説明

作業機械の油圧回路

【課題】油圧ポンプを高トルクに維持する一方、トルクオーバーを防止し、エンジン回転速度の変動を少なくして燃料消費を低減させることができる作業機械の油圧回路を提供する。
【解決手段】エンジン12で駆動される可変容量油圧ポンプ14と、該油圧ポンプ14の吐出圧の増加に応じて吐出量を減少させて該油圧ポンプ14の出力トルクを略一定に維持する吐出量制御手段24と、を備えた作業機械の油圧回路において、前記油圧ポンプ14の吐出圧の急上昇を事前に検出する吐出圧急上昇事前検出手段18、26と、前記エンジン12の回転駆動力が前記エンジン12の補器類に伝達される程度を制御する回転駆動力伝達制御手段26、60、62と、を備え、前記油圧ポンプ14の吐出圧が急上昇すると事前に判断したとき、前記エンジン12の補器類に伝達される回転駆動力を減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の作業機械の油圧回路に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は、従来の油圧ショベルにおける基本的な油圧回路の一例を示す図である。この油圧回路100では、エンジン102と油圧ポンプ104は直結されている。そして、操作レバー装置108の操作レバー108Aを操作して切換弁106を切り換えて、油圧ポンプ104から油圧アクチュエータ110にセンタバイパス油路112を介して圧油を供給して油圧アクチュエータ110を駆動させる。
【0003】
レギュレータ114は油路116を介してセンタバイパス油路112に接続されており、油圧ポンプ104の吐出圧の増加に応じて、油圧ポンプ104はその吐出量を減少させる。より詳しくは、レギュレータ114は、油圧ポンプ104の吐出圧Pと吐出量Qとの関係(ポンプP−Q特性)を示す図4(A)の馬力一定曲線(馬力が一定のときの吐出圧Pと吐出量Qとの関係を示す曲線)C1に沿うように、負荷圧(吐出圧)により油圧ポンプ104の吐出量を変動させる。
【0004】
これにより油圧ポンプ104のポンプトルク(以下、出力トルクと記すことがある)は一定(Tmax)となり、エンジン102の定格トルクT0(図4(B))以下となるため、エンジン回転は安定し、油圧ショベルによる実作業も安定した状態で行うことができる。
【0005】
しかしながら、油圧ショベルが行う作業には様々な作業があり、操作レバー108Aを急操作した場合や、掘削作業中に掘削対象の硬さが急変した場合(例えば、掘削作業中にバケットが岩石や木の根等に接触した場合)に、油圧ポンプ104の吐出圧が急上昇(例えば図4(A)において、吐出圧がP0からP1にまで急上昇)することがある。
【0006】
このとき、レギュレータ114は、油圧ポンプ104の吐出量をQ1まで下げようとするが、負荷圧(吐出圧)の上昇速度の方がはるかに速いため、吐出量の減少曲線は図4(A)において2点鎖線で示す曲線C2のようになり、ポンプトルク曲線は図4(A)において1点鎖線で示す曲線C3のようになる。この結果、油圧ポンプ104の出力トルクは一時的にT1まで上昇するため、エンジン102はエンジントルクを油圧ポンプ104の出力トルクT1に吊り合わせようとして、図4(B)に示すように回転速度をN1まで減少させる。これにより作業速度が一時的に低下する。さらに、エンジン102の回転速度を最初の回転速度N0にもどす際にはより多くの燃料を噴射することが必要となるので、燃費を悪化させる原因となる。
【0007】
これに対し、操作レバーの急操作時や掘削対象の硬さの急変時にポンプトルクを制御してエンジン回転速度の変動を少なくして燃費の改善を図ったものとして、例えば、特許文献1に示す建設機械のエンジン制御装置が知られている。このエンジン制御装置120は、図5に示すように、エンジン122によって駆動されるメインポンプ124と、このメインポンプ124のトルクを制御する電磁比例弁(レギュレータ)126と、リモコン弁130により操作されて油圧アクチュエータへ圧油を給配制御するコントロールバルブ128と、このコントロールバルブ128のパイロット油路132に設けられた圧力スイッチ(圧力センサ)134と、この圧力スイッチ134、前記電磁比例弁126及びエンジンコントロールアクチュエータ136に夫々接続されるコントローラ138とを備えている。このエンジン制御装置120は、非操作時にメインポンプ124を所定の低トルクに設定し、圧力スイッチ134により油圧アクチュエータの操作開始が検出されたときにメインポンプ124の設定トルクを所定時間Tで所定の低トルクから高トルクにすることにより、油圧アクチュエータ操作開始時に於けるエンジン回転速度の急速な低下を防ぎ、燃費及び排ガスの悪化を防止するものである。
【0008】
即ち、油圧アクチュエータの操作開始の時点でメインポンプ124は所定の低トルクt1に設定されているので、操作レバー130Aが急操作されてトルクが上昇しても、エンジン122の定格トルクT0には達せず、エンジン122の回転速度は低下することはなく、従来例の過渡的な燃料の大量供給もなく燃費及び排ガスの悪化も発生しない。又、所定時間T経過後、電磁比例弁126の電流は所定大電流i2となり、これによってメインポンプ124も高トルクt2に設定されるため油圧アクチュエータの操作は円滑に行える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−271677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、電磁比例弁126にコントローラ138から所定時間Tで所定小電流i1から所定大電流i2に変化する信号が入力された場合、その信号が電磁比例弁126に入力されてからメインポンプ124の傾転角を変えて吐出量及びトルクを増減させるまでに応答遅れが生じるために所定時間Tでポンプトルクが高トルクt2にならない場合があり、また、所定時間Tの間に電流値を所定小電流i1から所定大電流i2に比例的に変化させるだけであるので、最適な制御ができないという問題がある。
【0011】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、油圧ポンプを高トルクに維持する一方、トルクオーバーを防止し、エンジン回転速度の変動を少なくして燃料消費を低減させることができる作業機械の油圧回路を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、エンジンで駆動される可変容量油圧ポンプと、該油圧ポンプの吐出圧の増加に応じて吐出量を減少させて該油圧ポンプの出力トルクを略一定に維持する吐出量制御手段と、を備えた作業機械の油圧回路において、前記油圧ポンプの吐出圧の急上昇を事前に検出する吐出圧急上昇事前検出手段と、前記エンジンの回転駆動力が前記エンジンの補器類に伝達される程度を制御する回転駆動力伝達制御手段と、を備え、前記油圧ポンプの吐出圧が急上昇すると事前に判断したとき、前記エンジンの補器類に伝達される回転駆動力を減少させることにより、前記課題を解決したものである。
【0013】
本発明では、エンジンの回転駆動力がエンジンの補器類に伝達される程度を制御する回転駆動力伝達制御手段を備え、可変容量油圧ポンプの吐出圧が急上昇すると事前に判断されたとき、前記エンジンの補器類に伝達される回転駆動力を減少させる。このため、本発明では、可変容量油圧ポンプの吐出圧が急上昇する前に、エンジンが前記油圧ポンプに入力できるエンジントルク(定格トルク)が大きくなり、油圧ポンプの出力トルクがエンジンの定格トルクを上回ってトルクオーバーとなることが防止される。
【0014】
したがって、本発明では、掘削作業中に掘削対象の硬さが急変した場合(例えば、掘削作業中にバケットが岩石や木の根等に接触した場合)であっても、作業速度を低下させずに作業を続けることができ、また、エンジンの回転速度を最初の回転速度に維持させることができるので、より多くの燃料を噴射してエンジンの回転速度を最初の回転速度にもどす必要をなくすことができ、燃費の点でも有利となる。なお、本発明では、可変容量油圧ポンプの吐出圧が急上昇するか否かを事前に判断するので、フィードフォワード的制御が可能となり、定格トルクをより早いタイミングで上昇させることが可能となり、トルクオーバーをより確実に防止することができる。
【0015】
前記油圧回路において、更に、前記作業機械の油圧アクチュエータを駆動する圧油の方向と流量を切り換えるための切換弁と、該切換弁を操作する操作レバーと、を備えさせ、前記吐出圧急上昇事前検出手段に前記操作レバーの操作量を検出する操作量検出手段が含まれる場合、前記操作レバーの操作速度または操作量がそれぞれ所定の閾値以上となったとき、前記油圧ポンプの吐出圧が急上昇すると事前に判断することができる。
【0016】
また、前記油圧回路において、更に、前記作業機械の油圧アクチュエータを駆動する圧油の方向と流量を切り換えるための切換弁と、該切換弁にパイロット圧を供給するパイロット圧供給手段と、を備えさせ、前記吐出圧急上昇事前検出手段に前記パイロット圧を検出するパイロット圧検出手段が含まれる場合、前記パイロット圧の上昇速度または前記パイロット圧がそれぞれ所定の閾値以上となったとき、前記油圧ポンプの吐出圧が急上昇すると事前に判断することができる。
【0017】
また、前記エンジンの補器類が複数ある場合、前記油圧ポンプの吐出圧が急上昇すると事前に判断したとき、前記複数の補器類のうちの少なくとも1つの補器類と前記エンジンとの動力伝達を、前記回転駆動力伝達制御手段にて遮断するようにしてもよい。
【0018】
本発明の他の態様は、エンジンで駆動される可変容量油圧ポンプと、該油圧ポンプの吐出圧の増加に応じて吐出量を減少させて該油圧ポンプの出力トルクを略一定に維持する吐出量制御手段と、を備えた作業機械の油圧回路において、前記油圧ポンプの吐出圧の急上昇を検出する吐出圧急上昇検出手段と、前記エンジンの回転駆動力が前記エンジンの補器類に伝達される程度を制御する回転駆動力伝達制御手段と、を備え、前記油圧ポンプの吐出圧が急上昇していると判断したとき、前記エンジンの補器類に伝達される回転駆動力を減少させることにより、前記課題を解決したものである。
【0019】
前記油圧回路において、更に、前記吐出圧急上昇検出手段に前記油圧ポンプの吐出圧を検出する吐出圧検出手段が含まれる場合、前記油圧ポンプの吐出圧の上昇速度または吐出圧がそれぞれ所定の閾値以上となったとき、前記油圧ポンプの吐出圧が急上昇していると判断することができる。
【0020】
また、前記エンジンの補器類が複数ある場合、前記油圧ポンプの吐出圧が急上昇していると判断したとき、前記複数の補器類のうちの少なくとも1つの補器類と前記エンジンとの動力伝達を、前記回転駆動力伝達制御手段にて遮断するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、油圧ポンプを高トルクに維持する一方、トルクオーバーを防止し、エンジン回転速度の変動を少なくして燃料消費を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る油圧ショベルの油圧回路の構成を示す図
【図2】本実施形態の油圧回路における、(A)ポンプP−Q特性を示すグラフ、(B)エンジントルク特性を示すグラフ
【図3】従来の油圧ショベルにおける基本的な油圧回路の一例を示す図
【図4】従来の油圧回路における、(A)ポンプP−Q特性を示すグラフ、(B)エンジントルク特性を示すグラフ
【図5】特許文献1に記載の技術に基づく油圧ショベルの油圧回路の構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下図面に基づいて、本発明に係る油圧ショベルの油圧回路の好適な実施形態の例について詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施形態に係る油圧ショベルの油圧回路の構成を示す図である。
【0025】
この油圧回路10は、エンジン12と、可変容量油圧ポンプ14と、切換弁16と、操作レバー装置18と、油圧アクチュエータ20と、センタバイパス油路22と、レギュレータ(吐出量制御手段)24と、コントローラ26と、吐出圧センサ(吐出圧検出手段)28と、パイロット圧センサ(パイロット圧検出手段)30と、を備えている。
【0026】
エンジン12は、主軸12Aを回転させる回転駆動力を生み出し、その回転駆動力で主軸12Aに直結された可変容量油圧ポンプ14、パイロットポンプ32等を駆動する。また、エンジン12には、エンジン補器類として、冷却ファン50、ウォータポンプ52が備えられており、また、図示は省略するが、オルタネータやエアコン用コンプレッサ等も備えられており、これらのエンジン補器類もエンジン12の主軸12Aから回転駆動力を得て駆動するようになっている。冷却ファン50には電磁クラッチ60を介してエンジン12の主軸12Aから回転駆動力が伝達され、ウォータポンプ52にはベルト64および電磁クラッチ62を介してエンジン12の主軸12Aから回転駆動力が伝達されるように構成されている。
【0027】
可変容量油圧ポンプ14は、エンジン12によって駆動され、センタバイパス油路22および切換弁16を介して油圧アクチュエータ20に圧油を供給し、油圧アクチュエータ20を駆動させる。油圧アクチュエータ20へ向かう圧油の方向と流量は、操作レバー装置18の操作レバー18Aをオペレータが操作して、切換弁16の切り換え位置が切り換えられることにより制御される。可変容量油圧ポンプ14の吐出量は、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧に応じてレギュレータ24によって制御されるようになっている。
【0028】
レギュレータ(吐出量制御手段)24は、油路24aを介してセンタバイパス油路22に接続されており、従来のレギュレータ114と同様に、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧の増加に応じて、可変容量油圧ポンプ14の吐出量を減少させる。また、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧の減少に応じて、可変容量油圧ポンプ14の吐出量を増加させる。より詳しくは、レギュレータ24は、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧Pと吐出量Qとの関係(ポンプP−Q特性)を示す図2(A)の馬力一定曲線(馬力が一定のときの吐出圧Pと吐出量Qとの関係を示す曲線)C1に沿うように、負荷圧(吐出圧)により可変容量油圧ポンプ14の吐出量を変動させる。
【0029】
これにより可変容量油圧ポンプ14の出力トルクは一定(Tmax)となり、図2(B)に示すようにエンジン12の定格トルクT0以下となるため、エンジン回転は安定し、油圧ショベルによる実作業も安定した状態で行うことができる。
【0030】
操作レバー装置18は、操作レバー18Aの操作状況に応じて、切換弁16のパイロットポート16a、16bに供給するパイロット圧を調整し、切換弁16をオペレータからの指示に従って切り換える役割を有する。操作レバー装置18には、ポテンショメータ(図示せず)が内蔵されており、その抵抗値の変動に基づく電気信号は、電気信号線18bを介してコントローラ26に送られる。ここで、操作レバー18Aは電気レバーであってもよく、この場合にはポテンショメータを内蔵していなくても、操作レバー18Aの操作量に応じた電気信号が操作レバー18Aから電気信号線18bを介してコントローラ26に送られる。操作レバー18Aが電気レバーであれば、操作レバー18Aの操作量が電気信号で直接的に得られるので、操作レバー18Aの操作速度の検出をより容易に行うことができる。
【0031】
吐出圧センサ(吐出圧検出手段)28は、可変容量油圧ポンプ14と切換弁16との間のセンタバイパス油路22の圧油の圧力を測定して、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧を測定する役割を有し、得られた吐出圧データは電気信号線28aを介してコントローラ26に送られる。
【0032】
パイロット圧センサ(パイロット圧検出手段)30は、操作レバー装置18の操作レバー18Aが操作されることによって切換弁16のパイロットポート16a、16bに供給されるパイロット圧(操作レバー装置18から供給されるパイロット圧)を測定する役割を有し、得られたパイロット圧データは電気信号線30aを介してコントローラ26に送られる。
【0033】
コントローラ26は、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧が急上昇するか否かを事前に判断し、また、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧が現に急上昇しているか否かを判断する。そして、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧が急上昇すると事前に判断した場合、または、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧が現に急上昇していると判断した場合、エンジン補器類(冷却ファン50、ウォーターポンプ52等)にエンジン12からの回転駆動力が伝達されないように、電磁クラッチ60、62を切る指令を発する。
【0034】
電磁クラッチ60、62が切られると、エンジン12の主軸12Aから回転駆動力が冷却ファン50、ウォータポンプ52等のエンジン補器類に伝達されなくなる。これにより、エンジン12の補器類に加わる負荷が軽減され、その分を可変容量油圧ポンプ14の駆動に振り向けることができるようになり、図2(B)の破線C4に示すように、エンジン12が可変容量油圧ポンプ14に入力できるエンジントルクを増大(定格トルクをT0からT01に増大)させることができる。このため、操作レバー18Aを急操作した場合や、掘削作業中に掘削対象の硬さが急変した場合(例えば、掘削作業中にバケットが岩石や木の根等に接触した場合)に、油圧ポンプ14の吐出圧(負荷圧)が急上昇しても、エンジン補器類への回転駆動力の供給を停止または減少させることにより、エンジン12の回転速度を低下させずに、可変容量油圧ポンプ14に十分なエンジントルクを供給することができる。
【0035】
コントローラ26は、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧が急上昇するか否かの事前の判断を次のように行う。
【0036】
コントローラ26は、操作レバー装置18から電気信号線18bを介して送られた電気信号に基づいて操作レバー18Aの操作速度および/または操作量を算出し、算出した操作速度および/または操作量がそれぞれの所定の閾値以上となったとき、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧が急上昇すると事前に判断する。
【0037】
ここで、操作レバー18Aの操作速度が所定の閾値以上となったときに、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧が急上昇すると事前に判断する理由は、油圧アクチュエータ20が外力を受ける方向に操作レバー18Aが急操作されると、切換弁16に供給されるパイロット圧が急上昇して切換弁16の位置が急速に切り換わり、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧(負荷圧)が急増するので、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧が急上昇すると事前に判断することができるからである。また、操作レバー18Aの操作量が所定の閾値以上となったときに、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧が急上昇すると事前に判断する理由は、操作レバー18Aの操作が急操作でなくても、操作量が所定の閾値以上であるフル操作の場合、切換弁16は位置A又はCに切り換わっており、センタバイパス油路22(ブリード油路)は全閉されるため、油圧アクチュエータ20に作用する外部負荷の僅かな変動で可変容量油圧ポンプ14の吐出圧(負荷圧)は急上昇するので、可変容量油圧ポンプ14の出力トルクが、僅かな外部負荷の変動でエンジン12の定格トルクT0を上回ってしまう可能性が大だからである。
【0038】
なお、操作レバー18Aの操作量は、前述のように、操作レバー装置18に内蔵されたポテンショメータの抵抗値の変化を反映した電気信号や、操作レバー18Aが電気レバーの場合に操作レバー18Aから発せられる電気信号に基づき検出することができる。したがって、操作レバー装置18(ポテンショメータ、電気レバー)およびコントローラ26は、「油圧ポンプの吐出圧の急上昇を事前に検出する吐出圧急上昇事前検出手段」である。
【0039】
また、全く同様の趣旨で、操作レバー18Aの操作に応じて発生するパイロット圧の上昇速度および/またはパイロット圧の値によっても、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧が急上昇することを事前に検出することが可能であり、パイロット圧センサ30およびコントローラ26も、「油圧ポンプの吐出圧の急上昇を事前に検出する吐出圧急上昇事前検出手段」である。
【0040】
操作レバー18Aの操作速度、操作量や、切換弁16に供給されるパイロット圧の上昇速度、パイロット圧に基づき、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧が急上昇すると事前に判断することにより、フィードフォワード的制御が可能となり、定格トルクをより早いタイミングで上昇させることが可能となり、トルクオーバーをより確実に防止することができる。
【0041】
また、コントローラ26は、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧が現に急上昇しているか否かの判断を次のように行う。
【0042】
コントローラ26は、吐出圧センサ28から送られた吐出圧データに基づいて可変容量油圧ポンプ14の吐出圧の上昇速度を算出し、算出した吐出圧の上昇速度が所定の閾値以上となったとき、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧が急上昇していると判断する。したがって、吐出圧センサ28およびコントローラ26は、「油圧ポンプの吐出圧の急上昇を検出する吐出圧急上昇検出手段」である。また、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧の大きさ自体がある程度以上大きくなっているとき(例えば、図2のP2以上のとき)は、僅かな負荷変動で可変容量油圧ポンプ14の出力トルクがエンジン12の定格トルクT0を上回ってしまう可能性が大であるため、実際の吐出圧の上昇速度にかかわらず、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧が急上昇していると判断する。
【0043】
なお、ネガティブコントロール制御方式の油圧回路では、切換弁16が中立位置Bから切換位置A、Cへの切換量が大きいとネガコン圧は小さくなり、また、中立位置Bから切換位置A、Cへの切り換えを急速に行うと、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧が急上昇するとともにネガコン圧は急速に下降するので、ネガコン圧の下降速度に基づいて、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧が急上昇しているか否かを判断することもできる。したがって、ネガコン圧を検出するネガコン圧センサを、「油圧ポンプの吐出圧の急上昇を検出する吐出圧急上昇検出手段」とすることもできる。
【0044】
電磁クラッチ60は、エンジン12の主軸12Aと冷却ファン50の回転軸50Aとの間に設けられ、エンジン12の主軸12Aと回転軸50Aとの間の連結・非連結を切り換えて、エンジン12の主軸12Aの回転駆動力を、冷却ファン50の回転軸50Aへ伝達するか否かを切り換える役割を有する。電磁クラッチ60の連結・非連結の切り換えは、前述のように、電気信号線26aを介してコントローラ26から指令を受けてなされる。ここで、クラッチが「連結」している状態とは、回転駆動力がクラッチを介して伝達される状態のことを意味する。また、電磁クラッチ60を完全に切断せず、回転駆動力の伝達の程度を減少させるように使用することもできる。
【0045】
電磁クラッチ62は、プーリ68のプーリ軸(図示せず)とウォータポンプ52の回転軸52Aとの間に設けられ、プーリ68のプーリ軸と回転軸52Aとの連結・非連結を切り換える役割を有する。電磁クラッチ62の連結・非連結の切り換えは、前述のように、電気信号線26bを介してコントローラ26から指令を受けてなされる。ここで、プーリ68には、エンジン12の主軸12Aに取り付けられたプーリ66との間でベルト64が掛け渡されており、エンジン12の主軸12Aの回転駆動力は、プーリ66およびベルト64を介してプーリ68のプーリ軸に伝達されるので、電磁クラッチ62は、エンジン12の主軸12Aの回転駆動力を、ウォータポンプ52の回転軸52Aへ伝達するか否かを切り換える役割を有することとなる。また、電磁クラッチ62を完全に切断せず、回転駆動力の伝達の程度を減少させるように使用することもできる。
【0046】
したがって、電磁クラッチ60、62およびコントローラ26は、「エンジンの回転駆動力がエンジンの補器類に伝達される程度を制御する回転駆動力伝達制御手段」ということができる。ここで、「伝達される程度を制御」には、エンジンの回転駆動力の伝達を完全に行う場合および完全に遮断する場合も含まれる。
【0047】
以上説明した本発明の実施形態では、切換弁、操作レバー装置、油圧アクチュエータとしては、切換弁16、操作レバー装置18、油圧アクチュエータ20のみを取り上げたが、切換弁、操作レバー装置、油圧アクチュエータは、それぞれ単数でなく複数であっても、本実施形態を適用することができる。
【0048】
また、吐出圧センサ28とパイロット圧センサ30の両方を油圧回路10に備えさせたが、どちらか一方のみを備えさせるだけでもよい。また、操作レバー装置18にポテンショメータを内蔵させるか操作レバー18Aを電気レバーにして、操作レバー装置18から電気信号線18bを介して電気信号を送るようにした場合には、吐出圧センサ28とパイロット圧センサ30の両方を設けなくてもよい。
【0049】
次に、上述のように構成された実施形態に係る油圧回路10の動作および作用について説明する。
【0050】
前述したように、油圧ショベルが行う作業には様々な作業があり、操作レバー18Aを急操作した場合や、掘削作業中に掘削対象の硬さが急変した場合(例えば、掘削作業中にバケットが岩石や木の根等に接触した場合)に、油圧ポンプ14の吐出圧が急上昇(例えば図2(A)において、吐出圧がP0からP1にまで急上昇)することがある。
【0051】
このとき、レギュレータ24は、油圧ポンプ14の吐出量をQ1まで下げようとするが、負荷圧(吐出圧)の上昇速度の方がはるかに速いため、吐出量の減少曲線は図2(A)において2点鎖線で示す曲線C2のようになり、ポンプトルク曲線は図2(A)において1点鎖線で示す曲線C3のようになる。この結果、油圧ポンプ14の出力トルクは一時的にT1まで上昇してしまう。
【0052】
これに対し本実施形態では、コントローラ26は、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧が急上昇すると事前に判断した場合、または、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧が急上昇していると判断した場合、エンジン補器類(冷却ファン50、ウォータポンプ52等)にエンジン12からの回転駆動力が伝達されないように、電磁クラッチ60、62を切る指令を発する(図示していないエンジン補器類であるオルタネータやエアコン用コンプレッサ等に対してもエンジン12からの回転駆動力の伝達・非伝達を切り換える電磁クラッチが設けられており、それらの電磁クラッチに対しても、コントローラ26は切る指令を発する)。これにより、エンジン補器類に入力されていたエンジントルクを可変容量油圧ポンプ14に入力することが可能となり、エンジン12が可変容量油圧ポンプ14に入力できるエンジントルクは、図2(B)において破線で示すエンジントルク曲線C4のように上昇する。これにより、油圧ポンプ14の出力トルクがT1まで上昇した場合でも、この出力トルクT1が、定格トルク(エンジントルク曲線C4における定格トルクT01)に達しないようにすることができ、エンジン12の回転速度を最初の回転速度N0のまま維持することができる。特に、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧が急上昇すると事前に判断した場合には、フィードフォワード的制御が可能となり、定格トルクをより早いタイミングで上昇させることが可能となり、トルクオーバーをより確実に防止することができる。
【0053】
したがって、本実施形態によれば、操作レバー18Aを急操作した場合や、掘削作業中に掘削対象の硬さが急変した場合(例えば、掘削作業中にバケットが岩石や木の根等に接触した場合)であっても、作業速度を低下させずに作業を続けることができ、また、エンジン12の回転速度を最初の回転速度N0に維持させることができるので、より多くの燃料を噴射してエンジン12の回転速度を最初の回転速度N0にもどす必要をなくすことができ、燃費の点でも有利となる。
【0054】
以上説明した実施形態において、コントローラ26が発する電磁クラッチ60、62を切る指令は、電気信号でなされるのでその指令の伝達は瞬時になされ、また、電磁クラッチ60、62を切る動作は電磁クラッチ60、62の動力伝達面を僅かでも離せば達成できるので瞬時になすことができる。このため、コントローラ26が、可変容量油圧ポンプ14の出力トルクが急上昇していると判断すると、即座に電磁クラッチ60、62を切って、エンジン12が可変容量油圧ポンプ14に入力できるエンジントルクを図2(B)のエンジントルク曲線C4のように即座に上昇させることができる。したがって、本実施形態に係る油圧回路10を用いることにより、出力トルクT1がエンジントルク曲線C4を上回らない限り、本実施形態に係る油圧回路10を用いることによりトルクオーバーを十分に防止することが可能となる。
【0055】
なお、本実施形態では、コントローラ26が、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧が急上昇していると判断した場合、全てのエンジン補器類について電磁クラッチを切断し、エンジン12の回転駆動力が全てのエンジン補器類に伝達されないようにしたが、作業内容によっては全てのエンジン補器類について電磁クラッチを切断しなくてもよく、作業内容に応じて電磁クラッチを切断するエンジン補器類を選択するようにしてもよい。また、エンジン補器類によっては電磁クラッチを完全に切断せず、回転駆動力の伝達の程度を減少させるようにしてもよい。
【0056】
また、エンジン補器類の電磁クラッチ60、62を切断している切断継続時間は、可変容量油圧ポンプ14の出力トルクが一定値(図2のTmax)を保持するようになるまでの時間Δtに対応した時間(例えば、可変容量油圧ポンプ14の吐出圧の上昇速度が所定の別の閾値以下となるまでの時間)であり、短時間である。このため、エンジン補器類の電磁クラッチ60、62が切断されてエンジン補器類50、52等が停止してもエンジン12本体への悪影響は全くない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
例えば、油圧ショベル等の作業機械の油圧回路に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0058】
10…油圧回路
12…エンジン
12A…主軸
14…可変容量油圧ポンプ
16…切換弁
18…操作レバー装置
18A…操作レバー
18b…電気信号線
20…油圧アクチュエータ
22…センタバイパス油路
24…レギュレータ(吐出量制御手段)
26…コントローラ
28…吐出圧センサ(吐出圧検出手段)
30…パイロット圧センサ(パイロット圧検出手段)
32…パイロットポンプ
50…冷却ファン
52…ウォータポンプ
50A、52A…回転軸
60、62…電磁クラッチ
64…ベルト
66、68…プーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンで駆動される可変容量油圧ポンプと、該油圧ポンプの吐出圧の増加に応じて吐出量を減少させて該油圧ポンプの出力トルクを略一定に維持する吐出量制御手段と、を備えた作業機械の油圧回路において、
前記油圧ポンプの吐出圧の急上昇を事前に検出する吐出圧急上昇事前検出手段と、
前記エンジンの回転駆動力が前記エンジンの補器類に伝達される程度を制御する回転駆動力伝達制御手段と、を備え、
前記油圧ポンプの吐出圧が急上昇すると事前に判断したとき、前記エンジンの補器類に伝達される回転駆動力を減少させることを特徴とする作業機械の油圧回路。
【請求項2】
請求項1において、更に、
前記作業機械の油圧アクチュエータを駆動する圧油の方向と流量を切り換えるための切換弁と、
該切換弁を操作する操作レバーと、を備え、
前記吐出圧急上昇事前検出手段には、前記操作レバーの操作量を検出する操作量検出手段が含まれ、
前記操作レバーの操作速度が所定の閾値以上となったとき、前記油圧ポンプの吐出圧が急上昇すると事前に判断することを特徴とする作業機械の油圧回路。
【請求項3】
請求項1または2において、更に、
前記作業機械の油圧アクチュエータを駆動する圧油の方向と流量を切り換えるための切換弁と、
該切換弁を操作する操作レバーと、を備え、
前記吐出圧急上昇事前検出手段には、前記操作レバーの操作量を検出する操作量検出手段が含まれ、
前記操作レバーの操作量が所定の閾値以上となったとき、前記油圧ポンプの吐出圧が急上昇すると事前に判断することを特徴とする作業機械の油圧回路。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、更に、
前記作業機械の油圧アクチュエータを駆動する圧油の方向と流量を切り換えるための切換弁と、
該切換弁にパイロット圧を供給するパイロット圧供給手段と、を備え、
前記吐出圧急上昇事前検出手段には、前記パイロット圧を検出するパイロット圧検出手段が含まれ、
前記パイロット圧の上昇速度が所定の閾値以上となったとき、前記油圧ポンプの吐出圧が急上昇すると事前に判断することを特徴とする作業機械の油圧回路。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、更に、
前記作業機械の油圧アクチュエータを駆動する圧油の方向と流量を切り換えるための切換弁と、
該切換弁にパイロット圧を供給するパイロット圧供給手段と、を備え、
前記吐出圧急上昇事前検出手段には、前記パイロット圧を検出するパイロット圧検出手段が含まれ、
前記パイロット圧が所定の閾値以上となったとき、前記油圧ポンプの吐出圧が急上昇すると事前に判断することを特徴とする作業機械の油圧回路。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記エンジンの補器類が複数あり、前記油圧ポンプの吐出圧が急上昇すると事前に判断したとき、前記複数の補器類のうちの少なくとも1つの補器類と前記エンジンとの動力伝達を、前記回転駆動力伝達制御手段にて遮断することを特徴とする作業機械の油圧回路。
【請求項7】
エンジンで駆動される可変容量油圧ポンプと、該油圧ポンプの吐出圧の増加に応じて吐出量を減少させて該油圧ポンプの出力トルクを略一定に維持する吐出量制御手段と、を備えた作業機械の油圧回路において、
前記油圧ポンプの吐出圧の急上昇を検出する吐出圧急上昇検出手段と、
前記エンジンの回転駆動力が前記エンジンの補器類に伝達される程度を制御する回転駆動力伝達制御手段と、を備え、
前記油圧ポンプの吐出圧が急上昇していると判断したとき、前記エンジンの補器類に伝達される回転駆動力を減少させることを特徴とする作業機械の油圧回路。
【請求項8】
請求項7において、更に、
前記吐出圧急上昇検出手段には、前記油圧ポンプの吐出圧を検出する吐出圧検出手段が含まれ、
前記油圧ポンプの吐出圧の上昇速度が所定の閾値以上となったとき、前記油圧ポンプの吐出圧が急上昇していると判断することを特徴とする作業機械の油圧回路。
【請求項9】
請求項7または8において、更に、
前記吐出圧急上昇検出手段には、前記油圧ポンプの吐出圧を検出する吐出圧検出手段が含まれ、
前記油圧ポンプの吐出圧が所定の閾値以上となったとき、前記油圧ポンプの吐出圧が急上昇していると判断することを特徴とする作業機械の油圧回路。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかにおいて、
前記エンジンの補器類が複数あり、前記油圧ポンプの吐出圧が急上昇していると判断したとき、前記複数の補器類のうちの少なくとも1つの補器類と前記エンジンとの動力伝達を、前記回転駆動力伝達制御手段にて遮断することを特徴とする作業機械の油圧回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−106127(P2011−106127A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260411(P2009−260411)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(502246528)住友建機株式会社 (346)
【Fターム(参考)】