説明

光沢レベルの調整

溶融材料(1)と接触する金型表面(4)と、金型表面(4)上の少なくとも1層のコーティング(6)と、金型表面(4)のための温度制御手段とを有する金型(3)内で溶融材料、特にプラスチックを射出成形する方法において、金型表面(4)を温度制御手段により冷却しており、それにより溶融材料がコーティングとの界面で凝固し、射出成形品を型から取出すことができる。この過程の間、溶融材料を金型表面(4)上のコーティング(6)と接触させており、射出成形品について指定した60°光沢レベルおよび/または色値Lが得られるようにコーティング材料の熱浸透率と整合させて、前記コーティング(6)の厚さを選択する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、溶融材料を射出成形する方法および装置に関する。本発明の付加的主題は、生産される射出成形品の表面光沢の調整が可能となる射出成形装置のための有用なコーティング構成にある。
【0002】
射出成形品、特にプラスチック製の射出成形品を生産する間、そのプラスチックの表面性状、したがってその外観と、その射出成形品の技術的用途に影響を及ぼす他の性状との間に、目標における不一致がしばしば存在する。ここで身近な例はポリプロピレン(PP)プラスチックであり、PP製の射出成形品の表面仕上げは、しばしば見られるように、つや消しの無反射性表面が要求される場合、それは光学的に非常に有利なものである。しかし、ポリプロピレンの引っかき抵抗性(scratch resistance)には限界があり、それが当然用途の可能性を小さくする。その上、多くの用途についてより高い引っかき抵抗性を有するプラスチックを使用することが重要である。ここで典型的な例はアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)プラスチックであるが、射出成形品を成形する間における表面細部再現の正確さに関する限り、それとして不利な表面性状を有する。ABSプラスチックを使用して、つや消しでありまた著しい光沢のない彫込み表面を、または数多くの光沢点がない表面を得ようとする場合、プラスチック表面にある程度の粗さを作り出し、それにより入射光が乱反射的に散乱され、ちょうど鏡面のように反射されることがないことが必要である。
【0003】
射出成形品の表面仕上りを決定する生産パラメータは、射出される材料の圧力、温度、ならびにその材料の表面層が凝固するのに要する時間である。原則として、その材料は、加熱すると溶融し、または少なくとも流動可能な状態に変換され、またその後冷却すると―その材料が分解されずに―再び凝固する性質を有する任意の材料とすることができる。成形過程の間に加熱され、次いで再び冷却される場合、熱可塑性プラスチック、ガラス、エラストマー、ならびにある程度まで熱硬化性プラスチック―例えば分子架橋により形成される場合―を含めた、多くの材料がこの性質を有する。
【0004】
射出成形過程は、温度制御された、または冷却された成形器具内に圧力下で溶融した材料を導入するステップと、射出成形品の取出しが可能になるのに十分なだけ凝固するまでその材料を冷却するステップとを含む。したがって、射出成形品の表面仕上りに影響を及ぼすために適用可能な主要な制御可能変数は、金型に注入する場合の溶融材料の圧力、温度、ならびに、有効な冷却によって制御される成形用具の温度である。これらのパラメータのうち、金型を完全に充填すること、また成形過程に長時間を要し過ぎないことを確実にする最小の圧力が必要なので、圧力は狭い範囲でのみ制御することができる。最大圧力は、金型において発揮できる最大の力によって限定される。溶融状態にあるときの材料の温度は、その材料の性質により予め決定されている。ブレンド材料の場合、十分に高くない温度は、分離、不十分な流動、および大き過ぎる粘度を招く恐れがある。非常に高い温度は、材料それ自体を分解させる恐れがある。
【0005】
従来技術によって、これまでに例えば上述した形で乱反射的に光を散乱させるのに十分なだけのある程度の粗さを示すように、金型の表面を加工することが可能となっている。この効果は、例えば放電加工し、またはフォトエッチングした表面により得ることができる。しかし、この非常に微細な表面のテクスチャーを射出成形品に転写する努力の中で、全ての領域において均質にこの微細なテクスチャーが再現されず、また高光沢の点を生じるため、光沢レベルにおける差を招いている。このことの主な原因は、成形材料が金型の微細な表面テクスチャー中に浸透するまでに起こるその成形材料の早過ぎる「凝固(freezing)」である。不均質な冷却がある領域で表面細部の再現をただ妨げるか、またはある領域で射出成形品がより速やかに収縮することを意味する場合、光沢におけるこのような差が、ただ局所的に発生するだけである可能性もある。
【0006】
光沢、色相、および明度は、特にプラスチック製物品の光学的性質を決定する重要な因子である。光沢は次の範疇:高光沢(high−gloss)、光沢ある(glossy)、半光沢/絹状(silky)、半つや消し/サテン様つや消し(semi−matte/satin−matte)、つや消し(matte)、および鈍いつや消し(dull matte)、に通常小分類され、個々の範疇は光沢計を使用し、また種々の測定角を選択して測定される。ドイツ規格DIN55945(コーティング材料のための用語および定義)によると、光沢はコーティングの表面における光束の反射に起因し、また人間の目により知覚される感覚である。平滑なつや消し表面の場合に、入射光は散乱され、また全ての方向に均質に反射される。これに反して、平滑な高光沢の表面は、何ら散乱されずに、また入射角および反射角が常に同一であるように、一方向に可視光を反射する。種々の光沢レベルで伝達される視覚的印象に十分なぞらえて光沢測定を行うためには、光沢計を使用する場合、可視光の入射角を変動させることが必要である。光沢ある(glossy)とつや消し(matte)の間の遷移範囲では、測定は60°で行われる。しかし、上記において説明したように、特に射出成形プラスチック製品の場合には、つや消し表面が好まれる多くの用途がある。
【0007】
実際に、色値(colour value)Lは通常、ジュッドおよびハンターにより開発されたL、A、a、b系を使用して測定され、1976年標準化されている(DIN6174、CIE LAB1976)。L値は輝度、すなわち明度(0〜100)を表し、また2つの色チャンネルaおよびbは、それぞれ緑〜赤、および青〜黄の値を表す(それぞれの場合−127〜128)。
【0008】
説明したように、特にプラスチック製物品について重要である表面関連因子、光沢レベルおよび色値Lは、適正な装置で測定することができる。得られた値には人間の目の主観的感覚がなく、したがって客観的基準で互いに比較することができる。
【0009】
したがって、他の要求条件のために、上述の形で挙動しがちであるプラスチックを使用しなければならない場合、比較的コストが掛かり、また時間を要する二次的な仕上げ―例えばいくつかのプラスチック物品についてペイント仕上げ―が結果的に必要になる。しかし、プラスチックの表面が、金型表面の最も微細な細部を含めて、正確な再現になるとすれば、均質なつや消し表面を得ることができるであろう。
【0010】
より高い成形温度を選択することにより金型表面のより正確な再現を得る方法は、より長い冷却時間を必要とし、したがって成形サイクル時間を延長するという不都合な点を有する。さらに、プラスチックの緩和する能力が増大するために、ひけマークの発生がより顕著になる。
【0011】
硬質金属、特に金属窒化物または金属炭化物化合物の薄いコーティングを有するプラスチック向け射出成形用金型の表面を提供するのも従来技術である。それによって、プラスチックの付着性が低下し、したがって成形品を取り出すのに必要な力の総量が少なくなる。その優れた機械的磨耗抵抗性のために、これらのコーティングは金型表面上の摩耗を低減させる役割をも果たす。しかし、コーティングに起因するその後の寸法変化のため、この射出成形用金型を製作する間、射出成形用金型の寸法正確性を損なわないように、あるいは、前もって許容誤差を設けなければならないことを避けるために、これらのコーティングをできる限り薄く適用することが望ましい。
【0012】
したがって本発明の目的は、生産しようとする射出成形品に、微細なテクスチャーを有する表面、特に所与の度合いの粗さを有する表面を正確に転写することを可能とする、またそれによりその射出成形品の表面性状に影響を及ぼす、射出成形方法および射出成形装置を提供することである。
【0013】
この目的は、請求項1に記載の特徴を有する方法、ならびに請求項12に記載の特徴を有する装置により確立される。
【0014】
驚くべきことに、コーティング厚さをコーティング材料の熱浸透率(heat penetration coefficient)に適正に整合させることにより、特にプラスチック射出成形製品向けに、所望の光沢レベルおよび/または色値を得ることができ、したがって適正な正確さの表面細部の再現をも得ることができること;本発明により、そのコーティング材料のコーティング厚さと熱浸透率とを整合させることにより、指定した60°光沢レベルおよび/または色値Lが得られることを見出した。
【0015】
本発明により、他の方法では軽減するのがたとえ不可能ではないとしても困難である、光沢差を防止することが可能となる。本発明の対策のおかげで、溶融プラスチックの「凝固」効果を遅らせ、その結果として金型の表面細部をプラスチックに転写する正確さが最適化される。成形用具内に溶融プラスチックを注入する場合、その壁の温度はほとんど変化しない。しかし、溶融プラスチックの周辺層が100Kを超えて突然にまた自発的に冷却されるのが普通である。その結果として、金型の内側表面で溶融プラスチックが突然に「凝固し」または固化し、そのため原理的に、流入する溶融プラスチックは金型の壁に従って、または金型の構造的細部に従って、均質に成形されることができない。本発明において提供する対策として、まず第一に接触温度を上昇させ、それにより成形用具壁でのプラスチック周辺層の凝固を遅らせる。結果として、溶融プラスチックはその壁に従って正確に成形されることができ、仕上り製品は極めて正確な再現となる。したがってこのプラスチック部品の表面は、金型の壁とほとんど同程度の粗さまたは表面細部を有しており、このことはつや消し効果を最大限に発揮することができることを意味する。その結果は優れた光沢レベル特性および色値Lとなる。
【0016】
本発明の非常に驚くべき結果は、これまで使用されていた非常に薄いコーティングの代わりに、ここで熱浸透率の低い材料を使用した幾分厚目のコーティングを使用しているので、金型の表面細部がより正確に再現されることである。試験用試料片表面中に、変調周波数fを有する規定した熱量を周期的に導入すること(=熱パルス)、および変調温度を測定することにより測定される浸透深さは、熱拡散長さとして熱浸透率に由来して得ることができる。(コーティング)材料の断熱性状が良好であるほど、その材料の熱浸透率は低くなる。しかし、このことは、新しい溶融材料を導入する度毎に、金型が交互に加熱され、また冷却される(冷却系により)ので、平均浸透深さに関する限り極めて重要である。最適化されたコーティング厚さを選択すると、その厚さは知られている用途で使用されるコーティングの厚さよりも厚く、表面温度を上昇させ、溶融材料の温度に、より近く近づけることができる。結果として、成形する材料の最外側層―その圧力および温度は、部品を射出成形する時点でもそのまま変わらない―は、コーティング表面に接触させても直ちに凝固せず、また金型の表面細部中により深く浸透することができ、したがってその金型の粗さのより良好な再現をもたらす。
【0017】
このコーティングは、窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)、窒化クロム(CrN)、炭化タングステン/炭素(WC/C)、または窒化チタンアルミニウム(TiAlN)を有利に含むことができる。このコーティングは、一層ずつ交互に重ね合せたこれらの材料の、またはそれらを組み合せたものの、いくつかの薄い交互層から構築することもでき、それにより全体の熱が、金型材料中に輸送され、また所望の有利な最上部コーティング温度が得られるように調整している金型冷却手段へと輸送される。良好な離型性状を有する場合、Al、(AlCr)、およびSiOなどの良好な断熱性をもたらす層を使用することも理論的に可能である。
【0018】
上記に列挙した材料の他の性質、例えば耐摩耗性向上、および成形品の取出しが容易になるなどの離型性状の改善、も有利に利用することができる。
【0019】
例えば、PP製の射出成形品の光沢レベルおよび色値と同様な光沢レベルおよび色値を有するABS製の射出成形品を生産したい場合には、PP用金型、または少なくとも表面微細構造に関して同様な他の金型を、そのコーティング特有の厚さのコーティングで、ただしこのコーティングが金型材料の熱浸透率よりも著しく低い熱浸透率を有する場合に、被覆することで十分足りる。
【0020】
特に窒化チタンアルミニウム(TiAlN)材料を使用する場合、7μm〜11μmのコーティング厚さ、また特に8μm±1μmのコーティング厚さ、が適切であると判明している。溶融プラスチックとしてアクリロニトリルブタジエンスチレンを使用することも有利である。
【0021】
金型表面が適切な構成である場合、特に窒化チタンアルミニウムコーティングと、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)との組合せはつや消しの彫込み表面をもたらすことができる。ABSプラスチックは一般に光沢点を形成し易く、したがってその後のペイント塗装を要する。この傾向は、PPと比較してより低い処理温度(T(ABS)=180〜260℃、T(PP)=200〜270℃、)、またそれに関連してより高い粘性、に一部は帰することが可能である。図6に示すグラフにおいて、ABSの粘度、およびPPの粘度ηを、射出成形に関連した範囲である10〜10[mm・s−1]の範囲にある剪断速度γ(x軸)に対してプロットしている。これらの実験について、PPでは230℃、およびABSでは250℃の処理温度(「易流動性」)を使用した。その結果として、本発明のおかげで実質的な二次的仕上げコストを節減することができる。同時に、射出成形品のために、ABSプラスチックの他の有用な性状から利益を得ることが可能である。特に、凝固したプラスチックがその粗さを正確に再現している場合に射出成形品に所望のつや消し表面の外観を付与する、ある程度の粗さを示すように金型表面にテクスチャーを作ることには、追加的な利点がある。車のダッシュボードカバーの生産において、または建築の分野において使用される、あるいはまた日用向けプラスチック物品の生産においても使用される金型の表面についての典型的なRa値は、3〜11μmの範囲にある。平均表面粗さRaを測定するには、平均線を超える「ピーク」、および平均線未満である「谷間」の平均値を、ある標本長さにわたって測定する。
【0022】
特に溶融ABSを、8μm±1μmの厚さを有する窒化チタンアルミニウムコーティングと組み合わせて使用する場合、ポリプロピレン(PT)のそれに十分に匹敵するつや消し効果および表面仕上げを有する射出成形品を得ることができる。射出成形装置の金型表面と、コーティングとの間に粘着層を備えることができる。この粘着層は、例えばチタン、TiAl、クロム、または窒化チタンからなることができる。それにより、コーティングの、特に鋼表面への信頼できる接着性が確保される。
【0023】
本発明をここで、好ましい実施形態および同封の図面に基づいて、詳細に記述する。
【0024】
図1は、溶融材料の、この場合ABSプラスチック1の、射出成形のための本発明による装置の第1の実施形態を―非常に図式的に―示す。供給口2を経由して金型3に溶融プラスチックを導入する。金型3は硬質材料で被覆した金型表面4を有する。
【0025】
図2は、図1においてIIによって示した切取り部の拡大図である。図2は、プラスチック1によって金型表面4が最初に濡らされる領域を示している。このことが起こると、プラスチック1の境界層5が形成され、また直ちに凝固する。この境界層内では、プラスチックの温度がその融点未満まで下がり、そのためプラスチックは固体状態に変換される。金型表面4はコーティング6、この実施形態では窒化チタンアルミニウムのコーティングを備えている。矢印は、金型を充填しているプラスチック1の流動方向を示す。窒化チタンアルミニウムコーティング6の厚さを適正に選択することにより、―コーティング中への熱浸透が少ないため―プラスチック1を冷却する間、窒化チタンアルミニウムコーティング6および金型3にわたる温度変動を調節して、プラスチック1の境界層5とTiAlNコーティング6との間の1つの接触面7では、TiAlNコーティングのない金型表面4で生じる接触温度を超える接触温度が得られるようにすることが可能である。しかし、この接触温度は、プラスチック1の溶融温度未満である。その結果として、プラスチック1は、より長い時間を掛けて、その間にTiAlNコーティング6の接触表面7の粗さに従って凝固して成形され、したがって金型表面4の粗さが再現される。
【0026】
図3は、鋼と比較して、4種の異なったコーティング材料の熱浸透率を比較して示すグラフである。中間の実線はTiAlNコーティングを表す。金型材料、この実施形態では鋼(steel)1.2.343、と比較した熱浸透率をy軸にプロットしている。熱パルス周波数の逆数平方根をx軸としてプロットしている。点線は炭化タングステン/炭素コーティングを表し、実線は、既に言及したように本発明のこの実施形態の窒化チタンアルミニウムコーティングを表し、また破線は窒化クロムコーティングを表す。周波数を小さくすると、ここではより高いx軸値にすると、熱浸透率は鋼のそれに近づく―すなわちコーティング材料の熱浸透率と鋼の熱浸透率との商が1に近づく―ことを見ることができる。しかし、その影響の継続期間が非常に短いと、被覆した表面によって熱損失が妨げられるので、コーティングの断熱効果は非常に顕著になる。このことの結果として、図1における境界層5が形成される最初の短い接触の間、適切に調節したコーティング厚さによって窒化チタンアルミニウム層6による顕著な断熱効果を生じ、この断熱効果がプラスチック1の凝固を遅らせ、この境界層が成形されること、したがって金型表面4の粗さを再現することが可能になる。図3のグラフにおける0.002、または250kHz、のx軸値について、例えば、鋼についての基準値1と比較してTiAlNでは0.38、WC/Cでは0.2、またCrNでは0.6の値を読み取ることができる。
【0027】
TiN/TiCN 0.42;設定は少なくとも<0.6、好ましくは<0.45とすべきである。
【0028】
図4は、壁温度θと溶融した成形用化合物温度θの間の接触温度θの温度変動、および測定を示す基本図形である。y値は温度を、またx値は、壁内の、または正方向での溶融プラスチック内の測定点の位置を示す。用具壁の温度は、溶融プラスチックがそれと接触している場合、冷却系により大量の熱が奪われるので比較的変化が少ない。端部に向った温度差は典型的に15K未満である。しかし、溶融プラスチックの周辺層は、100Kを超えるだけ自発的に冷却される。極めて重要なパラメータ、すなわち接触温度θは、界面における粗さを再現する度合いを決定する。そのθには、熱浸透率eが影響することができる。このeはある材料について、その材料の熱伝導率ρ、密度λ、および比熱容量cから計算することができる。その計算は、下記の式を使用して行われる:
【0029】
【数1】



【0030】
壁および溶融プラスチックの熱浸透率、ならびに壁および溶融プラスチックの温度から、接触温度θを下記のように計算することができる:
【0031】
【数2】



【0032】
この式においてeは壁材料の熱浸透深さ(heat penetration depth)、θは壁材料の温度、eは溶融プラスチックの熱浸透深さ、またθは溶融プラスチックの温度である。上述のようにコーティング厚さにより制御することができる、適切な接触温度θを規定することによって、コーティング表面におけるプラスチックの周辺層の凝固を遅らせることができ、その結果としてコーティングの表面、または金型表面がより正確に再現される。溶融プラスチックは、微細な表面細部に従って成形される、より多くの時間を有する。被覆された金型表面の粗さ数Raと、成形されるプラスチック表面の粗さ数Raとには、互いにほんの僅かしか偏差がなく、また光沢レベルおよび色値などの所望の性状が、プラスチックに付与される。
【0033】
しかし、このコーティングが概して比較的薄いので、個々の成形品を生産するのに必要とされる時間を著しく増加させずに改良された成形特性が得られる。このコーティングが薄いために、概してほんの僅かしか熱流が妨げられない。最初の瞬間だけそれが暫時遅延される。したがって、成形品についての全体の凝固時間は、コーティングなしで行う場合と同一オーダーの大きさである。
【0034】
図5は、ポリプロピレン(PP)プラスチック、およびアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)プラスチックの種々のパラメータの比較を示しており、後者を、この実施形態による装置を使用して射出成形した。射出成形したポリプロピレン(PP)の試験片(MPL)についての参照値を破線により、またABSのMPLについての対応する値を実線により結んでいる。MPLについて測定した次の性質をグラフにしている:光沢レベル(測定角60°)、明/暗比率により測定した色値L、算術平均により定義される粗さ数(Roughness number)Ra、および個々の標本長さついての複数の最大ピーク対谷(peak−to―valley)の高さの算術平均Rz。金型Eの粗さRaおよびRzもグラフにしている。比較のため、PPをコーティングされていない金型に注入し、またABSをコーティングした金型に注入した。プラスチックにつや消しの外観を与えるための良好な粗さ値Raは3μm〜11μmの範囲である。特に、理想的なつや消し表面、例えばダッシュボードカバー向けに望ましい種類のものを得るために粗さ値Ra 3.3が好ましいことが判明している。この実施形態が示すように、示した範囲においても優れた結果が得られる―Ra=9μmである例を参照されたい。比較により、ABSプラスチック製の試験片の光沢レベルおよび色値の、また粗さ数Rzの、PPプラスチック製試験片のそれらとの一致は、7〜12μmのコーティング厚さについて非常に良好であり、また8μm±1μmのTiAlNコーティング厚さについて最適であることが示される。図5では、およそ8μmのコーティング厚さについての値を示している。粗さ数Ra MPLにおける5%未満の幾分の偏差を除くと、ABS試験片の表面の光沢レベルおよび外観を決定するパラメータは、PP試験片のそれらと十分に一致している。
【0035】
本発明において記述している実施形態について、鋼表面を有する金型内でABSプラスチックを射出成形する広範な系列の試験を行った。これらの試験のため、ABSおよびPPプラスチック両方の試験片を射出成形し、互いに比較した。次のパラメータを測定した:60°光沢レベル、色値L、金型表面粗さRa E、試験片表面粗さRa MPL、金型表面粗さRz E、および試験片表面粗さRz MPL。使用した射出成形用金型は、鋼等級Stippel 1 BBを有する鋼製金型であった。結果は4つの表にして付属文書として添付しており、
表1は、微細な表面テクスチャーを有する金型で生産したABSプラスチックについての値を示し、
表2は、微細な表面テクスチャーを有する金型で生産したPPプラスチックについての値を示し、
表3は、粗い表面テクスチャーを有する金型で生産したABSプラスチックについての値を示し、また
表4は、粗い表面テクスチャーを有する金型で生産したPPプラスチックについての値を示す。
【0036】
表1は、微細な表面テクスチャー(金型表面の粗さRa E=3.33μm)を有する金型で生産したABSプラスチックについて得られた値を包含する。欄1〜3には、コーティング厚さ4μm、8μm、および12μmについて金型それ自体について測定した値と共に、TiAlN被覆した金型を使用して生産したMPLについての値を示している。欄4〜6は、金型をコーティングする前にその金型で生産したMPLについての、また金型それ自体についての、該当する参照値を包含する。欄4〜6に包含される値が異なっているその差は、使用した3つの金型についての値におけるばらつきに帰せられる。大体において、コーティングされていない金型と比較して、金型表面のコーティングは、粗さにおけるほんの僅かな増加または減少を生じている。例えば、コーティングされていない金型についてのRa E値3.33と比較して、8μmコーティングを有する金型についてのRa E値は3.45である。
【0037】
粗さRa E3.45を有する、8μmコーティングを備えた金型で生産したABS試験片が示している表面細部の再現は、非常に良好であり、ABS−MPLの表面は粗さRa MPL3.40μmを有する。表面細部の再現における誤差は約1.45%に過ぎない。ABS−MPLは60°光沢レベル2.7、および色値L25.43を有する。
【0038】
比較の目的で、表2は表面粗さRa3.33μmを有するPPプラスチックについての値を包含する。第5欄は、PP−MPLについて光沢レベル2.5、および色値L24.64を示す。したがって、本発明により生産したABS−MPL、およびコーティングのない金型で―比較の目的で―生産したPP−MPLは、光学的性質を決定する値に関して密接な一致を示す。ABS−MPLの光沢レベルおよび色値という光学的性質は、ABS−MPL向けに使用する金型の粗さ、コーティング厚さ、およびコーティング材料を選択することにより、コーティングされていない金型で生産したPP−MPLの光沢レベルおよび色値に合わせて調節することができる。
【0039】
特に8±1μmの厚さを有するコーティングについては、金型表面と、その金型内で生産した試験片の表面との間の粗さの差は、常に5%以下の範囲にある。他のコーティング厚さについては、その差を10%以下に保持することが通常可能である。
【0040】
表3は、およそ9μmの粗大な表面粗さを有する金型内でABS−MPLを生産する場合に得られる値を包含する。最初の3つの欄は、4μm、8μm、および12μmのTiAlNコーティング厚さについての値―上記において既に説明した―を示す。欄4〜6は、コーティングを適用する前の金型についての、すなわち未だコーティングのない金型についての該当する参照値を包含する。表3から、例えば第5欄における金型表面粗さRa E 9μmが、TiAlNの8μmコーティングを施すことにより値8.79までほんの僅かしか変わらないこと、またABS−MPLによってこの粗さが非常に正確に再現される(Ra MPL=8.64μm)ことを見ることができる。
【0041】
比較の目的で、表4は、PPプラスチックについての、再び粗大な金型表面粗さ9μmについての同一の測定変数を包含する。例えば、コーティング厚さ8μmについての光沢レベルの比較は、コーティングされていない金型内で生産したPP MPLについての値1.6と比較して、ABSについて1.7の値を示している。同じ比較であるがコーティング厚さ12μmについては、ABSについて値1.7を、またPPについて1.6を示している。
【0042】
本発明の方法により、金型表面の粗さ、および微細な表面細部のより正確な再現が可能になり、したがって、生産した部品の表面仕上げを悪くせずにいくつかの溶融成形材料を、他のもので置き換えることが可能になる。結果として、表面欠陥の二次的処理が不必要になり、例えばペイント塗装のためのコストを節減することができる。さらに、例えば触覚性状などの、特別な模様または性状を有する非常に微細なテクスチャーとした表面を再現することも一般に可能である。したがって、本発明の方法により、金型の表面細部が容易に転写される比較的摩耗し易いPPプラスチックに、頑丈なABSプラスチック(ABSはより高価である!)が取って代わることが可能になる。既に従来技術から知られている、さらに他の利点は、コーティングが射出成形装置の表面を保護し、成形工具の使用寿命をかなり増加させる点である。
【0043】
【表1】



【0044】
【表2】



【0045】
【表3】



【0046】
【表4】



【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】金型内に溶融ABSを注入する瞬間における射出成形装置の実施形態を図式的に示す図である。
【図2】図1に例示する装置において金型表面の領域に位置し、またIIとして特定している切取り部の拡大図である。
【図3】4種のコーティング材料の熱浸透率を、鉄のそれと比較しているグラフである。
【図4】金型とプラスチックの間の界面における温度変化を示すグラフである。
【図5】2つの比較用試験片に基づいてPPおよびABSプラスチックの表面性状決定パラメータを比較するグラフである。PP試験片はコーティングのない装置を使用して生産し、ABS試験片はコーティングした装置を使用して生産した。
【図6】射出成形に関連した範囲にある剪断速度に対して、ABSの粘度およびPPの粘度をプロットしているグラフである。
【符号の一覧】
【0048】
1…溶融ABSプラスチック、2…供給口、3…金型、4…金型表面、5…境界層、6…TiAlNコーティング、7…接触面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融材料、特にプラスチックを、材料(1)と接触する金型表面(4)を有し、かつ少なくとも1層のコーティング(6)を備えており、また金型表面(4)の温度制御手段を有する金型(3)内において射出成形する方法であり、下記のステップ:
前記金型(3)内に前記溶融材料を導入するステップと、
前記温度制御手段によって金型表面(4)を冷却し、それにより前記金型内で前記溶融材料が凝固するステップと、
射出成形品を取出すステップと、を含む方法であって、
前記射出成形品について指定した60°光沢レベルおよび/または色値Lが得られるように、前記金型表面(4)のための前記コーティングの厚さを、前記コーティングの材料の熱浸透率と整合させて選択することを特徴とする方法。
【請求項2】
コーティング(6)として窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)、窒化クロム(CrN)、炭化タングステン/炭素(WC/C)、または窒化チタンアルミニウム(TiAlN)を使用することを特徴とする、請求項1に記載の射出成形方法。
【請求項3】
前記コーティングが1層ずつ重ね合わせたいくつかのコーティングで構成されることを特徴とする、請求項2に記載の射出成形方法。
【請求項4】
前記コーティング(6)を7μm〜11μmの厚さで適用することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の射出成形方法。
【請求項5】
前記コーティング(6)を8±1μmの厚さで適用することを特徴とする、請求項4に記載の射出成形方法。
【請求項6】
前記金型表面(4)と前記コーティング(6)の間に粘着層を適用することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の射出成形方法。
【請求項7】
前記粘着層が、チタン、クロム、またはTiNからなることを特徴とする、請求項6に記載の射出成形方法。
【請求項8】
溶融材料(1)としてアクリロニトリルブタジエンスチレンプラスチック(ABS)を使用することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の射出成形方法。
【請求項9】
コーティングされていない金型で生産されるPP成形についての場合と本質的に同じ光沢レベルおよび/または色値Lを設定することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
凝固したABSの表面が60°光沢レベル約2.7、および/または色値L約25を有するように、前記コーティングの厚さおよび前記金型表面の粗さを調整することを特徴とする、請求項8に記載の射出成形方法。
【請求項11】
前記金型表面が、成形中に再現される場合、凝固した材料(1)の表面につや消しの外観を付与する粗さのテクスチャーを有することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の射出成形方法。
【請求項12】
平均表面粗さRaとして測定した前記粗さが3μm〜11μmであることを特徴とする、請求項11に記載の射出成形方法。
【請求項13】
前記材料が前記金型内への導入後に圧力を受けることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の射出成形方法。
【請求項14】
溶融材料(1)、特にプラスチックを射出成形する装置であり、材料(1)と接触する金型表面(4)と、前記金型表面(4)上の少なくとも1層のコーティング(6)と、前記金型表面(4)のための温度制御手段とを有する金型(3)により射出成形する装置であって、請求項1〜12に記載の特徴、および/または特徴の組合せを備えるコーティングを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−514569(P2007−514569A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544231(P2006−544231)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【国際出願番号】PCT/EP2004/012158
【国際公開番号】WO2005/061196
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(504267057)ユナクシス バルザース アクチェンゲゼルシャフト (1)
【Fターム(参考)】