工関節において用いられるボール状に形成されたボール部材に対してその表面を研磨するための人工関節用ボール部材の研磨装置に関する。
そして、本発明の人工関節用ボール部材の研磨装置は、上記目的を達成するために以下のようないくつかの特徴を有している。即ち、本発明は、以下の特徴を単独で、若しくは、適宜組み合わせて備えている。
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る人工関節用ボール部材の研磨装置における第1の特徴は、前記ボール部材に形成された嵌合孔に嵌合するとともに当該ボール部材を支持した状態で回転するボール部材用治具と、前記ボール部材用治具に支持された前記ボール部材の表面の球状面に向かって遊離砥粒を供給する遊離砥粒供給手段と、前記ボール部材用治具に支持された前記ボール部材の前記球状面に摺接して前記遊離砥粒が供給された当該球状面を研磨する研磨部を有するとともに、当該球状面に当該研磨部が摺接した状態で回転する研磨治具と、前記ボール部材用治具および前記研磨治具のうちの少なくともいずれか一方を前記ボール部材を中心として揺動するように駆動する揺動駆動機構と、前記ボール部材用治具に支持された前記ボール部材の前記球状面の温度を調整する温度調整手段と、を備えていることである。
【0008】
この構成によると、ボール部材用治具に支持されたボール部材の表面の球状面に遊離砥粒を供給しながら、ボール部材用治具と研磨治具とをそれぞれ回転させるとともにその少なくとも一方を揺動させることで、ボール部材の球状面が研磨されることになる。そして、ボール部材の球状面と研磨部との間の相対速度に応じた熱量が発生し、球状面の温度が変化して球状面と研磨部との間の研磨領域に存在している遊離砥粒の状態も変化することが懸念されるが、温度調整手段によって球状面の温度を適宜所望の温度に近づくように調整することができるため、遊離砥粒の状態が不安定になることも抑制されることになる。このため、ボール部材の球状面と研磨部との間の相対速度を変化させた場合であっても、変動の少ない安定した研磨条件の下で高精度の研磨処理を継続することができる。したがって、ボール部材の表面仕上げ品質のばらつきを抑制するとともに、研磨効率の低下を抑制することができる人工関節用ボール部材の研磨装置を得ることができる。
【0009】
本発明に係る人工関節用ボール部材の研磨装置における第2の特徴は、前記温度調整手段として前記球状面を加熱するヒータを備えていることである。
【0010】
この構成によると、温度調整手段として加熱用のヒータを用いてボール部材の球状面の温度を調整することができる。遊離砥粒が研磨剤としての性能を発揮するための適切な温度よりも研磨時の球状面の温度が低い場合、遊離砥粒の流動性が不十分な状態となってしまう。このため、遊離砥粒が研磨剤としての性能を発揮するための適切な温度まで、ヒータによって球状面を加熱するように制御することで、良好な研磨状態を確保することができる。
【0011】
本発明に係る人工関節用ボール部材の研磨装置における第3の特徴は、前記ヒータは、前記ボール部材用治具に配設された加熱用電気線であることである。
【0012】
この構成によると、ボール部材用治具に配設された加熱用電気線で発生した熱が、ボール部材用治具に支持されたボール部材に熱伝導により伝達されことになる。このため、ボール部材用治具に加熱用電気線を配設するという簡易な構成によって、ボール部材の球状面を確実且つ容易に加熱することができる。
【0013】
本発明に係る人工関節用ボール部材の研磨装置における第4の特徴は、前記ボール部材用治具は、前記嵌合孔に嵌合する先端部分として交換可能な可換先端部を有するように形成され、当該可換先端部内に前記加熱用電気線の少なくとも一部が配設されていることである。
【0014】
この構成によると、ボール部材用治具の可換先端部に加熱用電気線の少なくとも一部を配設することで、熱伝導によりボール部材の球状面を確実且つ容易に加熱することができる。そして、ボール部材用治具はボール部材の嵌合孔に嵌合する先端部分が交換可能に形成されているため、ボール部材の嵌合孔の寸法に応じて可換先端部を適宜交換するだけで、種々の寸法のボール部材に対応してこのボール部材を容易に支持することができる。
【0015】
本発明に係る人工関節用ボール部材の研磨装置における第5の特徴は、前記温度調整手段として前記球状面を冷却する冷却手段を備えていることである。
【0016】
この構成によると、温度調整手段としてボール部材の球状面を冷却する手段を用いてその球状面の温度を調整することができる。ボール部材の球状面と研磨部との間の研磨領域での発熱量が大きすぎると、遊離砥粒が蒸発してしまい球状面と研磨部との部分的な固着現象を生じてしまう虞がある。このため、遊離砥粒が蒸発してしまうことなく研磨剤としての性能を発揮するための適切な温度に維持されるように、冷却手段によって球状面を冷却するように制御することで、良好な研磨状態を確保することができる。
【0017】
本発明に係る人工関節用ボール部材の研磨装置における第6の特徴は、前記冷却手段は、冷却されたガスを前記球状面に対して吹きつけることで当該球状面を冷却することである。
【0018】
この構成によると、冷却されたガスがボール部材の球状面に吹きつけられることで、この球状面が冷却されることになる。このため、ボール部材の球状面に向かって冷却ガスを吹きつけるという簡易な構成によって、ボール部材の球状面を確実且つ容易に加熱することができる。
【0019】
本発明に係る人工関節用ボール部材の研磨装置における第7の特徴は、前記ボール部材用治具に支持された前記ボール部材の前記球状面の温度を検知する温度センサと、前記温度センサでの検知結果に基づいて前記球状面の温度を制御する制御手段と、をさらに備えていることである。
【0020】
この構成によると、ボール部材の球状面の温度を温度センサで検知してこの検知結果に基づいてその球状面の温度を制御することができるため、球状面の温度を良好な研磨状態を確保できる適切な温度に常時維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態では人工股関節において用いられる骨頭ボールを研磨する場合を例にとって説明するが、この例に限らず、本発明は、人工関節において用いられるボール状に形成されたボール部材に対してその表面を研磨するための人工関節用ボール部材の研磨装置として広く適用することができるものである。
【0022】
まず、本実施形態に係る人工関節用ボール部材の研磨装置によって研磨処理が行われる人工股関節用骨頭ボールについて説明する。図6は、人工股関節において用いられる骨頭ボール100とステム101とを例示する正面図である。骨頭ボール100は、その頭頂部側の表面が球面の一部を構成する外形となる球状面100aとして形成されている。そして、骨頭ボール100は、骨盤に配置されるとともに球面の一部を構成するように形成された内面を有するカップ(図示せず)に対して嵌め込まれるようになっている。ステム101は大腿骨(図示せず)の近位部に埋入される大腿骨コンポーネントとして形成されている。また、骨頭ボール100には球状面100aの頭頂部と反対側の反頭頂部側で開口する嵌合孔100bが形成されており、この嵌合孔100bはステム101の近位部側の端部(ネック部分)と嵌合するようになっている。
【0023】
骨頭ボール100の作製においては、まず、セラミックス粉末からなるセラミックス原料が、ゴム型の内部に充填されてゴム型の外部から水圧が付与されることで成形されるラバープレス工程にて棒状に形成される。ラバープレス工程の次は、その棒状に成形されたセラミックスに対して嵌合孔100bの形成のための孔加工処理や球状面100aの形成のための球面加工処理が施された上で焼成される。この焼成工程後のセラミックスに対して、嵌合孔100bの内面仕上げのための孔加工処理と球状面100aの球面加工処理とが施される。この球状面100aの球面加工処理としては、カップ砥石の回転動作による砥石がけである球面荒加工と固定砥石を振動させながらの球面中加工と最終の研磨処理である球面仕上げ加工とが行われることになる。これらの各種工程を経て骨頭ボール100が作製される。
【0024】
図1は、本発明の一実施の形態に係る人工関節用ボール部材の研磨装置1(以下単に、研磨装置1という)を例示する正面図である。この研磨装置1によって、前述した球面仕上げ加工である骨頭ボール100の研磨処理が行われる。図1に示すように、研磨装置1は、底部に車輪が設けられて移動可能に構成されている基枠17を有するとともに、この基枠17に配設される各種機器としてのボール部材支持ユニット11、研磨ユニット12、揺動駆動機構13、研磨条件調整ユニット14、制御装置15、操作盤16などを備えて構成されている。
【0025】
図1に示すように、ボール支持ユニット11は基枠17に対して可動な状態で支持された可動テーブル18上に配設されており、可動テーブル18は後述の揺動駆動機構13によって揺動駆動されるようになっている。ボール支持ユニット11は、ワーク回転用モータ19、ワーク主軸20、ボール部材用治具21などを備えて構成されている。ワーク主軸20はワーク回転用モータ19によって回転駆動されるようになっており、このワーク主軸20の先端側にボール部材用治具21が取り付けられている。
【0026】
図2は、研磨装置1におけるボール支持ユニット11のボール部材用治具21の近傍を拡大して示す一部断面を含む図であり、下方側(可動テーブル18側)から見た図である。この図2に示すように、ボール部材用治具21は主軸20の先端側に取り付けられており、主軸20とともに回転するようになっている。また、図3はボール部材用治具21を示す図であり、図3(a)では骨頭ボール100の断面図とともに示しており、図3(b)では一部切欠き断面図を示している。図2および図3に示すように、ボール部材用治具21は、骨頭ボール100に形成された嵌合孔100bに嵌合する嵌合部21aを有している。この嵌合部21aが骨頭ボール100の嵌合孔21aに嵌合することで、骨頭ボール100がボール部材用治具21によって支持されるようになっている。そして、骨頭ボール100を支持した状態でこのボール部材用治具21が主軸20とともに回転することになる。
【0027】
また、図2および図3(b)に示すように、ボール部材用治具21は中空状に形成されており、内部の中空部分には、加熱用電気線22(以下、電熱線22という)が配設されるようになっている。ボール部材用治具21に配設されたこの電熱線22は、骨頭ボール100の球状面100aの温度を調整する温度調整手段として備えられており、この球状面100aを加熱するヒータを構成している。すなわち、電熱線22が通電されることで発熱し、この発生した熱が熱伝導によってボール部材用治具21の嵌合部21aを経てさらに骨頭ボール100の内部へと伝わってこの骨頭ボール100を加熱し、これにより球状面100aが加熱されて温度調整されることになる。
【0028】
研磨ユニット12は、基枠17に対して固定された固定テーブル28上に配設されており、ツール回転用モータ23、ツール軸24、研磨治具25、ツール押し付け用エアシリンダ(以下、単にエアシリンダ26という)26、ロードセル27、ケース29などを備えて構成されている。ツール軸24はツール回転用モータ23によって回転駆動されるようになっており、ツール軸24の先端側に研磨治具25が取り付けられている。ツール軸24およびツール回転用モータ23が配設されたケース29は、固定テーブル28に対してスライド機構30を介して往復動自在に支持されている。そして、エアシリンダ26は、そのシリンダ内に図示しない圧縮空気供給源から圧縮空気が供給されることでそのロッドが伸張してケース29を付勢し、圧縮空気がシリンダ内から排出されることでロッドが縮退してケース29の付勢を解除するようになっている。このようにエアシリンダ26によってケース29が付勢または付勢解除されるように往復動することで、ケース29とともにツール軸24も往復動するようになっている。また、ロードセル27はエアシリンダ26のロッドの先端とケース29との間に配設されており、エアシリンダ26によってケース29が付勢されたときのエアシリンダ26による押し付け荷重を検知するようになっている。
【0029】
図3に示すように、研磨治具25は、ツール軸24の先端側に取り付けられており、ツール軸24とともに回転するようになっている。この研磨治具25には、その先端側に、内側に球面の一部を形成している研磨部31が設けられている。研磨部31は、例えば、銅、アルミニウム、黄銅(真鍮)等によって構成されている。この研磨部31は、エアシリンダ26によってケース29とともにツール軸24が付勢されたときに、ボール部材用治具21に支持された骨頭ボール100の球状面100aに摺接するようになっている。すなわち、研磨治具25は、球状面100aに研磨部31が摺接した状態で回転するようになっている。このように研磨治具25の回転が行われることで、後述する遊離砥粒供給ノズル34から遊離砥粒が供給された球状面100aが研磨されるようになっている。
【0030】
図4は、研磨装置1の制御ブロック図を示したものである。図1に示す研磨条件調整ユニット14には、図4に示す温度センサ32、遊離砥粒供給装置35、コントローラ36、冷却エア噴出装置37、冷却エア用電磁弁38が備えられている。温度センサ32は、放射温度計として構成されている。この温度センサ32は、図2に示すようにボール部材用治具21に支持された骨頭ボール100の球状面100aに向かって配向するように配置されており、球状面100aの温度を検知することができるようになっている。温度センサ32での検知結果は、後述する制御装置15に入力されるようになっている。なお、球状面100aの温度を検知する温度センサとしては、必ずしも放射温度計に限らず、その他の温度検知手段を用いることもできる。
【0031】
遊離砥粒供給装置35は、ボール部材用治具21に支持された骨頭ボール100の球状面100aに向かって遊離砥粒を供給する本実施形態の遊離砥粒供給手段を構成している。球状面100aに供給する遊離砥粒としては、例えば、ダイヤモンド粒が混入したオリーブオイル等の油を用いることができる。この遊離砥粒供給装置35は、球状面100aに供給するための遊離砥粒を貯留する図示しないタンクから遊離砥粒を吸引して供給圧力まで昇圧するシリンダタイプの昇圧手段や、図2に示す遊離砥粒供給ノズル34などを備えて構成されている。遊離砥粒供給ノズル34は昇圧手段の先端側に取り付けられており、この遊離砥粒供給ノズル34から遊離砥粒が供給される。また、遊離砥粒供給ノズル34は、図2に示すように、そのノズル口が球状面100aに向かって配向するように配置されており、球状面100aに遊離砥粒を吹きつけるように供給するようになっている。また、遊離砥粒供給装置35は、その昇圧手段の作動条件がコントローラ36によって制御されるようになっており、これにより遊離砥粒の供給量や供給頻度が制御されることになる。なお、コントローラ36は、制御装置15からの指令に基づいて、遊離砥粒供給装置35を制御するようになっている。
【0032】
冷却エア噴出装置37は、冷却された圧縮空気(本実施形態における「冷却されたガス」)の供給源(図示せず)と接続された冷却エア供給系統として構成されており、その先端には図2に示す冷却エアノズル33が設けられている。この冷却エア噴出装置37は、ボール部材用治具21に支持された骨頭ボール100の球状面100aの温度を調整する温度調整手段として設けられており、球状面100aを冷却する冷却する本実施形態の冷却手段を構成している。すなわち、冷却エア噴出装置37における冷却エアノズル33は、図2に示すように、そのノズル口が球状面100aに向かって配向するように配置されており、冷却された圧縮空気(冷却エア)を球状面100aに対して吹きつけることでこの球状面100aを冷却するようになっている。また、冷却エア用電磁弁38は、冷却エア噴出装置37の冷却エア系統に配設されており、制御装置15からの指令に基づいて励磁/消磁切り換えが行われることで開閉制御される電磁弁として設けられている。これにより、冷却エア噴出装置37の冷却エア系統が連通状態と遮断状態との間でその一方の状態から他方の状態に切り換えられるようになっている。
【0033】
揺動駆動機構13は、図1に示すように、揺動用モータ39、揺動主軸40などを備えて構成されている。揺動用モータ39は基枠17に固定されており、揺動主軸40は揺動用モータ39に連結されている。揺動主軸40の上端側には可動テーブル18が固定され、揺動主軸40の回動とともに可動テーブル18が揺動するようになっている。なお、揺動主軸40は、その軸中心がボール部材用治具21に支持された骨頭ボール100の中心の鉛直下方に位置するように配設されている。そして、揺動用モータ39は、制御装置15からの指令に基づいて(図4参照)所定の角度の範囲で正転方向及び逆転方向に回動し、これにより揺動主軸40が回動することで、可動テーブル18が揺動し、ボール部材用治具21が骨頭ボール100を中心として所定の揺動角度で揺動するようになっている。
【0034】
制御装置15は、例えば、PLC(programable logic controller)として構成されており、中央処理装置、記憶装置、入出力装置などを備えて構成されている。この制御装置15においては、図4に示すように、液量・供給間隔制御部41、温度・定温制御部42、ワーク回転制御部43、揺動制御部44、加圧・定圧制御部45、ツール回転制御部46が構築されている。なお、これらの各制御部(41〜46)では、作業者がタッチパネル式の操作盤16(図1参照)を操作することで制御装置15に入力される各種パラメータに基づいて各演算処理が行われるようになっている。
【0035】
液量・供給間隔制御部41では、コントローラ36が遊離砥粒供給装置35の作動を制御するための作動条件としての遊離砥粒の供給量や供給頻度の条件が演算される。この演算結果が指令値としてコントローラ36に入力され、この指令値に基づいて遊離砥粒供給装置35が制御されることになる。なお、遊離砥粒の供給量としては、例えば、ピストンタイプの昇圧手段が1回の押し出し動作を行うことで供給される遊離砥粒の流量(1回あたりの押し出し容積)が設定され、遊離砥粒の供給頻度としては、例えば、昇圧手段が単位時間あたりに押し出し動作を行う回数が設定されることになる。
【0036】
温度・定温制御部42では、温度センサ32による球状面100aの温度検知結果に基づいて、作業者による操作盤16の操作に基づいて設定された目標温度に対して所定の温度幅をもった目標温度範囲内に球状面100aの温度が収束するように、冷却エア用電磁弁38およびヒータ22が制御されるようになっている。すなわち、球状面100aの検知温度が目標温度範囲よりも低い温度のときは、冷却エア用電磁弁38を「閉」の状態にするとともにヒータである電熱線22に通電を行うように制御することで、熱伝導により球状面100aが加熱されるようになっている。一方、球状面100aの検知温度が目標温度範囲よりも高い温度のときは、電熱線22に通電は行わずに冷却エア用電磁弁38を「開」の状態にするように制御することで、冷却エアが球状面100aに吹きつけられることによりこの球状面100aが冷却されるようになっている。なお、制御装置15内に温度・定温制御部16が構築されていることで、この制御装置15が、温度センサ32の検知結果に基づいて球状面100aの温度を制御する本実施形態の制御手段を構成している。
【0037】
ワーク回転制御部43はワーク回転用モータ19の回転速度の指令値を演算し、この指令値に基づいてワーク回転用モータ19のドライブ装置(図示せず)がこのワーク回転用モータ19を所定の回転速度で回転するように制御するようになっている。揺動制御部44は揺動用モータ39の回動速度の指令値を演算し、この指令値に基づいて揺動用モータ39のドライブ装置(図示せず)がこの揺動用モータ39を所定の揺動角度の範囲で所定の回動速度(揺動角速度)で回動するように制御するようになっている。
【0038】
加圧・定圧制御部45は、制御装置15に入力されるロードセル27による検知結果に基づいてエアシリンダ26を制御するようになっている。すなわち、ロードセル27によって検知されたエアシリンダ26による押し付け荷重に基づいて、この押し付け荷重が作業者による操作盤16の操作に基づいて設定された目標押し付け荷重に収束するように、エアシリンダ26のシリンダ内に供給される圧縮空気の条件が変更されることになる。これにより、ボール部材用治具21に支持された骨頭ボール100に対して研磨治具25の研磨部31が目標押し付け荷重で押し付けられるように制御されることになる。
【0039】
ツール回転制御部46はツール回転用モータ23の回転速度の指令値を演算し、この指令値に基づいてツール回転用モータ23のドライブ装置(図示せず)がこのツール回転用モータ23を所定の回転速度で回転するように制御するようになっている。
【0040】
次に、研磨装置1による骨頭ボール100の研磨処理である、研磨装置1の作動について説明する。まず、作業者による操作盤16の操作によって、研磨装置1の作動条件を決定するために、制御装置15の各制御部(41〜46)の各設定パラメータが入力される。そして、作業者によって骨頭ボール100がボール部材用治具21の嵌合部21aに嵌め込まれることで、骨頭ボール100がボール部材用治具21に支持される。
【0041】
ボール部材用治具21に骨頭ボール100を支持させた状態で作業者が操作盤16を操作し、研磨装置1による研磨処理が開始される。研磨処理が開始されると、制御装置15による制御に基づいて、遊離砥粒供給装置35が作動して遊離砥粒供給ノズル34から骨頭ボール100の球状面100aへの遊離砥粒の供給が開始される。そして、同様に制御装置15による制御に基づいて、エアシリンダ26が作動してケース23とともにツール治具24が付勢され、研磨治具25が骨頭ボール100に対して押し付けられることになる。
【0042】
研磨治具25の研磨部31が骨頭ボール100の球状面100aに対して押し付けられ始めると、発生した押し付け荷重がロードセル27にて検知される。そして、エアシリンダ26による研磨部31の球状面100aに対する押し付け動作が開始されたことを検知した制御装置15によって、目標の押し付け荷重で押し付け動作が行われるようにエアシリンダ26が制御される。エアシリンダ26による押し付け荷重の制御が開始されると、制御装置15の制御に基づいて、ワーク回転用モータ19およびツール回転用モータ23の回転動作の制御が開始される。これにより、図2に示すように、ワーク主軸20とともにボール部材用治具21が設定された所定の回転速度で図中矢印(A)方向に回転し、ツール軸24とともに研磨治具25が設定された所定の回転速度で図中矢印(B)方向に回転する。
【0043】
また、ワーク主軸20およびツール軸24の回転が開始すると、制御装置15の制御に基づいて、揺動用モータ39の回動動作の制御が開始される。これにより、揺動主軸40の回動とともに可動テーブル18が揺動し、図2に示すように、ボール部材用治具21が所定の揺動角速度で図中の両端矢印(C)方向に揺動することになる。なお、図2では、ボール部材用治具21の揺動角度が90度の場合を示しており、実線で示す位置から90度揺動したボール部材用治具21を二点鎖線で示している。
【0044】
遊離砥粒供給ノズル34から遊離砥粒が供給された球状面100aに研磨治具25の研磨部31が摺接した状態で、上述したように、ワーク主軸20の回転動作、ツール軸24の回転動作、および揺動主軸40の回動動作が同時に行われることにより、球状面100aの全体に亘って満遍なく研磨処理が行われることになる。そして、上述の研磨処理が行われている間は、温度センサ32による検知結果に基づく制御装置15の制御によって、球状面100aの温度が目標温度範囲内に収まるように、冷却エア噴出装置37および電熱線22の作動が制御されることになる。すなわち、球状面100aの温度が目標温度範囲よりも低い温度であれば電熱線22に通電が行われ、目標温度範囲よりも高い温度であれば冷却ガスが吹きつけられることになる。
【0045】
なお、本実施形態に係る研磨装置1を用いて実際に骨頭ボール100の研磨処理を行った。研磨条件としては、ワーク主軸20の回転速度を2000rpm、揺動角速度を20°/sec、ツール軸24の回転速度を300rpm、エアシリンダ26によって研磨部31が骨頭ボール100を押し付ける押し付け荷重を147N、球状面100aの目標温度を150℃、遊離砥粒の供給量および供給頻度を0.01gずつ1分間隔、にそれぞれ設定し、研磨時間を30分として研磨処理を行った。その結果、表面粗さ(Ra)が0.015μmの水準で球状面100aの全面に亘ってほぼ均一な表面粗さ状態を達成してムラがなく良好な鏡面仕上げを実現することができた。
【0046】
以上説明した研磨装置1によると、ボール部材用治具21に支持された骨頭ボール100の表面の球状面100aに遊離砥粒を供給しながら、ボール部材用治具21と研磨治具25とをそれぞれ回転させるとともにボール部材用治具21を揺動させることで、骨頭ボール100の球状面100aが研磨されることになる。そして、骨頭ボール100の球状面100aと研磨部31との間の相対速度に応じた熱量が発生し、球状面100aの温度が変化して球状面100aと研磨部31との間の研磨領域に存在している遊離砥粒の状態も変化することが懸念されるが、電熱線22または冷却エア噴出装置37によって球状面100aの温度を適宜所望の温度に近づくように調整することができるため、遊離砥粒の状態が不安定になることも抑制されることになる。このため、球状面100aと研磨部31との間の相対速度を変化させた場合であっても、変動の少ない安定した研磨条件の下で高精度の研磨処理を継続することができる。したがって、骨頭ボール100の表面仕上げ品質のばらつきを抑制するとともに、研磨効率の低下を抑制することができる人工関節用ボール部材の研磨装置1を得ることができる。
【0047】
また、研磨装置1によると、温度調整手段として加熱用のヒータ22を用いて骨頭ボール100の球状面100aの温度を調整することができる。遊離砥粒が研磨剤としての性能を発揮するための適切な温度よりも研磨時の球状面100aの温度が低い場合、遊離砥粒の流動性が不十分な状態となってしまう。このため、遊離砥粒が研磨剤としての性能を発揮するための適切な温度まで、ヒータ22によって球状面100aを加熱するように制御することで、良好な研磨状態を確保することができる。
【0048】
また、研磨装置1によると、ボール部材用治具21に配設された電熱線22で発生した熱が、ボール部材用治具21に支持された骨頭ボール100に熱伝導により伝達されことになる。このため、ボール部材用治具21に電熱線22を配設するという簡易な構成によって、骨頭ボール100の球状面100aを確実且つ容易に加熱することができる。
【0049】
また、研磨装置1によると、温度調整手段として骨頭ボール100の球状面100aを冷却する手段である冷却エア噴出装置37を用いてその球状面100aの温度を調整することができる。球状面100aと研磨部31との間の研磨領域での発熱量が大きすぎると、遊離砥粒が蒸発してしまい球状面100aと研磨部31との部分的な固着現象を生じてしまう虞がある。このため、遊離砥粒が蒸発してしまうことなく研磨剤としての性能を発揮するための適切な温度に維持されるように、冷却エア噴出装置37によって球状面100aを冷却するように制御することで、良好な研磨状態を確保することができる。
【0050】
また、研磨装置1によると、冷却されたガス(冷却エア)が骨頭ボール100の球状面100aに吹きつけられることで、この球状面100aが冷却されることになる。このため、球状面100aに向かって冷却ガスを吹きつけるという簡易な構成によって、球状面100aを確実且つ容易に加熱することができる。
【0051】
また、研磨装置1によると、ボール部材100の球状面100aの温度を温度センサ32で検知してこの検知結果に基づいてその球状面100aの温度を制御することができるため、球状面100aの温度を良好な研磨状態を確保できる適切な温度に常時維持することができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、次のように変更して実施してもよい。
【0053】
(1)本実施形態では、人工股関節において用いられる骨頭ボールの研磨処理を例にとって説明したが、この例に限らず、本発明は、例えば、人工肩関節や人工膝関節などにおいて用いられるボール部材の研磨処理に対しても適用することもできる。
【0054】
(2)本実施形態では、ボール部材用治具がボール部材である骨頭ボールを中心として揺動する場合を例にとって説明したが、この例に限らず、ボール部材用治具および研磨治具のうちの少なくともいずれか一方がボール部材を中心として揺動するように駆動されるものであればよい。図5は、変形例に係る研磨装置におけるボール部材用治具の近傍を拡大して示す断面の模式図であり、本実施形態の図2に対応する図である。なお、図5では、本実施形態の研磨装置1と同様の要素については同一の符号を付している。この図5に示すように、ボール部材用治具121が図中矢印(A)方向で示す回転動作のみを行い、研磨治具125が図中矢印(B)方向で示す回転動作と図中矢印(C)方向で示す揺動動作とを行うものであってもよい。
【0055】
(3)図5に示すように、ボール部材用治具121は、嵌合孔100bに嵌合する先端部分として交換可能な可換先端部121aを有するように形成されているものであってもよい。そして、その可換先端部121a内に、ボール部材用治具121の加熱用電気線(122a、122b)の一部である加熱用電気線122bが配設されているものであってもよい。この場合、加熱用電気線122aと加熱用電気線122bとは分離可能に構成されており、可換先端部121aとともにこの可換先端部121a内に配設された加熱用電気線122bも交換されることになる。
この構成によると、ボール部材用治具121の可換先端部121aに加熱用電気線122bを配設することで、熱伝導によりボール部材100の球状面100aを確実且つ容易に加熱することができる。そして、ボール部材用治具121はボール部材100の嵌合孔100bに嵌合する先端部分が交換可能に形成されているため、ボール部材100の嵌合孔100bの寸法に応じて可換先端部121aを適宜交換するだけで、種々の寸法のボール部材100に対応してこのボール部材100を容易に支持することができる。
【0056】
(4)本実施形態ではボール部材用治具にヒータが配設されている場合を例にとって説明したが、この例に限らず、例えば、図5に示すように、研磨治具125の内部にヒータとしての加熱用電気線122cが配設されているものであってもよい。なお、図5では、ボール部材用治具121および研磨治具125のいずれにもヒータとしての加熱用電気線が設けられている場合を例示しているが、研磨治具125のみにヒータが設けられているものであってもよい。
【0057】
(5)温度調整手段として冷却手段とヒータのいずれか一方のみを備えているものであってもよく、例えば、遊離砥粒の性状に応じて、適宜温度調整手段を選択してもよい。また、冷却手段およびヒータについては、本実施形態で例示した手段に限らず、種々の手段を選択することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、人工関節において用いられるボール状に形成されたボール部材に対してその表面を研磨するための人工関節用ボール部材の研磨装置として広く適用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施の形態に係る人工関節用ボール部材の研磨装置を例示する正面図である。
【図2】図1に示す研磨装置におけるボール部材用治具の近傍を拡大して示す一部断面を含む図である。
【図3】図2に示すボール部材用治具を示す図であり、図3(a)では骨頭ボールの断面図とともに示しており、図3(b)では一部切欠き断面図を示している。
【図4】図1に示す研磨装置の制御ブロック図である。
【図5】変形例に係る研磨装置におけるボール部材用治具の近傍を拡大して示す断面の模式図である。
【図6】人工股関節において用いられる骨頭ボールとステムとを例示する正面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 人工関節用ボール部材の研磨装置
13 揺動駆動機構
21 ボール部材用治具
22 加熱用電気線(温度調整手段、ヒータ)
25 研磨治具
31 研磨部
35 遊離砥粒供給装置(遊離砥粒供給手段)
37 冷却エア噴出装置(温度調整手段、冷却手段)
100 骨頭ボール(ボール部材)
100a 球状面
100b 嵌合孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工関節において用いられるボール状に形成されたボール部材に対してその表面を研磨するための人工関節用ボール部材の研磨装置であって、
前記ボール部材に形成された嵌合孔に嵌合するとともに当該ボール部材を支持した状態で回転するボール部材用治具と、
前記ボール部材用治具に支持された前記ボール部材の表面の球状面に向かって遊離砥粒を供給する遊離砥粒供給手段と、
前記ボール部材用治具に支持された前記ボール部材の前記球状面に摺接して前記遊離砥粒が供給された当該球状面を研磨する研磨部を有するとともに、当該球状面に当該研磨部が摺接した状態で回転する研磨治具と、
前記ボール部材用治具および前記研磨治具のうちの少なくともいずれか一方を前記ボール部材を中心として揺動するように駆動する揺動駆動機構と、
前記ボール部材用治具に支持された前記ボール部材の前記球状面の温度を調整する温度調整手段と、
を備えていることを特徴とする、人工関節用ボール部材の研磨装置。
【請求項2】
前記温度調整手段として前記球状面を加熱するヒータを備えていることを特徴とする請求項1に記載の、人工関節用ボール部材の研磨装置。
【請求項3】
前記ヒータは、前記ボール部材用治具に配設された加熱用電気線であることを特徴とする請求項2に記載の、人工関節用ボール部材の研磨装置。
【請求項4】
前記ボール部材用治具は、前記嵌合孔に嵌合する先端部分として交換可能な可換先端部を有するように形成され、当該可換先端部内に前記加熱用電気線の少なくとも一部が配設されていることを特徴とする請求項3に記載の、人工関節用ボール部材の研磨装置。
【請求項5】
前記温度調整手段として前記球状面を冷却する冷却手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の、人工関節用ボール部材の研磨装置。
【請求項6】
前記冷却手段は、冷却されたガスを前記球状面に対して吹きつけることで当該球状面を冷却することを特徴とする請求項5に記載の、人工関節用ボール部材の研磨装置。
【請求項7】
前記ボール部材用治具に支持された前記ボール部材の前記球状面の温度を検知する温度センサと、
前記温度センサでの検知結果に基づいて前記球状面の温度を制御する制御手段と、
をさらに備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の、人工関節用ボール部材の研磨装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−29700(P2008−29700A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208300(P2006−208300)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(504418084)日本メディカルマテリアル株式会社 (106)
【Fターム(参考)】