説明

位置決め装置、露光装置およびそれを用いたデバイス製造方法

【課題】計測光路の温度揺らぎを抑えて位置計測精度を向上させて高精度な露光を行う。
【解決手段】可動子と固定子とを有する駆動部と、前記駆動部によって移動する移動体の位置を光を用いて計測する計測部と、気体を排気するための排気部とを備え、前記排気部を前記固定子に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置に関し、特には可動子と固定子とからなる駆動部と、該駆動部によって移動する移動体の位置を計測するためのレーザー干渉計と、該レーザー干渉計の計測光の光路に温調された気体を供給する送風部とを有する露光装置等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、露光装置に設けられたウエハステージやレチクルステージの位置はレーザー干渉計によって計測される。レーザー干渉計の計測精度は、計測光の光路の温度揺らぎ(変動)によって低減することが知られている。この温度揺らぎを抑えるために、計測光が導光される空間の近傍に配置される発熱部材の表面に冷媒を循環させて冷媒の温度を制御することによって、光路の温度揺らぎを低減させる技術がある。
【0003】
また、計測光が導光される空間に温度調整(温調)された気体を流すことによって、光路の温度揺らぎを低減させる技術がある。
【特許文献1】特開2002−008971号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、発熱部材の表面に冷媒を循環させた場合、発熱量が大きくなると、循環させる冷媒の流量も多くする必要がある。しかしながら、冷媒の流量を多くすると、冷媒を流すための配管または冷却ジャケットにかかる圧力が高くなる。このため、圧力によって配管または冷却ジャケット(以下、配管等とする)が破損しないように、管壁を厚くする必要がある。特に発熱部材がリニアモータのコイルであれば、管壁を厚くすると、コイルと磁石との間の距離が大きくなるため推力が低下してしまう。また、冷媒の流量を大きくすると、冷媒の流れが配管等の振動を誘発してしまう。これは、冷媒の流量を大きくすることによって冷媒の流れが乱流となるためである。このような振動は、リニアモータ等の位置決め装置の制御系への外乱となってしまう。
【0005】
また、上述のように、計測光が導光される空間に温調された気体を流した場合、気体の流量を大きくすると、フィルタから発塵が生じるおそれがある。露光装置内で温調された気体を流すときには、一般にフィルタを介して気体を流すが、フィルタには概して規定流速があり、その流速を超えるとフィルタから発塵が生じるためである。また、フィルタがない場合であっても、気体の流量を大きくすると、気体を循環させるための配管等の振動を誘発してしまう。さらに、気体の流速を速くすると、気体が流れているところで負圧となり、周囲の気体を巻きこんでしまい、温度揺らぎを発生させる。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みなされたものであり、計測光路の温度揺らぎ等を抑えて位置計測精度を向上させて高精度な露光を行う技術の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様は、可動子と固定子とを有する駆動部と、前記駆動部によって移動する移動体の位置を光を用いて計測する計測部と、気体を排気するための排気部とを備え、前記排気部は前記固定子に設けられる。
【0008】
なお、上記位置決め装置を用いて、前記原版と基板とを相対的に位置決めして露光する露光装置や、この露光装置を用いてデバイスを製造するデバイス製造方法も、本発明の適用可能な範囲に含まれる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、計測光の光路の温度揺らぎ等を抑えて位置計測精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、添付図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
尚、以下に説明する実施の形態は、本発明の実現手段としての一例であり、本発明が適用される装置の構成や各種条件によって適宜修正又は変更されるべきものである。
【0012】
また、本発明は、以下に説明するデバイス製造の他に、各種精密加工装置や各種精密測定装置や、このようなデバイス製造装置を使って半導体デバイスなどを製造する方法にも適用可能である。
【0013】
[第1の実施形態]
図1は本発明に係る好適な実施の形態の露光装置(デバイス製造装置)の露光ステージ(ウエハステージ)を示す概略構成図であり、図2は図1の上面図である。図中の矢印は気体の流れを表す。
【0014】
原版(不図示)に形成されたパターンは投影光学系10を介してウエハ15に縮小投影される。投影光学系10は、複数の光学レンズ素子のみからなる屈折光学系、複数の光学レンズ素子と少なくとも一枚の凹面鏡とを有する光学系(カタディオプトリック光学系)、複数の光学レンズ素子と少なくとも一枚のキノフォームなどの回折光学素子とを有する光学系、全ミラー型の反射光学系等が適用可能である。
【0015】
ウエハステージは、ウエハ15を搭載した可動子2と、可動子2をY方向に案内するYガイドバー14、可動子2をX方向に案内するXガイドバー13と、可動子2をXY方向で移動自在に案内し支持するステージ定盤11と、Xガイド14及びYガイド13をそれぞれ駆動するリニアモータとを有する。リニアモータはXガイド14をY方向に駆動し、Yガイドバー14をX方向に駆動する。可動子2は、XガイドとともにY方向に移動し、YガイドとともにX方向に移動する。
【0016】
リニアモータはXガイド及びYガイドの両端に設けられた磁石ユニット6(可動子)と、磁石ユニット6と対向して設けられた固定子3内のコイルユニット(不図示)とを有する。コイルユニットを構成するコイルに通電することによって、推進力が発生する。コイルユニットはコイル(発熱部材)を覆ったジャケット5を有することが好ましく、ジャケット5内に冷媒を流すことで発熱したコイルを冷却する。
【0017】
可動子2はX軸、Y軸それぞれにほぼ垂直な反射面を有するミラー9を有する。レーザー干渉計7から照射された計測光はミラー9で反射されてレーザー干渉計7に戻る。この計測光によって可動子2の移動量が計測され、可動子2のXY平面内の位置を算出することが可能である。
【0018】
計測光が導光される干渉計光路8には、空調送風口1から気体が送風されている。空調送風口1から送風される気体は、不図示の気体を流通させる配管に設けた熱交換器や流量制御弁等の調整手段によって、所定の温度や所定の流量に調整した供給が可能である。干渉計光路8の近傍には温度センサ(不図示)が設けられており、気体の温度を計測することができる。温度センサが設けられる場所は適宜変更しうる。温度センサの出力に基づいて上述の所定の温度、所定の流量を制御器(不図示)により制御することによって、温度揺らぎを低減することができる。
【0019】
干渉計光路8を空調する空調送風口1はX干渉計光路、Y干渉計光路それぞれ独立して設けられていてもよい。またそれぞれの干渉計光路に複数配置されていてもよい。
【0020】
固定子3は、磁石ユニット6を両側から挟みこむようにコの字に配置されている。複数のコイルが磁石の両側に並べられることで、大きな推力を発生させることができる。固定子3には排気用流路16が設けられており、固定子3の内側の気体は排気用流路16により固定子3の外側に排気される。固定子3の外側に排気された気体は、固定子3の外側に取り付けられた排気用カバー12、排気用カバー12に接続された排気用ダクト(不図示)を介してポンプ等(不図示)によって排気される。すなわち、排気流路16を固定子3の内部に配し、排気用カバー12を固定子3の外部を覆うように排気流路16の外側に配設している。
【0021】
排気用流路16を複数設けて、その配置、個数、流路断面積を各々任意にすることにより、固定子3の排気流量を所定の流量にすることが可能である。また、固定子3の排気流量をその排気位置に応じて異ならせることも可能である。また、排気用カバー12に接続される排気用ダクト(不図示)を複数個接続するようにしてもよい。
【0022】
ジャケット5内の冷媒によって完全に取り除けなかったコイルの熱は、磁石6を介してXガイドバー13、Yガイドバー14に伝わり、Xガイドバー13、Yガイドバー14の温度は干渉計光路8の温度と異なる温度となる。固定子3の内側の気体、Xガイドバー13、Yガイドバー14の周囲の気体も、干渉計光路8の温度とは異なる温度となる。可動子2が移動すると、Xガイドバー13及びYガイドバー14も移動するため、これらの気体は、干渉計光路8の方へと押し出されてしまう。
【0023】
そこで、本実施形態では、固定子に気体の排気流路16(排気手段)を設けることにより、干渉計光路8内の気体とXガイドバー13、Yガイドバー14により干渉計光路8と異なる温度の気体とが混合することにより起こる気体の温度揺らぎを抑えることができる。さらに、固定子3の内側に排気用流路16を設けることにより、干渉計光路8に押し出される気体の量を抑えることが可能となり、干渉計光路8内の気体の温度揺らぎを抑え、可動子2の位置を高精度にレーザー干渉計で計測することが可能となる。
【0024】
また、露光空間内に使用される部材(ジャケット5、磁石ユニット6、Xガイドバー13、Yガイドバー14等)から出るコンタミネーション(汚染物質)や、各部材で用いられる接着剤から出るコンタミネーションは、投影光学系10を構成するレンズ下面の硝材のくもりやウエハ15に塗布された化学増幅レジストとの反応を引き起こして露光性能の低下を招く原因となるが、本実施形態のように固定子の内側に排気手段を設けることにより、これらのコンタミをウエハやレンズ下面まで巻き上げずに排気することができる。
【0025】
[第2の実施形態]
図3は本発明に係る第2の実施の形態のウエハステージの概略構成図であり、図4は図3の上面図である。図中の矢印は気体の流れを表す。また、第1の実施形態と同様の機能を有するものについては、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0026】
第2の実施形態では、第1の実施形態におけるYガイドを有しない構成であり、Xガイドバー13がリニアモータとして機能する。ウエハ15を搭載した可動子2にはリニアモータ可動子としての永久磁石(不図示)が設けられている。Xガイドバー13にはリニアモータ固定子としてのコイル4aが上記永久磁石に対向するようにX方向に並べて設けられている。これらのコイルに通電することによって、可動子2はX方向に移動することができる。可動子2内にコイル、Xガイドバー13内に永久磁石を設けてもよい。
【0027】
Xガイドバー13の両端には磁石ユニット6が設けられており、Xガイドバー13は第1の実施形態と同様の方法でY方向に移動することができる。
【0028】
可動子2は、静圧軸受等の気体軸受を介して定盤11上にXY方向に移動可能に支持されている。
【0029】
本実施形態においては、固定子3を覆うように排気用カバー12が設けられている。固定子3の周囲の気体は排気用カバー12に接続された排気用ダクト(不図示)を介してポンプ等(不図示)によって排気される。
【0030】
排気用カバー12に接続される排気用ダクト(不図示)を複数接続するようにして、その配置、個数、流路断面積をそれぞれ任意にすることにより、排気流量を所定の流量になるようにすることが可能である。
【0031】
なお、気体を送風する空調送風口(給気手段)は干渉計光路8以外の他の部材の空調に適用されることもあり、送風対象物の位置に応じてステージ空間以外の箇所に設置される場合もある。また、本実施形態は、干渉計光路8の温度揺らぎの防止に限らず、例えば、空調気体の供給がされない装置、EUV露光装置などの真空雰囲気で使用される装置、干渉計光路の温調を目的としない給気(例えば、レンズ等の局所給気)を行う装置などにも適用可能である。
【0032】
[デバイス製造方法]
次に、この露光装置を利用した半導体デバイスの製造プロセスを説明する。図5は半導体デバイスの全体的な製造プロセスのフローを示す図である。ステップS1(回路設計)では半導体デバイスの回路設計を行う。ステップS2(マスク作製)では設計した回路パターンに基づいてマスクを作製する。
【0033】
一方、ステップS3(ウエハ製造)ではシリコン等の材料を用いてウエハを製造する。ステップS4(ウエハプロセス)は前工程と呼ばれ、上記のマスクとウエハを用いて、上記の露光装置によりリソグラフィ技術を利用してウエハ上に実際の回路を形成する。次のステップS5(組み立て)は後工程と呼ばれ、ステップS4によって作製されたウエハを用いて半導体チップ化する工程であり、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)、パッケージング工程(チップ封入)等の組み立て工程を含む。ステップS6(検査)ではステップS5で作製された半導体デバイスの動作確認テスト、耐久性テスト等の検査を行う。こうした工程を経て半導体デバイスが完成し、ステップS7でこれを出荷する。
【0034】
上記ステップS4のウエハプロセスは以下のステップ(図6)を有する。ウエハの表面を酸化させる酸化ステップ(S11)、ウエハ表面に絶縁膜を成膜するCVDステップ(S12)、ウエハ上に電極を蒸着によって形成する電極形成ステップ(S13)、ウエハにイオンを打ち込むイオン打込みステップ(S14)、ウエハに感光剤を塗布するレジスト処理ステップ(S15)、上記の露光装置によって回路パターンをレジスト処理ステップ後のウエハに転写する露光ステップ(S16)、露光ステップで露光したウエハを現像する現像ステップ(S17)、現像ステップで現像したレジスト像以外の部分を削り取るエッチングステップ(S18)、エッチングが済んで不要となったレジストを取り除くレジスト剥離ステップ(S19)。これらのステップを繰り返し行うことによって、ウエハ上に多重に回路パターンを形成する。
【0035】
[効果]
以下、本発明の好適な実施の形態の作用及び効果について説明する。
【0036】
本実施形態では、ウエハ空間、レチクル空間を有するデバイス製造装置において、温調手段として気体、液体冷媒を使用してステージのコイルやマグネットなどの固定子や可動子、そしてウエハ空間、レチクル空間の温調を行い、さらにウエハ空間、レチクル空間を形成する境界壁に排気口を設け排気を行う。
【0037】
ここで、排気口の位置は気体の流れ、液体冷媒を使用する駆動部などの発熱体から熱の放射を考慮し、ステージなどの可動子位置決め用レーザー干渉計光路中の気体温度分布や気体の温度揺らぎが最小となるように決定されうる。
【0038】
これにより、要求される装置性能を満たし、かつ効率的に気体、液体冷媒による冷却、可動子位置決め用レーザー干渉計光路の精密空調が可能となる。
【0039】
ここで、特に、発熱量が大きい冷却対象、及び/又は、周辺雰囲気への熱の放射が好ましくない冷却対象については、例えば、リニアモータおよび電磁アクチュエータ等の駆動部を有するデバイス製造装置、特に露光装置の場合、該駆動部を冷却するために液体冷媒を使用し、該駆動部の固定子側に排気口を設け排気を行い、該駆動部の可動側から固定子側に向かって気体の流れを発生させることが好ましい。
【0040】
この場合、駆動部からレーザー干渉計光路への熱影響の低減により、発熱に起因する露光装置の性能(例えば、位置決め精度やフォーカス精度)の低下を抑え、微細なパターンを精度良く基板に転写することができる。また、レーザー干渉計光路への熱影響の低減は、ステージ速度等の向上、更には処理速度(スループット)の向上にも寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る一実施形態の概略構成と気流の流れを示す正面図である。
【図2】本発明に係る一実施形態の概略構成と気流の流れを示す上面図である。
【図3】本発明に係る他の実施形態の概略構成と気流の流れを示す正面図である。
【図4】本発明に係る他の実施形態の概略構成と気流の流れを示す上面図である。
【図5】デバイス製造方法を示す図である。
【図6】ウエハプロセスを示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 空調送風口
2 可動子
3 固定子
4 コイル
5 ジャケット
6 磁石ユニット
7 干渉計
8 干渉計光路
9 反射ミラー
10 鏡筒
11 ステージ定盤
12 排気用カバー
13 Xガイドバー
14 Yガイドバー
15 ウエハ
16 排気用流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動子と固定子とを有する駆動部と、
前記駆動部によって移動する移動体の位置を光を用いて計測する計測部と、
気体を排気するための排気部とを備え、
前記排気部は前記固定子に設けられることを特徴とする位置決め装置。
【請求項2】
前記排気部は、排気流路を前記固定子内部に有することを特徴とする請求項1に記載の位置決め装置。
【請求項3】
前記排気流路は、前記固定子の数に応じて設けられることを特徴とする請求項2に記載の位置決め装置。
【請求項4】
前記排気部は、前記駆動部の外部を覆うように設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の位置決め装置。
【請求項5】
前記気体を供給する給気部を更に備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の位置決め装置。
【請求項6】
前記給気部は前記計測部の光路に所定温度に調整された気体を供給することを特徴とする請求項5に記載の位置決め装置。
【請求項7】
前記排気部は、前記気体の排気位置に応じて排気量が異なることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の位置決め装置。
【請求項8】
前記計測部はレーザー光を用いて前記移動体の位置を計測することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の位置決め装置。
【請求項9】
前記駆動部は、前記可動子を永久磁石、前記固定子をコイルとするリニアモータであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の位置決め装置。
【請求項10】
原版のパターンを基板に露光する露光装置であって、
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の位置決め装置を備え、
前記移動体により原版と前記基板とを相対的に位置決めして露光することを特徴とする露光装置。
【請求項11】
請求項10に記載の露光装置を用いて基板を露光する工程と、前記基板を現像する工程とを備えることを特徴とするデバイス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−216866(P2006−216866A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29832(P2005−29832)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】