説明

倒立走行ロボット及びその制御方法

【課題】障害物の近傍で着地状態から倒立状態へ移行する際に、障害物への接触・衝突を回避することができる倒立走行ロボットを提供すること。
【解決手段】本発明の一態様に係る倒立走行ロボットは、駆動軸C1、C2回りに回転する車輪31、32と接地部材33とが床面に接した着地状態から、車輪31、32が床面に接し接地部材33が床面から離れる倒立状態とする際に、倒立走行ロボット1の周囲の障害物から可動台11を遠ざける方向に移動させるように可動台駆動部を制御し、前後方向における車体部10の重心位置を、駆動軸C1、C2よりも障害物から遠ざけるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、倒立走行ロボット及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一対の車輪を有する倒立走行ロボットは、車体部の重心位置を車輪の接地位置に対して鉛直方向に維持するように車輪を駆動することで、倒立状態を維持しつつ移動を行うことができる。倒立走行ロボットは、その重心を前方へ移動させることで、移動した重心位置の真下に車輪の接地位置がくるように車輪が駆動され、前方へ移動することができる。倒立走行ロボットは、物体を載置して移動させる台車や、人間が搭乗して移動を行うための移動手段として利用されている。このような倒立走行ロボットは、特許文献1〜4に記載されている。
【0003】
特許文献1、2には、車体上の荷重を計測するセンサを用いた倒立走行ロボットが記載されている。特許文献1には、把持する重量物の種類に応じて、重量物把持装置を台車進行方向前後にスライド移動する機構を備える倒立振子型台車ロボットが記載されている。特許文献2には、荷台にベルトコンベアを配置し、荷物を姿勢の安定化方向に移動させることにより、合成重心位置が常に設計位置付近にあるように補正動作を行う2輪走行型荷物運搬ロボットが記載されている。
【0004】
特許文献3には、外力により発生する外力モーメントを推定し、車体の重心の重力モーメントが外力モーメントと釣り合うように車体の目標傾斜角度を設定し、目標傾斜角度に基づきトルク指令値を算出する2輪型の移動台車が記載されている。特許文献4には、姿勢センサの変化から人間の意図を判定し、動作モードを決定する倒立2輪走行ロボットが記載されている。
【特許文献1】特開2004−345030号公報
【特許文献2】特開2006−123854号公報
【特許文献3】特開2007−11634号公報
【特許文献4】特開2006−123014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
倒立走行ロボットでは、人が搭乗する際には一対の車輪と接地部材の両方が床面に接した着地状態となっており、人が搭乗した後に接地部材が床面から離れ一対の車輪のみが床面に接した倒立状態となる。壁際等の障害物が近くにある状態で倒立制御を開始するとき、搭乗者の姿勢によっては障害物のほうに重心が偏ってしまい、倒立走行ロボットが障害物のある方向へ移動し、障害物に接触・衝突するおそれがある。
【0006】
本発明は、このような事情を背景としてなされたものであり、本発明の目的は、障害物の近傍で着地状態から倒立状態へ移行する際に、障害物への接触・衝突を回避することができる倒立走行ロボット及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る倒立走行ロボットは、駆動軸回りに回転する車輪と、前記車輪と離間して設けられ、接地可能な接地部材と、前記車輪を回転駆動させる車輪駆動部と、前記車輪を保持する車台と、支持部材を介して前記車台に対して回動可能に支持された車体部と、前記車体部に含まれ、車体フレームに対して前後方向に移動可能に支持される可動台と、前記車体フレームに対して前記可動台を相対的に移動させる可動台駆動部と、前記支持部材を駆動し、前記車輪と前記接地部材とが床面に接した着地状態から、前記車輪が床面に接し前記接地部材が床面から離れる倒立状態とする立ち上がり駆動部と、前記車輪駆動部を制御して床面に接する前記車輪の回転駆動を制御することで、前記車部の倒立状態を維持する制御部とを備える倒立走行ロボットであって、前記制御部は、前記倒立走行ロボットを前記着地状態から前記倒立状態とする際に、前記倒立走行ロボットの周囲の障害物から前記可動台を遠ざける方向に移動させるように前記可動台駆動部を制御し、前後方向における前記車体部の重心位置を、前記駆動軸よりも前記障害物から遠ざける、又は、前記駆動軸と略同じ位置となるようにするものである。これにより、車体部の重心を障害物から遠ざける方向にずらすことができ、障害物との衝突を回避することができる。
【0008】
本発明の第2の態様に係る倒立走行ロボットは、上記の倒立走行ロボットにおいて、前記障害物を検出する検出部をさらに備え、前記制御部は、前記検出部の検出結果に基づいて前記可動台を移動させることを特徴とするものである。これにより、障害物がある位置を検出して倒立走行ロボットの重心を傾けることができ、障害物との衝突を回避することができる。
【0009】
本発明の第3の態様に係る倒立走行ロボットは、上記の倒立走行ロボットにおいて、前記制御部は、前記倒立走行ロボットの重心変動予想量を算出し、前記倒立走行ロボットを前記着地状態から前記倒立状態とする前に、前記可動台を前記重心変動予想量に応じたシフト量だけ移動させることを特徴とするものである。これにより、障害物との衝突をより確実に回避することができる。
【0010】
本発明の第4の態様に係る倒立走行ロボットは、上記の倒立走行ロボットにおいて、前記車体部の重心位置を求める重心検出部を備え、前記制御部は、前記重心検出部の検出結果に基づいて、前記倒立走行ロボットを着地状態から倒立状態とする際に前記倒立走行ロボットの床面に対する相対位置が略変化しないように、前記可動台を移動させることを特徴とするものである。これにより、車輪の接地位置から移動せずに倒立状態へと移行することができ、障害物との衝突を回避することが可能となる。
【0011】
本発明の第5の態様に係る倒立走行ロボットの制御方法は、車台と、前記車台に取り付けられ駆動軸回りに回転する車輪と、前記車輪と離間して設けられ接地可能な接地部材と、前記車輪を回転駆動させる車輪駆動部と、支持部材を介して前記車台に対して回動可能に支持された車体部と、前記車体部に含まれ、車体フレームに対して前後方向に移動可能に支持される可動台と、前記車体フレームに対して前記可動台を相対的に移動させる可動台駆動部と、前記支持部材を駆動し、前記車輪と前記接地部材とが床面に接した着地状態から、前記車輪が床面に接し前記接地部材が床面から離れる倒立状態とする立ち上がり駆動部とを備える倒立走行ロボットの制御方法であって、前記倒立走行ロボットを前記着地状態から前記倒立状態とする際に、前記倒立走行ロボットの周囲の障害物から前記可動台を遠ざける方向に移動させるように前記可動台駆動部を制御し、前後方向における前記車体部の重心位置を、前記駆動軸よりも前記障害物から遠ざける、又は、前記駆動軸と略同じ位置となるようにするステップと、前記車輪駆動部を制御して床面に接する前記車輪の回転駆動を制御することで、前記車体部の倒立状態を維持するステップとを含む。これにより、車体部の重心を障害物から遠ざける方向に傾けることができ、障害物との衝突を回避することができる。
【0012】
本発明の第6の態様に係る倒立走行ロボットの制御方法は、上記の制御方法において、前記障害物を検出するステップを含み、前記障害物の検出結果に基づいて前記可動台を移動させる。これにより、障害物がある位置を検出して倒立走行ロボットの重心を傾けることができ、障害物との衝突を回避することができる。
【0013】
本発明の第7の態様に係る倒立走行ロボットの制御方法は、上記の制御方法において、前記倒立走行ロボットの重心変動予想量を算出するステップを含み、前記倒立走行ロボットを前記着地状態から前記倒立状態とする前に、前記可動台を前記重心変動予想量に応じたシフト量だけ移動させる。これにより、障害物との衝突をより確実に回避することができる。
【0014】
本発明の第8の態様に係る倒立走行ロボットの制御方法は、上記の制御方法において、前記車体部の重心位置を求め前記重心位置の変化に基づいて、前記倒立走行ロボットを着地状態から倒立状態とする際に前記倒立走行ロボットの床面に対する相対位置が略変化しないように、前記可動台を移動させる。これにより、車輪の接地位置から移動せずに倒立状態へと移行することができ、障害物との衝突を回避することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、障害物の近傍で着地状態から倒立状態へ移行する際に、障害物への接触・衝突を回避することができる倒立走行ロボット及びその制御方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態に係る倒立走行ロボットについて、図1〜4を参照して説明する。図1は、本実施の形態に係る倒立走行ロボット1の構成を示す図である。図2は、図1に示す倒立走行ロボット1を側方から見た様子を概念的なモデルを用いて示す概念図である。倒立走行ロボット1は、移動領域である床面P上を、搭乗者を載置した状態で該搭乗者の操作により移動することができる。
【0017】
図1、図2に示すように、倒立走行ロボット1は、可動台11、車体フレーム16、車台20、第1車輪31、第2車輪32、接地部材33を備えている。図2に示すように、車体部10は、搭乗者を載置する可動台11、接続部材17、車体フレーム16を含む。スイングアーム34に支持される全てのものを車体部10とする。可動台11は、所定形状のフレームで構成されている。可動台11は、搭乗者が着座するための平面板状の座席12と、搭乗者の背面を支持するための背当て部13と、脚支持部14と、足載置部15を有する。
【0018】
背当て部13は座席12に対して上方に向けて略垂直方向に起立するように固定され、着座した搭乗者が後方に向かって重心をかけた際に背中全体と接触し、その体重を支持する。同様に、脚支持部14は、着座した搭乗者の脚部に接触し、その重量を部分的に支持するように、座席12に対して略鉛直下方に伸びるように一端が固定されており、その他端に足載置部15が固定されている。そして、足載置部15は、着座した搭乗者の脚部の膝部分が略垂直に曲がった状態で足平底面が面接触するように、所定の形状および大きさに設計されている。
【0019】
可動台11と車体フレーム16とは、接続部材17により接続されている。接続部材17は、一端が可動台11に対して固定されるとともに、他端が可動台11を車体フレーム16に対して前後方向(倒立走行ロボット1の進行方向)に回動自在となるように接続されている。図3に、可動台11が車体フレーム16に対して移動する様子を示す。図示しないモータ等の可動台駆動部により、制御部18からの信号によって可動台11を回動するタイミングや回動量が制御され、車体フレーム16に対して可動台11を相対的に移動させることができる。すなわち、可動台11は、車体フレーム16に対して相対的に移動可能である。なお、ラックアンドピニオンギア等を用いて、可動台11が車体フレーム16に対して直線的に倒立走行ロボット1の進行方向の前後方向に移動可能に接続されていても良い。ラックアンドピニオンギアの代わりにボールネジなどを用いてスライドさせることも可能である。
【0020】
車体フレーム16には、支持部材であるスイングアーム34が取り付けられている。スイングアーム34は、スイングアーム軸C3により車体フレーム16と結合され、床面に略平行な車体フレーム16をスイング可能に構成されている。立ち上がり駆動部であるモータ35により、スイングアーム34がスイングアーム軸C3を中心に回転することで、車体フレーム16が持ち上げられる。すなわち、スイングアーム34が駆動されることで、車輪31、32と接地部材33とが床面に接した着地状態から、車輪31、32が床面に接し接地部材33が床面から離れる倒立状態となる。
【0021】
スイングアーム34のスイングアーム軸C3とは反対側には、駆動軸C1、C2が設けられている。スイングアーム34は、駆動軸C1、C2により車台20に結合されている。すなわち、車体部10は、支持部材であるスイングアーム34を介して車台20に対して回動可能に支持されている。
【0022】
第1車輪31、第2車輪32は、一対の対向する車輪である。車輪31、32は、車台20に回転可能に保持されている。車体フレーム16には、第1車輪31、第2車輪32の回転駆動を制御するための制御部18が設けられている。駆動軸C1、C2を中心にそれぞれ車輪31、32が回転駆動され、倒立走行ロボット1が移動する。可動台11においては制御部18に操作信号を送信するためのジョイスティック等の操作レバーを備える操作部が設けられており、可動台11に搭乗する搭乗者が該操作部を操作することで、倒立走行ロボット1の移動方向や移動速度が制御される。
【0023】
接続部材17には、車体部10の鉛直方向(図2でいう線分Mの伸びる方向)に対する傾斜角度および傾斜角速度を測定するためのジャイロ17aが取り付けられている。ジャイロ17a、自身の位置が鉛直方向から所定時間の間に傾斜する量、例えば傾斜角速度を検出し、検出した角速度を電気信号に変換して出力可能に構成されており、検出した傾斜角速度に基づいた傾斜角速度信号を制御部18に送信する。
【0024】
制御部18は、ジャイロ17a等からの出力に応じて車輪駆動部であるモータ21、22を制御して床面に接する車輪31、32の回転駆動を制御することで、倒立状態を維持する。また、制御部18は、倒立状態を維持しながら、倒立走行ロボット1の移動をコントロールする。制御部18は、所定のCPUやメモリなどの記憶領域18aを備える小型のコンピュータである。記憶領域18aには、入力される信号に基づいて車輪31、32を駆動する駆動量を決定するための所定のプログラムとともに、移動する移動領域に関するマップ情報などが記憶されている。
【0025】
車体フレーム16の下面の前方及び後方それぞれには、車輪31、32を補助するための接地部材33が車輪31、32と離間して設けられている。接地部材33としては、補助輪、ストッパ等を用いることができる。搭乗者が乗り降りする際には、図2(a)に示すように、車輪31、32が床面に接地するとともに、接地部材33が接地して安定な状態を実現する。この車輪31、32及び前後それぞれの接地部材33が設置している状態を着地状態とする。
【0026】
倒立走行ロボット1が移動する際には、図2(b)に示すように、接地部材33が床面から離れ、車輪31、32のみが床面に接地する状態となる。この接地部材33が床面から離れ、車輪31、32のみが床面に接地している状態を倒立状態とする。倒立状態では、後述する制御部18により、車輪31、32の回転駆動が制御され、車輪31、32だけで倒立した状態を維持することができる。
【0027】
走行司令が与えられた際は、倒立安定状態を維持したまま、指令走行パターンに応じて走行する。走行が終了したら、適切なタイミングで図2(a)に示す状態に戻る。なお、ここでは、車体フレーム16の進行方向の前後に接地部材33をそれぞれ設けた例について説明しているが、これに限定するものではなく、車輪の前後の少なくとも一方でロボット全体を支え、安定静止状態を維持できるストッパなどでもよい。また、車体フレーム16の上下駆動機構としては、スイングアームに限定されず、鉛直方向に立ちあがるためのスライド機構等を用いてもよい。
【0028】
なお、本実施の形態のように、車体フレーム16の上下動作にスイングアーム34を用いる場合には、スイングアーム34が動くにつれて重心が移動してしまう。前後に障害物がない状態では、搭乗者が設計時に定めた所定の姿勢にあると仮定し、その重心が駆動軸C1、C2上にあるように、可動台11を車体フレーム16に対して所定のスライド量だけ前後に動かす。具体的には、スイングアーム34による重心のズレ量を算出して、そのズレ量にあわせて可動台11をスライドさせ、車体部10の重心位置を駆動軸C1、C2からずれないようにする。これにより、搭乗者が設計時に定めた所定の姿勢にある場合には、倒立状態へ移行するときに、倒立走行ロボット1が前後に移動せず、その場での立ち上がり動作(着地状態から倒立状態への移行)をすることができる。
【0029】
図4に示すように、車台20には、モータ21、22、バッテリー23が設けられている。第1車輪31、第2車輪32は、それぞれ駆動軸C1、C2で支持されている。モータ21、22は、車輪31、32を駆動軸C1、C2を中心として回転駆動する車輪駆動部である。モータ21、22は、車輪31、32を各々独立して駆動する。制御部18からの制御信号により車輪31、32に回転トルクを与えることで、車輪31、32のそれぞれの回転数を変化させ、倒立走行ロボット1の進行方向を変化させたり、旋回動作を行うことを可能とする。なお、モータ21、22には、電力供給により過熱状態となることを検出するための図示しない温度センサが設けられ、この温度センサにより過熱状態を検出し、後述する制御部に検出信号を出力することで、モータによる最大トルクの出力ができなくなるといった状態を回避することができる。
【0030】
バッテリー23は、該モータ21、22に電力を供給する。バッテリー23は、車台20の表面から突出して設けられた図示しない被充電用端子に対して電気的に導通しており、充電ステーションに設けられた充電用端子と、前述の被充電用端子とを接触させることで、電力を供給され充電される。
【0031】
車体フレーム16の下方の前面及び後面には、検出部19が設置されている。検出部19は、移動する床面の形状等や障害物等を光学的に認識する。検出部19としては、カメラ、3Dカメラ、レーザレンジセンサ、超音波センサ等の1つ又は2つ以上を組み合わせて用いることができる。例えば、検出部19としてレーザレンジセンサを用いた場合、各々のセンサに設けられた光源から赤外線レーザを照射するとともに、そのレーザの照射方向を水平方向および鉛直方向について揺動するように変化させ、その反射光を受光することで、車体フレーム16の前面下方の床面形状、あるいは、障害物等までの距離を検出することができる。
【0032】
制御部18は、この検出部19により検出された障害物等に関する情報によって、床面上に存在する段差部や障害物等の存在を検知し、これらの障害物等を回避するための経路探索の作成等を行う。また、障害物の近傍で倒立走行ロボット1を車輪31、32と接地部材33とが床面に接した着地状態から、車輪31、32が床面に接し接地部材33が床面から離れる倒立状態とする際に、制御部18は倒立走行ロボット1の周囲の障害物から可動台11を遠ざける方向に移動させる。
【0033】
倒立走行ロボット1は、接地部材33が床面Pから離れ、車輪31、32の2輪のみで接地している倒立状態となったとき、車体部10全体の重心位置が駆動軸C1、C2の真上に来ていないと、重心がずれた方向に移動してしまう。上述のように、スイングアーム34の移動に応じて可動台11を車体フレーム16に対して移動させたとしても、搭乗者の姿勢によっては、重心位置が倒立走行ロボット1の進行方向の前後にずれてしまうことがある。
【0034】
図5に示すように、障害物Bが倒立走行ロボット1の後方にある場合を考える。障害物Bの近傍で倒立動作を行う場合、障害物Bがある倒立走行ロボット1の後方には余裕がなく、倒立走行ロボット1が移動すると接触・衝突するおそれがある。一方、倒立走行ロボット1の前方には余裕があり、移動したとしても接触するおそれがない。
【0035】
このため、本実施の形態では、検出部19により検出された障害物Bに関する情報に基づいて、倒立走行ロボット1の周囲の障害物Bから可動台11を遠ざける方向に移動させる。これにより、倒立走行ロボットの周囲の障害物Bから前後方向における車体部10の重心位置を、駆動軸C1、C2よりも障害物Bから遠ざける、又は、駆動軸C1、C2と略同じ位置となるようにする。図5に示す例においては、図中矢印で示す左側の方向に、可動台11を車体フレーム16に対して移動させる。このように、可動台11を倒立走行ロボット1の周囲の障害物Bから遠ざける方向に移動させることで、車体部10の重心を駆動軸C1、C2よりも障害物Bから遠ざける、又は、前記駆動軸と略同じ位置となるようにずらすことができる。このため、着地状態から倒立状態に移行する際に、倒立走行ロボット1は、障害物Bとは反対方向に移動する又は移動しないこととなり、障害物Bとの衝突を回避することができる。
【0036】
また、搭乗者が可動台11に乗った際の倒立走行ロボット1の進行方向前後方向の重心変動予想量をあらかじめ算出することが好ましい。重心変動予想量とは、搭乗者の姿勢によって変化し得る重心位置の前方限界から後方限界までの範囲をいう。そして、倒立走行ロボット1を着地状態から倒立状態とする前に、可動台11を重心変動予想量に応じたシフト量だけ車体フレーム16に対してあらかじめ移動させる。図5に示す例では、倒立走行ロボット1の後方に障害物Bがあるため、重心の後方限界まで可動台11を移動させる。これにより、搭乗者が倒立走行ロボット1の後ろのほうへ最大限重心をかけたとしても、倒立走行ロボット1を意図的に障害物Bがない前方へ移動させることができる。
【0037】
本実施の形態のようにスイングアーム34を用いた場合には、スイングアーム34による重心位置変化に対応する可動台11のスライド量に加えて、さらに、検出部19の検出結果に基づいて重心変動予想量に応じたシフト量を加算して可動台11を移動させる。これにより、搭乗者の姿勢等により重心位置が変化したとしても、倒立走行ロボット1が障害物Bのある方へ移動するのを防ぐことができる。なお、可動台11の車体フレーム16に対するシフト量は、検出部19によって検出された障害物Bまでの距離及び重心変動予想量によって、適宜設定することができる。
【0038】
次に、図6を参照して、本実施の形態に係る倒立走行ロボット1の制御方法について説明する。図6は、本実施の形態に係る倒立走行ロボット1の制御方法を説明するためのフロー図である。ここでは、補助輪が接地した状態から立ち上がり動作により2輪倒立状態に遷移する動作について説明する。
【0039】
まず、検出部19により障害物を検出し、障害物までの距離を測定する(ステップS1)。ここで、倒立走行ロボット1の前方の障害物までの距離を前距離Lf、後方の障害物までの距離を後距離Lrとする。次に、予め定められた許容値Lと、障害物までの前距離Lf、後距離Lrを比較し、許容値Lよりも長いか否かを確認する(ステップS2)。なお、許容値Lは、搭乗者が乗車したとき」の重心位置のバラツキを考慮しても、2輪倒立時に倒立走行ロボット1が移動して障害物に接触しない距離である。
【0040】
障害物までの距離Lf、Lrがいずれも許容値Lよりも長い場合(Lf>LかつLb>L)(ステップS2YES)、倒立走行ロボット1が前後に移動しても、障害物に接触することはない。この場合には、可動台11の車体フレーム16に対するシフト量を0とする(ステップS3)。そして、着地状態から倒立状態へと移行する前に、可動台11のシフト量制御を行う(ステップS4)。この場合、シフト量は0であるため、スイングアーム34の移動に応じて、可動台11を所定のスライド量だけ移動させ、着地状態から倒立状態へと立ち上がり動作を開始する(ステップS5)。なお、障害物が倒立走行ロボット1の近傍にないときでも、立ち上がり動作の際の倒立走行ロボット1の移動を小さくするために、所定のシフト量を設定することも可能である。
【0041】
一方、障害物までの距離Lf、Lrのいずれかが許容値L以下である場合(Lf≦L又はLb≦L)(ステップS2NO)、障害物までの距離Lf、Lrがいずれも許容値L以下である(Lf≦LかつLb≦L)であるか否かが判定される(ステップS6)。障害物までの距離Lf、Lrがいずれも許容値L以下である(Lf≦LかつLb≦L)である場合には(ステップS6YES)、倒立走行ロボット1が立ち上がり動作時に前後に移動すると、障害物に接触する。この場合には、警告を発令し(ステップS7)、倒立動作を行わないよう倒立不可信号が制御部18に送信される。
【0042】
また、障害物までの距離Lf、Lrがいずれか一方は許容値L以下であるが、他方は許容値Lよりも長い場合(Lf>L、Lb≦L又はLf≦L、Lb>L)(ステップS6NO)、倒立走行ロボット1が立ち上がり動作時に、許容値L以下の方向に移動する場合には、傷害物に接触するものの、許容値Lよりも長い方向に移動すれば障害物に接触しない。この場合には、可動台11を許容値Lよりも長い方向に移動させるシフト量Xが算出される(ステップS8)。すなわち、可動台11を障害物から遠ざける方向にシフトさせる。
【0043】
例えば、Lf>L、Lb≦Lの場合には、倒立走行ロボット1の前方に余裕があるため、可動台11を前方にシフトさせる。また、Lf≦L、Lb>Lの場合には、倒立走行ロボット1の後方に余裕があるため、可動台11を後方にシフトさせる。シフト量については、上述したように、障害物までの距離あるいは重心変動予測量に基づいて決定することができる。
【0044】
そして、倒立動作を開始する前に、算出されたシフト量だけ可動台11をシフトさせ(ステップS3)、その後、倒立動作を開始する(ステップS4)。図7に、後方に障害物があるときの、可動台11のシフト動作例を示す。図7において、シフト量が+(0よりも大きい)が、可動台11を倒立走行ロボット1の前方に移動させることを表しており、−(0よりも小さい)が後方に移動させることを表している。後方の障害物がLf>L、Lb≦Lの場合には、可動台11を前方(図7中+側)にシフトさせる。図7に示すように、障害物に接触しないようなシフト量だけ、可動台11を移動させる。そして、可動台11の移動が完了した後に、倒立動作を開始する。これにより、倒立するときに後ろに動くことを防いで、障害物との接触を回避することができる。そして、倒立動作が完了した後に可動台11のシフト量を0に戻し、安定倒立状態とする。なお、倒立動作開始後、シフト量を徐々に減少させ、倒立完了前にシフト量を0にして安定倒立状態に移行してもよい。
【0045】
また、倒立動作を行うときに、シフト量に加えて、スイングアーム34の移動に応じて、可動台11を所定のスライド量だけ移動させ、着地状態から倒立状態への移行を行う。これにより、着地状態から倒立状態に移行する際に、倒立走行ロボット1が障害物と衝突するのを回避することができる。
【0046】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2に係る倒立走行ロボット1について図8を参照して説明する。図8は、本実施の形態に係る倒立走行ロボット1の構成を示す図である。本実施の形態において、実施の形態1と異なる点は、可動台11の下に重心検出部を備える点である。図8において、図2と同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0047】
図8に示すように、本実施の形態に係る倒立走行ロボット1は、可動台11の下に設けられた重心検出部36を備えている。重心検出部36は、少なくとも1軸方向以上の力を計測できるセンサである。重心検出部36により、倒立走行ロボット1の重心位置を求めることができる。重心検出部36としては、例えば、荷重センサ、6軸センサ等を用いることができる。これにより、倒立動作の開始前にあるいは、倒立動作中の、搭乗者による重心位置の変化を検出することができる。なお、図8では、重心検出部36として荷重センサを設ける例について図示している。図8に示すように、重心検出部36は、車輪31、32の駆動軸C1、C2を挟んで前後に、可動台11の四隅に配置することができる。なお、重心検出部36として6軸センサを用いる場合には、可動台11の下面の略中央部に1つ配置することができる。
【0048】
本実施の形態では、実施の形態1と同様に、検出部19により検出された障害物等に関する情報に基づいて、倒立走行ロボット1の周囲の障害物から可動台11を遠ざかる方向に移動させる。そして、車体部10の重心位置を駆動軸C1、C2よりも障害物から遠ざける、又は、駆動軸C1、C2と略同じ位置となるように制御する。また、重心検出部36は、倒立動作を行っている間、搭乗者の重心位置の変化を監視し、検出信号を制御部18に出力する。制御部18は、入力された重心位置の検出信号から、倒立走行ロボット1の重心位置の変化を求め、検出された重心位置に基づいて着地状態から倒立状態とする際に倒立走行ロボット1の床面に対する相対位置が略変化しないように、可動台11を移動させる。これにより、倒立状態へ移行するときに、倒立走行ロボット1が前後に移動せずその場での立ち上がり動作をすることができ、障害物との衝突を回避することが可能となる。
【0049】
ここで、本実施の形態に係る倒立走行ロボット1の動作について説明する。本実施の形態に係る倒立走行ロボット1では、まず、検出部19により障害物を検出し、障害物までの距離を測定する。そして、重心検出部36により、搭乗者の重心位置の変化を検出する。倒立走行ロボット1の四隅の下側に対応して設けられた重心検出部36により、搭乗者の重心位置の変化による各重心検出部36にかかる荷重を計測する。この荷重を測定することで、重心位置(重心バランス)を算出することができる。
【0050】
上述の通り、障害物の位置・距離を考慮して、倒立走行ロボット1の周囲の障害物から可動台11を遠ざける方向に移動させ障害物との接触を回避する。また、立ち上がり動作中には、ロボットの重心バランスを考慮して、車輪31、32の回転駆動を制御する。これにより、倒立走行ロボット1が前後に移動せずその場での立ち上がり動作をすることができ、障害物との衝突を回避することが可能となる。
【0051】
以上説明したように、本発明によれば、検出部19により検出された障害物等に関する情報に基づいて、倒立走行ロボット1の周囲の障害物から可動台11を車体フレーム16よりも遠ざかるように移動させることができる。これにより、倒立走行ロボット1が障害物に接触するのを防止することが可能となる。
【0052】
なお、本発明は上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施の形態1に係る倒立走行ロボットの構成を示す図である。
【図2】図1に示す倒立走行ロボットを側方から見た様子を示す概念図である。
【図3】図1に示す倒立走行ロボットにおいて、可動台が車体に対して移動する様子を示す図である。
【図4】実施の形態1に係る倒立走行ロボットに用いられる制御部を説明するための図である。
【図5】障害物がある場合の、可動台のシフト動作を説明するための図である。
【図6】本実施の形態1に係る倒立走行ロボットの制御方法を説明するためのフロー図である。
【図7】障害物がある場合の、可動台のシフト動作を説明するための図である。
【図8】実施の形態2に係る倒立走行ロボットの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 倒立走行ロボット
10 車体部
11 可動台
12 座席
13 背当て部
14 脚支持部
15 足載置部
16 車体フレーム
17 接続部材
18 制御部
18a 記憶領域
19 検出部
20 車台
21、22 モータ
23 バッテリー
31、32 車輪
33 接地部材
34 スイングアーム
35 モータ
36 重心検出部
C1、C2 駆動軸
C3 スイングアーム軸
P 床面
B 障害物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸回りに回転する車輪と、
前記車輪と離間して設けられ、接地可能な接地部材と、
前記車輪を回転駆動させる車輪駆動部と、
前記車輪を保持する車台と、
支持部材を介して前記車台に対して回動可能に支持された車体部と、
前記車体部に含まれ、車体フレームに対して前後方向に移動可能に支持される可動台と、
前記車体フレームに対して前記可動台を相対的に移動させる可動台駆動部と、
前記支持部材を駆動し、前記車輪と前記接地部材とが床面に接した着地状態から、前記車輪が床面に接し前記接地部材が床面から離れる倒立状態とする立ち上がり駆動部と、
前記車輪駆動部を制御して床面に接する前記車輪の回転駆動を制御することで、前記車部の倒立状態を維持する制御部と、
を備える倒立走行ロボットであって、
前記制御部は、前記倒立走行ロボットを前記着地状態から前記倒立状態とする際に、前記倒立走行ロボットの周囲の障害物から前記可動台を遠ざける方向に移動させるように前記可動台駆動部を制御し、前後方向における前記車体部の重心位置を、前記駆動軸よりも前記障害物から遠ざける、又は、前記駆動軸と略同じ位置となるようにする倒立走行ロボット。
【請求項2】
前記障害物を検出する検出部をさらに備え、
前記制御部は、前記検出部の検出結果に基づいて前記可動台を移動させることを特徴とする請求項1に記載の倒立走行ロボット。
【請求項3】
前記制御部は、前記倒立走行ロボットの重心変動予想量を算出し、
前記倒立走行ロボットを前記着地状態から前記倒立状態とする前に、前記可動台を前記重心変動予想量に応じたシフト量だけ移動させることを特徴とする請求項1又は2に記載の倒立走行ロボット。
【請求項4】
前記車体部の重心位置を求める重心検出部を備え、
前記制御部は、前記重心検出部の検出結果に基づいて、前記倒立走行ロボットを着地状態から倒立状態とする際に前記倒立走行ロボットの床面に対する相対位置が略変化しないように、前記可動台を移動させることを特徴とする請求項1又は2に記載の倒立走行ロボット。
【請求項5】
車台と、前記車台に取り付けられ駆動軸回りに回転する車輪と、前記車輪と離間して設けられ接地可能な接地部材と、前記車輪を回転駆動させる車輪駆動部と、支持部材を介して前記車台に対して回動可能に支持された車体部と、前記車体部に含まれ、車体フレームに対して前後方向に移動可能に支持される可動台と、前記車体フレームに対して前記可動台を相対的に移動させる可動台駆動部と、前記支持部材を駆動し、前記車輪と前記接地部材とが床面に接した着地状態から、前記車輪が床面に接し前記接地部材が床面から離れる倒立状態とする立ち上がり駆動部とを備える倒立走行ロボットの制御方法であって、
前記倒立走行ロボットを前記着地状態から前記倒立状態とする際に、前記倒立走行ロボットの周囲の障害物から前記可動台を遠ざける方向に移動させるように前記可動台駆動部を制御し、前後方向における前記車体部の重心位置を、前記駆動軸よりも前記障害物から遠ざける、又は、前記駆動軸と略同じ位置となるようにするステップと、
前記車輪駆動部を制御して床面に接する前記車輪の回転駆動を制御することで、前記車体部の倒立状態を維持するステップとを含む倒立走行ロボットの制御方法。
【請求項6】
前記障害物を検出するステップを含み、
前記障害物の検出結果に基づいて前記可動台を移動させる請求項5に記載の倒立走行ロボットの制御方法。
【請求項7】
前記倒立走行ロボットの重心変動予想量を算出するステップを含み、
前記倒立走行ロボットを前記着地状態から前記倒立状態とする前に、前記可動台を前記重心変動予想量に応じたシフト量だけ移動させる請求項5又は6に記載の倒立走行ロボットの制御方法。
【請求項8】
前記車体部の重心位置を求め
前記重心位置の変化に基づいて、前記倒立走行ロボットを着地状態から倒立状態とする際に前記倒立走行ロボットの床面に対する相対位置が略変化しないように、前記可動台を移動させる請求項5又は6に記載の倒立走行ロボットの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−227198(P2009−227198A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77407(P2008−77407)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】