説明

低収縮性樹脂フィルムの製造方法

【課題】貼着時の再加熱によっても収縮が小さい低収縮性樹脂フィルムを得、加熱接着性の向上を図る。
【解決手段】低収縮性樹脂フィルムの製造方法において、ダイ39より押出成形される封止膜用のフィルム状樹脂素材15を、送り出されてくるシート基材11上に展張し、シート基材11ごとフィルム状樹脂素材15を加熱してシート基材11上で溶融し、シート基材11上のフィルム状樹脂素材15をエンボスローラ21にて加圧した後冷却してシート基材11と一体に積層された樹脂フィルム47を形成し、シート基材11と樹脂フィルム47からなる低収縮性樹脂フィルム49を巻き取る。送り出されてくるシート基材11は、無端状の搬送ベルト37上に支持し、搬送ベルト37上に支持する。シート基材11上のフィルム状樹脂素材15は、搬送ベルト37と共に加熱して溶融することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低収縮性樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学フィルムや機能性フィルム等の樹脂フィルムを製作するには、加熱溶融された樹脂材料を、金型(ダイ)より押し出すとともに、テンションをかけて引っ張り、巻き取って製品とするのが一般的である。バックシート上に、ダイより押し出し、加圧ローラにてバックシートとともに引っ張り、且つこのローラを通すことで所望の厚さに成形し、すなわち、成形時の押し出しスピードよりも引っ張り方向のスピードを早め、且つローラによって加圧することで所望の厚さに成形し同時に冷却も行って、その後バックシートから剥がしながら巻き取る(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようにして得られる樹脂フィルムの一つには、例えば太陽電池の封止膜用EVAフィルムがある。太陽電池は、一般に、表面側透明保護部材としてのガラス基板と裏面側保護部材としてのバックシートとの間に封止膜である樹脂フィルム(EVAフィルム)により、シリコン発電素子等の太陽電池用セルを封止した構成とされる。すなわち、ガラス基板、封止膜用EVAフィルム、シリコン発電素子、封止膜用EVAフィルム及びバックシートをこの順で積層し、加熱加圧して、EVAを架橋硬化させて接着一体化することにより製造される。封止膜用EVAフィルムは、溶融樹脂を、口金である直線状スリットを有するダイから押し出し、冷却ロール等で急冷固化して得られる。この種の樹脂フィルムは、ハンドリングとエアー逃げがよくなることによる接着性の向上を目的としたエンボス加工を施し、表面に凹凸を付与することが行われる。
【0004】
樹脂フィルムとして、エンボス加工を施す場合、特に、両面エンボスの樹脂フィルムを製作する場合には、バックシートにエンボスが施されており、これにフィルム素材が重ねられて加圧ローラに通される。また、加圧ローラの片側にもエンボスが施されており、これらによって、両面にエンボスが形成され、冷却された後に巻き取られる。エンボス加工の施された樹脂フィルムは、ガラス面などに積層状に貼着される際、エアが抜けやすく、溶着性、加圧接着性を向上させることができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平1−52428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、樹脂フィルムをガラス基板等と一体化する貼着は、一般的に、加熱して接着する工程であり、この加熱によって、樹脂フィルムが製作時に有している歪み、すなわちテンションを加えて巻き取ったことによる巻き取り方向の伸びに起因する内部歪みにより、縮む(収縮する)方向へ変形が起こる。したがって、上記工程にて再加熱することで、成形直後、すなわち巻き取り以前の大きさ(長さ)に戻ろうとする収縮が生じる。なお、樹脂フィルムの形成方向とは直交する幅方向である巻き取り軸方向では巻き取り時のテンションが殆どかからず再加熱での収縮率は極めて小さいことから略無視できる。
従来、樹脂フィルムの貼着工程は、成形不良を回避するため、収縮率を考えて加熱接着が行われていた。このため、ガラス基板と樹脂フィルムを重ねて、両外面から加熱板(ヒータ)にて挟み、ガラスの表面積よりも、樹脂フィルムを巻取方向に長くカットし、縮むことを考慮した煩雑な寸法調整による接着工程が必要となった。また、収縮率が定まらなければ、反り等が発生して品質を低下させた。特に、上記した太陽電池のように通電構成を備える場合、回路形成層と樹脂フィルムが重ねられることから、収縮量が大きいと回路を切断し、製品に欠陥を生じさせる虞があった。
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、貼着時の再加熱によっても収縮が小さい低収縮性樹脂フィルムの製造方法を提供し、もって、加熱接着性の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
次に、上記の課題を解決するための手段を、実施の形態に対応する図面を参照して説明する。
本発明の請求項1記載の低収縮性樹脂フィルムの製造方法は、ダイ39より押出成形される封止膜用のフィルム状樹脂素材15を、送り出されてくるシート基材11上に展張し、
該シート基材11ごと前記フィルム状樹脂素材15を加熱して前記シート基材11上で溶融し、
前記シート基材11上のフィルム状樹脂素材15をエンボスローラ21にて加圧した後冷却して前記シート基材11と一体に積層された樹脂フィルム47を形成し、
前記シート基材11とともに該樹脂フィルム47を巻き取ることを特徴とする。
【0009】
この低収縮性樹脂フィルムの製造方法では、比較的小さい収縮率のシート基材11が用いられ、製品となった後の加熱接着時の収縮が小さくなる。シート基材11上で、加熱溶融処理を行うので、成形時の歪みがリセット(内部応力が除去)され、シート基材が、加熱により溶融するフィルム状樹脂素材を支え、製品となった後の加熱接着時の収縮が小さくなる。支持体として例えば紙等を使用してリサイクルするよりも、次の工程(太陽電池製作)における構成要素であるシート基材(バックシート)11を用いることで、製造コスト、製品コストが大幅に削減可能となる。
【0010】
請求項2記載の低収縮性樹脂フィルムの製造方法は、請求項1記載の低収縮性樹脂フィルムの製造方法であって、
送り出されてくる前記シート基材11を、無端状の搬送ベルト37上に支持し、
該搬送ベルト37上に支持される前記シート基材11上の前記フィルム状樹脂素材15を、前記搬送ベルト37と共に加熱して溶融することを特徴とする。
【0011】
この低収縮性樹脂フィルムの製造方法では、フィルム状樹脂素材15が、平らな搬送ベルト37で支持されたシート基材11上で加熱溶融され、流動による偏り(厚みの不均一)が生じ難くなる。
【0012】
請求項3記載の低収縮性樹脂フィルムの製造方法は、請求項1又は2記載の低収縮性樹脂フィルムの製造方法であって、
前記フィルム状樹脂素材15を展張する以前に、前記シート基材11を予め暖めておくことを特徴とする。
【0013】
この低収縮性樹脂フィルムの製造方法では、ダイ39から送出されるフィルム状樹脂素材15の急激な温度降下が生じない。
【0014】
請求項4記載の低収縮性樹脂フィルムの製造方法は、請求項1,2,3のいずれか1つに記載の低収縮性樹脂フィルムの製造方法であって、
前記樹脂フィルム47を形成した後、前記シート基材11を内側にして前記樹脂フィルム47と共に巻き取ることを特徴とする。
【0015】
この低収縮性樹脂フィルムの製造方法では、伸縮性に富む樹脂フィルム47が、表側にして巻き取られることで、比較的伸縮率が小さいシート基材11を表面にして巻いた場合の、しわ(皺)やクラックなどの不具合発生が製品である低収縮性樹脂フィルム49に生じ難くなる。
【0016】
請求項5記載の低収縮性樹脂フィルムの製造方法は、請求項1,2,3,4のいずれか1つに記載の低収縮性樹脂フィルムの製造方法であって、
前記封止膜用のフィルム状樹脂素材が、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂であり、前記シート状基材が、太陽電池用バックシートであることを特徴とする。
【0017】
この低収縮性樹脂フィルムの製造方法では、架橋剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、シランカップリング剤等を配合したエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる封止材と太陽電池用バックシートが一体化された低収縮性封止材付き太陽電池用バックシートが製造できる。
【0018】
請求項6記載の低収縮性樹脂フィルムの製造方法は、請求項5記載の低収縮性樹脂フィルムの製造方法であって、
前記バックシートが、フッ素系樹脂層又は耐候性ポリエステル樹脂層を表面層とし、アルミニウム箔又は金属酸化物蒸着膜付ポリエステル樹脂層を中間層に備えたことを特徴とする。
【0019】
この低収縮性樹脂フィルムの製造方法では、前記バックシートが、フッ素系樹脂層又は耐候性ポリエステル樹脂層を表面層とし、接着層を介して、バリア層としてのアルミニウム箔又は金属酸化物蒸着膜付ポリエステル樹脂層を中間層とし、更に易接着層を備えた低収縮性樹脂フィルムが製造できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る請求項1記載の低収縮性樹脂フィルムの製造方法によれば、フィルム状樹脂素材をシート基材上に展張して巻き取るので、小さい収縮率のシート基材を用いて、製品となった後の加熱接着時の収縮を小さくできる。これにより、貼着時の再加熱によっても収縮が小さく、加熱接着性の高い低収縮性樹脂フィルムが得られる。
【0021】
請求項2記載の低収縮性樹脂フィルムの製造方法によれば、搬送ベルト上に支持されるシート基材上のフィルム状樹脂素材を、搬送ベルトと共に加熱して溶融するので、加熱溶融状態のフィルム状樹脂素材を、シート基材上で偏り難くできる。
【0022】
請求項3記載の低収縮性樹脂フィルムの製造方法によれば、フィルム状樹脂素材を展張する以前に、シート基材を予め暖めておくので、ダイから送出されるフィルム状樹脂素材の急激な温度降下を防止でき、均質な樹脂フィルムを得ることができる。
【0023】
請求項4記載の低収縮性樹脂フィルムの製造方法によれば、樹脂フィルムを形成した後、シート基材を内側にして樹脂フィルムと共に巻き取るので、シート基材に比べ伸縮性に富む樹脂フィルムを、表側にして巻き取ることで、しわ(皺)やクラックなどの不具合発生を防止でき、高品質な低収縮性樹脂フィルムを得ることができる。
【0024】
請求項5記載の低収縮性樹脂フィルムの製造方法によれば、押し出されたエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる封止材を、太陽電池用バックシート上に展張し、加熱することにより強固に密着させ一体化された低収縮性封止材付き太陽電池用バックシートが製造できる。
【0025】
請求項6記載の低収縮性樹脂フィルムの製造方法によれば、前記バックシートが、耐光性素材であるフッ素系樹脂又は耐候性ポリエステル樹脂層を表面層とし、接着層を介して、バリア層としてのアルミニウム箔又は金属酸化物蒸着膜付ポリエステル樹脂層を中間層とし、更に易接着層を備えているので、押し出されたチレン−酢酸ビニル共重合体からなる封止材と強固に密着させた低収縮性封止材付き太陽電池用バックシートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る低収縮性樹脂フィルムの製造方法に用いられる製造装置を概念的に表した構成図である。
【図2】図1に示した製造装置の変形例を概念的に表した構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
本実施の形態にて製造される低収縮性樹脂フィルムは、例えば太陽電池に好適に用いることができる。太陽電池は、上記したように、表面側透明保護部材としてのガラス基板と裏面側保護部材としてのバックシートとの間に封止膜である樹脂フィルム(例えばEVAフィルム)により、シリコン発電素子等の太陽電池用セルを封止した構成となる。すなわち、ガラス基板、封止膜用EVAフィルム、シリコン発電素子、封止膜用EVAフィルム及びバックシートをこの順で積層し、加熱加圧して、EVAフィルムを架橋硬化させて接着一体化する。また、薄膜タイプは、ガラス基材に直接に発電素子を形成した上に、封止膜用EVAフィルム及びバックシートをこの順で積層し、加熱加圧して、EVAフィルムを架橋硬化させて接着一体化する。
この構成において、低収縮性樹脂フィルムは、下層からのバックシートと、封止膜用EVAフィルム等とから構成されるものとなる。
【0028】
低収縮性樹脂フィルムは、圧着接着性、クッション性、空気の排出のためにエンボス加工が施され、表面に凹凸が付与される。エンボス加工の深さは、15μm以上,100μm以下とするのが好ましい。深さが過度に大きいと真空ラミネーターによる熱プレス時に空気が残留し、積層した太陽電池に気泡が残り発電効率の低下や、将来の故障につながるおそれがある。
また、EVAフィルムは、過酸化物よりなる架橋剤を配合し、熱プレス時に架橋構造とされる。その他、架橋助剤、ヒンダードアミン系光安定剤、紫外線吸収剤、カップリング剤、酸捕捉剤等を配合される。
【0029】
ここで、バックシートは、セルを保護し、劣化を防ぐことで、発電効率の維持する役割を果たす。すなわち、バックシートの表面は直接屋外に暴露される。バックシートは、ガラス板の下に配置されたシリコンセルを封止樹脂で封止後、封止樹脂面と一体複合化される。このため、バックシートには、耐候性(耐UV光、耐湿、耐熱、耐塩害等)、水蒸気バリヤー性、電気絶縁性、機械的特性(引張強度、伸び、引裂き強度等)、耐薬品性(耐塩水性)、封止樹脂シートとの接着一体化適合性、などが要求される。バックシートとしては、フッ素樹脂フィルム、金属酸化物の蒸着膜付PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂フィルム、環状オレフィンなどが主要部材として用いられるが、この他、各種特化する要求に適合した複合フィルムが使用される場合があり、その例としては、例えば、PVF(ポリフッ化ビニル)/接着剤/PET/接着剤/EVA、フッ素系樹脂コーティング/PET/接着剤/EVA、フッ素系樹脂コーティング/アルミ箔/接着剤/PET/接着剤/EVA、耐候性PET/接着剤/シリカ蒸着PET/接着剤/EVAなどの積層構造が挙げられる。バックシートは、東洋アルミ、三菱アルミ、リンテック、凸版印刷、東レなどの各社が販売している。
【0030】
本実施の形態にて製造される低収縮性樹脂フィルムは、樹脂フィルム(封止膜用EVAフィルム等)/バックシートからなる構成を有する。そして、その目的は、収縮性の低い(小さい)樹脂フィルムを積層した低収縮性樹脂フィルム(特に太陽電池用として用いて好適な裏面保護シート)を製造することにある。
【0031】
次に、上記低収縮性樹脂フィルムを製造するための製造装置100について説明する。
図1は本発明に係る低収縮性樹脂フィルムの製造方法に用いられる製造装置を概念的に表した構成図である。
低収縮性樹脂フィルムの製造装置100は、バックシート11を所定の張力にて繰り出すバックシート繰り出し部13と、バックシート11上にフィルム状樹脂素材である樹脂素材15をフィルム状に押し出す押し出し成形部17と、押し出し成形部17の後段に設けられバックシート11上の樹脂素材15を溶融する加熱部19と、加熱部19の後段に設けられ樹脂素材15の他方の面にエンボスローラ21を加圧する加圧ローラ成形部23と、バックシート11とともにこのバックシート上に成形されたフィルム状の樹脂素材15を冷却する冷却部25と、樹脂素材15とバックシート11を巻き取る製品巻取り部27と、を主要な構成要件として備える。
【0032】
バックシート繰り出し部13にはバックシート原反ロール31が回転駆動自在に設けられる。後段の加熱部19にて、バックシート11上に載置された樹脂素材15は加熱溶融される。樹脂素材15の一方の面、本実施の形態では下面15aは、バックシート11の上面に接着される。
【0033】
バックシート原反ロール31を支持するバックシート繰り出し部13と押し出し成形部17との間には、繰り出されるバックシート11に対して加熱処理を行う加熱処理部33を構成するヒータが配設される。つまり、フィルム状樹脂素材15を展張する以前に、バックシート11が予め暖められる。この加熱処理部33は、バックシート11を表裏から挟んだ上下一対のヒータ33a,33bで構成され、例えば赤外線ヒータ33a,33bにて構成されており、赤外線ヒータ33a,33bはバックシート11を表裏から予加熱する。この予熱温度は、押し出し成形部17から押し出される樹脂素材の温度に対して±25℃で設定され、好ましくは、押し出し温度に対して−10〜+20℃の範囲とされ、この範囲より高温であると、架橋剤である有機過酸化物の分解が進み過ぎるので好ましくなく、またこれより低温であるとバックシートとの密着性が乏しくなる。
【0034】
また、加熱処理部33が設けられることで、押し出し成形部17から送出されるフィルム状樹脂素材15の急激な温度降下が生じない。これにより、内部応力を消去した均質な樹脂フィルムを得ることができるようになる。
【0035】
押し出し成形部17には押圧ゴムローラ35と無端状の搬送ベルト37が設けられ、バックシート11を所定の張力でバックシート繰り出し部13から繰り出させながら、スリット形状のダイ39から押し出された樹脂素材15をバックシート11上に載置して搬送する。搬送ベルト37上に支持されるバックシート11上のフィルム状樹脂素材15を、搬送ベルト37と共に加熱して溶融する。フィルム状樹脂素材15が、平らな搬送ベルト37で支持されたバックシート11上で加熱溶融され、流動による偏り(厚みの不均一)が生じ難くなっている。なお、この押し出し成形部17からの樹脂素材15の押し出し速度と、ローラ35と搬送ベルト37の回転速度、及び間隙長さで樹脂素材の厚みを略決定することとなる。
【0036】
加熱部19は、樹脂素材15を上面に載置したバックシート11を、搬送ベルト37と共に加熱する。加熱部19には搬送ベルト37とバックシート11を挟む上下面側に赤外線ヒータ、ハロゲンヒータ、或いは電気ヒータ等の加熱手段19a,19bが設けられ、加熱手段19a,19bはバックシート11上の樹脂素材15を溶融する。上記のように、加熱部19にて、バックシート11上に載置された樹脂素材15が加熱溶融することで、一方の面15aがバックシート11に溶着する。
【0037】
加熱部19の後段に設けられた加圧ローラ成形部23にはエンボスローラ21が備えられ、エンボスローラ21はエンボスを外周面に形成している。加熱部19から送られてきた軟化状態の樹脂素材15は、一方の面15aが搬送ベルト37の後段ローラ43にて押圧されてエンボスローラ21に加圧されながら冷却される。これにより、加熱部19を通過した軟質状態の樹脂素材15の他方の面、本実施の形態では上面15bに、エンボスローラ21のエンボスが加圧転写される。
【0038】
冷却部25にはエンボスが形成されたエンボスローラ21の接触による冷却に引き続いて樹脂素材15を冷却搬送する複数の搬送ローラ45が設けられている。冷却部25には不図示の冷却ファンが設けられ、これら冷却手段によって樹脂素材15が冷却固化され樹脂フィルム47となる。つまり、バックシート11と樹脂フィルム47が一体となって積層された低収縮性樹脂フィルム49となる。また、冷却方法はファンだけではなく冷却ロールを配置して冷却することも可能である。
【0039】
冷却部25の後段には製品巻取り部27の巻取りローラ51が設けられ、巻取りローラ51は低収縮性樹脂フィルム49を巻取る。樹脂素材15は、バックシート11上に載置された状態であり、実質バックシート11のみにテンションが加えられて搬送が行われる。したがって、樹脂素材15に物理的な圧力を加えないため高分子の配向が起こらず、内部歪みが発生しにくい。また、強度や光学特性などに方向性が生じない。
【0040】
また、この際、低収縮性樹脂フィルム49は、バックシート11を内側にして樹脂フィルム47と共に巻取られる。伸縮性に富む樹脂フィルム47が、表側にして巻取られることで、比較的伸縮率が小さいバックシート11を表面にして巻いた場合の、しわ(皺)などの不具合発生が生じ難い。これにより、高品質な低収縮性樹脂フィルム49が得られるようになっている。逆にバックシート11を外側にして樹脂フィルム47と共に巻き取った場合、巻き取り初期にしわが発生しやすく歩留りが悪化する原因となる。
【0041】
このように、製造装置100では、バックシート繰り出し部13から所定の張力で繰り出されるバックシート11上に、樹脂素材15が載置されて加熱溶融され、加圧ローラ成形部23にて製品とされ、軟化状態における伸びが生じなくなった後、バックシート11と共に樹脂フィルム47が巻き取られて、製品である低収縮性樹脂フィルム49が巻き取られることになる。したがって、製造段階では、押し出し成形部17から製品巻取り部27の間ではバックシート11上に載置状態となり、フィルム状樹脂素材15にはテンションが加わることがない。
【0042】
次に、上記製造装置100を用いた低収縮性樹脂フィルムの製造方法について説明する。
製造装置100を用いた低収縮性樹脂フィルム49の製造では、バックシート11を所定の張力にて繰り出し、90℃程度に加熱されて溶融した樹脂素材15を、ダイ39よりフィルム状にしてバックシート11上に押し出しする。フィルム状樹脂素材15をバックシート11ごと100℃程度に加熱し、バックシート11上で溶融させる。つまり、バックシート11が、加熱により溶融する樹脂素材15を支えることになる。この加熱により、樹脂素材15の内部歪み(内部応力)が消去される。なお、この加熱温度は、押し出し温度の±25°とされ、好ましくは、80〜110℃とされる。
【0043】
エンボスの形成されたエンボスローラ21にて他方の面15bを加圧しながらエンボス加工を施す。同時にバックシート11が一方の面15aに圧着される。冷却完了後、フィルム状樹脂素材15は、バックシート11上にて樹脂フィルム47に成形される。つまり、バックシート11上に樹脂フィルム47が一体に積層した低収縮性樹脂フィルム49を得る。この低収縮性樹脂フィルム49を、バックシート11が内側となるように巻き取って製造を終了する。
【0044】
この製造方法では、比較的小さい収縮率のバックシート11が用いられ、製品となった後の加熱接着時の収縮が小さくなる。バックシート11上で、加熱溶融処理を行うので、成形時の歪みがリセット(内部応力が除去)され、製品となった後の加熱接着時の収縮が小さくなる。支持体として例えば紙等を使用してリサイクルするよりも、次の工程(太陽電池製作)における構成要素であるシート基材(バックシート11)を用いることで、製造コスト、製品コストが大幅に削減可能となる。
【0045】
したがって、上記した低収縮性樹脂フィルムの製造方法によれば、フィルム状樹脂素材15をバックシート11上に展張して巻き取るので、小さい収縮率のバックシート11を用いて、製品となった後の加熱接着時の収縮を小さくできる。すなわち、製造段階から、既にバックシート11を利用して一体成形することで、層間接合工程を簡素にしながら、内部歪みを蓄積され難くした。これにより、貼着時の再加熱によっても収縮が小さく、加熱接着性の高い低収縮性樹脂フィルム49が得られる。
【0046】
この他、本製造方法により得られる低収縮性樹脂フィルム49は、以下の優れた点を有する。すなわち、特に太陽電池などの回路などと積層形成する際に、収縮変形などで回路を破損することがない。また、この低収縮性樹脂フィルム49を使用する製品の製作時に、従来のような収縮歪みを考慮して大きめにカット及びセットすることがなく、容易な貼着作業によって、太陽電池の裏面の構成が構築可能となる。
【0047】
低収縮性樹脂フィルム49は、エチレン−酢酸ビニル共重合体又はエチレン−酢酸ビニル−トリアリルイソシアヌレートなどの架橋助剤の3元重合架橋物を主成分とする太陽電池用封止材膜において、太陽電池モジュールの表面保護層と予め貼り合せてなる太陽電池用封止材膜とすることができる。
【0048】
また、低収縮性樹脂フィルム49によれば、裏面保護シートであるバックシート11自身に封止材である樹脂フィルム47が一体化されているため、従来裏面保護シート、封止材という2度のレイアップが1度に減らせ工数の削減が出来る。
【0049】
図2は図1に示した製造装置の変形例を概念的に表した構成図である。
なお、上記の実施の形態では、加熱部19における搬送に搬送ベルト37を用いた例を説明したが、加熱部19における搬送手段としては、この他、複数のカレンダーシート及びカレンダーロールを用いたカレンダープレス製法や、図2に示す変形例による搬送手段を用いても良い。この変形例による搬送手段は、押圧ゴムローラ35に押圧される主ローラ34と、加熱手段19bの上下流側でバックシート11を支持する一対の支持ローラ37Aa,37Abと、エンボスローラ21に押圧される挟持ローラ38と、から構成される。この変形例による製造装置100Aによれば、搬送ベルト37を用いる製造装置100に比べ、加熱搬送手段を簡素な構造とすることができる。
【0050】
また、バックシート11に積層された樹脂フィルム47が低収縮側(エンボス加工が施された被接着面)となる低収縮性樹脂フィルム49は結晶系、薄膜系太陽電池のモジュール回路作成に用いても、積層工程時の損傷、損壊、配線の切断が起こらず、好適となる。
【0051】
また、バックシート11はアルミ箔又は金属酸化物不連続層の内面にさらにEVA系接着性樹脂フィルムを熱溶着積層しておくことで、この裏面保護シートの性能安定化を図るものであってもよい。
【実施例】
【0052】
次に、上記実施の形態による構成と同一構成の製造装置を用い、同一の製造方法にて製造した実施例として、酢酸ビニルの量を33%含有する低収縮性樹脂フィルムと、酢酸ビニルの量を28%含有する低収縮性樹脂フィルムとの2例とし、比較例として酢酸ビニルの量を33%含有する樹脂フィルムと、酢酸ビニルの量を28%含有する樹脂フィルムとの2例とした。
これら低収縮性樹脂フィルムの実施例2例と樹脂フィルムの比較例2例の4例について、加熱による収縮を比較、バックシートとの密着性、エンボス加工状態の結果を説明する。
なお、これらの比較例とは、押出し成形後の樹脂素材に対して予備加熱を行わずバックシートに樹脂を積層し、加熱溶融させずエンボス加工を行ったものを示した製法である。
【0053】
試験方法
1)加熱収縮率
それぞれ14cm四方に切断し成形した上記4例の積層樹脂フィルムを巻き取り方向に10cmの印をいれ、90℃のオーブンで1時間加熱し収縮率を測定した。オーブン内のフィルムは自由に収縮できるようにタルクを引いたアルミ板上で加熱した。
2)バックシートとの密着性
バックシートとフィルムの端部を一部剥離したものを25mm幅の短冊状に切り取り、オートグラフにて200mm/分の速度で剥離試験を行い、200g/25mm以上の剥離強度を持つものを合格とした。
なお、剥離強度が低い場合、工程時バックシートとフィルムが剥離しエアーが入るためモジュールとして一体化するとき、エアーがのこり、歩留まりの低下を引き起こす場合がある。また剥離が起こったものを巻き取ると剥離した部分が巻のたるみによるこぶをつくり、製品の平滑性を損なう。その場合モジュール製造工程でレイアップしづらくなり、位置決めのために時間がかかるデメリットが発生する。
3)エンボス加工性
あらかじめエンボスロール表面をシリコーンの型剤で表面の凹凸度を採取し、算術平均粗さ(Ra)を測定した。この値に対し今回作成したフィルムのレーザー顕微鏡による表面観察での算術平均粗さ(Ra)の値が80%以上を示すものが想定したエンボス形状を転写したものとして合格とした。
測定の結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
蒸着PET系バックシート(東洋アルミ社製、商品名:BS−W250−S−FA20−Le)と、アルミ箔系バックシート(東洋アルミ社製、商品名:BS−Le−B50P188−Al20)の2種のバックシートを用いて、それぞれ所定の張力にて繰り出した上に溶融したEVA樹脂をダイよりフィルム状に押し出したものをバックシートごと100℃程度に加熱溶融させエンボス加工を行った実施例1,2ではいずれも収縮率が1%以下となり、比較例1,2の4.0%及び3.2%に比べ大幅に小さくなることが確認された。またEVA樹脂の収縮によるカール(樹脂面が内側)が発生した。
また、バックシートとの密着性及びエンボス加工性についても両実施例では材破による接着状態であり、エンボス再現性も実施例1がエンボスロールの表面形状の算術平均粗さ(Ra)に対し88%、実施例2が92%と高い再現性が確認されたが、比較例1,2では一部剥離の確認と200g/25mm以下の剥離強度が観察された。
エンボス再現性も比較例2では71%とエンボスロール形状の再現性が得られなかった。
【符号の説明】
【0056】
11…シート基材(バックシート)
15…封止膜用のフィルム状樹脂素材
21…エンボスローラ
37…搬送ベルト
39…ダイ
47…樹脂フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイより押出成形される封止膜用のフィルム状樹脂素材を、送り出されてくるシート基材上に展張し、
該シート基材ごと前記フィルム状樹脂素材を加熱して前記シート基材上で溶融し、
前記シート基材上のフィルム状樹脂素材をエンボスローラにて加圧した後冷却して前記シート基材と一体に積層された樹脂フィルムを形成し、
前記シート基材とともに該樹脂フィルムを巻き取ることを特徴とする低収縮性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の低収縮性樹脂フィルムの製造方法であって、
送り出されてくる前記シート基材を、無端状の搬送ベルト上に支持し、
該搬送ベルト上に支持される前記シート基材上の前記フィルム状樹脂素材を、前記搬送ベルトと共に加熱して溶融することを特徴とする低収縮性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の低収縮性樹脂フィルムの製造方法であって、
前記フィルム状樹脂素材を展張する以前に、前記シート基材を予め暖めておくことを特徴とする低収縮性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
請求項1,2,3のいずれか1つに記載の低収縮性樹脂フィルムの製造方法であって、
前記樹脂フィルムを形成した後、前記シート基材を内側にして前記樹脂フィルムと共に巻き取ることを特徴とする低収縮性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1,2,3,4のいずれか1つに記載の低収縮性樹脂フィルムの製造方法であって、
前記封止膜用のフィルム状樹脂素材が、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂であり、前記シート状基材が、太陽電池用バックシートであることを特徴とする低収縮性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の低収縮性樹脂フィルムの製造方法であって、
前記バックシートが、フッ素系樹脂層又は耐候性ポリエステル樹脂層を表面層とし、アルミニウム箔又は金属酸化物蒸着膜付ポリエステル樹脂層を中間層に備えたことを特徴とする低収縮性樹脂フィルムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−20375(P2011−20375A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167964(P2009−167964)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000106726)シーアイ化成株式会社 (267)
【Fターム(参考)】