光ファイバ収納スペーサの製造方法
【課題】光ファイバケーブルとしたときに、安定した伝送性能が得られる光ファイバ収納スペーサの製造方法を提供する。
【解決手段】抗張力線1の周囲を熱可塑性樹脂で被覆して樹脂被覆抗張力体とする(ステップS1)。この樹脂被覆抗張力体を中芯とし、回転ダイスを使用した押出成形により、この中芯の周囲に、熱可塑性樹脂からなり、1又は複数の螺旋状に一定方向に回転する溝又はSZ状に交互に回転する溝を備える被覆部を形成する(ステップS2)。引き続き、冷却部において、被覆部を構成する樹脂を完全に固化させて、光ファイバ収納スペーサを得る(ステップS3)。その後、得られたスペーサについて、その断面を擬似的に円形とみなして、溝の1/2ピッチ以上の区間で外径を連続的に測定し、その最大値が設定範囲内に入らないときに、ステップS2における熱可塑性樹脂の押出量を調節する(ステップS4)。
【解決手段】抗張力線1の周囲を熱可塑性樹脂で被覆して樹脂被覆抗張力体とする(ステップS1)。この樹脂被覆抗張力体を中芯とし、回転ダイスを使用した押出成形により、この中芯の周囲に、熱可塑性樹脂からなり、1又は複数の螺旋状に一定方向に回転する溝又はSZ状に交互に回転する溝を備える被覆部を形成する(ステップS2)。引き続き、冷却部において、被覆部を構成する樹脂を完全に固化させて、光ファイバ収納スペーサを得る(ステップS3)。その後、得られたスペーサについて、その断面を擬似的に円形とみなして、溝の1/2ピッチ以上の区間で外径を連続的に測定し、その最大値が設定範囲内に入らないときに、ステップS2における熱可塑性樹脂の押出量を調節する(ステップS4)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ収納スペーサの製造方法に関する。詳しくは、外周面に光ファイバを収納するための螺旋状に一定方向に回転する溝又はSZ状に交互に反転する溝が設けられた光ファイバ収納スペーサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバケーブルに使用される光ファイバ収納スペーサは、その外周面に、断面が角状又はU字状で、長さ方向に延びる複数の溝(スロット)が形成されている。図12(a)はSZ状の溝を備える光ケーブル収納スペーサを示す斜視図であり、図12(b)はその断面図である。例えば、図12(a)及び(b)に示す光ファイバ収納スペーサ100は、鋼線、ガラス繊維強化プラスチック又はアラミド繊維強化プラスチックなどからなる抗張力体(テンションメンバ)101の周囲に、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂からなるスペーサ本体102が設けられた構造となっている。
【0003】
また、スペーサ本体102の表面には、SZ状の溝103が形成されており、この溝103内に、例えば複数の光ファイバ心線を並列に配置したテープ心線などが収納される。このようなSZ状又は螺旋状の溝を備えるスペーサは、光ファイバ心線を高密度に収納することができる。そして、光ファイバ心線収納後のスペーサは、ポリエチレン樹脂などによって被覆されて、光ファイバケーブルとなる。
【0004】
一方、図12に示すような光ファイバ収納スペーサを製造する方法としては、例えば、抗張力体101の外周を熱可塑性樹脂で被覆して中芯を形成した後、この中芯の周囲に、ダイスを回転させながら熱可塑性樹脂を押出して、螺旋状又はSZ状の溝103を形成する方法がある。また、従来、光ファイバ収納スペーサの中芯となる合成樹脂製棒状物を、精度良く製造する方法も提案されている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0005】
例えば、特許文献2に記載の製造方法では、断面円形状の樹脂製棒状物を製造する際に、製造物の外径を計測し、その値が設定値の範囲に一度も入っていない場合は、押出機のスクリュー回転数を調整して、樹脂の吐出量をフィードバック制御している。このようなフィードバック制御は、金属加工などの樹脂成形以外の分野でも行われている(例えば、特許文献3参照。)。
【0006】
例えば、特許文献3に記載の外径測定装置では、レーザ光を利用して、断面が実質的に円形である丸鋼棒の外径を測定し、その結果に基づいて、測定部の直前に設置された矯正ロールの運転条件を制御している。また、この特許文献3には、外径測定の時間ピッチTsと、丸棒が1回転するのに要する時間Trの比(Tr/Ts)を10〜100にすることや、外径の測定頻度を400〜3000回/秒にすることなどが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−4272号公報
【特許文献2】特開2002−283440号公報
【特許文献3】特開2005−062117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の光ファイバ収納スペーサは、光ファイバ心線を収納してケーブルにした際、長手方向における伝送性能にばらつきが生じやすいという問題点がある。一方、光ファイバケーブルの伝送性能には、光ファイバ収納スペーサの溝内面の平滑性、及び負荷がかかった際に変形が生じにくい所謂「形状保持性」などが影響することが知られている。このため、溝内面の平滑性に優れ、高精度の形状保持性を有する光ファイバ収納スペーサが求められている。
【0009】
なお、前述した特許文献2に記載の方法で製造した合成樹脂性棒状物を中芯に用いることにより、溝内面の平滑性に優れた光ファイバ収納スペーサを得ることができるが、その場合でも、長手方向における伝送性能の安定性が十分ではない。
【0010】
そこで、本発明は、光ファイバケーブルとしたときに、安定した伝送性能が得られる光ファイバ収納スペーサの製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前述した課題を解決するために、鋭意実験検討を行った結果、光ファイバケーブルの伝送性能は、溝内面の形状だけでなく、スペーサの外径の変動によっても影響を受けることを見出した。具体的には、スペーサの外径が長手方向に変動していると、外径が大きい箇所では、ケーブルにする際に被覆外皮などの外部圧力によってスペーサのリブ部(凸部)が圧迫され、そのリブ部に隣接する溝の幅や形状が変化する。その結果、溝内部に収納されている光ファイバ心線が圧迫され、伝送損失が増大することとなる。
【0012】
一方、スペーサの外径が小さい部分では、被覆外皮などの外部圧力によって直接光ファイバ心線が圧迫され、伝送損失が増大することとなる。また、光ファイバ収納スペーサのように、溝形成により表面に凹凸があり、断面が円形状でない成形体においては、前述した特許文献2,3に記載されたフィードバック方法を適用することは困難である。また、特許文献1に記載の製造方法のように、樹脂の押出し量をギヤポンプの回転速度にフィードバックさせると、ギヤポンプの使用により長時間の連続運転において、樹脂の劣化物や炭化物などがスペーサ本体部に吐出し、溝内面の平滑性を低下させる虞がある。
【0013】
そこで、本発明者は、ギヤポンプを使用しない製造方法について更に検討を行い、被覆部形成後のスペーサ本体について、その断面を擬似的に円形とみなして特定間隔で外径を測定し、その結果に応じて、押出機による熱可塑性樹脂の押出量を調節することにより、得られるスペーサの外径変動を抑制できることを見出し、本発明に至った。
【0014】
即ち、本発明に係る光ファイバ収納スペーサの製造方法は、外周面に光ファイバを収納するための螺旋状に一定方向に回転する溝又はSZ状に交互に回転する溝が設けられた光ファイバ収納スペーサを製造する方法であって、回転ダイスを使用した押出成形により、中芯の周囲に、熱可塑性樹脂からなり、1又は複数の螺旋状に一定方向に回転する溝若しくはSZ状に交互に回転する溝を備える被覆部を形成する工程と、被覆部形成後のスペーサ本体について、その断面を擬似的に円形とみなして外径を測定し、その値に応じて前記熱可塑性樹脂の押出量を調節する工程と、を有し、該押出量を調節する工程では、前記溝の1/2ピッチ以上の区間で前記外径を連続的に測定し、その最大値が設定範囲内に入らないときに、設定範囲内に入る方向に押出量を調節する。
ここで、各溝の1ピッチは、螺旋状に一定方向に回転する溝においては、溝が一回転する長さであり、SZ状に交互に回転する溝においては、溝が反転して元の位置に戻ってくるまでの長さである。従って、溝の1/2ピッチとは、前述した1ピッチの半分の長さであり、製造目的とするスペーサによって適宜設定される特定の長さである。
本発明においては、溝の1/2ピッチ以上の区間で、被覆部形成後のスペーサ本体の外径を連続的に測定し、その最大値が設定範囲内に入らないときに熱可塑性樹脂の押出量を調節しているため、溝の数、幅及び位置などの影響を受けずに、精度よく外径測定を行うことができる。
この製造方法では、目標とするスペーサの外径をd(mm)、外径精度の最小管理値をa(mm)としたとき、前記外径の測定を、溝の1/2ピッチあたり下記数式(1)で求められる回数以上行ってもよい。なお、下記数式(1)における最小管理値aは、0.1≧a≧0.001の範囲から選択される任意の定数である。また、下記数式(1)におけるπは円周率である。
【0015】
【数1】
【0016】
また、前記溝の1/2ピッチ以上の長さを1区間とし、1〜4区間分にわたって前記外径を連続的に測定し、各区間の最大値が一度も設定範囲内に入らないときにのみ押出量を調節することもできる。
更に、前記押出量の調節は、押出機のスクリュー回転数を変更することにより行ってもよい。
更にまた、レーザ外径測定器により、スペーサ本体の外径を測定することもできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、螺旋状に一定方向に回転する溝又はSZ状に交互に回転する溝の1/2ピッチ以上の区間で、被覆部形成後のスペーサ本体の外径を連続的に測定し、その最大値が設定範囲内に入らないときに熱可塑性樹脂の押出量を調節しているため、長手方向における外径の変動が少なく、光ファイバケーブルとしたときに安定した伝送性能が得られる光ファイバ収納スペーサを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態により得られるスペーサの一例を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るファイバ収納スペーサの製造方法を示すフローチャート図である。
【図3】本発明の実施形態に係るファイバ収納スペーサの製造方法において使用する装置の構成例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態の変形例で得られるスペーサの一例を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態の変形例に係るファイバ収納スペーサの製造方法において使用する装置の構成例を示す図である。
【図6】横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、実施例1のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。
【図7】横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、実施例2のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。
【図8】横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、比較例1のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。
【図9】横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、比較例2のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。
【図10】横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、実施例3のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。
【図11】横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、比較例3のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。
【図12】(a)はSZ溝を備える光ケーブル収納スペーサを示す斜視図であり、(b)はその断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0020】
先ず、本発明の実施形態に係る製造方法によって得られる光ファイバ収納スペーサ(以下、単に「スペーサ」ともいう。)について説明する。図1は本実施形態により得られるスペーサの一例を示す断面図である。図1に示すように、本実施形態により製造されるスペーサ10は、抗張力線1を熱可塑性樹脂2で被覆した樹脂被覆抗張力体3の周囲に、螺旋状に一定方向に回転又はSZ状に交互に回転する溝5を備える被覆部4を設けたものである。
【0021】
このスペーサ10で使用する抗張力線1としては、例えば、鋼線、又はガラス繊維強化プラスチック、アラミド繊維強化プラスチック及びポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維強化プラスチックなどの高強度繊維を使用したものなどが挙げられる。また、熱可塑性樹脂2としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートなどを使用することができる。更に、被覆部4も、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートなどの熱可塑性樹脂により形成することができる。
【0022】
このとき、被覆部4を形成する熱可塑性樹脂を、樹脂被覆抗張力体3の熱可塑性樹脂2と同じにしてもよいが、例えば樹脂被覆抗張力体3の熱可塑性樹脂2を低密度ポリエチレンとし、被覆部4を高密度ポリエチレンで形成することもできる。
【0023】
次に、前述したスペーサ10の製造方法、即ち、本実施形態に係る光ファイバ収納スペーサの製造方法について説明する。図2は本実施形態の製造方法において使用する装置(以下、「製造装置」ともいう。)の構成例を示す図である。図2に示すように、本実施形態のスペーサ10の製造方法においては、先ず、樹脂被覆抗張力体3を形成する(ステップS1)。
【0024】
具体的には、送線機(クリール)20に巻回されている抗張力線1を引き出し、円形の孔形状ダイスを備えた押出成型機21に導入する。そして、押出成型機21内において、抗張力線1の周囲に熱可塑性樹脂2を押出し、抗張力線1の周囲を熱可塑性樹脂2で被覆した樹脂被覆抗張力体3とする。
【0025】
次に、樹脂被覆抗張力体3の外周に、1又は複数の溝5を備える被覆部4を被覆成形する(ステップS2)。具体的には、ステップS1で得られた樹脂被覆抗張力体3を、所定形状の回転ダイスを備えた押出成型機22内に導入し、樹脂被覆抗張力体3の挿入方向に対してZ方向にダイスを回転させながら、又はSZ状にダイスの回転方向を一定間隔で反転させながら、熱可塑性樹脂を押し出す。これにより、樹脂被覆抗張力体3の周囲に、Z螺旋状又はSZ状の溝5を備えた被覆部4が形成される。
【0026】
このとき、後述する外径測定の結果に基づき、熱可塑性樹脂の押出量を調節する。この押出量の調節は、例えば、押出成型機22のスクリュー回転数を変更することにより行うことができる。これにより、長手方向における外径精度を向上させることができる。
【0027】
引き続き、冷却部23において、被覆部4を構成する樹脂を完全に固化させて、光ファイバ収納スペーサ10を得る(ステップS3)。その際の冷却方法は、特に限定されるものではなく、水冷方式、空冷方式及び加熱冷却管による冷却などの方法を適宜選択して適用することができ、これらを併用することもできる。
【0028】
その後、得られたスペーサ10の外径を測定し、その結果をステップS2の被覆部4の形成工程にフィードバックする(ステップS4)。具体的には、先ず、外径測定器25により、被覆部4に形成された螺旋状又はSZ状の溝5の1/2ピッチ以上の区間(長さ)において、冷却後のスペーサ本体(スペーサ10)の外径を連続的に複数回測定する。そして、その最大値が設定範囲内に入らないときに、制御装置24により、ステップS2における熱可塑性樹脂の押出量を、外径の最大値が設定範囲内に入る方向に調節する。
【0029】
ここで使用する外径測定器25としては、例えばレーザ外径測定器を使用することができる。その場合、スペーサ10によりレーザ光が遮られた長さを、外径と見なして測定すればよい。
【0030】
一方、スペーサ10は外面に、Z螺旋状又はSZ状の溝5が形成されており、この溝5の部分でレーザ光が遮られた長さを測定し、これを外径と判断してしまうと、実際のスペーサ外径よりも小さな値となってしまう。特に、SZ溝が形成されたスペーサ10を、レーザ外径測定器を使用して測定する場合では、溝5の延びる方向が反転する部分は、溝5が一方向に回転形成されている部分よりも、レーザ光が遮られる長さが更に短くなる。そこで、本実施形態のスペーサの製造方法においては、測定値の信頼性を高めるために、一定区間について連続して外径測定を行い、その最大値をその区間における「外径」と規定する。
【0031】
ここでいう「一定区間」は、具体的には、螺旋状又はSZ状の溝5の1/2ピッチ以上の区間(長さ)とする。スペーサ10が、外径測定器25を通過する際には、その相対的関係において、その外面に形成されている溝5は回転していることとなる。一方、スペーサ10の外径は、その断面の直径を計測すればよいため、少なくとも溝5の1/2回転に相当する位置となるまでの長さ、即ち、溝5の1/2ピッチの長さにおいて、レーザ光を遮る長さの測定を行えばよい。
【0032】
例えばレーザ外径測定器を使用して測定した場合、その測定区間(長さ)が溝5の1/2ピッチ未満ではレーザ光を遮る長さの最大値が外径に相関するとは断定できず、外径変動が大きくなる。その際、外径の測定回数は、溝の1/2ピッチあたり下記数式(2)で求められる回数以上とすることが望ましい。なお、下記数式(2)におけるdは目標とするスペーサの外径(mm)、aは外径精度の最小管理値(mm)、πは円周率である。
【0033】
【数2】
【0034】
溝の1/2ピッチあたり上記数式(2)で求められる回数以上測定することにより、スペーサの実測外径変動率をより小さくすることができるため、伝送損失低下抑制効果が向上する。その結果、別途行う品質管理上の外径測定を簡略化することも可能となるため、工程数削減にもつながる。
【0035】
ここで、外径精度の最小管理値a(mm)とは、スペーサとしての外径要求品質に対応するため、外径を確定する長さの最小単位であり、本実施形態のスペーサの製造方法においては、0.1≧a≧0.001の範囲とする。例えば、最小管理値aを0.01mmとした場合、外径測定器25の精度は、それよりも1桁小さい値とする必要がある。具体的には、外径測定器25の測定領域内でφ20mmの標準丸棒を移動させて測定した場合の誤差は、±0.003mmの範囲内(誤差幅0.006mm以下)であることが望ましい。
【0036】
また、上記数式(2)により求められる値は、スペーサ10の断面半周長を、検出すべき直径における誤差幅(外径精度の最小管理値a)に相当する円周上での誤差幅で除した(デバイドした)値である。例えばレーザ外径測定器を使用して測定した場合、スペーサ10の直径は、レーザ光を遮る長さの計測により決定する。このため、溝5が形成されたスペーサ10が、進行に伴って、その位置が固定されている外径測定器との相対的な位置関係において1/2回転する間にレーザ光を遮る長さを、上記数式(2)で求められる回数以上計測すれば、全円周に亘って、検出すべき誤差幅以上の精度で直径を計測したこととなる。
【0037】
前述した方法により測定した外径値は、速やかに押出成型機22の熱可塑性樹脂の押出量にフィードバックすることが好ましい。一方、押出成形後のスペーサ10は、充分に冷却され、内部構造が固定化した後でなければ、安定して外径測定を行うことが難しい。このため、本実施形態のスペーサの製造方法においては、押出成型機22と外径測定器25との間に冷却部23を設けており、これにより、被覆部4の形成後、外径の測定までの間に一定の距離を要している。
【0038】
このような理由から、フィードバックすべき押出成型機22と外径測定器25との距離は、できるだけ短くし、両者を接近させて配置することが望ましい。しかしながら、前述した冷却部23において、スペーサ10の形状が安定する程度に十分冷却を行う必要があるため、実際は、5〜20m程度の距離をおいて配置せざるを得ない状況となっている。更に、外径測定器25での測定結果と、実際の設定範囲とのズレを解消するべく、測定結果を即時フィードバックした場合、その際の搬送速度などにもよるが、かえって変動を大きくする(ハンチングする)場合がある。
【0039】
このような事態を防止するためには、螺旋状又はSZ状の溝5の1/2ピッチ以上の判定区間で最大値を決定し、これを更に複数回繰り返し、連続的に経過判定することが望ましい。即ち、溝5の1/2ピッチ以上の長さを1区間とし、1〜4区間にわたって冷却後のスペーサ本体(スペーサ10)の外径を連続的に測定し、各区間の最大値が一度も設定範囲内に入らないときにのみ、制御装置24でステップS2における熱可塑性樹脂の押出量を、外径の最大値が設定範囲内に入る方向に調節することが望ましい。なお、一度でも設定範囲内に入っていた場合は、フィードバックせず、以降の経過で判定すればよい。
【0040】
この経過判定の連続回数(連続的に測定する区間)は、押出成型機22と外径測定器25との距離、及びスペーサ10の搬送速度に関係しているため、この距離を速度で除した整数以下の範囲内で設定することができる。具体的には、経過判定の連続測定区間は、1〜4区間とすることが望ましい。なお1区間の測定で判断すると、ハンチングを生じることがあるため、連続測定の好ましい区間数は2〜4区間である。
【0041】
また、5区間以上連続測定してもよいが、その場合、フィードバックの効果が低下し、外径の変動幅が、フィードバック制御しない場合と同程度の方向に増大することがある。即ち、効果が低下する方向となる。このため、連続測定する区間数は、製造時において、一旦、外径値のバラツキを確認した上で、2〜4区間の範囲で適宜設定することが望ましい。これにより、長手方向における外径の安定性を向上させることができる。
【0042】
ステップS4において外径測定されたスペーサ10は、その後、巻取機26により巻き取られる(ステップS5)。
【0043】
以上詳述したように、本実施形態のスペーサの製造方法では、螺旋溝又はSZ溝の1/2ピッチ以上の区間で、被覆部形成後のスペーサ本体の外径を連続的に測定し、その最大値が設定範囲内に入らないときに熱可塑性樹脂の押出量を調節しているため、長手方向における外径の変動が少ないスペーサを製造することができる。そして、この光ファイバ収納スペーサを使用することにより、長手方向において伝送性能が安定した光ファイバケーブルが得られる。
【0044】
本発明の光ファイバ収納スペーサの製造方法は、図1に示す構造のもの、即ち、1本の抗張力線1を1層の熱可塑性樹脂2で被覆した樹脂被覆抗張力体3を使用するものに限定されるものではない。図4は本発明の実施形態の変形例で得られるスペーサの一例を示す断面図である。具体的には、図4に示すような複数の鋼線を撚り合わせた撚り鋼線を抗張力線6とし、その周囲に、相互に異なる2種類の熱可塑性樹脂7a,7bを順次被覆した構成の樹脂被覆抗張力体8を使用して、スペーサ11を製造することもできる。
【0045】
図5は本発明の実施形態の変形例に係るファイバ収納スペーサの製造方法において使用する装置の構成例を示す図である。その場合は、例えば、図5に示すように、押出成型機21と押出成型機22との間に、円形の孔形状ダイスを備えた押出成型機27を設置すればよい。そして、押出成型機21で抗張力線6の周囲を熱可塑性樹脂7aで被覆した後、更に、その周囲に、押出成型機27で熱可塑性樹脂7bを押出して、樹脂被覆抗張力体8を形成する。
【0046】
なお、本変形例における上記以外の構成及び効果は、前述した実施形態と同様である。また、前述した実施形態及びその変形例においては、抗張力体及びスペーサを連続して製造しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、別の工程で製造された抗張力体を使用して、スペーサを製造することもできる。更に、本実施形態及びその変形例のスペーサの製造方法は、螺旋状及びSZ状のいずれの溝形状のスペーサにも適用可能であり、また溝の断面形状も特に限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、以下に示す方法で、螺旋溝を有する実施例及び比較例の光ファイバ収納スペーサを製造し、その外径の変動の程度を評価した。
【0048】
<実施例1>
図3に示す装置を使用して、図1に示す構造の光ファイバ収納スペーサ(Z螺旋溝、目標外径15.0mm、ピッチ500mm)を製造した。具体的には、抗張力線1には、直径2.3mmの単鋼線を使用し、これを円形の孔形状ダイスを有する押出成型機21の成型ヘッドに挿入して、その外周に接着性ポリエチレンと直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)を共押出して、外径φ5.7mmの樹脂被覆抗張力体(1次樹脂被覆抗張力線)3を得た。
【0049】
次に、樹脂被覆抗張力体3を、5条の内側突起を有する異形孔形状のダイスを備えた押出成型機22の成型ヘッドに挿入した。そして、このダイスを挿入方向に対してZ方向に10回転/分の速度で回転(以下、回転ダイス成型という。)させながら、高密度ポリエチレン樹脂を被覆し、引取速度5m/分の速度で成型して被覆部4を形成した。引き続き、水冷式の冷却部23に導いて冷却し、ダイス回転によって螺旋溝5が形状されたスペーサ10を得た。この実施例1のスペーサにおけるピッチ(溝が1回転する長さ)は、500mmであった。
【0050】
引き続き、グリーン発光ダイオード(LED: Light Emitting Diode)投光部とCCD(Charge Coupled Device Image Sensor)受光部からなる外径測定器25(キーエンス社製)を通過させ、得られたスペーサ10の外径を測定しながら、この測定結果を、制御装置24により、回転ダイスを備えた押出成型機22の樹脂押出量にフィードバックした。
【0051】
その際、フィードバック条件は下記のように設定した。
(1)外径設定値
中心値:14.97mm、最大値:14.98mm、最小値:14.96mm
(2)外径測定器25による測定速度:2400回/秒
(3)外径測定器の測定精度:±3μm(誤差幅:6μm)
(4)外径測定器による最大値を求める連続測定長さ(1区間):250mm(溝5のピッチの1/2に相当)
(5)フィードバックの要否を判定するための測定区間数:4区間
(6)フィードバック判定条件:連続して4区間測定したときの最大値が一度でも設定範囲の最大値〜最小値の間にあればフィードバックしない。一方、連続して4区間全てが設定範囲外であったときは、制御装置24により、外径の最大値が設定範囲内に入るように、押出成型機22における樹脂の押出量を増減させる。
【0052】
前述した方法及び条件で、連続して5時間製造を行った。なお、上記数式(2)により求めた溝1/2ピッチあたりの必要測定回数は750回以上であるのに対して、実際に測定した回数は、溝5の1/2ピッチあたり7200回であった。
【0053】
図6は横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、実施例1のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。この実施例1のスペーサは、外径の平均値が14.98mm、変動率が0.40%であり、図6に示すように、長手方向における外径の変化が少ないものであった。なお、変動率は、下記数式(3)により求めた。
【0054】
【数3】
【0055】
<実施例2>
赤色光半導体レーザ投光部とCCD受光部からなる外径測定器25(キーエンス社製)を使用し、外径測定速度を400回/秒にした以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、連続して5時間製造を行った。この実施例2のスペーサでは、上記数式(2)により求めた溝1/2ピッチあたりの必要測定回数が750回以上であるのに対して、実際に測定した回数は、溝5の1/2ピッチあたり1200回であった。
【0056】
図7は横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、実施例2のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。この実施例2のスペーサは、外径の平均値が14.94mm、変動率が0.47%であり、図7に示すように、長手方向における外径の変化が少ないものであった。
【0057】
<比較例1>
外径測定器25による最大値を求める連続測定長さ(1区間)を125mm(溝5の1/4ピッチに相当)にした以外は、前述した実施例2と同様の方法及び条件で、連続して5時間製造を行った。なお、この比較例1のスペーサでは、上記数式(2)により求めた溝1/2ピッチあたりの必要測定回数が750回以上であるのに対して、実際に測定した回数は、溝5の1/2ピッチあたり600回であり、請求項2で規定している測定回数に達していなかった。
【0058】
図8は横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、比較例1のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。この比較例1のスペーサは、平均値は14.92mmであったが、連続測定長さ(1区間)が溝5の1/2ピッチ未満であったため、変動率が0.60%と高く、図8に示すように、長手方向における外径の変化が大きいものであった。
【0059】
<比較例2>
外径の測定結果に基づいた樹脂押出量のフィードバック制御を行わなかった以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、連続して5時間製造を行った。図9は横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、比較例2のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。この比較例2のスペーサは、平均値は14.96mmであったが、樹脂押出量をフィードバック制御していないため、変動率が0.60%と高く、図9に示すように、長手方向における外径の変化が大きいものであった。
【0060】
<実施例3>
図5に示す装置を使用して、図4に示す構造の光ファイバ収納スペーサ(Z螺旋溝、目標外径23.3mm、ピッチ500mm)を製造した。具体的には、抗張力線6には、直径1.2mmの鋼線を7本撚り合わせた撚り鋼線を使用し、これを円形の孔形状ダイスを有する押出成型機21の成型ヘッドに挿入して、その外周に接着性ポリエチレンを押出して、一次樹脂被覆抗張力線とした。引き続き、一次樹脂被覆抗張力線を、円形の孔形状ダイスを有する押出成型機27の成型ヘッドに挿入して、その外周に直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)を押出して、二次樹脂被覆抗張力線(樹脂被覆抗張力体8)とした。
【0061】
次に、この樹脂被覆抗張力体8を、13条の内側突起を有する異形孔形状のダイスを備えた押出成型機22の成型ヘッドに挿入した。そして、このダイスを挿入方向に対してZ方向に5回転/分の速度で回転(以下、回転ダイス成型という。)させながら、高密度ポリエチレン樹脂を被覆し、引取速度2.5m/分の速度で成型して被覆部4を形成した。引き続き、水冷式の冷却部23に導いて冷却し、ダイス回転によって螺旋溝5が形状されたスペーサ10を得た。この実施例3のスペーサにおけるピッチ(溝が1回転する長さ)は、500mmであった。
【0062】
その後、グリーン発光LED投光部とCCD受光部からなる外径測定器25(キーエンス社製)を通過させ、得られたスペーサ10の外径を測定しながら、この測定結果を、制御装置24により、回転ダイスを備えた押出成型機22の樹脂押出量にフィードバックした。
【0063】
その際、フィードバック条件は下記のように設定した。
(1)外径設定値
中心値:23.34mm、最大値:23.35mm、最小値:23.33mm
(2)外径測定器25による測定速度:2400回/秒
(3)外径測定器の測定精度:±3μm(誤差幅:6μm)
(4)外径測定器による最大値を求める連続測定長さ(1区間):250mm(溝5のピッチの1/2に相当)
(5)フィードバックの要否を判定するための測定区間数:4区間
(6)フィードバック判定条件:連続して4区間測定したときの最大値が一度でも設定範囲の最大値〜最小値の間にあればフィードバックしない。一方、連続して4区間全てが設定範囲外であったときは、制御装置24により、外径の最大値が設定範囲内に入るように、押出成型機22における樹脂の押出量を増減させる。
【0064】
前述した方法及び条件で、連続して24時間製造を行った。なお、上記数式(2)により求めた溝1/2ピッチあたりの必要測定回数は1165回以上であるのに対して、実際に測定した回数は、溝5の1/2ピッチあたり14400回であった。
【0065】
図10は横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、実施例3のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。この実施例3のスペーサは、外径の平均値が23.36mm、変動率が0.17%であり、図10に示すように、長手方向における外径の変化が非常に少ないものであった。
【0066】
<比較例3>
外径の測定結果に基づいた樹脂押出量のフィードバック制御を行わなかった以外は、前述した実施例3と同様の方法及び条件で、連続して24時間製造を行った。図11は横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、比較例3のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。この比較例3のスペーサは、平均値は23.37mmであったが、樹脂押出量をフィードバック制御していないため、変動率が0.30%と前述した実施例3のスペーサよりも高く、図10に示すように、長手方向における外径の変化が大きかった。
【0067】
このように、図1の構造のスペーサを製造する場合については、本発明の製造方法で製造した実施例1,2のスペーサは、フィードバック条件が本発明の範囲から外れていた比較例1及びフィードバック制御を行わなかった比較例2のスペーサに比べて、外径(測定最大値)の変動率が小さかった。また、図6〜9の変動図を比較しても、実施例1,2は比較例1,2に比べて、より安定した推移を示した。
【0068】
図4に示す構造のスペーサを製造する場合も同様に、本発明の製造方法で製造した実施例3のスペーサは、フィードバック制御を行わなかった比較例3のスペーサに比べて、外径(測定最大値)の変動率が小さかった。また、図10.11の変動図を比較しても、実施例3は比較例3に比べて、より安定した推移を示した。なお、比較例3のスペーサの変動率は、前述した実施例1,2のスペーサの変動率よりも低くなっているが、これは製造条件などが異なるためであり、構造などが異なるスペーサ同士の場合は、変動率の絶対値では比較することはできない。
【0069】
以上の結果から、本発明のスペーサの製造方法は、長手方向における外径の変動を抑制することができ、製造制御方法として優れていることが確認された。そして、本発明によれば、長手方向における外径の変動が少なく、光ファイバケーブルとしたときに安定した伝送性能が得られる光ファイバ収納スペーサを製造できることが実証された。
【符号の説明】
【0070】
1、6 抗張力線
2、7a、7b 熱可塑性樹脂
3、8、101 抗張力体
4 被覆部
5、103 溝
10、11、100 光ファイバ収納スペーサ
20 送線機
21、22、27 押出成型機
23 冷却部
24 制御装置
25 外径測定器
26 巻取機
102 スペーサ本体
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ収納スペーサの製造方法に関する。詳しくは、外周面に光ファイバを収納するための螺旋状に一定方向に回転する溝又はSZ状に交互に反転する溝が設けられた光ファイバ収納スペーサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバケーブルに使用される光ファイバ収納スペーサは、その外周面に、断面が角状又はU字状で、長さ方向に延びる複数の溝(スロット)が形成されている。図12(a)はSZ状の溝を備える光ケーブル収納スペーサを示す斜視図であり、図12(b)はその断面図である。例えば、図12(a)及び(b)に示す光ファイバ収納スペーサ100は、鋼線、ガラス繊維強化プラスチック又はアラミド繊維強化プラスチックなどからなる抗張力体(テンションメンバ)101の周囲に、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂からなるスペーサ本体102が設けられた構造となっている。
【0003】
また、スペーサ本体102の表面には、SZ状の溝103が形成されており、この溝103内に、例えば複数の光ファイバ心線を並列に配置したテープ心線などが収納される。このようなSZ状又は螺旋状の溝を備えるスペーサは、光ファイバ心線を高密度に収納することができる。そして、光ファイバ心線収納後のスペーサは、ポリエチレン樹脂などによって被覆されて、光ファイバケーブルとなる。
【0004】
一方、図12に示すような光ファイバ収納スペーサを製造する方法としては、例えば、抗張力体101の外周を熱可塑性樹脂で被覆して中芯を形成した後、この中芯の周囲に、ダイスを回転させながら熱可塑性樹脂を押出して、螺旋状又はSZ状の溝103を形成する方法がある。また、従来、光ファイバ収納スペーサの中芯となる合成樹脂製棒状物を、精度良く製造する方法も提案されている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0005】
例えば、特許文献2に記載の製造方法では、断面円形状の樹脂製棒状物を製造する際に、製造物の外径を計測し、その値が設定値の範囲に一度も入っていない場合は、押出機のスクリュー回転数を調整して、樹脂の吐出量をフィードバック制御している。このようなフィードバック制御は、金属加工などの樹脂成形以外の分野でも行われている(例えば、特許文献3参照。)。
【0006】
例えば、特許文献3に記載の外径測定装置では、レーザ光を利用して、断面が実質的に円形である丸鋼棒の外径を測定し、その結果に基づいて、測定部の直前に設置された矯正ロールの運転条件を制御している。また、この特許文献3には、外径測定の時間ピッチTsと、丸棒が1回転するのに要する時間Trの比(Tr/Ts)を10〜100にすることや、外径の測定頻度を400〜3000回/秒にすることなどが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−4272号公報
【特許文献2】特開2002−283440号公報
【特許文献3】特開2005−062117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の光ファイバ収納スペーサは、光ファイバ心線を収納してケーブルにした際、長手方向における伝送性能にばらつきが生じやすいという問題点がある。一方、光ファイバケーブルの伝送性能には、光ファイバ収納スペーサの溝内面の平滑性、及び負荷がかかった際に変形が生じにくい所謂「形状保持性」などが影響することが知られている。このため、溝内面の平滑性に優れ、高精度の形状保持性を有する光ファイバ収納スペーサが求められている。
【0009】
なお、前述した特許文献2に記載の方法で製造した合成樹脂性棒状物を中芯に用いることにより、溝内面の平滑性に優れた光ファイバ収納スペーサを得ることができるが、その場合でも、長手方向における伝送性能の安定性が十分ではない。
【0010】
そこで、本発明は、光ファイバケーブルとしたときに、安定した伝送性能が得られる光ファイバ収納スペーサの製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前述した課題を解決するために、鋭意実験検討を行った結果、光ファイバケーブルの伝送性能は、溝内面の形状だけでなく、スペーサの外径の変動によっても影響を受けることを見出した。具体的には、スペーサの外径が長手方向に変動していると、外径が大きい箇所では、ケーブルにする際に被覆外皮などの外部圧力によってスペーサのリブ部(凸部)が圧迫され、そのリブ部に隣接する溝の幅や形状が変化する。その結果、溝内部に収納されている光ファイバ心線が圧迫され、伝送損失が増大することとなる。
【0012】
一方、スペーサの外径が小さい部分では、被覆外皮などの外部圧力によって直接光ファイバ心線が圧迫され、伝送損失が増大することとなる。また、光ファイバ収納スペーサのように、溝形成により表面に凹凸があり、断面が円形状でない成形体においては、前述した特許文献2,3に記載されたフィードバック方法を適用することは困難である。また、特許文献1に記載の製造方法のように、樹脂の押出し量をギヤポンプの回転速度にフィードバックさせると、ギヤポンプの使用により長時間の連続運転において、樹脂の劣化物や炭化物などがスペーサ本体部に吐出し、溝内面の平滑性を低下させる虞がある。
【0013】
そこで、本発明者は、ギヤポンプを使用しない製造方法について更に検討を行い、被覆部形成後のスペーサ本体について、その断面を擬似的に円形とみなして特定間隔で外径を測定し、その結果に応じて、押出機による熱可塑性樹脂の押出量を調節することにより、得られるスペーサの外径変動を抑制できることを見出し、本発明に至った。
【0014】
即ち、本発明に係る光ファイバ収納スペーサの製造方法は、外周面に光ファイバを収納するための螺旋状に一定方向に回転する溝又はSZ状に交互に回転する溝が設けられた光ファイバ収納スペーサを製造する方法であって、回転ダイスを使用した押出成形により、中芯の周囲に、熱可塑性樹脂からなり、1又は複数の螺旋状に一定方向に回転する溝若しくはSZ状に交互に回転する溝を備える被覆部を形成する工程と、被覆部形成後のスペーサ本体について、その断面を擬似的に円形とみなして外径を測定し、その値に応じて前記熱可塑性樹脂の押出量を調節する工程と、を有し、該押出量を調節する工程では、前記溝の1/2ピッチ以上の区間で前記外径を連続的に測定し、その最大値が設定範囲内に入らないときに、設定範囲内に入る方向に押出量を調節する。
ここで、各溝の1ピッチは、螺旋状に一定方向に回転する溝においては、溝が一回転する長さであり、SZ状に交互に回転する溝においては、溝が反転して元の位置に戻ってくるまでの長さである。従って、溝の1/2ピッチとは、前述した1ピッチの半分の長さであり、製造目的とするスペーサによって適宜設定される特定の長さである。
本発明においては、溝の1/2ピッチ以上の区間で、被覆部形成後のスペーサ本体の外径を連続的に測定し、その最大値が設定範囲内に入らないときに熱可塑性樹脂の押出量を調節しているため、溝の数、幅及び位置などの影響を受けずに、精度よく外径測定を行うことができる。
この製造方法では、目標とするスペーサの外径をd(mm)、外径精度の最小管理値をa(mm)としたとき、前記外径の測定を、溝の1/2ピッチあたり下記数式(1)で求められる回数以上行ってもよい。なお、下記数式(1)における最小管理値aは、0.1≧a≧0.001の範囲から選択される任意の定数である。また、下記数式(1)におけるπは円周率である。
【0015】
【数1】
【0016】
また、前記溝の1/2ピッチ以上の長さを1区間とし、1〜4区間分にわたって前記外径を連続的に測定し、各区間の最大値が一度も設定範囲内に入らないときにのみ押出量を調節することもできる。
更に、前記押出量の調節は、押出機のスクリュー回転数を変更することにより行ってもよい。
更にまた、レーザ外径測定器により、スペーサ本体の外径を測定することもできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、螺旋状に一定方向に回転する溝又はSZ状に交互に回転する溝の1/2ピッチ以上の区間で、被覆部形成後のスペーサ本体の外径を連続的に測定し、その最大値が設定範囲内に入らないときに熱可塑性樹脂の押出量を調節しているため、長手方向における外径の変動が少なく、光ファイバケーブルとしたときに安定した伝送性能が得られる光ファイバ収納スペーサを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態により得られるスペーサの一例を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るファイバ収納スペーサの製造方法を示すフローチャート図である。
【図3】本発明の実施形態に係るファイバ収納スペーサの製造方法において使用する装置の構成例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態の変形例で得られるスペーサの一例を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態の変形例に係るファイバ収納スペーサの製造方法において使用する装置の構成例を示す図である。
【図6】横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、実施例1のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。
【図7】横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、実施例2のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。
【図8】横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、比較例1のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。
【図9】横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、比較例2のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。
【図10】横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、実施例3のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。
【図11】横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、比較例3のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。
【図12】(a)はSZ溝を備える光ケーブル収納スペーサを示す斜視図であり、(b)はその断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0020】
先ず、本発明の実施形態に係る製造方法によって得られる光ファイバ収納スペーサ(以下、単に「スペーサ」ともいう。)について説明する。図1は本実施形態により得られるスペーサの一例を示す断面図である。図1に示すように、本実施形態により製造されるスペーサ10は、抗張力線1を熱可塑性樹脂2で被覆した樹脂被覆抗張力体3の周囲に、螺旋状に一定方向に回転又はSZ状に交互に回転する溝5を備える被覆部4を設けたものである。
【0021】
このスペーサ10で使用する抗張力線1としては、例えば、鋼線、又はガラス繊維強化プラスチック、アラミド繊維強化プラスチック及びポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維強化プラスチックなどの高強度繊維を使用したものなどが挙げられる。また、熱可塑性樹脂2としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートなどを使用することができる。更に、被覆部4も、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートなどの熱可塑性樹脂により形成することができる。
【0022】
このとき、被覆部4を形成する熱可塑性樹脂を、樹脂被覆抗張力体3の熱可塑性樹脂2と同じにしてもよいが、例えば樹脂被覆抗張力体3の熱可塑性樹脂2を低密度ポリエチレンとし、被覆部4を高密度ポリエチレンで形成することもできる。
【0023】
次に、前述したスペーサ10の製造方法、即ち、本実施形態に係る光ファイバ収納スペーサの製造方法について説明する。図2は本実施形態の製造方法において使用する装置(以下、「製造装置」ともいう。)の構成例を示す図である。図2に示すように、本実施形態のスペーサ10の製造方法においては、先ず、樹脂被覆抗張力体3を形成する(ステップS1)。
【0024】
具体的には、送線機(クリール)20に巻回されている抗張力線1を引き出し、円形の孔形状ダイスを備えた押出成型機21に導入する。そして、押出成型機21内において、抗張力線1の周囲に熱可塑性樹脂2を押出し、抗張力線1の周囲を熱可塑性樹脂2で被覆した樹脂被覆抗張力体3とする。
【0025】
次に、樹脂被覆抗張力体3の外周に、1又は複数の溝5を備える被覆部4を被覆成形する(ステップS2)。具体的には、ステップS1で得られた樹脂被覆抗張力体3を、所定形状の回転ダイスを備えた押出成型機22内に導入し、樹脂被覆抗張力体3の挿入方向に対してZ方向にダイスを回転させながら、又はSZ状にダイスの回転方向を一定間隔で反転させながら、熱可塑性樹脂を押し出す。これにより、樹脂被覆抗張力体3の周囲に、Z螺旋状又はSZ状の溝5を備えた被覆部4が形成される。
【0026】
このとき、後述する外径測定の結果に基づき、熱可塑性樹脂の押出量を調節する。この押出量の調節は、例えば、押出成型機22のスクリュー回転数を変更することにより行うことができる。これにより、長手方向における外径精度を向上させることができる。
【0027】
引き続き、冷却部23において、被覆部4を構成する樹脂を完全に固化させて、光ファイバ収納スペーサ10を得る(ステップS3)。その際の冷却方法は、特に限定されるものではなく、水冷方式、空冷方式及び加熱冷却管による冷却などの方法を適宜選択して適用することができ、これらを併用することもできる。
【0028】
その後、得られたスペーサ10の外径を測定し、その結果をステップS2の被覆部4の形成工程にフィードバックする(ステップS4)。具体的には、先ず、外径測定器25により、被覆部4に形成された螺旋状又はSZ状の溝5の1/2ピッチ以上の区間(長さ)において、冷却後のスペーサ本体(スペーサ10)の外径を連続的に複数回測定する。そして、その最大値が設定範囲内に入らないときに、制御装置24により、ステップS2における熱可塑性樹脂の押出量を、外径の最大値が設定範囲内に入る方向に調節する。
【0029】
ここで使用する外径測定器25としては、例えばレーザ外径測定器を使用することができる。その場合、スペーサ10によりレーザ光が遮られた長さを、外径と見なして測定すればよい。
【0030】
一方、スペーサ10は外面に、Z螺旋状又はSZ状の溝5が形成されており、この溝5の部分でレーザ光が遮られた長さを測定し、これを外径と判断してしまうと、実際のスペーサ外径よりも小さな値となってしまう。特に、SZ溝が形成されたスペーサ10を、レーザ外径測定器を使用して測定する場合では、溝5の延びる方向が反転する部分は、溝5が一方向に回転形成されている部分よりも、レーザ光が遮られる長さが更に短くなる。そこで、本実施形態のスペーサの製造方法においては、測定値の信頼性を高めるために、一定区間について連続して外径測定を行い、その最大値をその区間における「外径」と規定する。
【0031】
ここでいう「一定区間」は、具体的には、螺旋状又はSZ状の溝5の1/2ピッチ以上の区間(長さ)とする。スペーサ10が、外径測定器25を通過する際には、その相対的関係において、その外面に形成されている溝5は回転していることとなる。一方、スペーサ10の外径は、その断面の直径を計測すればよいため、少なくとも溝5の1/2回転に相当する位置となるまでの長さ、即ち、溝5の1/2ピッチの長さにおいて、レーザ光を遮る長さの測定を行えばよい。
【0032】
例えばレーザ外径測定器を使用して測定した場合、その測定区間(長さ)が溝5の1/2ピッチ未満ではレーザ光を遮る長さの最大値が外径に相関するとは断定できず、外径変動が大きくなる。その際、外径の測定回数は、溝の1/2ピッチあたり下記数式(2)で求められる回数以上とすることが望ましい。なお、下記数式(2)におけるdは目標とするスペーサの外径(mm)、aは外径精度の最小管理値(mm)、πは円周率である。
【0033】
【数2】
【0034】
溝の1/2ピッチあたり上記数式(2)で求められる回数以上測定することにより、スペーサの実測外径変動率をより小さくすることができるため、伝送損失低下抑制効果が向上する。その結果、別途行う品質管理上の外径測定を簡略化することも可能となるため、工程数削減にもつながる。
【0035】
ここで、外径精度の最小管理値a(mm)とは、スペーサとしての外径要求品質に対応するため、外径を確定する長さの最小単位であり、本実施形態のスペーサの製造方法においては、0.1≧a≧0.001の範囲とする。例えば、最小管理値aを0.01mmとした場合、外径測定器25の精度は、それよりも1桁小さい値とする必要がある。具体的には、外径測定器25の測定領域内でφ20mmの標準丸棒を移動させて測定した場合の誤差は、±0.003mmの範囲内(誤差幅0.006mm以下)であることが望ましい。
【0036】
また、上記数式(2)により求められる値は、スペーサ10の断面半周長を、検出すべき直径における誤差幅(外径精度の最小管理値a)に相当する円周上での誤差幅で除した(デバイドした)値である。例えばレーザ外径測定器を使用して測定した場合、スペーサ10の直径は、レーザ光を遮る長さの計測により決定する。このため、溝5が形成されたスペーサ10が、進行に伴って、その位置が固定されている外径測定器との相対的な位置関係において1/2回転する間にレーザ光を遮る長さを、上記数式(2)で求められる回数以上計測すれば、全円周に亘って、検出すべき誤差幅以上の精度で直径を計測したこととなる。
【0037】
前述した方法により測定した外径値は、速やかに押出成型機22の熱可塑性樹脂の押出量にフィードバックすることが好ましい。一方、押出成形後のスペーサ10は、充分に冷却され、内部構造が固定化した後でなければ、安定して外径測定を行うことが難しい。このため、本実施形態のスペーサの製造方法においては、押出成型機22と外径測定器25との間に冷却部23を設けており、これにより、被覆部4の形成後、外径の測定までの間に一定の距離を要している。
【0038】
このような理由から、フィードバックすべき押出成型機22と外径測定器25との距離は、できるだけ短くし、両者を接近させて配置することが望ましい。しかしながら、前述した冷却部23において、スペーサ10の形状が安定する程度に十分冷却を行う必要があるため、実際は、5〜20m程度の距離をおいて配置せざるを得ない状況となっている。更に、外径測定器25での測定結果と、実際の設定範囲とのズレを解消するべく、測定結果を即時フィードバックした場合、その際の搬送速度などにもよるが、かえって変動を大きくする(ハンチングする)場合がある。
【0039】
このような事態を防止するためには、螺旋状又はSZ状の溝5の1/2ピッチ以上の判定区間で最大値を決定し、これを更に複数回繰り返し、連続的に経過判定することが望ましい。即ち、溝5の1/2ピッチ以上の長さを1区間とし、1〜4区間にわたって冷却後のスペーサ本体(スペーサ10)の外径を連続的に測定し、各区間の最大値が一度も設定範囲内に入らないときにのみ、制御装置24でステップS2における熱可塑性樹脂の押出量を、外径の最大値が設定範囲内に入る方向に調節することが望ましい。なお、一度でも設定範囲内に入っていた場合は、フィードバックせず、以降の経過で判定すればよい。
【0040】
この経過判定の連続回数(連続的に測定する区間)は、押出成型機22と外径測定器25との距離、及びスペーサ10の搬送速度に関係しているため、この距離を速度で除した整数以下の範囲内で設定することができる。具体的には、経過判定の連続測定区間は、1〜4区間とすることが望ましい。なお1区間の測定で判断すると、ハンチングを生じることがあるため、連続測定の好ましい区間数は2〜4区間である。
【0041】
また、5区間以上連続測定してもよいが、その場合、フィードバックの効果が低下し、外径の変動幅が、フィードバック制御しない場合と同程度の方向に増大することがある。即ち、効果が低下する方向となる。このため、連続測定する区間数は、製造時において、一旦、外径値のバラツキを確認した上で、2〜4区間の範囲で適宜設定することが望ましい。これにより、長手方向における外径の安定性を向上させることができる。
【0042】
ステップS4において外径測定されたスペーサ10は、その後、巻取機26により巻き取られる(ステップS5)。
【0043】
以上詳述したように、本実施形態のスペーサの製造方法では、螺旋溝又はSZ溝の1/2ピッチ以上の区間で、被覆部形成後のスペーサ本体の外径を連続的に測定し、その最大値が設定範囲内に入らないときに熱可塑性樹脂の押出量を調節しているため、長手方向における外径の変動が少ないスペーサを製造することができる。そして、この光ファイバ収納スペーサを使用することにより、長手方向において伝送性能が安定した光ファイバケーブルが得られる。
【0044】
本発明の光ファイバ収納スペーサの製造方法は、図1に示す構造のもの、即ち、1本の抗張力線1を1層の熱可塑性樹脂2で被覆した樹脂被覆抗張力体3を使用するものに限定されるものではない。図4は本発明の実施形態の変形例で得られるスペーサの一例を示す断面図である。具体的には、図4に示すような複数の鋼線を撚り合わせた撚り鋼線を抗張力線6とし、その周囲に、相互に異なる2種類の熱可塑性樹脂7a,7bを順次被覆した構成の樹脂被覆抗張力体8を使用して、スペーサ11を製造することもできる。
【0045】
図5は本発明の実施形態の変形例に係るファイバ収納スペーサの製造方法において使用する装置の構成例を示す図である。その場合は、例えば、図5に示すように、押出成型機21と押出成型機22との間に、円形の孔形状ダイスを備えた押出成型機27を設置すればよい。そして、押出成型機21で抗張力線6の周囲を熱可塑性樹脂7aで被覆した後、更に、その周囲に、押出成型機27で熱可塑性樹脂7bを押出して、樹脂被覆抗張力体8を形成する。
【0046】
なお、本変形例における上記以外の構成及び効果は、前述した実施形態と同様である。また、前述した実施形態及びその変形例においては、抗張力体及びスペーサを連続して製造しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、別の工程で製造された抗張力体を使用して、スペーサを製造することもできる。更に、本実施形態及びその変形例のスペーサの製造方法は、螺旋状及びSZ状のいずれの溝形状のスペーサにも適用可能であり、また溝の断面形状も特に限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、以下に示す方法で、螺旋溝を有する実施例及び比較例の光ファイバ収納スペーサを製造し、その外径の変動の程度を評価した。
【0048】
<実施例1>
図3に示す装置を使用して、図1に示す構造の光ファイバ収納スペーサ(Z螺旋溝、目標外径15.0mm、ピッチ500mm)を製造した。具体的には、抗張力線1には、直径2.3mmの単鋼線を使用し、これを円形の孔形状ダイスを有する押出成型機21の成型ヘッドに挿入して、その外周に接着性ポリエチレンと直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)を共押出して、外径φ5.7mmの樹脂被覆抗張力体(1次樹脂被覆抗張力線)3を得た。
【0049】
次に、樹脂被覆抗張力体3を、5条の内側突起を有する異形孔形状のダイスを備えた押出成型機22の成型ヘッドに挿入した。そして、このダイスを挿入方向に対してZ方向に10回転/分の速度で回転(以下、回転ダイス成型という。)させながら、高密度ポリエチレン樹脂を被覆し、引取速度5m/分の速度で成型して被覆部4を形成した。引き続き、水冷式の冷却部23に導いて冷却し、ダイス回転によって螺旋溝5が形状されたスペーサ10を得た。この実施例1のスペーサにおけるピッチ(溝が1回転する長さ)は、500mmであった。
【0050】
引き続き、グリーン発光ダイオード(LED: Light Emitting Diode)投光部とCCD(Charge Coupled Device Image Sensor)受光部からなる外径測定器25(キーエンス社製)を通過させ、得られたスペーサ10の外径を測定しながら、この測定結果を、制御装置24により、回転ダイスを備えた押出成型機22の樹脂押出量にフィードバックした。
【0051】
その際、フィードバック条件は下記のように設定した。
(1)外径設定値
中心値:14.97mm、最大値:14.98mm、最小値:14.96mm
(2)外径測定器25による測定速度:2400回/秒
(3)外径測定器の測定精度:±3μm(誤差幅:6μm)
(4)外径測定器による最大値を求める連続測定長さ(1区間):250mm(溝5のピッチの1/2に相当)
(5)フィードバックの要否を判定するための測定区間数:4区間
(6)フィードバック判定条件:連続して4区間測定したときの最大値が一度でも設定範囲の最大値〜最小値の間にあればフィードバックしない。一方、連続して4区間全てが設定範囲外であったときは、制御装置24により、外径の最大値が設定範囲内に入るように、押出成型機22における樹脂の押出量を増減させる。
【0052】
前述した方法及び条件で、連続して5時間製造を行った。なお、上記数式(2)により求めた溝1/2ピッチあたりの必要測定回数は750回以上であるのに対して、実際に測定した回数は、溝5の1/2ピッチあたり7200回であった。
【0053】
図6は横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、実施例1のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。この実施例1のスペーサは、外径の平均値が14.98mm、変動率が0.40%であり、図6に示すように、長手方向における外径の変化が少ないものであった。なお、変動率は、下記数式(3)により求めた。
【0054】
【数3】
【0055】
<実施例2>
赤色光半導体レーザ投光部とCCD受光部からなる外径測定器25(キーエンス社製)を使用し、外径測定速度を400回/秒にした以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、連続して5時間製造を行った。この実施例2のスペーサでは、上記数式(2)により求めた溝1/2ピッチあたりの必要測定回数が750回以上であるのに対して、実際に測定した回数は、溝5の1/2ピッチあたり1200回であった。
【0056】
図7は横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、実施例2のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。この実施例2のスペーサは、外径の平均値が14.94mm、変動率が0.47%であり、図7に示すように、長手方向における外径の変化が少ないものであった。
【0057】
<比較例1>
外径測定器25による最大値を求める連続測定長さ(1区間)を125mm(溝5の1/4ピッチに相当)にした以外は、前述した実施例2と同様の方法及び条件で、連続して5時間製造を行った。なお、この比較例1のスペーサでは、上記数式(2)により求めた溝1/2ピッチあたりの必要測定回数が750回以上であるのに対して、実際に測定した回数は、溝5の1/2ピッチあたり600回であり、請求項2で規定している測定回数に達していなかった。
【0058】
図8は横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、比較例1のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。この比較例1のスペーサは、平均値は14.92mmであったが、連続測定長さ(1区間)が溝5の1/2ピッチ未満であったため、変動率が0.60%と高く、図8に示すように、長手方向における外径の変化が大きいものであった。
【0059】
<比較例2>
外径の測定結果に基づいた樹脂押出量のフィードバック制御を行わなかった以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、連続して5時間製造を行った。図9は横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、比較例2のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。この比較例2のスペーサは、平均値は14.96mmであったが、樹脂押出量をフィードバック制御していないため、変動率が0.60%と高く、図9に示すように、長手方向における外径の変化が大きいものであった。
【0060】
<実施例3>
図5に示す装置を使用して、図4に示す構造の光ファイバ収納スペーサ(Z螺旋溝、目標外径23.3mm、ピッチ500mm)を製造した。具体的には、抗張力線6には、直径1.2mmの鋼線を7本撚り合わせた撚り鋼線を使用し、これを円形の孔形状ダイスを有する押出成型機21の成型ヘッドに挿入して、その外周に接着性ポリエチレンを押出して、一次樹脂被覆抗張力線とした。引き続き、一次樹脂被覆抗張力線を、円形の孔形状ダイスを有する押出成型機27の成型ヘッドに挿入して、その外周に直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)を押出して、二次樹脂被覆抗張力線(樹脂被覆抗張力体8)とした。
【0061】
次に、この樹脂被覆抗張力体8を、13条の内側突起を有する異形孔形状のダイスを備えた押出成型機22の成型ヘッドに挿入した。そして、このダイスを挿入方向に対してZ方向に5回転/分の速度で回転(以下、回転ダイス成型という。)させながら、高密度ポリエチレン樹脂を被覆し、引取速度2.5m/分の速度で成型して被覆部4を形成した。引き続き、水冷式の冷却部23に導いて冷却し、ダイス回転によって螺旋溝5が形状されたスペーサ10を得た。この実施例3のスペーサにおけるピッチ(溝が1回転する長さ)は、500mmであった。
【0062】
その後、グリーン発光LED投光部とCCD受光部からなる外径測定器25(キーエンス社製)を通過させ、得られたスペーサ10の外径を測定しながら、この測定結果を、制御装置24により、回転ダイスを備えた押出成型機22の樹脂押出量にフィードバックした。
【0063】
その際、フィードバック条件は下記のように設定した。
(1)外径設定値
中心値:23.34mm、最大値:23.35mm、最小値:23.33mm
(2)外径測定器25による測定速度:2400回/秒
(3)外径測定器の測定精度:±3μm(誤差幅:6μm)
(4)外径測定器による最大値を求める連続測定長さ(1区間):250mm(溝5のピッチの1/2に相当)
(5)フィードバックの要否を判定するための測定区間数:4区間
(6)フィードバック判定条件:連続して4区間測定したときの最大値が一度でも設定範囲の最大値〜最小値の間にあればフィードバックしない。一方、連続して4区間全てが設定範囲外であったときは、制御装置24により、外径の最大値が設定範囲内に入るように、押出成型機22における樹脂の押出量を増減させる。
【0064】
前述した方法及び条件で、連続して24時間製造を行った。なお、上記数式(2)により求めた溝1/2ピッチあたりの必要測定回数は1165回以上であるのに対して、実際に測定した回数は、溝5の1/2ピッチあたり14400回であった。
【0065】
図10は横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、実施例3のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。この実施例3のスペーサは、外径の平均値が23.36mm、変動率が0.17%であり、図10に示すように、長手方向における外径の変化が非常に少ないものであった。
【0066】
<比較例3>
外径の測定結果に基づいた樹脂押出量のフィードバック制御を行わなかった以外は、前述した実施例3と同様の方法及び条件で、連続して24時間製造を行った。図11は横軸に時間、縦軸にスペーサの外径をとって、比較例3のスペーサの連続製造時間内における外径の最大値の変動を示す図である。この比較例3のスペーサは、平均値は23.37mmであったが、樹脂押出量をフィードバック制御していないため、変動率が0.30%と前述した実施例3のスペーサよりも高く、図10に示すように、長手方向における外径の変化が大きかった。
【0067】
このように、図1の構造のスペーサを製造する場合については、本発明の製造方法で製造した実施例1,2のスペーサは、フィードバック条件が本発明の範囲から外れていた比較例1及びフィードバック制御を行わなかった比較例2のスペーサに比べて、外径(測定最大値)の変動率が小さかった。また、図6〜9の変動図を比較しても、実施例1,2は比較例1,2に比べて、より安定した推移を示した。
【0068】
図4に示す構造のスペーサを製造する場合も同様に、本発明の製造方法で製造した実施例3のスペーサは、フィードバック制御を行わなかった比較例3のスペーサに比べて、外径(測定最大値)の変動率が小さかった。また、図10.11の変動図を比較しても、実施例3は比較例3に比べて、より安定した推移を示した。なお、比較例3のスペーサの変動率は、前述した実施例1,2のスペーサの変動率よりも低くなっているが、これは製造条件などが異なるためであり、構造などが異なるスペーサ同士の場合は、変動率の絶対値では比較することはできない。
【0069】
以上の結果から、本発明のスペーサの製造方法は、長手方向における外径の変動を抑制することができ、製造制御方法として優れていることが確認された。そして、本発明によれば、長手方向における外径の変動が少なく、光ファイバケーブルとしたときに安定した伝送性能が得られる光ファイバ収納スペーサを製造できることが実証された。
【符号の説明】
【0070】
1、6 抗張力線
2、7a、7b 熱可塑性樹脂
3、8、101 抗張力体
4 被覆部
5、103 溝
10、11、100 光ファイバ収納スペーサ
20 送線機
21、22、27 押出成型機
23 冷却部
24 制御装置
25 外径測定器
26 巻取機
102 スペーサ本体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に光ファイバを収納するための螺旋状に一定方向に回転する溝又はSZ状に交互に回転する溝が設けられた光ファイバ収納スペーサを製造する方法であって、
回転ダイスを使用した押出成形により、中芯の周囲に、熱可塑性樹脂からなり、1又は複数の螺旋状に一定方向に回転する溝若しくはSZ状に交互に回転する溝を備える被覆部を形成する工程と、
被覆部形成後のスペーサ本体について、その断面を擬似的に円形とみなして外径を測定し、その値に応じて前記熱可塑性樹脂の押出量を調節する工程と、を有し、
該押出量を調節する工程では、前記溝の1/2ピッチ以上の区間で前記外径を連続的に測定し、その最大値が設定範囲内に入らないときに押出量を調節する光ファイバ収納スペーサの製造方法。
【請求項2】
目標とするスペーサの外径をd(mm)、外径精度の最小管理値をa(mm)としたとき、前記外径の測定を、溝の1/2ピッチあたり下記数式(A)で求められる回数以上行うことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ収納スペーサの製造方法。
【請求項3】
前記溝の1/2ピッチ以上の長さを1区間とし、1〜4区間にわたって前記外径を連続的に測定し、各区間の最大値が一度も設定範囲内に入らないときにのみ押出量を調節することを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバ収納スペーサの製造方法。
【請求項4】
前記押出量の調節は、押出機のスクリュー回転数を変更することにより行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光ファイバ収納スペーサの製造方法。
【請求項5】
レーザ外径測定器により、スペーサ本体の外径を測定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光ファイバ収納スペーサの製造方法。
【請求項1】
外周面に光ファイバを収納するための螺旋状に一定方向に回転する溝又はSZ状に交互に回転する溝が設けられた光ファイバ収納スペーサを製造する方法であって、
回転ダイスを使用した押出成形により、中芯の周囲に、熱可塑性樹脂からなり、1又は複数の螺旋状に一定方向に回転する溝若しくはSZ状に交互に回転する溝を備える被覆部を形成する工程と、
被覆部形成後のスペーサ本体について、その断面を擬似的に円形とみなして外径を測定し、その値に応じて前記熱可塑性樹脂の押出量を調節する工程と、を有し、
該押出量を調節する工程では、前記溝の1/2ピッチ以上の区間で前記外径を連続的に測定し、その最大値が設定範囲内に入らないときに押出量を調節する光ファイバ収納スペーサの製造方法。
【請求項2】
目標とするスペーサの外径をd(mm)、外径精度の最小管理値をa(mm)としたとき、前記外径の測定を、溝の1/2ピッチあたり下記数式(A)で求められる回数以上行うことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ収納スペーサの製造方法。
【請求項3】
前記溝の1/2ピッチ以上の長さを1区間とし、1〜4区間にわたって前記外径を連続的に測定し、各区間の最大値が一度も設定範囲内に入らないときにのみ押出量を調節することを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバ収納スペーサの製造方法。
【請求項4】
前記押出量の調節は、押出機のスクリュー回転数を変更することにより行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光ファイバ収納スペーサの製造方法。
【請求項5】
レーザ外径測定器により、スペーサ本体の外径を測定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光ファイバ収納スペーサの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−58541(P2012−58541A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202376(P2010−202376)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】
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