説明

係留装置

【課題】波浪などによる浮体構造物の揺動を効果的に抑制して減衰させ、ストロークの大きい潮位の変動に対応できる。
【解決手段】浮体構造物1と、浮体構造物1の底側に配置された可動フレーム4と、浮体構造物1と可動フレーム4とを伸縮自在でかつ傾動自在に連結する複数の緩衝装置5と、可動フレーム4の周辺位置に設置された複数の杭2と、可動フレーム4と杭2との間に介在されて可動フレーム4の側方への移動を規制するとともに昇降を案内するスタビライザ3とを具備した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湾岸や湖沼岸などで、浮桟橋やポンツーンなどの浮体構造物の揺動を抑制して係留するための係留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1(図3)に開示された係留装置は、図8に示すように、複数の組杭52に伸縮アーム(緩衝装置)53を介して上面開口の浮体容器51が係留され、浮体容器51内に、上面に敷設体54aを有する構造物本体54が昇降自在に配置されている。そして浮体容器51内の底面に、構造物本体54との間に弾性部材55を介して支持する受け筒56を立設し、構造物本体54の底部から垂下されて下部が受け筒56にスライド自在に嵌合される脚筒57を垂設している。さらに、浮体容器51内に緩衝用空気室58が形成され、緩衝用空気室58内の空気を吸引・排出する通気通路59が、構造物本体54と浮体容器51の側壁との間に形成されている。
【特許文献1】特開平6−144363号公報(図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、波浪などにより浮体構造物に生じる揺動は、3つの直線揺動モードと3つの回転揺動モードがある。3つの直線揺動モードは、水平方向に沿って前後に揺れる揺動(surge)(以下、前後の水平軸方向の直線揺動という)と、水平方向に沿って左右に揺れる揺動(sway)(以下、左右の水平軸方向の直線揺動という)と、鉛直軸方向に沿って上下に揺れる揺動(heave)(以下、鉛直軸方向の直線揺動という)からなり、また3つの回転揺動モードは、前後の水平軸を中心として円弧方向に揺れる揺動(roll)(以下、前後の水平軸周りの回転揺動という)と、左右の水平軸を中心として円弧方向に揺れる揺動(pitch)(以下、左右の水平軸周りの回転揺動という)と、鉛直軸を中心として円弧方向に揺れる揺動(yaw)(以下、鉛直軸周りの回転揺動という)とからなる。
【0004】
特許文献1では、緩衝用空気室58内の空気が通気通路59から押出し・吸引される時の抵抗による緩衝作用と、弾性部材55の緩衝作用とにより、鉛直軸方向の直線揺動が効果的に抑制されるとともに、その衝撃が緩和される。しかし、水平方向の直線揺動や水平軸周りの回転揺動を、組杭52に連結された伸縮アーム53のみで抑制するもので、波浪等の大きい抑制・減衰効果が望めないという問題があった。また伸縮アーム53では、ストロークの大きい潮位の変動に対応できないという問題があった。
【0005】
本発明は上記問題点を解決して、波浪などによる揺動を効果的に抑制して減衰することができ、かつストロークの大きい潮位の変動に対応することができる係留装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の係留装置は、浮体構造物と、浮体構造物の底側に配置された可動フレームと、浮体構造物と可動フレームとを伸縮自在でかつ傾動自在に連結する複数の緩衝装置と、可動フレームの周辺位置に設置された規制体と、可動フレームと規制体との間に介在されて可動フレームの側方への移動を規制するとともに昇降を案内する可動緩衝具とを具備したものである。
【0007】
請求項2記載の係留装置は、請求項1記載の構成において、規制体は、水底に立設固定された複数の杭からなり、可動緩衝具は、前記杭の胴部に遊嵌される円筒体を有し、前記杭の胴部と前記円筒体の内周面との摺接部の少なくとも一方に、摩擦により可動フレームの揺動を抑制する摩擦促進部が設けられたものである。
【0008】
請求項3記載の係留装置は、請求項1または2記載の構成において、緩衝装置は、浮体構造物に取り付けられる上端部材と、可動フレームに取り付けられる下端部材と、前記上端部材と前記下端部材とを伸縮自在でかつ傾動自在に接続する中空状の蛇腹部材と、当該蛇腹部材の中空部に充填された充填水とからなり、浮体構造物の揺動により、前記蛇腹部材の中空部の充填水を押出し・吸引自在な通水通路を設けたものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、可動フレームと浮体構造物との間に複数の緩衝装置を介在させ、さらに規制体と可動フレームとの間に可動緩衝具を設けたので、鉛直軸方向の直線揺動や前後、左右の水平軸周りの回転揺動を効果的に抑制して減衰させることができる。また可動緩衝具により、規制体に案内されて可動フレームが昇降されるので、浮体構造物をストロークの大きい潮位の変動に容易に対応させることができる。
【0010】
請求項2記載の発明によれば、可動緩衝具に設けられた摩擦促進部により、前後、左右の水平軸周りの回転揺動を効果的に抑制して減衰させることができる。
請求項3記載の発明によれば、緩衝装置に蛇腹部材を採用して、蛇腹部材の中空部に充填した充填水を通水通路から押出し・吸引するように構成し、充填水の押出し・吸引時の抵抗と蛇腹部材の弾性とにより、蛇腹部材の伸縮と傾動を抑制して、浮体構造物の鉛直軸方向の直線揺動と前後、左右の水平軸周りの回転揺動とをさらに効果的に減衰させることができる。また波浪などによる浮体構造物の揺動周期に対応して、通水通路の断面積を設定することにより、押出し・吸引時の充填水の抵抗を調整して浮体構造物の揺動を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図7に基づいて説明する。
[実施の形態]
図1〜図3に示すように、湾岸(湖沼岸)の所定位置に、船を接岸するための船舶接岸部1aを有する矩形箱体状の浮体構造物1が配置され、この浮体構造物1の外周部で四隅位置に、海底(水底)に海面(水面)上に突出される杭(規制体)2が立設固定されている。そして浮体構造物1の底側に、全体が海中に没するとともに浮体構造物1と揺動特性(振幅や周期)が異なる可動フレーム4が配置され、可動フレーム4と浮体構造物1の間に伸縮および傾動自在な蛇腹式の緩衝装置5がそれぞれ四隅側に介在されて、可動フレーム4と浮体構造物1とが連結されている。また可動フレーム4の四隅位置にそれぞれスタビライザ(可動緩衝具)3が取り付けられ、これらスタビライザ3は杭2にそれぞれ昇降自在でかつ傾動自在に連結されている。
【0012】
前記可動フレーム4は、左右の杭2にスタビライザ3を介して連結される前後一対の横ビーム4aと、横ビーム4aの中間部を連結する左右一対の前後ビーム4bとにより、平面視が井桁状に形成されている。
【0013】
前記緩衝装置5は、図4に示すように、浮体構造物1の底面に取り付けられた上端板(上端部材)11と、可動フレーム4の横ビーム4aと前後ビーム4bの連結部に取り付けられた下端板(下端部材)12と、上端板11と下端板12とを連結する中空で円筒状の蛇腹部材13と、蛇腹部材13の中空部に充填された充填水(海水)14とを具備している。前記蛇腹部材13は、弾性を有する樹脂などにより形成されて、上端板11と下端板12とを互いに接近離間自在でかつ互いに傾動自在に連結している。この緩衝装置5における蛇腹部材13の径や個数、強度(厚み)、弾性(形状や材質)などの条件は、浮体構造物1の大きさや係留装置の設置海域の海象条件などにより決定される。
【0014】
さらに上端板11と下端板12には、蛇腹部材13内の充填水14を押出し・吸引可能な複数(または単数)の通水通路15A,15Bがそれぞれ形成されている。これら通水通路15A,15Bの通路断面は、充填水14の押出し・吸引時に抵抗を付与して蛇腹部材13の伸縮と浮体構造物1の傾動を抑制するもので、係留装置が設置される海域(水域)の波浪などの海象条件に基づいて設定される。すなわち、波浪などによる浮体構造物1の揺動周期が大きい海象条件下では、充填水14の押出し・吸引がゆっくりと行われるように、通水通路15A,15Bの通路断面が小さく形成され、また波浪などによる浮体構造物1の揺動周期が小さい海象条件下では、充填水14の押出し・吸引が速く行われるように、通水通路15A,15Bの通路断面が大きく形成される。なお、通水通路15A,15Bに、通路断面を絞り開放可能な絞り弁や、開口面積の異なるものと交換可能なオリフィス部材などの調整具を設けておき、設置時にその海象条件に合わせて通路断面を調整することもできる。もちろん、通水通路15A,15Bの開口部の近傍には、海草やごみなどの不純物の流入を防止するろ過具(図示せず)が設けられる。
【0015】
図6に示すように、前記緩衝装置5によれば、浮体構造物1と可動フレーム4とを接近離間自在でかつ傾動自在に連結し、可動フレーム4に対する浮体構造物1の揺動を効果的に抑制して減衰させることができる。すなわち、蛇腹部材13の伸縮性(弾性)と、充填水14の押出し・吸引時の抵抗とにより、鉛直軸方向の直線揺動Cと、前後、左右の水平軸周りの回転揺動E,Fをそれぞれ効果的に抑制することができる。さらに蛇腹部材13の弾性により許容される上端板11と下端板12との間の前後、左右方向の変位量の範囲で、前後、左右の水平軸方向の直線揺動A,Bと、鉛直軸周りの回転揺動Gとを抑制し、揺動による衝撃を緩和することができる。
【0016】
前記スタビライザ3は、杭2の円柱状の胴部2aに遊嵌される円筒部(被ガイド部)3aと、この円筒部3aの内周面全体に取り付けられた摩擦促進部材(摩擦促進部)3bとで構成されている。前記摩擦促進部材3bは、杭2の胴部2aに対する摩擦力が大きく、かつ弾性を有する材質でたとえば合成ゴムや樹脂などにより形成される。この摩擦促進部材3bは、杭2の胴部2aの外周面に設けてもよいし、円筒部3aの内周面と胴部2aの外周面の両方に設けることもできる。また胴部2a全体および/または円筒部3a全体を、摩擦促進部材3bと同様に摩擦を生じさせることができる材質により形成してもよい。
【0017】
また胴部2aとスタビライザ3の摩擦促進部材3bとの間には、所定の隙間dが形成され、これにより可動フレーム4の昇降と傾動とを許容するとともに、胴部2aと摩擦促進部材3bとの摩擦により可動フレーム4の揺動を抑制して減衰させることができる。
【0018】
このスタビライザ3によれば、摩擦促進部材3bと胴部2aとの摩擦により、可動フレーム4の鉛直軸方向の直線揺動Cと、前後、左右の水平軸周りの回転揺動E,Fを効果的に抑制して減衰させ、衝撃を緩和することができる。さらに摩擦促進部材3bの弾性により、可動フレーム4の前後、左右の水平軸方向の直線揺動A,Bと鉛直軸周りの回転揺動Gによる衝撃を緩和することができる。
【0019】
上記実施の形態によれば、杭2にスタビライザ3を介して可動フレーム4を設けたので、ストロークの大きい潮位の変動に浮体構造物1を容易に追従させて対応することができる。
【0020】
また図7に示すように、波浪により係留装置が揺動されると、一部が海面上に露出しかつ十分な容積を有する浮力構造物1の揺動特性と、杭2にスタビライザ3を介して案内される可動フレーム4の揺動特性とが異なるため、可動フレーム4と浮体構造物1の間に介在させた複数の緩衝装置5の伸縮により、浮体構造物1の鉛直軸方向の直線揺動Cと、前後、左右の水平軸周りの回転揺動E,Fが効果的に抑制されて揺動を減衰させ、さらに衝撃を緩和することができる。また蛇腹部材13と摩擦促進部材3bの弾性により、浮体構造物1の前後、左右の水平軸方向の直線揺動A,Bと、鉛直軸周りの回転揺動Gによる衝撃を緩和することができる。これにより簡単な構造で、浮体構造物1の揺動を抑制することができる。
【0021】
また、緩衝装置5において、蛇腹部材13の伸縮および傾動に伴って内部の充填水を通水通路15a,15bから押出し・吸引させた時の抵抗により、蛇腹部材13の伸縮を抑制して浮体構造物1の揺動をさらに効果的に抑制して減衰させることができる。また通水通路15a,15bの断面を、設置水域に波浪などにより発生する浮体構造物1の揺動周期に合わせて設定することにより、浮体構造物1の揺動をさらに効果的に抑制して減衰させることができる。
【0022】
さらに、可動フレーム4がスタビライザ3を介して杭2の胴部2aに案内され昇降されることから、浮体構造物1のストロークの大きい潮位の変動に容易に対応することができ、また可動フレーム4の浮体構造物1の鉛直軸方向の直線揺動Cや、前後、左右の水平軸周りの回転揺動E,Fが抑制されて減衰されるとともに、浮体構造物1の揺動による衝撃が緩和される。
【0023】
なお、上記実施の形態1では、緩衝装置5の蛇腹部材13の中空部に、充填水14を通水通路15A,15Bを介して押出し・吸引自在としたが、中空部に抵抗なく周囲の海水(水)が出入りするように構成することで、蛇腹部材13の弾性だけを利用して伸縮および傾動させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る係留装置の実施の形態を示す正面図である。
【図2】係留装置の平面図である。
【図3】係留装置の斜視図である。
【図4】緩衝装置の縦断面図である。
【図5】スタビライザの縦断面図である。
【図6】浮体構造物の揺動動作を示す正面図である。
【図7】浮体構造物と可動フレームの揺動動作を示す正面図である。
【図8】従来の係留装置の横断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 浮体構造物
2 杭(規制体)
2a 胴部
3 スタビライザ(可動緩衝具)
3a 円筒部
3b 摩擦促進部材(摩擦促進部)
4 可動フレーム
5 緩衝装置
11 上端板
12 下端板
13 蛇腹部材
14 充填水
15A,15B 通水通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮体構造物と、
浮体構造物の底側に配置された可動フレームと、
浮体構造物と可動フレームとを伸縮自在でかつ傾動自在に連結する複数の緩衝装置と、
可動フレームの周辺位置に設置された規制体と、
可動フレームと規制体との間に介在されて可動フレームの側方への移動を規制するとともに昇降を案内する可動緩衝具とを具備した
係留装置。
【請求項2】
規制体は、水底に立設固定された複数の杭からなり、
可動緩衝具は、前記杭の胴部に遊嵌される円筒体を有し、前記杭の胴部と前記円筒体の内周面との摺接部の少なくとも一方に、摩擦により可動フレームの揺動を抑制する摩擦促進部が設けられた
請求項1記載の係留装置。
【請求項3】
緩衝装置は、浮体構造物に取り付けられる上端部材と、可動フレームに取り付けられる下端部材と、前記上端部材と前記下端部材とを伸縮自在でかつ傾動自在に接続する中空状の蛇腹部材と、当該蛇腹部材の中空部に充填された充填水とからなり、浮体構造物の揺動により、前記蛇腹部材の中空部の充填水を押出し・吸引自在な通水通路を設けた
請求項1または2記載の係留装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−321481(P2007−321481A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−154097(P2006−154097)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】