説明

低摩擦摺動機構及びこれを用いた摺動システム

【課題】摩擦係数が極めて小さくなる低摩擦摺動機構及びこれを用いた摺動システムを提供すること。
【解決手段】摺動部材がなす2面間に相対滑りが発生し、摺動面はイオン性液体の存在により潤滑になっており、摺動部材のいずれか一方又は両方にDLCやダイヤモンドが被覆されている低摩擦摺動機構である。イオン性液体がカチオン成分とアニオン成分と極性物質とを含有して成り、該カチオン成分は、イミダゾリウム誘導体カチオン、ピリジニウム誘導体カチオン、ピロリジニウム誘導体カチオン、アンモニウム誘導体カチオンなどであり、該アニオン成分は、四フッ化ホウ素アニオン、トリフルオロメタンサルフォネートアニオン、フッ化水素アニオン、硫酸一水素アニオン、リン酸二水素アニオンなどである。
上記低摩擦摺動機構を適用した自動車用内燃機関、自動車用変速機である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低摩擦摺動機構及びこれを用いた摺動システムに係り、更に詳細には、摩擦係数が極めて小さくなりうる低摩擦摺動機構及びこれを用いた摺動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
イオン性液体は、溶媒の中で、従来の有機溶媒とは異なる諸物性を示すものとして最近注目されてきている。
ここで、イオン性液体とは、陽イオン(カチオン)と陰イオン(アニオン)よりなり、常温付近の使用温度域で液体である有機塩のことを指す。
なお、イオン性液体は、常温溶融塩、イオン液体、イオン流体、イオン性オイルなどと呼ばれることがある。
【0003】
一般の有機溶媒は蒸気圧があるため揮発性であり燃焼性のものがほとんどであるのに対し、イオン性液体は蒸気圧が無視でき不揮発性であり優れた熱安定性を示す。また、化学的、電気化学的にも安定である。
このため、このようなイオン性液体を摺動部材に応用する試みが報告されている(例えば非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】上村秀人、南一郎、森誠之:機能材料、11号 vol.24(2004) 63.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記報告にあるように、イオン性液体の摺動部材への応用に関しては、イオン性液体の優れた特性を活かすことに着眼されている。
例えば、潤滑剤としてのイオン性液体を低粘度化しても蒸気圧が低いイオン性液体は粘性ロスを極限まで減らすことができ、耐熱性に優れ、長期間安定した性能を発揮できる可能性が示唆されている。
しかしながら、摺動材料との組み合わせの影響に関しては、研究されていない。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、摩擦係数が極めて小さくなる低摩擦摺動機構及びこれを用いた摺動システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、イオン性液体とDLCやダイヤモンドの薄膜とを組み合わせることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の低摩擦摺動機構は、摺動部材がなす2面間に相対滑りが発生する低摩擦摺動機構であって、
摺動面は、常温でイオンのみから成り且つ液状又はゲル状の塩であるイオン性液体の存在により潤滑になっており、摺動部材のいずれか一方又は両方にDLC及び/又はダイヤモンドが被覆されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の低摩擦摺動機構の好適形態は、上記イオン性液体が、カチオン成分とアニオン成分と極性物質とを含有して成るイオン伝導体であり、
該カチオン成分は、イミダゾリウム誘導体カチオン、ピリジニウム誘導体カチオン、ピロリジニウム誘導体カチオン及びアンモニウム誘導体カチオンから成る群より選ばれた少なくとも1種の分子性カチオンであり、
該アニオン成分は、四フッ化ホウ素アニオン、トリフルオロメタンサルフォネートアニオン、フッ化水素アニオン、硫酸一水素アニオン及びリン酸二水素アニオンから成る群より選ばれた少なくとも1種の分子性アニオンであることを特徴とする。
【0009】
一方、本発明の摺動システムは、上記低摩擦摺動機構を自動車用内燃機関や自動車用変速機に適用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、イオン性液体とDLCやダイヤモンドの薄膜とを組み合わせることとしたため、摩擦係数が極めて小さくなる低摩擦摺動機構及びこれを用いた摺動システムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の低摩擦摺動機構について詳細に説明する。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、濃度、含有量、充填量などについての「%」は、特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0012】
上述の如く、本発明の低摩擦摺動機構は、摺動部材がなす2面間に相対滑りが発生する低摩擦の摺動機構である。また、摺動面は、常温でイオンのみから成り且つ液状又はゲル状の塩であるイオン性液体の存在により潤滑になっている。更に、摺動部材のいずれか一方又は両方にDLC、ダイヤモンドのいずれか一方又は双方が被覆されている。
【0013】
このように、イオン性液体とDLC及びダイヤモンドとを組合せることで、DLCやダイヤモンドが被覆されていない摺動面に比べて摩擦係数が極めて小さくなる。
【0014】
ここで、上記DLC又は上記ダイヤモンドは、sp3結合とsp2結合含有量の比sp3/sp2が2以上であることが好適である。
sp3結合とsp2結合含有量の比sp3/sp2が2より小さいと、硬度が低下し十分な摩擦低減効果が発現されない。sp3結合とsp2結合含有量の比sp3/sp2が2以上とすることで、十分な硬度を確保でき、またアニオン、カチオンあるいは添加剤との吸着反応が促進され、摩擦係数を更に減少できる。
【0015】
また、上記DLC中に含有される水素量は3at%以下であることが好適である。より好ましくは、1at%以下、特に好ましくは0.5at%以下であることがよい。
このように水素含有量を減らすことで、水素を多量に含有するDLCに比べてる摩擦係数を極めて減少できる。
なお、水素量が3at%を超えるとアニオン、カチオンあるいは添加剤との吸着反応が十分行われず、摩擦係数発現効果を十分発揮できなくなる傾向にある。
【0016】
かかるDLCの製膜方法としては、大きくPVD(物理気相蒸着)とCVD(化学気相蒸着)の2種類がある。CVDでは、メタンなどのCH系のガスを出発原料に合成させれるため、創成したDLC中には水素を10at%程度含有するのが通常である。一方、PVDでは、グラファイトを出発原料とするため、創成したDLC中には水素をほとんど含有しない。よって、PVDにより創成したDLCは、CVDにより創成したものに対して、水素が含有されないので、極めて低い摩擦係数を示しやすい。
【0017】
更に、上記ダイヤモンドは、粒径が20nm以下であるナノ結晶であることが好適である。より好ましくは、10nm以下、特に好ましくは1nm以下であることがよい。ダイヤモンドによる薄膜は、PVDで創成したDLCに対して、硬度が更に高いため、更に摩擦を低減できる。
通常のダイヤモンド薄膜の結晶粒径は数μmと大きいため、摺動中に相手材料を攻撃し、アブレイシブ摩耗が発生しやすい。ダイヤモンドの結晶粒径を20nm以下とすることで、このようなアブレイシブ摩耗を抑制できる。
なお、粒径が20nmを超えると結晶粒径が大きいため、相手攻撃性が増し、アブレイシブ摩耗が発生しやすくなる。
【0018】
更にまた、DLC、ダイヤモンドのいずれか一方又は双方が形成する薄膜の表面粗さRaは、0.02μm以下であることが好適である。より好ましくは、0.01μm以下、特に好ましくは0.0005μm以下であることがよい。
上記とすることで、摺動中に相手材料を攻撃しするというアブレイシブ摩耗を抑制できる。
【0019】
また、DLC、ダイヤモンドのいずれか一方又は双方が形成する薄膜の表面粗さRskはマイナスであることが好適である。
表面粗さRskをマイナスとすることで、アブレイシブ摩耗を抑制するのみならず、摩擦係数低減効果を持続できるという優れた効果がもたらされる。具体的には、Rskが−0.5より小さい程よい。
【0020】
一方、上記イオン性液体は、カチオン成分とアニオン成分と極性物質とを含有して成るイオン伝導体であることが好適である。
また、カチオン成分の全部又は一部が分子性カチオンであり、且つアニオン成分の全部又は一部が分子性アニオンであることが望ましい。
更に、本発明においては、分子性カチオン及び分子性アニオンを含み、これらが形成する常温溶融塩を含有することが望ましい。
なお、極性物質とは、分子内の正電荷(原子核が担う)と負電荷(電子が担う)の重心が一致せず、電気的な偏りがある状態をいう。この正負電荷の各重心が一致しないことにより、当該分子には自発的かつ永久的に電気双極子が存在することとなる。このような極性が基板上への吸着のし易さに影響する。
【0021】
一方、常温溶融塩であれば、形成するカチオン成分及びアニオン成分の双方がそれぞれ分子性カチオン及び分子性アニオンである必要はない。
ここで、「常温溶融塩」とは、常温で溶融する塩であり、高温で蒸発せず、極性、比熱の高い安定な媒体であるものをいう。
【0022】
ここで、本発明のイオン伝導体に用いられるカチオン成分とアニオン成分について具体例を挙げて詳細に説明する。
なお、本発明においては、以下に示すカチオン成分とアニオン成分を適宜組合わせて用いることができる。
【0023】
上記カチオン成分の一種である分子性カチオンとしては、例えば、イミダゾリウム誘導体カチオン、より具体的には次式(1)で表される一置換イミダゾリウム誘導体カチオン(Monosubstituted Imidazolium Derivatives Cation);
【0024】
【化1】

【0025】
(式中のR11は、1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示す。)を挙げることができる。
そして、炭化水素基の具体例としては、メチル基やブチル基などを挙げることができる。
【0026】
また、次式(2)で表される二置換イミダゾリウム誘導体カチオン(Disubstituted Imidazolium Derivatives Cation);
【0027】
【化2】

【0028】
(式中のR21及びR22は同一でも異なっていてもよく、1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示す。)を挙げることができる。
そして、R21及びR22としては、上述したR11と同様のものを任意に組合わせたものを挙げることができ、その他にエチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、ベンジル基、γ−フェニルプロピル基などを挙げることができる。
また、これらの基の代表的な組合せの具体例としては、R21がメチル基であり、R22がメチル基、エチル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、ベンジル基、γ−フェニルプロピル基であるものや、R21がエチル基であり、R22がブチル基であるものなどを挙げることができる。
【0029】
更に、次式(3)で表される三置換イミダゾリウム誘導体カチオン(Trisubstituted Imidazolium Derivatives Cation);
【0030】
【化3】

【0031】
(式中のR31〜R33は同一でも異なっていてもよく、1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示す。)を挙げることができる。
そして、R31〜R33としては、上述したR11と同様のものを任意に組合わせたものを挙げることができ、その他にエチル基、プロピル基、ヘキシル基、ヘキサデシル基などを挙げることができる。
また、これらの基の代表的な組合せの具体例としては、R31がエチル基であり、R32及びR33がメチル基であるもの、R31がプロピル基であり、R32及びR33がメチル基であるもの、R31がブチル基であり、R32及びR33がメチル基であるもの、R31がヘキシル基であり、R32及びR33がメチル基であるもの、R31がヘキサデシル基であり、R32及びR33がメチル基であるものなどを挙げることができる。
【0032】
また、次式(4)で表されるピリジニウム誘導体カチオン(Pyridinium Derivatives Cation);
【0033】
【化4】

【0034】
(式中のR41〜R44は同一でも異なっていてもよく、水素又は1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示す。)を挙げることができる。
そして、R41〜R44としては、上述したR11と同様のものを任意に組合わせたものを挙げることができ、その他に水素、エチル基、ヘキシル基、オクチル基などを挙げることができる。
また、これらの基の代表的な組合せの具体例としては、R41がエチル基であり、R42〜R44が水素であるもの、R41がブチル基であり、R42〜R44が水素であるものやR42及びR43が水素でありR44がメチル基であるもの、R42及びR44が水素でありR43がメチル基であるもの、R42及びR43がメチル基でありR44が水素であるもの、R42及びR44がメチル基でありR43が水素であるもの、R42及びR43が水素でありR44がエチル基であるもの、R41がヘキシル基であり、R42〜R44が水素であるものやR42及びR43が水素でありR44がメチル基であるもの、R42及びR44が水素でありR43がメチル基であるもの、R41がオクチル基であり、R42〜R44が水素であるものやR42及びR43が水素でありR44がメチル基であるもの、R42及びR44が水素でありR43がメチル基であるものなどを挙げることができる。
【0035】
更に、次式(5)で表されるピロリジニウム誘導体カチオン(Pyrrolidinium Derivatives Cation);
【0036】
【化5】

【0037】
(式中のR51及びR52は同一でも異なっていてもよく、1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示す。)を挙げることができる。
そして、R51及びR52としては、上述したR11と同様のものを任意に組合わせたものを挙げることができ、その他にエチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基などを挙げることができる。
また、これらの基の代表的な組合せの具体例としては、R51がメチル基であり、R52がメチル基であるものやエチル基であるもの、ブチル基であるもの、ヘキシル基であるもの、オクチル基であるもの、R51がエチル基であり、R52がブチル基であるもの、R51及びR52がプロピル基、ブチル基、ヘキシル基であるものなどを挙げることができる。
【0038】
また、次式(6)で表されるアンモニウム誘導体カチオン(Ammonium Derivatives Cation);
【0039】
【化6】

【0040】
(式中のR61〜R64は同一でも異なっていてもよく、1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示す。)を挙げることができる。
そして、R61〜R64としては、上述したR11と同様のものを任意に組合わせたものを挙げることができ、その他にエチル基、オクチル基などを挙げることができる。
また、これらの基の代表的な組合せの具体例としては、R61〜R64がメチル基であるものやエチル基であるもの、ブチル基であるもの、R61がメチル基であり、R62〜R64がオクチル基であるものなどを挙げることができる。
【0041】
更に、次式(7)で表されるホスフォニウム誘導体カチオン(Phosphonium
Derivatives Cation);
【0042】
【化7】

【0043】
(式中のR71〜R74は同一でも異なっていてもよく、1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示す。)を挙げることができる。
そして、R71〜R74としては、上述したR11と同様のものを任意に組合わせたものを挙げることができ、その他にエチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、フェニル基、ベンジル基などを挙げることができる。
また、これらの基の代表的な組合せの具体例としては、R71がメチル基であり、R72〜R74がブチル基であるものやイソブチル基であるもの、R71がエチル基であり、R72〜R74がブチル基であるもの、R71〜R74がブチル基であるものやオクチル基であるもの、R71がテトラデシル基であり、R72〜R74がブチル基であるものやヘキシル基であるもの、R71がヘキサデシル基であり、R72〜R74がブチル基であるもの、R71がベンジル基であり、R72〜R74がフェニル基であるものなどを挙げることができる。
【0044】
また、次式(8)で表されるグアニジウム誘導体カチオン(Guanidinium Derivatives Cation);
【0045】
【化8】

【0046】
(式中のR81〜R86は同一でも異なっていてもよく、水素又は1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示す。)を挙げることができる。
そして、R81〜R86としては、上述したR11と同様のものを任意に組合わせたものを挙げることができ、その他に水素、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などを挙げることができる。
また、これらの基の代表的な組合せの具体例としては、R81〜R86の全てが水素であるものやメチル基であるもの、R81がエチル基、R82〜R85がメチル基、R86が水素であるもの、R81がイソプロピル基、R82〜R85がメチル基、R86が水素であるもの、R81がプロピル基、R82〜R86がメチル基であるものなどを挙げることができる。
【0047】
更に、次式(9)で表されるイソウロニウム誘導体カチオン(Isouronium Derivatives Cation);
【0048】
【化9】

【0049】
(式中のR91〜R95は同一でも異なっていてもよく、水素又は1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示し、A9は酸素原子又は硫黄原子を示す。)を挙げることができる。
そして、R91〜R95としては、上述したR11と同様のものを任意に組合わせたものを挙げることができ、その他に水素、エチル基などを挙げることができる。
また、これらの基の代表的な組合せの具体例としては、A9が酸素原子(O)であって、R91〜R95の全てがメチル基であるものやR91がエチル基、R92〜R95がメチル基であるもの、A9が硫黄原子(S)であって、R91がエチル基、R92〜R95がメチル基であるものなどを挙げることができる。
【0050】
一方、上記分子性アニオンとしては、例えば硫酸アニオン[SO42−]、硫酸一水素アニオン[HSO4−]又は次式(10)で表される硫酸エステルアニオン(Sulfates anion);
【0051】
【化10】

【0052】
(式中のR101は1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示す。)を挙げることができる。
そして、R101としては、上述したR11と同様のものを挙げることができ、その他にエチル基、ヘキシル基、オクチル基などを挙げることができる。
また、代表的な具体例としては、R101がメチル基やエチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基であるものなどを挙げることができる。
【0053】
また、次式(11)で表されるスルホン酸エステルアニオン(Sulfonates anion);
【0054】
【化11】

【0055】
(式中のR111は1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基、更にはそのフッ素置換体を示す。)を挙げることができる。
そして、代表的な具体例としては、R111がフッ素置換されたメチル基(トリフルオロメタンサルフォネートアニオンに相当)であるもの、更にはp−トリル基(p−トルエンスルホン酸アニオンに相当)であるものを挙げることができる。
【0056】
更に、次式(12)〜(14)で表されるアミドアニオン(Amides Anion)又はイミドアニオン(Imides Anion);
【0057】
【化12】

【0058】
【化13】

【0059】
【化14】

【0060】
を挙げることができる。
なお、アミドアニオンやイミドアニオンについては必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0061】
また、次式(15)又は(16)で表されるメタンアニオン(Methanes Anion);
【0062】
【化15】

【0063】
【化16】

【0064】
を挙げることができる。
なお、メタンアニオンについても必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0065】
また、次式(17)〜(23)で表されるホウ素含有化合物アニオン;
【0066】
【化17】

【0067】
【化18】

【0068】
【化19】

【0069】
【化20】

【0070】
【化21】

【0071】
【化22】

【0072】
【化23】

【0073】
を挙げることができる。
なお、ホウ素含有化合物アニオンについても必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0074】
更に、次式(24)〜(32)で表されるリン含有化合物アニオン;
【0075】
【化24】

【0076】
【化25】

【0077】
【化26】

【0078】
【化27】

【0079】
【化28】

【0080】
【化29】

【0081】
【化30】

【0082】
【化31】

【0083】
【化32】

【0084】
を挙げることができる。
なお、リン含有化合物アニオンについても必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0085】
更に、次式(33)又は(34)で表されるカルボン酸アニオン;
【0086】
【化33】

【0087】
【化34】

【0088】
を挙げることができる。
なお、カルボン酸アニオンについても必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0089】
更に、次式(35)又は(36)で表される金属元素含有アニオン;
【0090】
【化35】

【0091】
【化36】

【0092】
を挙げることができる。
なお、金属元素含有アニオンについても必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0093】
他方、分子性アニオンではないが、他のアニオン成分としてハロゲン化物アニオン(Halogenides Anion)であるフッ素アニオン[F−]や塩素アニオン[Cl−]、臭素アニオン[Br−]、ヨウ素アニオン[I−]を挙げることもできる。
【0094】
更に、本発明においては、上記イオン性液体は、イミダゾリウム誘導体カチオン、ピリジニウム誘導体カチオン、ピロリジニウム誘導体カチオン又はアンモニウム誘導体カチオン、及びこれらの任意の組合わせに係る分子性カチオンの混合物と、四フッ化ホウ素アニオン、トリフルオロメタンサルフォネートアニオン、フッ化水素アニオン[(HFn)F−(nは実数で1〜3が望ましい。)]、硫酸一水素アニオン又はリン酸二水素アニオン、及びこれらの任意の組合わせに係る分子性アニオンの混合物とから成ることが望ましい。
【0095】
以上に説明した本発明の低摩擦摺動機構は、自動車用内燃機関や自動車用変速機の摺動システムとして適用できる。
具体的には、自動車用内燃機関としては、例えば、ピストン、ピストンピン、コンロッド、カム、カムシャフト、クランクシャフトなどに利用できる。
また、自動車用変速機としては、例えば、ワッシャーを介して摺接するサイドギヤ背面とデフケース内面間、ギヤ歯面などに利用できる。
【実施例】
【0096】
以下、本発明をいくつかの実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0097】
(実施例1〜5、比較例1、2)
・イオン性液体
上記式(6)で表されるアンモニウム誘導体カチオンと上記式(14)で表されるイミドアニオンからなるイオン性液体Aと、上記式(6)で表されるアンモニウム誘導体カチオンと上記式(17)で表されるホウ素含有化合物アニオンからなるイオン性液体Bの2種類を用いて摩擦評価を実施した。
【0098】
イオン性液体Aは、動粘度@40℃:20.4mm2/s、粘度指数:168、流動点:−50℃、
イオン性液体Bは、動粘度@40℃:85.3mm2/s、粘度指数:125、流動点:−7.5℃
であった。
【0099】
表1に示すように、それぞれの摺動部材を組合せ、低摩擦摺動機構を作製し、以下の摩擦試験を実施した。
【0100】
【表1】

【0101】
・摩擦係数測定
図1に示すように、摺動側試験片としてシリンダー状試験片1、相手側試験片としてディスク状試験片2を用いて、シリンダーオンディスク単体往復動摩擦試験を行い、以下に示す条件のもとに摩擦係数を測定した。
【0102】
〔1〕摩擦試験条件
試験装置 :シリンダーオンディスク単体往復動摩擦試験機
摺動側試験片:φ15×22mmシリンダー状試験片
相手側試験片:φ24×7.9mmディスク状試験片
荷重 :400N(摺動側試験片の押し付け荷重)
振幅 :3.0mm
周波数 :50Hz
試験温度 :80℃
測定時間 :30分
【0103】
〔2〕シリンダー状試験片(摺動側)の作製
JIS G4805に高炭素クロム軸受鋼鋼材として規定されるSUJ2鋼を素材として摺動側試験片であるシリンダー状試験片1を上記寸法に機械加工した後、表面粗さRaを0.04μmに仕上げた。
【0104】
〔3〕ディスク状試験片(摺動相手側)の作製
同じくSUJ2鋼を用いて、相手側試験片であるディスク状試験片2を上記寸法に機械加工し、上部摺動面の表面粗さRaを0.05μmに仕上げたのち、PVDアークイオン式イオンプレーティング法により、この表面上に水素原子の量が0.5原子%以下、ヌープ硬度Hk=2170kg/mm2、表面粗さRy=0.03μmのDLC薄膜を厚さ0.5μmに成膜した。
なお、比較例には、DLC薄膜を被覆していないもの及びCVD法により形成した水素を10at%程度含有するDLCを用いた。
また、ダイヤモンド薄膜は、ECRスパッタリングを用いて、マイクロ波パワー400W、黒鉛ターゲット、バイアス電圧300Vの条件下で、アルゴンを用い、圧力2×10−1Pa中でアルゴンガスを用いて、ECRスパッタリングを行い、SCM415浸炭焼入れ焼き戻し基板上に炭素膜を形成した。
【0105】
〔4〕試験結果
上記シリンダー状試験片及びディスク状試験片を用いて摩擦係数を測定した。その結果を図2のグラフに示す。
図2の結果から明らかなように、上部摺動表面にPVDにより形成したDLC薄膜を有するディスク状試験片を用いた実施例においては、DLC薄膜のないディスク状試験片及びCVDにより形成したDLCを用いた比較例に較べて、摩擦係数が大幅に低下することが確認された。
【0106】
以上、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨内であれば種々の変形が可能である。
例えば、産業機械に使われている歯車摺動部材等に用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】シリンダーオンディスク単体往復動摩擦試験の概略を示す斜視図である。
【図2】摩擦係数測定の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0108】
1 シリンダー状試験片
2 ディスク状試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動部材がなす2面間に相対滑りが発生する低摩擦摺動機構であって、
摺動面は、常温でイオンのみから成り且つ液状又はゲル状の塩であるイオン性液体の存在により潤滑になっており、摺動部材のいずれか一方又は両方にDLC及び/又はダイヤモンドが被覆されていることを特徴とする低摩擦摺動機構。
【請求項2】
上記イオン性液体が、カチオン成分とアニオン成分と極性物質とを含有して成るイオン伝導体であり、
該カチオン成分は、イミダゾリウム誘導体カチオン、ピリジニウム誘導体カチオン、ピロリジニウム誘導体カチオン及びアンモニウム誘導体カチオンから成る群より選ばれた少なくとも1種の分子性カチオンであり、
該アニオン成分は、四フッ化ホウ素アニオン、トリフルオロメタンサルフォネートアニオン、フッ化水素アニオン、硫酸一水素アニオン及びリン酸二水素アニオンから成る群より選ばれた少なくとも1種の分子性アニオンであることを特徴とする請求項1に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項3】
上記DLC又は上記ダイヤモンドにおいて、sp3結合とsp2結合含有量の比sp3/sp2が2以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項4】
上記DLC中に含有される水素量が3at%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項5】
上記ダイヤモンドがナノ結晶であり、その粒径が20nm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項6】
上記DLC及び/又は上記ダイヤモンドが形成する薄膜の表面粗さRaが0.02μm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項7】
上記DLC及び/又は上記ダイヤモンドが形成する薄膜の表面粗さRskがマイナスであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構を自動車用内燃機関に適用したことを特徴とする摺動システム。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構を自動車用変速機に適用したことを特徴とする摺動システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−74947(P2008−74947A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255364(P2006−255364)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】