説明

光導波路集積型半導体光素子およびその製造方法

【課題】この発明は、光能動素子のリーク電流を少なく抑えることができる光導波路集積型半導体光素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】光導波路集積型半導体光素子101は、レーザ部20と光導波路部21を備える。レーザ部20は、クラッド層2上に、活性層3およびクラッド層4を備える。光導波路部21は、クラッド層2上に、光導波層6およびアンドープ型InP層7を備える。光導波層6の上面およびクラッド層4の側面と、アンドープ型InP層7の表面との間に、高抵抗層15が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光導波路集積型半導体光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特開平10−173291号公報に開示されているように、基板上に光能動素子と光変調器とを集積した集積型半導体光素子が知られている。集積型半導体光素子においては、一般に、集積された複数の構成間の電気的分離が行われることが好ましい。この点、上記の公報にかかる集積型半導体光素子は、半導体レーザと変調器との間に分離溝を備えている。この分離溝内に、半絶縁性半導体層が埋め込み形成されている。これにより、半導体レーザと光変調器との電気的分離が達成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−173291号公報
【特許文献2】特開平7−7226号公報
【特許文献3】特開昭63−186210号公報
【特許文献4】特開昭62−219590号公報
【特許文献5】特開平5−226633号公報
【特許文献6】特開平1−192184号公報
【特許文献7】特開昭59−129473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光能動素子と光導波路を集積したタイプの集積型半導体光素子がある。光導波路は、光導波層と、この光導波層を挟む2つのクラッド層と、を備えている。光能動素子と光導波路の集積構造において、光導波路のクラッド層側面が光能動素子に接している場合、光能動素子と光導波路側との間にクラッド層を介した電流経路が発生しうる。この電流経路を介して光導波路側へと電流がリークしてしまうと、光能動素子の特性を悪化させるおそれがある。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、光能動素子部と光導波路部とを備え、光能動素子部のリーク電流を少なく抑えることができる光導波路集積型半導体光素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、光導波路集積型半導体光素子であって、
半導体基板と、
前記半導体基板上に設けられた光能動素子部と、
前記半導体基板上において前記光能動素子部と隣接する位置に備えられ、前記半導体基板上に第1のクラッド層、光導波層、第2のクラッド層がこの順に重なり、かつ、前記光導波層が前記光能動素子部と接することにより前記光能動素子部と光結合する光導波路と、
前記第2のクラッド層と前記光導波層の間の第1の界面および前記第2のクラッド層と前記光能動素子部の間の第2の界面に延在し、かつ、前記第2のクラッド層の材料よりも電気抵抗の高い材料で構成された高抵抗層と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、上記の目的を達成するため、光導波路集積型半導体光素子であって、
半導体基板と、
前記半導体基板上に設けられた光能動素子部と、
前記半導体基板上において前記光能動素子部と隣接する位置に第1のクラッド層、光導波層、半絶縁性半導体材料で構成された第2のクラッド層がこの順に重なり、前記光導波層が前記光能動素子部と接することにより前記光能動素子部と光結合する光導波路部と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
第3の発明は、上記の目的を達成するため、光導波路集積型半導体光素子の製造方法であって、
半導体基板上に、第1のクラッド層、活性層、第2のクラッド層がこの順に積み重なった積層構造を作製する工程と、
前記第1のクラッド層上面の前記活性層の隣の領域に、または、前記半導体基板上の前記第1のクラッド層の隣に別途積層した他のクラッド層に、端面が前記活性層の端面と接するように、光導波層を積層する工程と、
前記光導波層にさらに積層されるべき第3のクラッド層の材料に比して電気抵抗の高い材料の層を、前記光導波層の上面および前記第2のクラッド層の側面にエピタキシャル成長させるエピタキシャル成長工程と、
前記エピタキシャル成長工程により得られた前記層に、前記第3のクラッド層を積層する工程と、
前記第1のクラッド層、前記活性層、および前記第2のクラッド層を含む前記積層構造を用いて、光能動素子部を作製する工程と、
前記積層構造の隣に積層された前記光導波層、前記エピタキシャル成長工程により得られた前記層、および前記第3のクラッド層を用いて、光導波路部を作製する工程と、
を備えること特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明によれば、高抵抗層が、光能動素子部と光導波層との間の電流を阻止することができる。従って、光能動素子部のリーク電流を少なくすることができる。
【0010】
第2の発明によれば、半絶縁性半導体材料の第2のクラッド層が、光能動素子部と光導波層との間の電流リークを阻止することができる。従って、光能動素子部のリーク電流を少なく抑えることができる。
【0011】
第3の発明によれば、光能動素子部と光導波層との間に高抵抗層を備えた光導波路集積型半導体光素子を製造することができる。この高抵抗層が電流リークを阻止することができるので、光能動素子部のリーク電流を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる光導波路集積型半導体光素子の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1にかかる光導波路集積型半導体光素子の、図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1にかかる光導波路集積型半導体光素子の製造方法を説明するための図である。
【図4】本発明の実施の形態1にかかる光導波路集積型半導体光素子の製造方法を説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態1にかかる光導波路集積型半導体光素子の製造方法を説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態1にかかる光導波路集積型半導体光素子の製造方法を説明するための図である。
【図7】本発明の実施の形態1にかかる光導波路集積型半導体光素子の製造方法を説明するための図である。
【図8】本発明の実施の形態1にかかる光導波路集積型半導体光素子の製造方法を説明するための図である。
【図9】本発明の実施の形態1にかかる光導波路集積型半導体光素子の製造方法を説明するための図である。
【図10】本発明の実施の形態1にかかる光導波路集積型半導体光素子の製造方法を説明するための図である。
【図11】本発明の実施の形態1にかかる光導波路集積型半導体光素子の製造方法を説明するための図である。
【図12】本発明の実施の形態1にかかる光導波路集積型半導体光素子の製造方法を説明するための図である。
【図13】本発明の実施の形態1にかかる光導波路集積型半導体光素子の製造方法を説明するための図である。
【図14】実施の形態に対する比較例の光導波路集積型半導体光素子の構成を示す図である。
【図15】実施の形態に対する比較例の光導波路集積型半導体光素子の構成を示す図である。
【図16】実施の形態に対する比較例の光導波路集積型半導体光素子の構成を示す図である。
【図17】本発明の実施の形態2にかかる光導波路集積型半導体光素子の構成を示す図である。
【図18】本発明の実施の形態3にかかる光導波路集積型半導体光素子の構成を示す図である。
【図19】本発明の実施の形態4にかかる光導波路集積型半導体光素子の構成を示す図である。
【図20】本発明の実施の形態5にかかる光導波路集積型半導体光素子の構成を示す図である。
【図21】本発明の実施の形態5にかかる光導波路集積型半導体光素子の、図17のB−B線に沿う断面図である。
【図22】本発明の実施の形態6にかかる光導波路集積型半導体光素子の構成を示す図である。
【図23】本発明の実施の形態7にかかる光導波路集積型半導体光素子の構成を示す図である。
【図24】本発明の実施の形態8にかかる光導波路集積型半導体光素子の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態1にかかる光導波路集積型半導体光素子101(以下、単に「半導体光素子101」とも呼称する)の構成を示す図である。実施の形態1の半導体光素子101は、半導体レーザと光導波路とが集積された集積型半導体光素子である。図1は、半導体光素子101を、レーザ光の進行方向と平行に切断した断面を示す。図1に示すように、半導体光素子101は、レーザ部20および光導波路部21を備えている。図1は、半導体光素子101における共振器方向の切断面を示す。
【0014】
図1に示すように、半導体光素子101は、P型InP基板である半導体基板1を備えている。半導体基板1には、クラッド層2、活性層3およびクラッド層4が積層されている。クラッド層2は、P型InPクラッド層(キャリア濃度P=1×1018cm−3)である。活性層3は、AlGaInAs歪量子井戸活性層である。クラッド層4は、N型InPクラッド層(キャリア濃度はN=1×1018cm−3)である。
【0015】
一方、クラッド層2において、上記の活性層3およびクラッド層4の積層構造の隣には、光導波層6、高抵抗層15およびアンドープ型InP層7が順次積層されている。光導波層6は、InGaAsP光導波層である。活性層3の端面は、光導波層6の端面と接している。この構成によれば、活性層3からのレーザ光が、光導波層6を通って紙面右側に向かって進行する。
【0016】
高抵抗層15は、光導波層6の上面およびクラッド層4の側面を連続的に被覆している。つまり、高抵抗層15は、アンドープ型InP層7と、光導波層6の上面およびクラッド層4の側面との間の界面に、連続的に設けられている。高抵抗層15は、本実施形態では、Al(Ga)InAs層である。Al(Ga)InAs層は、InP層に比べ、移動度が小さいので、電気抵抗が高い。高抵抗層15として用いるAl(Ga)InAs層は、nドープ、アンドープ、pドープ、Feドープ、酸素ドープ等いずれでも良いが、記載順が後ほど高い電気抵抗を得ることができる。
【0017】
クラッド層4とアンドープ型InP層7には、InP層5およびコンタクト層8が積層されている。InP層5は、N型InP層(キャリア濃度N=1×1018cm−3)である。コンタクト層8は、N型InPコンタクト層(キャリア濃度N=1×1019cm−3)である。半導体光素子101は、分離溝25を備えている。
【0018】
上記構成において、分離溝25の紙面左側にはN型電極10が積層されている。N型電極10は、Ti/Pt/Auである。そして、N型電極10よりも紙面右側には、絶縁膜9が設けられている。絶縁膜9はSiO絶縁膜である。分離溝25内面も絶縁膜9で覆われている。また、半導体基板1の裏面には、P型電極11が備えられている。P型電極11は、Ti/Pt/Auである。
【0019】
上記構成を備えた半導体光素子101において、分離溝25の紙面左側がレーザ部20として、分離溝25の紙面右側が光導波路部21として、それぞれ機能する。
【0020】
図2は、図1におけるA−A線に沿って半導体光素子101を切断した断面を示す。つまり、図2は、図1における光導波路部21を、共振器方向と垂直に切断した断面の図である。図2に示すように、半導体光素子101の光導波路部21は、埋め込み層12、13、14を備えている。埋め込み層12は、P型InP埋込み層(キャリア濃度はP=1×1018cm−3)である。埋め込み層13は、N型InP埋込み層(キャリア濃度はN=1×1019cm−3)である。埋め込み層14は、FeドープInP埋込み層(キャリア濃度はFe=4×1016cm−3)である。
【0021】
[実施の形態1の動作および効果]
以下、半導体光素子101の動作について説明する。レーザ部20に電流を注入すると、クラッド層4から活性層3へと電子が流れ、活性層3で電子とホールが結合し、活性層3の端面からレーザ光が放射される。放射されたレーザ光は、光導波層6を通って、図1の右方向へと進行、出射される。
【0022】
ここで、高抵抗層15の効果を、比較例を用いて説明する。図14〜16は、比較例として示す光導波路集積型半導体光素子200(以下、単に「半導体光素子200」とも呼称する)の構成を示す。比較例として示す半導体光素子200は、実施の形態1にかかる半導体光素子101とは異なり、高抵抗層15を備えていない。図14は、図1との比較用に対応位置を示した断面図であり、図15は、図2との比較用に対応位置を示した断面図である。この半導体光素子200においてレーザ部20に電流を注入すると、図16の太線矢印に示すように電子が流れ、活性層3で電子とホールが結合し、レーザ光が放射される。この時、一部の電子が、点線矢印に示すように、光導波路部21側へと流れてしまう。この電流はレーザ光の発光に寄与せずにリーク電流成分となり、この電流リークがレーザ部20の電流光出力特性を悪化させてしまう。
【0023】
これに対し、実施の形態1にかかる半導体光素子101は、高抵抗層15を備えている。高抵抗層15が、クラッド層4からアンドープ型InP層7への電子の流れと、アンドープ型InP層7から光導波層6への電子の流れの両方を、阻止することができる。これにより、リーク電流を低減することができる。その結果、レーザ部20の電流光出力特性の悪化を防ぐことができる。
【0024】
なお、高抵抗層15は、本実施形態では、Al(Ga)InAs層である。酸素ドープされたAl(Ga)InAs層は高い電気抵抗を有するので、高抵抗層15にこれを用いることが好適である。ここで、酸素ドープAl(Ga)InAs層をMOCVD法(有機金属化学気相分解法)で成長する際、酸素ガスを流すことによってドーピングすることもできる。しかしながら、MOCVD炉内に酸素ガスを流すことは、装置メインテナンス上好ましく無い。そこで、Al(Ga)InAs層を低V/III比に構成することにより、MOCVD炉内に酸素ガスを流さずに酸素ドーピングすることができる。その結果、MOCVD装置のメインテナンスの不具合を避けつつ、高抵抗層15として酸素ドープAl(Ga)InAs層を設けることができる。なお、実施の形態1では、Al(Ga)InAs層のV/III比を、具体的には100以下とする。但し、MOCVD炉内に酸素ガスを流さずに酸素がドーピングされる程度に、V/III比を低くすればよく、100よりも大きな比であっても良い。
【0025】
なお、上述した実施の形態1においては、半導体基板1が、前記第1の発明における「半導体基板」に、レーザ部20が、前記第1の発明における「光能動素子部」に、光導波路部21が、前記第1の発明における「光導波路部」に、高抵抗層15が、前記第1の発明における「高抵抗層」に、それぞれ相当している。
【0026】
尚且つ、上述した実施の形態1においては、クラッド層2が、前記第1の発明における「第1のクラッド層」に、光導波層6が、前記第1の発明における「光導波層」に、アンドープ型InP層7が、前記第1の発明における「第2のクラッド層」に、それぞれ相当している。つまり、実施の形態1では、クラッド層2が、前記第1の発明における「光能動素子部」の構成と、前記第1の発明における「光導波路部」の「第1のクラッド層」の、両方の構成を兼ねている。
【0027】
[実施の形態1の製造方法]
以下、図3〜13を用いて、実施の形態1にかかる半導体光素子101の製造方法を説明する。図3〜13は、半導体光素子101の製造フローを示す。
【0028】
図3に示すようにP型InP半導体基板1上に、MOCVD法により、クラッド層2としてP型InP層を結晶成長する。さらにクラッド層2の上に、AlGaInAs歪量子井戸活性層を活性層3として、N型InP層をクラッド層4として、それぞれ結晶成長する。
【0029】
次に、図4に示すように、クラッド層4の上にSiO絶縁膜22を形成し、パターニング、ドライエッチングを行うことにより、活性層3とクラッド層4の紙面右側部分をエッチング除去する。エッチング除去された部分が、光導波層6としてInGaAsP層が形成される部分である。
【0030】
次に、図5に示すように、MOCVD法により、光導波層6としてのInGaAsP層を形成する。さらに、MOCVD法により、光導波層6の上面およびクラッド層4の側面に対して、高抵抗層15としてのAl(Ga)InAs層を成長させる。これにより、高抵抗層15が光導波層6の上面およびクラッド層4の側面を被覆し、リーク電流経路の遮断機能が得られる。
【0031】
また、実施の形態1にかかる製造方法では、高抵抗層15の形成の際、Al(Ga)InAs層のV/III比を100以下にする。これにより、MOCVD炉内に酸素ガスを流すことなくAl(Ga)InAs層への酸素ドーピングを実現する。
【0032】
なお、V/III比の調節ではなく、低成長温度(例えば600℃以下)にてAl(Ga)InAs層を成長させることにより、酸素ガスを流さずに酸素ドーピングを実現してもよい。
【0033】
高抵抗層15の形成後、さらに、MOCVD法により、アンドープ型InP層7を成長する。
【0034】
次に、図6〜9を用いて製造フローの説明を行う。図6〜9は、製造途中の半導体光素子101を、図5におけるC−C線の位置で切断した断面を示す。つまり、図6〜9は、レーザ部20が形成される部位を、共振器方向に垂直な面に沿って切断した断面図である。
【0035】
上述したアンドープ型InP層7の成長後、SiO絶縁膜22をエッチング除去する。そして、SiO絶縁膜23を成膜、パターニングすることにより、図6に示す構成を得る。次に、図7に示すように、ウェットエッチング等により、リッジを形成する。さらに、図8に示すように、MOCVD法でP型InP埋め込み層12、埋め込み層13としてのN型InPブロック層13、半絶縁性FeドープInP埋込み層14を成長する。その後、図9に示すように、SiO絶縁膜23をエッチング除去する。
【0036】
次に、図10に示すように、MOCVD法でN型InP層5、N型InPコンタクト層8を成長する。次に、図11に示すように、SiO絶縁膜24を成膜、パターニングする。次いで、ドライエッチング等により分離溝25を形成し、SiO絶縁膜24をエッチング除去することにより、図12に示す構成を得る。続いて、図13に示すように、SiO絶縁膜9を形成、P型電極(Ti/Pt/Au)11、N型電極(Ti/Pt/Au)10を形成する。以上により、レーザ部20および光導波路部21が得られる。
【0037】
なお、本実施形態にかかる製造方法、MOCVD法において、例えば下記の原料ガスを使用することができる。
Inの材料:トリメチルインジウム
Gaの材料:トリエチルガリウム
Alの材料:トリメチルアルミニウム
Asの材料:アルシン
Pの材料:ホスフィン
Feの材料:フェロセン
P型ドーパントの材料:ジエチルジンク
N型ドーパントの材料:硫化水素
【0038】
また、実施の形態1における各層の厚さは、例えば、活性層3を0.2μm、光導波層6を0.2μm、クラッド層4を1μmとし、高抵抗層15を100nmとすることができる。
【0039】
実施の形態2.
図17は、本発明の実施の形態2にかかる光導波路集積型半導体光素子102(以下、単に「半導体光素子102」とも呼称する)の構成を示す図である。半導体光素子102の構成は、高抵抗層15を備えない点および光導波路部21における半絶縁性InP層16を備える点を除き、半導体光素子101の構成と同じである。以下、重複を避けるために、同一若しくは相当する構成には同一符号を付し、適宜に説明を省略ないしは簡略化する。
【0040】
実施の形態1では、高抵抗層15によって、リーク電流を抑制した。一方、実施の形態2では、半絶縁性InP層16によって、実施の形態1とは異なる構成によりリーク電流を抑制する。
【0041】
半絶縁性InP層16は、例えば、FeドープInP層やRuドープInP層とすることができる。半絶縁性InP層16により、クラッド層4から半絶縁性InP層16への電子の流れ、および、半絶縁性InP層16から光導波層6への電子の流れが阻止される。これにより、リーク電流を低減することができる。その結果、レーザ部20の電流光出力特性を良くすることができる。
【0042】
なお、上述した実施の形態2では、半導体基板1が、前記第2の発明における「半導体基板」に、レーザ部20が、前記第2の発明における「光能動素子部」に、光導波路部21が、前記第2の発明における「光導波路部」に、半絶縁性InP層16が、前記第2の発明における「第2のクラッド層」に、それぞれ相当している。
【0043】
実施の形態3.
図18は、本発明の実施の形態3にかかる光導波路集積型半導体光素子103(以下、単に「半導体光素子103」とも呼称する)の構成を示す図である。半導体光素子103は、実施の形態1にかかる半導体光素子101においてアンドープ型InP層7を半絶縁性InP層16に置換した点を除き、半導体光素子101の構成と同じである。
【0044】
高抵抗層15と半絶縁性InP層16の両方が備えられることにより、クラッド層4と光導波層6の間の電子の流れが、より一層阻止される。これによりリーク電流を低減することができ、結果、レーザ部20の電流光出力特性を良くすることができる。
【0045】
実施の形態4.
図19は、本発明の実施の形態4にかかる光導波路集積型半導体光素子104(以下、単に「半導体光素子104」とも呼称する)の構成を示す図である。半導体光素子104の構成は、高抵抗層17を備える点を除き、半導体光素子101の構成と同じである。
【0046】
高抵抗層17は、図19に示すように、アンドープ型InP層7の上面に設けられる。実施の形態4では、高抵抗層17は、高抵抗層15と同様に、Al(Ga)InAs層とする。高抵抗層17としてのAl(Ga)InAs層は、nドープ、アンドープ、pドープ、Feドープ、酸素ドープ等いずれでも良く、記載順が後ほど抵抗は高い。ただし、高抵抗層15と高抵抗層17は、材料やドーピングが異なってもよい。また、酸素ドープに関しては、実施の形態1で述べた低V/III比や低温成長による手法を利用してもよい。
【0047】
高抵抗層17により、N型InP層5からアンドープ型InP層7への電子の流れが阻止される。すなわち、図16において点線矢印で示した、比較例の半導体光素子200においてN型InP層5を通って流れるリーク電流を、低減することができる。これにより、高抵抗層15によるリーク電流低減の効果に加えて、さらにリーク電流を低減することができる。その結果、さらにレーザ部20の電流光出力特性を良くすることができる。
【0048】
実施の形態5.
図20は、本発明の実施の形態5にかかる光導波路集積型半導体光素子105(以下、単に「半導体光素子105」とも呼称する)の構成を示す図である。上記説明した実施の形態1〜4にかかる半導体光素子では、半導体基板1として、P型InP基板が用いられている。これに対し、下記に述べる実施の形態5、およびこれ以降に述べる実施の形態6〜8では、半導体基板1として、N型InP基板が用いられる。
【0049】
図20に示すように、半導体光素子105は、N型InP基板である半導体基板31を備えている。半導体基板31には、クラッド層32、活性層3、クラッド層34が積層されている。それぞれ、クラッド層32は、N型InPクラッド層(キャリア濃度N=1×1018cm−3)、活性層3は、AlGaInAs歪量子井戸活性層、クラッド層34は、P型InPクラッド層(キャリア濃度P=1×1018cm−3)である。また、クラッド層32における活性層3の隣には、光導波層6が設けられている。実施の形態1〜4と同じく、光導波層6はInGaAsP層である。
【0050】
実施の形態1と同様に、高抵抗層15およびアンドープ型InP層7が、光導波層6にさらに積層されている。高抵抗層15の具体的構成などは、これまでに述べた各実施の形態で説明したとおりである。
【0051】
クラッド層34の上面およびアンドープ型InP層7の上面には、P型InP層35が積層されている。P型InP層35には、分離溝が設けられている。P型InP層35は、キャリア濃度P=1×1018cm−3である。P型InP層35には、さらに、コンタクト層38、SiO絶縁膜9、P型電極40が設けられている。コンタクト層38は、P型InGaAsコンタクト層(キャリア濃度P=1×1019cm−3)、P型電極40は、Ti/Pt/Auである。また、半導体基板31の裏面には、N型電極41(Ti/Pt/Au)が設けられている。以上のように、レーザ部20および光導波路部21が集積された半導体光素子105が構成される。
【0052】
図21は、図20におけるB−B線に沿って半導体光素子105を切断した断面を示す。つまり、図21は、図20における光導波路部21を、共振器方向と垂直に切断した断面の図である。図21に示すように、半導体光素子105の光導波路部21は、埋め込み層12、13、14および42を備えている。埋め込み層12、13、14は実施の形態1と同じ構成である。一方、埋め込み層42は、N型InP埋込み層(キャリア濃度N=1×1019cm−3)である。
【0053】
高抵抗層15は、実施の形態1と同じく、Al(Ga)InAs層である。高抵抗層15により、アンドープ型InP層7を介してクラッド層34と光導波層6の間で電流がリークするのを阻止できる。このため、リーク電流を低減することができる。その結果、レーザ部20の電流光出力特性を良くすることができる。
【0054】
実施の形態6.
図22は、本発明の実施の形態6にかかる光導波路集積型半導体光素子106(以下、単に「半導体光素子106」とも呼称する)の構成を示す図である。半導体光素子106は、実施の形態5の半導体光素子105と同様に、N型InP基板である半導体基板31を備えている。
【0055】
半導体光素子106は、N型InP基板とP型InP基板という相違、およびこの相違に伴う各層の違いを除けば、基本的に、実施の形態2にかかる半導体光素子102と同様の特徴的構成を備えている。すなわち、半導体光素子106は、実施の形態2の半導体光素子102と同様に、例えばFeドープInP層やRuドープInP層からなる半絶縁性InP層16を備えている。半絶縁性InP層16の具体的構成などは、これまでに述べた各実施の形態で説明したとおりである。
【0056】
半絶縁性InP層16の高抵抗により、半絶縁性InP層16を介したクラッド層34と光導波層6の間での電流リークが抑制される。これによりリーク電流を低減することができる。その結果、レーザ部20の電流光出力特性を良くすることができる。
【0057】
実施の形態7.
図23は、本発明の実施の形態7にかかる光導波路集積型半導体光素子107(以下、単に「半導体光素子107」とも呼称する)の構成を示す図である。半導体光素子107は、実施の形態5、6にかかる半導体光素子と同様に、N型InP基板である半導体基板31を備えている。
【0058】
半導体光素子107は、N型InP基板とP型InP基板という相違、およびこの相違に伴う各層の違いを除けば、基本的に、実施の形態3にかかる半導体光素子103と同様の特徴的構成を備えている。すなわち、半導体光素子107は、高抵抗層15と半絶縁性InP層16の両方を備えている。高抵抗層15、半絶縁性InP層16の具体的構成などは、これまでに述べた各実施の形態で説明したとおりである。
【0059】
高抵抗層15と半絶縁性InP層16の両方が備えられることにより、クラッド層34と光導波層6の間の電流のリークが、より一層阻止される。これによりリーク電流を低減することができ、結果、レーザ部20の電流光出力特性を良くすることができる。
【0060】
実施の形態8.
図24は、本発明の実施の形態8にかかる光導波路集積型半導体光素子108(以下、単に「半導体光素子108」とも呼称する)の構成を示す図である。半導体光素子108は、実施の形態5〜7にかかる半導体光素子と同様に、N型InP基板である半導体基板31を備えている。
【0061】
半導体光素子108は、図24に示すように、アンドープ型InP層7の上面に設けられた高抵抗層17を備えている。言い換えると、半導体光素子108は、実施の形態5にかかる半導体光素子105に対し、実施の形態4で説明した高抵抗層17を適用したものである。
【0062】
高抵抗層17により、P型InP層35とアンドープ型InP層7の間の電流リークが阻止される。このため、高抵抗層15によるリーク電流低減の効果に加えて、さらにリーク電流を低減することができる。その結果、さらにレーザ部20の電流光出力特性を良くすることができる。
【0063】
なお、実施の形態1〜8にかかる半導体光素子101〜108は、光能動素子であるレーザ部20と、光導波路部21とが集積された光導波路集積型半導体光素子である。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。光変調器や光増幅器などの光能動素子と、光導波路とが隣接して集積されている構成にも、実施の形態1〜8で述べた構成と同様に、高抵抗層15、17や半絶縁性InP層16の構成を組み合わせることができる。
【0064】
また、本発明にかかる光導波路集積型半導体光素子は、実施の形態1で示した材料以外の材料によって構成されても良い。つまり、例えばIP、AlGaInAs、InGaAs、InGaAsP、AlInAs、AlGaAs、GaAs、AlGaInP、InGaP、AlGaN、GaN、InGaNなど、あらゆる半導体材料のなかから適宜に選択された材料により、レーザ部20および光導波路部21が構成されてもよい。この場合にも、クラッド層4側面と光導波層6上面とを覆う高抵抗層15を、適宜に材料やドーピングの種類を選択して設ければよい。具体的には、例えば、高抵抗層15の材料として、酸素が添加されたAlGaAsを用いることもできる。
【0065】
なお、半導体材料の成長に最適とされる成長温度は、InP、InGaAsP、InGaAsは600〜630℃、AlGaInAs、AlInAsは600〜750℃、AlGaAs、GaAs、AlGaInP、InGaPは650〜750℃、AlGaN、GaNは1000〜1100℃、InGaNは700〜800℃である。前述した実施の形態1にかかる製造方法において低成長温度で高抵抗層15の成長を行うにあたっては、高抵抗層15の材料に応じて、上記列挙した最適成長温度の下限温度よりも低温で高抵抗層15の成長をしてもよい。
【符号の説明】
【0066】
101〜108 光導波路集積型半導体光素子(半導体光素子)
1 半導体基板
2 クラッド層
3 活性層
4 クラッド層
5 N型InP層
6 光導波層
7 アンドープ型InP層
8 コンタクト層
9 SiO絶縁膜
10 N型電極
11 P型電極
12、13、14 埋め込み層
15、17 高抵抗層
16 半絶縁性InP層
20 レーザ部
21 光導波路部
22 SiO絶縁膜
23 SiO絶縁膜
24 SiO絶縁膜
25 分離溝
31 半導体基板
32 クラッド層
34 クラッド層
35 P型InP層
38 コンタクト層
40 P型電極
41 N型電極
42 埋め込み層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板上に設けられた光能動素子部と、
前記半導体基板上において前記光能動素子部と隣接する位置に備えられ、前記半導体基板上に第1のクラッド層、光導波層、第2のクラッド層がこの順に重なり、かつ、前記光導波層が前記光能動素子部と接することにより前記光能動素子部と光結合する光導波路部と、
前記第2のクラッド層と前記光導波層の間の第1の界面および前記第2のクラッド層と前記光能動素子部の間の第2の界面に延在し、かつ、前記第2のクラッド層の材料よりも電気抵抗の高い材料で構成された高抵抗層と、
を備えることを特徴とする光導波路集積型半導体光素子。
【請求項2】
前記光能動素子部は、前記半導体基板に第1導電型クラッド層、活性層、および前記第1導電型の反対の導電型である第2導電型クラッド層がこの順に積層されてなりかつ前記活性層の端面からレーザ光を発するレーザ素子部であり、
前記光導波層の端面が、前記レーザ素子部の前記活性層の前記端面と接し、
前記第2のクラッド層の側面が、前記第2導電型クラッド層の側面と隣接し、
前記第2の界面は、前記第2のクラッド層の前記側面と前記第2導電型クラッド層の前記側面との界面であることを特徴とする請求項1記載の光導波路集積型半導体光素子。
【請求項3】
前記高抵抗層が、前記光導波層の上面と前記第2導電型クラッド層の前記側面の両方を覆うように前記光導波層の前記上面および前記第2導電型クラッド層の前記側面にエピタキシャル成長した層であることを特徴とする請求項2に記載の光導波路集積型半導体光素子。
【請求項4】
前記高抵抗層の前記材料が、Al(Ga)InAsであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の光導波路集積型半導体光素子。
【請求項5】
前記高抵抗層が、V族元素とIII族元素を含み、
前記高抵抗層のV/III比が、酸素がドーピングされる程度に低いことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の光導波路集積型半導体光素子。
【請求項6】
前記高抵抗層の前記V/III比が100以下であることを特徴とすることを特徴とする請求項5に記載の光導波路集積型半導体光素子。
【請求項7】
前記第2のクラッド層が、半絶縁性半導体材料で構成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光導波路集積型半導体光素子。
【請求項8】
前記第2のクラッド層の前記第1の界面とは反対側の面に、前記第2のクラッド層の材料よりも電気抵抗の高い材料で構成された第2高抵抗層を、さらに備えることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光導波路集積型半導体光素子。
【請求項9】
半導体基板と、
前記半導体基板上に設けられた光能動素子部と、
前記半導体基板上において前記光能動素子部と隣接する位置に第1のクラッド層、光導波層、半絶縁性半導体材料で構成された第2のクラッド層がこの順に重なり、前記光導波層が前記光能動素子部と接することにより前記光能動素子部と光結合する光導波路部と、
を備えることを特徴とする光導波路集積型半導体光素子。
【請求項10】
前記光能動素子部が、前記半導体基板に第1導電型InPクラッド層、AlGaInAs活性層、および前記第1導電型の反対の導電型である第2導電型InPクラッド層がこの順に積層され、前記AlGaInAs活性層の端面からレーザ光を発するレーザ素子部であり、
前記光導波層は、端面が前記活性層の前記端面と接するInGaAsP層であり、
前記第2のクラッド層は、側面が前記第2導電型クラッド層の側面に接するように前記光導波層に積層されかつFeあるいはRuがドープされた半絶縁性InP層であることを特徴とする請求項1記載の光導波路集積型半導体光素子。
【請求項11】
半導体基板上に、第1のクラッド層、活性層、第2のクラッド層がこの順に積み重なった積層構造を作製する工程と、
前記第1のクラッド層上面の前記活性層の隣の領域に、または、前記半導体基板上の前記第1のクラッド層の隣に別途積層した他のクラッド層に、端面が前記活性層の端面と接するように、光導波層を積層する工程と、
前記光導波層にさらに積層されるべき第3のクラッド層の材料に比して電気抵抗の高い材料の層を、前記光導波層の上面および前記第2のクラッド層の側面にエピタキシャル成長させるエピタキシャル成長工程と、
前記エピタキシャル成長工程により得られた前記層に、前記第3のクラッド層を積層する工程と、
前記第1のクラッド層、前記活性層、および前記第2のクラッド層を含む前記積層構造を用いて、光能動素子部を作製する工程と、
前記積層構造の隣に積層された前記光導波層、前記エピタキシャル成長工程により得られた前記層、および前記第3のクラッド層を用いて、光導波路部を作製する工程と、
を備えること特徴とする光導波路集積型半導体光素子の製造方法。
【請求項12】
前記エピタキシャル成長工程は、酸素ドーピングが可能な程度に低い温度でMOCVD(有機金属化学気相分解法)法を行う工程を含むことを特徴とする請求項11に記載の光導波路集積型半導体光素子の製造方法。
【請求項13】
前記エピタキシャル成長工程は、酸素がドーピングされる程度に低いV/III比でV族元素とIII族元素を用いたエピタキシャル成長を行うことにより、前記層を成長させることを特徴とする請求項11または12に記載の光導波路集積型半導体光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−14712(P2011−14712A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157479(P2009−157479)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】