説明

偏光変換リレー光学系及びそれを備えた画像投影装置

【課題】偏光変換光学系の偏光分離にともなう結像性能の劣化を抑えることができる偏光変換リレー光学系及びそれを備えた画像投影装置を提供する。
【解決手段】投影レンズ系51とDMD4との間に配置され、偏光方向が一方向に揃った直線偏光に変換するとともに、DMD4に表示された画像から中間像Mを形成する偏光変換リレー光学系52は、前群レンズ系53と、後群レンズ系54と、瞳面Pに配置される偏光変換光学系55とを備える。偏光変換光学系55は、複数の光源像からの光を偏光方向の異なる2つの直線偏光に分離するPBSプリズムアレイ56と、前記2つの直線偏光を一つの偏光方向に揃えて出射する位相板57とを有し、有効像領域内に集光するすべての光線束において、前群レンズ系53は下記の条件式(1)を満たし、後群レンズ系54は下記の条件式(2)を満たす。Δf<40×k×p ・・・(1)、Δr<40×p ・・・(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示素子にて表示された画像を被投影面に投影する画像投影装置に用いる偏光変換リレー光学系及びそれを備えた画像投影装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表示素子に表示された画像をスクリーン等の被投影面に投影するプロジェクタにおいては、スイッチングスピードの速さから、デジタルマイクロミラーデバイス(以下、DMDと称する)を表示素子として用いたものが実用化されている。最近、立体画像(以下、3D画像と称する)として鑑賞可能な映画が製作され、その映画を鑑賞するための映画館もできはじめており、また、3D画像に対応した家庭用のプロジェクションテレビも発売されてきている。DMDを用いたプロジェクタは、右目用画像と左目用画像とを時分割で表示し、偏光メガネやシャッターメガネを鑑賞者が装着することで3D画像を鑑賞することできることから、3Dプロジェクタとして重用されている。
【0003】
上記いずれのメガネも、円偏光または直線偏光を透過させて鑑賞者の左右の目に導くものであるため、DMDを用いたプロジェクタでランダム偏光のままで画像を投影すると、上記メガネで半分以上の光量をロスすることになる。このため、偏光方向の揃った光を用いて投影画像を得ることが望まれる。この点、例えば特許文献1のプロジェクタでは、投影光学系におけるリレー光学系の瞳位置の近傍に偏光変換光学系を配置し、この偏光変換光学系により、表示素子からの光を2つの直線偏光に分離した後に一方の光を他方と同じ偏光方向の光に変換し、表示素子の画像を投影するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2008/141247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した先行技術では、偏光変換光学系により2つの直線偏光に分離され異なる光路を通過するために、偏光変換光学系を通過する前の光線と偏光変換光学系を通過した後の光線とは、互いに平行偏心した光線が生じる。通常、コマ収差等の瞳径の2乗に比例する収差は、各レンズ群の収差を打ち消すように光学系の全系に作用することによって、瞳位置を挟んだ前群レンズ系と後群レンズ系においても、前群レンズ系と後群レンズ系が互いにコマ収差を打ち消し、リレー光学系としてコマ収差を抑えることができる。しかし、瞳位置近傍に偏光変換光学系を配置したリレー光学系においては、偏光変換光学系に起因して前群レンズ系と後群レンズ系に偏心が起こることになり、このように各レンズ系が偏心している場合には、前群レンズ系と後群レンズ系が互いにコマ収差を打ち消すことがなく、コマ収差が顕著に現れ、結像性能を劣化させるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、偏光変換光学系の偏光分離にともなう結像性能の劣化を抑えることができる偏光変換リレー光学系及びそれを備えた画像投影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の偏光変換リレー光学系は、各画素を構成するミラーを回動させることで画像を表示するデジタルマイクロミラーデバイスからなる表示素子と、光源の光から複数の光源像を形成するインテグレータ光学系を有し前記光源からの光を前記表示素子に導く照明光学系と、前記表示素子の画像を被投影面に投影する投影レンズ系と、を備えた画像投影装置における、前記投影レンズ系と前記表示素子との間に配置され、前記表示素子の表示画像の中間像を偏光方向が一方向に揃った状態で形成する偏光変換リレー光学系であって、前記偏光変換リレー光学系は、瞳面に対して中間像側に配置される前群レンズ系と、該瞳面に対して表示素子側に配置される後群レンズ系と、該瞳面に配置される偏光変換光学系とを備え、前記偏光変換光学系は、前記複数の光源像からの光を偏光方向の異なる2つの直線偏光に分離する偏光分離素子と、前記2つの直線偏光を一つの偏光方向に揃えて出射する位相板とを有し、有効像領域内に集光するすべての光線束において、前記前群レンズ系は下記の条件式(1)を満たし、前記後群レンズ系は、下記の条件式(2)を満たすことを特徴としている。
Δf<40×k×p ・・・(1)
Δr<40×p ・・・(2)
但し、
Δf:前記前群レンズ系の像面における該瞳面の上端を通過する光線の座標と該瞳面の下端を通過する光線の座標との中間点から、該瞳面の中心を通過する光線の座標までの距離として定義されるコマ収差量の絶対値
Δr:前記後群レンズ系の像面における該瞳面の上端を通過する光線の座標と該瞳面の下端を通過する光線の座標との中間点から、該瞳面の中心を通過する光線の座標までの距離として定義されるコマ収差量の絶対値
k:前記偏光変換リレー光学系の倍率
p:前記表示素子の画素ピッチ
【0008】
本発明の偏光変換リレー光学系において、前記前群レンズ系は下記の条件式(1A)を満たし、前記後群レンズ系は下記の条件式(2A)を満たすことが望ましい。
Δf<20×k×p ・・・(1A)
Δr<20×p ・・・(2A)
【0009】
本発明の偏光変換リレー光学系において、前記前群レンズ系は下記の条件式(1B)を満たし、前記後群レンズ系は下記の条件式(2B)を満たすことが望ましい。
Δf<k×p ・・・(1B)
Δr<p ・・・(2B)
【0010】
本発明の偏光変換リレー光学系において、前記前群レンズ系と後群レンズ系は瞳面に対して対称に配置されることが望ましい。
【0011】
本発明の偏光変換リレー光学系において、前記後群レンズ系は、前記表示素子の、前記後群レンズ系の光軸に対応する位置から出射した光線を瞳側で平行光にすることが望ましい。
【0012】
前記偏光変換リレー光学系を備えた画像投影装置であることを特徴としている。
【0013】
本発明の画像投影装置において、前記光源はレーザ光であることが望ましい。
【0014】
本発明の画像投影装置において、前記偏光変換光学系から出射した光線を2種類に偏光した光線に交互に切り替える偏光切り替え素子をさらに備えることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、前群レンズ系が条件式(1)を満たすことにより、前群レンズ系の最大のコマ収差量を表示素子の画素ピッチの40倍以下に抑えることができる。また、後群レンズ系が条件式(2)を満たすことにより、後群レンズ系の最大のコマ収差量を表示素子の画素ピッチの40倍以下に抑えることができる。このように、前群レンズ系及び後群レンズ系の夫々で最大のコマ収差量を表示素子の画素ピッチの40倍以下に抑えると、偏光変換光学系に起因して前群レンズ系と後群レンズ系に偏心があっても、偏光変換リレー光学系のコマ収差量を表示素子の略1画素以下に抑えることができ、良好な結像性能が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の一形態に係る画像投影装置の概略の構成を示す断面図
【図2】上記画像投影装置のDMDの平面図
【図3】上記画像投影装置の偏光変換光学系の断面図
【図4】本発明の実施の一形態に係る偏光変換リレー光学系の断面図
【図5】上記偏光変換リレー光学系及び前群レンズ系(後群レンズ系)のコマ収差を示す図
【図6】上記偏光変換リレー光学系の前群レンズ系(後群レンズ系)の断面図
【図7】上記前群レンズ系(後群レンズ系)のコマ収差量を説明する図
【図8】上記偏光変換リレー光学系と前群レンズ系(後群レンズ系)とのコマ収差の相関を示す図
【図9】上記偏光変換光学系の一変形例を示す断面図
【図10】上記偏光変換光学系の別の変形例を示す断面図
【図11】上記偏光変換光学系のさらに別の変形例を示す断面図
【図12】本発明の実施の別形態に係る画像投影装置の構成を示す断面図
【図13】上記画像投影装置のカラープリズムの断面図
【図14】上記偏光変換リレー光学系に係る実施例1の前群レンズ系(後群レンズ系)の収差図
【図15】上記偏光変換リレー光学系に係る実施例1の偏心がある場合における収差図
【図16】上記偏光変換リレー光学系に係る実施例1の偏心がない場合における収差図
【図17】上記偏光変換リレー光学系に係る実施例2の前群レンズ系(後群レンズ系)の収差図
【図18】上記偏光変換リレー光学系に係る実施例2の偏心がある場合における収差図
【図19】上記偏光変換リレー光学系に係る実施例2の偏心がない場合における収差図
【図20】上記偏光変換リレー光学系に係る実施例3の前群レンズ系(後群レンズ系)の収差図
【図21】上記偏光変換リレー光学系に係る実施例3の偏心がある場合における収差図
【図22】上記偏光変換リレー光学系に係る実施例3の偏心がない場合における収差図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施形態について図面を参照して説明するが、本発明は、この実施形態に限定されない。また発明の用途やここで示す用語等はこれに限定されるものではない。
【0018】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係る画像投影装置の概略の構成を示す断面図である。この画像投影装置100は、光源1と、照明光学系2と、TIRプリズム3と、DMD4と、投影光学系5とを有している。なお、ロッドインテグレータ22の長辺方向は、TIRプリズム3の後述する入射面に対して、実際は45度傾いたねじれの関係にあるが、図1では、説明の理解をしやすくするため、上記入射面と偏光分離方向とを同一面内で示している。
【0019】
上記の構成において、光源1から出射された光は、照明光学系2を介してTIRプリズム3に入射し、そこで全反射された後、DMD4に入射する。DMD4に入射した光は、そこで変調された後、画像光として出射され、TIRプリズム3を透過し、投影光学系5を介して被投影面であるスクリーン(図略)に導かれる。この投影光学系5により、DMD4に表示された画像がスクリーン上に拡大投影される。なお、被投影面は壁であってもよい。
【0020】
3D画像を投影する場合には、右目用の画像と左目用の画像とをDMD4にて順次時分割した画像光を投影光学系5の後述する偏光変換光学系55にてランダム偏光を直線偏光に変換してスクリーンに投影する。この場合、鑑賞者は、時分割表示のタイミングに同期して左右交互に直線偏光を透過させるシャッターメガネを介して投影画像を鑑賞すれば、3D画像を鑑賞することができる。以下、各構成の詳細について説明する。
【0021】
尚、光源1からDMD4の矩形の画像表示領域の中心に向かう光線束の中心光線が光路中の任意の面に入射するときに、その面に入射する中心光線と、入射点における面の法線とを含む平面を入射面とする。そして、偏光方向が入射面に平行な直線偏光をP偏光とし、偏光方向が入射面に垂直な直線偏光をS偏光とする。また、光が光学部材を透過するときの光入射側の面を上記の入射面と区別するために光入射面とし、光出射側の面を光出射面とする。
【0022】
光源1は、DMD4を照明するための光を出射するものであり、発光部11と、リフレクタ12とで構成されている。発光部11は、例えば白色光を発光する放電ランプで構成されている。リフレクタ12は、発光部11から出射される光を反射させて照明光学系2に導く反射板である。リフレクタ12は、回転楕円面の反射面を有しており、リフレクタ12の一方の焦点位置に発光部11が配置されている。したがって、発光部11からの光は、リフレクタ12にて反射されて他方の焦点位置に集光し、照明光学系2の後述するカラーホイール21を介してロッドインテグレータ22に入射する。
【0023】
照明光学系2は、光源1からの光をDMD4に導く光学系であり、カラーホイール21と、ロッドインテグレータ22と、照明リレー系23とを有している。
【0024】
カラーホイール21は、R(赤)、G(緑)、B(青)の各色光を順次透過させるカラーフィルターで構成されている。カラーホイール21を回転させることにより、照明する色光を時間的に順次切り替えてDMD4を照明できるので、各色に対応した画像情報をDMD4に表示することにより、投影画像をカラー化することができる。
【0025】
ロッドインテグレータ22は、光源1からの光の光量分布を均一化して出射するものである。ロッドインテグレータ22の断面形状は、DMD4の矩形の画像表示領域と略相似となっている。これにより、ロッドインテグレータ22は、DMD4の矩形の画像表示領域と略相似な照明光束を形成するインテグレータ光学系を構成している。
【0026】
照明リレー系23の瞳面上には、ロッドインテグレータ22内での反射回数に応じた位置に複数の光源像が形成される。また、照明リレー系23の瞳面と後述する偏光変換リレー光学系52の瞳面Pとは、略共役となっている。さらに、ロッドインテグレータ22の光出射面とDMD4の画像表示領域とは、照明リレー系23によって略共役となっている。
【0027】
照明リレー系23は、ロッドインテグレータ22の光出射面の像をリレーしてDMD4に投影することにより、DMD4を均一に照明する光学系である。この照明リレー系23は、第1レンズ23aと、第2レンズ23bと、光路を90度折り曲げるミラー23cと、第3レンズ23dとで構成されている。照明リレー系23によってロッドインテグレータ22からの光を集光することにより、上記光の利用効率を向上させることができる。
【0028】
照明光学系2の上記構成によれば、光源1からカラーホイール21を介してロッドインテグレータ22に時分割で入射する各色光は、そこでの内面反射を繰り返してミキシングされ、均一な光量分布となって光出射面から出射される。このロッドインテグレータ22での反射回数に応じて、照明リレー系23内(照明リレー系の瞳面)に複数の光源像が形成されるが、これらを重畳させることにより、光量分布の均質な照明光を実現することができる。ロッドインテグレータ22から出射される光は、照明リレー系23、及びTIRプリズム3を介して、DMD4に導かれる。このとき、ロッドインテグレータ22の断面は、DMD4の画像表示領域と略相似であるので、DMD4には光が均一にかつ効率よく導かれる。このような光量分布の均一な光でDMD4を照明することにより、投影画像の光量ムラ(輝度ムラ)を無くすことができる。
【0029】
TIRプリズム3は、DMD4への照明光を全反射させ、DMD4からの画像光(投影光)を透過させる全反射プリズム(臨界角プリズム)である。TIRプリズム3によって照明光の光路を折り曲げることにより、画像投影装置100をコンパクトに構成することができる。
【0030】
TIRプリズム3は、エアギャップ層を介して2つのプリズム31、32を貼り合わせて構成されている。プリズム31は、第1光入射面31a、臨界面31b及び第1光出射面31cを有しており、プリズム32は、第2光入射面32a及び第2光出射面32bを有している。プリズム31の臨界面31bとプリズム32の第2光入射面32aとは、エアギャップ層を介して対向して配置されている。
【0031】
照明光学系2からの照明光は、TIRプリズム3のプリズム31の内部に第1光入射面31aから入射する。プリズム31の臨界面31bは、照明光が全反射するように配置されており、照明光は臨界面31bで反射されて、プリズム31の第1光出射面31cから出射され、DMD4を照明する。
【0032】
また、DMD4からの反射光のうち、オン光が、再びTIRプリズム3を経て、投影光学系5に入射し、スクリーンに導かれる。より詳しくは、DMD4の画像表示状態の各画素(ミラー)で反射された光束(投影光)は、プリズム31の第1光出射面31cから再びプリズム31内部に入射し、臨界面31bに到達する。このとき、上記の投影光は、全反射条件を満たさない角度で臨界面31bに入射するため、臨界面31bを透過し、エアギャップ層を経て、第2光入射面32aからプリズム32内部に入射し、第2光出射面32b及び投影光学系5を介してスクリーンに導かれる。
【0033】
DMD4は、各画素に対応する複数の微小ミラーをマトリクス状に有するデジタルマイクロミラーデバイス(米国テキサスインスツルメント社製)であり、入射光を変調して画像を表示する表示素子である。ここで、図2は、DMD4の平面図である。DMD4は、矩形の画像表示領域4aを有し、各画素を構成するミラー4bの回動軸4cが画像表示領域4aの長辺4a及び短辺4aと45度の角度をなしている。
【0034】
DMD4の各ミラー4bは、照明光軸の方に12度傾いた状態で照明光を反射させることにより、DMD4の画像表示領域4aに垂直な方向に投影光としてのオン光を射出する。一方、各ミラー4bが逆方向に12度傾いた状態で照明光を反射させることにより、48度の射出角を持ってオフ光を射出する。オン光は、TIRプリズム3及び投影光学系5を順に介してスクリーンに導かれるが、オフ光は、ミラー4bから大きな射出角で射出されるため、投影光学系5には入射せず、スクリーンには到達しない。このように、各ミラー4bの傾きをON/OFFの2値で制御することにより、DMD4に画像を表示して、その表示画像をスクリーンに投影することができる。
【0035】
また、DMD4では、回動軸4cの軸回りに±12度回動することによってON/OFFを表現するため、臨界面31bの入射面とDMD4のミラー4bの入射面とが互いに平行となるように、TIRプリズム3及びDMD4を配置している。この位置関係により、TIRプリズム3にて投影光と照明光とを効率よく分離しながら、DMD4の各ミラー4bで反射される光のうちでオン光のみを、臨界面31bを透過させてスクリーンに導くことができる。
【0036】
図1に戻り、投影光学系5は、DMD4の画像をスクリーン上に投影する光学系であり、投影レンズ系51及び偏光変換リレー光学系52を有している。
【0037】
偏光変換リレー光学系52は、DMD4の画像の中間像Mを投影レンズ系51の近傍に形成する光学系である。偏光変換リレー光学系52によって形成された中間像Mは、投影レンズ系51によってスクリーン上に投影される。偏光変換リレー光学系52は、前群レンズ系53と、後群レンズ系54と、偏光変換光学系55とを有している。
【0038】
偏光変換光学系55は、照明リレー系23の瞳面上に形成された複数の光源像からの光(ランダム偏光)を、偏光方向が一方向に揃った直線偏光に変換して出射する光学系である。ここで、図3は、偏光変換光学系55の断面図である。偏光変換光学系55は、PBSプリズムアレイ56と、位相板57とで構成されている。
【0039】
PBSプリズムアレイ56は、偏光変換リレー光学系52の瞳面P(図1参照)上に配置されており、照明リレー系瞳面の光源像からの光を偏光方向の異なる2つの直線偏光(P偏光、S偏光)に分離する偏光分離素子である。PBSプリズムアレイ56は、複数のPBS膜56aと複数のプリズム56bとが交互に配置されるように構成されている。各PBS膜56aは、入射光のうちでP偏光を透過させる一方、S偏光を反射させる帯状の光学薄膜であり、互いに平行にかつ等間隔で配置されている。各プリズム56bは、例えばガラスで構成されており、2つのPBS膜56aで挟まれるプリズム56bの断面形状は平行四辺形となっている。
【0040】
位相板57は、PBSプリズムアレイ56にて偏光分離された2つの直線偏光の一方の光路中に配置される位相板であり、例えば1/2波長板で構成され、PBSプリズムアレイ56の中間像M側(図3の左側)にひとつおきのPBS膜56aと向かい合うように、ひとつおきのプリズム56bに貼り合わされている。この位相板57は、PBS膜56aを透過した一方の直線偏光(例えばP偏光)を他方と同じ偏光方向の直線偏光(例えばS偏光)に変換する。
【0041】
偏光変換光学系55の上記構成により、照明リレー系23の瞳面上に形成された複数の光源像の光束は、PBSプリズムアレイ56上で結像するとともに、PBS膜56aによってP偏光とS偏光とに分離される。このうち、P偏光はPBS膜56aを透過して位相板57に入射し、これを透過することによってS偏光に変換される。
【0042】
一方、PBS膜56aにて偏光分離されたS偏光は、PBS膜56aにて反射された後、隣のPBS膜56aによって再度反射され、位相板57が貼り合わされていない領域を通り出射する。
【0043】
偏光変換光学系55の上記構成によれば、立体視可能な画像を投影するときは、偏光変換光学系55にて、ランダム偏光を偏光方向が一方向に揃った直線偏光に変換しているので、所定の偏光方向の直線偏光のみを取り出して(他の偏光方向の直線偏光を遮断して)、画像を投影する構成に比べて、光量損失の少ない、視覚的に明るい投影画像を得ることができる。
【0044】
図4は、偏光変換リレー光学系52を示す断面図である。偏光変換リレー光学系52は、瞳面P上に配置される偏光変換光学系55と、瞳面Pに対して中間像M側に配置される前群レンズ系53と、瞳面Pに対してDMD4側に配置される後群レンズ系54とを有する。
【0045】
後群レンズ系54は、DMD4から出射した光線を瞳P側で略平行光とする光学系であり、瞳面P側からDMD4側に向かって順にレンズL1〜L8で構成される。
【0046】
レンズL1は両凹レンズからなり、レンズL2は、レンズL1に貼り合わされる正メニスカスレンズからなり、レンズL3は正メニスカスレンズからなり、レンズL4は負メニスカスレンズからなり、レンズL5は両凸レンズからなり、レンズL6は両凹レンズからなり、レンズL7は両凸レンズからなり、レンズL8は正メニスカスレンズからなる。
【0047】
前群レンズ系53は、瞳面Pから入射した平行光を中間像M面の光軸AX(偏光変換リレー光学系52の光軸)上に結像させる光学系であり、瞳面P側から中間像M側に向かって順にレンズL1〜L8で構成される。
【0048】
前群レンズ系53のレンズL1〜L8は、後群レンズ系54のレンズL1〜L8と夫々同じ構成のレンズであり、後群レンズ系54のレンズL1〜L8と同じレンズ間隔になるように配置されている。つまり、前群レンズ系53と後群レンズ系54とは瞳面Pに対して対称に配置されている。
【0049】
前群レンズ系53と後群レンズ系54との上記構成によれば、前群レンズ系53と後群レンズ系54との各レンズを同じ硝材にすることができ、偏光変換リレー光学系52をコストダウンすることができ、また、等倍のリレー光学系を簡単に構成することができるために、投影光学系5を投影レンズ系51のみで構成する場合と同様な取り扱いで画像形成装置として用いることができる。
【0050】
また、前群レンズ系53と後群レンズ系54との上記構成によれば、偏光変換リレー光学系52が瞳P近傍で平行光となる光学系であるために、前群レンズ系53と後群レンズ系54との間で光路長の差や光軸のずれが発生しても、レンズ性能の劣化を極めて小さくした光学系を得ることができる。
【0051】
偏光変換リレー光学系52は、偏光変換光学系55によって偏光変換するために、偏光方向の異なる2つの直線偏光(P偏光、S偏光)が瞳面P上で分離されている。この偏光分離するときに、一方の偏光(例えばS偏光)は、PBSプリズムアレイ56のPBS膜56a(図3参照)で2回反射するために、他方の偏光(例えばP偏光)に対して光路がシフトしていることになる。すなわち、偏光変換光学系55を通過する前の光線と偏光変換光学系55を通過した後の光線とは、互いに平行偏心した光線が生じる。
【0052】
通常、前群レンズ系53と後群レンズ系54の夫々単独の光学系に大きなコマ収差があっても、前群レンズ系53と後群レンズ系54とが互いにコマ収差を打ち消すために、前群レンズ系53と後群レンズ系54とを含むリレー光学系としては、コマ収差を抑えることができる。しかし、瞳位置近傍に偏光変換光学系55を配置した偏光変換リレー光学系52においては、偏光変換光学系55に起因して前群レンズ系53と後群レンズ系54とに平行偏心が起こることになり、各レンズ系が偏心している場合には、前記のように前群レンズ系53と後群レンズ系54が互いにコマ収差を打ち消すことがなく、コマ収差が顕著に現れる。このコマ収差について図5、図6を用いて詳しく説明する。
【0053】
図5は、偏光変換リレー光学系52と、前群レンズ系53及び後群レンズ系54の夫々のコマ収差を示す図である。図6は、偏光変換リレー光学系52の前群レンズ系53と後群レンズ系54の断面図である。尚、図5の横軸は、瞳面上において光軸を通過する主光線を基準(原点0)とした入射光線の位置を示し、その縦軸は各入射光線の位置におけるコマ収差量を示す。また、図5の「前群レンズ系コマ収差」は、図6に示す前群レンズ系53の瞳面Pから平行光が入射した場合の像面におけるコマ収差を示し、また、図5の「後群レンズ系コマ収差」は、図6の後群レンズ系54の瞳面Pから平行光が入射した場合の像面におけるコマ収差を示す。さらに、図5の「全光学系コマ収差」は、前群レンズ系53と後群レンズ系54とからなるレンズ系(全光学系)のコマ収差を示し、図5の「偏心系」は、平行偏心しているレンズ系のコマ収差を示す。
【0054】
図5に示すように、「前群レンズ系コマ収差」と「後群レンズ系コマ収差」とは、原点0を含む横軸に対して互いに反対方向に略対称にコマ収差が出現しているために、「全光学系コマ収差」では前群レンズ系コマ収差と後群レンズ系コマ収差とが互いに打ち消しあい、全光学系コマ収差が抑えられている。
【0055】
前群レンズ系53と後群レンズ系54とからなるレンズ系(全光学系)において、例えば、後群レンズ系54が前群レンズ系53に対して平行偏心した場合、図5の「後群レンズ系コマ収差(偏心系)」に示すように、図5の「後群レンズ系コマ収差」(偏芯がない場合)に対して、コマ収差が原点0を基準として時計回り方向に回転するように偏る。このために、全光学系において前群レンズ系53と後群レンズ系54とが互いにコマ収差を打ち消すことができず、図5の「全光学系コマ収差(偏心系)」に示すように、コマ収差が大きく残存し、レンズ性能を劣化させる。
【0056】
そこで、本実施形態では、前群レンズ系53及び後群レンズ系54の夫々の単独コマ収差量を小さく抑えている。それにより、瞳位置に偏光変換光学系55を配置することに起因して前群レンズ系53と後群レンズ系54とに平行偏心が起こっても、レンズ性能の劣化を抑えるようにしている。ここで、図7は像面I上の任意の一点での集光状態を模式的に示す図であり、つまり、前群レンズ系53及び後群レンズ系54の各単独コマ収差量を示す図である。単独コマ収差量は、像面I上の一点に集光する光線束において、各レンズ系の瞳面P(図6参照)の上端を通過する光線Aの像面I上の座標Ahと該瞳面Pの下端を通過する光線Bの像面I上の座標Bhとの中間点Dhから、該瞳面Pの中心(光軸上)を通過する光線C(主光線)の像面I上の座標Chまでの距離として定義される。ここに像面Iは、前群レンズ系53あるいは後群レンズ系54において、各レンズ系の瞳側から入射した光軸に平行な光線束が集光する点を含む光軸に垂直な面である。また、本実施形態では、前群レンズ系53及び後群レンズ系54の像面側の主光線はいずれも略平行となるテレセントリック光学系である。
【0057】
前群レンズ系53及び後群レンズ系54おける一方のレンズ系の偏心量を一方のレンズ系の瞳径の1/10として、また、DMD4の画素ピッチを8μmに設定すると、一方のレンズ系の有効像領域内の単独コマ収差量と全光学系の有効像領域内のコマ収差量とは図8に示す相関が得られる。ここで、有効像領域とは、前記像面I上の領域であって、後群レンズ系54においてはDMD4の画像表示領域に相当する領域であり、前群レンズ系53においてはDMD4の画像表示領域に偏光変換リレー光学系の倍率が乗じられた面積を持つDMD4の画像表示領域に相似の領域である。
【0058】
図8は、上記の偏心量における単独コマ収差量と全光学系のコマ収差量とを示すグラフであり、横軸に単独コマ収差量を示し、縦軸に全光学系のコマ収差量を示す。図8の破線は単独コマ収差量と全光学系のコマ収差量との相関を示す。このグラフから明らかなように、単独コマ収差量が300μm以下であると、全光学系のコマ収差量は略8μmに収まり、DMD4の1画素程度に抑えることができる。このことから、全光学系のコマ収差量をDMD4の1画素程度に抑えるには、単独コマ収差量を画素ピッチの略37倍以下のコマ収差量に収めればよいことになる。
【0059】
従って、前群レンズ系53の単独コマ収差量の絶対値をΔf(単位nm)、後群レンズ系54の単独コマ収差量の絶対値をΔr(単位nm)で表し、また、DMD4の画素ピッチの画素ピッチをp(単位nm)、偏光変換リレー光学系52の倍率をkで表す場合に、有効像領域内に集光するすべての光線束において、
Δf<40×k×p ・・・(1)
Δr<40×p ・・・(2)
の条件式(1)、(2)を満たすことによって、偏光変換光学系55に起因して前群レンズ系53と後群レンズ系54に互いに偏心があっても、偏光変換リレー光学系52のコマ収差量がDMD4の略画素ピッチ以下に抑えることができ、良好な結像性能が得られる。
【0060】
また、図8に示すように、単独コマ収差量が200μm以下であると、全光学系のコマ収差量は略4μmに収まり、DMD4の画素の半画素程度に抑えることができる。このことから、全光学系のコマ収差量をDMD4の画素の半画素程度に抑えるには、単独コマ収差量を画素ピッチの略25倍以下のコマ収差量に収めればよいことになる。
【0061】
従って、下記の条件式(1A)、(2A)を満たすことによって、偏光変換光学系55に起因して前群レンズ系53と後群レンズ系54に互いに偏心があっても、偏光変換リレー光学系52のコマ収差量がDMD4の画素の略半画素以下に抑えることができ、一層良好な結像性能が得られる。
Δf<20×k×p ・・・(1A)
Δr<20×p ・・・(2A)
【0062】
さらに、以下の条件式(1B)、(2B)を満たすと、単独コマ収差量をDMD4の画素程度(8μm程度)に収めることになり、偏光変換光学系55に起因したレンズ性能の劣化がさらに一層抑えられ、偏心のない光学系の程度に良好な結像性能が得られる。
Δf<k×p ・・・(1B)
Δr<p ・・・(2B)
【0063】
尚、図9に示すように偏光変換光学系55を配置しても、本実施形態に適用することができる。図9は、偏光変換光学系の一変形例を示す断面図である。この偏光変換光学系55は、図3に示す偏光変換光学系55と同じ構成であるが、前群レンズ系53及び偏光変換光学系55の光軸AX1に対して、後群レンズ系54の光軸AX2を平行偏心させている。
【0064】
後群レンズ系54は、偏光変換光学系55によってP偏光とS偏光とに分離されるピッチに対して1/2だけの平行偏心している。このように後群レンズ系54の平行偏心量を設定すると、光軸AX1に対して、分離されるP偏光とS偏光とのズレ量が等しくなる。P偏光とS偏光とのズレ量が等しくなることによって、図3に示す偏光変換光学系55の構成に比較して、光軸AX1に対するP偏光とS偏光とのズレ量を半分にすることができる。このように、前群レンズ系53と後群レンズ系54とを平行偏心させることで、偏光変換光学系55に起因するレンズ性能の劣化を抑えることができる。
【0065】
また、偏光変換光学系55は図10に示すように構成にしてもよい。図10は、偏光変換光学系の別の変形例を示す断面図である。偏光変換光学系55は、PBSプリズムアレイ56と、位相板57とで構成されている。
【0066】
PBSプリズムアレイ56は、偏光変換リレー光学系52の瞳面P(図1参照)上に配置されており、複数の光源像からの光を偏光方向の異なる2つの直線偏光(P偏光、S偏光)に分離する偏光分離素子である。PBSプリズムアレイ56は、PBS膜56cと反射膜56hを形成したプリズム56dと、PBS膜56fと反射膜56iを形成したプリズム56gと、プリズム56dのPBS膜56c及びプリズム56gのPBS膜56fと貼り合わされた分岐プリズム56eと、プリズム56dの反射膜56h及びプリズム56gの反射膜56iと貼り合わされた反射プリズム56jで構成されている。分岐プリズム56e及び反射プリズム56jの各断面形状は直角二等辺三角形をなし、PBS膜56cと反射膜56hで挟まれるプリズム56d及びPBS膜56fと反射膜56iで挟まれるプリズム56gの各断面形状は平行四辺形となっている。PBS膜56c、56fは、入射光のうちでP偏光を透過させる一方、S偏光を反射させる。なお、反射膜56h、56iは、PBS膜で構成されていてもよい。
【0067】
位相板57は、PBSプリズムアレイ56にて偏光分離された2つの直線偏光の一方の光路中に配置される位相板であり、例えば1/2波長板で構成され、分岐プリズム56eの前記一面と向かい合って貼り合わされている。この位相板57は、PBS膜56c、56fを透過した一方の直線偏光(例えばP偏光)を他方と同じ偏光方向の直線偏光(例えばS偏光)に変換する。
【0068】
偏光変換光学系55の上記構成により、PBS膜56c、56fによってP偏光とS偏光とに分離される。このうち、P偏光はPBS膜56cを透過して分岐プリズム56eを介して位相板57に入射し、これを透過することによってS偏光に変換される。また、P偏光はPBS膜56fを透過して分岐プリズム56eを介して位相板57に入射し、これを透過することによって上記S偏光とは異なる位置でS偏光に変換される。
【0069】
一方、PBS膜56cにて偏光分離されたS偏光は、PBS膜56cにて反射された後、隣の反射膜56hによって再度反射され、分岐プリズム56eの横(図10の上側)を通り出射する。また、PBS膜56fにて偏光分離されたS偏光は、PBS膜56fにて反射された後、隣の反射膜56iによって再度反射され、分岐プリズム56eの横(図10の下側)を通り出射する。
【0070】
偏光変換光学系55の上記構成によれば、複数の光源像の光路を分岐プリズム56eによって2つの光路に分けるために、前群レンズ系53と後群レンズ系54とを平行偏心させることなく、P偏光とS偏光とのズレ量を、図3に示す偏光変換光学系55の構成に対して半分にすることができる。これによって、偏光変換光学系55に起因するレンズ性能の劣化を抑えることができる。
【0071】
さらに、偏光変換光学系55は図11に示すように構成にしてもよい。図11は、偏光変換光学系のさらに別の変形例を示す断面図である。偏光変換光学系55は、PBS膜58aを形成された三角プリズム58と、PBS膜58aに対面して貼り合わされる平行平板59と、瞳位置近傍に配置される位相板57とで構成されている。PBS膜58aは、入射光のうちでP偏光を透過させる一方、S偏光を反射させる光学薄膜で形成される。位相板57は、PBS膜58aにて偏光分離された2つの直線偏光の一方の光路中に配置される位相板であり、例えば1/2波長板で構成され、平行平板59の厚みに対応して1つおきに、三角プリズム58の90度折り曲げた光出射面に貼り合わされている。
【0072】
偏光変換光学系55の上記構成により、複数の光源像の光束は、後群レンズ系54を介して三角プリズム58に入射し、PBS膜58aによってP偏光とS偏光とに分離される。S偏光は、PBS膜58aにて反射された後、三角プリズム58の光出射面を通過し、隣り合う位相板57、57の間を通り出射する。
【0073】
一方、PBS膜58aにて偏光分離されたP偏光は、PBS膜58aを透過して平行平板59の反射面にて反射され、再びにPBS膜58aを透過する。PBS膜58aを透過P偏光は、位相板57に入射し、これを透過することによってS偏光に変換される。
【0074】
偏光変換光学系55の上記構成によれば、プリズムをアレイ状に設ける必要がなく、PBS膜58aを三角プリズム58の一面のみに形成すればよく、これによって、プリズムアレイに発生するおそれがあるPBS膜58aの相互の位置ずれ、角度ずれが抑えられ、偏光変換光学系55によって精度良く偏光変換することができる。
【0075】
(第2実施形態)
本発明の他の実施の形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、以下での説明の便宜上、第1実施形態と同一の構成には同一の番号を付記し、その説明を省略する。
【0076】
図12は、本実施形態の画像投影装置の概略構成を示す断面図である。本実施形態の画像投影装置100は、光源1にレーザユニット61を用いた点、TIRプリズム3とDMD4との間の光路中にカラープリズム63を配置した点、投影光学系5のスクリーン側に偏光切り替え素子68を配置した点、DMD4を赤、緑、青の各色光に対応して設けた点以外は、第1実施形態と同様の構成である。
【0077】
レーザユニット61は、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のレーザ光源を有し、RGBの各色光から白色の光束を合成するものである。放電ランプ等の光源に比べると光源サイズが小さく、レーザユニット61から小さいサイズの光源像が形成される光束が出射され、偏光変換光学系55によって効率良く偏光変換することができる。
【0078】
レーザユニット61の光源光束はロッドインテグレータ22に入射する。ロッドインテグレータ22の光出射面には拡散板ホイール62が設けられる。拡散板ホイール62は高速で回転することによって、ロッドインテグレータ22から出射した光束のスペックルをさらに低減させるが、ロッドインテグレータ22から出射した光束はランダム偏光状態になる。
【0079】
上記の構成において、光源1から出射された光は、照明光学系2を介してTIRプリズム3に入射し、そこで全反射された後、カラープリズム63を介してDMD4に入射する。DMD4に入射した光は、そこで変調された後、画像光として出射され、カラープリズム63を介してTIRプリズム3を透過し、さらに、投影光学系5(偏光変換リレー光学系52、投影レンズ系51)及び偏光切り替え素子68を介してスクリーンに導かれる。
【0080】
図13にカラープリズム63の断面図を示す。カラープリズム63は、TIRプリズム3(図12参照)とDMD4との間の光路中に配置される色分離合成手段である。本実施形態では、DMD4は、異なる3つの色光(赤、緑、青の各色光)に対応して設けられるDMD4R、4G、4Bからなっており、カラープリズム63は、TIRプリズム3からの光を上記3つの色光に分離して各DMD4R、4G、4Bに導くとともに、各DMD4R、4G、4Bからの反射光を同一光路に合成する。
【0081】
カラープリズム63は、三角柱状の第1カラープリズム64及び第2カラープリズム65、略四角柱状の第3カラープリズム66、三角柱状の第4カラープリズム67が組み合わされている。第1カラープリズム64の、第2カラープリズム65と対向する面がダイクロイック面として機能し、この面に赤色光を反射するとともに青色光及び緑色光を透過するダイクロイック膜64Rが形成されている。なお、第1カラープリズム64と第2カラープリズム65との間にはエアギャップ層が設けられている。また、第2カラープリズム65の、第3カラープリズム66と対向する面がダイクロイック面として機能し、この面に青色光を反射するとともに緑色光を透過するダイクロイック膜65Bが設けられている。第2カラープリズム65と第3カラープリズム66との間、第1カラープリズム64と第4カラープリズム67との間にもそれぞれエアギャップ層が設けられている。
【0082】
第4カラープリズム67の光入出射面より入射した照明光は、ダイクロイック膜64Rで赤色光が反射し、青色光及び緑色光は透過する。ダイクロイック膜64Rで反射した赤色光は、第1カラープリズム64の側面で全反射して、第1カラープリズム64の光入出射面より出射してDMD4Rを照明する。一方、ダイクロイック膜64Rを透過した青色光と緑色光のうち、青色光は第2カラープリズム65のダイクロイック膜65Bで反射し、緑色光は透過する。ダイクロイック膜65Bで反射した青色光は、第2カラープリズム65の側面で全反射され、第2カラープリズム65の光入出射面より出射してDMD4Bを照明する。ダイクロイック膜65Bを透過した緑色光は、第3カラープリズム66の光入出射面より出射してDMD4Gを照明する。
【0083】
各DMD4R、4G、4Bに入射した光は、そこで変調された後、画像光として出射される。DMD4Rで反射した赤色の画像光は、第1カラープリズム64の光入出射面に入射して、第1カラープリズム64の側面で全反射した後、さらにダイクロイック膜64Rで反射する。また、DMD4Bで反射された青色の画像光は、第2カラープリズム65の光入出射面に入射して、第2カラープリズム65の側面で全反射した後、ダイクロイック膜65Bでさらに反射する。さらに、第1カラープリズム64のダイクロイック膜64Rを透過する。一方、DMD4Gで反射した緑色の画像光は、第3カラープリズム66の光入出射面に入射して、ダイクロイック膜65B及びダイクロイック膜64Rを透過する。そして、これら赤色、青色及び緑色の各画像光は、同一光軸に合成され、第4カラープリズム67の光入出射面から出射して、TIRプリズム3(図12参照)に入射する。
【0084】
図12に戻り、偏光切り替え素子68は、投影光学系5のスクリーン側に配置される。尚、偏光切り替え素子68は偏光変換光学系55よりもスクリーン側であるなら、投影レンズ系51と偏光変換リレー光学系52の間に配置してもよく、また、偏光変換リレー光学系52内に配置してもよい。偏光切り替え素子68としては、例えばReal D社のZ-Screenと呼ばれる偏光切り替え素子を用いることができる。この偏光切り替え素子68は、入射する直線偏光の光束を、右円偏光と左円偏光とで時分割で交互にかつ高速に切り替えて出射するものである。したがって、立体視可能な画像を投影するときは、DMD4に左目用の画像と右目用の画像とを交互に表示し、それに同期して偏光切り替え素子68にて右円偏光と左円偏光とを交互に切り替えて出射すればよい。この場合、鑑賞者は、偏光メガネ(例えば右目部分に右円偏光のみを透過する偏光板を有し、左目部分に左円偏光のみを透過する偏光板を有するもの)を装着することにより、右目用の投影画像を右目で、左目用の投影画像を左目で時分割されて鑑賞して、ひとつの画像投影装置100によって投影画像を立体的に鑑賞することが可能となる。
【0085】
上記、第1及び第2実施形態によれば、画像投影装置100に偏光変換リレー光学系52を用いることで、偏光状態が乱れていない単一の直線偏光で画像を投影することができる。従って、投影する画像の光量が低下するのを回避することができ、偏光スクリーンに投影しても、投影する画像の明るさ、コントラストが低下することなく、良好な3D画像を鑑賞することができる。また、3D画像の鑑賞には、2つの画像をひとつの投影光学系で投影することが可能であるために、2つの投影光学系で夫々画像を投影し、スクリーン上に2つの画像の重ね合わせる調整作業が必要でなく、また、平面画像の鑑賞と同様に投影距離等の投影条件を容易に設定することができる。
【0086】
尚、上記第1及び第2実施形態では、インテグレータ光学系にロッドインテグレータ22を用いる構成を示したが、本発明はこれに限らず、インテグレータ光学系として複数のレンズからなるレンズアレイを設け、レンズアレイによって光源からの光束を複数の光束に分割して複数の光源像を形成するようにしてもよい。
【0087】
また、図9〜図11に示す偏光変換光学系55の配置、構成を第2実施形態の画像形成装置100に適用するようにしてもよい。
【実施例】
【0088】
本発明の偏光変換リレー光学系52における一方の光学系(前群レンズ系53、後群レンズ系54)の構成を、実施例のレンズ構成データ及び収差図を用いて、さらに具体的に説明する。尚、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。実施例1〜3は夫々図6の光学系に対応させて、各レンズの面番号sを記載している。
【0089】
実施例のレンズ構成について、面データは、左側の欄から順に、面番号s、曲率半径r(単位mm)、軸上での面間隔t(単位mm)、波長546.00nmにおける屈折率nd及びアッベ数vd、有効径d(単位mm)を示す。尚、面番号s1、s2は偏光変換光学系55を示し、s18は像面を示す。
【0090】
各種データに示す記号は下記の通りである。
F:瞳径(単位mm)
Y'max:最大像高(単位mm)
【0091】
(実施例1)
単位 mm
[面データ]
s r t nd vd d
1 inf 2.00 1.51680 64.20 20.84
2 inf 6.73 20.85
3 -71.429 11.24 1.51680 64.20 20.88
4 46.676 7.02 1.80611 40.73 23.18
5 92.076 9.36 23.18
6 -126.287 14.13 1.83400 37.35 24.10
7 -54.652 6.15 26.18
8 -40.663 12.15 1.67270 32.17 25.99
9 -73.756 2.22 30.29
10 122.193 15.35 1.49700 81.61 32.79
11 -86.155 5.03 32.93
12 -100.159 4.94 1.78590 43.93 31.85
13 106.254 10.02 32.76
14 175.342 18.96 1.49700 81.61 36.45
15 -72.215 14.52 37.33
16 106.690 22.42 1.49700 81.61 37.01
17 3585.545 145.00 35.00
18 inf 8.59 18.50
【0092】
[各種データ]
F:20.84
Y'max:18.50
【0093】
(実施例2)
単位 mm
[面データ]
s r t nd vd d
1 inf 2.00 1.51680 64.20 21.19
2 inf 13.06 21.19
3 -72.934 4.20 1.51680 64.20 21.26
4 46.386 7.12 1.80611 40.73 22.78
5 90.848 10.62 22.79
6 -122.750 14.72 1.83400 37.35 24.04
7 -53.921 6.20 26.30
8 -40.627 12.03 1.67270 32.17 26.12
9 -73.676 2.49 30.49
10 119.966 15.88 1.49700 81.61 33.13
11 -84.324 5.06 33.25
12 -96.301 4.27 1.78590 43.93 32.09
13 106.243 10.01 33.00
14 175.375 18.92 1.49700 81.61 36.77
15 -71.832 6.65 37.62
16 107.636 27.96 1.49700 81.61 37.58
17 3644.289 145.00 35.00
18 inf 3.74 17.96
【0094】
[各種データ]
F:21.19
Y'max:17.96
【0095】
(実施例3)
単位 mm
[面データ]
s r t nd vd d
1 inf 2.00 1.51680 64.20 21.36
2 inf 11.03 21.37
3 -74.746 5.03 1.51680 64.20 21.42
4 46.005 7.12 1.80611 40.73 23.02
5 89.269 9.53 23.01
6 -117.534 14.29 1.83400 37.35 23.95
7 -52.926 5.85 26.15
8 -40.676 12.16 1.67270 32.17 25.97
9 -73.704 2.10 30.29
10 117.059 15.58 1.49700 81.61 32.86
11 -85.659 4.87 32.97
12 -96.140 4.40 1.78590 43.93 31.91
13 105.818 10.01 32.86
14 174.322 18.91 1.49700 81.61 36.69
15 -72.532 4.23 37.56
16 105.704 27.28 1.49700 81.61 37.53
17 3147.328 145.00 35.00
18 inf 5.01 18.08
【0096】
[各種データ]
F:21.36
Y'max:18.08
【0097】
図14〜図22は、波長546.00nmにおける各像高のコマ収差(横収差)を示す。各図の(a)は最大像高に至る光線束のコマ収差、各図の(b)は最大像高の0.87倍の位置に至る光線束のコマ収差、各図の(c)は最大像高の0.71倍の位置に至る光線束のコマ収差、各図の(d)は軸上に至る光線束のコマ収差を示す。横軸に瞳面上における入射光線の位置を示し、縦軸は各入射光線の位置におけるコマ収差量を示す。
【0098】
図14〜図16は実施例1のコマ収差を示す。図14は、一方の光学系(前群レンズ系53、後群レンズ系54、図6参照)のコマ収差を示し、図15、図16は、夫々倍率1倍の全光学系(図4参照)のコマ収差を示す。図15は、前群レンズ系53と後群レンズ系54とを互いに2mm平行偏心させた場合のコマ収差を示し、図16は、平行偏心がない場合のコマ収差を示す。この実施例1は、一方の光学系(前群レンズ系53、後群レンズ系54)のコマ収差量がDMD4の画素程度(8μm程度)になるように設計したものであり、平行偏心が在る全光学系のコマ収差量は平行偏心がない全光学系のコマ収差(図16参照)と同じ程度に抑えられている。
【0099】
図17〜図19は実施例2のコマ収差を示す。図17は、一方の光学系(前群レンズ系53、後群レンズ系54、図6参照)のコマ収差を示し、図18、図19は、夫々倍率1倍の全光学系(図4参照)のコマ収差を示す。図18は、前群レンズ系53と後群レンズ系54とを互いに2mm平行偏心させた場合のコマ収差を示し、図19は、平行偏心がない場合のコマ収差を示す。この実施例2は、一方の光学系(前群レンズ系53、後群レンズ系54)のコマ収差量が200μm以下になるように設計したものであり、平行偏心した全光学系のコマ収差量はDMD4の画素の半画素(4μm)程度に抑えられている。
【0100】
図20〜図22は実施例3のコマ収差を示す。図20は、一方の光学系(前群レンズ系53、後群レンズ系54、図6参照)のコマ収差を示し、図21、図22は、夫々倍率1倍の全光学系(図4参照)のコマ収差を示す。図21は、前群レンズ系53と後群レンズ系54とを互いに2mm平行偏心させた場合のコマ収差を示し、図22は、平行偏心がない場合のコマ収差を示す。この実施例3は、一方の光学系(前群レンズ系53、後群レンズ系54)のコマ収差量が300μm以下になるように設計したものであり、平行偏心した全光学系のコマ収差量はDMD4の1画素(8μm)程度に抑えられている。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、表示素子にて表示された画像を被投影面に投影する画像投影装置に用いる偏光変換リレー光学系及びそれを備えた画像投影装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0102】
1 光源
2 照明光学系
4 DMD(表示素子)
4B DMD(表示素子)
4G DMD(表示素子)
4R DMD(表示素子)
5 投影光学系
22 ロッドインテグレータ(インテグレータ光学系)
23 照明リレー系
51 投影レンズ系
52 偏光変換リレー光学系
53 前群レンズ系
54 後群レンズ系
55 偏光変換光学系
56 PBSプリズムアレイ(偏光分離素子)
56c PBS膜
56d プリズム
56e 分岐プリズム
56f PBS膜
56g プリズム
56h 反射膜
56i 反射膜
56j 反射プリズム
57 位相板
58 三角プリズム
58a PBS膜
59 平行平板
61 レーザユニット
63 カラープリズム
68 偏光切り替え素子
100 画像投影装置
M 中間像
P 瞳面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各画素を構成するミラーを回動させることで画像を表示するデジタルマイクロミラーデバイスからなる表示素子と、
光源の光から複数の光源像を形成するインテグレータ光学系を有し前記光源からの光を前記表示素子に導く照明光学系と、
前記表示素子の画像を被投影面に投影する投影レンズ系と、を備えた画像投影装置における、前記投影レンズ系と前記表示素子との間に配置され、前記表示素子の表示画像の中間像を偏光方向が一方向に揃った状態で形成する偏光変換リレー光学系であって、
前記偏光変換リレー光学系は、瞳面に対して中間像側に配置される前群レンズ系と、該瞳面に対して表示素子側に配置される後群レンズ系と、該瞳面に配置される偏光変換光学系とを備え、
前記偏光変換光学系は、前記複数の光源像からの光を偏光方向の異なる2つの直線偏光に分離する偏光分離素子と、前記2つの直線偏光を一つの偏光方向に揃えて出射する位相板とを有し、
有効像領域内に集光するすべての光線束において、前記前群レンズ系は下記の条件式(1)を満たし、前記後群レンズ系は下記の条件式(2)を満たすことを特徴とする偏光変換リレー光学系。
Δf<40×k×p ・・・(1)
Δr<40×p ・・・(2)
但し、
Δf:前記前群レンズ系の像面における、該瞳面の上端を通過する光線の座標と該瞳面の下端を通過する光線の座標との中間点から、該瞳面の中心を通過する光線の座標までの距離として定義されるコマ収差量の絶対値
Δr:前記後群レンズ系の像面における、該瞳面の上端を通過する光線の座標と該瞳面の下端を通過する光線の座標との中間点から、該瞳面の中心を通過する光線の座標までの距離として定義されるコマ収差量の絶対値
k:前記偏光変換リレー光学系の倍率
p:前記表示素子の画素ピッチ
【請求項2】
前記前群レンズ系は下記の条件式(1A)を満たし、前記後群レンズ系は下記の条件式(2A)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の偏光変換リレー光学系。
Δf<20×k×p ・・・(1A)
Δr<20×p ・・・(2A)
【請求項3】
前記前群レンズ系は下記の条件式(1B)を満たし、前記後群レンズ系は下記の条件式(2B)を満たすことを特徴とする請求項2に記載の偏光変換リレー光学系。
Δf<k×p ・・・(1B)
Δr<p ・・・(2B)
【請求項4】
前記前群レンズ系と後群レンズ系は瞳面に対して対称に配置されることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の偏光変換リレー光学系。
【請求項5】
前記後群レンズ系は、前記表示素子の、前記後群レンズ系の光軸に対応する位置から出射した光線を瞳側で平行光にすることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の偏光変換リレー光学系。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の偏光変換リレー光学系を備えた画像投影装置。
【請求項7】
前記光源はレーザ光であることを特徴とする請求項6に記載の画像投影装置。
【請求項8】
前記偏光変換光学系から出射した光線を2種類に偏光した光線に交互に切り替える偏光切り替え素子をさらに備えることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の画像投影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−141574(P2012−141574A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195704(P2011−195704)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】