説明

作業機械の走行規制装置

【課題】運転席からみて死角の多い難視界方向へ下部走行体1を走行させない走行規制装置を提案する。
【解決手段】下部走行体1の旋回軸受2に軸支されると共に運転席4及び作業装置5が配置される上部旋回体3をもつ作業機械のための走行規制装置は、旋回軸受2の外周に設けられた被検出面11と、旋回軸受2の周囲に互いに離間させて設けられ、上部旋回体3の旋回に従って旋回軸受周囲を旋回するセンサ12,13と、被検出面11により変化するセンサ12,13の出力に基づいて上部旋回体3の旋回角度を判別するコントローラ10と、を有する。コントローラ10は、判別した旋回角度における難視界方向に該当する下部走行体1の走行方向を判断し、走行レバー4a,4bが、その判断した走行方向へ下部走行体1を走行させる操作方向へ操作されるときに、下部走行体1の走行を抑止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
油圧ショベルやクレーン等の作業機械における安全制御に関する技術が以下に開示される。
【背景技術】
【0002】
建設現場等で使用される作業機械の1つである、例えばバックホウなどの油圧ショベルは、クローラ式やタイヤ式の下部走行体上に、旋回軸受にて旋回可能に上部旋回体を軸支した構造をもつ。その上部旋回体に、運転席と、作業装置としてブーム、アーム、バケットとが配設され、運転者の操作に従って運転席が旋回し、ブーム、アーム、バケットが動作する。通常、上部旋回体にエンジンが搭載され、該エンジンにより油圧ポンプが駆動されて、下部走行体の走行用、上部旋回体の旋回用の各油圧モータ、及び作業装置駆動用の油圧シリンダへ、作動油による油圧が供給される。その油圧の供給が、運転席に設けられたレバーやペダルの形態の操作手段により制御される。
【0003】
このような、下部走行体上に上部旋回体を軸支した作業機械において、下部走行体の走行方向を制御する操作手段として設けられた走行レバーの操作方向に関し、上部旋回体の旋回との連係が課題とされ、特許文献1にあるような走行方向の切り換えを実行することが提案されている。すなわち、概略的に言えば、運転席が下部走行体の前進方向へ向いているときと、上部旋回体が180°旋回して運転席が下部走行体の後進方向へ向いているときとで、走行レバーの操作方向と下部走行体の走行方向との関係を逆転させる、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−132003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上部旋回体の旋回と下部走行体の走行方向とについては、上記の走行レバーの操作方向との関連以外に、安全面でさらに改善の余地がある。すなわち、油圧ショベルにおいては、通常、運転席の右横にブームが配置されるので、運転席から右方向に死角が多くて視界が悪い。また、運転席の後にエンジンが搭載されるので、運転席から後方の特に下側にも死角が多くて視界が悪い。したがって、このような運転席の難視界方向、すなわち、例えば上部旋回体を90°旋回させた状態における運転席の右方向、あるいは、上部旋回体の旋回角度が0°又は180°のときの運転席の後方、といった難視界方向へ向かって下部走行体を走行させる場合は、他の場合に比べて死角が多く、事故につながり得る。
本発明はこの点に鑑みたもので、運転席からみてこのような死角の多い難視界方向へ下部走行体を走行させないように規制する走行規制装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に対して提案するのは、走行用油圧モータにより走行する下部走行体と、該下部走行体の旋回軸受により軸支されると共に運転席及び作業装置が配置される上部旋回体と、を含んで構成される作業機械のための走行規制装置であって、
前記旋回軸受の外周において円周方向へ所定の角度範囲延伸する被検出面と、該被検出面を備えた旋回軸受の周囲に円周方向へ所定の角度互いに離間させて設けられ、前記上部旋回体の旋回に従って前記旋回軸受周囲を旋回する、複数のセンサと、前記被検出面により変化する前記センサの出力に基づいて前記上部旋回体の旋回角度を判別するコントローラと、を含んで構成され、
前記コントローラは、前記判別した旋回角度における前記運転席の難視界方向に該当する前記下部走行体の走行方向を判断し、前記下部走行体の走行方向を制御するために前記運転席に設けられた操作手段が、前記判断した走行方向へ前記下部走行体を走行させる操作方向へ操作されるときに、前記下部走行体の走行を抑止する、走行規制装置である。
【発明の効果】
【0007】
上記提案に係る走行規制装置は、上部旋回体の旋回角度をセンサ出力から判別し、当該旋回角度において生じる運転席の難視界方向へ下部走行体を走行させようとする操作が行われると、当該方向への下部走行体の走行を抑止する。したがって、運転席からの死角が多い難視界方向への作業機械の走行が強制的に規制され、作業時の安全性が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】作業機械の一例であるバックホウに備えられた走行規制装置の実施形態を示す外観図。
【図2】実施形態に係る走行規制装置のセンサ及び被検出面と下部走行体の走行方向との関係を例示した説明図。
【図3】実施形態に係る走行規制装置における油圧供給抑止回路の第1例を示す要部油圧回路図。
【図4】実施形態に係る走行規制装置における油圧供給抑止回路の第2例を示す要部油圧回路図。
【図5】実施形態に係る走行規制装置における操作方向感知回路の第1例を示す走行レバーの要部拡大図。
【図6】実施形態に係る走行規制装置における操作方向感知回路の第2例を示す要部油圧回路図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、作業機械の一例としてバックホウを概略的に示す。
図示の例のバックホウは、クローラ式の下部走行体1に設けられた旋回軸受2を介して、旋回可能に上部旋回体3を軸支した構造をもつ。上部旋回体3には、運転席4及び作業装置5が配設されると共に、運転席4の後方に、油圧ポンプを駆動するエンジンが搭載される。バックホウの作業装置5は、ブーム5a、アーム5b、バケット5cを垂直方向へ回動可能に組み付けて構成され、これらが油圧シリンダ5d,5e,5fにより駆動される。上部旋回体3を旋回させる旋回用油圧モータ及び作業装置5を動作させる油圧シリンダ5d〜5fは、運転席4に着座した運転者のレバー又はペダル操作に従って油圧ポンプから供給される油圧により駆動される。
【0010】
下部走行体1は、それぞれ走行用油圧モータにより駆動される左右一対のクローラにより前進、後進、右折、左折する。この下部走行体1の前方には排土板6が設けられており、油圧シリンダ6aにより駆動されて上下動する。本欄では、図1中に示してあるように、排土板6を設けてある前方へ向かって下部走行体1が走行するときを前進、これとは反対の後方へ向かって下部走行体1が走行するときを後進として説明する。
【0011】
下部走行体1を走行させるべく左右のクローラを回転させる走行用油圧モータは、エンジンにより駆動される油圧ポンプから供給される油圧により駆動される。その油圧の供給が、本実施形態の場合、操作手段として運転席4に設けられた左右一対の走行レバー4a,4bにより、制御される。すなわち、両方の走行レバー4a,4bをニュートラル位置(N)から同時に前方(F)へ操作すると、左右両方の走行用油圧モータが前進回転して下部走行体1が前進し、両方の走行レバー4a,4bをニュートラル位置から同時に後方(R)へ操作すると、左右両方の走行用油圧モータが後進回転して下部走行体1が後進する。また、例えば、右側の走行レバー4aだけを前方へ操作すると、右側の走行用油圧モータだけが前進回転して下部走行体1が左折し、左側の走行レバー4bだけを前方へ操作すると、左側の走行用油圧モータだけが前進回転して下部走行体1が右折する。
【0012】
運転席4には、運転者の乗り降りの際に誤ってレバー及びペダル類に触ってしまっても作業機械が動作することのないように、ロックレバー4cも設けられる。このロックレバー4cは、実線で示す斜めの解除位置と点線で示す直立のロック位置とに回動可能であり、解除位置にあるときには運転者の足元へ突出して乗降の邪魔となるようになっている。したがって、運転者は、乗降に際して必ずロックレバー4cをロック位置としなければならない。ロックレバー4cがロック位置にあると、各油圧モータ及び油圧シリンダへの油圧供給が抑止され、下部走行体1の走行、上部旋回体3の旋回、作業装置5及び排土板6の動作のいずれも抑制される。なお、図1では、走行レバー4a,4b及びロックレバー4c以外の、周知技術であるレバー、ペダルは図示を省略してある。
【0013】
本実施形態に係る走行規制装置は、運転席4の適当な場所に設置されたコントローラ10と、下部走行体1と上部旋回体3とを接続する旋回軸受2に設けられた被検出面11と、この被検出面11を感知しているときと旋回軸受2におけるその他の部位を感知しているときとで出力が変化する、一例として2つのセンサ12,13と、を含んで構成される。
【0014】
コントローラ10は、ボックス形の筐体10a内に収められた電子回路であり、被検出面11により変化するセンサ12,13の出力に基づいて、上部旋回体3の旋回角度を判別する。当該コントローラ10の筐体10a上部には、本実施形態の場合、警報ランプ10bが設けられており、コントローラ10が走行規制を実行したときに点灯して運転者に報知するようにしてある。本実施形態のコントローラ10を収めた筐体10aは、磁力により運転席4の支柱等に取り付けることができるように工夫されている。
【0015】
本実施形態の被検出面11は、下部走行体1から突出した旋回軸受2の外周において円周方向へ180°の角度範囲延伸している(図2参照)。例えば、被検出面11は、旋回軸受2の360°の外周面のうちの180°の角度範囲(つまり半分)にアルミ箔を貼り付けるなどして、その他の部位とは反射率や色を変えた部分である。図2に示すように、本実施形態における被検出面11は、旋回角度45°〜225°の範囲に設定されている。
【0016】
上部旋回体3の下面に固定された2つのセンサ12,13は、旋回軸受2の外周面における被検出面11と被検出面11以外の面とで出力が変化する、例えばフォトセンサである。このような2つのセンサ12,13は、本実施形態の場合、旋回軸受2の周囲に円周方向へ90°互いに離間させて設けてあり、上部旋回体3と一緒に動いて旋回軸受2の周囲を旋回する。
【0017】
被検出面11により変化するセンサ12,13の出力に基づいてコントローラ10が上部旋回体3の旋回角度を判別する仕組みについて、図2A〜Dに説明している。
本実施形態においては、作業装置5のブーム5aが運転席4の右側に配置され、運転者の視界を妨げているので、運転席4から右方向に死角が多く、運転席4の難視界方向となる。また、運転席4の後にエンジンが搭載されているので、運転席4から後方にも死角が多く、この方向も運転席4の難視界方向となる。コントローラ10は、センサ12,13の出力に基づいて上部旋回体3の旋回角度を判別し、該判別した旋回角度における運転席4の難視界方向に該当する下部走行体1の走行方向(前進、後進)を判断する。
【0018】
図2Aは、上部旋回体3の旋回角度が0°±45°にあるとき、すなわち運転席4が前方を向いているときを示している。
このときには、2つのセンサ12,13が両方とも被検出面11を感知し、例えば高電位の論理ハイ信号をコントローラ10へ出力する。両センサ12,13の論理ハイ出力を受信したコントローラ10は、上部旋回体3の旋回角度を0°±45°と判別し、当該旋回角度における運転席4の難視界方向に該当する下部走行体1の走行方向を判断する。図2Aの場合、難視界方向に該当する下部走行体1の走行方向は、エンジンのある、運転席4の後方に該当する後進なので、コントローラ10は、走行レバー4a,4bが後進の操作方向(R)へ操作されるときに、下部走行体1の走行を強制的に抑止する。
【0019】
図2Bは、上部旋回体3の旋回角度が180°±45°にあるとき、すなわち運転席4が後方を向いているときを示している。
このときには、2つのセンサ12,13が両方とも被検出面11以外の部位を感知し、例えば低電位の論理ロウ信号をコントローラ10へ出力する。両センサ12,13の論理ロウ出力を受信したコントローラ10は、上部旋回体3の旋回角度を180°±45°と判別し、当該旋回角度における運転席4の難視界方向に該当する下部走行体1の走行方向を判断する。図2Bの場合、難視界方向に該当する下部走行体1の走行方向は、エンジンのある、運転席4の後方に該当する前進なので、コントローラ10は、走行レバー4a,4bが前進の操作方向(F)へ操作されるときに、下部走行体1の走行を強制的に抑止する。
【0020】
図2Cは、上部旋回体3の旋回角度が90°±45°にあるとき、すなわち運転席4が左方向を向いているときを示している。
このときには、一方のセンサ12が被検出面11を感知し且つ他方のセンサ13が被検出面11以外の部位を感知するので、センサ12が論理ハイ信号、センサ13が論理ロウ信号をコントローラ10へ出力する。センサ12の論理ハイ出力及びセンサ13の論理ロウ出力を受信したコントローラ10は、上部旋回体3の旋回角度を90°±45°と判別し、当該旋回角度における運転席4の難視界方向に該当する下部走行体1の走行方向を判断する。図2Cの場合、難視界方向に該当する下部走行体1の走行方向は、ブーム5aのある、運転席4の右方向に該当する前進なので、コントローラ10は、走行レバー4a,4bが前進の操作方向(F)へ操作されるときに、下部走行体1の走行を強制的に抑止する。
【0021】
図2Dは、上部旋回体3の旋回角度が270°±45°にあるとき、すなわち運転席4が右方向を向いているときを示している。
このときには、一方のセンサ12が被検出面11以外の部位を感知し且つ他方のセンサ13が被検出面11を感知するので、センサ12が論理ロウ信号、センサ13が論理ハイ信号をコントローラ10へ出力する。センサ12の論理ロウ出力及びセンサ13の論理ハイ出力を受信したコントローラ10は、上部旋回体3の旋回角度を270°±45°と判別し、当該旋回角度における運転席4の難視界方向に該当する下部走行体1の走行方向を判断する。図2Dの場合、難視界方向に該当する下部走行体1の走行方向は、ブーム5aのある、運転席4の右方向に該当する後進なので、コントローラ10は、走行レバー4a,4bが後進の操作方向(R)へ操作されるときに、下部走行体1の走行を強制的に抑止する。
【0022】
上記のように、上部旋回体3の旋回角度に応じて下部走行体1の所定方向への走行を抑止するとき、本実施形態のコントローラ10は、走行用油圧モータへの油圧供給を抑止する。この油圧供給抑止回路について、図3に第1例を、図4に第2例を示している。
【0023】
まず、下部走行体1の左右クローラは、それぞれ走行用油圧モータ1a,1bにより駆動される。これら走行用油圧モータ1a,1bには、上部旋回体3に搭載されたエンジンにより駆動される油圧ポンプ3a及びタンク3bにより油圧が供給される。油圧ポンプ3aから作動油を吐出する経路が高圧側油路H、タンク3bへ作動油を戻す経路が低圧側油路Lで、走行用油圧モータ1a,1bに対してこれら高圧側油路H及び低圧側油路Lを切り換えて接続する切換弁V1,V2が設けられる。切換弁V1,V2がニュートラル位置(N)にあるときには、高圧側油路H及び低圧側油路Lが走行用油圧モータ1a,1bへ接続されず、走行用油圧モータ1a,1bは、油圧が供給されないので回転しない。切換弁V1,V2が前進位置(F)へ駆動されると、高圧側油路H及び低圧側油路Lが順方向接続されるので、走行用油圧モータ1a,1bは前進回転する。一方、切換弁V1,V2が後進位置(R)へ駆動されると、高圧側油路H及び低圧側油路Lが逆方向接続されるので、走行用油圧モータ1a,1bは後進回転する。
【0024】
切換弁V1,V2は、ニュートラル位置が原位置であり、パイロット油圧を供給することにより前進位置と後進位置とに駆動される。パイロット油圧は、上部旋回体3に搭載されたエンジンにより駆動されるパイロットポンプ3c及びタンク3dにより供給される。パイロットポンプ3cから作動油を吐出する経路が高圧側油路PH、タンク3dへ作動油を戻す経路が低圧側油路PLで、その高圧側油路PHによる油圧が、走行レバー4a,4bの操作方向に応じるパイロット弁P1,P2からパイロット油路PF,PRを通しパイロット油圧として切換弁V1,V2へ供給され、これに従って切換弁V1,V2が切り換わる。
【0025】
運転席4に設けられたロックレバー4cは、上述のように、ロック位置にあるときに走行用油圧モータ1a,1bへの油圧供給を抑止する機能をもち、当該機能を実行する油圧供給抑止回路として、電磁弁Eを備えている。電磁弁Eは、ニュートラル位置(N)を原位置とし、通電により駆動位置(D)へ制御される。したがって、ロックレバー4cは、解除位置で電磁弁Eに通電し、これに従い電磁弁Eが駆動位置へ制御されている。そして、ロックレバー4cがロック位置になると、電磁弁Eへの通電が断たれて、電磁弁Eはニュートラル位置へ復帰する。走行規制装置のコントローラ10は、このロックレバー4cと電磁弁Eとの間の通電経路に介在し、センサ12,13の出力及び走行レバー4a,4bの操作方向に応じて、電磁弁Eへの通電を、ロックレバー4cの動作に加えて制御する。
【0026】
図3に示す第1例の場合、電磁弁Eは、走行用油圧モータ1a,1bへ油圧を供給する高圧側油路H及び低圧側油路Lに介在し、その遮断/開通を切り換える。すなわち、電磁弁Eがニュートラル位置にあると、高圧側油路H及び低圧側油路Lが遮断されて走行用油圧モータ1a,1bへの油圧供給が抑止される。そして、電磁弁Eが駆動位置にあると、高圧側油路H及び低圧側油路Lが開通して走行用油圧モータ1a,1bへ油圧を供給可能になる。走行用油圧モータ1a,1bに油圧が供給されなければ、切換弁V1,V2がニュートラル位置以外の位置へ駆動されたとしても、走行用油圧モータ1a,1bが回転することはない。コントローラ10は、図2で説明したように、上部旋回体3の現在の旋回角度における難視界方向に該当する走行方向へ下部走行体1を走行させる走行レバー4a,4bの操作が検出されると、電磁弁Eへの通電を断つことにより、電磁弁Eをニュートラル位置へ復帰させ、油圧の供給を抑止する。
【0027】
図4に示す第2例の場合、電磁弁Eは、パイロット弁P1,P2へ油圧を供給する高圧側油路PH及び低圧側油路PLに介在し、その遮断/開通を切り換える。すなわち、電磁弁Eがニュートラル位置にあると、高圧側油路PH及び低圧側油路PLが遮断されてパイロット弁P1,P2への油圧供給が抑止される。そして、電磁弁Eが駆動位置にあると、高圧側油路PH及び低圧側油路PLが開通してパイロット弁P1,P2へ油圧が供給される。パイロット弁P1,P2へ油圧が供給されなければ、走行レバー4a,4bの操作があってもパイロット油圧が発生しないので、切換弁V1,V2がニュートラル位置から動くことはない。したがって、走行用油圧モータ1a,1bへの油圧供給は抑止され、走行用油圧モータ1a,1bが回転することはない。コントローラ10は、図2で説明したように、上部旋回体3の現在の旋回角度における難視界方向に該当する走行方向へ下部走行体1を走行させる走行レバー4a,4bの操作が検出されると、電磁弁Eへの通電を断つことにより、電磁弁Eをニュートラル位置へ復帰させ、油圧の供給を抑止する。
【0028】
コントローラ10が、走行レバー4a,4bの操作方向を検出する仕組みについて、図5に第1例を、図6に第2例を示している。
【0029】
図5に示す第1例は、走行レバー4a,4bの頭部に設けられたノブ20が運転者の操作によって傾倒することを感知して、操作方向を検出する例である。図中、中央に示すのが、ニュートラル位置(N)にあるときの走行レバー4a,4b、左側に示すのが、下部走行体1を前進させるために前方(F)へ操作されるときの走行レバー4a,4b、右側に示すのが、下部走行体1を後進させるために後方(R)へ操作されるときの走行レバー4a,4bである。
【0030】
ノブ20には傾倒センサ21が内蔵されており、ノブ20はその傾倒センサ21を介し前後へ傾倒可能にして走行レバー4a,4bへ取り付けられる。傾倒センサ21は、ノブ側固定部21aとレバー側固定部21bとを互いにヒンジ接続した構造をもち、ニュートラル位置にあるノブ20に対して前方又は後方へ操作する力が加えられると、走行レバー4a,4bに先立ってノブ側固定部21aとレバー側固定部21bとの角度が変化することにより、信号を発生する。このような傾倒センサ21としては、例えばトグルスイッチを使用することができ、トグルスイッチの本体部分をノブ側固定部21aとしてノブ20内に固定すると共に、トグルスイッチのレバー部分をレバー側固定部21bとして走行レバー4a,4bの頭部に固定した構造とすることができる。このような傾倒センサ21を内蔵したノブ20を設けることにより、運転者がノブ20を持って走行レバー4a,4bを前進の操作方向又は後進の操作方向へ操作しようとすると、まず最初にノブ20がその操作方向へ傾倒し、当該傾倒方向に応じた信号が傾倒センサ21からコントローラ10へ出力される。コントローラ10は、該傾倒センサ21の出力に基づいて走行レバー4a,4bの操作方向を検出することができる。
【0031】
図6に示す第2例は、パイロット弁P1,P2から切換弁V1,V2へ供給されるパイロット油圧の発生を感知して、走行レバー4a,4bの操作方向を検出する例である。なお、図6には、図3の油圧回路へ適用した場合を示しているが、図4の油圧回路へ適用することも可能である。このパイロット油圧を感知する第2例によれば、下部走行体1を走行させる操作手段として、走行レバーではなくペダルが使用されている場合でも、走行規制装置を適用することが容易である。
【0032】
図3及び図4で示したように、走行用油圧モータ1a,1bへの油圧供給を制御する切換弁V1,V2は、パイロット弁P1,P2から供給されるパイロット油圧により切り換え駆動される。したがって、運転者に操作される走行レバー4a,4bがパイロット弁P1,P2を駆動することで発生するパイロット油圧を感知すれば、走行レバー4a,4bの操作方向を検出することができる。第2例ではこのために、パイロット弁P1,P2から切換弁V1,V2へパイロット油圧を供給するパイロット油路PF,PRに三方継手30を介在させると共に、該三方継手30の分岐路の1つに圧力スイッチ31を接続して、この圧力スイッチ31によりパイロット油圧を感知する構造としている。コントローラ10は、一方のパイロット油路PFに設けられた圧力スイッチ31から油圧感知信号が出力されると、走行レバー4a,4bが、下部走行体1を前進させる操作方向へ操作されたと検出することができ、また、他方のパイロット油路PRに設けられた圧力スイッチ31から油圧感知信号が出力されると、走行レバー4a,4bが、下部走行体1を後進させる操作方向へ操作されたと検出することができる。
【0033】
以上、バックホウを一例として実施形態を説明したが、その他の油圧ショベル、クレーンなど、多様な作業機械に上記の走行規制装置を適用可能なことは、当然理解できることである。
【符号の説明】
【0034】
1 下部走行体
1a,1b 走行用油圧モータ
2 旋回軸受
3 上部旋回体
3a 油圧ポンプ
3b タンク
3c パイロットポンプ
3d タンク
4 運転席
4a,4b 走行レバー(操作手段)
4c ロックレバー
5 作業装置
5a ブーム
5b アーム
5c バケット
5d〜5f 油圧シリンダ
6 排土板
6a 油圧シリンダ
10 コントローラ(走行規制装置)
10a 筐体
10b 警報ランプ
11 被検出面
12,13 センサ
20 ノブ
21 傾倒センサ
21a ノブ側固定部
21b レバー側固定部
30 三方継手
31 圧力スイッチ
V1,V2 切換弁
P1,P2 パイロット弁
E 電磁弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用油圧モータにより走行する下部走行体と、
該下部走行体の旋回軸受により軸支されると共に運転席及び作業装置が配置される上部旋回体と、
を含んで構成される作業機械のための走行規制装置であって、
前記旋回軸受の外周において円周方向へ所定の角度範囲延伸する被検出面と、
該被検出面を備えた旋回軸受の周囲に円周方向へ所定の角度互いに離間させて設けられ、前記上部旋回体の旋回に従って前記旋回軸受周囲を旋回する、複数のセンサと、
前記被検出面により変化する前記センサの出力に基づいて前記上部旋回体の旋回角度を判別するコントローラと、
を含んで構成され、
前記コントローラは、
前記判別した旋回角度における前記運転席の難視界方向に該当する前記下部走行体の走行方向を判断し、
前記下部走行体の走行方向を制御するために前記運転席に設けられた操作手段が、前記判断した走行方向へ前記下部走行体を走行させる操作方向へ操作されるときに、前記下部走行体の走行を抑止する、
走行規制装置。
【請求項2】
前記操作手段が走行レバーである場合、当該走行レバー頭部のノブの傾倒を感知する傾倒センサが設けられ、
前記コントローラは、該傾倒センサの出力に基づいて前記走行レバーの操作方向を検出する、
請求項1記載の走行規制装置。
【請求項3】
前記走行用油圧モータへ油圧を供給する油路の高圧側及び低圧側を切り換える切換弁と、
該切換弁を駆動するパイロット油圧を、前記操作手段に従って前記切換弁へ供給するパイロット弁と、
が前記作業機械に含まれており、
前記パイロット油圧を感知する油圧センサが設けられると共に、
前記コントローラは、前記パイロット弁から供給されるパイロット油圧を感知した前記油圧センサの出力に基づいて、前記操作手段の操作方向を検出する、
請求項1記載の走行規制装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記走行用油圧モータへの油圧供給を抑止することにより前記下部走行体の走行を抑止する、
請求項1〜3のいずれかに記載の走行規制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−162956(P2012−162956A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25841(P2011−25841)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(590002482)株式会社NIPPO (130)
【出願人】(391029347)西尾レントオール株式会社 (16)
【Fターム(参考)】