説明

低雑音増幅器

【課題】製造上の素子の特性ばらつきや電源電圧の変更やばらつきに対しても安定化させる。
【解決手段】入力端子2と、入力端子に入力された入力信号を増幅するトランジスタ1と、トランジスタの出力信号を出力する出力端子3と、トランジスタの出力信号の帰還量として振幅を調整して出力する帰還量調整回路10と、トランジスタに供給されるバイアス電流を生成するバイアス回路9と、帰還量調整回路の出力電圧と参照電圧とを比較して入力信号が前記トランジスタの利得抑圧を発生させることを判定したときトランジスタのバイアス電流を増加させるようにバイアス回路を動作させる差動電圧比較器11と、参照電圧を生成して差動電圧比較器の一方の入力端に印加させる第1の第1の入力バイアス回路12と、帰還量調整回路の出力電圧にバイアス電圧を付加して差動電圧比較器の他方の入力端に印加させる第2の第2の入力バイアス回路13と、を備える低雑音増幅器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低雑音増幅器に関し、特に通信機器の受信部に搭載される低雑音増幅器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信技術の進展に伴って通信機器の高機能化が進んでおり、例えば複数の通信システムを一つの通信機器に搭載することが求められている。このような通信機器では、複数の通信システムそれぞれが独立した送信回路及び受信回路を搭載しており、複数の通信システムが同時に動作している。このため、ある通信システムの送信回路から他の通信システムそれぞれの受信回路に向けて高レベルの妨害波信号が漏洩される場合がある。また、一つの通信システムのみが搭載される通信機器であっても、通信速度を上げるためにMIMOのような複数の信号が同時に送受信される構成においては、希望波よりも高レベルの妨害波信号が受信回路に入力される場合がある。今後、通信機器の小型化や該通信機器に搭載される通信システムの数の増加が見込まれており、妨害波信号による影響はさらに拡大する傾向であり、かかる状況下において高い通信品質を維持することが求められている。
【0003】
図6は通信システムの受信回路に使用される低雑音増幅器の構成を示す回路図である。
【0004】
図6の低雑音増幅器は、NPN型トランジスタ1と、NPN型トランジスタ1のベースに直流カットキャパシタ5を介して接続された入力端子2と、NPN型トランジスタ1のコレクタに直流カットキャパシタ6を介して接続された出力端子3と、NPN型トランジスタ1のエミッタとグランドとの間に接続されたインダクタ7と、NPN型トランジスタ1のコレクタと電源端子4との間に接続されたインダクタ8と、NPN型トランジスタ1のベースにバイアスを供給するバイアス回路9と、を備えて構成されている。NPN型トランジスタ1は、入力端子2から直流カットキャパシタ5を介して入力される信号を増幅し、その増幅した後の信号を直流カットキャパシタ6を介して出力端子3へ出力する増幅素子を構成している。
【0005】
図6の低雑音増幅器は、入力端子2に入力される入力信号は通常微弱なレベルなので、弱電界入力時の性能を基準に設計されている。このため、高レベルの妨害波信号が入力され得る環境下では、低雑音増幅器の動作点が線形領域を外れてしまい、その結果、電力利得が抑圧されることに伴って通信機器の受信感度を劣化させる問題が生じていた。そこで、低雑音増幅器のバイアス電流を増加させる対策が考えられ、低雑音増幅器の高出力化が図られ、高レベルの妨害波が入力されたときの電力利得の抑圧を低減させることが可能となる。しかしながら、この対策では、弱電界入力時においてもバイアス電流が増加してしまい、この結果、通信機器の消費電力が増加する問題が生じる。
【0006】
そこで、例えば以下の特許文献1には、信号増幅用デュアルゲートFETの出力信号電圧をキャパシタと抵抗とにより検出してエンハンスメント型FETのゲート端子に印加し、該信号増幅用デュアルゲートFETの利得抑圧が発生する程度に入力信号のレベルが増加したときに、該エンハンスメント型FETにより該信号増幅用デュアルゲートFETのバイアスを増加させるように構成された低雑音増幅器が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−218653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のような構成の場合、信号増幅用デュアルゲートFETのバイアス可変手段の一部を構成するエンハンスメント型FETを動作させる妨害波信号のレベルは、エンハンスメント型FETの閾値電圧Vtや電源電圧に大きく依存して変動することになる。このため、製造上の素子の特性ばらつきや電源電圧のばらつきを考慮した場合に、安定した効果を得ることができないという課題を有している。
【0009】
本発明の目的は、上記問題点を解決するためになされたもので、低雑音増幅器の弱電界入力時には消費電流を増加させず、高レベルの妨害波信号が入力された場合にはトランジスタの利得抑圧を低減させることである。さらに、製造上の素子の特性ばらつきや電源電圧の変更やばらつきに対しても安定して上記の効果を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明に係る低雑音増幅器は、入力信号が入力される入力端子と、前記入力端子に入力された前記入力信号を増幅するトランジスタと、前記トランジスタの出力信号を出力する出力端子と、前記トランジスタの出力信号の帰還量として振幅を調整して出力する帰還量調整回路と、前記トランジスタに供給されるバイアス電流を生成するバイアス回路と、前記帰還量調整回路の出力電圧と参照電圧とを比較して前記入力端子に入力された前記入力信号のレベルが前記トランジスタの利得抑圧を発生させるレベルであるか否かを判定し、前記トランジスタの利得抑圧を発生させるレベルであることを判定したとき前記トランジスタのバイアス電流を増加させるように前記バイアス回路を動作させる差動電圧比較器と、前記参照電圧を生成して前記差動電圧比較器の一方の入力端に印加させる第1の入力バイアス回路と、前記帰還量調整回路の出力電圧にバイアス電圧を付加して前記差動電圧比較器の他方の入力端に印加させる第2の入力バイアス回路と、を備えるものである。
【0011】
この構成によれば、低雑音増幅器の弱電界入力時に消費電流を増加させることなく、トランジスタの利得抑圧を発生させる程度の高いレベルの妨害波信号が入力端子に入力された場合には、トランジスタのバイアス電流を増加させて、トランジスタの利得抑圧を低減させることができる。また、差動電圧比較器の2つの入力バイアスを調整する第1、第2の入力バイアス回路が設けられたことで、製造上の素子の特性ばらつきや電源電圧の変更やばらつきに対しても安定して上記の効果を得ることができるようになる。
【0012】
上記の低雑音増幅器において、前記帰還量調整回路は、抵抗と直流カットキャパシタとを直列に接続して構成されている、としてもよい。
【0013】
この構成によれば、抵抗と直流カットキャパシタとのインピーダンスによって帰還量調整回路から差動電圧比較器の他方の入力端に印加される電圧の振幅を任意かつ容易に設定できる。さらに、トランジスタの出力信号の直流成分が直流カットキャパシタによって差動電圧比較器の他方の入力端に印加されることを防止できる。これにより、差動電圧比較器の動作が安定化し、低雑音増幅器に供給される電源電圧が変動した場合でも、トランジスタのバイアス電流が増加し始める妨害波信号レベルが変動せず、トランジスタの利得抑圧を低減させる効果を安定して実現できる。
【0014】
上記の低雑音増幅器において、前記第1の入力バイアス回路は、電源端子とグランドとの間に直列に接続された複数の抵抗を備え、該電源端子の電源電圧を該複数の抵抗により分圧した分圧電圧を前記差動電圧比較器の一方の入力端に印加させるように構成され、前記第2の入力バイアス回路は、前記電源端子とグランドとの間に直列に接続された複数の抵抗を備え、前記帰還量調整回路の出力電圧に対し該電源端子の電源電圧を該複数の抵抗により分圧した分圧電圧を付加して前記差動電圧比較器の他方の入力端に印加させるように構成されている、としてもよい。
【0015】
この構成によれば、トランジスタのバイアス電流が増加し始める妨害波信号レベルを、複数の抵抗それぞれの抵抗比の調整のみで任意かつ容易に設定できる。また、これにより、電源電圧及び、素子の製造ばらつきの影響を低減し、安定して利得抑圧を低減する効果を得ることができる。
【0016】
上記の低雑音増幅器において、前記差動電圧比較器の出力は、少なくとも1つのカレントミラー回路を介して前記バイアス回路に入力されている、としてもよい。
【0017】
この構成によれば、妨害波信号のレベルが増加した場合には、カレントミラー回路のミラー比を調整することにより、トランジスタのバイアス電流の増加量を任意かつ容易に設定できる。また、バイアス回路とカレントミラー回路との接続部分はトランジスタのバイアス電流の増加に伴って電位が上がるため、低電圧駆動時には、電源電圧が下がった分だけトランジスタのバイアス電流の変動幅が制限されることとなる。しかしながら、カレントミラー回路の電圧降下分は、該カレントミラー回路を構成するMOSFETのドレインーソース間電圧分のみであるため、低電圧駆動時においても、トランジスタのバイアス電流の変動幅を確保することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、弱電界入力時には消費電流を増加させず、高レベルの妨害波信号が入力された場合にはトランジスタの利得抑圧を低減させることができる。さらに、製造上の素子の特性ばらつきや電源電圧の変更やばらつきに対して上記の効果を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は本発明の実施の形態1に係る低雑音増幅器の構成例を示す回路図である。
【図2】図2は図1の低雑音増幅器の詳細な構成例を示す回路図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態1に係る低雑音増幅器の妨害波信号の入力レベルに応じた電力利得及び電源電流の特性変化を示したグラフである。
【図4】図4は、本発明の比較形態の低雑音増幅器の妨害波信号の入力レベルに応じた電力利得及び電源電流の特性変化を示したグラフである。
【図5】図5は本発明の実施の形態2に係る低雑音増幅器の構成例を示す回路図である。
【図6】図6は通信システムの受信回路に使用される低雑音増幅器の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0021】
(実施の形態1)
[低雑音増幅器の構成]
図1は本発明の実施の形態1に係る低雑音増幅器の構成例を示す回路図である。
【0022】
図1の低雑音増幅器は、NPN型トランジスタ1と、NPN型トランジスタ1のベースに直流カットキャパシタ5を介して接続された入力端子2と、NPN型トランジスタ1のコレクタに直流カットキャパシタ6を介して接続された出力端子3と、NPN型トランジスタ1のエミッタとグランドとの間に接続されたインダクタ7と、NPN型トランジスタ1のコレクタと電源端子4との間に接続されたインダクタ8と、を備えている。
【0023】
NPN型トランジスタ1は、エミッタ接地回路を構成しており、入力端子2から直流カットキャパシタ5を介してベースに入力された入力信号を増幅して出力信号を生成し、その生成した出力信号を直流カットキャパシタ6を介して出力端子3へ出力する。
【0024】
直流カットキャパシタ5は、入力端子2に入力された入力信号の直流成分を除去する目的で設けられ、直流カットキャパシタ6は、NPN型トランジスタ1のコレクタ電圧の直流成分を除去する目的で設けられている。
【0025】
インダクタ7はNPN型トランジスタ1の利得調整の目的で設けられるインピーダンス要素であり、インダクタ8はコレクタ抵抗に相当し、かつNPN型トランジスタ1のコレクタから電源端子4に流れ込む交流成分を遮断する目的で設けられるインピーダンス要素である。
【0026】
さらに、図1の低雑音増幅器は、NPN型トランジスタ1の出力信号(コレクタ電圧)の帰還量として当該出力信号の振幅を調整して出力する帰還量調整回路10と、NPN型トランジスタ1に供給されるバイアス電流(無信号時のベース電流)を生成するバイアス回路9と、帰還量調整回路10の出力電圧と参照電圧とを比較して入力端子1に入力された入力信号のレベルがトランジスタの利得抑圧を発生させるレベルであるか否かを判定し、NPN型トランジスタ1の利得抑圧を発生させるレベルであることを判定したときNPN型トランジスタ1のバイアス電流を増加させるようにバイアス回路9を動作させる差動電圧比較器11と、 参照電圧を生成して差動電圧比較器11の一方の入力端に印加させる第1の入力バイアス回路12と、帰還量調整回路10の出力電圧にバイアス電圧を付加して差動電圧比較器11の他方の入力端に印加させる第2の入力バイアス回路13と、を備えている。
【0027】
差動電圧比較器11がバイアス回路9を動作させるタイミングは、NPN型トランジスタ1の利得抑圧が発生する程度に入力端子2に入力された入力信号のレベルが増加したときである。このタイミングを任意かつ容易に実現できるように、第1の入力バイアス回路12及び第2の入力バイアス回路13によって差動電圧比較器11の2つの入力バイアスがあらかじめ調整されている。
【0028】
[低雑音増幅器の動作の概要]
以下では、図1の低雑音増幅器の動作の概要を説明する。
【0029】
入力端子2に入力された入力信号は、NPN型トランジスタ1によって増幅されて出力端子3から出力される。このとき、NPN型トランジスタ1の出力信号(コレクタ電圧)の一部は、帰還量調整回路10に入力されて帰還量調整回路10のインピーダンスに応じた任意のレベルに変換された後、差動電圧比較器11に入力される。
【0030】
差動電圧比較器11では、入力される信号のレベルがあるレベル以上となるときにそのレベルに応じた直流電流を出力するように、2つの入力バイアスがあらかじめ調整されている。差動電圧比較器11から出力された直流電流はバイアス回路9に入力される。
【0031】
バイアス回路9は、差動電圧比較器11から出力された直流電流の電流量に応じてNPN型トランジスタ1のバイアス電流を変化させるように、動作する。
【0032】
入力端子2に入力された入力信号が微弱なレベルの場合には、帰還量調整回路10の出力電圧の振幅が小さくなるので、差動電圧比較器11から出力される直流電流は実質的にゼロとなる。この結果、NPN型トランジスタ1のバイアス電流は、バイアス回路9によってあらかじめ設定された微小な電流量となる。
【0033】
一方、入力端子2に入力される入力信号のレベルがNPN型トランジスタ1の利得抑圧を発生させる程度に増加した場合、差動電圧比較器11から出力される直流電流は入力端子2に入力された信号のレベルに応じたレベルにまで増加する。つまり、差動電圧比較器11は、NPN型トランジスタ1のバイアス電流を増加させるように、バイアス回路9を動作させる。この結果、低雑音増幅器の線形性を向上させ、かつNPN型トランジスタ1の利得抑圧を低減させることが可能となる。
【0034】
[低雑音増幅器の詳細な構成]
図2は図1の低雑音増幅器の詳細な構成例を示す回路図である。
【0035】
バイアス回路9は、ベースがNPN型トランジスタ1のベースと接続され、コレクタが差動電圧比較器11の出力と接続されたNPN型トランジスタ26と、NPN型トランジスタ26のエミッタとグランドとの間に接続された抵抗27と、NPN型トランジスタ26のコレクタと接続された定電流源22と、NPN型トランジスタ26のコレクタとグランドとの間に接続されたキャパシタ25と、ベースがNPN型トランジスタ26のコレクタと接続され、かつコレクタが電源端子と接続されたNPN型トランジスタ23と、NPN型トランジスタ23のエミッタとNPN型トランジスタ1,26の各ベースとの間に設けられた抵抗24と、を備えている。なお、NPN型トランジスタ1,26は所謂ベース電流補償型のカレントミラー回路の構成を呈しており、NPN型トランジスタ26のコレクタ電流がNPN型トランジスタ1のコレクタ電流として複製されている。また、NPN型トランジスタ23は、定電流源22から供給される電流とは独立させて、NPN型トランジスタ1,26の各ベースにベース電流を供給する目的で設けられている。
【0036】
帰還量調整回路10は、NPN型トランジスタ1のコレクタと後述の第2の入力バイアス回路13の抵抗16,17の接続点(PMOSFET30のゲート)との間において、直流カットキャパシタ14と抵抗15とを直列に接続して構成されている。なお、直流カットキャパシタ14と抵抗15とから成るインピーダンスは、NPN型トランジスタ1の負荷インピーダンスに対して十分大きくなるように設定されている。
【0037】
第1の入力バイアス回路12は、電源電圧とグランドとの間に抵抗18,19を直列に接続して構成されており、電源電圧を抵抗18,19の抵抗比によって分圧した分圧電圧(参照電圧)が差動電圧比較器11の一方の入力端に印加される。
【0038】
第2の入力バイアス回路13は、第1の入力バイアス回路12と同じ電源電圧とグランドとの間に抵抗16,17を直列に接続して構成されており、電源電圧を抵抗16,17の抵抗比によって分圧した分圧電圧が差動電圧比較器11の他方の入力端に印加される。
差動電圧比較器11は、両方のソースが電流源28に接続された1対のPMOSFET29,30で構成されている。
【0039】
PMOSFET29のゲートは、差動電圧比較器11の一方の入力端に対応しており、第1の入力バイアス回路12から供給された分圧電圧(参照電圧)が印加される。さらに、PMOSFET29のゲートはキャパシタ31を介してグランドに接続されている。PMOSFET29のドレインはグランドに接続されている。
【0040】
PMOSFET30のゲートは、差動電圧比較器11の他方の入力に対応しており、第2の入力バイアス回路13から供給された分圧電圧が印加される。PMOSFET30のドレインは、バイアス回路9のNPN型トランジスタ26のコレクタと接続されるとともに、キャパシタ32を介してグランドに接続されている。
【0041】
ここで、帰還量調整回路10が接続されている第2の入力バイアス回路13の分圧電圧の方が第1の入力バイアス回路12の分圧電圧よりも高くなるように、差動電圧比較器11の2つの入力バイアス電圧があらかじめ調整されている。つまり、弱電界入力時において、PMOSFET29はオン状態となり、かつPMOSFET30はオフ状態となっている。
【0042】
[低雑音増幅器の詳細な動作]
以下では、図2の低雑音増幅器の詳細な動作を説明する。
【0043】
バイアス回路9は、上記のとおりベース電流補償型カレントミラー回路の構成となっており、差動電圧比較器11からの供給電流量に応じてNPN型トランジスタ1のバイアス電流を増加させるように動作する。
【0044】
低雑音増幅器に入力された入力信号が微弱なレベルの場合には、帰還量調整回路10から第2の入力バイアス回路13を介して差動電圧比較器11の入力端に印加される分圧電圧の振幅は非常に小さい。この場合、デフォルト調整のとおり、PMOSFET30はオフ状態となり、かつPMOSFET29はオン状態となるので、定電流源28から供給される電流は概ねPMOSFET29の方に流れ込む。すると、差動電圧比較器11からバイアス回路9に供給される電流量は概ねゼロであり、NPN型トランジスタ1のバイアス電流は定電流源22によって定められた低い電流量となる。具体的には、NPN型トランジスタ26には定電流源22からの供給電流量に応じた電流量のコレクタ電流が流れ、そのコレクタ電流がNPN型トランジスタ1のコレクタ電流として複製される。また、NPN型トランジスタ23のベースには定電流源22からNPN型トランジスタ26に供給される電流の一部が供給されており、NPN型トランジスタ26はその一部の電流を増幅した上でNPN型トランジスタ1,26の各ベースに分配している。
【0045】
一方、NPN型トランジスタ1の利得抑圧が発生する程度に入力信号のレベルが増加した場合には、帰還量調整回路10から第2の入力バイアス回路13を介して差動電圧比較器11の入力端に印加される分圧電圧の振幅が大きくなる。この結果、帰還量調整回路10から第2の入力バイアス回路13を介して差動電圧比較器11の入力端に印加される分圧電圧の振幅に応じて、PMOSFET30のゲート電圧とPMOSFET29のゲート電圧との大小関係が変化することになる。PMOSFET30のゲート電圧がPMOSFET29のゲート電圧よりも低くなっている期間、PMOSFET30がオン状態となり、かつPMOSFET29はオフ状態となる。このとき、PMOSFET30には第2の入力バイアス回路13の分圧電圧の振幅に応じた電流量の直流電流が流れ、その直流電流がバイアス回路9に供給される。具体的には、NPN型トランジスタ26には定電流源22の電流量に差動電圧比較器11からの電流供給量を付加した電流量に応じたコレクタ電流が流れ、そのコレクタ電流がNPN型トランジスタ1のコレクタ電流として複製されている。また、NPN型トランジスタ23のベースには定電流源22及び差動電圧比較器11からNPN型トランジスタ26に供給される電流の一部が供給されており、NPN型トランジスタ26はその一部の電流を増幅した上でNPN型トランジスタ1,26の各ベースに分配している。
【0046】
このように、NPN型トランジスタ1の利得抑圧が発生する程度に入力信号のレベルが増加した場合には、NPN型トランジスタ1のバイアス電流を増加させることにより、低雑音増幅器の線形性を向上させ、かつNPN型トランジスタ1の利得抑圧を低減させることを可能としている。なお、NPN型トランジスタ1のバイアス電流が増加し始める妨害波信号のレベルは、第1の入力バイアス回路12,第2の入力バイアス回路13の各分圧電圧の差によって決定される。このため、低雑音増幅器に供給される電源電圧が変動した場合においても、NPN型トランジスタ1のバイアス電流が増加し始める妨害波信号のレベルは変動しないので、安定してNPN型トランジスタ1の利得抑圧を低減させる効果を得ることができる。
【0047】
[効果]
図3は本発明の実施の形態1に係る低雑音増幅器の妨害波信号の入力レベルに応じた電力利得及び電源電流の特性変化を示したグラフである。図4は本発明の比較形態(従来)の低雑音増幅器の妨害波信号の入力レベルに応じた電力利得及び電源電流の特性変化を示したグラフである。
【0048】
図3、図4の両方の特性を照らし合わせる、妨害波信号の入力レベルが低い場合には図3、図4の両方の特性は概ね同一となっている。一方、妨害波信号の入力レベルが高い場合には、図3の特性は、図4の特性と比べて、NPN型トランジスタ1のバイアス電流が増加することに起因して電源電流は増加するが、低雑音増幅器の線形性は向上している。
【0049】
以上のように、本実施の形態1によれば、弱電界入力時に消費電流を増加させることなく、高レベルの妨害波信号が入力された場合には、NPN型トランジスタ1の利得抑圧を低減させるとともに製造上の素子の特性ばらつきや電源電圧の変更やばらつきに対しても安定した効果を得ることが可能となる。
【0050】
[変形例]
NPN型トランジスタ1は、周辺回路の構成の変更を伴うが、PNP型トランジスタ、NMOSFET、PMOSFETに置き換えてもよい。
【0051】
差動電圧比較器11がバイアス回路9に直流電流を出力するように構成されているが、差動電圧比較器11は交流電流を出力するように構成され、かつバイアス回路9が差動電圧比較器11から出力された交流電流を直流電流に変換するように構成されていてもよい。
【0052】
差動電圧比較器11の第1の入力バイアス回路12,13の構成が同じであれば、同様の効果が得られるため、特に2つの抵抗を直列に接続して構成することに限定されるものではない。
【0053】
帰還量調整回路10は、帰還させる信号の周波数や電圧振幅の設定によって、抵抗又はキャパシタのみで構成されてもよいし、あるいはインダクタとキャパシタとを直列に接続して構成されてもよい。
【0054】
(実施の形態2)
図5は本発明の実施の形態2に係る低雑音増幅器の構成例を示す回路図である。
【0055】
図1の低雑音増幅器と相違する点は、差動電圧比較器11の出力とバイアス回路9の入力との間にカレントミラー回路20,21を接続した構成となっている点である。なお、カレントミラー回路20は1対のNMOSFETで構成されており、カレントミラー回路21は1対のPMOSFETで構成されている。なお、本実施の形態においても、バイアス回路9、帰還量調整回路10、第1の入力バイアス回路12、第2の入力バイアス回路13及び差動電圧比較器11の詳細な構成例は図2に示した構成例を流用できる。
【0056】
図5のように構成された低雑音増幅器において、NPN型トランジスタ1の利得抑圧が発生する程度に妨害波信号のレベルが増加した場合には、差動電圧比較器11からバイアス回路9に供給される直流電流の電流量をカレントミラー回路20,21のカレントミラー比に応じた任意の電流量に設定することができ、ひいては、NPN型トランジスタ1のバイアス電流の増加量を容易に調整することができる。
【0057】
また、バイアス回路9とカレントミラー回路21との接続部分はNPN型トランジスタ1のバイアス電流の増加に伴って電位が上がるため、低電圧駆動時には、電源電圧が下がった分だけNPN型トランジスタ1のバイアス電流の変動幅が制限されることとなる。しかしながら、本実施の形態では、カレントミラー回路21の電圧降下分は、PMOSFETのドレインーソース間電圧分のみであるため、低電圧駆動時においても、NPN型トランジスタ1のバイアス電流の変動幅を確保することが可能となる。
【0058】
なお、2つのカレントミラー回路20,21による構成の他に、1又は3以上のカレントミラー回路を接続して構成されてもよい。また、カレントミラー回路を1対のMOSFETで構成されているが、MOSFETの代わりにバイポーラトランジスタを用いて構成されてもよい。
【0059】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の低雑音増幅器は、低消費電流の動作を要求される携帯型の通信機器や、複数の通信システムを搭載しており厳しい妨害波特性を要求される通信機器の受信部などに使用される低雑音増幅器にとって有用である。
【符号の説明】
【0061】
1・・・NPN型トランジスタ
2・・・入力端子
3・・・出力端子
4・・・電源端子
5、6、14・・・直流カットキャパシタ
7、8・・・インダクタ
9・・・バイアス回路
10・・・帰還量調整回路
11・・・差動電圧比較器
12・・・第1の入力バイアス回路
13・・・第2の入力バイアス回路
25、31、32・・・キャパシタ
15〜19、24、27・・・抵抗
20、21・・・カレントミラー回路
22、28・・・定電流源
23、26・・・NPN型トランジスタ
29、30・・・PMOSFET

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号が入力される入力端子と、
前記入力端子に入力された前記入力信号を増幅するトランジスタと、
前記トランジスタの出力信号を出力する出力端子と、
前記トランジスタの出力信号の帰還量として振幅を調整して出力する帰還量調整回路と、
前記トランジスタに供給されるバイアス電流を生成するバイアス回路と、
前記帰還量調整回路の出力電圧と参照電圧とを比較して前記入力端子に入力された前記入力信号のレベルが前記トランジスタの利得抑圧を発生させるレベルであるか否かを判定し、前記トランジスタの利得抑圧を発生させるレベルであることを判定したとき前記トランジスタのバイアス電流を増加させるように前記バイアス回路を動作させる差動電圧比較器と、
前記参照電圧を生成して前記差動電圧比較器の一方の入力端に印加させる第1の入力バイアス回路と、
前記帰還量調整回路の出力電圧にバイアス電圧を付加して前記差動電圧比較器の他方の入力端に印加させる第2の入力バイアス回路と、
を備える低雑音増幅器。
【請求項2】
前記帰還量調整回路は、抵抗と直流カットキャパシタとを直列に接続して構成されている、請求項1に記載の低雑音増幅器。
【請求項3】
前記第1の入力バイアス回路は、電源端子とグランドとの間に直列に接続された複数の抵抗を備え、該電源端子の電源電圧を該複数の抵抗により分圧した分圧電圧を前記差動電圧比較器の一方の入力端に印加させるように構成され、
前記第2の入力バイアス回路は、前記電源端子とグランドとの間に直列に接続された複数の抵抗を備え、前記帰還量調整回路の出力電圧に対し該電源端子の電源電圧を該複数の抵抗により分圧した分圧電圧を付加して前記差動電圧比較器の他方の入力端に印加させるように構成されている、請求項1に記載の低雑音増幅器。
【請求項4】
前記差動電圧比較器の出力は、少なくとも1つのカレントミラー回路を介して前記バイアス回路に入力されている、請求項1に記載の低雑音増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−134612(P2012−134612A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282888(P2010−282888)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】