説明

作業機械の旋回用油圧制御装置

【課題】エネルギーロスを低減することができるとともに、汎用性に優れた作業機械の旋回用油圧制御装置を提供する。
【解決手段】旋回モータ35に供給される作動油の流入方向と流入流量とを制御する旋回用制御弁5と、旋回用制御弁5のスプールの位置に応じたネガコン圧PNBを取り出すためのネガコン油路LNとを備える。
旋回モータ35に流入する作動油の圧力が予め設定されたリリーフ圧に達したときに開弁するオーバーロードリリーフ弁9と、オーバーロードリリーフ弁9から流出した作動油の余剰流量に相当する値POを検出する余剰検出手段16とを備える。
旋回モータ35の単独駆動時に、余剰検出手段16の検出した値POに応じてネガコン油路のネガコン圧PNBを補正した補正ネガコン圧PNAで、油圧ポンプ2の吐出流量を制御する制御手段20を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の油圧式作業機械の旋回用油圧制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧ショベルの上部旋回体を旋回駆動する旋回モータの制御として、旋回モータへ流入する作動油の一部をブリードオフし、急旋回時のショックを防止して安定した旋回動作を行うブリードオフ制御が知られている。
例えば特許文献1には、ブリードオフ制御による良好な旋回性能を維持しながら、省エネルギーを実現するための技術が開示されている。詳しくは、特許文献1の技術は、可変容量型の油圧ポンプと旋回モータとの間にコントロールバルブを設け、そのコントロールバルブにブリードオフ通路が形成されている構成において、旋回モータへの流入流量を検出するモータ流量検出手段(モータ回転数センサ)と、旋回体の慣性質量を求めるためのデータ(作業アタッチメントの姿勢,バケット負荷)を検出する慣性質量データ検出手段(姿勢センサ,負荷センサ)とを備えている。そして、モータ流量検出手段によって検出される実際のモータ流入流量の増加分から、旋回体の慣性質量と加速力とから求められる流量分を差し引いた量だけポンプ吐出流量を増加させ、旋回開始時のブリードオフ流量を最小値にしてエネルギーロスを低減するとともに、旋回加速段階で旋回加速圧力が時間の経過とともに漸減する特性が得られるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−16228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、慣性質量を求めてポンプ吐出流量を制御しているため、作業アタッチメントが変更されると慣性質量データ検出手段の構成や慣性質量を求める方法を変更する必要があり、汎用性に乏しい。
本発明はこのような課題に鑑み案出されたもので、エネルギーロスを低減することができるとともに、汎用性に優れた作業機械の旋回用油圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の作業機械の旋回用油圧制御装置は、旋回用油圧アクチュエータとその他の油圧アクチュエータとを備えた作業機械において、前記旋回用油圧アクチュエータに向かって作動油を吐出する可変容量型の油圧ポンプの吐出流量を制御する、作業機械の旋回用油圧制御装置であって、前記旋回用油圧アクチュエータに供給される作動油の流入方向と流入流量とをスプールの移動によって制御する旋回用制御弁と、前記旋回用制御弁のスプールの位置に応じたネガコン圧が発生するネガコン油路と、前記旋回用油圧アクチュエータに流入する作動油の圧力が予め設定されたリリーフ圧に達したときに開弁するオーバーロードリリーフ弁と、前記オーバーロードリリーフ弁から流出した作動油の余剰流量に相当する値を検出する余剰検出手段と、前記旋回用油圧アクチュエータの単独駆動時には、前記余剰検出手段の検出した値に応じて前記ネガコン油路のネガコン圧を補正した補正ネガコン圧で前記油圧ポンプの吐出流量を制御する制御手段と、を備えたことを特徴としている。
【0006】
なお、前記オーバーロードリリーフ弁から流出した作動油の余剰流量に応じた圧力を余剰圧として出力する低圧リリーフ弁と、前記ネガコン油路のネガコン圧の値を検出するネガコン圧検出手段と、パイロット圧を出力するパイロット油圧源と、前記パイロット油圧源のパイロット圧を減圧して前記補正ネガコン圧を出力する補正ネガコン圧出力弁と、前記ネガコン油路のネガコン圧と前記補正ネガコン圧出力弁の出力する補正ネガコン圧とのうちの高圧側の圧力を選択する高圧選択弁と、をさらに備え、前記余剰検出手段は、前記低圧リリーフ弁の出力する余剰圧を検出し、前記制御手段は、前記オーバーロードリリーフ弁から流出する余剰流量の最小値に応じた前記低圧リリーフ弁の最小余剰圧を予め記憶し、前記余剰検出手段の検出した前記余剰圧から前記最小余剰圧を減算して圧力偏差を算出し、その圧力偏差をPI制御演算し、そのPI制御演算値と前記ネガコン油路のネガコン圧の値とを加算して補正値を算出し、前記旋回用油圧アクチュエータの単独駆動時には、前記補正ネガコン圧出力弁に前記補正値の前記補正ネガコン圧を出力するように指令を送信することが好ましい。
【0007】
また、前記制御手段は、前記油圧ポンプの吐出流量が最大になるネガコン圧最小値を予め記憶し、前記その他の油圧アクチュエータの駆動操作がなされた場合には、前記補正ネガコン圧出力弁に前記ネガコン圧最小値の値の前記補正ネガコン圧を出力するように指令を送信することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の作業機械の旋回用油圧制御装置によれば、旋回単独駆動開始時には余剰流量が多くなるにつれネガコン圧を増大補正した補正ネガコン圧でポンプ吐出流量を制御することで、余剰流量を低減するようにポンプ吐出流量が低減してエネルギーロスを低減することができる。また、従来のように慣性質量の情報を利用することなく、余剰流量に相当する値を検出してポンプ吐出流量を制御するので、旋回体の慣性質量の変化に対しても良好に追従することができ、汎用性に優れているという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る作業機械の旋回用油圧制御装置の構成を模式的に示す油圧・電気回路図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る作業機械の旋回用油圧制御装置のECUの模式的な制御ブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る作業機械の旋回用油圧制御装置の油圧ポンプの特性を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施形態に係る作業機械の旋回用油圧制御装置の低圧リリーフ弁の特性を示すグラフである。
【図5】本発明の一実施形態に係る作業機械の旋回用油圧制御装置の作用を説明するためのグラフであって、(a)は旋回モータの駆動圧力を示し、(b)はポンプ吐出流量及びモータ流入流量を示し、(c)は補正ネガコン圧を示し、(d)は補正ネガコン圧のためのPI制御演算値を示している。
【図6】本発明の一実施形態に係る作業機械の旋回用油圧制御装置が備えられた油圧ショベルの全体像を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面により本発明の作業機械の旋回用油圧制御装置の実施の形態について説明する。
<構成>
本実施形態の旋回用油圧制御装置は、図6に示すような油圧ショベル30に設けられている。
【0011】
油圧ショベル30は、下部走行体31と、下部走行体31上に旋回自在に結合された上部旋回体32と、上部旋回体32から前方へ延出するように取り付けられ、ブーム33a,アーム33b及びバケット33cを有して種々の作業を行う作業装置33とを備えて構成されている。
下部走行体31は走行用油圧アクチュエータとしての左右一対の走行モータ34(左側の走行モータ34のみを図6にて図示)を備え、上部旋回体32は旋回用油圧アクチュエータとしての旋回モータ35を備えている。また、作業装置33は、ブーム33a,アーム33b及びバケット33cそれぞれに対して、作業用油圧アクチュエータとしてのブームシリンダ36,アームシリンダ37及びバケットシリンダ38を備えている。以下では、左走行モータ34,右走行モータ,ブームシリンダ36,アームシリンダ37及びバケットシリンダ38を、旋回モータ35と区別して他アクチュエータ(その他の油圧アクチュエータ)とも総称する。また、図1に示す油圧回路において、図面の簡略化のために他アクチュエータの図示は省略している。
【0012】
上部旋回体32の前部には、オペレータが搭乗するキャブ41が設けられている。キャブ41内には、下部走行体31を走行駆動するためにオペレータによって操作される走行用操作レバー(図示略)と、上部旋回体32を旋回駆動するため及び作業装置33を作動させるためにオペレータによって操作される作業用操作レバー(図示略)とが設けられている。走行用操作レバーと作業用操作レバーとには、走行操作,旋回操作,ブーム操作,アーム操作及びバケット操作それぞれの操作量に対応して後述の各制御弁5,51〜53のスプールの位置を切り換えるリモコン弁(図示略)が設けられている。
【0013】
本実施形態の旋回用油圧制御装置は、旋回モータ35に供給される作動油を制御するものであって、その油圧・電気回路は図1に示すように構成されている。この油圧・電気回路には、第一油圧ポンプ2,第一ポンプレギュレータ(第一ポンプ制御手段)2a,第二油圧ポンプ3,第二ポンプレギュレータ(第二ポンプ制御手段)3a及びコントロールバルブ4が設けられている。また、高圧選択用チェック弁8a,8bと、オーバーロードリリーフ弁9と、低圧リリーフ弁10と、チェック弁11a,11bと、パイロット油圧源12と、電磁比例減圧弁(補正ネガコン圧出力弁)13と、シャトル弁(高圧選択弁)14と、作動油タンク15とが設けられている。さらに、第一圧力センサ(余剰検出手段)16と、第二圧力センサ(ネガコン圧検出手段)17と、旋回圧力スイッチ(旋回操作検出手段)18と、他アクチュエータ用圧力スイッチ(他操作検出手段)19と、ECU(制御手段)20とが設けられている。
【0014】
第一及び第二の油圧ポンプ2,3は、油圧ショベル30の駆動源であるエンジン1により駆動されて作動油を吐出し、吐出した作動油を旋回モータ35及び他アクチュエータに供給するものである。
第一及び第二の油圧ポンプ2,3は斜板を有する可変容量型ポンプであり、それぞれが第一又は第二のポンプレギュレータ2a,3aによって斜板の傾きが制御されて吐出流量(単に吐出量ともいう)を変化させる。なお、第一油圧ポンプ2は、旋回モータ35と他のアクチュエータのうちの一部(例えば、左走行モータ34とアームシリンダ37)とに向けて作動油を吐出し、第二油圧ポンプは、残りの他アクチュエータ(例えば、右走行モータとブームシリンダ36とバケットシリンダ38)に向けて作動油を吐出するようになっている。
【0015】
第一ポンプレギュレータ2aは特に、後述するネガコン圧(ネガティブコントロール圧)に応じて第一油圧ポンプ2の斜板の傾きを制御し、吐出流量を増減させる。この第一油圧ポンプ2の吐出流量とネガコン圧との関係を図3に示す。
コントロールバルブ4は、旋回用制御弁5と、左走行用制御弁51と、アーム用制御弁(図示略)と、第一フートリリーフ弁6と、右走行用制御弁52と、ブーム用制御弁53と、バケット用制御弁(図示略)と、第二フートリリーフ弁54とを備えている。図1には、図面の簡略化のために、他アクチュエータ用制御弁のうち3つの制御弁51〜53を代表して示している。
【0016】
旋回用制御弁5は、第一油圧ポンプ2と旋回モータ35とを接続する油圧ライン上に介装されている。そして、スプールの移動によって、第一油圧ポンプ2から旋回モータ35へ供給される作動油の流入流量と流入方向とを制御可能になっている。旋回用制御弁5のスプールは、前述のように、作業用操作レバーの旋回操作量に応じて旋回用リモコン弁が作動することで移動し、位置が切り換わるようになっている。
【0017】
旋回用制御弁5内には、旋回操作がなされずにスプールが中立位置にあるときにセンタバイパスラインLCに連通するセンタバイパス通路5aが設けられている。旋回操作のない状態(旋回無負荷状態)では、第一油圧ポンプ2の作動油はセンタバイパス通路5aとセンタバイパスラインLCとを通過し、旋回モータ35に供給されることなく作動油タンク15に戻る。センタバイパスラインLCは、第一油圧ポンプ2の吐出した作動油を、旋回モータ35を通さずに作動油タンク15へ戻すラインである。
【0018】
フートリリーフ弁6は、センタバイパスラインLCにおいて旋回用制御弁5及び他の制御弁51よりも下流側に介装され、センタバイパスラインLCにネガコン圧(基本ネガコン圧PNB)を発生させるためのリリーフ弁である。また、センタバイパスラインLCには、フートリリーフ弁6により生じた基本ネガコン圧PNBを取り出すために、フートリリーフ弁6の直上流からネガコンライン(ネガコン油路)LNが分岐して設けられている。
【0019】
旋回操作がない場合には、旋回用制御弁5のセンタバイパス通路5aが開通してセンタバイパスラインLCの流量が増し、センタバイパスラインLCのフートリリーフ弁6手前の圧力が上がる。一方、旋回操作がなされると、旋回用制御弁5のスプールが移動してセンタバイパス通路5aは徐々に閉鎖されてセンタバイパスラインLCの流量が徐々に減り、センタバイパスラインLCのフートリリーフ弁6手前の圧力が徐々に下がる。このセンタバイパスラインLCのフートリリーフ弁6手前の圧力が、ネガコンラインLNによって基本ネガコン圧PNBとして取り出される。そして、通常は、このネガコンラインLNの基本ネガコン圧PNBによって第一油圧ポンプ2の吐出流量が制御される。
【0020】
つまり、通常のネガコン制御では、基本ネガコン圧PNBが高ければ旋回負荷がないと判断してポンプ吐出流量を減らし、逆に、基本ネガコン圧PNBが低ければ旋回負荷がかかっていると判断してポンプ吐出流量を増やす制御が行われる。
高圧選択用チェック弁8a,8bは、旋回モータ35の2つあるポート(右旋回用ポートと左旋回用ポート)のうちの何れのポートが高圧であるか、すなわち何れのポートに向かって作動油が流入しているかをチェックする弁である。高圧選択用チェック弁8a,8bは、旋回モータ35のリリーフラインLRに配設されている。
【0021】
リリーフラインLRは、旋回モータ35を高圧から保護するための油路であり、旋回モータ35の一方のポートに接続される油路L1と他方のポートに接続される油路L2とを連通して、一方又は他方のポートへ向かって流入している作動油をリリーフラインLRを介して作動油タンク15へ還流可能に設けられている。
オーバーロードリリーフ弁9は、リリーフラインLRにおいて高圧選択用チェック弁8a,8bよりも下流に配設されている。そして、高圧選択用チェック弁8a,8bから流出した作動油が流入するようになっている。オーバーロードリリーフ弁9には予め所定のリリーフ圧が設定され、このリリーフ圧に達したらオーバーロードリリーフ弁9が開弁して、低圧リリーフ弁10へと作動油を流出させるようになっている。オーバーロードリリーフ弁9が開弁して作動油の一部がリリーフラインLRへ逃げることにより、旋回モータ35は高圧から保護される。
【0022】
低圧リリーフ弁10は、図4に示すように、オーバーロードリリーフ弁9から流出した余剰流量に応じた大きさの圧力(余剰圧)POを上流側に残しつつ作動油をリリーフする特性を有している。つまり、低圧リリーフ弁10は、オーバーロードリリーフ弁9からの余剰流量が多いほど高い余剰圧POを上流側に発生させる(換言すれば、オーバーロードリリーフ弁9と低圧リリーフ弁10との間の油路に余剰圧POを出力する)ようになっている。
【0023】
チェック弁11a,11bは低圧リリーフ弁10の下流側に設けられ、低圧リリーフ弁10からリリーフした作動油を、油路L1及びL2のうち低圧側の一方に戻すように機能している。
パイロット油圧源12はパイロット圧を出力する油圧源である。電磁比例減圧弁13は、後述の信号変換器27の指令に応じてパイロット油圧源12のパイロット圧を減圧して補正ネガコン圧PNAを出力するようになっている。より詳しくは、電磁比例減圧弁13は、パイロット油圧源12からのパイロット圧を絞り、指令に応じた値に調整したパイロット圧を補正ネガコン圧PNAとしてシャトル弁14に出力するようになっている。
【0024】
シャトル弁14は、電磁比例減圧弁13から出力された補正ネガコン圧PNAと、ネガコンラインLNから入力された基本ネガコン圧PNBとのうちの何れか高圧の圧力を選択する弁であり、選択した圧力を最終的なネガコン圧PNとして第一ポンプレギュレータ2aへ出力するようになっている。
第一圧力センサ16はオーバーロードリリーフ弁9及び低圧リリーフ弁10間に生じる余剰圧POの値を検出する検出手段であり、第二圧力センサ17はネガコンラインLNの基本ネガコン圧PNBの値を検出する検出手段である。また、旋回圧力スイッチ18は、旋回用リモコン弁の出力するリモコン圧を検出して旋回操作を把握する検出手段であり、他アクチュエータ用圧力スイッチ19は、他アクチュエータ用のリモコン弁の出力するリモコン圧を検出して旋回以外の操作(走行操作やブーム操作やアーム操作やバケット操作)を把握する検出手段である。旋回圧力スイッチ18及び他アクチュエータ用圧力スイッチ19の検出結果は、ECU20に入力される。
【0025】
ECU20は、ROM,RAMといったメモリやCPU(中央処理演算装置)で構成される電子制御ユニット(Electronic Control Unit)であり、図2に示すように、圧力設定器21と、減算器22と、PI制御器23と、加算器24と、最小ネガコン圧設定器25と、信号選択器26と、信号変換器27とを備えている。
圧力設定器21は、低圧リリーフ弁10に流入する余剰流量が最小となるときの圧力(最小余剰圧)PXを設定している。すなわち、オーバーロードリリーフ弁9がリリーフ圧に達して開弁し、オーバーロードリリーフ弁9から作動油が流出開始した時点での余剰流量の最小値(最小余剰流量)に対応した低圧リリーフ弁10の最小余剰圧PXを設定している。
【0026】
減算器22は、第一圧力センサ16の検出した余剰圧POから圧力設定器21の設定した最小余剰圧PXを減算して圧力偏差ΔP(=PO−PX)を算出する。オーバーロードリリーフ弁9から流出する余剰流量が多い場合には第一圧力センサ16の検出する余剰圧POは最小余剰圧PXよりも高くなり(PO>PX)、圧力偏差ΔPはプラス(正)になる。逆に、オーバーロードリリーフ弁9が開弁しない場合には、第一圧力センサ16の検出する余剰圧POは最小余剰圧PXよりも小さくなり(PO<PX)、圧力偏差ΔPはマイナスになる。
【0027】
PI制御器23は、減算器22の算出した圧力偏差ΔPに基づいてPI制御演算を行い、PI制御演算値PPIを算出する。PI制御器23は、旋回圧力スイッチ18からON信号が入力されるとPI制御演算を開始し、OFF信号が入力されるとPI制御演算を停止し値をリセットする。つまり、PI制御器23は、旋回操作に連動してPI制御演算値PPIを算出する。
【0028】
加算器24は、PI制御器23の算出したPI制御演算値PPIと第二圧力センサ17の検出した基本ネガコン圧PNBの値とを加算して、補正値PA(=PNB+PPI)を算出する。
最小ネガコン圧設定器25は、第一油圧ポンプ2の吐出流量が最大となるネガコン圧最小値PNmin(図3参照)を設定する。
【0029】
信号選択器26は、他アクチュエータ用圧力スイッチ19から入力された信号によって、最小ネガコン圧設定器25の設定したネガコン圧最小値PNminと加算器24の算出した補正値PAとのうちの何れか一つの値をネガコン圧指令値として選択する。詳しくは、他アクチュエータ用圧力スイッチ19からON信号が入力されるとネガコン圧最小値PNminを選択し、OFF信号が入力されると補正値PAを選択する。
信号変換器27は、信号選択器26の出力したネガコン圧指令値(PNmin又はPA)を、電磁比例減圧弁13用の指令値に変換して出力するものである。
【0030】
<作用・効果>
本発明の一実施形態に係る作業機械の旋回用油圧制御装置は上述のように構成されているので、以下のような作用および効果を奏する。
(1)旋回単独駆動の場合
まず、旋回操作が行われて且つ他のアクチュエータの操作は行われていない旋回単独駆動の場合の作用を、順を追って説明する。
【0031】
まず、オペレータが操作レバーを旋回操作すると、操作レバーに併設された旋回用リモコン弁が作動する。この旋回用リモコン弁の作動によって旋回用制御弁5が開弁し、同時に、第一油圧ポンプ2の斜板が立ち上がって、旋回モータ35に作動油が供給される。これにより、上部旋回体32は旋回を開始する(図5に示す旋回開始時点t1)。また、センタバイパスラインLCの基本ネガコン圧PNBは、第二圧力センサ17で検出される。
【0032】
図5(c)中に実線及び一点鎖線で示すように、旋回加速時(t1〜t3)には、基本ネガコン圧PNBが時間の経過に伴い急激に減少することになる。また、旋回加速開始時には旋回の慣性モーメントが大きいため、オーバーロードリリーフ弁9はリリーフ圧に達し、オーバーロードリリーフ弁9から余剰流量が流出する。
第一油圧ポンプ2から吐出される作動油流量は、図5(a)に示すように、旋回開始時(t1)から急激に増大する。同様に、旋回モータ35に供給される作動油圧も、旋回開始時(t1)から急激に増大する。
【0033】
オーバーロードリリーフ弁9から流出した作動油の圧力は、低圧リリーフ弁10によって調整される。すなわち、低圧リリーフ弁10が余剰流量に応じた余剰圧POをオーバーロードリリーフ弁9との間の油路に残存させる。
この余剰圧POは第一圧力センサ16に検出される。そして、ECU20の減算器22が余剰圧POから圧力設定器21の設定する最小余剰圧PXを減算して圧力偏差ΔPを算出する。このとき、オーバーロードリリーフ弁9から流出する余剰流量が多ければ、余剰圧POが最小余剰圧PXよりも高くなり、圧力偏差ΔPはプラスの値になる。
【0034】
一方、PI制御器23は、減算器22の算出した圧力偏差ΔP(>0)に基づいてPI制御演算を行い、PI制御演算値PPIを算出する。PI制御演算値PPIは、図5(d)に示すように、時間の経過に伴い急激に上昇することになる(t2→t3)。次いで、加算器24が、PI制御器23の演算したPI制御演算値PPIを第二圧力センサ17の検出した基本ネガコン圧PNBの値に加算して補正ネガコン圧PNAのための補正値PAを算出する。
【0035】
このとき、他アクチュエータ用圧力スイッチ19はOFFであるので、信号選択器26は加算器24の算出した補正値PAをネガコン圧指令値として信号変換器27に出力する。信号変換器27は入力されたネガコン圧指令値としての補正値PAの値を電磁比例減圧弁13用の値に変換して、その変換値を電磁比例減圧弁13に出力する。
電磁比例減圧弁13は、パイロット油圧源12のパイロット圧を減圧して、信号変換器27から指令された補正値PAと同一の大きさの補正ネガコン圧PNAを出力する。このとき、補正値PAはプラスであるので、補正ネガコン圧PNAは第二圧力センサ17の検出する基本ネガコン圧PNBよりも高圧となる(PNA>PNB)。そのため、シャトル弁14は電磁比例減圧弁13の出力する補正ネガコン圧PNAを選択して第一ポンプレギュレータ2aに出力する。
【0036】
したがって、旋回単独操作での旋回開始時には、第一ポンプレギュレータ2aが第一油圧ポンプ2の吐出流量を余剰流量に応じて下げるように補正することになる。図5(b)に示すように、第一油圧ポンプ2の吐出流量は旋回モータ35に流入する作動油量に漸近するように変動する。この結果、オーバーロードリリーフ弁9から流出する余剰流量が最小限の流量になり、エネルギーロスを低減することができる。また、ECU20は、従来のように慣性質量の情報を利用することなく補正ネガコン圧PNAのための補正値PAを算出するので、上部旋回体32の慣性質量の変化に対しても良好に追従することができ、汎用性に優れているという利点がある。
【0037】
(2)他の油圧アクチュエータを駆動操作した場合
オペレータが他アクチュエータを操作した場合には、信号選択器26は最小ネガコン圧設定器25の出力するネガコン圧最小値PNminを選択するので、電磁比例減圧弁13はシャトル弁14に向かってネガコン圧最小値PNminの値の補正ネガコン圧PNAを出力する。そして、シャトル弁14は基本ネガコン圧PNBと補正ネガコン圧PNAとを高圧選択するが、補正ネガコン圧PNAの圧力はネガコン圧最小値PNminの値であるために当然に基本ネガコン圧PNBよりも低圧となり、シャトル弁14は常に基本ネガコン圧PNBを選択して第一ポンプレギュレータ2aに出力する。
【0038】
したがって、他アクチュエータを駆動操作した場合には、基本ネガコン圧PNBの値に応じてポンプ吐出流量が制御される通常のネガコン制御が行われ、他アクチュエータの作動に必要な流量を他アクチュエータに確実に供給することができる。
【0039】
<その他>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更することが可能である。
例えば、上記実施形態では、低圧リリーフ弁10をオーバーロードリリーフ弁9の下流に設け、オーバーロードリリーフ弁9から流出する作動油の余剰流量に応じた余剰圧を低圧リリーフ弁10で発生させて、その余剰圧を第一圧力センサ16が検出するようにしたが、低圧リリーフ弁10を設けることなく、オーバーロードリリーフ弁9からの余剰流量を直接検出する流量検出手段を第一圧力センサ16に替えて設け、ECU20が流量検出手段で検出された余剰流量の値に応じて補正ネガコン圧の値を算出するようにしても良い。
【0040】
また、上記実施形態では、油圧ショベル30に適用した場合について説明したが、旋回機能を具備する他の作業機械(例えば、クレーン等)に適宜変更して適用してももちろん良い。
【符号の説明】
【0041】
1 エンジン
2,3 油圧ポンプ
2a,3a ポンプレギュレータ
4 コントロールバルブ
5 旋回用制御弁
8a,8b 高圧選択用チェック弁
9 オーバーロードリリーフ弁
10 低圧リリーフ弁
11a,11b チェック弁
12 パイロット油圧源
13 電磁比例減圧弁(補正ネガコン圧出力弁)
14 シャトル弁(高圧選択弁)
15 作動油タンク
16 第一圧力センサ(余剰検出手段)
17 第二圧力センサ(ネガコン圧検出手段)
18 旋回圧力スイッチ(旋回操作検出手段)
19 他アクチュエータ用圧力スイッチ(他操作検出手段)
20 ECU(制御手段)
21 圧力設定器
22 減算器
23 PI制御器
24 加算器
25 最小ネガコン圧設定器
26 信号選択器
27 信号変換器
30 油圧ショベル(作業機械)
31 下部走行体
32 上部旋回体
33 作業装置
34 左走行モータ(その他の油圧アクチュエータ)
35 旋回モータ(旋回用油圧アクチュエータ)
36 ブームシリンダ(その他の油圧アクチュエータ)
37 アームシリンダ(その他の油圧アクチュエータ)
38 バケットシリンダ(その他の油圧アクチュエータ)
41 キャブ
51〜53 他アクチュエータ用制御弁
N ネガコンライン(ネガコン油路)
A 補正値
NA 補正ネガコン圧
NB 基本ネガコン圧
Nmin ネガコン圧最小値
O 低圧リリーフ弁の余剰圧
PI PI制御演算値
X 低圧リリーフ弁の最小余剰圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回用油圧アクチュエータとその他の油圧アクチュエータとを備えた作業機械において、前記旋回用油圧アクチュエータに向かって作動油を吐出する可変容量型の油圧ポンプの吐出流量を制御する、作業機械の旋回用油圧制御装置であって、
前記旋回用油圧アクチュエータに供給される作動油の流入方向と流入流量とをスプールの移動によって制御する旋回用制御弁と、
前記旋回用制御弁のスプールの位置に応じたネガコン圧が発生するネガコン油路と、
前記旋回用油圧アクチュエータに流入する作動油の圧力が予め設定されたリリーフ圧に達したときに開弁するオーバーロードリリーフ弁と、
前記オーバーロードリリーフ弁から流出した作動油の余剰流量に相当する値を検出する余剰検出手段と、
前記旋回用油圧アクチュエータの単独駆動時には、前記余剰検出手段の検出した値に応じて前記ネガコン油路のネガコン圧を補正した補正ネガコン圧で前記油圧ポンプの吐出流量を制御する制御手段と、を備えた
ことを特徴とする、作業機械の旋回用油圧制御装置。
【請求項2】
前記オーバーロードリリーフ弁から流出した作動油の余剰流量に応じた圧力を余剰圧として出力する低圧リリーフ弁と、
前記ネガコン油路のネガコン圧の値を検出するネガコン圧検出手段と、
パイロット圧を出力するパイロット油圧源と、
前記パイロット油圧源のパイロット圧を減圧して前記補正ネガコン圧を出力する補正ネガコン圧出力弁と、
前記ネガコン油路のネガコン圧と前記補正ネガコン圧出力弁の出力する補正ネガコン圧とのうちの高圧側の圧力を選択する高圧選択弁と、を備え、
前記余剰検出手段が、前記低圧リリーフ弁の出力する余剰圧を検出し、
前記制御手段が、前記オーバーロードリリーフ弁から流出する余剰流量の最小値に応じた前記低圧リリーフ弁の最小余剰圧を予め記憶し、前記余剰検出手段の検出した前記余剰圧から前記最小余剰圧を減算して圧力偏差を算出し、その圧力偏差をPI制御演算し、そのPI制御演算値と前記ネガコン油路のネガコン圧の値とを加算して補正値を算出し、前記旋回用油圧アクチュエータの単独駆動時には、前記補正ネガコン圧出力弁に前記補正値の前記補正ネガコン圧を出力するように指令を送信する
ことを特徴とする、請求項1記載の作業機械の旋回用油圧制御装置。
【請求項3】
前記制御手段が、前記油圧ポンプの吐出流量が最大になるネガコン圧最小値を予め記憶し、前記その他の油圧アクチュエータの駆動操作がなされた場合には、前記補正ネガコン圧出力弁に前記ネガコン圧最小値の値の前記補正ネガコン圧を出力するように指令を送信する
ことを特徴とする、請求項2記載の作業機械の旋回用油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−7656(P2012−7656A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143054(P2010−143054)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(505236469)キャタピラー エス エー アール エル (144)
【Fターム(参考)】