説明

光学補償フィルムの製造方法、光学補償フィルム、偏光板および液晶表示装置

【課題】光学補償フィルムの面状を改良、輝点欠陥を低減することにより、品質特性の優れた光学補償フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】透明支持体10上に、密着性付与処理を施した後、配向膜形成用組成物16を塗布して配向膜18を形成し、その上に液晶性化合物を含む液晶性化合物を塗布して光学異方層20を形成して成る光学補償フィルムの製造方法において、前記配向膜形成用組成物16を含有する塗布液の固形分濃度が0.5〜2.0質量%であることを特徴とする光学補償フィルムの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学補償フィルムの製造方法に係り、特に、配向膜形成層の面状を良好なものとする光学補償フィルムの製造方法、該製造方法により得られる光学補償フィルム、偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
平面型画像表示装置(FPD)として液晶表示装置が採用されている。液晶表示装置は、液晶セル、偏光板、光学補償フィルム(位相差板)及び反射防止フィルム等の光学的機能を有するシート材料(光学フィルム)で構成される。
【0003】
偏光板は、一般に偏光膜とその両側に設けられた2枚の透明保護膜から構成される。偏光膜は、一般にポリビニルアルコールにヨウ素または二色性染料の水溶液を含浸させてこれを一軸延伸することで得られる。
【0004】
光学補償シートは、画像着色を解消し、視野角を拡大することで液晶表示装置の表示品位を向上する機能を有するため、種々の液晶表示装置で採用されている。近年、光学補償シートとして、従来から使用されていた延伸複屈折フィルムに代わり、透明支持体上に液晶性分子(特にディスコティック液晶性分子)から形成された光学異方層を有する光学補償シートを使用することが提案されている。この光学異方層は、液晶性分子を配向させ、その配向状態を固定することで形成される。液晶性分子、特にディスコティック液晶性分子を用いることで液晶セルの種々の表示モードに対応する様々な光学特性を有する光学補償シートを作りだすことができる。
【0005】
例えば、TNモードの液晶セル用光学補償シート、IPSモードまたはFLCモードの液晶セル用光学補償シート、OCBモードまたはHANモード液晶セル用光学補償シート、STNモードの液晶セル用光学補償シート、VAモード液晶セル用光学補償シートが提案されている。さらに、液晶表示装置の軽量化を図るために、光学補償シートを偏光板の一方の保護膜として用いる一体型楕円偏光板が提案されている。
【0006】
また、反射防止フィルムは、液晶表示装置(LCD)等の画像表示装置において、外光の反射や像の映り込みによるコントラスト低下を防止するため、ディスプレイの表面に配置される。
【0007】
偏光板の保護フィルム、光学補償シートの透明支持体、反射防止フィルムの基材として、優れた光透過性、光学的な無配向性、優れた物理的、機械的特性、温湿度変化の少ない特性を有するセルロースアセテートフィルムに代表されるセルロースエステルフィルムが採用されている。
【0008】
一般的に、偏光板や光学補償シートにおいては、偏光膜や光学異方層が透明支持体であるセルロースエステルフィルムに接着層や配向膜(通常ポリビニルアルコール:PVA)を介して設けられている。また、反射防止フィルム等においては、重合性基を含む多官能モノマー化合物がセルロースエステルフィルム上に被膜として形成されている。
【0009】
品質特性の優れた光学フィルムを提供する方法として、配向膜を形成する材料にディスコティック液晶性化合物を容易に配向させる特性を持つ変性PVA化合物を用いる方法(特許文献1)が開示されている。また、透明支持体に配向膜用組成物を塗布する場合に、塗布液層の表面温度を30〜60℃に維持して乾燥し、配向膜形成層にむらを発生しにくくする方法(特許文献2)が開示されている。
【0010】
さらに、密着性を付与された透明支持体上に塗布する配向膜形成用組成物に極性基を含有するカルボン酸化合物を添加すると極めて安定して、膜の密着性と光学補償フィルムの良好な面状を両立できる配向膜形成方法(特許文献3)について開示されている。また、配向膜形成層との密着性に優れた透明支持体のアルカリ鹸化方法(特許文献4、5、6)により、品質特性の優れた光学フィルムを形成できること(特許文献4、5、6)が開示されている。
【特許文献1】特開平9−152509号公報
【特許文献2】特開2000−2809号公報
【特許文献3】特開2004−354962号公報
【特許文献4】特開2004−182893号公報
【特許文献5】特開2004−225002号公報
【特許文献6】特開2006−335800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献に記載の方法では、配向膜形成用組成物を塗布後の乾燥において乾燥ムラが生じ、この乾燥ムラに起因した斑故障が発生し、満足する光学補償フィルムを得ることができていなかった。乾燥ムラの発生を抑制するため、配向膜形成用組成物中の固形分の量を減らすことが検討されたが、固形分の量を減らすと塗布を行いにくく、溶媒量を増やし、固形分濃度を小さくすると、疎水性化合物が溶媒中に溶け出すため、形成された配向膜中に含まれ、最終的に形成された光学異方層に配向不良が生じていた。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、品質特性の優れた光学補償フィルムを提供することを目的とする。具体的には、(1)配向膜形成層の塗布厚みムラを緩和して、液晶性化合物層からなる光学補償フィルムの面状を改良すること、(2)配向膜形成層の面質(硬度)を最適化することにより、ラビング処理による配向膜形成層からの発塵を抑制して、光学補償フィルムの輝点欠陥を低減すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1は、前記目的を達成するために、透明支持体上に、密着性付与処理を施した後、配向膜形成用組成物を塗布して配向膜を形成し、その上に液晶性化合物を含む液晶性化合物を塗布して光学異方層を形成して成る光学補償フィルムの製造方法において、前記配向膜形成用組成物を含有する塗布液の固形分濃度が0.5〜2.0質量%であることを特徴とする光学補償フィルムの製造方法を提供する。
【0014】
請求項1によれば、配向膜形成用組成物を含有する塗布液の固形分を0.5〜2.0質量%と少量としたため、配向膜を平坦化することができ、輝点欠点、斑故障の少ない光学補償フィルムを製造することができる。
【0015】
請求項2は請求項1において、前記配向膜形成用組成物は、ポリビニルアルコールおよび/または変性ポリビニルアルコールを主成分として含有しており、前記配向膜は、前記配向膜形成用組成物を塗布、乾燥して形成される硬化膜であることを特徴とする。
【0016】
本発明の光学補償フィルムの製造方法においては、配向膜形成用組成物として、ポリビニルアルコールおよび/または変性ポリビニルアルコールを用いることが特に好ましい
請求項3は請求項1または2において、前記配向膜形成用組成物は、少なくとも一つの極性基を含有する有機カルボン酸化合物を少なくとも一種含有することを特徴とする。
【0017】
請求項3によれば、配向膜形成用組成物は、少なくとも一つの極性基を含有する有機カルボン酸化合物を含有しているため、得られた配向膜に配向手段で配向した後に光学異方性層を塗設して得られた光学補償フィルムの塗布面状が良好で白抜けなどの光学的欠陥を軽減若しくは解消する改善効果発現する。
【0018】
請求項4は請求項1から3いずれかにおいて、前記密着性付与処理が(a)前記透明支持体に少なくとも水、有機溶媒およびアルカリ剤を含有するアルカリ水溶液を塗布する塗布工程と、(b)前記透明支持体を前記アルカリ水溶液で鹸化し、該透明支持体の鹸化処理面表層の可塑剤量を、ATR/IR法による測定で0.25以下とする鹸化処理工程と、を含む前記透明支持体の鹸化処理であることを特徴とする。
【0019】
請求項4によれば、セルロースエステルフィルムをアルカリ水溶液で、鹸化処理後のフィルム表面の可塑剤量をATR/IR法による測定で0.25以下となるまで鹸化処理することで、重合性基を含む多官能モノマー化合物の重合反応(架橋)時において架橋の障害となる疎水性の抽出成分(可塑剤)のセルロースエステルフィルムからの抽出量を低減することができる。したがって、架橋剤の過剰添加、加熱促進、電離放射線量アップなどの過酷な手段を採ることなく、多官能モノマー化合物の重合反応から形成される被膜の耐久性を向上できる鹸化処理セルロースエステルフィルムを製造することができる。
【0020】
本発明において、ATR/IR法による測定とは、全反射吸収分光法(Attenuated Total Reflection absorption spectroscopy:標準化学用語辞典 第2版)を意味する。具体的には、石英などの屈折率の大きな透明物質と試料(固体または液体)を密着させ、透明物質側からある入射角度で入射光を当てると全反射が起きるが、反射光は密着面近傍(数μm)でごく一部試料により吸収を受けるため,試料の吸収特性が反映される。この全反射光の強度変化を測定してスペクトルを得る方法をいう。
[使用機種]
NICOLET 4700(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
ATR本体(フォルダー):45°
プリズム:KRS−5 45°
[サンプル条件]
サイズ:1.9cm×4.5cm
測定湿度:25℃ 20%
[測定データ処理]
1490cm−1の可塑剤由来ピークと1370cm−1のセルロースエステルフィルム由来ピークの比
また、鹸化処理面表層とは、膜面の表面から1〜2μmの深さの位置までをいう。
【0021】
請求項5は請求項1から4いずれかにおいて、前記透明支持体がセルロースエステルフィルムであることを特徴とする。
【0022】
本発明の光学補償フィルムの製造方法としては、透明支持体としてセルロースエステルフィルムを用いることが好ましい。
【0023】
請求項6は請求項1から5いずれかにおいて、前記液晶性化合物が、下記一般式(1)で表わされるフルオロ脂肪族基含有ポリマーの少なくとも一種を含有することを特徴とする。
【0024】
【化1】

【0025】
一般式(1)中、iおよびjはそれぞれ1以上の整数を表わし、各繰り返し単位がそれぞれiおよびj種類含まれることを意味し、;Mはエチレン性不飽和モノマーより誘導され、且つk(kは1以上の整数)種類含まれる繰り返し単位であり、;a、bおよびcは重合比を表わす質量百分率で、Σaiは1〜98質量%の数値を表わし、Σbjは1〜98質量%の数値を表わし、Σckは1〜98質量%の数値を表わし;R11およびR12はそれぞれ、水素原子またはメチル基を表わし;XおよびXはそれぞれ、酸素原子、イオウ原子または−N(R13)−を表わし、R13は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表わし;m1およびm2はそれぞれ1〜6の整数を表わし、n1は0〜3の整数を表わす。
【0026】
請求項6によれば、液晶性化合物として、一般式(1)で表わされるフルオロ脂肪族基含有ポリマーの少なくとも一種を含有しているため、乾燥初期における斑の発生を抑制することができる。
【0027】
請求項7は、請求項1から6いずれかに記載の光学補償フィルムの製造方法により製造された光学補償フィルムを提供する。
【0028】
請求項8は請求項7において、前記配向膜の膜厚が0.07〜0.35μmであることを特徴とする。
【0029】
請求項9は、請求項7または8に記載の光学補償フィルムを備えたことを特徴とする偏光板を提供する。
【0030】
請求項10は、請求項7または8に記載の光学補償フィルムを備えたことを特徴とする液晶表示装置を提供する。
【0031】
請求項7から10は、本発明の光学補償フィルムの製造方法により製造された光学補償フィルム、該光学補償フィルムを備えた偏光板、液晶表示装置である。本発明の製造方法により製造された光学補償フィルムは、輝点欠点、斑故障の発生が少なく良好な面状を有しているため、偏光板、液晶表示装置として好適に用いることができる。
【0032】
また、本発明の光学補償フィルムの製造方法においては、塗布液の固形分濃度を0.5〜2.0質量%と小さくしているため、製造される光学補償フィルムの配向膜の膜厚は、0.07〜0.35μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、配向膜形成用組成物である塗布液の固形分の濃度を小さくすることにより、配向膜の塗布厚みムラに起因するむら故障を低減することができ、品質特性に優れた光学補償フィルムを製造することができ、配向膜素材の低減によりコストダウンをすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の光学補償フィルムの製造方法、該製造方法により得られた光学補償フィルム、該光学フィルムを用いた偏光板、液晶表示装置について詳しく説明する。
【0035】
まず、光学補償フィルムの製造方法および光学補償フィルムについて説明する。本発明の光学補償フィルムは、前記した通り、予め密着性を付与処理した透明支持体、配向膜、および光学異方性層がこの順に積層された層構成を有する。
【0036】
[透明支持体]
本発明の透明支持体は、ガラス、もしくは透明なポリマーフィルムであることが好ましい。透明支持体は、光透過率が80%以上であることが好ましい。ポリマーフィルムを構成するポリマーの例としては、セルロースエステル(例、セルロースのモノ乃至トリアシレート体)、ノルボルネン系ポリマーでは、アートン及びゼオネックス(いずれも商品名))が挙げられる。又、従来知られているポリカーボネートやポリスルホンのような複屈折の発現しやすいポリマーであっても、国際公開第00/26705号パンフレットに記載のように、分子を修飾することで複屈折の発現性を制御すれば、本発明の光学補償フィルムに用いることができる。本発明のポリマーフィルムとしては、セルロースエステルフィルムが好ましく、さらにはセルロースアセテートフィルムが好ましい。本発明の透明支持体の厚さは、20乃至500μmであることが好ましく、40乃至200μmであることがさらに好ましく、30乃至80μmが最も好ましい。
【0037】
ポリマーフィルムを光学補償シートに用いる場合、ポリマーフィルムは、所望のレターデーション値を有することが好ましい。ポリマーフィルムのReレターデーション値およびRthレターデーション値は、それぞれ、下記式(I)および(II)で定義される。
(I) Re=|nx−ny|×d
(II) Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
式(I)および(II)において、nxは、フィルム面内の遅相軸方向(屈折率が最大となる方向)の屈折率、nyは、フィルム面内の進相軸方向(屈折率が最小となる方向)の屈折率、nzは、フィルムの厚み方向の屈折率、dは、単位をnmとするフィルムの厚みである。
【0038】
ポリマーフィルムのレターデーション値は光学補償シートが用いられる液晶表示装置やその使用の方法に応じて好ましい範囲が異なり、通常、Reレターデーション値は0〜200nmであり、かつRthレターデーション値は70〜400nm範囲に調節することが好ましい。
【0039】
液晶表示装置に二枚の光学的異方性層を使用する場合、ポリマーフィルムのRthレターデーション値は70乃至250nmの範囲にあることが好ましい。液晶表示装置に一枚の光学的異方性層を使用する場合、ポリマーフィルムのRthレターデーション値は150乃至400nmの範囲にあることが好ましい。
【0040】
尚、ポリマーフィルムの複屈折率(Δn:nx−ny)は、0.00028乃至0.020の範囲にあることが好ましい。また、ポリマーフィルムの厚み方向の複屈折率{(nx+ny)/2−nz}は、0.001乃至0.04の範囲にあることが好ましい。
【0041】
ポリマーフィルムのレターデーション値を調整するためには延伸のような外力を与える方法が一般的であり、他の方法として、光学異方性を調節するためのレターデーション上昇剤が、場合により添加される。
【0042】
本発明に用いられるセルロースエステルとしては、セルロースの低級脂肪酸エステルを用いることが好ましい。低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味する。炭素原子数が2乃至4のセルロースアシレートが好ましい。セルロースアセテートが特に好ましい。セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートのような混合脂肪酸エステルを用いてもよい。
【0043】
セルロースアセテートの粘度平均重合度(DP)は、250以上であることが好ましく、290以上であることがさらに好ましい。又、セルロースアセテートは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるMw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)の分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0乃至4.0であることが好ましい。
【0044】
本発明の透明支持体としては、酢化度が55.0乃至62.5%であるセルロースアセテートを使用することが好ましい。酢化度は、57.0乃至62.0%であることがさらに好ましく、59.0乃至61.5%が特に好ましい。酢化度とは、セルロース単位質量当たりの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験法)におけるアセチル化度の測定および計算によって求められる。
【0045】
セルロースアセテートでは、セルロースの2位、3位、6位のヒドロキシルが均等に置換されるのではなく、6位の置換度が小さくなる傾向がある。本発明に用いるセルロースアセテートでは、セルロースの6位置換度が、2位、3位に比べて同程度または多い方が好ましい。2位、3位、6位の置換度の合計に対する、6位の置換度の割合は、30乃至40%であることが好ましく、31乃至40%であることがさらに好ましく、32乃至40%であることが最も好ましい。6位の置換度は、0.88以上であることが好ましい。
【0046】
前記したようにレターデーション上昇剤を用いて、透明支持体の厚み方向のレターデーションを高い値とすることもできる。レターデーション上昇剤としては、芳香族環を少なくとも二つ有し、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する化合物を使用できる。芳香族化合物は、セルロースエステル100質量部に対して、0.01乃至20質量部の範囲で使用する。芳香族化合物は、セルロースエステル100質量部に対して、0.05乃至15質量部の範囲で使用することが好ましく、0.1乃至10質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。二種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。レターデーション上昇剤としては例えば、欧州特許0911656A2号明細書、特開2000−111914号、同2000−275434号公報等記載の化合物等が挙げられる。
【0047】
本発明のセルロースエステルフィルムには、耐傷性やフィルムの搬送性を良好に保持するために微粒子を添加するのが好ましい。それらは、マット剤、ブロッキング防止剤あるいはキシミ防止剤と称されて従来から利用されている。それらは、前述の機能を呈する素材であれば特に限定されないが、これらのマット剤の好ましい具体例は、無機化合物としては、ケイ素を含む化合物、二酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化バリウム、酸化ジルコニウム、酸化ストロンチウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化スズ・アンチモン、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウム等が好ましく、更に好ましくはケイ素を含む無機化合物や酸化ジルコニウムであるが、セルロースエステルフィルムの濁度を低減できるので、二酸化ケイ素が特に好ましい。また、表面処理された無機微粒子もセルロースエステル中への分散性が良好となり好ましい。処理法としては、例えば、特開昭54−57562号公報に記載の方法が挙げられる。粒子としては、例えば、特開2001−151936号公報に記載のものが挙げられる。
【0048】
有機化合物としては、例えば、架橋ポリスチレン、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂等のポリマーが好ましく、なかでも、シリコーン樹脂が好ましく用いられる。シリコーン樹脂のなかでも、特に三次元の網状構造を有するものが好ましい。
【0049】
本発明のセルロースエステルフィルムには、機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向上するために、可塑剤を添加することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。具体的には、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行 発明協会)の16頁に詳細に記載されている内容のものが好ましく用いられる。可塑剤の添加量は、セルロースエステルの量の0.1乃至25質量%であることが好ましく、1乃至20質量%であることがさらに好ましく、3乃至15質量%であることが最も好ましい。
【0050】
本発明のセルロースエステルフィルムには、更に、劣化防止剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)や紫外線防止剤を添加してもよい。劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載されている化合物が挙げられる。劣化防止剤の添加量は、調製する溶液(ドープ)の0.01乃至1質量%であることが好ましく、0.01乃至0.2質量%であることがさらに好ましい。特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)を挙げることができる。紫外線防止剤については、特開平7−11055号公報及び同平7−11056号公報に記載されている化合物が挙げられる。更に、これらの詳細は、上記の公技番号2001−1745の17頁〜22頁に詳細に記載されている素材が好ましく用いられる。
【0051】
更には、本発明の光学補償シートに用いるセルロースエステルフィルムの吸湿膨張係数を30×10−5/%RH以下とすることが好ましい。吸湿膨張係数は、15×10−5/%RH以下とすることが好ましく、10×10−5/%RH以下であることがさらに好ましい。また、吸湿膨張係数は小さい方が好ましいが、通常は、1.0×10−5/%RH以上の値である。吸湿膨張係数は、一定温度下において相対湿度を変化させた時の試料の長さの変化量を示す。この吸湿膨張係数を調節することで、光学補償シートの光学補償機能を維持したまま、額縁状の透過率上昇すなわち歪みによる光漏れを防止することができる。
【0052】
吸湿膨張係数の測定方法について以下に示す。作製したセルロースエステルフィルムから幅5mm、長さ20mmの試料を切り出し、片方の端を固定して25℃、20%RH(R0)の雰囲気下にぶら下げた。他方の端に0.5gの重りをぶら下げて、10分間放置し長さ(L0)を測定した。次に、温度は25℃のまま、湿度を80%RH(R1)にして、長さ(L1)を測定した。吸湿膨張係数は下式により算出した。測定は同一試料につき10サンプル行い、平均値を採用した。
【0053】
吸湿膨張係数[/%RH]={(L1−L0)/L0}/(R1−R0)
作製したセルロースエステルフィルムの吸湿による寸度変化を小さくするには、疎水基を有する化合物或は微粒子等を添加することが好ましい。疎水基を有する化合物としては、分子中に脂肪族基や芳香族基のような疎水基を有する可塑剤や劣化防止剤の中で該当する素材が特に好ましく用いられる。これらの化合物の添加量は、調整する溶液(ドープ)に対して0.01乃至10質量%の範囲にあることが好ましい。又、セルロースエステルフィルム中の自由体積を小さくすればよく、具体的には、後述のソルベントキャスト方法による成膜時の残留溶剤量が少ない方が自由堆積が小さくなる。セルロースエステルフィルムに対する残留溶剤量が、0.01乃至1.00質量%の範囲となる条件で乾燥することが好ましい。
【0054】
[透明支持体の製造方法]
本発明では、ソルベントキャスト法によりセルロースアセテートフィルムを製造することが好ましく、セルロースアセテートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムは製造される。
【0055】
用いる有機溶媒としては、従来公知の有機溶媒が挙げられ、例えば溶解度パラメーターで17〜22の範囲ものが好ましい。低級脂肪族炭化水素の塩化物、低級脂肪族アルコール、炭素原子数3から12までのケトン、炭素原子数3〜12のエステル、炭素原子数3〜12のエーテル、炭素原子数5〜8の脂肪族炭化水素類、炭素数6〜12の芳香族炭化水素類等が挙げられる。
【0056】
エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0057】
具体的には、例えば前記の公技番号2001−1745の12頁〜16頁に詳細の化合物が挙げられる。
【0058】
特に、本発明では、溶媒は2種類以上の有機溶媒を混合して用いることが好ましく、特に好ましい有機溶媒は、互いに異なる3種類以上の混合溶媒であって、第1の溶媒は炭素原子数が3〜4のケトンおよび炭素原子数が3〜4のエステル或いはその混合液であり、第2の溶媒は炭素原子数が5〜7のケトン類またはアセト酢酸エステルから選ばれ、第3の溶媒として沸点が30〜170℃のアルコールまたは沸点が30〜170℃の炭化水素から選ばれることが好ましい。とくに、酢酸エステルを20〜90質量%、ケトン類を5〜60質量%、アルコール類を5〜30質量%の混合比で用いることがセルロースアセテートの溶解性の点から好ましい。
【0059】
また、ハロゲン化炭化水素を含まない非ハロゲン系有機溶媒系が特に好ましい。技術的には、メチレンクロリドのようなハロゲン化炭化水素は問題なく使用できるが、地球環境や作業環境の観点では、有機溶媒はハロゲン化炭化水素を実質的に含まないことが好ましい。「実質的に含まない」とは、有機溶媒中のハロゲン化炭化水素の割合が5質量%未満(好ましくは2質量%未満)であることを意味する。また、製造したセルロースアセテートフィルムから、メチレンクロリドのようなハロゲン化炭化水素が全く検出されないことが好ましい。
【0060】
本発明に使用する有機溶媒は具体的には、例えば特開2002−146043号明細書の段落番号〔0021〕〜〔0025〕、特開2002−146045号明細書の段落番号〔0016〕〜〔0021〕等に記載の溶媒系の例が挙げられる。
【0061】
本発明に用いるドープには、上記本発明の有機溶媒以外に、フルオロアルコールやメチレンクロライドを本発明の全有機溶媒量の10質量%以下、より好ましくは5質量%以下含有させることもフィルムの透明性を向上させたり、溶解性を早めたりする上で好ましい。フルオロアルコールとしては沸点が165℃以下のものがよく、好ましくは111℃以下がよく、更に80℃以下が好ましい。フルオロアルコールは炭素原子数が2から10程度、好ましくは2から8程度のものがよい。また、フルオロアルコールはフッ素原子含有脂肪族アルコールで、置換基があってもなくてもよい。置換基としてはフッ素原子含有或いはなしの脂肪族置換基、芳香族置換基などがよい。
【0062】
該フルオロアルコールとしては例えば、特開平8−143709号公報明細書中の段落番号[0020]、同11−60807号公報明細書中の段落番号[0037]等に記載の化合物が挙げられる。これらのフルオロアルコールは一種又は二種以上使用してもよい。
【0063】
本発明のセルロースアセテート溶液を調製する際に、容器内に窒素ガスなどの不活性ガスを充満させてもよい。セルローストリアセテート溶液の製膜直前の粘度は、製膜の際、流延可能な範囲であればよく、通常10ps・s〜2000ps・sの範囲に調製されることが好ましく、特に30ps・s〜400ps・sが好ましい。
【0064】
本発明に係るセルロースアセテート溶液(ドープ)の調製については、その溶解方法は特に限定されず、室温溶解法でもよく、冷却溶解法あるいは高温溶解方法、さらにはこれらの組み合わせで実施される。これらに関しては、例えば特開平5−163301、特開昭61−106628、特開昭58−127737、特開平9−95544、特開平10−95854、特開平10−45950、特開2000−53784、特開平11−322946、さらに特開平11−322947、特開平2−276830、特開2000−273239、特開平11−71463、特開平04−259511、特開2000−273184、特開平11−323017、特開平11−302388などに記載のセルロースアシレート溶液の調製法が挙げられる。以上記載したこれらのセルロースアシレートの有機溶媒への溶解方法は、本発明においても適宜本発明の範囲であればこれらの技術を適用できるものである。さらにセルロースアセテートのドープ溶液は、溶液の濃縮とろ過が通常実施され、同様に前記の公技番号2001−1745の25頁に詳細に記載されている。なお、高温度で溶解する場合は、使用する有機溶媒の沸点以上の場合がほとんどであり、その場合は加圧状態で用いられる。
【0065】
次に、本発明において、セルロースアシレート溶液を用いたフィルムの製造方法について述べる。セルロースアシレートフィルムを製造する方法及び設備は、セルローストリアセテートフィルム製造に供するドラム方法若しくはバンド方法と称される、従来公知の溶液流延製膜方法及び溶液流延製膜装置が用いられる。バンド法を例として製膜の工程を説明すると、溶解機(釜)から調製されたドープ(セルロースアシレート溶液)を貯蔵釜に一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。調製したドープをドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延し、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離する。得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて乾燥装置のロール群で搬送し乾燥を終了して巻き取り機で所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変わる。これらの各製造工程(流延(共流延を含む)、金属支持体、乾燥、剥離、延伸などに分類)については、前記の公技番号2001−1745の25頁〜30頁に詳細に記載された内容が挙げられる。流延工程では1種類のセルロースアシレート溶液を単層流延してもよいし、2種類以上のセルロースアシレート溶液を同時及び又は逐次共流延しても良い。
【0066】
さらに本発明のセルロースアセテート溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、UV吸収層、偏光層など)を同時に流延することも実施しうる。
【0067】
従来の単層液では、必要なフィルムの厚さにするためには高濃度で高粘度のセルロースアセテート溶液を押出すことが必要であり、その場合セルロースアセテート溶液の安定性が悪くて固形物が発生し、ブツ故障となったり、平面性が不良であったりして問題となることが多かった。この解決として、複数のセルロースアセテート溶液を流延口から流延することにより、高粘度の溶液を同時に支持体上に押出すことができ、平面性も良化し優れた面状のフィルムが作製できるばかりでなく、濃厚なセルロースアセテート溶液を用いることで乾燥負荷の低減化が達成でき、フィルムの生産スピードを高めることができる。
【0068】
[透明支持体の密着性付与の方法]
本発明の透明支持体は、配向膜を塗布方式で設ける場合には、該透明支持体表面に密着性を付与し、配向膜用塗布液が均一に塗工されるように表面処理を施すことが好ましい。表面処理の方法としては、配向膜の下塗り層を設ける方法が挙げられる。特開平7−333433号公報記載の下塗り層、或いは疎水性基と親水性基との両方を含有するゼラチン等の樹脂層を一層のみ塗布する単層法第1層として高分子フィルムによく密着する層(以下、下塗第1層と略す)を設け、その上に第2層として配向膜とよく密着するゼラチン等の親水性の樹脂層(以下、下塗第2層と略す)を塗布する所謂重層法(例えば、特開平11−248940号公報記載)の内容が挙げられる。他の表面処理として、コロナ放電処理、グロー放電処理、紫外線照射処理、火炎処理、オゾン処理、酸処理、アルカリ処理等で該フィルム表面を改質する方法が挙げられる。これらについては、詳細が前記の公技番号2001−1745の30頁〜32頁に詳細に記載されている。これらの中でも特に好ましくは、アルカリ鹸化処理でありセルロースアセテートフィルムの表面処理としては極めて有効である。
【0069】
[アルカリ鹸化処理]
アルカリ鹸化処理は、アルカリ溶液を透明支持体に浸漬、噴射若しくは塗布することで行う。好ましくは、塗布で鹸化処理することが好ましく、塗布方法としては、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法およびE型塗布法を挙げることができる。
【0070】
[アルカリ溶液]
本発明のアルカリ溶液はpH11以上のアルカリ溶液が好ましい。より好ましくはpH12〜14である。アルカリ溶液に用いられるアルカリ剤の例として、水酸化ナトリウム、同カリウム、同リチウム等の無機アルカリ剤、又、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン)、DBN(1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン)、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルブチルアンモニウムヒドロキシドなどの有機アルカリ剤も用いられる。これらのアルカリ剤は単独もしくは二種以上を組み合わせて併用することもでき、一部を例えばハロゲン化したような塩の形で添加してもよい。これらのアルカリ剤の中でも、水酸化ナトリウム或は水酸化カリウムが、これらの量を調整することにより広いpH領域でのpH調整が可能となるため好ましい。
【0071】
アルカリ溶液の濃度は、使用するアルカリ剤の種類、反応温度および反応時間に応じて決定されるが、アルカリ剤の含有量は、アルカリ溶液中の0.1〜5mol/Kgが好ましく、0.5〜3mol/Kgがより好ましい。
【0072】
本発明のアルカリ溶液の溶媒は、水及び水溶性有機溶媒の混合溶液を含有することからなることが好ましい。有機溶媒としては、水と混和可能な有機溶媒であればいずれも用いることができるが沸点120℃以下、より好ましくは100℃以下のものが好ましい。
その中でも好ましい有機溶媒は、無機性/有機性値(I/O値)が0.5以上、且つ溶解度パラメーターが16〜40[mJ/m1/2の範囲のものが好ましい。より好ましくは、I/O値が0.6〜10、且つ溶解度パラメーターが18〜31[mJ/m1/2である。I/O値がこの範囲よりも無機性が強いか、又は溶解度パラメーターが低いと、アルカリ鹸化速度が低下し、また鹸化度の全面均一性も不満足となる。一方、I/O値が上記範囲よりも有機性の側であるか、又は溶解度パラメーターが高溶解性の側では、鹸化速度は速いが、ヘイズを生じ易く、したがって全面均一性の点では同様に不満足となる。また、有機溶媒、とりわけ上記有機性と溶解性の各範囲の有機溶媒を後述する界面活性剤、相溶化剤等と組み合わせて用いると高い鹸化速度が維持されて、かつ全面に亘る鹸化度の均一性が向上する。
【0073】
好ましい特性値を有する有機溶媒は、例えば、有機合成化学協会編、「新版溶剤ポケットブック」((株)オーム社、1994年刊)等に記載のものが挙げられている。(また、有機溶媒の無機性/有機性値(I/O値)については、例えば、田中善生著有機概念図)三共出版社1983年刊、1〜31頁に解説されている)。
【0074】
具体的には、一価脂肪族アルコール類(例、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等)、脂環式アルカノール(例、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、メトキシシクロヘキサノール、シクロヘキシルメタノール、シクロヘキシルエタノール、シクロヘキシルプロパノール等)、フェニルアルカノール(例、べンジルアルコール、フェニルエタノール、フェニルプロパノール、フェノキシエタノール、メトキシベンジルアルコール、ベンジルオキシエタノール等)、複素環式アルカノール類(フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール等)、グリコール化合物のモノエーテル類(メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、プロピルセルソルブ、メトキシメトキシエタノール、ブチルセルソルブ、ヘキシルセルソルブ、メチルカルビトール、エチルカルビトール、プロピルカルビトール、ブチルカルビトール、メトキシトリグリコール、エトキシトリグリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル等)ケトン類(例、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、アミド類(例、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3ジメチルイミダゾリジノン等)、スルホキシド類(例、ジメチルスルホキシド)およびエーテル類(例、テトラヒドロフラン、ピラン、ジオキサン、トリオキサン、ジメチルセルソルブ、ジエチルセルソルブ、ジプロピルセルソルブ、メチルエチルセルソルブ、ジメチルカルビトール、ジメチルカルビトール、メチルエチルカルビトール等)等が挙げられる。用いる有機溶媒は、単独若しくは2種以上を混合して用いてもよい。
【0075】
有機溶媒を単独或いは2種以上を混合する場合の少なくとも一種の有機溶媒は、水への溶解性が大きなものが好ましい。有機溶媒の水の溶解度は、50質量%以上が好ましく、水と自由に混合するものがより好ましい。これによりアルカリ剤、鹸化処理で副生する脂肪酸の塩、空気中の二酸化炭素を吸収して生じた炭酸の塩等への溶解性が充分なアルカリ溶液を調製できる。有機溶媒の溶媒中の使用割合は、溶媒の種類、水との混和性(溶解性)、反応温度および反応時間に応じて決定する。水と有機溶媒の混合比は、3/97〜85/15質量比が好ましい。より好ましくは5/95〜60/40質量比であり、更に好ましくは15/85〜40/60質量比である。この範囲において、アシレートフィルムの光学特性を損なうことなく容易にフィルム全面が均一に鹸化処理される。
【0076】
本発明に用いるアルカリ溶液が含有する有機溶媒として、上記した好ましいI/O値を有する有機溶媒とは異なる有機溶媒(例えばフッ化アルコール等)を、後述の界面活性剤、相溶化剤の溶解助剤として併用してもよい。その含有量は使用液の総重量に対して0.1〜5%が好ましい。
【0077】
本発明に用いるアルカリ溶液は、界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤を添加することによって表面張力を下げて塗布を容易にしたり、塗膜の均一性を上げてハジキ故障を防止し、かつ有機溶媒が存在すると起こり易いヘイズを抑止し、さらに鹸化反応が均一に進行する。その効果は、後述する相溶化剤の共存によって特に顕著となる。用いられる界面活性剤には特に制限はなく、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤等のいずれであってもよい。
【0078】
具体的には、例えば、吉田時行著「界面活性剤ハンドブック(新版)」(工学図書、1987年刊行)、「界面活性剤の機能創製・素材開発・応用技術」第1編(技術教育出版、2000年刊行)等記載の公知の化合物が挙げられる。これらの界面活性剤の中でも、カチオン性界面活性剤としての4級アンモニウム塩類、ノニオン性界面活性剤としての各種のポリアルキレンレングリコール誘導体類、各種のポリエチレンオキサイド付加物類等のポリエチレンオキサイド誘導体類、両性界面活性剤としてのベタイン型化合物類が好ましい。アルカリ溶液には、ノニオン活性剤とアニオン活性剤又はノニオン活性剤とカチオン活性剤を共存させて用いることも本発明の効果が高められて好ましい。
【0079】
これらの界面活性剤のアルカリ溶液に対する添加量は、好ましくは、0.001〜10質量%であり、より好ましくは、0.01〜5質量%である。
【0080】
本発明に用いられるアルカリ溶液は、相溶化剤を含有させることも好ましい。本発明において、「相溶化剤」とは、温度25℃において、相溶化剤100gに対して水の溶解度が50g以上となる親水性化合物をいう。相溶化剤の水の溶解度は、相溶化剤100gに対して、80g以上であるのが好ましく、100g以上であるのがより好ましい。また、相溶化剤が液状化合物である場合は、沸点が100℃以上であるのが好ましく、120℃以上であるのがより好ましい。
【0081】
相溶化剤は、アルカリ溶液を貯留する浴等の壁面に付着したアルカリ溶液の乾燥を防止し、固着を抑制し、アルカリ溶液を安定に保持させる作用を有する。また、透明支持体の表面にアルカリ溶液を塗布して一定時間保持した後、鹸化処理を停止するまでの間に、塗布されたアルカリ溶液の薄膜が乾燥し、固形物の析出を生じ、水洗工程での固形物の洗い出しを困難にすることを防止する作用を有する。さらには、溶媒となる水と有機溶剤との相分離を防止する。特に、界面活性剤と有機溶剤と上述した相溶化剤との共存によって、処理された透明支持体は、ヘイズが少なく、かつ、長尺の連続鹸化処理の場合であっても安定して全面均一な鹸化度となる。
【0082】
相溶化剤は、上記の条件を満たす材料であれば、特に限定されないが、例えば、ポリオール化合物、糖類等のヒドロキシル基および/またはアミド基を有する繰り返し単位を含む水溶性重合体が好適に挙げられる。ポリオール化合物は、低分子化合物、オリゴマー化合物および高分子化合物のいずれも用いることができる。脂肪族ポリオール類としては、例えば、炭素数2〜8のアルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリンモノメチルエーテル、グリセリンモノエチルエーテル、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等)、ヒドロキシル基を3個以上含有する炭素数3〜18のアルカン類(例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ジペンタエリスリトール、イノシットール等)が挙げられる。ポリアルキレンオキシポリオール類としては、上記のような同じアルキレンジオール同士が結合していてもよく、異なるアルキレンジオールが互いに結合していてもよいが、同じアルキレンジオール同士が結合したポリアルキレンポリオールがより好ましい。いずれの場合もの結合数は3〜100であるのが好ましく、3〜50であるのがより好ましい。具体的には、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)が挙げられる。
【0083】
糖類としては、例えば、高分子学会高分子実験学編集委員会編「天然高分子」第二章(共立出版(株)、1984年刊)、小田良平等編「近代工業化学22、天然物工業化学II」((株)朝倉書店、1967年刊)等に記載されている水溶性化合物が挙げられる。中でも、遊離のアルデヒド基およびケトン基を持たない、還元性を示さない糖類が好ましい。糖類は、一般に、グルコース、スクロース、還元基同士の結合したトレハロース型少糖類、糖類の還元基と非糖類が結合した配糖体および糖類に水素添加して還元した糖アルコールに分類されるが、いずれも本発明に好適に用いられる。例えば、サッカロース、トレハロース、アルキル配糖体、フェノール配糖体、カラシ油配糖体、D,L−アラビット、リビット、キシリット、D,L−ソルビット、D,L−マンニット、D,L−イジット、D,L−タリット、ズリシット、アロズルシット、還元水あめが挙げられる。これらの糖類は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
ヒドロキシル基および/またはアミド基を有する繰り返し単位を有する水溶性重合体としては、例えば、天然ガム類(例えば、アラビアガム、グアーガム、トラガンドガム等)、ポリビニルピロリドン、ジヒドキシプロピルアクリレート重合体、セルロース類またはキトサン類とエポキシ化合物(エチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイド)との付加反応体が挙げられる。中でも、アルキレンポリオール、ポリアルキレンオキシポリオール、糖アルコール等のポリオール化合物が好ましい。
【0085】
相溶化剤の含有量は、アルカリ溶液に対して、0.5〜25質量%であるのが好ましく、1〜20質量%であるのがより好ましい。
【0086】
本発明に用いられるアルカリ溶液は、その他の添加剤を含有することができる。その他の添加剤としては、例えば、消泡剤、アルカリ溶液安定化剤、pH緩衝剤、防腐剤、防菌剤等の公知のものが挙げられる。
【0087】
[アルカリ鹸化方法]
上記のアルカリ溶液を用いたセルロースアセテートフィルムの表面処理方法は従来公知のいずれの方法でもよいが、特に、フィルムの片面のみをムラ無く均一に鹸化処理する場合は、塗布方式が好ましい。塗布の方法としては、従来公知の塗布方法[例えば、ダイコーター(エクストルージョンコーター、スライドコーター)、ロールコーター(順転ロールコーター、逆転ロールコーター、グラビアコーター)、ロッドコーター、ブレードコーター等]が好ましく利用できる。鹸化処理は、処理するフィルムの変形、処理液の変質等が生じない温度120℃を越えない範囲の処理温度で行うことが好ましい。更に温度10℃以上であり100℃以下の範囲が好ましい。特に、温度20〜80度が好ましい。
又、鹸化処理の時間は、アルカリ溶液、処理温度により適宜調整して決定するが、1秒から60秒の範囲で行われるのが好ましい。
【0088】
更に、セルロースアセテートフィルムをその表面が少なくとも10℃以上の温度でアルカリ溶液を用いて鹸化処理する工程、セルロースアセテートフィルムの温度を少なくとも10℃以上に維持する工程、そして、アルカリ溶液をセルロースアセテートフィルムから洗い落とす工程によりアルカリ鹸化処理を実施することが好ましい。セルロースアセテートフィルムをその表面が所定の温度でアルカリ溶液で行う鹸化処理には、塗布する前に予め所定の温度に調整する工程、アルカリ液を予め所定の温度に調整しておく工程、或いはこれらを組み合わせた工程等が挙げられる。塗布する前に予め所定の温度に調整する工程と組み合わせることが好ましい。鹸化反応後は、水洗、中和し水洗等でフィルム表面からアルカリ溶液及び鹸化処理反応物とを洗浄し除去することが好ましい。具体的には、例えば国際公開第02/46809号パンフレット等に記載の内容が挙げられる。
【0089】
図1を参照に好ましい密着性付与処理について説明する。本発明の光学補償フィルムの鹸化処理に含まれる透明支持体の鹸化処理である密着性付与処理は、(a)前記透明支持体に少なくとも水、有機溶媒およびアルカリ剤を含有するアルカリ水溶液を塗布する塗布工程と、(b)前記透明支持体を前記アルカリ水溶液で鹸化し、該透明支持体の鹸化処理面表層の可塑剤量を、ATR/IR法による測定で0.25以下とする鹸化処理工程と、を含む処理方法である。
【0090】
図1(a)に示すように、透明支持体であるセルロースエステルフィルム10にアルカリ水溶液12が塗布される。機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向上するために、セルロースエステルフィルム10に可塑剤14が添加されている。可塑剤14としては、疎水性のリン酸エステルまたはカルボン酸エステル等が用いられる。
【0091】
次いで、図1(b)に示すように、アルカリ水溶液12により、セルロースエステルフィルム10の表面が鹸化処理される。セルロースエステルフィルム10の膜面温度は、図示しないヒーターにより所定温度に制御される。鹸化処理時において、アルカリ水溶液12中の有機溶剤により、セルロースエステルフィルム10中の可塑剤14が表面に抽出される。一方で、セルロースエステルフィルム10中にも可塑剤14が存在する。発明者らは、セルロースエステルフィルム10中の可塑剤14が後述する工程で再抽出され、可塑剤14が重合性基を含む多官能モノマー化合物の架橋性を阻害すること、特に、セルロースエステルフィルム10の表面に存在する可塑剤14が架橋性に影響を与えることを見出した。従って、鹸化処理時にセルロースエステルフィルム10の表面から可塑剤14をできるだけ多く抽出することが重要である。
【0092】
次いで、図1(c)に示すように、鹸化処理に利用されたアルカリ水溶液及び抽出された可塑剤が、鹸化セルロースエステルフィルム10’から、洗浄水を塗布する方法や洗浄水を吹き付ける方法により、洗浄・除去される。アルカリ水溶液が残っていると、鹸化反応が進行するからである。
【0093】
本発明では、洗浄工程後の鹸化セルロースエステルフィルム10’の鹸化処理面表層の可塑剤量が、ATR/IR法による測定で0.25以下となるよう、鹸化処理工程でセルロースエステルフィルム10が鹸化処理される。鹸化セルロースエステルフィルム10’の処理表面の可塑剤14の量を上述の範囲とすることで、重合性基を含む多官能モノマー化合物の架橋性を阻害する現象を抑制できる。
【0094】
次いで、図1(d)に示すように、ポリビニルアルコールや変性ポリビニルアルコール等の配向膜形成材料16が鹸化セルロースエステルフィルム10’上に塗布される。このとき鹸化セルロースエステルフィルム10’の処理表面の可塑剤14が少ないので、配向膜形成材料16の塗布時の鹸化セルロースエステルフィルム10’から抽出される可塑剤14の量は少なくなる。
【0095】
次いで、図1(e)に示すように、鹸化セルロースエステルフィルム10’上の配向膜形成材料16を加熱乾燥することにより、配向膜形成材料16が架橋される。配向膜形成材料16中に含まれる可塑剤14の量が少ないので、配向膜形成材料16の架橋が阻害されずに配向膜形成材料16は配向膜18となる。
【0096】
最後に、図1(f)に示されるように、配向膜18上に液晶層形成材料を塗布し、図示しない加熱ゾーンで溶媒を蒸発させ、配向膜18上に液晶層20を形成する。さらに、液晶層20は紫外線(UV)ランプにより紫外線を照射される。加熱ゾーンで溶媒を蒸発させるときに液晶層20の硬膜反応が促進する。配向膜18中の架橋剤14の量が少ないので、紫外線(UV)ランプにより紫外線を照射される場合であっても、立体障害が少なくなり、皮膜強度が向上する。図1(e)の工程で可塑剤の再抽出量が多いとこの架橋が阻害されることになる。
【0097】
上述したように鹸化処理時にセルロースエステルフィルムから可塑剤を多く抽出して、処理表面の可塑剤量をATR/IR法による測定で0.25以下とすることで、架橋性が阻害されることを抑制できる。なお、鹸化セルロースエステルフィルム上に形成される被膜は、叙述は配向膜形成材料に限定されず、重合性基を含む多官能モノマー化合物であればよいことが理解される。
【0098】
[配向膜]
本発明の配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)塗布液を塗布して形成される配向膜が好ましい。配向膜の膜自身の強度、下層或は上層となる光学異方性層との密着性の観点から硬化されたポリマー膜であることが好ましい。配向膜は、その上に設けられる液晶性化合物の配向方向を規定するために設けられる。配向規定の方法としては、従来公知のラビング、磁場或は電場の付与、光照射等が挙げられる。
【0099】
本発明に供される配向膜は、液晶セルの表示モードの種類に応じることが出来る。液晶セル内の棒状液晶性分子の多くが実質的に垂直に配向している表示モード(例、VA、OCB、HAN)では、光学的異方性層の液晶性分子を実質的に水平に配向させる機能を有する。液晶セル内の棒状液晶性分子の多くが実質的に水平に配向している表示モード(例、STN)では、光学的異方性層の液晶性分子を実質的に垂直に配向させる機能を有する。液晶セル内の棒状液晶性分子の多くが実質的に斜めに配向している表示モード(例、TN)では、光学的異方性層の液晶性分子を実質的に斜めに配向させる機能を有する。
【0100】
本発明の配向膜に使用される具体的なポリマーの種類については、前述した様々な表示モードに対応するディスコティック液晶性分子を用いた光学補償シートについての文献に記載がある。配向膜に使用されるポリマーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。ポリマーの例として、例えば特開平8−338913号公報明細書中段落番号[0022]記載の化合物が挙げられる。好ましくは水溶性ポリマー(例えば、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が挙げられ、この中でもゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。
【0101】
ポリビニルアルコールの鹸化度は、70乃至100%が好ましく、80乃至100%がさらに好ましく、85乃至95%が最も好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100乃至3000であることが好ましい。
【0102】
変性ポリビニルアルコールの変性基は、共重合変性、連鎖移動変性またはブロック重合変性により導入できる。変性基の例には、親水性基(カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、チオール基等)、炭素数10〜100個の炭化水素基、フッ素原子置換の炭化水素基、チオエーテル基、重合性基(不飽和重合性基、エポキシ基、アジリニジル基等)、アルコキシシリル基(トリアルコキシ、ジアルコキシ、モノアルコキシ)等が挙げられる。これらの変性ポリビニルアルコール化合物の具体例として、例えば、特開2000−56310号公報明細書中の段落番号[0074]、同2000−155216号公報明細書中の段落番号[0022]〜[0145]、同2002−62426号公報明細書中の段落番号[0018]〜[022]に記載のもの等が挙げられる。
【0103】
又、配向を光照射で行う場合には、光配向機能を発現する光配向性基を分子内に有する。これらの光配向性基としては、例えば、長谷川雅樹著書の「液晶、第3巻(1)3〜16頁(1999)」記載のもの、C=C結合を有する光二量化反応によって光配向機能を発現する光配向性基(例えば、ポリエン基、スチルベン基、スチルバゾール基、スチルバゾリウム基、シンナモイル基、ヘミチオインジゴ基、カルコン基等)、C=O結合を有する光二量化反応によって光配向機能を発現する光配向性基(例えば、ベンゾフェノン基、クマリン基等の構造を有する基等)が挙げられる。具体的には、例えば特開2000−122069号公報、同2002−317013号公報明細書段落番号[0021]等記載のものが挙げられる。
【0104】
前記配向膜に使用するポリマー(好ましくは水溶性ポリマー、さらに好ましくはポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコール)の架橋剤の例には、アルデヒド、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体、カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物、イソオキサゾールおよびジアルデヒド澱粉が含まれる。二種類以上の架橋剤を併用してもよい。具体的には、例えば特開2002−62426号公報明細書中の段落番号[0023]〜[0024]記載の化合物等が挙げられる。反応活性の高いアルデヒド、特にグルタルアルデヒドが好ましい。
【0105】
架橋剤の添加量は、ポリマーに対して0.1乃至20質量%が好ましく、0.5乃至15質量%がさらに好ましい。配向膜に残存する未反応の架橋剤の量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。配向膜中に1.0質量%を超える量で架橋剤が残存していると、充分な耐久性が得られない。そのような配向膜を液晶表示装置に使用すると、長期使用、あるいは高温高湿の雰囲気下に長期間放置した場合にレチキュレーションが発生することがある。
【0106】
[配向膜に含有されるカルボン酸化合物]
本発明の配向膜組成物は、少なくとも一つの極性基を有する有機カルボン酸化合物を含有することが好ましい。これにより、得られた配向膜に配向手段で配向した後に光学異方性層を塗設して得られた光学補償シートの塗布面状が良好で白抜け等の光学的欠陥を軽減若しくは解消する改善効果を発現する。推測される理由としては、配向膜に含有する少なくとも一つの極性基を有する有機カルボン酸化合物が配向膜の膜表面水素イオン濃度等を安定にして光学異方性層塗設した時に液晶分子の配向状態への影響を小さくすることが1つの要因と思われる。当然、添加量により効果は異なってくる為、適時量を調整する必要がある。
【0107】
少なくとも一つの極性基を有する有機カルボン酸化合物としては、水素結合性を有する水素原子含有の極性基を少なくとも1種含有するカルボン酸が挙げられる。これらのカルボン酸は、脂肪族化合物、芳香族化合物、或は複素環化合物の何れのものでもよい。特定の極性基としては、−OH、−SH、−NHR、−CONHR、−SONHR、−HNCONHR、−NHSONHR、―NHCOR、―NHSOが挙げられる。但し、Rは、水素原子、脂肪族基、アリール基、又は複素環基を表す。Rは、脂肪族基、アリール基又は複素環基を表す。該カルボン酸が上記の極性基を複数含有する場合には、該極性基は同じでも異なってもよい。
【0108】
本発明の好ましい特定の極性基として、−OH、−SH、−NHR、−CONH、−SONH、−HNCONHR、−NHSONHR、―NHSOが挙げられる。ここで、Rは、水素原子、脂肪族基、アリール基、又は複素環基を表す。Rは、脂肪族基、アリール基又は複素環基を表す。
【0109】
Rが脂肪族基を表す場合、脂肪族基は炭素数1〜22の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ナノデシル基、エイコサニル基、ヘネイコサニル基、ドコサニル基等)、炭素数2〜22の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基(例えば、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、エイコセニル基、ドコセニル基、ブタジエニル基、ペンタジエニル基、ヘキサジエニル基、オクタジエニル基等)、炭素数2〜22の直鎖状若しくは分岐状のアルキニル基(例えば、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ヘキシニル基、オクタニル基、デカニル基、ドデカニル基等)、炭素数5〜22の脂環式炭化水素基(例えば、シクロペンタン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、シクロヘプタン、シクロヘプテン、シクロへプタジエン、シクロオクタン、シクロオクテン、シクロオクタジエン、デカリン等)が挙げられる。脂肪族基としては、これらの中で、炭素数1〜18の直鎖状、炭素原子数3〜18の分岐状脂肪族基がより好ましい。アリール基としては、炭素数6〜18のアリール基(アリール環としては、ベンゼン、ナフタレン、ジヒドロナフタレン、ビフェニレン等)を表す。複素環基としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子のいずれかを少なくとも1個含有する単環式若しくは多環式の環構造を有する複素環基(複素環基としては、例えば、フラニル基、テトラヒドロフラニル基、ピラニル基、ピロイル基、ピリジイル基、ピラジニル基、モルホリニル基、チエニル基、ベンゾチエニル基等)等が挙げられる。
【0110】
上記の脂肪族基、アリール基、複素環基は各々置換基を有していてもよく、その導入し得る置換基としては、水素を除く一価の非金属原子団が用いられる。非金属原子団の具体的な例としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、ニトロ基、−OR11、−SR11、−COR11、−COOR11、−OCOR11、−SO11、−NHCONHR11、−N(R12)COR11、−N(R12)SO11、−N(R13)(R14)、−CON(R13)(R14)、−SON(R13)(R14)、−P(=O)(R15)(R16)、−OP(=O)(R15)(R16)、−Si(R17)(R18)(R19)、炭素数1〜22の脂肪族基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数6〜18のアリール基、又は複素環基を表す。これら脂肪族基、アリール基、複素環基は、前記Rのものと同義である。
【0111】
前記R11は、炭素数1〜22の脂肪族基、炭素数6〜18のアリール基、又は複素環基を表す。R11における脂肪族基は前記Rで表される脂肪族基と同義である。R11におけるアリール基としては、前記Rで表される脂肪族基に導入し得る置換基として例示したアリール基と同様のものが挙げられる。かかるアリール基は、更に置換基を有していてもよく、その置換基としては、前記Rで表される脂肪族基に導入し得る置換基として例示したものと同様のものが挙げられる。R12は、水素原子又はR11基と同様のものを表す。前記R13及びR14は、各々独立に、水素原子、又はR11と同様のものを表し、R13とR14とは互いに結合して、N原子を含有する5員又は6員の環を形成してもよい。
【0112】
前記R15及びR16は、各々独立に、炭素数1〜22の脂肪族基、炭素数6〜14のアリール基、又は−OR11を表す。R15及びR16における脂肪族基は前記Rで表される脂肪族基と同義である。R15及びR16におけるアリール基としては、前記Rで表される脂肪族基に導入し得る置換基として例示したアリール基と同様のものが挙げられる。かかるアリール基は更に置換基を有していてもよく、その置換基としては、前記Rで表される脂肪族基に導入し得る置換基として例示したものと同様のものが挙げられる。但し、かかる極性置換基において、R15及びR16の双方が−OHで表されることはない。
【0113】
前記R17、R18及びR19は、各々独立に、炭素数1〜22の炭化水素基又は−OR20を表すが、これらの置換基の内少なくとも1つは炭化水素基を表す。炭化水素基は前記Rで示される脂肪族基及びアリール基と同様のものを表し、−OR20は前記−OR11と同様の内容を表す。Rにおける、脂肪族基、アリール基および複素環基はRと同じものを表す。本発明の少なくとも一つの極性基を有する有機カルボン酸化合物としては、炭素数1〜22(カルボン酸の炭素原子を除く)の脂肪族カルボン酸、炭素数6〜14の芳香族カルボン酸、複素環カルボン酸のカルボン酸化合物であり、pKaが6.5以下となるものが特に好ましい。より好ましくはカルボン酸のpKaが3.0〜6.5の化合物である。
【0114】
これら少なくとも一つの極性基を有する有機カルボン酸化合物として具体的には、例えばオキシ酸(例えば、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、α−オキシアルカン酸(アルカンとしては、炭素数3〜18のアルカン)、等)、アミノ酸、α−オキシ−β−アミノ酸、α−オキシ−γ−アミノ酸、β−オキシ−α−アミノ酸、これらオキシ酸或はオキシアミノ酸のヒドロキシル基がアルコキシ基に誘導された化合物、ヒドキシシクロヘキサンカルボン酸類、ヒドロキシベンゼンカルボン酸類、ポリオール(例えば、アルカンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、シクロヘキサンジオール等)の少なくとも1個のヒドロキシル基を環状カルボン酸無水物(コハク酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、フタル酸等の無水物等)でエステル化した化合物、ポリアミノ化合物(例えば、アルキレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、シクロヘキサンジアミン、フェニレンジアミン等)と環状カルボン酸無水物でアミド化した化合物とから誘導される化合物が挙げられるが、本発明の化合物はこれらに限定されるものではない。
【0115】
更に好ましくは、少なくとも1つのヒドロキシル基を含有したポリカルボン酸であり、その少なくとも1つのカルボキシル基がエステル化されてなるカルボン酸化合物が挙げられる。少なくとも1つのヒドロキシル基を含有したポリカルボン酸としては、タルトロン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、オキシグルタミン酸(β−体、γ−体)、上記のポリオールの少なくとも2個のヒドロキシル基を環状カルボン酸無水物でエステル化した化合物等が挙げられる。
【0116】
これらのポリカルボン酸化合物の少なくとも1つのカルボン酸が炭素数1〜22の炭化水素基でエステル置換されていることが好ましい。エステル置換される炭素数1〜18の炭化水素基の具体的態様は、前記のRで記載した脂肪族基、芳香族基、複素環基と同義である。又これらの炭化水素基は置換されてもよく、置換基としては、前記のRに置換されると同一の内容のものが挙げられる。
【0117】
本発明の少なくとも一つの極性基を有する有機カルボン酸化合物は、配向膜用組成物中、0.01〜1.0質量%の割合で添加するのが好ましい。更には、0.02〜0.5質量%が好ましい。この範囲において、膜の強度が十分に保持された白抜け等の光学的に欠陥の無い光学補償シートが得られる。更には、長尺フィルムを連続して製造しても、極めて安定な性能で製造することが出来る。
【0118】
配向膜は、基本的に、配向膜形成用組成物である前記ポリマー、架橋剤及び少なくとも一つの極性基を有する有機カルボン酸化合物を含む塗布液を透明支持体上に塗布した後、加熱乾燥し(架橋させ)、配向処理することにより形成することができる硬化膜である。架橋反応は、前記のように、透明支持体上に塗布した後、任意の時期に行なって良い。ポリビニルアルコールのような水溶性ポリマーを配向膜形成用組成物として用いる場合には、塗布液は消泡作用のある有機溶媒(例、メタノール)と水の混合溶媒とすることが好ましい。その比率は質量比で水:メタノールが0:100〜99:1が好ましく、0:100〜91:9であることがさらに好ましい。これにより、泡の発生が抑えられ、配向膜、更には光学異方層の層表面の欠陥が著しく減少する。
【0119】
配向膜の塗布方法は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法またはロールコーティング法が好ましい。特にロッドコーティング法が好ましい。また、乾燥後の膜厚は0.1乃至10μmが好ましい。加熱乾燥は、20℃〜110℃で行なうことができる。充分な架橋を形成するためには60℃〜100℃が好ましく、特に80℃〜100℃が好ましい。乾燥時間は1分〜36時間で行なうことができるが、好ましくは1分〜30分である。
【0120】
更に、本発明の配向膜形成用組成物を含有する塗布液を支持体に塗布、乾燥し、配向手段で配向させたのちに光学異方性層用塗布液が塗布されるときに、該配向膜の表面がpH2.0〜6.9の範囲に保持されることがこの好ましい。更にはpH2.5〜5.0がより好ましい。また、該光学異方性層用塗布液を塗布する際に、塗布の幅方向での配向膜表面のpHの変動幅△pHが±0.30の範囲で行われることが好ましい。より好ましくは、△pHが±0.15の範囲である。この範囲において光学異方性層を塗設された光学補償シートは、光学的欠陥が著しく軽減され、好ましい。
【0121】
配向膜表面のpH値の測定方法は、配向膜を塗設した試料を(温度25℃/湿度65%RH)の環境下に1日静置した後、窒素雰囲気下で純水を10ml乗せて速やかにpHメーターでpH値を読み取る。本発明の配向膜表面のpH値を特定とし、且つ塗布幅方向での△pHを制御するには、上記のロッドコーティング方式による塗布により達成される。更には、膜表面の乾燥温度、乾燥風を用いる場合のその風量、風向等を調節することも有効である。
【0122】
配向膜は、透明支持体上又は上記下塗層上に設けられる。配向膜は、上記のようにポリマー層を架橋したのち、表面をラビング処理することにより得ることができる。前記ラビング処理は、LCDの液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を適用することができる。即ち、配向膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムあるいはナイロン、ポリエステル繊維などを用いて一定方向に擦ることにより、配向を得る方法を用いることができる。一般的には、長さおよび太さが均一な繊維を平均的に植毛した布などを用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。また、光照射で光配向する場合には、光照射装置としての光源は、超高圧水銀灯、キセノン灯、蛍光灯、レーザ等を用いることが出来、光二量化化合物を光配向をするには上記光源と偏光膜を組み合わせて(偏光膜を通して)紫外線を直線偏光とし、光配向膜に照射する。偏光膜としては、主に使用されているものとして延伸染色PVAがある。この直線偏光紫外線照射装置としては、例えば、特開平10−90684号公報に開示されているものを用いることが出来る。配向膜の厚さは、0.01乃至5μmであることが好ましく、0.05乃至1μmであることがさらに好ましい。
【0123】
[光学異方性層]
光学異方性層は、液晶性組成物から形成される。好ましく用いられる液晶組成物としては、液晶化合物との少なくとも一種と、所定のフルオロ脂肪族基含有ポリマーの少なくとも一種とを含有する。
【0124】
・フルオロ脂肪族基含有ポリマー
本発明に用いる脂肪族基含有ポリマーは、下記一般式(1)で表わされる。
【0125】
【化2】

【0126】
一般式(1)中、i及びjはそれぞれ1以上の整数を表し、各繰り返し単位がそれぞれi及びj種類含まれることを意味し;Mはエチレン性不飽和モノマーより誘導され、且つk(kは1以上の整数)種類含まれる繰り返し単位であり;a、b及びcは重合比を表す質量百分率で、Σaiは1〜98質量%の数値を表し、Σbjは1〜98質量%の数値を表し、Σckは1〜98質量%の数値を表し;R11及びR12はそれぞれ、水素原子又はメチル基を表し;X及びXはそれぞれ、酸素原子、イオウ原子又は−N(R13)−を表し、R13は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し;m1及びm2はそれぞれ1〜6の整数を表し;n1は0〜3の整数を表す。
【0127】
上記式(1)中、下記繰返し単位A及びBはそれぞれ、末端が−(CFCFFであるフルオロ脂肪族基含有モノマーAおよび末端が−(CFCFFであるフルオロ脂肪族基含モノマーBから誘導される繰り返し単位である。
【0128】
【化3】

【0129】
前記繰り返し単位A及びB中、X及びXはそれぞれ、Oであるのが好ましい。即ち、前記繰り返し単位A及びBはそれぞれ、(メタ)アクリル系モノマー由来の繰り返し単位であるのが好ましい。m1及びm2はそれぞれ、1〜4であるのが好ましく、1〜2であるのがより好ましい。n1は、0〜2であるのが好ましく、0又は1であるのがより好ましく、0であるのが最も好ましい。
【0130】
以下に、前記繰返し単位Aを誘導するフルオロ脂肪族基含有モノマーの例を列挙するが、これらに限定されるものではない。中でも、(メタ)アクリル系モノマーである、例示化合物A−1〜6およびA−2〜6が好ましい。なお、下記の例示化合物は式(1)中のn1=0の化合物を列挙しているが、n1が1〜3の化合物も、勿論、前記繰り返し単位Aを誘導するフルオロ脂肪族基含有モノマーの例に含まれる。
【0131】
【化4】

【0132】
【化5】

【0133】
以下に、前記繰り返し単位Bを誘導するフルオロ脂肪族基含有モノマーの例を列挙するが、これらに限定されるものではない。中でも、(メタ)アクリル系モノマーである、例示化合物B1−1〜6及びB2−1〜6が好ましい。
【0134】
【化6】

【0135】
【化7】

【0136】
前記フルオロ脂肪族基含有モノマーは、テロメリゼーション法(テロマー法ともいわれる)又はオリゴメリゼーション法(オリゴマー法ともいわれる)により製造することができる。これらのフルオロ脂肪族化合物の製造法に関しては、例えば、「フッ素化合物の合成と機能」(監修:石川延男、発行:株式会社シーエムシー、1987)の117〜118ページや、「Chemistry of Organic Fluorine Compounds II」(Monograph 187,Ed by Milos Hudlicky and Attila E.Pavlath,American Chemical Society 1995)の747-752ページに記載されている。テロメリゼーション法とは、ヨウ化物等の連鎖移動常数の大きいアルキルハライドをテローゲンとして、テトラフルオロエチレン等のフッ素含有ビニル化合物のラジカル重合を行い、テロマーを合成する方法である(Scheme-1に例を示した)。
【0137】
【化8】

【0138】
得られた、末端ヨウ素化テロマーは通常、例えば[Scheme2]のごとき適切な末端化学修飾を施され、フルオロ脂肪化合物へと導かれる。
【0139】
【化9】

【0140】
前記式(1)中、Mは、エチレン性不飽和モノマーにより誘導される繰り返し単位である。Mについては特に制限されないが、側鎖に水素結合性を有する極性基を有する繰り返し単位であるのが好ましい。Mは、下記一般式(2)で表わされる繰り返し単位であるのが好ましい。
【0141】
【化10】

【0142】
上記一般式(2)において、R、R、およびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子または−L−Qで表される基を表す。Lは2価の連結基を表し、Qは水素結合性を有する極性基を表す。
【0143】
Lは下記の連結基群から選ばれる任意の基、またはそれらの2つ以上を組み合わせて形成される2価の連結基が好ましい。
【0144】
(連結基群)
単結合、−O−、−CO−、−NR−、−S−、−SO−、−P(=O)(OR)−、アルキレン基、アリーレン基(Rは水素原子、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を示す。Rはアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表わす。)
更に詳細に説明すると、一般式(2)中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、または後述する−L−Qで表される基であり、好ましくは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、塩素原子、−L−Qで表される基であり、より好ましくは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基であり、特に好ましいのは水素原子、炭素数1〜2のアルキル基である。R、RおよびRが取りうるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基等が挙げられる。該アルキル基は、1以上の置換基を有していてもよい。該置換基としては、ハロゲン原子、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシル基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、ヒドロキシル基、アシルオキシ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、アシルアミノ基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホニル基、スルファモイル基、スルホンアミド基、スルホリル基、カルボキシル基などが挙げられる。
【0145】
なお、アルキル基の炭素数は、置換基の炭素原子を含まない。以下、他の基の炭素数についても同様である。
【0146】
Lは、単結合、−O−、−CO−、−NR−、−S−、−SO−、−PO(OR−、アルキレン基、アリーレン基またはこれらを組み合わせて形成される2価の連結基を表す。ここでRは、水素原子、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。Rはアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。Lとしては、単結合、−O−、−CO−、−NR−、−S−、−SO−、アルキレン基、アリーレン基を含むことが好ましく、−CO−、−O−、−NR−、アルキレン基、またはアリーレン基を含んでいることが特に好ましい。また、−O−とアルキレン基の双方を含む、アルキレンオキシ基を含んでいるのも好ましく、アルキレンオキシ基の繰り返しを含むポリアルキレンオキシ基を含んでいるのも好ましい。Lが、アルキレン基を含む場合、アルキレン基の炭素数は、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜8、特に好ましくは1〜6である。特に好ましいアルキレン基の具体例として、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラブチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。また、アルキレン基(アルキレンオキシ基に含まれるアルキレン基も含む意味)は、分岐構造を有していてもよく、分岐部分のアルキレン鎖の炭素数は1〜3であるのが好ましい。
【0147】
Lが、アリーレン基を含む場合、アリーレン基の炭素数は、好ましくは6〜24、より好ましくは6〜18、特に好ましくは6〜12である。特に好ましいアリーレン基の具体例として、フェニレン基、ナフタレン基などが挙げられる。Lが、アルキレン基とアリーレン基を組み合わせて得られる2価の連結基(即ちアラルキレン基)を含む場合、アラルキレン基の炭素数は、好ましくは7〜34、より好ましくは7〜26、特に好ましくは7〜16である。特に好ましいアラルキレン基の具体例として、フェニレンメチレン基、フェニレンエチレン基、メチレンフェニレン基などが挙げられる。Lとして挙げられた基は、適当な置換基を有していても良い。このような置換基としては先にR1〜R3における置換基として挙げた置換基と同様なものを挙げることができる。以下にLの具体的構造を例示するが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0148】
【化11】

【0149】
【化12】

【0150】
但し、L−28中、R51〜R58はそれぞれ水素原子または(好ましくは炭素数1〜4、より好ましくは炭素数1〜2)のアルカリ基であり、nは1〜12(好ましくは2〜10の整数)である。R53およびR54、R55およびR56、並びにR57およびR58のいずれか一方が水素原子で他方がアルキル基であるのが好ましい。
【0151】
Qは水素結合性を有する極性基であれば得に制限はない。好ましくは水酸基、カルボキシル基、カルボキシル基の塩(例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩(例えばアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、トリメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、トリメチルベンジルアンモニウム、ジメチルフェニルアンモニウムなど)、ピリジニウム塩など)、カルボン酸のアミド(N無置換体またはN−モノ低級アルキル置換体、例えば−CONH、−CONHCHなど)スルホ基、スルホ基の塩(塩を形成するカチオンの例は上記カルボキシル基に記載のものと同じ)、スルホンアミド基(N無置換体またはN−モノ低級アルキル置換体、−SONH、−SONHCHなど)、ホスホ基、ホスホ基の塩(塩を形成するカチオンの例は上記カルボキシル基に記載のものと同じ)、ホスホンアミド(N無置換体またはN−モノ低級アルキル置換体、例えば−OP(=O)(NH、−OP(=O)(NHCHなど)、ウレイド基(−NHCONH)、N位が無置換またはモノ置換されたアミノ基(−NH、−NHCH)などである(ここで低級アルキル基はメチル基またはエチル基を表す)。より好ましくは水酸基、カルボキシル基、スルホ基、ホスホ基であり、さらに好ましいのは水酸基またはカルボキシル基であり、特に好ましいのは水酸基である。
【0152】
前記一般式(2)で表わされる繰り返し単位は、(メタ)アクリル系モノマーから誘導される繰り返し単位であるのが好ましい。以下に、繰り返し単位Mを誘導するエチレン性不飽和モノマーの具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0153】
【化13】

【0154】
【化14】

【0155】
【化15】

【0156】
前記一般式(1)で表されるフルオロ脂肪族基ポリマーは、繰り返し単位A、B及びMをそれぞれ少なくとも1種含む。即ち、上記式(1)中、各繰り返し単位の種類の数を意味する、i、j及びkは、それぞれ1以上の整数である。前記一般式(1)で表されるフルオロ脂肪族基ポリマーは、各繰り返し単位を2種以上含んでいてもよいし、また、繰り返し単位A、B及びM以外の繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0157】
例えば、前記フルオロ脂肪族基含有ポリマーは、下記モノマー群から選ばれるモノマーから誘導される繰り返し単位を1種含有していてもよいし、2種以上含有していてもよい。
【0158】
モノマー群
(1)アルケン類
エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン、1−ドデセン、1オクタデセン、1−エイコセン、ヘキサフルオロプロペン、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、3,3,3−トリフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデンなど;
(2)ジエン類
1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、2−n−プロピル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、1−αナフチル−1,3−ブタジエン、1−β−ナフチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、1−ブロモ−1,3−ブタジエン、1−クロロブタジエン、2−フルオロ−1,3−ブタジエン、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、1,1,2−トリクロロ−1,3−ブタジエンおよび2−シアノ−1,3−ブタジエン、1,4−ジビニルシクロヘキサンなど;
(3)α,β−不飽和カルボン酸の誘導体
(3a)アルキルアクリレート類
メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、アミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、tert−オクチルアクリレート、ドデシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、2−クロロエチルアクリレート、2−ブロモエチルアクリレート、4−クロロブチルアクリレート、2−シアノエチルアクリレート、2−アセトキシエチルアクリレート、メトキシベンジルアクリレート、2−クロロシクロヘキシルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、ω−メトキシポリエチレングリコールアクリレート(ポリオキシエチレンの付加モル数:n=2ないし100のもの)、3−メトキシブチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、2−ブトキシエチルアクリレート、2−(2−ブトキシエトキシ)エチルアクリレート、1−ブロモ−2−メトキシエチルアクリレート、1,1−ジクロロ−2−エトキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレートなど);
(3b)アルキルメタクリレート類
メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、sec−ブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート、アリルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、クレジルメタクリレート、ナフチルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、3−メトキシブチルメタクリレート、ω−メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(ポリオキシエチレンの付加モル数:n=2ないし100のもの)、2−アセトキシエチルメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、2−ブトキシエチルメタクリレート、2−(2−ブトキシエトキシ)エチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレート、アリルメタクリレート、2−イソシアナトエチルメタクリレートなど;
(3c)不飽和多価カルボン酸のジエステル類
マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジブチル、イタコン酸ジメチル、タコン酸ジブチル、
クロトン酸ジブチル、クロトン酸ジヘキシル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジメチルな
ど;
(3d)α、β−不飽和カルボン酸のアミド類
N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−tertブチルアクリルアミド、N−tertオクチルメタクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−(2−アセトアセトキシエチル)アクリルアミド、N−ベンジルアクリルアミド、N−アクリロイルモルフォリン、ジアセトンアクリルアミド、N−メチルマレイミドなど;
(4)不飽和ニトリル類
アクリロニトリル、メタクリロニトリルなど;
(5)スチレンおよびその誘導体
スチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、p−tertブチルスチレン、p−ビニル安息香酸メチル、α−メチルスチレン、p−クロロメチルスチレン、ビニルナフタレン、p−メトキシスチレン、p−ヒドロキシメチルスチレン、p−アセトキシスチレンなど;
(6)ビニルエステル類
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、安息香酸ビニル、サリチル酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、メトキシ酢酸ビニル、フェニル酢酸ビニルなど;
(7)ビニルエーテル類
メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、n−ペンチルビニルエーテル、n−ヘキシルビニルエーテル、n−オクチルビニルエーテル、n−ドデシルビニルエーテル、n−エイコシルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、フルオロブチルビニルエーテル、フルオロブトキシエチルビニルエーテルなど;および
(8)その他の重合性単量体
N−ビニルピロリドン、メチルビニルケトン、フェニルビニルケトン、メトキシエチルビニルケトン、2−ビニルオキサゾリン、2−イソプロペニルオキサゾリンなど。
【0159】
前記一般式(1)中、a、b及びcは、各繰り返し単位を誘導するモノマーの重合比を表す質量百分率で、Σaiは1〜98質量%の数値を表し、Σbjは1〜98質量%の数値を表し、Σckは1〜98質量%の数値を表す。Σaiは5〜40質量%であり、Σbjは5〜40質量%であり、Σckは20〜90質量%であるのが好ましく、Σaiは10〜35質量%であり、Σbjは10〜35質量%であり、Σckは30〜80質量%であるのがより好ましい。前記一般式(1)で表されるフルオロ脂肪族基含有ポリマーは、前記繰り返し単位A、B及びM以外の繰り返し単位を含んでいてもよく、即ち、Σai+Σbj+Σck<100質量%であってもよいが、前記繰り返し単位A、B及びM以外の繰り返し単位を含まないのが好ましく、即ち、Σai+Σbj+Σck=100質量%であるのが好ましい。
【0160】
また、フルオロ脂肪族基含有ポリマーに含まれるフルオロ脂肪族基含有モノマーから誘導される繰り返し単位A及びBの割合が、所定の範囲であると、乾燥初期におけるムラの発生をより軽減できるので好ましい。具体的には、i種の繰り返し単位Aの総質量Σaiと、j種の繰り返し単位Bの総質量の和(Σai+Σbj)が、20〜50質量%であるのが好ましく、25〜45質量%であるのがより好ましく、25〜40質量%であるのがさらに好ましい。(Σai+Σbj)が、20質量%未満であると、空気界面での液晶化合物の制御が十分でなく、光学フィルムのムラを低減させる本発明の効果が弱い場合があり、50質量%を超えると、液晶性組成物を表面(例えばポリマーフィルム等の透明支持体の表面)に塗布したときの塗布性が十分でなくハジキ故障が発生する場合がある。(Σai+Σbj)が前記範囲であると、かかる問題がなく、初期乾燥時のムラをより軽減することができる。
【0161】
また、同様の観点から、Σai+Σbjに対するΣaiの比(Σai/(Σai+Σbj))が、0.2〜0.8であるのが好ましく、0.3〜0.6であるのがより好ましく、0.35〜0.55であるのがさらに好ましい。前記比(Σai/(Σai+Σbj))が、0.2未満であると、空気界面での液晶化合物の制御が十分でなく、光学フィルムのムラを低減させる本発明の効果が弱い場合があり、0.8を超えると、液晶性組成物を表面(例えばポリマーフィルム等の透明支持体の表面)に塗布したときの塗布性が十分でなくハジキ故障が発生する場合がある。Σai/(Σai+Σbj))が前記範囲であると、かかる問題がなく、初期乾燥時のムラをより軽減できるので好ましい。
【0162】
本発明に使用可能なフルオロ脂肪族基含有ポリマーの具体例を以下の表にまとめるが、以下の具体例に制限されるものではない。なお、下記表中、繰り返し単位A、B及びMは、それぞれの繰り返し単位を誘導するモノマーの例示化合物No.により特定している。
【0163】
【表1】

【0164】
【表2】

【0165】
本発明の液晶表示組成物は、前記フルオロ脂肪族基含有ポリマーを、少なくとも1種含有していればよく、勿論2種以上含有していてもよい。前記組成物中において、前記フルオロ脂肪族基含有ポリマーの添加量としては、液晶性化合物(好ましくはディスコティック液晶化合物)の質量の0.01〜20質量%が好ましく、0.05〜10質量%がより好ましく、0.1〜5質量%がさらに好ましい。
【0166】
また、前記組成物(組成物が塗布液などとして調整される場合は、固形分)中における前記フルオロ脂肪族基含有ポリマーの濃度C質量%の好ましい範囲は、該フルオロ脂肪族基含有ポリマー中のフッ素含量F%によって変動する。乾燥初期のムラをより軽減するためには、前記フルオロ脂肪族基含有ポリマーの濃度C質量%と該フルオロ脂肪族基含有ポリマー中のフッ素含量F%との積は、0.05〜0.12であるのが好ましく、0.06〜0.09であるのがより好ましく、0.06〜0.08であるのがさらに好ましい。C×Fが0.05未満であると、空気界面での液晶化合物制御が十分でなく、光学フィルムの外観特性(ムラの程度)が悪くなる場合があり、0.12を超えると液晶性組成物を表面(例えばポリマーフィルムなどの透明支持体の表面)に塗布したときの塗布性が十分でなく光学フィルムの外観特性(ハジキ故障が発生する)が悪くなる場合がある。C×Fが前記範囲であると、かかる問題がなく、初期乾燥時のムラをより軽減することができる。
【0167】
本発明の光学異方性層は、液晶性分子から形成される。液晶性分子としては、棒状液晶性分子またはディスコティック液晶性分子が好ましく、ディスコティック液晶性分子が特に好ましい。棒状液晶性分子としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。これら低分子液晶化合物は重合性基を分子内に有することが好ましい(例えば、特開2000−304932号公報明細書段落番号[0016]等記載)。以上のような低分子液晶性分子だけではなく、高分子液晶性分子も用いることができる。高分子液晶性分子は、以上のような低分子液晶性分子に相当する側鎖を有するポリマーである。高分子液晶性分子を用いた光学補償シートについては、特開平5−53016号公報に記載の化合物が挙げられる。
【0168】
ディスコティック液晶性分子としては、様々な文献(C. Destrade et al., Mol. Crysr. Liq. Cryst., vol. 71, page 111 (1981) ;日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B. Kohne et al., Angew. Chem. Soc. Chem. Comm., page 1794 (1985);J. Zhang et al., J. Am. Chem. Soc., vol. 116, page 2655 (1994))に記載されている化合物が挙げられる。ディスコティック液晶性分子の重合については、特開平8−27284公報の記載が挙げられる。ディスコティック液晶性分子を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。円盤状コアと重合性基は、連結基を介して結合する化合物が好ましく、これにより重合反応においても配向状態を保つことが出来る。例えば、特開2000−155216号公報明細書中の段落番号[0151]〜[0168]記載の化合物等が挙げられる。なお、STNモードのような棒状液晶性分子がねじれ配向している液晶セルを、光学的に補償するためには、ディスコティック液晶性分子もねじれ配向させることが好ましい。上記連結基に、不斉炭素原子を導入すると、ディスコティック液晶性分子を螺旋状にねじれ配向させることができる。また、不斉炭素原子を含む光学活性を示す化合物(カイラル剤)を光学的異方性層に添加しても、ディスコティック液晶性分子を螺旋状にねじれ配向させることができる。
【0169】
二種類以上のディスコティック液晶性分子を併用してもよい。例えば、以上述べたような重合性ディスコティック液晶性分子と非重合性ディスコティック液晶性分子とを併用することができる。非重合性ディスコティック液晶性分子は、前述した重合性ディスコティック液晶性分子の重合性基を、水素原子またはアルキル基に変更した化合物であることが好ましい。すなわち、非重合性ディスコティック液晶性分子は、例えば特許第2640083号公報記載の化合物等が挙げられる。
【0170】
[光学異方性層の他の組成物]
上記の液晶性分子と共に、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマー、ポリマー等を併用して、塗工膜の均一性、膜の強度、液晶分子の配向性等を向上することが出来る。液晶性分子と相溶性を有し、液晶性分子の傾斜角の変化を与えられるか、あるいは配向を阻害しないことが好ましい。
【0171】
重合性モノマーとしては、ラジカル重合性若しくはカチオン重合性の化合物が挙げられる。好ましくは、多官能性ラジカル重合性モノマーであり、上記の重合性基含有の液晶化合物と共重合性のものが好ましい。例えば、特開2002−296423号公報明細書中の段落番号[0018]〜[0020]記載のものが挙げられる。上記化合物の添加量は、ディスコティック液晶性分子に対して一般に1〜50質量%の範囲にあり、5〜30質量%の範囲にあることが好ましい。
【0172】
界面活性剤としては、従来公知の化合物が挙げられるが、特にフッ素系化合物が好ましい。具体的には、例えば特開2001−330725号公報明細書中の段落番号[0028]〜[0056]記載の化合物が挙げられる。ディスコティック液晶性分子とともに使用するポリマーは、ディスコティック液晶性分子に傾斜角の変化を与えられることが好ましい。ポリマーの例としては、セルロースエステルを挙げることができる。セルロースエステルの好ましい例としては、特開2000−155216号公報明細書中の段落番号[0178]記載のものが挙げられる。液晶性分子の配向を阻害しないように、上記ポリマーの添加量は、液晶性化合物に対して0.1〜10質量%の範囲にあることが好ましく、0.1〜3質量%の範囲にあることがより好ましい。ディスコティック液晶性分子のディスコティックネマティック液晶相−固相転移温度は、70〜300℃が好ましく、70〜170℃がさらに好ましい。
【0173】
光学異方性層は、液晶性分子、あるいは下記の重合性開始剤や任意の添加剤(例、可塑剤、重合性モノマー、界面活性剤、セルロースエステル、1,3,5−トリアジン化合物、カイラル剤)を含む塗布液を、配向膜の上に塗布することで形成される。塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が挙げられる。このうち、アルキルハライドおよびケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。塗布液の塗布は、公知の方法(例、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。
【0174】
[液晶性分子の配向状態の固定]
液晶性分子は、実質的に均一に配向していることが好ましく、実質的に均一に配向している状態で固定されていることがさらに好ましく、重合反応により液晶性分子が固定されていることが最も好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。光重合開始剤の例としては、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許4239850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号明細書記載)が挙げられる。光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01乃至20重量%であることが好ましく、0.5乃至5重量%であることがさらに好ましい。ディスコティック液晶性分子の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーは、20mJ/cm乃至50J/cmであることが好ましく、100乃至800mJ/cmであることがさらに好ましい。光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
【0175】
光学的異方性層の厚さは、0.1乃至10μmであることが好ましく、0.5乃至5μmであることがさらに好ましく、0.7乃至5μmであることが最も好ましい。ただし、液晶セルのモードによっては、高い光学的異方性を得るために、光学的異方性層を厚く(3乃至10μm)する場合がある。光学的異方性層内での液晶性分子の配向状態は、前述したように、液晶セルの表示モードの種類に応じて決定される。液晶性分子の配向状態は、具体的には、液晶性分子の種類、配向膜の種類および光学異方性層内の添加剤(例、可塑剤、ポリマー、界面活性剤)の使用によって制御される。
【0176】
上記のようにして、本発明の光学補償シートが製造される。本発明の光学補償シートは、前記した通り、予め密着性を付与処理した透明支持体、配向膜、及び光学異方性層がこの順に積層された層構成を有する。本発明の光学補償シートは、偏光板と貼り合せるか、偏光板の保護フィルムとして使用することで、その機能を著しく発揮する。以下、偏光板及びその製造について詳しく説明する。
【0177】
<偏光板>
偏光板は通常、偏光膜とその両面に透明保護膜を含有することからなる。保護膜が透明であるとは、光透過率が80%以上であることを意味する。透明保護膜としては、一般にセルロースエステルフィルム、好ましくはアセチルセルロースフィルムが用いられる。セルロースエステルフィルムは、前記の透明支持体に記載のソルベントキャスト法により形成することが好ましい。透明保護膜の厚さは、20〜200μmであることが好ましく、30〜100μmであることがさらに好ましい。特に好ましくは30〜80μmである。
【0178】
本発明では、偏光板の片面に透明保護膜の代わりに本発明の光学補償シートを用いる。すなわち、本発明の偏光板は、透明保護膜、偏光膜、前記光学補償シートがこの順に積層されている。本発明による偏光板を液晶表示装置に取り付けると、光学特性に優れた表示品位の高い液晶表示装置が得られる。
【0179】
[光学補償シートの表面処理]
光学補償シートを偏光板の透明保護膜の代わりに使用する場合、光学補償シートと偏光膜との接着が問題となることがある。本発明では、光学補償シートの偏光膜側の面を表面処理することにより、光学補償シートと偏光膜との接着を改善することが好ましい。表面処理としては、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、紫外線照射処理、オゾン処理、酸処理又はアルカリ処理が挙げられる。コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、紫外線照射処理、オゾン処理、酸処理、アルカリ処理等の処理方法は、例えば、前記の公技番号2001−1745の30頁〜31頁に記載の内容が挙げられる。本発明は、アルカリ処理することが好ましく、前記したフィルムの鹸化処理で記載と同様の内容のものが挙げられる。
【0180】
[偏光膜]
本発明に用いられる偏光膜は、通常、Optiva Inc.に代表される塗布型偏光膜、もしくはバインダーと、ヨウ素または二色性色素からなる偏光膜が好ましい。偏光膜におけるヨウ素および二色性色素は、バインダー中で配向することで偏向性能を発現する。ヨウ素および二色性色素は、バインダー分子に沿って配向するか、もしくは二色性色素が液晶のような自己組織化により一方向に配向することが好ましい。現在、市販の偏光膜は、延伸したポリマーを、浴槽中のヨウ素もしくは二色性色素の溶液に浸漬し、バインダー中にヨウ素、もしくは二色性色素をバインダー中に浸透させることで作製されるのが一般的である。市販の偏光膜は、ポリマー表面から4μm程度(両側合わせて8μm程度)にヨウ素もしくは二色性色素が分布しており、十分な偏光性能を得るためには、少なくとも10μmの厚みが必要である。浸透度は、ヨウ素もしくは二色性色素の溶液濃度、同浴槽の温度、同浸漬時間により制御することができる。上記のように、バインダー厚みの下限は、10μmであることが好ましい。厚みの上限は、液晶表示装置の光漏れの観点からは、薄ければ薄い程よい。現在市販の偏光板(約30μm)以下であることが好ましく、25μm以下が好ましく、20μm以下がさらに好ましい。20μm以下であると、光漏れ現象は、17インチの液晶表示装置で観察されなくなる。
【0181】
偏光膜のバインダーは架橋していてもよい。架橋しているバインダーは、それ自体架橋可能なポリマーを用いることができる。官能基を有するポリマーあるいはポリマーに官能基を導入して得られるバインダーを、光、熱あるいはpH変化により、バインダー間で反応させて偏光膜を形成することができる。また、架橋剤によりポリマーに架橋構造を導入してもよい。架橋は一般に、ポリマーまたはポリマーと架橋剤の混合物を含む塗布液を、透明支持体上に塗布したのち、加熱を行なうことにより実施される。最終商品の段階で耐久性が確保できれば良いため、架橋させる処理は、最終の偏光板を得るまでのいずれの段階で行なっても良い。
【0182】
偏光膜のバインダーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができる。ポリマーの例としては、前記の配向膜で記載のポリマーと同様のものが挙げられる。ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。変性ポリビニルアルコールについては、特開平8−338913号、同9−152509号および同9−316127号の各公報に記載がある。ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールは、二種以上を併用してもよい。
【0183】
バインダーの架橋剤の添加量は、バインダーに対して、0.1乃至20質量%が好ましい。偏光素子の配向性、偏光膜の耐湿熱性が良好となる。配向膜は、架橋反応が終了した後でも、反応しなかった架橋剤をある程度含んでいる。但し、残存する架橋剤の量は、配向膜中に1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このようにすることで、偏光膜を液晶表示装置に組み込み、長期使用、或は高温高湿の雰囲気下に長期間放置しても、偏光度の低下を生じない。架橋剤については、米国再発行特許23297号明細書の記載が挙げられる。また、ホウ素化合物(例、ホウ酸、硼砂)も架橋剤として用いることができる。
【0184】
二色性色素としては、アゾ系色素、スチルベン系色素、ピラゾロン系色素、トリフェニルメタン系色素、キノリン系色素、オキサジン系色素、チアジン系色素あるいはアントラキノン系色素が用いられる。二色性色素は、水溶性であることが好ましい。二色性色素は、親水性置換基(例、スルホ、アミノ、ヒドロキシル)を有することが好ましい。二色性色素の例としては、例えば、発明協会公開技法、公技番号2001−1745号、58頁(発行日2001年3月15日)に記載の化合物が挙げられる。
【0185】
液晶表示装置のコントラスト比を高めるためには、偏光板の透過率は高い方が好ましく、偏光度も高い方が好ましい。偏光板の透過率は、波長550nmの光において、30乃至50%の範囲にあることが好ましく、35乃至50%の範囲にあることがさらに好ましく、40乃至50%の範囲にあることが最も好ましい。偏光度は、波長550nmの光において、90乃至100%の範囲にあることが好ましく、95乃至100%の範囲にあることがさらに好ましく、99乃至100%の範囲にあることが最も好ましい。
【0186】
偏光膜と光学補償シートを接着剤を介して配置する場合、接着剤は、ポリビニルアルコール系樹脂(アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基による変性ポリビニルアルコールを含む)やホウ素化合物水溶液を用いることができる。ポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。接着剤層の厚みは、乾燥後に0.01乃至10μmの範囲にあることが好ましく、0.05乃至5μmの範囲にあることが特に好ましい。
【0187】
[偏光板の製造]
偏光膜は、歩留まりの観点から、バインダーを偏光膜の長手方向(MD方向)に対して、10乃至80度傾斜して延伸するか(延伸法)、もしくはラビングした(ラビング法)後に、ヨウ素、二色性染料で染色することが好ましい。傾斜角度は、LCDを構成する液晶セルの両側に貼り合わされる2枚の偏光板の透過軸と液晶セルの縦または横方向のなす角度にあわせるように延伸することが好ましい。通常の傾斜角度は45゜である。しかし、最近は、透過型、反射型および半透過型LCDにおいて必ずしも45゜でない装置が開発されており、延伸方向はLCDの設計にあわせて任意に調整できることが好ましい。
【0188】
延伸法の場合、延伸倍率は2.5乃至30.0倍が好ましく、3.0乃至10.0倍がさらに好ましい。延伸は、空気中でのドライ延伸で実施できる。また、水に浸漬した状態でのウェット延伸を実施してもよい。ドライ延伸の延伸倍率は、2.5乃至5.0倍が好ましく、ウェット延伸の延伸倍率は、3.0乃至10.0倍が好ましい。延伸工程は、斜め延伸を含め数回に分けて行ってもよい。数回に分けることによって、高倍率延伸でもより均一に延伸することができる。斜め延伸前に、横あるいは縦に若干の延伸(幅方向の収縮を防止する程度)を行ってもよい。延伸は、二軸延伸におけるテンター延伸を左右異なる工程で行うことによって実施できる。上記二軸延伸は、通常のフイルム製膜において行われている延伸方法と同様である。二軸延伸では、左右異なる速度によって延伸されるため、延伸前のバインダーフイルムの厚みが左右で異なるようにする必要がある。流延製膜では、ダイにテーパーを付けることにより、バインダー溶液の流量に左右の差をつけることができる。以上のように、偏光膜のMD方向に対して10乃至80度斜め延伸されたバインダーフイルムが製造される。
【0189】
ラビング法では、LCDの液晶配向処理工程として広く採用されているラビング処理方法を応用することができる。すなわち、膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムあるいはナイロン、ポリエステル繊維を用いて一定方向に擦ることにより配向を得る。一般には、長さ及び太さが均一な繊維を平均的に植毛した布を用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。ロール自身の真円度、円筒度、振れ(偏芯)がいずれも30μm以下であるラビングロールを用いて実施することが好ましい。ラビングロールへのフィルムのラップ角度は、0.1乃至90゜が好ましい。ただし、特開平8−160430号公報に記載されているように、360゜以上巻き付けることで、安定なラビング処理を得ることもできる。長尺フィルムをラビング処理する場合は、フィルムを搬送装置により一定張力の状態で1〜100m/minの速度で搬送することが好ましい。ラビングロールは、任意のラビング角度設定のためフィルム進行方向に対し水平方向に回転自在とされることが好ましい。0〜60゜の範囲で適切なラビング角度を選択することが好ましい。液晶表示装置に使用する場合は、40乃至50゜が好ましい。45゜が特に好ましい。
【0190】
偏光膜の光学補償シートとは反対側の表面には、前記透明保護膜を配置する(光学補償シート/偏光膜/透明保護膜の配置とする)ことが好ましい。透明保護膜は、その最表面が防汚性及び耐擦傷性を有する反射防止膜を設けてなることも好ましい。反射防止膜は、従来公知のいずれのものも用いることが出来る。
上記のようにして、本発明の偏光板が製造される。本発明の光学補償シート又は該光学補償シートを用いた偏光板は、液晶表示装置、特に透過型液晶表示装置に有利に用いられる。以下、液晶表示装置、特に透過型液晶表示装置及びその製造について詳しく説明する。
【0191】
「液晶表示装置」
本発明の透過型液晶表示装置は、液晶セル及びその両側に配置された二枚の偏光板を含有することからなる。液晶セルは、二枚の電極基板の間に液晶を担持している。
光学補償シートは、液晶セルと一方の偏光板との間に、一枚配置するか、あるいは液晶セルと双方の偏光板との間に二枚配置する。各液晶モードにおける光学異方性層の好ましい形態について、以下で説明する。各液晶モードにおける光学異方性層の好ましい形態において、本発明の光学補償シート又は該光学補償シートを用いた偏光板は、有利に光学的に補償することができる。
【0192】
(TNモード液晶表示装置)
TNモードの液晶セルは、カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献の記載が挙げられる。TNモードの黒表示における液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
【0193】
(OCBモード液晶表示装置)
OCBモードの液晶セルは、棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルである。ベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置は、米国特許4583825号、同5410422号の各明細書に開示されている装置が挙げられる。棒状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensatory Bend) 液晶モードとも呼ばれる。OCBモードの液晶セルもTNモード同様、黒表示においては、液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
【0194】
(VAモード液晶表示装置)
VAモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向している。VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(日本液晶討論会の予稿集58〜59(1998)記載)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(LCDインターナショナル98で発表)が挙げられる。
【0195】
(その他液晶表示装置)
ECBモードおよびSTNモードの液晶表示装置に対しては、上記と同様の考え方で光学的に補償することが出来る。
【実施例】
【0196】
以下に本発明の光学補償フィルムの製造方法、光学補償フィルム、偏光板、液晶表示装置の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(透明支持体の作製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調整した。
【0197】
セルロースアセテート溶液組成
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100質量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 7.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤) 3.9質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 300質量部
メタノール(第2溶媒) 45質量部
染料(住化ファインケミカル(株)製 360FP) 0.0009質量部
別のミキシングタンクに、下記のレターデーション上昇剤16質量部、メチレンクロライド80質量部およびメタノール20質量部を投入し、加熱しながら攪拌して、レターデーション上昇剤溶液を調製した。上記組成のセルロースアセテート溶液464質量部にレターデーション上昇剤溶液36質量部、およびシリカ微粒子(アイロジル製 R972)1.1重量部を混合し、充分に攪拌してドープを調製した。レターデーション上昇剤の添加量は、セルロースアセテート100質量部に対して、5.0質量部であった。また、シリカ微粒子の添加量は、セルロースアセテート100質量部に対して、0.15質量部であった。
【0198】
【化16】

【0199】
得られたドープを、バンド流延機を用いて流延した。バンド上での膜面温度が40℃となってから、1分乾燥し、剥ぎ取った後、乾燥風で、残留溶剤量が0.3重量%のセルロースアセテートフィルムCA−1(厚さ100μm)を製造した。作成したセルロースアセテートフィルムCA−1について、レターデーションを測定したところ、厚み方向のレターデーションRthは85nm、面内のレターデーションReは7nmであった。
【0200】
(鹸化処理)
セルロースアセテートフィルム(CA−1)上に、温度60℃の誘電式加熱ロールを通過させ、フィルム表面温度40℃に昇温した後に、下記に示す組成のアルカリ溶液(S−1)をロッドコーターを用いて塗布量15cc/mで塗布し、110℃に加熱した(株)ノリタケカンパニーリミテド製のスチーム式遠赤外ヒーターの下に15秒滞留させた後に、同じくロッドコーターを用いて純水を3cc/m塗布した。この時のフィルム温度は40℃であった。次いで、ファウンテンコーターによる水洗とエアナイフによる水切りを3回繰り返した後に70℃の乾燥ゾーンに5秒間滞留させて乾燥した。
【0201】
アルカリ溶液(S−1)組成
水酸化カリウム 8.55質量%
水 23.235質量%
イソプロパノール 54.20質量%
界面活性剤(K−1:C1429O(CHCHO)20H) 1.0質量%
プロピレングリコール 13.0質量%
消泡剤サーフィノールDF110D(日信化学工業(株)製) 0.015質量%
(配向膜の形成)
この表面処理したフィルム上に、下記の表の組成の配向膜塗布液をロッドコーターで28ml/mの塗布で塗布した。60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥した。乾燥後の塗布面のpHを測定したところ、その値は4.1であった。また、塗布幅方向での中央と左右両端の位置のpH値は4.00〜4.20の範囲であった。
【0202】
【表3】

【0203】
なお、上記表中の変性ポリビニルアルコールおよびカルボン酸化合物は下記式で表わされる化合物を示す。
【0204】
【化17】

【0205】
次に、フィルムの長手方向にラビング処理を実施した。
【0206】
(光学的異方性層の形成)
下記の組成のディスコティック液晶塗布液(DA−1)を#4のワイヤーバーコーターで塗布し、125℃の高温槽中で3分間加熱し、ディスコティック液晶を配向させた後、高圧水銀灯を用いてUVを500mJ/cm照射し、室温まで法令して、光学補償フィルムKS−1を作成した。
【0207】
ディスコティック液晶塗布液(DA−1)
下記のディスコティック液晶DLC−A 9.1質量部
エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパンアクリレート
(V#360、大阪有機化学(株)) 0.9質量部
セルロースアセテートブチレート
(CAB551−0.2 イーストマンケミカル) 0.2質量部
セルロースアセテートブチレート
(CAB531−1 イーストマンケミカル) 0.05質量部
イルガキュアー907 3.0質量部
カヤキュアーDETX(日本化薬(株)製) 0.1質量部
メチルエチルケトン 25.9質量部
【0208】
【化18】

【0209】
(外観評価)
作成した光学補償フィルムについて、外観観察により、液晶化合物層の配向性、輝点発生度、斑故障について評価を行った。結果を表4に示す。なお、表中の記号は、以下の記号の意味を示す。
【0210】
<液晶化合物層の配向性>
○・・・肉眼で配向性不良は発生していなかった。
△・・・肉眼で若干配向性不良が観察された。
×・・・肉眼で明らかに配向性不良が観察された。
【0211】
<輝点発生度>
○・・・肉眼で輝点欠陥は認識できなかった。
△・・・肉眼で若干輝点欠陥が観察された。
×・・・肉眼でも明らかに輝点欠陥が観察された。
【0212】
<斑故障>
○・・・肉眼では斑は認識できなかった。
△・・・肉眼で若干斑が観察された。
×・・・肉眼でも明らかに斑が観察された。
【0213】
【表4】

【0214】
表4より、固形分濃度が0.5〜2.0質量%である実施例1〜4においては、斑の発生はほとんど見られず、また、輝点の発生も見られなかった。しかしながら、固形分濃度が2.0%より高い比較例1、2においては、斑の発生があり、また、光学補償フィルム上での輝点欠点の発生も見られた。特に、固形分濃度が大きい比較例2においては、輝点欠点の発生が顕著に見られた。
【図面の簡単な説明】
【0215】
【図1】光学補償シートの製造方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0216】
10…セルロースエステルフィルム、10’…鹸化セルルースエステルフィルム、12…アルカリ水溶液、14…可塑剤、16…配向膜形成材料、18・・・配向膜、20液晶層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明支持体上に、密着性付与処理を施した後、配向膜形成用組成物を塗布して配向膜を形成し、その上に液晶性化合物を含む液晶性化合物を塗布して光学異方層を形成して成る光学補償フィルムの製造方法において、
前記配向膜形成用組成物を含有する塗布液の固形分濃度が0.5〜2.0質量%であることを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記配向膜形成用組成物は、ポリビニルアルコールおよび/または変性ポリビニルアルコールを主成分として含有しており、
前記配向膜は、前記配向膜形成用組成物を塗布、乾燥して形成される硬化膜であることを特徴とする請求項1に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記配向膜形成用組成物は、少なくとも一つの極性基を含有する有機カルボン酸化合物を少なくとも一種含有することを特徴とする請求項1または2に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記密着性付与処理が
(a)前記透明支持体に少なくとも水、有機溶媒およびアルカリ剤を含有するアルカリ水溶液を塗布する塗布工程と、
(b)前記透明支持体を前記アルカリ水溶液で鹸化し、該透明支持体の鹸化処理面表層の可塑剤量を、ATR/IR法による測定で0.25以下とする鹸化処理工程と、を含む前記透明支持体の鹸化処理であることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の光学補償フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記透明支持体がセルロースエステルフィルムであることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の光学補償フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記液晶性化合物が、下記一般式(1)で表わされるフルオロ脂肪族基含有ポリマーの少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1から5いずれかに記載の光学補償フィルムの製造方法。
【化1】

一般式(1)中、iおよびjはそれぞれ1以上の整数を表わし、各繰り返し単位がそれぞれiおよびj種類含まれることを意味し、;Mはエチレン性不飽和モノマーより誘導され、且つk(kは1以上の整数)種類含まれる繰り返し単位であり、;a、bおよびcは重合比を表わす質量百分率で、Σaiは1〜98質量%の数値を表わし、Σbjは1〜98質量%の数値を表わし、Σckは1〜98質量%の数値を表わし;R11およびR12はそれぞれ、水素原子またはメチル基を表わし;XおよびXはそれぞれ、酸素原子、イオウ原子または−N(R13)−を表わし、R13は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表わし;m1およびm2はそれぞれ1〜6の整数を表わし、n1は0〜3の整数を表わす。
【請求項7】
請求項1から6いずれかに記載の光学補償フィルムの製造方法により製造された光学補償フィルム。
【請求項8】
前記配向膜の膜厚が0.07〜0.35μmであることを特徴とする請求項7に記載の光学補償フィルム。
【請求項9】
請求項7または8に記載の光学補償フィルムを備えたことを特徴とする偏光板。
【請求項10】
請求項7または8に記載の光学補償フィルムを備えたことを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−139859(P2009−139859A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318792(P2007−318792)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】