説明

付随車用アンチロックブレーキシステム

【課題】電気ブレーキ指令線が無い貨車にも適用することができ、ブレーキ条件に依存することなく滑走防止制御演算部を起動させて、滑走を適切に抑制可能なアンチロックブレーキシステムを提供する。
【解決手段】空気圧力により制動力を発生させる制動力発生機構1と、速度センサ2と、速度センサ2からの回転速度信号に基づいて制動判別処理及び滑走判別処理を行い滑走状態であれば滑走防止信号を出力する滑走防止制御演算部3と、滑走防止信号を受け再粘着動作を行う滑走防止弁4と、車輪の回転運動に基づいて電力を発生する発電機5と、滑走防止制御演算部3に電力を供給可能な蓄電部6と、発電機5の出力を基に所定電圧を生成する電圧生成充電制御部7とを備え、電圧生成充電制御部7から発電機出力と蓄電部6の蓄電出力との高位優先電圧で滑走防止制御演算部3に電力を供給するアンチロックブレーキXとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力車に牽引される貨車や客車等の付随車に適用可能なアンチロックブレーキシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レール上を走行する鉄道車両(列車)の制動動作時に車輪が滑走すると、レールや車輪が磨耗して損傷する。そこで、従来より、制動動作時における車輪の滑走を防止するアンチロックブレーキシステムが開発され、列車を構成する車両に装備されている。発明者らは、アンチロックブレーキシステムとして、車輪に対する制動力を発生する制動力発生機構と、各車輪に設けた速度センサからの信号に基づいて当該車輪が滑走しているか否かを判定し、個々の車輪に対して滑走防止信号を出力する滑走防止制御演算部と、滑走防止制御演算部から出力される滑走防止信号に基づいて制動力発生機構の制動力を弱めたり保持したり再度発生させる動作等を行う滑走防止弁と備え、滑走防止弁により車輪に対する制動力を断続的に作動させることができるようにしたものを案出している(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、列車は、ブレーキ指令を出力するブレーキ指令出力部(ブレーキ弁)を備えた動力車と、この動力車に牽引される複数の貨車や客車等の付随車とから構成され、動力車のブレーキ指令出力部から出力されるブレーキ指令に基づいて、動力車に備えられた車輪と、各付随車に備えられた車輪にそれぞれ空気圧力によって制動力を作用させることができるように構成されている。従来より多くの車両に適用されているブレーキ方式としては、ブレーキ指令として空気の圧力変化を信号とする空気信号を適用し、この空気信号によるブレーキ信号を、動力車から最後尾の貨車又は客車まで引き通したブレーキ管を介して伝達させ、ブレーキ指令に基づいて空気圧力を調整することによって各車輪に制動力を発生させる自動空気ブレーキ方式が挙げられる(特許文献1;第1実施形態参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−220946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、最近の列車では、ブレーキ応答性の向上を図るために、ブレーキ管を介して空気信号によりブレーキ指令を伝達するとともに、空気信号によるブレーキ指令よりも速やかに伝達される電気信号によるブレーキ指令を併用する電磁自動空気ブレーキ方式が採用されている(前記特許文献1;第2実施形態参照)。この電磁自動空気ブレーキ方式は、動力車から最後尾車両に亘ってブレーキ管とは別にブレーキ指令線(以下、「電気ブレーキ指令線」と称す)を引き通し、この電気ブレーキ指令線を介して電気信号によるブレーキ指令を各車両に伝達し、このブレーキ指令を受けて車輪に対する制動力を発生させるブレーキ方式である。
【0006】
ところが、動力車に牽引される付随車として、電気ブレーキ指令線を備えた車両と、電気ブレーキ線を備えず自動空気ブレーキシステムのみが装備された車両(例えば貨車や客車等)とが混在した場合、当然のことながら、電気ブレーキ指令線は途切れてしまい、電気信号を用いたブレーキ指令を最後尾の車両まで適切に伝達することは不可能である。また、各貨車または各客車において電気信号によるブレーキ信号を適切に受信するために専用の受信回路が必須である。
【0007】
このように、電磁自動空気ブレーキ方式を採用する場合には、各貨車や各客車にブレーキ指令線と専用の受信回路とを設けなければならず、また動力車から最後尾の付随車まで引き通した電気ブレーキ線の途中部分で断線又は接続不良が発生すれば、当該途中部分以降の電気ブレーキ線を介して電気信号によるブレーキ指令を適切に伝達することはできないという問題もある。
【0008】
さらに、滑走防止制御演算部に対する電源供給に着目すると、特許文献1には、ブレーキ指令として、空気信号のみを用いる態様、また空気信号及び電気信号を併用する態様、これら何れの態様であっても、列車が制動動作にある場合に、ブレーキ管内の圧力を監視するために各貨車や各客車に設けたブレーキ制御弁が電気的なブレーキ信号を出力し、この電気的なブレーキ信号に基づいてスイッチが適宜切り替わることにより、滑走防止制御演算部に電力が供給されて動作状態となる構成が開示されている。すなわち、特許文献1に開示されている態様では、制動状態にあるか否かによって、換言すればブレーキ指令の有無によって、滑走防止制御演算部に対する電力供給の有無が決定される。このようなブレーキ条件(ブレーキ指令の有無)で滑走防止制御演算部を起動させる態様では、滑走防止制御演算部が正常に動作を開始するまでに遅れが生じる可能性も考えられた。
【0009】
また、特許文献1記載のアンチロックブレーキシステムは、滑走防止制御演算部に電力供給する蓄電部を備え、この蓄電部に電力を供給する給電部を、動力車の電源から電力が供給される動力線と、車輪に設けられ車輪の回転運動に基づいて電力を発生する発電機とから構成し、動力線から蓄電部に対して常時電力を供給するように構成されている。したがって、このようなアンチロックブレーキシステムが適用可能な付随車は、動力線から引き通した電力線を有するものに限定され、電力線を有していない付随車が混在した場合には蓄電部への電力供給、ひいては滑走防止制御演算部への電力供給が遮断されるおそれがあった。なお、特許文献1では、電力線を備えていない貨車や客車であっても発電機出力によって滑走防止制御演算部を起動させることはできるものの、ブレーキ指令を受信した場合にのみ滑走防止制御演算部に電力を供給することになり、やはり滑走防止制御演算部が正常に動作を開始するまでに遅れが生じる可能性も考えられた。
【0010】
本発明は、このような問題に着目してなされたものであって、主たる目的は、電気ブレーキ指令線及び専用の受信回路を有さない貨車や客車等の付随車にも適用することが可能であり、ブレーキ指令を検知したか否かの条件(ブレーキ条件)に左右されることなく滑走防止制御演算部を起動させることができ、車輪の滑走を適切に防止・抑制可能なアンチロックブレーキシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、ブレーキ管を介して空気信号によるブレーキ指令を出力するブレーキ指令出力部を備えた動力車に牽引される付随車に適用可能なアンチロックブレーキシステムに関するものである。ここで、動力車としては例えば機関車が挙げられ、付随車としては例えば貨車や客車等が挙げられる。また、動力車のブレーキ指令出力部から出力される空気信号を用いたブレーキ信号はブレーキ管を介して各付随車に伝達される。
【0012】
そして、本発明の付随車用アンチロックブレーキシステムは、動力車のブレーキ指令出力部から出力されるブレーキ指令に基づき、付随車に設けた複数の車輪に対して空気圧力により制動力を発生させる制動力発生機構と、各車輪又は車輪を剛結する車軸に設けられて各車輪の回転速度を示す信号である回転速度信号を出力する速度センサとを備えていることを特徴としている。ここで、速度センサは、車輪に設けられたもの、又は両端部に車輪をそれぞれ剛結する車軸に設けられたもの、これら何れであってもよく、車輪の回転速度を直接検知したり、車軸の回転速度に基づいて間接的に車輪の回転速度を検知して回転速度信号を出力するものである。
【0013】
さらに、本発明の付随車用アンチロックブレーキシステムは、速度センサから出力された回転速度信号に基づいて制動状態であるか否かを判別するとともに、制動状態である場合には回転速度信号に基づいて車輪が滑走しているか否かを判別し、且つ滑走状態である場合には滑走防止信号を出力する滑走防止制御演算部と、滑走防止制御演算部から出力される滑走防止信号に基づいて空気圧力を調整することにより制動力発生機構からの制動力を弱める滑走防止弁と、少なくとも一つの車輪又は車軸に設けられて車輪又は車軸の回転運動に基づいて電力を発生し且つ車輪の回転数増加に伴って発生する電力が増加する発電機と、少なくとも滑走防止制御演算部及び滑走防止弁に電力を供給可能な蓄電部と、発電機と蓄電部との間に設けられて発電機からの出力を基に所定定電圧を生成するとともに蓄電部に対する充電を制御する電圧生成充電制御部とを備えていることを特徴としている。ここで、発電機は少なくとも1つの車輪又は1本の車軸の何れか一方に設けられていればよい。また、「制動力を弱める」とは「制動力の効き具合を緩める」という意味であり、以下では単に「制動力を緩める」と記載する場合もある。
【0014】
このように、本発明のアンチロックブレーキシステムは、空気信号によるブレーキ指令に基づいて制動力発生機構が車輪に対して制動力を発生するように構成し、電気信号によるブレーキ指令を適用していないため、各付随車にブレーキ指令線及び専用の受信回路を設ける必要がない。しかも、本発明のアンチロックブレーキシステムでは、滑走防止制御演算部に電力を供給可能な蓄電部に対する電力供給を、車輪に設けた発電機からの出力を基に電圧生成充電制御部で生成した電圧を利用して行うように構成しているため、蓄電部へ電力を供給するための電力線が不要であり、電力線を備えていない付随車にも適用することができる。
【0015】
さらにまた、本発明の付随車用アンチロックブレーキシステムは、上述した構成に加えて、電圧生成充電制御部と滑走防止制御演算部との間に第1スイッチを設け、発電機と電圧生成充電制御部との間に第2スイッチを設け、電圧生成充電制御部で検知した発電機出力及び蓄電部の蓄電電圧又は出力電圧に応じて各スイッチ(第1スイッチ、第2スイッチ)が接続状態と開放状態との間で切り替わるように構成していることも特徴としている。具体的に、第1スイッチは、電圧生成充電制御部で発電機出力が所定値より大きいことを検知した場合に滑走防止制御演算部及び滑走防止弁に電力を供給するとともに、電圧生成充電制御部で発電機出力が所定値より小さいことを検知した場合に蓄電部から滑走防止制御演算部及び滑走防止弁に電力を供給する接続状態となり、電圧生成充電制御部で蓄電部の蓄電電圧が所定値より小さいことを検知した場合、又は電圧生成充電制御部で発電機出力が所定値より小さいことを検知してから所定時間が経過した場合に滑走防止制御演算部及び滑走防止弁に対する電力供給を遮断する開放状態となる。ここで、本発明のアンチロックブレーキシステムに適用する発電機は、上述したように、車輪又は車軸の回転が高回転になるにしたがって発生する電力が増加するものである。したがって、電圧生成充電制御部で発電機出力が所定値より大きいことを検知した場合とは、車輪又は車軸の回転数が相対的に高い場合、つまり加速状態である場合を意味し、電圧生成充電制御部で発電機出力が所定値より小さいことを検知した場合とは、車輪又は車軸の回転数が相対的に低い場合、つまり減速状態である場合を意味する。そして、本発明では、加速状態であるか減速状態であるかに関わらず、発電機出力又は蓄電部の蓄電電圧によって滑走防止制御演算部及び滑走防止弁に電力を供給するように構成している。これにより、制動動作である場合にのみ滑走防止制御演算部及び滑走防止弁に対する電力供給を行う従来の態様であれば生じ得る不具合、すなわち滑走防止制御演算部及び滑走防止弁が制動動作時のみ動作するために滑走防止制御演算部が正常に動作を開始するまでに遅れが生じ得るという不具合を解消することができる。そして、電力供給されて起動した滑走防止制御演算部によって車輪の滑走を検知した場合には、滑走防止制御演算部から出力する滑走防止信号に基づいて滑走防止弁を適宜作動させることによって、車輪の滑走を防止・抑制することができる。
【0016】
また、本発明のアンチロックブレーキシステムにおいて、電圧生成充電制御部で蓄電部の蓄電電圧が所定値より小さいことを検知した場合に第1スイッチが開放状態になれば、滑走防止制御演算部の誤動作を防止することができる。加えて、電圧生成充電制御部で発電機出力が所定値より小さいことを検知してから所定時間が経過した場合、つまり、減速時において車輪が所定時間継続して回転していない場合は、完全に停車していると判断することができ、この場合に第1スイッチが開放状態になることによって蓄電部の過放電を防止することができる。なお、第1スイッチが接続状態から開放状態に切り替わる境界値である電圧生成充電制御部で検知する発電機出力の「所定値」は、上述した滑走防止制御演算部への電力供給源が切り替わる境界値である電圧生成充電制御部で検知する発電機出力の「所定値」よりも小さいことが好ましく、各所定値は適宜変更してもよい。また、発電機と電圧生成充電制御部との間に設けた第2スイッチが、電圧生成充電制御部で蓄電部の出力電圧が所定値より大きいことを検知した場合に発電機の出力を開放可能な開放状態になれば、発電機から電圧生成充電制御部への出力を遮断することができ、滑走防止制御演算部や蓄電部や滑走防止弁への過剰な電力供給に起因する機器の破損・焼損を防止することができる。なお、この所定値も適宜変更してもよい。
【0017】
本発明のアンチロックブレーキシステムが適用可能な付随車としては、周知の付随車と同様に、一対の車輪と一本の車軸の組を複数備えたものが挙げられる。また、本発明の付随車用アンチロックブレーキシステムでは、滑走防止制御演算部で制動状態か否かを判別するように構成している。この場合の好適な滑走防止制御演算部による演算処理(制動判別処理)としては、各付随車において複数の速度センサから所定時間毎に出力されるそれぞれの回転速度信号により与えられる回転速度を比較して、それらのうち最大値を示した回転速度を最大回転速度とし、この最大回転速度を利用して当該付随車における各車輪が制動状態か否かを判別するに際しての基準となる基準回転速度を算出し、この算出した基準回転速度の時間変化率を所定値(所定の時間変化率)と比較することによって制動状態か否かを判別する演算処理が挙げられる。このような演算処理を行う滑走防止制御演算部を備えたアンチロックブレーキシステムであれば、制動状態であるか否かをブレーキ指令の有無にのみ基づいて判別していた従来の態様とは全く異なる斬新な演算処理、すなわち、車輪ないし車軸の回転速度を基にして制動状態であるか否かを判別する演算処理を実現し、ブレーキ指令を検知するための専用の回路や部品を用いることなく制動状態であるか否かを判別することができる。しかも、本発明では、滑走防止制御演算部が、全ての車輪または車軸の回転速度のうち最大値を示した回転速度を最大回転速度として、この最大回転速度を利用して付随車1車両における唯一の基準回転速度を算出し、この算出した唯一の基準回転速度を所定値と比較することによって制動状態か否かを判別する演算処理を行うため、付随車における全ての車輪または車軸の回転速度をそれぞれ個別に所定値と比較することによって制動状態か否かを判別する演算処理を行う態様と比較して、演算処理の単純化及び短時間化を有効に図ることができる。
【0018】
また、本発明の付随車アンチロックブレーキシステムにおける好適な滑走防止制御演算部としては、最大回転速度の加速度又は減速度に基づいて当該最大回転速度を示した車輪又は車軸が加速中か減速中かを判別し、減速中と判別した場合において、最大回転速度が予め設定した模擬回転速度以上であるという第1条件を満たす場合には、当該最大回転速度を基準回転速度とし、第1条件を満たさない場合、つまり最大回転速度が模擬回転速度よりも小さい場合には、全ての車輪又は全ての軸が滑走していると判別し、模擬回転速度を基準回転速度とする演算処理を行うものが挙げられる。
【0019】
さらに、本発明のアンチロックブレーキシステムでは、滑走防止制御演算部が、第1条件を満たすか否かで算出した基準回転速度が、さらにゼロ以下であるという第2条件を満たすか否かを算出する演算処理を行うものであることが好ましい。そして、第2条件を満たす場合には、当該付随車の基準回転速度をゼロと見なし、前記第2条件を満たさない場合には、前記前記1条件を満たすか否かで算出した基準回転速度と当該付随車の基準回転速度を見なす演算処理を行うようにすればよい。これは、第1条件を満たすか否かで算出した基準回転速度がゼロ以下であれば、全ての車輪又は全ての車軸が停止或いは逆回転している状態、つまり制動中以外であると判別することができるためである。
【0020】
また、本発明の付随車アンチロックブレーキシステムにおける好適な滑走防止制御演算部としては、最大回転速度の加速度又は減速度に基づいて当該最大回転速度を示した車輪又は車軸が加速中か減速中かを判別し、加速中と判別した場合には最大回転速度を基準回転速度とする演算処理を行うものが挙げられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電気ブレーキ指令線及び専用の受信回路を有しない貨車や客車等の付随車にも適用することが可能であり、ブレーキ指令を検知したか否かの条件(ブレーキ条件)に左右されることなく滑走防止制御演算部を起動させることができ、車輪の滑走を適切に防止・抑制可能なアンチロックブーキシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る付随車用アンチロックブレーキシステムを適用した付随車とこの付随車を牽引する機関車の全体構成概略図。
【図2】同実施形態に係る貨車の全体模式図。
【図3】同実施形態に係るアンチロックブレーキシステムに用いられる圧力源(空気ダメ)を示すブロック図。
【図4】同実施形態に係るアンチロックブレーキシステムに用いられる滑走防止弁の構成概略図。
【図5】同滑走防止弁の動作と空気ブレーキ力(制動力)の関係を示す図。
【図6】同滑走防止弁により滑走制御例を示す図。
【図7】同実施形態に係るアンチロックブレーキシステムの起動及び停止特性を示す図。
【図8】同実施形態に係るアンチロックブレーキシステムにおける基準軸速度演算処理のフローチャート。
【図9】同基準軸速度演算処理の一部である最大軸速度演算処理のフローチャート。
【図10】同実施形態に係るアンチロックブレーキシステムにおけるブレーキ判別処理のフローチャート。
【図11】前記基準軸速度演算処理の加減速判別処理ステップにおいて加速時及び減速時の速度変化率を求める原理図。
【図12】同基準軸速度演算処理において基準軸速度を求める原理図。
【図13】同実施形態に係るアンチロックブレーキシステムによる滑走防止(再粘着)制御特性を示す図。
【図14】同実施形形態の一変形例を図1に対応して示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0024】
本実施形態に係るアンチロックブレーキシステムXは、動力車に牽引される付随車に適用可能なものである。本実施形態では、図1に示すように、付随車として貨車T1を適用するとともに、動力車として機関車T2を適用している。なお、図1は、本実施形態に係る付随車用アンチロックブレーキシステムXがそれぞれ備えられた貨車T1と、これらの貨車T1を牽引する機関車T2とを備えた列車の模式図である。また、同図では、機関車T2に次ぐ貨車T1(複数の貨車T1のうち先頭の貨車T1)にのみアンチロックブレーキシステムXを装備している状態を示しているが、後続の貨車T1にも同様のアンチロックブレーキシステムXを装備している。
【0025】
機関車T2には、図1に示すように、運転手(機関士)が列車の速度を調整するためのブレーキ弁T21(本発明の「ブレーキ指令出力部」に相当)を設けている。このブレーキ弁T21は、各貨車T1のアンチロックブレーキシステムXに向けて空気信号によるブレーキ指令を発生させるものである。本実施形態では、一定圧力を保つブレーキ管11内の圧縮空気を、ブレーキ弁T21によって大気に放出することによりブレーキ指令が発生するように構成している。また、ブレーキ指令は、機関車T2から最後尾の貨車T1に跨って架設したブレーキ管11を介して各貨車T1のアンチロックブレーキシステムXに伝達される。このように、本実施形態では、ブレーキシステムとして、空気の圧力変化による空気信号をブレーキ指令として用いる空気指令式自動空気ブレーキシステムを適用している。
【0026】
また、本実施形態の各貨車T1は、図2に模式的に示すように、1両ごとに車軸台T11を2台備え、各車軸台T11には2本の車軸T12が回転可能に支持され、各車軸T12の両端に車輪T13を剛結したものである。すなわち、各貨車T1には、4本の車軸T12と8個の車輪T13が備えられている。そして、各貨車T1に設けたアンチロックブレーキシステムX(図2では省略)によって、各貨車T1が制動状態にある場合に生じ得る各車輪T13の滑走を防止・抑制できるように構成している。なお、同一の車軸T12に剛結される一対の車輪T13は同期回転するため、一方の車輪T13が回転していれば他方の車輪T13も同一速度で回転しており、一方の車輪T13が停止していれば他方の車輪T13も当然のことながら停止している。また、車輪T13の回転速度は当該車輪T13に剛結された車軸T12の回転速度であると捉えることができる。
【0027】
そして、本実施形態に係るアンチロックブレーキシステムXは、図1に示すように、車輪T13に対して空気圧力により制動力を発生させる制動力発生機構1と、車輪T13若しくは車軸T12の回転速度を示す回転速度信号を出力する速度センサ2と、回転速度信号に基づいて当該アンチロックブレーキシステムXを搭載した貨車T1が制動状態であるか否か、及び当該貨車T1の車輪T13が滑走しているか否かを判別し、滑走状態である場合に滑走防止信号を出力する滑走防止制御演算部3と、滑走防止信号に基づいて空気圧力を調整することにより制動力発生機構1からの制動力を弱める滑走防止弁4と、少なくとも一つの車輪T13又は1本の車軸T12の何れか一方に設けられて車輪T13の回転運動に基づいて電力を発生する発電機5と、少なくとも滑走防止制御演算部3及び滑走防止弁4に電力を供給可能な蓄電部6と、発電機5と蓄電部6との間に設けられて発電機5からの出力を基に所定定電圧を生成するとともに蓄電部6に対する充電を制御する電圧生成充電制御部7とを備えている。
【0028】
制動力発生機構1は、貨車T1ごとに各車輪T13(本実施形態では合計8つの車輪T13)に制動力を発生させるものである。制動力発生機構1は、機関車T2からのブレーキ指令が伝達されるブレーキ管11と、車輪T13ごとに設けたブレーキシリンダ12と、ブレーキ管11とブレーキシリンダ12との間に設けたブレーキシリンダ管13と、ブレーキ管11とブレーキシリンダ管13との間に設けたブレーキ制御弁14とを備えている。
【0029】
これらブレーキ管11、ブレーキシリンダ12、ブレーキシリンダ管13、及びブレーキ制御弁14は、周知のものを適用することができ、以下、ブレーキ制御弁14の構成及び作用について説明する。
【0030】
ブレーキ制御弁14は、図1に示すように、3つの供給ポートがそれぞれブレーキ管11、供給空気ダメSR或いは元空気ダメMR(図3参照)、定圧空気ダメ(図示省略)に接続され、一方の吐出ポートがブレーキシリンダ管13に接続され、他方の吐出ポートが絞り14Aを介して大気に開放されるいわゆる3圧式制御弁である。ここで、供給空気ダメSR及び元空気ダメMRは、図3に示すように空気ダメ管MRPに接続され、これらの空気ダメSR、MRには、圧縮された空気が空気ダメ管MRPを介して貯められ、この圧縮空気は、例えば機関車T2に設置された空気圧縮機CОMPにて圧縮される。なお、各貨車T1に空気圧縮機CОMPを設置し、各貨車T1に設けた空気ダメSR、MRに貯められる圧縮空気をそれぞれの空気圧縮機CОMPにて圧縮するように構成することもできる。そして、ブレーキ制御弁14は、ブレーキ管11内が減圧した場合には、供給空気ダメSR或いは元空気ダメMRからの圧縮空気をブレーキシリンダ管13に供給してブレーキシリンダ管13内の圧力を高め、ブレーキ管11内が所定の高圧状態(例えば数kgf/cm2)になった場合には、ブレーキシリンダ管13内の圧縮空気を大気に放出させることにより、ブレーキシリンダ管13内の圧力を減圧させる。このように、ブレーキ制御弁14は、ブレーキ管11内の圧力を監視することにより、空気信号によるブレーキ指令を検知し、ブレーキ管11内の圧力をパイロット圧として、ブレーキシリンダ管13内の圧力を逆比例増幅させるものである。
【0031】
ここで、制動力発生機構1による制動力の発生動作について説明する。先ず、運転手がブレーキ弁T21を作動させてブレーキ管11内の圧縮空気を大気に放出すると、空気信号によるブレーキ指令(例えば数kgf/cm2または0kgf/cm2)が出力され、このブレーキ指令がブレーキ管11を介してブレーキ制御弁14に伝達される。このようにしてブレーキ制御弁14でブレーキ指令を受けた制動力発生機構1は、ブレーキ制御弁14の作用によりブレーキ管11内の圧力変化に逆比例するようにブレーキシリンダ管13を所定の範囲(例えば0〜数kgf/cm2の範囲)で加圧し、ブレーキシリンダ12を作動させて空気圧力による制動力を車輪T13に対して発生させることができる。なお、車輪T13に対して制動力が作用していない場合は、ブレーキ管11内の圧力、ブレーキシリンダ管13内の圧力がそれぞれ所定圧に維持される。
【0032】
また、本実施形態に係るアンチロックブレーキシステムXに用いられる速度センサ2は、各車輪T13又は各車軸T12にそれぞれ設けられ、各車輪T13の回転速度を示す信号である回転速度信号を出力するものである。なお、上述したように、この回転速度信号は、車輪T13を剛結する車軸T12の回転速度を示す信号でもある。したがって、速度センサ2は、1本の車軸T12に対して1つの割合で各貨車T1における車輪T13又は車軸T12に設ければよい。
【0033】
滑走防止制御演算部3は、CPU、RAM、ROM等(いずれも図示せず)からなるマイクロコンピュータによって構成されている。滑走防止制御演算部3は、その入力側に各速度センサ2が接続され、出力側に滑走防止弁4が接続されている。この滑走防止制御演算部3には、滑走防止処理等を行うためのプログラムおよび設定パラメータがROMに記憶されている。また、滑走防止制御演算部3は、発電機出力を基に電圧生成した電圧生成充電制御部7の出力電圧と蓄電部6の電圧(蓄電電圧)との高位優位電圧によって電力が供給されて起動し、電力供給に応じて作動し続けるものである。そして、本実施形態に係るアンチロックブレーキシステムXでは、滑走防止制御演算部3が、貨車T1が制動状態であるか否かを判別する制動判別処理、及び車輪T13が滑走しているか否かを判別して滑走を抑制するために滑走防止弁4を適宜作動させる滑走防止処理を行うように構成している。
【0034】
ここで、滑走防止制御演算部3による滑走防止処理とは、滑走防止制御演算部3が、各速度センサ2から出力される速度信号に基づき、当該速度センサ2を設けた車輪T13または車軸12が滑走しているか否を判定し、個々の車輪T13に対応付けて設けた滑走防止弁4に対して滑走防止信号を出力するものである。具体的に、この滑走防止制御演算部3による滑走防止処理は、各速度センサ2からの信号に基づき、各車輪が滑走状態か否かを判別するに際しての基準となる軸速度である「基準軸速度」を、基準軸速度の代表的算出の数式である下記の数式1に基づいて算出し、その算出した基準軸速度と各速度センサ2の検出結果の速度差、及び軸速度の時間変化率(軸加減速度、速度変化率ともいう)等から滑走しているか否かを判別し、滑走を抑制するための滑走防止信号を滑走防止弁4に出力する処理である。なお、滑走防止制御演算部3による制動判別処理については後述する。
【0035】
〈数式1〉Vs(t)=Vs(t-1)−β×t
但し、Vs(t)≦Vmaxの時にはVS(t)=Vmax
β:列車の減速度
Vs:基準軸速度
Vmax:全ての軸(本実施形態では1〜4軸)の軸速度のうち最大値を示す軸速度(最大軸速度)
t:演算周期
【0036】
滑走防止弁4は、ブレーキ制御弁14とブレーキシリンダ12との間に設けられ、滑走防止制御演算部3からの滑走防止信号を受けて、ブレーキシリンダ12内の圧縮空気を大気に放出させて制動力を緩めるか、ブレーキシリンダ12内に圧縮空気を込めて制動力を発生させるかの切換を行って、ブレーキシリンダ12内の圧力を調整することにより車輪T13に作用する制動力を断続的に緩めるアンチロック動作を実現するものである。この滑走防止弁4は、図4に示すように、電磁コイルを励磁させることにより動作する電磁弁である締め切り電磁弁4A及び緩め電磁弁4Bを備え、これらの電磁弁4A、4Bが適宜作動することによって、ブレーキシリンダ12への空気圧力の排気、保持、供給動作を行うように構成されている。なお、締め切り電磁弁4Aおよび緩め電磁弁4Bには、中継弁4C、4Dがそれぞれ接続されている。そして、締め切り電磁弁4Aの供給ポートは台車絞り4Eを介してブレーキシリンダ管13に接続され、締め切り電磁弁4Aの吐き出しポートは緩め電磁弁4Bの供給ポートに接続され、緩め電磁弁4Bの吐き出しポートは絞り4Fを介して大気に解放される。また、締め切り電磁弁4A側の中継弁4Cの供給ポートが空気ダメ(図示例では供給空気ダメSR)に接続され、中継弁4Cの指令圧入力ポートが締め切り電磁弁4Aの吐き出しポートに接続され、さらに中継弁4Cの吐き出しポートが緩め電磁弁4B側の中継弁4Dの供給ポートに接続される。さらに、中継弁4Dの指令圧入力ポートが緩め電磁弁4Bの吐き出しポートに接続され、中継弁4Dの第1吐き出しポートがブレーキシリンダ12に接続され、中継弁4Dの第2吐き出しポートが絞り4Gを介して大気に解放される。絞り4E、4Fは、滑走防止制御演算部3から出力される滑走防止信号の有無(オン/オフ)に基づき、ブレーキシリンダ12に供給される圧力の変化に時定数を持たせた過渡現象を起こさせるものである。
【0037】
ここで、滑走防止弁4の電磁コイル(締め切り電磁弁4A及び緩め電磁弁4Bの電磁コイル)が滑走防止制御演算部3から滑走防止信号を受けて励磁されると、滑走防止弁4は空気ブレーキ力(制動力)を排気する動作を行う。この排気動作は、締め切り電磁弁4Aおよび緩め電磁弁4Bが共にオン状態となり、ブレーキシリンダ管13内の空気を大気に放出し、中継弁4Cおよび中継弁4Dのパイロット室の圧力を減圧する。この結果、中継弁4Cおよび中継弁4Dの増幅作用により、供給されたブレーキシリンダ12の圧力を絞り4Gを介して大気に放出して、空気ブレーキ力を解除することできる。また、滑走防止弁4は、図5に示すように、排気動作の他、締め切り電磁弁4Aがオン状態となって緩め電磁弁4Bがオフ状態となることによってその時点の空気ブレーキ力(制動力)を保持する保持動作と、締め切り電磁弁4A及び緩め電磁弁4Bが共にオフ状態となることにより空気ブレーキ力(制動力)を復帰させる供給動作とを行う。そして、例えば図6に示すように、制動動作時(軸速度が減速している時)において、滑走防止制御演算部3から滑走防止信号が滑走防止弁4に出力された場合、滑走防止弁4が滑走防止信号に基づいてこれら排気動作、保持動作、供給動作を適宜行うことにより車輪T13の滑走を抑制することができる。なお、図6は、紙面上方側に、滑走している車輪T13を剛結する車軸T12の回転速度(滑走軸速度)を実線で示し、基準軸速度を1点鎖線で示しており、滑走防止信号を受けて滑走防止弁4が、排気動作、保持動作、排気動作、保持動作、供給動作をこの順で行うことによって、一旦降下した滑走軸速度を基準軸速度と同一速度にまで上昇させる滑走制御例を示すものである。
【0038】
また、貨車T1が非滑走状態で走行している場合では滑走防止制御演算部3から滑走防止信号が出力されず、滑走防止弁4の電磁コイル(締め切り電磁弁4A及び緩め電磁弁4Bの電磁コイル)がオフ状態となり、ブレーキ制御弁14とブレーキシリンダ12とは間接的な連通状態となる。したがって、車輪T13に制動力を発生させる制動動作時にあっては、ブレーキ制御弁14からの出力圧力とブレーキシリンダ12とがほぼ等しい圧力となり、ブレーキシリンダ12は、この圧力を受けて車輪T13に空気ブレーキ力を与えることになる。
【0039】
また、本発明のアンチロックブレーキシステムXに適用している発電機5は、車軸T12の軸端に取り付けられており、例えばステータ或いはロータを使用した永久磁石の電磁誘導作用により、車輪T13または車軸T12の回転速度に対応させた自己発電を行う発電機として構成される。本実施形態で適用する発電機5は、車輪T13または車軸T12の回転数が高回転になるにしたがって発生する電力が増加する特性を有し、車輪T13または車軸T12の回転数が高速状態にある場合に蓄電部6を蓄電するのに十分な電力を発生するものである。
【0040】
蓄電部6は、滑走防止制御演算部3、滑走防止弁4、及び制動力発生機構1に電力を供給可能なものである。本実施形態では、例えば水溶液系の電気二重層コンデンサを用いて蓄電部6を構成している。これにより、本実施形態の蓄電部6は、鉛蓄電池等に比べて、充放電の繰り返しに対する耐久性が高く、寿命が長いという特性を有するものになる。本実施形態に用いられる蓄電部6としては、塩酸を含む電解液が用いられる水系の電気二重層コンデンサを用いて構成したものが望ましい。このような電気二重層コンデンサで構成した蓄電部6は、オンオフを繰り返して瞬時に急変なパワーが必要な動作を繰り返す場合であっても、寿命劣化がし難いものになり、アンチロックブレーキ動作時に、充放電を瞬時に繰り返すことになるアンチロックブレーキシステムXに好適に適用することができる電源(二次電池)といえる。すなわち、本実施形態においてこのような蓄電部6を適用することにより、化学変化を伴う従来の大容量バッテリ(鉛蓄電池)に比べ、保守を含めたランニングコストが大幅に低減される。
【0041】
また、本発明のアンチロックブレーキシステムXは、発電機5と電圧生成充電制御部7との間に、発電機5の回転数に比例した電圧を発生する整流平滑部8を設けている(図1参照)。
【0042】
そして、電圧生成充電制御部7は、整流平滑部8の出力電圧を所定電圧(例えば数十V)に変換して、滑走防止制御演算部3に電力に供給するものである。また、電圧生成充電制御部7は、整流平滑部8の出力電圧、換言すれば発電機出力により蓄電部6に電力を供給する。なお、上述したように、発電機5は、車輪T13または車軸T12の回転数が高速状態にある場合に蓄電部6を蓄電するのに十分な電力を発生するものであることから、電圧生成充電制御部7は、車輪T13または車軸T12の回転数が高速状態にある場合に蓄電部6に電力を供給するものであるといえる。
【0043】
さらに、本発明のアンチロックブレーキシステムXは、図1に示すように、電圧生成充電制御部7と滑走防止制御演算部3との間に設けた第1スイッチSAと、発電機5と電圧生成充電制御部7との間、より具体的には整流平滑部8と電圧生成充電制御部7との間に設けた第2スイッチSBとを備えている。本実施形態では、これら第1スイッチSA及び第2スイッチSBをトランジスタのオン/オフによるスイッチ動作(半導体による無接点スイッチ)で実現している。
【0044】
第1スイッチSAは、電圧生成充電制御部7で発電機5の出力(以下「発電機出力」と称す)が所定値より大きいことを検知した場合、具体的には、整流平滑部8の出力電圧を電圧生成充電制御部7で検知して発電機5の回転数が所定値(例えば数十km/hに相当する回転数)に達したことを判別した場合に、滑走防止制御演算部3及び滑走防止弁4に電力を供給するとともに、電圧生成充電制御部7で発電機出力が所定値より小さいことを検知した場合、具体的には、整流平滑部8の出力電圧を電圧生成充電制御部7で検知して発電機5の回転数が所定値(例えば数十km/hに相当する回転数)以下であることを判別した場合に、蓄電部6から滑走防止制御演算部3及び滑走防止弁4に電力を供給する接続状態となるものである。また、この第1スイッチSAは、電圧生成充電制御部7で蓄電部6の蓄電電圧が所定値(例えば十数V)以下であることを検知した場合、又は電圧生成充電制御部7で発電機出力が所定値より小さいことを検知してから所定時間が経過した場合、具体的には、整流平滑部8の出力電圧を電圧生成充電制御部7で検知して発電機5の回転数が所定値(例えば数km/hに相当する回転数)以下であることを判別し、且つその所定値以下の状態が所定時間(例えば数十秒)継続したことを検知した場合に、滑走防止制御演算部3及び滑走防止弁4に対する電力供給を遮断する開放状態となる。
【0045】
一方、第2スイッチSBは、電圧生成充電制御部7で蓄電部6の電圧が所定値(例えば数十V)以上であり、この状態が一定時間継続したことを検知した場合は発電機5の出力を開放可能な開放状態となり、これ以外の場合は発電機5の出力を開放しない接続状態となるものである。
【0046】
次に、本実施形態に係る貨車用アンチロックブレーキシステムXの動作、特に起動及び停止特性、滑走防止制御演算部3によって行う制動判別処理について図1及び図7等を参照して説明する。なお、図1では、説明の都合上、電力を供給するラインを相対的に細い線で示し、信号(回転速度信号、滑走防止信号)が伝達するラインを相対的に太い線で示し、空圧を供給するラインを点線で示している。また、図7では、本実施形態に係るアンチロックブレーキシステムXの起動及び停止特性の一例を示すものであり、発電機5の回転数を例えば0rpm→数百rpm(図中Drpm)→0rpmに数十秒で加速及び減速した場合における発電機5の出力電圧(整流平滑部8の出力電圧)、蓄電部6の電圧(蓄電電圧)、滑走防止制御演算部3の入力電圧、滑走防止制御演算部3の制御電源電圧、蓄電部6の電流の動作波形を相対的且つ模式的に示すものである。
【0047】
また、図7において、発電機5の回転数が増加する状態は貨車T1が力行状態(加速運転)であることを意味し、発電機5の回転数が所定値以上の一定速度を維持している状態は貨車T1が惰行状態(定速運転)であることを意味し、発電機5の回転数が減少する状態は貨車T1が制動状態(減速運転)であることを意味する。また、蓄電部6の電流が負であるということは、蓄電部6が放電状態であり、滑走防止制御演算部3への電力供給を蓄電部6から行っていることを意味し、蓄電部6の電流が正であるということは、蓄電部6が充電状態であり、発電機出力によって滑走防止制御演算部3へ電力供給するとともに蓄電部6を充電していることを意味する。
【0048】
本実施形態に係るアンチロックブレーキシステムXでは、発電機5の回転数を0rpmから数百rpm(図中Drpm)に加速する場合、つまり貨車T1が力行状態にある場合、発電機5の回転数増加に伴い、整流平滑部8の出力電圧が発電機5の回転数に比例ないし略比例して漸次増大する。そして、発電機5の回転数を0rpmから数百rpm(図中Drpm)に加速する過程において、発電機5の回転数が所定値Arpm(数十km/hに相当する回転数)に到達した時点で滑走防止制御演算部3に電力が入力される(図7参照)。つまり、発電機5の回転数が所定値Arpmに達した時点で、第1スイッチSAが接続状態となり、滑走防止制御演算部3は所定値(例えば数V)の電源を生成して起動する。この動作は、整流平滑部8の出力電圧、つまり発電機出力を検知して判別する電圧生成充電制御部7によって、発電機5の回転数が所定値Arpmに達した場合に第1スイッチSAを開放状態から接続状態に切り替えることによって行われる。また、図7に示すように、加速中における滑走防止制御演算部3への電力供給は、発電機5の回転数が所定値Arpmに達した時点から所定値Brpm(数十km/hに相当する回転数であり、所定値Arpmよりも数十rpm大きい値)に達する時点までは蓄電部6からの電力供給となり、発電機5の回転数が所定値Brpmに達した時点以降は発電機出力を基にした電圧生成充電制御部7からの電力供給となる。すなわち、発電機出力が所定値Arpm以上である場合において、発電機出力を基に電圧生成した電圧生成充電制御部7の出力が蓄電部6の蓄電電圧よりも高い場合には発電機出力が滑走防止制御演算部3への電力供給源となり、蓄電部6の蓄電電圧が発電機出力を基にした電圧生成充電制御部7の出力よりも高い場合には蓄電部6の蓄電電圧が滑走防止制御演算部3への電力供給源となる。なお、各所定値は仕様等に応じて適宜変更することができる。
【0049】
また、本実施形態に係るアンチロックブレーキシステムXは、図7に示すように、発電機5の回転数が所定値Drpmを維持している場合、つまり貨車T1が百数十km/hで定速走行している場合、発電機5の出力電圧(整流平滑部8の出力電圧)も一定ないし略一定であり、滑走防止制御演算部3にも発電機出力を基にした電圧生成充電制御部7からの出力によって電源が供給されている。
【0050】
また、本実施形態に係るアンチロックブレーキシステムXでは、発電機5の回転数を減速する(図示例では所定値Drpmから0rpmに減速する)場合、つまり貨車T1が制動状態にある場合、発電機5の回転数低下に伴い、整流平滑部8の出力電圧が発電機5の回転数に比例ないし略比例して漸次低下する。そして、例えば発電機5の回転数を所定値Drpmから0rpmに減速する過程において、発電機5の回転数が所定値Brpmに到達した時点で、滑走防止制御演算部3への電力供給は、発電機出力を基にした電圧生成充電制御部7による電力供給から、蓄電部6による電力供給へと切り替わる。これにより、貨車T1が制動状態にある場合、電力供給源は変更するものの滑走防止制御演算部3には電力が供給され、起動したままの状態、つまり作動可能な状態を持続することができる。また、本実施形態に係るアンチロックブレーキシステムXは、電圧生成充電制御部7によって、発電機5の回転数が上述した滑走防止制御演算部3への電力供給が切り替わる時点の値(所定値Brpm)よりも小さい所定値Erpm(例えば数km/h以下に相当する回転数)を検知して、その所定値Erpm以下を一定時間(例えば数十秒:図7ではTs)継続したことを判別した場合に、第1スイッチSAが接続状態から開放状態に切り替える。これにより、滑走防止制御演算部3への電力供給は遮断される。ここで、発電機5の回転数が所定値Erpm(例えば数km/h以下に相当する回転数)以下を一定時間(Ts)継続した場合とは貨車T1が完全に停車している状態を意味する。そして、貨車T1が完全に停車している状態では車輪T13の滑走は生じ得ないため、滑走防止制御演算部3を起動させておく必要はなく、第1スイッチSAを接続状態から開放状態に切り替えることによって停車状態における蓄電部6の無用な放電を防止することができる。また、このことから、本実施形態に係るアンチロックブレーキシステムXは、電圧生成充電制御部7で発電機5の回転数が所定値Erpm(例えば数km/h以下に相当する回転数)以下であることを検知した場合であっても一定時間継続しなければ、滑走防止制御演算部3へ電力を供給し続けるものであることがわかる。これにより、例えば貨車T1の速度が数km/h以下になってから停車位置合わせのために再加速及び再減速する場合、滑走防止制御演算部3への電力供給状態は維持されているため、適切なアンチロックブレーキ動作を行うことができる。なお、本実施形態の蓄電部6は、たとえ完全に放電した場合であっても比較的短時間で蓄電できるという特性を有しているため、滑走防止制御演算部3を瞬時に起動させることができ、本実施形態に係るアンチロックブレーキシステムXの信頼性を高めることができる。
【0051】
なお、上記説明では詳述していないが、本実施形態に係るアンチロックブレーキシステムXは、滑走防止制御演算部3に対して電力供給を行う場合に、同時ないし略同時に滑走防止弁4にも滑走防止制御演算部3と同一の電力供給源から電力を供給することができる。また、本実施形態では、制動力発生機構1が適宜供給される空気を動力源として作動するように構成している。これによって、制動力発生機構1に対する電力供給は考慮する必要がなく、アンチロックブレーキシステムX全体の小電力化(省電力化)を図ることができる。
【0052】
そして、本実施形態に係るアンチロックブレーキシステムXは、起動して作動可能な状態にある滑走防止制御演算部3によって、制動状態か否かを判別し、制動状態であることを判別した場合には車輪T13が滑走しているか否かを判別し、さらに滑走状態であることを判別した場合には滑走防止信号を出力するように構成している。なお、車輪T13が滑走しているか否かを判別して、滑走状態であることを判別した場合には滑走防止信号を出力する処理については上述した通りであり、以下では、滑走防止制御演算部3で制動状態か否かを判別する処理(制動判別処理)について説明する。
【0053】
本実施形態の滑走防止制御演算部3は、各貨車T1において複数の速度センサ2から所定時間毎に出力されるそれぞれの回転速度信号により与えられる回転速度を比較して、それらのうち最大値を示した回転速度を最大回転速度とし、この最大回転速度を利用して基準回転速度を算出し、当該算出した基準回転速度の時間変化率を予め設定した所定値と比較することによって制動状態か否かを判別する演算処理を行うものである。なお、制動判別処理で用いる「基準回転速度」とは、貨車T1における各車輪T13が制動状態か否かを判別するに際しての基準となる回転速度を意味する。
【0054】
具体的に、この滑走防止制御演算部3は、図8〜図10のフローチャートに基づく演算処理により制動状態か否かを判別する。なお、以下の説明及び各フローチャート中で用いる「基準軸速度」、「最大基準速度」は、前段落で説明した「基準回転速度」、「最大回転速度」にそれぞれ相当するものである。
【0055】
先ず、滑走防止制御演算部3は、制動状態であるか否かを判別するに際して、基準軸速度を算出する基準軸速度演算処理を行う。この基準軸速度演算処理は、図8に示すように、最初に、最大軸速度を算出する最大軸速度演算処理ステップS1を経る。
【0056】
最大軸速度演算処理ステップS1は、図9に示すように、各貨車T1における全ての車軸T12(本実施形態では4本の車軸T12)の回転速度(軸速度Vn)を順番に比較して、そのうち最も高い軸速度を最大軸速度Vmaxとするステップである。基準軸速度演算処理は、この最大軸速度演算処理ステップS1に次いで、図8に示すように、最大軸速度演算処理ステップS1で求めた最大軸速度Vmaxの速度変化率βmaxがゼロ以下であるか否かを判別する加減速判別ステップS2を経る。当該加減速判別ステップS2において、最大軸速度の速度変化率βmaxがゼロ以下(図8;S2Y)であれば減速中であると処理され、一方最大軸速度の速度変化率βmaxがゼロよりも大きい場合(図8;S2N)には加速中であると判別する。この加減速判別ステップS2は、図11に示す速度と時間との相対関係に基づくものである。つまり、図11より、加速時の速度変化率βはV1−V2/t(演算周期)で求めることができ、「負」となり、一方、減速時の速度変化率βはV3−V4/tで求めることができ、「正」となることが分かる。
【0057】
加減速判別ステップS2で減速中であると判別した場合には、前回算出した基準軸速度Vs(t-1)から所定値(予め設定した模擬減速度β1(例えば数km/h/s)×t)を引いた値を模擬基準軸速度Vs(t)と想定し(図8;S3)、この模擬基準軸速度Vs(t)と、最大軸速度演算処理ステップS1で求めた最大軸速度Vmaxとを比較する(図8;S4、S5)。そして、模擬基準軸速度Vs(t)が最大軸速度Vmax以下である場合(同図;S5Y)には、この最大軸速度Vmaxを基準軸速度Vs(t)とする。一方、模擬基準軸速度Vs(t)が最大軸速度Vmaxよりも大きい場合(図8;S5N)は、全ての車軸T12(4本の車軸T12)が同時に滑走していることを意味し、この場合には、滑走している車軸T12を基準にして制動状態であるか否かを判別することは意味をなさない(全てが滑走している場合には求めた基準軸速度Vs(t)は真の車両速度(実際の車両速度)より小さく判断してしまうため、正常な滑走制御ができない)ため、模擬基準軸速度Vs(t)を基準軸速度Vs(t)とする。このように、ステップS4、S5を経ることによって、最大回転速度が予め設定した模擬回転速度以上であるという本発明の第1条件を満たすか否かを判別することができる。なお、図12には、所定の軸速度から演算周期(t)の基準軸速度を演算する際の原理図を示している。同図において、実線は模擬基準軸速度(Vs(t-1)−β×t、例えばβ=数km/h/s)を示し、点線は非滑走時の最大軸速度を示し、一点鎖線は全ての軸が同時に滑走している場合の最大軸速度を示す。そして、同図に基づき、最大軸速度Vmaxが模擬基準軸速度Vs(t)より大きい場合には最大軸速度Vmaxを基準軸速度とし、模擬基準軸速度Vs(t)が最大軸速度Vmaxよりも大きい場合には模擬基準軸速度Vs(t)を基準軸速度として採用している。このように、ステップ8を経ることによって、第1条件を満たすか否かで算出した基準回転速度がゼロ以下であるという本発明の第2条件を満たすか否かを判別することができる。
【0058】
次いで、ステップS5、S6で求めた基準軸速度(最大軸速度Vmax又は模擬基準軸速度Vs(t))がゼロ以下であるか否かを判別し、ゼロ以下である場合(図8;S7Y)には、基準軸速度をゼロとする(図8;S8)。一方、基準軸速度Vs(t)(最大軸速度Vmax又は模擬基準軸速度Vs(t))がゼロよりも大きい場合(図8;S7N)には、当該基準軸速度を基準軸速度とする。
【0059】
また、加減速判別ステップS2で加速中であると判別した場合には、最大軸速度演算処理ステップS1で求めた最大軸速度Vmaxを基準軸速度とする(図8;S9)。
【0060】
次いで、滑走防止制御演算部3は、図10に示すように、基準軸速度演算処理ステップで算出した基準軸速度Vs(t)の時間変化率αsを基にしてブレーキ中(制動状態)か否かを判別するブレーキ判別処理を行う。本実施形態では、基準軸速度Vs(t)の変化率αsが数km/h/s(図10では例えば1km/h/s)以下であれば(図10;S10Y)ブレーキ中であると判別し、基準軸速度Vs(t)の変化率αsが数km/h/sよりも大きい場合(図8;S10N)にはブレーキ中以外であると判別する。
【0061】
このような演算処理を滑走防止制御演算部3が行うことによって、本実施形態のアンチロックブレーキシステムXでは制動状態であるか否かを判別することができる。なお、本実施形態では、貨車T1における全ての車軸T12の回転速度(軸速度)を基に基準軸速度を算出するが、その際、断線を検知した車軸T12を除いた車軸T12の回転速度を基に基準軸速度を算出するように設定している。ここで、「断線」とは軸速度を検出する速度検知ライン(具体的には速度センサ2から滑走防止制御演算部3までの回転速度信号出力ライン)の断線を意味する。断線の有無を判別せずに全ての軸速度を基に基準軸速度を算出した場合、断線している車軸T12に関連付けて設けた速度センサ2は当該軸速度が0km/hである旨の回転速度信号を出力することから、この回転速度信号に基づいて自動的に滑走状態であると判別してしまい、実際には当該車軸T12又は当該車軸T12に剛結された車輪T13が滑走していない場合であっても制動力を緩める動作を行い得る。そこで、本実施形態では、断線を検知した場合には当該断線を検知した速度検知ライン上にある車軸T12を滑走検知の制御対象から除外している。滑走防止制御演算部3による断線の有無を検知する演算処理としては、基準軸速度が所定値(例えば数十km/h)で、且つ加速中(加速度>所定値(例えば数km/h/s))において軸速度が所定値以下(例えば数km/h)の状態を所定時間(例えば数秒)継続していることを断線検知条件とし、基準軸速度と軸速度の差が所定値(例えば数km/h)以下であり、この所定値が所定時間(例えば数秒)継続していることを断線検知解除条件とする演算処理が挙げられる。なお、この断線検知演算処理は滑走防止制御演算部3が行うようにすればよい。
【0062】
そして、本実施形態のアンチロックブレーキシステムXは、制動状態であると判別した場合には引き続いて前述した滑走判別処理を行い、滑走を検知した場合には滑走防止制御演算部3から滑走防止信号を出力する。滑走防止信号は、各車輪T13に与える制動力を制御する旨の信号、具体的には滑走防止弁4に対する駆動指令を示す信号であり、滑走防止弁4は、滑走防止制御演算部3から出力される滑走防止信号のオン状態、オフ状態に基づいて駆動する。滑走防止弁4の作動は、上述した通りであり、滑走防止制御演算部3からの滑走防止信号を受けて、空気ブレーキ力(制動力)の緩め動作(排気動作)、保持動作、及び供給動作を行い、これにより再粘着(滑走の防止・抑制)を図ることができる。図13には、本実施形態に係るアンチロックブレーキシステムXによる滑走防止(再粘着)制御特性の一例を模式的に示す。同図には、制動動作中において4本の車軸T12のうち第1車軸(1軸)のみが滑走し、アンチロックブレーキシステムXの滑走防止弁4(締め切り電磁弁4A、緩め電磁弁4B)により空気ブレーキ力(制動力)を緩め(排気)、保持、供給することによって滑走を抑制している状態を示している。なお、図6は図13の一部拡大図として捉えることができる。
【0063】
以上にようにして、本実施形態に係るアンチロックブレーキシステムXは、貨車T1の各車輪T13に対して適切な制動力を与えることができると同時に、制動状態において各車輪T13がレール上を滑走する事態を効果的に防止・抑制することができる。
【0064】
また、本実施形態に係るアンチロックブレーキシステムXは、蓄電部6の電圧が所定値(例えば十数V)以下の場合、具体的には、電圧生成充電制御部7で蓄電部6の電圧が所定値以下であることを検知した場合は、第1スイッチSAが接続状態から開放状態に切り替わる。これにより、滑走防止制御演算部3が正常に作動する電源が入力されていない場合に生じる不具合、つまり滑走防止制御演算部3の誤作動を防止することができ、システムの信頼性が向上する。
【0065】
さらに、本実施形態に係るアンチロックブレーキシステムXは、蓄電部6の電圧が所定値(例えば数十V)以上を一定時間継続した場合、具体的には、電圧生成充電制御部7で蓄電部6の電圧が所定値以上を一定時間継続したことを検知した場合は、第2スイッチSBが接続状態から開放状態に切り替わる。これにより、過度の電圧供給により滑走防止制御演算部3等の機器が破損・焼損することを防止することができ、やはりシステムの信頼性が向上する。
【0066】
このように、本実施形態に係るアンチロックブレーキシステムXは、ブレーキ指令として、電気信号を適用せずに空気信号を適用しており、この空気信号によるブレーキ指令に基づいて制動力発生機構1が車輪T13に対して制動力を発生するように構成しているため、各貨車T1にブレーキ指令線及び専用の受信回路(例えばブレーキシリンダ管13内が加圧されたことを検出して電気的なブレーキ信号を出力する圧力スイッチ等)が不要である。しかも、滑走防止制御演算部3に電力を供給可能な蓄電部6への充電は、車輪T13または車軸T12に設けた発電機5からの出力を基に電圧生成充電制御部7で生成した電圧を利用して行っているため、蓄電部6へ電力を供給するための電力線も不要である。したがって、ブレーキ指令線や専用の受信回路、或いは電力線を備えていない貨車にも好適に用いることができる。もちろん、ブレーキ指令線や専用の受信回路、或いは電力線を備えた貨車にも本実施形態のアンチロックブレーキシステムXを適用することができ、ブレーキ指令線や電力線を備えた貨車と、ブレーキ指令線等を備えていない貨車とが混在した場合であっても、各貨車に本実施形態のアンチロックブレーキシステムXを実装すれば、各貨車においてアンチロックブレーキシステムXが制動力発生機能や滑走防止機能を適切に発揮することができる。
【0067】
さらに、本実施形態に係るアンチロックブレーキシステムXは、電圧生成充電制御部7と滑走防止制御演算部3との間に第1スイッチSAを設け、電圧生成充電制御部7で発電機出力が所定値より大きいことを検知した場合に滑走防止制御演算部3及び滑走防止弁4に電力を供給するとともに、電圧生成充電制御部7で発電機出力が所定値より小さいことを検知した場合に、この第1スイッチSAが蓄電部6から滑走防止制御演算部3及び滑走防止弁4に電力を供給する接続状態となるように構成しているため、加速状態であるか減速状態であるかに関わらず、発電機出力又は蓄電部6によって滑走防止制御演算部3及び滑走防止弁4に電力を供給することができる。これにより、制動動作である場合にのみ滑走防止制御演算部3及び滑走防止弁4に対する電力供給を行う従来の態様であれば生じ得る不具合、すなわち滑走防止制御演算部3が正常に動作を開始するまでに遅れが生じ得るという不具合を解消することができる。そして、電力供給されて起動している滑走防止制御演算部3によって車輪T13の滑走を検知した場合には、滑走防止制御演算部3から出力する滑走防止信号に基づいて滑走防止弁4を適宜作動させることによって、車輪T13の滑走を防止・抑制することができる。
【0068】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば図14に示すように、動力車T2に備えた電源Pから滑走防止制御演算部3や滑走防止弁4に電力を供給するようにしても構わない。この場合、各付随車T1には動力車T2の電源Pに接続可能な電力線P1を架設する必要があり、また、電力線P1と滑走防止制御演算部3との間に、第3スイッチSC、電圧生成部9を設ければ、電力線P1を介して電源Pの出力を電圧生成部9で所定定電圧(例えば数十V)に変換して、滑走防止制御演算部4に電力を供給することができる。なお、電圧生成部9の出力電圧を電圧生成充電制御部7の出力電圧よりも低く設定していることが好ましい。また、電圧生成部9の出力電圧が所定値(例えば数十V)以上を一定時間継続した場合には、第3スイッチSCを接続状態から開放状態に切り替えて、電源Pからの電力供給を遮断するようにすれば、機器の破損・焼損を防止することができる。なお、図14では上述した実施形態で用いた図1と対応する箇所には同一の符号を付している。
【0069】
また、貨車1台における車輪や車軸の数も適宜変更してもよい。また、各スイッチを、継電器等の有接点スイッチとしても構わない。さらに本発明のアンチロックブレーキシステムは、客車に適用可能であることは勿論のこと、動力車(牽引車)に牽引されるトレーラー等の被牽引車にも広く適用することができる。このような被牽引車に本発明のアンチロックブレーキシステムを適用することにより、当該被牽引車が牽引車から電力線が引き通されていないものであっても適切なアンチロックブレーキ動作を実現することができる。
【0070】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0071】
1…制動力発生機構
11…ブレーキ管
2…速度センサ
3…滑走防止制御演算部
4…滑走防止弁
5…発電機
6…蓄電部
7…電圧生成充電制御部
SA…第1スイッチ
SB…第2スイッチ
T1…付随車(貨車)
T12…車軸
T13…車輪
T2…動力車(機関車)
T21…ブレーキ指令出力部(ブレーキ弁)
X…アンチロックブレーキシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ管を介して空気信号によるブレーキ指令を出力するブレーキ指令出力部を備えた動力車に牽引される付随車に適用可能なアンチロックブレーキシステムであって、
前記ブレーキ指令出力部から出力される前記ブレーキ指令に基づき、前記付随車に設けた複数の車輪に対して空気圧力により制動力を発生させる制動力発生機構と、
前記各車輪又は当該車輪に剛結された車軸に設けられ、各車輪の回転速度を示す信号である回転速度信号を出力する速度センサと、
前記速度センサから出力された前記回転速度信号に基づいて制動状態であるか否かを判別するとともに、制動状態である場合に前記回転速度信号に基づいて当該車輪が滑走しているか否かを判別し、且つ滑走状態である場合に滑走防止信号を出力する滑走防止制御演算部と、
前記滑走防止制御演算部から出力される前記滑走防止信号に基づいて前記空気圧力を調整することにより前記制動力発生機構からの制動力を弱める滑走防止弁と、
少なくとも一つの車輪又は前記車軸に設けられ、当該車輪又は車軸の回転運動に基づいて電力を発生し、且つ前記回転の増加に伴って発生する電力が増加する発電機と、
少なくとも前記滑走防止制御演算部及び前記滑走防止弁に電力を供給可能な蓄電部と、
前記発電機と前記蓄電部との間に設けられ、前記発電機からの出力を基に所定定電圧を生成するとともに前記蓄電部に対する充電を制御する電圧生成充電制御部と、
前記電圧生成充電制御部と前記滑走防止制御演算部との間に設けられ、前記電圧生成充電制御部で前記発電機出力が所定値より大きいことを検知した場合に前記滑走防止制御演算部及び前記滑走防止弁に電力を供給するとともに、前記電圧生成充電制御部で前記発電機出力が所定値より小さいことを検知した場合に前記蓄電部から前記滑走防止制御演算部及び前記滑走防止弁に電力を供給する接続状態となり、前記電圧生成充電制御部で前記蓄電部の蓄電電圧が所定値より小さいことを検知した場合、又は前記電圧生成充電制御部で前記発電機出力が所定値より小さいことを検知してから所定時間が経過した場合に前記滑走防止制御演算部及び前記滑走防止弁に対する電力供給を遮断する開放状態となる第1スイッチと、
前記発電機と前記電圧生成充電制御部との間に設けられ、前記電圧生成充電制御部で前記蓄電部の出力電圧が所定値より大きいことを検知した場合に前記発電機の出力を開放可能な第2スイッチとを備えていることを特徴とする付随車用アンチロックブレーキシステム。
【請求項2】
前記付随車には一対の車輪と一本の車軸の組が複数設けられ、
前記滑走防止制御演算部が、各付随車において複数の前記速度センサから所定時間毎に出力されるそれぞれの回転速度信号により与えられる回転速度を比較して、それらのうち最大値を示した回転速度を最大回転速度とし、当該最大回転速度を利用して当該付随車が制動状態か否かを判別するに際しての基準となる基準回転速度を算出し、当該算出した基準回転速度の時間変化率を所定値と比較することによって制動状態か否かを判別する演算処理を行うものである請求項1に記載の付随車用アンチロックブレーキシステム。
【請求項3】
前記滑走防止制御演算部が、前記最大回転速度の加速度又は減速度に基づいて当該最大回転速度を示した車輪又は車軸が加速中か減速中かを判別し、減速中と判別した場合において、当該最大回転速度が予め設定した模擬回転速度以上であるという第1条件を満たす場合には、当該最大回転速度を前記基準回転速度とし、前記第1条件を満たさない場合には、全ての車輪又は全ての軸が滑走していると判別し、前記模擬回転速度を前記基準回転速度とする演算処理を行うものである請求項2に記載の付随車用アンチロックブレーキシステム。
【請求項4】
前記滑走防止制御演算部が、前記第1条件を満たすか否かで算出した前記基準回転速度が、さらにゼロ以下であるという第2条件を満たす場合には、当該付随車の基準回転速度をゼロと見なし、前記第2条件を満たさない場合には、前記前記1条件を満たすか否かで算出した前記基準回転速度と当該付随車の基準回転速度を見なす演算処理を行うものである請求項3に記載の付随車用アンチロックブレーキシステム。
【請求項5】
前記滑走防止制御演算部が、前記最大回転速度の加速度又は減速度に基づいて当該最大回転速度を示した車輪又は車軸が加速中か減速中かを判別し、加速中と判別した場合には、当該最大回転速度を前記基準回転速度とする演算処理を行う請求項2乃至4の何れかに記載の付随車用アンチロックブレーキシステム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−126377(P2011−126377A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285314(P2009−285314)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】