説明

光情報記録媒体用記録層、光情報記録媒体およびスパッタリングターゲット

【課題】反射率(初期反射率)が高く、しかも初期のジッター値は低く且つ連続再生によりこれが著しく増加(劣化)し、有限時間で再生不能となる特性を備えた光情報記録媒体用記録層(記録膜)、該記録層を備えた光記録媒体及び該光情報記録媒体の記録層形成用スパッタリングターゲットを提供すること。
【解決手段】レーザー光を用いた追記型光情報記録媒体用記録層であって、Inを30原子%以上、かつCoを30原子%以上50原子%以下、かつ、Biを19原子%超え45原子%以下含有するIn-Co-Bi合金からなることを特徴とする記録層、光情報記録媒体及び記録層形成用スパッタリングターゲット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光、特に青色レーザーを用いた追記型光情報記録媒体用の記録層と該記録層を備えてなる光情報記録媒体、該記録層形成用スパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
青色レーザーを用いた追記型光情報記録媒体(光ディスク)において、大別して有機色素材料と無機材料薄膜が、記録層として検討されている。有機色素は、CD−RやDVD−Rなど赤色レーザーを使用する既存光ディスクにおいて実績があるものの、青色レーザーで記録出来る有機色素は、耐光性の面で問題があることから、特にBD−Rにおいては、無機材料薄膜が主に検討されている。
【0003】
記録方式としては、レーザー照射によって、無機材料薄膜が、1)相変化する方式、2)孔を開ける方式、3)層間反応する方式、などが知られている。
【0004】
相変化する方式としては、記録膜として酸化物や窒化物が検討され、例えば、特許文献1では、Te−O−M(Mは金属元素、半金属元素及び半導体元素から選ばれる少なくとも1種の元素)が提案されている。
【0005】
次に、孔を開ける方式としては、記録膜として、低融点金属材料が検討され、例えば、特許文献2では、Sn合金に3B族、4B族、5B族を添加した合金、特許文献3では、A(=Si、 Sn)−M(=Al、 Ag、 Au、 Zn、 Ti、 Ni、 Cu、 Co、 Ta、 Fe、W, Cr、 V、 Ga、 Pb、 Mo、 In、Te)合金[但しMの比率は0.02−0.8(原子比)]などがそれぞれ提案されている。
【0006】
また、層間反応する方式としては、例えば、特許文献4では、第一記録層In−O−(Ni、Mn、Mo)、第二記録層Se and/or Te−O−(Ti、Pd、Zr)、特許文献5では、第一記録層In主成分とする金属、第二記録層5Bもしくは6B含む酸化物以外の金属あるいは半金属などがそれぞれ提案されている。
【0007】
酸化物を記録膜として用いた場合、記録膜単独での反射率が低く、光ディスク状態での反射率を高めるため反射膜が必要となり、かつ変調度を増加させるために記録膜上下にZnS-SiO2などの誘電体膜を設ける必要があり、光ディスクを構成する膜総数が多くなってしまう。また、層間反応する方式では記録層自体が複数の薄膜で形成されることから、膜総数が多くなってしまう問題が残る。
【0008】
ところで、低融点金属薄膜に孔を開ける方式は、記録膜単独での反射率が高く、かつ、孔開けによって変調度も大きく取れることから、光ディスクを構成する膜総数を少なくする観点からは、有利な方式である。但し、一般的に金属薄膜は、酸化物や窒化物に比べ、高温高湿下での耐久性に劣るため、合金化によって各種改善が検討されているが、合金化によって反射率は低下し、光ディスク特性も変化することから、各種特性のバランス取りが問題となる。
【0009】
そこで、本発明者らはこうした従来の問題に鑑み、反射率(初期反射率)が高く且つ低ジッター値を有する光情報記録媒体用記録層(記録膜)を提供すべく検討を行った結果、これらの特性を有利に達成する金属材料としてIn−(Ni,Co)−(Si,Bi)系の開発に成功した。
【0010】
一方、最近、著作権保護といった新たな観点から、48DVDのように48時間でドライブによる再生が不可になる再生専用DVDの検討がなされ、一部商品化もなされつつある。しかしながら、特殊な樹脂をグラインダーで除去することにより、通常通り、再生可能となるなどの問題があり、一般にはなかなか普及していないのが実情である。
発明者らはこうした新たな課題をも視野に入れて、上記金属系についてさらに開発を進めたところ、これらのうち特にIn−Co−Bi系においてその組成域により初期のジッター値が低いものの有限時間での連続再生により劣化するものと劣化せずに低ジッター値のまま変化しないものがあることが分かった。
【特許文献1】特許第3638152号公報
【特許文献2】特開2002−225433号公報
【特許文献3】米国特許公開2004/0241376号明細書
【特許文献4】特開2003−326848公報
【特許文献5】特許第3499724号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、反射率(初期反射率)が高く、しかも初期のジッター値は低く且つ連続再生によりこれが著しく増加(劣化)し、有限時間で再生不能となる特性を備えた光情報記録媒体用記録層(記録膜)、該記録層を備えた光記録媒体及び該光情報記録媒体の記録層形成用スパッタリングターゲットを提供することをその課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、請求項1係る発明は、レーザー光を用いた追記型光情報記録媒体用記録層であって、Inを30原子%以上、かつCoを30原子%以上50原子%以下、かつ、Biを19原子%超え〜45原子%以下含有するIn-Co-Bi合金からなることを特徴とする記録層である。
【0013】
また、請求項2に係る発明は、前記請求項1に記載の記録層を備えてなることを特徴とする光情報記録媒体である。
【0014】
さらに、請求項3に係る発明は、レーザー光を用いた追記型光情報記録媒体用記録層形成用スパッタリングターゲットであって、Inを30原子%以上、かつCoを30原子%以上50原子%以下、かつ、Biを19原子%超え〜45原子%以下含有するIn-Co-Bi合金からなることを特徴とするスパッタリングターゲットである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、反射率(初期反射率)が高く、しかも初期のジッター値は低く且つ連続再生にともなってこの値が顕著に増加し、有限時間で再生不能となる優れた特性を備えた光情報記録媒体用記録層(記録膜)並びに該記録層を備えた光記録媒体を提供することができる。また、本発明によれば、上記優れた特性を有する記録層及び光情報記録媒体の作製に有効なスパッタリングターゲットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は本発明の典型的な実施形態(及び後述の実施例)に係る光ディスクの模式構造を表した断面図である。ここにおいて、1は基板、2は記録層および3は光透過層を示している。
【0017】
以下、本発明の上記記録層2において、主成分(基金属)としてInを選定した理由、またこのInにCo及びBiを特定の割合(組成範囲)含有させたIn−Co−Bi合金を用いる理由についてその成分範囲の規定を含めて述べる。
【0018】
まず、Inを主成分として30原子%以上含有させるのは、Inが、従来用いられている例えばAl、Ag、Cuなどの他の金属に比べて融点が格段に低い(融点:約156.6℃)ため、In合金の薄膜が容易に溶融、変形し、低いレーザーパワーでも容易に優れた記録特性を発揮することができるからである。また、特に、青色レーザーを使用する次世代型光ディスクへの適用を考えた場合には、Al基合金などでは記録マークの形成が困難となる恐れがあるが、In基合金ではこの様な心配は全くないからである。上記記録特性をさらに十分に発揮させるにはInの含有量は50原子%以上とすることが好ましい。
【0019】
次に、本発明において、Co30原子%以上含有させることによって、高反射率を維持しながら、8T信号の高C/Nが実現できる。なお、この詳細なメカニズムは明確ではないが、これによって、超表面平滑性、微細組織、表面張力調整が同時に実現されるものと推定される。
【0020】
Coの含有量が30原子%未満では、記録膜の超表面平滑性が実現出来なくなるためメディアノイズが高くなってしまうことから高C/Nが得られないし、また、初期のジッター値が低く且つ連続再生により増加(劣化)する特性を付与することができない。一方、Coを多量に含有させると、Inの低融点の特徴を大きく損ない、記録感度が劣化(高C/Nを得るための記録レーザーパワーが増大)するため50%をその上限とする。
【0021】
さらに、上記のようにInを30原子%以上及びCoを30原子%以上50原子%以下含有させた上でBiを19原子%超45原子%以下含有させることによりジッター値の初期値を低く維持することができるとともに連続再生によりジッター値が大きく増加し、再生時間が有限となる特性を有した記録膜を得ることができる。
【0022】
本発明の記録層の膜厚は、記録層上下に金属、半金属、誘電体などの他の層を挿入することによって最適値は変動するが、記録層単層で使用する場合は、8〜25nm、さらに好ましくは、10〜20nmが好ましい。
【0023】
上記In−Co−Bi合金からなる記録層は、光ディスク面内での膜厚分布を均一に制御しやすい点から、スパッタリング法によって形成するのがよい。
【0024】
本発明に係る上記記録層を形成するために用いるスパッタリングターゲットの組成は、上述した記録層の合金組成と基本的に同一であり、先にIn合金として記載した合金組成に調整することで、所望の成分組成を容易に実現できる。
【0025】
なお、スパッタリングターゲットは、真空溶解法などによって製造されるが、その製造に当たっては、雰囲気中のガス成分(窒素、酸素など)や溶解炉成分が微量ながら不純物としてスパッタリングターゲット中に混入することがある。しかし、本発明の記録層やスパッタリングターゲットの成分組成は、それら不可避に混入してくる微量成分まで規定するものではなく、本発明の上記特性が阻害されない限り、それら不可避不純物の微量混入は許容される。
【0026】
(実施例)
以下では、本発明の実施例および比較例について説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0027】
1)光ディスクの作製方法
図1に示すディスク基板1として、ポリカーボネート基板(厚さ:1.1mm、トラックピッチ:0.32μm、溝幅0.16μm、溝深さ:25nm)を用い、その表面にDCスパッタリング法によって所望の金属薄膜(各種In合金)を成膜した。スパッタリングターゲットとしては、純Inターゲットに合金元素の金属チップを置き、成膜した。
【0028】
記録層2形成のためのスパッタリング条件は、到達真空度:105Torr以下(1Torr=133.3Pa)、スパッタガス総圧:3mTorr、DCスパッタパワー:100Wに設定した。
【0029】
表1は本発明の実施例(本発明例)および比較例の記録層サンプルの組成などの諸元を示したものである。なお、未記録状態の反射率レベル(SUM2信号が300mV前後)を膜厚調整(12〜14nm)で一定レベルにした。
【0030】
次いで、その上に、紫外線硬化樹脂(日本化薬社製「BRD−130」(商品名)をスピンコートした後、紫外線硬化させて膜厚10015±μmの光透過層3を形成した。
【0031】
2)光ディスクの評価法
光ディスク評価装置(パルステック工業社製「ODU−1000」(商品名)、記録レーザ波長:405nm、NA(開口数):0.85)を使用し、BD−Rの規格に準拠した範囲の最適記録ストラテジーで3トラック連続記録を行ったのち、再生レーザパワー0.3mWで連続再生した時のジッター値の変化挙動を評価した。ここで言うジッター値とは記録した信号マークエッジ位置の不確定さの指標であり、エッジの立ち上がり/立ち下がり位置の分布を求め、それを正規分布とした場合の分散(σ)に相当する値である。なお、In−Co−Bi3元系は、全て同一の記録ストラテジーを用いた。
【0032】
3)評価結果
図2は、それぞれの光記録媒体における連続再生時間とジッター値との関係を示したものである。
同図2に示すように、比較例1〜4の5分連続再生後のジッター値はいずれも初期値とほとんど変化がない。これは、比較例4はBiを含有していないものであり、また、比較例1〜3はIn−Co−Biの3元系であるものの、比較例1及び2の場合はBiの含有量が本発明の規定範囲より少なく、比較例3の場合はCoの含有量が本発明の規定範囲により少ないことが原因していると考えられる。
これに対して、規定範囲を満足する組成を有した本発明例では初期の9.3%から再生時間増加に伴い、ジッター値は急激に増大し(再生時間1分で11.3%、2分で15.5%)、やがて飽和傾向を示していることが分かる。
【0033】
従って、本発明に係る記録層を備えた光情報記録媒体は、表1より未記録状態反射率レベル(SUM2)が280mV以上の高レベルを有しており、そして図2から、記録再生に当たっては初期のジッター値が低いともに、連続再生時間の増加に伴ってジッター値が大幅に増大、変化する性質をも兼備していること知れ、記録特性に優れた上に有限時間で再生不能となる特異な特性を発揮するものであり、著作権の保護にも有利な光情報記録媒体として活用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態(及び実施例)に係る光ディスクの模式構造を表した断面図である。
【図2】光記録媒体における連続再生時間とジッター値との関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0035】
1:基板 2:記録層 3:光透過層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を用いた追記型光情報記録媒体用記録層であって、Inを30原子%以上、かつCoを30原子%以上50原子%以下、かつ、Biを19原子%超え45原子%以下含有するIn-Co-Bi合金からなることを特徴とする記録層。
【請求項2】
前記請求項1に記載の記録層を備えてなることを特徴とする光情報記録媒体。
【請求項3】
レーザー光を用いた追記型光情報記録媒体用記録層形成用スパッタリングターゲットであって、Inを30原子%以上、かつCoを30原子%以上50原子%以下、かつ、Biを19原子%超え45原子%以下含有するIn-Co-Bi合金からなることを特徴とするスパッタリングターゲット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−90601(P2009−90601A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265713(P2007−265713)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】