説明

偏光切換素子、偏光切換装置、光路切換装置、光走査装置および画像形成装置

【課題】光有効領域の液晶材料を直接加熱し、加熱の効率および精度が向上できるとともに、ヒータが液晶を駆動する電極を兼ねるよう構成することにより、ヒータにおける光利用効率の低下がなく、さらにヒータ電極と駆動電極との同一形成により生産性も向上できる偏光切換素子を提供する。
【解決手段】偏光切換素子10は、一対の透明基板1,2と、スペーサ3と、配向膜5,6と、印加電界の極性反転により配向状態が変化する自発分極を有する液晶4と、入射光の光有効領域7と重なる各透明基板1,2内側表面に形成された液晶4を加熱するための電流を印加可能とする加熱用透明導電膜8と、液晶4の配向状態を変化させる駆動電界を各透明基板1,2間に印加可能とする駆動用透明導電膜9とから構成されている。加熱用透明導電膜8は、駆動用透明導電膜9を兼ねているとともに光有効領域7に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光切換素子、偏光切換装置、光路切換装置、光走査装置および画像形成装置に関し、さらに詳しくは、自発分極を有する液晶を備え入射光の偏光方向を切り換える機能を有する偏光切換素子、この偏光切換素子を具備した偏光切換装置、偏光切換素子または偏光切換装置と偏光分離素子とからなる光路切換装置、この光路切換装置を具備した光走査装置およびこの光走査装置を有する、複写機、ファクシミリ、プリンタ、プロッタ等またはそれら複数の機能を備えた複合機等の画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液晶素子(液晶表示装置含む)の性能は、環境温度に依存することが知られている。例えば、液晶素子が低温下において使用される場合には、液晶素子基板間に保持された液晶材料の粘度が増加するため、印加電界に対する応答速度は低下し、素子性能が劣化してしまう。このような問題を解決するために、液晶素子を加熱するためのヒータを設置する方法がいくつか提案されている。
【0003】
ヒータを備えた従来の液晶素子としては、液晶素子とは別体の加熱ヒータを液晶素子に重ねて配置する構成がある。例えば、液晶素子に透明な面状ヒータを貼り付けたもの、これをメッシュ状のヒータに変更したもの、液晶素子とは別に光学補償素子を設け、この光学補償素子の少なくとも一方の基板の一面に透明抵抗膜をほぼ全面に形成したものなどが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
液晶素子の小型化および生産性に関しては、液晶素子基板に直接ヒータを形成し、液晶素子と一体に加熱ヒータを設けた構成とすることで改善でき、例えば、TFTを形成した基板に対向する他方の基板に設けた遮光層であるブラックマトリクスをヒータとしたもの(例えば、特許文献2参照)や、ヒータ用透明導電膜を液晶素子の非表示領域の基板内側表面に直接形成するもの(例えば、特許文献3参照)が挙げられる。
【0005】
【特許文献1】特開2000−47247号公報
【特許文献2】特開平6−289370号公報
【特許文献3】特開2003−43515号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の技術では、液晶素子とは別体の加熱ヒータを設ける場合、液晶素子基板間に保持された液晶材料を直接加熱せずに、液晶素子を構成する液晶素子基板を加熱するため、加熱開始から温度上昇までには時間差が生じ、加熱には必要以上のエネルギーを要するといった問題がある。また、液晶素子の厚みはヒータ基板分厚くなり、ヒータ取り付けのための工程を要するため、液晶素子が大きく生産性が悪いといった問題もある。
【0007】
上記のような従来の各種の液晶素子において、ヒータを光が透過する有効(表示)領域と重なって配置または形成する場合には、ヒータとして透明抵抗膜等(ヒータ用透明導電膜を含む)を用いても、ヒータは完全な透明性を有しているわけではないので、素子の性能として光利用効率(透過率)が低下するという問題がある。
特許文献2のヒータは遮光用のブラックマトリックスに、特許文献3のヒータは非表示領域といった光が透過しない領域に形成されており、光利用効率の低下はないが、この場合においても前記したように光有効(表示)領域の液晶材料を直接加熱できないため、加熱の効率および精度は悪くなるといった問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、前記の問題を解決すべく、前述の事情に鑑みてなされたものであり、液晶素子の基板内側の光有効領域にヒータを形成することにより、光有効領域の液晶材料を直接加熱し、加熱の効率および精度が向上できるとともに、ヒータが液晶を駆動する電極を兼ねるよう構成することにより、ヒータにおける光利用効率の低下がなく、さらにヒータ電極と駆動電極との同一形成により生産性も向上できる偏光切換素子、後述の各効果を奏する、偏光切換装置、光路切換装置、光走査装置および画像形成装置を実現し提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述の課題を解決するとともに上述の目的を達成するために、後述の実施例等に記載の評価を含む実験を行い鋭意研究を重ねる中で、以下の点を明らかにした。すなわち、液晶素子の基板内側に直接ヒータを形成し、液晶素子と一体に加熱ヒータを設けた構成において、光有効(表示)領域にヒータを形成すると、中間階調を必要とするような液晶表示装置の場合には、ヒータ加熱時には既存構成の光有効(表示)領域に流れる電流のために光学(表示)性能に悪影響を与えるという問題があったが、本発明のような自発分極を有する液晶を用いて入射光の偏光方向を電気的に切り換える偏光切換素子とする場合、素子の基板内側の光有効(表示)領域に直接ヒータ電極を形成しても、このヒータ電極は駆動電極を兼ねる構成とし、ヒータ加熱時に液晶の配向状態が飽和する飽和電界以上の駆動電界を印加することで、前記問題にあるような加熱時の光学特性への悪影響が発生しないことを突き止めた。本発明は、このような評価を含む実験等で裏付けられた事実を基本にしてなされたものである。
【0010】
上述した課題を解決するとともに上述した目的を達成するために、請求項ごとの発明では、以下のような特徴ある手段・構成を採っている。
請求項1記載の発明は、一対の透明基板と、該各透明基板の互いに対向する内側表面の少なくとも一方に形成された配向膜と、前記各透明基板間に保持され自発分極を有する液晶と、電流印加により前記液晶を加熱するための加熱用透明導電膜と、電界印加により前記液晶を駆動するための駆動用透明導電膜とからなり、入射光の偏光方向を電気的に切り換えることが可能な偏光切換素子において、前記加熱用透明導電膜は、前記各透明基板の互いに対向する内側表面に形成されており、かつ、前記駆動用透明導電膜を兼ねていることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の偏光切換素子において、前記加熱用透明導電膜は、前記各透明基板への入射光領域の少なくとも一部に形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の偏光切換素子と、前記加熱用透明導電膜に電流印加、前記駆動用透明導電膜に電界印加することによって前記液晶の加熱および駆動を行う電圧印加手段とを具備する偏光切換装置において、前記液晶の加熱時の駆動電界は、前記各透明基板への前記少なくとも一部の入射光領域における前記液晶の駆動状態が飽和安定する飽和電界以上であることを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項1または2記載の偏光切換素子と、前記加熱用透明導電膜に電流印加、前記駆動用透明導電膜に電界印加することによって前記液晶の加熱および駆動を行う電圧印加手段とを具備する偏光切換装置において、前記液晶の加熱時の駆動電界は、前記各透明基板への前記少なくとも一部の入射光領域における前記液晶の駆動状態が飽和安定する飽和電界以上であり、かつ、その大きさが前記少なくとも一部の入射光領域に対応する前記各透明基板の面内で略同じであることを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項1または2記載の偏光切換素子と、前記加熱用透明導電膜に電流印加、前記駆動用透明導電膜に電界印加することによって前記液晶の加熱および駆動を行う電圧印加手段とを具備する偏光切換装置において、前記液晶の加熱時の駆動電界は、前記各透明基板への前記少なくとも一部の入射光領域における前記液晶の駆動状態が飽和安定する飽和電界以上であり、かつ、前記駆動飽和時に前記液晶の駆動状態が変化しない高周波信号を印加することを特徴とする。
【0015】
請求項6記載の発明は、請求項1ないし5の何れか一つに記載の偏光切換素子または偏光切換装置と、互いに直交する2つの偏光成分をそれぞれ異なる光路に分離する偏光分離素子とを具備してなることを特徴とする光路切換装置である。
【0016】
請求項7記載の発明は、光源と、該光源からの光ビームを偏向する偏向手段と、該偏向手段により偏向された光ビームを被走査面上に結像する結像光学系とを具備する光走査装置において、前記光源と前記偏向手段との間に、請求項6記載の光路切換装置を有することを特徴とする。
【0017】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の光走査装置において、前記光路切換装置からの複数光路のうち少なくとも一つの光路のビーム光量を検知する光量検知手段を具備し、該光量検知手段からの検知信号に基づいて、前記光路切換装置における前記液晶を加熱することを特徴とする。
【0018】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の光走査装置において、前記光路切換装置における前記液晶の加熱は、光走査非有効期間に設定されていることを特徴とする。
【0019】
請求項10記載の発明は、請求項7ないし9の何れか一つの光走査装置を有することを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、上記課題を解決して新規な偏光切換素子、偏光切換装置、光路切換装置、光走査装置および画像形成装置を実現し提供することができる。請求項ごとの発明の効果を挙げれば、以下のとおりである。
請求項1記載の発明によれば、前記構成により、加熱用透明導電膜(例えばヒータ電極)と駆動用透明導電膜(例えば駆動電極)との同一形成により、偏光切換素子の生産性を向上できる。
【0021】
請求項2記載の発明によれば、前記構成により、加熱用透明導電膜(例えばヒータ電極)における光利用効率の低下なく、液晶への加熱効率および精度を向上させることができる。
【0022】
請求項3記載の発明によれば、前記構成により、少なくとも一部の入射光領域としての例えば光有効領域面内において均一な偏光切り換え動作が実現でき、低温環境下においても安定した高速応答性を示す偏光切換装置を実現し提供できる。
【0023】
請求項4記載の発明によれば、前記構成により、少なくとも一部の入射光領域としての例えば光有効領域面内において、低電圧印加で均一な偏光切り換え動作が実現でき、低温環境下においても安定した高速応答性を示す偏光切換装置を実現し提供できる。
【0024】
請求項5記載の発明によれば、前記構成により、液晶への加熱効率および精度を向上させることができ、低温環境下においても安定した高速応答性を示す偏光切換装置を実現し提供できる。
【0025】
請求項6記載の発明によれば、前記構成により、前記した加熱効率および精度が向上した偏光切換素子または偏光切換装置と偏光分離素子とを組み合わせた構成であるため、低温環境下においても安定して高速な光路切り換えが可能な光路切換装置を実現し提供できる。
【0026】
請求項7記載の発明によれば、前記構成により、前記した効果を奏する請求項6の光路切換装置を光走査装置に適用することで、低コスト、高速、高画質対応可能で、かつ、低温環境下においても安定した光走査記録が可能な光走査装置を実現し提供できる。
【0027】
請求項8記載の発明によれば、前記構成により、光量検知手段からの検知信号に基づいて、光路切換装置における液晶を加熱することにより、走査ビームの光量検知から光路切り換え時間を光路切換装置における液晶の加熱により調整するため、低温環境下においても光路切り換えの応答性がさらに安定した光走査装置を実現し提供できる。
【0028】
請求項9記載の発明によれば、前記構成により、走査ビームの光量検知から光路切り換え時間を光路切換装置における液晶の加熱により調整し、その加熱タイミングは光走査非有効期間に設定されているため、低温環境下においても特性劣化のない光走査装置を実現し提供できる。
【0029】
請求項10記載の発明によれば、請求項7ないし9の何れか一つの前記した効果を奏する光走査装置を画像形成装置に適用することで、低コスト、高速、高画質対応可能で、かつ、低温環境下においても安定した画像形成が可能な多色画像形成装置等を含む画像形成装置を実現し提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図を参照して実施例を含む本発明の実施の形態(以下、「実施形態」という)を説明する。各実施形態等に亘り、同一の機能および形状等を有する構成要素(部材や構成部品)等については、混同の虞が生じない限り一度説明した後では同一符号を付すことによりその説明を省略する。図および説明の簡明化を図るため、図に表されるべき構成要素であっても、その図において特別に説明する必要がない構成要素は適宜断わりなく省略することがある。公開特許公報等の構成要素を引用して説明する場合は、その符号に括弧を付して示し、各実施形態等のそれと区別するものとする。
【0031】
(第1の実施形態)
図1および図2を参照して、本発明の偏光切換素子に係る第1の実施形態を説明する。図1は偏光切換素子の断面図であり、図2は偏光切換素子を光入射光軸から見た図である。
図1および図2に示すように、偏光切換素子10は、一対の透明基板1,2と、各透明基板1,2間のギャップを保持するスペーサ3と、各透明基板1,2面の互いに対向する内側表面に形成され各透明基板1,2面に対して液晶4を一様に配向させる配向膜5,6と、印加電界の極性反転により配向状態が変化する自発分極を有する液晶4と、入射光の光有効領域7と重なる各透明基板1,2内側表面に形成された液晶4を加熱するための電流を印加可能とする加熱用透明導電膜8と、液晶4の配向状態を変化させる駆動電界を各透明基板1,2間に印加可能とする駆動用透明導電膜9とから主に構成されている。
【0032】
ここで、本実施形態では、加熱用透明導電膜8は、駆動用透明導電膜9を兼ねているとともに、偏光切換素子10の各透明基板1,2への入射光領域の少なくとも一部である光有効領域7に形成されていることを特徴としている。加熱用透明導電膜8は、前記したように駆動用透明導電膜9を兼ねる構成であるため、構成を示す図1では同じである。このため、加熱用透明導電膜8と駆動用透明導電膜9とを特に区別して説明しなければならない場合を除き、以下、総括的に「透明導電膜8」または「透明電極8」ともいう。両図において、上下一対の透明電極(透明導電膜)8の左右両端部に示す黒で塗色して示す部分は、透明電極(透明導電膜)8に電流および電界を印加するための電圧印加手段の接続端子部を表している。すなわち、加熱用および駆動用透明導電膜8は、同一の材料および形状で形成された共通部品であり、このため生産性が向上し、かつ、直接的に液晶4を加熱することができるため、加熱効率および精度が向上できる。さらに、新たに加熱用の透明導電膜を設ける構成ではないため、光利用効率の低下も生じない(請求項1、2参照)。
【0033】
図1および図2の偏光切換素子10に関して、配向膜5,6は、TN液晶、STN液晶等に用いられるポリイミド等の通常の配向膜が利用でき、良好な耐光性を示す無機配向膜およびSiO2、SiO等の無機蒸着膜も利用できる。また、液晶ダイレクタの方向を強く規制するため、ラビング処理や光配向処理を別途施すことが好ましい。加熱用および駆動用の透明導電膜8は、透明性を有する導電体(抵抗体)であれば利用でき、例えば酸化インジウムスズ(ITO)膜を用いることができる。その膜厚は、所望の透過率および抵抗値によって適宜設定される。
液晶4は、印加電界の極性反転により配向状態が変化する自発分極を有するものであればよく、強誘電性液晶や反強誘電性液晶を用いることができる。
【0034】
偏光切換素子10の偏光切り換え動作として、図3〜図5にて液晶4として例えば強誘電性液晶を用いた場合のスイッチングを説明する。図3は、偏光切換素子10の構成の概略図であり、図1に示した配向膜5,6やスペーサ3等を省略しているが、図1と同じ断面構成である。一般に、キラルスメクチックC相よりなる強誘電性液晶層は、らせん構造を有しているが、図3に示すように、そのらせんピッチより薄いセルギャップd間に挟持すると、らせん構造がほどけ、表面安定化強誘電性液晶層(以下、「SSFLC」という)となる。SSFLCは、図4(a)に示すように、液晶分子がスメクチック層法線に対してチルト角(傾き角)−θ(ここでは、θ=22.5°)だけ傾いて安定する配向状態H1と、図4(b)に示すように、逆方向に(+)θだけ傾いて安定する配向状態H2とが混在する状態が実現できる。
【0035】
図4において、Wはスメクチック層法線方向、nは液晶分子の長軸方向(ダイレクタ)、液晶分子における丸印(○)内に黒丸(●)の記号と、丸印(○)内に+の記号は自発分極の方向を表す。紙面に垂直な方向に電界を印加することにより、液晶分子とその自発分極の向きを一様に揃えることができ、その状態を保持しておくことができる。そして、印加する電界の極性を切り換えることによって、2つの状態間のスイッチングを行うことができる。
【0036】
すなわち、図4において−Eの電界を印加すると、スメクチック層法線方向Wから−θだけ傾いた配向状態H1に、+Eの電界を印加すると、スメクチック層法線方向Wからθだけ傾いた配向状態H2に安定化することができる。ここでθ=22.5°とする場合、配向状態H1から45°傾いた配向状態H2に安定させることができる。
【0037】
図5は、前述したSSFLCを用いた偏光切換素子10の動作を示す模式図である。図5において、液晶層の厚さ(セルギャップ)dは、入射光の波長λ(例えば650nmまたは780nm)と液晶材料の650nmまたは780nmにおける屈折率異方性Δnによって決まり、Δn×d=λ/2を満たすように、すなわち、半波長板条件を満たすように決定し、かつ2θが45°にあることで、偏光面の90°回転が実現できる。
入射偏光方向は液晶層における液晶分子配向の2つの配向状態のうち、どちらか一方の配向状態における液晶分子の短軸方向または長軸方向と位置するように調整配置する必要がある。ここでは、図5(a)に示すように、−Eの電界を印加したときの配向状態H1の短軸方向としている。調整法としては、位相板の配置により偏光方向を調整すること、または液晶素子自体を回転調整しても可能である。
【0038】
このような構成とすることで、図5(a)に示すように、透明電極(透明導電膜)9間に−Eの電界を印加した場合、図4(a)に示したように液晶分子はスメクチック層法線方向Wから−θだけ傾いた配向状態H1をとり、入射偏光は、そのままの偏光方向を保持したまま出射する。一方、図5(b)に示すように、透明電極9間に+Eの電界を印加した場合、液晶分子は図4(a)に示したようにスメクチック層法線方向Wから+θだけ傾いた配向状態H2をとる。ここではθ=22.5°としているので、入射偏光に対して、液晶分子長軸方向(ダイレクタ)は2θ=45°傾いて配向する。その結果、半波長板条件が成立し、出射偏光は入射偏光から90°回転した偏光方向となる。すなわち、電界制御により偏光の切り換えが実現できる。しかし、前述したように一般に液晶素子の性能は環境温度に依存し、図6(a)に示すように、低温環境下においては、応答速度が低下するといった問題がある。
【0039】
そこで、図7(a),(b)を参照して、本発明の第1の実施形態として説明した図1の構成の偏光切換素子10に電圧印加手段を具備した構成である偏光切換装置11の加熱および駆動例について説明する。図示しない電圧印加手段から印加される印加電圧は、図7(b)に示すように、透明基板1(以下、単に「基板1」ともいう)側へはV11、V12とし、透明基板2(以下、単に「基板2」ともいう)側へはV21、V22とする。
【0040】
まず、図8を参照して、図7(b)に示した偏光切換素子10を備えた偏光切換装置11において、加熱しないで駆動する場合の印加電圧の信号および透明基板1,2間の電界の大きさと方向・極性との一例について説明する。印加電圧の信号として、図8(a)に示す矩形波信号が入力されるものとする。非加熱・駆動時には、それぞれの透明電極8の接続端子(以下、単に「端子」ともいう)への印加電圧は、V11=V12およびV21=V22であり、基板面に電流は流れ(印加され)ないので加熱はされない。
偏光切り換え時は、図8(b)および図8(c)に示すように、V12とV21の極性反転により基板1と基板2との間の電界方向が切り換り、その大きさは光有効領域7面内で同じであるため、光有効領域7面内において均一な偏光切り換え動作が実現できる。
【0041】
次に、図9を参照して、図7(b)に示した偏光切換素子10を備えた偏光切換装置11において、加熱しながら駆動する場合の印加電圧の信号および透明基板1,2間の電界の大きさと方向・極性との一例について説明する。印加電圧の信号として、図9(a)に示す矩形波信号が入力されるものとする。それぞれの端子への印加電圧は、V11>V12およびV21=V22であり、V11>V12の関係から基板1面には電流I12またはI21が印加され・流れて液晶4が直接加熱できる。
偏光切り換え時は、図9(b)および図9(c)に示すように、V12とV21の極性反転により基板1と基板2の間の電界方向が切り換り、その大きさは光有効領域7面内で異なり、|E1|>|E2|>|E3|であるため、この場合は光有効領域7面内において均一な偏光切換え動作ができない。
【0042】
(第2の実施形態)
そこで、図10を参照して、本発明の第2の実施形態として、図7(b)に示した偏光切換素子10を備えた偏光切換装置11において、加熱しながら駆動する場合の印加電圧の信号および透明基板1,2間の電界の大きさと方向・極性との一例について説明する。印加電圧の信号として、図10(a)に示す矩形波信号が入力されるものとする。
それぞれの端子への印加電圧は、V11>V12およびV21=V22であり、V11>V12の関係から基板1面には電流I12またはI21が印加され・流れて液晶4が直接加熱できる。また、偏光切り換え時は図10(b)および図10(c)に示すように、V12とV21の極性反転により基板1と基板2の間の電界方向が切り換り、その大きさは光有効領域7面内で異なり、|E1|>|E2|>|E3|であるが、光有効領域7における最小電界|E3|は液晶4の配向・駆動状態が飽和する(偏光切り換えの光学特性が飽和するのと同じ)飽和電界|Eth|以上としているため、光有効領域7面内においては均一な偏光切り換え動作が実現できる。
ここでは、印加電圧は、V11>V12およびV21=V22としたが、基板面への電流印加が可能で、光有効領域7面内における基板1,2間の電界が飽和電界|Eth|以上であればこれに限らない。このような印加電流および印加電界となるように電圧を印加することで、加熱時にも光有効領域7面内において均一な偏光切り換え動作が実現できる(請求項3参照)。
【0043】
(第3の実施形態)
図11を参照して、本発明の別の第3の実施形態として、図7(b)に示した偏光切換素子10を備えた偏光切換装置11において、加熱しながら駆動する場合の印加電圧の信号および透明基板1,2間の電界の大きさと方向・極性との一例について説明する。印加電圧の信号として、図11(a)に示す矩形波信号が入力されるものとする。
それぞれの端子への印加電圧は、|V11−V21|≒|V12−V22|の関係を満たしており、V11≠V12およびV21≠V22の関係から基板面には電流I1−12およびI1−21、またはI2―12およびI2−21が印加されて液晶4が直接加熱できる。また、偏光切り換え時は図11(b)および図11(c)に示すように、V11、V12、V21、V22の極性反転により基板1と基板2の間の電界方向が切り換り、その大きさは光有効領域7面内で同じであるため、光有効領域7面内において均一な偏光切り換え動作が実現できる。
ここでは、印加電圧は|V11−V21|≒|V12−V22|としたが、基板面への電流印加が可能で、光有効領域7面内における基板1,2間の電界が飽和電界|Eth|以上であり、かつ、その電界の大きさが光有効領域7面内で略同じであればこれに限らない。このような印加電流および印加電界となるように電圧を印加することで、加熱時にも低電圧で、光有効領域7面内において均一な偏光切り換え動作が実現できる(請求項4参照)。
【0044】
また、図12に示すように、駆動電圧信号の飽和時に液晶の配向・駆動状態が変化しない(偏光切り換えの光学特性が変化しないのと同じ)高周波信号を印加することによっても加熱することができ、この信号の電圧および周波数は用いる液晶にもよるが、周波数は100kHz以上が好ましい(請求項5参照)。
【実施例1】
【0045】
次に、第1の実施形態の代表具体例として強誘電性液晶を用いた偏光切換素子10の作製およびその偏光切換装置11の動作確認に係る実施例1ついて、図1および図7を参照しながら説明する。
【0046】
基板1,2として、厚さ1.1mmの無アルカリガラス製で、その大きさが30×40mmのものを用い、これに透明電極(透明導電膜)8としてのヒータ電極および駆動電極としてITO(膜厚1000Å、シート抵抗50Ω/□)を成膜した。基板電極面にポリイミド配向膜(AL3046−R31 JSR 社製)をスピンコートにより約800Åの厚さに形成し、その基板表面を、ラビング法により配向処理を行った。前述したガラス基板を2枚用い、ラビング方向がアンチパラレル方向となるようにITO電極面を対向させて、基板1,2間が約2μmになるようにスペーサ3としてビーズスペーサを混入した接着剤にて貼り合わせて空セルを作製した。
【0047】
次いで、前記空セルをホットプレート上にて90度(℃)に加熱した状態で空セル内に液晶4として、強誘電性液晶(クラリアント製FELIX018−100 Δn=0.17、2θ=45)を毛管法で注入し、放置冷却後に注入口等を封止して液晶層を形成し、図1のような偏光切換素子10および図7のような偏光切換装置11を作製した。電圧印加用の接続端子は、はんだで形成した。
【0048】
前記した偏光切換素子10に用いたヒータ電極および駆動電極を形成したガラス基板単体(基板1)を用いて、電圧印加手段の端子にV11=10V、V12=+10Vの電圧を印加して基板1表面に電流を流して(印加して)加熱した。この時、電極を形成したガラス基板表面と電極を形成していないガラス基板表面の温度とを、熱電対を用いて測定したところ、温度上昇時間には差が有り、電極を形成したガラス基板表面の方が早い温度上昇を示した。
また、ガラス基板表面にヒータ電極および駆動電極を形成した領域(電極形成領域)と、電極が形成されていない領域(電極非形成領域)の2つの領域があるガラス基板単体を用いて、前記と同様にして電極部分に電流を印加して加熱し、電極形成領域と電極非形成領域の温度を測定したところ、2つの領域では温度が異なり、電極形成領域の方が温度が高かった。すなわち、ヒータ電極の形成領域は加熱時間が早く、加熱効率および精度が高いことが分かった。
【0049】
次に偏光切換素子10の光学特性評価として、レーザ光源とフォトダイオード(以下、「PD」という)の光路中に偏光切換素子10を直交ニコル下の偏光板に挟み、偏光切換素子10に電圧を印加して偏光切換えスイッチング動作を観察した。ここで、偏光切換素子10の配置は入射偏光方向が液晶配向の2つの配向状態のうち、どちらか一方の配向状態における液晶分子の長軸方向と一致するように調整し、PD出力が明暗状態となるように調整配置した。
【0050】
まず、印加電圧信号を周波数4kHz、基板(ガラス基板)1、基板(ガラス基板)2の各端子への印加電圧はV11=+40⇔−40、V12=+40⇔−40、V21=G(接地)、V22=G(接地)とし、基板1,2(ガラス基板)間の電界強度が図6(b)に示すように飽和電界となる±20V/μmの矩形波信号を入力して駆動した。この時、熱電対にて基板(ガラス基板)1表面の温度を測定したところ25℃であり、応答速度(暗0%→明100%の立ち上がり時間)は図6(a)に示したように30μsecであった。
【0051】
次に、印加電圧信号を周波数4kHz、基板(ガラス基板)1、基板(ガラス基板)2の各端子への印加電圧はV11=+50⇔−50、V12=+40⇔−40 、V21=G(接地)、V22=G(接地)とし、基板1,2(ガラス基板)間の電界強度が±20V/μm(光有効領域の最小電界)の矩形波信号を入力して駆動した。この時、PD出力値は前記と同じであり、光学性能の劣化がないことを確認した。また、基板(ガラス基板)1には電流が印加されるため、駆動および加熱から数秒後に基板(ガラス基板)1の温度は上昇し、熱電対にて基板(ガラス基板)1の表面の温度を測定したところ約40℃となり、応答速度(暗0%→明100%の立ち上がり時間)は約22μsecであった。このことから加熱時に飽和電界以上となる電界を印加することで、低温下においても高速応答性が確保できることが分かった。
【0052】
さらに、印加電圧信号を周波数4kHz、基板(ガラス基板)1、基板(ガラス基板)2の各端子への印加電圧はV11=+20⇔−20、V12=+20⇔−20、V21=−20⇔+20、V22=−20⇔+20とし、基板(ガラス基板)1,2間の電界強度が±20V/μm(光有効領域の電界)の矩形波信号を入力して駆動した。この時、PD出力値は前記と同じであり、光学性能の劣化がないことを確認した。また、基板(ガラス基板)1には電流が印加されるため、駆動および加熱から数秒後に基板(ガラス基板)1の温度は上昇し、熱電対にて基板(ガラス基板)1の表面の温度を測定したところ約40℃となり、応答速度(暗0%→明100%の立ち上がり時間)は約22μsecであった。
このことからも加熱時に飽和電界以上となる電界を印加することで、低温下においても高速応答性が確保できることが分かった。以上説明した実施例1の結果から加熱時に飽和電界以上となる電界を印加し、基板間の電界強度を同じとすることで、低温下においても低電圧印加で高速応答性が確保できることが分かった。
【0053】
(第4の実施形態)
図13を参照して、本発明の光路切換装置に係る第4の実施形態の構成および動作について説明する。図13に示すように、第4の実施形態の光路切換装置15は、前記した偏光切換素子10と、この偏光切換素子10における入射光の透過後の光路上に配置された偏光分離素子13とを具備した構成からなる。偏光分離素子13は、複屈折素子や偏光ビームスプリッタ(以下、「PBS」とも称する)プリズム、偏光依存性を示す回折光学素子等を用いて実現できる。
【0054】
偏光切換素子10は、前記したように電界制御により入射光の偏光方向を、互いに直交する2つの偏光成分(第1の偏光方向D1、第2の偏光方向D2、以下同様)に切り換える動作・機能を有している。すなわち、入射光の偏光面方向を略90°切り換えることができる。また、偏光分離素子13は互いに直交する2つの偏光成分(偏光方向D1、偏光方向D2)を、それぞれ異なる光路(第1の光路P1、第2の光路P2、以下同様)に分離する動作・機能を有している。すなわち、前記の偏光切換素子10により切り換えられた2つの偏光成分(偏光方向D1、偏光方向D2)を、それぞれ異なる光路(光路P1、光路P2)に導き・切り換えることができる。このようにして、偏光切換素子10と偏光分離素子13との構成により、光路切換装置15が実現できる。この光路切換装置15の光路切り換え性能に与える影響は、その装置を構成するそれぞれの素子により異なり、偏光切換素子10は主に光路切り換えの応答性、光学特性に影響を及ぼし、偏光分離素子13は主に光路切り換えの光路シフト量に影響を及ぼす。ここで、光路シフト量は、素子を通過する光路長に大きく依存するため、偏光分離素子13の素子サイズを適宜設定することで、所望の光路シフト量を得ることができる。また、偏光分離素子13は小さいシフト量であれば複屈折素子が有効であり、ある程度大きいシフト量を必要とする場合はPBSプリズムが有効である。
【0055】
前記したように偏光切換素子10は、液晶の加熱および駆動が可能であるため低温環境下においても、高速応答性を示すことができることから、光路切換装置15による光路切り換え動作も同様にして、低温環境下で光路を高速に切り換えることができる(請求項6参照)。
【0056】
(第5の実施形態)
図14を参照して、本発明の光走査装置に係る第5の実施形態について説明する。図14は、光走査装置の一部を示しており、同図の光走査装置は、光源16と、第4の実施形態の光路切換装置15と、光路切換装置15により切り換えられた光ビームを偏向する偏向手段としてのポリゴンミラー37とを具備する構成であり、光源16とポリゴンミラー37との間に光路切換装置15が配置されていることを特徴としている。
【0057】
さらに、光路切換装置15からの2つの第1の光路P1(以下、「上段光路」ともいう)、第2の光路P2(以下、「下段光路」ともいう)におけるビーム光量を検知する第1、第2の光量検知手段18a,18bを設け、各光量検知手段18a,18bからの検知信号に基づいて光路切換装置15への加熱および駆動を制御する電圧調整手段の機能を備えた電圧印加手段12を具備した構成としていることも特徴となっている。
ポリゴンミラー37は、共通の回転軸を有し、複数段としての2段の回転反射多面鏡である、45°の位相をもって配設された上段ポリゴンミラー37aと下段ポリゴンミラー37bとを備えている。
【0058】
図14の光走査装置の動作として、光源16から出射した光ビームは、レンズ17を通過し、前述の光路切換装置15による光路切り換えにより、副走査方向にビーム光路(第1の光路P1として上段光路と、第2の光路P2として下段光路)がシフトされ、第1、第2の光路P1,P2に対応した2段のポリゴンミラー37を構成する上段ポリゴンミラー37aおよび下段ポリゴンミラー37bに入射される。
【0059】
光量検知手段18a,18bは、一般的なフォトダイオードが使用できる。光路切換装置15の加熱および駆動は、前記したように偏光切換素子10構成の液晶に対する加熱用および駆動用透明導電膜8(図1、図7参照)によりなされる。このような構成とする場合、直接液晶を加熱するため、設定温度に達する時間が早く、高精度の加熱ができるといった利点がある(請求項7参照)。
【0060】
以下、光量検知による加熱および駆動制御について具体的に説明する。図15に走査記録タイミングと光量検知手段18a,18bからの検知信号1s,2sを示す。ここでは上下段の2つの切換光路に関して示している。図15のように上段光路における記録終了時の上段光路の光量と、下段光路における記録開始時の下段光路の光量とが同じである場合(下段光路における記録終了時の下段光路の光量と、上段光路における記録開始時の上段光路の光量とが同じである場合)、光路切換の応答時間が設定値内であり、応答性能が確保されているので、加熱する必要はない。
【0061】
しかし、図16のように上段光路における記録終了時の上段光路の光量と、下段光路における記録開始時の下段光路の光量とが異なる場合(下段光路における記録終了時の下段光路の光量と、上段光路における記録開始時の上段光路の光量とが異なる場合)、光路切換の応答時間が設定値から外れ、応答性能が確保されていないことが分かり、光量が同じになるように加熱する必要がある。ここで、加熱のタイミングは、記録終了から記録開始までの光走査時の書き込み記録をしていない光走査非有効期間に設定されていることで、加熱における書き込み記録への影響は完全になくなる(請求項8、9参照)。
【0062】
また、図17のように記録終了時から上段光路の光量と下段光路の光量が重なる時間Tを規定し、記録終了時から上段光路の光量と下段光路の光量が重なる時間が規定時間Tからずれることで応答速度の変化を確認することもできる。すなわち、T’>Tとなる場合には、光路切換の応答時間が設定値外で、応答性能が確保されていないことが分かり、光量が同じになるように電界または温度を調整する必要がある。この検知方法の場合、光量の絶対値によらずに検知できるため、光量検知手段としてのフォトダイオードの仕様範囲が広がる。
【0063】
上述の説明では上下段の2つの切り換え光路に関して説明しているが、上段または下段の1つの光路の光量検知でも記録開始と記録終了時の光量差が最大になっているかいないかで、応答時間が設定値内に入っているか確認できる(請求項8参照)。
このような光量検知により光路切換装置15内の液晶を加熱および駆動制御し、光路切換装置15の高速応答性を確保することで、低温環境下においても光路切換の応答時間を所望の応答時間に安定することができ、実際に使用される記録走査光の光量性能が確保されるため、印刷画像劣化の発生が低減できる。
【0064】
ここで、光量検知手段の配置としては、ポリゴンミラー37前に設置することで切り換え時間に有する時間を長く設定できる。具体的には図14のように、ハーフミラープリズム19a,19bにより光路をさらに分岐して検知する。開口を有するミラーにより開口外の反射光を検知する。
【0065】
また、図18に示す第5の実施形態の変形例1に係る光走査装置のように、ポリゴンミラー37を囲っている防音ガラス36の反射光を検知する構成(反射強度は反射膜等により調整することが好ましい)があるが、記録走査していない無効走査期間での記録走査する直前直後(記録に影響しない記録開始および終了のタイミング)の光量を検知できればこれに限るものではない。
図18において、45a,45b,45c,45dは、光走査周期の同期検知する同期検知フォトダイオードを示す。
【0066】
また、図19に示す第5の実施形態の変形例2に係る光走査装置のように、光量検知手段18a,18b,18c,18dの別の配置例としては、ポリゴンミラー37の後に設置することで、余計な部品や反射膜の設置が必要なくなる。
【0067】
さらに、図20に示す第5の実施形態の変形例3に係る光走査装置のように、光走査周期の同期検知を兼用するように、光量検知兼走査同期検知フォトダイオード46a,46b,46c,46dとすることで、さらに部品点数を減らすこともできる。
【0068】
図21を参照して、図14にその一部を示した第5の実施形態に係る光走査装置の全体構成を示す。なお、図18〜図20に示した光走査装置の構成要素(構成部品や構成部材)にも、混同の虞がない限り同様の符号を付してその細部説明を省略したが、以下説明する内容に準ずるものとする。
【0069】
図21に示すように、本実施形態に係る光走査装置は、第1の光学系と第2の光学系とから構成されている。
すなわち、第1の光学系は、光源としての半導体レーザ31,31’と、LDベース32と、カップリングレンズ33,33’と、光路切換装置15(あるいは偏光切換手段、偏光分離手段)と、シリンドリカルレンズ35a,35bとから主に構成されている。
第2の光学系は、防音ガラス36と、上段ポリゴンミラー37aおよび下段ポリゴンミラー37bを備えたポリゴンミラー37と、第1の走査レンズ(fθレンズ)38a,38bと、ミラー39と、第2の走査レンズ(fθレンズ)40a,40bと、被走査面を備えたドラム状の像担持体である感光体41a,41bと、開口絞り42と、光量検知兼走査同期検知フォトダイオード46a,46b,46c,46dとから主に構成されている。
【0070】
図15には示さないが、レーザ光源(2LDユニット)から光路切換装置15(あるいは偏光切換素子と偏光分離素子)の後のシリンドリカルレンズ35a,35bまでの第1の光学系、およびfθレンズを含む結像光学系である第2の光学系とのそれぞれを2セットと、2段ポリゴンミラーとを用いることによって、2ビームで光走査4箇所への書き込む光走査装置を構築できる。
4個所の光走査は、4色(シアン、イエロー、マゼンダ、ブラック(黒))に対応する感光体であり、多色画像形成装置を構築することができる。
【0071】
(第6の実施形態)
図22を参照して、本発明の画像形成装置に係る第6の実施形態としての多色画像形成装置の基本的な構成を示す。
図22に示す多色画像形成装置は、本発明に係る第5の実施形態、変形例1〜4の何れか一つの光走査装置を適用した画像形成装置の一例である。
【0072】
図22に示す多色画像形成装置は、Y(イエロー)、M(マゼンダ)、C(シアン)、K(ブラック)の4色に対応し、感光体1Y,感光体1M,感光体1C,感光体1Kと、帯電器2Y,帯電器2M,帯電器2C,帯電器2Kと、書込ユニット(光走査装置)23と、現像器4Y,現像器4M,現像器4C,現像器4Kと、クリーニング手段5Y,クリーニング手段5M,クリーニング手段5C,クリーニング手段5Kと、転写用帯電手段6Y,転写用帯電手段6M,転写用帯電手段6C,転写用帯電手段6Kと、転写ベルト24と、定着手段25とを有する。
【0073】
感光体1Y,1M,1C,1Kは、図中矢印の方向に回転し、回転順に帯電器2Y,2M,2C,2K、現像器4Y,4M,4C,4K、転写用帯電手段6Y,6M,6C,6K、クリーニング手段5Y,5M,5C,5Kが配置されている。
帯電手段2Y,2M,2C,2Kは、感光体表面を均一に帯電するための帯電装置を構成する帯電部材を備えている。
【0074】
この帯電手段2Y,2M,2C,2Kと、現像部材4Y,4M,4C,4Kとの間の感光体表面に書込ユニット23によりビームが照射され、感光体に静電潜像が形成されるようになっている。
そして、静電潜像に基づき、現像器4Y,4M,4C,4Kの各現像部材により感光体面上にトナー像が形成される。
【0075】
さらに、図示しないシート給送装置から搬送されてきたシート状記録媒体としての記録紙(図示せず)が無端ベルトからなる転写ベルト24上に保持されることで、転写用帯電手段6Y,6M,6C,6Kにより、順次、前記記録紙に各色転写トナー像が転写され、最終的に定着手段25により前記記録紙に画像が定着する。
【0076】
前述したような電界制御により光路が切換可能な光走査装置を用いた画像形成装置において、複数段のポリゴンミラーからの走査記録に対応して、レーザ光源の光路切り換えおよび光量を変調駆動することで、各色に対応する感光体を順次走査記録することができ、光源数を減らしながらも、ビームパワーのロスがなく、高速な画像出力を可能とする画像形成装置が実現できる。
【0077】
図22のような4ドラムタンデム方式において、2段ポリゴンミラーを用いる場合、走査記録は、順次、例えば、イエローとマゼンダ、シアンとブラックのそれぞれ2つの感光体を交互に走査記録することができる。ここで、光量検知手段からのフィードバック制御により安定した走査記録が実現できる(請求項10参照)。
【0078】
上述の第6の実施形態では、転写体としての転写ベルトでシート状記録媒体を搬送しながら順次転写して重ね合わせる直接転写方式のタンデム型の多色(カラー)画像形成装置の例で説明したが、これに限らず、例えば、無端ベルト状の中間転写体に転写した後、シート状記録媒体に一括転写するタンデム型の多色(カラー)画像形成装置にも、本発明に係る第5の実施形態、変形例1〜4の何れか一つの光走査装置を適用して同様に実施することができることは無論である。
【0079】
以上説明したとおり、本発明を特定の実施形態や変形例等について説明したが、本発明が開示する技術的範囲は、上述した実施形態や変形例あるいは実施例等に例示されているものに限定されるものではなく、それらを適宜組み合わせて構成してもよく、本発明の範囲内において、その必要性および用途等に応じて種々の実施形態や変形例あるいは実施例を構成し得ることは当業者ならば明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】第1の実施形態に係る偏光切換素子の構成の一例を示す図であって、図2のS1−S1の断面図である。
【図2】第1の実施形態に係る偏光切換素子を入射光軸から見た図である。
【図3】液晶層として強誘電性液晶を用いた偏光切換素子の構成を示す概略的な断面図である。
【図4】強誘電性液晶のスイッチングを説明するための模式図である。
【図5】表面安定化強誘電性液晶層(SSFLC)を用いた偏光切り換え手段の動作を示す模式図である。
【図6】(a)は、液晶素子の応答速度の温度特性を示すグラフ、(b)は、液晶素子の応答速度の電界特性を示すグラフである。
【図7】偏光切換素子を備えた偏光切換装置の構成の一例を示す図であって、図7(a)は、図7(b)のSa−Saの断面図、図7(b)は入射光軸から見た図である。
【図8】偏光切換装置において、加熱しないで駆動する場合の印加電圧の信号および透明基板間の電界の大きさと方向・極性との一例について説明する図である。
【図9】偏光切換装置において、加熱しながら駆動する場合の印加電圧の信号および透明基板間の電界の大きさと方向・極性との一例について説明する図である。
【図10】第2の実施形態に係る偏光切換装置において、加熱しながら駆動する場合の印加電圧の信号および透明基板間の電界の大きさと方向・極性との一例について説明する図である。
【図11】第3の実施形態に係る偏光切換装置において、加熱しながら駆動する場合の印加電圧の信号および透明基板間の電界の大きさと方向・極性との一例について説明する図である。
【図12】駆動電圧信号の飽和時に液晶の配向・駆動状態が変化しない偏光切換装置において、高周波信号を印加することによって加熱する例を示す図である。
【図13】第4の実施形態に係る光路切換装置の一例を示す構成図である。
【図14】第5の実施形態に係る光走査装置の一部の構成図であって、光路切換装置の配置等を示す図である。
【図15】第5の実施形態に係る光走査装置において、第1の走査記録タイミングと光量検知手段からの検知信号を示す図である。
【図16】第5の実施形態に係る光走査装置において、第2の走査記録タイミングと光量検知手段からの検知信号を示す図である。
【図17】第5の実施形態に係る光走査装置において、第3の走査記録タイミングと光量検知手段からの検知信号を示す図である。
【図18】第5の実施形態の変形例1に係る光走査装置を示す斜視図である。
【図19】第5の実施形態の変形例2に係る光走査装置を示す斜視図である。
【図20】第5の実施形態の変形例3に係る光走査装置を示す斜視図である。
【図21】第5の実施形態に係る光走査装置の全体構成を示す斜視図である。
【図22】第6の実施形態に係る多色画像形成装置の概略的な構成図である。
【符号の説明】
【0081】
1,2 透明基板
3 スペーサ
4 液晶
5,6 配光膜
7 光有効領域(入射光領域の少なくとも一部)
8 加熱用透明導電膜、透明電極
9 駆動用透明導電膜、透明電極
10 偏光切換素子
11 偏光切換装置
12 電圧印加手段
13 偏光分離素子
15 光路切換装置
18a,18b 光量検知手段
23 書込ユニット(光走査装置)
24 転写ベルト
25 定着手段
31,31’ 半導体レーザ
32 LDベース
33,33’ カップリングレンズ
35,35’ シリンドリカルレンズ
36 防音ガラス
37 ポリゴンミラー(偏向手段)
38a,38b 第1の走査レンズ(結像光学系)
39 ミラー
40a,40b 第2の走査レンズ(結像光学系)
41a,41b 感光体(被走査面を有する像担持体)
42 開口絞り
45a,45b,45c,45d 走査同期検知フォトダイオード
46a,46b,46c,46d 光量検知兼走査同期検知フォトダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の透明基板と、該各透明基板の互いに対向する内側表面の少なくとも一方に形成された配向膜と、前記各透明基板間に保持され自発分極を有する液晶と、電流印加により前記液晶を加熱するための加熱用透明導電膜と、電界印加により前記液晶を駆動するための駆動用透明導電膜とからなり、入射光の偏光方向を電気的に切り換えることが可能な偏光切換素子において、
前記加熱用透明導電膜は、前記各透明基板の互いに対向する内側表面に形成されており、かつ、前記駆動用透明導電膜を兼ねていることを特徴とする偏光切換素子。
【請求項2】
請求項1記載の偏光切換素子において、
前記加熱用透明導電膜は、前記各透明基板への入射光領域の少なくとも一部に形成されていることを特徴とする偏光切換素子。
【請求項3】
請求項1または2記載の偏光切換素子と、前記加熱用透明導電膜に電流印加、前記駆動用透明導電膜に電界印加することによって前記液晶の加熱および駆動を行う電圧印加手段とを具備する偏光切換装置において、
前記液晶の加熱時の駆動電界は、前記各透明基板への前記少なくとも一部の入射光領域における前記液晶の駆動状態が飽和安定する飽和電界以上であることを特徴とする偏光切換装置。
【請求項4】
請求項1または2記載の偏光切換素子と、前記加熱用透明導電膜に電流印加、前記駆動用透明導電膜に電界印加することによって前記液晶の加熱および駆動を行う電圧印加手段とを具備する偏光切換装置において、
前記液晶の加熱時の駆動電界は、前記各透明基板への前記少なくとも一部の入射光領域における前記液晶の駆動状態が飽和安定する飽和電界以上であり、かつ、その大きさが前記少なくとも一部の入射光領域に対応する前記各透明基板の面内で略同じであることを特徴とする偏光切換装置。
【請求項5】
請求項1または2記載の偏光切換素子と、前記加熱用透明導電膜に電流印加、前記駆動用透明導電膜に電界印加することによって前記液晶の加熱および駆動を行う電圧印加手段とを具備する偏光切換装置において、
前記液晶の加熱時の駆動電界は、前記各透明基板への前記少なくとも一部の入射光領域における前記液晶の駆動状態が飽和安定する飽和電界以上であり、かつ、前記駆動飽和時に前記液晶の駆動状態が変化しない高周波信号を印加することを特徴とする偏光切換装置。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか一つに記載の偏光切換素子または偏光切換装置と、互いに直交する2つの偏光成分をそれぞれ異なる光路に分離する偏光分離素子とを具備してなることを特徴とする光路切換装置。
【請求項7】
光源と、該光源からの光ビームを偏向する偏向手段と、該偏向手段により偏向された光ビームを被走査面上に結像する結像光学系とを具備する光走査装置において、
前記光源と前記偏向手段との間に、請求項6記載の光路切換装置を有することを特徴とする光走査装置。
【請求項8】
請求項7記載の光走査装置において、
前記光路切換装置からの複数光路のうち少なくとも一つの光路のビーム光量を検知する光量検知手段を具備し、該光量検知手段からの検知信号に基づいて、前記光路切換装置における前記液晶を加熱することを特徴とする光走査装置。
【請求項9】
請求項8記載の光走査装置において、
前記光路切換装置における前記液晶の加熱は、光走査非有効期間に設定されていることを特徴とする光走査装置。
【請求項10】
請求項7ないし9の何れか一つの光走査装置を有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2010−20028(P2010−20028A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179625(P2008−179625)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】