説明

偏光回折素子の製造方法、およびこの製造方法により得られる偏光回折素子ないしホログラム素子

【課題】本発明は、偏光回折素子ないしは偏光ホログラム素子を簡素な製造方法で提供しようとするものである。
【解決手段】複屈折誘起材料の塗布膜に格子状のマスク、2光束干渉などの方法を用いて偏光性の紫外光を照射することにより複屈折誘起部と複屈折を有さない部分を格子状に形成する。このように作製された回折格子ないしはホログラム素子では、格子に対して平行方向の屈折率または格子に対して垂直方向の屈折率の何れか一方で屈折率の周期構造が生じ、その垂直方向の屈折率は周期構造が発現しないことから偏光回折格子を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光性の回折素子、ホログラム素子およびその製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マスク露光や2光束の干渉縞を利用して回折格子やホログラムを作製する材料としては、写真などにも使われているようなハロゲン化銀感光材料、ゼラチン膜を重クロム酸アンモニウム水溶液に浸して感光性を付与した重クロム酸ゼラチン、半導体集積回路などの作製に用いるフォトレジスト、モノマーの光重合による屈折率変調を利用したフォトポリマーなどが挙げられる。このような材料を用いた回折格子やホログラムは、光ディスク、CDなどで各種の信号を取り出すための光ピックアップ素子、バーコードスキャナーなどのビームを走査するための素子、情報処理関連ではホログラフィックメモリー、光インターコネクトなどへの応用が検討され、実際に利用もされてきており、更に、このような回折格子やホログラム素子に偏光性を付与することにより、光磁気ディスクヘッドにおける検光子機能の複合化などその応用範囲が拡大すると考えられる。
このような偏光回折格子の応用例として、Y.Urino等,Tech.Digest of OEC ’88,3C2−1,167−169(1988)に複屈折性を有するLiNbO を用いた偏光回折格子の例が提案されている。この例では、LiNbO基板上にプロトン交換領域と誘電体膜からなる2層の格子を形成する手法がとられており、その製造法は、LiNbO 基板上へのフォトリソグラフィによる金属のパターンの形成、プロトン交換領域形成工程、誘電体製膜およびパターン化など製造法が非常に煩雑である。
偏光回折格子を作製する他の手法として、US−5161039号には、対称的な側鎖を有するポリシラン重合体、例えばポリ(ジ−n−ヘキシルシラン)やポリ(ジ−n−ペンチルシラン)などのような非線形性の材料に2光子吸収を利用して複屈折性を発現させ複屈折性をパターン化させた事例が提案されている。このような2光子吸収のような手法を用いる方法では照射光源として大出力のレーザーを用いる必要があるなど製造上の問題点が残る。また、同材料を用いて直線偏光性の紫外光でも複屈折性が発現するデータが記載されているが複屈折値は0.005以下であり実用性に乏しい。
【0003】
光照射により複屈折性を発現しその複屈折性をマスク露光などの手法によりパターン化が可能な材料として、ネガ型のフォトレジストであるポリビニルシンナメート(PVCi)が知られている。PVCiのフィルムに直線偏光性の紫外光を照射すると、この照射光の電界振動方向に対して平行方向となる配置のシンナモイル基の炭素−炭素2重結合が選択的に光2量化し複屈折を生じるようになる。これを利用すれば、光学的異方性を周期的に制御することは可能であるが、誘起される複屈折は0.01以下と非常に小さく実用性に乏しい上、同材料にて偏光の回折格子を作製できるかは不明である。
【0004】
また、その他の光照射により複屈折性を発現する材料として、アゾベンゼンを含む高分子材料を用いることが検討されている。アゾベンゼン分子は光や熱のような外部からの刺激によってシス体とトランス体の間で光異性化が起こり、このことを利用して分子配向を制御することができ周期的な分子配向制御も光照射によって行うことが可能である。しかしながら、従来検討されてきた、アゾベンゼンを含む高分子材料では、光学的異方性の発現があまり大きくないだけでなく、熱や光などの外場の影響によって特性が変化し、高い安定性を要求される光デバイスへの応用が困難である。
【0005】
また、本発明者も特開2003−167124号や特開2003−167127号では、複屈折誘起材料に2光束干渉を用いることにより偏光性を有するホログラム素子およびその製造法を提案しているが、該ホログラム素子は体積ホログラムを用いており素子に用いる複屈折誘起材料の膜厚を厚くする必要があることから材料の使用量が多くなるなどの問題がある。
【特許文献1】US−5161039号
【特許文献2】特開2003−167124号
【特許文献3】特開2003−167127号
【非特許文献1】Y.Urino et al.,Tech.Digest of OEC ’88,3C2−1,167−169(1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような問題に鑑みて、本発明は、偏光回折素子ないしは偏光ホログラム素子を簡素な製造方法で提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下に、本発明の詳細を説明する。
本発明者等が、鋭意研究を行った結果、複屈折誘起材料を用いることによって複屈折性を利用した位相型の偏光回折格子または偏光ホログラムを提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
先ず、複屈折性を利用した偏光回折格子について説明する。複屈折性の領域と等方性の領域が厚さtで格子状に形成されているとする。ここで複屈折性の領域の格子と平行方向の屈折率をn//、垂直方向の屈折率をn⊥、等方性の領域の屈折率をn⊥とする。このような位相格子の光の透過率は、複屈折性の領域と等方性の領域を通過する光の位相差をφとすると、cos (φ/2)で表される。このとき格子に垂直な偏光に対しては、φ=0となるため透過率は1となる。すなわち、回折光は格子と平行方向の偏光のみとなる。また、格子と平行方向の偏光に対しては、φ=2π(n//−n⊥)t/λ(λは入射光の波長)となるため、φ=π(=1/2波長)となるようにtを設定すれば透過率は0となり入射光は完全に回折され、0次光も直線偏光となった偏光回折格子を作製することもできる。
【0008】
本発明では、本発明者が特開2002−202409号、特開2004−170595号などに提案している複屈折誘起材料を用い、光照射により複屈折性を誘起させることにより作製した偏光回折格子およびその製造法を提供する。該材料はメソゲン成分として多用されているビフェニル、ターフェニル、フェニルベンゾエートなどの置換基と感光性基を結合した構造を含む側鎖を有し、該側鎖が単炭化、アルキルエーテルなどの屈曲性部分を介して、炭化水素、アクリレート、メタクリレート、シロキサンなど主鎖に結合した構造の繰り返し単位とする単一重合体を提案している。更には、複屈折性を増強するために結晶性ないしは液晶性を有する低分子化合物を混合添加する手法も提案している。このような材料では、基板上に塗布(スピンコート)して製膜した後、この膜に直線偏光の紫外線を照射すると、照射直線偏光の電界振動方向に沿って配置されているシンナモイル基(または、その誘導体基)などの感光性基の2量化が選択的に起こり、続く加熱による分子運動により光2量化しなかった側鎖も光2量化した側鎖と同じ方向に配列し、高分子塗布膜全体において照射した直線偏光の電界振動方向に側鎖が配列する材料である。
【発明の効果】
【0009】
このような複屈折誘起材料の特定の系において、製膜して格子状のマスクを用い偏光性の紫外光を照射して加熱冷却により照射部の配向を誘起させると、正面から観察した場合に複屈折誘起部と複屈折を有さない部分が格子状になった回折格子を作製することができ、格子に対して平行方向の屈折率または格子に対して垂直方向の屈折率の何れか一方で屈折率の周期構造が生じ、その垂直方向の屈折率は周期構造が発現しないことが見出された。即ち、この回折格子では、正面から観察した場合の複屈折誘起部の進相軸方向の屈折率と正面から観察した場合の複屈折を有さない部分の屈折率が一致していると考えられる。複屈折誘起材料は、元来液晶性を呈しているため、光照射されず光2量化が進まなかった比較的側鎖の動きやすい部分では面外配向しやすい傾向がある。このため正面から観察した場合に複屈折誘起部の進相軸方向の屈折率と複屈折を有さない部分の屈折率が一致することから偏光性回折格子を実現できるものと考えられる。ここで、複屈折誘起部の進相軸方向の屈折率と複屈折を有さない部分の屈折率が完全に一致しない場合でも、屈折率周期構造の大きさにおいて複屈折誘起部の遅相軸方向とは差異が生じることから、ある程度の偏光回折性が得られるのは言うまでもない。
このようにして作製された偏光回折格子に光が入射した場合の偏光回折特性を図1によって模式的に示し説明する。図1は、偏光回折格子11の格子に対して垂直方向の断面を表している。更に、この偏光性回折格子11では、複屈折誘起部12は格子に対して平行方向に配向(=複屈折誘起部11の進相軸方向は格子に対して垂直方向)しており、格子に対して平行方向の屈折率で周期構造が生じ、格子に対して垂直方向の屈折率は周期構造が発現しないものとする。複屈折誘起部12aの位相差を入射光の1/2波長としておく。このような偏光回折格子11に入射光Lが入射した場合、0次光L1は格子に対して垂直方向のみの直線偏光となり、回折光L2は格子に対して平行方向のみの直線偏光となる。
このような複屈折誘起材料を用いた偏光回折素子ないしは偏光ホログラム素子を作製する方法として、所望の周期ピッチを有する遮光性のマスクを用い、直線偏光性の光を照射する方法ないしは、レーザー光のような干渉性の良い偏光性の光束を用いた2光束干渉を用いて照射する方法が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下は、本発明の偏光回折素子を作製した例である。
【0011】
(実施例1)
複屈折誘起材料をo−ジクロロベンゼンに14重量%の濃度で溶解し、ガラス基板上にスピンコーターを用いて約1.8μmの厚みとなるよう塗布した。このフィルム上に4μmピッチ(2μmの透過部と2μmの非透過部)の遮光性マスクを配置し、マスクの格子方向に対して電界振動方向が垂直方向である高圧水銀灯からの紫外光を、グランテーラープリズムを介して直線偏光性とした光を1.5J/cm 照射した。照射後、100℃でまで加熱後徐冷することにより配向を誘起した。最後に高圧水銀灯からの紫外光を、グランテーラープリズムを介さず3.0J/cm 照射して配向を固定し偏光回折素子を作製した。作製された偏光回折素子を偏光顕微鏡のクロスニコル下で観察したところ図2のように格子状の明暗が確認され複屈折誘起部2aと複屈折を生じていない部分2bが格子状となっていることが確認された。
【0012】
このように作製された偏光回折素子にHe−Neレーザー光(波長:633nm)を非偏光性として入射して偏光回折特性を調べた。偏光回折素子の格子方向に対して平行である電界振動方向の光はほとんど回折されず、偏光回折素子の格子方向に対して垂直である電界振動方向の光の大部分が回折されることが確認された。この偏光回折特性の測定結果を表1にまとめる。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の偏光回折素子を説明する模式図
【図2】実施例1における偏光回折素子の偏光顕微鏡(クロスニコル下)での観察図
【符号の説明】
【0014】
11 偏光回折素子(高分子膜)
12a 複屈折誘起部、12b 複屈折非誘起部
L 入射光
L1 0次光
L2 回折光(1次光)
2a 複屈折誘起部
2b 複屈折非誘起部
1 格子状パターン(偏光回折素子)
S 直線方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に光配向性の高分子膜を製膜し、前記高分子膜に格子状パターンに直線偏光性の光を照射し、または/および直線偏光性の光を照射することに加えて前記高分子膜を加熱・冷却して形成することを特徴とする偏光回折素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法によって製造された回折素子であって、前記高分子膜の光照射された領域が複屈折性誘起部となり、前記高分子膜の光照射を受けない領域が複屈折性非誘起部となり、両領域が格子状パターンに組み合わされてなることを特徴とする、偏光回折素子。
【請求項3】
請求項2において、前記複屈折誘起部と複屈折非誘起部の格子状パターンは、この格子状パターンに平行な面内の一直線方向で見た場合、複屈折誘起部が複屈折非誘起部に対して所定のミクロな間隔で現れる様式にあり、複屈折誘起部の進相軸方向の屈折率と複屈折非誘起部の屈折率が一致していることを特徴とする、偏光回折素子。
【請求項4】
請求項3において、複屈折誘起部の遅相軸方向において複屈折誘起部と複屈折非誘起部の位相差が入射光の1/2波長であることを特徴とする、偏光回折素子。
【請求項5】
請求項2ないし請求項3ないし請求項4に記載の偏光回折素子を用いて作成されたことを特徴とするホログラム素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−52144(P2007−52144A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−236203(P2005−236203)
【出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【出願人】(000251060)林テレンプ株式会社 (134)
【Fターム(参考)】